説明

メタクリル酸メチルの精製によって生じる流れから価値のある化合物を回収する方法

【課題】残留MMA蒸留流れからの少なくともMAAおよびMAMの分離および回収、並びに、回収されたMAAおよびMAMの一方もしくは双方の、さらなるMMA生成物への変換のための1以上の技術を提供する。
【解決手段】MMA残留物流れをオーバーヘッド流れと、MAA、MAMおよび重化合物を含む有機残留物流れとに分離し;並びに、有機残留物流れを、水含有溶媒での抽出にかけてMAAおよびMAMを重化合物から分離し、MAAおよびMAMを含む水性抽出剤と、重化合物を含む有機ラフィネート流れとを形成する;ことを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクリル酸メチルの精製によって生じる流れから、メタクリル酸および2−メタクリルアミドのような選択された化合物を回収および再使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル酸メチルの製造は典型的に多工程化学反応プロセスを用いて行われ、この多工程化学反応プロセスは、所望のメタクリル酸メチルだけでなく他の化合物、例えば、これに限定されないが、未反応原料、中間体反応生成物、副生成物および不純物を含むクルード生成物流れを生じさせる。よって、メタクリル酸メチルの製造のための多工程プロセスにおける最終工程の1つは、所望のメタクリル酸メチル生成物を他の化合物の大部分から分離するために、クルード生成物流れの蒸留によるなどの精製を伴う。廃棄物として廃棄される代わりに、他の化合物の少なくとも幾分かは、他の価値のある化合物がさらに分離されることができ、そして多工程プロセスの1以上の工程に再循環させられるかまたは別の方法でさらなる反応にかけられることができる場合には、当該他の価値のある化合物またはさらなる量のメタクリル酸メチルの生産に有用であり得ることが認識されてきた。このような他の化合物、例えば、これに限定されないが、メタクリル酸、2−メタクリルアミド、α−ヒドロキシイソ酪酸メチル(α−MOB)を分離および回収するのに効果的かつ効率的な技術を開発するのに労力が向けられてきた。
【0003】
米国特許第4,529,816号および第5,393,918号に記載されるように、アセトンシアノヒドリン(ACH)および硫酸からメタクリル酸メチル(MMA)を生じさせる典型的な多工程反応プロセスにおける一般的な反応工程は、加水分解、クラッキング、エステル化、分離および精製である(以降、「MMAへの従来のACH径路」、または「従来のMMAプロセス」と称される)。この第1の反応工程においては、ACHは硫酸で加水分解されて、α−スルファトイソブチルアミド(SIBAM)、α−ヒドロキシイソブチルアミド(HIBAM)および2−メタクリルアミド(MAM)を含む加水分解混合物を生じさせる。第2の工程においては、加水分解混合物は、SIBAMおよびHIBAMを「熱分解」するための加熱にかけられ、それにより、さらなるMAMを含むクラッキング反応生成物を形成する。次いで、エステル化工程が行われ、このエステル化工程においては、クラッキング反応生成物は1種以上のC−C30アルカノールと一緒にされ、MAMはエステル化されて、MMA生成物を形成し、このMMA生成物はMAA、MAMおよびα−MOBと共にエステル化生成物流れに含まれる。このエステル化生成物流れは分離および精製工程にかけられて、MMA生成物を他の化合物から単離する。典型的には、1以上の蒸留工程が行われて、精製されたMMA生成物流れ、並びに他の化合物、例えば、これに限定されないがMMAダイマー(5−メチル−2−メチレンアジペート)、MAA、MAM、α−MOB、β−ヒドロキシイソ酪酸メチル(β−MOB)、β−メトキシイソ酪酸メチル(β−MEMOB)およびα−メトキシイソ酪酸メチル(α−MEMOB)を含む残留物ボトム流れを生じさせる。さらなるMMA生成物を生じさせるために、1種以上のこれら他の化合物を回収し変換することは、様々な程度の成功率および実用性を有する様々な研究開発努力の対象であった。
【0004】
特開昭52−10214号においては、クルードMMAの蒸留によって生じ、80〜90重量%のMMAダイマーを含む残留物流れから、MMAダイマーが回収される。残留物流れは苛性水性洗浄剤を用いて「洗浄」されて、MAA、MAM、MAAダイマー、MAA付加物、オキサジンおよび他の不純物を残留物流れから除去することによりMAAダイマーを精製した。
