説明

メタクリル酸製造用触媒およびその製造方法、ならびにメタクリル酸の製造方法

【課題】メタクロレインの転化率が高く、かつメタクリル酸収率の高い触媒を提供する。
【解決手段】モリブデン原料、バナジウム原料及びリン原料を含む触媒原料を水中で混合する工程、得られた溶液又はスラリーに有機物を混合して乾燥する、溶液又はスラリーを乾燥後に有機物を混合する、或いは溶液又はスラリーに有機物を混合して乾燥後、有機物を混合することで触媒成分を含有する触媒粉を製造する工程、触媒粉を水又はアルコールと共に混練りし混練り体を製造する工程、混練り体を押出成形し成形体を製造する工程、成形体を乾燥し触媒前駆体を製造する工程、触媒前駆体を熱処理する工程を含み、触媒前駆体についてDSC測定を行い、130〜200℃に発熱ピークを有さない、又は、発熱ピークを有し、かつ該発熱ピーク面積から算出される発熱量が20mJ/mg以下であるメタクリル酸製造用触媒の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に使用する触媒(以下、メタクリル酸製造用触媒という)およびその製造方法、ならびに該方法により製造した触媒を用いたメタクリル酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル酸製造用触媒としては、リンモリブデン酸に代表されるヘテロポリ酸化合物が知られている。この触媒について、製造時の触媒成形性向上のため、また、メタクリル酸の収率向上を目的として触媒内に細孔構造を形成するために、触媒に必須の成分以外の添加物を加える触媒調製法が多く提案されている。
【0003】
特許文献1では、セルロース、ポリビニルアルコール等の有機物質を1〜10質量%添加して成形し触媒とする方法が提案されている。特許文献2では、ピリジン等の有機含窒素化合物を添加し触媒とする方法が提案されている。特許文献3では、平均粒径0.01〜10μmのポリメタクリル酸メチル等の高分子有機化合物を添加して成形し、触媒とする方法が提案されている。特許文献4では、触媒成分の原料化合物を含む混合溶液又はスラリーに有機バインダーを添加した後乾燥し、得られた乾燥物と液体と有機バインダーとを混練りし、押出成形して触媒とする方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭55−73347号公報
【特許文献2】特開昭60−239439号公報
【特許文献3】特開平04−367737号公報
【特許文献4】国際公開第2009/099043号
【特許文献5】特開平10−244160号公報
【特許文献6】特開2003−1113号公報
【特許文献7】特開2008−238098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、有機化合物を添加剤として用いた場合、その後の熱処理時に有機化合物の燃焼により触媒の局所的な還元や焼結が生じ、触媒性能を損なう場合がある。
【0006】
有機化合物の燃焼による触媒の焼結を回避する方法として、有機化合物以外の添加剤を用いる方法が考えられる。特許文献5では、平均粒径が0.1〜100μmである炭酸アンモニウム等の炭酸化合物の粉体を添加して成形し触媒とする方法が提案されている。特許文献6では、硝酸アンモニウムを好ましい範囲として15〜40質量%含む触媒が提案されている。
【0007】
しかしながら、炭酸化合物の粉体を添加する方法では、粉体の粒径を好適な範囲に調整するために粉砕する工程や分級する工程が必要となり、製造工程が煩雑になる問題がある。また、硝酸アンモニウムを含有する触媒については、触媒に対する含有量が非常に多く、原料コストの問題や焼成時に多くのNOxが生じる問題がある。
【0008】
有機化合物の燃焼による触媒の焼結を回避する別の方法として、特許文献7では、焼成条件に着目し、有機物として熱分解温度が100〜400℃であるカルボン酸、アルコール、およびセルロースから選ばれた少なくとも一つを成形までの工程に添加し、得られた成形体を所定の条件で焼成することで焼成ムラの抑制された活性の高い触媒を得る方法が提案されている。しかしながら、この方法においては焼成時間が長くなるために生産性の低下が生じる問題を有している。
【0009】
本発明は、メタクロレインの転化率が高く、かつメタクリル酸収率の高い触媒を製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るメタクリル酸製造用触媒の製造方法は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる、モリブデン、バナジウム及びリンを触媒成分として含むメタクリル酸製造用触媒の製造方法であって、下記工程(I)から(VI);
