説明

メイラード反応阻害剤およびAGEs生成抑制剤

【課題】メイラード反応阻害剤およびAGEs生成抑制剤等の提供。
【解決手段】大豆を含む原料の発酵分解物より、メイラード反応阻害活性を有する水溶性高分子物質を得て、これを用いることにより、メイラード反応阻害剤およびAGEs生成抑制剤等を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆を含む原料の発酵分解物から得られる水溶性高分子物質を有効成分とするメイラード反応阻害剤に関する。さらに、AGEs(Advanced glycation endproducts、以下AGEsとする)生成抑制剤等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メイラード反応は、還元糖のカルボニル基とアミノ化合物のアミノ基が縮合するものであり、メイラード反応の他、アミノカルボニル反応、糖化反応、グリケーションなどとよばれている。
食品の調理・加工の過程でメイラード反応によって、色や香りの生成およびテクスチャーの変化がもたらされることから、食品の品質向上・品質劣化の双方に深く関与する反応とされてきた。また、メイラード反応進行に伴う褐変化や風味の変化は食品の加熱履歴や貯蔵時間と相関することから、鮮度低下や品質劣化の指標にもなっている。
【0003】
近年、メイラード反応は生体内においても進行していることが知られ、本反応の後期段階においてAGEs(終末糖化産物、後期糖化生成物)とよばれる物質が生成されることが確認されている。食品におけるメイラード反応の産物であるメラノイジン色素もAGEsの一種と理解されるようになってきている(例えば、非特許文献1、参照)。
このAGEsの生成過程において、活性酸素が発生する。発生した活性酸素はタンパク質を傷害し、寿命の長いタンパク質では糖化によるタンパク質の構造変化や重合が生じ、機能不全をおこして様々な疾病の原因となる。特に糖尿病状態では、血液中の糖濃度が高い状態で持続するためメイラード反応の進行が速く、AGEsが多く蓄積され、糖尿病の合併症を併発すると推測されている。さらに、老化現象、認知症、ガン、高血圧、動脈硬化症などにも関与していることが明らかにされている。
【0004】
このように、メイラード反応は食品の品質に大きな影響を与えるだけでなく、生体においても様々な疾病に関与するものと考えられる。従って、この反応を阻害または抑制することにより、糖尿病合併症やこれに伴う動脈硬化、心筋異常などの発症・進展を防ぐことが期待されている。
メイラード反応の阻害または抑制能を有する物質として、アミノグアニジンなどいくつかの合成化学品が見つかっており、これらの応用が研究されているが、副作用などの問題から実用化には課題を残している。そこで、本発明者らは、食品原料、特に大豆を原料とした発酵食品から安全なメイラード反応阻害剤を開発することを検討した。
【0005】
大豆やその発酵物を由来とする糖尿病合併症、動脈硬化、心筋異常などの疾病に有用な物質として、例えば、次のような物質が開示されている。1)大豆発酵産物を主成分とした有効成分がイソフラボンであるとする組成物について、タンパク質の非酵素的糖化の抑制作用を有し、糖尿病合併症を予防することが開示されている(例えば、特許文献1参照)。2)醤油粕の水抽出物や酢酸エチル抽出物がメイラード反応を阻害することが開示されている(例えば、特許文献2参照)。この抽出物には低分子のポリフェノール(ダイゼイン、ゲニステイン、トリプトファン、チロシン等)が含まれており、これらの物質がメイラード反応阻害に大きく関与していると記されている。3)黒大豆の水及びエタノール抽出物のグリケーション阻害活性が示されている(例えば、特許文献3参照)。4)黒大豆種皮の80%エタノール抽出エキスがアミノ酸やタンパクの糖化阻害活性を持っていることが開示されている(例えば、特許文献4参照)。また、5)黒麹菌Aspergillus nigerにより生産される酵素であるオキシドリダクターゼが乳製品のメイラード反応抑制に利用できること(例えば、特許文献5参照)が開示されている。
【0006】
