説明

メソポーラスシリカ、及びメソポーラスシリカの製造方法

【課題】高い調湿性能を有するメソポーラスシリカを提供する。
【解決手段】細孔径(横軸)−細孔容量(縦軸)の分布曲線において3〜20nmの細孔径の範囲内に細孔容量の最大値を有し、かつ、全細孔容量が0.5〜2.0cm/gである、高い調湿性能を有するメソポーラスシリカ。
上記メソポーラスシリカはシリカ含有鉱物とアルカリ水溶液を混合して、液分中にSiを特定の濃度になるように溶解させた後、不純物を、アルカリ性スラリーの形態下で析出させ、その後、固液分離によって得られた液分と、酸を、特定の液温及びpHで混合してSiをゲルとして析出させ、その後、固液分離によって得られた固形分と、酸溶液を、特定の温度で混合して、不純物を溶解させることで得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ含有鉱物を原料として用いる、メソポーラスシリカ、及びメソポーラスシリカの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メソポーラスシリカとは、2〜50nmの細孔径を有するシリカのことであり、細孔の径や形状に応じて、選択的な吸着作用等を有するものである。
従来のメソポーラスシリカは、平均細孔径が7nm以下または20〜30nmで、かつ全細孔容量が1.0cm/g以下である。
また、従来のメソポーラスシリカの製造方法は、天然の石英を原料に珪酸アルカリを製造した後、この珪酸アルカリをシリカ源として、界面活性剤を用いてシリカゲル骨格を形成し、次いで、焼成によって界面活性剤を分解し除去することにより、メソポーラスシリカを得るものである。
例えば、市販されているシリカゲルは、A型で平均細孔直径が4.4〜5.2nm、全細孔容量が0.40〜0.45cm/gであり、B型で平均細孔直径が20〜30nm、全細孔容量が0.80〜1.00cm/gである(非特許文献1)。
【0003】
一方、メソポーラスシリカについて、近年、種々の新たな技術が開発されている。
一例として、シリカ源をカチオン系界面活性剤の存在下に処理することからなるメソポーラスシリカの製造方法において、ケイ酸アルカリ溶液とカチオン系界面活性剤とを、pHが12よりも大きいアルカリ性水性媒体中で加熱混合し、得られる溶液に酸を添加してそのpHを8以上で10.5未満に調節し、次いでシリカとカチオン系界面活性剤との複合物を常圧で沈殿として析出させることを特徴とする高耐熱性メソポーラスシリカの製造方法が提案されている(特許文献1)。
この製造方法で得られるメソポーラスシリカは、細孔径20〜40オングストロームに細孔容積の極大値を有するものである。また、この製造方法で得られるメソポーラスシリカの細孔容積は、焼成温度によっても相違するが、一般に、細孔径10〜50オングストロームの範囲において、一般に0.1〜0.5cm/g、特に0.2〜0.4cm/gの範囲内にある。
なお、この文献の実施例には、細孔容積が0.18〜0.28cm/gのメソポーラスシリカが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−53413号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本化学会編「化学便覧(応用化学編)」、丸善
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
調湿剤は、例えば相対湿度90%程度の高湿度下では高い吸湿性能を示すとともに、例えば相対湿度50%程度の低湿度下では高い放湿性能を有することが好ましい。
しかし、細孔径が3nm未満のメソポーラスシリカは、相対湿度50%の低湿度下における吸湿率が大きく、調湿剤としては不向きである。一方、細孔径が20nmを超えると相対湿度90%の高湿度下における吸湿率が小さいという不具合がある。
