説明

メシル酸イマチニブを使用する肝線維症の治療

メシル酸イマチニブの肝線維症を治療する有効量を、そのような治療の必要ある患者に投与することを含む、患者における肝線維症の治療方法の提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトにおける肝線維症の治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓の進行性線維症はしばしば、死または移植の必要を導く器官機能不全を引き起こす。これらの疾患は、アメリカ合衆国及び世界中で数億人が罹患している(非特許文献1)。例えば、肝線維症は、アメリカ合衆国における主要な非悪性の胃腸疾患の死亡原因である。更に、線維症の進行は、慢性肝疾患を有する患者において単一の最も重要な死亡率と死亡数の決定因子である(非特許文献2)。
【0003】
肝臓、腎臓、及び肺において線維症を細胞ベースで解明することについて著しい進歩が存在している。肝臓では、「星型細胞」として既知である定住間葉細胞の活性化が鍵となる現象である(非特許文献3)。活性化は、増殖性で、線維性で、収縮性である筋線維芽様細胞へのトランスフォーメーションを表す。線維症の度合いは、これらの線維性活性化星型細胞の数に直接関連する。
【0004】
肝臓傷害における肝星型細胞(HSC)の活性化と増殖は、ベータ血小板由来増殖因子レセプター(β−PDGFR)を含む多くのサイトカインレセプターのde novo発現と関連していることが以前に示されている(非特許文献4)。損傷した肝臓におけるβ−PDGFレセプター発現は、主にこれらの活性化間葉細胞に限定される;柔組織内の稀な大動脈は、器官内部の他の部位のみである。かくして、β−PDGFレセプター発現の度合いは、活性化星型細胞の量と並行し、次いで線維症の度合いに反映する。更に、線維症の減少は、そのような活性化細胞の数の減少を伴う(非特許文献5)。
【0005】
抗炎症且つ抗線維症の治療の最近の進歩は、これらの発症の遅延の見通しを与えているが、今日まで承認されている抗線維症治療は存在せず、肝臓移植の可能性以外に治療上のオプションを有さない慢性肝臓疾患を有する世界上の数億人の患者が放置されている。最近唯一の抗線維症治療の試験が進行中であり、肝臓学会と医薬部門がこの試験の結果を不安げに待っている一方で、いくつかの他の推定的な抗線維症薬が多くの会社によって開発中である。肝線維症の治療の見通しについては認識と熱意が育っている(非特許文献6)。かくして、肝線維症の治療に対するこの新規なアプローチに非常に受容的である非常に未飽和の市場が存在している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
メシル酸イマチニブ(GLEEVEC(登録商標))の開発は、慢性骨髄性白血病(CML)において鍵となる分子異常である、BCR−ABLガン遺伝子産物の小分子インヒビターである当該医薬が顕著に安全で有効であるため、このタイプのガンの治療において重要な事件となった(非特許文献7−9)。この薬剤は、β−PDGFレセプターの再整列と関連するCMLにおいても有効である(非特許文献10)。かくして、数千人の患者が、穏やかな薬剤耐性が報告されながら安全に治療されている。より近年、この薬剤は、GIストロマ腫瘍、腸管の間葉細胞新生物の治療についても承認されている(非特許文献11)。重要なことにこの薬剤は、BCR−ABLレセプターチロシンキナーゼタンパク質をブロックするだけでなく、肝線維症において間葉細胞活性化の鍵となるメディエーターであるβ−PDGFレセプターを含む数多くの関連レセプターチロシンキナーゼに亘り阻害活性を有する(非特許文献12)。実際、最近の報告では、フィールドで使用される標準モデルである輸胆管閉塞のげっ歯類モデルにおける肝線維症に対するGLEEVEC(登録商標)の影響の可能性について試験が始まっている(非特許文献13)
【非特許文献1】Friedman, S. L.: Liver Fibrosis--From Bench to Bedside, J. Hepatol. 2003, 38 Supp. 1:38 53.
【非特許文献2】Kim, W. R.; Brown, R. S.; Jr., Terrault; N. A.; El-Serag, H.: Burden of Liver Disease in the United States: Summary of A Workshop. Hepatology 2002, 36:227 242.