糖尿病等の予防改善剤としては、6)大豆の外皮からアルカリ抽出して得られる多糖類が血糖値上昇抑制効果を示すこと(例えば、特許文献6参照)、7)大豆に糸状菌を培養して発酵させたトウチ(豆鼓)の抽出物や、大豆タンパクの加水分解物がグルコシダーゼ活性阻害により血糖上昇を抑制すること(例えば、特許文献7〜8参照)が開示されている。また、8)大豆イソフラボンアグリコンを含有するインシュリン抵抗性糖尿病の予防・治療剤(例えば、特許文献9参照)や、9)水溶性大豆多糖類などの食物繊維とポリフェノールを併用することによる糖尿病改善剤(例えば、特許文献10参照)が開示されている。しかし、これらには、メイラード反応の阻害については触れられていない。
【0007】
また、メイラード反応において、活性酸素が関与する反応が知られている。
抗酸化力とメイラード反応阻害効果は必ずしも一致するものではないが、例えば、1)醤油粕をエタノール等の極性溶媒で抽出して得られた抽出物をクロマト等で処理して得られる組成物が抗酸化力を持つことが開示されている(例えば、特許文献11参照)。2)醤油製造工程で産する醤油オリ由来の抗酸化剤が提示され、疎水性の合成吸着剤に吸着させた後、水、20、40、80、100%メタノール、次いで、アセトンで溶出させたとき、特に80%メタノール溶出画分の活性がもっとも強いことが開示されている(例えば、特許文献12参照)。3)濃口醤油もしくは膜濃縮した高分子側の濃口醤油に糖類を混和して高温加熱することによって、強い抗酸化力を持った醤油が得られることが示されている(例えば、特許文献13参照)。また、4)メイラード反応の産物である色素(メラノイジン)は、油脂の自動酸化を抑制する抗酸化力を持つことが知られている。通常メラノイジンはメイラード反応を進行させるものとして知られている。
なお、食品の褐変進行を抑制する物質としてアスコルビン酸や亜硫酸塩などの還元剤が知られているが、物質の安全性や効果の持続性等の問題により成功していない。
【0008】
さらに、5)大豆をリゾープス属の糸状菌で発酵させたテンペの80%エタノール抽出物が、in vitroでLDLの酸化を抑制することから、動脈硬化の抑制作用が示唆されており、イソフラボンのアグリコンが活性物質であろうと推測されている。また、テンペの水抽出物にも抗酸化作用があることが示され、活性物質は同様にイソフラボンアグリコンやアミノ酸、ペプチドであろうと推測されている(非特許文献2、3)。
しかしながら、これらの技術においても、メイラード反応の阻害に関しては触れられていない。
【0009】
このように、メイラード反応阻害剤を開発することは、生体内でのAGEs生成抑制や食品などにおける褐変の抑制につながる技術として重要な課題として理解され、メイラード反応の進行を原因のひとつとする各種疾病に対し、その改善や予防を目的として多くの技術が開示されている。しかし、本発明者らが着目した大豆麹や醤油のような大豆を含む原料の発酵分解物から得られる特定の性質を有する水溶性高分子物質において、このような効果を持つことは知られていなかった。
【0010】
醤油麹や醤油のような大豆を含む原料の発酵分解物に含まれる水溶性の高分子物質は、ヒアルロニダーゼ阻害、腸管免疫賦活活性、ヒスタミン遊離抑制活性、マクロファージ活性化作用、抗アレルギー体質強化効果、鉄吸収促進作用、肝機能障害を抑制する効果、血圧上昇抑制効果、または血中の中性脂肪上昇抑制効果等を有する素材であることが開示されている(例えば、特許文献14〜18参照)。しかしながら、本発明に関わるメイラード反応阻害活性効果については知られておらず、本発明によって新たなメイラード反応阻害剤の提供が期待された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−300894号公報
【特許文献2】特開2006−256977号公報
【特許文献3】特開2004−250445号公報
【特許文献4】特開2008−88102号公報
【特許文献5】特表2009−525736号公報
【特許文献6】特開62−201821号公報
【特許文献7】特開2000−72687号公報
【特許文献8】特開平9−65836号公報
【特許文献9】特開2003−286166号公報
【特許文献10】特開2006−052191号公報
【特許文献11】特開2002−309251号公報
【特許文献12】特開2005−290053号公報
【特許文献13】特開2006−158213号公報
【特許文献14】特開2008−88151号公報
【特許文献15】特開2006−199641号公報
【特許文献16】特開2003−327540号公報
【特許文献17】特開2005−179315号公報
