説明

メイクアップ方法

【課題】しわや毛穴等の皮膚の表面の凹凸を簡便な手段で目立たなくすることができるメイクアップ方法を提供すること。
【解決手段】本発明のメイクアップ方法は、多数の空孔11を含み、自己粘着性を有し、皮膚と一体感のある色に着色された皮膚被覆用弾性皮膜10でヒトの皮膚を覆う操作を含む。皮膚の表面の凹凸のある部位を弾性皮膜10で覆い、該部位が収縮したときに、弾性皮膜10を該部位の収縮に追従させて収縮させるとともに、収縮による弾性皮膜10の面方向の収縮に起因する膜厚の増加を、空孔11の体積の減少で吸収することを利用して抑制するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚の表面の凹凸を目立たなくするためのメイクアップ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
しわや毛穴などの皮膚の表面の凹凸を目立たなくするための化粧料が種々提案されている。例えば特許文献1には、高重合度メチルポリシロキサンと揮発性油剤と半透明粉体を含有するしわ隠し用の乳化化粧料が記載されている。この化粧料においては、半透明粉体がしわの溝に充填され、それによってしわを目立たなくさせている。高重合度メチルポリシロキサンは、しわの溝に充填された半透明粉体を、汗や皮脂の影響を受けずに皮膚に固着させるために用いられている。しかし、顔面の表情変化(笑ったり、顔をしかめたりすること)に伴って皮膚が収縮すると、それに起因してしわの溝の体積排除が生じ、それによってしわの溝から粉体が押し出されてしまう。その結果、しわの溝に充填されている粉体が減少し、しわが目立ってくる。
【0003】
この技術とは別に本出願人は、粉体、皮膜形成剤及び揮発性溶剤を含む化粧料を提案した(特許文献2及び3参照)。また、膨潤型吸油性ポリマー粒子及びバインダーを含有する凹凸部隠し用化粧料も提案した(特許文献4参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2000−7551号公報
【特許文献2】特開2002−179530号公報
【特許文献3】特開2004−18462号公報
【特許文献4】特開2004−210655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献2〜4に開示された化粧料においては、粉体がしわの溝に充填された状態で、該粉体が皮膜形成剤やバインダーによって形成された皮膜中に分散している。皮膜が形成された状態においては、図3(a)に示すように、皮膚200の表面のしわが皮膜100で覆われて目立たなくなる。
【0006】
しかしながら、この技術をもってしても、例えば笑ったり話したりすることによって皮膚200が収縮すると(つまりしわが寄ると)、皮膜100が硬い場合には、皮膜100は皮膚200の収縮に追従しにくいので、図3(b)に示すように、皮膚200の収縮に対する抵抗となり皮膚200の表面が褶曲し、それに起因して皮膚200の表面の凹凸が目立ってしまうという問題が生じた。逆に皮膜100が軟らかい場合には、皮膚200の収縮に追従した皮膜100が行き場を失い、図3(c)に示すように、皮膜100の一部が外方へ突出して形成されるよれが生じてしまう。このように、皮膜が硬いか軟らかいかを問わず、しわが寄った場合の体積変化を吸収することは容易でないことがわかった。したがって本発明の目的は、従来の方法よりもしわを一層目立たなくするためのメイクアップ方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、多数の空孔を含み、自己粘着性を有し、皮膚と一体感のある色に着色された皮膚被覆用弾性皮膜でヒトの皮膚を覆う操作を含むメイクアップ方法を提供するものである。
【0008】
また本発明は、多数の空孔を含む皮膚被覆用メイクアップ弾性皮膜であって、該空孔は縦長形状を有し、その長手方向が該弾性皮膜の概ね厚み方向に向いている皮膚被覆用メイクアップ弾性皮膜を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、しわや毛穴等の皮膚の表面の凹凸を簡便な手段で目立たなくすることができる。特にしわが目立ちやすい状態である、しわが寄った状態においても、しわが目立ちにくくなる。
【0010】
なお、化粧料に関する技術とは全く異なるが、仮装の目的で顔に塗料を塗ることに代えて、着色された図案等の装飾手段が施された、弾性のポリマー性発泡体からなる顔面マスクセグメントを顔に貼り付けることが知られている(特表2001−515545号公報参照)。このセグメントにおいては、顔に貼り付ける側の面に感圧接着剤層が設けられており、この接着剤層によってセグメントが顔に貼り付けられる。このセグメントはメイクアップに用いられるものではなく、ましてや皮膚の凹凸を目立たなくすることを目的として用いられるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1(a)及び(b)には、しわのある部位を本発明に係る弾性皮膜で覆ったときの該弾性皮膜の状態を示す模式図である。
【図2】図2(a)及び(b)は、本発明に係る弾性皮膜の使用方法を示す説明図である。
【図3】図3(a)ないし(c)は、従来のしわ隠し用の化粧料を用いた場合の皮膚の表面状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明のメイクアップ方法においては、皮膚被覆用弾性皮膜(以下、単に「弾性皮膜」とも言う)でヒトの皮膚を覆う操作を行う。対象となる身体の部位に特に制限はない。典型的には顔が対象となるが、これに限られず、首、腕、指、脚を弾性皮膜で覆ってもよい。弾性皮膜は一般的には使い切りのものであるが、その特性が損なわれない限り、洗浄して繰り返し使用しても差し支えない。弾性皮膜は一日のうちの特定の時間に用いてもよく、あるいは終日用いてもよい。就寝中に用いることも妨げられない。