そこで、本発明は、高い調湿性能を有するメソポーラスシリカを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、シリカ含有鉱物とアルカリ水溶液を混合して、液分中にSiを特定の濃度になるように溶解させた後、不純物を、アルカリ性スラリーの形態下で析出させ、その後、固液分離によって得られた液分と、酸を、特定の液温及びpHで混合してSiをゲルとして析出させ、その後、固液分離によって得られた固形分と、酸溶液を、特定の温度で混合して、不純物を溶解させることで、高い調湿性能を有するメソポーラスシリカが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[5]を提供するものである。
[1] 細孔径(横軸)−細孔容量(縦軸)の分布曲線において3〜20nmの細孔径の範囲内に細孔容量の最大値を有し、かつ、全細孔容量が0.5〜2.0cm/gであるメソポーラスシリカ。
[2] 前記[1]に記載のメソポーラスシリカの製造方法であって、(A)シリカ含有鉱物とアルカリ水溶液を混合して、pHが11.5以上のアルカリ性スラリーを調製し、液分中のSi濃度が10〜70g/リットルとなるように、上記シリカ含有鉱物中のSiを液分中に溶解させた後、上記アルカリ性スラリーを固液分離して、Siを含む液分と、固形分を得るアルカリ溶解工程と、(B)前記Siを含む液分と酸を混合して、液温を10〜90℃に、かつpHを7.0〜10.3に調整し、液分中のSiをゲルとして析出させた後、固液分離を行い、SiOを含む固形分と、液分を得るシリカ回収工程と、(C)工程(B)で得られたSiOを含む固形分と酸溶液を混合して、液温を40〜90℃に、かつpHが1.3以下の酸性スラリーを調製し、上記固形分中に残存するAl、Feを溶解させた後、上記酸性スラリーを固液分離して、SiOを含む固形分と、Al、Feを含む液分を得る酸洗浄工程を含み、かつ、工程(A)における液分中のSi濃度(g/リットル)の値(X)と、工程(B)における液温(℃)の値(Y)を積算した値(XY)が3000以下である、メソポーラスシリカの製造方法。
[3] さらに、(A1)工程(A)の前に、シリカ含有鉱物を500〜1100℃で焼成して、有機物を除去する原料焼成工程を含む、前記[2]に記載のメソポーラスシリカの製造方法。
[4] さらに、(B1)工程(A)と工程(B)の間に、工程(A)で得られた液分と酸を混合して、pHを、10.3を超え、11.5未満に調整し、液分中のAl、Feを析出させた後、固液分離を行い、Siを含む液分と、Al、Feを含む固形分を得る不純物回収工程を含む、前記[2]又は[3]に記載のメソポーラスシリカの製造方法。
[5] さらに、(D)工程(C)で得られたSiOを含む固形分を、100℃以上、1000℃未満で乾燥または焼成する乾燥/焼成工程を含む、前記[2]〜[4]のいずれかに記載のメソポーラスシリカの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のメソポーラスシリカは、高い調湿性能を有する。
また、本発明のメソポーラスシリカの製造方法によれば、シリカ含有鉱物を原料として用いて、簡易な工程で効率良く、しかも低コストで高い調湿性能を有するメソポーラスシリカを製造することができる。
さらに、本発明で得られたメソポーラスシリカは、シリカの含有量が高く、また鉄(Fe)、アルミニウム(Al)等の不純物の含有率が低いという特長がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の高純度シリカの製造方法の実施形態の一例を示すフロー図である。
【図2】珪質頁岩の一例についてのCu−Kα線による粉末X線の回折強度を示すグラフである。
【図3】珪質頁岩の一例についてのオパールCTの半値幅を示すグラフである。
【図4】本発明のメソポーラスシリカの細孔径分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のメソポーラスシリカの製造方法について、詳しく説明する。
なお、以下の工程(A1)〜工程(D)中、工程(A)、(B)及び(C)は、本発明において必須の工程であり、工程(A1)、(B1)及び(D)は、本発明において必須ではなく、任意で追加可能な工程である。
