説明

メタクリル酸製造用触媒の再生方法およびメタクリル酸の製造方法

【課題】メタクリル酸の製造に使用された使用済触媒の触媒活性および触媒寿命を効果的に回復させることのできるメタクリル酸製造用触媒の再生方法と、この方法により得られた再生触媒を用いて、良好な転化率、選択率でメタクリル酸を製造する方法とを提供する。
【解決手段】リン及びモリブデンを含むヘテロポリ酸化合物からなるメタクリル酸製造用触媒の再生方法であって、メタクリル酸の製造に使用された使用済触媒、アンモニウム根、硝酸根及び水を含む水性スラリーを乾燥して触媒前駆体を得、該触媒前駆体を0.1容量%以上2.0容量%未満の水分を含む酸化性ガスの雰囲気下に360〜410℃で第一段焼成した後、非酸化性ガスの雰囲気下に420〜500℃で第二段焼成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクリル酸製造用触媒を再生する方法、およびこの方法により再生された触媒を用いて、メタクリル酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リンおよびモリブデンを含むヘテロポリ酸化合物からなるメタクリル酸製造用触媒は、メタクロレイン等を原料とする気相接触酸化反応に長時間使用されると、熱負荷等により触媒活性が低下し、該触媒が劣化することが知られている。
【0003】
かかる劣化触媒の再生処理方法として、例えば、特許文献1では、劣化触媒、アンモニウム根、硝酸根及び水を含む混合物を乾燥した後、2容量%の水分を含む空気の雰囲気下に390℃で第一段焼成した後、窒素の雰囲気下に435℃で第二段焼成する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−93595号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の再生方法で再生された再生触媒は、触媒寿命の点で必ずしも満足のいくものではなかった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、メタクリル酸の製造に使用された使用済触媒の触媒活性および触媒寿命を効果的に回復させることのできるメタクリル酸製造用触媒の再生方法と、この方法により得られた再生触媒を用いて、良好な転化率、選択率でメタクリル酸を製造する方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のメタクリル酸製造用触媒の再生方法は、リン及びモリブデンを含むヘテロポリ酸化合物からなるメタクリル酸製造用触媒の再生方法であって、メタクリル酸の製造に使用された使用済触媒、アンモニウム根、硝酸根及び水を含む水性スラリーを乾燥して触媒前駆体を得、該触媒前駆体を0.1容量%以上2.0容量%未満の水分を含む酸化性ガスの雰囲気下に360〜410℃で第一段焼成した後、非酸化性ガスの雰囲気下に420〜500℃で第二段焼成することを特徴とする。
【0009】
また、本発明のメタクリル酸の製造方法は、上記再生方法によりメタクリル酸製造用触媒を再生し、この再生された触媒の存在下に、メタクロレイン、イソブチルアルデヒド、イソブタン及びイソ酪酸から選ばれる化合物を気相接触酸化反応に付す、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の再生方法によれば、メタクリル酸の製造に使用された使用済触媒の触媒活性および触媒寿命を効果的に回復させることができ、また、得られた再生触媒を用いて、良好な転化率および選択率で長期間にわたりメタクリル酸を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
<メタクリル酸製造用触媒および使用済触媒>
本発明が再生の対象とするメタクリル酸製造用触媒は、リンおよびモリブデンを含むヘテロポリ酸化合物からなるものであり、遊離のヘテロポリ酸からなるものであってもよいし、ヘテロポリ酸の塩からなるものであってもよい。中でも、ヘテロポリ酸の酸性塩(部分中和塩)からなるものが好ましく、さらに好ましくはケギン型ヘテロポリ酸の酸性塩からなるものである。
上記触媒には、リンおよびモリブデン以外の元素として、カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素(以下、元素Xということがある)が含まれるのが好ましく、また、バナジウムや、銅、ヒ素、アンチモン、ホウ素、銀、ビスマス、鉄、コバルト、ランタン及びセリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素(以下、Y元素ということがある)が含まれるのが好ましい。
