説明

メタクリル酸製造用触媒の製造方法

【課題】メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化して高収率でメタクリル酸を製造できるメタクリル酸製造用触媒の製造方法を提供する。
【解決手段】a)触媒成分を含む混合溶液又は水性スラリーを調製する調製工程と、b)前記混合溶液又は水性スラリーを乾燥して乾燥物粒子を得る乾燥工程と、c)前記乾燥物粒子を用いて成形して成形品を得る成形工程と、d)前記成形品を熱処理する熱処理工程とを含むメタクリル酸製造用触媒の製造法において、前記乾燥物粒子のメディアン径(d50:単位μm)の値がd50≦60の範囲であり、乾燥物粒子の累積度数分布の10%に相当する粒子径(d10:単位μm)の値をd50で除した値d10/d50が0.41≦d10/d50≦0.79の範囲内であり、乾燥物粒子の累積度数分布の90%に相当する粒子径(d90:単位μm)の値をd50で除した値d90/d50が1.21≦d90/d50≦1.89の範囲内であるメタクリル酸製造用触媒の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造するためのメタクリル酸製造用触媒(以下、単に「触媒」とも記す。)の製造方法、メタクリル酸製造用触媒、及び該触媒を用いたメタクリル酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、メタクロレインを気相接触酸化してメタクリル酸を製造する方法及びその際に用いられる触媒については数多くの提案がなされている。かかる触媒の性能を向上させるためには触媒成分を気相接触酸化反応に有効に作用させる必要があり、その方法として触媒内の細孔構造を制御する方法が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1〜3には以下の内容が開示されている。
(a)触媒として、少なくともモリブデン及びバナジウムを成分として含む不飽和カルボン酸製造用触媒の製造法において、触媒成分を含む混合溶液又は水性スラリーの乾燥物の粒子径が1〜250μmの範囲に調整された粒子を用いて押出成型、打錠成型又は湿式造粒成型する、不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法が開示されている(特許文献1)。
(b)触媒として、少なくともモリブデンおよびリンを含む混合物Aと、少なくともバナジウム、砒素、アンチモンおよびテルルからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素であるX元素およびカリウム、ルビジウムおよびセシウムからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素であるZ元素を含む混合物Bを混合する工程を含むメタクリル酸製造用触媒の製造方法において、混合物Aの乾燥粉の直径のメジアン径が5〜60μmである触媒の製造方法が開示されている(特許文献2)。
(c)触媒として、少なくともモリブデン、ビスマス及び鉄を含む触媒成分からなる混合溶液又は水性スラリーをスプレー乾燥機を用いて平均粒子径20〜250μmの中空状球状粒子に乾燥した後焼成し、得られた中空状球状粒子焼成粉に平均粒子径0.1〜10μmの同一組成の触媒焼成粉を混合し、水及び/又はアルコールを添加し湿式賦型を行った後、乾燥及び熱処理、又は熱処理する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸合成用触媒の製造法が開示されている(特許文献3)。
(d)リン、モリブデン、銅およびヒ素を触媒性分元素として含有するヘテロポリ酸系のメタクリル酸製造用触媒を製造する方法において、リンモリブデン酸および他の触媒成分元素を含有する化合物を水の存在下に混合し、得られる溶液またはスラリーを濃縮または乾燥し、濃縮物または乾燥中の水分含有量が5〜20質量%になるように調整した後、100〜300℃の温度で熱処理するメタクリル酸製造用触媒の製法が開示されている(特許文献4)。
(e)少なくともモリブデンおよびリンを含む水性スラリーから水を部分的に除去して水分含有率が3〜25質量%の乾燥物とし、この乾燥物を水に分散させて水性スラリーとし、この水性スラリーを乾燥したものを300〜500℃で焼成して製造されたメタクリル酸合成用触媒、およびこの触媒を用いることを特徴とするメタクリル酸の製造方法が開示されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−10621号公報
