説明

メタクリル系樹脂組成物、その製造方法、及び成形体

【課題】成形流動性に優れ、成形体の表面硬度が高く、成形体を熱板溶着する際にも糸曳きが発生せず、さらには成形体の耐溶剤性や衝撃強度も高いメタクリル系樹脂組成物を得る。
【解決手段】メタクリル酸エステル単量体単位80〜98.5(質量%)と、
少なくとも1種のメタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体単位1.5〜20(質量%)と、を含み、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量が60000〜250000であり、GPC溶出曲線から得られるピーク分子量(Mp)の1/5以下の分子量成分が7〜40%含まれているメタクリル系樹脂(A)と、
フッ素系樹脂(B)と、
を、含有するメタクリル系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクリル系樹脂組成物、その製造方法、及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメタクリル酸メチル(PMMA)に代表されるメタクリル系樹脂は、その高い透明性から、光学材料、車両用部品、建築用材料、レンズ、家庭用品、OA機器、照明機器等の分野で幅広く使用されている。
近年、メタクリル系樹脂の成形体の用途はさらに広がりつつあり、例えば高級感を求められるOA機器、AV機器、ゲーム機等の各種筐体や、大型成形体が必要となる浴槽、洗面化粧台、キッチンカウンター、衛生容器等への展開が期待されている。これらの用途に展開する際、樹脂に求められる性能としては、基本的な機械的強度に加え、射出成形しやすいこと、射出成形により得られた成形品にゆがみが少ないこと、より外観が美しいこと、成形体を高温の熱板に溶着面を押し当てて溶融状態にし、溶着加工を行ういわゆる熱板溶着法により成形体をさらに加工する際、樹脂が糸を引かないこと等、多岐にわたっている。
【0003】
このような要求を満たす樹脂を提供するため、種々な組成を有する樹脂が検討されている。
例えば、特許文献1には、重量平均分子量(Mw)が特定範囲のメタクリル系樹脂の分子量分布を分画し、ピークトップ(Mp)に対する低分子量の割合を規定して、流動性と機械的強度のバランスを向上させているアクリル樹脂が提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、アクリル樹脂に粒状のポリテトラフルオロエチレン樹脂と、粒状のシリコーンゴムや粒状フッ素ゴムとを含む樹脂組成物により、成形体のシャルピー強度や耐薬品性を高めようとする技術が開示されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、アクリル樹脂に特定の表面処理をした無機充填剤を添加することにより、成形体の強度の向上を図った樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2007/060891号パンフレット
【特許文献2】特開2008−239824号公報
【特許文献3】特開2009−235207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献1に記載されているアクリル樹脂から得られる成形体は、熱板溶着時に糸曳きが生じることがあることに加え、用途によってはさらに耐衝撃性に関し、改良の余地がある。
また、前記特許文献2に記載されているアクリル樹脂組成物から得られる成形体は、表面鉛筆硬度が不十分であり、射出成形する場合の流動性についても、実用上十分であるとは言えない。
さらに、特許文献3に記載されているアクリル樹脂組成物から得られる成形体は、耐衝撃強度や耐ケミカルクラック性は改善されているものの、無機充填剤に特定の表面処理を必要とするため、製造コストや生産性に関して改善の余地があり、さらにまた、アクリル樹脂組成物の流動性や熱板溶着時に耐糸曳き性についても、実用上十分であるとは言えない。
【0008】
そこで本発明においては、成形流動性、表面硬度及び熱板溶着性に優れ、さらには耐溶剤性や、衝撃強度等の機械的強度にも優れているメタクリル系樹脂組成物、及びこの成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定のメタクリル系樹脂とフッ素系樹脂とを含有する樹脂組成物が、射出成形する際の流動性が良好であり、成形体の表面硬度が高く、耐溶剤性や衝撃強度に優れ、成形体の熱板溶着時にも糸曳きの問題も生じず、熱板溶着性に優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0010】
〔1〕
メタクリル酸エステル単量体単位80〜98.5(質量%)と、
少なくとも1種のメタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体単位1.5〜20(質量%)と、を含み、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量が60000〜250000であり、GPC溶出曲線から得られるピーク分子量(Mp)の1/5以下の分子量成分が7〜40%含まれているメタクリル系樹脂(A)と、
フッ素系樹脂(B)と、
を、含有するメタクリル系樹脂組成物。
〔2〕
前記メタクリル系樹脂(A)は、
前記GPC溶出曲線におけるエリア面積(%)において、
累積エリア面積(%)が0〜2%である重量平均分子量成分を有するメタクリル系樹脂中の、前記メタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体単位の平均組成比率Mh(質量%)と、
累積エリア面積(%)が98〜100(%)である重量平均分子量成分を有するメタクリル系樹脂中の、前記メタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体単位の平均組成比率Ml(質量%)と、
が、下記式(i)の関係を有するメタクリル系樹脂である、前記〔1〕に記載のメタクリル系樹脂組成物。
(Mh−0.8)≧Ml≧0 ・・・(i)
〔3〕
前記メタクリル系樹脂(A)は、
前記GPC溶出曲線におけるエリア面積(%)において、
累積エリア面積(%)が0〜2(%)である重量平均分子量成分を有する前記メタクリル系樹脂中の、前記メタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体単位の平均組成比率Mh(質量%)と、
累積エリア面積(%)が98〜100%である重量平均分子量成分を有するメタクリル系樹脂中の、前記メタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体単位の平均組成比率Ml(質量%)と、
が、下記式(ii)の関係を有するメタクリル系樹脂である、前記〔1〕又は〔2〕に記載のメタクリル系樹脂組成物。
(Mh−2)≧Ml≧0 ・・・(ii)
〔4〕
前記メタクリル系樹脂(A)が、
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の溶出曲線から得られるピーク分子量(Mp)の1/5以下の分子量成分が、20%以上40%以下含まれているメタクリル系樹脂である、前記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一に記載のメタクリル系樹脂組成物。
〔5〕
有機ゴム粒子、無機充填剤、及び着色剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の添加物(C)を、さらに含有する、前記〔1〕乃至〔4〕のいずれか一に記載のメタクリル系樹脂組成物。
〔6〕
熱板溶着用メタクリル系樹脂組成物である、前記〔1〕乃至〔5〕のいずれか一に記載のメタクリル系樹脂組成物。
〔7〕
前記〔1〕乃至〔6〕のいずれか一に記載のメタクリル系樹脂組成物の製造方法であって、
メタクリル酸エステル単量体単位80〜100(質量%)及びメタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体の少なくとも1種で構成される単量体単位0〜20(質量%)を含み、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平分均子量が5000〜50000である重合体(I)を該メタクリル系樹脂(A)全体に対し5〜40(質量%)製造する工程と、
前記重合体(I)の存在下でメタクリル酸エステルを含む原料混合物を添加し、メタクリル酸エステル単量体単位80〜99.5(質量%)及びメタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体の少なくとも1種で構成される単量体単位0.5〜20(質量%)を含み、重量平均分子量が60000〜350000である重合体(II)を該メタクリル系樹脂(A)全体に対し95〜60(質量%)製造する工程と、
によりメタクリル系樹脂(A)を作製する工程と、
当該メタクリル系樹脂(A)と、フッ素系樹脂(B)と、を、混練する工程と、
を有するメタクリル系樹脂組成物の製造方法。
〔8〕
前記〔1〕乃至〔7〕のいずれか一に記載のメタクリル系樹脂組成物を成形することにより得られる成形体。
〔9〕
前記〔1〕乃至〔7〕のいずれか一に記載のメタクリル系樹脂組成物を成形することにより得られる熱板溶着用の成形体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、射出成形する際の流動性に優れ、得られた成形体の表面硬度が高く、成形体を熱板溶着する際にも糸曳きが発生せず、さらには成形体の耐溶剤性や衝撃強度等の機械的強度も高いメタクリル系樹脂組成物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】メタクリル系樹脂のGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)溶出曲線測定グラフ上での累積エリア面積に関する説明図を示す。
【図2】GPC溶出曲線測定グラフ上での所定の溶出時間での累積エリア面積を示す図である。
【図3】GPC溶出曲線測定グラフ上での、累積エリア面積0〜2%と、累積エリア面積98〜100%の位置を示す概略図を示す。
【図4】ベンディングフォーム法による耐ケミカルクラック性試験の概略説明図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について、詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜変形して実施できる。
なお、本明細書において、重合前のモノマー成分のことを「〜単量体」といい、「単量体」を省略することもある。
また、重合体を構成する構成単位のことを「〜単量体単位」といい、単に「〜単位」と表記することもある。
なお、図面中、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0014】
〔メタクリル系樹脂組成物〕
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物は、
メタクリル酸エステル単量体単位80〜98.5(質量%)と、
少なくとも1種のメタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体単位1.5〜20(質量%)と、を含み、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量が60000〜250000であり、GPC溶出曲線から得られるピーク分子量(Mp)の1/5以下の重量平均分子量成分が7〜40%含まれているメタクリル系樹脂(A)と、
フッ素系樹脂(B)と、
を、含有する。
【0015】
(メタクリル系樹脂(A))
メタクリル系樹脂(A)は、メタクリル酸エステル単量体単位80〜98.5(質量%)と、少なくとも1種のメタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体単位1.5〜20(質量%)と、を含む。すなわち、メタクリル系樹脂(A)は、メタクリル酸エステル単量体を80〜98.5質量%、前記メタクリル酸エステル単量体単位に共重合可能な、少なくとも1種の他のビニル単量体を1.5〜20質量%含む単量体成分の共重合体である。
また、メタクリル系樹脂(A)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量が60000〜250000であり、GPC溶出曲線から得られるピーク分子量(Mp)の1/5以下の分子量成分が7〜40%含まれている。
【0016】
<メタクリル酸エステル単量体>
メタクリル系樹脂(A)を構成するメタクリル酸エステル単量体は、発明の効果を達成できるものであれば特に制限されないが、好ましい例としては、下記一般式(1)で示される。
【0017】
【化1】

【0018】
前記一般式(1)中、R1はメチル基を表す。
また、R2は、炭素数が1〜12の基を表し、炭素上に水酸基を有していてもよい。
メタクリル酸エステル単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸(2−エチルヘキシル)、メタクリル酸(t−ブチルシクロヘキシル)、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸(2,2,2−トリフルオロエチル)等が挙げられ、代表的なものはメタクリル酸メチルである。
上記メタクリル酸エステル単量体は、一種又は二種以上組み合わせて使用することもできる。
また、上記メタクリル酸エステル単量体は、後述する重合体(I)と重合体(II)において、同じものを使用してもよく、異なるものを用いてもよい。
【0019】
メタクリル系樹脂(A)を構成する、上述したメタクリル酸エステル単量体の含有量は、メタクリル系樹脂(A)中の80〜98.5質量%である。
含有量を80質量%以上とすることにより、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物において耐熱性の効果が得られ、98.5質量%以下とすることにより流動性の効果が得られる。好ましくは88〜98質量%であり、より好ましくは90〜97質量%である。
【0020】
<メタクリル酸エステル単量体に共重合可能な、他のビニル単量体>
メタクリル系樹脂(A)を構成する、上述したメタクリル酸エステル単量体に共重合可能な他のビニル単量体としては、下記一般式(2)で表されるアクリル酸エステル単量体が挙げられる。
【0021】
【化2】

