説明

メタクリロキシ基もしくはアクリロキシ基を有するポリオルガノシルセスキオキサンの共重合体と、その製造方法およびその重合によって得られる膜

【課題】
メタクリロキシ基もしくはアクリロキシ基を有する単独重合性のポリシルセスキオキサンの共重合体と、その製造方法、及びそれによって得られたポリシルセスキオキサン共重合体の低温重合により有機溶媒に不溶性の膜を提供する事にある。
【解決手段】
メタクリロキシ基もしくはアクリロキシ基を有するポリオルガノシルセスキオキサンを二官能性シランカップリング剤と反応させて共重合体を製造し、重合開始剤を加えてラジカル重合によって製膜するシリコーンコーティング膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクリロキシ基もしくはアクリロキシ基を有するポリオルガノシルセスキオキサンと二官能性のポリオルガノシロキサンとの共重合体を製造する方法、および熱重合または光重合により有機溶媒に不溶となる共重合ポリオルガノシルセスキオキサン重合体膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリオルガノシルセスキオキサン(以下、PSQと称する)は、ケイ素原子数に対する酸素原子数の比が1.5であるようなシリコーン系レジンの総称である。このようなPSQ化合物は有機と無機の特性を併せ持つことから、有機溶媒への溶解性と成型性に優れ、耐熱性でかつ電気絶縁性を有するため、光・電子デバイス材料の絶縁素材として使用されている。また、有機官能基の調整により、膜の特性(誘電率、硬度、粘度)を自在に制御できる利点がある。
【0003】
近年の電子ペーパーやフレキシブルディスプレイ基板への要求の高まりにより、大面積に塗膜が容易で、低温での製膜が可能な絶縁膜が求められている。PSQは有機溶媒への溶解性が優れ、スピンコート法等により一度に大面積の塗膜が可能であるため、有望な絶縁材料して期待されている。しかしながら、PSQを塗膜した後にPSQのアルコキシ末端でゾル−ゲル架橋反応を進行させるためには、200℃以上の高温加熱が必要であり、この温度ではポリエチレンテレフタラートなどの汎用プラスチック基板は、その機械的特性を失う。したがって、低温で架橋反応が可能であるPSQが必要となる。
【0004】
低温で架橋反応を行なう手法としては、メタクリロキシ基もしくはアクリロキシ基によるラジカル重合が一般的である。公知として、メタクリロキシ基もしくはアクリロキシ基を有するPSQ(以下、A−PSQと称する)について、多価アクリレートと重合開始剤を加えて、ラジカル共重合によるシリコーンコーティング膜の作製法がある(例えば、特許文献1および2)。しかしながら、このシリコーンコーティング膜には多価アクリレートが成分の一つとして相当量含まれる為に、電気絶縁性の破壊が問題となる。
【0005】
多価アクリレートを含まずに、A−PSQ単独でラジカル重合を行なうと、メタクリロキシ基もしくはアクリロキシ基の量が十分でないために架橋度が低くなり、光・電子デバイス洗浄時における絶縁膜の有機溶媒への再溶解が問題となる。
【0006】
メタクリロキシ基もしくはアクリロキシ基の含有率の高いA−PSQを使用することで、上記問題を解決できると考えられるが、メタクリロキシ基もしくはアクリロキシ基の含有率の高いA−PSQでは、分子間ではなく分子内でラジカル重合が優先的に進行すると考えられるので、重合によって架橋密度は向上せず、有機溶媒への不溶化には至らない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4-76059
【特許文献2】特開平5-1124
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記の背景技術の問題点に鑑み、メタクリロキシ基もしくはアクリロキシ基を有する単独重合性のPSQの共重合体(以下、S−A−PSQと称する)と、その製造方法、S−A−PSQ単独で低温重合により有機溶媒に不溶性の膜を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、以下の手段によって達成された。
即ち、一般式(1)で表される、三官能性ポリオルガノシルセスキオキサンと二官能性ポリオルガノシロキサン
【化1】

(但し、式中のmは0または正の整数で、nは正の整数であり、R1は、アルキル基、アルケニル基およびアリール基から選ばれ、R2は、一般式(2)で表されるメタクリロキシ基もしくはアクリロキシ基
【化2】