【特許文献18】特開2007−84486号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】栄養・食糧学データハンドブック、2006年、p231−233
【非特許文献2】活水論文集 第48集、p87〜p101、2005年
【非特許文献3】Int J Food Sci Nutr.,58(8),p577−587,2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、大豆を含む原料の発酵分解物から得られる水溶性高分子物質を有効成分とするメイラード反応阻害剤の提供を課題とする。さらに該水溶性高分子物質を有効成分とするAGEs生成抑制阻害剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題を解決すべく、鋭意検討を行った結果、醤油等の大豆を含む原料の発酵分解物から得られる、1)水溶性、2)分子量6,000以上であって、かつ3)エタノールに不溶という性質を有する水溶性高分子物質を得て、この水溶性高分子物質がメイラード反応阻害作用およびAGEs生成抑制作用を持つことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は以下の(1)〜(12)に示されるメイラード反応阻害剤等に関する。
(1)次の1)〜3)の性質を有する、大豆を含む原料の発酵分解物から得られる水溶性高分子物質を有効成分として含むメイラード反応阻害剤。
1)水溶性
2)分子量6,000以上
3)エタノールに不溶
(2)発酵分解物が、大豆を含む原料に糸状菌を作用させる工程を含む製造方法によって得られる発酵分解物である上記(1)に記載のメイラード反応阻害剤。
(3)上記(1)または(2)に記載のメイラード反応阻害剤を有効成分として含む糖尿病予防又は改善剤。
(4)上記(1)または(2)に記載のメイラード反応阻害剤を有効成分として含む動脈硬化の予防又は改善剤。
(5)次の工程を含む、上記(1)または(2)に記載のメイラード反応阻害剤の製造方法。
1)大豆を含む原料の発酵分解物から、水溶性物質を抽出する工程
2)上記1)の水溶性物質より低分子物質を除去する工程
(6)さらに、3)エタノールに溶解しない物質を回収する工程を含む上記(5)に記載のメイラード反応阻害剤の製造方法。
(7)次の1)〜3)の性質を有する、大豆を含む原料の発酵分解物から得られる水溶性高分子物質を有効成分として含むAGEs生成抑制剤。
1)水溶性
2)分子量6,000以上
3)エタノールに不溶
(8)発酵分解物が、大豆を含む原料に糸状菌を作用させる工程を含む製造方法によって得られる発酵分解物である上記(7)に記載のAGEs生成抑制剤。
(9)上記(7)または(8)に記載のAGEs生成抑制剤を有効成分として含む糖尿病予防又は改善剤。
(10)上記(7)または(8)に記載のAGEs生成抑制剤を有効成分として含む動脈硬化の予防又は改善剤。
(11)次の工程を含む、上記(7)または(8)に記載のAGEs生成抑制剤の製造方法。
1)大豆を含む原料の発酵分解物から、水溶性物質を抽出する工程
2)上記1)の水溶性物質より低分子物質を除去する工程
(12)さらに、3)高濃度のエタノールに溶解しない物質を回収する工程を含む上記(11)に記載のAGEs生成抑制剤の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のメイラード反応阻害剤およびAGEs生成抑制剤は、メイラード反応によって生成するAGEsの生成抑制や、メイラード反応に伴って発生する活性酸素の発生を抑制し、糖尿病や動脈硬化の予防や進行の抑制に役立つ。
本発明のメイラード反応阻害剤およびAGEs生成抑制剤は、醤油等の大豆を含む原料の発酵分解物から得られる水溶性高分子物質を有効成分とするものであることから、安全性が高く、継続的な摂取が可能である。また、大量に製造することもでき、食品等への添加が容易であることからも、健康増進や疾病予防などとして貢献できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の「メイラード反応阻害剤」および「AGEs生成抑制剤」には、大豆を含む原料の発酵分解物から得られる、1)水溶性、2)分子量6,000以上であって、かつ3)エタノールに不溶という性質を有する水溶性高分子物質を有効成分として含むものであればいずれのものも含まれる。