【0012】
前記メタクリル酸製造用触媒(対象触媒)を構成する前記ヘテロポリ酸化合物の組成は、使用前の新品触媒において、下記式(i)の通りであることが好ましい。
PaMobVcXdYeOx (i)
(式(i)中、P、Mo及びVはそれぞれリン、モリブデン、バナジウムを表し、Xはカリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素Xを示し、Yは銅、ヒ素、アンチモン、ホウ素、銀、ビスマス、鉄、コバルト、ランタン及びセリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素(元素Y)を示し、Oは酸素を表し、b=12としたとき、0<a≦3、0≦c≦3、0≦d≦3、0≦e≦3であり、xは各元素の酸化状態により定まる値である。なお、XおよびYのそれぞれが、2種以上の元素である場合には、2種以上の元素の合計比率が、b=12としたとき、0≦d≦3、0≦e≦3となればよい。)
特に、前記新品触媒を構成する前記ヘテロポリ酸化合物の組成は、モリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が0.5/12〜2/12であることが好ましい。
【0013】
新品触媒としてのメタクリル酸製造用触媒は、例えば、ヘテロポリ酸化合物を構成する上述した各元素を含む化合物(例えば、各元素のオキソ酸、オキソ酸塩、酸化物、硝酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、水酸化物、ハロゲン化物等)を混合し、所望の形状に成形した後、焼成するなど、従来公知の方法で製造されたものであればよい。
上述した各元素を含む化合物は、例えば、リンを含む化合物としては、リン酸、リン酸塩等が用いられ、モリブデンを含む化合物としては、モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウムなどのモリブデン酸塩、酸化モリブデン、塩化モリブデン等が用いられ、バナジウムを含む化合物としては、バナジン酸、バナジン酸アンモニウム(メタバナジン酸アンモニウム)などのバナジン酸塩(メタバナジン酸塩)、酸化バナジウム、塩化バナジウム等が用いられ、元素Xを含む化合物としては、酸化カリウム、酸化ルビジウム、酸化セシウムなどの酸化物;硝酸カリウム、硝酸ルビジウム、硝酸セシウム、硝酸タリウムなどの硝酸塩;炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウムなどの炭酸塩;炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウムなどの重炭酸塩;水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムなどの水酸化物;塩化カリウム、塩化ルビジウム、フッ化セシウム、塩化セシウム、臭化セシウム、ヨウ化セシウムなどのハロゲン化物等が用いられる。また、前記元素Yを含む化合物としては、オキソ酸、オキソ酸塩、酸化物、硝酸塩、炭酸塩、水酸化物、ハロゲン化物等が用いられる。
【0014】
メタクリル酸製造用触媒は、新品触媒において、メタクリル酸の製造に使用されると、熱負荷等により触媒活性が低下してしまうことがある。
本発明の製造方法では、このようにメタクリル酸の製造に使用して触媒活性の低下した使用済触媒を再生処理の対象とするものである。尚、メタクリル酸製造用触媒における活性点の分解については、該触媒についてX線回折(XRD)分析を行い、分解物である三酸化モリブデンが検出されるか否かで確認することができる。
【0015】
本発明の再生方法では、メタクリル酸の製造に使用された使用済触媒、アンモニウム根、硝酸根および水を混合し、水性スラリーを得る。アンモニウム根の原料化合物としては、例えば、アンモニアや、硝酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、酢酸アンモニウムなどのアンモニウム塩等が挙げられ、好ましくはアンモニウム、硝酸アンモニウムが挙げられる。硝酸根の原料化合物としては、例えば、硝酸や、硝酸アンモニウムなどの硝酸塩等が挙げられ、好ましくは硝酸、硝酸アンモニウムが挙げられる。
また、次に述べる飛散成分として加える化合物に、アンモニウム塩や硝酸塩を用いる場合、これらアンモニウム塩や硝酸塩もアンモニウム根、硝酸根である。
【0016】
