説明

メソ酒石酸を含む組成物の調製のための方法

本発明は、55〜90重量%がメソ酒石酸である酒石酸を含む組成物の調製のための方法であって、(i)35〜65重量%の、L−酒石酸の二アルカリ金属塩、D−酒石酸の二アルカリ金属塩、L−酒石酸、D−酒石酸および場合によりメソ酒石酸の二アルカリ金属塩の混合物、ならびに2〜15重量%のアルカリ金属またはアルカリ金属水酸化物を含む水性混合物を調製するステップと、(ii)酒石酸の55〜90重量%がメソ酒石酸に変換されるまで、水性混合物を撹拌して100℃とその沸点との間の温度まで加熱するステップとを含む方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酒石酸を含む組成物の調製のための方法であって、酒石酸の55〜90重量%がメソ異性体である方法に関する。さらに、本発明は、この組成物の、塩化ナトリウムまたは塩化カリウム用の非ケーキング添加物の調製のための使用に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ナトリウムは、湿気への暴露の際に、特に長期の保存の間に、大きな凝集塊を形成する傾向がある。これらの硬化塊は、ケーキと一般に称される。非ケーキング剤は、しばしば塩に添加されてケーキの形成を防止する。近年、安価で環境的に安全でありかつ少量で効果的である改善された非ケーキング塩剤の開発にかなりの努力が注がれてきた。メソ酒石酸を含む酒石酸の混合物の鉄錯体は、塩化ナトリウムに効果的な非ケーキング添加物であることが見出された。特に好ましいのは、その55〜90重量%、より好ましくは60〜80重量%がメソ酒石酸である酒石酸の混合物の鉄錯体を含む非ケーキング添加物である。
【0003】
純粋なメソ酒石酸を得るためのいくつかの立体選択的な合成経路が存在する。しかし、これらの方法は、経済的に魅力がないか、または望ましくない副生成物が形成されるかのいずれかである。例えば、濃Hによるフマル酸のエポキシ化、続いての加水分解が、いずれの金属塩の使用も伴わない酒石酸のメソ異性体のみの形成に至ることが見出された。しかし、比較的厳しいプロセス条件、低い変換率および副生成物の形成が、この経路をあまり魅力のないものにする。さらに、マレイン酸が、KMnOの存在下でメソ酒石酸に変換され得ることが見出されている。この経路の主な欠点は、KMnOの化学量論的消費、およびメソ酒石酸をメソ酒石酸マンガン塩から分離する必要性(メソ酒石酸が事実上Mn不含でなければならない、塩化ナトリウムにおける非ケーキング添加物としての適用のため)である。同じように、触媒または酸化剤としてのMn/アミン錯体および場合によりHを用いてマレイン酸をメソ酒石酸に変換することができるが、かかる経路は、同様の生成物の精製の課題を有する。
【0004】
WO00/59828では、メソ酒石酸を含む酒石酸の混合物を製造するための方法が実施例に開示されている。この文献では、該混合物が、天然または合成酒石酸(それぞれ、CAS登録番号87−69−4および147−71−7)溶液を濃NaOHによって100℃超の温度で処理することによって調製され得ることが言及されている。次いで、L−、D−および/またはDL−酒石酸の部分が所望のメソ酒石酸(CAS登録番号147−73−9)に変換される。しかし、この手順に従うことにより、最大で50重量%までの酒石酸がメソ異性体である酒石酸混合物を調製することが単に可能であるということが見出された。しかし、これまで、50重量%超のメソ酒石酸を含む酒石酸の混合物の調製のための簡単で経済的に魅力がある方法は存在しなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、55〜90重量%、好ましくは60〜80重量%がメソ酒石酸である酒石酸を含む組成物の調製のための経済的に魅力がある方法を提供することであり、該方法は、望ましくない副生成物の形成の欠点を有さない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
該目的は、以下の調製方法によって達成された。該方法は、以下のステップ:(i)35〜65重量%、好ましくは40〜60重量%の、L−酒石酸の二アルカリ金属塩、D−酒石酸の二アルカリ金属塩、L−酒石酸、D−酒石酸および場合によりメソ酒石酸の二アルカリ金属塩の混合物、ならびに2〜15重量%、好ましくは4〜10重量%のアルカリ金属またはアルカリ金属水酸化物を含む水性混合物を調製するステップと、(ii)酒石酸の55〜90重量%、好ましくは60〜80重量%がメソ酒石酸に変換されるまで、水性混合物を撹拌して100℃とその沸点との間の温度まで加熱するステップとを含む。好ましくは、水性混合物は、好ましくは90℃以下の温度まで、より好ましくは70℃以下の温度まで、または例えば室温まで引き続いて冷却されて、55〜90重量%がメソ酒石酸である酒石酸の混合物を含む水性スラリーを得る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】比較例A(i)およびA(ii)の時間での相対的な変換率の図である。
