説明

メタゲノムライブラリの種々の細菌種への伝達に有用なプラスミドRK2系広宿主範囲クローニングベクター

本発明は、広宿主範囲の細菌においてDNAをクローニングするためのクローニングベクターであって、(i) RK2複製起点oriV、(ii) RK2接合伝達起点oriT、(iii) RK2からのparDE、(iv) クローニング領域、(v) 該ベクターのわずか1又は2のコピー数での複製を可能にする別の複製起点を含む自己複製人工染色体であり、このベクターはわずか15kbの大きさであり、RK2のtrfAを含有せず、少なくとも12kbの挿入断片をクローニングすることができるものとし、このベクター内のRK2 DNAの含量はRK2のわずか10%であるものとするクローニングベクターを提供する。また、本発明は、上記ローニングベクターを有する宿主細胞及びベクター系を提供する。DNAをクローニングし、ライブラリを調製する方法並びにメタゲノムクローニングにおけるこのベクター及びRK2レプリコンの使用も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタゲノムライブラリの広範囲の細菌宿主への伝達を可能にする、メタゲノム研究用新規クローニングベクターに関する。このベクターはRK2プラスミドに基づいたものであり、特にRK2の複製及び伝達起点、oriV及びoriTを含んでいる。本発明は、広範囲の宿主において(小型ばかりでなく)例えば中間乃至高コピー数で増幅された大型の挿入断片を維持することができるベクターを、初めて、そして意外なことに提供する。
【背景技術】
【0002】
土壌又は水といった自然環境は莫大な数の微生物を含有している。その大部分は培養ができず、従って、そのゲノムの通常の解析がなされていない。このため、標準的な培養法に基づいた広範囲に及ぶスクリーニングが行われたものの、膨大な遺伝情報源が依然として未発見のままである。この問題は、環境試料の「メタゲノム」、即ち、試料内の全ての微生物のゲノム集団を研究することによって解決できる。このメタゲノムは空間的及び時間的次元を有している。なぜなら、環境は変化し、試料は特定の時間及び場所と関連しているからである。メタゲノムは、環境内での遺伝子間の同一性を見出し、それらの機能及び相互作用を明らかにしようとするものである。メタゲノム研究によって何千もの未培養微生物が同定されており、新規な遺伝子が、その配列ではなく、特に機能に基づくなどして発見されている。
【0003】
より詳細には、このメタゲノム法では、環境試料からのDNAを直接単離して適切なベクター中にクローニングし、それによって複雑なメタゲノムライブラリを作製することにより、そのような環境の供給源を探索することができる。小挿入断片を含有するプラスミド、コスミド、フォスミド、BAC(bacterial artificial chromosomes:細菌人工染色体)などの種々のベクターが、機能的スクリーニング用メタゲノムライブラリを作製して、又はバクテリオファージλを用いて、新規ポリペプチドを検出するために使用されている。これまでに、いくつかのメタゲノムライブラリが土壌環境及び海洋環境の両方から作製されている(非特許文献1及び非特許文献2に概説されている)。さらに、ベンター(Venter)とその共同研究者らは、サルガッソー海から採集された海洋微生物個体群に対して「全ゲノムショットガン配列決定」法を用いた最初の例を報告している(非特許文献3)。
【0004】
メタゲノムライブラリでは、配列を利用した方法を用い、又は代替宿主における新規表現型形質発現の解析を伴う活性スクリーニングによって、新規遺伝子及び経路を分析することができる。
【0005】
普通、メタゲノムベクターは大腸菌(Escherichia coli)又はその近縁菌においてのみ複製する。大型挿入断片のメタゲノム研究に最もよく用いられるベクターは、BAC(細菌人工染色体)及びフォスミド(λ−ファージによる詰め込み)クローニング用の大腸菌F因子系ベクターである(非特許文献4)。このようなベクターの複製、従って、メタゲノムライブラリの発現は、宿主として大腸菌株を使用することに限定される。新規活性の確認はクローニングした遺伝子の転写及び翻訳の成功に依存しており、新規活性は大腸菌を宿主として用いて発現されているが、別の発現能力を獲得することは細菌宿主の範囲を拡大することができるという潜在的な利点を有する。このことは、最近、大腸菌で発現させた場合、32種の原核生物のゲノムからの遺伝子のわずか40%を検出することができるに過ぎないことを示した研究においてガボー(Gabor)ら(非特許文献5)により明らかにされた。また、この研究から、異なる分類群の生物間では、予測される発現様式に顕著な差違があることも明らかとなった。マルティネス(Martinez)とその共同研究者らによる別の研究から、大腸菌、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)及びストレプトミセス・リビダンス(Streptomyces lividans)は異種遺伝子群の発現能が異なることが分かった(非特許文献6)。
【0006】
環境試料から得られた遺伝子の発現に向けて、多くの異なった宿主を使用することの可能性を引き出すためには、新規な生物学的ツールが必要とされる。上述の大腸菌メタゲノムベクターよりも広い宿主範囲を有するいくつかのシャトルベクターが報告されている。例えば、大腸菌の他に1種または2種の宿主に伝達させることができるBACベクター(非特許文献7及び非特許文献6)が報告されている。しかしながら、こうしたベクターは環境中のDNAの宿主染色体中への組み込みをベースにしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ダニエル(Daniel)、2005年、ネイチャーレビュー(Nature Rev)3:p.470−478
【非特許文献2】デロング(DeLong)、2005年、ネイチャーレビュー(Nature Rev)3:p.459−469
【非特許文献3】ベンター(Venter)ら、2004年、サイエンス(Science)304:p.66−74
【非特許文献4】シズヤ(Shizuya)ら、1992年、プロシーディングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ(Pro. Natl. Acad Sci)USA 89:p.8794−8797
【非特許文献5】ガボー(Gabor)ら、2004年、エンバイロンメンタル・マイクロバイオロジー(Environ Microbiol)6:p.879−886
【非特許文献6】マルティネス(Martinez)ら、2004年、アプライド・エンバイロンメンタル・マイクロバイオロジー(Appl. Environ Microbiol)70:p.2452−2463
【非特許文献7】ソシオ(Sosio)ら、2000年、ネイチャー・バイオテクノロジー(Nature Biotechnol)18:p.343−345
【発明の概要】
【0008】
これまでのところ、極めて大型の挿入断片を含有することができ、広宿主範囲で使用するのに適した小型の自己複製ベクターは、メタゲノム研究用に開発されていない。
本発明はこのニーズを満たすために開発したものである。具体的には、広宿主範囲RK2レプリコンをベースとして、新規で比較的小型で機能がよく分かっているベクターを開発した。このようなベクターは、メタゲノムライブラリの構築に有用である。このレプリコンから構築されたベクターは、多くのグラム陰性細菌種において機能し(トーマス及びヘリンスキ(Thomas & Helinski)、1989年、「グラム陰性細菌内の広宿主域プラスミド」(Promiscuous Plasmids in Gram-negative bacteria)(トーマス,C.M.編 第1章、p.1−25、アカデミックプレス(ロンドン)社(Academic Press Inc (London) Ltd)、ロンドン)、グラム陽性細菌、酵母及び哺乳動物細胞にさえ伝達される(ポヤート及びチエウ−コート(Poyart and Trieu-Cout)、1997年、FEMSマイクロバイオロジー・レターズ(FEMS Microbiol Lett)156:p.193−198; ベイツ(Bates)ら、1998年、ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J Bacteriol)180:p.6538−6543; ウォーターズ(Waters)、2001年、ネイチャー・ジェネティックス(Nature Genetics)29:p.375−376)ことが一般に知られている。しかしながら、今回提案したようなベクター、特に、宿主染色体中に組み込まれないこのようなベクターを広範囲の種において大型挿入断片をクローニングし、安定的に維持し、発現させることができること、従って、メタゲノム用途の伝達可能なベクターの基礎として用いることができることは、これまで理解され、或いは可能と考えられてこなかった。本発明のベクターが多くの宿主内で複製することができることは、ライブラリ全体を大腸菌から多くの宿主に伝達させることができることを意味しており、これは接合によって効率的に達成される。RK2レプリコンではコピー数の増大がみられ(即ち、1より大きい、通常、約5乃至10のコピー数)、クローニングされた挿入断片の遺伝子量は染色体への挿入の場合よりも著しく多くなり、これにより機能分析が成功する確率が高くなる。