【非特許文献3】Friedman, S. L.: Molecular Regulation of Hepatic Fibrosis, an Integrated Cellular Response to Tissue Injury. J. Biol. Chem., 2000, 275:2247 2250.
【非特許文献4】Wong, L.; Yamasaki, G.; Johnson, R. J.; Friedman, S. L.: Induction of Beta-Platelet-Derived Growth Factor Receptor in Rat Hepatic Lipocytes During Cellular Activation In Vivo and In Culture; J. Clin. Invest., 1994, 94:1563 1569.
【非特許文献5】Iredale, J. P.; Benyon, R. C.; Pikering, J.; McCullen, M.; Northrop, M.; Pawley, S.; Hovell, C. A; Arthur, M. J.: Mechanisms of Spontaneous Resolution of Rat Liver Fibrosis. Hepatic Stellate Cell Apoptosis and Reduced Hepatic Expression of Metalloproteinase Inhibitors, J. Clin. Invest., 1998, 102:538 549.
【非特許文献6】Bonia, P. A.; Friedman, S. L.; Kaplan, M. M.: Is Liver Fibrosis Reversible? N. Engl. J. Med., 2001, 344:452 454.
【非特許文献7】Druker, B. J.; Sawyers, C. L.; Kantarijian, H.; Resta, D. J.; Reese, S. F.; Ford, J. M.; Capdeville, R.; Talpaz, M.: Activity of A Specific Inhibitor of The BCR-ABL Tyrosine Kinase in The Blast Crisis of Chronic Myeloid Leukemia and Acute Lymphoblastic Leukemia with The Philadelphia Chromosome. N. Engl. J. Med., 2001, 344:1038 1042.
【非特許文献8】Kantaijian, H.; Sawyers, C.; Hochhaus, A.; Guilhot, F.; Schiffer, C.; Gambacorti-Passerini, C.; Niederwieser, D.; Resta, D.; Capdeville, R.; Zoellner, U. et al.: Hematologic and Cytogenetic Responses to Imatinib Mesylate in Chronic Myelogenous Leukemia, N. Engl. J. Med., 2002, 346:645 652.
【非特許文献9】Druker, B. J.; Talpaz, M.; Resta, D. J.; Peng, B.; Buchdunger, E.; Ford, J. M.; Lydon, N. B.; Kantaijian, H.; Capdeville, R.; Ohno-Jones, S. et al.: Efficacy and Safety of A Specific Inhibitor of The BCR-ABL Tyrosine Kinase in Chronic Myeloid Leukemia, N. Engl. J. Med., 2001, 344:1031 1037.
【非特許文献10】Apperley, J. F.; Gardembas, M.; Melo, J. V.; Russell-Jones, R.; Bain, B. J.; Baxter, E. J.; Chase, A.; Chessells, J. M.; Colombat, M.; Dearden, C. E. et al.: Response to Imatinib Mesylate in Patients with Chronic Myeloproliferative Diseases with Rearrangements of The Platelet-Derived Growth Factor Receptor Beta, N. Engl. J. Med., 2002, 347:481 487.
【非特許文献11】Demetri, G. D.; von Mehren; M., Blanke; C. D., Van den Abeele, A. D.; Eisenberg, B., Roberts; P. J., Heinrich; M. C., Tuveson, D. A.; Singer, S.; Janicek, M. et al.: Efficacy and Safety of Imatinib Mesylate in Advanced Gastrointestinal Stromal Tumors, N. Engl. J. Med., 2002, 347:472 480.
【非特許文献12】Manley, P. W.; Cowan-Jacob, S. W .; Buchdunger, E.; Fabbro, D.; Fendrich, G.; Furet, P.; Meyer, T.; Zimmermann, J.: Imatinib: A Selective Tyrosine Kinase Inhibitor, Eur. J. Cancer, 2002, 38 Suppl. 5:S19 27.