【0013】
弾性皮膜は一般に小片の形状のものであり、身体の一カ所又は二カ所以上の部位を覆うのに用いられる。弾性皮膜の大きさは、それが用いられる身体の部位に応じて適切に設定される。弾性皮膜を例えば顔に用いる場合には、その面積を0.25〜80cm2程度に設定することが有利である。弾性皮膜の形状に特に制限はなく、それが用いられる身体の部位に応じて適切な形状となすことができる。例えば弾性皮膜を円形、楕円形、長円形、多角形等とすることができる。また意匠性を高める目的で、輪郭が特定のデザインとなるような形状にしてもよい。
【0014】
弾性皮膜は薄手の膜状のものである。その厚みは最も厚い部位において一般に0.1〜5mm、好ましくは0.2〜3mm、更に好ましくは0.5〜2mm程度である。弾性皮膜の厚みはその全域において同じになっていてもよく、あるいはしわを目立たなくしたい部位に応じて厚みを調整してもよい。弾性皮膜の厚みを、その周縁に近づくほど薄くすることも可能であり、それによって弾性皮膜を貼付していない部分との境目を目立たなくすることができる。
【0015】
弾性皮膜の各面は概ね滑らかで平坦であるが、微細な凹凸を持たせることも可能である。各面の表面粗さは同じでもよく、あるいは異なっていてもよい。各面で表面粗さが異なる場合、外面よりも内面(皮膚当接面)の表面粗さを大きくして(粗くして)、アンカー効果による該内面と皮膚との密着力を高めてもよい。
【0016】
表側、すなわち皮膚当接面と反対側の面は適度な凹凸を有することが、てからずに自然に見える点、及び、更に上からファンデーションを塗布する際に自然に見える点で好ましい。弾性皮膜表面の凹凸は、空孔を発生させるために皮膜剤の溶液に気泡を入れて乾燥する工程を経て得られるので、自然に発生するものであるが、例えば球状粒子等を含有させることで、その程度を制御することができる。凹凸の程度に特に制限はないが、JIS B 0601−2001に従い測定された算術平均粗さRa値で表して好ましくは0.1〜500μm、更に好ましくは10〜100μm、一層好ましくは5〜50μmである。
【0017】
弾性皮膜は多数の空孔を含んでいる。この空孔は微小なものである。弾性皮膜が用いられる身体の具体的な部位や弾性皮膜の製造方法に応じて空孔の大きさは任意に調整可能である。弾性皮膜を例えば顔に用いる場合には、空孔の平均体積は0.001〜10mm3程度であることが好ましい。空孔は、皮膚の収縮に追従して弾性皮膜の面方向の収縮に起因する膜厚の増加を吸収する緩衝領域として作用する。また、空孔を形成することで、弾性皮膜の見かけ密度を低下させることができる。このことは、弾性皮膜の軽量化に寄与する。また、空孔の存在は皮膜の弾性率を低下させることで皮膚への追従性を増し、剥がれを防ぐとともに、違和感を低減し、長時間の装着を可能とする。これらの観点から、弾性皮膜に占める空孔の体積の総和の割合(以下、この割合を「空孔率」と言う。)を好ましくは10〜95%、更に好ましくは20〜80%とし、一層好ましくは30〜70%とする。
【0018】
上述の空孔率は次のように、皮膜のみかけ密度と皮膜剤の真の密度を比較する方法で測定される。平板上に気泡を含有させた弾性皮膜を形成させ、この皮膜の中央部を正方形の試験片として切り出す。この試験片の縦、横、高さの各寸法を測定し、更にこの試験片の重量を測定する。各寸法と重量から試験片の密度を算出する。同様に、真空脱気などの方法によって気泡を除去した同組成の弾性皮膜を調製し、同様の測定をして密度を算出する。空孔率は以下の式で算出する。
空孔率(%)=100×〔1−(気泡含有弾性皮膜の密度/気泡未含有弾性皮膜の密度)〕
【0019】
空孔は個々に独立したクローズドセルでもよく、あるいは隣り合う空孔どうしが連通したオープンセルでもよく、クローズドセルとオープンセルの混合したものであってもよい。空孔をクローズドセルとした場合には、弾性皮膜の光散乱性が高くなり、皮膚のぼかし効果が顕著なものとなる。その結果、皮膚のしみ等が外部から視認されづらくなる。また、保温効果も期待できる。一方、空孔をオープンセルとした場合には、弾性皮膜に通気性が付与されるので、弾性皮膜の使用中における皮膚の蒸れが効果的に防止される。
【0020】
弾性皮膜は自己粘着性を有している。本明細書に言う自己粘着性とは、他の手段、例えば接着剤等を用いることなく、それ自身で皮膚に付着し、かつその付着状態を維持することが可能な性質を意味する。弾性皮膜が自己粘着性を有することで、特別な手段を施すことなく弾性皮膜を皮膚に簡便に付着させることが可能となる。弾性皮膜の自己粘着性は、それを構成する材料の種類を適切に選択することによって発現させることができる。そのような材料の詳細については後述する。なお、本発明の方法は補助的に粘着剤を使用することを妨げない。
【0021】
好ましい自己粘着力は、以下の試験によるとき、3〜100gf、より好ましくは3.5〜50gf、更に好ましくは4〜25gfである。自己粘着力がこの範囲にあると、粘着剤を用いずとも貼り付けることができ、自由な表情の変化を妨げることなく、皮膚に追随し、しわ等の皮膚の凹凸を隠蔽することができる。
【0022】
〔粘着力測定方法〕