[工程(A1);原料焼成工程]
工程(A1)は、シリカ含有鉱物を500〜1100℃で焼成して、有機物を除去する工程である。焼成温度は好ましくは600〜1100℃、より好ましくは800〜1100℃である。焼成時間は、特に限定されないが、例えば0.5〜10時間である。
なお、原料焼成工程(A1)の前に、シリカ含有鉱物を水洗して、粘土分及び有機物を除去する工程を設けても良い。この場合、水洗後のシリカ含有鉱物は、通常、フィルタープレス等を用いて脱水させる。
シリカ含有鉱物としては、珪藻土、珪質頁岩等が挙げられる。シリカ含有鉱物は、アルカリに対する溶解性が高いことが望ましい。
ここで、珪藻土とは、珪藻が海底や湖底に沈積し、長い年月の間に体内の原形質その他の有機物が分解し、非晶質シリカを主体とした珪藻殻が集積して堆積したものである。
珪質頁岩とは、珪藻土などの泥質堆積岩中の珪質の生物遺骸等の殻が、時間の経過や温度・圧力の変化などに伴い、続成作用により変質して、硬岩化することにより珪質頁岩となる。なお、珪質堆積物中のシリカは、続成作用によって、非晶質シリカから、結晶化してクリストバライト、トリディマイトへ、さらに石英へと変化する。
【0012】
珪藻土は、主に非晶質シリカであるオパールAからなる。珪質頁岩は、オパールAより結晶化が進んだオパールCTまたはオパールCを主に含む。オパールCTとは、クリストバライト構造とトリディマイト構造からなるシリカ鉱物である。オパールCとは、クリストバライト構造からなるシリカ鉱物である。このうち、本発明では、オパールCTを主とする珪質頁岩が好ましく用いられる。
さらに、Cu−Kα線による粉末X線回折において、石英の2θ=26.6degのピーク頂部の回折強度に対するオパールCTの2θ=21.5〜21.9degの回折強度は、石英を1とした場合の比率で0.2〜2.0の範囲が好ましく、0.4〜1.8の範囲がより好ましく、0.5〜1.5の範囲が更に好ましい。該値が0.2に満たない場合には、反応性に富むオパールCTの量が少ないため、シリカの収量が低下する。一方、該値が2.0を超える場合には、オパールCTの量が石英よりはるかに多くなり、このような珪質頁岩は資源的に少なく、経済性に劣る。
なお、石英に対するオパールCTの回折強度の比率は、以下の式で求める。
石英に対するオパールCTの回折強度の比率=(21.5〜21.9degのピーク頂部の回折強度)/(26.6degのピーク頂部の回折強度)
また、珪質頁岩のCu−Kα線による粉末X線回折において、オパールCTの2θ=21.5〜21.9degのピークの半値幅は0.5°以上が好ましく、0.75°以上がより好ましく、1.0°以上がさらに好ましい。該値が0.5°未満では、オパールCTの結晶の結合力が増大し、アルカリとの反応性が低下して、シリカの収量が減少する。ここで、半値幅とは、ピーク頂部の回折強度の1/2に位置する回折線の幅をいう。
本発明で用いる珪質頁岩は、シリカ含有率が70質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましい。このような珪質頁岩を用いることにより、より高純度のメソポーラスシリカを低コストで製造することができる。
シリカ含有鉱物は、例えば、珪質頁岩等のシリカ含有岩石を粉砕装置(例えば、ジョークラッシャー、トップグラインダーミル、クロスビーターミル、ボールミル等)で粉砕することによって得ることができる。
シリカ含有鉱物の粉砕後の粒径は、アルカリとの反応性の観点から、好ましくは4mm以下、より好ましくは2mm以下である。なお、粒度とは、最大寸法(例えば断面が楕円の場合、長径)をいう。
なお、工程(A1)は、有機物が多い場合に前処理工程として付加されるものである。
【0013】
[工程(A);アルカリ溶解工程]
工程(A)は、シリカ含有鉱物とアルカリ水溶液を混合して、pHが11.5以上のアルカリ性スラリーを調製し、液分中のSi濃度が10〜70g/リットルとなるように、上記シリカ含有鉱物中のSiを液分中に溶解させた後、上記アルカリ性スラリーを固液分離して、Siを含む液分と、固形分を得るアルカリ溶解工程である。