その上、必須の複製開始遺伝子trfAの高コピー数突然変異体を用いることによって種の壁を越えてコピー数をさらに増加させることが可能である(ホーガン(Haugan)ら、1995年、プラスミド(Plasmid)33:p.27−39)。大型の挿入断片(例えば、30又は40kb以上、或いは50、60、80又は100kb以上もの断片)を広い範囲の細菌種において(即ち、広い宿主範囲にわたって)比較的高コピー数のベクター(プラスミド)中にクローニングし、維持することができることは、本発明の予想外の驚くべき特徴である。本発明によって、大型挿入断片を含むこのようなベクター(プラスミド)を広範囲の細菌に伝達すると共に、そのようなベクター(プラスミド)を広宿主範囲において安定的に維持することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1で用いたゲノムライブラリの構築用プラスミドベクター(pRS44)及び大腸菌以外の宿主におけるベクター複製の支援用プラスミドベクター(pRS48)を示す。pRS44はori2及びrepEを介して単一コピーレプリコンとして複製することができるのに対し、oriVは、その複製開始蛋白質TrfAが同じ細胞内で発現される場合に中程度のコピー数をもたらす。pRS44DNAは、ワイルド(Wild)ら(ワイルドら、2002年、ゲノム・リサーチ(Genome Res.)12:p.1434−1444)によって報告されているように、アラビノース誘導プロモータからtrfA遺伝子突然変異体を発現させることによって大腸菌株EPI300で容易に大量に調製することができる。cosNはバクテリオファージλ粒子に上記環境DNAライブラリをパッケージングするのに用いられる部位であり、BamHI及びEco72I部位はそれぞれBAC及びフォスミドクローニングに用いられ、NotIはこれらの挿入断片をサイジングするのに適している。trfA遺伝子は、狭宿主範囲プラスミドpRS48に存在するトランスポゾンにより対象宿主の染色体中に挿入される。このトランスポゾン(TnRS48と呼ばれる)の内部末端及び外部末端にそれぞれI及びOの印が付けられている。tpn:トランスポゾンの一部ではないトランスポーゼースをコードしている遺伝子。xylS:m−トルイル酸塩のような安息香酸型インデューサの存在下のPmG5転写のアクティベータをコードしている遺伝子。oriT:接合伝達の起点。更なる詳細については表1及び実施例1を参照されたい。
【図2】抗生物質選択の非存在下のpRS44及びpRS49のプラスミド安定性を示す。(選択の存在下)振盪フラスコ内で指数関数的に増殖している細胞を抗生物質を含まない培地で10倍に希釈した。次いで、この培養物を一晩増殖させ、約230世代が経過するまで上記希釈手順を繰り返した。各増殖工程後、抗生物質を含まないL寒天上で細胞を平板培養した。各工程から184コロニーを採取し、クロラムフェニコールを含む培地及び含まない培地を入れたそれぞれの96穴プレートに移した。■pRS44、□pRS49、△RK2及び○pCC1FOS。
【図3】P.フルオレッセンス::TnRS48及びX.カンペストリス::TnRS48を継代した後のフォスミドクローンのアガロースゲル電気泳動分析の結果を示す。レーン1:伝達前のプラスミド62、並びにレーン2及びレーン3:それぞれ、P.フルオレッセンス及びX.カンペストリスから大腸菌に形質転換後。レーン4:伝達前のプラスミド83、並びにレーン5乃至7及びレーン8乃至9:それぞれ、P.フルオレッセンス及びX.カンペストリスから大腸菌に形質転換後。レーン10:伝達前のプラスミド37、並びにレーン11乃至12及びレーン13:それぞれ、P.フルオレッセンス及びX.カンペストリスから大腸菌に形質転換後。S:分子量標準(フェルメンタス社(Fermentas))
【図4】調製BACベクターの挿入断片サイズ及び特定挿入断片サイズで得られたクローン数を示す。
【図5】Not−1で消化して得られたプラスミドのうちの11種のアガロースゲル電気泳動分析の結果を示す。示されたレーン番号は、実施例2で説明した「サイズ試験の結果」の項に記載した挿入断片を表す。M:分子量標準(ニューイングランドバイオラブズ社(New England Biolabs))。
【図6】P.フルオレッセンス::TnRS48の継代前後のHindIII消化BACクローンのアガロースゲル電気泳動分析の結果を示す。レーン1及び2:それぞれ、伝達前及び後のプラスミドB9。レーン3及び4:それぞれ、伝達前及び後のプラスミドB19。S:分子量標準(フェルメンタス社)。
【図7】HindIII消化プラスミドBIO(レーン1)及びBIO P.フルオレッセンス接合完了体からの全DNA(レーン2)のサザンブロット分析の結果を示す。S:分子量標準(フェルメンタス社)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
従って、本発明は広宿主範囲の細菌においてDNAをクローニングするためのクローニングベクターであって、
(i)RK2の複製起点oriV、
(ii)RK2の接合伝達起点oriT、
(iii)RK2からのparDE、
(iv)クローニング領域、
(v)わずか1又は2のコピー数でのこのベクターの複製を可能にする別の複製起点
を含む自己複製人工染色体であり、
このベクターはわずか15kbの大きさであり、RK2のtrfAを含有せず、少なくとも12kbの挿入断片をクローニングすることができるものとし、このベクター内のRK2 DNAの含量はRK2のわずか10%であるものとするクローニングベクターを提供する。
【0011】
上述したRK2は、以下でさらに説明するRK2プラスミド(前掲トーマス及びヘリンスキ、1989年参照)のことである。
より詳細には、このベクターは、少なくとも15、20、30又は40kbの挿入断片をクローニングすることができる。従って、別の言い方をすれば、このベクターは大型の挿入断片をクローニングすることができる。本明細書において「大型の挿入断片」とは、サイズが少なくとも30kb、特に、少なくとも40、50、60又は70kbの挿入断片と定義する。本発明の特に有利な実施態様においては、少なくとも80kb、特に、少なくとも90又は100kbの挿入断片をクローニングすることができる。有利なことに、120、150、170、180、190又は200kbあるいはそれよりも大きな挿入断片をクローニングすることもできる。別の言い方をすれば、100、120、150、170、190、200又は250kbまでの挿入断片、例えば、少なくとも12、15、20又は30、50、70又は80kbで前記数字のいずれかまでの挿入断片をクローニングすることができる。より詳細には、本発明のベクターにより、このような大型挿入断片を安定に維持することが可能となる。こうした大型挿入断片を含有するこのベクターは広い宿主範囲で安定に維持することができる。さらに、このような大型挿入断片を含有するこのベクターは、広い宿主範囲に伝達させることができる。
【0012】
本発明のベクターは、メタゲノムクローニングに適しており、これに使用することができる。従って、これをメタゲノムクローニングベクターと称することができる。
本発明のベクターによってDNAのクローニング、有利には上述のようなメタゲノムDNAのクローニングが可能となる。従って、このDNAはゲノムDNAとすることができるが、本発明の最も広い概念として、これを任意のDNAとすることができる。このDNAは任意の供給源からのものであってもよい。従って、ゲノムDNA、cDNA又は任意の種類の合成DNA、例えば、クローニング又は増幅したDNA断片が含まれる。このDNAは、単一の供給源からのものでも複数の供給源の混合物からのものでもよく、例えば、単一の試料からのものでも複数の試料の混合物からのものでもよい。これは、単一のDNAであっても複数のDNAの混合物であってもよく、例えば、単一の生物からのものでも複数種の生物(即ち、少なくとも2種の生物)の混合物からのものでもよい。しかしながら、このDNAは、メタゲノムDNA又は環境試料からのDNAであることが好ましい。従って、このDNAは環境試料から単離又は取得することができる。
【0013】
本発明の特別な利点は、上記ベクターの宿主範囲が広いことである。このことは、このベクターを属又は種の異なる広い範囲の細菌において、例えば、少なくとも5、7、10又は12の異なる細菌、例えば、少なくとも5の関連のない細菌において用いることができることを意味している。RK2プラスミド及びRK2系又は由来プラスミド又はレプリコン全般の宿主範囲については、トーマス及びヘリンスキ、1989年(前掲)で論じられており、そのような細菌の全てを本発明に従って用いることができる。従って、こうしたべクターの広い宿主範囲には、広範囲のグラム陰性細菌及びグラム陽性細菌が含まれる。好適なグラム陰性細菌としては、例えば、エシェリキア属、サルモネラ属、クレブシエラ属、プロテウス属、及びエルシニア属を含む全ての腸内菌種、並びにアゾトバクター属、シュードモナス属、キサントモナス属、コーロバクター属、アシネトバクター属、アエロモナス属、アグロバクテリウム属、アルカリゲネス属、ボルダテラ属、ヘモフィルス・インフルエンゼ、メチロフィラス・メチロトロファス、リゾビウム属及びチオバチルス属を含む非腸内細菌が挙げられる(前掲トーマス及びヘリンスキも参照)。用いることができるグラム陽性細菌宿主としては、クラビバクター属が挙げられる。特に、このベクターは、広い範囲の、又はほとんど全てのグラム陰性細菌において用いることができる。代表的なグラム陰性属としては、シュードモナス、キサントモナス及び腸内細菌が挙げられるが、このリストは網羅的なものではなく、選択される宿主は研究、選択される試料などによって決まる。グラム陰性宿主が好ましいが、本発明のベクターは、RK2系プラスミドを伝達させることができることが知られているグラム陽性細菌、例えば、クラビバクター属においても使用することができる。