(但し、式中R4は、水素原子またはメチル基、R5は、炭素数1〜18の非置換または置換炭化水素基である。)である。但し、式中のx, yは正の整数であり、R3は、アルキル基、アルケニル基およびアリール基から選ばれる。)を構成成分として含んで成るS−A−PSQ。(請求項1)
【0010】
一般式(3)で表されるA−PSQ
【化3】

(但し、式中のmは0または正の整数で、nは正の整数であり、式中R1は、アルキル基、アルケニル基およびアリール基から選ばれ、R2は、一般式(2)で表されるメタクリロキシ基もしくはアクリロキシ基(式中R4は、水素原子またはメチル基、R5は、炭素数1〜18の非置換または置換炭化水素基である。)である。mとnの比率は、99:1〜0:100である。R6は水酸基、メトキシ基、エトキシ基から選ばれるものとする。)と、アルキル基、アルケニル基またはアリール基から選ばれる有機官能基を有する二官能性シランカップリング剤を1:99〜99:1のモル比で共重合させることを特徴とする請求項1に記載のS−A−PSQの製造方法。(請求項2)
【0011】
請求項1に記載のS−A−PSQを熱重合または光重合により、有機溶媒に不溶となることを特徴とするポリオルガノシルセスキオキサン重合体の絶縁膜。(請求項3)
【0012】
本発明の特徴は、A−PSQと二官能性のポリオルガノシロキサンとの共重合体を製造し、さらにその低温重合により有機溶媒に不溶となる膜を製造することである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、A−PSQと二官能性のシランカップリング剤とを共重合させることで、A−PSQが複数個連結するために分子量が大幅に増加する。したがって、PSQ単位中に含まれるメタクリロキシ基もしくはアクリロキシ基の含有率が向上しないまま重合度が増加するので、そのラジカル重合によって架橋度が増して有機溶媒に対して不溶となる。その際に、シランカップリング剤に由来する官能基がA−PSQに導入されることから、官能基の種類に応じた機能化も同時に可能である。特に、シアノ基などの電子吸引基を導入することで、膜の誘電率を調整することも可能である。
【0014】
本発明で得られたS−A−PSQは、100℃以下の熱重合または光重合という非常に熱的に温和な条件によって有機溶媒に不溶となる製膜ができるため、プラスチック基板等に変形や歪みを引き起こさずに済み、極めて有用な技術といえる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1の原料のA−PSQ、および実施例1で得られたジメチルシリル基修飾A−PSQのH−NMR図を示す。
【図2】実施例3で得られたラジカル重合前後のジメチルシリル基修飾A−PSQのIR図を示す。
【図3】実施例3で得られたラジカル重合後のジメチルシリル基修飾A−PSQの固体13C−NMR図を示す。
【図4】実施例1の原料であるポリ−(A−PSQ)被覆基板のアセトンで超音波処理前後の質量の変化の表を示す(実施例4)。
【図5】実施例1で得られたポリ−(ジメチルシリル基修飾A−PSQ)被覆基板のアセトンで超音波処理前後の質量の変化の表を示す(実施例4)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、
(A).A−PSQと二官能性のシランカップリング剤とを共重合させる方法、
(B).A工程で得られたS−A−PSQを用いて、熱重合または光重合により、有機溶媒に不溶性の膜を作製する方法、
により製造され、以降、詳細に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
<工程A>
【0017】
<工程AにおけるA−PSQ>
一般式(1)に表されるA−PSQについて、メタクリロキシ基もしくはアクリロキシ基を含む有機基とその他の有機基のモル比は、1:99〜100:0まで含むが、5:95〜50:50が好ましい。メタクリロキシ基もしくはアクリロキシ基を含む有機基が5モル%未満では重合速度が遅く、また50モル%以上では分子間ではなく分子内でラジカル重合が優先的に進行すると考えられるので、重合によって架橋度は向上せずに有機溶媒への不溶化には至らない。
【0018】
A−PSQの重量平均分子量は1,000〜100,000までである。重量平均分子量が1,000以下では、A−PSQ一分子中におけるメタクリロキシ基もしくはアクリキシ基の数が少なくなるためである。また、重量平均分子量が100,000以上では二官能性のポリオルガノシロキサンとの共重合体は、有機溶媒への溶解性が良好でないためである。
【0019】