ウレタンエラストマーシート(新石株式会社製)を貼り付けた直径5mmの半球状端子を200gfの荷重で10秒間弾性皮膜に押し当てた後、600mm/sの速度で引き上げるときに検出される荷重の最大値を読み取る。測定は3回行い、その平均値で示す。平板にキャストして調製したシートはその裏表で自己粘着力の値が異なる場合があるが、そのような場合は、粘着力の高い方の値を採用する。測定にはRHESCA社製タッキネステスターTackII、株式会社レオテック社製FUDOHレオメーターRT−2010J−CW、テンシロン等のメカニカル試験機が用いられる。測定は25℃で行う。
【0023】
弾性皮膜は、文字通り弾性を有している。ここで言う弾性とは、弾性皮膜が主として伸縮性を有することを意味している。弾性皮膜は、主としてその平面方向に伸縮性を有している。この場合、平面方向のうちの少なくとも一方向に伸縮性を有している必要があり、好ましくは一方向とそれに直交する方向の二方向に伸縮性を有しており、更に好ましくは平面内のすべての方向に伸縮性を有している。弾性皮膜がその平面方向に伸縮性を有することで、弾性皮膜でしわを覆った場合に、皮膚の伸びに追従して弾性皮膜が伸長するので、弾性皮膜が皮膚から剥離することを防止しつつ、皮膚につっぱり感を与えることが効果的に防止される。皮膜に弾性を付与する方法は当業者に周知であり、例えばガラス転移温度の低いポリマーを架橋することで得られる。特に、本発明の弾性皮膜は、多数の空孔を有しているので、同じ材質でかつ空孔を有していない弾性皮膜に比べて伸縮特性が良好になる。つまり本発明の弾性皮膜は、弱い力で伸長し、かつ力を解放すると元の状態近くまで復元する平面方向の伸縮特性を有している。このような平面方向の伸縮性は、気泡を含有した弾性皮膜の圧縮変形率と、それと同じ素材からなる気泡を含有しない弾性皮膜の圧縮変形率との比率で表すことができる。すなわち、気泡を含有した弾性皮膜の圧縮変形率は、それと同じ素材からなる気泡を含有しない弾性皮膜の圧縮変形率の1.5倍以上であることが好ましい。また、その絶対値は好ましくは0.07〜0.50であり、更に好ましくは0.13〜0.35の範囲である。
【0024】
前記の伸縮性及び圧縮変形率は、次の方法で測定される。一定の大きさに調製した試料を、Anton Paar Physica社製の動的粘弾性測定装置・MCR-301を用いて圧縮変形させたときの負荷圧力に対する変位量を測定する。負荷圧力(ノーマルフォース)が5Nのときの、元の厚さに対する変位量を圧縮変形率(%)とする。
圧縮変形率(%)=100×(5N負荷時の変位量/無負荷時の試料厚さ)
伸縮性=(気泡を含有する弾性皮膜の圧縮変形率/気泡を含有しない弾性皮膜の圧縮変形率)
なお、動的粘弾性測定装置・MCR−301の測定条件は以下のとおりである。
測定治具:25φmmパラレルプレート
加圧速度:0.01mm/s
試料寸法:50φmm×4.5mm
【0025】
弾性皮膜がその厚み方向に伸縮性を有することは必須ではないが、厚み方向に伸縮性を有することは何ら妨げられない。尤も、弾性皮膜は上述のとおり薄手のものなので、その厚み方向に伸縮性を有していたとしても、その効果は実感しづらい。
【0026】
図1(a)及び(b)には、しわのある部位を弾性皮膜10で覆ったときの該弾性皮膜10の状態が模式的に示されている。同図においてしわ20は、深い溝で表されている。まず図1(a)に示すように、しわ20のある部位を弾性皮膜10で覆う。弾性皮膜10は上述のとおりその平面方向に伸縮性を有するものであるが、しわを覆うときには、特にこれを伸長状態とはせず、自然状態(弛緩状態)で用いる。弾性皮膜10でしわを覆うことで、弾性皮膜10の有する自己粘着性によって弾性皮膜10が皮膚に密着してしわが隠蔽される。しかも弾性皮膜10は薄手のものであり、かつその表面10aは適度な凹凸を有するので、弾性皮膜10と、該弾性皮膜10で覆った部位の周囲の皮膚とに一体感があり、外観の印象が非常に良好になる。
【0027】
図1(a)に示す状態から図1(b)に示すしわが寄った状態へ変化した場合には、弾性皮膜10はその自己粘着性に起因して皮膚の収縮に追従し、収縮する。この場合、弾性皮膜10の面方向への収縮に起因する膜厚の増加は、弾性皮膜10中の空孔11が縮小することで吸収される。その結果、弾性皮膜10が収縮しても、その厚みに大きな増加は生じない。したがって、しわが寄ってしわが深く形成されても、弾性皮膜10はしわの位置から剥離することなくしわを覆った状態を維持しているので、依然としてしわは目立たない状態にある。このように、本実施形態においては、しわのある部位が収縮したときに、弾性皮膜10を該部位の収縮に追従させて収縮させるとともに、収縮による弾性皮膜10の面方向の収縮に起因する膜厚の増大を、空孔11の体積の減少で吸収するようにしている。
【0028】
弾性皮膜10の収縮時における厚みの増加を一層抑制する観点から、弾性皮膜10に形成されている空孔11は縦長形状を有し、その長手方向が弾性皮膜10の概ね厚み方向に向いていることが好適である。このような形状の空孔11を有する弾性皮膜10の好適な製造方法については後述する。
【0029】
弾性皮膜10は、皮膚と一体感のある色に着色されている。これによって、弾性皮膜10で皮膚を覆った場合に、弾性皮膜10と肌との境界が目立たなくなり、自然な仕上がりが得られる。弾性皮膜10に施されている着色は、自然光の照射下で皮膚と一体感のあることが好ましく、これに加えて白熱灯、蛍光灯等の人工照明、更には写真撮影時のストロボ光の照射下でも皮膚と一体感のあることが更に好ましい。弾性皮膜10の着色は、弾性皮膜10の製膜時に、適切な顔料や染料を原料に添加することで行われる。あるいは製膜後の弾性皮膜10の表面に適切な塗料を塗布することで行われる。弾性皮膜10は空孔を有するので、適度な光拡散性を生じる。そのため、過度な着色を施さなくてもしわ等の凹凸を隠蔽し、より自然な外観を呈することができる。