【0005】
特開昭52−12127号においては、MMA蒸留によって生じ、α−MOB、β−MEMOBおよびMAAを含む残留物ボトム流れは、エステル化水性流出物またはエステル化「酸残留物」(主としてNHHSO、硫酸および水を含む)並びにメタノールと一緒にされて、その際、得られる混合物のMMA含量が増加した。しかし、α−MOB脱水だけでさらなるMMAがどのくらい生じたか、およびもし存在するとしたら、メタノールでのMAAのエステル化によりどのくらい生じたかは特定されなかった。
【0006】
フランス国特許出願公開第2064583号および英国特許出願公開第1256288号の双方は、MOBおよびMAAを含む残留物ボトム流れを生じさせ、次いで、これら双方がそれぞれ同時に硫酸およびメタノールで処理されてMMAに変換される、クルードMMA生成物流れの精製を開示する。このMOBおよびMAAの変換は、従来のMMAプロセスの加水分解およびエステル化反応工程とは独立して、別個に行われ、その後蒸留によって、変換されたMMAを分離する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4,529,816号明細書
【特許文献2】米国特許第5,393,918号明細書
【特許文献3】特開昭52−10214号公報
【特許文献4】特開昭52−12127号公報
【特許文献5】フランス国特許出願公開第2064583号明細書
【特許文献6】英国特許出願公開第1256288号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、残留MMA蒸留流れからの少なくともMAAおよびMAMの分離および回収、並びに、回収されたMAAおよびMAMの一方もしくは双方の、さらなるMMA生成物への変換のための1以上の技術を提供することを求めている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
メタクリル酸メチル(MMA)またはメタクリル酸(MAA)の精製によって生じ、少なくともMAA、MAMおよび重化合物を含む残留物流れからメタクリル酸(MAA)および2−メタクリルアミド(MAM)の1種以上を回収する方法。本方法は、残留物流れをオーバーヘッド流れと、MAA、MAMおよび重化合物を含む有機残留物流れとに分離し;並びに、有機残留物流れを、水含有溶媒での抽出にかけてMAAおよびMAMを重化合物から分離し、MAAおよびMAMを含む水性抽出剤と、重化合物を含む有機ラフィネート流れとを形成する;ことを含む。
【0010】
メタクリル酸メチルまたはメタクリル酸の精製は、それぞれ精製されたMMA生成物流れまたは精製されたMAA流れと、残留物流れとを生じさせる蒸留によって、少なくとも部分的に行われることができた。例えば、残留物流れを生じさせたMMAの精製は、MMAへの従来のアセトンシアノヒドリン(ACH)径路(この径路においては、ACHは硫酸または発煙硫酸を用いて最初に加水分解される)プロセスからのMMA生成物流れに対して行われることができた。
【0011】
本発明の方法は、水性抽出剤をメタノールと接触させることによってMAMをMMAに変換すること;並びに、水性抽出剤を水と接触させることによってMAMをMAAに変換すること;からなる群から選択される少なくとも1つのさらなる反応プロセスに水性抽出剤をかける工程をさらに含むことができる。MAMのMMAへの変換は、例えば、MMAへの従来のACH径路プロセスのエステル化工程に水性抽出剤を再循環させることによって達成されうる。同様に、MAMのMAAへの変換は、例えば、MMAへの従来のACH径路プロセスのMMA反応工程に水性抽出剤を再循環させることにより達成されうる。
【0012】
さらなる実施形態においては、残留物流れは、α−ヒドロキシイソ酪酸メチル(α−MOB)をさらに含むことができ、このことは、結果として、α−MOBを含む第1の分離工程によって生じたオーバーヘッド流れを生じさせ、その際そのα−MOB含有オーバーヘッド流れは少なくとも1つのさらなる反応プロセスにかけられて、α−MOBをさらなるMMA生成物に変換することができる。
【0013】
