説明

メタクリル系樹脂の製造方法および成形品

【課題】透明性、耐熱性、成形性、耐久性および機械的強度に優れたメタクリル系樹脂を高い生産効率にて製造できる方法を提供する。
【解決手段】メタクリル酸メチル50質量%以上とこれに共重合可能なビニル系単量体50質量%以下とを含有してなる単量体混合物を、並列に連結された少なくとも2系統の槽型流通式反応装置の各系統において、120〜180℃の範囲内の温度で、単量体混合物の重合転化率が20〜80質量%となるまで塊状重合する工程、および各系統で得られた反応液を混ぜ合わせる工程を含む、重量平均分子量5万を超える重合体(a)と重量平均分子量2万〜5万の重合体(b)とを質量比(a/b)60/40〜90/10で含有するメタクリル系樹脂の製造方法。該製造方法によって得られたメタクリル系樹脂からなる成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、耐熱性、成形性、耐久性および機械強度に優れたメタクリル系樹脂を高い生産効率にて製造できる方法、および該方法によって得られたメタクリル系樹脂からなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル系樹脂からなる成形品は、透明性に優れ光学歪も少ないことから表示装置などの各種光学製品が備えるレンズ、プリズム、位相差フィルム、導光板、光拡散フィルム、偏光板保護フィルムなどの光学部材として広く用いられている。光学製品の高性能化に伴い、光学部材用のメタクリル系樹脂に関する様々な改良技術が提案されている。特に、表示装置の大画面化に伴い、表示装置が備える光学部材の大型化、薄肉化が進み、メタクリル系樹脂の更なる成形性向上が求められている。
【0003】
メタクリル系樹脂の更なる成形性向上のため、特許文献1は極限粘度0.010〜0.050l/gのメタクリル系共重合体と極限粘度0.050〜0.090l/gのメタクリル系共重合体とを含有する良流動性アクリル樹脂組成物を提案している。
特許文献2は質量平均分子量が13万〜25万であるメタクリル系共重合体と質量平均分子量が0.3万〜1.9万であるメタクリル系共重合体とを含有する樹脂組成物を提案している。
特許文献3は重量平均分子量が5万〜25万であるメタクリル系共重合体(1)と重量平均分子量が0.6万〜4万であるメタクリル系共重合体(2)とを含有し、分散安定剤および乳化剤のいずれをも含有せず、前記共重合体(1)に含まれるメタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する繰り返し単位の質量分率が、前記共重合体(2)に含まれるメタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する繰り返し単位の質量分率より小さいメタクリル系樹脂組成物を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−101140号公報
【特許文献2】特開2006−193647号公報
【特許文献3】特開2010−59305号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本油脂株式会社技術資料「有機過酸化物の水素引抜き能と開始剤効率」(2003年4月作成)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これら特許文献1〜3には、高分子量または高極限粘度のメタクリル系共重合体と低分子量または低極限粘度のメタクリル系共重合体とを別々に製造し、それらを二軸混練機などで混練することを含むメタクリル系樹脂の製造方法が記載されている。かかる製造方法は、製造コストを低く抑えることが難しく、混練時に掛かる高熱による着色や焼け、それに伴う異物の混入などが生じ易い。また、高分子量または高極限粘度のメタクリル系共重合体に比べて低分子量または低極限粘度のメタクリル系共重合体の方が混練において先に溶融しはじめるため、高分子量または高極限粘度のメタクリル系共重合体に十分なせん断力が伝わらないことがある。このために、高分子量または高極限粘度のメタクリル系共重合体の一部が溶融しきれずに残り、メタクリル系樹脂を成形したときに外観不良を起こすことがある。
本発明の目的は、メタクリル系樹脂が本来有している透明性、耐熱性、耐薬品性、機械強度などの優れた特性を損なうことなく、成形性が改良されたメタクリル系樹脂を高い生産効率で製造する方法、および優れた光学特性などを有するメタクリル系樹脂からなる成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために種々の検討を行った。その結果、メタクリル酸メチルを特定量で含有する単量体混合物の塊状重合を、並列に連結された少なくとも2系統の槽型流通式反応装置の各系統において、特定範囲内の温度で、単量体混合物の重合転化率が特定の値になるまで行い、次いで各系統で得られた反応液を混ぜ合わせ重量平均分子量5万を超える重合体(a)と重量平均分子量2万〜5万の重合体(b)とが特定の質量比で含まれるようにすることによって、メタクリル系樹脂が本来持つ透明性、耐熱性、耐薬品性、機械物性などの優れた特性を損なうことなく、成形性が改良されたメタクリル系樹脂を高い生産効率で製造できることを見出した。本発明は、この知見に基づいて、さらに検討を重ねることによって完成するに至ったものである。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のものを包含する。
〔1〕メタクリル酸メチル50質量%以上とこれに共重合可能なビニル系単量体50質量%以下とを含有してなる単量体混合物を、
並列に連結された少なくとも2系統の槽型流通式反応装置の各系統において、120〜180℃の範囲内の温度で、単量体混合物の重合転化率が20〜80質量%となるまで塊状重合する工程、および
各系統で得られた反応液を混ぜ合わせる工程を含む、
重量平均分子量5万を超える重合体(a)と重量平均分子量2万〜5万の重合体(b)とを質量比(a/b)60/40〜90/10で含有するメタクリル系樹脂の製造方法。
〔2〕一の系統の槽型流通式反応装置において重合体(a)を含む反応液(α)を得、他の系統の槽型流通式反応装置において重合体(b)を含む反応液(β)を得、前記各系統で得られた反応液を混ぜ合わせる工程は反応液(α)と反応液(β)を流通方式で連続的に混ぜ合わせることを含む前記〔1〕に記載の製造方法。
〔3〕槽型流通式反応装置内における反応液(α)の粘度ηarおよび反応液(β)の粘度ηbrがともに0.005〜50Pa・sの範囲内にあり、
混合時における反応液(α)の粘度ηamと反応液(β)の粘度ηbmとの比(ηam/ηbm)が1000以下である前記〔2〕に記載の製造方法。
〔4〕重合体(a)中のメタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位の含有量am[質量%]と重合体(b)中のメタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位の含有量bm[質量%]とが、|am−bm|<4質量%の関係にある前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載の製造方法。
〔5〕前記〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載の製造方法によって得られたメタクリル系樹脂からなる成形品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、メタクリル系樹脂が本来有している透明性、耐熱性、耐薬品性、機械強度などの優れた特性を損なうことなく、成形性が改良されたメタクリル系樹脂を高い生産効率で得ることができる。また本発明の製造方法によって得られるメタクリル系樹脂を用いることによって、例えば、優れた光学特性などを有する成形品を容易に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のメタクリル系樹脂の製造方法は、メタクリル酸メチル50質量%以上とこれに共重合可能なビニル系単量体50質量%以下とを含有してなる単量体混合物を塊状重合することを含む。
【0011】
本発明に用いられる単量体混合物には、メタクリル酸メチルが、50質量%以上、好ましくは80〜99質量%、より好ましくは90〜98質量%含まれている。
【0012】
単量体混合物には、メタクリル酸メチルに共重合可能なビニル系単量体が、50質量%以下、好ましくは1〜20質量%、より好ましくは2〜10質量%含まれていてもよい。該ビニル系単量体は、一分子中に重合性アルケニル基を少なくとも一つ有する単量体である。該ビニル系単量体の好ましい例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルなどのアクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどのメタクリル酸メチル以外のメタクリル酸アルキルエステル;アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、スチレン、α−メチルスチレンなどその他のビニル系単量体;などの一分子中に重合性アルケニル基を一つだけ有する非架橋性ビニル系単量体が挙げられる。ビニル系単量体は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0013】
該ビニル系単量体のうちで、アクリル酸アルキルエステルは、得られるメタクリル系樹脂の耐光性を高め、さらに複屈折を小さくして光学的な均一性を高める作用がある。
スチレンは、得られるメタクリル系樹脂の屈折率を大きくしかつ吸湿性を小さくする作用がある。
α−メチルスチレンは、得られるメタクリル系樹脂の耐熱性を高めかつ屈折率を大きくする作用がある。
本発明の成形品の各種用途において要求される特性に応じた単量体を単量体混合物に含ませることが好ましい。
【0014】
塊状重合法は、溶媒を用いずに単量体混合物を重合反応させる方法である。
本発明において、前記塊状重合は、並列に連結された少なくとも2系統の槽型流通式反応装置において行われる。
槽型流通式反応装置は、槽型反応器に単量体混合物、重合開始剤、連鎖移動剤を含む原料液を一定流量で供給し、槽型反応器内を定常状態に保って重合反応させ、該槽型反応器から供給量にバランスする流量で反応液を排出する装置である。槽型反応器は、一般に、撹拌翼などの撹拌手段を備えている。槽型反応器では、反応液を撹拌手段によってほぼ均一に混合することが好ましく、完全混合することがより好ましい。当該槽型反応器としては、完全混合型の槽型反応器を用いることが好ましい。槽型流通式反応装置は、一つの槽型反応器で構成してもよいし、二つ以上の槽型反応器を直列に連結して構成してもよい。二つ以上の槽型反応器を直列に連結して構成した場合、原料液は、一段目の槽型反応器に一括して添加しても、一段目の槽型反応器と二段目以降の槽型反応器とに分割して添加してもよい。
【0015】
槽型流通式反応装置における塊状重合に用いられる重合開始剤は特に制限されないが、水素引抜き能が好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下である。水素引抜き能が高すぎる重合開始剤を用いると、得られるメタクリル系樹脂において低分子量の重合体の割合が増えるので、金型汚れなどが発生したり、耐熱性が低下したりする傾向がある。
【0016】
水素引抜き能は、重合開始剤製造業者の技術資料(例えば、非特許文献1)などによって知ることができる。また、α−メチルスチレンダイマーを使用したラジカルトラッピング法、即ちα−メチルスチレンダイマートラッピング法によって測定することができる。当該測定は、一般に、次のようにして行われる。まず、ラジカルトラッピング剤としてのα−メチルスチレンダイマーの共存下で重合開始剤を開裂させてラジカル断片を生成させる。生成したラジカル断片のうち、水素引抜き能が低いラジカル断片はα−メチルスチレンダイマーの二重結合に付加して捕捉される。一方、水素引抜き能が高いラジカル断片はシクロヘキサンから水素を引き抜き、シクロヘキシルラジカルを発生させ、該シクロヘキシルラジカルがα−メチルスチレンダイマーの二重結合に付加して捕捉され、シクロヘキサン捕捉生成物を生成する。そこで、シクロヘキサン、またはシクロヘキサン補足生成物を定量することで求められる、理論的なラジカル断片発生量に対する水素引抜き能が高いラジカル断片の割合(モル分率)を水素引抜き能とする。より具体的には、実施例に記す方法で行われる。
また、槽型流通式反応装置における塊状重合に好適に用いられる重合開始剤は、1時間半減期温度が、好ましくは60〜140℃、より好ましくは80〜120℃である。
【0017】
槽型流通式反応装置における塊状重合に好適に用いることのできる重合開始剤としては、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド(例えば日油株式会社製、パーヘキシルD:水素引抜き能19%、1時間半減期温度136.2℃)、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(例えば日油株式会社製、パーヘキシルI:水素引抜き能18%、1時間半減期温度114.0℃)、t−ヘキシルハイドロパーオキサイド(例えば日油株式会社製、パーヘキシルZ:水素引抜き能27%、1時間半減期温度114.2℃)、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート(例えば日油株式会社製、パーブチルO:水素引抜き能22%、1時間半減期温度92.1℃)、t−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサノエート(例えば日油株式会社製、パーヘキシルO:水素引抜き能11%、1時間半減期温度90.1℃)、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート(例えば日油株式会社製、パーオクタO:水素引抜き能4%、1時間半減期温度84.4℃)、t−ブチルパーオキシピバレート(パーブチルPV:水素引抜き能12%、1時間半減期温度72.7℃)、t−ヘキシルパーオキシピバレート(例えば日油株式会社製、パーヘキシルPV:水素引抜き能8%、1時間半減期温度71.3℃)、t−ブチルパーオキシネオデカノエ−ト(例えば日油株式会社製、パーブチルND:水素引抜き能12%、1時間半減期温度64.8℃)、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエ−ト(例えば日油株式会社製、パーヘキシルND:水素引抜き能7%、1時間半減期温度62.8℃)、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート(例えば日油株式会社製、パーオクタND:水素引抜き能2%、1時間半減期温度57.5℃)、1,1−ビス(例えば日油株式会社製、t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン(例えば日油株式会社製、パーヘキサHC:水素引抜き能10%、1時間半減期温度107.3℃)、ベンゾイルパーオキシド(例えば日油株式会社製、ナイパーBW:水素引抜き能15%、1時間半減期温度92.0℃)、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド(例えば日油株式会社製、パーロイル355:水素引抜き能2%、1時間半減期温度76.8℃)、ラウロイルパーオキサイド(例えば日油株式会社製、パーロイルL:水素引抜き能1%、1時間半減期温度79.5℃)などの有機過酸化物;2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)(例えば大塚化学株式会社製、AIBN:水素引抜き能1%、1時間半減期温度82.6℃)、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(例えば大塚化学株式会社製、AMBN:水素引抜き能1%、1時間半減期温度86.0℃)、ジメチル2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(例えば和光純薬工業株式会社製、V601:水素引抜き能1%、1時間半減期温度83.9℃);などのアゾ化合物などが挙げられる。なお、化合物名の後の括弧内に当該化合物の代表的な市販品名、水素引抜き能および1時間半減期温度を示した。重合開始剤は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
これらの中でも、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート 、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカノエ−ト、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエ−ト、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、ベンゾイルパーオキシド 、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、ジメチル2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)が好ましく; t−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、ジメチル2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)がより好ましい。
【0019】
槽型流通式反応装置における塊状重合に用いられる重合開始剤の量は、各系統に用いられる単量体混合物100質量部に対して、好ましくは0.0001〜0.02質量部、より好ましくは0.001〜0.01質量部である。重合開始剤の量が少なすぎると反応速度が遅く生産性が低下する傾向がある。重合開始剤が多すぎると重合速度が速くなりすぎて制御が困難となる傾向がある。
【0020】
得られる重合体の分子量調整には、公知の連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、1,4−ブタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、エチレングリコールビスチオプロピオネート、ブタンジオールビスチオグリコレート、ブタンジオールビスチオプロピオネート、ヘキサンジオールビスチオグリコレート、ヘキサンジオールビスチオプロピオネート、トリメチロールプロパントリス−(β−チオプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネートなどのアルキルメルカプタン類;α−メチルスチレンダイマー;テルピノレンなどが挙げられる。連鎖移動剤は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。連鎖移動剤の使用量は、後述する重量平均分子量を有する重合体が得られる範囲で選択できる。
【0021】
槽型流通式反応装置における塊状重合は、各系統とも、120〜180℃の範囲内の温度、好ましくは130〜170℃の範囲内の温度で行われる。重合温度が低すぎると、反応液の粘度が高くなり混合のために大きな動力が必要となる傾向がある。重合温度が高すぎると、重合速度が速くなりすぎて反応制御が困難となる傾向がある。また、槽型流通式反応装置における塊状重合は、各系統に用いられた単量体混合物の重合転化率が20〜80質量%、好ましくは30〜70質量%となるまで行われる。重合転化率が高すぎると、粘度上昇のために大きな攪拌動力が必要となる傾向がある。重合転化率が低すぎると、脱揮不十分となりやすくメタクリル系樹脂からなる成形品にシルバーなどの外観不良を起こす傾向がある。
【0022】
槽型流通式反応装置における平均滞留時間は0.5〜4時間が好ましく、1〜3時間がより好ましい。平均滞留時間が短くなるほど、重合開始剤の必要量が増える。また重合開始剤の増量により重合反応の制御が難しくなるとともに、分子量の制御が困難になる傾向がある。一方、平均滞留時間が長くなるほど、反応が定常状態になるまでに時間を要し、生産性が低下する傾向がある。
【0023】
槽型流通式反応装置内における反応液(α)の粘度ηarおよび反応液(β)の粘度ηbrは、ともに、好ましくは0.005〜50Pa・s、より好ましくは0.007〜30Pa・s、さらに好ましくは0.01〜20Pa・sとする。粘度をこの範囲内にすることによって、分子量分布が狭い重合体を円滑に得ることができる。反応液(α)の粘度ηarおよび反応液(β)の粘度ηbrが低すぎると、塊状重合後の脱揮工程および未反応単量体の回収工程の効率が低下して、メタクリル系樹脂からなる成形品にシルバーなどの外観不良を引き起こす傾向がある。逆に、反応液(α)の粘度ηarおよび反応液(β)の粘度ηbrが高すぎると、槽型反応器の内壁や撹拌装置の軸に重合体が付着しやすくなり、槽型流通式反応装置を安定的に運転できない傾向がある。なお、槽型流通式反応装置が2以上の槽型反応器を直列に連結した構成である場合、槽型流通式反応装置内における反応液は、槽型流通式反応装置における最終段の槽型反応器内の反応液のことである。また、反応液は、槽型流通式反応装置における重合反応が定常状態になっているときのものである。
なお、槽型流通式反応装置内における反応液の粘度ηrは、数式(I)によって求められる。

