説明

メタクリル酸製造用触媒、その製造方法、およびメタクリル酸の製造方法

【課題】メタクリル酸を高選択率で製造できるメタクリル酸製造用触媒、その製造方法、および該メタクリル酸製造用触媒を用いたメタクリル酸の製造方法の提供。
【解決手段】メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられ、粉状の触媒前駆体を機械装置で成形する成形工程を含む製造方法により製造されるメタクリル酸製造用触媒であって、表面に、前記成形工程で前記機械装置に接触した部分と接触していない部分とが併存しているメタクリル酸製造用触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられるメタクリル酸製造用触媒、その製造方法、および該メタクリル酸製造用触媒を用いたメタクリル酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル酸の製造方法の一つとして、固体触媒の存在下でメタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化する方法が知られている。
気相接触酸化反応で用いられる固体触媒の多くは多孔性物質であり、内部に細孔を有している。気相接触酸化反応時、原料成分はまず固体触媒の外表面上の流体境膜内を移動し、ついで細孔内を移動、拡散していく。原料成分は触媒の外表面や細孔内の活性点に吸着して反応する。細孔内で生成した生成物成分は、細孔内から固体触媒の外部へ移動、拡散していく。
固体触媒は、一般的に、触媒構成元素の原料を含む混合溶液又はスラリーを調製し、これを乾燥した後、得られた粉体(触媒前駆体)を所定の形状に成形し、得られた成形体を熱処理することにより製造されている。従来、固体触媒の形状としては、球状または円柱状が一般的に採用されていた。しかし、このような形状の固体触媒を用いた場合、目的生成物(メタクリル酸)の選択率が低い問題があった。
【0003】
特許文献1には、メタクリル酸合成用触媒の外形寸法を特定の範囲内とし、縦軸方向に所定の内径の貫通孔を設けてリング状とすることが開示されている。このような形状とすることで、メタクリル酸を高い選択率で得ることができるとされている。しかしリング状の触媒は、気相接触酸化反応を行う反応器に触媒を充填したときの衝撃により触媒が破損すると圧力損失が大きくなり、反応にとって不利になる問題があった。このような問題に対し、特許文献2には、万が一触媒が破損した場合でも圧力損失の増加が小さくなるように、断面の外周、内周のいずれか一方を楕円形状、他方を円形状とし、それらの中心を一致させるとともに、中心から楕円形状上の最短距離に対する最長距離の比を特定範囲内としたシリンダー形状の触媒成形体が開示されている。
また、特許文献3には、メタクリル酸を高い選択率で得るためのメタクリル酸合成用触媒として、特定の触媒組成を有し、細孔径分布チャートにおいて細孔半径0.5〜10μmの範囲に少なくとも2つのピークを有するものが開示されており、その製造方法として、触媒原料を混合して混合物を得る際に、特定元素を含むpH5〜10の溶液またはスラリーと、少なくとも銅を含む溶液またはスラリーを混合する方法が開示されている。
また、特許文献4には、触媒成形後にさらに別工程で触媒を加工する方法として、整粒機を用いて触媒を小粒化する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59−115750号公報
【特許文献2】特開平06−170237号公報
【特許文献3】特開2000−84412号公報
【特許文献4】特開2009−220053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1〜4に開示されるような方法で製造された触媒は、メタクリル酸の選択率が未だ充分とはいえず、更なる改良が望まれていた。
本発明の目的は、メタクリル酸を高選択率で製造できるメタクリル酸製造用触媒、その製造方法、および該メタクリル酸製造用触媒を用いたメタクリル酸の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、触媒表面近傍の細孔分布と触媒内部の細孔分布が異なり、表面近傍の拡散抵抗が内部に比べて大きいことが、従来の触媒を用いた場合にメタクリル酸の選択率が充分でない理由の一つであることを見出した。触媒は、使用時に形状が崩壊しないようにある程度の強度が必要である。そのため、触媒前駆体を成形する触媒成形工程では、触媒前駆体に充分な圧力を付与して成形を行う必要がある。このとき成形体表面近傍に強い圧力が加わるため、成形体表面近傍の細孔が崩壊する。そのため、特許文献1〜3に記載の方法のように、触媒成形工程に引き続いて熱処理工程を行う場合では、この成形体の細孔分布がそのまま反映されて、上記のような細孔分布の相違が生じると考えられる。特許文献4では触媒成形後に整粒機で大成形体を加工して小成形体にしているが、この方法においても、整粒機と小成形体表面が接触し、小成形体の表面近傍の細孔分布は依然、内部の細孔分布とは異なる状態のままである。
