説明

メタクリル酸製造用触媒の製造方法及びメタクリル酸の製造方法

【課題】触媒活性及び触媒寿命に優れるメタクリル酸製造用触媒の製造方法を提供する。
【解決手段】リンと、モリブデンと、バナジウムと、アンチモンと、特定の元素Xとを含み、かつモリブデンに対するバナジウムの原子比(V/Mo)とモリブデンに対するアンチモンの原子比(Sb/Mo)とモリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)とが特定の範囲であるヘテロポリ酸化合物からなるメタクリル酸製造用触媒を製造する方法であって、水性スラリーAを得る工程(1)、水性スラリーBを得る工程(2)、アンチモンを含む化合物と水性スラリーAと水性スラリーBとを混合して水性スラリーCを得る工程(3)及び水性スラリーCを、乾燥、焼成する工程(4)を含み、水性スラリーA及びBのそれぞれにおいてV/MoとX/Moが特定の範囲となるように調整し、水性スラリーCにおいて、V/Mo、Sb/Mo及びX/Moが特定の範囲となるように調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンと、モリブデンと、バナジウムと、アンチモンと、カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素Xとを含むヘテロポリ酸化合物からなるメタクリル酸製造用触媒を製造する方法と、この方法により得られた触媒を用いてメタクリル酸を製造する方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、メタクリル酸は、例えばメタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化する方法で工業的に製造されており、その際、リン及びモリブデンを含むヘテロポリ酸化合物からなる触媒が使用されている。このようにして得られるメタクリル酸の収率は、用いる触媒の性能(転化率及び選択率)に大きく左右される。そのため、ヘテロポリ酸化合物からなる触媒の性能向上を目指し、その製造方法に関し種々の検討がなされてきた。
【0003】
例えば、特許文献1には、リン、モリブデン、バナジウム、アンチモン及びセシウムを含むヘテロポリ酸系触媒を製造する方法として、リン、モリブデン、バナジウム及びセシウムを含む水性スラリーと、リン、モリブデン及びバナジウムを含みセシウムを含まない水性スラリーと、アンチモンを含む化合物とを混合し、モリブデンに対するバナジウムの原子比(V/Mo)が0.5/12、モリブデンに対するアンチモンの原子比(Sb/Mo)が0.5/12、モリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が1.4/12となるように調整した水性スラリーを、乾燥、焼成してヘテロポリ酸系触媒を製造する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−92882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した方法で得られたメタクリル酸製造用触媒は、触媒活性や触媒寿命の点で必ずしも満足のいくものではなかった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、触媒活性及び触媒寿命に優れるメタクリル酸製造用触媒の製造方法を提供することにある。さらに、本発明の目的は、この方法により得られた触媒を用いて、長期間にわたり良好な収率でメタクリル酸を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
[1]リンと、モリブデンと、バナジウムと、アンチモンと、カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素Xとを含み、モリブデンに対するバナジウムの原子比(V/Mo)が0.40/12〜1.0/12、モリブデンに対するアンチモンの原子比(Sb/Mo)が0.10/12〜0.40/12、かつモリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が0.50/12〜2.0/12であるヘテロポリ酸化合物からなるメタクリル酸製造用触媒を製造する方法であって、下記工程(1)〜(4)を含み、かつ下記水性スラリーA及び水性スラリーBのいずれか一方においてモリブデンに対するバナジウムの原子比(V/Mo)が0.70/12〜2.0/12となるように調整し、もう一方においてモリブデンに対するバナジウムの原子比(V/Mo)が0/12〜0.60/12となるように調整することを特徴とするメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
工程(1):前記ヘテロポリ酸化合物の構成元素を含む化合物のうち、少なくともモリブデンを含む化合物と元素Xを含む化合物を水と混合し、モリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が2.0/12〜4.0/12となるように調整した水性スラリーAを得る工程
工程(2):前記ヘテロポリ酸化合物の構成元素を含む化合物のうち、少なくともモリブデンを含む化合物を水と混合し、モリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が0/12〜0.50/12となるように調整した水性スラリーBを得る工程
工程(3):アンチモンを含む化合物、工程(1)で得られた水性スラリーA及び工程(2)で得られた水性スラリーBを混合し、モリブデンに対するバナジウムの原子比(V/Mo)が0.40/12〜1.0/12、モリブデンに対するアンチモンの原子比(Sb/Mo)が0.10/12〜0.40/12、モリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が0.50/12〜2.0/12となるように調整した水性スラリーCを得る工程
工程(4):工程(3)で得られた水性スラリーCを、乾燥、焼成する工程
[2]工程(1)の水性スラリーAにおいてモリブデンに対するバナジウムの原子比(V/Mo)が0.70/12〜2.0/12となるように調整し、工程(2)の水性スラリーBにおいてモリブデンに対するバナジウムの原子比(V/Mo)が0/12〜0.60/12となるように調整する前記[1]に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
[3]工程(3)で得られる水性スラリーCが密閉容器中100℃以上で熱処理されたものである前記[1]又は[2]に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
[4]工程(3)で得られる水性スラリーCが、工程(1)で得られた水性スラリーAと工程(2)で得られた水性スラリーBとを混合し、モリブデンに対するバナジウムの原子比(V/Mo)が0.40/12〜1.0/12、モリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が0.50/12〜2.0/12となるように調整したスラリーを得た後、得られたスラリーを密閉容器中100℃以上で熱処理し、次いでアンチモンを含む化合物を混合し、モリブデンに対するアンチモンの原子比(Sb/Mo)が0.10/12〜0.40/12となるように調整した水性スラリーCである前記[3]に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
[5]工程(1)で得られる水性スラリーAが密閉容器中100℃以上で熱処理されたものである前記[1]〜[4]のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
[6]工程(1)で得られる水性スラリーAが、前記ヘテロポリ酸化合物の構成元素を含む化合物のうち、少なくともモリブデンを含む化合物と元素Xを含む化合物を、水、硝酸根及びアンモニウム根と混合し、モリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が2.0/12〜4.0/12となるように調整した水性スラリーAである前記[1]〜[5]のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