シリカ含有鉱物とアルカリ水溶液を混合してなるアルカリ性スラリーのpHは、11.5以上、好ましくは12.5以上、より好ましくは13.0以上となるように調整される。該pHが11.5未満であると、シリカを十分に溶解させることができず、シリカが固形分中に残存してしまうため、得られるシリカの収量が減少する。
pHを上記数値範囲内に調整するためのアルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等が用いられる。
スラリーの固液比(アルカリ水溶液1リットルに対するシリカ含有鉱物の質量)は、好ましくは150〜350g/リットル、より好ましくは200〜300g/リットルである。該固液比が150g/リットル未満では、スラリーの固液分離に要する時間が増大するなど、処理効率が低下する。該固液比が350g/リットルを超えると、シリカ等を十分に溶出させることができないことがある。
スラリーは、通常、所定時間(例えば、30〜90分間)攪拌される。
攪拌後のスラリーは、フィルタープレス等の固液分離手段を用いて、固形分と液分に分離される。液分は、Si、Al、Fe等を含むものであり、後工程で処理される。
液分に含まれるSiの濃度は、10〜70g/リットル、好ましくは15〜65g/リットル、特に好ましくは20〜60g/リットルである。Si濃度が10g/リットル未満であると、目的とする細孔径分布を有するメソポーラスシリカが得られず、調湿機能が低下する。Si濃度が70g/リットルを超えると、目的とする細孔径分布を有するメソポーラスシリカが得られず、調湿機能が低下する。
工程(A)においてアルカリ性スラリーを得る際の液温は、工程(A)における処理効率、及びエネルギーコストを考慮すると、30〜100℃に保持されることが好ましく、35〜80℃に保持されることがより好ましく、40〜70℃に保持されることが特に好ましい。
【0014】
[工程(B1);不純物回収工程]
工程(B1)は、工程(A)で得られた液分と酸を混合して、pHを、10.3を超え、11.5未満に調整し、液分中のSi以外の不純物(例えば、Al及びFe)を析出させた後、固液分離を行い、Siを含む液分と、固形分を得る工程である。
なお、本工程で回収されずに液分中に残存する不純物は、工程(B)以降の工程で回収される。
工程(B1)において、酸との混合後の液分のpHは、10.3を超え、11.5未満、好ましくは10.4以上、11.0以下、特に好ましくは10.5以上、10.8以下である。該pHが10.3以下であると、不純物(例えば、Al及びFe)と共にSiも析出してしまう。一方、該pHが11.5以上では、十分に析出せずに液分中に残存する不純物(例えば、Al及びFe)の量が多くなる。
pHを上記数値範囲内に調整するための酸としては、硫酸、塩酸、シュウ酸等が用いられる。
pH調整後、フィルタープレス等の固液分離手段を用いて、固形分と液分に分離する。
このうち、固形分(ケーキ)は、不純物(例えば、Al及びFe)を含むものである。
液分は、Siを含むものであり、次の工程(B)で処理される。
なお、工程(B1)においてpH調整を行う際の液温は、35〜100℃に保持されることが好ましく、35〜85℃に保持されることが、エネルギーコストの観点から、より好ましい。液温を上記範囲内とすることにより、処理効率を高めることができる。
【0015】
[工程(B);シリカ回収工程]
工程(B)は、前工程で得られたSiを含む液分と酸を混合して、液温を10〜90℃に、かつpHを7.0〜10.3に調整し、液分中のSiをゲルとして析出させた後、固液分離を行い、SiOを含む固形分と、液分を得る工程である。
該液温が10℃未満では、全細孔容量が小さくなるとともに、目的とする細孔径分布を有するメソポーラスシリカが得られず、調湿機能が低下する。該液温が90℃を超えると、全細孔容量が小さくなるとともに、目的とする細孔径分布を有するメソポーラスシリカが得られず、調湿機能が低下する。
液分と酸の混合液のpHは、7.0〜10.3、好ましくは9.0〜10.3である。該pHが7.0未満では、シリカの収量は増大せずに、酸の使用量が多くなるため、薬剤コストの観点から好ましくない。一方、該pHが10.3を超えると、十分にシリカが析出せずに液分中に残存するため、得られるシリカの収量が減少する。