一般式(1)中のR2は、メタクリロキシ基もしくはアクリロキシ基であり、R1は、アルキル基、アルケニル基、アリール基から選ばれる。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、または一部がハロゲン原子やシアノ基などで置換された有機基が挙げられる。アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、2−プロペニル基または1−ブテニル基が挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基または一部がハロゲン原子やアルキル基などに置換された有機基が挙げられる。
【0020】
一般式(2)中のR4は水素原子またはメチル基である。R5は、炭素数1〜18の非置換または置換炭化水素基である。R5の非置換炭化水素基としては、例えば、メチレン、トリメチレン、テトラメチレンなどのアルキレン基が挙げられる。置換炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基またはこれらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部をハロゲン原子、シアノ基などで置換した基などが挙げられる。
【0021】
A−PSQは、それ自体公知であり、例えば、特許文献1および2に記載された製造方法によって得られる。
【0022】
<前記工程Aにおける二官能性のシランカップリング剤>
シランカップリング剤は、二官能性のものを使用する。一官能性シランカップリング剤を用いた場合では末端部位がキャップされるために分子量は増加せず、三、四官能性シランカップリング剤を用いた場合では、ラジカル重合を行なう前に有機溶媒に不溶化するために製膜できない。
【0023】
使用する二官能性シランカップリング剤は、一般式(4)で表される。R3は、アルキル基、アルケニル基、アリール基から選ばれる。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基または一部がハロゲン原子やシアノ基などで置換された有機基が挙げられる。アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、2−プロペニル基または1−ブテニル基が挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基または一部がハロゲン原子やアルキル基などに置換された有機基が挙げられる。Xはハロゲノ基から選ばれ、例えば、クロロ基、ブロモ基である。
【化4】

【0024】
一般式(4)式中のハロゲノ基をアルコキシ基に変更したシランカップリング剤を使用することも可能であるが、その際は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、酢酸等の酸触媒を別途添加する必要がある。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基などが挙げられる。
【0025】
反応に使用するシランカップリング剤は、必ずしも一種類である必要はない。二種類以上のシランカップリング剤を混合して用いることもできる。
【0026】
一般式(5)式で表されるポリオルガノシロキサン共存下で、A−PSQと一般式(4)式で表されるシランカップリング剤を反応させることもできる。この場合では、シランカップリング剤に加えてポリオルガノシロキサンもA−PSQに導入される。R7は、アルキル基、アルケニル基、アリール基から選ばれる。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基または一部がハロゲン原子やシアノ基などで置換された有機基が挙げられる。アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、2−プロペニル基または1−ブテニル基が挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基または一部がハロゲン原子やアルキル基などに置換された有機基が挙げられる。R8は、水酸基、メトキシ基、エトキシ基から選ばれるものとする。
【化5】

【0027】
A−PSQとシランカップリング剤の混合比は1:99〜99:1まで含むが、10:90〜50:50が好ましい。A−PSQが50モル%以下ではメタクリロキシ基もしくはアクリキシ基の割合が少なくなるために、また90モル%以上ではシランカップリング剤の量が十分ではなくPSQ同士が連結せずに分子量が増加しないために、これらの共重合体では、重合によって架橋度は向上せずに有機溶媒への不溶化には至らない。