[7]工程(1)で得られる水性スラリーAは、硝酸根1モルに対して1.0〜3.0モルのアンモニウム根を含む前記[6]に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
[8]前記ヘテロポリ酸化合物が、さらに、銅、ヒ素、ホウ素、銀、ビスマス、鉄、コバルト、ランタン及びセリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素Yを含む前記[1]〜[7]のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
[9]前記ヘテロポリ酸化合物におけるモリブデンに対する元素Yの原子比(Y/Mo)が0.05/12〜0.25/12であり、工程(1)において、さらに元素Yを含む化合物を混合し、水性スラリーAにおけるモリブデンに対する元素Yの原子比(Y/Mo)が0.10/12〜0.50/12となるように調整し、工程(3)において、さらに元素Yを含む化合物を混合し、水性スラリーCにおけるモリブデンに対する元素Yの原子比(Y/Mo)が0.05/12〜0.25/12となるように調整する前記[8]に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
[10]前記[1]〜[9]のいずれかに記載の製造方法によりメタクリル酸製造用触媒を製造し、該触媒の存在下に、メタクロレイン、イソブチルアルデヒド、イソブタン及びイソ酪酸からなる群より選ばれる化合物を気相接触酸化反応に付すことを特徴とするメタクリル酸の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた触媒活性及び触媒寿命を有するメタクリル酸製造用触媒を提供することができる。そして、この触媒を用いれば、長期間にわたり高い転化率で生産性良くメタクリル酸を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明のメタクリル酸製造用触媒の製造方法は、リンと、モリブデンと、バナジウムと、アンチモンと、カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素Xとを含むヘテロポリ酸化合物からなる触媒を製造するものである。ここで、前記触媒を構成するヘテロポリ酸化合物は、遊離のヘテロポリ酸であってもよいし、ヘテロポリ酸の塩であってもよい。中でも、ヘテロポリ酸の酸性塩(部分中和塩)が好ましく、さらに好ましくはケギン型ヘテロポリ酸の酸性塩がよい。また、本発明において、前記触媒を構成するヘテロポリ酸化合物は、さらに、銅、ヒ素、ホウ素、銀、ビスマス、鉄、コバルト、ランタン及びセリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素(以下「元素Y」と称することもある)を含有することが望ましく、中でも、銅を含有することが望ましい。
【0012】
本発明において得ようとする触媒を構成するヘテロポリ酸化合物は、モリブデンに対するバナジウムの原子比(V/Mo)が0.40/12〜1.0/12であり、モリブデンに対するアンチモンの原子比(Sb/Mo)が0.10/12〜0.40/12であり、かつモリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が0.50/12〜2.0/12である。前記ヘテロポリ酸化合物において、モリブデンに対するバナジウムの原子比(V/Mo)は、好ましくは0.60/12〜0.80/12であり、モリブデンに対するアンチモンの原子比(Sb/Mo)は、好ましくは0.25/12〜0.40/12である。
【0013】
本発明において得ようとする触媒を構成するヘテロポリ酸化合物の好ましい組成は、下記式(i)の通りである。
MoSb (i)
(式(i)中、P、Mo、V及びSbはそれぞれリン、モリブデン、バナジウム、アンチモンを表し、Xはカリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素Xを示し、Yは銅、ヒ素、ホウ素、銀、ビスマス、鉄、コバルト、ランタン及びセリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素(元素Y)を示し、Oは酸素を表し、b=12としたとき、0<a≦3、0.40≦c≦1.0、0.10≦d≦0.40、0.50≦e≦2.0、0≦f≦3であり、xは各元素の酸化状態により定まる値である。尚、X及びYのそれぞれが、2種以上の元素である場合には、2種以上の元素の合計比率が、b=12としたとき、0.50≦e≦2.0、0<f≦3となればよい。)
【0014】
前記ヘテロポリ酸化合物が元素Yを含有する場合、モリブデンに対する元素Yの原子比(Y/Mo)は、より好ましくは0.05/12〜0.25/12である。
【0015】
本発明のメタクリル酸製造用触媒の製造方法は、前記ヘテロポリ酸化合物の構成元素を含む化合物のうち、少なくともモリブデンを含む化合物と元素Xを含む化合物を水と混合し、モリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が2.0/12〜4.0/12となるように調整した水性スラリーAを得る工程(1)、前記ヘテロポリ酸化合物の構成元素を含む化合物のうち、少なくともモリブデンを含む化合物を水と混合し、モリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が0/12〜0.50/12となるように調整した水性スラリーBを得る工程(2)、アンチモンを含む化合物、工程(1)で得られた水性スラリーA及び工程(2)で得られた水性スラリーBを混合し、モリブデンに対するバナジウムの原子比(V/Mo)が0.40/12〜1.0/12、モリブデンに対するアンチモンの原子比(Sb/Mo)が0.10/12〜0.40/12、モリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が0.50/12〜2.0/12となるように調整した水性スラリーCを得る工程(3)、及び、工程(3)で得られた水性スラリーCを、乾燥、焼成する工程(4)を含み、かつ前記水性スラリーA及び水性スラリーBのいずれか一方においてモリブデンに対するバナジウムの原子比(V/Mo)が0.70/12〜2.0/12となるように調整し、もう一方においてモリブデンに対するバナジウムの原子比(V/Mo)が0/12〜0.60/12となるように調整する。
【0016】
工程(1)においては、前記ヘテロポリ酸化合物の原料として用いられる前記ヘテロポリ酸化合物を構成する元素を含む化合物(ヘテロポリ酸化合物の原料化合物)のうち、少なくともモリブデンを含む化合物と元素Xを含む化合物を使用し、それらを水と混合し、モリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が2.0/12〜4.0/12、好ましくは2.5/12〜3.5/12となるように調整した水性スラリーAを調製する。
【0017】
工程(2)においては、前記ヘテロポリ酸化合物の原料化合物のうち、少なくともモリブデンを含む化合物を使用し、水と混合し、モリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が0/12〜0.50/12、好ましくは0/12〜0.30/12となるように調整した水性スラリーBを調製する。
【0018】