pHを上記数値範囲内に調整するための酸としては、硫酸、塩酸等が用いられる。
pH調整後、フィルタープレス等の固液分離手段を用いて、固形分と液分とに分離する。
固形分は、SiOを含むものである。
本発明の製造方法において、工程(A)における液分中のSi濃度(g/リットル)の値(X)と、工程(B)における液温(℃)の値(Y)を積算した値(XY)は3000以下であり、好ましくは2500以下であり、より好ましくは2100以下である。
該積算値が、3000を超えると、得られたメソポーラスシリカは、後述する細孔径(横軸)−細孔容量(縦軸)の分布曲線において、細孔径が20nmを超える範囲に細孔容量の最大値を有し、調湿機能が低くなる。
【0016】
[工程(C);酸洗浄工程]
工程(C)は、工程(B)で得られたSiOを含む固形分と酸溶液を混合して、液温を40〜90℃に、かつpHが1.3以下の酸性スラリーを調製し、上記固形分中に残存するAl、Feを溶解させた後、上記酸性スラリーを固液分離して、SiOを含む固形分と、Al、Feを含む液分を得る工程である。
工程(B)で得られたシリカ(SiO)を含む固形分は、Al、Fe等の不純物が低減されたシリカである。この固形分に対して、工程(C)を行うことにより、高純度のシリカを得ることができる。
酸性スラリーの液温は、40〜90℃、好ましくは40〜85℃、より好ましくは40〜80℃である。該液温が40℃未満では、全細孔容量が小さくなる。該液温が90℃を超えると、エネルギーコストが増大する。
酸性スラリーのpHは、1.3以下、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.0以下、さらに好ましくは0.5以下、特に好ましくは0.1以下である。酸性スラリーのpHを1.3以下とすれば、上記温度範囲内に調整して酸洗浄を行うことにより、工程(B)で得られた固形分中にわずかに残存するアルミニウム分、鉄分等の不純物を溶解して液分中へ移行させることができ、高純度のシリカを得ることができる。
酸性スラリーのpHの下限値は、好ましくは−1.0、より好ましくは−0.5である。
本発明において、酸性スラリーのpHを好ましくは−1.0〜0.5、より好ましくは−0.5〜0.1に調整することによって、細孔径の分布を狭く維持しつつ、全細孔容量を大きくすることができる。
pHを上記数値範囲内に調整するための酸としては、硫酸、塩酸等が用いられる。
pH調整後、フィルタープレス等の固液分離手段を用いて、固形分と液分に分離する。
【0017】
[工程(D);乾燥/焼成工程]
工程(D)は、工程(C)で得られたSiOを含む固形分を、100℃以上、1000℃未満で乾燥または焼成する工程である。乾燥または焼成の温度は、100℃以上、1000℃未満、好ましくは500〜900℃、より好ましくは600〜800℃である。
該温度が100℃未満では、SiOを含む固形分中の水分を十分に除去するのに長時間を要し、処理効率が低下する。該温度が1000℃以上であると、SiOを含む固形分のBET比表面積および全細孔容量が減少し、調湿率が減少する。
600℃以上で焼成することにより、SiOを含む固形分中に僅かに残存する有機物の量を低減させることができる。
また、本発明のメソポーラスシリカは、600℃以上で焼成しても高い調湿率を有する。
乾燥または焼成の時間は、特に限定されないが、例えば1時間〜24時間である。
【0018】
本発明の製造方法によって得られるメソポーラスシリカは、細孔径(横軸)−細孔容量(縦軸)の分布曲線において3〜20nmの細孔径の範囲内に細孔容量の最大値を有し、かつ、全細孔容量が0.5〜2.0cm/gのものである。
細孔容量の最大値を有する細孔径の範囲は、3〜20nm、好ましくは4〜15nm、より好ましくは5〜10nmである。
細孔径が3nm未満では、相対湿度(RH)50%における吸湿率が大きいため、調湿性能は低くなる。細孔径が20nmを超えると、相対湿度(RH)90%における吸湿率が小さいため、調湿性能は低くなる。