【0028】
<前記工程Aにおける反応溶媒>
A−PSQを溶解させ、酸触媒でのゾルーゲル反応を阻害しない溶媒であれば使用できる。溶媒としては、例えば、ジメチルホルムアミド(以下、DMFと称する)、テトラヒドロフラン(以下、THFと称する)、ジメチルスルホキシド(以下、DMSOと称する)、ジメトキシエタン、アセトン、メチルエチルケトン(以下、MEKと称する)、メチルイソブチルケトン(以下、MIBKと称する)、1,4−ジオキサン、1,2−ジクロロエタン、tert−ブタノール等が挙げられる。
【0029】
<前記工程Aにおける反応温度>
反応温度は0〜100℃であり、好ましくは20〜60℃である。特に、クロロシランを用いる場合では、室温付近が望ましい。
【0030】
<前記工程Aにおける精製>
生成物の精製は、水またはヘキサンを溶媒として用いた再沈殿によって行なう。反応溶媒が水と混和可能な場合には、再沈殿の溶媒に水を用い、反応溶媒がヘキサンと混和可能な場合には、再沈殿の溶媒にヘキサンを用いる。沈殿が生じない場合は、反応溶媒を濃縮してから再沈殿を行なう。再沈殿の際に使用する溶媒は、反応に使用したシランカップリング剤の種類によって適切に選ばれる必要が有り、水またはヘキサンに限定されない。また、再沈殿の操作が複数回必要な場合もある。
<工程B>
【0031】
<前記工程Bで用いる溶媒>
溶媒は、S−A−PSQを溶解できて、60〜150℃の沸点を有する溶媒が望ましい。ただし必須の条件として、重合開始剤を溶解できることがある。重合開始剤との組み合わせにもよるが、例えば、トルエン、キシレン、MEK、MIBK、DMF、DMSO、酢酸エチル、酢酸ブチル、THF、1,4−ジオキサン、1,2−ジクロロエタン、tert−ブタノール、プロピレングリコール 1-モノメチルエーテル 2-アセテート (以下、PGMEAと称する)等が挙げられる。
【0032】
<前記工程Bで用いるS−A−PSQの濃度>
共重合体の濃度は有機溶媒に溶解する限り、任意の濃度で調整することが可能である。均一な膜を作製する上では、共重合体の濃度は溶媒を含めた全重量の10〜20wt%が好ましい。
【0033】
<前記工程Bで用いる重合開始剤>
重合に用いられる開始剤としては、従来公知とされている種々のものを使用することができ、例えば、アセトフェノン、プロピオフェノン、ベンゾフェノン、キサントール、フルオレン、アンスラキノン、ベンズアルデヒド、過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリルなどが挙げられる。これらの重合開始剤は1種類を単独でもしくは2種類以上を混合して使用することができる。また、本発明において上記の重合開始剤を用いるときに共に3級アミン等のいわゆる光増感促進剤を用いて光重合性を一層高めることも可能である。3級アミンとしては脂肪族、芳香族の各種3級アミンが使用可能であり、N−ジメタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、トリエチルアミン、P−ジメチルアミノ安息香酸エチル等が挙げられる。
【0034】
<前記工程Bで用いる重合開始剤の濃度>
有機溶媒に対して不溶な膜を作製するのに必要な重合開始剤の濃度は、膜の厚さに依存する。即ち、膜の厚さがマイクロメートルオーダーでは重合開始剤濃度は溶媒を含めた全重量の0.1〜5wt%で適用可能であり、スピンコート膜などで作製したナノメートルオーダーの膜では、全重量の0.5〜10wt%で適用可能である。
【0035】
<前記工程Bで用いる基板>
用いる溶媒に対して不溶な基板であれば、任意の基板を用いることができる。例えば、ポリエチレンテレフタラート(以下、PETと称する)やポリエチレンナフタレート(以下、PENと称する)などのプラスチック基板、金属、マイカ、ガラス、シリコンウエハなどが挙げられる。ただし、無機の基板を用いる場合、PSQとの接着性の向上のため、シリル化剤で表面処理を行ない、基板を疎水性にする操作が必要な場合もある。
【0036】
<前記工程Bにおける塗布方法>
前述の基板に塗布する方法としては、例えば、スプレーコーティング、刷毛塗り、浸漬コーティング、フローコーティング、スピンコーティング等が挙げられる。
【0037】
<前記工程Bにおける熱重合の反応温度>