(I)少なくともモリブデン原料、バナジウム原料及びリン原料を含む触媒原料を水中で混合し、溶液又はスラリーを調製する工程、
(II)前記溶液又はスラリーに有機物を混合して乾燥する、前記溶液又はスラリーを乾燥後に有機物を混合する、或いは前記溶液又はスラリーに有機物を混合して乾燥した後にさらに有機物を混合することにより、触媒成分を含有する触媒粉を製造する工程、
(III)前記触媒粉を水又はアルコールとともに混練りし、混練り体を製造する工程、
(IV)前記混練り体を押出成形し、成形体を製造する工程、
(V)前記成形体を乾燥し、触媒前駆体を製造する工程、
(VI)前記触媒前駆体を熱処理する工程、
を含み、
工程(V)で得られた前記触媒前駆体についてDSC測定を行い、空気流通下60℃/hrで昇温を行った際に、130〜200℃の温度範囲に発熱ピークを有さない、又は、前記温度範囲に発熱ピークを有し、該発熱ピークの面積から算出される発熱量が20mJ/mg以下である。
【0011】
本発明に係るメタクリル酸製造用触媒は、本発明に係るメタクリル酸製造用触媒の製造方法により製造される。
【0012】
本発明に係るメタクリル酸の製造方法は、本発明に係るメタクリル酸製造用触媒の存在下、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る方法によれば、メタクロレインの転化率が高く、かつメタクリル酸収率の高い触媒を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[メタクリル酸製造用触媒の製造方法]
本発明に係るメタクリル酸製造用触媒の製造方法は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる、モリブデン、バナジウム及びリンを触媒成分として含むメタクリル酸製造用触媒の製造方法であって、下記工程(I)から(VI);
(I)少なくともモリブデン原料、バナジウム原料及びリン原料を含む触媒原料を水中で混合し、溶液又はスラリーを調製する工程、
(II)前記溶液又はスラリーに有機物を混合して乾燥する、前記溶液又はスラリーを乾燥後に有機物を混合する、或いは前記溶液又はスラリーに有機物を混合して乾燥した後にさらに有機物を混合することにより、触媒成分を含有する触媒粉を製造する工程、
(III)前記触媒粉を水又はアルコールとともに混練りし、混練り体を製造する工程、
(IV)前記混練り体を押出成形し、成形体を製造する工程、
(V)前記成形体を乾燥し、触媒前駆体を製造する工程、
(VI)前記触媒前駆体を熱処理する工程、
を含み、
工程(V)で得られた前記触媒前駆体についてDSC測定(Differential Scaning Calorimetry、示差走査熱量測定)を行い、空気流通下60℃/hrで昇温を行った際に、130〜200℃の温度範囲に発熱ピークを有さない、又は、前記温度範囲に発熱ピークを有し、該発熱ピークの面積から算出される発熱量が20mJ/mg以下である。
【0015】
本発明に係る方法においては、工程(V)で調製される触媒前駆体についてDSC測定を行い、空気流通下、60℃/hrで昇温を行った際に、130〜200℃に発熱ピークを有さない、又は、前記温度範囲に発熱ピークを有し、該発熱ピークの面積から算出される発熱量が20mJ/mg以下である。該発熱量は10mJ/mg以下であることが好ましい。
【0016】
本発明に係る方法によれば、触媒製造時の成形性の向上と触媒に好適な細孔構造を賦与するために有機物を添加しながらも、焼成時の活性低下が抑制されることにより、メタクロレインの転化率が高く、かつメタクリル酸収率の高い触媒を安定して製造することができる。
【0017】
触媒前駆体に含まれる、製造に使用される原料に由来して、DSC測定において130℃以上で発熱挙動を示す場合がある。触媒前駆体中の130〜200℃で発熱を示す成分については特定はなされていないが、バインダー成分である有機物や硝酸根が工程(IV)に至るまでの間に反応して生じた生成物であると推定される。触媒前駆体中の硝酸根の含有量は少ない方が好ましく、触媒原料の構成元素であるモリブデンの原子比率を12とした際に4以下であることが好ましく、3.3以下であることがより好ましく、2.5以下であることがさらに好ましい。なお、硝酸根とは、硝酸又は硝酸イオンを示す。また、触媒前駆体中の硝酸根及びモリブデンの含有量は、原料仕込み量より算出した値とする。
【0018】
なお、DSC測定の測定装置としては、「DSC220」(SIIナノテクノロジー社製)を用いる。また、DSCの測定条件としては、成形体状の触媒前駆体を、乳鉢を用いて粉砕して粉状としたもの5mgをサンプルに用い、空気を100mL/minで流通下、60℃/hrで昇温する際の発熱量を測定し、単位質量あたりの発熱量を算出する。
