説明

ムチン合成阻害剤

【課題】
【解決手段】
本発明はムチン合成阻害剤、およびムチン過剰産生に関連する疾患、たとえば喘息、慢性気管支炎等の慢性閉塞性肺疾患(COPD)、炎症性肺疾患、嚢胞性線維症、呼吸器系の急性または慢性感染症などの抑制へのその組成物の応用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本発明に関し、2003年6月19日出願の米国暫定出願第60/480,006号に対する35 U.S.C.§119(e)の優先権を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、アントラニル酸のある種のアナログおよび誘導体、2-アミノニコチン酸のアナログおよび誘導体、2-アミノフェニル酢酸のアナログおよび誘導体に関する。特に本発明はそれらの対掌体、それらの製造法、それらを含む薬学的組成物、およびそれらの治療への応用、特にムチン合成の制御と、喘息、慢性気管支炎、炎症性肺疾患、嚢胞性線維症、呼吸器系の急性または慢性感染症、慢性閉塞性肺疾患 (COPD)、慢性胃腸疾患などの疾病に関連するムチン過剰産生の抑制へのそれら組成物の治療的応用に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
気道上皮細胞は粘膜繊毛系および機械的バリアを介して気道の防御機構において重要な役割を演ずることが知られている。最近の研究によれば、気道上皮細胞(AEC)を活性化することにより、多発性気道障害の発症に重要な生物学的媒体が産生され放出されることが示されている(Polito & Proud, 1998; Takizawa, 1998)。喘息、慢性気管支炎、肺気腫、嚢胞性線維症などの慢性気道障害においては上皮細胞が根本的な障害を受けることを示す証拠がある(Holgate et al., 1999; Jeffery PK, 1991; Salvato, 1968; Glymn & Michaels, 1960)。
【0004】
これらの気道障害の特徴の一つはAECによる粘液の過剰産生である。粘液の主要な高分子成分はムチンと呼ばれる大型糖蛋白である。少なくとも7種のヒトムチンの分子構造が最近決定されている。既知のムチンの転写産物は不均一であり、遺伝子との間に配列の相同性を示さないが(Voynow & Rose, 1994)、全体の反復的構造においては類似している。
【0005】
有害な刺激によりAECが活性化されることが知られている。これらの刺激はアレルギー性疾患における抗原から薬物または環境汚染物質、タバコの煙、ある種の慢性閉鎖性肺疾患に関連する感染性病原体まで様々である。AECの活性化により、イオン輸送の変化、繊毛拍動の変化、ムチンの産生・分泌の増加による粘液の増加が起こる。AECの活性化に対する応答として産生される伝達物質には、炎症細胞の流入を促進するケモカインを含む(Takizawa, 1998)。これらの炎症細胞はAECを損傷する可能性のある伝達物質を産生する。AECの損傷は細胞分裂を刺激し(杯細胞および粘膜下腺細胞過形成)、その結果としてプロテアーゼや成長因子などの炎症誘発性産物の供給源が拡大し連続的となり、気道壁リモデリングが進行して肺が破壊され機能不全に陥る(Holgate et al., 1999)。
【0006】
粘液の過剰産生とその物理的・化学的性質の変化は様々な形で肺の病理に影響する。ムチンの過剰産生による生理的粘膜線毛クリアランスの混乱は、粘液閉塞、空気トラッピング、しばしば感染症を併発する無気肺などを引き起こす可能性がある。
【0007】
喘息は慢性閉塞性肺疾患の一種である。その罹患率・重症度とも増大傾向にあり(Gergen & Weiss, 1992)、全人口の30〜40%がアトピー性アレルギーを持ち、小児の15%、成人の5%が喘息に罹患していると推定されている(Gergen & Weiss, 1992)。
【0008】
喘息においては抗原による免疫系の活性化によってアレルギー性炎症が起こる。この種の活性化には肺の炎症、気管支の過敏性、杯細胞および粘膜下腺の過形成、ムチンの過剰産生・分泌が伴う(Basle et al., 1989)(Paillasse, 1989)(Bosque et al., 1990)。杯細胞および粘膜下腺の過形成に関連する粘液の過剰産生と閉塞は喘息の病理学の重要な一部であり、軽症患者においても喘息発作重積状態で死亡した患者においても気道の観察で認められている (Earle, 1953)(Cardell & Pearson, 1959)(Dunnill, 1960)(Dunnil et al., 1969)(Aikawa et al., 1992)(Cutz et al., 1978)。T細胞、抗原提示細胞、IgEを産生するB細胞、IgEと結合する好塩基球、好酸球などの炎症細胞がこの反応において重要である。これらの炎症細胞はアレルギー性炎症の患部に集積し、それらの産生する毒性産物がAECおよびこの障害に関連するその他の組織の破壊に寄与する。
【0009】
出願人は前記の関連出願において、インターロイキン9(IL9)とその受容体、およびIL9に影響される活性が、アトピー性アレルギー、喘息およびこれらに関連する疾患の治療における主要な標的であることを示した。アレルギーの開始に対しては、アレルゲンによるマスト細胞からの伝達物質放出が決定的な事象であると以前から考えられている。IL9は当初マスト細胞成長因子として同定されたものであり、MCP-1, MCP-2, MCP-4などのマスト細胞プロテアーゼ(Eklund et al., 1993)およびグランザイムB(Louahed et al., 1995)の発現がIL9によってアップレギュレートされることが見出されている。したがってIL9はマスト細胞の増殖および分化において何らかの役割を果たしているものと考えられる。またIL9は高親和性IgE受容体のα鎖の発現をアップレギュレートし(Dugas et al., 1993)、また抗原刺激を受けたB細胞からのIgEの放出を促進することがインビトロでもインビボでも示されている(Petit-Frere et al., 1993)。
【0010】
IL9がムチンの合成を刺激し、アレルギー性気道疾患においては肺液のムチン刺激活性の50〜60%を占める可能性があることがすることが最近見出されている(Longpre et al., 1999)。IL9遺伝子を導入したマウスはバックグラウンド系統のマウスに比べてムチン合成の顕著なアップレギュレーションと粘液の過剰産生が認められる。具体的には、インビトロにおいてもインビボにおいても、IL9はMUC2およびMUC5AC遺伝子をアップレギュレートし(Louahed et al., 2000)、更に、喘息の動物モデルにおいて、抗原チャレンジへの応答としてのムチンはIL9中和抗体によって完全に阻害される(McLane et al., 2000)。
【0011】
現行の喘息治療法には種々の欠点がある。主要な治療薬であるβ受容体作用薬は症状を減退させることにより一時的に肺機能を回復させるが、原因である炎症には影響せず、ムチンの産生を抑制することもない。またβ受容体作用薬を常用すると脱感作が起こり効果も安全性も減退する(Molinoff et al., 1995)。一方、ステロイド抗炎症剤のように炎症を鎮静させ、したがってムチンの産生を減少させる薬物は免疫抑制から骨量減少に至る種々の欠点がある(Molinoff et al., 1995)。
【0012】
慢性気管支炎も慢性閉塞性肺疾患の一つであり、成人の5%弱が罹患している。慢性気管支炎は慢性的な痰の過剰産生と定義される。粘液の過剰産生は一般に誘導気道の炎症に関係し、好中球やマクロファージなどの炎症細胞はこの障害におけるムチン遺伝子発現の増大に関係すると思われる(Voynow et al., 1999; Borchers et al., 1999)。粘液の産生量の増大は、この肺疾患の主要な特徴である気道閉塞に関係する。治療法は主として対症療法であり、感染を抑え肺機能の減退を防止することが中心である。気管支炎の症状に対しては充血除去剤、去痰剤、またはそれらの混合物がしばしば処方されるが、これらがムチン産生に影響するとは考えられない。粘液溶解剤は粘膜線毛クリアランスを促進し、気道分泌物の粘性ないし弾性を低減することによって症状を緩和する可能性があるが、ムチン合成や粘液の過剰産生を抑制することはできない(Takahashi et al., 1998)。
【0013】
嚢胞性線維症(CF)も気道および胃腸系の疾患であり、厚い分泌物層とその結果としての気道閉塞、およびそれに続く吸入病原菌のコロニー形成と感染に関係する(Eng et al., 1996)。嚢胞性線維症に罹患した肺ではDNAレベルの顕著な増大が見られ、痰の粘度が増加することもある。組替エーロゾルDNAアーゼはそのような患者に対して有効であるが、病原性粘液の過剰産生に対する有効な治療法は存在しない。したがって嚢胞性線維症における気道上皮細胞のムチン過剰産生を阻害し得る薬物を見出すことは当該分野において特に要求されている。嚢胞性線維症患者にはムチン分泌による気道閉塞に加えて膵管の閉塞も見られ、これによって消化酵素の胃腸管への輸送が妨げられるため吸収不良症候群、脂肪便症、下痢などが現れる。
【0014】
非アレルギー性慢性副鼻腔炎は粘液産生の定量的および定性的変化を伴うことが多く、そのような変化が病状に寄与する。その変化の一つはMUC2, MUC5A/C, MUC5Bなどのゲル形成ムチンの過剰分泌である。また慢性副鼻腔炎の患者は粘液状または粘液膿汁性の鼻漏を訴えることが多い。最近の研究によれば慢性副鼻腔炎に見られる過剰分泌は局所的なムチン合成量の増大に由来すると考えられる(Shinogi et al., Laryngoscope 111 (2): 240-245, 2001)。
【0015】
粘液の過剰産生は多発性慢性閉塞性肺疾患の主要な特徴の一つであるが、これらに関連するムチンの合成ないし過剰産生を防止する方法は当該分野において未知である。したがってこれら疾病の患者におけるムチンの過剰産生を抑止し分泌量を減少させて粘膜線毛クリアランスを促進し肺機能を保全する方法が当該分野において特に要求されている。
【0016】
発明の概要
本発明の一つの側面は、鏡像異性的に純粋な、または光学異性的に富化した(+)-タルニフルマートおよび(-)-タルニフルマート、それらのプロドラッグ、および前記化合物ならびにプロドラッグの薬学的に有効な塩からなる群から選択された化合物に関する。
【0017】
本発明の一つの側面は、鏡像異性的に純粋な、または光学異性的に富化した(+)-タルニフルマートおよび(-)-タルニフルマート、それらのプロドラッグ、および前記化合物ならびにプロドラッグの薬学的に有効な塩からなる薬学的組成物の有効な量を投与することにより、ムチンの合成または分泌に関連した病的状態にある患者を治療する方法に関する。
【0018】
一つの実施態様においては、ムチンの産生は塩素チャネルに依存する。好ましくは塩素チャネルはカルシウムにより活性化されるCLCA塩素チャネルである。
【0019】
一つの実施態様としては、前記薬学的組成物は吸入により投与される。好ましい実施態様としては、同組成物はエーロゾル化も可能な液体、あるいは粉末である。
【0020】
一つの実施態様においては、鏡像異性的に純粋な、または光学異性的に富化した(+)-タルニフルマートおよび(-)-タルニフルマート、それらのプロドラッグ、および前記化合物ならびにプロドラッグの薬学的に有効な塩からなる薬学的組成物の有効な量を投与することにより、ムチンの合成または分泌に関連した病的状態にある患者を治療する方法は、更に少なくとも一つの治療薬を含む。好ましい治療薬には去痰剤、粘液溶解剤、抗生物質、充血除去剤を含む。好ましい実施態様においては去痰剤はグアイフェネシンである。
【0021】
他の一つの実施態様においては、薬学的組成物は更に、界面活性剤、安定剤、吸収促進剤、芳香剤、薬学的に適切なキャリアからなる群から選択された少なくとも1つの添加剤を含む。好ましい実施態様としては、安定剤はシクロデキストラン、吸収促進剤はキトサンである。
【0022】
本発明の他の側面においては、前記病的状態は慢性閉塞性肺疾患(COPD)、炎症性肺疾患、嚢胞性線維症、感染症からなる群から選択される。好ましい実施態様としては、COPDは肺気腫、慢性気管支炎、喘息からなる群から選択される。
【0023】
本発明の他の側面においては、吸入による肺への投与のために調剤された薬学的組成物には、ムチンの合成または分泌を抑制するために有効な量の、鏡像異性的に純粋な、または光学異性的に富化した(+)-タルニフルマートおよび(-)-タルニフルマート、それらのプロドラッグ、および前記化合物ならびにプロドラッグの薬学的に有効な塩を含む。好ましい実施態様としては、薬学的組成物には(+)-タルニフルマート、(+)-タルニフルマート誘導体、その塩、およびそのプロドラッグを含む。また他の好ましい実施態様としては、薬学的組成物は更に少なくとも1つの去痰剤、粘液溶解剤、抗生物質または充血除去剤を含む。
【0024】
本発明の他の側面は、鏡像異性的に純粋な、または光学異性的に富化した(+)-タルニフルマートおよび(-)-タルニフルマート、それらのプロドラッグ、および前記化合物ならびにプロドラッグの薬学的に有効な塩などの薬学的組成物を用いる吸入装置に関する。
【0025】
本発明の他の側面においては、鏡像異性的に純粋な、または光学異性的に富化した(+)-タルニフルマートおよび(-)-タルニフルマート、それらのプロドラッグ、および前記化合物ならびにプロドラッグの薬学的に有効な塩などの薬学的組成物はバイオアベイラビリティを増大させるように調合される。好ましい実施態様としては、同組成物は微粉化される。
【0026】
本発明の他の側面は、慢性副鼻腔炎を持つ患者を、鏡像異性的に純粋な、または光学異性的に富化した(+)-タルニフルマートおよび(-)-タルニフルマート、それらのプロドラッグ、および前記化合物ならびにプロドラッグの薬学的に有効な塩などの薬学的組成物の有効な量を投与することにより治療する方法に関する。
【0027】
発明の詳細な説明
本発明の一部は、肺の無繊毛上皮細胞の活性化によるムチンの過剰産生がMUC2, MUC5ACなどのムチン遺伝子の誘導に起因するとの知見に基づいている。したがって本発明の一つの側面は上皮細胞の活性化を阻害することである。この上皮細胞活性化阻害はケモカインの産生、気管支の敏感性、ムチン遺伝子の発現を下方制御する。したがってムチンの合成量または濃度を減少させる分子は本発明の一部である。
【0028】
ムチンの合成量または濃度を減少させる物質
本明細書に記すように、本発明による調剤および組成物は、ムチンの合成量または濃度を減少させ、あるいはムチンの過剰産生を何らかの方法で減少させる物質を含む。本明細書において、「減少」とはムチンの濃度、活性化、機能、安定性、または、合成に対する下方制御と定義される。好ましい物質は塩素チャネルに依存するムチンの濃度、活性化、機能、安定性または合成を減少させる。本明細書において「塩素チャネル」とは、たとえばICACC塩素チャネル、および、全文が引用されたものと見なすWO 99/44620に言及されている関連チャネルを指すが、それらに限定されない。以上の定義に合致する物質の同定、またはその活性の確認は実施例に述べるアッセイによって行うことができる。たとえば実施例7, 8に記載のインビトロおよびインビボアッセイを用いて物質の活性のスクリーニング、同定または確認が可能である。
【0029】
本発明の好ましい実施態様による、ムチンの合成量または濃度を減少させる化合物は式Iの化合物である。