【0014】
このような形質転換された宿主細胞は本発明の範囲内に含まれる。従って、本発明の別の態様は、以上に定義したようなクローニングベクターを含有する宿主細胞を含む。
このベクターは自己複製することができる。このことは、これが非組込み型ベクターである、即ち、これが宿主染色体中に組み込まれないことを意味している。具体的には、これは、これを導入し、又はこれを伝達させることができる如何なる宿主においても染色体中に組み込まれない。このベクターは、細菌細胞が成長し、分裂する時にこれが(ベクターとして)存在し続けるように、細菌宿主内で自己複製することができる。より詳細には、このベクターはその細菌宿主内で安定的に維持することができる。従って、このベクターは、細菌宿主中に導入することができ、何世代にもわたる(例えば、少なくとも2、3、4、5、6又は10世代にわたる)その宿主の培養中、或いは、より一般的にはその宿主細胞の増殖の間、その宿主内に維持することができる(即ち、ベクターの存在を検出することができる)。
【0015】
勿論、自己複製が行われるには、宿主がそのベクターの複製を支援することができること、即ち、宿主が必要な遺伝機構を有することが必要とされる。適切な宿主は選ぶか遺伝子工学により作ることができ、これは当業者の通常の技術の範囲内にある。従って、例えば、このベクターは2種の起点を有するが、その広い宿主範囲全体における複製は、通常oriVからとなる。このことは、以下でさらに説明するように、宿主は複製を生じるのにtrfA遺伝子を必要とすることを意味するが、下記で論じるように、これはその宿主中に、特に宿主の染色体中に容易に導入することができる。
【0016】
「人工染色体」という用語は、本明細書では、大型の挿入断片(例えば、30kb以上の挿入断片、又は上述した更に大型の挿入断片)を含有することができる任意の人工的に構築された自己複製遺伝要素を含めて用いている。従って、この人工染色体は、細菌宿主内で自己複製することができ、大型挿入断片を含有することができる遺伝的構築物である。この構築物は細菌宿主内で染色体として挙動又は機能することができる。従って、この人工染色体は細菌宿主内で安定に維持されることが可能である。この人工染色体は、それが1個の細菌細胞からその子孫へと増殖するのに必要な、複製起点及び他の全ての遺伝要素又は配列を含む。
【0017】
従って、最も広義では、本発明のクローニングベクターは、大型挿入断片を安定に含有することができる、宿主細胞内で自己複製することが可能なプラスミド又はプラスミド型ベクターと見なすことができる。
【0018】
この人工染色体は細菌人工染色体(BAC)であることが好ましい。BAC又はBACベクターは当該技術分野では周知であり、文献に広く記載されている。好ましい実施態様として、BACは、広義には、細菌における形質転換及びクローニングに用いられる、稔性プラスミドをベースとしたDNA構築物と定義される。通常、BACは挿入断片の大きさの範囲が、例えば100乃至300kbと大きい。実際には、BACベクターは通常、大腸菌F因子からの複製起点(一般にori2又はoriSと呼ばれる)(非特許文献4)を含有する修飾されたプラスミドである。F因子の完全な配列は、NCIBアセッション番号AP001918として入手可能である。このF因子の起点は、複製を細胞当たり1又は2コピーに厳密に制御する。従って、BACベクターとしての本発明のクローニングベクターはF複製起点、即ち、ori2を含有する。従って、本発明のベクターがBACベクターである場合、上記の特徴(v)の別の複製起点はori2とすることができる。より詳細には、本発明のBACベクターはF因子レプリコンを含有することができる。これはori2、repE及びparABと定義される。これらの遺伝要素の供給源及び配列は当該分野で容易に入手できる。すなわち、例えば、ori2はF因子から、或いはF因子に基づく、又はori2を含有する任意の他のプラスミド又はベクターから入手することができる。parABは、任意の適切な供給源、例えば、上記F因子、或いは任意のF因子系又はF因子由来のプラスミド又はベクター、或いはそれどころか、必ずしもF因子由来である必要のないparAB遺伝子を含有する任意のベクター又はプラスミドから得ることができる。例えば、P1も使用できるであろうparAB遺伝子を有する。エピセンターテクノロジーズ社(Epicentre Technologies)製のpCC1 BAC及びフォスミドベクターは、使用できるであろうori2及びparABを有する。ori2及びrepEは、F因子の一方向性複製を媒介するのに対し、parA及びparBはコピー数を大腸菌ゲノム当たり1又は2に維持する。さらに、Fレプリコンは、別の安定化機能遺伝子parC及び/又はredFを含む。従って、本発明の好ましい実施態様として、本発明のベクターは、ori2、repE及びparABを含むBACベクター、より詳細には、ori2、repE、parABC及び任意選択的にredFを含むBACベクターである。
【0019】
別の実施態様として、本発明のベクターは、BACのサブセットと見なすことができるP1由来人工染色体PAC(イオアノウ(Ioannou)ら、1994年、ネイチャージェネティクス(Nat Genet)6:p.84−89; スターンバーグ(Sternberg)1990年、PNAS、87:p.103−107)をベースにすることができる。PACは、バクテリオファージP1の複製起点をベースにしているのでこれを含む。従って、本発明のベクターがPACベクターである場合、上記の特徴(v)の別の複製起点は、このP1複製起点とすることができる。より詳細には、このPACベクターはP1プラスミドのレプリコンを含有する。所望であれば、PACベクターはさらに、ベクター及びクローニングしたDNAをファージ粒子中にパッケージングするためのP1パッケージング部位(pac)並びにパッケージングしたDNAを(P1 Creリコンビナーゼを有する適切な大腸菌宿主にある時に)環化するための2箇所のP1 loxP組換え部位を含む。この場合も、このような遺伝要素の供給源及び配列は容易に入手可能であり、文献に記載されている。
【0020】
上記の別の、即ち、第2の複製起点によってわずか1又は2の低コピー数での上記ベクターの複製が可能となる。上述のように、この起点はori2又はP1の複製起点とすることができる。しかしながら、これは、最適な最初の宿主内で上記ベクターが低コピー数で複製するのを可能にする任意の起点とすることができる。さらに下記で説明するが、本発明のベクターは通常、選択した宿主内でクローニングした挿入断片のライブラリを最初に確立するのに用いることができる。このライブラリは、次いで、その最初の、即ち、第1の宿主から1種以上の宿主、好ましくは広範囲の宿主に伝達させることができる。RK2の起点oriVは広宿主範囲の起点であり、上記ベクターに広宿主範囲性を付与する。しかしながら、oriVはtrfAを必要とし、これが上記ベクターに存在しないので、宿主に対し、自然に存在しなければ、別途供給しなければならない。従って、trfAの非存在下では、複製は上記第2の、即ち、別の起点から起こるのみとなる。このため、この起点は、上記ライブラリの最初の構築のために選んだ宿主において機能するように選択することができる。大腸菌は一般にそのような最初の宿主として好ましい宿主であることから、上記の別の起点は大腸菌内で機能できることが好ましい。低コピー数で発現されたベクターはより安定であると考えられることから、この起点が低コピー数であることは本発明の実施において有利であると考えられ、この場合、第1の、即ち、最初の宿主はクローニングDNAの「補給基地」として機能する、即ち、このDNAは、最初に、そのベクターが導入された第1の宿主内で低コピー数でクローニングされた後、より高い(例えば、中程度の)コピー数で他の宿主に伝達されると考えられる。
【0021】