【0022】
前記一般式(2)中、R3は水素原子であり、R4は炭素数が1〜18のアルキル基である。
【0023】
前記一般式(2)で表されるアクリル酸エステル単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられ、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチルが好ましく、アクリル酸メチルが入手しやすくより好ましい。
【0024】
また、前記メタクリル酸エステル単量体に共重合可能な、前記一般式(2)のアクリル酸エステル単量体以外の他のビニル単量体としては、以下の例に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸やメタクリル酸等のα,β−不飽和酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、桂皮酸等の不飽和基含有二価カルボン酸及びそれらのアルキルエステル;スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、3,4−ジメチルスチレン、3,5−ジメチルスチレン、p−エチルスチレン、m−エチルスチレン、о−エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、イソプロペニルベンセン(α−メチルスチレン)等のスチレン系単量体;1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、1,1−ジフェニルエチレン、イソプロペニルトルエン、イソプロペニルエチルベンゼン、イソプロペニルプロピルベンゼン、イソプロペニルブチルベンゼン、イソプロペニルペンチルベンゼン、イソプロペニルヘキシルベンゼン、イソプロペニルオクチルベンゼン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸無水物類;マレイミドや、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のN−置換マレイミド等;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のエチレングリコール又はそのオリゴマーの両末端水酸基をアクリル酸又はメタクリル酸でエステル化したもの;ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリレート等の2個のアルコールの水酸基をアクリル酸又はメタクリル酸でエステル化したもの;トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコール誘導体をアクリル酸又はメタクリル酸でエステル化したもの;ジビニルベンゼン等の多官能モノマー等が挙げられる。
【0025】
なお、メタクリル系樹脂(A)においては、耐熱性、加工性等の特性を向上させる目的で、上記例示したビニル単量体以外のビニル系単量体を適宜添加して共重合させてもよい。
【0026】
上記メタクリル酸エステル単量体に共重合可能なアクリル酸エステル単量体や、上記例示したアクリル酸エステル単量体以外のビニル系単量体は、一種のみを単独で使用してもよく、二種以上組み合わせて使用してもよい。
また、上記ビニル系単量体は、後述する重合体(I)と重合体(II)において、同じものを使用してもよく、異なるものを用いてもよい。
【0027】
メタクリル系樹脂(A)を構成する、上述したメタクリル酸エステル単量体に共重合可能な、他のビニル単量体単位の含有量は、メタクリル系樹脂(A)中の1.5〜20質量%である。
含有量を1.5質量%以上とすることにより、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物において流動性と耐熱性の向上を図ることができ、20質量%以下とすることにより優れた耐熱性が得られる。
好ましくは1.5〜15質量%であり、より好ましくは2〜12質量%であり、さらに好ましくは3〜10質量%である。
【0028】
<メタクリル系樹脂(A)の分子量、分子量分布>
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物を構成するメタクリル系樹脂(A)の分子量及び分子量分布について説明する。
メタクリル系樹脂(A)の分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定した重量平均分子量(Mw)が60000〜250000である。
メタクリル系樹脂(A)の重量平均分子量を60000以上とすることにより、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物よりなる成形体において優れた機械的強度及び耐溶剤性が得られる。
また、メタクリル系樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)を250000以下とすることにより、メタクリル系樹脂(A)及び本実施形態のメタクリル系樹脂組成物において優れた流動性が得られる。
メタクリル系樹脂(A)の重量平均分子量が前記範囲であることにより、優れた成形加工流動性が得られる。
流動性と機械的強度、耐溶剤性のバランスを考慮すると、メタクリル系樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は100000〜230000が好ましく、130000〜220000がより好ましく、150000〜210000がさらに好ましい。
メタクリル系樹脂(A)の重量平均分子量は、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0029】
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物を構成するメタクリル系樹脂(A)の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量:Mw/Mn)は、流動性を損なうことなく従来にない高度な耐溶剤性を達成するため、さらに、後述する(B)成分を含有させたメタクリル系樹脂組成物において成形加工流動性の維持を図るために、2.5≦Mw/Mn≦5.5が好ましく、2.7≦Mw/Mn≦5.3がより好ましく、3.0≦Mw/Mn≦5.0がさらに好ましい。
この分子量分布範囲であると、他の分子量分布範囲と比較して飛躍的に成形加工流動性の向上が見られる。
重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定することができる。
具体的には、あらかじめ単分散の重量平均分子量が既知で試薬として入手可能な標準メタクリル系樹脂と、高分子量成分を先に溶出する分析ゲルカラムを用い、溶出時間と重量平均分子量から検量線を作成しておく。続いて得られた検量線を元に、各試料の分子量を求めることができる。
数平均分子量とは、単純な分子1本あたりの分子量の平均であり、系の全重量/系中の分子数で定義される。
重量平均分子量とは、重量分率による分子量の平均で定義される。
【0030】
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物を構成するメタクリル系樹脂(A)は、流動性、耐熱性、耐候性、耐溶剤性のバランスの観点から、ピーク分子量(Mp)の1/5以下の分子量の成分の存在量が7〜40%であるものとし、10〜40%が好ましく、20〜40%がより好ましく、20〜30%がさらに好ましい。
【0031】
メタクリル系樹脂(A)に存在するピーク分子量(Mp)の1/5以下の分子量の成分の存在量が7%以上であると、良好な流動性が得られる。また、当該成分の存在量が40%以下であることにより、耐熱性、耐候性、耐溶剤性のバランスが良好なものとなる。
また、重量平均分子量が500以下のメタクリル系樹脂成分は、成形時にシルバーと呼ばれる発泡様の外観不良の発生を防止するため、できる限り少ない方が好ましい。
なお、前記ピーク分子量(Mp)とは、GPC溶出曲線においてピークを示す分子量を指す。
GPC溶出曲線においてピークが複数存在する場合は、存在量が最も多い重量分子量が示すピークを指す。
【0032】
<メタクリル系樹脂(A)の、高分子量成分及び低分子量成分中の、メタクリル酸エステル単量体に共重合可能な他のビニル単量体の、組成比率>
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物を構成するメタクリル系樹脂(A)に含有されている、上述したメタクリル酸エステル単量体に共重合可能な他のビニル単量体は、メタクリル系樹脂(A)の高分子量成分中の組成比率が、低分子量低分中の組成比率に比べて大きいことが、重合時の安定性の点から好ましい。
メタクリル系樹脂(A)の高分子量成分及び低分子量成分中の、メタクリル酸エステル単量体に共重合可能な他のビニル単量体の組成比率を算出する方法としては、GPC溶出曲線におけるエリア面積を用いることが有効な方法として挙げられる。
このGPC溶出曲線におけるエリア面積とは、例えば、図1に示すGPC溶出曲線であれば、ベースライン7と、溶出曲線6とで囲まれた斜線部分をいう。
具体的な定め方を下記に説明する。
【0033】
先ず、GPC測定で得られた溶出時間とRI(示差屈折検出器)による検出強度とから得られるGPC溶出曲線に対し、測定機器により自動で引かれるベースライン7とGPC溶出曲線6とが交わる点Aと点Bを定める。
点Aは、溶出時間初期のGPC溶出曲線とベースラインとが交わる点である。
点Bは、原則として重量平均分子量が500以上でベースラインとGPC溶出曲線とが交わる位置とする。
重量平均分子量が500以上の範囲で交わらなかった場合は重量平均分子量が500の溶出時間のRI検出強度の値を点Bとする。
点A、B間のGPC溶出曲線と線分ABとで囲まれた斜線部分がGPC溶出曲線におけるエリアである。
この面積が、GPC溶出曲線におけるエリア面積である。
高分子量成分から溶出されるカラムを用いることにより、溶出時間初期に高分子量成分が観測され、溶出時間終期に低分子量成分が観測される。
【0034】
GPC溶出曲線におけるエリア面積の累積エリア面積(%)は、図2に示す点Aを累積エリア面積(%)の基準である0%とし、溶出時間の終期に向かい、各溶出時間に対応する検出強度が累積して、GPC溶出曲線におけるエリア面積が形成されるという見方をする。
累積エリア面積の具体例を図2に示す。
図2において、ある溶出時間におけるベースライン7上の点を点X、GPC溶出曲線6上の点を点Yとする。
曲線AYと、線分AB、線分XYで囲まれる面積の、GPC溶出曲線におけるエリア面積に対する割合を、ある溶出時間Xでの累積エリア面積(%)の値とする。
累積エリア面積0〜2%にある高分子量成分であるメタクリル系樹脂中の、メタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体単位の平均組成比率をMh(質量%)とする。
一方、累積エリア面積98〜100%、すなわち低分子量成分であるメタクリル系樹脂(A)中の、メタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体単位の平均組成率をMl(質量%)とする。
累積エリア面積0〜2%、98〜100%の測定グラフ上での位置の概略図を図3に示す。
【0035】
累積エリア面積0〜2%にある高分子量成分であるメタクリル系樹脂(A)中の、メタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体単位の平均組成比率Mh(質量%)や、累積エリア面積98〜100%にある低分子量成分であるメタクリル系樹脂(A)中の、メタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体単位の平均組成率Ml(質量%)の値は、ある分子量範囲の成分を分取可能なGPCを用いて、分取したい高分子量成分あるいは低分子量成分に相当する溶出時間の成分を、カラムのサイズに応じて数回もしくは数十回連続分取し、分取したサンプルの組成を既知の熱分解ガスクロマトグラフィー(GC)法により分析すればよい。
Mh(質量%)とMl(質量%)とは、下記の式(i)の関係が成り立つことが好ましい。
(Mh−0.8)≧Ml≧0 ・・・(i)
これは、低分子量成分より高分子量成分の方が、メタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体単位の平均組成が0.8質量%以上多いことを示す。さらには、低分子量成分には、他のビニル単量体が必ずしも共重合していなくてもよいことを示す。
上記式(i)を満たすことにより、流動性の効果が得られる。
【0036】
前記Mh(質量%)とMl(質量%)との差は、流動性向上の効果のために2質量%以上が好ましく、下記式(ii)が成り立つことである。より好ましくは2.5質量%以上である。
(Mh−2)≧Ml≧0 ・・・(ii)
【0037】
前記式(ii)に示すように、累積エリア面積0〜2%にある高分子量成分であるメタクリル系樹脂(A)中の、メタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体単位の平均組成比率(Mh)を2質量%以上にすることで、耐熱性の向上効果や、環境試験において成形体にクラックやゆがみが発生する確率が低減化される効果や、機械的強度を保持しながら流動性が向上するといった効果が得られる。
耐熱性の観点から、Mhは、6≧Mh≧2がさらに好ましく、4≧Mh≧2がさらにより好ましい。
上述した範囲に組成比率MlとMhとを制御するためには、後述するメタクリル系樹脂(A)の多段重合における1段目及び2段目以降の重合時に添加するメタクリル酸エステル単量体に共重合可能な他のビニル系単量体の量を調整すればよい。
【0038】
<メタクリル系樹脂(A)の製造方法>
以下、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物を構成するメタクリル系樹脂(A)の好ましい製造方法について説明する。
メタクリル系樹脂(A)は、多段重合法により製造できる。
先ず、1段目の重合において、メタクリル酸エステル単量体と当該メタクリル酸エステル単量体に共重合可能な他のビニル単量体の少なくとも1種で構成される原料混合物を用いて、GPCで測定した重量平均分子量が5000〜50000である重合体(I)を、目的とするメタクリル系樹脂(A)全体に対して5〜40質量%製造する。
次に、重合系内を前記1段目の重合温度よりも高い温度に一定時間保持する。
その後、前記重合体(I)の存在下で、メタクリル酸エステル単量体と当該メタクリル酸エステル単量体に共重合可能な他のビニル単量体の少なくとも1種で構成される原料混合物を添加して重合し、重量平均分子量が60000〜350000である重合体(II)を、目的とするメタクリル系樹脂(A)全体に対して95〜60質量%製造する。
【0039】
前記1段目の重合で得られ、GPCで測定した重量平均分子量が5000〜50000である重合体(I)(以下、単に重合体(I)と言う。)と、重合体(I)の存在下でメタクリル酸エステルを含む原料混合物を添加して重量平均分子量が60000〜350000である2段目の重合で得られる重合体(II)(以下、単に重合体(II)と言う。)の配合割合は、製造時の重合安定性及びメタクリル系樹脂の流動性や樹脂成形体の機械的強度を向上させる観点から、重合体(I)の比率が5〜40質量%であり、重合体(II)の比率が95〜60質量%であるものとする。
重合安定性、流動性、成形体の機械的強度のバランスを考慮すると、重合体(I)/(II)の比率は、好ましくは10〜40質量%/90〜60質量%、より好ましくは15〜35質量%/85〜65質量%であり、さらに好ましくは20〜35質量%/80〜65質量%である。
【0040】
さらに、前記重合体(I)は、メタクリル酸エステル単量体単位80〜100質量%及びメタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体の少なくとも1種で構成される単量体単位0〜20質量%を含む重合体である。
重合体(I)を構成する単量体単位の比率は、多段重合の重合体(I)の重合工程において添加する単量体量を制御することにより調整することができる。
前記重合体(I)は、メタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体は少ない方が好ましく、使用しなくてもよい。
また、その分子量は成形時のシルバー等の不具合抑制、重合安定性、流動性の観点から、GPCで測定した重量平分均子量が5000〜50000であり、10000〜45000が好ましく、20000〜40000がより好ましい。
重合体(I)の重量平均分子量は、後述するように、連鎖移動剤やイニファータを用いたり、これらの量を調整したり、重合条件を適宜変更することにより制御できる。
【0041】
また、前記重合体(II)は、メタクリル酸エステル単量体単位80〜99.5質量%及びメタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体の少なくとも1種で構成される単量体単位0.5〜20質量%を含む重合体である。
重合体(II)を構成する単量体単位の比率は、多段重合の重合体(II)の重合工程において添加する単量体量を制御することにより調整することができる。
その分子量は、耐溶剤性、流動性の観点からGPCで測定した重量平分均子量が60000〜350000であり、130000〜320000が好ましく、150000〜320000がより好ましく、150000〜300000がさらに好ましい。
重合体(II)の重量平均分子量は、後述するように、連鎖移動剤やイニファータを用いたり、これらの量を調整したり、重合条件を適宜変更することにより制御できる。
【0042】
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物を構成するメタクリル系樹脂(A)は、上述したように多段重合法で製造する。
前記1段目の重合工程でメタクリル酸エステル単量体を単独で、又はメタクリル酸エステル単量体及び少なくとも一種のメタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体を用いて重合体(I)を重合する。
2段目の重合工程では、その重合体(I)の存在下で、メタクリル酸エステル単量体及び少なくとも1種のメタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル系単量体を添加し、重合体(II)を製造するが、この重合法は、重合体(I)と重合体(II)のそれぞれの組成を制御しやすく、重合時の重合発熱による温度上昇が押さえられ、系内の粘度も安定化できる。
【0043】
この場合、重合体(I)の重合が完了しないうちに重合体(II)の原料組成混合物は一部重合が開始されている状態であってもよいが、一度キュア(この場合、系内を重合温度より高い温度に保つこと)を行い、重合を完了させた後に重合体(II)の原料組成混合物を添加する方が好ましい。
1段目にキュアを行うことにより、重合が完了するだけでなく、未反応の単量体、開始剤、連鎖移動剤等を除去又は失活させることができ、2段目の重合に悪影響を及ぼさなくなる。結果として、目的の重量平均分子量を得ることができる。
【0044】
重合温度は、重合方法に応じて適宜最適の重合温度を選択して製造すればよいが、好ましくは50℃以上100℃以下であり、より好ましくは60℃以上90℃以下である。
重合体(I)及び重合体(II)の重合温度は、同じであっても異なっていてもよい。
キュアの際に昇温させる温度は、重合体(I)の重合温度よりも5℃以上高くすることが好ましく、より好ましくは7℃以上、さらに好ましくは10℃以上である。
さらに、保持する時間は、10分間以上180分間以下が好ましく、より好ましくは15分間以上150分間以下である。
【0045】
なお、上述の関係式(i)、(ii)の条件を達成するために、重合体(I)のメタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体の組成比率をMal(質量%)とし、重合体(II)のメタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体の組成比率をMah(質量%)としたとき、重合安定性から下記式(a)の関係が成り立つように原料を調整することが好ましい。
Mah≧Mal≧0 ・・・(a)
【0046】
上記式(a)に示すように、重合体(I)よりも高分子量である重合体(II)に、メタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル系単量体が組成比率として多く含まれる方が、重合安定性を図ることができるだけでなく、耐熱性や機械的強度を維持しながら流動性の向上を図れるため好ましい。
より好ましくは下記式(b)の関係が成り立つことである。
(Mah−0.8)≧Mal≧0 ・・・(b)
メタクリル系樹脂(A)に、耐熱性を維持しながら、耐溶剤性と流動性との良好なバランスが求められる場合、下記式(c)の関係が成り立つことが好ましい。
8≧(Mah−2)≧Mal≧0 ・・・(c)
上述した多段重合法は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合法、乳化重合法のいずれかの方法により行うことが好ましい。より好ましくは塊状重合、溶液重合及び懸濁重合法であり、さらに好ましくは懸濁重合法である。
【0047】
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物を構成するメタクリル系樹脂(A)を製造する際には、重合開始剤を用いてもよい。
重合開始剤としては、ラジカル重合を行う場合は、以下に限定されるものではないが、例えば、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシピバレート、ジラウロイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等の有機過酸化物や、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル、1,1−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2'−アゾビス−4−メトキシ−2,4−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2'−アゾビス−2−メチルブチロニトリル等のアゾ系の一般的なラジカル重合開始剤を挙げることができる。
これらは、一種のみを単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
これらのラジカル開始剤と適当な還元剤とを組み合わせてレドックス系開始剤として実施してもよい。
これらの重合開始剤は、使用する全単量体の総量100質量部に対して、0〜1質量部の範囲で用いるのが一般的であり、重合を行う温度と開始剤の半減期を考慮して適宜選択することができる。
【0048】
上述した多段重合を行う方法として、塊状重合法やキャスト重合法、懸濁重合法を選択する場合には、メタクリル系樹脂(A)の着色を防止しうること等の観点から、過酸化系重合開始剤を好適に用いることができ、以下に限定されるものではないが、例えば、ラウロイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、及びt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等が挙げられ、ラウロイルパーオキサイドがより好ましい。
また、メタクリル系樹脂(A)を重合する際に、90℃以上の高温下で溶液重合法を行う場合には、10時間半減期温度が80℃以上で、かつ用いる有機溶媒に可溶である過酸化物、アゾビス開始剤等を用いることが好ましい。過酸化物、アゾビス開始剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、シクロヘキサンパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、1,1−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル等が挙げられる。
【0049】
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物を構成するメタクリル系樹脂(A)を製造する際には、本発明の目的を損わない範囲で、メタクリル系樹脂(A)の分子量の制御を行うことができる。
以下に限定されるものではないが、例えば、重合体(I)及び(II)の重合工程において、アルキルメルカプタン類、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、トリエチルアミン等の連鎖移動剤、ジチオカルバメート類、トリフェニルメチルアゾベンゼン、テトラフェニルエタン誘導体等のイニファータ等を用いることによって分子量の制御を行うことができる。また、これらの添加量を調整することにより、分子量を調整することが可能である。
前記連鎖移動剤としては、取扱性や安定性の観点から、アルキルメルカプタン類が好適に用いられ、以下に限定されるものではないが、例えば、n−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−オクタデシルメルカプタン、2−エチルヘキシルチオグリコレート、エチレングリコールジチオグリコレート、トリメチロールプロパントリス(チオグリコート)、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)等が挙げられる。
これらは、目的とするメタクリル系樹脂(A)の分子量に応じて適宜添加することができるが、一般的には使用する全単量体の総量100質量部に対して0.001質量部〜3質量部の範囲で用いられる。
【0050】
また、その他の分子量制御方法としては、重合方法を変える方法、重合開始剤の量を調整する方法、重合温度を変更する方法等が挙げられる。
これらの分子量制御方法は、一種の方法のみを用いてもよく、二種以上の方法を併用してもよい。
【0051】
(フッ素系樹脂(B))
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物は、フッ素系樹脂(B)を含有する。
フッ素系樹脂(B)とは、フッ素基を含有した化合物単位からなる樹脂である。
フッ素系樹脂(B)は、本発明の効果を損なわない限り、特に制限されないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(四フッ化エチレン樹脂、PTFE)、三フッ化塩化エチレン樹脂(PCTFE)、四フッ化エチレン六フッ化エチレンプロピレン樹脂(PFEP)、フッ化ビニル樹脂(PVF)、フッ化ビリニデン樹脂(PVDF)、二フッ化二塩化エチレン樹脂、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)等が挙げられる。
本発明の効果発現の面で、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、四フッ化エチレン六フッ化エチレンプロピレン樹脂(PFEP)、テトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)等を好ましく用いることができ、特に、テトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)が好ましい。
フッ素系樹脂(B)として、前記テトラフルオロエチレン樹脂を用いる場合は、典型的にはテトラフルオロエチレンホモポリマーであるが、その他、単量体としてテトラフルオロエチレンと共に少量の変性剤、例えばパーフルオロオレフィン、ハイドロフルオロオレフィン、パーフルオロビニルエーテル等を共重合したものであってもよい。
フッ素系樹脂(B)の形態は、ハンドリングの観点から、粉末状の樹脂粒子であることが好ましい。
フッ素系樹脂(B)粉末は、上記単量体を乳化重合又は懸濁重合することにより得ることができる。
【0052】
フッ素系樹脂(B)が粉末の場合、特にPTFE粉末の場合は、以下の式(3)で求めた数平均分子量(Mn)が、分散性及び衝撃強度の観点から50万未満であることが好ましく、より好ましくは0.5万以上30万以下であり、さらに好ましくは0.5万以上25万以下である。
【0053】
【数1】

