説明

メタクリル系樹脂組成物および成形品

【課題】成形性、耐衝撃性に優れたメタクリル系樹脂組成物及び成形品を提供する。
【解決手段】少なくとも炭素原子数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルに由来する単位および/または共役ジエンに由来する単位を主に有する架橋弾性重合体(I)を含有して成る内層と、主として炭素原子数1〜8のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルに由来する単位からなる熱可塑性重合体(II)を含有して成る最外層とを有する多層重合体粒子(A)2〜98質量部、メタクリル酸メチル単位80質量%以上およびビニル系単量体単位20質量%以下からなる熱可塑性重合体(B)98〜2質量部((A)と(B)の合計が100質量部)と、ヒンダードアミン類(C)0.01〜0.2質量部と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)0.05〜0.5質量部と、脂肪酸金属塩類(E)0.01〜0.2質量部とを含有するメタクリル系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はメタクリル系樹脂組成物および成形品に関する。より詳細に、本発明は成形性、耐衝撃性に優れたメタクリル系樹脂組成物およびこれを用いて得られる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル系樹脂は、耐候性、透明性などに優れている。該メタクリル系樹脂を射出成形、押出成形、圧縮成形などで溶融成形することによって様々な用途に応じた成形品が製造できる。しかし、メタクリル系樹脂は耐衝撃性が十分でないことから、落下、衝突、振動などの衝撃を受けるとひび割れ、欠けなどが生じることがある。メタクリル系樹脂の耐衝撃性を向上させるために、メタクリル系樹脂に弾性材を配合することが従来から行われている。例えば、乳化重合法によって得られる、内層に弾性重合体を含有し且つ最外層にメタクリル系樹脂成分を主体とした硬質樹脂を含有するコア・シェル型重合体粒子をメタクリル系樹脂に配合する技術が知られている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
このコア・シェル型重合体粒子の配合によって、当該粒子の製造時に使用した乳化剤、重合開始剤、塩析剤などの残渣が、メタクリル系樹脂に混入する。溶融成形の際にそれら混入残渣が揮発することによって金型汚れや金型腐食を引き起こすことがある。金型汚れや金型腐食の発生は成形品の生産性を低下させるので、工業的に極めて重要な問題である。金型汚れや金型腐食を抑制するために、特定の基を有する乳化剤を用いて得られたゴム含有重合体を配合する方法(特許文献3)や、脂肪酸アミド、ビス脂肪酸アミドまたはパラフィンのうちの少なくとも一種からなる滑剤を配合する方法(特許文献4)などが提案されている。
【0004】
ところで、近年の激しい価格競争に勝ち抜くために、成形品の生産コストを大巾に引き下げることが必要になっている。そのために、例えば、金型の材料として耐腐食性の低い安価なものが使用されるようになっている。また、様々な製品の小型化軽量化が指向されているので、成形品も薄肉化を図らなければならない。薄肉成形品の製造においては成形温度を高めに設定するのが一般的である。高温成形においては、揮発する成分の種類が多くなり、また揮発量が増加し、金型汚れや金型腐食を生じやすくなっている。このような生産条件において、上記のような従来法は、金型汚れや金型腐食の発生を抑制する効果が不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭55−27576号公報
【特許文献2】特開平10−152595号公報
【特許文献3】特開平5−287162号公報
【特許文献4】特開2001−26691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、耐腐食性の低い安価な材質の金型を用いた場合や高温で成形を行った場合においても金型汚れや金型腐食の発生がなく、優れた成形性を有し、且つ優れた耐衝撃性を有する成形品を得ることができるメタクリル系樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した。その結果、特定単量体組成比のメタクリル系熱可塑性重合体(B)に特定構造のアクリル系多層重合体粒子(A)と特定の添加剤とを組み合わせて配合させることにより、低い耐腐食性の安価な材質の金型を用いた場合や高温で成形を行った場合においても金型汚れや金型腐食の発生がなく、優れた成形性を有し、且つ優れた耐衝撃性を有する成形品が得られることを見いだした。
【0008】
すなわち、本発明は以下のものを包含する。
〔1〕内層の少なくとも1層が炭素原子数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル単量体に由来する単位および/または共役ジエン系単量体に由来する単位を主に有する架橋弾性重合体(I)を含有して成る層で且つ最外層が炭素原子数1〜8のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル単量体に由来する単位を主に有する熱可塑性重合体(II)を含有して成る層で構成されているアクリル系多層重合体粒子(A)並びにメタクリル酸メチルに由来する単位80質量%以上およびこれに共重合可能なビニル系単量体に由来する単位20質量%以下からなるメタクリル系熱可塑性重合体(B)からなり、アクリル系多層重合体粒子(A)とメタクリル系熱可塑性重合体(B)との質量比(A/B)が2/98〜98/2である樹脂組成物(α)100質量部と、
ヒンダードアミン類(C)0.01〜0.2質量部と、
ヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)0.05〜0.5質量部と、
脂肪酸金属塩類(E)0.01〜0.2質量部とを含有してなるメタクリル系樹脂組成物。
〔2〕前記樹脂組成物(α)100質量部に対して、ヒンダードアミン類(C)とヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)と脂肪酸金属塩類(E)の合計量が0.1〜0.9質量部であり、且つヒンダードアミン類(C)とヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)の質量比(C/D)が0.2/1を超え且つ1/1未満である前記〔1〕のメタクリル系樹脂組成物。