【特許文献2】特開2004−268027号公報
【特許文献3】特開平9−225309号公報
【特許文献4】特開昭58−112050号公報
【特許文献5】特開2003−1112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記従来の触媒は、工業触媒としてはメタクリル酸の収率がいまだ不充分であり、工業触媒として用いるためには、更なるメタクリル酸の収率向上が望まれている。本発明は、メタクリル酸を高い収率で製造できるメタクリル酸製造用触媒の製造方法、及びメタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を高い収率で製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる、モリブデン元素、リン元素、バナジウム元素、銅元素、並びに、カリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群から選択される少なくとも一種の元素であるZ元素、を含み、
a)触媒成分を含む混合溶液又は水性スラリーを調製する調製工程と、
b)前記混合溶液又は水性スラリーを乾燥して乾燥物粒子を得る乾燥工程と、
c)前記乾燥物粒子を用いて成形して成形品を得る成形工程と、
d)前記成形品を熱処理する熱処理工程
とを含むメタクリル酸製造用触媒の製造法において、
前記乾燥物粒子のメディアン径(d50:単位μm)の値がd50≦60の範囲であり、乾燥物粒子の累積度数分布の10%に相当する粒子径(d10:単位μm)の値をd50で除した値d10/d50が0.41≦d10/d50≦0.79の範囲内であり、乾燥物粒子の累積度数分布の90%に相当する粒子径(d90:単位μm)の値をd50で除した値d90/d50が1.21≦d90/d50≦1.89の範囲内であることを特徴とするメタクリル酸製造用触媒の製造方法である。
【0007】
本発明の第2は、前記乾燥工程で得られる乾燥物粒子の水分含有率が2.0〜4.5質量%である第1発明に記載の方法で製造するメタクリル酸製造用触媒の製造方法である。
【0008】
本発明の第3は、第1発明または第2発明に記載の方法で製造されたメタクリル酸製造用触媒である。
【0009】
本発明の第4は、第3発明のメタクリル酸製造用触媒を用いて、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化するメタクリル酸の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を高い収率で製造できるメタクリル酸製造用触媒の製造方法、及びそのメタクリル酸製造用触媒を用いたメタクリル酸の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<メタクリル酸製造用触媒>
本発明に係るメタクリル酸製造用触媒は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる、モリブデン元素、リン元素、バナジウム元素、銅元素、並びに、カリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群から選択される少なくとも一種の元素であるZ元素、を含む。
【0012】
前記触媒の組成としては特に限定されないが、下記式(1)で表される組成を有することが好ましい。なお、下記式(1)の触媒組成は原料の仕込み量から算出した値とする。
【0013】
MoabcCudefgh (1)
(式中、Mo、P、V、Cu及びOはそれぞれモリブデン、リン、バナジウム、銅及び酸素を示す元素記号である。Xはホウ素、ケイ素、チタン、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン、テルル及びセリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素を示し、Yはクロム、マンガン、鉄、コバルト、亜鉛、ジルコニウム、銀、ビスマス、ランタン、マグネシウム及びバリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素を示し、Zはカリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素を示す。a、b、c、d、e、f、g及びhは各元素の原子比率を表し、a=12のとき、b=0.5〜3、c= 0.01〜3、d=0.01〜2、e=0〜3、f=0〜3、g=0.01〜3であり、hは前記各元素の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比率である。)