【0054】
前記式(3)中、ΔHcは、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した結晶化熱(ΔHccal/g)のことである。
数平均分子量が50万未満であることより、ベース樹脂であるメタクリル系樹脂(A)と混合する際に、ストランドの切れや分散不良が生じ難くなる。また、0.5万以上であることにより、樹脂組成物の機械的強度や耐ケミカルクラック性の向上に繋がる。
フッ素系樹脂(B)の数平均分子量(Mn)は、以下のようにして特定できる。
すなわち、ベース樹脂であるメタクリル系樹脂(A)を可溶媒に溶解し、不溶分のフッ素系樹脂(B)を濾過分取した後、上述の示差走査熱量計(DSC)を用いて、結晶化熱(ΔHc(cal/g))を測定することにより求められる。メタクリル系樹脂の可溶媒としては、テトラヒドロフランやアセトンが好ましい。
【0055】
フッ素系樹脂(B)が粉末である場合、当該フッ素系樹脂粒子の平均粒子径は0.5μm以上8μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.5μm以上5μm以下であり、さらに好ましくは1μm以上5μm以下である。
平均粒子径は、レーザー回折法、遠心沈降法、画像解析等の方法により測定することができる。例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置(日本電子社製)を用い、カスケードは使用せず、圧力0.1MPa、測定時間3秒で粒度分布を測定し、得られた粒度分布積算の50%に対応する粒子径を、平均粒子径として求める方法ことができる。
フッ素系樹脂(B)が粉末である場合、粒子の平均粒子径が8μm以下であることにより、メタクリル系樹脂組成物の機械的強度や耐ケミカルクラック性の向上効果が顕著となる。0.5μm以上であることにより、凝集が起こり難く、メタクリル系樹脂(A)との混合が容易になる。
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物やこの成形体からフッ素系樹脂(B)の平均粒子径を測定する方法としては、以下の方法が挙げられる。
すなわち、ベース樹脂であるメタクリル系樹脂(A)を可溶媒に溶解し、不溶分のフッ素系樹脂を濾過分取した後、上述の粒子径測定により測定する方法や樹脂組成物のペレットや成形体の断面等を画像解析し特定化する方法が挙げられる。前記メタクリル系樹脂の可溶媒としては、テトラヒドロフランやアセトンが好ましい。
【0056】
フッ素系樹脂(B)が粉末である場合、本発明の効果を損なわない限り、焼成、未焼成のどちらの粉末を用いてもよく、特に、耐熱温度が250℃以上のものを用いることが好ましい。
なお、ここで「耐熱温度」とは、当該温度において連続使用した際に分解反応等により化学的に変性する下限温度(熱分解温度)のことである。
耐熱温度が250℃以上のものを用いることによって、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物の調製時や成形時における高温下においても形状が変性することがなく、成形体の耐衝撃性及び耐ケミカルクラック性を向上させることができる。
また、フッ素系樹脂(B)を添加することにより、フッ素基の撥水効果によって本実施形態のメタクリル系樹脂組成物の吸水による寸法変形の抑制を図ることができる。
【0057】
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物における(B)成分の添加量としては、メタクリル系樹脂(A)100質量部に対し、0.01〜10質量部が好ましく、0.1〜8質量部がより好ましく、1〜6質量部がさらに好ましい。0.01質量部以上とすることにより、耐溶剤性や耐衝撃強度の向上効果があり、10質量部以下とすることにより、成形体の表面硬度を良好に保つことができる。
【0058】
(添加物(C))
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物は、上述したメタクリル系樹脂(A)と、フッ素系樹脂(B)に加え、有機ゴム粒子、無機充填剤、及び着色剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の添加物(C)をさらに含有してもよい。
【0059】
<有機ゴム粒子>
有機ゴム粒子としては、特に限定されず、例えば、一般的なブタジエン系ABSゴム、アクリル系、ポリオレフィン系、シリコン系、フッ素ゴム等の多層構造を有するゴム粒子を使用することができる。
特に、三層構造以上の多層構造を有する粒子が好ましく、上述したメタクリル系樹脂(A)との相溶性の点より、三層構造以上の多層構造を有するアクリル系ゴム粒子がより好ましい。
三層構造以上の多層構造を有するゴム粒子を用いることにより、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物は、成形加工時の熱劣化や、加熱による有機ゴム粒子の変形が抑制され、成形体の耐熱性の維持や熱変形が抑制される傾向にある。
三層構造以上の多層構造を有する有機ゴム粒子とは、ゴム状ポリマーからなる軟質層と、ガラス状ポリマーからなる硬質層とが積層した多層構造のゴム粒子を言い、好ましくは、内側から硬質層−軟質層−硬質層の順に形成された三層構造を有する粒子である。
硬質層を最内層と最外層に有することにより、有機ゴム粒子の変形が抑制される傾向にあり、中央層に軟質成分を有することにより良好な靭性が付与される傾向にある。
【0060】
例えば、有機ゴム粒子が三層構造のアクリル系ゴムにより形成されている場合の、最内層(b−i)を形成する共重合体中のアクリル酸エステル単量体単位としては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−へキシルが好適なものとして挙げられる。
有機ゴム粒子が、芳香族ビニル化合物単量体単位を共重合体成分として含む場合、芳香族ビニル化合物単量体単位としては、メタクリル系樹脂(A)に使用される単量体と同様のものを用いることができるが、好ましくは、スチレン又はその誘導体が用いられる。
前記共重合体中に、共重合性多官能単量体単位を含む場合、当該共重合性多官能単量体単位としては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アリル、トリアリルイソシアヌレート、マレイン酸ジアリル、ジビニルベンゼン等が挙げられる。これらは、一種又は二種以上を併用して用いることができる。
上記化合物の中でも特に好ましいのは、(メタ)アクリル酸アリルである。
【0061】
有機ゴム粒子が三層構造のアクリル系ゴムにより形成されている場合の、中央層(b−ii)を形成する共重合体は、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物に優れた靭性を付与する観点から、軟質なゴム弾性を示す共重合体であることが好ましい。
中央層(b−ii)を形成する共重合体を構成するアクリル酸エステル単量体単位としては、特に限定されないが、好ましくは、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルへキシル等が挙げられ、これらから1種又は2種以上を併用して用いることができる。
特に、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−へキシルが好ましい。
また、アクリル酸エステルと共重合される単量体として、芳香族ビニル化合物単量体を用いる場合、当該芳香族ビニル化合物単量体としては、スチレン又はその誘導体が好ましい。
前記共重合体中に、共重合性多官能単量体単位を含む場合、当該共重合性多官能単量体単位としては、上述した最内層(b−i)で用いられる共重合性多官能単量体単位と同様のものを用いることができ、その含有量としては、0.1質量%以上5質量%以下であると、良好な架橋効果を有し、かつ、架橋が適度でゴム弾性効果が大きくなる傾向にあるため好ましい。
【0062】
有機ゴム粒子が三層構造のアクリル系ゴムにより形成されている場合の、アクリル系有機ゴム粒子の最外層(b−iii)は、メタクリル酸メチルと、当該メタクリル酸メチルと共重合可能な単量体との共重合体であることが好ましく、メタクリル酸メチルと共重合可能な単量体としては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−へキシルが好ましい。
【0063】
上述した有機ゴム粒子の平均粒子径は、分散性の観点から0.3μm以下が好ましく、より好ましくは0.25μm〜0.1μmである。有機ゴム粒子の平均粒子径は、有機ゴム粒子の含まれた乳化液をサンプリングし、固形分500ppmになるように水で希釈し、UV1200V分光光度計(株式会社島津製作所製)を用いて波長550nmでの吸光度を測定し、この値から、透過型電子顕微鏡写真より粒子径を計測したサンプルについて同様に吸光度を測定して作成した検量線を用いることにより求めることができる。
【0064】
有機ゴム粒子の製造方法としては特に制限されず、塊状重合、溶液重合、懸濁重合及び乳化重合等の公知重合法により得ることが可能であり、特に、乳化重合により得ることが好ましい。
有機ゴム粒子を三層構造のアクリル系ゴムにより形成する場合、乳化剤、開始剤の存在下、初めに最内層(b−i)の単量体混合物を添加し重合を完結させ、次に中央層(b−ii)の単量体混合物を添加して重合を完結させ、次いで最外層(b−iii)の単量体混合物を添加して重合を完結させることにより、容易に多層構造粒子をラテックスとして得ることができる。
有機ゴム粒子はラテックスから塩析、噴霧乾燥、凍結乾燥等の公知の方法により粉体として回収できる。
【0065】
<無機充填剤>
無機充填剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ケイ酸カルシウム繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、フレーク状ガラス、タルク、カオリン、マイカ、ハイドロタルサイト、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、酸化亜鉛、リン酸一水素カルシウム、ウォラストナイト、シリカ、ゼオライト、アルミナ、ベーマイト、水酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミノケイ酸ナトリウム、ケイ酸マグネシウム、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト、黄銅、銅、銀、アルミニウム、ニッケル、鉄、フッ化カルシウム、雲母、モンモリロナイト、膨潤性フッ素雲母、及びアパタイト等が挙げられる。
無機充填剤は、1種類で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
剛性及び強度等の観点から、ガラス繊維、炭素繊維、ガラスフレーク、タルク、カオリン、マイカ、炭酸カルシウム、リン酸一水素カルシウム、ウォラストナイト、シリカ、カーボンナノチューブ、グラファイト、フッ化カルシウム、モンモリロナイト、膨潤性フッ素雲母、及びアパタイト等が好ましい。
また、これらの無機充填剤は、メタクリル系樹脂(A)とより馴染ませることを目的として、適宜表面処理を施してもよい。
【0066】
<着色剤>
着色剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ペリレン系染料、ペリノン系染料、ピラゾロン染料、メチン系染料、クマリン染料、キノフタロン系染料、キノリン系染料、アントラキノン系染料、アンスラキノン系染料、アスドラピリドン系染料、チオインジゴ系染料、クマリン系染料、イソインドリノン系顔料、シケトピロロピロール系顔料、縮合アゾ系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、ジオキサジン系顔料、銅フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、ニッケル錯体系化合物、カーボンブラック、二酸化チタン、酸化アルミナ、水酸化アルミニウム、ケイ酸、酸化亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、硫酸バリウム、ポリメチルシルセスキオキサン、ハロゲン化銅フタロシアニン、エチレンビスステアリン酸アマイド、群青、群青バイオレット、酸化鉄、二酸化ケイ素、マイカ、タルク、流動パラフィン、ケイ酸マグネシウム等が挙げられる。
着色剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
上述した樹脂粒子の粉末、有機ゴム粒子、無機充填剤、着色剤よりなる添加物(C)は、一種類を単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
上述した添加物(C)の好ましい添加量としては、(A)成分100質量部に対し、0〜10質量部が好ましく、0〜8質量部がより好ましく、0〜5質量部がさらに好ましい。10質量部以下にすることにより、成形体の表面硬度や衝撃強度のバランスを保つことができる。
【0068】
(メタクリル系樹脂(A)に混合可能なその他の成分)
<その他の樹脂>
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物を構成するメタクリル系樹脂(A)は、溶融成形可能であれば、従来公知の樹脂と組み合わせて使用することができる。これらは本発明の効果を損なわない範囲において添加できる。
使用に供される樹脂は、特に限定されるものではなく、公知の硬化性樹脂、熱可塑性樹脂が好適に使用される。
熱可塑性樹脂としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、シンジオタクテックポリスチレン系樹脂、ABS系樹脂(アクリロニトリル−ブタジエンースチレン系共重合体)、メタクリル系樹脂、AS系樹脂(アクリロニトリル−スチレン系共重合体)、BAAS系樹脂(ブタジエン−アクリロニトリル−アクリロニトリルゴム−スチレン系共重合体、MBS系樹脂(メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン系共重合体)、AAS系樹脂(アクリロニトリル−アクリロニトリルゴム−スチレン系共重合体)、生分解性樹脂、ポリカーボネート−ABS樹脂のアロイ、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリアルキレンアリレート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、フェノール系樹脂等が挙げられる。
特に、AS樹脂、BAAS樹脂は、流動性を向上させるために好ましく、ABS樹脂、MBS樹脂は耐衝撃性を向上させるために好ましく、また、ポリエステル樹脂は耐薬品性を向上させるために好ましい。
また、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、フェノール系樹脂等は難燃性を向上させる効果が期待できる。
また、硬化性樹脂としては、以下に限定されるものではないが、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、キシレン樹脂、トリアジン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ウレタン樹脂、オキセタン樹脂、ケトン樹脂、アルキド樹脂、フラン樹脂、スチリルピリジン樹脂、シリコン樹脂、合成ゴム等が挙げられる。
これらの樹脂は、一種単独で用いても、二種以上の樹脂を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
<添加剤>
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物を構成するメタクリル系樹脂(A)には、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物の剛性や寸法安定性等の他の特性を付与するため、本発明の効果を損なわない範囲で各種の添加剤、以下に限定されるものではないが、例えば、フタル酸エステル系、脂肪酸エステル系、トリメリット酸エステル系、リン酸エステル系、ポリエステル系等の可塑剤、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸のモノ、ジ、又はトリグリセリド系等の離型剤、ポリエーテル系、ポリエーテルエステル系、ポリエーテルエステルアミド系、アルキルスルフォン酸塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩等の帯電防止剤、酸化防止剤、及び紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤等の安定剤、難燃剤、難燃助剤、硬化剤、硬化促進剤、導電性付与剤、応力緩和剤、結晶化促進剤、加水分解抑制剤、潤滑剤、衝撃付与剤、摺動性改良剤、相溶化剤、核剤、強化剤、補強剤、流動調整剤、染料、増感材、着色用顔料、ゴム質重合体、増粘剤、沈降防止剤、タレ防止剤、充填剤、消泡剤、カップリング剤、防錆剤、抗菌・防黴剤、防汚剤、導電性高分子等を添加することもできる。