lnηr=wplnηp + (1−wp)lnηm + Δ(lnηr) (I)

数式(I)において、wpは反応液中に含まれる重合体の質量分率[−]、 ηpは反応液中に含まれる重合体の重合温度における溶融粘度[Pa・s]、 ηmは反応液中に含まれる未反応単量体の重合温度における粘度[Pa・s]、および Δ(lnηr)は粘度ηrの補正関数を示す。
Δ(lnηr)は、数式(II)によって求められる。

Δ(lnηr)=A+B (II)

〔数式(II)において、
A={−0.65×wp(1−wp)(lnηp−lnηm)}/2
B={0.42×(1−2wp)wp(1−wp)(lnηp−lnηm)}/2
であり、式中、wp、ηpおよびηmは、数式(I)におけるものと同じである。〕
【0024】
重合体の溶融粘度ηpは、次のようにして求めることができる。
槽型流通式反応装置における槽型反応器から少量の反応液を抜き出し、50℃、3kPaにて24時間かけて未反応の単量体などの低沸点成分を除去する。このようにして得られた重合体を220℃、240℃および260℃の各温度に加熱して溶融させ、その溶融物についてせん断速度12.2sec-1の条件で粘度を測定する。温度を横軸に粘度を縦軸にしたグラフに上記測定値をプロットして、外挿線を求める。この外挿線から、槽型流通式反応装置内の温度(重合温度)における粘度を推定し、この推定値を重合体の重合温度における溶融粘度ηpとする。
【0025】
各系統における塊状重合の重合温度および滞留時間は、同じであっても、異なっていてもよい。単量体混合物の組成比および使用量、重合開始剤の種類および使用量、連鎖移動剤の種類および使用量は、各系統において、同じであっても、異なっていてもよい。
【0026】
本発明の好適な形態としては、一の系統の槽型流通式反応装置において重合体(a)を製造できる条件で塊状重合を行い、他の系統の槽型流通式反応装置において重合体(b)を製造できる条件で塊状重合を行う形態が挙げられる。
【0027】
重合体(a)の重量平均分子量は、5万超、好ましくは5万超20万以下、より好ましくは5万超15万以下である。重合体(a)の重量平均分子量が低すぎると、得られるメタクリル系樹脂の機械強度および耐薬品性が低下する傾向がある。また、重合体(a)の重量平均分子量が高すぎると、得られるメタクリル系樹脂の成形性が低下する傾向がある。
重合体(a)の分子量分布(=重量平均分子量/数平均分子量)は特に制限されないが、好ましくは2.2以下、より好ましくは1.9以下、さらに好ましくは1.7以下である。重合体(a)の分子量分布が広すぎると、得られるメタクリル系樹脂の機械的強度や耐薬品性が低下する傾向がある。
【0028】
重合体(b)の重量平均分子量は、2万〜5万、好ましくは2万〜4万、より好ましくは3万〜4万である。重合体(b)の重量平均分子量が低すぎると、得られるメタクリル系樹脂の機械強度および耐薬品性が低下する傾向がある。逆に、重合体(a)の重量平均分子量が高すぎると、得られるメタクリル系樹脂の成形性の改良効果が小さくなる傾向がある。
重合体(b)の分子量分布(=重量平均分子量/数平均分子量)は特に制限されないが、好ましくは2.2以下、より好ましくは1.9以下、さらに好ましくは1.7以下である。重合体(b)の分子量分布が広すぎると、得られるメタクリル系樹脂の機械的強度や耐薬品性が低下傾向になる。
重合体(a)および重合体(b)の重量平均分子量や分子量分布は、上記塊状重合において用いられる重合開始剤や連鎖移動剤の種類および量などを調整することによって制御できる。
【0029】
重合体(a)および重合体(b)は、それらを構成するメタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位/他のビニル系単量体に由来する繰り返し単位の質量比が、好ましくは50/50〜100/0、より好ましくは80/20〜99/1、さらに好ましくは90/10〜98/2である。
重合体(a)中のメタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位の含有量am[質量%]と重合体(b)中のメタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位の含有量bm[質量%]とは、その差の絶対値|am−bm|が、好ましくは4質量%未満、より好ましくは3質量%未満、更に好ましくは2質量%未満である。|am−bm|が大きすぎると、メタクリル系樹脂の透明性が低下する傾向がある。更に、am≦bmであることが耐熱性の観点から好ましい。
【0030】
重合体(a)と重合体(b)との質量比(a/b)は、60/40〜90/10、好ましくは60/40〜80/20である。重合体(a)と重合体(b)との質量比(a/b)が90/10を超えると、得られるメタクリル系樹脂の成形性の改良効果が小さい傾向がある。一方、重合体(a)と重合体(b)との質量比(a/b)が60/40未満になると、得られるメタクリル系樹脂の機械強度および耐薬品性が低下する傾向がある。
【0031】
各系統の槽型流通式反応装置から重合体を含む反応液が流通方式で連続的に排出される。各系統から排出される反応液は混ぜ合わせたのち、当該槽型流通式反応装置の下流に直列に連結された少なくとも一つの管型または塔型流通式反応器に連続的に供給して、さらに塊状重合または溶液重合を行うことができる。また、槽型流通式反応装置から排出される反応液を、当該槽型流通式反応装置の下流に直列に連結された少なくとも一つの管型または塔型流通式反応器に連続的に供給して、さらに塊状重合または溶液重合を行ったのちに、他の系統の槽型流通式反応装置から排出される反応液と混ぜ合わせてもよい。
【0032】
当該管型または塔型流通式反応装置は、槽型流通式反応装置で生成した重合体を含む反応液と必要に応じて原料液とを一定流量で管型または塔型反応器に供給し、該反応器内を通過する間に重合転化率を上げていき、管型または塔型反応器から供給量にバランスする流量で反応液を排出する装置である。管型または塔型反応器では、管径または塔径が管長または塔高に比して非常に小さい場合、管型または塔型反応器内を流れる液は、理論上、完全プラグフロー(栓流)になる。管型または塔型反応器内には邪魔板や充填物が設けられていてもよい。塔型反応器としては、例えば、内部に多段の撹拌翼と各段の間に除熱用の伝熱管を有した塔高/塔径(L/D)比が3以上のものを用いることができる。管型反応器としては、例えば、内部に除熱と混合を目的とした伝熱管を内蔵した管長/管径(L/D)比が5以上のもの、具体的には住友重機工業社製のSMR型反応器、ノリタケカンパニー社製のスタティックミキサー内蔵型反応器、東レ社製のハイミキサー内蔵型反応器などが挙げられる。これらの中でもスタティックミキサー内蔵型管型反応器が好ましい。
【0033】
本発明で好適に用いられる管型または塔型流通式反応装置は、その内壁温度が液導入口側から液排出口側に向かって順次高くなるように、2つ以上の領域に分かれていることが好ましい。例えば、一つの管型または塔型反応器において、上流部の内壁温度を低くし、下流部の内壁温度を高くしたもの;内壁温度の低い管型または塔型反応器と内壁温度の高い管型または塔型反応器を直列に連結したものなどが挙げられる。本発明においては、管型または塔型流通式反応装置を2つの領域に分け、液導入側の内壁温度を140〜160℃に、液排出口側の内壁温度を150〜200℃にして、液導入口側から液排出口側に向かって順次高くなるようにすることがより好ましい。
【0034】
管型または塔型流通式反応装置における塊状重合または溶液重合においては、槽型流通式反応装置で生成した重合体を含む反応液に加えて、必要に応じて原料液を追加することができる。かかる原料液は、重合開始剤、単量体混合物、連鎖移動剤、溶媒を含むことができる。
【0035】
原料液に含ませることができる重合開始剤は、α−スチレンダイマートラッピング法によって測定された水素引抜能が好ましくは40%以下、より好ましくは35%以下ある。重合開始剤の水素引抜能が高すぎると、金型汚れなどが発生しやすくなったり、耐熱性が低下し易くなったりする傾向がある。
また、管型または塔型流通式反応装置における塊状重合または溶液重合に用いることができる重合開始剤は、1時間半減期温度が、好ましくは100〜160℃、より好ましくは110〜150℃である。
【0036】
管型または塔型流通式反応装置における塊状重合または溶液重合に用いることができる重合開始剤としては、t−ブチルパーオキシアセテート(例えば日油株式会社製、パーブチルA:水素引抜き能38%、1時間半減期温度120.9℃)、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート(例えば日油株式会社製、パーブチル335:水素引抜き能36%、1時間半減期温度119.3℃)、2,2−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブタン(例えば日油株式会社製、パーヘキサ22:水素引抜き能35%、1時間半減期温度121.7℃)、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(例えば日油株式会社製、パーヘキサ3M:水素引抜き能38%、1時間半減期温度109.2℃)、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(例えば日油株式会社製、パーヘキサC:水素引抜き能35%、1時間半減期温度111.1℃)、2,2−ジ(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン(例えば日油株式会社製、パーテトラA:水素引抜き能34%、1時間半減期温度114.0℃)、ジ−t−ブチルパーオキシ−2−メチルシクロヘキサン(例えば日油株式会社製、パーヘキサMC:水素引抜き能33%、1時間半減期温度102.4℃)、t−ヘキシルハイドロパーオキサイド(例えば日油株式会社製、パーヘキシルZ:水素引抜き能27%、1時間半減期温度114.2℃)、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン(例えば日油株式会社製、パーヘキサHC:水素引抜き能10%、1時間半減期温度107.3℃)、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(例えば日油株式会社製、パーヘキシルI:水素引抜き能18%、1時間半減期温度114.0℃)などの有機過酸化物が挙げられる。重合開始剤は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、化合物名の後ろの括弧内に、該化合物の代表的な市販品名、水素引抜能および1時間半減期温度を示した。
【0037】
これらの中で、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ジ(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサンが好ましい。
【0038】
管型または塔型流通式反応装置における塊状重合または溶液重合に用いられる重合開始剤の量は、各系統に用いられる単量体混合物100質量部に対して、好ましくは0.001〜0.1質量部、より好ましくは0.002〜0.02質量部である。重合開始剤の量が少なすぎると反応速度が遅く生産性が低下する傾向がある。重合開始剤の量が多すぎると重合速度が速くなりすぎて制御が困難な状態になる傾向や分子量が低下する傾向がある。
【0039】
原料液に含ませることができる単量体混合物としては、槽型流通型反応装置における塊状重合に供した単量体混合物と同じものを選択できる。また、管型または塔型流通式反応装置における塊状重合または溶液重合に用いられる単量体混合物に含まれるメタクリル酸メチルの含有率が、槽型流通型反応装置における塊状重合に供した単量体混合物に含まれるメタクリル酸メチルの含有率以上であることが好ましい。
【0040】
原料液に含ませることができる連鎖移動剤としては、槽型流通型反応装置における塊状重合に供した連鎖移動剤と同じものを選択できる。
【0041】