【非特許文献13】Kinnman, N., Francoz, C.; Barbu, V.; Wendum, D.; Rey, C.; Hultcrantz, R.; Poupon, R.; Housset, C.: The Myofibroblastic Conversion of Peribiliary Fibrogenic Cells Distinct from Hepatic Stellate Cells is Stimulated by Platelet-Derived Growth Factor During Liver Fibrogenesis. Lab. Invest., 2003, 83:163 173.
【非特許文献14】Friedman, S. L.: Molecular Regulation of Hepatic Fibrosis: An Integrated Cellular Response to Tissue Injury, J. Biol. Chem 2000, 275:2247 2250.
【非特許文献15】Friedman, S. L.; Maher, J. J.; Bissell, D. M.: Mechanisms and Therapy of Hepatic Fibrosis: Report of The AASLD Single Topic Basic Research Conference.
【非特許文献16】Pinzani, M.; Marra, F.: Cytokine Receptors and Signaling During Stellar Cell Activation, Semin. Liver Dis. 2001, 21:397 416.
【非特許文献17】Bachem, M. G.; Schneider; E.; Gross, H.: Identification, Culture, and Characterization of Pancreatic Stellate Cells in Rats and Humans, Gastroenterology 1998, 115:421 432.
【非特許文献18】Iredale, J. P.: Stellate Cell Behavior During Resolution of Liver Injury, Semin. Liver Dis. 2001, 21:427 436.
【非特許文献19】Wong, L.; Yamasaki, G.; Johnson, R. J.; Friedman, S. L.: Induction of Beta-Platelet-Derived Growth Factor Receptor in Rat Hepatic Lipocytes During Cellular Activation In Vivo and in Culture, J. Clin. Invest. 1994, 94:1563 1569.
【非特許文献20】Rockey, D. C.: Hepatic Blood Flow Regulation by Stellate Cells in Normal and Injured Liver, Semin. Liver Dis. 2001, 21:337 350.
【非特許文献21】Shao, R.; Rockey, D. C.: Effects of Endothelins on Hepatic Stellate Cell Synthesis of Endothelin-1 During Hepatic Would Healing, J. Cell Physiol. 2002, 191:342 350.
【非特許文献22】Paradis, V.; Dargere, D.; Bonvoust, F.: Effects and Regulation of Connective Tissue Growth Factor on Hepatic Stellate Cells, Lab Invest. 2002, 82:767 774.
【非特許文献23】Saxena, N. K.; Ideda, K.; Rockey, D. C.: Leptin in Hepatic Fibrosis: Evidence for Increased Collagen Production in Stellate Cells and Lean Littermates of OB/OB/mice, Hepatology 2002, 35:762 771.
【非特許文献24】Ikejima, K.; Honda, H.; Yoshikawa, M.: Leptin Augments Inflammatory and Profibrogenic Responses in the Murine Liver Induced by Hepatotoxic Chemicals, Hepatology 2001, 34:288 297.
【非特許文献25】Benyon, D.; Arthur, M. J. P.: Extracellular Matrix Degradation and The Role of Stellate Cells, Semin. Liver. Dis. 2001, 21:373 384.
【非特許文献26】Iredale, J. P.: Tissue Inhibitors of Metalloproteinases in Liver Fibrosis, Int. J. Biochem. Cell Biol. 1997, 29:43 54.
【非特許文献27】Marra, F.; Romanelli, R. G.; Pastacaldi, S.: Monocyte Chemotactic Protein-1 as a Chemoattractant for Human Hepatic Stellate Cells, Hepatology 1999, 29:140 148.
【非特許文献28】Ikeda, K.; Wakahara, T.; Wang, Y. Q.: In Vitro Migratory Potential of Rat Quiescent Hepatic Stellate Cells and Its Augmentation by Cell Activation, Hepatology 1999, 29:1760 1767.