前記ヘテロポリ酸化合物の原料化合物としては、例えば、本発明において得ようとする触媒におけるヘテロポリ酸化合物を構成する上述した各元素を含む化合物(例えば、各元素のオキソ酸、オキソ酸塩、酸化物、硝酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、水酸化物、ハロゲン化物、アンミン錯体等)が挙げられる。具体的には、リンを含む化合物としては、リン酸、リン酸塩等が用いられ、モリブデンを含む化合物としては、モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム等のモリブデン酸塩、酸化モリブデン、塩化モリブデン等が用いられ、バナジウムを含む化合物としては、バナジン酸、バナジン酸アンモニウム(メタバナジン酸アンモニウム)等のバナジン酸塩(メタバナジン酸塩)、酸化バナジウム、塩化バナジウム等が用いられ、アンチモンを含む化合物としては、三酸化アンチモン、三塩化アンチモン、三フッ化アンチモン、三酢酸アンチモン、酒石酸アンチモン、五酸化アンチモン等が用いられ、元素Xを含む化合物としては、酸化カリウム、酸化ルビジウム、酸化セシウム等の酸化物;硝酸カリウム、硝酸ルビジウム、硝酸セシウム、硝酸タリウム等の硝酸塩;炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム等の炭酸塩;炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム等の重炭酸塩;水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等の水酸化物;塩化カリウム、塩化ルビジウム、フッ化セシウム、塩化セシウム、臭化セシウム、ヨウ化セシウム等のハロゲン化物等が用いられる。また、前記元素Yを含む化合物としては、オキソ酸、オキソ酸塩、酸化物、硝酸塩、炭酸塩、水酸化物、ハロゲン化物等が用いられる。
【0019】
前記水性スラリーAの調製においては、上述したヘテロポリ酸化合物の原料化合物のうち、少なくともモリブデンを含む化合物及び元素Xを含む化合物を使用する。前記水性スラリーAの調製において、前記ヘテロポリ酸化合物の原料化合物のうち少なくともモリブデンを含む化合物と元素Xを含む化合物とを、水と混合する際に、得られる水性スラリーA中のモリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が前述した範囲になるようにモリブデンを含む化合物と元素Xを含む化合物との混合割合を調整すればよい。
【0020】
前記水性スラリーBの調製においては、上述したヘテロポリ酸化合物の原料化合物のうち、少なくともモリブデンを含む化合物を使用する。前記水性スラリーBの調製において、得られる水性スラリーB中のモリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)を0/12に設定する場合には、元素Xを含む化合物は使用する必要はない。前記水性スラリーBの調製において、得られる水性スラリーB中のモリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)を0/12を超えて0.50/12以下に設定する場合には、前記ヘテロポリ酸化合物の原料化合物として、少なくともモリブデンを含む化合物と元素Xを含む化合物を使用し、前記ヘテロポリ酸化合物の原料化合物のうち、少なくともモリブデンを含む化合物と元素Xを含む化合物とを、水と混合する際に、得られる水性スラリーB中のモリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が前述した範囲になるようにモリブデンを含む化合物と元素Xを含む化合物との混合割合を調整して水性スラリーBを調製すればよい。
【0021】
前記水性スラリーAと前記水性スラリーBのそれぞれの調製においては、前記ヘテロポリ酸化合物の原料化合物のうち、バナジウムを含む化合物をさらに混合することにより、得られる水性スラリーA及び水性スラリーBのいずれか一方においてモリブデンに対するバナジウムの原子比(V/Mo)が0.70/12〜2.0/12、好ましくは0.70/12〜1.2/12となるように調整し、もう一方においてモリブデンに対するバナジウムの原子比(V/Mo)が0/12〜0.60/12、好ましくは0.25/12〜0.60/12となるように調整する。前記水性スラリーAと前記水性スラリーBのいずれか一方においてモリブデンに対するバナジウムの原子比(V/Mo)が0.70/12〜2.0/12となるように調整し、もう一方においてモリブデンに対するバナジウムの原子比(V/Mo)が0/12〜0.60/12となるように調整するには、前記水性スラリーA及び前記水性スラリーBのいずれか一方の調製において、前記ヘテロポリ酸化合物の原料化合物として少なくとも用いられるモリブデンを含む化合物に対して、モリブデンに対するバナジウムの原子比(V/Mo)が0.70/12〜2.0/12となる量だけ、バナジウムを含む化合物を使用し、前記水性スラリーA及び前記水性スラリーBのもう一方の調製において、前記ヘテロポリ酸化合物の原料化合物として少なくとも用いられるモリブデンを含む化合物に対して、モリブデンに対するバナジウムの原子比(V/Mo)が0/12〜0.60/12となる量だけ、バナジウムを含む化合物を使用すればよい。よって、前記水性スラリーA及び水性スラリーBのいずれか一方においてモリブデンに対するバナジウムの原子比(V/Mo)を0/12に設定する場合には、バナジウムを含む化合物を混合する必要はない。本発明においては、前記水性スラリーAにおいてモリブデンに対するバナジウムの原子比(V/Mo)が0.70/12〜2.0/12となるように調整し、前記水性スラリーBにおいてモリブデンに対するバナジウムの原子比(V/Mo)が0/12〜0.60/12となるように調整するのが好ましい。
【0022】
前記水性スラリーAと前記水性スラリーBのそれぞれの調製において混合するモリブデンを含む化合物や、元素Xを含む化合物や、バナジウムを含む化合物としては、上述したヘテロポリ酸化合物の原料化合物として例示のモリブデンを含む化合物や、元素Xを含む化合物や、バナジウムを含む化合物の中から、1種もしくは2種以上を適宜選択すればよい。
【0023】
勿論、前記水性スラリーAと水性スラリーBのそれぞれを調製する際には、モリブデン、元素X及びバナジウム以外の触媒構成元素を含む化合物を加えることもできる。アンチモンを含む化合物を加える場合、その使用量は、最終的に得られる触媒を構成するヘテロポリ酸化合物におけるモリブデンに対するアンチモンの原子比(Sb/Mo)が0.10/12〜0.40/12の範囲内となるよう適宜設定すればよい。元素Yを含む化合物を加える場合、少なくとも水性スラリーAの調製時に加えることが好ましく、その使用量は、水性スラリーAにおいてモリブデンに対する元素Yの原子比(Y/Mo)が0.10/12〜0.50/12となるように調整するのが好ましい。水性スラリーBにおいては、モリブデンに対する元素Yの原子比(Y/Mo)が0/12〜0.25/12となるように調整するのが好ましい。水性スラリーBにおいてモリブデンに対する元素Yの原子比(Y/Mo)を0/12に設定する場合には、元素Yを含む化合物を混合する必要はない。モリブデン、元素X及びバナジウム以外の触媒構成元素を含む化合物としては、上述したヘテロポリ酸化合物の原料化合物として例示の各元素を含む化合物の中から、1種もしくは2種以上を適宜選択すればよい。
【0024】
前記水性スラリーAと前記水性スラリーBのそれぞれを調製する際に前記ヘテロポリ酸化合物の原料化合物と混合する水としては、通常イオン交換水が用いられる。水の混合量は、得られる水性スラリー中のモリブデン量1重量部に対し、通常1〜20重量部である。
【0025】
前記水性スラリーAと前記水性スラリーBのそれぞれを調製する際には、硝酸根及びアンモニウム根をも含有させることが、得られる触媒を用いたメタクリル酸の製造における転化率や選択率を向上させることができる点から好ましい。
【0026】
前記水性スラリーAと前記水性スラリーBのそれぞれを調製する際に硝酸根及びアンモニウム根を含有させる場合、前記水性スラリーAと前記水性スラリーBのそれぞれを調製する際に、硝酸根及びアンモニウム根を混合すればよい。前記水性スラリーAと前記水性スラリーBのそれぞれを調製する際に硝酸根を含有させる場合、硝酸根供給源として、例えば、前記へテロポリ酸化合物を構成する元素を含む硝酸塩のほか、硝酸、硝酸アンモニウム等の硝酸塩等を用いればよく、他方、アンモニウム根を含有させる場合、アンモニウム根供給源として、例えば、前記へテロポリ酸化合物を構成する元素を含むアンモニウム塩のほか、アンモニア;硝酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、酢酸アンモニウム等のアンモニウム塩等を用いればよい。好ましくは、硝酸根の供給源またはアンモニウム根の供給源として、前記へテロポリ酸化合物を構成する元素を含む硝酸塩やアンモニウム塩を用いるのがよく、さらに、硝酸根とアンモニウム根との比率を後述の範囲に調整するために、硝酸、アンモニア、硝酸アンモニウムを用いるのがよい。