【0014】
<メタクリル酸製造用触媒の製造方法>
本発明に係るメタクリル酸製造用触媒は、例えば以下の方法により製造することができる。なお、本発明は該方法に限定されない。
【0015】
〔調製工程〕
まず、モリブデン原料、リン原料、バナジウム原料、銅原料及びZ元素原料を含む混合溶液又は水性スラリーを調製する。
【0016】
触媒成分の原料としては、各元素の酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、水酸化物、アンモニウム塩、ハロゲン化物などを組合わせて使用することができる。
【0017】
例えば、モリブデン原料としては、パラモリブデン酸アンモニウム、三酸化モリブデン、モリブデン酸、及び塩化モリブデン等を使用することができる。リン原料としては、正リン酸、五酸化リン、リン酸アンモニウム等を使用することができる。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。バナジウム原料としては、メタバナジン酸アンモニウム、五酸化バナジウム等を使用することができる。銅原料としては、硝酸銅、酸化銅、炭酸銅、酢酸銅等を使用することができる。
【0018】
Z元素原料は、前記式(1)で表される組成を有する触媒を製造する場合においては、前記式(1)のZ元素の原料となる。Z元素はカリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群から選択される少なくとも一種の元素であるが、Z元素原料の熱安定性の観点からセシウムが好ましい。カリウム原料としては、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、硝酸カリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。ルビジウム原料としては、炭酸ルビジウム、重炭酸ルビジウム、硝酸ルビジウム、水酸化ルビジウム等が挙げられる。セシウム原料としては、炭酸セシウム、重炭酸セシウム、硝酸セシウム、水酸化セシウム、酸化セシウム等が挙げられる。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0019】
前記触媒原料を水に溶解又は分散させて、混合溶液又は水性スラリーを調製する。調製される混合溶液又は水性スラリーのpHは、4以下が好ましく、2以下がより好ましい。調製される混合溶液又は水性スラリーのpHを調整するために、硝酸もしくは硝酸化合物、アンモニア水もしくはアンモニア化合物を添加してもよい。硝酸化合物としては、硝酸アンモニウム等が挙げられる。アンモニア化合物としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウム等が挙げられる。
【0020】
〔乾燥工程〕
次に、混合溶液又は水性スラリーを乾燥して乾燥物粒子を得る。乾燥の方法は特に限定されないが、例えば、スプレードライヤー、スラリードライヤー、ドラムドライヤーを用いる方法や、蒸発乾固して塊状の乾燥物を粉砕する方法等を用いることができる。担持触媒を製造する場合には、乾燥時に担体や乾燥して担体となる成分を加えることで、担体に付着した乾燥物を製造することができる。得られた乾燥物粒子の粒子径分布は、分級によって調整することができる。分級の方法は特に限定されないが、遠心分級機、篩分級機を使用する方法が挙げられる。乾燥物粒子のメディアン径(d50:単位μm)の値は、d50≦60の範囲であり、10≦d50≦60の範囲が好ましく、10≦d50≦30がより好ましい。d50が60μm以下では高い収率でメタクリル酸を得ることができる。d50が10μm以上では乾燥物粒子間の付着性が低くなり成形工程において取扱いが容易となり、工業用触媒として好ましい。