そこで、内部の細孔を表面に露出させることで、メタクリル酸の選択率を向上させることができると考えられる。
例えば成形体を粉砕する方法が考えられるが、この場合、粉砕後の触媒形状を制御することが困難であり、また、反応器に充填したときの圧力損失が増大するため現実的ではない。
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、以下の態様を有する。
[1]メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられ、粉状の触媒前駆体を機械装置で成形する成形工程を含む製造方法により製造されるメタクリル酸製造用触媒であって、
表面に、前記成形工程で前記機械装置に接触した部分と接触していない部分とが併存しているメタクリル酸製造用触媒。
[2][1]記載のメタクリル酸製造用触媒を製造する方法であって、
粉状の触媒前駆体を調製する工程と、前記触媒前駆体を機械装置で成形する成形工程と、前記成形工程で得られた成形体を分割して前記機械装置に接触していない部分を露出させる分割工程と、前記分割工程で得られた分割体を熱処理する熱処理工程と、を含むメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
[3][1]記載のメタクリル酸製造用触媒の存在下で、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化するメタクリル酸の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、メタクリル酸を高選択率で製造できるメタクリル酸製造用触媒、その製造方法、および該メタクリル酸製造用触媒を用いたメタクリル酸の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明のメタクリル酸製造用触媒の一実施形態を説明する概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のメタクリル酸製造用触媒(以下、単に触媒ということがある。)は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられるものである。
本発明の触媒の組成は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化する際の反応触媒として機能するものであれば特に限定されず、従来、該気相接触酸化に用いられる固体触媒の組成として公知の組成のなかから適宜選択できる。
本発明の触媒は、比較的高いメタクリル酸選択率が得られることから、リン、モリブデン、バナジウムおよび銅を必須成分として含有する複合酸化物触媒であることが好ましく、下記一般式(1)で表される組成を有する複合酸化物触媒であることがより好ましい。
MoCu …(1)
前記式(1)中、P、Mo、V、Cu、Oは、それぞれリン、モリブデン、バナジウム、銅、酸素を示す。Xは、アンチモン、ビスマス、砒素、ゲルマニウム、ジルコニウム、テルル、銀、セレン、ケイ素、タングステン及びホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素を示す。Yは、鉄、亜鉛、クロム、マグネシウム、タンタル、コバルト、マンガン、バリウム、ガリウム、セリウム及びランタンからなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素を示す。Zは、カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素を示す。a、b、c、d、e、f、g及びhは、それぞれ、各元素の原子比率を表し、b=12のときa=0.5〜3、c=0.01〜3、d=0.01〜2、e=0〜3、f=0〜3、g=0.01〜3であり、hは前記各元素の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比率である。
Xとして2種以上の元素を含む場合、eは、それら2種以上の元素の合計の原子比率を表す。Yとして2種以上の元素を含む場合、fは、それら2種以上の元素の合計の原子比率を表す。Zとして2種以上の元素を含む場合、gは、それら2種以上の元素の合計の原子比率を表す。
触媒の組成は、製造時に使用した触媒構成元素の原料の仕込み量から算出できる。また、ICP(誘導結合高周波プラズマ)発光分析法、蛍光X線分析法、原子吸光分析法等による元素分析により求めることもできる。