【0027】
前記水性スラリーAにおける硝酸根とアンモニウム根との比率は、得られる触媒における触媒活性及び触媒寿命を効果的に向上させる点で、硝酸根1モルに対してアンモニウム根が1.0〜3.0モルであることが好ましく、1.5〜2.5モルであることがより好ましい。前記水性スラリーBにおける硝酸根とアンモニウム根との比率は、特に制限されるものではなく、適宜設定すればよい。
【0028】
前記水性スラリーAと前記水性スラリーBをそれぞれ調製する際には、上述した各成分の混合順序は特に制限されるものではなく、適宜設定すればよい。
【0029】
工程(3)においては、アンチモンを含む化合物、工程(1)で得られた水性スラリーA及び工程(2)で得られた水性スラリーBを混合し、水性スラリーCを得る。アンチモンを含む化合物と、水性スラリーAと、水性スラリーBとの混合は、得られる水性スラリーCにおいてモリブデンに対するバナジウムの原子比(V/Mo)が0.40/12〜1.0/12となり、かつ、得られる水性スラリーCにおいてモリブデンに対するアンチモンの原子比(Sb/Mo)が0.10/12〜0.40/12となり、かつ得られる水性スラリーCにおいてモリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が0.50/12〜2.0/12となるように調整する。具体的には、水性スラリーA中に含まれるモリブデン、バナジウム、アンチモン及び元素Xの量、並びに、水性スラリーB中に含まれるモリブデン、バナジウム、アンチモン及び元素Xの量を考慮して、得られる水性スラリーCにおいてモリブデンに対するバナジウムの原子比(V/Mo)が0.40/12〜1.0/12、モリブデンに対するアンチモンの原子比(Sb/Mo)が0.10/12〜0.40/12、モリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が0.50/12〜2.0/12となるように、アンチモンを含む化合物と水性スラリーAと水性スラリーBとの混合割合を調整すればよい。このようにして得られた水性スラリーCを後述する工程(4)において乾燥、焼成することにより、最終的に得られる触媒を構成するヘテロポリ酸化合物におけるV/Mo比を0.40/12〜1.0/12とし、Sb/Moを0.10/12〜0.40/12とし、かつX/Mo比を0.50/12〜2.0/12とすることができる。
【0030】
水性スラリーCにおいて、モリブデンに対するバナジウムの原子比(V/Mo)の好ましい範囲は、0.60/12〜0.80/12であり、モリブデンに対するアンチモンの原子比(Sb/Mo)の好ましい範囲は、0.25/12〜0.40/12である。
【0031】
水性スラリーCを調製する際には、必要に応じて、対象触媒の触媒構成元素を含む化合物を混合することができ、中でも、元素Yを含む化合物を混合するのが好ましい。その場合、通常、触媒構成元素を含む化合物(元素Yを含む化合物等)を水に懸濁させた状態で加えることが好ましい。元素Yを含む化合物を混合する場合、その使用量は、水性スラリーCにおいてモリブデンに対する元素Yの原子比(Y/Mo)が0.05/12〜0.25/12となるように調整するのが好ましい。
【0032】
前記水性スラリーA及び/又は前記水性スラリーBは、優れた触媒活性及び触媒寿命を有する触媒を得ることができる点で、密閉容器中100℃以上で熱処理されたものとするのが好ましい。すなわち、密閉容器中100℃以上で熱処理された水性スラリーAと水性スラリーBとの混合、水性スラリーAと密閉容器中100℃以上で熱処理された水性スラリーBとの混合、又は密閉容器中100℃以上で熱処理された水性スラリーAと密閉容器中100℃以上で熱処理された水性スラリーBとの混合により水性スラリーCを得るのが好ましい。中でも、100℃以上で熱処理された水性スラリーAと水性スラリーBとの混合により水性スラリーCを得るのが好ましい。
【0033】
水性スラリーAと水性スラリーBとを混合する際の温度、撹拌条件などは、特に制限されるものではなく、適宜設定すればよい。また、水性スラリーAと水性スラリーBとの混合順序についても適宜設定しうるが、水性スラリーAと水性スラリーBのいずれか一方が密閉容器中100℃以上で熱処理されたものである場合は、該熱処理された水性スラリーにもう一方の水性スラリーを添加することが好ましく、水性スラリーAと水性スラリーBのいずれもが密閉容器中100℃以上で熱処理されたものである場合は、該熱処理された水性スラリーAに該熱処理された水性スラリーBを添加することが好ましく、水性スラリーAと水性スラリーBのいずれもが密閉容器中100℃以上で熱処理されたものでない場合は、水性スラリーAに水性スラリーBを添加することが好ましい。
【0034】
前記熱処理における加熱温度は、100〜200℃であるのが好ましく、110〜150℃であるのがより好ましい。熱処理の方法は、特に限定されないが、例えば、水性スラリーをオートクレーブ等の反応容器に封入し、密閉状態で前記温度条件下、撹拌することにより行われる。熱処理における加熱時間は、触媒活性の点では、通常0.1時間以上、好ましくは2時間以上であり、生産性の観点からは、20時間以下であるのがよい。また、熱処理における圧力は、通常、絶対圧で0.10〜2.0MPaの範囲であり、好ましくは0.11〜0.60MPaの範囲である。この熱処理における圧力は、通常、密閉状態での前記温度条件における、水性スラリー中の水の蒸気圧等により発生する圧力であるが、窒素やヘリウム等の不活性ガスを用いて加圧し調整することもできる。尚、密閉容器中100℃以上での熱処理は、圧力調整手段、圧力検知手段、圧力制御手段等を適宜備える密閉容器中で、密閉容器内の圧力にしきい値を設定して行われるものであってもよい。具体的には、圧力調整手段として圧力調整弁やリリーフ弁等を備え、密閉容器内の圧力がしきい値を超える圧力となった場合は、圧力調整弁やリリーフ弁等の弁を開くことにより、しきい値以下の圧力となるまで密閉容器内の圧を逃がした後、圧力調整弁やリリーフ弁等の弁を閉じ、前記熱処理の間はしきい値以下の圧力が保たれるようにすることにより、密閉容器内の圧力にしきい値を設定して前記熱処理を行うことができる。
【0035】
工程(3)における水性スラリーCは、優れた触媒活性及び触媒寿命を示す触媒を得ることができる点で、前述の密閉容器中100℃以上での熱処理が施されたものとすることが好ましく、水性スラリーA、水性スラリーB及び水性スラリーCのうち、少なくとも水性スラリーCを密閉容器中100℃以上での熱処理が施されたものとすることが好ましい。工程(3)において、水性スラリーCを密閉容器中100℃以上での熱処理がされたものとするには、例えば、(i)アンチモンを含む化合物と、水性スラリーAと、水性スラリーBとの混合スラリーに密閉容器中100℃以上での熱処理を施す方法、(ii)水性スラリーAと、水性スラリーBとの混合スラリーに密閉容器中100℃以上での熱処理を施した後、アンチモンを含む化合物を混合する方法等により熱処理を施せばよい。前記(ii)の方法においては、アンチモンを含む化合物を混合した後、得られた混合スラリーに密閉容器中100℃以上での熱処理を施してもよい。
【0036】
工程(4)においては、工程(3)で得られた水性スラリーCを、乾燥、焼成する。乾燥する際の乾燥方法は、特に制限されるものではなく、例えば、蒸発乾固法、噴霧乾燥法、ドラム乾燥法、気流乾燥法など、この分野で通常用いられる方法を採用することができる。また、乾燥条件については、混合スラリー中の水分含量が充分に低減されるよう適宜設定すればよく、特に制限されないが、その温度は、通常300℃未満である。
【0037】