本発明のベクターは、oriV、oriT及びparDEをはじめとしてRK2プラスミドのいくつかの機能又は特徴を有する。RK2は、広範囲のグラム陰性細菌において複製することができることでよく知られているIncP不和合性群のよく特性の分かった天然の60Kb自己伝達性プラスミド(非特許文献8)である。RK2の最小複製単位は、2種の遺伝要素、即ち、増殖期複製の起点(oriV)、及びoriV内の短い繰り返し配列(イテロン)に結合する必須開始蛋白質(TrfA)をコードしている遺伝子(trfA)からなることが明らかにされている(シュミットハウアー(Schmidhauser)及びヘリンスキ(Helinski)、1985年、ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J. Bacteriol.)164:p.446−455; ペリー(Perri)ら、1991年、ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J. Biol. Chem.)266:p.12536−12543)。この最小複製単位はいわゆる「RK2最小レプリコン」と呼ばれており、文献で広範に特性化され、研究されている。広範囲のレプリコン(「ミニRK2レプリコン」と呼ばれている)、及び上記RK2最小レプリコン又は上記RK2プラスミドの誘導体をベースとしたクローニングベクターが調製され、文献に記載されている(例えば、リー(Li)ら、1995年、ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J. Bacteriol.)177:p.6866−6873; モリス(Morris)ら、ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J. Bacteriol.)177:p.6825−6831; フランクリン(Franklin)及びスプーナー(Spooner)、「グラム陰性細菌の広宿主域プラスミド」(トーマス(Thomas)C.M.編)第10章、p.247−265、アカデミックプレス(ロンドン)社、ロンドン; ホーガン(Haugan)ら、1992年、ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J. Bacteriol.)174:p.7026−7032; バラ(Valla)ら、1991年、プラスミド(Plasmid)25:p.131−136; ブラトニー(Blatny)ら、1997年、アプライド・エンバイロンメンタル・マイクロバイオロジー(Appl Environ Microbiol)63:p.370−379; ブラトニー(Blatny)ら、1997年、プラスミド(Plasmid)38:p.35−51; サントス(Santos)ら、2001年、FEMSマイクロバイオロジー・レターズ(FEMS Microbiol. Lett.)195:p.91−96参照)。さらに、RK2の完全なヌクレオチド配列が報告されている(パンセグロウ(Pansegrau)ら、1994年、ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(J. Mol. Biol.)239:p.623−633)。parDE遺伝子は、種々の細菌宿主における上記プラスミド又は異種レプリコンの維持に関与するRK2のオペロンの一部である(ロバーツ(Roberts)ら、1990年、ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J. Bacteriol.)172:p.6204−6216; シュミットハウアー(Schmidhauser)及びヘリンスキ(Helinski)、前掲; サイア(Sia)ら、1995年、ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J. Bacteriol.)177:p.2789−2797; ロバーツ(Roberts)ら、1992年、ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J. Bacteriol.)174:p.8119−8132)。従って、RK2最小レプリコン及び他のRK2要素の供給源はよく確立されており、容易に利用可能である。それ故、例えば、RK2のoriV、oriT又はparDEは、親のプラスミドRK2から、或いは文献(例えば、リー(Li)ら、モリス(Morris)ら、フランクリン(Franklin)及びスプーナー(Spooner)、ホーガン(Haugan)ら、バラ(Valla)ら、ブラトニー(Blatny)ら、前掲)に記載され、入手可能なその膨大な数の誘導体又はミニRK2プラスミドから得ることができる。RK2 oriVを含有するBAC及びフォスミドベクターも入手可能であり(例えば、エピセンター社(Epicentre)製pCC1BAC及びpCC1FOS)、これらは、下記の実施例1でさらに説明するように、出発又は原料プラスミドとして用いることができる。これら個々のRK2要素は、同じ原料から同時又は別々に、或いは別々の原料から単離することができる。
【0022】
選んだ原料から必要なRK2の要素又は機能を有する所望のヌクレオチド配列を切り出し、これをベクター又は中間構築物中に導入する技術については当該分野では周知で、標準的なものであり、例えば、サムブルック(Sambrook)ら、1989年、「分子クローニング:実験用マニュアル(Molecular cloning; a laboratory manual)」、第2版、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス社、コールド・スプリング・ハーバー、ニューヨークに記載されている。
【0023】
下記の実施例でより詳細に説明するが、選んだ原料から所望の配列を単離し、一連の中間構築物(プラスミドであってもよい)に対して要素を導入、付加又は削除して、当該分野で標準的な技術によりこの配列を導入することによって本発明のベクターを得ると便利である。あるいは、既に所望の要素の一部(例えば、下記の実施例1に記載したようなpCC1FOS)を含有する出発プラスミド又はベクターを選ぶことができ、これを修飾して本発明のベクターの別の特徴を導入することができる(例えば、oriT及びparDEの導入によってpCC1FOSを修飾することができる)。
【0024】
本明細書で用いている「oriV」、「trfA」、「oriT」、「parD」、「parE」、「ori2」、「parA」、「parB」、「parC」、「repE」、「redF」などの用語及び任意の他の名付けられた遺伝子又は遺伝要素には、これらが元の、又は親の、又は原型の原料プラスミド中に出現する時の天然又は野生型機能ばかりでなく、例えば、自然界で、例えば、対立遺伝子変異、自然発生的突然変異誘発などにより生じ、或いは合成的にもたらされるヌクレオチドの付加、削除又は置換又はそれどころかヌクレオチドの化学的修飾による上記機能の全ての修飾が含まれる。ヌクレオチド配列を修飾する技術は、標準的で、文献で周知であり、このような技術としては、例えば、突然変異誘発物質又は部位特異的突然変異誘発の利用などの突然変異誘発法が挙げられる。突然変異を導入するのにPCRを用いることもできる。例えば、適切な、又は所望の突然変異は、当該遺伝要素の突然変異体スクリーニングによって選択することができる。
【0025】
本発明のベクターは、さらにクローニング領域(別の言い方をすれば、クローニングセグメント)を含有する。これには、特に、クローニング対象のDNA(即ち、前記「挿入断片」)を導入するための部位を含ませる。従って、このクローニング領域はクローニング部位を含む。便宜上、このようなクローニング部位は1箇所以上の制限部位であってもよく、又はこれらを含んでいてもよい。このような挿入部位は複数、例えば、少なくとも2又は3箇所、最大20箇所以上含有させることができる。例えば、ポリリンカーに2乃至20、3乃至20、2乃至10、3乃至10、3乃至6又は2乃至6箇所などの特異部位を含む、複数の制限部位を含むベクターを構築してもよい。所望の遺伝子を挿入するための好適なクローニング部位については、その構築及び/又は本発明のベクター中への導入のための技術と同様、当該分野で周知であり、文献に広く記載されている(例えば、サムブルック(Sambrook)ら、前掲)。
【0026】
構築しやすいように、適切なクローニング部位は、当該分野で標準的である核酸操作技術を用いてポリリンカーの形で導入することができる。各種の好適なポリリンカー配列が当該分野で公知であり、これにより上記ベクターの通常的な使用を簡単にすることができる。従って、例えば、ディッタ(Ditta)ら、1985年、プラスミド、13:p.149−153のベクターにおいて記載されているような周知のポリリンカー/lacZ領域を用いることができ、その結果、選択手順が周知であるlacZを利用した青/白選択方法を使用することにより、標準的なクローニング手順及び挿入断片含有プラスミドの確認を簡単にすることができる。
【0027】
従って、例えば、上記クローニング部位としてはBamHI、HindIII及び/又はEcoRlを挙げることができる。これらのような部位は粘着末端クローニングに有用である。例えば、選択又は構築の容易さなどに応じて、任意の好適な制限部位を用いることができる。
【0028】
上記クローニング領域はさらに追加の制限部位、例えば、上記挿入断片に起こりうる切り出しのためのNotI、EagI、XmaI、SmaI、Bg1I、SfiIなどのC+Gリッチ制限部位を含むことができる。これらはクローニング部位を挟むことができる。因みに、このような制限部位は、必要に応じてクローニング部位として用いることもできる。
【0029】
上記クローニング領域は、フォスミドクローニングのためのcos部位、例えば、バクテリオファージλ cosNをさらに含むこともできる。この場合も、適切な供給源及び配列は当該分野で周知である。制限部位、例えば、Eco72Iを平滑末端フォスミドクローニングのために含めることができる。別の実施態様として、上記cos部位はクローニング領域に配置する必要はなく、ベクター内のどこかに配置すればよい。従って、より一般的に言えば、cos部位は、本発明のベクター全般の任意選択機構と考えることができる。
【0030】
フォスミドとBACの複合ベクターは本発明の好ましい形態である。すなわち、本発明のベクターは、cos部位を含有する(containing)、又は含む(comprising)BACベクターであることが好ましい。このようなベクターは、例えば大型又は超大型挿入断片のBACクローニング及び30乃至40kbの小型挿入断片のコスミドクローニングの両方に用いることができる。