【0019】
以下、本発明に係る方法における各工程の詳細を示す。
【0020】
(工程(I))
工程(I)では、少なくともモリブデン原料、バナジウム原料及びリン原料を含む触媒原料を水中で混合し、溶液又はスラリーを調製する。
【0021】
本発明に係る方法においては、モリブデン原料としてはモリブデン酸アンモニウムや三酸化モリブデン等が挙げられるが、よりメタクリル酸収率の高い触媒を得る観点から三酸化モリブデンを用いることが好ましい。バナジウム原料としては、特に限定されないが、例えばメタバナジン酸アンモニウム、五酸化バナジウム等を用いることができる。リン原料としては、特に限定されないが、正リン酸、メタリン酸、五酸化リン、ピロリン酸、リン酸アンモニウム等を用いることができる。前記式(A)における任意成分のX、Y、Z元素の原料としては、特に限定されないが、各構成元素の硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、酸化物、ハロゲン化物等を用いることができる。これらは単独で、又は組み合わせて使用することができる。
【0022】
(工程(II))
工程(II)では、工程(I)で得られた前記溶液又はスラリーに有機物を混合して乾燥する、前記溶液又はスラリーを乾燥後に有機物を混合する、或いは前記溶液又はスラリーに有機物を混合して乾燥した後にさらに有機物を混合することにより、触媒成分を含有する触媒粉を製造する。前記有機物は成形補助剤、細孔構造を形成する構造形成剤の役割を果たす。前記有機物は特に限定されないが、多糖類を用いることが好ましい。
【0023】
前記多糖類は特に限定されず、例えばβ−1,3グルカンやセルロース誘導体等を用いることができる。β−1,3グルカンとしては、例えば、カードラン、ラミナラン、パラミロン、カロース、パキマン、スクレログルカン等を挙げることができる。また、セルロース誘導体としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース等を挙げることができる。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。この中でも、多糖類としてヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いることが好ましい。
【0024】
溶液又はスラリーの乾燥方法は特に制限されない。例えば、スプレー乾燥機を用いて乾燥する方法、スラリードライヤーを用いて乾燥する方法、ドラムドライヤーを用いて乾燥する方法、蒸発乾固する方法等が適用できる。この中でも、適当な強度の乾燥粒子を得て、それを押出成形して反応に理想的な細孔構造を有する成形体を得る観点から、溶液又はスラリーに有機物を添加した後にスプレー乾燥を行うことが好ましい。
【0025】
なお、工程(I)で得られた溶液又はスラリーに有機物を混合して乾燥した後にさらに有機物を混合する場合、始めに混合する有機物と後に混合する有機物とは同一であっても異なっていてもよい。また、有機物は液体であってもよいが、固形分であることが好ましい。
【0026】
(工程(III))
工程(III)では、工程(II)で得られた前記乾燥粉を水又はアルコールとともに混練りし、混練り体を製造する。前記乾燥粉を水又はアルコールと混練りすることにより、後述する工程(IV)において成形性が向上し、かつメタクリル酸製造において高い活性、収率を示す触媒を製造することができる。
【0027】
前記アルコールとしては、例えばメチルアルコール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等の炭素数が1〜4の低級アルコールを用いることができる。この中でも乾燥物が崩壊せず、酸化反応に有効な細孔を形成しやすいという理由で、エチルアルコール、プロピルアルコールが好ましい。低級アルコールは高純度のものが好ましいが、少量の水を含んでいてもよい。水又は前記アルコールは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0028】
水又はアルコールの使用量としては、成形しやすい状態の混練り体を得る観点から、工程(II)で得られた乾燥粉100質量部に対して10〜90質量部であることが好ましく、20〜80質量部であることがより好ましい。
【0029】
混練りに使用する装置は特に限定されず、例えば、双腕型の攪拌羽根を使用するバッチ式の混練り機、軸回転往復式やセルフクリーニング型等の連続式の混練り機等が使用できる。しかしながら、混練り体の状態を確認しながら混練りを行うことができる観点からバッチ式が好ましい。混練りの条件についても特に限定されない。また、混練りの終点は、目視または手触りによって判断することができる。