ここに
X1〜X9はC, S, O, Nからなる群からそれぞれ独立に選択され;
R1〜R11は水素、アルキル、アリール、トリフルオロメチル、置換アルキル、置換アリール、ハロゲン、ハロゲン置換アルキル、ハロゲン置換アリール、シクロアルキル、ヒドロキシル、アルキルエーテル、アリールエーテル、アミン、アルキルアミン、アリールアミン、アルキルエステル、アリールエステル、アルキルスルホンアミド、アリールスルホンアミド、チオール、アルキルチオエーテル、アリールチオエーテル、アルキルスルホン、アリールスルホン、アルキルスルホキシド、アリールスルホキシド、スルホンアミドからなる群からそれぞれ独立に選択され;
R1およびR2またはR2およびR3またはR3およびR4またはR4およびR5またはR6およびR7またはR7およびR8またはR8およびR9は、それらが結合している原子と共にシクロアルキル環、アリール環またはヘテロアリール環を形成し;
YはC(O)R(Rはアリール、リン酸、スチリル、3H-イソベンゾフラン-1-オン-3-オキシル、3H-イソベンゾフラン-1-オン-3-イルからなる群から選択された置換基)、水素、カルボン酸、アルキルカルボン酸、硫酸、スルホン酸、リン酸、ホスホン酸、カルボン酸アミド、カルボン酸エステル、リン酸アミド、リン酸エステル、スルホン酸アミド、スルホン酸エステル、ホスホン酸アミド、ホスホン酸エステル、スルホンアミド、ホスホンアミド、テトラゾール、ヒドロキサミン酸からなる群から選択された置換基であり;
R11とYとは環式スルホンアミドを形成してもよく;
ZはO, N, S, C, スルホキシド、スルホンからなる群から選択され、S, スルホキシド、または、スルホンであるときはR10およびR11は存在せず、NであるときはR10のみが存在するものとし;
mは0または1であり;
nは1または2であり、
前記式Iの化合物は被験者におけるムチン合成量またはムチン濃度を低減する。
【0030】
好ましい実施態様においては、YはC(O)R(Rはアリール、リン酸、スチリル、3H-イソベンゾフラン-1-オン-3-オキシル、3H-イソベンゾフラン-1-オン-3-イルからなる群から選択された置換基)またはカルボン酸基であり、R1〜R11はトリフルオロメチルまたはアルキルであり、X6はCまたはNである。
【0031】
他の好ましい実施態様においては、n = 2、Zの一方はNR10、他方はCR10R11であり、ここにR10はH、R11はアミン基、Yはスルホン基であってYとR11は環式スルホンアミドを形成する。
【0032】
好ましい実施態様においては、ムチン合成量またはムチン濃度を減少させる式Iの化合物にはアントラニル酸(2-アミノ安息香酸)のアナログおよび誘導体が含まれる。ある好ましい実施態様においては、この分子はN-誘導体化したアントラニル酸である。実施態様によってはアントラニル酸のアミノ基が1以上の基によって修飾されていてもよい。ある実施態様においてはこの基は芳香族基である。好ましい実施態様においてはこの基はトリフルオロメチルフェニル基、好ましくは3-トリフルオロメチルフェニル基であり、ムチンの合成量または濃度を減少させる分子はフルフェナミン酸である。他の好ましい実施態様においては、アミノ基は2,3-ジメチルフェニル基により誘導体化され、ムチンの合成量または濃度を減少させる分子はメフェナム酸である。
【0033】
アントラニル酸のその他のフェニル誘導体も本発明において使用し得ることは当業者の理解し得るところである。他の好ましい実施態様においては、安息香酸環は1以上の置換基を含んでいてもよい。好ましい実施態様においては安息香酸環とアミノ基の両者が共に修飾されていてもよい。他の好ましい実施態様においては、安息香酸環上の置換基と、アミノ基に結合した芳香族基とを有する分子が含まれる。
【0034】
いくつかの実施態様においては、ムチン合成量を低減する式Iの分子には2-アミノニコチン酸のアナログおよび誘導体が含まれる。実施態様によっては、環外のアミノ基が1つまたはそれ以上の基を含むように修飾されていてもよい。好ましい実施態様においては、環外アミノ基は芳香族基によって修飾される。好ましい芳香族基としてはフェニル基、修飾フェニル基、ベンジル基、修飾ベンジル基などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましい実施態様においては芳香族基は3-トリフルオロメチルフェニル基であり、前記2-アミノニコチン酸誘導体はニフルム酸である。
【0035】
いくつかの実施態様においては、ムチンの合成量を減少させる式Iの分子は2-アミノフェニル酢酸のアナログまたは誘導体である。実施態様によっては、アミノ基が1以上の基を含むように修飾されていてもよい。ある実施態様においては、アミノ基は芳香族基によって修飾される。好ましい芳香族基としてはフェニル基、修飾フェニル基、ベンジル基、修飾ベンジル基などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましい実施態様においては2-アミノフェニル酢酸は2,6-ジクロロフェニル基によってN-修飾されており、ムチンの合成量または濃度を減少させる分子はタルニフルマートである。他の好ましい実施態様においては、タルニフルマートの2つの対掌体が上皮細胞の活性化、上皮細胞の炎症およびムチンの合成を制御するのに用いられる。
【0036】
この実施態様にはタルニフルマートおよびその対掌体の塩、溶媒和物、懸濁液も含まれる。実施態様によって、各対掌体は実質上他の対掌体を含まないこともあり、また混合物として用いられることもある。好ましくは、本発明による対掌体の一方は他方を10%未満、たとえば5%未満、特殊な効果を要する場合には1%未満含む。他の実施態様においては(+)および(-)対掌体の混合物を上皮細胞の抗炎症性制御およびムチン合成制御に使用する。このとき前記混合物は、各対掌体の所望の効果に従って、両対掌体を等量ずつ含むか、一方を50%以下、他方をそれに応じたより多い量含む。
【0037】
タルニフルマートは式に示すように8番目の炭素にキラル中心を有し、したがって2つの立体異性体を分離する可能性が存在する。また本発明によるタルニフルマートの対掌体の一方、たとえば(+)対掌体が実質的に対応する(-)対掌体を含まない形でも、その逆でも、あるいは対掌体の各々が、活性化された気道または胃腸系内の上皮細胞に対する特定の抗炎症作用および/またはムチン制御活性を示す場合、混合物としても使用し得ることも了解されよう。


【0038】
ある実施例においては、ムチン合成量または濃度を減少させる式Iの化合物はベンドロフルメチアジドである。
【0039】
本発明の一つの側面は式IIで示される新規化合物に関する。


ここに
XはS, N, O, CRのいずれかであり、
YはCRR', O, NR6, CRR'-CRR', CR=CRのいずれかであり、
ZはNR6, O, S, CRR', CRR'-CRR'のいずれかであり、
R1〜R3はH, C1〜C8アルキル、C1〜C8アルコキシ、アミノ、ヒドロキシ、ハロゲン置換アルキル、ハロゲンからなる群からそれぞれ独立に選択され、
R4