乾燥物粒子の累積度数分布の10%に相当する粒子径(d10:単位μm)の値をd50で除した値d10/d50は、0.41≦d10/d50≦0.79の範囲内であり、0.45≦d10/d50≦0.75の範囲内が好ましく、さらに乾燥物粒子の累積度数分布の90%に相当する粒子径(d90:単位μm)の値をd50で除した値d90/d50は、1.21≦d90/d50≦1.89の範囲内であり、1.23≦d90/d50≦1.70の範囲内であることが好ましい。d10/d50、d90/d50の値がこれら本願発明の規定する範囲内にあると触媒成形品内に最適な細孔構造が形成され、高い収率でメタクリル酸を得ることができる。
【0021】
上記乾燥方法によって得られた乾燥物粒子はそのまま賦形してもよいが、乾燥物粒子に含有する水分量の調整をしてもよい。水分の調整方法は特に限定されないが、調湿された湿り空気、あるいは乾燥空気を乾燥物粒子に流通させる方法等を用いることができる。乾燥物粒子の水分含有率は、2.0〜4.5質量%が好ましく、2.0〜3.5質量%がより好ましい。水分含有率がこの範囲であると、触媒賦形内に最適な細孔構造が形成されやすくなり、目的生成物を良好な収率で得ることができる。
【0022】
〔成形工程〕
得られた乾燥物粒子をそのまま熱処理してもよいが、その乾燥物粒子を成形し、得られた成形品を熱処理してもよい。また、乾燥物粒子を後述する熱処理工程で熱処理したものを成形してもよい。成形は、前記乾燥物粒子をバインダーや添加剤等と混合した後に行ってもよい。乾燥物粒子又は熱処理した乾燥物粒子の成形に用いる装置としては、打錠成形機、押出成形機、転動造粒機等の公知の粉体用成形機が挙げられる。成形品の形状としては特に制限はなく、球状、リング状、円柱状、星型状等の任意の形状が挙げられる。成形品の大きさとしては、通常、成形品径が10mm以下であることが好ましい。成形品径が10mmを超えると、活性が低下する場合がある。また、成形品径が過度に小さくなると、反応管内の圧力損失が大きくなるため、通常、成形品径は0.1mm以上であることが好ましい。
【0023】
〔熱処理工程〕
次に、前記乾燥物粒子又は乾燥物粒子の成形品を熱処理することで、触媒を製造することができる。熱処理条件としては、特に限定はなく、公知の熱処理条件を適用できる。熱処理は、空気等の酸素含有ガス流通下及び/又は不活性ガス流通下で行うことが好ましい。熱処理温度は200〜500℃が好ましく、300〜450℃がより好ましい。また、熱処理時間は0.5時間以上が好ましく、1〜40時間がより好ましい。
【0024】
以上の方法により製造した本発明に係るメタクリル酸製造用触媒は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を高収率で製造できる。
【0025】
<メタクリル酸の製造方法>
本発明に係るメタクリル酸の製造方法は、前記本発明に係るメタクリル酸製造用触媒を用いて、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造することを特徴とする。
【0026】
具体的には、メタクロレイン及び分子状酸素を含む原料ガスと、本発明に係る触媒とを接触させることで、メタクリル酸を製造する。この反応は、通常、固定床反応器で行う。本発明に係る方法に用いる固定床反応器の形式は、特に限定されないが、例えば、多管式熱交換型、単管式熱交換型、自己熱交換型、多段断熱型、断熱型等が挙げられる。工業的には固定床多管式熱交換型反応器が好ましく使用される。
【0027】
触媒層は1層でもよく、2層以上でもよい。本発明に係る触媒は、充填補助材と混合して使用してもよい。充填補助材の材料は特に限定されず、例えば、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリコンカーバイト、チタニア、マグネシア、セラミックボールやステンレス鋼等が挙げられる。また、充填補助材の形状は特に限定されず、例えば、ボール状、ラシヒリング状、バネ状、サドル状、インタロックス状、ポールリング状、レッシングリング状やテラレッテパッキング状等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