過酸化ベンゾイルやアゾビスイソブチロニトリルなどの熱重合開始剤を用いた場合、ラジカル発生温度に反応温度を調整すればよいが、基板の熱浸透性も加味して考える必要がある。通常のラジカル重合開始温度よりも10〜20℃上の温度で行なうことが好まれる。また光重合を行なう場合では反応温度は特に制限はない。
【0038】
<前記工程Bにおける光重合の紫外線源>
光重合の場合に使用される紫外線源としては、例えば、紫外線蛍光灯、水銀灯、キセノン灯、ハロゲン灯、炭素アーク灯等が挙げられる。
【0039】
このように、本発明では、A−PSQを前記工程Aで高分子量化と機能化を同時に行ない、続いて前記工程Bで、前記工程Aで得られたS−A−PSQを低温重合により製膜して有機溶媒に不溶な膜(以下、ポリ−(S−A−PSQ)と称する。)とする。本発明の製造方法は、以上のように工程が単純であり、優れた再現性・効率で、極めて簡便に製造できる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
<A−PSQの合成>
合成例1
温度計、撹拌装置、還流冷却管を取り付けた300mLの4つ口フラスコに、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン29.8g(0.12モル)、フェニルトリメトキシシラン95.2g(0.48モル)を仕込み、氷水浴下、塩酸0.003モルと水32.4g(1.8モル)を添加し、常温で1時間反応させた後、70℃に昇温し1時間保持した。反応終了後、トルエン190gを添加し、分液漏斗を用いて、水相が中性になるまで水にて洗浄を行った。
温度計、撹拌装置、還流冷却管を取り付けた500mLの4つ口フラスコに、トルエン層を仕込み、水酸化ナトリウム0.0029モルと水32.4g(1.8モル)を添加して、常温にて1時間半撹拌した。反応終了後、分液漏斗を用いて、水相が中性になるまで水にて洗浄を行った。洗浄後、トルエン層をろ過し、減圧下でトルエンを除去して樹脂を得た。得られた樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算の重量平均分子量(MW)は2,900であり、分子量分布(MW/MN)は1.69であった。
合成例2
温度計、撹拌装置、還流冷却管を取り付けた300mLの4つ口フラスコに、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン29.8g(0.12モル)、フェニルトリメトキシシラン95.2g(0.48モル)を仕込み、氷水浴下、塩酸0.003モルと水32.4g(1.8モル)を添加し、常温で1時間反応させた後、70℃に昇温し1時間保持した。反応終了後、トルエン190gを添加し、分液漏斗を用いて、水相が中性になるまで水にて洗浄を行った。
温度計、撹拌装置、還流冷却管を取り付けた500mLの4つ口フラスコに、トルエン層を仕込み、水酸化ナトリウム0.0029モルと水32.4g(1.8モル)を添加して、常温にて2時間反応した後、50℃に昇温して2時間撹拌し、続いて70℃に昇温して2時間撹拌を行った。反応終了後、分液漏斗を用いて、水相が中性になるまで水にて洗浄を行った。洗浄後、トルエン層をろ過し、減圧下でトルエンを除去して樹脂を得た。得られた樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算の重量平均分子量(MW)は6,400であり、分子量分布(MW/MN)は2.29であった。
【0042】
得られたA−PSQを重アセトンに溶解させ、H−NMR測定を実施したところ、合成例1で得られたA−PSQでは、フェニル基とメタクリロキシ基が83:17の割合で存在することが確認された。合成例2で得られたA−PSQでは、フェニル基とメタクリロキシ基が81:19の割合で存在することが確認された。
【0043】
<A−PSQとジメチルクロロシランとの共重合体の合成>
二官能性シランカップリング剤としてジメチルクロロシランを用い、先のA−PSQとの化学反応を、略模擬式図で表わすと下記化学式(6)に示される。
【化6】

【実施例1】
【0044】
ナス型フラスコに合成例1で合成されたA−PSQ1.00gおよびDMF5.00mLを加えて、完全に溶解させた。続いて、DMF5.00mLに溶解させたジメチルジクロロシラン0.310g(メタクリロキシ基に対して1.97当量)を加えて、反応温度を20〜30℃に保ちつつ、12時間攪拌を行った。反応終了後、反応溶液をイオン交換水400mLに加えて再沈殿を行なった。回収した白色固体をエタノールでよく洗浄して、その後室温で真空乾燥を行ない、0.454gの白色固体を得た。(得られた反応物を以下、ジメチルシリル基修飾A−PSQと称する。)