【0030】
弾性皮膜10は、例えば図2(a)に示すように、眉間のしわのある部位に貼付して該部位を覆うために用いられる。弾性皮膜10を貼付した後の眉間は、図2(b)に示すように、しわが目立たなくなる。しかも、弾性皮膜10は皮膚と一体感のある色に着色されているので、弾性皮膜10と皮膚との境界において、弾性皮膜10から皮膚への色の移り変わりが自然な感じになる。弾性皮膜10の貼付部位は、眉間に限られず、その他の部位、例えば目尻や鼻唇溝(ほうれい線)の部位に弾性皮膜10を貼付することができる。
【0031】
弾性皮膜10は、ファンデーション等を施す前の素肌に貼付してもよく、あるいはファンデーション等を施した後の肌に貼付してもよい。前者の場合には、貼付された弾性皮膜10の上にファンデーション等を施してもよい。これによって、弾性皮膜10と皮膚との一体感が一層高くなる。特に、化粧品用油剤成分の含有量が少ない(例えば50質量%以下)ファンデーションを弾性皮膜10の上に塗布する場合にも、高い効果を得ることができる。したがって弾性皮膜10は、これを皮膚に貼付した後、化粧品用油剤成分が50質量%以下の量で含有するファンデーションを重ねて塗布するメイクアップ方法に好適に用いることができる。
【0032】
図2(a)及び(b)に示す説明では、予め形成された弾性皮膜10を用い、これを皮膚に貼付したが、これに代えて、皮膚上に弾性皮膜を直接形成することで皮膚を覆ってもよい。例えば皮膜形成可能な材料を含む液状組成物に多数の気泡を含有させた状態で、これを皮膚に施して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥させることで弾性皮膜を形成することができる。この場合には、図2(a)及び(b)に示す場合に比較して、しわの溝の深い部分に弾性皮膜が到達するので、アンカー効果が一層顕著となり、弾性皮膜が皮膚から一層剥離しづらくなる。
【0033】
皮膚を覆う前に予め弾性皮膜を形成するか、あるいは皮膚上で弾性皮膜を形成するかにかかわらず、弾性皮膜の形成のために、皮膜形成可能なエラストマー材料と、該エラストマー材料の溶解が可能な揮発性溶媒とを含む液状組成物を用いることが好ましい。この組成物に多数の気泡を含有させた状態で、これを平滑な硬質表面に展延(キャスト)するか(図2(a)及び(b)に示す場合。)、又はこれを皮膚に施すことで塗膜を形成し、該塗膜を乾燥させることで弾性皮膜を得ることができる。
【0034】
前記の液状組成物に気泡を含有させるためには、従来公知の気泡生成手段を特に制限なく用いることができる。例えば、液状組成物を展延又は皮膚に塗布する直前に該液状組成物を振り混ぜて泡立てることができる。あるいはホイップクリームのように、液状組成物をその調製時に泡立てておき、その状態を維持してもよい。液状組成物の泡立てには、汎用の泡立て機、ペンシルミキサー、ディスパー、ホモジナイザー等の通常の攪拌機が用いられる。更にエアロゾルを利用して、液状組成物を起泡させて展延又は皮膚に塗布してもよい。また、ポンプ式フォーマーや泡トリガー等の起泡装置を用いて、液状組成物を起泡させて展延又は皮膚に塗布してもよい。化学反応の利用、例えば酸と炭酸水素ナトリウムとの中和反応で生じる二酸化炭素を利用して、液状組成物をその使用の直前に起泡させてもよい。
【0035】
液状組成物の展延に用いる硬質表面に特に制限はなく、溶剤で溶解したり膨潤したりしない点、及び生成した皮膜の剥離の容易さの点から適切なものが選ばれる。好ましい硬質表面の具体例としては、ポリテトラフルオロエチレン、OPP(延伸ポリプロピレン)等のフィルム、あるいは、パーフルオロアルキル基や長鎖アルキル基で表面処理されたガラスやプラスチック板等が用いられる。
【0036】
特に、空孔を縦長形状となし、かつその長手方向を弾性皮膜の概ね厚み方向に向けるためには、気泡を含有させた前記液状組成物を700〜3000mPa・s程度の低粘度溶液とし、概ね水平状態にある平面に展延することで弾性皮膜を調製すればよい。
【0037】
液状組成物に含有される皮膜形成可能なエラストマー材料としては、ゴム弾性を有する高分子材料、特にシリコーン系高分子材料を用いることが好適である。シリコーン系高分子材料には、大別すると、架橋点が物理的な相互作用によって生じる物理架橋体、共有結合で結ばれた化学架橋体の2種が存在する。これらのうち、後述する化粧品用溶媒を用いて展延されることで弾性皮膜を与えることが可能な高分子材料である物理架橋体を用いることが好適である。この理由は、物理架橋体は、化粧品用溶媒に可溶なので、物理架橋体を化粧品用溶媒に溶解又は分散させてなる液状組成物から形成される弾性皮膜は、むらのない持続性のある皮膜となるからである。
【0038】
物理架橋型のゴム弾性を有するシリコーン系高分子材料としては、ポリ(N−アシルアルキレンイミン)変性シリコーン、糖変性シリコーン(特開昭63−139106号公報)、ポリグリセリン変性シリコーン(特開2004−339244号公報)、ポリアミノ酸変性シリコーン(特開2002−145724号公報)、シリコーングラフトアクリレートポリマー(特開平4−342513号公報)、シリコーンPEGブロックポリマー(特開平4−234307公報)などが例示される。これらのうち、ポリ(N−アシルアルキレンイミン)変性シリコーンを用いることが、化粧品用溶媒への溶解性や、得られた弾性皮膜の伸縮性・皮膚追従性の点で好ましい。
【0039】