【図2】比較例B(i)およびB(ii)の時間での相対的な変換率の図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
操作例以外において、または別途示さない限り、本明細書および特許請求の範囲において用いられている成分、反応条件などの量を表す全ての数は、全ての場合において、用語「約」によって修飾されると理解されるべきである。
【0009】
この方法によると、方法の開始(すなわち、ステップ(i)において)から、またはステップ(ii)の間のいずれかに、メソ酒石酸の溶解限度を超えて、結果として、反応混合物からメソ酒石酸が沈澱することが見出された。したがって、用語「水性混合物」は、本明細書全体を通して用いられるとき、透明な水溶液に関してだけでなく、水系スラリーに関しても用いられる。
【0010】
本発明による方法において出発物質として用いられる酒石酸の二アルカリ金属塩におけるアルカリ金属は、ナトリウムを好ましくは含む。この方法において用いられるアルカリ金属またはアルカリ金属水酸化物は、水酸化ナトリウムを好ましくは含む。
【0011】
L(+)−酒石酸二ナトリウム塩は、L−酒石酸二ナトリウムとも表され、例えば、Sigma−Aldrich(CAS番号6106−24−7)から市販されている。L(+)−酒石酸二ナトリウム塩の代わりに、L(+)−酒石酸(例えば、Sigma−Aldrichから市販されている(CAS番号87−69−4))を用いて、追加のNaOHの添加によりL(+)−酒石酸二ナトリウム塩をインサイチュで調製することも可能であることに注意されたい。同じことが、他の可能性がある出発物質、DL−酒石酸二ナトリウム塩にも当てはまり、これは、例えば、Sigma−Aldrichから購入されても、DL−酒石酸(CAS番号133−37−9)またはDL−酒石酸一ナトリウム塩およびNaOHからインサイチュで製造されてもよい。実際に、D、L、メソ体を、あらゆる割合で、酸または塩形態で含有するあらゆる酒石酸源が、この方法に用いられ得る。D−酒石酸は出発物質として用いられてもよいが、比較的高価であるためあまり好ましくない。L−酒石酸二ナトリウム塩(NaOHの添加によってインサイチュで製造されるか、またはそのまま用いられるかのいずれか)の使用が好ましい。なぜなら、これらの出発物質は、比較的安く、55〜90重量%のメソ酒石酸を有する組成物を調製する方法が、D−およびL−酒石酸の混合物が出発物質として用いられる場合よりも迅速であるからである。明らかに、メソ酒石酸の量が酒石酸の全重量の50重量%未満である、D−、L−、およびメソ酒石酸の混合物を用いることも可能である。
【0012】
この方法は、好ましくは大気圧で行われる。しかし、高圧、例えば、2〜3バールでこの方法を実施することも可能であるが、あまり好ましくない。
【0013】
混合物が撹拌および加熱されて(すなわち、調製方法のステップ(ii))所望量のメソ酒石酸を得る時間は、水性混合物中の酒石酸の濃度、存在するアルカリまたはアルカリ金属水酸化物の量、温度および圧力に依存することに注意されたい。しかし、典型的には、ステップ(ii)において、混合物は、この方法が大気圧で実施されるとき、3〜200時間、撹拌および加熱される。
【0014】
ステップ(ii)における混合物中のメソ酒石酸の量は、従来の方法、(例えば、内部標準としてメタンスルホン酸を用いたDO/KOH溶液中での)H−NMRなどによって決定され得る。メソ酒石酸のNMR−スペクトルは、DL−酒石酸のNMR−スペクトルと僅かに異なる。NMRは、反応サンプル中のメソ酒石酸:DL−酒石酸比を決定するために、または内部もしくは外部標準を用いることによってDLもしくはメソ異性体の濃度を場合により定量するために用いられる。D−およびL−酒石酸は、NMRによっては直接区別され得ない。D、Lおよびメソ酒石酸の濃度を決定するには、キラルHPLCが好適な方法である。
【0015】