〔3〕アクリル系多層重合体粒子(A)の平均粒子径が0.05〜1μmである前記〔1〕または〔2〕のメタクリル系樹脂組成物。
〔4〕前記〔1〕〜〔3〕のいずれかのメタクリル系樹脂組成物を成形してなる成形品。
【発明の効果】
【0009】
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、低い耐腐食性の安価な材質の金型を用いた場合や高温で成形を行った場合においても金型汚れや金型腐食の発生がなく、優れた成形性を有する。本発明のメタクリル系樹脂組成物を用いることによって、優れた耐衝撃性を有する成形品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、アクリル系多層重合体粒子(A)、メタクリル系熱可塑性重合体(B)、ヒンダードアミン類(C)、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)、および脂肪酸金属塩類(E)を含有してなるものである。
【0011】
本発明に用いられるアクリル系多層重合体粒子(A)は、粒子の芯から外殻に向かって同心円状に複数の層が積層されてなるものである。該アクリル系多層重合体粒子(A)は、層間に隙間が無く繋がっていることが好ましい。
アクリル系多層重合体粒子(A)の内層は1または2以上の層で構成されている。該内層は少なくとも1層が炭素原子数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル単量体に由来する単位および/または共役ジエン系単量体に由来する単位を主に有する架橋弾性重合体(I)を含有して成る層である。
アクリル系多層重合体粒子(A)の最外層は炭素原子数1〜8のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル単量体に由来する単位を主に有する熱可塑性重合体(II)を含有してなる層である。
【0012】
アクリル系多層重合体粒子(A)の内層の少なくとも1層に含有される架橋弾性重合体(I)は、炭素原子数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル単量体に由来する単位および/または共役ジエン系単量体に由来する単位を主に有する。
炭素原子数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどが挙げられる。共役ジエン系単量体としては、ブタジエンおよびイソプレンが挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
架橋弾性重合体(I)における炭素原子数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル単量体に由来する単位および/または共役ジエン系単量体に由来する単位の量は、架橋弾性重合体(I)の全質量に対して、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70〜99質量%、さらに好ましくは80〜98質量%である。
【0013】
架橋弾性重合体(I)は、架橋性単量体に由来する単位を有することが好ましい。架橋性単量体としては、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、アリルメタクリレート、トリアリルイソシアネートなどの多官能性単量体が挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
架橋弾性重合体(I)における架橋性単量体に由来する単位の量は、架橋弾性重合体(I)の全質量に対して、好ましくは0.05〜10質量%、より好ましくは0.5〜7質量%、さらに好ましくは1〜5質量%である。
【0014】
架橋弾性重合体(I)は、その他のビニル系単量体に由来する単位を有してもよい。その他のビニル系単量体は上記のアクリル酸アルキルエステル単量体および架橋性単量体に共重合可能なものであれば特に限定されない。その他のビニル系単量体の例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシルなどのメタクリル酸エステル単量体;スチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレンなどの芳香族ビニル単量体;およびN−プロピルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−o−クロロフェニルマレイミドなどのマレイミド系単量体;が挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
架橋弾性重合体(I)における、その他のビニル系単量体に由来する単位の量は、好ましくは40質量%以下、より好ましくは5〜35質量%、さらに好ましくは10〜30質量%である。
【0015】
アクリル系多層重合体粒子(A)が2以上の内層で構成される場合には、内層は前記架橋弾性重合体(I)を含有して成る層以外に重合体(III)を含有して成る層を有してもよい。重合体(III)は、特に限定されないが、炭素原子数1〜8のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル単量体に由来する単位と、必要に応じて架橋性単量体に由来する単位および/またはその他のビニル系単量体に由来する単位とを有するものであることが好ましい。
炭素原子数1〜8のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル単量体としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどが挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、メタクリル酸メチルが好ましい。
重合体(III)における炭素原子数1〜8のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル単量体に由来する単位の量は、好ましくは80〜100質量%、より好ましくは85〜99質量%、さらに好ましくは90〜98質量%である。
【0016】
重合体(III)における架橋性単量体としては、前述の重合体(I)において例示した架橋性単量体と同じものが挙げられる。重合体(III)における、架橋性単量体に由来する単位の量は、好ましくは0〜5質量%、より好ましくは0.01〜3質量%、さらに好ましくは0.02〜2質量%である。