原料ガス中のメタクロレインの濃度は広い範囲で変えることができ、1〜20容量%が好ましく、3〜10容量%がより好ましい。メタクロレインには、水、低級飽和アルデヒド等の不純物を少量含んでいることがあり、このようなメタクロレインを気化して原料ガスの原料とするとこれらの不純物が原料ガスに含まれることがあるが、本反応に実質的な影響はない。原料ガス中の分子状酸素の濃度は、メタクロレイン1モルに対して0.4〜4モルが好ましく、0.5〜3モルがより好ましい。なお、分子状酸素源としては、経済性の点から、空気が好ましい。必要であれば、空気に純酸素を加えて分子状酸素を富化した気体等を用いてもよい。
【0029】
原料ガスは、メタクロレイン及び分子状酸素源を、窒素、炭酸ガス等の不活性ガスで希釈したものであってもよい。さらに、原料ガスに、水蒸気を加えてもよい。水蒸気の存在下で反応を行うことにより、メタクリル酸をより高収率で得ることができる。原料ガス中の水蒸気の濃度は、0.1〜50容量%が好ましく、1〜40容量%が特に好ましい。
【0030】
原料ガスとメタクリル酸製造用触媒との接触時間は、1.5〜15秒が好ましく、2〜5秒がより好ましい。反応圧力は、大気圧〜数気圧(例えば1MPa−G)が好ましい。反応温度は200〜450℃が好ましく、250〜400℃がより好ましい。
【実施例】
【0031】
以下、実施例及び比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例中の「部」は質量部を意味する。乾燥物粒子の水分含有率はケット水分計(島津製作所社製)を用いて測定した。原料ガス及び生成物の分析は、ガスクロマトグラフィーを用いて行った。ガスクロマトグラフィーの結果から、メタクロレインの反応率、メタクリル酸の選択率、及びメタクリル酸の単流収率を下記式にて求めた。
【0032】
メタクロレインの反応率(%)=(B/A)×100
メタクリル酸の選択率(%) =(C/B)×100
メタクリル酸の単流収率(%)=(C/A)×100
式中、Aは供給したメタクロレインのモル数、Bは反応したメタクロレインのモル数、Cは生成したメタクリル酸のモル数である。
【0033】
[実施例1]
(調製工程)
パラモリブデン酸アンモニウム100部を純水200部に溶解し、そこへメタバナジン酸アンモニウム6.1部、85質量%リン酸9.3部を純水30部に溶解した溶液、硝酸銅(II)3水和物4.8部を純水50部に溶解した溶液を順次添加し、これを攪拌しながら103℃まで加熱し、液温を103℃に保ちつつ5時間加熱攪拌した。次いで、液温を50℃まで冷却後、硝酸セシウム12.9部を純水200部に溶解した溶液をこれに添加し、さらに20分間攪拌した。
【0034】
(乾燥工程)
以上のようにして得られた触媒成分の原料化合物を含有する混合スラリーを、並流式スプレー乾燥機を用い、乾燥機入口温度330℃、スラリー噴霧用回転円板回転数24,000rpmの条件で乾燥した。得られた乾燥物粒子を遠心分級機を使用して、風量調整により、d50、d10/d50、d90/d50の値がそれぞれ12μm、0.46、1.23となる乾燥物粒子を得た。
【0035】
乾燥物粒子の粒子径分布の測定は、乾燥物粒子の走査型電子顕微鏡により得られた顕微鏡写真の画像解析により行ない、乾燥物粒子5,000粒の粒子径を測定することで粒子径分布を得た(以下同様)。この乾燥物粒子の水分含有率を測定したところ、2.1質量%であった。
【0036】
(成形工程)
得られた乾燥物粒子100部に対して、ヒドロキシプロピルメチルセルロース3部を加え、乾式混合した。ここにエチルアルコール50部を添加混合し、混練り機で粘土状になるまで混合(混練り)した後、ピストン式押出成形機を用いて成形し、外径5mm、平均長さ5mmの円柱状の成形品を得た。
【0037】
(熱処理工程)
得られた成形品を空気流通下に380℃で10時間熱処理した。得られた触媒の元素組成(酸素は省略、以下同様)は、次の通りであった。なお、触媒の元素組成は原料の仕込み量から算出した値である。
Mo121.71.1Cu0.25Cs1.4
【0038】
(メタクリル酸の製造)
この触媒を反応管に充填し、メタクロレイン5容量%、酸素10容量%、水蒸気30容量%、窒素55容量%の原料ガスを反応温度290℃、接触時間3.1秒で通じた。生成物を捕集し、ガスクロマトグラフィーで分析してメタクロレイン転化率、メタクリル酸選択率及びメタクリル酸の単流収率を求めた。反応結果を乾燥工程で得られた乾燥物粒子のd50、d10/d50、d90/d50の値と共に表1に示す。
【0039】