当業者が認識し得るように、酒石酸は、pH値に応じて、カルボン酸形態または塩(二酒石酸塩もしくは酒石酸塩)の形態で水溶液中に存在する。例えば、酒石酸は、水酸化ナトリウムが十分に高い量で存在するとき、二ナトリウム塩として存在する。便宜上、用語「酒石酸」は、本明細書全体を通して、酸形態ならびに酒石酸塩および二酒石酸塩形態で用いられる。
【0016】
先に言及したように、55〜90重量%がメソ酒石酸である酒石酸の水性混合物は、好ましくは塩化カリウム組成物用の添加物の調製、より好ましくは塩化ナトリウム組成物用の添加物の調製に用いられて、例えば、(添加物が、塩化カリウムまたは塩化ナトリウム用の非ケーキング添加物として表される場合において)ケーキングを防止する。上記非ケーキング添加物は、上記の酒石酸の混合物の鉄塩である。この目的で、好ましくは、酒石酸の60〜80重量%がメソ酒石酸である酒石酸の水性混合物が用いられる。
【0017】
用語「塩化カリウム組成物」は、本明細書全体を通して用いられるとき、75重量%超がKClからなる全ての組成物を表示することが意図されている。好ましくは、かかる組成物は、90重量%超のKClを含有する。
【0018】
用語「塩化ナトリウム組成物」は、本明細書全体を通して用いられるとき、75重量%超がNaClからなる全ての組成物を表示することが意図されている。好ましくは、かかる組成物は、90重量%超のNaClを含有する。より好ましくは、かかる組成物は、92%超のNaClを含有するが、95重量%超のNaClの塩が最も好ましい。典型的には、該塩は、約2〜3%の水を含有し得る。該塩は、岩塩、天日塩、塩水から水を蒸気蒸発させることによって得られる塩などであってよい。
【0019】
本発明による方法のステップ(ii)において、典型的にはスラリーが得られる。このスラリーは、55〜90重量%のメソ酒石酸、より好ましくは60〜80重量%のメソ酒石酸を有する酒石酸の混合物を含む。より具体的には、上記スラリーの液相は、0〜50重量%がメソ酒石酸である(重量百分率は、上記液相中に存在する酒石酸の全重量を基準としている)酒石酸の混合物を含むが、固相は大部分がメソ酒石酸であろう。
【0020】
好ましくは、さらなるステップにおいて、水は、冷却ステップ(iii)の間または後に、水性混合物に添加される。このことは、塩化ナトリウム組成物用の処理溶液(55〜90重量%、好ましくは60〜80重量%がメソ異性体である酒石酸を含む本発明による組成物)が所要の濃度を有して調製されるように、塩化ナトリウム用の非ケーキング添加物が作製されるとき、特に好ましい。鉄塩は、二または三価鉄源であり得るが、好ましくはFeClであり、所望の量で上記溶液に引き続いて添加されてよく(または上記溶液が、二または三価鉄源に、好ましくは水溶液の形態で添加されてもよく)、その後、得られた処理溶液が、塩化ナトリウム組成物上に噴霧されてよい。ステップ(ii)において得られた水性スラリー(すなわち、いずれの分離も伴わない固体および全ての付着液)をそのまま用いることにより、非ケーキング添加物の簡単かつ迅速な調製方法が得られる。しかし、当業者が認識し得るように、付着液の一部のみを固体と一緒に用いて、55〜90重量%、好ましくは60〜80重量%がメソ酒石酸である酒石酸の混合物を含む水性混合物を作製することも可能である。また、固体の一部および付着液の全部または一部を用いて本発明による水性混合物を作製することも可能である。
【0021】
非ケーキング添加物の調製のために、鉄源は、55〜90重量%のメソ酒石酸、より好ましくは60〜80重量%のメソ酒石酸を有する酒石酸の混合物に、非ケーキング添加物中の鉄と酒石酸の全量とのモル比(すなわち、酒石酸の全モル量で除算された鉄のモル量)が好ましくは0.1〜2、より好ましくは0.3〜1であるような量で添加される。
【0022】
本発明を以下の実施例によってさらに説明する。
【実施例】
【0023】
実施例1a(L−酒石酸を介する):
200リットルの蒸気加熱されたジャケット付容器において、156.6kgの50重量%水酸化ナトリウム(水中)溶液(Sigma製、分析されたNaOH濃度:49.6重量%)を18.4kgの脱塩水および106.1kgのL−酒石酸(Caviro Distillerie(イタリア)製)と混合した。中和が起こり、48.7重量%のL−酒石酸二ナトリウム塩、7.5重量%の遊離NaOH、および43.7重量%の水を含有する溶液を得た。混合物を大気圧において全還流および撹拌下において合計で24時間沸騰させた。この間、サンプルを採取し、L−酒石酸塩からメソ酒石酸塩への変換率H−NMRによって測定した。結果は、表1に見ることができる。合成の間、いくらかのメソ酒石酸塩がさらに反応してD−酒石酸塩となった。
【0024】
【表1】