水含有抽出溶媒は、塩、アルコール、アンモニアおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される1種以上の添加剤化合物をさらに含むことができる。例えば、その溶媒は、工程(B)によって生じる有機残留物流れ中で、10以下、例えば、0.1から5のNH:MAAのモル比を提供する量のアンモニアを含むことができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以後、本発明は、メタクリル酸メチル(MMA)の製造によって生じる残留化合物を回収し変換することに関連して詳細に説明されうるが、本発明の方法は、これに限定されないがメタクリル酸(MAA)のような類似の化合物種の製造によって生じる同じまたは類似の残留化合物の回収および変換に適用可能であることに留意されるべきである。
【0015】
本発明は、MMAがMMAへの従来のACH径路プロセスによって製造されたMMAの精製によって生じる残留物流れから1種以上の化合物を回収する方法を提供する。より具体的には、「MMAへの従来のACH径路プロセス」はアセトンシアノヒドリン(ACH)からMMAを生じさせる多工程反応プロセスである。典型的には、このような従来のMMAプロセスは、α−スルファトイソブチラミド(SIBAM)、α−ヒドロキシイソブチラミド(HIBAM)および2−メタクリルアミド(MAM)を生じさせる、硫酸(または発煙硫酸)を用いたACHの加水分解の工程を伴う。この加水分解の後に、SIBAMおよびHIBAMを熱でクラッキングして、さらなるMAMを形成させる。加水分解およびクラッキング工程の双方で形成されたMAMは、次いで、1種以上のC−C30アルカノールでエステル化されて、クルードMMAを生じさせる。MAAへの従来のACH径路プロセスは、硫酸または発煙硫酸を用いたACHの最初の加水分解、次いで、加水分解工程の生成物のクラッキング、並びに加水分解およびクラッキング中に生じたMAMを変換しMAAを形成することも含む。
【0016】
クルードMMA生成物流れは、これに限定されないが、未反応物質、中間生成物、副生成物および不純物を含むさらなる化合物を含み、よって分離精製されなければならない。よって、MMAへの従来のACH径路プロセスはさらに、他の化合物から所望のMMA生成物を分離することを必要とする。典型的には、1以上の蒸留工程が行われて、精製されたMMA生成物流れをクルードMMA生成物から分離して、残留物ボトム流れを残す。残留物ボトム流れは、典型的には、他の化合物、例えば、これに限定されないが、MMAダイマー(5−メチル−2−メチレンアジペート)、MAA、MAM、α−MOB、α−メトキシイソ酪酸メチル(α−MEMOB)およびβ−メトキシイソ酪酸メチル(β−MEMOB)を含むことができる。さらなるMMA生成物を生じさせる、これら他の化合物の1種以上の回収および変換は現在および過去の多くの研究の課題である。上記のことは、MAAへの従来のACH径路プロセス(すなわち、MAA生成物を精製するために分離が必要とされる)により形成されたクルードMAA生成物流れにも当てはまり、このことは、結果的に、他の化合物、例えば、これに限定されないが、MAAダイマー、MAM、α−MOB、β−MOB、β−メトキシイソ酪酸メチル(β−MEMOB)およびα−メトキシイソ酪酸メチル(α−MEMOB)を含むことができる残留物ボトム流れの形成をもたらす。
【0017】
本発明は、MMAおよびMAAへの従来のACH径路プロセスに関して実現されていない収率の利点および廃棄物の発生の課題に対処する。例えば、MMAまたはMAA蒸留生成物からの残留物ボトム流れは、典型的には、廃棄物流れとして処理されその加熱燃料価値のために燃やされ、他の場合には、分解され廃棄される。
【0018】
特に、本発明は、MMAの精製中に生じる残留物流れから、メタクリル酸(MAA)および2−メタクリルアミド(MAM)からなる群から選択される1種以上の化合物を回収する方法を提供する。この工程は(A)少なくともMAA、MAMおよび重化合物を含む残留物流れを提供すること;(B)残留物流れをオーバーヘッド流れと、MAA、MAMおよび重化合物を含む有機残留物流れとに分離すること;並びに(C)有機残留物流れを、水含有溶媒での抽出にかけることによって、MAAおよびMAMを重化合物から分離し、MAAおよびMAMを含む水性抽出剤と、重化合物を含む有機ラフィネート流れとを形成すること;である。
【0019】