メタクリル酸製造用触媒は、メタクリル酸の製造に使用されると、リンやモリブデン等の触媒の構成成分が一部飛散することがある。このような場合、蛍光X線分析や誘導結合プラズマ(ICP)発光分析により飛散した構成成分の種類を解析し、得られる結果から飛散量を算出し、その飛散分を、上記水性スラリーを調製する際にあわせて加えるのが好ましい。
また、飛散分として加える化合物には、上述の新品触媒の製造に用いることのできる各元素を含む化合物の中から、1種もしくは2種以上を適宜選択すればよい。
【0017】
上記水性スラリー中に元素Xが存在する場合、水性スラリーは、モリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が0.5/12〜2/12、好ましくは、1.0/12〜1.8/12となるように調整されているのが好ましい。
具体的には、原子比の調整は、元素Xを含む化合物(元素X含有化合物)とモリブデン化合物の少なくとも一方を加えることにより行なえばよい。
【0018】
元素X含有化合物とモリブデン化合物等との混合量は、再生に供する前の使用済触媒の触媒組成(構成成分の種類や量)を、蛍光X線分析やICP発光分析等により分析しておき、この使用済触媒の触媒組成に基づき、元素X含有化合物および/またはモリブデン化合物を加えた後の組成におけるモリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が前述した範囲になるように決定すればよい。
通常は、使用済触媒のモリブデン量を考慮して元素X含有化合物を加えることになるが、メタクリル酸の製造に長時間使用することによる熱負荷等によってモリブデンが飛散、消失してしまう場合には、その減少量によっては、使用済触媒の組成が前述した水性スラリーにおけるX/Mo比になっている場合もあり、そのような場合には元素X含有化合物とモリブデン化合物の両方を加えないこともありえる。
【0019】
水性スラリーの調製において混合するモリブデン化合物や元素X含有化合物としては、上述した新品触媒の製造に用いることのできるモリブデンを含む化合物や元素X含有化合物の中から、1種もしくは2種以上を適宜選択すればよい。
【0020】
また、水性スラリーを調製する際には、使用済触媒の触媒組成に基づき、必要に応じて、モリブデンや元素X以外の触媒構成元素を含む化合物を加えることもできる。モリブデンや元素X以外の触媒構成元素を含む化合物としては、上述した新品触媒の製造に用いることのできる各元素を含む化合物の中から、1種もしくは2種以上を適宜選択すればよい。
【0021】
上記水性スラリーの調製法については特に制限はなく、例えば、使用済触媒を水に懸濁させた後、アンモニウム根の原料化合物及び硝酸根の原料化合物を加えてもよいし、アンモニウム根及び硝酸根を含む水溶液に上記使用済触媒を懸濁させてもよい。
【0022】
前記水性スラリーに含まれる硝酸根とアンモニウム根との比率は、硝酸根1モルに対してアンモニウム根が1.3モル以下であることが好ましく、0.5〜1.3モルであることがより好ましい。アンモニウム根の量が前記範囲を外れると、触媒活性が充分に回復しない恐れがある。尚、アンモニウム根や硝酸根を含む化合物を飛散分として水性スラリーに加える場合、これらアンモニウム根や硝酸根も考慮して前記範囲となるようにする。
【0023】
水性スラリーの調製において使用される水としては、通常イオン交換水が用いられる。水の使用量は、上記水性スラリー中のモリブデン(使用済触媒に含まれるモリブデンと添加するモリブデン化合物に含まれるモリブデンとの合計)1重量部に対し、通常1〜20重量部である。
【0024】
水性スラリーを調製する際には、使用済触媒をそのまま混合に供してもよいし、これにあらかじめ前処理として熱処理を施してもよい。
【0025】
使用済触媒の前処理として行う前記熱処理の処理温度は、特に制限されないが、好ましくは350〜600℃である。熱処理の処理時間は、特に制限されないが、通常0.1〜24時間であり、好ましくは0.5〜10時間である。また、使用済触媒の前処理として行う前記熱処理は、酸素含有ガス等の酸化性ガスの雰囲気下で行ってもよいし、窒素等の非酸化性ガスの雰囲気下で行ってもよい。
【0026】
また、水性スラリーの調製に供する使用済触媒が成形体である場合、そのまま用いてもよいが、必要に応じて、あらかじめ従来公知の方法で破砕処理を施すこともできる。ただし、該成形体に触媒の強度を発現させるファイバー等が含まれている場合には、切断されると強度低下が懸念されるため、破砕する際には、ファイバー等が切断されないようにすることが好ましい。
水性スラリーの調製に供する使用済触媒に、破砕処理と、前処理として行う前記熱処理との両方を施す場合、両処理の順序は特に制限されないが、通常は破砕処理を行った後に熱処理が施される。