原料液に含ませることができる溶媒は、原料である単量体混合物と生成物であるメタクリル系樹脂に対して溶解能を有するものであれば特に制限されないが、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素が好ましい。これらの溶媒は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。2種以上の溶媒を混ぜ合わせて用いる場合において、該混合溶媒が原料である単量体混合物と生成物であるメタクリル系樹脂に対する溶解能を有する限り、メタノール、エタノール、ブタノールなどのアルコールや、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトンや、ヘキサン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素のごとき、原料である単量体混合物と生成物であるメタクリル系樹脂に対する溶解能が低い溶媒が混合溶媒に含まれていてもよい。かかる溶媒の使用量は、各系統で用いる全単量体混合物100質量部に対して、好ましくは0〜100質量部、より好ましくは0〜90質量部である。溶媒の使用量が多いほど、反応液の粘度が下がり取り扱い性が良好となるが生産性が低下する傾向がある。
【0042】
管型または塔型流通式反応装置に使用される重合開始剤の添加方法は特に制限されないが、管型または塔型流通式反応装置の上流に混合器を連結し、該混合器において重合開始剤や連鎖移動剤などの重合副資材と、槽型流通式反応装置から排出された反応液と、必要に応じて単量体混合物とを混合して、得られた混合液を管型または塔型流通式重合反応装置に導入することが好ましい。混合器としては、スタティックミキサーが好ましいものとして挙げられる。
さらに、単量体混合物を含む原料液、重合開始剤または連鎖移動剤は、管型または塔型流通式重合反応装置の原料液導入口の直前や、管型または塔型流通式重合反応装置の中間部から添加することができる。単量体混合物を含む原料液、重合開始剤または連鎖移動剤の追加添加によって、管型または塔型流通式反応装置で生成する重合体の組成および/または重量平均分子量を調整することができる。
【0043】
管型または塔型流通式反応装置では、重合温度を好ましくは140〜200℃、より好ましくは150〜170℃にする。重合温度が低すぎると、粘度上昇のために反応装置を通過し難くなる傾向がある。一方、重合温度が高すぎると、重合体の末端二重結合量が多くなり得られる重合体の熱安定性が低下する傾向がある。
管型または塔型流通式重合反応装置では、単量体混合物の重合転化率を好ましくは50〜95質量%、より好ましくは60〜95質量%、さらに好ましくは70〜95質量%にする。重合転化率が低すぎると生産性が低下する傾向がある。一方、重合転化率が高すぎると重合体の組成分布が広がり耐熱性や耐薬品性が低下する傾向がある。
【0044】
管型または塔型流通式反応装置における平均滞留時間は、好ましくは10分間〜3時間、より好ましくは10分間〜1時間である。平均滞留時間が短くなると重合開始剤の必要量が増える傾向がある。また重合開始剤の必要量が増えると重合反応の制御が難しくなるとともに、分子量の調整が容易でなくなる傾向がある。一方、平均滞留時間が長くなると設備費が増加して経済性が低下する傾向がある。
【0045】
槽型流通式反応装置から連続的に流出する各系統の反応液、または槽型流通式反応装置の下流に管型または塔型流通式反応装置を連結した場合に該管型または塔型流通式反応装置から連続的に流出する各系統の反応液は、流通方式で連続的に混ぜ合わせることができる。反応液の流出量はギアポンプなどの定量ポンプを用いることによって調整することができる。
【0046】
各系統から流出する反応液を混ぜ合わせる手段としては、公知の混合器を用いることができる。本発明においては、スタティックミキサーなどの流通式の混合器が好ましく用いられる。
【0047】
各系統から流出する反応液を混ぜ合わせる際に、各反応液の粘度の比は、小さいことが好ましい。混合時における各反応液の粘度の比は、好ましくは1000以下、より好ましくは500以下、さらに好ましくは100以下である。
例えば、一の系統の槽型流通式反応装置において重合体(a)を含む反応液(α)を得、他の系統の槽型流通式反応装置において重合体(b)含む反応液(β)を得、次いで反応液(α)と反応液(β)を流通方式で連続的に混ぜ合わせる場合、混合時における反応液(α)の粘度ηamと反応液(β)の粘度ηbmとの比(ηam/ηbm)は、好ましくは1000以下、より好ましくは500以下、さらに好ましくは100以下である。この粘度比を小さくすると混合斑が無くなり、均一な特性を有するメタクリル系樹脂を得ることができる。各系統の反応液を混ぜ合わせた後の液の混合温度における粘度は、好ましくは0.005〜50Pa・s、より好ましくは0.007〜30Pa・s、さらに好ましくは0.01〜20Pa・sである。
【0048】
なお、混合時における反応液の粘度ηmは、槽型流通式反応装置内における反応液の粘度ηrと同様の方法で求めることができる。具体的には、定常状態時に混合直前の配管から少量の反応液を抜き出し、その反応液を用いて、上述したのと同じ手法で、温度を横軸に、粘度を縦軸に配したグラフにて外挿線を求める。該外挿線から、混合器内の温度(混合温度)における粘度を推定し、この推定値を重合体の混合温度における溶融粘度とした。そして、反応液中に含まれる重合体の質量分率[−]、反応液中に含まれる重合体の混合温度における溶融粘度[Pa・s]、および反応液中に含まれる未反応単量体および溶媒の混合温度における粘度[Pa・s]から、数式(I)および数式(II)を用いて算出した。
【0049】
各系統から連続的に流出する反応液は、重合体、未反応単量体、重合開始剤や連鎖移動剤などの重合副資材を含有している。そこで、各系統の反応液を連続的に混ぜ合わせる前にまたは連続的に混ぜ合わせた後に、未反応単量体などの揮発分を除去して重合体を連続的に回収することができる。
【0050】
重合体を連続的に回収する方法としては、(i)連続的に流出する反応液を、脱揮装置(ベントなど)を有する押出機に連続的に供給して、加熱溶融混練下に未反応単量体などを脱揮しながら、重合体を連続的に押し出して回収する方法、(ii)連続的に流出する反応液を、加熱器等で温めて、それを脱揮タンクにフラッシュして未反応単量体などを気化させて除くと共に重合体を脱揮タンクの下部に集積しながら脱揮タンク底部などから連続的に排出して回収する方法;などが挙げられる。これらのうち、上記(i)の方法が好ましく採用される。
【0051】
上記(i)の方法における押出機のシリンダー温度は好ましくは200〜280℃、より好ましくは230〜260℃である。シリンダー温度が低すぎると、脱揮装置(ベントなど)から未反応単量体が排出され難くなり、未反応単量体の除去率が低下する傾向がある。一方、シリンダー温度が高すぎると、未反応単量体がダイマーなどに変化して未反応単量体の除去率が低下したり、重合体に着色などしたりする傾向がある。
前記(i)の方法において使用される押出機としては、上流部にバックベントを有しかつ下流部に真空ベント(フロントベント)を有する押出機が好ましい。この押出機を使用すると、バックベントを有する上流部で未反応単量体の大半が除去され、フロントベントを有する下流部でわずかに残留する未反応単量体を除去することができるので、未反応単量体の含有率が極めて低い重合体を円滑に回収することができる。バックベントとフロントベントを有する押出機におけるバックベントでの圧力は好ましくは0.03〜0.04MPaであり、フロントベントでの圧力は、好ましくは5×10-4〜2×10-2MPa(約3.75〜約150mmHg)、より好ましくは1×10-3〜1×10-2MPa(約7.5〜約75mmHg)である。
脱揮装置で除去された未反応単量体は、凝縮器等で回収し、必要に応じて精製して、メタクリル系樹脂の製造に再使用することができる。
【0052】
上記(ii)の方法において、反応液のフラッシュには、ニードルバルブを用いることが好ましい。反応液の加熱温度は、好ましくは200〜270℃、より好ましくは230〜270℃である。加熱温度が低すぎると脱揮タンクでの脱揮効率が低下する傾向がある。一方、加熱温度が高すぎると加熱器内等でダイマーなどが生成して、未反応単量体の回収率が低下する傾向がある。脱揮タンク内の圧力は好ましくは0.1〜1MPa、より好ましくは0.1〜0.5MPaである。
加熱器としてスタティックミキサーを挿入した多管式熱交換器を用いることができる。この加熱器は、空管に比較して伝熱係数が2〜3倍大きく、コンパクトである。この加熱器を用いると、短い滞留時間で反応液を所望の温度まで温めることができるので、加熱器内でのダイマーなどの生成量を低減することができる。
脱揮タンクで除去された未反応単量体は、回収され、必要に応じて精製されて、メタクリル系樹脂の製造に再使用することができる。
なお、上記(ii)の方法では、フラッシュ時に重合体の一部が発泡し、それがタンク壁に付着して焼けた状態になることがある。これが回収されるメタクリル系樹脂中に微小異物として混入することがある。そのため、メタクリル系樹脂を光ディスクなどの光学部品の製造に用いる場合は注意を要する。
【0053】
本発明の製造方法においては、メタクリル系樹脂の残存揮発分を0.5質量%以下にすることが好ましく、0.4質量%以下にすることがより好ましく、0.3質量%以下にすることが更に好ましい。残存揮発分が0.5質量%を超えると熱変形温度などが低下傾向になる。
【0054】
本発明の製造方法によって得られるメタクリル系樹脂の分子量分布(=重量平均分子量/数平均分子量)は、好ましくは1.6以上、より好ましくは1.7以上、さらに好ましくは1.8以上、特に好ましくは1.9以上、最も好ましくは2以上である。メタクリル系樹脂の分子量分布が狭すぎるとメタクリル系樹脂の流動性が低下傾向になる。メタクリル系樹脂の分子量分布は、重合体(a)および重合体(b)の重量平均分子量、分子量分布、質量比などを調整することによって制御できる。
【0055】
本発明の製造方法によって得られるメタクリル系樹脂には、必要に応じて紫外線吸収剤、光安定化剤、酸化防止剤、熱劣化防止剤、離型剤、高分子加工助剤、有機色素、光拡散剤、蛍光体、耐衝撃性改質剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤などを添加することができる。また、本発明の製造方法によって得られるメタクリル系樹脂は、他の製造方法によって得られるメタクリル樹脂で希釈して使用することもできる。また、その他AS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、MS樹脂、MBS樹脂、スチレン樹脂、ハイインパクトポリスチレン樹脂、塩化ビニル樹脂など他の樹脂と混合して使用することができる。
【0056】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン類、ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、ベンゾエート類、サリシレート類、シアノアクリレート類、蓚酸アニリド類、マロン酸エステル類、ホルムアミジン類などが挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0057】
これらの中でも、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、波長380〜450nmにおけるモル吸光係数の最大値εmaxが1200dm3・mol-1cm-1以下である紫外線吸収剤のいずれか1種またはそれらの組み合わせが好ましい。ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は、紫外線による樹脂劣化、特に着色による光学特性低下を抑制する効果が高く本発明の製造方法によって得られるメタクリル系樹脂にこうした特性を付加する場合において好適である。また、波長380〜450nmにおけるモル吸光係数の最大値εmaxが1200dm3・mol-1cm-1以下である紫外線吸収剤は、得られる成形品の黄色味が抑えられるため、こうした特性が要求される用途において好適である。
【0058】
なお、紫外線吸収剤のモル吸光係数の最大値εmaxは、次のようにして算出した。先ず、シクロヘキサン1Lに、分子量MUVの紫外線吸収剤10.00mgを目視による観察で未溶解物がないように十分に溶解させた。この溶液を1cm×1cm×3cmの石英ガラスセルに注入し、日立製作所社製U−3410型分光光度計を用いて、波長380〜450nmでの吸光度を測定した。吸光度の最大値(Amax)からモル吸光係数の最大値εmaxを次式を用いて算出した。