MMAへの従来のACH径路プロセスに関して上述したように、少なくともMAA、MAMおよび重化合物を含む残留物流れを提供する工程(A)は、MMAへの従来のACH径路プロセスによってMMAが製造されたMMA精製プロセスの残留物流れを特定することにより達成されうる。
【0020】
残留物流れをオーバーヘッド流れと、MAA、MAMおよび重化合物を含む有機残留物流れとに分離する工程(B)は、蒸留によって少なくとも部分的に達成されることもできる。このような場合には、有機残留物流れは蒸留ボトム流れを含みうる。
【0021】
上述のように、MAAおよびMAMを重化合物から分離する工程(C)は、水含有溶媒での抽出によって達成される。特に、有機残留物流れは、水含有溶媒と接触させられて、MMAおよびMAMの双方を溶媒中、すなわち、水相中にに抽出する(MAA/MAM共抽出とも称される)。これにより重化合物を含む有機ラフィネート流れだけでなく、MAAおよびMAMを含む水性抽出剤が形成される。重化合物からのMAAおよびMAMの分離は、単一バッチ抽出、複数バッチ抽出、連続抽出、またはこれらの組み合わせによって達成されうる。
【0022】
この抽出は室温および大気圧で行われうる。抽出プロセスのための別の好適な温度および圧力条件を選択することは充分に当業者の能力の範囲内にある。本方法はバッチでまたは並流または向流連続流れで行われることができる。
【0023】
抽出物とラフィネートとを分ける化合物種を向上させるために、溶媒添加剤が使用されうる。好適な添加剤化合物には、塩、アルコールおよびアンモニアが挙げられる。MAAに対してほぼ等モル比のアンモニア、例えば、これに限定されないが、工程(B)によって生じる有機残留物流れ中でのNH:MAAのモル比10以下、例えば、0.1〜8、または0.3〜5、またはさらには0.5〜3を提供する量のアンモニアが特に好適な添加剤である。
【0024】
抽出を行うのに好適なプロセス装置には、単一段階または複数段階ミキサー−セトラー;多孔板塔;シーブトレイ塔;攪拌塔、例えば、SCHEIBELおよびKARRカラム塔;充填カラム塔;並びにスプレーカラム塔が挙げられる。
【0025】
出願人は予想外にも、上記MAA/MAM共抽出が良好な分離を提供することを見いだした。言い換えれば、蒸留残留物中に典型的に見いだされる多くの不純物を実質的に含まない、MAAおよびMAMの予想外に高純度の水性抽出剤。以下でさらに詳細に説明されるように、水性抽出物は、次いで、MMA製造プロセスのエステル化工程に、またはMAA製造プロセスのMAA反応工程に再循環させられうるか、またはさらには、MAMがMMAまたはMAAに変換されるMMAもしくはMAA製造プロセスの部分ではない別の分離反応工程に提供されうる。
【0026】
例えば、本発明のある実施形態において、水性抽出物は、MAMおよびMAAがメタノールと反応させられてMMAを生じさせるMMA製造プロセスのエステル化工程に再循環させられうる。水性抽出物はエステル化工程のエステル化反応容器に直接供給されうるか、またはエステル化反応器に供給する「再循環水」システム(米国特許出願公開第2003/0208093A1号に記載)に供給されうる。(ACHがMAMに変換されるMMA製造プロセスのクラッキング工程から)エステル化反応器に提供されるMAMを含む流れは、硫酸も含む混合物であり、よって、MAMはMAM硫酸塩(MAMS)の形態で存在しうる。エステル化反応器に提供されるメタノールは水性混合物である。よって、水性抽出剤中のMAMおよび水は、MMAエステル化反応器への通常の供給成分である。
【0027】
本発明の方法の別の実施形態においては、MAA製造プロセスのMAA反応工程に水性抽出剤が提供され、そこでMAMが水と反応してMAAを製造する。水性抽出剤はMAA反応工程の反応容器に直接供給されうるか、または反応器に供給する「再循環水」システム(米国特許出願公開第2003/0208093A1号に記載)に供給されうる。(ACHがMAMに変換されるクラッキング工程から)反応器に提供されるMAMを含む流れは、硫酸も含む混合物であり、よって、MAMはMAMSの形態で存在しうる。よって、この抽出剤中のMAMおよび水は、MMA反応への通常の供給成分であり、抽出剤中のMAAは、もちろんその反応の通常の生成物である。
【0028】