本発明の製造方法によって得られるメソポーラスシリカの全細孔容量は、0.5〜2.0cm/g、好ましくは0.6〜1.5cm/g、特に好ましくは0.75〜1.2cm/gである。0.5cm/g未満では、水分吸着量が少なくなる。2.0cm/gを超えると、製造コストが高くなる。
なお、本明細書において、全細孔容量とは、本発明のメソポーラスシリカの単位質量当りの細孔の容量(容積)をいい、具体的には、窒素吸着法による窒素相対圧0〜0.99での測定結果を、BJH法で解析することによって求めることができる。
【0019】
本発明で得られるメソポーラスシリカは、20℃の温度下で、相対湿度を50%から90%に変化させたときに、吸湿率が増大する。吸湿率の増大の程度(以下、「調湿率(吸湿)」という。)は、好ましくは30%以上、より好ましくは35%以上、特に好ましくは40%以上である。該値が大きいほど、高湿時の本発明のメソポーラスシリカによる湿度低減効果が大きく、好ましい。
本発明で得られるメソポーラスシリカは、20℃の温度下で、相対湿度を90%から50%に変化させたときに、吸湿率が減少する。吸湿率の減少の程度(以下、「調湿率(放湿)」という。)は、好ましくは20%以上、より好ましくは25%以上、特に好ましくは30%以上である。該値が大きいほど、低湿時の本発明で得られるメソポーラスシリカによる湿度増大効果が大きく、好ましい。
なお、本明細書において、吸湿率とは、一定の相対湿度下において、メソポーラスシリカに含まれる水分の量が増減せずに平衡状態に達したときの、乾物重量(100質量%)に対する水分の量(%)をいう。ここで、乾物重量とは、105℃で24時間乾燥後のメソポーラスシリカの質量をいう。
また、本発明のメソポーラスシリカは、シリカ(SiO)の含有率が高く、またアルミニウム、鉄等の不純物の含有率が低いものである。
本発明のメソポーラスシリカ中のSiOの含有率は、好ましくは99.0質量%以上である。本発明のメソポーラスシリカ中のAl、Feの含有率は、各々、好ましくは5,000ppm以下、500ppm以下である。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[調湿率測定方法]
105℃で24時間乾燥させたメソポーラスシリカ1gを蓋付きの秤量瓶に量り取る。20℃、50%RHに設定した恒温恒湿槽に、蓋を開けた状態で秤量瓶を入れて24時間吸湿させたのちに秤量瓶の蓋を閉め、試料重量(1)(g)を測定する。次いで、恒温恒湿槽を20℃、90%RHに設定を変え、同様の手順で吸湿させて、試料重量(2)(g)を測定する。次いで、恒温恒湿槽を再び20℃、50%RHに設定し、同様の手順で放湿させて、試料重量(3)(g)を測定する。測定した試料重量を元に、下記式(1)及び(2)を用いて、調湿率(吸湿)及び調湿率(放湿)を測定する。
調湿率(吸湿)(質量%)=[{試料重量(2)−1}−{試料重量(1)−1}]÷1×100・・・(1)
調湿率(放湿)(質量%)=[{試料重量(2)−1}−{試料重量(3)−1}]÷1×100・・・(2)
[実施例1]
珪質頁岩(成分組成;SiO:80質量%、Al:10質量%、Fe:5質量%)を、ボールミルを用いて粉砕し、珪質頁岩粉末(最大粒径:0.5mm)を得た。
原料として使用した珪質頁岩について、Cu−Kα線による粉末X線の回折強度、オパールCTの半値幅を、粉末X線回折装置(株式会社リガク製、RINT2000)を用いて測定した。回折強度を図2に、半値幅を図3にそれぞれ示す。使用した珪質頁岩は、石英の2θ=26.6degのピーク頂部の回折強度に対するオパールCTの2θ=21.5〜21.9degのピーク頂部の回折強度の比率が、0.68であった。また、オパールCTの半値幅は、1.4°であった。
次いで、得られた珪質頁岩粉末250gと、2.5Nの水酸化ナトリウム水溶液1000gを混合して、60分間混合撹拌し、pHが13.5であるスラリー(液温:60℃)を得た。
このスラリーを減圧下でブフナー漏斗で固液分離し、Si濃度が30g/リットルの液分700gを得た。