εmax=[Amax/(10×10-3)]×MUV

波長380〜450nmにおけるモル吸光係数の最大値εmaxが1200dm3・mol-1cm-1以下である紫外線吸収剤としては、2−エチル−2'−エトキシ−オキサルアニリド(クラリアントジャパン社;商品名サンデユボアVSU)などが挙げられる。
【0059】
紫外線吸収剤の使用量は、メタクリル系樹脂100質量部に対して、好ましくは0.001〜1質量部、より好ましくは0.01〜0.5質量部、さらに好ましくは0.1〜0.3質量部である。紫外線吸収剤の使用量が少なすぎると紫外線による樹脂劣化の抑制効果が十分に発揮されない傾向がある。紫外線吸収剤の使用量が多すぎると成形の際に金型が汚れやすくなるので、歩留まりの低下や金型清掃などによる生産性の低下を引き起こしやすく、またシルバーの発生原因となったり、目やにが生じやすくなったりする。
【0060】
本発明では、さらに2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン骨格を持つ化合物やヒンダードアミン類などの光安定化剤を含有させてもよい。
ヒンダードアミン類としては、例えば、コハク酸ジメチル/1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、ポリ((6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)イミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル)((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペジル)イミノ)ヘキサメチレン((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペジル)イミノ))、2−(2,3−ジ−t−ブチル−4−ヒドキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)、N,N'−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン/2,4−ビス(N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ)−6−クロロ−1,3,5−トリアジン縮合物、ビス(2,2,6,6−テトラ−メチル−4−ピペジル)セバケート、コハク酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)などが挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
光安定化剤の使用量は、メタクリル系樹脂100質量部に対して、好ましくは0.001〜0.5質量部、より好ましくは0.005〜0.1質量部である。
【0061】
酸化防止剤としては、例えば、リン系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤などが挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中で、着色による光学特性の劣化防止効果の点で、リン系酸化防止剤やヒンダードフェノール系酸化防止剤が好適に用いられる。
【0062】
リン系酸化防止剤としては、例えば、2,2−メチレンビス(4,6−ジt−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,6−ジt−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4−ジt−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジt−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4'−ジイルビスホスフォナイト、ビス[2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル]エチルエステル亜リン酸などが挙げられる。これらの中で、2,2−メチレンビス(4,6−ジt−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、トリス(2,4−ジt−ブチルフェニル)ホスファイトが好ましい。
【0063】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス(n−オクチル)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N'−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルフォスフォネート−ジエチルエステル、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト、オクチル化ジフェニルアミン、2,4−ビス[(オクチルチオ)メチル]−o−クレゾール、イソオクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどが挙げられる。これらの中で、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(商品名「IRGANOX1010」、チバスペシャルケミカルズ社製)や、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、(商品名「IRGANOX1076」、チバスペシャルケミカルズ社製)が好ましい。
【0064】
酸化防止剤の使用量は、メタクリル系樹脂100質量部に対して、好ましくは0.001〜1質量部、より好ましくは0.005〜0.5質量部、さらに好ましくは0.01〜0.3質量部である。酸化防止剤の使用量が少なすぎると成形品の高温に晒されたときの着色を防止する効果が十分に発揮されない傾向がある。一方、酸化防止剤の使用量が多すぎると金型汚れによる歩留まりの低下や金型清掃などによる生産性の低下を引き起こすとともに、シルバー発生による成形品の欠点発生の原因となったり、成形品に焼けが発生して色相が低下したり、成形品に異物が発生したりする傾向がある。
【0065】
熱劣化防止剤としては、たとえば、式(X)で示される構造の化合物、具体的には、2−t−ブチル−6−(3'−t−ブチル−5'−メチル−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート(住友化学(株);商品名「スミライザーGM」)、2,4−ジ−t−アミル−6−(3',5'−ジ−t−アミル−2'−ヒドロキシ−α−メチルベンジル)フェニルアクリレート(住友化学(株);商品名「スミライザーGS」)、2−t−ブチル−6−(3'−t−ブチル−2'−ヒドロキシ−5'−メチル−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,5−ジ−t−ブチル−6−(3'−5'−ジ−t−ブチル−2'−ヒドロキシメチルベンジル)−フェニルアクリレートなどが挙げられる。
これらの中でも、2−t−ブチル−6−(3'−t−ブチル−5'−メチル−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,4−ジ−t−アミル−6−(3',5'−ジ−t−アミル−2'−ヒドロキシ−α−メチルベンジル)フェニルアクリレートが好ましく、2,4−ジ−t−アミル−6−(3',5'−ジ−t−アミル−2'−ヒドロキシ−α−メチルベンジル)フェニルアクリレートがより好ましい。
【0066】
【化1】