【0025】
沸騰の約4.0〜4.5時間後、混合物が濁り、固体が溶液から沈澱した。残りの実験の間に、スラリー密度が増加していた。
【0026】
キラルHPLCを介して、D−、L−、およびメソ酒石酸の絶対量を測定した(用いたカラム:Chirex、3126(D)−ペニシラミン(配位子交換))(表2を参照)。
【0027】
HPLC条件
ガードカラム :なし
分析カラム :Chirex、3126(D)、50×4.6mm、内径;d=5μm
移動相 :90%の溶離液Aと10%の溶離液Bとの混合物。濾過および脱気済。
溶離液A :1mM酢酸銅(II)および0.05M酢酸アンモニウム、pH=4.5(酢酸を用いた)
溶離液B :イソプロパノール
分離モード :アイソクラチック
流量 :2.0ml/分
温度 :50℃
注入体積 :2μl
検出 :280nmにおけるUV
【0028】
【表2】

【0029】
HPLC結果は、H−NMR結果を確認する。
【0030】
実施例1b(D/L−酒石酸を介する):
30リットルの蒸気加熱されたジャケット付容器において、15.41kgの50重量%の水酸化ナトリウム(水中)溶液(Sigma製)を、1.815kgの脱塩水および10.592kgのラセミDL−酒石酸(Jinzhan、Ninghai organic chemical factory(中国)製)と混合した。混合物を還流下において大気圧で沸騰させ、合計で190時間撹拌した。この間、サンプルを反応混合物から採取し、DL−酒石酸塩からメソ酒石酸塩への変換率H−NMRによって測定した(表3を参照)。
【0031】
【表3】

【0032】
固体は全実験の間存在した。
【0033】
キラルHPLCを介して、メソ酒石酸およびDL−酒石酸の絶対量を測定した(用いたカラム:Chirex、3126(D)−ペニシラミン(配位子交換))(表4を参照)。
【0034】
【表4】

【0035】
両方の原材料(実施例1aおよび1b)から、主にメソ酒石酸といくらかのDおよびLとを経時的に50:50に近づくD:L比で(熱力学平衡)含有する同じ最終生成物、酒石酸混合物が生ずることが分かる。出発物質としてのL−酒石酸は、より迅速な変換を与える。NaOH濃度などの他のプロセスパラメータも同様に変換速度に影響する。
【0036】
実施例1aに記載されているのと同じ方法によって検査を行った。
【0037】
比較例A:より高いNaOH含量およびより低い酒石酸ナトリウム含量の効果
実施例A(i):出発物質としてのL−酒石酸
1リットルの反応容器において、606.04gのNaOH溶液(50重量%のNaOHおよび50%の水を含有)を414.40gの水および96.70gのL−酒石酸と混合した。混合の際、11.2重量%のL−酒石酸二ナトリウム、22.5重量%のNaOHおよび66.3重量%の水を含む混合物を得た。混合物を加熱し、連続撹拌下、大気沸騰条件において還流下で26時間保持した(T沸点:約110℃)。透明な溶液を得た。一定間隔で、サンプルを液体から採取し、メソ酒石酸、DL−酒石酸、および酢酸塩含量についてH−NMRによって分析した(DとL−光学異性体の間の区別は、H−NMRによってなされ得ない)。
【0038】
H−NMR分析は、(酒石酸の全量を基準にして)約40重量%のレベルのメソ体が得られるまでL−酒石酸がメソ酒石酸に変換されることを示した(表5を参照)。この後、沸騰を延長させても、メソ酒石酸塩への変換率の増加は起こらない。しかし、副生成物である酢酸塩の量は、約1重量%まで時間と共に増加した。
【0039】
約6時間の沸騰後、少量の固体が現れた。1H−NMRおよびIR分析は、この固体が、主として、酒石酸の分解生成物であるシュウ酸ナトリウムであることを示した。
【0040】
【表5】