上述のポリ(N−アシルアルキレンイミン)変性シリコーンとしては、例えば、分子内に式(1a)で表される繰り返し単位からなるポリ(N−アシルアルキレンイミン)のセグメントと、式(1b)で表されるオルガノポリシロキサンのセグメントとを有し、オルガノポリシロキサンのセグメントの末端又は側鎖のケイ素原子の少なくとも1個にヘテロ原子を含むアルキレン基を介して、式(1a)で表される繰り返し単位からなるポリ(N−アシルアルキレンイミン)のセグメントが結合してなるものが好ましい。
【0040】
【化1】

【0041】
【化2】

【0042】
前記のオルガノポリシロキサンのセグメントの末端又は側鎖のケイ素原子の少なくとも1個に存在するヘテロ原子を含むアルキレン基としては、窒素原子、酸素原子又はイオウ原子を1〜3個含む炭素数2〜20のアルキレン基が挙げられる。特に窒素原子を含む炭素数2〜5のアルキレン基が好ましい。そのようなアルキレン基の好適な例としては、3−アミノプロピル基、3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピル基、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピル基等が挙げられる。
【0043】
前記のポリ(N−アシルアルキレンイミン)セグメントにおける好ましいR1としては、水素原子、メチル基、エチル基が挙げられる。この分子鎖は単独重合体鎖でも共重合体鎖でもよい。共重合体鎖である場合には、ランダム共重合体鎖でもブロック共重合体鎖でもよい。なかんずくエチル基であることが親疎水性バランス、溶解性、力学物性等の点で好ましい。好ましいnの値は2〜3、なかんずく2である。ポリ(N−アシルアルキレンイミン)セグメントの数平均重合度は2〜1,000、特に3〜300、とりわけ5〜100が好ましい。
【0044】
前記のポリオルガノシロキサンの重量平均重合度は5〜10,000、特に20〜5,000、とりわけ100〜2,000であることが好ましい。ポリ(N−アシルアルキレンイミン)のセグメントと、オルガノポリシロキサンのセグメントとの質量比は、好ましくは1/50〜20/1、より好ましくは1/40〜5/1である。ポリ(N−アシルアルキレンイミン)変性シリコーンの全体の重量平均分子量は、好ましくは500〜500,000、より好ましくは1,000〜300,000である。この範囲にすることで皮膜強度、塗布性、皮膚の伸縮に対する追随性、持続性に優れた弾性皮膜が得られる。ポリ(N−アシルアルキレンイミン)セグメントの割合が大きいほど、硬度が高くなる傾向がある。ポリ(N−アシルアルキレンイミン)セグメント及びオルガノポリシロキサンセグメントの分子量が高いほど強靭な皮膜を形成する。全体の分子量が高いほど増粘作用が高まり、気泡の形成、皮膜の成形性に優れる。
【0045】
ポリ(N−アシルアルキレンイミン)変性シリコーンは本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、その他の変性基で変性されていてもよい。その他の変性基としては、例えば水素原子、炭素数7〜22のアルキル基、アミノアルキル基、ヒドロキシアルキル基、ポリオキシアルキレン基、パーフルオロアルキル基等が挙げられる。
【0046】
好ましいポリ(N−アシルアルキレンイミン)変性シリコーンの具体的な例としては、ポリ(N−ホルミルエチレンイミン)変性シリコーン、ポリ(N−アセチルエチレンイミン)変性シリコーン、ポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)変性シリコーン等が挙げられる。なかでも、式(2)で表される、重量平均分子量が約20,000〜200,000で、分子中のポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)セグメントの割合が約3〜50質量%のポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)変性シリコーン(INCI名:ポリシリコーン−9;エラストマーOS(花王株式会社の商品名))が好ましい。
【0047】
【化3】

【0048】
式(2)中、対イオンXはポリ(N−アシルアルキレンイミン)合成時の開始剤残基として導入されるものである。具体的にはエトサルフェート、メトサルフェート、パラトルエンスルホネート、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等が挙げられる。Xは分子内の別のアミノ基との間でマイグレートし得る。処方のpHが高い場合には外れ、又は処方中の他のイオンと交換し得る。
【0049】
前記のポリ(N−アシルアルキレンイミン)変性シリコーンは、公知の方法、例えば特開平7−133352号公報に記載の方法により製造することができる。
【0050】
上述した各種の皮膜形成可能なエラストマー材料を溶解し得る揮発性溶媒としては、水、エタノール、2−プロパノール等の低級アルコール、揮発性シリコーン、アセトン、エチルメチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、揮発性流動パラフィン等の炭化水素類、短鎖直鎖状のポリジメチルシロキサン、環状シロキサン等のシロキサン類、LPG(液化石油ガス)、ジメチルエーテル、フロン等の液化ガスなどが用いられる。なお液化ガス類は、エアロゾルを利用して液状組成物を起泡させる場合に、噴射剤としての機能を兼ねる。
【0051】
特に、液状組成物を皮膚に直接施して弾性皮膜を形成する場合には、揮発性溶媒として、化粧品用溶媒を用いることが好適である。そのような化粧品用溶媒としては、例えば水、エタノール、揮発性シリコーン若しくはLPG又はそれらの2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0052】