(式(X)中、R1〜R4は、それぞれ独立に、1〜5個の炭素原子を有するアルキル基を示し、R5は1〜5個の炭素原子を有するアルキル基または水素原子を示す。)
【0067】
熱劣化防止剤の使用量は、メタクリル系樹脂100質量部に対して、好ましくは0.001〜1質量部、より好ましくは0.005〜0.5質量部、さらに好ましくは0.01〜0.2質量部である。熱劣化防止剤の使用量が少なすぎると成形時の熱による着色や異物が生じやすい傾向がある。一方、熱劣化防止剤の使用量が多すぎると射出成形の際に金型汚れによる歩留まりの低下や金型清掃などによる生産性の低下をもたらす傾向になるとともに、シルバー発生による欠点発生の原因となったり、押出し成形時に目やにが生じやすくなったりする傾向がある。
【0068】
離型剤としては、高級アルコールおよび/またはグリセリンモノエステルが挙げられる。高級アルコールとしては、セチルアルコール、ステアリルアルコールなどが挙げられる。本発明に用いられるグリセリンモノエステルとしては、ステアリン酸モノグリセライド、ステアリン酸ジグリセライドなどの高級脂肪酸のグリセライドなどが挙げられる。高級アルコールとグリセリンモノエステルを併用する場合、その割合は特に制限されないが、高級アルコール/グリセリンモノエステルの質量比が、好ましくは2.5/1〜3.5/1、より好ましくは2.8/1〜3.2/1である。
【0069】
離型剤の使用量は、メタクリル系樹脂100質量部に対して、0.5質量部以下であることが好ましく、0.3質量部以下であることがより好ましく、0.1質量部以下であることがさらに好ましい。離型剤の使用量が多すぎると金型汚れによる歩留まりの低下や金型清掃などによる生産性の低下をもたらす傾向があるとともに、シルバー発生による成形品の欠点発生の原因となったり、押出し成形時の目やにが生じやすくなったりする傾向がある。
【0070】
高分子加工助剤は、メタクリル系樹脂を成形する際において、厚さ精度および薄膜成形性の向上に効果を発する。高分子加工助剤の極限粘度は3〜6dl/gであり、極限粘度が小さすぎる場合には成形性に十分な改善効果が認められない。極限粘度が大きすぎる場合には溶融流動性の低下を招きやすい。
高分子加工助剤は、例えば、乳化重合法によって製造することができる。この乳化重合法によって得られる高分子加工助剤は、通常0.05〜0.5μmの粒子径を有する重合体粒子である。該重合体粒子は、単一組成比および単一極限粘度の重合体からなる単層粒子であっても、また、組成比または極限粘度の異なる2以上の重合体からなる多層粒子であってもよい。この中でも好ましいものとしては、内層に低極限粘度の重合体を有し、外層に極限粘度5dl/g以上の高極限粘度の重合体を有する2層構造の粒子が挙げられる。
高分子加工助剤の使用量は、メタクリル系樹脂100質量部に対して、好ましくは0.05〜10質量部、より好ましくは0.1〜5質量部である。高分子加工助剤が少なすぎると成形時の厚さ精度に十分な改善効果が認められない。一方、高分子加工助剤が多すぎると溶融流動性の低下を招きやすい。
【0071】
有機色素としては、樹脂に対しては有害とされている紫外線を可視光線に変換する機能を有するターフェニルなどが挙げられる。
光拡散剤としては、ガラス微粒子、ポリシロキサン系架橋微粒子、架橋ポリマー微粒子などが挙げられる。
蛍光体としては、蛍光顔料、蛍光染料、蛍光白色染料、蛍光増白剤、蛍光漂白剤などが挙げられる。
【0072】
難燃剤としては、例えば、テトラブロモビスフェノールA、デカブロモジフェニルオキシド、臭素化ポリカーボネート等の有機ハロゲン系難燃剤;酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、ホウ酸亜鉛、トリクレジルホスフェート等の非ハロゲン系難燃剤などが挙げられる。
【0073】
滑剤としては、例えば、ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアロアミド酸、メチレンビスステアロアミド、ヒドロキシステアリン酸トリグリセリド、パラフィンワックス、ケトンワックス、オクチルアルコール、硬化油などが挙げられる。
【0074】
帯電防止剤としては、例えば、ステアロアミドプロピルジメチル−β−ヒドロキシエチルアンモニウムニトレートなどが挙げられる。
【0075】
また、本発明の製造方法によって得られるメタクリル系樹脂には、耐衝撃性改質剤を添加することができる。耐衝撃性改質剤としては、アクリル系ゴムまたはジエン系ゴムをコア層成分として含むコアシェル型改質剤、ゴム粒子を複数包含した改質剤などが挙げられる。耐衝撃性改質剤はいくらかの特性を改善させるために通常のレベルより少量添加することが好ましい。
【0076】
本発明の製造方法によって得られるメタクリル系樹脂を用いれば、透明性に優れた成形品を得ることができる。例えば、射出成形、圧縮成形、押出成形、真空成形などの公知の溶融加熱成形により、種々の形状の成形品を得ることができる。
【0077】
本発明の製造方法によって得られるメタクリル系樹脂は、透明性のみならず、耐熱性、耐薬品性、成形性に優れているので、各種の用途に適している。その用途としては、例えば広告塔、スタンド看板、袖看板、欄間看板、屋上看板などの看板用品;ショーケース、仕切板、店舗ディスプレイなどのディスプレイ用品;蛍光灯カバー、ムード照明カバー、ランプシェード、光天井、光壁、シャンデリアなどの照明用品;ペンダント、ミラーなどのインテリア用品;ドア、ドーム、安全窓ガラス、間仕切り、階段腰板、バルコニー腰板、レジャー用建築物の屋根などの建築用部品;航空機風防、パイロット用バイザー、オートバイ、モーターボート風防、バス用遮光板、自動車用サイドバイザー、リアバイザー、ヘッドウィング、ヘッドライトカバー、メーターカバー、テールランプカバーなどの輸送機関係部品;音響映像用銘板、ステレオカバー、テレビ保護マスク、自動販売機などの電子機器部品;保育器、レントゲン部品などの医療機器部品;機械カバー、計器カバー、実験装置、定規、文字盤、観察窓などの機器関係部品;液晶保護板、導光板、導光フィルム、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、各種ディスプレイの前面板、拡散板などの光学関係部品;道路標識、案内板、カーブミラー、防音壁などの交通関係部品;自動車内装用表面材、携帯電話の表面材、マーキングフィルムなどのフィルム部材;洗濯機の天蓋材やコントロールパネル、炊飯ジャーの天面パネルなどの家電製品用部材;その他、温室、大型水槽、箱水槽、時計パネル、バスタブ、サニタリー、デスクマット、遊技部品、玩具、溶接時の顔面保護用マスクなどが挙げられる。
【実施例】
【0078】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はそれら実施例によって何ら制限されるものではない。
実施例および比較例における物性値の測定または評価は以下の方法によって行なった。
【0079】
(重合開始剤の水素引抜き能の測定)
α−メチルスチレンダイマー(1.0mol)、シクロヘキサン(6.9mol)および重合開始剤(0.05mol)をガラスアンプルに入れ、窒素置換を行い実質上酸素のない状態にして密封した。重合開始剤の10時間半減期温度に応じた下記温度にまで昇温し、当該温度にて60時間放置した。
10時間半減期温度80℃を超える重合開始剤の場合 :140℃
10時間半減期温度60℃〜80℃の重合開始剤の場合 :100℃
10時間半減期温度60℃未満の重合開始剤の場合 : 80℃
放置後の反応液中のシクロヘキサンのモル数(H[mol])をガスクロマトグラフにて測定し、下式にて水素引抜き能を求めた。
水素引抜き能[%]=[(6.9−H)/(0.05×2)]×100
【0080】
(数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)の測定)
東ソー社製ゲルパーミエーションクロマトグラフ(HLC−8020)に東ソー社製カラム TSKgel G2000HHR(1本)およびGMHHR−M(2本)を直列に連結してセットし、溶離液としてテトラヒドロフランを用い、溶離液流量1.0ml/分、カラム温度40℃の条件で、検出のために示差屈折率(RI)計を用いて測定した。該測定値を標準ポリスチレンの分子量に換算することによって、重合体の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、および分子量分布(Mw/Mn)を求めた。
【0081】
(単量体混合物の重合転化率の測定)
島津製作所社製ガスクロマトグラフ GC−14Aに、GL Sciences Inc.製カラム INERT CAP 1(df=0.4μm、0.25mmI.D.×60m)をセットし、injection温度180℃、detector温度180℃、カラム温度を60℃(5分間保持)→昇温速度10℃/分→200℃(10分間保持)に制御して測定した。この測定値および各単量体に関する検量線に基づいて重合転化率を算出した。
【0082】
(メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位の含有率の測定)
島津製作所社製ガスクロマトグラフ GC−14Aに、S.E.G.社製カラム BPX−5(30m×0.25mmФ 膜厚0.5μm)をセットし、熱分解装置(島津製作所社製 PYR−2A)にて、分解温度500℃、分析条件:40℃(4分間保持)→昇温速度5℃/分→250℃で測定した。その測定結果から、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位の含有率を算出した。
【0083】
(流動性の評価−1 (MFR))
ISO1133に準拠して、温度230℃、荷重37.3Nでメルトフローレート(MFR)を測定した。
【0084】
(流動性の評価−2 (スパイラルフロー長さ))
住友重機社製SE−180DU−HP成形機において、型締圧力180トン、スクリュー径φ36mm、金型温度80℃、成形温度285℃、射出速度400mm/秒、充填圧力274MPaで、スパイラルフロー金型(製品厚み0.4mm、幅10mm)を用いて射出成形した。そのときのメタクリル系樹脂のスパイラルフロー長さを測定した。
【0085】
(薄型導光板の成形性評価)
住友重機社製SE−180DU−HP成形機において、型締圧力180トン、スクリュー径φ36mm、金型温度85℃、成形温度290℃、射出速度300mm/秒、充填圧力300MPaで、長さ31.5mm、幅23.0mmおよび厚さ0.65mmの薄型導光板の射出成形を試みた。
その結果、難なく成形できた場合をA、充填するものの末端にひけが発生した場合をB、未充填となり成形できなかった場合をCとして評価した。
【0086】
(成形品の光透過率およびクロマティクネス指数b*の測定)
射出成形機で成形して得た板状成形品から190mm×50mm×5mmの試験片を切り出し、分光光度計(UV−2550;島津製作所社製)を用い、光路長190mmにおける、波長400nm、500nmおよび600nmにおける光透過率(%)とクロマティクネス指数b*とを測定した。
【0087】
(成形品の引張破壊応力の測定)
ISO527−2/1A/5に準拠して、引張破壊応力を測定した。
【0088】
(成形品の耐熱性の測定)
ISO75−2に準拠して、荷重1.80MPaでの荷重たわみ温度を測定した。
【0089】
(成形品の耐薬品性)
一般にカンチレバー法(ASTM F791−82に準拠)と呼ばれている試験にて耐薬品性を評価した。すなわち、ISO527−2/1A/5に準拠した引張破壊応力測定用の試験片を、長さ方向中央部で長さ方向に直交する線状の支点で支えて水平な状態に置き、長さ方向の一端を固定し、長さ方向中央部から84mm離れた他端近くに400g重の荷重をかけながら、長さ方向中央部の支え部とは反対面の曲げ伸び応力が集中している部位にエタノールの浸み込んだ10mm角の濾紙を接触させた。これによってクラックが発生しやすいようにした。該試験片が破断するまでの時間を測定した。この試験を7回繰り返して、その平均値を算出した。
【0090】
(製造装置)
本実施例で使用した製造装置は、攪拌機付オートクレーブAとそれに直列に連結された槽型反応器A、攪拌機付オートクレーブBとそれに直列に連結された槽型反応器B、槽型反応器Aの排出口および槽型反応器Bの排出口の下流に連結された混合器M、および二軸押出機を備えている。なお、槽型反応器Aおよび槽型反応器Bは、撹拌機と採取管とを備えており、所望の流量および平均滞留時間になるような容積を有している。
前記オートクレーブAにおいて原料液(I)が調製される。前記オートクレーブBにおいて原料液(II)が調製される。
原料液(I)は管経由で槽型反応器Aに、原料液(II)は管経由で槽型反応器Bにほぼ同時に一定流量で供給される。槽型反応器Aから排出される反応液と槽型反応器Bから排出される反応液とが、ノリタケエンジニアリング社製スタティックミキサーを内装した混合器Mに一定流量で送られ、連続的に混合され、その後、二軸押出機に連続的に供給される。
【0091】
さらに、槽型反応器Aと混合器Mとの間にノリタケエンジニアリング社製スタティックミキサーを内装した配管とノリタケエンジニアリング社製スタティックミキサーを内装した管型反応器Cとが直列に連結された管型流通式反応装置を取り付けることが可能である。これによって、槽型反応器Aから排出される反応液は管型反応器Cに送られ、管型反応器Cを通って排出される反応液は混合器Mに供給され、槽型反応器Bから排出される反応液と混合され、さらに二軸押出機に供給される。各反応器には採取管が設置されていて、採取管から少量の反応液を抜き出して、重合体等の特性を測定できるようになっている。
【0092】
《実施例1》
撹拌機付オートクレーブAに、精製されたメタクリル酸メチル94.7質量部、アクリル酸メチル5.3質量部、2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)(「AIBN」 大塚化学社製、水素引抜能:1%、1時間半減期温度:82.6℃)0.006質量部およびn−オクチルメルカプタン0.38質量部を仕込み均一に溶解させて原料液(I)を得た。
撹拌機付オートクレーブBに、精製されたメタクリル酸メチル94.7質量部、アクリル酸メチル5.3質量部、2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)0.005質量部およびn−オクチルメルカプタン0.68質量部を仕込み均一に溶解させて原料液(II)を得た。
製造装置内を窒素で置換し、酸素を追い出した。
【0093】