【課題を解決するための手段】
【0007】
培養物中で及びin vivoで星型細胞活性化を下流調節する能力に基づいて、肝線維症に罹患している患者の治療として、GLEEVEC(登録商標)を使用できることが予期せぬことに発見された。これは、慢性B型肝炎、C型肝炎、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、アルコール性肝臓病、代謝性肝臓病(ウィルソン病、ヘモクロマトーシス)、胆管閉塞(先天性または後天性)、または未知の原因の線維症と関連した肝臓病を有する患者を含むが、これらに制限されない。
【0008】
一つの特徴点では、本発明は、メシル酸イマチニブの肝線維症を治療する有効量を、そのような治療の必要ある患者に投与することを含む、肝線維症の治療方法を提供する。
【0009】
本発明のこの及び他の特徴点は、この明細書及び添付の特許請求の範囲に照らして、当業者に明らかであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下の議論では、用語「約」または「およそ」は、当業者によって測定された特定の値について許容可能な誤差範囲内を意味し、それは当該値を測定または決定する方法、即ち測定システムの限界、即ち製薬製剤のような特定の目的のために必要とされる正確さの度合いに一部依存するであろう。例えば「約」は、当該技術分野での実施について1以内または1より大きい標準偏差を意味することができる。また別に「約」は、所定の値の20%まで、好ましくは10%まで、より好ましくは5%まで、更により好ましくは1%までの範囲を意味することができる。また別に、特に生物学的システムまたはプロセスに関してこの用語は、値の10倍以内のオーダー、好ましくは5倍以内、より好ましくは2倍以内を意味することができる。特定の値がこの明細書及び特許請求の範囲に記載されているが、他に記載がなければ、この特定の値について許容可能な誤差範囲内を意味する用語「約」が仮定されるべきである。
【0011】
肝線維症の病因の概略、及び活性化肝星型細胞の役割が、以下に提供される。
【0012】
肝傷害は、細胞外マトリックス(ECM)の広い蓄積からなり、当該マトリックスは、正常な肝臓と線維症の肝臓の足場を含む巨大分子を含む。これらの巨大分子は、コラーゲン、糖タンパク質、及びプロテオグリカンの三種の主たるファミリーからなる。正常な肝臓が線維症となるにつれ、有意な質的且つ量的変化がECMで生じる。コラーゲン及び非コラーゲン性成分の含量は、正常な肝臓と比較して肝硬変においては3倍から5倍に増大する。更に内皮下のECMのタイプは、低密度基底膜様マトリックスからI型コラーゲンまたは線維状コラーゲンが豊富である間質タイプへとシフトする。
【0013】
HSC及びそれらの関連細胞タイプ(例えば「筋線維芽細胞」)は、損傷した肝臓における肝ECMの主たる細胞ソースである。HSCが、洞様内皮と肝細胞との間のDisseの内皮下空隙に位置している(非特許文献14)。それらは、腎臓における糸球体間質細胞、肺間葉細胞、及び膵臓における星型細胞と同様に、「筋線維芽細胞」への変換能力を有する周皮細胞を表す(非特許文献17)。
【0014】
いずれかのタイプの肝臓傷害では、HSCは活性化を受け、それは静止期のビタミンAが豊富な細胞から増殖性で、高度に線維状で、収縮性である減少したビタミンA含量を有するの細胞への転移を意味する。HSCの活性化は、肝臓傷害の開始のほぼ直後から始まり、生涯の蓄積の維持を導き得る細胞的且つ分子的な現象の連続性を通じて進行する。別法として、リバージョンまたはアポトーシスを通じた線維症の分解と活性化HSCの欠損は、傷害が自己制限的であれば生じるであろう(非特許文献18)
【0015】
HSC活性化のコンセプトとなるフレームワークは、細胞の応答を開始と不朽化という二つの別個の期を表す(非特許文献14及び15)。開始は、細胞が他のサイトカイン及び刺激に応答できる遺伝子発現と表現型の早期の変化を指す。開始を生じる因子は、主に近隣細胞から由来し、反応性の酸素種と洞様内皮殻由来する特定のマトリックスタンパク質(例えば細胞性フィブロネクチン)から主に由来する。不朽化は、活性化表現型が損傷を生じるように維持させることに関するこれらの刺激の効果から由来する。不朽化は更に、増殖、収縮、線維生成、マトリックスの分解、化学走性、レチノイドの欠損、及び白血球化学誘引を含む細胞の挙動のいくつかの別個の変化に分割できる。上記記載のように、HSCが進行性の肝臓傷害と線維症の間で連続的に進化していることの認識は重要である。最後に、HSC活性化の解明はますます歓迎されており、線維症の可逆性に向けた必須の工程を表す。