[実施例2]
実施例1の乾燥工程において、スラリー噴霧用回転円板回転数を18,000rpmの条件で乾燥し、遠心分級機を使った分級によりd50、d10/d50、d90/d50の値をそれぞれ28μm、0.61、1.50に調整した以外は実施例1と同様にして触媒を製造した。
【0040】
[実施例3]
実施例1の乾燥工程において、スラリー噴霧用回転円板回転数を15,000rpmの条件で乾燥し、遠心分級機を使った分級によりd50、d10/d50、d90/d50の値をそれぞれ34μm、0.65、1.35に調整した以外は実施例1と同様にして触媒を製造した。
【0041】
[実施例4]
実施例1の乾燥工程において、スラリー噴霧用回転円板回転数を8,000rpmの条件で乾燥し、遠心分級機を使った分級によりd50、d10/d50、d90/d50の値をそれぞれ55μm、0.73、1.65に調整した以外は実施例1と同様にして触媒を製造した。
【0042】
[比較例1]
実施例1の乾燥工程において、スラリー噴霧用回転円板回転数を8,000rpmの条件で乾燥し、遠心分級機を使った分級によりd50、d10/d50、d90/d50の値をそれぞれ65μm、0.60、1.50に調整した以外は実施例1と同様にして触媒を製造した。
【0043】
[比較例2]
実施例1の乾燥工程において、スラリー噴霧用回転円板回転数を15,000rpmの条件で乾燥し、遠心分級機を使った分級によりd50、d10/d50、d90/d50の値をそれぞれ34μm、0.80、1.20に調整した以外は実施例1と同様にして触媒を製造した。
【0044】
[実施例5]
(調製工程)
純水500部に、三酸化モリブデン100部、メタバナジン酸アンモニウム8.8部、三酸化アンチモン1.7部、硝酸銅(II)3水和物2.3部、及び85質量%リン酸水溶液7.3部を加え、これを攪拌しながら95℃に昇温し、液温を95℃に保ちつつ3時間攪拌した。次いで、液温を50℃まで冷却後、硝酸ルビジウム9.4部を純水25部に溶解した溶液を添加し、15分間攪拌した。次いで、28質量%アンモニア水8.8部を添加し、さらに15分間攪拌した。
【0045】
(乾燥工程)
以上のようにして得られた触媒成分の原料化合物を含有する混合スラリーを、並流式スプレー乾燥機を用い、乾燥機入口温度330℃、スラリー噴霧用回転円板回転数18,000rpmの条件で乾燥した。得られた乾燥物粒子を遠心分級機を使用して、風量調整により、d50、d10/d50、d90/d50の値がそれぞれ27μm、0.56、1.44となる乾燥物粒子を得た。この乾燥物粒子の水分含有率を測定したところ、2.3質量%であった。
【0046】
成形工程、熱処理工程は実施例1と同様にして触媒を製造した。得られた触媒の元素組成は、次の通りであった。なお、触媒の元素組成は原料の仕込み量から算出した値である。
Mo121.11.3Cu0.1Rb1.1Sb0.2
【0047】
(メタクリル酸の製造)
この触媒を反応管に充填し、メタクロレイン5容量%、酸素10容量%、水蒸気30容量%、窒素55容量%の原料ガスを反応温度290℃、接触時間3.1秒で通じた。生成物を捕集し、ガスクロマトグラフィーで分析してメタクロレイン転化率、メタクリル酸選択率及びメタクリル酸の単流収率を求めた。反応結果を乾燥工程で得られた乾燥物粒子のd50、d10/d50、d90/d50の値と共に表1に示す。
【0048】
[比較例3]
実施例5の乾燥工程において、スラリー噴霧用回転円板回転数を18,000rpmの条件で乾燥し、遠心分級機を使った分級によりd50、d10/d50、d90/d50の値をそれぞれ27μm、0.40、1.90に調整した以外は実施例5と同様にして触媒を製造した。
【0049】
[実施例6]
(調製工程)
純水500部に、三酸化モリブデン100部、メタバナジン酸アンモニウム10.2部、硝酸銅(II)3水和物7.0部、硝酸ランタン(III)6水和物17.9部、硝酸鉄(III)9水和物2.3部、及び85質量%リン酸水溶液7.3部を加え、これを攪拌しながら95℃に昇温し、液温を95℃に保ちつつ3時間攪拌した。次いで、液温を50℃まで冷却後、硝酸カリウム8.8部を純水25部に溶解した溶液を添加し、15分間攪拌した。次いで、28質量%アンモニア水8.8部を添加し、さらに15分間攪拌した。
【0050】
(乾燥工程)