のいずれかであり、
QはCR, NR6,


のいずれかであり、
R5はHまたはベンジルであり、
R6はH, C1〜C8アルキル、C1〜C8アルコキシ、OH, ハロゲンのいずれかであり、
RおよびR'は独立にH, C1〜C8アルキル、C1〜C8アルコキシ、OH, ハロゲンのいずれかである。
【0040】
式IIの化合物はムチンの産生を特徴とする疾患の治療方法において有用である。式IIの化合物を含む薬学的組成物も発明の意図に含まれる。慢性副鼻腔炎、喘息、慢性気管支炎、炎症性肺疾患、嚢胞性線維症、呼吸器系の急性または慢性感染症、慢性閉塞性肺疾患からなる群から選択される疾患の治療法として、そのような治療を必要とする患者に有効な量の式IIの化合物を投与することも本発明の意図に含まれる。
【0041】
本発明の意図にはまた、ムチン合成量または濃度を減少させる前記分子の1以上のプロドラッグの使用も含まれる。本明細書における定義によれば、プロドラッグとは前記以外の形で投与され患者の体内で前記の形に転換される分子である。好ましいプロドラッグとしてはフェナマートのプロドラッグが挙げられるが、これに限定されるものではない。好ましいプロドラッグにはムチン合成量または濃度を減少させる酸形式の分子のエステルも含まれる。好ましいエステルとしては、NFAのエステル、たとえばβ-モルホリノエチルエステルであるモルニフルマート、フタリジルエステルであるタルニフルマートが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
定義
「アルキル」とは直鎖、分岐または環形の飽和炭化水素を指す。アルキル基は好ましくは炭素原子1〜20個を含み(本明細書において1〜20のように範囲を示した場合は、当該原子団、この場合アルキル基が炭素原子1個、2個、3個…20個を含むことを意味する)、更に好ましくは炭素原子1〜10個を含む中程度の大きさのアルキル基であり、最も好ましくは炭素原子1〜4個を含む低級アルキル基である。アルキル基は置換されていてもいなくてもよい。置換されている場合には、置換基はハロゲン、ヒドロキシ、ホスホン酸から独立に選択されたもの1以上であることが好ましい。
【0043】
「スチリル」基は-CH=CH-アリール基を指す。
【0044】
「トリフルオロメチル」基は-CF3を指す。
【0045】
「アリール」基とは、炭素のみからなる単環または縮合環(隣接する炭素原子対を共有する環系)基であって完全な共役π電子系を有するものを指す。アリール基の例としては、限定するものではないが、フェニル基、ナフタレニル基、アントラセニル基などがある。アリール基は置換されていてもいなくてもよい。置換されている場合には、置換基はハロゲン、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、アルキルエステルから選択されたもの1以上であることが好ましい。
【0046】
「ハロゲン」はフッ素、塩素、臭素、または、ヨウ素を指す。
【0047】
「シクロアルキル」基とは、炭素のみからなる単環または縮合環(隣接する炭素原子対を共有する環系)基であって、その中の1以上の環が完全な共役π電子系を持たないものを指す。シクロアルキル基の例としては、限定するものではないが、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、アダマンタン、シクロヘキサジエン、シクロヘプタン、シクロヘプタトリエンなどがある。シクロアルキル基は置換されていてもいなくてもよい。置換されている場合には、置換基はハロゲンおよびヒドロキシから独立に選択されたもの1以上であることが好ましい。
【0048】
本明細書において「ヘテロアリール」とは、単環または縮合環(隣接する原子対を共有する環系)であって、窒素、酸素、硫黄から選択された1以上の原子を環内に含み、更に完全な共役π電子系を有するものを指す。ヘテロアリール基の例としては、限定するものではないが、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ピラゾール、ピリジン、ピリミジン、キノリン、イソキノリン、プリン、カルバゾールなどがある。ヘテロアリール基は置換されていてもいなくてもよい。置換されている場合には、置換基はハロゲンおよびヒドロキシから独立に選択されたもの1以上であることが好ましい。
【0049】
「ヒドロキシル」基は-OHである。
【0050】
「アルキルエーテル」基は-O-アルキル基であり、アルキル基の定義は前記に従う。
【0051】
「アリールエーテル」基または「アリールオキシ」基は-O-アリール基であり、アルキル基の定義は前記に従う。
【0052】
「アミン」基は-NH2または-NH-基である。
【0053】
「アルキルアミン」基は-NH-アルキル基であり、「アルキル基」の定義は前記に従う。
【0054】
「アリールアミン」基は-NH-アリール基であり、「アリール基」の定義は前記に従う。
【0055】
「アルキルエステル」基は-C(O)O-アルキル基であり、「アルキル基」の定義は前記に従う。
【0056】
「アリールエステル」基は-C(O)O-アリール基であり、「アリール基」の定義は前記に従う。
【0057】
「アルキルスルホンアミド」基は-SO2NH-アルキル基であり、「アルキル基」の定義は前記に従う。
【0058】
「アリールスルホンアミド」基は-SO2NH-アリール基であり、「アリール基」の定義は前記に従う。
【0059】
「チオール」基は-SH基である。
【0060】
「アルキルチオエーテル」基は-S-アルキル基であり、「アルキル基」の定義は前記に従う。
【0061】
「アリールチオエーテル」基または「アリールチオ」基は-S-アリール基であり、「アリール」基の定義は前記に従う。
【0062】
「スルホキシド」基は-SO-基である。
【0063】
「スルホン」基は-SO2-基である。
【0064】
「アルキルスルホン」基は-SO2-アルキル基であり、「アルキル」基の定義は前記に従う。
【0065】
「アリールスルホン」基は-SO2-アリール基であり、「アリール基」の定義は前記に従う。
【0066】
「アルキルスルホキシド」基は-S(O)-アルキル基であり、「アルキル基」の定義は前記に従う。
【0067】
「アリールスルホキシド」基は-S(O)-アリール基であり、「アリール」基の定義は前記に従う。
【0068】
「カルボン酸」基は-CO2H基である。
【0069】
「アルキルカルボン酸」基は-アルキル-CO2H基である。
【0070】
「硫酸」基は-OSO3基である。
【0071】
「スルホン酸」基は-SO(OR)2基である。
【0072】
「リン酸」基は-OPO3基である。
【0073】
「ホスホン酸」基は-P(O)(OR)2基であり、RはH, アルキル、アリールのいずれかである。
【0074】
「カルボン酸アミド」基は-CO2NR'R"基であり、R'およびR"は独立にH, アルキル、アリールのいずれかである。
【0075】
「カルボン酸エステル」基は-CO2R'基であり、R'はアルキルまたはアリールである。
【0076】
「リン酸アミド」基は-OPO2NR'R"基であり、R'およびR"は独立にH, アルキル、アリールのいずれかである。
【0077】
「リン酸エステル」基は-OPO2OR'基であり、R'はアルキルまたはアリールである。
【0078】
「スルホン酸アミド」基は-OSO2NR'R"基であり、R'およびR"は独立にH, アルキル、アリールのいずれかである。
【0079】
「スルホン酸エステル」基は-OSO2OR'基であり、R'はアルキルまたはアリールである。
【0080】
「ホスホン酸アミド」基は-PO2NR'R"基であり、R'およびR"は独立にH, アルキル、アリールのいずれかである。
【0081】
「ホスホン酸エステル」基は-PO2OR'基であり、R'はアルキルまたはアリールである。
【0082】
「スルホンアミド」基は-SO2NR'R"基であり、R'およびR"は独立にH, アルキル、アリールのいずれかである。
【0083】
「ホスホンアミド」基は-NR'-PO3H基である。
【0084】
「ヒドロキサミン酸」基は-C(O)NHOH基である。
【0085】
ムチン阻害剤として有用な具体的化合物
下記の化合物を調製し、ムチン合成阻害剤としての活性を有することを確認した。