次いで、得られた液分に対して98%硫酸を添加して、pHを10.5に調整した後、減圧下でブフナー漏斗で固液分離し、鉄、アルミニウム等を含む含水固形分10gと、Siを含む液分700gを得た。
次に、得られた液分に対して98%硫酸を添加して、pHを10.3に調整し、ゲルを析出させた。この際、液温を70℃に保持した。
得られた粗製シリカに対して、70℃の液温を保持しつつ、98%硫酸溶液35gを添加して、pHが−0.1のスラリーとした。このスラリーを固液分離した後に、蒸留水を用いて水洗した。その後、105℃で1日乾燥させ、メソポーラスシリカ(精製シリカ)70gを得た。
得られたメソポーラスシリカの全細孔容量は0.83cm/gであった。また、細孔径と細孔容量の関係を示すグラフを図4に示す。
また、得られたメソポーラスシリカの調湿率(吸湿及び放湿)を、上記調湿率測定方法に従って測定した。結果を表1に示す。
メソポーラスシリカ中のSiO、Al、Feの含有率は、各々、99.9%、500ppm、4ppmであった。
【0021】
[実施例2]
実施例1と同様にして得られた珪質頁岩粉末250gと、2.5N水酸化ナトリウム水溶液700gを混合して、60分間混合撹拌し、pHが13.5であるスラリーを得た。
このスラリーを減圧下でブフナー漏斗で固液分離し、Siの濃度が50g/リットルの液分300gを得た。
次いで、得られた液分に対して98%硫酸を添加して、pHを10.5に調整した後、減圧下でブフナー漏斗で固液分離し、Fe、Al等を含む含水固形分5gと、Siを含む液分300gを得た。
次に、得られた液分に対して98%硫酸を添加して、pHを10.3に調整し、ゲルを析出させた。この際、液温を10℃に保持した。
得られた粗製シリカに対して、70℃の液温を保持しつつ、98%硫酸溶液15gを添加して、pHが−0.1のスラリーとした。このスラリーを固液分離した後に、蒸留水を用いて水洗した。その後、105℃で1日乾燥させ、メソポーラスシリカ(精製シリカ)30gを得た。
得られたメソポーラスシリカの全細孔容量は1.02cm/gであった。また細孔径と細孔容量の関係を示すグラフを図4に示す。
また、得られたメソポーラスシリカの調湿率(吸湿及び放湿)を、上記調湿率測定方法に従って測定した。結果を表1に示す。
メソポーラスシリカ中のSiO、Al、Feの含有率は、各々、99.9%、700ppm、10ppmであった。
【0022】
[実施例3]
実施例1と同様にして得られた珪質頁岩粉末250gと、2.5N水酸化ナトリウム水溶液1000gを混合して、60分間混合撹拌し、pHが13.5であるスラリーを得た。
このスラリーを減圧下でブフナー漏斗で固液分離し、Siの濃度が30g/リットルの液分700gを得た。
次いで、得られた液分に対して98%硫酸を添加して、pHを10.5に調整した後、減圧下でブフナー漏斗で固液分離し、Fe、Al等を含む含水固形分10gと、Siを含む液分700gを得た。
次に、得られた液分に対して98%硫酸を添加して、pHを10.3に調整し、ゲルを析出させた。この際、液温を10℃に保持した。
得られた粗製シリカに対して、70℃の液温を保持しつつ、98%硫酸溶液35gを添加して、pHが−0.1のスラリーとした。このスラリーを固液分離した後に、蒸留水を用いて水洗した。その後、105℃で1日乾燥させ、メソポーラスシリカ(精製シリカ)70gを得た。
得られたメソポーラスシリカの全細孔容量は0.76cm/gであった。また細孔径と細孔容量の関係を示すグラフを図4に示す。
また、得られたメソポーラスシリカの調湿率(吸湿及び放湿)を、上記調湿率測定方法に従って測定した。結果を表1に示す。
メソポーラスシリカ中のSiO、Al、Feの含有率は、各々、99.9%、400ppm、5ppmであった。
【0023】
[比較例1]
実施例1と同様にして得られた珪質頁岩粉末250gと、2.5N水酸化ナトリウム水溶液700gを混合して、60分間混合撹拌し、pHが13.5であるスラリーを得た。
このスラリーを減圧下でブフナー漏斗で固液分離し、Siの濃度が50g/リットルの液分300gを得た。