【0041】
実施例A(ii):出発物質としてのメソ酒石酸塩およびDL−酒石酸塩の混合物
11.4重量%の酒石酸二ナトリウム(78重量%がメソ酒石酸塩であり、22重量%がDL−酒石酸塩である)、21.8重量%のNaOHおよび66.8重量%の水を含有する1,470gの混合物を調製した。実用的な理由から、この混合物を、NaOH溶液、水、および、実施例1a)の手順にしたがって調製された反応混合物から調製した。これは、出発混合物が、酒石酸二ナトリウムのメソ:DL比を除いて全ての点において実施例A(i)の出発混合物と同様であることを意味している。混合物を加熱し、連続撹拌下、大気沸騰条件において還流下で26時間保持した(T沸点:約110℃)。透明な溶液を得た。一定間隔で、サンプルを液体から採取し、メソ酒石酸、DL−酒石酸および酢酸塩含量についてH−NMRによって分析した(DとL−光学異性体の間の区別は、NMRによってなされ得ない)。
【0042】
H−NMR分析は、(酒石酸の全量を基準にして)約40重量%のレベルのメソ酒石酸が得られるまでメソ酒石酸がDL−酒石酸に変換されることを示した(表6を参照)。約22時間の沸騰の後、平衡に達する。しかし、副生成物である酢酸塩の量は、約1重量%まで時間と共に増加した。
【0043】
約6時間の沸騰後、少量の固体が現れた。1H−NMRおよびIR分析は、この固体が、主として、酒石酸の分解生成物であるシュウ酸ナトリウムであることを示した。
【0044】
【表6】

【0045】
さらなる説明のために、両方の実験の進行を図1に示す。実施例A(i)の結果を実線で示す(
【化1】

がメソ酒石酸の量を表し、

【化2】

がD−およびL−酒石酸の総量を表す)。実施例A(ii)の結果を破線で示す(
【化3】

がメソ酒石酸の量を表し、
【化4】

がD−およびL−酒石酸の総量を表す)。
【0046】
約40重量%のメソ酒石酸ならびに60重量%のD−およびL−酒石酸を有して約6時間後に平衡に達したことが見出された。
【0047】
比較例B:より低い酒石酸ナトリウム含量の効果
実施例B(i):出発物質としてのL−酒石酸
実施例A(i)と同様の実験において、1,616gのNaOH溶液(50重量%のNaOHおよび50%の水を含有)を2,964.5gの水および759.5gのL−酒石酸と混合した。混合の際、酸を中和して、18.4重量%のL−酒石酸二ナトリウム、7.5重量%のNaOHおよび74.1重量%の水を含有する混合物を生じた。混合物を加熱し、連続撹拌下、大気沸騰条件において還流下で46時間保持した(T沸点:約110℃)。透明な溶液を得た。一定間隔で、サンプルを液体から採取し、メソ酒石酸、DL−酒石酸、および酢酸塩含量についてH−NMRによって分析した(DとL−光学異性体の間の区別は、NMRによってなされ得ない)。
【0048】
H−NMR分析は、(酒石酸の全量を基準にして)約35重量%のレベルのメソ体が得られるまでL−酒石酸がメソ酒石酸に変換されることを示した(表7を参照)。約25時間の沸騰の後、メソ酒石酸への変換率の増加はこれ以上観測されない。副生成物である酢酸塩の量は、約0.2重量%まで時間と共に増加した。
【0049】
【表7】