【0010】
本発明の触媒は、粉状の触媒前駆体を機械装置で成形する成形工程を経て製造されるものであり、表面に、前記成形工程で前記機械装置に接触した部分と接触していない部分とが併存している。
ここで触媒前駆体とは、触媒構成元素の原料から構成されるものであり、熱処理(焼成)されることによって触媒となる。触媒前駆体は、通常、触媒原料を含有する混合溶液又はスラリーを調製し、これを乾燥させることにより調製される。
成形工程では、詳しくは後で説明するが、打錠成形機等の機械装置を用いて触媒前駆体を成形体とする。成形時に機械装置との接触により圧力がかかることで、得られる成形体の表面近傍には、内部に比べて緻密な層(表面緻密層)が形成される。表面緻密層の細孔径は、成形体内部の細孔径に比べて小さくなっている。
本発明の触媒の表面には、この比較的細孔径の大きい成形体の内部、つまり機械装置と接触していない部分が露出している。これにより、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際のメタクリル酸の選択率が向上する。これは、触媒表面近傍の細孔分布の一部が、触媒内部の細孔分布と同等となっていることで、触媒表面近傍の拡散抵抗が小さくなるためと考えられる。また、触媒表面に前記機械装置に接触した部分が併存していることで、該表面近傍の表面緻密層によって触媒強度が向上する。これにより、使用時(反応器への充填時、気相接触反応時等)の崩壊が抑制され、気相接触反応時の圧力損失が少なくなり、反応を安定に行うことができる。
前記成形工程で前記機械装置に接触した部分と接触していない部分とが併存しているかどうかは、触媒表面を走査型電子顕微鏡等により観察することにより確認できる。たとえば触媒表面に、細孔径の比較的小さい領域と比較的大きい領域とが存在していれば、両方の部分が併存しているといえる。
本発明において触媒は、表面に平面部を有し、該平面部に、前記機械装置と接触していない部分が存在していることが好ましい。平面部の数は1つでも2以上でもよい。前記機械装置と接触した部分は平面であっても曲面であってもよい。
【0011】
図1に、本発明の触媒の一実施形態を説明する概略斜視図を示す。本実施形態の触媒1は、円柱を、その上面の中心および底面の中心を通る平面で二分割した形状を有し、その分割面に、機械装置と接触していない部分が露出している。非分割面である上面2、底面3および側面の曲面部4それぞれの表面近傍には、機械装置との接触により表面緻密層が形成されている。分割面である側面の平面部5は矩形で、外縁部5aに表面緻密層が形成されている。外縁部5aの内側5bの細孔径は、表面緻密層の細孔径よりも大きくなっている。
なお、本発明の触媒の形状はこれに限定されるものではなく、前記機械装置に接触した部分と接触していない部分とが併存していればどのような形状であってもよい。たとえば円柱を三つ以上に分割した形状であってもよい。また、分割前の形状は、円柱状に限定されず、球状、リング状、その他不定形状であってもよい。
【0012】
本発明の触媒は、粉状の触媒前駆体を調製する工程(以下、触媒前駆体調製工程)と、前記触媒前駆体を機械装置で成形する成形工程と、前記触媒成形工程で得られた成形体を分割して前記機械装置に接触していない部分を露出させる分割工程と、前記分割工程で得られた分割体を熱処理する熱処理工程と、を行うことにより製造できる。
以下、各工程についてより詳細に説明する。
【0013】
[触媒前駆体調製工程]
触媒前駆体の調製方法は特に限定されず、公知の方法が利用できる。
たとえば以下の手順で触媒前駆体を調製できる。
まず、モリブデン、リン等の触媒構成元素の原料を含む混合溶液又はスラリーを調製する。次いで、該混合溶液又はスラリーを乾燥し、必要に応じて乾燥物を粉砕することで粉体(触媒前駆体)を得る。
混合溶液又はスラリーの調製方法としては、従来からよく知られている、沈殿法、酸化物混合法等が挙げられる。具体的には、製造しようとする触媒組成に応じて、触媒構成元素を含む原料の所要量を、水等の溶媒中に適宜溶解又は懸濁させて混合溶液又はスラリーを調製する。
触媒構成元素の原料としては、通常は、酸化物、強熱することにより酸化物となる化合物、又はそれらの混合物が用いられる。強熱することにより酸化物となる化合物としては、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩、ハロゲン化物等が挙げられる。
たとえばモリブデン原料としては、パラモリブデン酸アンモニウム、三酸化モリブデン、モリブデン酸、塩化モリブデン等が挙げられる。リン原料としては、正リン酸、メタリン酸、五酸化リン、ピロリン酸、リン酸アンモニウム等が挙げられる。モリブデンとリンの原料に、リンモリブデン酸、リンモリブデン酸アンモニウム等のヘテロポリ酸化合物を用いてもよい。
溶媒としては、水、エチルアルコール、アセトン等が挙げられ、水が好ましい。