【0027】
前記水性スラリーは、乾燥に付され、触媒前駆体が得られる。かかる乾燥方法としては、この分野で通常用いられる方法、例えば、蒸発乾固法、噴霧乾燥法、ドラム乾燥法、気流乾燥法等を採用することができる。また、乾燥条件については、水性スラリー中の水分含量が充分に低減されるよう適宜設定すればよく、特に限定されないが、その温度は、通常、300℃未満である。
水性スラリーは、乾燥に付す前に、100℃以上で熱処理し、熟成することが、触媒活性の回復の点で好ましい。熱処理温度は、200℃以下であるのが好ましく、150℃以下であるのがより好ましい。かかる熱処理は、通常、密閉容器内で行うことができる。熱処理時間は、通常0.1時間以上であり、好ましくは2時間以上、より好ましくは2〜10時間である。0.1時間より短いと活性回復効果が充分には得られにくく、一方、生産性の点から10時間以下が好ましい。
また、得られた乾燥物(触媒前駆体)は、そのまま焼成してもよいが、好ましくは打錠成形や押出成形等によって、リング状、ペレット状、球状、円柱状等に成形される。この際、強度を高めるために、必要に応じてセラミックファイバーやグラスファイバーのほか、硝酸アンモニウム等の成形助剤を用いてもよい。特に、硝酸アンモニウムは、成形助剤としての機能を有するほか、気孔剤としての機能も有する。
【0028】
上記の如く成形した場合、得られた成形体を調温調湿処理、具体的には40〜100℃で0.5〜10時間、相対湿度10〜60%の雰囲気下にさらした後に、焼成を行うことが、さらに良好に触媒活性を回復させるうえで好ましい。該処理は、例えば、調温、調湿された槽内にて行ってもよいし、調温、調湿されたガスを成形体に吹き付けることで行ってもよい。また、該処理の雰囲気ガスとしては、通常、空気が用いられるが、窒素等の不活性ガスを用いてもよい。
【0029】
上記乾燥物(触媒前駆体)は、そのまま焼成するか、または成形した後、上記調温調湿処理を行い、次いで焼成することにより、再生触媒を得ることができる。焼成にあたっては、0.1容量%以上2.0容量%未満の水分を含む酸化性ガスの雰囲気下に360〜410℃で第一段焼成を行い、次いで非酸化性ガスの雰囲気下に420〜500℃で第二段焼成を行う。このような二段階の焼成を行うことにより、より良好に触媒活性を回復させることができる。
【0030】
第一段焼成における雰囲気に含まれる水分は、0.1容量%以上2.0容量%未満であり、0.3〜1.8容量%であるのが好ましく、0.6〜1.6容量%であるのがより好ましい。水分が0.1容量%未満であると、触媒の一部がMoO3に分解するなどして、再生触媒の活性が充分に回復しないおそれがあり、水分が2.0容量%以上であると再生触媒の寿命が充分に回復しないおそれがある。
【0031】
第一段焼成で用いられる酸化性ガスは、酸化性物質を含むガスであり、例えば、酸素含有ガスが挙げられる。その酸素濃度は通常1〜30容量%程度である。この酸素源としては、通常、空気や純酸素が用いられ、必要に応じて不活性ガスで希釈される。酸化性ガスとしては、中でも、空気が好ましい。
第一段焼成は、通常、上記酸化性ガスの気流下で行われる。第一段焼成の温度は360〜410℃であり、好ましくは380〜400℃である。
【0032】
第二段焼成で用いられる非酸化性ガスは、実質的に酸素の如き酸化性物質を含有しないガスであり、例えば、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスが挙げられる。また、必要に応じて水分を存在させてもよいが、その濃度は通常10容量%以下である。非酸化性ガスとしては、中でも、窒素が好ましい。第二段焼成は、通常、上記非酸化性ガスの気流下で行われる。第二段焼成の温度は420〜500℃であり、好ましくは420〜450℃である。
【0033】
なお、上記焼成の前に、触媒前駆体を、酸化性ガスまたは非酸化性ガスの雰囲気下に、180〜300℃程度の温度で保持して、熱処理(前焼成)を行うのが好ましい。
【0034】
<再生触媒>
かくして得られる再生触媒は、ヘテロポリ酸化合物からなるものであり、遊離のヘテロポリ酸からなるものであってもよいし、ヘテロポリ酸の塩からなるものであってもよい。中でも、ヘテロポリ酸の酸性塩からなるものが好ましく、さらにケギン型ヘテロポリ酸の酸性塩からなるものがより好ましい。また、上記熱処理(前焼成)の際にケギン型へテロポリ酸塩の構造が形成されるようにするのがより好適である。再生触媒は、上述の新品触媒と同様の好ましい組成(前記式(i))を有し、元素Xが含まれる場合には、再生された触媒を構成するヘテロポリ酸化合物におけるモリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)は、0.5/12〜2/12が好ましい。
