説明

メキタジンの製造に有用な新規キヌクリジン誘導体

本発明は、メキタジンの製造のための合成中間体として有用である式(I)の1−アザ−ビシクロ[2.2.2]オクタ−2−エン−3−イルメチルアセテートに関する。


【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
本発明は、メキタジン:10−[1−アザ−ビシクロ(2,2,2)オクタ−3−イル]−メチル−10H−フェノチアジンの製造のための新規方法に関する。
【0002】
メキタジンは、アレルギーの治療において抗ヒスタミン薬剤として用いられる化合物である。メキタジンの化学構造および治療活性は、特許文献FR−0 064 605において記載されている。メキタジンの左旋性異性体は、特許文献FR−2 522 660およびEP−089 860において記載されている。メキタジンの製造のための方法およびその左旋性異性体についてもこれらの特許文献に記載されている。メキタジンの左旋性異性体は多数の不利点を示す。
【0003】
低収率合成は、高沸点を有する不活性溶媒(キシレンなど)中での3−(クロロメチル)キヌクリジンとフェノチアジンナトリウム塩またはカリウム塩のアルキル化によって行われ、必要な場合には共溶媒(毒性のHMPTなど)が添加される。別の不利点はナトリウムアミドの使用に関し、このナトリウムアミドは気体アンモニアの大量放出をもたらす。
【0004】
この反応は純粋ではなく、数多くの副生成物が生成する。特に、これらの反応条件下では、3−(クロロメチル)キヌクリジンから3−(メチレン)キヌクリジンへとHCl脱離生成物が形成され、収率損失が起こる。
【0005】
また、ナトリウムアミド、水素化ナトリウム、カリウムtertイオブチレート(potassium tertiobutylate)などによりフェノチアジンアニオンが生じる場合には二次生成物も形成される。反応媒質の強い着色は、副生成物の形成をもたらす、ベンゼン同素環炭素原子上のアニオンの非局在化を示す。
【0006】
また、多くの反応不純物が存在することにより、純粋メキタジンを単離するためにクロマトグラフ処理を行う必要がある。最後に、このようにして得られる収率は低い。
【0007】
他の特許文献、例えば、特開平4−169583号公報(Chem. Abstr. :118 :6983)および特開平5−140157号公報(Chem. Abstr. :120 :8602)(フェノチアジンのカリウム誘導体におけるキヌクリジンスピロエポキシドの使用)は、メキタジンの製造に関する。
【0008】
これらの特許文献は従前の製造法に関する改善であるが、メキタジンの良好な収率を得る方法についての問題は解決されていない。
【0009】
文献FR2 777 278には、メキタジンの製造における合成中間体としての使用のための3−(ヒドロキシメチル)キヌクリジンの製造が記載されている。この文献によれば、出発物質は、3−メトキシメチル−3−キヌクリジノールを経て3−(ヒドロキシメチル)キヌクリジンへと変換される3−(メチレン)キヌクリジン酸化物または3−キヌクリジノンであり得る。
【0010】
文献WO 9929692には、メキタジンおよびその左旋性異性体の合成方法が記載されている。対象方法は、フェノチアジンのリチウム化誘導体を3−(ヒドロメチル)キヌクリジンメシレートと反応させることにある。また、3−(ヒドロメチル)キヌクリジンメシレートもメキタジンの合成における新規中間体として記載されている。
【発明の開示】
【0011】
本発明は、キヌクリジン誘導体医薬、特にメキタジンの合成における中間体としての新規化合物を提供する。
【0012】
本発明は、この新規中間体の製造のための方法、ならびにこの新規合成中間体からのメキタジンの合成のための新規経路を提供する。
【0013】
この目的において、本発明は、次の式:
【化1】

を有する1−アザ−ビシクロ[2.2.2]オクタ−2−エン−3−イルメチルアセテート(5)に関する。
【0014】
この化合物は、先行技術では記載されておらず、フェノチアジンによるアリル位アミノ化を介するメキタジンの合成における中間体として作用することができる。
【0015】
この化合物(5)は、次の式:
【化2】

を有するキヌクリジンのアリルアルコール、または1−アザ−ビシクロ[2.2.2]オクタ−2−エン−3−イルメタノール、(3)から得ることができる。
【0016】
このアリルアルコール(3)は、対応するメチルエステルの還元を介してこれまで合成されてきたが、そのメチルエステル自体はキヌクリジノンから生成したシアノアルコールの脱水、その後の加水分解により得られ(US 4 937 239、JP 60258187、US 4 467 095)、そのメチルエステルまで4段階である。
【0017】
本発明では、この化合物(3)についてのより競争力がある2つの合成経路を開示し、これらの経路はそれぞれ2段階のみで構成される。
【0018】
この化合物は、キヌクリジノン(1)から出発する2つの経路から製造することができる:
第1経路:
【化3】