【0031】
上記クローニング領域には、さらにCreリコンビナーゼ切断のための1箇所以上のバクテリオファージP1 loxP部位を含有させることができる。
上述したように、本発明のベクターはサイズがわずか15kbである。このベクターの小さなサイズは大型の挿入断片のクローニングを可能にする点で有利である。このベクターのサイズはわずか14、13又は12kbであることが好ましい。
【0032】
さらに有利な特徴は、このベクターがRK2プラスミドのわずか10%、好ましくはわずか9、8又は7%を含有するに過ぎないことである。それどころか、RK2のそのようにわずかを含むに過ぎないベクターが大型挿入断片を含有させるための広宿主範囲プラスミドとして機能することができることは驚くべき特徴である。
【0033】
特定の実施態様として、このベクターにはRK2からのoriV、oriT及びparDE遺伝子又は遺伝要素のみを含有させることができ、他のRK2系又はRK2由来遺伝子又は遺伝要素を含めない。他の実施態様として、parABCを含めることもできる。別の実施態様は、(このベクターがRK2からのparABCを含んでいる、いないにかかわらず)RK2からの1種以上の抗生物質耐性マーカ、例えばテトラサイクリン耐性マーカを含めることができる。
【0034】
本発明のベクターの有利な特徴は、これを用いて前述のような大型又は超大型サイズの挿入断片をクローニングすることができることである。上述のように、「挿入断片」とはクローニングの対象とするDNAである。従って、これはクローニングのためのDNA分子又は断片である。これは、例えば平滑又は粘着末端を有する断片としてクローニングするのに適した任意の形をとることができる。ベクターに導入する挿入断片は、試料、例えば、DNAの供給源、通常微生物などの細胞を含有すると考えられる環境その他の試料から直接得ることができる。すなわち、試料中の細胞をそのまま溶解させることによりこのDNAを抽出又は単離することができる。例えば、溶解緩衝液を直接試料に加えることができる。あるいは、DNAを単離する前に試料からこの細胞(例えば、微生物)を単離又は分離することができる。この方法により、通常大型サイズのDNA断片を単離することが可能となる。この単離したDNA又は他の供給源から得たクローニング用DNAをサイズ分画することによってクローニング用挿入断片を調製することができる。さらに、この単離したDNA又はDNA断片は消化、例えば制限酵素又は他の手段を用いて部分消化することができる。細胞及びDNAの単離、DNAの消化並びにDNA断片のサイズ分画又はサイズ選択のための技術は、当業者には周知であり、文献に広く記載されている。
【0035】
適切な挿入断片を調製した後、これを、例えば、線形化脱リン酸化ベクター中に連結させることにより、ベクター中に導入又は挿入することができる。この場合も、このための手順は当該分野で標準的なものである。
【0036】
前述のように、本発明のベクターを用いて少なくとも12kbの挿入断片をクローニングすることができるが、このベクターは上述のような、少なくとも30kbの大型挿入断片、特に少なくとも80kbの超大型挿入断片をクローニングすることができることが好ましい。
【0037】
前述のように、本発明の利点は、oriVによってベクターを宿主細胞内で中程度以上のコピー数で発現させることが可能となることである。本明細書では中程度のコピー数とは2超、即ち、3以上のコピー数を含むように広く定義されているが、このコピー数(即ち、単一細胞内又は宿主細胞ゲノム当たりのベクターのコピー数)は5以上であることが好ましい。すなわち、より具体的には、「中程度のコピー数」は5以上とすることができる。コピー数はより大きい数、例えば10以上の高コピー数に増加させることができる。従って、このベクターのコピー数は、例えば、5乃至7又は5乃至10、5乃至12、5乃至15、5乃至20、5乃至25、場合によっては7乃至20又は10乃至20又は7乃至25又は10乃至25とすることができる。
【0038】
oriVからの複製には、上記で説明したように、trfA遺伝子が必要である。本発明のベクターにはtrfAは存在しない。従って、oriVからの複製を生じさせるためには、trfA遺伝子を別途供給しなければならない。このことについては下記でさらに論じるが、例えば、エピセンターテクノロジー社(Epicentre Technologies)から入手可能なEP1300(商標)大腸菌細胞におけるように、この遺伝子を発現するように宿主細胞を改良することができる。好都合にも、宿主細胞は誘導的trfA遺伝子を含有することができる。このtrfA遺伝子は、別の(本発明のベクターとは別の)ベクター上に存在させるか、より好ましくは、宿主染色体中に組み込ませることができる。
【0039】
trfA遺伝子中に修飾を導入することによって、前述のように宿主細胞内のベクターのコピー数を増加させ、又は温度感受性の複製を実現することができる。このような修飾については文献に記載されている。大腸菌内のRK2のコピー数は通常、概算で染色体当たり5乃至7プラスミドとなる。しかしながら、大腸菌及び他の細菌の両者において、trfA遺伝子内に一定の点突然変異を生じさせることでこのコピー数を上げることができ、これにより通常よりも最大23倍高いコピー数がもたらされる。このような「コピー数上昇」又は「cop突然変異」については、例えば、デューランド(Durland)ら、1990年、ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J Bacteriol)172:p.3859−3867; ホーガン(Haugan)ら、1992年、前掲; 及びホーガン(Haugan)ら、1995年、プラスミド(Plasmid)33:p.27−39に記載されている。trfA遺伝子内のcop突然変異を用いることによって大腸菌を超えた細菌種において発現を増加させることができる。
【0040】
trfA内のcop突然変異はtrfAのNdeI部位及びSfiI部位の間に局在する傾向があり、cop突然変異体は、trfA遺伝子におけるSfiI/NdeI断片の内部交換及び直接的一段階クローニング法により容易に調製できることが研究の結果分かっている(非特許文献12)。
【0041】
また、本発明のベクターは他の特徴又は要素を有することができる。すなわち、1種以上の選択マーカを存在させて形質転換体の選択を容易にすることができる。好都合にも、2種以上の選択マーカを存在させることができる。多種の選択マーカが当該分野で公知であり、文献に記載されている。これらのうちのいずれをも本発明に従って用いることができ、その例としては、RK2プラスミド及びその誘導体、それどころか任意の他のプラスミドによって保持されている抗生物質耐性マーカが挙げられる。しかしながら、糖利用、プロテイナーゼ産生或いはバクテリオシン産生又は耐性などの性質もマーカとして用いることができる。TOLプラスミドxylE構造遺伝子もマーカとして用いることができる。この遺伝子は、容易に定性的検出又はアッセイができる産物C230をコードしている。1プレートの細菌コロニーにカテコールを噴霧すると、C230コロニーは2−ヒドロキシムコン酸セミアルデヒドの蓄積のために黄変するので、このコロニーが迅速に識別され、ベクター中のxylEの存在によって形質転換体/接合完了体などを迅速に同定することが可能となる。
【0042】
本発明のベクターの構築のための出発又は原料ベクターとして用いるBAC、フォスミド又は他のベクターには好適な選択マーカ、例えば、抗生物質耐性遺伝子をもとから含ませておくことができ、このマーカを保持させることができ、或いはこれを補充又は置換することができる。例えば、BACベクターは通常、クロラムフェニコール耐性遺伝子Cmを含む。これを別の選択マーカ、例えば、別の抗生物質耐性遺伝子、例えば、カナマイシン耐性遺伝子Kmで補充することができる。
【0043】
このベクターは、さらに、例えば、クローニングした挿入断片の研究又は分析を可能または容易にするなどの他の特徴を有することができる。すなわち、このベクターには、配列決定、例えば、BAC末端配列決定のためのプライマ結合部位を含有させることができる。
【0044】
このベクターには、さらに、稀少切断酵素(very rare-cutting enzyme)によって切断することができるクローニング領域を挟む部位を任意選択的に含有させることができる。このような酵素は市販されていることが知られている。このため、標準的な酵素により生成される挿入断片の解釈は、ベクター部分が常に既知のバンドと一緒に出てくると考えられるので、簡単になる。
【0045】
このクローニングした挿入断片は発現させることが望ましいと考えられる。一般に、大型の挿入断片にはその内部に遺伝子の発現に必要な要素(例えば、プロモータ、リボソーム結合部位など)を含有させることができるが、本発明のベクターには挿入断片の発現のための1種以上の発現制御要素を含有させることが望ましいと考えられる。すなわち、本発明のベクターには、さらに、遺伝子発現のための調節機能及び/又はエンハンサー機能、例えば、開始又は停止コドンなどの転写又は翻訳制御配列、転写イニシエータ又はターミネータ、プロモータ、リボソーム結合部位などを含有させることができる。
【0046】
本発明のベクターの利点はその特性が機能的及び構造的に完全に明らかにされていることにある。すなわち、このベクターはその配列を完全に決定することができる。