以上のようにして得られた触媒成分の原料化合物を含有する混合スラリーを、並流式スプレー乾燥機を用い、乾燥機入口温度330℃、スラリー噴霧用回転円板回転数10,000rpmの条件で乾燥した。得られた乾燥物粒子を遠心分級機を使用して、風量調整により、d50、d10/d50、d90/d50の値がそれぞれ46μm、0.61、1.35となる乾燥物粒子を得た。この乾燥物粒子の水分含有率を測定したところ、2.4質量%であった。
【0051】
成形工程、熱処理工程は実施例1と同様にして触媒を製造した。得られた触媒の元素組成は、次の通りであった。なお、触媒の元素組成は原料の仕込み量から算出した値である。
Mo121.11.5Cu0.31.5Fe0.1La0.2
【0052】
[比較例4]
実施例6の乾燥工程において、スラリー噴霧用回転円板回転数を8,000rpmの条件で乾燥し、遠心分級機を使った分級によりd50、d10/d50、d90/d50の値をそれぞれ75μm、0.63、1.70に調整した以外は実施例6と同様にして触媒を製造した。
【0053】
[実施例7]
実施例1の乾燥工程において、乾燥物粒子を温度50℃、相対湿度50%の湿り空気を5時間流通させて水分含有率を3.1質量%にした以外は実施例1と同様にして触媒を製造した。
【0054】
[実施例8]
実施例1の乾燥工程において、乾燥物粒子を温度50℃、相対湿度65%の湿り空気を5時間流通させて水分含有率を4.0質量%にした以外は実施例1と同様にして触媒を製造した。
【0055】
[実施例9]
実施例1の乾燥工程において、乾燥物粒子を温度50℃、相対湿度85%の湿り空気を5時間流通させて水分含有率を5.7質量%にした以外は実施例1と同様にして触媒を製造した。
【0056】
[実施例10]
実施例5の乾燥工程において、乾燥物粒子を温度50℃、相対湿度0%の乾燥空気を5時間流通させて水分含有率を1.1質量%にした以外は実施例5と同様にして触媒を製造した。
実施例1〜10および比較例1〜4の結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のメタクリル酸製造用触媒は、メタクリル酸の収率が高く、メタクリル酸の製造に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる、モリブデン元素、リン元素、バナジウム元素、銅元素、並びに、カリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群から選択される少なくとも一種の元素であるZ元素、を含み、
a)触媒成分を含む混合溶液又は水性スラリーを調製する調製工程と、
b)前記混合溶液又は水性スラリーを乾燥して乾燥物粒子を得る乾燥工程と、
c)前記乾燥物粒子を用いて成形して成形品を得る成形工程と、
d)前記成形品を熱処理する熱処理工程
とを含むメタクリル酸製造用触媒の製造法において、
前記乾燥物粒子のメディアン径(d50:単位μm)の値がd50≦60の範囲であり、乾燥物粒子の累積度数分布の10%に相当する粒子径(d10:単位μm)の値をd50で除した値d10/d50が0.41≦d10/d50≦0.79の範囲内であり、乾燥物粒子の累積度数分布の90%に相当する粒子径(d90:単位μm)の値をd50で除した値d90/d50が1.21≦d90/d50≦1.89の範囲内であることを特徴とするメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項2】
前記乾燥工程で得られる乾燥物粒子の水分含有率が2.0〜4.5質量%である請求項1に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法で製造することを特徴とするメタクリル酸製造用触媒。
【請求項4】
請求項3に記載のメタクリル酸製造用触媒を用いて、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造することを特徴とするメタクリル酸の製造方法。

【公開番号】特開2012−236186(P2012−236186A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−266626(P2011−266626)
【出願日】平成23年12月6日(2011.12.6)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】