【0070】
前記難燃剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、環状窒素化合物、リン系難燃剤、シリコン、籠状シルセスキオキサン又はその部分開裂構造体、シリカが挙げられる。
【0071】
前記熱安定剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系加工安定剤等の酸化防止剤等が挙げられ、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。
具体的には、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N'−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオンアミド、3,3',3'',5,5',5''−ヘキサ−tert−ブチル−a,a',a''−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、4,6−ビス(ドデシルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス[(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−キシリン)メチル]−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミン)フェノール等が挙げられ、ペンタエリスリトールテラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。
【0072】
前記紫外線吸収剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾトリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物、ベンゾフェノン系化合物、オキシベンゾフェノン系化合物、フェノール系化合物、オキサゾール系化合物、マロン酸エステル系化合物、シアノアクリレート系化合物、ラクトン系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンズオキサジノン系化合物等が挙げられ、好ましくはベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾトリアジン系化合物である。
これらは単独で用いてもよく、2種以上併用して用いてもよい。
また、紫外線吸収剤を添加する場合、成形加工性の観点から、20℃における蒸気圧(P)が1.0×10-4Pa以下であるものが好ましく、より好ましくは1.0×10-6Pa以下であり、さらに好ましくは1.0×10-8Pa以下である。
成形加工性に優れるとは、例えば射出成形時に、金型表面への紫外線吸収剤の付着が少ないことや、フィルム成形時に、紫外線吸収剤のロールへの付着が少ないこと等を示す。
ロールへ付着すると、例えば成形体表面へ付着し外観、光学特性を悪化させるおそれがあるため、成形体を光学用材料として使用する場合は好ましくない。
また、紫外線吸収剤の融点(Tm)は80℃以上であることが好ましく、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは130℃以上、さらにより好ましくは160℃以上である。
前記紫外線吸収剤は、23℃から260℃まで20℃/minの速度で昇温した場合の重量減少率が50%以下であることが好ましく、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは15%以下、さらにより好ましくは10%以下、さらにより好ましくは5%以下である。
【0073】
メタクリル系樹脂(A)と種々の添加剤や、上述した他の樹脂とを混合する場合の混練方法としては、従来公知の方法を用いればよく、特に限定されるものではない。
例えば、押出機、加熱ロール、ニーダー、ローラミキサー、バンバリーミキサー等の混練機を用いて混練製造することができる。その中でも押出機による混練が、生産性の面で好ましい。
混練温度は、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物を構成するメタクリル系樹脂(A)や混合する他の樹脂の好ましい加工温度に従えばよく、目安としては140〜300℃の範囲、好ましくは180〜280℃の範囲である。
【0074】
〔メタクリル系樹脂組成物の製造方法〕
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物は、上述したメタクリル系樹脂(A)及びフッ素系樹脂(B)を混練することにより得られる。さらに、適宜、各種添加物(C)を混練することにより得られる。
(A)成分であるメタクリル系樹脂は、上記<メタクリル系樹脂(A)の製造方法>において記載した方法により製造できる。
(A)成分と(B)成分、さらには必要に応じて(C)成分をこれらに加えて混練する方法としては、従来公知の方法を用いればよく、特に限定されるものではない。
例えば、押出機、加熱ロール、ニーダー、ローラミキサー、バンバリーミキサー等の混練機を用いて混練製造することができる。
特に、押出機による混練が、生産性の面で好ましい。
混練温度は、本発明により製造される重合体や混合する他の樹脂の好ましい加工温度に従えばよく、目安としては140〜300℃の範囲、好ましくは180〜280℃の範囲である。
【0075】
〔メタクリル系樹脂組成物の成形体〕
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物を成形することにより所望の成形体が得られる。
メタクリル系樹脂組成物は、射出成形、シート成形、ブロー成形、インジェクションブロー成形、インフレーション成形、Tダイ成型、プレス成形、押出成形等の溶融状態で成形する公知の方法で成形することが可能であり、圧空成形、真空成形等の二次加工成形法も用いることができる。
特に、流動性が必要とされる射出成形が好ましく、高圧、高速である溶融成形に有効である。また、分子量分布が広くなることでダイスウェルが大きくなり、シート製膜に有効である。
また、加熱ロール、ニーダー、バンバリーミキサー、押出機等の混練機を用いて樹脂組成物を混練製造した後、冷却、粉砕し、さらにトランスファー成形、射出成形、圧縮成形等により成形を行う方法も一例として挙げることができる。
各成分を混合させる順序は、本発明の効果が達成できる方法であれば、特に規定するものではない。
また、熱硬化性樹脂を混合し、溶融成形した後の硬化方法は使用する硬化剤により異なるが、特に限定はされない。
例えば、熱硬化、光硬化、UV硬化、圧力による硬化、湿気による硬化等が挙げられる。
【0076】
〔メタクリル系樹脂組成物の特性〕
<流動性>
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物は、後述する実施例におけるスパイラル長さの流動性評価条件において、スパイラル部の長さの測定値が22cm以上であることが好ましく、23cm以上であることがより好ましく、24cm以上であることがさらに好ましい。22cm以上であれば、成形加工時の流動性が良好となる。
【0077】
<耐熱性>
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物においては、VICAT軟化温度が100℃以上であることが好ましく、104℃以上であることがより好ましく、106℃以上であることがさらに好ましい。
VICAT軟化温度が100℃以上であることより、実用環境下における熱変形を抑制できる。
【0078】
<耐溶剤性(耐ケミカルクラック性)>
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物は、後述する実施例における、成形体を用いた耐ケミカルクラック溶剤性評価において、成形体の臨界歪(%)が、0.45%以上であることが好ましく、0.5%以上であることがより好ましく、0.55%以上であることがさらに好ましい。0.45%以上であることより、成形体に応力がかかった状態でも溶剤によるケミカルクラックの発生を低減できる。
【0079】
<耐衝撃性>
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物は、後述する実施例における成形体を用いたシャルピー衝撃強度(ノッチなし)試験において、26kJ/m2以上であることが好ましく、28kJ/m2以上であることがより好ましく、30kJ/m2以上がさらに好ましい。
シャルピー衝撃強度が26kJ/m2以上であることより、機械的強度が要求される用途に好適に使用可能となる。
【0080】
<表面硬度>
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物は、後述する実施例における、成形体の表面鉛筆硬度が3H以上であることが好ましく、4H以上であることがより好ましい。3H以上であることより、耐キズ付き性が要求される用途や表面外観を重視する用途に好適に使用可能となる。
【0081】
<耐糸曳き性>
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物は、後述する実施例における、成形体の耐糸曳き性が、250℃の温度条件下で全く長糸が発生しないことが好ましい。
なお、耐糸曳き性については、後述する実施例に具体的な評価方法を示すが、加熱した熱板に成形片を押し当てて、溶融した成形片を熱板から引き離す際に糸が発生する現象のことをいうものとし、耐糸曳き性が悪いと成形体の溶着部の外観不良につながり好ましくない。
特に、自動車部品用途、ハウジング用途、キッチン、トイレ、バス、洗面化粧台などの水周り用途等の人目に触れて外観を重視する用途やいくつかの成形パーツを熱溶着により圧着させる大型製品において、重要視される。
【0082】
〔用途〕
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物は、各種成形体に好適に用いることができる。
例えば、家具類、家庭用品、収納・備蓄用品、玩具・遊具、医療・福祉用品、OA機器、AV機器、電池電装用、照明機器、車両用部品、特に自動車部品用途、ハウジング用途、キッチン、トイレ、バス、洗面化粧台等の水周り用途に用いることができる。
特に、耐溶剤性や機械的強度が要求される用途や、これらに加えて表面外観を重視する用途に好適に用いられる。特に、耐溶剤性や機械的強度の有する用途で成形加工時に圧力かけて形成する射出成形用、さらには大型又は薄肉成形用途に好適に用いることが可能である。
【0083】
また、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物及びその成形体は、熱板溶着用の樹脂組成物及び熱板溶着用の成形体として好適である。本実施形態のメタクリル系樹脂組成物を用いて成形体を得、この成形体をさらに熱板溶着法により熱溶着させて加工する場合、これらを熱板溶着用メタクリル系樹脂組成物、熱板溶着用の成形体と称するが、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物及びその成形体は、後述する実施例において検証されているように、成形体表面に樹脂が溶けて糸を曳かないという優れた効果を発揮する、具体的には、250℃程度の温度条件下で、後述する実施例に記載の耐糸曳き性を評価した場合、長糸発生率が5%以下であるため、上記の用途に好適に使用できる。
さらに、メタクリル系樹脂組成物を用いた成形体には、適宜、例えばハードコート処理、反射防止処理、透明導電処理、電磁波遮蔽処理、ガスバリア処理等の表面機能化処理をすることもできる。
【実施例】
【0084】
以下、本発明について、具体的な実施例及び比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0085】
〔メタクリル系樹脂組成物に関する実施例と比較例〕
(原料)
・ メタクリル酸メチル(MMA):旭化成ケミカルズ製(重合禁止剤として中外貿易製2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール(2,4−di−methyl−6−tert−butylphenol)を2.5ppm添加されているもの)
・ アクリル酸メチル(MA):三菱化学製(重合禁止剤として川口化学工業製4−メトキシフェノール(4−methoxyphenol)が14ppm添加されているもの)
・ n−オクチルメルカプタン(n−octylmercaptan):アルケマ製
・ 2−エチルヘキシルチオグリコレート(2−ethylhexyl thioglycolate):アルケマ製
・ ラウロイルパーオキサイド(lauroyl peroxide):日本油脂製
・ 第3リン酸カルシウム(calcium phosphate):日本化学工業製、懸濁剤として使用
・ 炭酸カルシウム(calcium calbonate):白石工業製、懸濁剤として使用
・ ラウリル硫酸ナトリウム(sodium lauryl sulfate):和光純薬製、懸濁助剤として使用
・ エチルアクリレート(EA):和光純薬製
・ スチレン(ST):旭化成ケミカルズ製
【0086】
(測定法)
<I.メタクリル系樹脂の組成、分子量の測定>
(1) メタクリル系樹脂の組成分析
メタクリル系樹脂の組成分析は、熱分解ガスクロマトグラフィー及び質量分析方法で行った。
熱分解装置:FRONTIER LAB製Py−2020D
カラム:DB−1(長さ30m、内径0.25mm、液相厚0.25μm)
カラム温度プログラム:40℃で5min保持後、50℃/minの速度で320℃まで昇温し、320℃を4.4分保持
熱分解炉温度:550℃
カラム注入口温度:320℃
ガスクロマトグラフィー:Agilent製GC6890
キャリアー:純窒素、流速1.0mL/min
注入法:スプリット法(スプリット比 1/200)
検出器:日本電子製質量分析装置Automass Sun
検出方法:電子衝撃イオン化法(イオン源温度:240℃、インターフェース温度:320℃)
測定用のサンプル:メタクリル系樹脂0.1gのクロロホルム10cc溶液を10μL
【0087】
測定用のサンプルを熱分解装置用白金試料カップに採取し、150℃で2時間真空乾燥後、試料カップを熱分解炉に入れ、上記条件でサンプルの組成分析を行った。
メタクリル酸メチル及びアクリル酸メチルのトータルイオンクロマトグラフィー(TIC)上のピーク面積と、以下の標準サンプルの検量線を元に、メタクリル系樹脂の組成比を求めた。
検量線用標準サンプルの作成:メタクリル酸メチル、アクリル酸メチルの割合が(メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル)=(100%/0%)、(98%/2%)、(94%/6%)、(90%/10%)(80%/20%)の合計5種の溶液各50gにラウロイルパーオキサイド0.25%、n−オクチルメルカプタン0.25%を添加した。
この各混合溶液を100ccのガラスアンプル瓶にいれて、空気を窒素に置換して封じた。
そのガラスアンプル瓶を80℃の水槽に3時間、その後150℃のオーブンに2時間入れた。室温まで冷却後、ガラスを砕いて中のメタクリル系樹脂を取り出し、組成分析を行った。検量線用標準サンプルの測定によって得られた(アクリル酸メチルの面積値)/(メタクリル酸メチルの面積値+アクリル酸メチルの面積値)及びアクリル酸メチルの仕込み比率とのグラフを検量線として用いた。
これにより、メタクリル系樹脂のメタクリル酸メチルと他の成分量の比を分析した。
【0088】
さらに、累積エリア面積0〜2%にある高分子量成分であるメタクリル系樹脂中の、メタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体単位の平均組成比率Mh(質量%)や、累積エリア面積98〜100%にある低分子量成分であるメタクリル系樹脂中の、メタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体単位の平均組成率Ml(質量%)の値は、GPCから得られた溶出時間をもとに、カラムのサイズに応じて数回もしくは数十回連続分取し、分取したサンプルの組成を上記の熱分解ガスクロマトグラフィー(GC)法により分析することで、Mh及びMl量を求めた。
【0089】
分取に用いたGPCの装置及び条件を以下に示す。
測定装置:日本分析工業製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(LC−908)
カラム:JAIGEL−4H 1本及びJAIGEL−2H 2本、直列接続
本カラムでは、高分子量が早く溶出し、低分子量は溶出する時間が遅い。
検出器:RI(示差屈折)検出器
検出感度:2.4μV/sec
サンプル:0.450gのメタクリル系樹脂のクロロホルム15mL溶液
注入量:3mL
展開溶媒:クロロホルム、流速3.3mL/min
【0090】
上記の条件で、メタクリル系樹脂の溶出時間に対する、RI検出強度を測定し、メタクリル系樹脂のGPC溶出曲線を得た。
GPCの検量線用標準サンプルとして、単分散の重量平均分子量が既知で分子量が異なる以下の10種のメタクリル系樹脂(EasiCal PM−1 Polymer Laboratories製)を用いた。