原料液(I)を、オートクレーブAから1.5kg/hrで、温度150℃に制御された槽型反応器Aに供給し、平均滞留時間150分間で塊状重合を行い、1.5kg/hrで槽型反応器Aから重合体(a)を含む反応液Aを排出した。
これと並んで、原料液(II)を、オートクレーブBから0.46kg/hrで、温度150℃に制御された槽型反応器Bに供給し、平均滞留時間150分間で塊状重合を行い、0.46kg/hrで槽型反応器Bから重合体(b)を含む反応液Bを排出した。
これらに続けて、反応液Aを1.5kg/hrで、反応液Bを0.46kg/hrで、150℃に保持されたノリタケエンジニアリング社製スタティックミキサーを内装した混合器Mに送り、混合器M内で混合し、得られた混合液を混合器Mから1.96kg/hrで排出した。
これに続けて、該混合液を230℃に加温し、260℃に制御された二軸押出機に1.96kg/hrで供給した。該二軸押出機において未反応単量体を主成分とする揮発分を分離除去して、重合体をストランド状に押し出した。該ストランドをペレタイザーでカットし、ペレット状のメタクリル系樹脂を得た。
【0094】
前記の連続製造操作が定常状態になったところで、各採取管から少量の反応液を抜き取って物性値等を測定した。
その結果、槽型反応器Aにおける重合転化率は52質量%であった。槽型反応器Aにおいて製造された重合体(a)は、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位96.0質量%およびアクリル酸メチルに由来する繰り返し単位4.0質量%からなり、かつ重量平均分子量が58,400であった。槽型反応器A内の反応液Aの粘度ηarは0.073Pa・s(150℃)であった。
槽型反応器Bにおける重合転化率は48質量%であった。槽型反応器Bにおいて製造された重合体(b)は、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位96.0質量%およびアクリル酸メチルに由来する繰り返し単位4.0質量%からなり、かつ重量平均分子量が33,600であった。槽型反応器B内の反応液Bの粘度ηbrは0.012Pa・s(150℃)であった。
混合時における反応液Aの粘度ηam(150℃)と反応液Bの粘度ηbm(150℃)との比(ηam/ηbm)は6.1であった。
【0095】
得られたペレット状のメタクリル系樹脂は、残存揮発分が0.1質量%、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位96.0質量%およびアクリル酸メチルに由来する繰り返し単位4.0質量%からなり、かつ重量平均分子量が53,000であった。
また、重量平均分子量5万を超える重合体(a)と重量平均分子量2万〜5万の重合体(b)との質量比(a/b)は78/22であった。
当該ペレット状メタクリル系樹脂を用いて射出成形にて成形品を作製して評価用の試験片とした。評価結果を表1に示す。
【0096】
《実施例2》
撹拌機付オートクレーブAに、精製されたメタクリル酸メチル94.7質量部、アクリル酸メチル5.3質量部、2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)0.008質量部およびn−オクチルメルカプタン0.35質量部を仕込み均一に溶解させて原料液(I)を得た。
撹拌機付オートクレーブBに、精製されたメタクリル酸メチル96.8質量部、アクリル酸メチル3.2質量部、2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)0.008質量部およびn−オクチルメルカプタン1.0質量部を仕込み均一に溶解させて原料液(II)を得た。
製造装置内を窒素で置換し、酸素を追い出した。
【0097】
前記原料液(I)を、オートクレーブAから1.5kg/hrで、温度140℃に制御された槽型反応器Aに供給し、平均滞留時間150分間で塊状重合を行い、1.5kg/hrで槽型反応器Aから重合体(a)を含む反応液Aを排出した。
これと並んで、前記原料液(II)を、オートクレーブBから0.3kg/hrで、温度130℃に制御された槽型反応器Bに供給し、平均滞留時間150分間で塊状重合を行い、0.3kg/hrで槽型反応器Bから重合体(b)を含む反応液Bを排出した。
これらに続けて、反応液Aを1.5kg/hrで、反応液Bを0.3kg/hrで、140℃に保持されたノリタケエンジニアリング社製スタティックミキサーを内装した混合器Mに送り、混合器M内で混合し、得られた混合液を混合器Mから1.8kg/hrで排出した。
これに続けて、該混合液を230℃に加温し、260℃に制御された二軸押出機に1.8kg/hrで供給した。該二軸押出機において未反応単量体を主成分とする揮発分を分離除去して、重合体をストランド状に押し出した。該ストランドをペレタイザーでカットし、ペレット状のメタクリル系樹脂を得た。
【0098】
前記の連続製造操作が定常状態になったところで、各採取管から少量の反応液を抜き取って物性値等を測定した。
その結果、槽型反応器Aにおける重合転化率は57質量%であった。槽型反応器Aにおいて製造された重合体(a)は、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位96.0質量%およびアクリル酸メチルに由来する繰り返し単位4.0質量%からなり、かつ重量平均分子量が64,500であった。槽型反応器A内の反応液Aの粘度ηarは1.5Pa・s(140℃)であった。
槽型反応器Bにおける重合転化率は58質量%であった。槽型反応器Bにおいて製造された重合体(b)は、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位98.0質量%およびアクリル酸メチルに由来する繰り返し単位2.0質量%からなり、かつ重量平均分子量が23,000であった。槽型反応器B内の反応液Bの粘度ηbrは0.41Pa・s(130℃)であった。
混合時における反応液Aの粘度ηam(140℃)と反応液Bの粘度ηbm(140℃)との比(ηam/ηbm)は8であった。
【0099】
得られたペレット状のメタクリル系樹脂は、残存揮発分が0.1質量%、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位96.3質量%およびアクリル酸メチルに由来する繰り返し単位3.7質量%からなり、かつ重量平均分子量が57,500であった。
また、重量平均分子量5万を超える重合体(a)と重量平均分子量2万〜5万の重合体(b)との質量比(a/b)は83/17であった。
当該ペレット状メタクリル系樹脂を用いて射出成形にて成形品を作製して評価用の試験片とした。その評価結果を表1に示す。
【0100】
《実施例3》
撹拌機付オートクレーブAに、精製されたメタクリル酸メチル92質量部、アクリル酸メチル8質量部、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(「パーオクタO」 大塚化学社製、水素引抜能:4%、1時間半減期温度:84℃)0.009質量部およびn−オクチルメルカプタン0.12質量部を仕込み均一に溶解させて原料液(I)を得た。
撹拌機付オートクレーブBに、精製されたメタクリル酸メチル94.7質量部、アクリル酸メチル5.3質量部、2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)0.008質量部およびn−オクチルメルカプタン1.0質量部を仕込み均一に溶解させて原料液(II)を得た。
製造装置内を窒素で置換し、酸素を追い出した。
【0101】
前記原料液(I)を、オートクレーブAから2kg/hrで、温度150℃に制御された槽型反応器Aに供給し、平均滞留時間120分間で塊状重合を行い、2kg/hrで槽型反応器Aから重合体(a)を含む反応液Aを排出した。
これと並んで、前記原料液(II)を、オートクレーブBから0.3kg/hrで、温度130℃に制御された槽型反応器Bに供給し、平均滞留時間150分間で塊状重合を行い、0.3kg/hrで槽型反応器Bから該重合体(b)を含む反応液Bを排出した。
これらに続けて、反応液Aを2kg/hrで、反応液Bを0.3kg/hrで、150℃に保持されたノリタケエンジニアリング社製スタティックミキサーを内装した混合器Mに送り、混合器M内で混合し、得られた混合液を混合器Mから2.3kg/hrで排出した。
これに続けて、該混合液を230℃に加温し、260℃に制御された二軸押出機に2.3kg/hrで供給した。該二軸押出機において未反応単量体を主成分とする揮発分を分離除去して、重合体をストランド状に押し出した。該ストランドをペレタイザーでカットし、ペレット状のメタクリル系樹脂を得た。
【0102】
前記の連続製造操作が定常状態になったところで、各採取管から少量の反応液を抜き取って物性値等を測定した。
その結果、槽型反応器Aにおける重合転化率は50質量%であった。槽型反応器Aにおいて製造された重合体(a)は、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位94.0質量%およびアクリル酸メチルに由来する繰り返し単位6.0質量%からなり、かつ重量平均分子量が142,000であった。槽型反応器A内の反応液Aの粘度ηarは7.8Pa・s(150℃)であった。
槽型反応器Bにおける重合転化率は58質量%であった。槽型反応器Bにおいて製造された重合体(b)は、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位96.0質量%およびアクリル酸メチルに由来する繰り返し単位4.0質量%からなり、かつ重量平均分子量が23,800であった。槽型反応器B内の反応液Bの粘度ηbrは1.5Pa・s(130℃)であった。
混合時における反応液Aの粘度ηam(150℃)と反応液Bの粘度ηbm(150℃)との比(ηam/ηbm)は460であった。
該メタクリル系樹脂は、残存揮発分が0.1質量%、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位94.5質量%およびアクリル酸メチルに由来する繰り返し単位4.5質量%からなり、かつ重量平均分子量が125,000であった。
また、重量平均分子量5万を超える重合体(a)と重量平均分子量2万〜5万の重合体(b)との質量比(a/b)は85/15であった。
当該ペレット状メタクリル系樹脂を用いて射出成形にて成形品を作製して評価用の試験片とした。その評価結果を表1に示す。
【0103】
《実施例4》
攪拌機付オートクレーブAに、精製されたメタクリル酸メチル95質量部、アクリル酸メチル5質量部、2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)0.009質量部およびn−オクチルメルカプタン0.39質量部を仕込み均一に溶解させて原料液(I)を得た。
撹拌機付オートクレーブBに、精製されたメタクリル酸メチル96.8質量部、アクリル酸メチル3.2質量部、2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)0.008質量部およびn−オクチルメルカプタン1.0質量部を仕込み均一に溶解させて原料液(II)を得た。
製造装置内を窒素で置換し、酸素を追い出した。
【0104】
前記原料液(I)を、オートクレーブAから2kg/hrで、温度130℃に制御された槽型反応器Aに供給し、平均滞留時間120分間で塊状重合を行い、2kg/hrで槽型反応器Aから重合体(a1)を含む反応液A1を排出した。次いで、反応液A1を2kg/hrで、ノリタケエンジニアリング社製スタティックミキサーを内装した配管部に送り、該配管部で1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(「パーヘキサC」 日本油脂社製、水素引抜能:35%、1時間半減期温度:111.1℃)を、原料液(I)に対して0.02質量部になる割合で、反応液A1と混合し、該混合液を内壁温度140℃に制御された管型反応器Cに2kg/hrで供給し、平均滞留時間12分間、内圧0.7MPaにて塊状重合を行い、2kg/hrで管型反応器Cから重合体(a)を含む反応液Aを排出した。
これと並んで、前記原料液(II)を、オートクレーブBから0.5kg/hrで、温度130℃に制御された槽型反応器Bに供給し、平均滞留時間150分間で塊状重合を行い、0.5kg/hrで槽型反応器Bから重合体(b)を含む反応液Bを排出した。
これらに続けて、反応液Aを2kg/hrで、反応液Bを0.5kg/hrで、140℃に保持されたノリタケエンジニアリング社製スタティックミキサーを内装した混合器Mに送り、混合器M内で混合し、得られた混合液を混合器Mから約2.5kg/hrで排出した。
これに続けて、該混合液を230℃に加温し、260℃に制御された二軸押出機に約2.5kg/hrで供給した。該二軸押出機において未反応単量体を主成分とする揮発分を分離除去して、重合体をストランド状に押し出した。該ストランドをペレタイザーでカットし、ペレット状のメタクリル系樹脂を得た。
【0105】
前記の連続製造操作が定常状態になったところで、各採取管から少量の反応液を抜き取って物性値等を測定した。
その結果、槽型反応器Aにおける重合転化率は50質量%であった。槽型反応器Aにおいて製造された重合体(a1)は、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位96.2質量%およびアクリル酸メチルに由来する繰り返し単位3.8質量%からなり、かつ重量平均分子量Mwa1が58,600であった。槽型反応器A内の反応液A1の粘度ηa1rは0.35Pa・s(130℃)であった。
管型反応器Cにおける重合転化率は59質量%であった。管型反応器Cにおいて製造された重合体(a)は、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位96.2質量%およびアクリル酸メチルに由来する繰り返し単位3.8質量%からなり、かつ重量平均分子量Mwaが58,300であった。管型反応器C内の反応液Aの粘度ηarは1.03Pa・s(140℃)であった。
重合体(a)は、槽型反応器Aにおいて製造された重合体(a1)と管型反応器Cにおいて製造された重合体(a2)とを含むものであると推定される。
槽型反応器Aにおける重合転化率と管型反応器Cにおける重合転化率とから、重合体(a)中の重合体(a1)の含有率Ca1[質量%]を推算し、管型反応器Cにおいて新たに製造された重合体(a2)の重量平均分子量Mwa2を下記式に基づいて推算した。