原料と溶媒との含有比(質量比)は、通常、1:0.1〜1:100が好ましく、1:0.5〜1:50がより好ましい。
混合溶液又はスラリーの乾燥方法としては、蒸発乾固法、噴霧乾燥法、ドラム乾燥法、気流乾燥法、静置乾燥法等が挙げられる。乾燥機の機種、乾燥時の温度、時間等の乾燥条件は特に限定されず、該乾燥によって混合溶液又は水性スラリーから目的に応じた固体状の乾燥物が得られるように適宜設定すればよい。乾燥物における残存溶媒の量は特に限定されない。
【0014】
[成形工程]
成形工程では、前記触媒前駆体調製工程で得た粉状の触媒前駆体を、機械装置で成形して成形体を得る。得られた成形体の表面は、成形時に機械装置と接触した部分であり、該接触により圧力がかかって圧縮されているため、内部に比べて緻密で、細孔径が、成形体の中心付近に比べて小さくなっている。
成形に際しては、本発明の効果を損なわない範囲で、触媒前駆体に対し、公知の添加剤、例えば、グラファイト、タルク等を添加してもよい。
成形に用いる機械装置としては、打錠成形機、押出成形機などの公知の成形装置を用いることができる。
成形時の圧力は、使用する機械装置、成形体の大きさ、所望の触媒強度等を考慮して適宜設定できる。
成形体の形状は、特に限定されず、例えば球状、円柱状、リング状、その他不定形状等の所望の形状を選択することができる。
【0015】
[分割工程]
分割工程では、前記触媒成形工程で得られた成形体を、前記機械装置に接触していない部分が露出するように分割して分割体を得る。得られた分割体の分割面には、成形体の内部、つまり前記触媒成形工程で用いた機械装置と接触していない部分が露出している。
分割工程では、特に、成形体を均等に分割することが好ましい。均等に分割することで、触媒性能のばらつきが小さくなる。
本発明における「分割」は、一つの方向に沿って断面を形成することを意味する。成形体を分割する回数は1回でも2回以上でもよい。
分割は、好ましくは機械装置から最も大きい圧力がかけられた方向に沿って行われる。たとえば打錠成形した成形体は打錠方向に沿って分割し、押出成形した成形体は押出方向に沿って分割する。
また、1つの成形体から得られる複数の分割体の形状が同じになるように分割することが好ましい。
成形体の分割数は、2以上であり、2〜4が好ましく、2がより好ましい。
成形体の分割方法は、機械装置と非接触な面を得られるならば特に限定されない。具体例として、鋭利な冶具を成形体に接触させ押し込む又は衝撃を与えて分割する方法、予め分割しやすいように厚みや幅の薄い部分を成形時に形成しておき、本工程で外力を加えて分割する方法等が挙げられる。触媒性能のばらつきを小さくするためには、分割工程後の触媒の大きさが同じになるように、鋭利な冶具を成形体中央に押し当て僅かにのみ切り込む方法が至適である。
冶具としては、分割数に応じたものが用いられ、たとえば2分割の場合、先端側から見たときの形状が直線状である刃を備えたものが用いられる。また、3分割の場合、先端側から見たときの形状が、3本の直線が1つの中心から3方向に、隣り合う直線同士がなす角度が同じ(360/3=120°)になるように伸びた分岐状である刃を備えたものが用いられる。4分割以上の場合も同様である。これらの刃は、先端に近づくにつれて幅狭となっていることが好ましい。このような刃を備えた冶具としては、例えばカッター等が挙げられる。
治具の材質は、得られた触媒の性能に影響を与えないものであれば特に限定されるものではなく、ステンレスなどの一般的な金属でも良いし、セラミック製でも良い。
【0016】
[熱処理工程]
熱処理工程では、前記分割工程で得た分割体を熱処理(焼成)する。これにより、本発明のメタクリル酸製造用触媒が得られる。
熱処理方法としては、公知の焼成方法および条件を適用すればよい。たとえば分割体を焼成管に充填し、加熱することにより触媒とすることができる。加熱は、触媒原料、触媒組成、調製法等によって異なるが、通常、空気等の酸素含有ガス流通下および/または不活性ガス流通下で、200〜500℃、好ましくは300〜450℃で、0.5時間以上、好ましくは1〜40時間で行う。ここで、不活性ガスとは、触媒の反応活性を低下させないような気体のことをいい、具体的には、窒素、炭酸ガス、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。焼成管としては、公知のものが利用できる。また、焼成管として、メタクリル酸製造用の反応器の反応管を用いてもよい。
【0017】
本発明のメタクリル酸の製造方法では、前述した本発明の触媒の存在下で、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化することによりメタクリル酸を得る。本発明の触媒を用いることで、上述したように、メタクリル酸選択率が向上する。