重量平均分子量
標準試料1 1,900,000
標準試料2 790,000
標準試料3 281,700
標準試料4 144,000
標準試料5 59,800
標準試料6 28,900
標準試料7 13,300
標準試料8 5,720
標準試料9 1,936
標準試料10 1,020
【0091】
<メタクリル系樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)の測定>
メタクリル系樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)を、下記の装置、及び条件で測定した。
測定装置:東ソー株式会社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(HLC−8320GPC)
カラム:TSKgel SuperH2500 1本、TSKgel SuperHM−M 2本、TSKguardcolumn SuperH−H 1本、直列接続
本カラムでは、高分子量が早く溶出し、低分子量は溶出する時間が遅い。
検出器 :RI(示差屈折)検出器
検出感度 :3.0mV/min
カラム温度:40℃
サンプル :0.02gのメタクリル系樹脂のテトラヒドロフラン10mL溶液
注入量 :10μL
展開溶媒 :テトラヒドロフラン、流速;0.6mL/min
【0092】
検量線用標準サンプルとして、単分散の重量ピーク分子量が既知で分子量が異なる以下の10種のポリメタクリル酸メチル(Polymethyl methacrylate Calibration Kit PL2020−0101 M−M−10)を用いた。

重量ピーク分子量(Mp)
標準試料1 1,916,000
標準試料2 625,500
標準試料3 298,900
標準試料4 138,600
標準試料5 60,150
標準試料6 27,600
標準試料7 10,290
標準試料8 5,000
標準試料9 2,810
標準資料10 850