【0035】
なお、本発明のメタクリル酸製造用触媒の再生方法は、メタクリル酸の製造に使用された使用済触媒を再生対象とするものであるが、例えば、新品触媒の製造過程で生じるロス粉や、所望の性能を有していない新品触媒など、メタクリル酸の製造に未使用の新品触媒を再生対象として本発明の再生方法を実施することもでき、そのような場合にも、使用済触媒を再生した場合と同様に、良好な効果が得られる。
【0036】
かかる再生触媒は、触媒活性が良好に回復したものであり、この再生触媒存在下に、メタクロレイン等の原料化合物を気相接触酸化反応させることにより、良好な転化率、選択率でメタクリル酸を製造することができる。
【0037】
<メタクリル酸の製造方法>
メタクリル酸の製造は、通常、固定床多管式反応器に触媒(本発明に係る再生触媒を含む)を充填し、これにメタクロレイン、イソブチルアルデヒド、イソブタンおよびイソ酪酸から選ばれる原料化合物と酸素を含む原料ガスを供給することにより行われるが、流動床や移動床のような反応形式を採用することもできる。酸素源としては、通常、空気が用いられ、また原料ガス中には、上記原料化合物及び酸素以外の成分として、窒素、二酸化炭素、一酸化炭素、水蒸気等が含まれうる。
【0038】
例えば、メタクロレインを原料として用いる場合、通常、原料ガス中のメタクロレイン濃度は1〜10容量%、水蒸気濃度は1〜30容量%、メタクロレインに対する酸素のモル比は1〜5、空間速度は500〜5000h-1(標準状態基準)、反応温度は250〜350℃、反応圧力は0.1〜0.3MPa、の条件下で反応が行われる。なお、原料のメタクロレインは必ずしも高純度の精製品である必要はなく、例えば、イソブチレンやt−ブチルアルコールの気相接触酸化反応により得られたメタクロレインを含む反応生成ガスを用いることもできる。
【0039】
また、イソブタンを原料として用いる場合、通常、原料ガス中のイソブタン濃度は1〜85容量%、水蒸気濃度は3〜30容量%、イソブタンに対する酸素のモル比は0.05〜4、空間速度は400〜5000h-1(標準状態基準)、反応温度は250〜400℃、反応圧力は0.1〜1MPa、の条件下で反応が行われる。イソ酪酸やイソブチルアルデヒドを原料として用いる場合には、通常、メタクロレインを原料として用いる場合と、ほぼ同様の反応条件が採用される。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
なお、各例で使用した窒素は実質的に水分を含まないものである。
【0041】
本実施例中の触媒の組成分析、触媒性能の評価は、下記のようにして行った。
<触媒の活性試験>
触媒9gを、内径16mmのガラス製マイクロリアクターに充填し、この中に、メタクロレイン、空気、スチームおよび窒素を混合して調製した原料ガス(組成:メタクロレイン4容量%、分子状酸素12容量%、水蒸気17容量%、窒素67容量%)を、空間速度670h-1で供給して、炉温(マイクロリアクターを加熱するための炉の温度)を355℃まで上げた後、該温度で1時間保持し、次いで炉温を280℃に下げた。その後、該温度で反応を1時間継続した。この反応開始から(炉温を280℃としてから)1時間経過時の出口ガス(反応後のガス)をサンプリングし、ガスクロマログラフィーにより分析して、下記式に基づき、メタクロレイン転化率(%)、メタクリル酸選択率(%)および収率(%)を求めた。
【0042】
転化率、選択率および収率は、次のとおり定義される。
転化率(%)=反応したメタクロレインのモル数÷供給したメタクロレインのモル数×100
選択率(%)=生成したメタクリル酸のモル数÷反応したメタクロレインのモル数×100
収率(%)=〔転化率(%)×選択率(%)〕÷100
【0043】
<触媒の寿命試験>
触媒4.5gを、内径16mmのガラス製マイクロリアクターに充填し、この中に、メタクロレイン、空気、スチーム及び窒素を混合して調製した原料ガス(組成:メタクロレイン4容量%、分子状酸素12容量%、水蒸気17容量%、窒素67容量%)を、空間速度1340h-1で供給して、炉温320℃にて50日以上反応を行い、この間、7〜14日おきにメタクロレイン転化率を求めた。反応時間を横軸、転化率を縦軸としてプロットし、最小二乗法により傾きを求め、転化率の低下速度(%/日)を算出した。
【0044】
<X線回折測定による三酸化モリブデンの検出>