ここで、大豆を含む原料の醗酵分解物には、例えば大豆を含む原料に麹菌を接種して発酵させた醤油麹や、醤油麹を食塩水中でさらに長時間発酵熟成させた醤油もろみ、これを圧搾して得られる生醤油、さらに、加熱処理やろ過の工程を経て得られる醤油等が例示できる。また、収率は小さいが醤油粕から得ることもできる。この醗酵分解物の製造にあたり、丸大豆、脱脂加工大豆に限らず、おからや大豆皮、なども大豆を含む原料として利用することができる。また、大豆を含んでいればよく、大豆のほかに麹菌の生育が良好となるような小麦などの他の成分を含んでいてもよい。
【0018】
大豆を含む原料の発酵分解物の製造は、大豆を含む原料を蒸煮または焙煎するなどの加熱処理を施し、これに麹菌などの糸状菌を生育させることによって行う。これによって、メイラード反応阻害活性や、AGEs生成抑制活性等を有する本発明の水溶性高分子物質が発現すると考えられる。この発酵分解物の製造に利用できる糸状菌としてはアスペルギルス属やリゾープス属のような食品工業に利用される微生物を例示できるが、醤油や味噌で利用されるアスペルギルス・オリゼー、及びアスペルギルス・ソーヤ等の醤油麹菌が望ましい。糸状菌の培養は通常行われる方法が適用できる。醤油麹であれば通常30℃程度で2〜5日程度培養され、この培養によって本発明の水溶性高分子物質が産生される。
【0019】
このようにして生成した本発明の水溶性高分子物質は、発酵分解物から水、食塩水、またはこれらの混合液等を用いて抽出することによって得ることができる。加える溶媒の量は特に限定されるものではなく5〜10倍程度で行えばよい。溶媒量の大小は回収量に影響するが、食塩水は20%程度の濃度でも収率が低下せず、使用することができる。抽出温度は低温、高温のいずれでも可能であり、時間は1時間から1週間程度で行うが、腐敗しないように管理すればさらに長時間を要してもよい。
【0020】
また、発酵分解物をさらに長期間発酵させたものも、本発明の水溶性高分子物質を得るために用いることができる。醤油は上記麹菌の培養物(醤油麹)を食塩水中において10〜30℃程度の温度で数ヶ月から1年程度発酵熟成させ、圧搾・ろ過等により得られた澄明な液体であるが、この醤油から本発明の水溶性高分子物質を得ることもできる。その効果及び収量は麹から採取する場合とほとんど差がない。
これら発酵分解物中に生成した本発明に関わる水溶性高分子物質はそのまま利用することも可能であるが、より利用しやすくするために以下のように濃縮してから用いることもできる。
【0021】
本発明の水溶性高分子物質を上記抽出液、または醤油のような液体から回収・濃縮するためには、一般的な水溶性高分子物質の回収技術が利用できる。透析して透析膜を通過しない画分を回収する操作、分画分子量が6,000程度の膜を利用した限外ろ過により濃縮する操作、または最終濃度が30%(v/v)以上になるようにエタノールを添加することにより発生する沈殿を回収する操作等が例示できる。これら操作の手順は生理活性物質そのものの機能に影響することはないので、これらを適宜組み合わせることができる。
本発明に関わる水溶性高分子物質を沈殿採取するために加えるエタノールは、最終濃度が30%(v/v)以上、望ましくは50%(v/v)以上にできる量がよい。エタノールに代えてメタノールや2−プロパノール等によっても本発明の水溶性高分子物質は回収できるが、安全性の面でエタノールが好ましい。
上記操作によって濃縮された本発明の水溶性高分子物質は、そのまま、または、減圧濃縮や、乾燥などの一般的な方法で加工して利用できる。
【0022】
利用するにあたっては、その目的に応じて加工できるようにすればよく、特に手法を限定する必要はない。液体に溶解するかもしくは分散させる、または、粉末担体と混合するかもしくはこれに吸着させ、飲食品や医薬(医薬部外品も含む)などに適宜配合するなどが例示できる。本発明の「メイラード反応阻害剤」および「AGEs生成抑制剤」は、糖尿病予防又は改善剤、動脈硬化の予防又は改善剤などの有効成分として配合することもできる。
製剤として使用する場合における、本発明の水溶性高分子物質の使用量は製剤の形態によっても異なるが、1日に乾物として0.1g程度以上摂取できる配合量が好ましく、安全性に問題がないので特に上限は規定しない。