前述したように、oriVからのベクターの複製を生じさせるためには、宿主はtrfA遺伝子を含有するか宿主にこれを供給しなければならない。これは、別のベクターによって宿主に供給することができ、好ましくは、このtrfA遺伝子を宿主の染色体中に挿入する。別のベクターはこれを実現できるようにデザインすることができる。
【0047】
従って、本発明は、さらに、DNAのクローニング用のベクター系であって、本発明のクローニングベクターである第1のベクター及びRK2のtrfA遺伝子を含む第2のベクターを含むベクター系を提供する。
【0048】
この第2のベクターによって宿主におけるtrfAの発現が可能となる。この第2のベクターは、例えば、自己複製要素として宿主中に導入することができるプラスミド又は他のベクターとすることができるが、これは宿主染色体中へのtrfA遺伝子の組込みを可能にするものであることが好ましい。この第2のベクターにはトランスポゾンを含有させることが好ましい。例えば、trfA遺伝子を自殺トランスポゾンベクター中にクローニングすることができる。この第2のベクターにはtrfA遺伝子の発現のための発現制御要素、例えば、プロモータなどの転写制御要素を含有させることができる。好都合にも、trfA遺伝子は誘導プロモータ、例えばPm又はその突然変異体の制御下に置くことができる。このようにすることによりこの遺伝子の発現を制御することができる。上記第2のベクターには、さらに形質転換体の選択のための選択マーカを含有させることができる。
【0049】
このようなトランスポゾンベクターの調製のための技術は、例えば電気穿孔法により宿主細胞中にベクターを導入するための技術と同様に、当該分野では周知である。
上記クローニングベクターは、標準的な形質転換技術、例えば、熱ショック形質転換によって宿主細胞中に導入することができる。クローニングベクターを宿主細胞中に導入する方法、特に、細菌の形質転換法については当該分野で周知であり、例えばサムブルック(Sambrook)ら(前掲)を含め、広く文献に記載されている。電気穿孔技術についても周知であり、広く記載されている。
【0050】
本発明のクローニングベクターはRK2プラスミド系と見なすことができる。本発明のベクターの本質的な用途はメタゲノムクローニングにある。従って、それに沿って、大まかにみると、本発明の概念は、メタゲノムクローニング用広宿主範囲ベクターの構築のためにRK2レプリコン、特にoriVを使用することと見なすことができる。
【0051】
本発明のクローニングベクターによって、大型挿入断片を高コピー数でクローニングすることができる広範囲の宿主においてメタゲノムライブラリを構築することが可能となる。従って、大まかに言って、本発明は、メタゲノムクローニング用RK2系クローニングベクターであって、広範囲の宿主において高コピー数で大型挿入断片をクローニングすることができるクローニングベクターを提供するものであることも分かる。
【0052】
本発明の実施に際しては、DNAは、上述したように、所望の供給源、例えば、環境試料から得て単離することができ、クローニングベクター中に挿入するためのDNA断片は、標準的な技術を用いて調製し、挿入することができる。次に、このようにして調製した、即ち、挿入断片を含有するクローニングベクターを所望の細菌宿主細胞中に、例えば、形質転換によって導入することができる。この工程のための宿主細胞は任意の所望の宿主細胞とすることができ、そのベクターは1種以上の宿主細胞、例えば、種々の所望宿主中に導入することができる。次いで、この宿主を増殖又は培養してクローニングした挿入断片のライブラリを作製する。例えば、この形質転換した宿主細胞のコロニーを平板培養することができる。好ましくは、この最初のライブラリ構築の工程は単一宿主細胞で行い、その後、このライブラリを接合伝達により、即ち、そのベクターのoriTを用いて種々の他の宿主細胞に伝達させる。このような伝達用宿主はtrfAを含有するように選択又は修飾する。
【0053】
最初のライブラリ構築用の宿主細胞は任意の所望宿主細胞とすることができるが、大腸菌とするのが好都合である。上記ベクターの第2の起点は、最初のライブラリ構築用の宿主細胞内で機能するように選択する。従って、この第2の起点は大腸菌内で機能できる起点とすることができる。例えば、この第2の起点はori2とするのが好都合である。好都合なことに、trfA遺伝子は、このクローニングベクターが導入される(即ち、ライブラリが最初に構築される)第1の宿主では発現されない。従って、この第1の宿主はtrfAを含有しないと考えられ、又は、これが存在しても発現されない、例えば、これが誘導されない誘導プロモータの制御下にあり、又はこれが温度感受性突然変異体などである。従って、この第1、又は1次(primary)宿主では、このベクターは第2の起点から複製し、それ故、わずか1又は2のコピー数で存在する。
【0054】
次に、このライブラリを第2又は「2次(secondary)」宿主に伝達させることができる。2次宿主は、1種以上、好ましくは複数種、例えば、2種以上、さらに好ましくは3、4、5、6、8、9又は10種以上を用いることができる。これは、標準的な技術を用い、接合交配(conjugative mating)により達成することができる。次いで、この交配させた2次宿主を培養することができる。前述のように、この2次宿主はtrfAを含有する。従って、こうした宿主では、そのクローニングベクターはoriVから、従って、中又は高コピー数で複製させることができる。従って、本発明によって、クローニングした挿入断片の遺伝子量を広い宿主範囲で増加させることができる。すなわち、ライブラリを先ず低コピー数で、例えば、1次宿主において作製した後、これを各種宿主に伝達させ、コピー数を増加させる。
【0055】
従って、別の態様として、本発明は、DNAをクローニングする方法であって、
(i) このDNAを上記に定義したようなクローニングベクター中に導入し、
(ii) このクローニングベクターを第1の細菌宿主細胞、好ましくは大腸菌中に導入し、
(iii) この第1の宿主細胞を培養することによって上記DNAをクローニングし、
(iv) このクローニングしたDNAを1種以上の2次宿主に伝達させる
ことを含む方法を提供する。
【0056】
より詳細には、上記第1の宿主ではそのベクターは上記別の(即ち、第2の)複製起点から複製し、上記2次宿主に伝達されると、このベクターはoriVから複製する。従って、trfAはこの2次宿主では発現されるが、第1の宿主では発現されない。
【0057】
別の見方をすると、本発明は、DNAのクローンのライブラリを調製する方法であって、
(i) このDNAを上記に定義したようなクローニングベクター中に導入し、
(ii) このクローニングベクターを第1の細菌宿主細胞、好ましくは大腸菌中に導入し、
(iii) この第1の宿主細胞を培養することによって上記DNAのクローンの第1のライブラリを調製し、
(iv) この第1のライブラリを1種以上の2次宿主中に伝達させて1種以上の2次ライブラリを調製する
ことを含む方法を提供する。
【0058】
新たな宿主へのoriT媒介性接合の可動化にはtra遺伝子群が必要となる。第1の宿主細胞がこれらの遺伝子を含有していない場合には、これらを(例えば、第1のクローニング工程の前に第1の宿主細胞中に)導入するか、最初にクローニングベクターを第1の宿主細胞からその後の接合による伝達のための中間宿主中に伝達させることが必要と考えられる。従って、第1のクローニング工程からのベクターはそのような中間宿主中に形質転換することができる。従って、クローニングしたDNA/ライブラリを伝達する工程は、このクローニングしたDNA/ライブラリを含有するベクターを中間宿主中に導入し、クローニングしたDNA/ライブラリをこの中間宿主から上記2次宿主へ伝達する工程を含むことができる。
【0059】
本発明を下記の実施例でさらに詳細に説明する(あわせて図面参照)。
【実施例1】
【0060】
材料及び方法
−細菌菌株、プラスミド及び成長培地
本研究に用いた細菌株及びプラスミドを表1に記載した。大腸菌株は37℃でルリア−バータニ(Luria-Bertani)(LB)培地中又はL寒天上で増殖させた。シュードモナス−フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)及びザントモナス−カンペストリス(Xanthomonas campestris)株は、LB中又はディフコ(Difco)PIA寒天上(P.フルオレッセンス)及びYMブロス中又はYM寒天上(X.カンペストリス)30℃で増殖させた。(関係する場合)抗生物質を以下の濃度で用いた:クロラムフェニコール12.5μg/ml(大腸菌)、30μg/ml(X.カンペストリス);カナマイシン50μg/ml(大腸菌及びX.カンペストリス);テトラサイクリン10μg/ml(大腸菌)、15μg/ml(X.カンペストリス)又は25μg/ml(P.フルオレッセンス)。大腸菌における挿入断片を含むクローンの青/白選択に5−ブロモ−4−クロロ−3−インドイル−β−D−ガラクトピラノシド(X−gal)及びイソプロピル−β−D−チオガラクトシド(IPTG)を用いた。EPI300中のクローンは、エピセンター社のコピー・コントロール・フォスミド・ライブラリ・プロダクション・キット(Copy Control Fosmid Library Production Kit)からの溶液を用い、L−アラビノース誘導により単一コピー数から高コピー数に転換させた。PmG5からのtrfAの発現は0.5mMのm−トルイル酸塩の添加により誘導した。