前記乾燥後に得られた乾燥物には、後述する前焼成もしくは焼成に付す前に、必要に応じて、所望の形状(リング状、ペレット状、球状、円柱状等)に成形する成形処理を施すことができる。成形処理は、例えば、打錠成形や押出成形など、この分野で通常用いられる方法により行えばよい。成形処理に際しては、必要に応じて、前記乾燥物に、水、成形助剤、気孔剤等を加えることができる。成形助剤としては、例えば、セラミックファイバーやグラスファイバーのほか、硝酸アンモニウム等が挙げられる。特に、硝酸アンモニウムは、成形助剤としての機能を有するほか、気孔剤としての機能も有する。
【0038】
前記成形処理で得られた成形体(以下、乾燥物という場合もある)には、引き続き、調温調湿処理を施すことが好ましい。焼成もしくは前焼成に付す前に調温調湿処理を施すことにより、均一で、より安定な再生触媒を得ることができる。調温調湿処理は、具体的には、40〜100℃、相対湿度10〜60%の雰囲気下に、成形体を0.5〜10時間程度曝すことにより行われる。該処理は、例えば、調温、調湿された槽内にて行ってもよいし、調温、調湿されたガスを成形体に吹き付けることにより行ってもよい。また、該処理を行う際の雰囲気ガスとしては、通常、空気が用いられるが、窒素等の不活性ガスを用いてもよい。
【0039】
前記乾燥後に得られた乾燥物には、後述する焼成に先立ち、前焼成として、酸化性ガス又は非酸化性ガスの雰囲気下に、180〜300℃程度の温度で保持する処理を施すことが好ましい。
【0040】
工程(4)においては、前記乾燥後に得られた乾燥物は、次いで焼成に付される。焼成は、この分野で通常用いられる方法により行うことができ、特に制限はされない。例えば、酸素等の酸化性ガスの雰囲気下で行ってもよいし、窒素等の非酸化性ガスの雰囲気下で行ってもよく、焼成温度は通常300℃以上で行われる。中でも、触媒寿命を良好に回復させる上では、酸化性ガス又は非酸化性ガスの雰囲気下で多段焼成するのが好ましく、酸化性ガスの雰囲気下で第一段焼成を行い、次いで非酸化性ガスの雰囲気下で第二段焼成を行う、二段階の焼成方法を採用するのがより好ましい。
【0041】
焼成に用いられる酸化性ガスは、酸化性物質を含むガスであり、例えば、酸素含有ガスが挙げられる。酸素含有ガスを用いる場合、その酸素濃度は、通常1〜30容量%程度とすればよく、酸素源としては、通常、空気や純酸素が用いられ、必要に応じて不活性ガスで希釈される。また、前記酸化性ガスには、必要に応じて水分を存在させてもよいが、その濃度は通常10容量%以下である。酸化性ガスとしては、中でも、空気が好ましい。酸化性ガス雰囲気下で行う焼成は、通常、このような酸化性ガスの気流下で行われる。また、酸化性ガス雰囲気下で行う焼成の温度は、通常360〜410℃であり、好ましくは380〜400℃である。
【0042】
焼成に用いられる非酸化性ガスは、実質的に酸素の如き酸化性物質を含有しないガスであり、例えば、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスが挙げられる。また、前記非酸化性ガスには、必要に応じて水分を存在させてもよいが、その濃度は通常10容量%以下である。非酸化性ガスとしては、中でも、窒素が好ましい。非酸化性ガス雰囲気下で行う焼成は、通常、このような非酸化性ガスの気流下で行われる。また、非酸化性ガス雰囲気下で行う焼成の温度は、通常420〜500℃であり、好ましくは420〜450℃である。
【0043】
かくして得られた触媒は、例えばメタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に、優れた転化率及び選択率を示す。
【0044】
本発明のメタクリル酸の製造方法は、前記した本発明の製造方法により製造されたメタクリル酸製造用触媒の存在下に、メタクロレイン、イソブチルアルデヒド、イソブタン及びイソ酪酸からなる群より選ばれる化合物(以下「メタクリル酸原料」と称することもある)を気相接触酸化反応に付すものである。このように本発明の触媒の製造方法により得られた触媒を用いることにより、優れた転化率及び選択率でメタクリル酸を製造することができる。
【0045】
メタクリル酸の製造は、通常、固定床多管式反応器にメタクリル酸製造用触媒を充填し、これに前記メタクリル酸原料と酸素とを含む原料ガスを供給することにより行われるが、これに限定されるものではなく、流動床や移動床などの反応形式を採用することもできる。酸素源としては、通常、空気や純酸素が用いられる。また、原料ガス中には、前記メタクリル酸原料及び酸素以外の成分として、窒素、二酸化炭素、一酸化炭素、水蒸気等が含まれていてもよい。
【0046】
前記原料ガスに含まれるメタクリル酸原料は、必ずしも高純度の精製品である必要はなく、例えば、メタクロレインとしては、イソブチレンやt−ブチルアルコールの気相接触酸化反応により得られたメタクロレインを含む反応生成ガスを高純度のメタクロレインに精製することなく用いることもできる。なお、前記原料ガスに含まれるメタクリル酸原料は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0047】
メタクリル酸の製造における反応条件は、原料ガスに含まれるメタクリル酸原料の種類等に応じて適宜設定すればよい。例えば、前記メタクリル酸原料としてメタクロレインを用いる場合、通常、原料ガス中のメタクロレイン濃度は1〜10容量%、水蒸気濃度は1〜30容量%、メタクロレインに対する酸素のモル比は1〜5、空間速度は500〜5000h-1(標準状態基準)、反応温度は250〜350℃、反応圧力は絶対圧で0.1〜0.3MPa、である条件下で反応が行われる。他方、前記メタクリル酸原料としてイソブタンを用いる場合、通常、原料ガス中のイソブタン濃度は1〜85容量%、水蒸気濃度は3〜30容量%、イソブタンに対する酸素のモル比は0.05〜4、空間速度は400〜5000h-1(標準状態基準)、反応温度は250〜400℃、反応圧力は絶対圧で0.1〜1MPa、である条件下で反応が行われる。また、前記メタクリル酸原料としてイソブチルアルデヒドやイソ酪酸を用いる場合には、通常、メタクロレインを原料として用いる場合とほぼ同様の反応条件が採用される。尚、空間速度は、反応器内を通過する1時間当りの原料ガス供給量(L/h)を、反応器内の触媒容量(L)で除することにより求めることができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
尚、以下で使用した空気は3.5容量%の水分を含むもの(大気相当)であり、以下で使用した窒素は実質的に水分を含まないものである。
【0049】
以下の各例において得られた触媒の性能評価は、下記のようにして行った。
【0050】
<触媒の活性試験>
触媒9gを内径16mmのガラス製マイクロリアクターに充填し、炉温(マイクロリアクターを加熱するための炉の温度)を355℃まで昇温した。次いで、メタクロレイン、空気、スチーム及び窒素を混合して調製した原料ガス(組成:メタクロレイン4容量%、分子状酸素12容量%、水蒸気17容量%、窒素67容量%)を空間速度670h−1でマイクロリアクター内に供給して1時間反応を行い、触媒を強制劣化させた。次いで、炉温を280℃にして、この劣化触媒に、上記と同じ組成の原料ガスを、上記と同じ空間速度で供給して反応を開始した。炉温280℃での反応開始から1時間経過時の出口ガス(反応後のガス)をサンプリングし、ガスクロマトグラフィーにより分析して、下記式に基づき、メタクロレイン転化率(%)、メタクリル酸選択率(%)及び収率(%)を求めた。
メタクロレイン転化率(%)=〔反応したメタクロレインのモル数÷供給したメタクロレインのモル数〕×100
メタクリル酸選択率(%)=〔生成したメタクリル酸のモル数÷反応したメタクロレインのモル数〕×100
収率(%)=〔転化率(%)×選択率(%)〕÷100
【0051】
<触媒の寿命試験>
触媒4.5gを、内径16mmのガラス製マイクロリアクターに充填し、この中に、メタクロレイン、空気、スチーム及び窒素を混合して調製した原料ガス(組成:メタクロレイン4容量%、分子状酸素12容量%、水蒸気17容量%、窒素67容量%)を空間速度1340h−1で供給して、炉温320℃にて50日以上反応を行い、この間、7〜14日おきにメタクロレイン転化率を求めた。反応時間を横軸、転化率を縦軸としてプロットし、最小二乗法により傾きを求め、転化率の低下速度(%/日)を算出した。