さらなる実施形態においては、水性抽出剤は従来のMMAおよび/またはMAAプロセスの工程ではない1以上のさらなる反応工程にかけられうる。例えば、水性抽出剤は、メタノールと接触させられて、反応容器中にMMAを生じさせうる。同様に、水性抽出剤は水と接触させられて、反応容器中にMAAを生じさせうる。
【0029】
抽出からの有機ラフィネート流れは廃棄物として処理されうる。廃棄物処理のオプションには、これに限定されないが、その加熱燃料価値のために、水蒸気発生ボイラーにおいてまたは硫酸生成プラントの熱分解炉において燃やすことが挙げられる。また、抽出からの有機物流れは、従来のACH径路のMMAおよび/またはMAA製造プロセスからの酸残留物と混合されることができ、そこで酸残留物は硫酸を再生させるために同様に熱分解される。
【0030】
MMAまたはMAAの精製によって生じる残留物流れは、上記MAMおよびMAAに加えて、α−ヒドロキシイソ酪酸メチル(α−MOB)、β−ヒドロキシイソ酪酸メチル(β−MOB)、α−メトキシイソ酪酸メチル(α−MEMOB)およびβ−メトキシイソ酪酸メチル(β−MEMOB)の1種以上をさらに含むことができる。このような状況においては、残留物流れを分離する工程(B)は、MAA、MAMおよび重化合物を含む有機残留物流れと、α−ヒドロキシイソ酪酸メチル(α−MOB)、β−ヒドロキシイソ酪酸メチル(β−MOB)、α−メトキシイソ酪酸メチル(α−MEMOB)およびβ−メトキシイソ酪酸メチル(β−MEMOB)の1種以上を含むオーバーヘッド流れとを形成しうる。
【0031】
例えば、本発明の方法は、工程(A)において提供される残留物流れから、α−MOBおよびβ−MEMOBを蒸留(α−MOB回収蒸留)することによる分離を含むことができ、有機残留物流れを残し、有機残留物流れは次いで抽出にかけられて、そこからMAAおよびMAMを除く。このようなα−MOB回収蒸留は、α−MOBおよびβ−MEMOBの高い回収率(例えば、90%超、またはさらには95%超)並びに留出物中でこれら成分を合わせたものの高純度(例えば、留出物の全重量を基準にして、α−MOBおよびβ−MEMOBの合計95重量%を超える留出物)を達成することができる。
【0032】
本発明に従ってα−MOB回収蒸留が行われる場合、得られるα−MOB含有オーバーヘッド流れは、α−MOBをさらなるMMA生成物に変換するための少なくとも1つのさらなる反応プロセスにかけられうる。例えば、これに限定されないが、α−MOB含有オーバーヘッド流れは、α−MOBがMMAに化学的に脱水され、および場合によっては、β−MEMOBが脱メタノール化されてMMAおよびメタノールを生じさせる反応工程にかけられうる。米国特許第5,739,379号に記載されるように、α−MOB含有オーバーヘッド流れは気化され、気相不均一触媒化脱水反応にかけられることができ、この反応はβ−MEMOBを脱メタノール化もすることができる。混合されたこのような脱水および脱メタノール化反応の全生成物は、水および未変換のα−MOBおよびβ−MEMOBに加えて、主としてMMAおよびメタノールを含む。この混合生成物は凝縮され、MMA製造プロセスのエステル化工程に再循環されることができ、そしてその中でのβ−MEMOB蓄積が回避される。このような配置においては、メタノールおよび水は、こんどはMMAエステル化反応器への通常のメタノールおよび水供給物の部分となる。
【0033】
別の実施形態においては、α−MOB含有オーバーヘッド流れは、α−MOBがMMAに脱水される液相反応器に供給されうる。場合によっては、流れ中に存在するβ−MEMOBは、使用される反応方法に依存して、MMAに脱メタノール化されることもできる。α−MOBの液相脱水は硫酸、例えば、濃硫酸(例えば、98重量%)または発煙硫酸(例えば、10〜30重量%SO)中での反応を含みうる。α−MOBからのMMA収率は硫酸が使用される場合には70%以上、発煙硫酸の場合には90重量%以上であり得る。これらの方法は、β−MEMOBを脱メタノール化しないが、β−MEMOBの部分的分解が達成されうる。
【0034】
例えば、英国特許第409733号はクロロスルホン酸のような一連のS−含有酸が、α−MOBをその硫酸エステルに変換するために使用され、次いで、加熱下で除去反応を行ってMMAを製造することを記載していた。米国特許第3,487,101号は塩基触媒を使用して、α−MOBまたはその等価物酸、α−ヒドロキシイソ酪酸(α−HIBA)を脱水する方法を開示していた。硫酸製造は一般的に、従来のACH径路によって作動するMMA製造プラントと一緒に配置されているので、硫酸を使用するα−MOB脱水は、新たな物質がプロセス全体に導入される必要がないので、特に効率的であり得る。