揮発性溶媒は1種以上を用いることができ、溶解性、乾燥速度、発泡性制御のために2種以上を任意の割合で併用しても良い。揮発性溶媒は、液状組成物中に40〜90質量%、特に50〜80質量%含有されることが、気泡を容易に含有させられる粘度の液状組成物が得られる点から好ましい。揮発性溶媒として液化ガス類を用いる場合には、これをエアロゾルの噴射剤として利用する観点から液状組成物中に2〜70質量%、特に5〜30質量%含有されることが好ましい。
【0053】
液状組成物における皮膜形成可能なエラストマー材料と揮発性溶媒との質量割合は、前者:後者=1:9〜4:6、特に2:8〜3:7であることが、ハンドリングしやすい適度な粘度の液状組成物が得られる点から好ましい。
【0054】
液状組成物には、更に粉体を含有させることができる。これによって、弾性皮膜は粉体を含有したものとなる。粉体としては、通常化粧料に用いられるものであれば特に制限されず、例えば顔料や感触改善パウダー等を使用することができる。具体的には、顔料として例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、赤酸化鉄、黄酸化鉄、黒酸化鉄、タール色素、雲母チタン等が挙げられる。感触改善パウダーとしては例えば、ナイロンパウダー、ウレタンパウダー、シリコーン樹脂、PMMA、架橋ポリスチレン等の球状ポリマー粒子;マイカ、セリサイト等の板状無機粒子;ラウロイルタウリンカルシウム、ラウロイルリジン等の板状有機結晶などが挙げられる。粉体は通常の役割に加えて、適度な凹凸と光拡散性を付与する点で重要である。これら光学制御パウダーとして好ましい粉体のサイズは、好ましくは1〜30μm、更に好ましくは2〜15μmである。これらの粉体は、通常の方法に従いシリコーン化合物、パーフルオロアルキルリン酸化合物、高級脂肪酸、ワックス類等の疎水性化合物によって表面処理して用いることが好ましい。粉体は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。粉体は、液状組成物中に、0.1〜20質量%、特に0.5〜5質量%含まれることが好ましい。
【0055】
液状組成物には、更にその他の不揮発性油を含有させることができる。これによって、弾性皮膜は不揮発性油を含有したものとなる。不揮発性油としては、通常の化粧料に用いられるものであれば特に制限されず、例えば高重合度シリコーン;ミリスチン酸イソプロピル、カプリン酸ネオペンチルグリコール等のエステル油;スクワラン、流動パラフィン等の炭化水素油;オリーブ油、ひまわり油等のグリセリドなどが挙げられる。
【0056】
弾性皮膜に、通常化粧料に用いられる成分、例えば、水溶性高分子、界面活性剤、酸化防止剤、香料、色素、防腐剤、紫外線吸収剤、保湿剤、清涼剤、皮脂抑制剤、皮脂吸収剤、皮脂ゲル化剤、美白剤等を含有させる目的で、これらを液状組成物に配合することができる。液状組成物が乳化系の剤形をとる場合、通常界面活性剤を用いる。好ましい界面活性剤としては、ソルビタンエステル類、ポリグリセリンエステル類、ポリエーテル変性シリコーン等の非イオン界面活性剤で、HLBが1〜6程度のものが挙げられる。
【0057】
本発明の空孔を有する弾性皮膜を与えるための液状組成物には、気泡を効果的に保持させる成分として、各種増粘剤を含有させることが望ましい。増粘剤としては、液状組成物の溶媒と親和性の高い成分と、架橋成分を有する高分子化合物が好適に用いられる。かかる増粘剤としては、シリコーン架橋ゲルが挙げられる。具体例としては、架橋シリコーンゴムを低分子のシリコーンで希釈したものである、信越シリコーン社製シリコーンゲル・KSGシリーズなどが挙げられる。増粘剤の使用量に特に制限はないが通常純分として好ましくは0.2〜15質量%、更に好ましくは2〜10質量%である。
【0058】
溶液状組成物の粘度は、液状組成物から弾性皮膜を調製するときの温度において、好ましくは200〜100,000mPa・s、更に好ましくは500〜80,000mPa・sである。この粘度は回転型粘度計によって測定される。
【0059】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記実施形態においては、弾性皮膜を皮膚の凹凸のある部位であるしわに適用したが、これに代えて又はこれに加えて、他の凹凸のある部位として毛穴等に弾性皮膜を適用することができる。あるいは、しみやあざのある部位等に弾性皮膜を適用してもよい。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0061】
実施例及び比較例の説明に先立ち、皮膜形成可能なエラストマー材料の合成について説明する。なお、以下の実施例において、オルガノポリシロキサンセグメントの含有率とは核磁気共鳴法(1H−NMR)から求めた値であり、また最終生成物の重量平均分子量は計算値である。ポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)より求めた数平均分子量である。GPCの測定条件は以下のとおりである。
【0062】
カラム :K−804L+K−804L
溶離液 :1mmol/Lジメチルドデシルアミン((花王(株)製ファーミンDM20)/クロロホルム
流量 :1.0mL/min
カラム温度 :40℃
検出器 :RI
サンプル量 :5mg/mL,100μL
ポリスチレン換算
【0063】
〔合成例1〕