【0052】
実施例1
〔工程(1):水性スラリーA1の調製〕
40℃に加熱したイオン交換水81.75gに、硝酸セシウム〔CsNO〕31.86g、75重量%オルトリン酸10.01g、及び67.5重量%硝酸9.54gを溶解させ、これをα液とした。一方、40℃に加熱したイオン交換水120.43gに、モリブデン酸アンモニウム4水和物〔(NHMo24・4HO〕108.25gを溶解させた後、メタバナジン酸アンモニウム〔NHVO〕5.98gを懸濁させ、これをβ液とした。α液とβ液の温度を40℃に保持しながら、撹拌下、β液にα液を滴下した後、イオン交換水400gを添加し、その後、密閉容器中で120℃にて5時間撹拌した。次いで、硝酸銅3水和物〔Cu(NO・3HO〕3.70gを、イオン交換水8.56g中に懸濁させた状態で添加し、その後、密閉容器中で120℃にて5時間撹拌し、水性スラリーA1を得た。得られた水性スラリーA1中の硝酸根に対するアンモニウム根のモル比は2.0であり、水性スラリーA1に含まれる金属元素の原子比は、リン、モリブデン、バナジウム、銅及びセシウムがそれぞれ1.5、12、1.0、0.30及び3.2であり(アンチモンは0である)、モリブデンに対するバナジウムの原子比は1.0/12、モリブデンに対するアンチモンの原子比は0/12、モリブデンに対するセシウムの原子比は3.2/12であった。
【0053】
〔工程(2):水性スラリーB1の調製〕
40℃に加熱したイオン交換水67.79gに、75重量%オルトリン酸8.32g、67.5重量%硝酸7.93g、及び硝酸アンモニウム1.36gを溶解させ、これをa液とした。一方、40℃に加熱したイオン交換水106.53gに、モリブデン酸アンモニウム4水和物90.00gを溶解した後、メタバナジン酸アンモニウム2.48gを懸濁させ、これをb液とした。a液とb液の温度を40℃に保持しながら、撹拌下、b液にa液を滴下して、水性スラリーB1を得た。この水性スラリーB1に含まれる金属元素の原子比は、リン、モリブデン及びバナジウムがそれぞれ、1.5、12及び0.50であり(アンチモン、銅、セシウムはいずれも0である)、モリブデンに対するバナジウムの原子比は0.50/12、モリブデンに対するアンチモンの原子比は0/12、モリブデンに対するセシウムの原子比は0/12であった。
【0054】
〔工程(3):水性スラリーC1の調製〕
上記水性スラリーA1の全量を基準として65重量%の量の水性スラリーA1に、上記水性スラリーB1の全量を混合した後、これを密閉容器中で120℃にて5時間撹拌し、次いで、三酸化アンチモン[Sb]3.10g及び硝酸銅3水和物1.03gをイオン交換水2.37gに懸濁させた状態で添加し、その後、密閉容器中で120℃にて5時間撹拌し、水性スラリーC1を得た。得られた水性スラリーC1に含まれる金属元素の原子比は、リン、モリブデン、バナジウム、アンチモン、銅及びセシウムがそれぞれ1.5、12、0.72、0.28、0.19及び1.4であり、モリブデンに対するバナジウムの原子比は0.72/12、モリブデンに対するアンチモンの原子比は0.28/12、モリブデンに対するセシウムの原子比は1.4/12であった。
【0055】
〔水性スラリーC1の乾燥及び焼成〕
得られた水性スラリーC1を大気中で135℃に加熱することにより水を蒸発させて乾燥し、得られた乾燥物100重量部に対し、セラミックファイバー4重量部、硝酸アンモニウム14重量部及びイオン交換水7.7重量部を加えて混練した後、直径5mm、高さ6mmの円柱状に押出成形した。得られた成形体を、温度90℃、相対湿度30%にて3時間乾燥させた後、空気気流中にて220℃で22時間、続いて250℃で1時間保持し、次いで空気気流中にて390℃で4時間、続いて窒素気流中にて435℃で4時間、保持することで焼成し、その後成形体を取り出して、触媒(1)を得た。
【0056】
こうして得られた触媒(1)は、ヘテロポリ酸化合物からなるものであり、該ヘテロポリ酸化合物の酸素を除く金属元素の原子比は、リン、モリブデン、バナジウム、アンチモン、銅及びセシウムがそれぞれ1.5、12、0.72、0.28、0.19及び1.4であり、モリブデンに対するバナジウムの原子比は0.72/12、モリブデンに対するアンチモンの原子比は0.28/12、モリブデンに対するセシウムの原子比は1.4/12であった。この触媒(1)の活性試験及び寿命試験の結果を表1に示す。
【0057】
実施例2
〔工程(1):水性スラリーA2の調製〕
メタバナジン酸アンモニウムの使用量を4.78gとした以外は、実施例1〔工程(1):水性スラリーA1の調製〕と同様の操作を行い、水性スラリーA2を得た。得られた水性スラリーA2中の硝酸根に対するアンモニウム根のモル比は1.9であり、水性スラリーA2に含まれる金属元素の原子比は、リン、モリブデン、バナジウム、アンチモン、銅及びセシウムがそれぞれ1.5、12、0.80、0.30及び3.2であり(アンチモンは0である)、モリブデンに対するバナジウムの原子比は0.80/12、モリブデンに対するアンチモンの原子比は0/12、モリブデンに対するセシウムの原子比は3.2/12であった。
【0058】
〔工程(2):水性スラリーB1の調製〕
実施例1〔工程(2):水性スラリーB1の調製〕と同様の操作を行い、水性スラリーB1を得た。
【0059】
〔工程(3):水性スラリーC2の調製〕
上記水性スラリーA2の全量を基準として65重量%の量の水性スラリーA2に、上記水性スラリーB1の全量を混合した後、これを密閉容器中で120℃にて5時間撹拌し、次いで、三酸化アンチモン3.10g及び硝酸銅3水和物1.03gをイオン交換水2.37gに懸濁させた状態で添加し、その後、密閉容器中で120℃にて5時間撹拌し、水性スラリーC2を得た。得られた水性スラリーC2に含まれる金属元素の原子比は、リン、モリブデン、バナジウム、アンチモン、銅及びセシウムがそれぞれ1.5、12、0.63、0.28、0.19及び1.4であり、モリブデンに対するバナジウムの原子比は0.63/12、モリブデンに対するアンチモンの原子比は0.28/12、モリブデンに対するセシウムの原子比は1.4/12であった。
【0060】
〔水性スラリーC2の乾燥及び焼成〕
得られた水性スラリーC2について、実施例1〔水性スラリーC1の乾燥及び焼成〕と同様の操作を行い、触媒(2)を得た。こうして得られた触媒(2)は、ヘテロポリ酸化合物からなるものであり、該ヘテロポリ酸化合物の酸素を除く金属元素の原子比は、リン、モリブデン、バナジウム、アンチモン、銅及びセシウムがそれぞれ1.5、12、0.63、0.28、0.19及び1.4であり、モリブデンに対するバナジウムの原子比は0.63/12、モリブデンに対するアンチモンの原子比は0.28/12、モリブデンに対するセシウムの原子比は1.4/12であった。この触媒(2)の活性試験及び寿命試験の結果を表1に示す。
【0061】
実施例3
〔工程(1):水性スラリーA3の調製〕
硝酸セシウムの使用量を35.84gとし、67.5重量%硝酸の使用量を7.63gとした以外は、実施例1〔工程(1):水性スラリーA1の調製〕と同様の操作を行い、水性スラリーA3を得た。得られた水性スラリーA3中の硝酸根に対するアンモニウム根のモル比は2.0であり、水性スラリーA3に含まれる金属元素の原子比は、リン、モリブデン、バナジウム、アンチモン、銅及びセシウムがそれぞれ1.5、12、1.0、0.30及び3.6であり(アンチモンは0である)、モリブデンに対するバナジウムの原子比は1.0/12、モリブデンに対するアンチモンの原子比は0/12、モリブデンに対するセシウムの原子比は3.6/12であった。
【0062】
〔工程(2):水性スラリーB1の調製〕
実施例1〔工程(2):水性スラリーB1の調製〕と同様の操作を行い、水性スラリーB1を得た。
【0063】
〔工程(3):水性スラリーC3の調製〕