【実施例】
【0035】
実施例1
0.87重量%のMMA、2.4重量%のメタクリル酸(MAA)、19.1重量%のメタクリルアミド(MAM)、48重量%の5−メチル−2−メチレンアジペート(MMAダイマー)および残りの特定されていない廃棄残留物種を含むメタクリル酸メチル(MMA)蒸留残留物が脱イオン水で、室温および大気圧で抽出された。15.0グラム(g)の脱イオン水および15.0gの蒸留残留物をガラス製分離漏斗に入れた。この分離漏斗の内容物を手で激しく振って12時間放置した。有機相は水性相よりも高密度であり、その有機相を分離漏斗ストップコックを介して外に出し、漏斗の上部から水性相を注ぎ出した。分けた直後に、それぞれの相を、キャピラリーカラムおよびフレームイオン化検出器に取り付けられたガスクロマトグラフで分析した。MMA、MAA、MAMおよびMMAダイマーの相対的分布が表1に示される。抽出剤中へのMAAおよびMAMの回収率は、それぞれ、16.6および60.5%であった。
【0036】
実施例2
実施例1におけるのと同じ組成のMMA蒸留残留物が、抽出剤として45.0gの脱イオン水が使用されたことを除いて、実施例1におけるのと同じ手順で抽出され、試験された。MMA、MAA、MAMおよびMMAダイマーの相対的分布が表1に示される。抽出剤中へのMAAおよびMAMの回収率は、それぞれ、36.1および81.4%であった。
【0037】
実施例3
実施例1におけるのと同じ組成のMMA蒸留残留物が、抽出剤として150.0gの脱イオン水が使用されたことを除いて、実施例1におけるのと同じ手順で抽出され、試験された。MMA、MAA、MAMおよびMMAダイマーの相対的分布が表1に示される。抽出剤中へのMAAおよびMAMの回収率は、それぞれ、78.2および97.5%であった。
【0038】
実施例4
実施例1におけるのと同じ組成のMMA蒸留残留物が、抽出剤として2重量%のメタノールを含む45.0gの脱イオン水が使用されたことを除いて、実施例1におけるのと同じ手順で抽出され、試験された。MMA、MAA、MAMおよびMMAダイマーの相対的分布が表1に示される。抽出剤中へのMAAおよびMAMの回収率は、それぞれ、38.5および84.1%であった。
【0039】
実施例5
実施例1におけるのと同じ組成のMMA蒸留残留物が、抽出剤として5重量%のメタノールを含む45.0gの脱イオン水が使用されたことを除いて、実施例1におけるのと同じ手順で抽出され、試験された。MMA、MAA、MAMおよびMMAダイマーの相対的分布が表1に示される。抽出剤中へのMAAおよびMAMの回収率は、それぞれ、36.2および82.0%であった。
【0040】
実施例6
実施例1におけるのと同じ組成のMMA蒸留残留物が、抽出剤として10重量%のメタノールを含む45.0gの脱イオン水が使用されたことを除いて、実施例1におけるのと同じ手順で抽出され、試験された。MMA、MAA、MAMおよびMMAダイマーの相対的分布が表1に示される。抽出剤中へのMAAおよびMAMの回収率は、それぞれ、41.6および81.7%であった。
【0041】
実施例7
実施例1におけるのと同じ組成のMMA蒸留残留物が、抽出剤として1.5重量%のアンモニアを含む45.0gの脱イオン水が使用されたことを除いて、実施例1におけるのと同じ手順で抽出され、試験された。分離漏斗内容物は単一の液相になった。一週間を超える期間にわたっても相分離は観察されなかった。5重量%のアンモニア溶液が同様に使用された場合に、同じ挙動が観察され、得られた液体を測定すると、1.3重量%のメタノール、0.11重量%のMMA、0.38重量%のMAA、2.5重量%のMAMおよび7.1重量%のMMAダイマーを含んでいた。
【0042】
実施例8および9