本発明のメタクリル酸の製造方法は、固体触媒として本発明の触媒を用いる以外は公知の方法と同様にして実施できる。具体的には、メタクロレインと分子状酸素とを含む原料ガスを、固体触媒に接触させることにより実施できる。
原料ガスを、固体触媒に接触させる方法としては、たとえば、反応器内に固体触媒を含有する触媒層を形成し、該触媒層に原料ガスを流通させる方法が挙げられる。
反応器としては公知のものが利用でき、たとえば二重管式熱交換器型反応器、多管式熱交換型反応器等が挙げられる。工業的には多管式熱交換型反応器が好ましく用いられる。
触媒層は、固体触媒のみからなる層であってもよく、活性調整のために固体触媒と不活性材料を混合した層であってもよい。不活性材料としては、例えばシリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリコンカーバイト等が挙げられる。
触媒層は、1層であってもよく、2層以上であってもよい。2層以上である場合の例として、固体触媒のみからなる層と、固体触媒と不活性材料を混合した層、又は性能の異なる固体触媒を混合した層との組み合わせ等が挙げられる。
【0018】
原料ガス中のメタクロレイン濃度は、1〜20容量%が好ましく、3〜10容量%がより好ましい。
原料ガス中の分子状酸素濃度は、5〜15容量%が好ましい。分子状酸素源としては、経済性の点から空気が好ましい。必要であれば、空気に純酸素を加えて分子状酸素を富化した気体等を用いてもよい。
原料ガスは、さらに、水蒸気を含むことが好ましい。これによりメタクリル酸選択率がさらに向上する。原料ガス中の水蒸気の濃度は5〜50容量%であることが好ましい。
原料ガスは、メタクロレイン及び分子状酸素源を、窒素、炭酸ガス等の不活性ガスで希釈したものであってもよい。
原料ガスは、低級飽和アルデヒド等の不純物を少量含んでいてもよい。ただしその量はできるだけ少ないことが好ましい。
気相接触酸化反応を行う際の原料ガスの流量は、固体触媒1gあたりの空間速度が0.5〜2.0NL/hrとなる流量が好ましい。
反応圧力は、大気圧〜数気圧(例えば300kPa程度まで)が好ましい。反応温度は、230〜450℃が好ましく、250〜400℃がより好ましい。反応時間(固体触媒と原料ガスとの接触時間)は、反応温度によっても異なるが、1.5〜15秒が好ましく、2〜5秒がより好ましい。反応時間は、原料ガスの流量によって調節できる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明に係る実施例および比較例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
実施例および比較例中の「部」は質量部を意味する。
触媒組成は、触媒成分の原料仕込み量から求めた。
スラリーの粘度および比重はそれぞれ以下の手順で測定した。
スラリーの粘度:スラリーの一部をサンプリングし、B型粘度計を用いて測定した。
スラリーの比重:スラリーの一部をサンプリングし、体積(m3 )と質量(kg)を測定し、質量を体積で除して算出した。
原料ガスおよび反応生成物の分析は、ガスクロマトグラフィーを用いて行った。
ガスクロマトグラフィーの結果から、メタクロレインの転化率、メタクリル酸の選択率をそれぞれ下記式(2)、(3)にて求めた。
メタクロレインの転化率(%)=(B/A)×100 …(2)
メタクリル酸の選択率(%)=(C/B)×100 …(3)
式中、Aは供給したメタクロレインのモル数、Bは反応したメタクロレインのモル数、Cは生成したメタクリル酸のモル数である。
【0020】
〔実施例1〕
図1に示した触媒1と同様の形状のメタクリル酸製造用触媒を以下の手順で製造した。
純水400部に三酸化モリブデン100部を加えてA液を得た。A液に85質量%リン酸水溶液7.3部、五酸化バナジウム4.2部、酸化銅0.9部、酸化鉄0.2部を加え、還流下(温度95℃)で5時間攪拌した。この液を50℃まで冷却した後、これに硝酸セシウム9.0部を純水30部に溶解した溶液を滴下し15分間攪拌してB液を得た。B液を50℃に維持したまま、これに29質量%アンモニア水(C液)37.4部を滴下し、15分間攪拌して水性スラリーを得た。
得られた水性スラリーを101℃まで加熱し、攪拌しながら濃縮を開始した。スラリーの粘度が0.70Pa・sとなった時点で加熱を停止し、濃縮スラリーを得た。濃縮に有した時間は2時間であった。濃縮スラリーを70℃まで冷却した後、2時間保持した。保持後の濃縮スラリーの粘度は0.40Pa・sであった。この濃縮スラリーを101℃まで加熱し、攪拌しながら再度濃縮を開始した。濃縮中は温度を101℃に保ち、スラリーの粘度が0.70Pa・s、比重が1.64×10kg/mとなった時点で加熱を停止し、濃縮スラリーを得た。濃縮に有した時間は0.5時間であった。濃縮直後のスラリーをドラムドライヤーで120℃にて乾燥して粉末状の触媒前駆体(以下、触媒成分粉末)を得た。得られた触媒成分粉末の水分含有率は1.0質量%であった。