【0030】
(工程(IV))
工程(IV)では、工程(III)で得られた前記混練り体を押出成形し、成形体を製造する。押出成形に用いる装置としては特に限定されないが、例えばオーガー式押出成形機、ピストン式押出成形機等を用いることができる。成形体の形状としては、特に限定されないが、リング状、円柱状、星型状等の任意の形状に成形することができる。
【0031】
(工程(V))
工程(V)では、工程(IV)で得られた前記成形体を乾燥し、触媒前駆体を製造する。前記成形体を乾燥することにより、工程(III)で触媒粉に添加した水又はアルコールを取り除き、成形体状の触媒前駆体とする。乾燥後に触媒前駆体中に残存する水又はアルコールの量は少ない方が好ましい。乾燥方法としては、特に限定されず、熱風乾燥、減圧乾燥等の公知の方法で行うことができる。成形体が水又はアルコールを含有している状態で過剰に熱が加えられると、触媒活性の低下が起こる可能性があるため、乾燥温度は120℃以下であることが好ましい。乾燥時間については、10時間以上であることが好ましい。
【0032】
本発明に係る方法では、工程(V)で調製される触媒前駆体についてDSC測定を行い、空気流通下、60℃/hrで昇温を行った際に、130〜200℃の温度範囲に発熱ピークを有さない、又は、該温度範囲に発熱ピークを有し、該発熱ピークの面積から算出される発熱量が20mJ/mg以下である。これにより、後述する工程(VI)における熱処理時に過度の発熱が生じず、触媒前駆体の主な構成要素であるヘテロポリ酸の分解が生じないため、高収率でメタクリル酸を製造できる触媒を得ることができる。
【0033】
(工程(VI))
工程(VI)では、工程(V)で得られた前記触媒前駆体を熱処理する。触媒前駆体を熱処理する温度としては、200〜600℃であることが触媒の主な構造であるヘテロポリ酸の分解による触媒活性の低下を抑える観点から好ましい。より好ましくは250℃〜500℃である。触媒前駆体を熱処理する時間としては特に制限されず、例えば1〜24時間行うことができる。熱処理に用いる炉としては特に限定されず、例えば電気式加熱炉やナイター式加熱炉を用いることができる。
【0034】
[メタクリル酸製造用触媒]
前記本発明の方法により製造される本発明に係るメタクリル酸製造用触媒の各元素の組成は、少なくともモリブデン、バナジウム及びリンが含まれれば特に限定されないが、下記式(A)で示される組成であることが好ましい。
【0035】
aMobcdef (A)
(式(A)中、P、Mo、Vは、それぞれリン、モリブデン、バナジウムを示す。Xはアンチモン、ビスマス、砒素、ゲルマニウム、ジルコニウム、テルル、銀、セレン、ケイ素、タングステン及びホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素を示す。Yは銅、鉄、亜鉛、クロム、マグネシウム、タンタル、コバルト、マンガン、バリウム、ガリウム、セリウム及びランタンからなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素を示す。Zはカリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素を示す。a、b、c、d、e及びfは各元素又はイオンの原子比率を示し、b=12のとき、a=0.5〜3、c=0.01〜3、d=0〜2、e=0〜3、f=0〜3である。)。
【0036】
[メタクリル酸の製造方法]
本発明に係るメタクリル酸の製造方法は、前記方法により得られたメタクリル酸製造用触媒の存在下、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する方法である。
【0037】
気相接触酸化反応は、通常固定床で行う。触媒層は特に限定されず、触媒のみの無希釈層でも、不活性担体を含んだ希釈層でもよく、単一層でも複数の層からなる混合層であってもよい。
【0038】
反応には、メタクロレインと分子状酸素とを含む原料ガスを用いることが好ましい。原料ガス中のメタクロレイン濃度は、広い範囲で変えることができるが、1容量%以上が好ましく、3容量%以上がより好ましい。また、20容量%以下が好ましく、10容量%以下がより好ましい。原料ガス中の分子状酸素濃度は、メタクロレイン1モルに対して0.4モル以上が好ましく、0.5モル以上がより好ましい。また、メタクロレイン1モルに対して4モル以下が好ましく、3モル以下がより好ましい。分子状酸素源としては空気を用いることが経済的であるが、必要ならば純酸素で富化した空気等も用いることができる。
【0039】