【0045】
得られた白色固体についてH−NMR測定を実施した。図1に、重アセトン中での原料のA−PSQおよびジメチルシリル基修飾A−PSQのスペクトルを示す。反応後では、新たに0ppm付近にジメチルシリル基由来のピークが観測され、フェニル基とメタクリロキシ基とジメチルシリル基は、65:16:19の割合で存在することが確認された。以上のことから、得られたPSQはジメチルジクロロシランとの共重合体であることが示された。また、メチル基由来のピークはブロードに見られることから、シランモノマーが精製不十分で存在しているのではなく、高分子量体であるA−PSQと結合していることを示す。
【0046】
得られたジメチルシリル基修飾A−PSQのゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分子量測定を行なった。ジメチルシリル基修飾A−PSQのゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算の重量平均分子量(MW)は9,700であり、分子量分布(MW/MN)は2.33であった。重量平均分子量および分子量分布がともに大きく増加していることから、PSQ同士がジメチルジクロロシランを介して互いに連結していることが示された。
【0047】
H−NMRとゲルパーミエーションクロマトグラフィーの結果から、原料のA−PSQでは一分子中に含まれるメタクリロキシ基の数は平均3.6個、ジメチルシリル基修飾A−PSQでは一分子中に含まれるメタクリロキシ基の数は平均12.2個であることがわかった。
【実施例2】
【0048】
分子量の異なるA−PSQについて、ジメチルジクロロシランとの反応させた場合における検討を行った。ナス型フラスコに合成例2で合成されたA−PSQ1.00gおよびDMF5.00mLを加えて、完全に溶解させた。続いて、DMF5.00mLに溶解させたジメチルジクロロシラン0.310g(メタクリロキシ基に対して1.75当量)を加えて、反応温度を20〜30℃に保ちつつ、12時間攪拌を行った。反応終了後、反応溶液をイオン交換水400mLに加えて再沈殿を行なった。さらに、少量のアセトンに溶解させた後、ヘキサンに加えて再沈殿を行なった。回収した白色固体をエタノールでよく洗浄して、その後室温で真空乾燥を行ない、0.970gの白色固体を得た。(得られた反応物を以下、ジメチルシリル基修飾A−PSQと称する。)
【0049】
得られた白色固体についてH−NMR測定を実施した。フェニル基とメタクリロキシ基とジメチルシリル基は、79:11:10の割合で存在することが確認された。得られたジメチルシリル基修飾A−PSQのゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分子量測定を行なったところ、ポリスチレン換算の重量平均分子量(MW)は57,100であり、分子量分布(MW/MN)は4.48であった。H−NMRとゲルパーミエーションクロマトグラフィーの結果から、原料のA−PSQでは一分子中に含まれるメタクリロキシ基の数は平均8.8個、ジメチルシリル基修飾A−PSQでは一分子中に含まれるメタクリロキシ基の数は平均48.6個であることがわかった。
【実施例3】
【0050】
ジメチルシリル基修飾A−PSQのラジカル重合の反応性について検討した。実施例1で得られたジメチルシリル基修飾A−PSQを0.150gに、過酸化ベンゾイル75%湿潤品0.013g(実質0.010g)を加えてから、PGMEA0.837gに完全に溶解させた。続いて、3×3cmに切断したガラス基板にキャストして、80℃で12時間静置して重合反応を行なった。得られた膜をよく砕いて乾燥させてから、IRおよび固体13C-NMRを実施した。図2には重合前後のIRスペクトルを示すが、重合において二重結合由来のピークが消失した。また図3には、重合後の固体13C-NMRスペクトルを示すが、45ppm 近傍のピーク(カルボニル基に隣接する4級炭素のピーク)が確認できた。以上のことから、メタクリロキシ基のビニル基(CH=C(CH)−)がラジカル重合により反応して、4級炭素となって架橋していることが示された。
【実施例4】
【0051】
原料のA−PSQおよびジメチルシリル基修飾A−PSQのスピンコート膜を作製し、有機溶媒に対する再溶解の程度について比較検討した。実施例1の原料のA−PSQまたは実施例1で得られたジメチルシリル基修飾A−PSQを0.150gに、過酸化ベンゾイル75%湿潤品0.013g(実質0.010g)を加えてから、PGMEA0.837gに完全に溶解させた。続いて、3×3cmに切断したPEN基板に先の溶液30μLをキャストして、1,000rpm、30sの条件でスピンコートした。得られたPSQ被覆基板を、80℃で12時間静置して重合反応を行なった。それぞれについて、PEN基板は5枚ずつで評価した。