上記の条件で、メタクリル系樹脂の溶出時間に対する、RI検出強度を測定した。
GPC溶出曲線におけるエリア面積と、7次近似式の検量線を基にメタクリル系樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、GPCピーク分子量(Mp)及びGPCピーク分子量(Mp)の1/5以下の分子量を有する成分の割合(%)を求めた。
後述する重合体(I)と重合体(II)とが混合している場合には、あらかじめ重合体(I)単独のGPC溶出曲線を測定し重量平均分子量を求めておき、重合体(I)が存在している比率(本明細書においては、仕込み比率を用いた)を重合体(I)のGPC溶出曲線に乗じ、その溶出時間における検出強度を重合体(I)と重合体(II)が混合しているGPC溶出曲線から引くことで、重合体(II)単独のGPC溶出曲線を得た。これから重合体(II)の重量平均分子量を求めた。
【0093】
<II.フッ素系樹脂の数平均分子量、平均粒子径の測定>
(1)フッ素系樹脂粉末の数平均分子量(Mn)測定
フッ素系樹脂粉末を数mg計りとり、示差走査熱量計(DSC)を用いて、20mL/minの窒素フローの下、20℃/minの速度にて25℃から350℃まで昇温後、20℃/minの速度にて350℃から25℃まで冷却を行い、結晶化熱(ΔHc(cal/g))を測定した。
測定により得られたΔHcを、下記式(3)に代入し、フッ素系樹脂粒子の数平均分子量(Mn)を求めた。
【0094】
【数2】

【0095】
(2)フッ素系樹脂粒子の平均粒子径の測定
レーザー回折式粒度分布測定装置(日本電子社製)を用い、カスケードは使用せず、圧力0.1MPa、測定時間3秒で粒度分布を測定し、得られた粒度分布積算の50%に対応する粒子径を、平均粒子径として求めた。
【0096】
<III.物性測定>
(1) スパイラル長さの測定
断面積一定の、スパイラル状のキャビティを各樹脂が流れた距離によって、相対的流動性を判定する試験を行った。
射出成形機:東芝機械製IS−100EN
測定用金型:金型の表面に、深さ2mm、幅12.7mmの溝を、表面の中心部からアルキメデススパイラル状に掘り込んだ金型
射出条件
樹脂温度:250℃
金型温度:55℃
射出圧力:98MPa
射出時間:20sec
金型表面の中心部に樹脂を上記条件で射出した。射出終了40sec後にスパイラル状の成形品を取り出し、スパイラル部分の長さを測定した。これを流動性評価の指標とした。
【0097】
(2)シャルピー衝撃強さ(ノッチなし)
ISO 179/1eU規格に準拠して測定を行い、耐衝撃性の指標とした。
【0098】
(3) VICAT軟化温度の測定
ISO 306 B50に準拠し、4mm厚試験片を用いて測定を行い、VICAT軟化温度を求め、耐熱性評価の指標とした。
【0099】
(4) 耐溶剤性評価法(ベンディングフォーム法による耐ケミカルクラック測定方法)
耐溶剤性の評価方法として、ベンディングフォーム法による測定方法で耐ケミカルクラック性を評価した。
図4に、ベンディングフォーム法による耐ケミカルクラック測定の実施形態の概略斜視図を示す。
射出成形機:住友重機械工業成形機 (SH25)
射出成形品:肉厚2mm、幅30mm、長さ125mm
射出条件
成形温度:250℃
金型温度:70℃
冷却時間:20sec
上記条件で成形した、後述する実施例及び比較例のメタクリル系樹脂組成物の成形体を、吸水を防止するためにデシケーター内に1日保存した。
その後、図4に示すように、所定のサイズを有する、断面が1/4楕円の冶具の側面部に前記射出成形品(試験片)を、サンプル固定冶具1を用いて固定し、設置した。
前記射出成形品(試験片)の中央部であって、試験片の長辺方向に、消毒用エタノール(76.9〜81.4v/v%)を含んだガーゼ2を設置し、エタノールが揮発しないように周辺をサランラップ(登録商標)で包んだ状態で、24hr、23℃、50%RH条件下に静置した。
なお、図4中、楕円の短軸近傍においては歪みが小さくなり、この状態を「低歪み」と表記し、長軸近傍においては歪みが大きくなり、この状態を「高歪み」と表記する。
24hr後、成形体を固定冶具1から外し、クラック発生点Y(mm)を読み取り、下記の式(4)に従い、クラックが入り始める歪みである臨界歪みε(%)を算出した。
成形した試験片3本に対し、上記測定を行い、平均値(%)を求めた。
これを耐ケミカルクラック溶剤性評価の指標とした。
下記式(4)中、a、b、tについては、図4に示されているように、a=127mm、b=38.1mmであり、tは、試験片の厚みである2mmであるものとした。
【0100】
【数3】

