説明

メカノクロミック発光材料

【課題】より高速又は簡便にもとの発光色に戻すことができ、さらに多色発光特性を有するメカノクロミック発光材料を提供する。
【解決手段】 下記(1)又は(2)で示されるメカノクロミック発光材料。





【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メカノクロミック発光材料に関する。
【背景技術】
【0002】
メカノクロミック発光材料とは、“こする”等の力学的刺激を与えると発光色が変化する材料であり、力学的刺激による書込みが可能な分子記憶デバイス等、次世代の機能性材料として注目されている。
【0003】
メカノクロミック発光材料の例としては、例えば有機金錯体(CAu)(μ−1,4−diisocyanobenzene)がある。この材料は、紫外線を照射すると青色の発光を示し、力学的刺激を加えると黄色へと変化する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記材料は、一度材料を黄色へと変化させると、元の発光色に戻すためには溶媒蒸気を作用させて乾燥させるといった煩雑な作業を必要とする。変化した発光色から高速又は簡便に元の発光色に戻すことができれば更に有用性が向上すると期待できる。また、多色に発光させることにより、より多種かつ複雑な操作により情報の書き込みが可能になり、機密情報記録材料などへの応用が可能になる。
【0005】
そこで、本発明は、上記課題を鑑み、より高速又は簡便にもとの発光色に戻すことができ、さらに多色発光特性を有するメカノクロミック発光材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための第一の手段として、本発明のメカノクロミック発光材料は、下記(1)又は(2)に示されるものである。
【化1】

【化2】

【発明の効果】
【0007】
以上、本発明によって、より高速又は簡便にもとの発光色に戻し、さらに多色の発光を発するメカノクロミック発光材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例に係るメカのクロミック発光分子の色の変化を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。ただし、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に示す実施形態、実施例の例示に限定されるものではない。
【0010】
(実施形態1)
本実施形態に係るメカノクロミック材料(以下「本材料」という。)は、下記式(1)又は(2)で示されるものである。
【化3】

【化4】

【0011】
本材料は、有機金錯体(CAu)(μ−1,4−diisocyanobenzene)に柔軟なトリエチレングリコールモノメチルエーテル鎖又はジエチレングリコールモノメチルエーテル鎖を導入することにより、従来の上記有機金錯体と同様、紫外線の照射によって青色の発光状態を示すとともに、力学的刺激を加える(例えば、“こする”)ことにより、緑色発光状態へと緩和することができ、更に、緩やかに加熱することで、簡単に再度青色発光の状態へと戻すことができる。すなわち、本材料は、簡便に元の発光色に戻すことができるメカノクロミック発光材料となっている。
【0012】
そして特に上記(2)の化合物は、こすった瞬間のみ過渡的に発光色が更に変化する。すなわち、本材料は、従来の上記有機金錯体と同様に通常は紫外線の照射によって青色の発光状態を示すが、力学的刺激を加える(例えば、“こする”)ことにより、過渡的に黄色発光を示し、すぐに緑色発光状態へと緩和する。そして緑色発光状態において更に力学的刺激を加えることにより、緑から黄色、黄色から緑という発光色の変化を半永久的に発現させることができる。そして、更に、緩やかに加熱(50℃程度の加熱)することで、簡単に再度青色発光の状態へと戻すことができる。
【0013】
即ち、本材料のうち(2)の材料は、高速に色が変化する状態があるだけでなく、青色、黄色、緑色といった複数の色の状態を容易に達成することができ、より高速又は簡便にもとの発光色に戻すことのできるメカノクロミック発光材料となっている。
【0014】
また、本材料は、紫外線を照射する前は通常白色粉末であって、これを溶媒に混合し、基板上に塗布し、溶媒を蒸発させることで基板上に膜として形成可能である。そしてこの膜を形成した後、紫外線を照射し、力学的刺激又は加熱を行なうことで発光色を適宜調整することができるようになる。すなわち、加熱させて融解させることで、黄色の発光へと変化する。
【0015】
なお本材料は、合成できる限りにおいて限定されるわけではないが、例えば下記の手順により合成することができる。
【0016】
まず、下記化合物(A)に対し、(B)又は(C)の化合物を用いてエーテル化し、下記化合物(D)を得る。
【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【0017】
次に、上記化合物(D)にLi置換を行い、下記化合物(E)を用いて下記化合物(F)を得る。更に、この化合物に下記(G)の化合物を作用させることで、上記(1)、(2)のメカノクロミック発光材料を作製することができる。
【化9】

【化10】

【化11】

【0018】
(実施例)
ここで、上記実施形態に係るメカノクロミック材料の効果につき、実際に材料を作成し、効果を確認した。以下に示す。
【0019】
(実施例1)
まず、下記(2)で示される化合物を100mg作製し、5mlの酢酸エチル・ヘキサン混合溶媒(エチル:ヘキサン=1:1)に溶解し、アルミ板上に配置し乾燥させた。なお図1に、本実施例において作製した発光材料の状態を映した写真図と、加えた作業の概略を示しておく。
【0020】
まず、この膜に365nmのUVライトを当てたところ、青色に発色した。
【0021】
次に、スプーンでこの発光材料を平らにしつつ平坦な膜状態とした。この際、力学的刺激を与えながら平坦な膜状態としたため、緑色の発光状態となったことを確認した。なお、平滑にする際、発光材料はまず黄色に発色し、その後緩やかに緑色となっていった。
【0022】
次に、100℃に設定したハンダごてで文字を書き込んだ。本図では、「Au」の文字をはんだごてで書き込んでおり、書きこんだ部分が黄色で発色していることが確認できた。
【0023】
次に、しばらく放置しておくと、「Au」の文字が黄色から緑色に変色していき、ほとんど見えなくなっていくことが確認できた。
【0024】
次に、この膜全体を加熱したところ、膜全体が青色に変色した。ただし、先ほど書きこんだ「Au」の文字の部分については、緑色の状態を維持していた。
【0025】
なお、この青色の発光状態の膜全体を改めてこする(力学的刺激を加える)と、全体が均一に緑色の発光状態の膜を得ることができ、上記各状態が繰り返されることを確認した。
【0026】
以上、本発明の効果について実際に確認することができた。なお、本実施例と同様に、上記(1)について実際に作成を行い、確認したところ、青色及び緑色への変化は本実施例と同様であったが、力学的刺激を加えた場合に発生する黄色への発色は殆ど観測されず、緑色に直接色が変色していくことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、メカノクロミック材料として産業上の利用可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)又は(2)で示されるメカノクロミック発光材料。
【化1】

【化2】


【図1】
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【公開番号】特開2012−158678(P2012−158678A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18826(P2011−18826)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】