Mwa2=(100×Mwa−Mwa1×Ca1)/(100−Ca1

同様に、槽型反応器Aにおけるアクリル酸メチルに由来する繰り返し単位の含有率CMa1と管型反応器Cにおけるアクリル酸メチルに由来する繰り返し単位の含有率CMaとから、重合体におけるアクリル酸メチルに由来する繰り返し単位の含有率CMa2を下記式に基づいて推算した。

Ma2=(100×CMa−CMa1×Ca1)/(100−Ca1


管型反応器Cにおいて新たに製造された重合体(a2)は、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位96.2質量%およびアクリル酸メチルに由来する繰り返し単位3.8質量%からなりかつ重量平均分子量が56,500であることがわかった。
【0106】
槽型反応器Bにおける重合転化率は58質量%であった。槽型反応器Bにおいて製造された重合体(b)は、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位98.0質量%およびアクリル酸メチルに由来する繰り返し単位2.0質量%からなり、かつ重量平均分子量が23,000であった。槽型反応器B内の反応液Bの粘度ηbrは0.41Pa・s(130℃)であった。
混合時における反応液Aの粘度ηam(140℃)と反応液Bの粘度ηbm(140℃)との比(ηam/ηbm)が13であった。
得られたペレット状のメタクリル系樹脂は、残存揮発分が0.1質量%、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位96.6質量%およびアクリル酸メチルに由来する繰り返し単位3.4質量%からなり、かつ重量平均分子量が47,000であった。
また、重量平均分子量5万を超える重合体(a)と重量平均分子量2万〜5万の重合体(b)との質量比(a/b)は80/20であった。
当該ペレット状メタクリル系樹脂を用いて射出成形にて成形品を作製して評価用の試験片とした。その評価結果を表1に示す。
【0107】
《比較例1》
撹拌機付オートクレーブAに、精製されたメタクリル酸メチル94.7質量部、アクリル酸メチル5.3質量部、2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)0.008質量部およびn−オクチルメルカプタン0.35質量部を仕込み均一に溶解させて原料液(I)を得た。
撹拌機付オートクレーブBに、精製されたメタクリル酸メチル96.8質量部、アクリル酸メチル3.2質量部、2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)0.008質量部およびn−オクチルメルカプタン1.0質量部を仕込み均一に溶解させて原料液(II)を得た。
製造装置内を窒素で置換し、酸素を追い出した。
【0108】
前記原料液(I)を、オートクレーブAから1.5kg/hrで、温度140℃に制御された槽型反応器Aに供給し、平均滞留時間150分間で塊状重合を行い、1.5kg/hrで槽型反応器Aから重合体(a)を含む反応液Aを排出した。
これと並んで、前記原料液(II)を、オートクレーブBから0.04kg/hrで、温度130℃に制御された槽型反応器Bに供給し、平均滞留時間150分間で塊状重合を行い、0.04kg/hrで槽型反応器Bから重合体(b)を含む反応液Bを排出した。
これらに続けて、反応液Aを1.5kg/hrで、反応液Bを0.04kg/hrで、140℃に保持されたノリタケエンジニアリング社製スタティックミキサーを内装した混合器Mに送り、混合器M内で混合し、得られた混合液を混合器Mから1.54kg/hrで排出した。
これに続けて、該混合液を230℃に加温し、260℃に制御された二軸押出機に1.54kg/hrで供給した。該二軸押出機において未反応単量体を主成分とする揮発分を分離除去して、重合体をストランド状に押し出した。該ストランドをペレタイザーでカットし、ペレット状のメタクリル系樹脂を得た。
【0109】
前記の連続製造操作が定常状態になったところで、各採取管から少量の反応液を抜き取って物性値等を測定した。
その結果、槽型反応器Aにおける重合転化率は57質量%であった。槽型反応器Aにおいて製造された重合体(a)は、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位96.0質量%およびアクリル酸メチルに由来する繰り返し単位4.0質量%からなり、かつ重量平均分子量が64,500であった。槽型反応器A内の反応液Aの粘度ηarは1.5Pa・s(140℃)であった。
槽型反応器Bにおける重合転化率は58質量%であった。槽型反応器Bにおいて製造された重合体(b)は、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位98.0質量%およびアクリル酸メチルに由来する繰り返し単位2.0質量%からなり、かつ重量平均分子量が23,000であった。槽型反応器B内の反応液Bの粘度ηbrは0.41Pa・s(130℃)であった。
混合時における反応液Aの粘度ηam(140℃)と反応液Bの粘度ηbm(140℃)との比(ηam/ηbm)は19であった。
得られたペレット状のメタクリル系樹脂は、残存揮発分が0.1質量%、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位96.0質量%およびアクリル酸メチルに由来する繰り返し単位4.0質量%からなり、かつ重量平均分子量が63,000であった。
また、重量平均分子量5万を超える重合体(a)と重量平均分子量2万〜5万の重合体(b)との質量比(a/b)は97/3であった。
当該ペレット状メタクリル系樹脂を用いて射出成形にて成形品を作製して評価用の試験片とした。その評価結果を表1に示す。
【0110】
《比較例2》
撹拌機付オートクレーブAに、精製されたメタクリル酸メチル94.7質量部、アクリル酸メチル5.3質量部、2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)0.008質量部およびn−オクチルメルカプタン0.35質量部を仕込み均一に溶解させて原料液(I)を得た。
【0111】
撹拌機付オートクレーブBに、精製されたメタクリル酸メチル96.8質量部、アクリル酸メチル3.2質量部、2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)0.008質量部およびn−オクチルメルカプタン1.0質量部を仕込み均一に溶解させて原料液(II)を得た。
製造装置内を窒素で置換し、酸素を追い出した。
【0112】
前記原料液(I)を、オートクレーブAから1.2kg/hrで、温度140℃に制御された槽型反応器Aに供給し、平均滞留時間150分間で塊状重合を行い、1.2kg/hrで槽型反応器Aから重合体(a)を含む反応液Aを排出した。
これと並んで、前記原料液(II)を、オートクレーブBから1.1kg/hrで、温度130℃に制御された槽型反応器Bに供給し、平均滞留時間150分間で塊状重合を行い、1.1kg/hrで槽型反応器Bから重合体(b)を含む反応液Bを排出した。
これらに続けて、反応液Aを1.2kg/hrで、反応液Bを1.1kg/hrで、140℃に保持されたノリタケエンジニアリング社製スタティックミキサーを内装した混合器Mに送り、混合器M内で混合し、得られた混合液を混合器Mから2.3kg/hrで排出した。
これに続けて、該混合液を230℃に加温し、260℃に制御された二軸押出機に2.3kg/hrで供給した。該二軸押出機において未反応単量体を主成分とする揮発分を分離除去して、重合体をストランド状に押し出した。該ストランドをペレタイザーでカットし、ペレット状のメタクリル系樹脂を得た。
【0113】
前記の連続製造操作が定常状態になったところで、各採取管から少量の反応液を抜き取って物性値等を測定した。
その結果、槽型反応器Aにおける重合転化率は57質量%であった。槽型反応器Aにおいて製造された重合体(a)は、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位96.0質量%およびアクリル酸メチルに由来する繰り返し単位4.0質量%からなり、かつ重量平均分子量が64,500であった。槽型反応器A内の反応液Aの粘度ηarは1.5Pa・s(140℃)であった。
槽型反応器Bにおける重合転化率は58質量%であった。槽型反応器Bにおいて製造された重合体(b)は、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位98.0質量%およびアクリル酸メチルに由来する繰り返し単位2.0質量%からなり、かつ重量平均分子量が23,000であった。槽型反応器B内の反応液Bの粘度ηbrは0.41Pa・s(130℃)であった。
混合時における反応液Aの粘度ηam(140℃)と反応液Bの粘度ηbm(140℃)との比(ηam/ηbm)は19であった。
得られたペレット状のメタクリル系樹脂は、残存揮発分が0.1質量%、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位97.0質量%およびアクリル酸メチルに由来する繰り返し単位3.0質量%からなり、かつ重量平均分子量が46,000であった。
また、重量平均分子量5万を超える重合体(a)と重量平均分子量2万〜5万の重合体(b)との質量比(a/b)は52/48であった。
当該ペレット状メタクリル系樹脂を用いて射出成形にて成形品を作製して評価用の試験片とした。その評価結果を表1に示す。
【0114】
【表1】