【0101】
(5)表面鉛筆硬度の測定
JIS−K5600規格に準拠して測定を行い、表面鉛筆硬度の指標とした。
【0102】
(6)熱板溶着性の評価方法(耐糸曳き性評価)
後述する実施例及び比較例で得られた樹脂又は樹脂組成物を、幅20mm、長さ75mm、肉厚2mmに成形したものを20枚用意し、試験片とした。
熱板溶着機(タカギセイコー社製)を用いて熱板を表面温度250℃まで加熱した。
熱板にはアルミニウム板の表面をテフロン(登録商標)加工した金属板を使用した。
試験片の20mm×2mmの面を1mm/sの速度で前記熱板に押し当て、接触した位置から0.7±0.2mmまで押し込んで20秒間接触後、20±10mm/sの速度で試験片を離したとき、5mm以上の樹脂糸が発生した試験片の数から長糸発生率(%)を算出し、糸曳き性とした。長糸発生率(%)が低いものほど、耐糸曳き性に優れていると評価した。
【0103】
〔メタクリル系樹脂(樹脂1)の製造〕
攪拌機を有する容器に、水2kg、第3リン酸カルシウム65g、炭酸カルシウム39g、ラウリル硫酸ナトリウム0.39gを投入し、混合液(a)を得た。
次いで、60Lの反応器に、水23kgを投入して80℃に昇温し、混合液(a)及び下記表1に示す配合量で、重合体(I)の原料(表1中の原料(I))を投入した。
その後、約80℃を保って懸濁重合を行った。重合体(I)の原料を投入してから80分後に発熱ピークが観測された。
その後、92℃に1℃/min速度で昇温した後、30分間92℃〜94℃の温度を保持した。
その後、1℃/minの速度で80℃まで降温した後、次に重合体(II)の原料(表1中の原料(II))を、下記表1に示す配合量で反応器に投入し、引き続き約80℃を保って懸濁重合を行った。重合体(II)の原料を投入してから105分後に発熱ピークが観測された。
その後、92℃に1℃/minの速度で昇温した後、60分間熟成し、重合反応を実質終了した。
次に、50℃まで冷却して懸濁剤を溶解させるために20質量%硫酸を投入した。
次いで、重合反応溶液を、1.68mmメッシュの篩にかけて凝集物を除去し、得られたビーズ状ポリマーを洗浄脱水乾燥処理し、ポリマー微粒子を得た。
【0104】
【表1】

【0105】
樹脂1の重合体(I)及び重合体(II)の単量体仕込み組成比率、重量平均分子量(Mw)、及び重合体(I)及び重合体(II)の比率を下記表2に示す。
【0106】
【表2】

【0107】
JIS−Z8801に基づいて測定される得られたポリマー微粒子の平均粒子径は0.26μmであった。
得られたポリマー微粒子を240℃に設定したφ30mmの二軸押出機にて溶融混練し、ストランドを冷却裁断して樹脂ペレット(樹脂1)を得た。
得られたペレットの重量平均分子量は17.2万であり、ピーク分子量(Mp)は19.7万であり、分子量分布(Mw/Mn)は3.65であった。
また、熱分解ガスクロマトグラフィー(GC)による組成分析の結果、メタクリル系樹脂の組成は、MMA:96.6質量%、MA:3.4質量%であった。
さらに、Mp値の1/5以下の分子量成分の存在量(%)は24.5%、GCエリア高分子量側から0〜2%部分のMh:4.5%、GCエリア高分子量側から98〜100%部分Ml:0.2%であった。
【0108】
〔メタクリル系樹脂(樹脂2〜20)の製造〕
上記表1に示す原料を用いて、前述の樹脂1と同様の方法で重合を行い、ポリマー微粒子を得た。
樹脂2〜20の重合体(I)及び重合体(II)の単量体仕込み組成比率、重量平均分子量(Mw)、及び重合体(I)及び重合体(II)の比率を表2に示し、GPCによる重量平均分子量、ピーク分子量、分子量分布の測定結果、及びGCによる組成分析結果を表3に示した。
【0109】
【表3】

【0110】
〔メタクリル系樹脂(樹脂21)の製造〕
攪拌機を有する容器に水2kg、第三リン酸カルシウム65g、炭酸カルシウム39g、ラウリル硫酸ナトリウム0.39gを投入し、混合液(a')を得た。
次いで、60Lの反応器に水26kgを投入して80℃に昇温し、混合液(a')及びメタクリル酸メチル21.2kg、アクリル酸メチル0.43kg、ラウロイルパーオキサイド27g、n−オクチルメルカプタン62gを投入した。
その後、約80℃を保って懸濁重合を行い、発熱ピークを観測後、92℃に1℃/minの速度で昇温した。その後、60分間熟成し、重合反応を実質終了した。
次いで、50℃まで冷却して懸濁剤を溶解させる為に20質量%硫酸を投入した。
次いで、重合反応溶液を、1.68mmメッシュの篩にかけて凝集物を除去し、得られたビーズ状ポリマーを洗浄脱水乾燥処理し、ポリマー微粒子を得た。
JIS−Z8801に基づいて測定される得られたポリマー微粒子の平均粒子径は0.3μmであった。
得られたポリマー微粒子を240℃に設定したφ30mmの二軸押出機にて溶融混練し、ストランドを冷却裁断して樹脂ペレット(樹脂21)を得た。
得られたペレットの重量平均分子量は10.6万であり、分子量分布(Mw/Mn)は1.9であった。
さらに、Mp値の1/5以下の分子量成分の存在量(%)は、4.3%であった。
【0111】
〔メタクリル系樹脂(樹脂22)の製造〕
攪拌機を有する容器に水2kg、第三リン酸カルシウム65g、炭酸カルシウム39g、ラウリル硫酸ナトリウム0.39gを投入し、混合液(b')を得た。
次いで、60Lの反応器に水26kgを投入して80℃に昇温し、混合液(b')及びメタクリル酸メチル21.2kg、アクリル酸メチル1.35kg、ラウロイルパーオキサイド27g、n−オクチルメルカプタン32.8gを投入した。
その後、約80℃を保って懸濁重合を行い、発熱ピークを観測後、92℃に1℃/minの速度で昇温した。その後、60分間熟成し、重合反応を実質終了した。
次いで、50℃まで冷却して懸濁剤を溶解させる為に20質量%硫酸を投入した。
次いで、重合反応溶液を、1.68mmメッシュの篩にかけて凝集物を除去し、得られたビーズ状ポリマーを洗浄脱水乾燥処理し、ポリマー微粒子を得た。JIS−Z8801に基づいて測定されるポリマー微粒子の平均粒子径は0.28μmであった。
得られたポリマー微粒子を240℃に設定したφ30mmの二軸押出機にて溶融混練し、ストランドを冷却裁断して樹脂ペレット(樹脂22)を得た。
得られたペレットの重量平均分子量は17.6万であり、分子量分布(Mw/Mn)は1.85であった。
さらに、Mp値の1/5以下の分子量成分の存在量(%)は、4.5%であった。
【0112】
〔フッ素系樹脂(B:B−1〜B−11)〕
フッ素系樹脂として、市販のPTFE(粉末状)を用い、各PTFE粒子の数平均分子量(Mn)及び平均粒子径を測定して、下記表4に示した。
また、PTFE以外のフッ素樹脂として、熱溶融樹脂であるPVDF、FEP、ETFEを用いた。
なお、PVDF:ポリフッ化ビニリデン、FEP:テトラフルオロエチレン(C24)とヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、ETFE:テトラフルオロエチレン(C24)とエチレン(C24)の共重合体とする。
【0113】
【表4】

【0114】
〔各種添加物(C)〕
添加物(C)として、
無機充填材:ウォラストナイト、キンセイマティック(株)社製、SH−1250、
無機充填材:チタン酸カリウムウィスカ、大塚化学(株)社製、ティスモ−D、
着色剤:タイオキサイド社製、チタンRTC−30、
及び有機ゴム粒子:下記製造例(I)により製造したもの、
を使用した。
<有機ゴム粒子の製造例(I)>
内容積10Lの還流冷却器付反応器に、イオン交換水:6868mL、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム:13.7gを投入し、250rpmの回転数で攪拌しながら、窒素雰囲気下75℃に昇温し、酸素の影響が事実上無い状態にした。
メタクリル酸メチル:590g、スチレン:135g、アクリル酸ブチル:13g、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール:0.22g及びアリルメタクリレ−ト:0.73gからなる混合物(I−1)のうち175gを一括添加し、5分後に過硫酸アンモニウム:0.2gを添加した。
40分後、前記混合物(I−1)の残部565gを20分間かけて連続的に添加し、添加終了後、60分間保持した。
次に、過硫酸アンモニウム:1.01gを添加し、その後、アクリル酸ブチル:1060g、スチレン:210g、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール:0.37g、アリルメタクリレ−ト:26.3gからなる混合物(I−2)を140分間かけて連続的に添加した。添加終了後さらに180分間保持した。
次に、過硫酸アンモニウム:0.40gを添加し、その後、メタクリル酸メチル:920g、アクリル酸ブチル:33.5g、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール:0.28g、n−オクチルメルカプタン:0.96gからなる混合物(I−3)を50分間かけて連続的に添加した。添加終了後95℃に昇温し、30分間保持した。
重合乳化液(ラテックス)を3質量%硫酸ナトリウム温水溶液中へ投入して、塩拆・凝固させ、次に、脱水・洗浄を繰り返して行い、その後、乾燥処理を施し、三層構造の有機ゴム粒子をパウダーとして得た。
得られた有機ゴム粒子の平均粒子径は、0.23μmであった。
有機ゴム粒子の平均粒子径は、得られた乳化液をサンプリングして、固形分500ppmになるように水で希釈し、UV1200V分光光度計(株式会社島津製作所製)を用いて波長550nmでの吸光度を測定し、この値から、透過型電子顕微鏡写真より粒子径を計測したサンプルについて同様に吸光度を測定して作成した検量線を用いることにより求めた。
【0115】
〔実施例1〜35〕、〔比較例1〜4〕
(メタクリル系樹脂(A)、フッ素系樹脂(B)、添加物(C)の混合)
メタクリル系樹脂(A)100質量部に、前記表4に記載の各種フッ素系樹脂(B)、各種添加物(C)をタンブラーにてドライブレンドし、250℃に設定したφ30mmの二軸押出機にて溶融混練し、ストランドを冷却裁断して樹脂組成物のペレットを得た。
さらに、実施例32〜35においては、265℃に設定したφ30mmの二軸押出機にて溶融混練し、ストランドを冷却裁断して樹脂組成物のペレットを得た。
このときのメタクリル系樹脂(A)、フッ素系樹脂(B)、添加物(C)の配合量を表5、6に示す。
また、各メタクリル系樹脂組成物の物性評価結果を表7に示す。
【0116】
【表5】