【0086】
実施例において述べるように、ムチンの発現を調節し、低減させ、あるいは下方制御する薬物は、ムチン産生に関連する生物学的・病理学的過程を調節するのに用いることができる。
【0087】
出願人らはIL9がムチン遺伝子産物の発現を選択的に誘起することを見出した。したがって多数の抗原誘起反応において重要なIL9の多形質発現上の役割の一部はAECにおけるムチンのアップレギュレートに依存する。IL9の機能が中和的抗体処理により下方制御される場合は、動物は肺における抗原誘起応答から完全に保護される。そのような応答としては、気管支過敏性、好酸球増多、気道洗浄時の細胞数増加、血清IgEの増加、炎症による肺の組織学的変化、ムチンの過剰産生に関連する杯細胞および粘膜下腺細胞過形成がある。IL9の下方制御と喘息様応答はムチンの発現の下方制御に関連する(図10)。したがって、喘息の病因となり、それに関連するアレルギー性炎症の特徴ともなるそれらの応答をムチン産生の下方制御により治療することも本発明の意図に含まれる。
【0088】
IL9遺伝子導入マウスの気道の組織学的解析により、無繊毛上皮細胞におけるムチンの過剰産生が確認された(Temann et al., 1998; Louahed et al., 2000)。IL9遺伝子導入マウスの肺においてムチンが誘導されることから、IL9がこれらの細胞の粘液産生を抑制することが推定される(図8)。ムチン産生阻害剤の試験のため、MUC1, MUC2, MUC3, MUC4, MUC5B, MUC5ACのmRNAを発現する活性化Caco2細胞を調製し使用した。過ヨウ素酸シッフ染色(PAS)法により、これらの細胞中のムチンを染色することができる。図1Aに示すように、無処理の活性化Caco2細胞はPAS陽性のムチン複合糖質により強く染色される。対照細胞および活性化細胞をニフルム酸(NFA)または4,4'-ジイソチオシアノスチルベン-2,2'-ジスルホン酸(DIDS)の存在下で培養し、阻害剤で処理した活性化細胞と無処理細胞のPAS染色を比較すると、染色される複合糖質は前者において著しく少ないことが認められる(図1Dと1Bを比較されたい)。
【0089】
ムチンの下方制御による治療効果の可能性は喘息について確認されたが、出願人らは更に嚢胞性線維症に対してもムチンの下方制御による治療の可能性を見出した。嚢胞性線維症の患者は多量の分泌物で特徴づけられる肺疾患を持ち、このため気道の閉塞、更には吸入された病原性微生物のコロニー形成と感染が生ずる(Eng et al., 1996)。すなわち出願人らは肺におけるムチン産生の下方制御による嚢胞性線維症の治療方法を提供するものである。
【0090】
嚢胞性線維症においては、消化酵素を胃腸管へ輸送する膵管でもムチンの過剰産生が起こる結果、吸収不良症候群、脂肪便症、下痢などが生ずる。したがって出願人らは膵臓におけるムチン産生を下方制御することによる嚢胞性線維症の治療方法をも提供するものである。
【0091】
出願人らはまた、慢性気管支炎および肺気腫についてもムチンの下方制御による治療の可能性を見出した。慢性気管支炎および肺気腫の患者は多量の分泌物で特徴づけられる肺疾患を持ち、このため気道の閉塞、更には吸入された病原性微生物のコロニー形成と感染が生ずる(Eng et al., 1996)。すなわち出願人らは肺におけるムチン産生の下方制御による慢性気管支炎および肺気腫の治療方法を提供するものである。
【0092】
本明細書における被験者は、ムチン産生により媒介される病理学的または生物学的過程の調節を必要とする限りにおいて、いかなる哺乳類でもよい。ここに哺乳類とは分類学上哺乳綱に属する個体を意味する。本発明は特に被験者としてのヒトの治療に有用である。
【0093】
病理学的過程とは、好ましくない結果を生ずる生物学的過程の一カテゴリーを意味する。たとえば本発明に関わるムチンの過剰産生は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、炎症性肺疾患、嚢胞性線維症、急性または慢性感染症などの呼吸器疾患に関連する。COPDには気管支炎、喘息、肺気腫などが含まれるが、これらに限定されるものではない。また嚢胞性線維症その他の疾患に伴う、胆汁鬱滞による肝不全、腸閉塞、吸収不良症候群、脂肪便症、下痢などの胃腸疾患にもムチンの過剰産生が関係している。
【0094】
本明細書において、ある物質が病理学的過程の程度を軽減するとき、その物質は病理学的過程を調節するという。たとえばムチンの合成量、濃度、および/または過剰産生を何らかの方法で低減または調節する物質を投与することにより、気道閉塞を防止し、あるいは症状の進展を調節することができる。
【0095】
薬学的組成物
本発明の薬物は単独でも、特定の病理学的過程を調節する他の薬物との組み合わせにおいても使用することができる。たとえば本発明による薬物の1つと抗喘息薬を組み合わせて投与することができる。他の実施態様として、ある薬物を去痰剤、粘液分解剤、抗生物質、抗ヒスタミン剤、または充血除去剤と組み合わせて投与してもよく、更に他の実施態様として、界面活性剤、安定剤、吸収促進剤、β-アドレナリン受容体またはプリン受容体作用薬、または薬物の風味を改善するための芳香剤その他の物質と組み合わせて投与してもよい。例えば本発明による組成物は有効成分に加えて、グアイフェネシンなどの去痰剤、シクロデキストランなどの安定剤、および/または、キトサンなどの吸収促進剤を含んでいてもよく、それらの物質は本発明の組成物に使用することができる。
【0096】
本明細書においては、2またはそれ以上の物質を同時に、あるいは物質が同時に作用するような形で独立に投与することを、組み合わせて投与するという。
【0097】
本発明の治療方法に使用する化合物は、治療対象の状態、局所的治療の要否、投与量その他を考慮して、全身的にも局所的にも投与することができ、たとえば腸管外、皮下、静脈内、筋内、腹膜内、経皮、局所、口内などの経路で投与することができる。あるいは経口投与と鼻腔内投与を交互または同時に行うことも、肺に直接投与することも可能である。好ましい実施態様によれば、本発明の化合物を吸入により投与することができる。吸入療法のためには、化合物は液体のエーロゾルとして、あるいは計量吸入器で使用するに便利な溶液として、あるいは乾燥粉末吸入器に適合した形とすることができる。投与量は被投与者の年齢、健康状態、体重、他の治療が並行する場合はその種類、治療の頻度、求める効果などにより異なる。
【0098】
好ましい実施態様によれば、本発明の薬物はエーロゾルとして調製することができる。医薬用エーロゾルの調製方法は当業者には周知である(たとえばSciarra, J. in Remington: The Science and Practice of Pharmacy 20th Edition, Chapter 95, Mack Publishing Company, Easton, Pa.を参照)。剤型としては溶液のエーロゾル、乾燥粉末の分散液ないし懸濁液のエーロゾル、乳液、または半固体製剤が可能である。エーロゾルの供給には当業者に周知の推進装置を使用することができる。エーロゾルは経鼻吸入などにより呼吸器系上部にも、呼吸器系下部にも、あるいはその両者にも投与することができる。
【0099】
本発明の他の好ましい実施態様によれば、治療薬を粒状または微粉状としてバイオアベイラビリティおよび消化吸収を改善することができる。特にタルニフルマートは調剤後、当該分野の標準的方法、たとえばChaumeil, J. C. et al., Methods Find. Exp. Clin. Pharmacol. 20(3):211-215 (1998)に述べられている方法によって微粉化することができる。この方法において、タルニフルマートまたはその他の本発明による薬物の粉砕には通常のボールミルまたはハンマーミルが使用できる。また微粉化はジェット気流を用いるマイクロナイザーで行うこともでき、この方法には砕料が加熱されない利点がある。
【0100】
他の実施態様によれば、溶液、懸濁液、ゲル、軟膏等の通常の局所用剤型のいずれをも利用することができる。そのような局所用剤型の調製方法はたとえばRemington's Pharmaceutical Sciencesに例示されている。またこれら化合物は粉末、スプレー、特にエーロゾルの形態で局所投与することも可能である。
【0101】
更に有効成分を、全身的投与に適した薬学的組成物として投与することもできる。周知のとおり、薬物を全身的に投与するには、経口用としては散剤、丸剤、錠剤、カプセルなど、あるいはシロップやエリキシル剤として、また静脈内、腹腔内または病巣内投与用としては注射可能な溶液または懸濁液として調製される。更に場合によっては坐剤や皮下留置または筋内注射用の徐放性製剤とすることが便利である。
【0102】
製剤に含まれる組成物または薬物の有効量は、ムチンの活性化、機能、安定性または合成量を低減し、または下方制御する量である。好ましい組成物は塩素チャネル依存のムチンの活性化、機能、安定性または合成量、たとえばICACC塩素チャネル依存のムチンの活性化、機能、安定性または合成量を低減し、または下方制御する。所定の有効量は条件ごとに異なり、ある種の場合には治療対象の重症度や治療への許容度によって異なる。したがって有効量は通常の検査に従って個別的に決定することが望ましい。しかしながら本発明による慢性閉塞性肺疾患の治療においては重量比で0.001〜5%、好ましくは約0.01〜1%を含む組成物が通常は治療的に有効であると予想される。全身的投与の場合は体重1 kgあたり毎日0.01〜100 mg、好ましくは0.1〜10 mg/kg/日の投与量で大部分の場合治療効果が得られる。
【0103】
吸入により投与する場合は、0.01〜100 mg/kg/日、好ましくは0.10〜10 mg/kg/日の量で多くの場合治療効果が得られる。ある場合には本発明による化合物、たとえばタルニフルマートを約0.8 mgを含むエーロゾル計量単位を用いる。この組成物の場合、成人に対する維持投与量は約2単位(約1.6 mg)を1日2回(約3.2 mg)である。
【0104】
更に、本発明による化合物と共に薬学的に適切なキャリアを含む薬学的組成物も本発明に属する。薬学的に適切なキャリアとしては無菌の液体、たとえば水や油(石油系油、動物油、植物油、合成油を含む、たとえば落花生油、大豆油、鉱油、胡麻油など)が用いられる。薬学的組成物が経口的あるいは吸入により投与される場合には、キャリアとしては水が好ましい。生理食塩水またはリン酸緩衝生理食塩水も、特にエーロゾル吸入のためにキャリアとして用いられる。乳酸加生理食塩水、デキストロース水溶液、グリセリン溶液も、特に注射液のキャリアとして用いられる。適切なキャリアについてはRemington: The Science and Practice of Pharmacy, 20th Edition, Mack Publishing Company, Easton, PAに記載されている。
【0105】
本発明の組成物は薬理活性成分の他に、作用部位への適用を容易にするための添加剤や助剤などの薬学的に適切なキャリアを含んでいてもよい。腸管外投与に適した調剤としては水溶性とした有効成分、たとえば水溶性の塩の水溶液がある。また有効成分の懸濁液を油性注射液に使用することもできる。適当な親油性溶媒ないしビヒクルとしては、胡麻油などの油脂、オレイン酸エチルやトリグリセリドなどの脂肪酸エステルがある。注射用水性懸濁液にはカルボキシメチルナトリウムセルロース、ソルビトール、および/または、デキストランなど、懸濁液の粘度を増加させる物質を含んでいてもよい。また懸濁液は前記の安定剤を含んでいてもよい。薬物を細胞内に送達するためリポソームによるカプセル化も可能である。
【0106】
前記のとおり、本発明による全身的投与のための製剤は腸管内、腸管外または局所的投与に適したものを作成することができる。さらにこれら3種の方法を同時に用いて全身的投与を行うことも可能である。
【0107】
経口投与に適した剤型としては、硬質または軟質ゼラチンカプセル、丸剤、錠剤(糖衣錠を含む)、エリキシル剤、懸濁液、シロップ、吸入剤、およびそれらの徐放性製剤がある。経口または経鼻吸入用製剤としては水溶液がある。水溶液は当業者に周知の添加剤を含んでいてもよい。
【0108】
本発明の医薬化合物または組成物は、容器、バイアル、吸入装置などに収めることができる。その際に組成物ないし調剤が気管支分泌物を減少させ、粘液流動性を高め、および/または高粘度の濃縮粘液の産生抑制や除去を促進することにより呼吸器系下部からの排液を促進することを明示した説明書あるいはラベルを添付する。この説明書またはラベルには適応症や用法、たとえば、限定するものではないが本明細書に記す、重症喘息、慢性気管支炎、嚢胞性線維症、呼吸器系上部または下部の感染症その他に伴う、高粘度の粘液の呼吸器系またはその他の部位への滞留などの症状の持続的緩和を記載してもよい。
【0109】
本発明の装置は、1以上の治療用組成物を呼吸器系上部または下部に導入するのに適したものであれば何でもよい。好ましい実施態様によれば、本発明の装置として計量吸入器を用いることができる。装置は本発明の薬学的組成物を液体の微細な霧、泡または粉末の形態で供給するように設計することもできる。装置には当該分野で周知の推進装置、たとえば、限定するものではないが、ポンプ、液化ガス、圧縮ガスその他を使用することができる。本発明の装置は典型的には治療用組成物の流れが通過する1以上の弁と、この流れを制御するアクチュエータを備えた容器からなる。本発明に使用するのに適した容器は、たとえばRemington: The Science and Practice of Pharmacy, 19th. Edition, Chapter 95, p. 1676-1692, Mack Publishing Co., Easton, Pa. 1995にも見出される。
【0110】
本発明の実施においては、当業者の通常の知識能力の範囲に属する分子生物学、薬学、免疫学、生化学における一般的な用語や技術を使用することができる。たとえばSambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001を参照されたい。
【0111】
以上の記述および以下の実施例によれば、より詳細な説明がなくとも当業者は本発明の化合物の製造と使用、および特許請求範囲に記載の方法を実践することが可能であろう。したがって下記の実施例は本発明の好ましい実施例を具体的に説明するものであり、開示のその他の部分を制限するものと解されてはならない。

合成例
【0112】
合成例1:アントラニル酸または2-アミノニコチン酸からのムチン合成阻害剤の合成
この種のムチン合成阻害剤の調製は下記の反応式によって行われる:

【0113】
この種のムチン合成阻害剤の調製は下記の一般式に従って行われた。主な差異はβ-ケトホスホン酸エステルの調製方法にある。ジアリールアミンを含むアナログの合成には環状無水物を調製した。メチルエステルから直接ホスホン酸エステルを調製する試みの結果は十分なものではなく、収率は低くかつ変動が大きかった。無水イサトイン酸からのホスホン酸エステル合成の結果はこれより良好であった。他のジアリールエーテルおよびチオエーテルアナログに対してはメチルエステルで十分な結果が得られた。
【0114】
これらの化合物の一般的な合成経路は下図のとおりである:

X = C, N
Z = C, O, S, スルホキシド、スルホン
【0115】
合成例3:β-ケトホスホン酸エステルの調製
メチルホスホン酸ジメチルのアニオンはTHF中で-78℃で調製する。指示薬としてトリフェニルメタンの痕跡量を含むホスホン酸エステル溶液にブチルリチウムを加える。ブチルリチウムはシリンジから、淡紅色が持続するようになるまで緩やかに添加する。反応温度を-78℃に保持しつつ、メチルエステルまたは無水物を漏斗から滴下して添加し、反応物を-78℃で、通常は薄層クロマトグラフィー(TLC)で無水物エステルが認められなくなるまで攪拌する。ホスホン酸エステルは各種の有機溶媒を用い反復抽出により分離する。これら化合物は極性であるため、十分な収量を得るためには水層からの塩析が必要になることが多い。有機層はNa2SO4上で乾燥し、溶媒を真空で除去する。このようにして得られた粗生成物は多くの場合十分な純度を持ち、更に精製する必要はない。
【0116】
合成例4:α,β-不飽和ケトンの調製
ホスホン酸カルボアニオンをケトホスホン酸エステルからTHF中で、典型的にはNaOtBuを塩基として調製する。ホスホン酸エステルと塩基をTHF中0℃〜室温で予め混合し、塩基が溶解した後、反応液を室温で約5分間攪拌してからアルデヒドを加える。反応は通常室温で24時間以内に完了する。
【0117】
合成例5:ラクトンおよび遊離酸の調製
ラクトンは安息香酸2-カルボキシアルデヒドの4-メトキシベンジルエステルから調製することが好ましい。ラクトンを最小CH2Cl2/TFA 50/50溶液に溶解する。溶液は反応の進行に従って速やかに赤紫色を呈し、多くの場合15分間で開裂が完了する。環形成は反応および後処理中に自発的に進行する。この後処理では水および適当な有機溶媒を入れた分液漏斗に反応物を移す。有機層は水で反復洗浄して大部分のTFAを除去し、Na2SO4上で乾燥した後濾過し、溶媒を真空で除去する。残渣は通常は任意の数の溶媒から再結晶させることができ、これにより十分な純度と収量のラクトンが得られる。
【0118】
遊離酸は合成例1と同様にしてベンジルエステルから製造する。この反応経路では、オレフィンの水素化とベンジルエステルの水素化との相対的速度如何によってラクトンも遊離酸も得ることができる。反応は典型的にはエタノール・酢酸エチル混合物中で還流しつつ行う。還元剤として蟻酸、触媒として炭素上のPdを使用した場合、ラクトンから飽和遊離酸への還元は起こるとしても極めて遅い。同様の条件下で蟻酸アンモニウムを還元剤として用いた場合は反応はこれより活発で、ラクトンの飽和遊離酸への還元は更に進行するが、ニコチン酸系は存在したとしても還元されない。
【0119】
合成例6:スルホンアミドアナログの調製
合成例1および5と類似の方法によりスルホンアミドアナログを調製した。主な差異は2-安息香酸カルボキシアルデヒドのカルボキシルがスルホンアミドに置き換えられることである。アナログの原料物質はサッカリンから下記の反応経路で調製される。


【0120】
合成例7:タルニフルマート対掌体の分離
この実験は順相キラルクロマトグラフィーによりタルニフルマート対掌体(図25)の同定を新規に行う目的で実施したものである。各種の市販カラムを用い、ヘキサン、クロロホルム、イソプロパノールの含有比が異なる数種の移動相を試験した。

実験
【0121】
材料および方法
試薬:ヘキサン(Burdick and Jackson, ロット番号BP804)、イソプロパノール(Burdick and Jackson, ロット番号BQ125)、クロロホルム(G.J. Chemical Company, ロット番号2883)
【0122】
資材:Phenomenex製の下記Chirexカラムを使用した。カラムの寸法は50 mm×4.6 mmで
あった。

【0123】
移動相:ヘキサン、クロロホルム、イソプロパノールの混合比を変えて各種移動相を調製した。
【0124】
試料調製:ヘキサンとクロロホルムの1:1混合液を希釈溶媒として濃度1.1 mg/mlのタルニフルマート原液を調製し、この原液から濃度0.11 mg/ml, 0.055 mg/mlの2種の試料溶液を調製した。

【0125】
結果:タルニフルマートの分離状況は移動相の組成、流速およびカラムの種類により異なる。試験した5種のカラムのうち、タルニフルマートの(+)および(-)対掌体を十分に分離し得たのはOOB-3020-EOカラム((S)-ロイシンと(R)-ナフチルエチルアミン)のみであった。クロマトグラムの例を図24に示す。このときの移動相はヘキサン:クロロホルム:イソプロパノール=37.5:37.5:24、流速は0.2 mL/minであり、検出は287 nMで行い、注入容積は5μl、タルニフルマート濃度は0.055 mg/mLであった。注入したタルニフルマートがラセミ混合物であったことに対応して、両ピークは等しい面積および高さを示した。他のカラムや移動相その他各種条件では単一のピークが認められた。
【0126】
結論:タルニフルマートの各対掌体の分離に成功した。