【0016】
増殖
β−血小板由来増殖因子(β−PDGF)は、同定されている最も強力で第一の星型細胞マイトジェンである。HSC活性化の早期のβ−PDGFレセプターの誘導は、このマイトジェンに対して関与を与え、それが静止期の星型細胞に対する最小限に活性である(非特許文献19)。特にトロンビン、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、及び線維芽細胞増殖因子(EGF)を含む他のマイトジェンのホストも、星型細胞に対して活性である(非特許文献16)。
【0017】
収縮
HSCの収縮は、肝線維症の間の増大する門静脈の耐性の主たる決定因子であって良いが、HSC収縮の役割は、正常な肝臓血流調節において確立されてはいない(非特許文献20)。HSCに対する主たる収縮性の刺激はエンドセリン−1である。エンドセリンレセプターは、静止期のHSCと活性化HSCの両者で発現しているが、それらのサブタイプの分布は、細胞が活性化すると共に主に「A」から「B」へと変化し、この増殖因子に対する細胞応答の改変を導く。更に、エンドセリン変換酵素によるプロエンドセリンの増大した活性化は、より活性なサイトカインを生ずる(非特許文献21)。
【0018】
線維生成
活性化HSCによる増大したマトリックスの生産は、肝臓傷害の間で関連する線維生成メディエーターに応答して生ずる。マトリックス生産に対する最も強力な刺激は、トランスフォーミング増殖因子(TGF)−β1であり、それはパラクリンとオートクリンの両者のソースから由来し、活性なサイトカインの利用可能性を制御するために活性化の複雑で非常に調節されたメカニズムを有する。線維生成の役割はまた、HSCによるマトリックス生産を刺激するTGF−β1刺激遺伝子である結合組織増殖因子(CTGF)についてカバーされていない(非特許文献22)。更に、脂肪組織で最初に同定された16kDホルモンであるレプチンは、レプチン欠損動物が損傷に引き続く毒性の肝障害を蓄積する能力を欠いているため、線維生成に必要であるようである(非特許文献24及び29)。興味深いことにHSCはそれら自身のレプチンを生成し、それらが活性化するにつれてこのホルモンに対するシグナリングレセプターを発現し、オートクリンループの成分を提供する。循環中のレプチン濃度は脂肪重量と緊密に相関しており、肥満症の患者で有意に増大するため、肥満症である患者においてレプチンの線維生成作用は特に重要である。かくして、増大したレプチン濃度は、肥満症患者における脂肪肝とNASHとますます関連する線維症に寄与するであろう。
【0019】
マトリックス分解
マトリックスプロテアーゼ活性の質的且つ量的変化は、線維症を患っている肝臓傷害に伴うECMリモデリングにおいて重要な役割を果たし、主にHSCによって調節されている(非特許文献12)。進行性の線維症では、マトリックスの生産とマトリックスの分解との間のバランスが、増大した線維生成とマトリックス分解の阻害の両者を通じて明らかに生産を嗜好している。特にコラーゲンと非コラーゲン性基質を分解するマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)の大きなファミリーが特徴づけされている。特にHSCは、MMP−2、並びにストロメリシン/MMP−3の鍵となるソースであり、この両者は正常な内皮下マトリックスの成分を分解し、線維状コラーゲンによる置換を急ぐ。重要なことに、メタロプロテイナーゼ−1及び−2の組織インヒビター(TIMP−1及び−2)の活性化を通じて、活性化HSCはまた、線維状コラーゲンを分解する間質性コラゲナーゼの活性を阻害でき、かくして線維状マトリックスの蓄積を嗜好する(非特許文献26)
【0020】
化学走性
HSCは、サイトカイン化学誘引剤に対して移動でき、その作用は他の組織中の損傷浸透化間葉細胞でも同様に特徴的である。化学走性メディエーターは、PDGF及び単球化学誘引剤タンパク質−1(MCP−1)を含む(非特許文献27及び28)。