【0017】
重合体(III)における、その他のビニル系単量体は、前記のメタクリル酸アルキルエステル単量体および架橋性単量体と共重合可能なものであれば特に限定されない。重合体(III)における、その他のビニル系単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどのアクリル酸エステル単量体;酢酸ビニル;スチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、o−メチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレンなどの芳香族ビニル単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などのα,β−不飽和カルボン酸;およびN−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドなどのマレイミド系単量体が挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
重合体(III)におけるその他のビニル系単量体に由来する単位の量は、好ましくは0〜20質量%、より好ましくは1〜15.99質量%、さらに好ましくは2〜9.98質量%である。
【0018】
アクリル系多層重合体粒子(A)の最外層に含有される熱可塑性重合体(II)は、炭素原子数1〜8のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル単量体に由来する単位を主に有するものである。
炭素原子数1〜8のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル単量体としては、メタクリル酸メチルおよびメタクリル酸ブチルが挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうちメタクリル酸メチルが好ましい。
熱可塑性重合体(II)における炭素原子数1〜8のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル単量体に由来する単位の量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。
【0019】
熱可塑性重合体(II)は、その他のビニル系単量体に由来する単位を有していてもよい。その他のビニル系単量体は上記のメタクリル酸アルキルエステル単量体に共重合可能なものであれば特に限定されない。熱可塑性重合体(II)における、その他のビニル系単量体としては、前述の重合体(III)において例示したその他のビニル系単量体と同じものが挙げられる。
熱可塑性重合体(II)における、その他のビニル系単量体に由来する単位の量は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0020】
アクリル系多層重合体粒子(A)の積層構造は、最外層と内層とを有するものであれば特に限定されない。例えば、芯(内層)が架橋弾性重合体(I)−外殻(最外層)が熱可塑性重合体(II)の2層重合体粒子、芯(内層)が重合体(III)−内殻(内層)が架橋弾性重合体(I)−外殻(最外層)が熱可塑性重合体(II)の3層重合体粒子、芯(内層)が架橋弾性重合体(I)−第一内殻(内層)が重合体(III)−第二内殻(内層)が架橋弾性重合体(I)−外殻(最外層)が熱可塑性重合体(II)の4層重合体粒子などのさまざまな積層構造が可能である。これらの中で、芯(内層)が重合体(III)−内殻(内層)が架橋弾性重合体(I)−外殻(最外層)が熱可塑性重合体(II)の3層重合体粒子が好ましく; 芯(内層)がメタクリル酸メチル80〜99.95質量%、炭素原子数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル単量体0〜19.95質量%および架橋性単量体0.05〜2質量%を重合してなる重合体(III)を含有して成る層であり、内殻(内層)が炭素原子数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル単量体80〜98質量%、芳香族ビニル単量体1〜19質量%および架橋性単量体1〜5質量%を重合してなる架橋弾性重合体(I)を含有してなる層であり、外殻(最外層)がメタクリル酸メチル80〜100質量%および炭素原子数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル単量体0〜20質量%を重合してなる熱可塑性重合体(II)を含有して成る層で構成される3層重合体粒子がより好ましい。アクリル系重合体粒子(A)の透明性の観点から、隣り合う層の屈折率の差が、好ましくは0.005未満、より好ましくは0.004未満、さらに好ましくは0.003未満になるように各層に含有される重合体を選択することが好ましい。
【0021】
本発明に用いられるアクリル系多層重合体粒子(A)の平均粒子径は、好ましくは0.05〜1μm、より好ましくは0.1〜0.5μm、さらに好ましくは0.1〜0.3μmである。このような範囲内の平均粒子径、特に0.1〜0.3μmの平均粒子径を有するアクリル系多層重合体粒子(A)を用いると、成形品の外観上の欠点を著しく低減できる。なお、本明細書における平均粒子径は、光散乱光法によって測定される、体積基準の粒径分布における算術平均値である。
【0022】
アクリル系多層重合体粒子(A)における内層と最外層との質量比は、好ましくは60/40〜95/5、より好ましくは70/30〜90/10である。内層において、架橋弾性重合体(I)を含有してなる層が占める割合は、好ましくは20〜100質量%、より好ましくは30〜70質量%である。
【0023】
アクリル系多層重合体粒子(A)の製造法は特に制限されないが、乳化重合法が好適である。具体的には、アクリル系多層重合体粒子(A)の最内層を構成する単量体の乳化重合を行ってシード粒子を得、このシード粒子の存在下に各層を構成する単量体を逐次添加して順次最外層までの重合を行うことによってアクリル系多層重合体粒子(A)を製造できる。