飲食物としては、チューインガム、キャンディ、錠菓、グミゼリー、チョコレート、ビスケットまたはスナック等の菓子、アイスクリーム、シャーベットまたは氷菓等の冷菓、飲料、プリン、ジャム、乳製品、調味料等が挙げられ、これらの飲食物を日常的に摂取することが可能である。これらの飲食物に対する本発明の水溶性高分子物質の添加量としては、飲食物の形態によっても異なるが、嗜好性の面から20重量%程度以下が望ましい。また、カプセルや錠剤型の特定保健用食品や健康食品の場合、その濃度に上限を設ける必要はない。
【0023】
以下、実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
醤油からの水溶性高分子物質の採取
脱脂加工大豆、丸大豆および小麦を原料とし、麹菌としてアスペルギルス・オリゼーを用いて麹を作り、常法通り発酵熟成させたもろみを圧搾後、加熱及びろ過工程を経て醤油を製造した。この醤油100mlに、95%エタノール200mlを加えて攪拌後1晩放置して発生した沈殿物を遠心分離によって回収した。この沈殿物に水を加えて溶解後、濾紙ろ過して得られた澄明な液を、分画分子量6,000〜8,000の透析チューブに充填し、4℃の流水中で一夜透析した。その後、透析内液を凍結乾燥して約1gの淡灰色の粉末を得た。これを本発明品1とした。本発明品1は1)水に可溶、2)分子量6,000以上であって、かつ3)エタノールに不溶という性質を有していた。
【実施例2】
【0025】
醤油麹からの水溶性高分子物質の採取
3L容三角フラスコに脱脂加工大豆100gを入れ、熱水120mlを加えた後30分間放置した。続いて、グルコース10gを加えよく撹拌後、121℃で45分間オートクレーブ処理を行った。放冷後、麹菌(アスペルギルス・ソーヤ)を0.1g植菌し、よく撹拌した。その後、30℃に保持したウォーターバスで72時間静置培養を行った。その間、3回の攪拌を行った(20時間後、30時間後及び48時間後)。
培養物に純水1Lを加えて60℃で20時間攪拌抽出した後、7,000rpmで30分間遠心分離を行い、上清を回収した。この液を緩やかに加熱し10分間沸騰状態を保った後、55℃で一晩放置後遠心分離を行って澄明な抽出液を得た。この抽出液に2倍量のエタノールを添加して発生した沈殿物を遠心分離によって採取し、70℃で送風乾燥して、約5gのほぼ白色の粉末を得た。これを本発明の本発明品2とした。本発明品2は1)水に可溶、2)分子量6,000の透析膜で処理すると、ほとんどが透析されずに残存する、かつ、3)エタノールに不溶という性質を有していた。
【実施例3】
【0026】
醤油粕からの水溶性高分子物質の採取
脱脂大豆で製造した醤油の醤油粕100gに1Lの水を加えて室温で1時間抽出し、そのろ液を減圧濃縮後乾燥すると約11gの乾燥物が得られた。
この半量(残りの半量は比較品1とした)を約50mlの水に懸濁すると不溶性物質があったため、遠心分離及び濾紙ろ過によって除去して澄明な溶液を回収した。この液を、分画分子量6,000の透析膜にいれて流水中で透析して内液を採取し、この液に2倍量の95%エタノールを加えて発生した沈殿を採取した。さらに、この沈殿物に70%エタノール100mlを加えて60℃で一晩攪拌して洗浄し、その後、遠心分離して沈殿物を回収して乾燥させた。醤油粕からの回収量は約0.3%であった。これを発明品3とした。本発明品3は1)水に可溶、2)分子量6,000以上であって、かつ3)エタノールに不溶という性質を有していた。また、チロシンやイソフラボン等の低分子物質は検出されなかった。なお、比較品1にはチロシンやイソフラボンの存在が確認できた。
【0027】
[試験例1]
AGEs(Advanced glycation endproducts)生成抑制作用の検証
吉川らの方法(薬学雑誌、123、871−880、2003)に従い、AGEs生成抑制試験を行った。抑制剤試料として本発明品1〜3、比較品1及び大豆多糖類(SM700:三栄源)を比較品2として用いた。反応液最終濃度としてD−グルコース100mg/ml、牛血清アルブミン10mg/ml、および0〜50mg/mlの本発明品1〜3及び比較品1、2を含む67mMリン酸緩衝液(pH 7.2)2.0mlを60℃で48時間インキュベーションした。なお、試料中の不溶物による反応への影響を回避するため、本発明品及び比較品は、あらかじめリン酸緩衝液に100mg/ml濃度になるように懸濁し、遠心分離して澄明な液のみを用いて行った。
AGEsの生成量は、反応液200μlに水2.0mlを加え、蛍光分光光度計を用いて蛍光強度(励起波長370nm、測定波長440nm)を測定することにより求めた。