生物学的実施例
【0127】
実施例1:ムチンを過剰産生するように活性化されたCaco2細胞によるムチンの産生のNFAによる阻害
MUC1, MUC2, MUC3, MUC4, MUC5B, MUC5ACのmRNAを発現させる活性化Caco2細胞を作成してムチン産生阻害剤の試験に使用した。これらの細胞においては過ヨウ素酸シッフ染色(PAS)によりムチンを染色することができる。図1に示すように、Caco2対照細胞は基底的なPAS染色と少数の分散した小胞状のムチン複合糖質を示す(写真A)のに対して、活性化されるとPAS陽性のムチン複合糖質の数と強度が著しく増大する(写真B)。活性化Caco2細胞をニフルム酸(NFA)または4,4'-ジイソチオシアノスチルベン-2,2'-ジスルホン酸(DIDS)の存在下で培養した。所定濃度(NFAは100μM、DIDSは300μM)において、阻害剤で処理した活性化Caco2細胞のPAS染色により、染色陽性のムチン複合糖質が大きく減少していることが認められた(図1Dを図1Bと比較されたい)。活性化Caco2細胞によるムチン産生は他のフェナマート類、たとえばフルフェナマート(FFA)、トルフェナマート(TFLA)、また部分的にはメフェナマート(MFA)やメクロフェナマート(MLFA)によっても阻害される(図2)。しかし関連化合物であるナプロキセン(MMNA)やスリンダックは効果を示さなかった。更に高濃度のNFAで処理した細胞も生存率には影響がなく(図3)、したがってNFA処理細胞におけるムチン産生量の減少は細胞の生理学的条件の著しい変化によるものではない。これらの結果は全体として上皮細胞の活性化を阻害するこれら各種の薬物を通じて一貫している。更にこれらの結果は、多発性慢性閉塞性肺疾患の特徴である粘液の過剰産生に対してNFAとそのアナログ(図11にフェニルアントラニル酸誘導体を示す)、DIDS, SIDSが直接効果を及ぼすことを明らかに示している。
【0128】
実施例2:ムチンを過剰産生するように活性化されたCaco2細胞によるエオタキシンの産生のNFAによる阻害
エオタキシンを発現・分泌する活性化LHL4細胞を作成し、エオタキシン産生阻害剤の試験に使用した。これらの細胞はエオタキシンに関してインビトロで関連分野で周知のELISA法(R&D Systems)により試験した。図4に示すように、活性化LHL4細胞を次第に増加する量のニフルム酸(NFA)の存在下で培養した(対照はNFA非存在下で培養)。NFA濃度の高いところでは有意なエオタキシン産生阻害効果が認められた。DIDS, SIDSについても同一の実験において同様な阻害効果が見られた。Mad/C3細胞もNFA, DIDS, SIDSによる同様なエオタキシン産生阻害効果を示した。これらの結果は全体的に見てNFAがエオタキシンの産生に対して直接的な効果を持つことを明らかに示している。
【0129】
実施例3:喘息のマウスモデルにおけるムチン過剰産生のNFAによる阻害
DBA, C57B6, B6D2F1の各系統の雄および雌マウス(無ウイルス保証)をNational Cancer Institute または Jackson Laboratories (Bar Harbor ME)から、購入し、IL-9 遺伝子導入マウス(Tg5)およびその親株(FVB)をLudwig Institute (Brussels, Belgium)から入手した。粒状物質を濾過した空気を用いる高効率設備にこれらを収容し、飼料と水を3〜7日間自由に摂らせた後、実験を行った。設備は22℃に維持し、明暗サイクルは自動制御した(明:暗=10 h:14 h)。
【0130】
表現型検査と前処理の効果
動物の一部は前処理を施さず、他はAspergillus fumigatus抗体の経鼻吸入によって感作し、気管支過敏性、気管支肺胞洗浄液の組成、ムチン産生、血清IgEに対する前処理の効果を検討した。チャレンジはAspergillusまたは生理食塩水を用いて鼻腔内で行い(第0, 7, 14, 21, 22日)、最終投与の24時間後に表現型検査を行った。感作したマウスは第0〜21日にPBSまたは100μgのNFAの気道内注入(IT)により処理した。肺における粘液産生およびムチン発現の阻害に基づいてNFAの治療効果の評価を行った。他の候補薬物の治療効果も同様にして評価することができる。気管支収縮反応を決定するため、薬物への曝露前および曝露中に気管内で呼吸系の圧力を測定し記録した。マウスは既知の方法(Levitt et al., 1988; Levitt & Mitzner, 1989; Kleeberger et al, 1990; Levitt, 1991; Levitt & Ewart, 1995; Ewart et al, 1995)に従い麻酔して装置を装着した。気道の反応性を5-ヒドロキシトリプタミン、アセチルコリン、アトラクリウムまたはP物質アナログについて測定した。気管支収縮チャレンジ後の最大呼吸圧の変化を示す単純かつ再現性ある指標として、気道圧力時間指標(Airway Pressure Time Index, APTI)と呼ばれるものを用いた(Levitt et al., 1988; Levitt & Mitzner, 1989)。APTIの評価には最大呼吸圧の変化を、注入時点からベースラインまたはプラトーに戻るまでの期間について積分した値を用いた。APTIは気道抵抗に類似するが、更に気管支収縮からの回復に関連する成分を含んでいる。
【0131】
屠殺前に、血清IgEの測定のため麻酔した動物の下大静脈の穿刺により全血を採取した。試料を遠心して細胞を分離し、血清を捕集して全IgE濃度の測定に使用した。即時測定しない試料は-20℃で凍結した。
【0132】
IgE血清試料はすべてELISA法の抗体サンドイッチ試験により測定した。ラットの抗マウスIgE抗体(Southern Biotechnology)を炭酸ナトリウム・重炭酸ナトリウム緩衝液にアジ化ナトリウムと共に溶解して濃度2.5μg/mlとし、マイクロタイターの各ウェルに50μlずつコーティングし、プラスチック製ラップを掛けて4℃で16時間インキュベートした後、Tween 20のリン酸緩衝生理食塩水中0.05%溶液で3回洗浄し、各洗浄ごとに5分間インキュベートした。非特異的結合部位をブロックするため各ウェルにウシ血清アルブミンのリン酸緩衝生理食塩水中5%溶液200μlを加え、ラップを掛けて37℃で2時間インキュベートした。緩衝液で3回洗浄の後、同じ試料50μlを各ウェルに加えた。試料は洗浄緩衝液中ウシ血清アルブミン5%溶液で1:10, 1:50, 1:100に希釈した後に試験した。更にIgE標準品(PharMingen)を洗浄緩衝液中ウシ血清アルブミン5%溶液に0.8〜200 ng/mlに溶解したものを用いて標準曲線を作成し、無試料または標準品によるブランクテストによりプレートリーダーの零点(バックグラウンド)設定を行った。プレートに試料と標準を添加した後、ラップを掛け室温で2時間インキュベートした。洗浄緩衝液で3回洗浄した後、洗浄緩衝液中ウシ血清アルブミン5%溶液にラットの抗マウスIgE二次抗体とホースラディッシュ・ペルオキシダーゼの抱合体を250 ng/ml含む溶液50μlを加えた。プレートにラップを掛け、室温で2時間インキュベートし、緩衝液で3回洗浄し、0.1 Mクエン酸緩衝液中o-フェニレンジアミン0.5 mg/mlの基質100μlを各ウェルに加え、5〜10分後に12.5%硫酸50μlを加えて反応を停止し、MR5000プレートリーダー(Dynatech)を用いて490 nmでの吸光度を測定した。標準IgE溶液を用い、抗原濃度を横軸(対数目盛)に、吸光度を縦軸(等間隔目盛)にとって標準曲線を作成した。試料中のIgE濃度は標準曲線から内挿により求めた。
【0133】
既知の方法(Kleeberger et al., 1990)により気管支肺胞洗浄(BAL)と細胞分析を行った。肺にインサイチュウで固定剤を満たしてホルマリンに浸漬するか、または肺を取り出して直ちに液体窒素で凍結した後、肺の組織学的検討を行った。装置の装着によってアーチファクトが現れる可能性があるため、これらの実験には別の動物を使用した。すなわち少数の動物を、気管支反応以外の試験を行わない点以外は各種の前処理を行うコホートと全く同一の条件で処理した。気管支反応試験の後、上記と同じく肺を取り出し液体窒素に浸漬した。凍結切断、染色、組織学的検査は当業者に周知の方法で行った。
【0134】
インビボで上皮細胞の活性化を阻止し、ムチンおよびエオタキシンの産生を下方制御するNFAを治療的に用いることにより、マウスのBALで評価されたような、抗原に誘導されるムチン産生、気管支反応、血清IgE、気道の炎症におけるインビボでの上皮細胞活性化の重要性を評価した。気道反応性、BAL、粘液産生、血清IgE濃度に対するNFA処理の効果をビヒクル処理した対照と比較して決定した。図5、図6に示すように、NFAは気道の過敏性やBALによる肺の好酸球増多症を抑止するが、血清IgE濃度に対しては効果を示さない。NFAはまた抗原への曝露に起因する肺中の粘液過剰産生を抑止する効果もある(図7)。
【0135】
実施例4:形質転換マウスのIL9による活性化による粘液の過剰産生とムチン遺伝子のアップレギュレート:医薬スクリーニングのモデル
雌雄のIL9遺伝子導入マウス(無ウイルス保証)(IL9TG5-FVB/N)を5〜6週齢まで飼育し、また5〜6週齢の雌雄FVB/NマウスをJackson Laboratories (Bar Harbor ME)から購入した。粒状物質を濾過した空気を用いる高効率設備にこれらを収容し、飼料と水を3〜7日間自由に摂らせた後、実験を行った。設備は22℃に維持し、明暗サイクルは自動制御した(明:暗=10 h:14 h)。
【0136】
表現型検査と前処理の効果
動物の一部は無処理のままで、他は気管内投与(IT) による偽処理(ビヒクル処理)、あるいは対照に用いたのと同一のビヒクル中に含まれた薬物での処理を行った24時間後に、表現型検査を行った。気管内投与は1日1回、3日間にわたり行った。NFA (100μg) またはIL9抗体はリン酸緩衝生理食塩水を用いて気管内に投与した。処理への応答は組織学的検査(処理および対照肺のPAS染色が10断面を超える、あるいは同じ肺のMUC1, MUC2, MUC3の発現)によるムチン阻害の評価によって測定した。
【0137】
図8はIL9遺伝子導入マウスが対照FVBマウスに比べて構成的にムチンを過剰産生することを示している。喘息IL9遺伝子導入マウス(無処理およびビヒクル処理対照)における高レベルの構成的ムチン産生(図8)から、FVB/N(通常の陽性対照)の肺における低いバックグラウンドレベルのムチン産生への変化はすべての薬物に対して有意と考えられる。IL9遺伝子導入マウスにおける粘液産生のアップレギュレートがMUC2およびMUC5ACのmRNAの定常濃度の増大に特異的に関連していることはRT-PCRにより示される(図9)。
【0138】
IL9遺伝子導入マウスの肺においてIL9抗体を中和するとムチン産生量が顕著に減少することが示された(図10)。NFAもこのモデルにおけるムチン産生量を減少させた。
【0139】
実施例5:喘息のマウスモデルにおけるムチン過剰産生のタルニフルマートによる阻害
5〜6週齢の雄B6D2F1マウス(無ウイルス保証)をJackson Laboratories (Bar Harbor ME)から購入し、粒状物質を濾過した空気を用いる高効率設備にこれらを収容し、飼料と水を5〜7日間自由に摂らせた後、実験を行った。設備は22℃に維持し、明暗サイクルは自動制御した(明:暗=12 h:12 h)。
【0140】
表現型検査と処理の効果
飼料はタルニフルマート含有品または通常品を任意に与えた。動物の一部は感作せず、他はAspergillus fumigatus抗原の経鼻吸入によって感作し、気管支過敏性、気管支肺胞洗浄液の組成、ムチン産生、血清IgEに対する前処理の効果を検討した。チャレンジはAspergillusにより鼻腔内で行い(第0, 7, 16, 17日)、最終投与の24時間後に表現型検査を行った。肺における粘液産生の阻害に基づいてタルニフルマートの治療効果の評価を行った。他の候補薬物の治療効果も同様にして評価することができる。気管支収縮反応を決定するため、薬物への曝露前および曝露中に呼吸系の圧力を気管内で測定し記録した。マウスは既知の方法(Levitt et al., 1988; Levitt & Mitzner, 1989; Kleeberger et al, 1990; Levitt, 1991; Levitt & Ewart, 1995; Ewart et al, 1995)に従い麻酔して装置を装着した。
【0141】
気道の反応性を5-ヒドロキシトリプタミン、アセチルコリン、アトラクリウムまたはP物質アナログについて測定した。気管支収縮チャレンジ後の最大呼吸圧の変化を示す単純かつ再現性ある指標として、気道圧力時間指標(Airway Pressure Time Index, APTI)と呼ばれるものを用いた(Levitt et al., 1988; Levitt & Mitzner, 1989)。APTIの評価には最大呼吸圧の変化を、注入時点からベースラインまたはプラトーに戻るまでの期間について積分した値を用いた。APTIは気道抵抗に類似するが、更に気管支収縮からの回復に関連する成分を含んでいる。既知の方法(Kleeberger et al., 1990)により気管支肺胞洗浄(BAL)と細胞分析を行った。肺を取り出して直ちに液体窒素で凍結した後、肺の組織学的検討を行った。気管支反応試験の後、上記と同じく肺を取り出し液体窒素に浸漬した。凍結切断、染色、組織学的検査は当業者に周知の方法で行った。処理に対する応答は組織学的検査(処理肺および対照肺のPAS染色)によるムチン阻害の評価により測定した。
【0142】
タルニフルマートによる経口治療によりムチンの染色が低減されている。図15Aは通常のマウス用飼料を与えたAsp-sensマウスの肺のPAS染色を示す。図15Bはタルニフルマート含有飼料を与えたAsp-sensマウスの結果を示す。図16は肺の好酸球増多に対するタルニフルマート被覆飼料の効果を気管支肺胞洗浄で見た結果である。Aspergillus fumigatusに感作したマウスと通常飼料を与えた感作マウスを比較すると、前者の好酸球数がタルニフルマートにより減少していることがわかる。
【0143】
実施例6:上皮細胞株におけるCLCA1の過剰発現によるムチン産生量の増大
ヒト肺粘膜表皮癌細胞株NCI-H292をAmeircan Type Culture Collection (Manassas VA)より購入し、FBS 10%、ペニシリン/ストレプトマイシン1%を加えたRPMI1640培地(Gibco/BRL)で培養した。細胞はインキュベータでCO2 5%を含む加湿空気中37℃で成長させた。Fujinトランスフェクションキット(Boehringer-Mannheim)を製造者の指定に従って用いたpcDNA3-hCLCA1のトランスフェクションによってhCLCA1を過剰に発現する安定なNCI-H292細胞株を得た。またNCI-H292株への同様の方法によるpcDNA3 (ctl)のトランスフェクションにより対照細胞株NCI-H2902/ctlを得た。pcDNA3-hCLCA1形質転換体におけるhCLCA1遺伝子の発現はノーザンブロット分析により確認した。
【0144】
s-ELLA(特異性酵素結合レクチン検査)を行うため、24ウェルの組織培養プレートに細胞を塗布し、コンフルエンス状態まで72時間インキュベートし、予め抗MUC5A/C抗体(New marker, Fremont CA)1μgで被覆した96ウェルのプレートに上澄液を移し、1% BSAでブロックした後、HRPレクチン(Sigma)により抗体結合MUC5A/Cを検出した。
【0145】
RT-PCRのため、Trizol試薬(Gibco/BRL)を製造者のプロトコルに従って使用して全RNAを分離した。全RNA1μgを逆転写し、適切なプライマーを用いてPCRで増幅し、2%アガロースゲル上の電気泳動で産物を分離し、臭化エチジウム染色により可視化した。ヒトCLCA1メッセージを生成するためプライマー対として、順方向5'-GGCACAGATCTTTTCATTGCTA-3'、逆方向5'-GTGAATGCCAGGAATGGTGCT-3'を用い、182 塩基対の産物を得た。ムチンメッセージを生成するためのプライマー対は表1に示すとおりである。

表1(括弧内の数字は公表されたcDNA内のオリゴヌクレオチド位置を示す)