次いで、得られた液分に対して98%硫酸を添加して、pHを10.5に調整した後、減圧下でブフナー漏斗で固液分離し、Fe、Al等を含む含水固形分5gと、Siを含む液分300gを得た。
次に、得られた液分に対して98%硫酸を添加して、pHを10.3に調整し、ゲルを析出させた。この際、液温を70℃に保持した。
得られた粗製シリカに対して、70℃の液温を保持しつつ、98%硫酸溶液15gを添加して、pHが−0.1のスラリーとした。このスラリーを固液分離した後に、蒸留水を用いて水洗した。その後、105℃で1日乾燥させ、メソポーラスシリカ(精製シリカ)30gを得た。
得られたメソポーラスシリカの全細孔容量は1.58cm/gであった。また細孔径と細孔容量の関係を示すグラフを図4に示す。
また、得られたメソポーラスシリカの調湿率(吸湿及び放湿)を、上記調湿率測定方法に従って測定した。結果を表1に示す。
メソポーラスシリカ中のSiO、Al、Feの含有率は、各々、99.9%、800ppm、10ppmであった。
【0024】
[実施例4]
実施例3と同様にして得られたメソポーラスシリカを、105℃で乾燥した試料、及び600℃、800℃、1000℃でそれぞれ3時間焼成した試料について、それぞれ調湿率(吸湿及び放湿)を、上記調湿率測定方法に従って測定した。結果を表2に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔径(横軸)−細孔容量(縦軸)の分布曲線において3〜20nmの細孔径の範囲内に細孔容量の最大値を有し、かつ、全細孔容量が0.5〜2.0cm/gであるメソポーラスシリカ。
【請求項2】
請求項1に記載のメソポーラスシリカの製造方法であって、
(A)シリカ含有鉱物とアルカリ水溶液を混合して、pHが11.5以上のアルカリ性スラリーを調製し、液分中のSi濃度が10〜70g/リットルとなるように、上記シリカ含有鉱物中のSiを液分中に溶解させた後、上記アルカリ性スラリーを固液分離して、Siを含む液分と、固形分を得るアルカリ溶解工程と、
(B)前記Siを含む液分と酸を混合して、液温を10〜90℃に、かつpHを7.0〜10.3に調整し、液分中のSiをゲルとして析出させた後、固液分離を行い、SiOを含む固形分と、液分を得るシリカ回収工程と、
(C)工程(B)で得られたSiOを含む固形分と酸溶液を混合して、液温を40〜90℃に、かつpHが1.3以下の酸性スラリーを調製し、上記固形分中に残存するAl、Feを溶解させた後、上記酸性スラリーを固液分離して、SiOを含む固形分と、Al、Feを含む液分を得る酸洗浄工程を含み、
かつ、工程(A)における液分中のSi濃度(g/リットル)の値(X)と、工程(B)における液温(℃)の値(Y)を積算した値(XY)が3000以下である、メソポーラスシリカの製造方法。
【請求項3】
さらに、(A1)工程(A)の前に、シリカ含有鉱物を500〜1100℃で焼成して、有機物を除去する原料焼成工程を含む、請求項2に記載のメソポーラスシリカの製造方法。
【請求項4】
さらに、(B1)工程(A)と工程(B)の間に、工程(A)で得られた液分と酸を混合して、pHを、10.3を超え、11.5未満に調整し、液分中のAl、Feを析出させた後、固液分離を行い、Siを含む液分と、Al、Feを含む固形分を得る不純物回収工程を含む、請求項2又は3に記載のメソポーラスシリカの製造方法。
【請求項5】
さらに、(D)工程(C)で得られたSiOを含む固形分を、100℃以上、1000℃未満で乾燥または焼成する乾燥/焼成工程を含む、請求項2〜4のいずれか1項に記載のメソポーラスシリカの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−180225(P2012−180225A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42023(P2011−42023)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(310010575)地方独立行政法人北海道立総合研究機構 (51)
【Fターム(参考)】