乳化重合法に用いられる乳化剤としては、例えば、アニオン系乳化剤であるジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジラウリルスルホコハク酸ナトリウムなどのジアルキルスルホコハク酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸塩; ノニオン系乳化剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなど; ノニオン・アニオン系乳化剤であるポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウムなどのアルキルエーテルカルボン酸塩;が挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、ノニオン系乳化剤およびノニオン・アニオン系乳化剤の例示化合物におけるエチレンオキシド単位の平均繰返し単位数は、乳化剤の発泡性が極端に大きくならないようにするために、好ましくは30以下、より好ましくは20以下、さらに好ましくは10以下である。
【0024】
乳化重合に用いられる重合開始剤は特に限定されない。例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩系開始剤;パースルホキシレート/有機過酸化物、過硫酸塩/亜硫酸塩などのレドックス系開始剤が挙げられる。
【0025】
乳化重合後のポリマーラテックスからのアクリル系多層重合体粒子(A)の分離取得は、塩析凝固法、凍結凝固法、噴霧乾燥法などの公知の方法によって行うことができる。これらの中でも、アクリル系多層重合体粒子(A)に含まれる不純物を水洗により容易に除去できる点から、塩析凝固法および凍結凝固法が好ましい。なお、凝固工程前にポリマーラテックスに混入した異物を除去するため、目開き50μm以下の金網などでポリマーラテックスを濾過することが好ましい。メタクリル系熱可塑性重合体(B)との溶融混練において均一に分散させ易いという観点から、アクリル系多層重合体粒子(A)を1000μm以下の凝集粒子として取り出すことが好ましく、500μm以下の凝集粒子として取り出すことがより好ましい。なお、凝集粒子の形態は特に限定されず、例えば、最外層部分で相互に融着した状態のペレット状でもよいし、パウダー状やグラニュー状の粉体でもよい。
【0026】
本発明に用いられるメタクリル系熱可塑性重合体(B)は、メタクリル酸メチルに由来する単位80質量%以上およびこれに共重合可能なビニル系単量体に由来する単位20質量%以下、好ましくは、メタクリル酸メチルに由来する単位90質量%以上およびこれに共重合可能なビニル系単量体に由来する単位10質量%以下からなるものである。メタクリル酸メチルに由来する単位が80質量%以上であることによって、耐候性に優れた成形品が得られる。
該メタクリル系熱可塑性重合体(B)における、共重合可能なビニル系単量体の例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどのアクリル酸エステル単量体;酢酸ビニル;スチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、o−メチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレンなどの芳香族ビニル単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などのα,β−不飽和カルボン酸;N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドなどのマレイミド系単量体が挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
メタクリル系熱可塑性重合体(B)は、重量平均分子量が好ましくは4万〜30万、より好ましくは6万〜20万である。メタクリル系熱可塑性重合体(B)の重量平均分子量が上記範囲にある場合には、本発明のメタクリル系樹脂組成物の流動性が高まり成形性が向上する。また、得られる成形品の強度や耐久性が高くなる。なお、重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)で測定した標準ポリスチレン換算の分子量である。メタクリル系熱可塑性重合体(B)の重量平均分子量や分子量分布は、重合開始剤および連鎖移動剤の種類や量などを調整することで制御できる。
使用できる重合開始剤としては、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート(例えば日油株式会社製、パーオクタO)、ラウロイルパーオキサイド(例えば日油株式会社製、パーロイルL)等の有機過酸化物、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)(例えば大塚化学株式会社製、AIBN)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(例えば和光純薬工業株式会社製、V601)等のアゾ化合物が挙げられる。かかる重合開始剤の使用量は、重合する単量体100質量部に対して、好ましくは0.01〜1.0質量部、より好ましくは0.02〜0.8質量部、さらに好ましくは0.03〜0,5質量部である。
連鎖移動剤としては、例えば、n−オクチルメルカプタンなどのアルキルメルカプタン類が挙げられる。かかる連鎖移動剤の使用量は、重合する単量体100質量部に対して、好ましくは0.05〜1.0質量部、より好ましくは0.07〜0.7質量部、さらに好ましくは0.1〜0.5質量部である。
【0028】
本発明においては、アクリル系多層重合体粒子(A)どうしの膠着による取り扱い性の低下または溶融混練時の分散性の低下を抑制し、成形品の表面性が低下するのを抑制するために、前記メタクリル系熱可塑性重合体(B)として粒子状のもの(以下、分散用粒子(b)と呼ぶ。)を含めることが好ましい。該分散用粒子(b)は水に分散したポリマーラテックスとして、アクリル系多層重合体粒子(A)を水に分散したポリマーラテックスに混合することによって配合することができる。該分散用粒子(b)は、アクリル系多層重合体粒子(A)の平均粒子径よりも小さい平均粒子径を有するものであることが好ましい。また、分散用粒子(b)の平均粒子径は、好ましくは0.04〜0.12μm、より好ましくは0.05〜0.1μmである。
【0029】
分散性の効果などの観点から、分散用粒子(b)はメタクリル系熱可塑性重合体(B)のうちに、好ましくは0〜70質量%、より好ましくは5〜60質量%、さらに好ましくは10〜50質量%含まれる。また、分散用粒子(b)の量はアクリル系多層重合体粒子(A)に対する質量比で、好ましくは0/100〜60/40、より好ましくは10/90〜50/50、さらに好ましくは20/80〜40/60である。