【0146】
NC1-H292細胞はMUC1を構成的に発現するのに対して、MUC2およびMUC5A/CのmRNAの発現はベースラインの検出限界以下であった。図12Aに示すpcDNA3-hCLCA1導入細胞のノーザンブロット分析の結果によれば、ICACCのmRNAの発現レベルが増加していることが明らかである。またCLCA1過剰発現クローンの全細胞用怪物のウェスタンブロット分析によれば、MUC2タンパク質の産生が増加している(図12B)。RT-PCR分析によれば、CLCA1過剰発現細胞におけるMUC5A/Cの発現は顕著に増加しているが、MUC1は不変である(図12C)。無処理NCI-H292細胞または空ベクター導入細胞に比べてCLCA1発現クローンにおけるMUC5A/Cタンパク質が過剰であることもs-ELLA分析により明らかである(図12D)。
【0147】
実施例7:hCLCA1を過剰産生するNCI-H292細胞における粘液過剰産生およびMUC5A/C発現の阻害
粘液状複合糖質の産生量の測定のためNCI-H292/ctlおよびNCI-H292/hCLCA1 (AAF 15)細胞を24ウェルのプレートで3日間培養し、ホルマリンで固定した後、AB/PAS (Sigma)染色により粘液状複合糖質を可視化した。NCI-H292対照細胞が少数の顆粒が分散した基底的なPAS染色を示す(図13A)のに対して、CLCA1の過剰産生はPAS陽性の粘液状複合糖質の数と強度を共に著しく増加させる(図13B)。塩素チャネルブロックの検討のため、細胞をニフルム酸(NFA) (Sigma) 125μMまたは250μM、あるいはタルニフルマート12.5, 25, または 50μMの存在下、または培地のみで培養した。NFA, MFA, タルニフルマートのいずれで処理した細胞も無処理細胞に比べて染色陽性の粘液状複合糖質が著しく減少している(図13C, 13D, 図14内の写真)。阻害剤で処理した対照細胞のPAS染色は無処理細胞と事実上変わらない(図13A, 13C)。
【0148】
hCLCA1を発現するH292細胞のMUC5A/C分泌の阻害に基づいてIC50値をタルニフルマート(図14)、ニメスリド(図17)、MIS-2079(図18、MSI-2079の構造は図19)に対して決定した。コンフルエンス状態の細胞をOPTIMEM中0〜250μMの阻害剤で処理し、48時間後に実施例5に述べたELLA法により分泌されたMUCTA/Cを検出し、データ解析ソフトウェアGraphPad Prismを用いてIC50値を求めた。図14中の写真はタルニフルマートで処理した細胞内のムチンをPAS染色で検出した結果である。
【0149】
実施例8:CFアッセイにおけるタルニフルマートおよびそのアナログの効果
機能的CFTRタンパク質を発現していないCFマウス(CFノックアウトマウスおよびCF ΔF508マウス)を離乳させ浸透圧性薬物を投与して生存させた。投与は2週間後に中止し、以後はタルニフルマート含有飼料または対照飼料を与えた。対照飼料を摂ったマウスは7日以内に体重の10〜15%を失い死亡するか(CFノックアウト)または瀕死状態で安楽死させた(CFΔF508)。これに対してタルニフルマート(経口投与量約100 mg/kg)を摂取したCFマウスは体重が8〜12%増加し、屠殺まで少なくとも26日間生存した。屠殺後組織病理学的検査を行った(図20参照)。
【0150】
ムチン産生に対するタルニフルマート誘導体の効果は上記の方法によりELLAおよびIC50値の変化(表2)によっても評価した。

【0151】
必要なタルニフルマートアナログ(図21参照)は後述の反応経路で合成した。ホスホン酸エステルにテトラヒドロフラン中-78℃でブチルリチウムを加えることによりホスホン酸ジメチルのアニオンを生成させた。このホスホン酸カルボアニオン溶液にニフルム酸メチル(1, MSI 2213)を加えてβ-ケトホスホン酸エステル(2, MSI 2215)を生成させた。次に(2, MSI 2215)のテトラヒドロフラン溶液に塩基としてナトリウムtert-ブチルオキシドを加えて(2, MSI 2215)のホスホン酸エステルカルボアニオンを生成させ、これを含む反応容器に安息香酸2-カルボキシアルデヒドのベンジルエステルを加えてα, β不飽和ケトン(3, MSI 2214)を生成させた。蟻酸とC-Pd触媒を用いて(3, MSI 2214)の交換水素化により2つの主生成物が得られ、主要な生成物は所望のラクトン(4, MSI 2216)であった。その他に比較的少量の還元生成物(5, MSI 2217)が生じた。
【0152】
実施例9:COPDアッセイに対するタルニフルマートの効果
Li et al. (1998), Proc. Natl. Acad. Sci., USA, Vol. 95, p. 5718-5723の方法によりMUC2の転写を監視した。簡単に述べると、ルシフェラーゼのレポーター遺伝子の上流からクローンしたMUC2遺伝子のプロモーター領域を含むレポーターコンストラクトを上皮細胞株に導入し、この細胞を単独または上記文献に示されているとおりS. aureus菌のリポタイコ酸(LTA)、アデノシン(aden)、またはタルニフルマート(MSI)を含む無血清培地(SFM)で処理した。ついで細胞を溶解させ、溶解物中のルシフェラーゼ酵素活性を測定した(RLU)。タルニフルマートによりリポタイコ酸によるMUCの誘導が調節された(図22)。これはCFに対しても適切なモデルとなる。
【0153】
実施例10:塩素チャネル活性に対するタルニフルマートの効果
塩素チャネルを発現するプラスミドを導入した細胞のパッチクランプ試験の結果を図23に示す。ヒト塩素チャネルhCLCA1を発現するプラスミドを導入したNCI-H292細胞をパッチクランプし、塩素電流(I)を一定の電圧(V) 範囲で測定した。イオノマイシン 2μMおよびカルシウム2 mMの添加により、ベースライン(■)に比べて著しく大きい塩素電流が誘起され(●)、hCLCA1の活性化を示している。タルニフルマート5μMを添加すると正電圧で塩素電流が減少し(▲)、チャネルの活性が阻害されることを示す。
【0154】
タルニフルマートに対する結果とは対照的に、ジクロフェナクは塩素チャネルの活性を阻害しなかった。マウスの塩素チャネルmCLCA1を発現するプラスミドを導入したHEK293細胞をパッチクランプし、塩素電流を一定の電圧範囲(V、表左欄)で測定した結果を表3に示す。各行は特定の正電圧において誘起された電流を、イオノマイシンおよびカルシウムが存在しない場合(-)と存在する場合(+)、および種々の濃度(μM)のジクロフェナクの存在する場合について示している。最初の2つの欄の比較からわかるように、イオノマイシン2μMおよびカルシウム2 mMの添加により大きな電流が誘起され、イオノマイシン/カルシウム処理によりmCLCA1が活性化されることを示している。たとえば電圧+100 mVにおいて、塩素電流は39 nA/pFから105 nA/pFへ増加している。ジクロフェナクによるチャネル活性化の阻害は濃度範囲5〜50μMで認められず、たとえば電圧+100 mVにおいて、ジクロフェナク濃度5μMでは電流115 nA/pF、20μMでは109 nA/pF、50μMでは106 nA/pF、そしてジクロフェナクの存在しない場合には105 nA/pFである。
表3:塩素チャネル活性に対するジクロフェナクの効果

【0155】
実施例11:タルニフルマート、化合物2216、化合物1〜15のIC50とLD50
ELLA(酵素結合レクチン検査)によってH292クローン15細胞の粘液産生に対する化合物の効果を検討した。H292クローン15細胞はhCLCA1を過剰発現するヒト肺の粘膜上皮癌細胞のサブクローンである。コンフルエンス状態まで成長させた後、各化合物を種々の量加えて48時間インキュベートした。順化培地を捕集し、以下の方法でELLA測定によりMUC5AC(肺で分泌される主要なムチン)の含有量を決定した。96ウェルのマイクロタイタープレートにマウスの抗ヒトMUC5ACモノクローナル抗体(1-13M1, NeoMarkers)を塗布し、順化培地と共にインキュベートした。結合MUC5ACの検出には、MUC5ACのような高度にグリコシル化された糖質との親和性が高い、ホースラディッシュペルオキシダーゼと抱合した大豆レクチンを用いた。ペルオキシダーゼ基質TMB(テトラメチルベンジジン塩基)の転換率を450 nmでの読み取りで定量化し、光学的密度(O.D.)の読みと化合物の濃度との関係をプロットし、直線回帰によりO.D.がビヒクル処理細胞の50%に減少する点(IC50)を求めた。
【0156】
化合物の細胞毒性を決定するため、生細胞内でNAPDH, FADH, チトクロムなどの呼吸酵素で還元され得る生体染色色素アラマーブルーを化合物で処理した細胞(上記参照)に最終濃度1%まで2時間にわたって加え、酸化体アラマーブルーの還元により発生する蛍光を530 nm(励起波長)および590 nm(発光波長)で測定した。蛍光の読みがビヒクル処理細胞の50%に減少する点をLD50とした。理想的な化合物はIC50が低くLD50が高くなければならない。
【0157】
細胞内に蓄積されたムチンに対する化合物の阻害効果を決定するため、化合物で処理した細胞に過ヨウ素酸シッフ(PAS)染料を適用して複合糖質を染色した。呼吸器系細胞の主要な複合糖質はムチンであるから、この染色によって細胞内ムチンを間接的に定性評価することができる。