実施例1におけるのと同じ組成のMMA蒸留残留物が、抽出剤として0.16重量%のアンモニアを含む45.0gの脱イオン水が使用されたことを除いて、実施例1におけるのと同じ手順で抽出され、試験された。分離漏斗から分配させて取り出した直後に、水性相に混じっている明らかな残留物有機相物質の懸濁した固体および液滴が観察された。この即時の分析について(実施例8)のMMA、MAA、MAMおよびMMAダイマーの相対的分布が表1に示される。このサンプルについての抽出剤中へのMAAおよびMAMの回収率は、それぞれ72.2および85.5%であり、水性相に分配された測定されたMMAダイマーは9.3%であった。分配された水性相を約12時間静置して再分析すると(実施例9)、測定されたMAAおよびMAMの回収率は変わらず、そして測定された水性分配MMAダイマーは0.7%に低下した。
【0043】
実施例10
実施例1におけるのと同じ組成のMMA蒸留残留物が、抽出剤として25重量%の塩化ナトリウムを含む60.0gの脱イオン水が使用されたことを除いて、実施例1におけるのと同じ手順で抽出され、試験された。水性相は有機相よりも高密度であった。MMA、MAA、MAMおよびMMAダイマーの相対的分布が表1に示される。抽出剤中へのMAAおよびMAMの回収率は、それぞれ、10.0および56.4%であった。
【0044】
実施例11
0.99重量%のMMA、9.4重量%のMAA、13.8重量%のMAM、28.3重量%のMMAダイマーおよび残りの特定されていない廃棄残留物種を含むMMA蒸留残留物が脱イオン水で、室温および大気圧で抽出された。45.0グラム(g)の脱イオン水および15.0gの残留物をガラス製分離漏斗に入れた。この分離漏斗の内容物を手で激しく振って12時間放置した。有機相は水性相よりも高密度であり、その有機相を分離漏斗ストップコックを介して外に出し、漏斗の上部から水性相を注ぎ出した。分けた直後に、それぞれの相を、キャピラリーカラムおよびフレームイオン化検出器に取り付けられたガスクロマトグラフで分析した。MMA、MAA、MAMおよびMMAダイマーの相対的分布が表1に示される。抽出剤中へのMAAおよびMAMの回収率は、それぞれ、43.6および81.3%であった。
【0045】
実施例12
実施例11におけるのと同じ組成のMMA蒸留残留物が、抽出剤として10重量%の硫酸アンモニウムを含む45.0gの脱イオン水が使用されたことを除いて、実施例11におけるのと同じ手順で抽出され、試験された。有機相は混合物の底に沈んだ。MMA、MAA、MAMおよびMMAダイマーの相対的分布が表1に示される。抽出剤中へのMAAおよびMAMの回収率は、それぞれ、34.1および65.5%であった。
【0046】
実施例13および14
実施例11におけるのと同じ組成のMMA蒸留残留物が、抽出剤として0.63重量%のアンモニアを含む45.0gの脱イオン水が使用されたことを除いて、実施例11におけるのと同じ手順で抽出され、試験された。分離漏斗から取り出した直後に、水性相に混じっている明らかな残留物有機相物質の懸濁した固体および液滴が観察された。この即時の分析について(実施例13)のMMA、MAA、MAMおよびMMAダイマーの相対的分布が表1に示される。このサンプルについての抽出剤中へのMAAおよびMAMの回収率は、それぞれ79.2および84.7%であり、水性相に分配された測定されたMMAダイマーは18.3%であった。分配された水性相を約12時間静置して再分析すると(実施例14)、測定されたMAAおよびMAMの回収率はそれぞれ、78.9および84.7%であり、そして測定された水性分配MMAダイマーは6.4%に低下した。
【0047】
実施例15
実施例11におけるのと同じ組成のMMA蒸留残留物が、分離漏斗内容物が振とう後5.5時間静置させられたことを除いて、実施例13におけるのと同じ手順で抽出され、試験された。MMA、MAA、MAMおよびMMAダイマーの相対的分布が表1に示される。抽出剤中へのMAAおよびMAMの回収率は、それぞれ、78.9および85.8%であった。
【0048】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸メチル(MMA)またはメタクリル酸(MAA)の精製によって生じる残留物流れから1種以上の化合物を回収する方法であって;
前記1種以上の化合物が、メタクリル酸(MAA)および2−メタクリルアミド(MAM)からなる群から選択され;
当該方法が、
(A)少なくともMAA、MAMおよび重化合物を含む残留物流れを提供し;
(B)前記残留物流れをオーバーヘッド流れと、MAA、MAMおよび重化合物を含む有機残留物流れとに分離し;並びに、
(C)前記有機残留物流れを、水含有溶媒での抽出にかけてMAAおよびMAMを重化合物から分離し、MAAおよびMAMを含む水性抽出剤と、重化合物を含む有機ラフィネート流れとを形成する;