皮膜形成可能なエラストマー材料を合成した。硫酸ジエチル3.2g(0.021モル)と2−エチル−2−オキサゾリン92.8g(0.98モル)を脱水した酢酸エチル205gに溶解し、窒素雰囲気下8時間加熱還流し、末端反応性ポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)を合成した。数平均分子量を、GPCにより測定したところ5200であった。ここに、側鎖一級アミノプロピル変性ポリジメチルシロキサン(重量平均分子量50000、アミン当量3800)100gの33%酢酸エチル溶液を一括して加え、10時間加熱還流した。反応混合物を減圧濃縮し、N−プロピオニルエチレンイミン−ジメチルシロキサン共重合体を淡黄色ゴム状半固体(188g、収率96%)として得た。最終生成物のオルガノポリシロキサンセグメントの含有率は51%、重量平均分子量は98000であった。溶媒としてメタノールを使用した塩酸による中和滴定の結果、原料アミノ変性シリコーンのアミノ基の約24%が残存していることが判った。
【0064】
〔合成例2〕
皮膜形成可能なエラストマー材料を合成した。合成例1と同様の方法により、硫酸ジエチル0.8g(0.005モル)と、2−エチル−2−オキサゾリン12.8g(0.14モル)と、脱水した酢酸エチル29gから、数平均分子量2700のポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)を得た。更に、側鎖一級アミノプロピル変性ポリジメチルシロキサン(重量平均分子量100000、アミン当量20000)100gを用いて、N−プロピオニルエチレンイミン−ジメチルシロキサン共重合体を淡黄色ゴム状固体(111g、収率98%)として得た。最終生成物のオルガノポリシロキサンセグメントの含有率は88%であり、重量平均分子量は114000であった。溶媒としてメタノールを使用した塩酸による中和滴定の結果、アミノ基は残存していないことが判った。
【0065】
〔合成例3〕
皮膜形成可能なエラストマー材料を合成した。合成例1と同様の方法により、硫酸ジエチル0.6g(0.004モル)と、2−エチル−2−オキサゾリン3.6g(0.04モル)と、脱水した酢酸エチル9gから、数平均分子量1200のポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)を得た。更に、側鎖一級アミノプロピル変性ポリジメチルシロキサン(重量平均分子量100000、アミン当量20000)100gを用いて、N−プロピオニルエチレンイミン−ジメチルシロキサン共重合体を淡黄色ゴム状固体(95g、収率95%)として得た。最終生成物のオルガノポリシロキサンセグメントの含有率は96%であり、重量平均分子量は104000であった。溶媒としてメタノールを使用した塩酸による中和滴定の結果、原料アミノ変性シリコーンの約30%のアミノ基が残存していることが判った。
【0066】
〔実施例1〕
以下の表1に示す処方にしたがって弾性皮膜シートを調製した。すなわち、以下の原料1、2及び3を量り取り、ペンシルミキサーを用いて十分に攪拌し、気泡を含ませた。得られた気泡含有液状組成物の粘度は、25℃において、994mPa・sであった。この液状組成物を、同温度においてポリテトラフルオロエチレンシートの平板上に所望の大きさにキャストし、乾燥させることにより気泡を含有した弾性皮膜シートを得た。得られた弾性皮膜シートは、その中央域の厚みが最も大きく、周縁に向かうにつれて徐々に薄くなるものであった。弾性皮膜シート中の気泡は、クローズドセルとオープンセルの混合したものであった。得られたシートは4.0gfの自己粘着力を示した。
【0067】
【表1】

【0068】
〔実施例2〕
実施例1で用いた皮膜形成可能なエラストマー材料に代えて、合成例3記載のN−プロピオニルエチレンイミン−ジメチルシロキサン共重合体のエタノール溶液(ポリマー濃度5%)を用いて気泡含有液状組成物を得た。得られた気泡含有液状組成物の粘度は、25℃において、8.0mPa・sであった。これ以外は、実施例1と同様にして気泡を含有した弾性皮膜シートを得た。得られたシートは18.7gfの自己粘着力を示した。
【0069】
〔実施例3〕
実施例1で用いた皮膜形成可能なエラストマー材料に代えて、合成例1記載のN−プロピオニルエチレンイミン−ジメチルシロキサン共重合体のエタノール溶液(ポリマー濃度30%)を用いた。このエラストマー材料70%と、実施例1で用いたシリコーンゲル28%及び着色剤2%を、汎用のパドル型攪拌機によって攪拌した。この混合溶液93gと液化石油ガス7gを、エアゾール容器(容量300ml)に充填した。得られたエアゾール剤をポリテトラフルオロエチレンシートの平板上に所望の大きさに噴射し、乾燥させることにより気泡を含有した弾性皮膜シートを得た。得られたシートは4.0gfの自己粘着力を示した。
【0070】
〔比較例1〕
実施例1と同様の原料を、同実施例と同じ量だけ量り取り、汎用のパドル型撹拌機を用いて泡立たないように攪拌混合した。得られた液状組成物をポリテトラフルオロエチレンシートの平板上に所望の大きさにキャストし、乾燥させることにより気泡を含有しない弾性皮膜シートを得た。得られたシートは5.4gfの自己粘着力を示した。
【0071】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた弾性皮膜について、上述の方法で空孔率、平面方向の伸縮性及び皮膚当接面と反対側の面の算術平均粗さRaを測定した。その結果を以下の表2に示す。また実施例及び比較例で得られた弾性皮膜について、最も厚い部位での厚みをマイクロメータによって測定し、またしわ隠し効果、皮膜感及び持続性を評価した。それらの結果も表2に示す。