【0117】
【表6】

【0118】
【表7】

【0119】
実施例1〜3においては、特定のメタクリル系樹脂とPTFEとの組み合わせにより、スパイラル長さが29cm以上、耐ケミカルクラック性が0.5%以上、VICATが107℃以上、シャルピー衝撃強度が29kJ/m2以上、さらに表面鉛筆硬度4H、耐糸曳き性0%であり、成形加工流動性、耐溶剤性、耐熱性、表面硬度等の全てのバランスに非常に優れたメタクリル系樹脂組成物及びその成形体を得ることができた。
実施例4〜6、8、9、12においても、同様に、非常に物性バランスに優れていた。
実施例7では、メタクリル系樹脂中のアクリル酸メチル単位の含有量がやや多く、他の実施例と比較して若干耐熱性の低下が見られたが、実用上は問題の無い範囲であった。また、耐ケミカルクラック性では非常に良好であった。
実施例10においては、メタクリル系樹脂中のアクリル酸メチル単位の含有量がやや多く、他の実施例と比較して若干耐熱性の低下が見られたが、実用上は問題の無い範囲であった。また、成形流動性では非常に良好であった。
【0120】
実施例11では、上述のMh、Mlの好ましい条件である下記式(ii)の条件から外れるため、流動性が他の実施例と比較してやや劣るが、実用上は問題の無い範囲であった。また、他の物性バランスは良好な値を示した。
(Mh−2)≧Ml≧0 ・・・(ii)
実施例13では、分子量分布(Mw/Mn)が5.0付近となり、実施例14では、Mp値の1/5以下の分子量成分の存在量(%)が17.3%であったため、他の実施例と比較して物性バランスがやや低下したが、実用上は問題の無い範囲であった。
実施例15〜17では、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、Mp値の1/5以下の分子量成分の存在量(%)のいずれかが好ましい範囲から外れているため、他の実施例に比べて物性バランスがやや低下したが、実用上は問題の無い範囲であった。
実施例18では、上述(ii)のMh、Mlの好ましい条件から外れるため、実施例19では、Mw/Mn=5.9であるため、成形加工流動性が他の実施例に比べて低下したが、実用上は問題の無い範囲であった。
さらに、実施例20〜23においては、選定したPTFE粉末が好ましい範囲から外れるため、他の実施例に比べて、表面鉛筆硬度や耐糸曳き性が低下したが、実用上は問題の無い範囲であった。
実施例24では、無機充填剤の添加により、実施例1に比べて、やや衝撃強度が低下傾向にあったが、実用上は問題の無い範囲であった。また、高い耐溶剤性と表面鉛筆硬度を示した。
【0121】
上述した結果から、特定のメタクリル系樹脂に対して、粉末状のフッ素系樹脂を用いることにより、無機充填剤や着色剤による強度低下が抑制されるため、着色性の向上を図ることができ、様々な有色材料への用途展開が可能となった。
また、実施例25〜27においては、粉末状のフッ素系樹脂と無機充填剤、有機ゴム粒子とを併用した組成としたものであり、有機ゴム粒子の添加により、他の実施例に比べて、やや衝撃強度が上昇傾向にあった。これらの結果により、特定のメタクリル系樹脂に対して、粉末状のフッ素系樹脂を適量添加したことにより、有機ゴム粒子を添加しているにも関わらず、表面鉛筆硬度3Hを達成でき、実用上十分な表面硬度が得られた。
【0122】
さらに、実施例28〜30においては、特定のメタクリル系樹脂として、メタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体としてアクリル酸エチルやスチレンを用いた樹脂を使用したが、成形加工流動性、耐溶剤性、耐熱性、表面硬度等の全てのバランスに非常に優れたメタクリル系樹脂組成物及びその成形体を得ることができた。
【0123】
実施例31においては、メタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体としてアクリル酸エチルを用いた樹脂17と、粉末状のフッ素系樹脂と無機充填剤を併用した組成としたが、全ての物性バランスに優れるメタクリル系樹脂組成物及びその成形体を得ることができた。
【0124】
実施例32においては、Mp値の1/5以下の分子量成分の存在量(%)が35.7%であるメタクリル系樹脂であるため、フッ素系樹脂を添加しているにもかかわらず、他の実施例と比較して耐熱性や衝撃強度、耐糸曳き性にやや影響が見られたが、実用レベルは達成できた。
【0125】
実施例33〜35においては、PTFE以外のフッ素系樹脂を用いた。PTFEとの異なり、熱溶融タイプのフッ素樹脂であり、メタクリル系樹脂との均一分散性の低下が生じたためか、他の実施例と比較して表面硬度や衝撃強度にやや影響が見られたが、物性実用レベルは達成できた。
【0126】
比較例1、2においては、特定のメタクリル系樹脂にフッ素系樹脂を混合していないため、耐溶剤性と衝撃強度が不十分であった。
比較例3では、上記の樹脂20を使用してフッ素系樹脂を混合した樹脂組成物を用いたが、Mp値の1/5以下の分子量成分の存在量(%)が4.3%であるメタクリル系樹脂であるため、フッ素系樹脂を添加しているにもかかわらず、耐溶剤性や耐糸曳き性において、実用上十分な特性が得られなかった。
また、比較例4では、Mwを大きくした上記の樹脂21を使用してフッ素系樹脂を混合した樹脂組成物を用いたが、Mp値の1/5以下の分子量成分の存在量(%)が4.5%であるメタクリル系樹脂であるため、成形加工流動性がかなり低下した。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明のメタクリル系樹脂組成物、及びこの成形体は、携帯電話、液晶モニター、液晶テレビ、ゲーム機等の枠や筐体、表示装置の前面板や絵画等の額や、外光を取り入れる窓、表示用看板、カーポートの屋根等のエクステリア、展示品の棚等に用いられるシート、照明器具のカバーやグローブ等、圧空成形、真空成形、ブロー成形等の二次加工を有する成形品、また特に、アルコール系の洗浄剤やワックス、ワックスリムーバー、ヘアトニック、シャンプーといった溶剤含有品への耐久性が必要とされる車両用部品や洗面化粧台、浴槽、樹脂製便器等の水周り用途等の各種成形品として産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0128】
1 固定治具
2 消毒用エタノール(76.9〜81.4v/v%)を含んだガーゼ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸エステル単量体単位80〜98.5(質量%)と、
少なくとも1種のメタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体単位1.5〜20(質量%)と、を含み、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量が60000〜250000であり、GPC溶出曲線から得られるピーク分子量(Mp)の1/5以下の分子量成分が7〜40%含まれているメタクリル系樹脂(A)と、
フッ素系樹脂(B)と、
を、含有するメタクリル系樹脂組成物。
【請求項2】
前記メタクリル系樹脂(A)は、
前記GPC溶出曲線におけるエリア面積(%)において、
累積エリア面積(%)が0〜2%である重量平均分子量成分を有するメタクリル系樹脂中の、前記メタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体単位の平均組成比率Mh(質量%)と、
累積エリア面積(%)が98〜100(%)である重量平均分子量成分を有するメタクリル系樹脂中の、前記メタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体単位の平均組成比率Ml(質量%)と、
が、下記式(i)の関係を有するメタクリル系樹脂である、請求項1に記載のメタクリル系樹脂組成物。
(Mh−0.8)≧Ml≧0 ・・・(i)
【請求項3】
前記メタクリル系樹脂(A)は、
前記GPC溶出曲線におけるエリア面積(%)において、
累積エリア面積(%)が0〜2(%)である重量平均分子量成分を有する前記メタクリル系樹脂中の、前記メタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体単位の平均組成比率Mh(質量%)と、
累積エリア面積(%)が98〜100%である重量平均分子量成分を有するメタクリル系樹脂中の、前記メタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体単位の平均組成比率Ml(質量%)と、
が、下記式(ii)の関係を有するメタクリル系樹脂である、請求項1又は2に記載のメタクリル系樹脂組成物。
(Mh−2)≧Ml≧0 ・・・(ii)
【請求項4】
前記メタクリル系樹脂(A)が、
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の溶出曲線から得られるピーク分子量(Mp)の1/5以下の分子量成分が、20%以上40%以下含まれているメタクリル系樹脂である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項5】
有機ゴム粒子、無機充填剤、及び着色剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の添加物(C)を、さらに含有する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項6】
熱板溶着用メタクリル系樹脂組成物である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載のメタクリル系樹脂組成物の製造方法であって、
メタクリル酸エステル単量体単位80〜100(質量%)及びメタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体の少なくとも1種で構成される単量体単位0〜20(質量%)を含み、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平分均子量が5000〜50000である重合体(I)を該メタクリル系樹脂(A)全体に対し5〜40(質量%)製造する工程と、
前記重合体(I)の存在下でメタクリル酸エステルを含む原料混合物を添加し、メタクリル酸エステル単量体単位80〜99.5(質量%)及びメタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体の少なくとも1種で構成される単量体単位0.5〜20(質量%)を含み、重量平均分子量が60000〜350000である重合体(II)を該メタクリル系樹脂(A)全体に対し95〜60(質量%)製造する工程と、
によりメタクリル系樹脂(A)を作製する工程と、
当該メタクリル系樹脂(A)と、フッ素系樹脂(B)と、を、混練する工程と、
を有するメタクリル系樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載のメタクリル系樹脂組成物を成形することにより得られる成形体。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載のメタクリル系樹脂組成物を成形することにより得られる熱板溶着用の成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−32513(P2013−32513A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−147210(P2012−147210)
【出願日】平成24年6月29日(2012.6.29)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】