【0115】
《比較例3》
撹拌機付オートクレーブAに、精製されたメタクリル酸メチル93.6質量部、アクリル酸メチル6.4質量部、2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)0.008質量部およびn−オクチルメルカプタン0.28質量部を仕込み均一に溶解させて原料液(I)を得た。
撹拌機付オートクレーブBに、精製されたメタクリル酸メチル74.3質量部、アクリル酸メチル25.7質量部、2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)0.008質量部およびn−オクチルメルカプタン1.3質量部を仕込み均一に溶解させて原料液(II)を得た。
製造装置内を窒素で置換し、酸素を追い出した。
【0116】
前記原料液(I)を、オートクレーブAから1.5kg/hrで、温度140℃に制御された槽型反応器Aに供給し、平均滞留時間150分間で塊状重合を行い、1.5kg/hrで槽型反応器Aから重合体(a)を含む反応液Aを排出した。
これと並んで、前記原料液(II)を、オートクレーブBから0.2kg/hrで、温度130℃に制御された槽型反応器Bに供給し、平均滞留時間150分間で塊状重合を行い、0.2kg/hrで槽型反応器Bから該重合体(b)を含む反応液Bを排出した。
これらに続けて、反応液Aを1.5kg/hrで、反応液Bを0.2kg/hrで、140℃に保持されたノリタケエンジニアリング社製スタティックミキサーを内装した混合器Mに送り、混合器M内で混合し、得られた混合液を混合器Mから1.7kg/hrで排出した。
これに続けて、該混合液を230℃に加温し、260℃に制御された二軸押出機に1.7kg/hrで供給した。該二軸押出機において未反応単量体を主成分とする揮発分を分離除去して、重合体をストランド状に押し出した。該ストランドをペレタイザーでカットし、ペレット状のメタクリル系樹脂が得られた。
【0117】
前記の連続製造操作が定常状態になったところで、各採取管から少量の反応液を抜き取って物性値等を測定した。
その結果、槽型反応器Aにおける重合転化率は57質量%であった。槽型反応器Aにおいて製造された重合体(a)は、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位95.2質量%およびアクリル酸メチルに由来する繰り返し単位4.8質量%からなり、かつ重量平均分子量が76,500であった。槽型反応器A内の反応液Aの粘度ηarは4.5Pa・s(140℃)であった。
槽型反応器Bにおける重合転化率は58質量%であった。槽型反応器Bにおいて製造された重合体(b)は、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位80.6質量%およびアクリル酸メチルに由来する繰り返し単位19.4質量%からなり、かつ重量平均分子量が18,900であった。槽型反応器B内の反応液Bの粘度ηbrは0.18Pa・s(130℃)であった。
混合時における反応液Aの粘度ηam(140℃)と反応液Bの粘度ηbm(140℃)との比(ηam/ηbm)が75であった。
得られたペレット状のメタクリル系樹脂は、残存揮発分が0.1質量%、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位93.4質量%およびアクリル酸メチルに由来する繰り返し単位6.6質量%からなり、かつ重量平均分子量が69,600であった。
また、重量平均分子量5万を超える重合体(a)と重量平均分子量2万〜5万の重合体(b)との質量比(a/b)は88/12であった。
当該ペレット状メタクリル系樹脂を用いて射出成形にて成形品を作製して評価用の試験片とした。その評価結果を表2に示す。
【0118】
《比較例4》
撹拌機付オートクレーブAに、精製されたメタクリル酸メチル94.7質量部、アクリル酸メチル5.3質量部、2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)0.008質量部およびn−オクチルメルカプタン0.31質量部を仕込み均一に溶解させて原料液(I)を得た。
撹拌機付オートクレーブBに、精製されたメタクリル酸メチル89.0質量部、アクリル酸メチル11.0質量部、2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)0.008質量部およびn−オクチルメルカプタン1.2質量部を仕込み均一に溶解させて原料液(II)を得た。
製造装置内を窒素で置換し、酸素を追い出した。
【0119】
前記原料液(I)を、オートクレーブAから1.5kg/hrで、温度140℃に制御された槽型反応器Aに供給し、平均滞留時間150分間で塊状重合を行い、1.5kg/hrで槽型反応器Aから該重合体(a)を含む反応液Aを排出した。
これと並んで、前記原料液(II)を、オートクレーブBから0.4kg/hrで、温度130℃に制御された槽型反応器Bに供給し、平均滞留時間150分間で塊状重合を行い、0.4kg/hrで槽型反応器Bから該重合体(b)を含む反応液Bを排出した。
これらに続けて、反応液Aを1.5kg/hrで、反応液Bを0.4kg/hrで、140℃に保持されたノリタケエンジニアリング社製スタティックミキサーを内装した混合器Mに送り、混合器M内で混合し、得られた混合液を混合器Mから1.9kg/hrで排出した。
これに続けて、混合器Mから排出される混合液を230℃に加温し、260℃に制御された二軸押出機に1.9kg/hrで供給した。該二軸押出機において未反応単量体を主成分とする揮発分が分離除去されて、重合体がストランド状に押し出された。該ストランドをペレタイザーでカットし、ペレット状のメタクリル系樹脂を得た。
【0120】
前記の連続製造操作が定常状態になったところで、各採取管から少量の反応液を抜き取って物性値等を測定した。
その結果、槽型反応器Aにおける重合転化率は57質量%であった。槽型反応器Aにおいて製造された重合体(a)は、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位96.0質量%およびアクリル酸メチルに由来する繰り返し単位4.0質量%からなり、かつ重量平均分子量が70,500であった。槽型反応器A内の反応液Aの粘度ηarは2.0Pa・s(140℃)であった。
槽型反応器Bにおける重合転化率は58質量%であった。槽型反応器Bにおいて製造された重合体(b)は、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位91.7質量%およびアクリル酸メチルに由来する繰り返し単位8.3質量%からなり、かつ重量平均分子量が19,300であった。槽型反応器B内の反応液Bの粘度ηbrは0.19Pa・s(130℃)であった。
混合時における反応液Aの粘度ηam(140℃)と反応液Bの粘度ηbm(140℃)との比(ηam/ηbm)が25であった。
得られたペレット状の該メタクリル系樹脂は、残存揮発分が0.1質量%、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位95.0質量%およびアクリル酸メチルに由来する繰り返し単位5.0質量%からなり、かつ重量平均分子量が58,700であった。
また、重量平均分子量5万を超える重合体(a)と重量平均分子量2万〜5万の重合体(b)との質量比(a/b)は79/21であった。
当該ペレット状メタクリル系樹脂を用いて射出成形にて成形品を作製して評価用の試験片とした。その評価結果を表2に示す。
【0121】
《比較例5》
撹拌機付オートクレーブAに、精製されたメタクリル酸メチル94.7質量部、アクリル酸メチル5.3質量部、2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)0.006質量部およびn−オクチルメルカプタン0.38質量部を仕込み均一に溶解させて原料液(I)を得た。
製造装置内を窒素で置換し、酸素を追い出した。
【0122】
前記原料液(I)を、オートクレーブAから一定流量で、温度150℃に制御された槽型反応器Aに供給し、平均滞留時間150分間で塊状重合を行い、前記供給量にバランスする流量で槽型反応器Aから反応液Aを排出した。
これに続けて、反応液Aを230℃に加温し、260℃に制御された二軸押出機に一定流量で供給した。該二軸押出機において未反応単量体を主成分とする揮発分を分離除去して、反応物をストランド状に押し出した。該ストランドをペレタイザーでカットし、ペレット状のメタクリル系樹脂を得た。
【0123】
前記の連続製造操作が定常状態になったところで、各採取管から少量の反応液を抜き取って物性値等を測定した。
その結果、槽型反応器Aにおける重合転化率は52質量%であった。
得られたペレット状のメタクリル系樹脂は、残存揮発分が0.1質量%、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位96.0質量%およびアクリル酸メチルに由来する繰り返し単位4.0質量%からなり、かつ重量平均分子量が58,400であった。
当該ペレット状メタクリル系樹脂を用いて射出成形にて成形品を作製して評価用の試験片とした。その評価結果を表2に示す。
【0124】
《参考例1》
撹拌機付オートクレーブAに、精製されたメタクリル酸メチル94.7質量部、アクリル酸メチル5.3質量部、2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)0.005質量部およびn−オクチルメルカプタン0.1質量部を仕込み均一に溶解させて原料液(I)を得た。窒素により製造装置内の酸素を追出した。
【0125】
前記原料液(I)を、オートクレーブAから一定流量で、温度150℃に制御された槽型反応器Aに供給し、平均滞留時間150分間で塊状重合を行い、前記供給量にバランスする流量で槽型反応器Aから反応液Aを排出した。
これに続けて、反応液Aを230℃に加温し、260℃に制御された二軸押出機に一定流量で供給した。該二軸押出機において未反応単量体を主成分とする揮発分を分離除去して、重合体をストランド状に押し出した。該ストランドをペレタイザーでカットし、ペレット状のメタクリル系樹脂を得た。
【0126】
前記の連続製造操作が定常状態になったところで、各採取管から少量の反応液を抜き取って物性値等を測定した。
その結果、槽型反応器Aにおける重合転化率は48質量%であった。得られたペレット状のメタクリル系樹脂は、残存揮発分が0.1質量%、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位96.0質量%およびアクリル酸メチルに由来する繰り返し単位4.0質量%からなり、かつ重量平均分子量が19,000であった。
【0127】
《参考例2》
撹拌機付オートクレーブAに、精製されたメタクリル酸メチル94.7質量部、アクリル酸メチル5.3質量部、2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)0.006質量部およびn−オクチルメルカプタン0.14質量部を仕込み均一に溶解させて原料液(I)を得た。窒素により製造装置内の酸素を追出した。
【0128】
前記原料液(I)を、オートクレーブAから一定流量で、温度150℃に制御された槽型反応器Aに供給し、平均滞留時間150分間で塊状重合を行い、前記供給量にバランスする流量で槽型反応器Aから反応液Aを排出した。
これに続けて、反応液Aを230℃に加温し、260℃に制御された二軸押出機に一定流量で供給した。該二軸押出機において未反応単量体を主成分とする揮発分を分離除去して、重合体をストランド状に押し出した。該ストランドをペレタイザーでカットし、ペレット状のメタクリル系樹脂を得た。
【0129】
前記の連続製造操作が定常状態になったところで、各採取管から少量の反応液を抜き取って物性値等を測定した。
その結果、槽型反応器Aにおける重合転化率は52質量%であった。
得られたペレット状のメタクリル系樹脂は、残存揮発分が0.1質量%、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位96.0質量%およびアクリル酸メチルに由来する繰り返し単位4.0質量%からなり、かつ重量平均分子量が149,600であった。
当該ペレット状メタクリル系樹脂を用いて射出成形にて成形品を作製して評価用の試験片とした。その評価結果を表2に示す。
【0130】
《比較例6》
比較例5で得られたペレット状メタクリル系樹脂80質量部と参考例1で得られたペレット状メタクリル系樹脂20質量部をヘンシェルミキサーにて混合した。その後、二軸押出機((株)テクノベル製、商品名:KZW20TW-45MG-NH-600)で250℃にて混練押出して、ペレット状メタクリル系ブレンド樹脂を得た。当該メタクリル系ブレンド樹脂は、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位96.0質量%およびアクリル酸メチルに由来する繰り返し単位4.0質量%からなりかつ重量平均分子量が50,500であった。当該メタクリル系ブレンド樹脂を用いて射出成形にて成形品を作製して評価用の試験片とした。その評価結果を表2に示す。
【0131】
【表2】

【0132】
《比較例7》
参考例2で得られたペレット状メタクリル系樹脂80質量部と参考例1で得られたペレット状メタクリル系樹脂20質量部をヘンシェルミキサーにて混合した。その後、二軸押出機((株)テクノベル製、商品名:KZW20TW-45MG-NH-600)で250℃にて混練押出して、ペレット状メタクリル系ブレンド樹脂を得た。当該ペレット状メタクリル系ブレンド樹脂は、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位96.0質量%およびアクリル酸メチルに由来する繰り返し単位4.0質量%からなりかつ重量平均分子量が123,500であった。このストランドには外観不良の原因となる未溶融物が多く見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸メチル50質量%以上とこれに共重合可能なビニル系単量体50質量%以下とを含有してなる単量体混合物を、
並列に連結された少なくとも2系統の槽型流通式反応装置の各系統において、120〜180℃の範囲内の温度で、単量体混合物の重合転化率が20〜80質量%となるまで塊状重合する工程、および
各系統で得られた反応液を混ぜ合わせる工程を含む、
重量平均分子量5万を超える重合体(a)と重量平均分子量2万〜5万の重合体(b)とを質量比(a/b)60/40〜90/10で含有するメタクリル系樹脂の製造方法。
【請求項2】
一の系統の槽型流通式反応装置において重合体(a)を含む反応液(α)を得、他の系統の槽型流通式反応装置において重合体(b)を含む反応液(β)を得、前記各系統で得られた反応液を混ぜ合わせる工程は反応液(α)と反応液(β)を流通方式で連続的に混ぜ合わせることを含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
槽型流通式反応装置内における反応液(α)の粘度ηarおよび反応液(β)の粘度ηbrがともに0.005〜50Pa・sの範囲内にあり、
混合時における反応液(α)の粘度ηamと反応液(β)の粘度ηbmとの比(ηam/ηbm)が1000以下である請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
重合体(a)中のメタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位の含有量am[質量%]と重合体(b)中のメタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位の含有量bm[質量%]とが、|am−bm|<4質量%の関係にある請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法によって得られたメタクリル系樹脂からなる成形品。

【公開番号】特開2012−214619(P2012−214619A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80699(P2011−80699)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】