【0030】
本発明のメタクリル系樹脂組成物において、アクリル系多層重合体粒子(A)とメタクリル系熱可塑性重合体(B)との質量比(A/B)は、2/98〜98/2、好ましくは5/95〜70/30、より好ましくは10/90〜60/40、さらに好ましくは15/85〜50/50である。なお、アクリル系多層重合体粒子(A)とメタクリル系熱可塑性重合体(B)とからなるものを、説明の簡略化のために、樹脂組成物(α)と呼ぶ。
【0031】
本発明に用いられるヒンダードアミン類(C)は、アミノ基の両隣に置換基を有するアミン化合物である。ヒンダードアミン類は光安定化剤などとして使用されることがある。ヒンダードアミン類(C)としては、コハク酸ジメチル/1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、ポリ((6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)イミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル)((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ)ヘキサメチレン((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ))、2−(2,3−ジ−t−ブチル−4−ヒドキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)、2−(3,5−ジ−t−ブチルー4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン/2,4−ビス(N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ)−6−クロロ−1,3,5−トリアジン縮合物、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、メタクリル酸2,2,6,6−テトラメチルピペリジル、およびコハク酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)が挙げられる。
これらの中でも、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート(例えばADEKA社製、アデカスタブLA−77)やメタクリル酸2,2,6,6−テトラメチルピペリジル(例えばADEKA社製、アデカスタブLA−87)が好ましい。
【0032】
ヒンダードアミン類(C)の使用量の下限は、樹脂組成物(α)〔アクリル系多層重合体粒子(A)およびメタクリル系熱可塑性重合体(B)の合計量、以下同じ。〕100質量部に対して、0.01質量部、好ましくは0.02質量部、より好ましくは0.05質量部である。ヒンダードアミン類(C)の使用量の上限は、樹脂組成物(α)100質量部に対して、0.2質量部、好ましくは0.15質量部、より好ましくは0.1質量部である。ヒンダードアミン類(C)の使用量が少ないと金型腐食を防止する効果が十分に発揮されない。一方、ヒンダードアミン類(C)の使用量が多いと金型汚れによる歩留まりの低下や金型清掃などによる生産性の低下をもたらすとともに、シルバー発生による成形品の欠点増加の原因となったり、成形品に焼けが発生して色相が低下したり、成形品に異物が発生したりする。
【0033】
本発明に用いられるヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)は、フェノールOH基のオルト位に置換基を有するフェノール化合物である。ヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)としては、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチル)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート)〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスフォネート−ジエチルエステル、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレート、オクチル化ジフェニルアミン、2,4−ビス[(オクチルチオ)メチル]−o−クレゾール、およびイソオクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが挙げられる。
これらの中でも、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(例えばチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、IRGANOX1010)およびオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(例えばチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、IRGANOX1076)が好ましい。
【0034】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)の使用量の下限は、樹脂組成物(α)100質量部に対して、0.05質量部、好ましくは0.08質量部、より好ましくは0.1質量部である。ヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)の使用量の上限は、樹脂組成物(α)100質量部に対して、0.5質量部、好ましくは0.3質量部、より好ましくは0.2質量部である。ヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)の量が0.05質量部よりも少ないと金型腐食を防止する効果が十分に発揮されない。一方、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)の量が0.5質量部よりも多いと金型汚れによる歩留まりの低下や金型清掃などによる生産性の低下をもたらすとともに、シルバー発生による成形品の欠点増加の原因となったり、成形品に焼けが発生して色相が逆に低下したり、成形品に異物が発生したりする。
【0035】