【0021】
レチノイド欠損
HSCが活性化するにつれて、それらはその特徴的な核周辺レチノイド(ビタミンA)を欠損し、より線維芽細胞の外観を獲得する。レチノイドの欠損がHSC活性化の進行に必要であるかが不明であるため、この経路はHSC活性化の幾分不思議な特徴のままである。そうだとしたら、レチノイド欠損のインヒビターが同定されると、HSC活性化に拮抗するために使用できるかもしれない。
【0022】
白血球化学誘引及びサイトカイン放出
サイトカインの増大した生産または活性は、HSC活性化のオートクリンとパラクリンの両者の不朽化に必須であろう。興味深いことに、活性化HSCに作用する全ての鍵となるサイトカインがオートクリンであるようであり、HSC活性化に拮抗する治療上の努力は、活性である内皮下媒質に到達しなければならないことを示唆する。更にHSGは、ク誘引剤の放出を通じて、単核及び多形核白血球の浸透を誘導することにより炎症応答を増幅することができる。
【0023】
メシル酸イマチニブ
GLEEVEC(登録商標)は、カプセル形態または皮膜被覆錠剤形態で入手可能であり、各形態(カプセルまたは錠剤)は、100mgまたは400mgのイマチニブ遊離塩基に等しいメシル酸イマチニブを含む。メシル酸イマチニブを化学的に命名すると、4-[(-フェニル]ベンズアミドメタンスルホナートであり、その構造式は4-メチル-1-ピペラジニル)メチル[-N-[4-メチル-3-[[4-(3-ピリジニル)-2-ピリミジニル]アミノ]-フェニル]ベンズアミドメタンスルホナートである。
【0024】
メシル酸イマチニブは、慢性ミエロイド白血病(CML)におけるフィラデルフィア染色体異常によって形成される構成的な異常チロシンキナーゼであるBcr−Ab1チロシンキナーゼを阻害するプロテイン−チロシンキナーゼインヒビターである。それは増殖を阻害し、Bcr−Ab1ポジティブ細胞系、並びにフィラデルフィア染色体ポジティブ慢性ミエロイド白血病由来の新鮮な白血球細胞においてアポトーシスを誘導する。抹消血及び骨髄サンプルをex vivoで使用するコロニー形成アッセイでは、イマチニブはCML患者由来のBcr−Ab1ポジティブコロニーの阻害を示す。
【0025】
in vivoでは、それはBcr−Ab1トランスフェクト化げっ歯類ミエロイド細胞、並びに急性転化におけるCML患者から由来するBcr−Ab1ポジティブ白血病系の腫瘍増殖を阻害する。
【0026】
イマチニブはまた、血小板由来増殖因子(PDGF)および幹細胞因子(SCF)、c−kitに対するレセプターチロシンキナーゼのインヒビターでもあり、PDGF−及びSCF−介在性細胞現象を阻害する。in vitroでは、イマチニブは増殖を阻害し、c−kitミューテーションを発現して活性化している胃腸ストロマ腫瘍(GIST)細胞においてアポトーシスを誘導する。
【0027】
肝線維症を治療するのに有効なGLEEVEC(登録商標)の量は、経口的に投与して一日当たり約50mgから約600mgの間、好ましくは約50mgから約200mgの間の広範な範囲であろう。この好ましい投与量範囲の正当化は、CML及び胃腸ストロマ腫瘍(GIST)についてのFDAが承認したGLEEVEC(登録商標)の投与量に基づき、それらはそれぞれ一日当たり400mgと600mgである。CML及びGISTの治療が、GLEEVEC(登録商標)がその標的(骨髄及び腫瘍)に到達するために当該薬剤の高い投与量を必要とするのに対し、経口投与及び腸での吸収に引き続き、肝臓において前記薬剤が比較的高濃度であるため、肝臓はより低投与量で有効に標的化されるはずである。これらのより低いGLEEVEC(登録商標)の投与量は、肝臓及び他の器官の両者で毒性の危険を最小化するはずである。肝線維症は慢性肝障害から生ずる疾患であるため、患者の寿命に亘るGLEEVEC(登録商標)での治療が単独で考慮され、または慢性肝障害の原因を撲滅または減少する目的の治療、例えばアルファインターフェロン(Hoffman LaRoche, Nutley, NJ, Schering-Plough, Kenilswirth, NJ)のような抗ウイルス医薬と組み合わせて考慮される。