原料ガスは、メタクロレインと分子状酸素以外に、水(水蒸気)を含んでいることが好ましい。水蒸気の存在下で反応を行うことで、より高い収率でメタクリル酸が得られる。原料ガス中の水蒸気の濃度は、0.1容量%以上が好ましく、1容量%以上がより好ましい。また、50容量%以下が好ましく、40容量%以下がより好ましい。原料ガスは、低級アルデヒド等の不純物を少量含んでいてもよいが、その量はできるだけ少ないことが好ましい。また、窒素、炭酸ガス等の不活性ガスを含んでいてもよい。
【0040】
気相接触酸化反応の反応圧力は、常圧(大気圧)から5気圧の範囲が好ましい。反応温度は、230℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましい。また、450℃以下が好ましく、400℃以下がより好ましい。原料ガスの流量は特に限定されず、適切な接触時間になるように適宜設定することができる。接触時間は、1.5秒以上が好ましく、2秒以上がより好ましい。また、15秒以下が好ましく、10秒以下がより好ましい。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。下記の実施例及び比較例中の「部」は質量部である。
【0042】
原料ガスおよび生成物の分析は、ガスクロマトグラフィーを用いて行った。ガスクロマトグラフィーの結果から、メタクロレインの反応率、メタクリル酸の選択率、およびメタクリル酸の収率を下記式にて求めた。
メタクロレインの反応率(%)=(B/A)×100
メタクリル酸の選択率(%)=(C/B)×100
メタクリル酸の収率(%)=(C/A)×100
式中、Aは供給したメタクロレインのモル数、Bは反応したメタクロレインのモル数、Cは生成したメタクリル酸のモル数である。
【0043】
触媒組成は各元素の原料仕込み量から算出した。
【0044】
[実施例1]
(工程(I))
三酸化モリブデン100部及びメタバナジン酸アンモニウム4.7部を純水200部に加えた。次にここに、硝酸銅4.2部を純水10部に溶解した溶液を加え、2時間加熱還流しながら攪拌した。その後、得られたスラリーを50℃に降温し、重炭酸セシウム14.6部を純水30部に溶解した溶液を添加し、15分攪拌した。次に硝酸アンモニウム12.0部を純水30部に溶解した溶液を添加し、15分攪拌した。さらに、85質量%リン酸8.7部を純水10部に溶解した溶液を添加し、15分攪拌してスラリーを得た。
【0045】
(工程(II))
前記スラリー100部に対し、成形補助剤として有機物であるヒドロキシプロピルメチルセルロースを0.5部加え、スプレー乾燥機を用いてスプレー噴霧乾燥を行った。得られた乾燥粉100部に対し、有機物であるカードランを3.0部加えて混合し、乾燥粉を得た。
【0046】
(工程(III))
前記乾燥粉100部に対し、メチルアルコール60部を加えて混練りし、混練り体を製造した。
【0047】
(工程(IV))
前記混練り体を押出器で押出成形し、円柱状の成形体を得た。なお、成形性は良好であった。
【0048】
(工程(V))
前記成形体を常圧、窒素気流下、90℃で20時間乾燥を行い、メチルアルコールを除去し、触媒前駆体を製造した。
【0049】
また、130〜200℃の範囲における前記触媒前駆体の発熱量をDSCにより測定した。DSC測定には「DSC220」(SIIナノテクノロジー社製)を用いた。測定条件としては、前記触媒前駆体を、乳鉢を用いて粉砕し、粉状としたもの5.0mgをサンプルに用い、空気を100mL/minで流通下、60℃/hrで昇温することにより測定した。130〜200℃の範囲において発熱ピークは観測されなかった。なお、前記触媒前駆体中の硝酸根の含有量は、モリブデンの原子比率12とした場合、3.2であった。
【0050】
(工程(VI))
180℃に加熱した焼成管内に前記触媒前駆体を充填し、空気流通下、100℃/hで380℃まで昇温し、380℃で5時間熱処理を行い触媒とした。得られた触媒の酸素を除く触媒組成は、P1.3Mo120.7Cu0.3Cs1.3であった。以下に示す他の実施例、比較例についても、触媒組成はこれと同一である。
【0051】
(触媒の反応評価)
前記触媒を固定床反応器に充填し、温度を290℃とした。該固定床反応器に、メタクロレイン5体積%、酸素10体積%、水蒸気30体積%、窒素55体積%の混合ガスを接触時間1.6秒で通じてメタクリル酸合成反応を行った。この反応の生成物を捕集してガスクロマトグラフィーで分析したところ、メタクロレインの転化率は68.3%、メタクリル酸の選択率は90.1%、メタクリル酸の収率は61.5%であった。これらの測定結果と反応評価結果をまとめて表1に示す。
【0052】
[実施例2]