上記水性スラリーA3の全量を基準として53重量%の量の水性スラリーA3に、上記水性スラリーB1の全量を混合した後、これを密閉容器中で120℃にて5時間撹拌し、次いで、三酸化アンチモン3.10g及び硝酸銅3水和物1.03gをイオン交換水2.37gに懸濁させた状態で添加し、その後、密閉容器中で120℃にて5時間撹拌し、水性スラリーC3を得た。得られた水性スラリーC3に含まれる金属元素の原子比は、リン、モリブデン、バナジウム、アンチモン、銅及びセシウムがそれぞれ1.5、12、0.69、0.31、0.18及び1.4であり、モリブデンに対するバナジウムの原子比は0.69/12、モリブデンに対するアンチモンの原子比は0.31/12、モリブデンに対するセシウムの原子比は1.4/12であった。
【0064】
〔水性スラリーC3の乾燥及び焼成〕
得られた水性スラリーC3について、実施例1〔水性スラリーC1の乾燥及び焼成〕と同様の操作を行い、触媒(3)を得た。こうして得られた触媒(3)は、ヘテロポリ酸化合物からなるものであり、該ヘテロポリ酸化合物の酸素を除く金属元素の原子比は、リン、モリブデン、バナジウム、アンチモン、銅及びセシウムがそれぞれ1.5、12、0.69、0.31、0.18及び1.4であり、モリブデンに対するバナジウムの原子比は0.69/12、モリブデンに対するアンチモンの原子比は0.31/12、モリブデンに対するセシウムの原子比は1.4/12であった。この触媒(3)の活性試験及び寿命試験の結果を表1に示す。
【0065】
比較例1
〔工程(1):水性スラリーA4の調製〕
40℃に加熱したイオン交換水81.75gに、硝酸セシウム31.86g、75重量%オルトリン酸10.01g、及び67.5重量%硝酸9.54gを溶解させ、これをγ液とした。一方、40℃に加熱したイオン交換水120.43gに、モリブデン酸アンモニウム4水和物108.25gを溶解させた後、メタバナジン酸アンモニウム2.99gを懸濁させ、これをδ液とした。γ液とδ液の温度を40℃に保持しながら、撹拌下、δ液にγ液を滴下した後、イオン交換水400gを添加し、その後、密閉容器中で120℃にて5時間撹拌した。次いで、三酸化アンチモン3.72g及び硝酸銅3水和物3.70gを、イオン交換水8.56g中に懸濁させた状態で添加し、その後、密閉容器中で120℃にて5時間撹拌し、水性スラリーA4を得た。得られた水性スラリーA4中の硝酸根に対するアンモニウム根のモル比は1.9であり、水性スラリーA4に含まれる金属元素の原子比は、リン、モリブデン、バナジウム、アンチモン、銅及びセシウムがそれぞれ1.5、12、0.50、0.50、0.30及び3.2であり、モリブデンに対するバナジウムの原子比は0.50/12、モリブデンに対するアンチモンの原子比は0.50/12、モリブデンに対するセシウムの原子比は3.2/12であった。
【0066】
〔工程(2):水性スラリーB1の調製〕
実施例1〔工程(2):水性スラリーB1の調製〕と同様の操作を行い、水性スラリーB1を得た。
【0067】
〔工程(3):水性スラリーC4の調製〕
上記水性スラリーA4の全量を基準として65重量%の量の水性スラリーA4に、上記水性スラリーB1の全量を混合した後、これを密閉容器中で120℃にて5時間撹拌し、次いで、三酸化アンチモン3.10g及び硝酸銅3水和物1.03gをイオン交換水2.37gに懸濁させた状態で添加し、その後、密閉容器中で120℃にて5時間撹拌し、水性スラリーC4を得た。得られた水性スラリーC4に含まれる金属元素の原子比は、リン、モリブデン、バナジウム、アンチモン、銅及びセシウムがそれぞれ1.5、12、0.50、0.50、0.19及び1.4であり、モリブデンに対するバナジウムの原子比は0.50/12、モリブデンに対するアンチモンの原子比は0.50/12、モリブデンに対するセシウムの原子比は1.4/12であった。
【0068】
〔水性スラリーC4の乾燥及び焼成〕
得られた水性スラリーC4について、実施例1〔水性スラリーC1の乾燥及び焼成〕と同様の操作を行い、触媒(4)を得た。こうして得られた触媒(4)は、ヘテロポリ酸化合物からなるものであり、該ヘテロポリ酸化合物の酸素を除く金属元素の原子比は、リン、モリブデン、バナジウム、アンチモン、銅及びセシウムがそれぞれ1.5、12、0.50、0.50、0.19及び1.4であり、モリブデンに対するバナジウムの原子比は0.50/12、モリブデンに対するアンチモンの原子比は0.50/12、モリブデンに対するセシウムの原子比は1.4/12であった。この触媒(4)の活性試験及び寿命試験の結果を表1に示す。
【0069】
比較例2
〔工程(1):水性スラリーA5の調製〕
40℃に加熱したイオン交換水81.75gに、硝酸セシウム39.82g、75重量%オルトリン酸10.01g、及び67.5重量%硝酸5.72gを溶解させ、これをε液とした。一方、40℃に加熱したイオン交換水120.43gに、モリブデン酸アンモニウム4水和物108.25gを溶解させた後、メタバナジン酸アンモニウム4.78gを懸濁させ、これをζ液とした。ε液とζ液の温度を40℃に保持しながら、撹拌下、ζ液にε液を滴下した後、イオン交換水400gを添加し、その後、密閉容器中で120℃にて5時間撹拌した。次いで、三酸化アンチモン1.49g及び硝酸銅3水和物3.70gを、イオン交換水8.56g中に懸濁させた状態で添加し、その後、密閉容器中で120℃にて5時間撹拌し、水性スラリーA5を得た。得られた水性スラリーA5中の硝酸根に対するアンモニウム根のモル比は1.9であり、水性スラリーA5に含まれる金属元素の原子比は、リン、モリブデン、バナジウム、アンチモン、銅及びセシウムがそれぞれ1.5、12、0.80、0.20、0.30及び4.0であり、モリブデンに対するバナジウムの原子比は0.80/12、モリブデンに対するアンチモンの原子比は0.20/12、モリブデンに対するセシウムの原子比は4.0/12であった。
【0070】
〔工程(2):水性スラリーB1の調製〕
実施例1〔工程(2):水性スラリーB1の調製〕と同様の操作を行い、水性スラリーB1を得た。
【0071】
〔工程(3):水性スラリーC5の調製〕
上記水性スラリーA5の全量を基準として45重量%の量の水性スラリーA5に、上記水性スラリーB1の全量を混合した後、これを密閉容器中で120℃にて5時間撹拌し、次いで、三酸化アンチモン4.09g及び硝酸銅3水和物1.03gをイオン交換水2.37gに懸濁させた状態で添加し、その後、密閉容器中で120℃にて5時間撹拌し、水性スラリーC5を得た。得られた水性スラリーC5に含まれる金属元素の原子比は、リン、モリブデン、バナジウム、アンチモン、銅及びセシウムがそれぞれ1.5、12、0.61、0.50、0.17及び1.4であり、モリブデンに対するバナジウムの原子比は0.61/12、モリブデンに対するアンチモンの原子比は0.50/12、モリブデンに対するセシウムの原子比は1.4/12であった。
【0072】
〔水性スラリーC5の乾燥及び焼成〕
得られた水性スラリーC5について、実施例1〔水性スラリーC1の乾燥及び焼成〕と同様の操作を行い、触媒(5)を得た。こうして得られた触媒(5)は、ヘテロポリ酸化合物からなるものであり、該ヘテロポリ酸化合物の酸素を除く金属元素の原子比は、リン、モリブデン、バナジウム、アンチモン、銅及びセシウムがそれぞれ1.5、12、0.61、0.50、0.17及び1.4であり、モリブデンに対するバナジウムの原子比は0.61/12、モリブデンに対するアンチモンの原子比は0.50/12、モリブデンに対するセシウムの原子比は1.4/12であった。この触媒(5)の活性試験及び寿命試験の結果を表1に示す。
【0073】
比較例3
〔工程(1):水性スラリーA6の調製〕
硝酸セシウムの使用量を39.82gとし、67.5重量%硝酸の使用量を5.72gとした以外は、実施例1〔工程(1):水性スラリーA1の調製〕と同様の操作を行い、水性スラリーA6を得た。得られた水性スラリーA6中の硝酸根に対するアンモニウム根のモル比は2.0であり、水性スラリーA6に含まれる金属元素の原子比は、リン、モリブデン、バナジウム、アンチモン、銅及びセシウムがそれぞれ1.5、12、1.0、0.30及び4.0であり(アンチモンは0である)、モリブデンに対するバナジウムの原子比は1.0/12、モリブデンに対するアンチモンの原子比は0/12、モリブデンに対するセシウムの原子比は4.0/12であった。
【0074】
〔工程(2):水性スラリーB1の調製〕
実施例1〔工程(2):水性スラリーB1の調製〕と同様の操作を行い、水性スラリーB1を得た。
【0075】
〔工程(3):水性スラリーC6の調製〕