第2経路:
【化4】

【0019】
第1経路は、3−エポキシキヌクリジン(4):
【化5】

の製造を含む。
【0020】
この目的のために、油中60%の水素化ナトリウム(1.14g,28.5ミリモル,1.15当量)を無水テトラヒドロフラン(8ml)中の懸濁液に加えた後、この混合物を還流する。ジメチルスルホキシドを加え、水素を激しく放出させる。攪拌を15分間続けた後、この混合物を15℃に置き、トリメチルスルホキソニウムヨージド(6g,27.26ミリモル,1.1当量)を加える。攪拌を室温で30分間続ける。この反応混合物はより一層濃厚になる。テトラヒドロフラン(3ml)に溶解した3−キヌクリジノン(1)(3.1g,24.8ミリモル,1当量)を加える。放熱させ、攪拌を15時間続ける。次いで、水を加え(100ml)、この混合物をクロロホルムで6回抽出する。この有機相を水で数回洗浄した後、NaSOで乾燥させ、濾過し、蒸発させ、黄色の油を得る(2.3g,67%)。
【0021】
次の方法に従って、このようにして得られたエポキシド(4)にb−脱プロトン化を行い、化合物(3)を得る:
n−ブチルリチウム(1.2ml,1.96ミリモル,2.5当量)を無水ジエチルエーテル(5ml)中のジエチルアミン(0.20ml,1.96ミリモル,2.5当量)溶液に0℃で加える。この混合物を10分間攪拌した後、ジエチルエーテル(1ml)に溶解したエポキシド(4)(109mg,0.79ミリモル,1当量)を0℃で加える。この混合物を還流下で67時間攪拌する。炭酸カリウム水溶液を加えた後、この混合物をジクロロメタンおよびエーテルで抽出する。有機相をNaSOで乾燥させ、濾過し、蒸発させ、黄色の油を得る(105mg,96%)。
【0022】
もう一つの経路によれば、ヒドラゾン(2):
【化6】

に関するシャピロ反応を通じて化合物(3)を得ることができる。
【0023】
ヒドラゾン(2)は、次の手順に従って、3−キヌクリジノンから出発して得ることができる:
トリイソプロピルフェニルヒドラジン(20.3g,68ミリモル,1.12当量)を無水ジエチルエーテル(250ml)に溶解する。ジエチルエーテル(100ml)に溶解した3−キヌクリジノン溶液(1)(7.54g,60.3ミリモル,1当量)を室温でカニューレし(cannulated)、この混合物を15時間激しく攪拌する。この白色沈殿を濾過した後、最小限のジエチルエーテルで3回洗浄し、その後真空乾燥させる(21.84g,89%)。
【0024】
下記のような方法を用いて、ヒドラゾン(2)に関するシャピロ反応ではアリルアルコール(3)が生成する:
ヒドラゾン(2)(10.26g,25.3ミリモル,1当量)を無水テトラヒドロフラン(50ml)に溶解し、−78℃に置く。n−ブチルリチウム(47.5ml,76ミリモル,3当量)を30分かけて加える。この混合物は赤色に変わり、この混合物を2時間攪拌した後、0℃に置く。窒素が約15分間発生し、この混合物は橙黄色に変わる。パラホルムアルデヒド(2.28g,76ミリモル,3当量)を0℃で加える。その後、この混合物を室温で3時間攪拌し、この混合物は透明な黄色に変わる。水および炭酸カリウムを加え、この混合物をジエチルエーテルで抽出する。有機相をNaSOで乾燥させ、この残渣をシリカ(ジクロロメタン/メタノール/トリエチルアミン:9/1/0.1)で精製し、黄色の油を得る(6.4g,91%)。
【0025】
前述のように、化合物(3)は、(3)のアセテート誘導体からのアリル置換、続いてのデヒドロメキタジン(6)の接触水素化によるメキタジンの合成において用いることができる。
【0026】
よって、化合物(5):
【化7】

は、次の手順に従って、アリルアルコール(3)から得ることができる:
アリルアルコール(3)(126mg,0.9ミリモル,1当量)を0℃のジクロロメタン(4ml)に入れる。無水酢酸(0.1ml,1.1ミリモル,1.2当量)を加え、その後、この混合物を3時間攪拌する。水を加え、相分離させる。水相を、10%炭酸カリウム溶液を用いて塩基性にした後、ジクロロメタンで抽出する。有機相を合わせ、NaSOで乾燥させ、濾過し、蒸発させ、橙色の油を得る(137.6mg,84%)。
【0027】
次の手順に従って、化合物(5)を、パラジウム(0)を用いて錯化し、フェノチアジンと反応させ、デヒドロメキタジン(6):
【化8】