【0158】
実施例12:NCI-H292/hCLCA1細胞の粘液過剰産生およびMUC5A/C発現に対するタルニフルマート対掌体の効果
NCI-H292/hCLCA1細胞の粘液状複合糖質の産生量を決定するため、同細胞を24ウェルのプレートで、タルニフルマート対掌体濃度0〜150μMまたは培地のみ(対照)で3日間培養した後ホルマリンで固定し、AB/PAS染色(Sigma)により粘液質複合糖質を可視化した。タルニフルマート対掌体で処理した細胞のPAS染色を無処理細胞と比較して粘液状複合糖質を検討した。この検査において両対掌体とも濃度>40μMで粘液状複合糖質の産生を阻害することが認められた。
【0159】
タルニフルマート対掌体のIC50値はNCI-H292/hCLCA1細胞におけるMUC5A/C産生の阻害に基づいて決定し、ラセミ混合物に対する値と比較した。コンフルエンス状態の細胞をOPTIMEM中0〜150μMの阻害剤で処理し、48時間後に実施例5に述べたELLA法により分泌されたMUCTA/Cを検出し、データ解析ソフトウェアGraphPad Prismを用いてIC50値を求めた。図26に示すように、対掌体1は阻害作用を示さず、対掌体2のIC50値は40μMであり、これに対してラセミ混合物のIC50値は36μMであった。ここで対掌体1とは合成例7の方法でラセミ混合物を分割する際にHPLCカラムから最初に溶離する対掌体であり、対掌体2は後に溶離する対掌体である。
【0160】
各対掌体またはその混合物の細胞毒性を決定するため、生体内でNAPDH, FADH, チトクロムなどの呼吸酵素で還元され得る生体染色色素アラマーブルーを化合物で処理した細胞(上記参照)に最終濃度1%まで2時間にわたって加え、酸化体アラマーブルーの還元により発生する蛍光を530 nm(励起波長)および590 nm(発光波長)で測定した。蛍光の読みがビヒクル処理細胞の50%に減少する点をLD50とした。両対掌体・ラセミ混合物とも、濃度150μM以下では蛍光の読みが50%まで減少せず、LD50値を求めることはできなかった(図27)。
【0161】
実施例13:CFアッセイにおけるタルニフルマート対掌体およびアナログの効果
機能的CFTRタンパク質を発現していないCFマウス(CFノックアウトマウスおよびCF ΔF508マウス)を離乳させ浸透圧性薬物を投与して生存させた。投与は2週間後に中止し、以後は実質的に純粋な(+)-または(-)-タルニフルマートまたはその混合物を含有する飼料、または対照飼料を与えた。対照飼料を摂ったマウスについては体重を監視し、10%以上の体重減少が見られたとき安楽死させた。タルニフルマートを摂取したCFマウスについても同様に体重と生存率を監視し、28日後に屠殺して組織病理学的検査を行った。
【0162】
本明細書においては種々の特定の材料、手法、例を用いて本発明を説明したが、本発明は、この説明のために選択した材料や手法の特定の組み合わせに限定されるものではない。それら細部には様々な変形が可能であることは当業者の理解し得るところである。本明細書において引用した特許、特許出願公開、およびその他の文献はその全体が引用される。
【0163】
文献
以下の文献は、本明細書において引用した特許、特許出願公開、およびその他の文献と同じく、各々その全体が引用される。
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【非特許文献44】Voynow JA, Young LR, Wang Y, Horger T, Rose MC and Fischer BM. Neutrophil elastase increases MUC5AC mRNA and protein expression in respiratory epithelial cells. Am J Physiol, 276 (5 Pt 1), L835-43, 1999.
【図面の簡単な説明】
【0164】
【図1】図1はムチン産生に対するNFAの影響を示す。NFA阻害剤はインビトロでムチンの過剰産生を防止する。
【図2】図2はNFAその他各種化合物がCaco2細胞を活性化してムチンの過剰産生を抑止することを示す。この図は活性化されたCaco2細胞でフェナマートによりムチン産生が阻害されることを示している。
【図3】図3は活性化Caco2細胞株をNFAで処理しても細胞の生存率に変化がないことを示す。この図はNFAが上皮細胞の増殖に影響しないことを示している。
【図4】図4は上皮細胞のエオタキシン(ケモカインの一種)の産生の阻害を示す。この図はNFAがケモカイン産生などの上皮細胞の活性化を阻止することを示している。
【図5】図5はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に比べてNFAの気道内投与(Af + NFA)が抗原誘起気道過敏性の抑止に有効であることを示す。この図は気道過敏性その他の上皮細胞の抗原応答がNFAにより阻止されることを示している。
【図6】図6はNFAの気道内投与の結果を示す。この図はNFAがインビボにおいて肺の抗原誘起好酸球増多症を軽減することを示している。このことはNFAの存在下におけるAspergillusによる活性化後の好酸球増多(Af + NFA)と、NFAリン酸緩衝生理食塩水の非存在下における活性化後の好酸球増多(Af + PBS)とを比較すれば明らかである。
【図7】図7は抗原誘起による粘液(ムチン複合糖質)の増加に対するNFA(Af + NFA)とリン酸緩衝生理食塩水(PBS)の投与効果を比較したものである。この図は曝露されたマウスの肺においてNFAが抗原によるムチン発現の増加を阻止することを示している。
【図8】図8はIL9遺伝子導入マウスが対照であるFVBマウスと異なり、気道において構成的にムチンを過剰産生することを示す。
【図9】図9はIL9遺伝子導入マウスの肺におけるムチンの構成的過剰産生が、バックグラウンド系統(FVB/NJ)と異なり、MUC2およびMUC5ACの定常転写産物の特異的アップレギュレートに関係していることを示す。
【図10】図10は抗原に曝露されたマウスの肺におけるムチンの過剰産生に対する抗IL9抗体の効果を示す。この図はIL9抗体の中和によって抗原曝露マウスにおけるムチンの過剰産生が防止されることを示している。
【図11】図11はムチンの産生を抑止する化合物の一般式Iを示す。ここに X1〜X9はC, S, O, Nからなる群からそれぞれ独立に選択され、 R1〜R11は水素、アルキル、アリール、トリフルオロメチル、置換アルキル、置換アリール、ハロゲン、ハロゲン置換アルキル、ハロゲン置換アリール、シクロアルキル、ヒドロキシル、アルキルエーテル、アリールエーテル、アミン、アルキルアミン、アリールアミン、アルキルエステル、アリールエステル、アルキルスルホンアミド、アリールスルホンアミド、チオール、アルキルチオエーテル、アリールチオエーテル、アルキルスルホン、アリールスルホン、アルキルスルホキシド、アリールスルホキシド、スルホンアミドからなる群からそれぞれ独立に選択され、 R1およびR2またはR2およびR3またはR3およびR4またはR4およびR5またはR6およびR7またはR7およびR8またはR8およびR9は、それらが結合している原子と共にシクロアルキル環、アリール環またはヘテロアリール環を形成し、 YはC(O)R(Rはアリール、リン酸、スチリル、3H-イソベンゾフラン-1-オン-3-オキシル、3H-イソベンゾフラン-1-オン-3-イルからなる群から選択された置換基)、水素、カルボン酸、アルキルカルボン酸、硫酸、スルホン酸、リン酸、ホスホン酸、カルボン酸アミド、カルボン酸エステル、リン酸アミド、リン酸エステル、スルホン酸アミド、スルホン酸エステル、ホスホン酸アミド、ホスホン酸エステル、スルホンアミド、ホスホンアミド、テトラゾール、ヒドロキサミン酸からなる群から選択された置換基であり、 R11とYとは環式スルホンアミドを形成してもよく、 ZはO, N, S, C, スルホキシド、スルホンからなる群から選択され、S, スルホキシド、または、スルホンであるときはR10およびR11は存在せず、NであるときはR10のみが存在するものとし、 mは0または1であり、 nは1または2であり、 前記式Iの化合物は被験者におけるムチン合成量またはムチン濃度を低減する。
【図12】図12はNCI-H292細胞においてhCLCA1により誘導されるムチンの発現を示す。
【図13】図13はhCLCA1の過剰発現したNCI-H292細胞における粘液の過剰産生を示す。
【図14】図14はタルニフルマートによるムチン産生の阻害を示す。
【図15】図15AおよびBはタニフルマートの経口投与によるマウスのムチンの過剰産生の阻害を示す。図15AはAspergillus fumigansに対して感作された上で通常の飼料を与えられたマウスの肺の断面(H&E染色)を示し、図15BはAspergillus fumigansに対して感作された上でタニフルマート含有飼料を与えられたマウスの肺の断面(H&E染色)を示す。
【図16】図16はタニフルマートの経口投与によるマウスの肺好酸球増多症の阻害を示す。この図はAHR373: Aspergillus fumigatusで感作されたB6D2F1/J雄マウスのBALに対するタルニフルマート含有飼料の効果を示している。
【図17】図17はニメスリドによるMUC5A/C分泌の阻害を示す。
【図18】図18はMSI-2079によるMUC5A/C分泌の阻害を示す。
【図19】図19はMSI-2079の構造を示す。
【図20】図20はCFマウスへのタルニフルマートの影響を示す。
【図21】図21はMSI 2214〜2217の構造を示す。
【図22】図22はリポタイコ酸依存性のMUC2誘導に対するタルニフルマートの影響を示す。
【図23】図23はhICACC-1を発現した細胞における電圧と塩素イオン電流との関係を示すグラフである。
【図24】図24はタルニフルマートの2つの対掌体を初めて同定したクロマトグラムである。
【図25】図25はタルニフルマートの対掌体を示す。
【図26】図26はMU5ACに関してELLAに対するタルニフルマート対掌体の効果を示す。
【図27】図27はAlamar Blueアッセイにおけるタルニフルマート対掌体の効果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対掌体として純粋な、あるいは光学異性的に富化した(+)-タルニフルマートおよび(-)-タルニフルマート、それらのプロドラッグ、薬学的に適切な前記化合物およびプロドラッグの塩からなる群から選択された化合物。
【請求項2】
前記化合物が(+)-タルニフルマートである、請求項1の化合物。
【請求項3】
前記化合物が(-)-タルニフルマートである、請求項1の化合物。
【請求項4】
有効な量の請求項1の薬学的化合物を含む組成物を投与することを含む、ムチンの合成または分泌に関連する病的状態にある治療対象の治療方法。
【請求項5】
前記ムチン産生が塩素チャネル依存性である、請求項4の方法。
【請求項6】
前記塩素チャネルがCLCA塩素チャネルである、請求項5の方法。
【請求項7】
前記組成物を吸入により投与する、請求項4の方法。
【請求項8】
前記組成物が液体の形態である、請求項7の方法。
【請求項9】
前記組成物が粉末である、請求項7の方法。
【請求項10】
前記液体がエーロゾル化される、請求項8の方法。
【請求項11】
前記組成物が更に少なくとも1種の治療用薬物を含む、請求項4の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1種の治療用薬物が、去痰剤、粘液分解剤、抗生物質、充血除去剤からなる群から選択される、請求項11の方法。
【請求項13】
前記去痰剤がグアニフェネシンである、請求項12の方法。
【請求項14】
前記組成物が更に、界面活性剤、安定剤、吸収促進剤、芳香剤、薬学的に適切なキャリアからなる群から選択された賦形剤を少なくとも1種含む、請求項4の方法。
【請求項15】
前記安定剤がシクロデキストランである、請求項14の方法。
【請求項16】
前記吸収促進剤がキトサンである、請求項14の方法。
【請求項17】
前記病的状態が、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、炎症性肺疾患、嚢胞性線維症、感染症からなる群から選択される、請求項1の方法。
【請求項18】
前記COPDが、肺気腫、慢性気管支炎、喘息からなる群から選択される、請求項17の方法。
【請求項19】
ムチンの合成または分泌を減少させるに有効な量の、請求項1の化合物、その塩、その誘導体、およびそのプロドラッグを含む、肺への吸入送達用に調剤された薬学的組成物。
【請求項20】
前記組成物が(+)-タルニフルマート、(+)-タルニフルマート誘導体、その塩、またはそのプロドラッグを含む、請求項19の組成物。
【請求項21】
前記組成物が(-)-タルニフルマート、(-)-タルニフルマート誘導体、その塩、またはそのプロドラッグを含む、請求項19の組成物。
【請求項22】
前記組成物が更に少なくとも1種の去痰剤、粘液分解剤、抗生物質または充血除去剤を含む、請求項19の組成物。
【請求項23】
請求項19の薬学的組成物を含む吸入装置。
【請求項24】
前記組成物がバイオアベイラビリティを増加させるように配合されている、請求項4の方法。
【請求項25】
前記組成物が微粉化されている、請求項24の方法。
【請求項26】
有効な量の、請求項1の化合物を含む薬学的組成物を投与することを含む、慢性副鼻腔炎を有する治療対象の治療方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公表番号】特表2007−524618(P2007−524618A)
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−517502(P2006−517502)
【出願日】平成16年6月21日(2004.6.21)
【国際出願番号】PCT/US2004/019854
【国際公開番号】WO2004/113286
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【出願人】(501097189)ジェネーラ・コーポレーション (9)
【Fターム(参考)】