【0061】
−標準的なDNA操作
サムブルック(Sambrook)及びラッセル(Russel)、2001年、「分子クローニング:実験用マニュアル(Molecular cloning; a laboratory manual)」、第3版、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス社、コールド・スプリング・ハーバー、ニューヨークの方法に従って、又は市販のキットを用いることによってアガロースゲル電気泳動及び通常のDNA操作を行った。DNAの配列決定は、ビッグ−ダイ・ターミネータv1.1サイクル・キット(Big-Dye Terminator v1.1 Cycle kit)(アプライド・バイオシステムズ社(Applied Biosystems))を用いて又はMWG−バイオテク(Biotech)AGによって実施した。
【0062】
−ベクター構築、形質転換及び接合交配
pCC1FOSにparDEoriT領域及びカナマイシン耐性遺伝子を導入することにより、フォスミド及びBACクローニング用の広宿主範囲ベクター(pRS44)を構築した。このベクターのヌクレオチド配列全体が既知である。大腸菌S17.1(λpir)(デ・ロレンゾ(De Lorenzo)ら、1993年、ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J Bacteriol)175:p.6902−6907)を宿主として用い、pKD20(バッケビグ(Bakkevig)ら、ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J Bacteriol)187:p.8375−8384)中にtrfA及びテトラサイクリン耐性遺伝子をクローニングすることにより、自殺トランスポゾンベクターpRS48を構築した。更なる詳細については表1を参照されたい。
【0063】
サムブルック(Sambrook)及びラッセル(Russel)(サムブルック及びラッセル、2001年)により大腸菌で報告されているような標準的な電気穿孔法(13V/cm、100オーム、25μF)によってエレクトロコンピーテントP.フルオレッセンスNCIMB10525及びX.カンペストリスB100−152(ヘッテ(Hoette)ら、1990年、ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J Bacteriol)172:p.2804−2807)の染色体中にpRS48のトランスポゾンを挿入し、NCIMB10525::TnRS48及びB100−152::TnRS48と命名した形質転換体をテトラサイクリン含有PIA又はYM寒天上で選択した。pRS44由来クローンは、標準的な熱ショック形質転換(チェン(Chung)ら、1989年、プロシーディングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ(Pro. Natl. Acad Sci)USA、86:p.2172−2175)により大腸菌S17.1(シモン(Simon)ら、1983年、バイオ/テクノロジー(Bio/Technology)1:p.784−79)中に形質転換した。
【0064】
接合交配は30℃で一晩、抗生物質選択なしにL寒天上で実施した。次いで、こうした混合物をカナマイシン含有PIA上で(P.フルオレッセンス)又はテトラサイクリン及びクロラムフェニコール含有YM寒天上で(X.カンペストリス)平板培養した後、それぞれ48及び72時間、30℃でインキュベートした。
【0065】
ウィザード・プラスSVミニプレプス(Wizard Plus SV Minipreps)(プロメガ社(Promega))によってP.フルオレッセンス及びX.カンペストリスの培養物からプラスミドを単離し、電気穿孔法によりEPI300中に導入した(13V/cm、100オーム、25μF)。
【0066】
−試料収集及びDNA抽出
トロンヘイムス(Trondheims)フィヨルド(ノルウェー)に沿った6箇所の異なる場所の表面ミクロレイヤーからの水を、基本的にギャレット(Garrett)(ギャレット、1965年、リムノロジー・アンド・オーシャノグラフィー(Limnol and Oceanogr)10:p.602−605)により報告されているようにして、2004年7月から10月までの期間に収集した。先ず、各20乃至25リットルの試料を250μmグリッドに通して前濾過して最大粒子を除去した後、孔径60μmのナイロンフィルター(ミリポア社(Millipore))に通して濾過した。この濾過液は、先ずペリコン(Pellicon)XL50限外ろ過装置を用いてタンジェント流濾過を行い、次いでアミコン(Amicon)攪拌セル(ミリポア社)でさらに濃縮することによって、2段階濃縮した。次に、試料を2×STE緩衝液(1M NaCl、0.1M NaEDTA、10mMトリス−HCl、pH8.0)で希釈して150乃至250μg/mlの最終DNA濃度を得た。この細胞懸濁液を等容量の2%InCertアガロース(キャンブレックス社(Cambrex))のPBS緩衝液(0.8% NaCl、0.02% KCl、0.144% NaHPO、0.024% KHPO、pH7.4)溶液と混合し、アガロースプラグを使い捨てプラグモールド(バイオラド社)で成形した。
【0067】
スタイン(Stein)らの方法(スタインら、アーケオン(Archaeon)、ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J Bacteriol)178:p.591−599)の変法によって高分子量DNAを抽出した。上記アガロースプラグを25mlの溶解緩衝液(10mMトリス−HCl、50mM NaCl、0.1mM NaEDTA、1% N−ラウロイルサルコシンナトリウム塩、0.2%デオキシコール酸ナトリウム、1mg/ml リゾチーム、pH8.0)に3時間溶解させた。このプラグを25ml EPS緩衝液(1%N−ラウロイルサルコシンナトリウム塩及び1mg/mlプロテインキナーゼKの0.5M NaEDTA溶液、pH8)に移し、55℃で16時間インキュベートした。次いで、プロテインキナーゼKを不活化し、オソエガワ(Osoegawa)ら(1999年、「細菌人工染色体(BAC/PAC)ライブラリの構築」(Construction of bacterial artificial chromosome (BAC/PAC) libraries.)、ヒト遺伝学における最新のプロトコル(Current Protocols in Human Genetics)(ドラコポリ(Dracopoli)NC、ハインズ(Haines)JL、コルフ(Korf)BR、モートン(Morton)CC、サイドマン(Seidman)CE、サイドマン(Seidman)JG及びスミス(Smith)DR編)ユニット5.15、ワイリー、ニューヨーク)により報告されているようにして、プラグを透析し、貯蔵した。
【0068】
−遺伝子ライブラリの構築
小型挿入断片ライブラリは、Sau3AIで部分消化した環境DNAを多コピープラスミドベクターpLitmus28のBamHI部位にランダムにクローニングすることにより作製した。これらの挿入断片は部分的に配列を決定し、BLASTアルゴリズムを用いて位置合わせした。フォスミドライブラリは、基本的に、エピセンター社のコピー・コントロール・フォスミド・ライブラリ・プロダクション・キットプロトコルに記載されている手順に従って構築した。
【0069】
結果及び考察
−広宿主範囲メタゲノムベクター系の構築
市販のpCC1FOSベクターを開始点として用いて広宿主範囲フォスミド及びBACベクター(pRS44、図1)を構築した。pCC1FOSは、2つの複製起点、F因子起点(ori2)及びRK2からのoriVを有する。ori2は大腸菌内で機能し、この宿主内でのライブラリの構築時に作動するが、多くの他の宿主では作動しない。oriVは、対象宿主で複製開始蛋白質TrfAを発現させることにより活性化させることができる。我々がここで用いた戦略は、pCC1FOSに接合伝達の起点(oriT)を導入して非大腸菌宿主への接合を可能にすることである。また、我々はRK2からの安定化要素parDEを挿入して、大型挿入断片を含む組換えプラスミドが新たな宿主から失われる確率を低下させた。最後に、カナマイシン耐性遺伝子を挿入して、一部の宿主で有用となる可能性のある別の選択マーカを設けた。BamHI部位は粘着末端BACクローニングに有用であるのに対して、Eco72I部位は平滑末端フォスミドクローニングに用いる。青/白スクリーニング用のlac系はpCC1FOSから保持した。
【0070】
非大腸菌宿主においてtrfAの組込みが容易となるように、我々は、TrfA蛋白質を発現するトランスポゾンTn5の誘導体の挿入を容易にする自殺ベクター(pRS48、図1)を構築した。この蛋白質は、多くの宿主で作動することが知られている、Pmの突然変異誘導体である誘導PmG5プロモータから発現される(マーモッド(Mermod)ら、1986年、ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J Bacteriol)167:p.447−454; ラモス(Ramos)ら、1988年、FEBSレターズ(FEBS Lett)226:p.241−246; ケイル及びケイル(Keil & Keil)、1992年、プラスミド(Plasmid)27:p.191−199)。さらに、この誘導性によって産生されるTrfAの量を加減することが可能となる。pRS48は、プラスミドR6K起点oriR6Kの複製開始に必要なPir蛋白質を発現する大腸菌株S17.1λ(pir)内で複製する(デ・ロレンゾ(De Lorenzo)ら、1993年、前掲)。