X線回折測定装置として、(株)リガク製のMiniFlexを用い、粉末法にてX線回折測定を行い、三酸化モリブデン(MoO3)に由来するd値=3.24〜3.26の位置における回折線の有無を観察した。
【0045】
<参考例1>
(新品触媒の調製)
40℃に加熱したイオン交換水224kgに、硝酸セシウム[CsNO3]38.2kg、75重量%オルトリン酸27.4kg、および70重量%硝酸25.2kgを溶解し、これをA液とした。
一方、40℃に加熱したイオン交換水330kgに、モリブデン酸アンモニウム4水和物[(NH46Mo724・4H2O]297kgを溶解した後、メタバナジン酸アンモニウム[NH4VO3]8.19kgを懸濁させ、これをB液とした。
A液とB液を40℃に調整し、攪拌下、B液にA液を滴下した後、密閉容器中120℃で5.8時間攪拌し、次いで、三酸化アンチモン[Sb23]10.2kgおよび硝酸銅3水和物[Cu(NO32・3H2O]10.2kgを、イオン交換水23kgに懸濁させて添加した後、密封容器中、120℃で5時間攪拌した。
こうして得られた混合物をスプレードライヤーにて噴霧乾燥し、この乾燥粉末100重量部に対して、セラミックファイバー4重量部、硝酸アンモニウム13重量部、およびイオン交換水9.7重量部を加えて混練し、直径5mm、高さ6mmの円柱状に押出成形した。この成形体を、温度90℃、相対湿度30%にて3時間乾燥した後、空気気流中220℃で22時間、空気気流中250℃で1時間の順に熱処理(前焼成)し、その後、窒素気流中で435℃に昇温して、同温度で3時間保持した。更に、窒素気流中で300℃まで冷却した後、窒素を3.5容量%の水分を含む空気に切り替え、空気気流中で390℃に昇温して、同温度で3時間保持後、空気気流中で70℃まで冷却してから、新品触媒を取り出した。
この新品触媒は、リン、モリブデン、バナジウム、アンチモン、銅およびセシウムをそれぞれ1.5、12、0.50、0.5、0.3および1.4の原子比で含むケギン型ヘテロポリ酸の酸性塩からなるものであった。なお、三酸化モリブデンは検出されなかった。
この新品触媒の活性試験および寿命試験の結果を表1に示す。
【0046】
<参考例2>
(使用済触媒の調製およびその活性試験)
参考例1で得られた新品触媒を、長時間メタクロレインの接触気相酸化反応に付し、使用済触媒を得た。この使用済触媒に含まれる金属元素の原子比は、リン、モリブデン、バナジウム、アンチモン、銅及びセシウムをそれぞれ1.3、9.9、0.49、0.5、0.3および1.4であった。なお、三酸化モリブデンが検出された。
この使用済触媒について活性試験を行なった。その結果を表1に示す。
【0047】
<実施例1>
(再生触媒の調製)
イオン交換水7.32kgに参考例2で得られた使用済触媒4.20kgを加え攪拌した。参考例1で得られた新品触媒に対する使用済触媒の不足成分(飛散成分)の種類および量を蛍光X線分析により算出し、これを補うために、三酸化モリブデン[MoO3]0.65kg、75重量%オルトリン酸0.06kg、メタバナジン酸アンモニウム[NH4VO3]0.004kgを添加した。
次に、イオン交換水1.08kgに硝酸アンモニウム[NH4NO3]1.44kgを加えて調製した溶液を添加し、70℃に昇温して同温度で1時間保持した。その後、25重量%アンモニア水0.26kgを添加し、70℃にて1時間保持した後、密閉容器中120℃で5時間攪拌した。この水性スラリーA中の硝酸根1モルに対するアンモニウム根は、1.2モルであった。また水性スラリーAに含まれる金属元素の原子比は、リン、モリブデン、バナジウム、アンチモン、銅およびセシウムがそれぞれ1.5、12、0.50、0.5、0.3および1.4であり、モリブデンに対するセシウムの原子比は1.4/12であった。
該水性スラリーAをスプレードライヤーを用いて120℃にて噴霧乾燥し、得られた乾燥物に、該乾燥物100重量部に対して硝酸アンモニウム9重量部、イオン交換水8重量部を加えて混練し、直径5mm、高さ6mmの円柱状に押出成形した。この成形体を、温度90℃、相対湿度30%で3時間乾燥した後、空気気流中で220℃にて22時間、250℃にて1時間の順に熱処理(前焼成)して、ケギン型ヘテロポリ酸塩からなる前焼成された触媒前駆体を得た。
次いで、空気とスチームとの混合ガス(水の含有量は1.4容量%)の気流中で390℃に昇温して、同温度で4時間保持して第一段焼成を行なった後、空気を窒素に切り換え、窒素気流中で435℃に昇温して、同温度で4時間保持して第二段焼成を行なった。その後、窒素気流中で70℃まで冷却してから、再生触媒(1)を取り出した。