【0021】
得られた触媒成分粉末100部に対してグラファイト3部を添加した後、打錠成形機により、直径5mm、長さ5mmの円柱状に成形し、触媒成形体を得た。このときの触媒成形体の組成(ただし酸素は省略した。)は、P1.5Mo120.6Cu0.1Fe0.2Csであった。
得られた触媒成形体を、打錠成形機と非接触な部分を表面に露出させるため、触媒成形体の円柱軸方向と平行に円柱の円平面の中心を通るようにステンレス製の歯幅18mm、刃の角度が65°のカッターを押し当て1mm切り込み、均等に二分割して分割体を得た。
得られた分割体を、空気流通下、380℃にて6時間焼成してメタクリル酸製造用触媒を得た。得られた触媒の組成(ただし酸素は省略した。)は、P1.5Mo120.6Cu0.1Fe0.2Csであった。
【0022】
得られたメタクリル酸製造用触媒を反応管に充填し、そこに、メタクロレイン5容量%、酸素10容量%、水蒸気30容量%、窒素55容量%の混合ガスを、触媒1gあたりの空間速度が2.2NL/hrとなる流量で流通させ、100kPaの下、反応温度290℃で反応を行った。該反応時の触媒と原料ガスとの接触時間は3.6秒であった。
反応開始(原料ガスの流通開始)時点の90分後から150分後までの反応生成物(反応管出口から排出されたガス)を捕集し、ガスクロマトグラフィーによる分析を行ってメタクロレインおよびメタクリル酸の含量を測定し、その測定結果および供給した原料ガス量から前記A〜Cの値を算出し、前記式(2)、(3)によりメタクロレインの転化率およびメタクリル酸の選択率を求めた。その結果、メタクロレインの転化率は32.1%、メタクリル酸の選択率は86.9%であった。
【0023】
〔比較例1〕
触媒成形体を二分割せずにそのまま焼成した以外は、実施例1と同様にしてメタクリル酸製造用触媒を製造し、メタクリル酸の製造を行った。その結果、メタクロレインの転化率は27.2%、メタクリル酸の選択率は85.4%であり、いずれも実施例1に比べて低かった。
【0024】
〔比較例2〕
打錠成形機により、直径5mm、長さ3mmの円柱状に成形して触媒成形体を得て、該触媒成形体を二分割せずにそのまま焼成した以外は、実施例1と同様にしてメタクリル酸製造用触媒を製造し、メタクリル酸の製造を行った。その結果、メタクロレインの転化率は31.6%、メタクリル酸の選択率は85.8%であった。触媒粒子径が小さくなり拡散抵抗が小さくなった結果、比較例1と比べてメタクロレインの転化率およびメタクリル酸の選択率が向上したものの、実施例1に比べて低かった。
【0025】
〔比較例3〕
触媒成形体を、乳鉢を用いて破砕し、主要標準ふるい(JIS Z 8801−1 目開き2.36mm)を通過し、主要標準ふるい(JIS Z 8801−1 目開き710μm)を通過しない大きさとし、この破砕物を焼成した以外は、実施例1と同様にしてメタクリル酸製造用触媒を製造し、メタクリル酸の製造を行った。その結果、反応が暴走したため実験を中止した。これは、成形体を破砕したことで、触媒とメタクロレインの接触面積が大きくなりすぎたためであると推測される。
【符号の説明】
【0026】
1…触媒、2…上面、3…底面、4…側面の曲面部、5…側面の平面部(分割面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられ、粉状の触媒前駆体を機械装置で成形する成形工程を含む製造方法により製造されるメタクリル酸製造用触媒であって、
表面に、前記成形工程で前記機械装置に接触した部分と接触していない部分とが併存しているメタクリル酸製造用触媒。
【請求項2】
請求項1記載のメタクリル酸製造用触媒を製造する方法であって、
粉状の触媒前駆体を調製する工程と、前記触媒前駆体を機械装置で成形する成形工程と、前記成形工程で得られた成形体を分割して前記機械装置に接触していない部分を露出させる分割工程と、前記分割工程で得られた分割体を熱処理する熱処理工程と、を含むメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載のメタクリル酸製造用触媒の存在下で、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化するメタクリル酸の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−152722(P2012−152722A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16417(P2011−16417)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】