本発明に用いられる脂肪酸金属塩類(E)は、石けん(アルカリ金属の脂肪酸塩)および金属石けん(アルカリ金属以外の金属の脂肪酸塩)と呼ばれる化合物である。脂肪酸金属塩類(E)を構成する脂肪酸は、飽和脂肪酸でも不飽和脂肪酸でもよく、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、エルカ酸、リノール酸、およびリノレイン酸が挙げられる。脂肪酸金属塩類(E)を構成する金属としては、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉛、錫、鉄、カドミウム、バリウム、コバルト、ニッケル、マンガン、ストロンチウム、チタン、バナジウム、および銅が挙げられる。脂肪酸金属塩類(E)を得るために用いられる金属源は酸化物でもよいし水酸化物でもよい。
これらの中でもステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カリウムが好ましい。
【0036】
脂肪酸金属塩類(E)の使用量の下限は、樹脂組成物(α)100質量部に対して、0.01質量部、好ましくは0.02質量部、より好ましくは0.03質量部である。脂肪酸金属塩類(E)の使用量の上限は、樹脂組成物(α)100質量部に対して、0.2質量部、好ましくは0.1質量部、より好ましくは0.07質量部である。脂肪酸金属塩類(E)の量が0.01質量部よりも少ないと金型腐食を防止する効果が十分に発揮されない。一方、脂肪酸金属塩類(E)の量が0.2質量部よりも多いと成形品の透明性が低下する。
【0037】
ヒンダードアミン類(C)とヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)と脂肪酸金属塩類(E)との合計量の下限は、樹脂組成物(α)100質量部に対して、好ましくは0.1質量部、より好ましくは0.15質量部、さらに好ましくは0.2質量部である。ヒンダードアミン類(C)とヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)と脂肪酸金属塩類(E)との合計量の上限は、樹脂組成物(α)100質量部に対して、好ましくは0.9質量部、より好ましくは0.6質量部、さらに好ましくは0.3質量部である。当該合計量が0.1質量部よりも少ないと金型腐食を防止する効果が十分に発揮されない。一方、当該合計量が0.9質量部よりも多いと金型汚れによる歩留まりの低下や金型清掃などによる生産性の低下をもたらすとともに、シルバー発生による成形品の欠点増加の原因となったり、成形品に焼けが発生して色相が逆に低下したり、成形品に異物が発生したりする。
【0038】
本発明のメタクリル系樹脂組成物に含有されるヒンダードアミン類(C)とヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)との質量比(C/D)は、好ましくは0.2/1を超え且つ1/1未満、より好ましくは0.3/1〜0.8/1、さらに好ましくは0.4/1〜0.6/1である。当該質量比がこの範囲内にあると、金型腐食を防止する効果が良好に発揮される。
【0039】
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、成形品の離型性を向上させるために、離型剤をさらに含有させることができる。
離型剤としては、セチルアルコール、ステアリルアルコールなどの高級アルコール;ステアリン酸モノグリセライド、ステアリン酸ジグリセライドなどのグリセリン高級脂肪酸エステルが挙げられる。本発明においては高級アルコールとグリセリン脂肪酸モノエステルとを併用することがより好ましい。
含有させることができる離型剤の量に特に制限はないが、離型剤として高級アルコールおよび/またはグリセリン脂肪酸モノエステルを用いる場合、その含有量は、メタクリル系樹脂組成物〔アクリル系多層重合体粒子(A)、メタクリル系熱可塑性重合体(B)、ヒンダードアミン類(C)、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)および脂肪酸金属塩類(E)の合計量〕100質量部に対して、好ましくは0.3質量部以下、より好ましくは0.25質量部以下、さらに好ましくは0.2質量部以下である。離型剤の含有量が0.3質量部よりも多いと金型汚れによる歩留まりの低下や金型清掃などによる生産性の低下をもたらすとともに、シルバー発生による成形品の欠点増加の原因となり、または押出し成形時に目やにが生じやすくなる。
高級アルコールとグリセリン脂肪酸モノエステルとを併用する場合、その割合は特に制限されないが、高級アルコールとグリセリン脂肪酸モノエステルとの質量比として好ましくは2/1〜5/1、より好ましくは3/1〜4/1である。
【0040】
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、本発明の所期の効果を喪失しない範囲内において、必要に応じて、他の任意成分を含有させることができる。該任意成分としては、例えば粘度向上剤、耐熱安定剤、膠着防止剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、可塑剤、染料、顔料、および高分子加工助剤が挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。任意成分を含有させる場合、その量はメタクリル系樹脂組成物〔アクリル系多層重合体粒子(A)、メタクリル系熱可塑性重合体(B)、ヒンダードアミン類(C)、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)および脂肪酸金属塩類(E)の合計量〕100質量部に対して、好ましくは20質量部以下、より好ましくは0.01〜20質量部である。
【0041】
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、例えば、メタクリル系熱可塑性重合体(B)にアクリル系多層重合体粒子(A)、ヒンダードアミン類(C)、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)、脂肪酸金属塩類(E)および必要に応じて任意成分を配合することによって、またはメタクリル系熱可塑性重合体(B)にアクリル系多層重合体粒子(A)を配合して樹脂組成物(α)を得、これにヒンダードアミン類(C)、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)、脂肪酸金属塩類(E)および必要に応じて任意成分を配合することによって製造することができる。