実施例1の工程(I)において、硝酸アンモニウム12.0部を純水30部に溶解した溶液を添加する代わりに、硝酸アンモニウム13.0部を純水30部に溶解した溶液を添加した。それ以外は実施例1と同様にして触媒を製造し、反応評価を行った。結果を表1に示す。なお、前記触媒前駆体中の硝酸根の含有量は、モリブデンの原子比率を12とした場合、3.4であった。また、成形体の製造において成形性は良好であった。
【0053】
[実施例3]
三酸化モリブデン100部及びメタバナジン酸アンモニウム4.7部を純水400部に加えた。次にここに、硝酸銅4.2部を純水10部に溶解した溶液を加え、さらに、85質量%リン酸8.7部を純水10部に溶解した溶液を加え、2時間加熱還流しながら攪拌した。その後、スラリーを75℃に降温し、重炭酸セシウム14.6部を純水30部に溶解した溶液を添加し、15分攪拌した。次に炭酸アンモニウム9.0部を純水30部に溶解した溶液を添加し、15分攪拌してスラリーを得た。
【0054】
これ以降は実施例1の工程(II)以降と同様にして触媒を製造し、反応評価を行った。結果を表1に示す。なお、前記触媒前駆体中の硝酸根の含有量は、モリブデンの原子比率を12とした場合、0.6であった。また、成形体の製造において成形性は良好であった。
【0055】
[比較例1]
実施例1の工程(I)において、硝酸アンモニウム12.0部を純水30部に溶解した溶液を添加し、15分攪拌する代わりに、炭酸アンモニウム4.0部を純水12部に溶解した溶液を添加し、15分攪拌し、さらに硝酸アンモニウム13.0部を純水30部に溶解した溶液を添加し、15分攪拌した。それ以外は実施例1と同様にして触媒を製造し、反応評価を行った。結果を表1に示す。なお、前記触媒前駆体中の硝酸根の含有量は、モリブデンの原子比率を12とした場合、3.4であった。また、成形体の製造において成形性は良好であった。
【0056】
[比較例2]
比較例1の工程(I)において、85質量%リン酸8.7部を純水10部に溶解した溶液を添加し、15分攪拌した後に、スラリーを95℃に加熱して15分攪拌した。それ以外は比較例1と同様にして触媒を製造し、反応評価を行った。結果を表1に示す。なお、前記触媒前駆体中の硝酸根の含有量は、モリブデンの原子比率を12とした場合、3.4であった。また、成形体の製造において成形性は良好であった。
【0057】
【表1】

【0058】
表1から分かるように、DSC測定において130〜200℃の範囲に発熱ピークを有し、該発熱ピークから算出される発熱量が20mJ/mgよりも大きな触媒前駆体を熱処理した触媒は、メタクロレイン転化率が著しく低く、メタクリル酸収率も低い。一方、DSC測定において130〜200℃の範囲に発熱ピークを有さない、又は、発熱ピークを有する場合に該発熱ピークの面積から算出される発熱量が20mJ/mg以下の触媒前駆体を熱処理した触媒は、メタクロレイン転化率が高く、高いメタクリル酸収率を示すことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる、モリブデン、バナジウム及びリンを触媒成分として含むメタクリル酸製造用触媒の製造方法であって、下記工程(I)から(VI);
(I)少なくともモリブデン原料、バナジウム原料及びリン原料を含む触媒原料を水中で混合し、溶液又はスラリーを調製する工程、
(II)前記溶液又はスラリーに有機物を混合して乾燥する、前記溶液又はスラリーを乾燥後に有機物を混合する、或いは前記溶液又はスラリーに有機物を混合して乾燥した後にさらに有機物を混合することにより、触媒成分を含有する触媒粉を製造する工程、
(III)前記触媒粉を水又はアルコールとともに混練りし、混練り体を製造する工程、
(IV)前記混練り体を押出成形し、成形体を製造する工程、
(V)前記成形体を乾燥し、触媒前駆体を製造する工程、
(VI)前記触媒前駆体を熱処理する工程、
を含み、
工程(V)で得られた前記触媒前駆体についてDSC測定を行い、空気流通下60℃/hrで昇温を行った際に、130〜200℃の温度範囲に発熱ピークを有さない、又は、前記温度範囲に発熱ピークを有し、該発熱ピークの面積から算出される発熱量が20mJ/mg以下であるメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法により製造されるメタクリル酸製造用触媒。
【請求項3】
請求項2に記載の触媒の存在下、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造するメタクリル酸の製造方法。

【公開番号】特開2013−34918(P2013−34918A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170934(P2011−170934)
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】