この再生触媒(1)は、リン、モリブデン、バナジウム、アンチモン、銅およびセシウムをそれぞれ1.5、12、0.50、0.5、0.3および1.4の原子比で含むケギン型ヘテロポリ酸の酸性塩からなるものであった。なお、三酸化モリブデンは検出されなかった。
この再生触媒(1)の活性試験および寿命試験の結果を表1に示す。
【0048】
<実施例2>
(再生触媒の調製)
実施例1における第一段焼成において、空気とスチームとの混合ガス(水の含有量は1.4容量%)の気流に代えて、空気とスチームとの混合ガス(水の含有量は0.5容量%)の気流中で390℃に昇温した以外は、実施例1と同様の操作を行って再生触媒(2)を得た。なお、三酸化モリブデンは検出されなかった。
この再生触媒(2)の活性試験および寿命試験の結果を表1に示す。
【0049】
<比較例1>
(再生触媒の調製)
実施例1における第一段焼成において、空気とスチームとの混合ガス(水の含有量は1.4容量%)の気流に代えて、空気とスチームとの混合ガス(水の含有量は2.8容量%)の気流中で390℃に昇温した以外は、実施例1と同様の操作を行って再生触媒(C1)を得た。なお、三酸化モリブデンは検出されなかった。
この再生触媒(C1)の活性試験および寿命試験の結果を表1に示す。
【0050】
<比較例2>
(再生触媒の調製)
実施例1における第一段焼成において、空気とスチームとの混合ガス(水の含有量は1.4容量%)の気流に代えて、空気(水の含有量は0容量%)気流中で390℃に昇温した以外は、実施例1と同様の操作を行って再生触媒(C2)を得た。なお、三酸化モリブデンが検出された。
この再生触媒(C2)の活性試験の結果を表1に示す。
【0051】
下記の表1では、第一段焼成における、空気とスチームとの混合ガスの水の含有量が少ない例から順に記載してある。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン及びモリブデンを含むヘテロポリ酸化合物からなるメタクリル酸製造用触媒の再生方法であって、
メタクリル酸の製造に使用された使用済触媒、アンモニウム根、硝酸根及び水を含む水性スラリーを乾燥して触媒前駆体を得、該触媒前駆体を0.1容量%以上2.0容量%未満の水分を含む酸化性ガスの雰囲気下に360〜410℃で第一段焼成した後、非酸化性ガスの雰囲気下に420〜500℃で第二段焼成することを特徴とするメタクリル酸製造用触媒の再生方法。
【請求項2】
ヘテロポリ酸化合物が、さらにカリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素Xを含み、水性スラリーに含まれるモリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が0.5/12〜2/12である請求項1に記載のメタクリル酸製造用触媒の再生方法。
【請求項3】
水性スラリーに含まれるアンモニウム根の含有量が、硝酸根1モルに対して1.3モル以下である請求項1または2に記載のメタクリル酸製造用触媒の再生方法。
【請求項4】
水性スラリーを100℃以上で熱処理した後に乾燥して触媒前駆体を得る請求項1〜3のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒の再生方法。
【請求項5】
触媒前駆体を40〜100℃で0.5〜10時間、相対湿度10〜60%の雰囲気下にさらした後、前記第一段焼成に付す請求項1〜4のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒の再生方法。
【請求項6】
ヘテロポリ酸化合物が、さらにバナジウムと、銅、ヒ素、アンチモン、ホウ素、銀、ビスマス、鉄、コバルト、ランタン及びセリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とを含む請求項1〜5のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒の再生方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の再生方法によりメタクリル酸製造用触媒を再生し、この再生された触媒の存在下に、メタクロレイン、イソブチルアルデヒド、イソブタン及びイソ酪酸から選ばれる化合物を気相接触酸化反応に付す、メタクリル酸の製造方法。

【公開番号】特開2012−196608(P2012−196608A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61152(P2011−61152)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】