配合においては、各成分を混合して溶融混練することが好ましい。溶融混練は、後述する溶融成形時に行うことができる。また、溶融混練は、溶融成形前に、スクリュウ型単軸押出機、スクリュウ型二軸押出機などの押出機を用いて行うことができる。溶融成形前の溶融混練では、メタクリル系樹脂組成物または樹脂組成物(α)をペレット状または粉粒状にしておくことが、成形時における作業性や、成形品中における各成分の分散性などが向上するという観点から好ましい。
【0042】
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、溶融成形が可能である。該成形では、一般の熱可塑性樹脂の成形を採用されている成形方法および成形装置を用いることができる。例えば、粉体またはペレットなどの形状にされた本発明のメタクリル系樹脂組成物を、押出成形、射出成形、インフレーション成形、ブロー成形、プレス成形、カレンダー成形、溶融積層成形などの方法で成形することによって、各種成形品、例えば、フィルム、シート、板、管、棒、中空品、その他のより複雑な三次元構造の成形品や、積層体を得ることができる。
【実施例】
【0043】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はそれらにより何ら制限されるものではない。なお、実施例および比較例における物性値の測定または評価は、以下の方法により行った。
【0044】
(1)アクリル系多層重合体粒子(A)および分散用粒子(b)の平均粒子径
堀場製作所社製レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA−910を用いて測定した。
【0045】
(2)メタクリル系熱可塑性重合体(B)の重量平均分子量
高速液体クロマトグラフィー装置に、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)用カラムとして島津製作所(株)製「GPC−802」、「HSG−30」、「HSG−50」および昭和電工(株)製「Shodex A−806」を直列に繋ぎ、検出器として示差屈折率検出器、溶離液としてテトラヒドロフランをそれぞれ用い、溶離液流量1.5ml/分の条件下で分析した。分子量既知の標準ポリスチレンとの較正からメタクリル系熱可塑性重合体(B)の重量平均分子量を決定した。なお、メタクリル系熱可塑性重合体(B)0.12gを秤量し、これに20mlのテトラヒドロフランを加えてメタクリル系熱可塑性重合体(B)を溶解させ、次いで孔径0.5μmのメンブランフィルターで濾過したものを試料溶液として用いた。
【0046】
(3)成形品の耐衝撃性の評価
ISO179−1eAに準拠してノッチ付きのシャルピー衝撃強度を測定した。試験片は日本製鋼所社製の射出成形機「J−75SAV」を用いて作製した。
【0047】
(4)成形時の金型腐食および金型汚れの評価
東芝機械社製「IS−60B」射出成形機を用い、平板金型(鋼材:PX5、成形品寸法:40mm×200mm×2mm)で、シリンダー温度260℃および280℃、スクリュー回転数50rpm、金型温度60℃、背圧0.5MPa、冷却時間15秒間、保圧無し(ショートショット)の条件下で700ショットの射出成形を行った。成形終了後、金型表面の腐食および汚れの程度を目視観察し、以下の指標で評価を行った。

(金型腐食の評価指標)
○:腐食無し。
△:僅かに腐食が認められる。
×:かなり腐食が認められる。

(金型汚れの評価指標)
○:金型汚れ無し。
△:僅かに金型汚れが認められる。
×:かなり金型汚れが認められる。
【0048】
実施例および比較例において用いた化合物を下記に列記した。なお、化合物名の後に記した括弧内はその化合物を表す略号である。
単量体:メタクリル酸メチル〔MMA〕、アクリル酸メチル〔MA〕、アクリル酸ブチル〔BA〕、スチレン〔St〕、メタクリル酸アリル〔ALMA〕
重合副資材:n−オクチルメルカプタン〔n−OM〕、ペルオキソ2硫酸カリウム〔KPS〕
ヒンダードアミン類(C):ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート〔LA77〕
ヒンダードフェノール系酸化防止剤(D):ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕〔IR10〕
脂肪酸金属塩類(E):ステアリン酸カルシウム〔StCa〕
高級アルコール類:ステアリルアルコール〔StOH〕
グリセリン脂肪酸モノエステル:ステアリン酸モノグリセライド〔StMG〕
【0049】
<参考例1>[アクリル系多層重合体粒子(A1)の製造]
(1)攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、単量体導入管および還流冷却器を備えた反応器内に、イオン交換水1050質量部、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム0.3質量部および炭酸ナトリウム0.7質量部を仕込み、反応器内を窒素ガスで十分に置換した。次いで内温を80℃にした。そこに、KPS0.25質量部を投入し、5分間攪拌した。これに、MMA95.4質量%、MA4.4質量%およびALMA0.2質量%からなる単量体混合物245質量部を60分間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、重合転化率が98%以上になるようにさらに30分間重合反応を行った。
(2)次いで、同反応器内に、KPS0.32質量部を投入して5分間攪拌した。その後、BA80.5質量%、St17.5質量%およびALMA2質量%からなる単量体混合物315質量部を60分間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、重合転化率が98%以上になるようにさらに30分間重合反応を行った。
(3)次に、同反応器内に、KPS0.14質量部を投入して5分間攪拌した。その後、MMA95.2質量%、MA4.4質量%およびn−OM0.4質量%からなる単量体混合物140質量部を30分間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、重合転化率が98%以上になるようにさらに60分間重合反応を行った。以上の操作によって、アクリル系多層重合体粒子(A1)を含むラテックスを得た。当該粒子(A1)の平均粒子径は0.23μmであった。
【0050】
<参考例2>[アクリル系多層重合体粒子(A2)の製造]
ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム0.3質量部を、モノ−n−ペンチルフェニルヘキサオキシエチレンリン酸ナトリウム0.6質量部およびジ−n−ペンチルフェニルヘキサエチレンリン酸ナトリウム0.6質量部に変更した以外は参考例1と同じ操作を行って、アクリル系多層重合体粒子(A2)を含むラテックスを得た。当該粒子(A2)の平均粒子径は0.20μmであった。
【0051】
<参考例3>[メタクリル系熱可塑性重合体(B1)の製造]
MMA94質量%およびMA6質量%からなる単量体混合物を懸濁重合することによって重量平均分子量8万のビーズ状のメタクリル系熱可塑性重合体(B1)を製造した。
【0052】
<参考例4>[分散用粒子(b1)の製造]
(1)攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、単量体導入管および還流冷却器を備えた反応器内に、イオン交換水1050質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム7質量部および炭酸ナトリウム0.23質量部を仕込み、容器内を窒素ガスで十分に置換した。次いで内温を80℃にした。そこに、KPS0.35質量部を投入し、5分間攪拌した。その後、MMA92.0質量%、MA7.5質量%およびn−OM0.5質量%からなる単量体混合物350質量部を60分間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、重合転化率が98%以上になるようにさらに30分間重合反応を行った。
(2)次いで、同反応器内に、KPS0.35質量部を投入して5分間攪拌した。その後、MMA92.0質量%、MA7.5質量%およびn−OM0.5質量%からなる単量体混合物350質量部を60分間かけて連続的に滴下供給した。滴下終了後、重合転化率が98%以上になるようにさらに60分間重合反応を行った。以上の操作によって、分散用粒子(b1)を含むラテックスを得た。当該粒子(b1)の平均粒子径は0.09μmであった。
【0053】
<実施例1>
アクリル系多層重合体粒子(A1)を含むラテックスと分散用粒子(b1)を含むラテックスとを固形分質量比〔(A1)/(b1)〕で65/35の割合で均一混合した。これに2%硫酸マグネシウム水溶液を添加して塩析凝固させた。次いで水洗・乾燥して重合体粉末を得た。
得られた重合体粉末60質量部とメタクリル系熱可塑性重合体(B1)40質量部と表1に記載した添加剤とをヘンシェルミキサーで混合し、40mmφの単軸押出機にて溶融混練してペレットを得た。このペレットを用いて上記の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0054】
<実施例2、比較例1〜5>
添加剤の配合割合を表1のように変更した以外は実施例1と同じ操作を行ってペレットを得た。このペレットを用いて上記の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0055】
<実施例3>
アクリル系多層重合体粒子(A1)をアクリル系多層重合体粒子(A2)に変更した以外は、実施例1と同じ操作を行ってペレットを得た。このペレットを用いて上記の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0056】
<比較例6>
添加剤の配合割合を表1のように変更した以外は実施例3と同じ操作を行ってペレットを得た。このペレットを用いて上記の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
以上の結果から、本発明のメタクリル系樹脂組成物(実施例1〜3)は、金型汚れや金型腐食の発生がなく、優れた成形性を有することがわかる。本発明のメタクリル系樹脂組成物を用いることによって、優れた耐衝撃性を有する成形品が得られることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内層の少なくとも1層が炭素原子数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル単量体に由来する単位および/または共役ジエン系単量体に由来する単位を主に有する架橋弾性重合体(I)を含有して成る層で且つ最外層が炭素原子数1〜8のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル単量体に由来する単位を主に有する熱可塑性重合体(II)を含有して成る層で構成されているアクリル系多層重合体粒子(A)並びにメタクリル酸メチルに由来する単位80質量%以上およびこれに共重合可能なビニル系単量体に由来する単位20質量%以下からなるメタクリル系熱可塑性重合体(B)からなり、アクリル系多層重合体粒子(A)とメタクリル系熱可塑性重合体(B)の質量比(A/B)が2/98〜98/2である樹脂組成物(α)100質量部と、
ヒンダードアミン類(C)0.01〜0.2質量部と、
ヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)0.05〜0.5質量部と、
脂肪酸金属塩類(E)0.01〜0.2質量部とを含有してなるメタクリル系樹脂組成物。
【請求項2】
前記樹脂組成物(α)100質量部に対して、ヒンダードアミン類(C)とヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)と脂肪酸金属塩類(E)の合計量が0.1〜0.9質量部であり、且つヒンダードアミン類(C)とヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)の質量比(C/D)が0.2/1を超え且つ1/1未満である請求項1に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項3】
アクリル系多層重合体粒子(A)の平均粒子径が0.05〜1μmである請求項1または2記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかひとつに記載のメタクリル系樹脂組成物を成形してなる成形品。

【公開番号】特開2012−180454(P2012−180454A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44413(P2011−44413)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】