工程を含む方法。
【請求項2】
メタクリル酸メチルまたはメタクリル酸の精製が、それぞれ、精製されたMMA生成物流れまたは精製されたMAA流れと、残留物流れとを生じさせる蒸留によって、少なくとも部分的に行われた、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分離工程(B)が、少なくとも部分的に蒸留によって行われ、有機残留物流れが蒸留ボトム流れである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
(D)(1)水性抽出剤をメタノールと接触させることによってMAMをMMAに変換すること;並びに、
(2)水性抽出剤を水と接触させることによってMAMをMAAに変換すること;
からなる群から選択される少なくとも1つのさらなる反応プロセスに水性抽出剤をかける工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
水性抽出剤をメタノールと接触させることによってMAMをMMAに変換する前記工程(D)(1)が、MMAへの従来のACH径路プロセスのエステル化工程に水性抽出剤を再循環させることによって達成される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
水性抽出剤を水と接触させることによってMAMをMAAに変換する前記工程(D)(2)が、MMAへの従来のACH径路プロセスのMMA反応工程に水性抽出剤を再循環させることにより達成される、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
重化合物を含む前記有機流れの廃棄工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
残留物流れがα−ヒドロキシイソ酪酸メチル(α−MOB)をさらに含み、分離工程(B)において形成されたオーバーヘッド流れがα−MOBを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
α−MOB含有オーバーヘッド流れが、少なくとも1つのさらなる反応プロセスにかけられて、α−MOBをさらなるMMA生成物に変換する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
アセトンシアノヒドリンが最初に硫酸または発煙硫酸によって加水分解されるMMAへの従来のアセトンシアノヒドリン(ACH)径路プロセスによって生じるMMA生成物流れに対してMMAの精製が行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
MAAおよびMAMを重化合物から分離する前記工程(C)が、単一バッチ抽出、複数バッチ抽出、連続抽出、またはこれらの組み合わせによって達成される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
塩、アルコール、アンモニアおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される1種以上の添加剤化合物を前記溶媒がさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
水含有溶媒が、工程(B)によって生じる有機残留物流れ中で、10以下のNH:MAAのモル比を提供する量のアンモニアを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
水含有溶媒が、0.1〜5のNH:MAAのモル比を提供する量のアンモニアを含む、請求項13に記載の方法。

【公開番号】特開2011−79811(P2011−79811A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−170305(P2010−170305)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(590002035)ローム アンド ハース カンパニー (524)
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
【Fターム(参考)】