本発明品1〜3を添加することで濃度依存的に蛍光強度の低下が見られ、AGEs生成抑制に対するIC50値はそれぞれ9.6mg/ml、12mg/ml及び10mg/mlであった。また、比較品1、2は50mg/ml以上で、本試験系ではIC50値は求められなかった。
醤油粕においては高分子画分を採取することにより、AGEs生成阻害の比活性が高くなることが確認できた。また、比較品2は濃度依存性が見られずほとんど活性がないことから、本発明品の水溶性高分子物質は大豆の化学的な処理によって得られた大豆多糖類とは異なり、麹菌による発酵によって何らかの変化を受けたか新たに生成する物質であると思われた。また、麹と醤油では大豆からの収量や比活性が類似しており、麹菌を作用させることが本願発明の活性発現に大きい働きを持っていることが理解される。
【0028】
[試験例2]
本発明品によるメイラード反応阻害効果の検証
食品におけるメイラード反応の進行は、最終的に色や香りの変化となって現れるため、その進行評価は、色の変化を測定することがもっとも端的な手法である。
醤油の着色を評価指標にしてメイラード反応阻害効果を検証した。
JAS特級濃口醤油に本発明品1又は2の粉末を0又は1%添加して試験用の醤油を調製した。褐変速度に影響することが知られている全窒素、還元糖は同じであった。この醤油を満量約150ml容の三角フラスコに50mlを入れて栓をして30℃で保存した。1ヶ月後に開封して試料10mlを採取し、再度栓をして2ヶ月後まで保存した。濃化量は使用採取後速やかにOD610nm(光路長3mm)を測定して評価した。本発明品1及び2を添加した醤油は対照に比べて明らかに濃化が阻害された(表1)。
【0029】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のメイラード反応阻害剤およびAGEs生成抑制剤の提供により、メイラード反応を原因のひとつとする糖尿病や動脈硬化の予防や進行の抑制に役立つ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の1)〜3)の性質を有する、大豆を含む原料の発酵分解物から得られる水溶性高分子物質を有効成分として含むメイラード反応阻害剤。
1)水溶性
2)分子量6,000以上
3)エタノールに不溶
【請求項2】
発酵分解物が、大豆を含む原料に糸状菌を作用させる工程を含む製造方法によって得られる発酵分解物である請求項1に記載のメイラード反応阻害剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載のメイラード反応阻害剤を有効成分として含む糖尿病予防又は改善剤。
【請求項4】
請求項1または2に記載のメイラード反応阻害剤を有効成分として含む動脈硬化の予防又は改善剤。
【請求項5】
次の工程を含む、請求項1または2に記載のメイラード反応阻害剤の製造方法。
1)大豆を含む原料の発酵分解物から、水溶性物質を抽出する工程
2)上記1)の水溶性物質より低分子物質を除去する工程
【請求項6】
次の1)〜3)の性質を有する、大豆を含む原料の発酵分解物から得られる水溶性高分子物質を有効成分として含むAGEs生成抑制剤。
1)水溶性
2)分子量6,000以上
3)エタノールに不溶
【請求項7】
発酵分解物が、大豆を含む原料に糸状菌を作用させる工程を含む製造方法によって得られる発酵分解物である請求項6に記載のAGEs生成抑制剤。
【請求項8】
請求項6または7に記載のAGEs生成抑制剤を有効成分として含む糖尿病予防又は改善剤。
【請求項9】
請求項6または7に記載のAGEs生成抑制剤を有効成分として含む動脈硬化の予防又は改善剤。
【請求項10】
次の工程を含む、請求項6または7に記載のAGEs生成抑制剤の製造方法。
1)大豆を含む原料の発酵分解物から、水溶性物質を抽出する工程
2)上記1)の水溶性物質より低分子物質を除去する工程

【公開番号】特開2011−178730(P2011−178730A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45732(P2010−45732)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000112048)ヒガシマル醤油株式会社 (10)
【Fターム(参考)】