【0028】
肝線維症の治療を確立することは、巨大な潜在的な経済効果を有する。現在では、アメリカ合衆国では慢性HCV感染を有する400万人を超える患者が存在し、その全てが線維症と肝硬変の危険を有している。伝統的な見積もりでは、1億人までの患者が世界中で感染しているだろうと示される。更に、慢性B型肝炎、住血吸虫病、及び免疫疾患は、特に極東及びアフリカで数億人以上の患者に罹患している、肝線維症の理解の安定な進歩と共に、医師と患者のコミュニティーが、前記治療における進歩を懸念して待ち望んであり、その見通しに非常に受容的である。
【0029】
現在では、肝線維症から由来する急激に加速している世界中の死亡率にもかかわらず、慢性肝臓病を有する患者における肝線維症の承認された治療は存在していない。GLEEVEC(登録商標)は、優秀な安全性のプロフィールですでに生成した大量の安全性データという独特の利点を有し、経口利用可能性は肝臓への送達を非常に有効にするものであり、毒性を最小化する減少した投与量の使用を許容する。更に大量の薬力学的及び臨床的な情報がこの薬剤について蓄積している。
【0030】
本発明は、その範囲を制限しないで本発明を更に記載することを企図した実施例において以下に記載される。
【実施例】
【0031】
抗線維症治療としてのGLEEVEC(登録商標)の使用
肝生検で観察して肝線維症(傷害)の証拠を有する患者をGLEEVEC(登録商標;メシル酸イマチニブ)で治療する。典型的に、これらは慢性C型肝炎、B型肝炎、自己免疫肝硬変、代謝性疾患または脂肪肝、及び肥満症で観察される傷害を有する患者であるが、いずれも線維症と関連する慢性肝臓病の指標である。一日当たり50mgから200mgの範囲、医学的投与量として一日当たり100mgの投与量を経口的に投与する。GLEEVEC(登録商標)治療の効力は、治療の間の所定の間隔(1-2年毎)での肝生検と組み合わせた、線維症マーカーの非侵襲性の血清学的試験を使用して評価する。
【0032】
本発明は、ここに記載された特定の実施態様によってその範囲を制限されるものではない。実施、本発明、更にはここに記載されたものの各種の変形例が、前述の記載及び添付の図面から当業者に明らかであろう。そのような変形例は、添付の特許請求の範囲に含まれると企図される。
【0033】
更に、全ての値は概数であり、記述のために提供されたものであることが理解されるべきである。
【0034】
特許、特許出願、文献、製品の記載、及びプロトコールがこの明細書を通じて引用されており、その開示は、全ての目的のために完全に参考としてここに取り込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メシル酸イマチニブの肝線維症を治療する有効量を、そのような治療の必要ある患者に投与することを含む、患者における肝線維症の治療方法。
【請求項2】
前記有効量が一日当たり患者当たり約50mgから約600mgの間のメシル酸イマチニブの範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有効量が一日当たり患者当たり約50mgから約200mgの間のメシル酸イマチニブの範囲である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
メシル酸イマチニブが経口的に投与される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
抗ウイルス医薬を投与することを更に含む、請求項4に記載の方法。

【公表番号】特表2007−514785(P2007−514785A)
【公表日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−545720(P2006−545720)
【出願日】平成16年12月6日(2004.12.6)
【国際出願番号】PCT/US2004/040880
【国際公開番号】WO2005/065690
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(502375437)マウント シナイ スクール オブ メディスン オブ ニューヨーク ユニバーシティー (11)
【Fターム(参考)】