【0052】
重合後のPSQ被覆基板を、原料のA−PSQおよびジメチルシリル基修飾A−PSQが不溶であるメタノールで洗浄して乾燥した後、精密天秤にて秤量した。続いて、アセトンに浸漬させて1分間超音波を照射後、メタノールで洗浄して乾燥した後、精密天秤にて秤量した。図4、5にPSQ被覆基板のアセトン超音波処理前後の質量の変化を示すが、下記の式に従って、PSQの残存率は計算される。
被覆したPSQの重量 =(スピンコート後の基板の重量)-(基板の重量)
残存したPSQの重量 =(アセトン超音波処理後の基板の重量)-(基板の重量)
PSQの残存率 =(残存したPSQの重量)/(被覆したPSQの重量)x100
その結果、図4に示されるようにポリ−(A−PSQ)ではほとんどすべて溶解していたが、図5に示されるようにポリ−(ジメチルシリル基修飾A−PSQ)の残存率は平均して80%程度であった。以上のことから、ポリ−(ジメチルシリル基修飾A−PSQ)では有機溶媒への再溶解がほとんど起こらないことが確認された。ポリ−(ジメチルシリル基修飾A−PSQ)では、分子量(一分子中に含まれるメタクリロキシ基の数)が大きく増加しているために、有機溶媒に不溶になる程度まで架橋反応が進行したことによる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のA−PSQと二官能性のポリオルガノシロキサンの共重合体の製造方法およびその重合によって得られる膜によれば、100℃以下の低温または無加熱下でシリコーン絶縁膜が形成され、有機溶媒不溶性とともに誘電率を調整することが可能である。低温で製膜できるために、耐熱性の低い基板が使用される電子ペーパーやフレキシブルディスプレイの電気回路において、ポリ−(S−A−PSQ)がシリコーン絶縁膜として利用されることが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される、三官能性ポリオルガノシルセスキオキサンと二官能性ポリオルガノシロキサンを構成成分として含んで成る共重合体。
【化1】

(但し、式中のmは0または正の整数で、nは正の整数であり、R1は、アルキル基、アルケニル基およびアリール基から選ばれ、R2は、一般式(2)で表されるメタクリロキシ基もしくはアクリロキシ基
【化2】

(但し、式中R4は、水素原子またはメチル基、R5は、炭素数1〜18の非置換または置換炭化水素基である。)である。但し、式中のx, yは正の整数であり、R3は、アルキル基、アルケニル基およびアリール基から選ばれる。)
【請求項2】
一般式(3)で表されるメタクリロキシ基もしくはアクリロキシ基を有するポリオルガノシルセスキオキサン
【化3】

(但し、式中のmは0または正の整数で、nは正の整数であり、式中R1は、アルキル基、アルケニル基およびアリール基から選ばれ、R2は、一般式(2)で表されるメタクリロキシ基もしくはアクリロキシ基(式中R4は、水素原子またはメチル基、R5は、炭素数1〜18の非置換または置換炭化水素基である。)である。mとnの比率は、99:1〜0:100である。R6は水酸基、メトキシ基、エトキシ基から選ばれるものとする。)と、アルキル基、アルケニル基またはアリール基から選ばれる有機官能基を有する二官能性シランカップリング剤を1:99〜99:1のモル比で共重合させることを特徴とする請求項1に記載のポリオルガノシルセスキオキサンの共重合体の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のポリオルガノシルセスキオキサンの共重合体を熱重合または光重合により、有機溶媒に不溶となることを特徴とするポリオルガノシルセスキオキサン重合体の絶縁膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−270235(P2010−270235A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123789(P2009−123789)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(391010895)小西化学工業株式会社 (19)
【出願人】(504145283)国立大学法人 和歌山大学 (62)
【Fターム(参考)】