を得る:
フェノチアジン(6.6g,33ミリモル,1.5当量)を室温のテトラヒドロフラン(50ml)に入れた後、水素化ナトリウム(880mg,36.4ミリモル,1.65当量)を加える。攪拌を室温で20分間続け、暗緑色のアニオンを得る。
【0028】
前記錯体の製造:
同時に、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(1g,0.66ミリモル,4%)を、テトラヒドロフラン(50ml)中の前記アセテート(5)(4g,22ミリモル,1当量)溶液に加える。この混合物を室温で10〜15分間攪拌する(赤色の錯体)。
【0029】
予め形成した錯体を前記アニオン上にカニューレし、この混合物を3時間攪拌する。飽和炭酸カリウム水溶液を加え、この混合物をジクロロメタンで抽出する。有機相をNaSOで乾燥させ、濾過し、蒸発させる。得られた緑色の油をシリカ ジクロロメタン/メタノール/トリエチルアミン:96/4/0.5)で精製し、ベージュ色の固体を得る(4g,58%)。
【0030】
その後、次の手順に従って、デヒドロメキタジン(6)に接触水素化を行う:
デヒドロメキタジン(6)(51mg,0.16ミリモル,1当量)を脱気済無水メタノール(2ml)および脱気済無水トルエン(1ml)に溶解する。次いで、この混合物を、真空/アルゴンで3回予めパージした反応器中にカニューレする。Pd/C触媒(5mg,10質量%)を加えた後、この反応器をH下に置き、5バールのHで3回パージし、次いで100バール下に置き、24時間攪拌する。活性炭を加え、この混合物をセライトで濾過した後、蒸発させ、黄色の油を得る(47mg,91%)。
【0031】
よって、メキタジン(7)はラセミ体で得られる:
【化9】

【0032】
メキタジン(7)、アリルアルコール(3)および化合物(5)を得る方法の総括を以下に記載する:
【化10】

【0033】
これらの製造方法は、限られた数の合成ステップを必要とするだけであり、良好な収率を示し、工業化することができる。
【0034】
本発明はまた、1−アザ−ビシクロ[2.2.2]オクタ−2−エン−3−イルメチルアセテート(5)を用いることによるメキタジンの製造のための方法にも関する。
【0035】
本明細書に記載の手順に従って得られるメキタジンは、ラセミ混合物の形態のものである。FR 2 522 660に記載されているように左旋性異性体を得ることが目的である場合には、デヒドロメキタジンのエナンチオマー選択的接触水素化が必要である。このエナンチオマー選択的接触水素化は、ML型触媒(式中、Mはルテニウムまたはロジウムなどの遷移金属を表し、Lは不斉配位子、例えば(R,R)Rh(cod)(DIPAMP)BFである)を用いて行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(5):
【化1】

の1−アザ−ビシクロ[2.2.2]オクタ−2−エン−3−イルメチルアセテート。
【請求項2】
キヌクリジン誘導体医薬の製造における合成中間体としての、請求項1に記載の式(5)の1−アザ−ビシクロ[2.2.2]オクタ−2−エン−3−イルメチルアセテートの使用。
【請求項3】
前記キヌクリジン誘導体が、ラセミ混合物およびあらゆる割合の光学異性体混合物の両方の形態の、特に純粋な左旋性異性体または純粋な右旋性異性体の形態の式(7)のメキタジンである、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
式(7):
【化2】

のメキタジンの製造のための方法であって、
以下の反応:
(i)請求項1に記載のアセテート(5):
【化3】

をパラジウム錯化すること、
(ii)続いて、フェノチアジンによるアリル位アミノ化反応を行って式(6):
【化4】

のジヒドロメキタジンを誘導すること、
(iii)式(6)のジヒドロメキタジンを接触水素化に供して式(7):
【化5】

のメキタジンを誘導すること
を含んでなる、方法。
【請求項5】
接触水素化がエナンチオマー選択的条件下で行われる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
請求項1に記載の式(5)のアセテートの製造のための方法であって、
該アセテートが、式(3):
【化6】

のキヌクリジンにおけるアリルアルコールのアリル置換によって得られる、方法。

【公表番号】特表2010−516663(P2010−516663A)
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−545976(P2009−545976)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際出願番号】PCT/FR2008/000056
【国際公開番号】WO2008/107545
【国際公開日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(500033483)ピエール、ファーブル、メディカマン (73)
【Fターム(参考)】