【0072】
(1) しわ隠し効果
眉間に深いしわがある女性パネル(73歳)一名に実施例及び比較例で得られた弾性皮膜を、しわを覆うように貼付(実施例2の場合は気泡を含有させた液状組成物を塗布後、乾燥させて弾性皮膜を形成)した。10人の専門パネラーによって、女性モデルの眉間のしわの隠蔽効果を目視評価させ、以下の基準で示した。
◎:8人以上が隠れていると評価した。
○:6〜7人以上が隠れていると評価した。
△:4〜5人以上が隠れていると評価した。
×:3人以下が隠れていると評価した。
【0073】
(2)皮膜感:
10人の専門パネラーにより、弾性皮膜を目尻に貼付(実施例2の場合は気泡を含有させた液状組成物を塗布後、乾燥させて弾性皮膜を形成)した後の皮膜感を官能評価し、以下の基準で示した。
◎:8人以上が少ないと評価した。
○:6〜7人が少ないと評価した。
△:4〜5人が少ないと評価した。
×:3人以下が少ないと評価した。
【0074】
(3)持続性(モデル試験):
表面にポリウレタン層を形成させた肌色シリコーンゴムレプリカ((株)ビューラックス社製)を、しわに沿った軸を中心に屈曲するように設計された試験片に両面テープを用いて貼付した。このレプリカ表面のしわ部分に、10×30×1mmの弾性皮膜を、しわを隠蔽するように貼付(実施例2の場合は気泡を含有させた液状組成物をしわの溝を埋めるように塗布し、乾燥させて弾性皮膜を形成)し、1秒間に1回のスピードで20回屈曲させた(このときの屈曲角度は、しわレプリカ表面がしわに沿った軸を中心に56°となるように設計されている。)。持続性の評価は、20回屈曲後の弾性皮膜の貼付状態を10名の専門パネラーによって以下の評価基準で目視判定させた。10名の平均値を求め、以下の判定基準にしたがって指標化した。
【0075】
(評価基準)
0:明確な塗膜の剥がれを認める。
1:やや明確な塗膜の剥がれを認める。
2:やや塗膜が剥がれている。
3:わずかに塗膜が剥がれている。
4:ほとんど塗膜が剥がれていない。
5:塗膜が剥がれていない。
【0076】
【表2】

【0077】
表2に示す結果から明らかなように、各実施例で得られた弾性皮膜を皮膚に貼付することで、顕著なしわ隠し効果が奏されることが判る。また、皮膜感が低く、持続性が高いことが判る。なお、表には示していないが、各実施例で得られた弾性皮膜における空孔は縦長形状を有し、その長手方向が弾性皮膜の概ね厚み方向に向いていることが顕微鏡観察によって確認された。
【符号の説明】
【0078】
10 弾性皮膜
11 空孔
20 しわ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の空孔を含み、自己粘着性を有し、皮膚と一体感のある色に着色された皮膚被覆用弾性皮膜でヒトの皮膚を覆う操作を含むメイクアップ方法。
【請求項2】
皮膚の表面の凹凸のある部位を前記弾性皮膜で覆い、該部位が収縮したときに、該弾性皮膜を該部位の収縮に追従させて収縮させるとともに、該弾性皮膜の面方向の収縮に起因する厚みの増加を、前記空孔の体積の減少で吸収することを利用して抑制するようにした請求項1記載のメイクアップ方法。
【請求項3】
前記弾性皮膜をヒトの皮膚に貼付することで該皮膚を覆う請求項1又は2記載のメイクアップ方法。
【請求項4】
皮膜形成可能なエラストマー材料と、該エラストマー材料の溶解が可能な揮発性溶媒とを含む組成物に気泡を含有させた状態で、これを展延して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥させることで形成される前記弾性皮膜をヒトの皮膚に貼付することで該皮膚を覆う請求項3記載のメイクアップ方法。
【請求項5】
皮膜形成可能なエラストマー材料と、該エラストマー材料の溶解が可能な揮発性溶媒とを含む組成物に気泡を含有させた状態で、これをヒトの皮膚に施して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥させることで形成される前記弾性皮膜でヒトの皮膚を覆う請求項1又は2記載のメイクアップ方法。
【請求項6】
前記溶媒が化粧品用溶媒からなる請求項4又は5記載のメイクアップ方法。
【請求項7】
前記化粧品用溶媒が水、エタノール、揮発性流動パラフィン、揮発性シリコーン及びLPGからなる群から選ばれるいずれか1種又は2種以上である請求項6記載のメイクアップ方法。
【請求項8】
前記エラストマー材料が、前記化粧品用溶媒を用いて展延されることで弾性皮膜を与えることが可能な高分子材料からなる請求項4ないし7のいずれかに記載のメイクアップ方法。
【請求項9】
前記組成物が更に、粒径1〜30μmの粉体を含有する請求項4ないし8のいずれかに記載のメイクアップ方法。
【請求項10】
前記組成物が更に、シリコーン架橋ゲルを含有する請求項4ないし9のいずれかに記載のメイクアップ方法。
【請求項11】
多数の空孔を含む皮膚被覆用メイクアップ弾性皮膜であって、該空孔は縦長形状を有し、その長手方向が該弾性皮膜の概ね厚み方向に向いている皮膚被覆用メイクアップ弾性皮膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−136971(P2011−136971A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−299233(P2009−299233)
【出願日】平成21年12月29日(2009.12.29)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】