【0050】
実施例B(ii):出発物質としてのメソ酒石酸塩およびDL−酒石酸塩の混合物
18.6重量%の酒石酸二ナトリウム(78重量%がメソ酒石酸塩であり、22重量%がDL−酒石酸塩である)、7.6重量%のNaOHおよび73.7重量%の水を含有する6.30kgの混合物を調製した。実用的な理由から、この混合物を、NaOH溶液(50重量%水中50%のNaOH)、水、および、実施例1aの手順にしたがって調製された反応混合物から調製した。出発混合物は、酒石酸中のメソ/DL異性体比を除いて全ての点において実施例B(i)の出発混合物と同様である。混合物を加熱し、連続撹拌下、大気沸騰条件において還流下で53時間保持した(T沸点:約110℃)。透明な溶液を得た。一定間隔で、サンプルを液体から採取し、メソ酒石酸、DL−酒石酸および酢酸塩含量についてH−NMRによって分析した(DとL−光学異性体の間の区別は、NMRによってなされ得ない)。
【0051】
H−NMR分析は、(酒石酸の全量を基準にして)約34重量%のレベルのメソ酒石酸が得られるまでメソ酒石酸がDL−酒石酸に変換されることを示した(表8を参照)。約31時間の沸騰の後、平衡に達する。しかし、副生成物である酢酸塩の量は、46時間後に約0.4重量%まで時間と共に増加した。
【0052】
【表8】

【0053】
さらなる説明のために、実施例B(i)およびB(ii)からの実験を図2に示す。実施例B(i)の結果を実線で示し、
【化5】

がメソ酒石酸の量を表し、
【化6】

がD−およびL−酒石酸の総量を表している。実施例B(ii)の結果を破線で示し、
【化7】

がメソ酒石酸の量を表し、
【化8】

がD−およびL−酒石酸の総量を表している。
【0054】
このより低いNaOH含量では、平衡は、(酒石酸全量の)約34重量%のメソ酒石酸および66重量%のDL−酒石酸に位置し;副生成物である酢酸塩の形成は、実施例Aにおけるよりもかなり低い。反応は、より遅い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
55〜90重量%がメソ酒石酸である酒石酸を含む組成物の調製のための方法であって、
(i)35〜65重量%の、L−酒石酸の二アルカリ金属塩、D−酒石酸の二アルカリ金属塩、L−酒石酸、D−酒石酸および場合によりメソ酒石酸の二アルカリ金属塩の混合物、ならびに2〜15重量%のアルカリ金属またはアルカリ金属水酸化物を含む水性混合物を調製するステップと、
(ii)酒石酸の55〜90重量%がメソ酒石酸に変換されるまで、水性混合物を撹拌して100℃とその沸点との間の温度まで加熱するステップと
を含む方法。
【請求項2】
水性混合物が冷却されるステップ(iii)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酒石酸塩におけるアルカリ金属が、ナトリウムを含み、アルカリ金属水酸化物が、水酸化ナトリウムを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(i)においてL−酒石酸二ナトリウム塩が用いられる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
大気圧で行われる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
水性混合物が、ステップ(ii)において、3〜200時間撹拌および加熱される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(i)において調製される水性混合物が、40〜60重量%の、L−酒石酸の二アルカリ金属塩、D−酒石酸の二アルカリ金属塩、L−酒石酸、D−酒石酸、および場合によりメソ酒石酸の二アルカリ金属塩の混合物を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(i)において調製される水性混合物が、4〜10重量%のアルカリ金属またはアルカリ金属水酸化物を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
酒石酸の60〜80重量%がメソ酒石酸である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の方法によって得られ得る、55〜90重量%がメソ酒石酸である酒石酸を含む組成物の、塩化ナトリウム組成物または塩化カリウム組成物用の非ケーキング添加物の調製のための使用。
【請求項11】
非ケーキング添加物は、55〜90重量%がメソ酒石酸である酒石酸の鉄錯体である、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
非ケーキング添加物は、60〜80重量%がメソ酒石酸である酒石酸の鉄錯体である、請求項10または11に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−528817(P2012−528817A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513547(P2012−513547)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際出願番号】PCT/EP2010/057287
【国際公開番号】WO2010/139588
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(509131443)アクゾ ノーベル ケミカルズ インターナショナル ベスローテン フエンノートシャップ (26)
【氏名又は名称原語表記】Akzo Nobel Chemicals International B.V.
【住所又は居所原語表記】Stationsstraat 77, 3811 MH Amersfoort, Netherlands
【Fターム(参考)】