上記水性スラリーA6の全量を基準として45重量%の量の水性スラリーA6に、上記水性スラリーB1の全量を混合した後、これを密閉容器中で120℃にて5時間撹拌し、次いで、三酸化アンチモン5.57g及び硝酸銅3水和物1.03gをイオン交換水2.37gに懸濁させた状態で添加し、その後、密閉容器中で120℃にて5時間撹拌し、水性スラリーC6を得た。得られた水性スラリーC6に含まれる金属元素の原子比は、リン、モリブデン、バナジウム、アンチモン、銅及びセシウムがそれぞれ1.5、12、0.68、0.59、0.17及び1.4であり、モリブデンに対するバナジウムの原子比は0.68/12、モリブデンに対するアンチモンの原子比は0.59/12、モリブデンに対するセシウムの原子比は1.4/12であった。
【0076】
〔水性スラリーC6の乾燥及び焼成〕
得られた水性スラリーC6について、実施例1〔水性スラリーC1の乾燥及び焼成〕と同様の操作を行い、触媒(6)を得た。こうして得られた触媒(6)は、ヘテロポリ酸化合物からなるものであり、該ヘテロポリ酸化合物の酸素を除く金属元素の原子比は、リン、モリブデン、バナジウム、アンチモン、銅及びセシウムがそれぞれ1.5、12、0.68、0.59、0.17及び1.4であり、モリブデンに対するバナジウムの原子比は0.68/12、モリブデンに対するアンチモンの原子比は0.59/12、モリブデンに対するセシウムの原子比は1.4/12であった。この触媒(6)の活性試験及び寿命試験の結果を表1に示す。
【0077】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンと、モリブデンと、バナジウムと、アンチモンと、カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素Xとを含み、モリブデンに対するバナジウムの原子比(V/Mo)が0.40/12〜1.0/12、モリブデンに対するアンチモンの原子比(Sb/Mo)が0.10/12〜0.40/12、かつモリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が0.50/12〜2.0/12であるヘテロポリ酸化合物からなるメタクリル酸製造用触媒を製造する方法であって、下記工程(1)〜(4)を含み、かつ下記水性スラリーA及び水性スラリーBのいずれか一方においてモリブデンに対するバナジウムの原子比(V/Mo)が0.70/12〜2.0/12となるように調整し、もう一方においてモリブデンに対するバナジウムの原子比(V/Mo)が0/12〜0.60/12となるように調整することを特徴とするメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
工程(1):前記ヘテロポリ酸化合物の構成元素を含む化合物のうち、少なくともモリブデンを含む化合物と元素Xを含む化合物を水と混合し、モリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が2.0/12〜4.0/12となるように調整した水性スラリーAを得る工程
工程(2):前記ヘテロポリ酸化合物の構成元素を含む化合物のうち、少なくともモリブデンを含む化合物を水と混合し、モリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が0/12〜0.50/12となるように調整した水性スラリーBを得る工程
工程(3):アンチモンを含む化合物、工程(1)で得られた水性スラリーA及び工程(2)で得られた水性スラリーBを混合し、モリブデンに対するバナジウムの原子比(V/Mo)が0.40/12〜1.0/12、モリブデンに対するアンチモンの原子比(Sb/Mo)が0.10/12〜0.40/12、モリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が0.50/12〜2.0/12となるように調整した水性スラリーCを得る工程
工程(4):工程(3)で得られた水性スラリーCを、乾燥、焼成する工程
【請求項2】
工程(1)の水性スラリーAにおいてモリブデンに対するバナジウムの原子比(V/Mo)が0.70/12〜2.0/12となるように調整し、工程(2)の水性スラリーBにおいてモリブデンに対するバナジウムの原子比(V/Mo)が0/12〜0.60/12となるように調整する請求項1に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項3】
工程(3)で得られる水性スラリーCが密閉容器中100℃以上で熱処理されたものである請求項1又は2に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項4】
工程(3)で得られる水性スラリーCが、工程(1)で得られた水性スラリーAと工程(2)で得られた水性スラリーBとを混合し、モリブデンに対するバナジウムの原子比(V/Mo)が0.40/12〜1.0/12、モリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が0.50/12〜2.0/12となるように調整したスラリーを得た後、得られたスラリーを密閉容器中100℃以上で熱処理し、次いでアンチモンを含む化合物を混合し、モリブデンに対するアンチモンの原子比(Sb/Mo)が0.10/12〜0.40/12となるように調整した水性スラリーCである請求項3に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項5】
工程(1)で得られる水性スラリーAが密閉容器中100℃以上で熱処理されたものである請求項1〜4のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項6】
工程(1)で得られる水性スラリーAが、前記ヘテロポリ酸化合物の構成元素を含む化合物のうち、少なくともモリブデンを含む化合物と元素Xを含む化合物を、水、硝酸根及びアンモニウム根と混合し、モリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が2.0/12〜4.0/12となるように調整した水性スラリーAである請求項1〜5のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項7】
工程(1)で得られる水性スラリーAは、硝酸根1モルに対して1.0〜3.0モルのアンモニウム根を含む請求項6に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項8】
前記ヘテロポリ酸化合物が、さらに、銅、ヒ素、ホウ素、銀、ビスマス、鉄、コバルト、ランタン及びセリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素Yを含む請求項1〜7のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項9】
前記ヘテロポリ酸化合物におけるモリブデンに対する元素Yの原子比(Y/Mo)が0.05/12〜0.25/12であり、工程(1)において、さらに元素Yを含む化合物を混合し、水性スラリーAにおけるモリブデンに対する元素Yの原子比(Y/Mo)が0.10/12〜0.50/12となるように調整し、工程(3)において、さらに元素Yを含む化合物を混合し、水性スラリーCにおけるモリブデンに対する元素Yの原子比(Y/Mo)が0.05/12〜0.25/12となるように調整する請求項8に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法によりメタクリル酸製造用触媒を製造し、該触媒の存在下に、メタクロレイン、イソブチルアルデヒド、イソブタン及びイソ酪酸からなる群より選ばれる化合物を気相接触酸化反応に付すことを特徴とするメタクリル酸の製造方法。

【公開番号】特開2013−91016(P2013−91016A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233614(P2011−233614)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】