【0071】
−選択の非存在下におけるプラスミドの安定性
プラスミドの安定性は、ここに記載したメタゲノムクローニングベクターが機能する上で決定的なものとなる可能性があり、これを定量化するために、我々は、これが大腸菌EPI300で抗生物質選択の非存在下に失われる割合を測定した(図2)。この実験の対照として、我々は天然RK2プラスミド及びpCC1FOSを用いた。伝達の繰り返しを行って、実験室スケールのバッチ培養で生じる世代数をはるかに超える数字である約230の世代にわたって増殖をモニターした。この実験から、pCC1FOSではプラスミドの損失を容易に検出することができるが、pRS44及び36kbの対照DNA挿入断片を含有するその誘導体(pRS49)は共に、全RK2と同様、顕著に安定であることが分かった。従って、この実験から、parDEをこのベクターに導入することの適切性が明瞭に確認された。
【0072】
−pRS44におけるメタゲノムライブラリの構築
最初の実験から、上記市販ベクターの対照として用いた36kbの標準挿入断片はpRS44ではpCC1FOSと同様な頻度で大腸菌内にパッケージされ、定着することが分かった。しかしながら、我々は環境からのDNAを含むベクターを調べたいと思った。何故なら、そのような試料からのDNAをクローニングするのは困難又は非効率な場合があることはよく知られているからであり、また、我々が、新たな宿主における環境DNA挿入断片の挙動を調べたいと思ったからである。我々の研究室では、海洋表層からの微生物の研究を含むプロジェクトが進行中であるが、この表層はその下の水よりもはるかに高濃度の有機物及び細菌を含有していることがこれまでに分かっている。従って、我々は、そのようなDNA試料を用いてこのベクター系を試験することにした。
【0073】
入手できるDNA試料が実際に環境細菌に由来するものであることを確認するために、我々は先ず、標準高コピー数クローニングベクターpLitmus28を用いて大腸菌内に小型挿入断片ライブラリを構築した。このライブラリからの91クローンについて挿入断片末端の1つから配列決定を行い、続いてBLASTホモロジー検索によって解析した。この解析の結果、これらの配列の18.7%が上記データベースに存在する他の配列に対して有意なヒットを示さず(E値>1)、32.9%はE値がe−10乃至1、ヒットの48%ではE値は<e−10であった。最良のBLASTヒットのうちの10例を表2に示した。これらのデータから、これらのヒットは全て細菌に対するものであり、そのうちのいくつかは海洋環境に通常存在するものである(デロング、2005年、前掲)。従って、これらの結果は、このDNA試料が主として海洋細菌に由来するとの仮定と整合するが、これは、一見そう思われるほど必ずしも自明ではない結論である(デロング、2005年、前掲)。
【0074】
次に、海洋表面ミクロ層からのDNAを用いてpRS44中に小型フォスミドライブラリ(約400クローン)を構築した。これらのクローンのうちの16クローンの制限消化分析によって、挿入断片サイズは約20から35kbまでの範囲で変動することが示された。制限パターンはいずれも同じものはなく、これらのクローンが同胞種ではないことが分かった(データ示さず)。従って、この小型のライブラリは、大腸菌以外の宿主への伝達という概念を検証するのに十分であった。
【0075】
−環境DNA含有プラスミドの大腸菌からP.フルオレッセンス及びX.カンペストリスへの伝達
大腸菌株EPI300は、新たな宿主へのoriT媒介性接合を可動化するのに必要なtra遺伝子群を含有しておらず、このため、上記ライブラリからの選択プラスミドは先ず、RK2のtra遺伝子群が染色体に組み込まれているS17.1株中に形質転換する。このライブラリを原料DNAとして用いて多数の形質転換体を得ることは容易であるので、この付加的な工程はプラスミドの大型ライブラリから新たな宿主への後の伝達に対して制約とはならないことが分かった。
【0076】
このライブラリからのプラスミドを2種の選択宿主、P.フルオレッセンス及びX.カンペストリスへ伝達する前に、(trfA遺伝子を含む)pRS48のトランスポゾンを電気穿孔法によりその染色体中に挿入した。次いで、こうしたライブラリプラスミドをこれらの宿主に接合伝達して複製させることができた。カナマイシン(P.フルオレッセンス)及びクロラムフェニコール(X.カンペストリス)耐性クローンが高頻度で得られ、超大型ライブラリを容易に伝達することができたことが明らかとなった。個別の接合完了体からプラスミドを単離し、これを大腸菌EPI300中に再形質転換し、HindIIIで消化してアガロースゲル電気泳動により分析した(図3)。
【0077】
レーン1、2及び3は、62と命名したランダムに選択したプラスミドでは消化物が上記2種の非大腸菌宿主の継代の前後で同一であったことを示している。しかしながら、より多くのこのような検討により、このケースは一般的に何が生じるかについて過度に単純化したものであることが明白に示された。レーン5、6及び7は、P.フルオレッセンスの継代後に得られたバンドのパターンが、別のプラスミド(83と命名)では、これらが全てライブラリ中の同じ大腸菌クローンに由来するにもかかわらず、同じではないことを示している。レーン8及び9は、X.カンペストリスから大腸菌に戻して形質転換したプラスミド83の消化物を示している。レーン8のプラスミドは、伝達前のプラスミド83のそれと同一と思われるが、レーン9のプラスミドは伝達中又は後に明らかに変化している。興味深いことに、消化パターンを観察した結果、全ての場合でこの構造上の修飾はプラスミドサイズの増加を伴うことが分かった。
【0078】
クローン83がその元の形及び同一の宿主からの修飾された形のいずれにおいても維持され得た(レーン8及び9)という事実は不可解なものであると考えられた。また、3番目の例は別のかなり驚くべき観察を例示している。レーン10は、P.フルオレッセンス及びX.カンペストリスへの伝達前の、37と命名したプラスミドの制限断片パターンを示している。伝達及び大腸菌への再形質転換後、いくつかの異なるパターンが観察されたが、3つの例を選んでレーン11乃至13に示した。(P.フルオレッセンスからの)レーン11のプラスミドのバンドパターンは伝達前のそれ(レーン10)と区別することはできなかったが、(P.フルオレッセンスからの)レーン12及び(X.カンペストリスからの)レーン13のものは明らかに異なっている。この場合も、プラスミドサイズは増大したが、これらのプラスミドが2つの異なる菌種を継代したにもかかわらず、上記修飾が同じであるように見えるのはさらに興味深いことである。
【0079】
−メタゲノム研究における最小RK2レプリコンの使用に関する結果の意味
ここに報告した実験結果から、上記広宿主範囲ベクターは、これに大型の挿入断片を含有させても極めて安定的に維持され、恐らくほとんど全てのグラム陰性宿主にこれを伝達させることができることが分かる。また、我々は、λパッキングによって限定されるものより大きなサイズの挿入断片をpRS44が含有する能力について調べる予備的な試みを行った。こうした実験からこれまでに、大腸菌内にサイズが少なくとも80kbのpRS44誘導体を安定的に維持することができたこと(データ示さず)、このことは、確立されている狭宿主範囲BACベクターに特有な挿入断片サイズを有するメタゲノムライブラリの構築に上記RK2レプリコン系を用いることができることを示していることが分かった。ここに提示した結果から、上記のプラスミドは新たな宿主を継代中に変化することが極めて多いようであることが分かる。興味深いことに、プラスミド構造が修飾されることについては、これまでにもS17.1株を用いた接合実験で認められている(プリーファ(Priefer)ら、1985年、ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J Bacteriol)163:p.324−330)。こうした修飾は任意の特定クローンの全ての伝達で生じるわけではないので、この問題は、他の方法で必要とされると考えられるよりも多数の接合完了体を単純にスクリーニングすることにより解決することができる。
【0080】
これまで調べた全てのケースで、プラスミドの修飾は挿入(全サイズの増大)を伴ったが、興味深いことに、我々は、最近DNA配列決定により、追加のDNAは常にドナー大腸菌株に由来するものであることが分かった(データ示さず)。このことは、上記問題はレシピエントの細菌と関係があるのではなく、接合過程でドナーに生じる事象の結果である可能性が高いことを意味している。この仮定に基づくと、これらのプラスミドが、2つの異なる菌種を継代した後、どのようにして同じように修飾され得た(図3、レーン12及び13)のかを理解することもよりたやすいように思われる。従って、こうした修飾が大腸菌内でどのようにして生じるのかを研究することによって、そうした問題をなくすことが可能となるはずである。従って、現在、そのような実験が我々の研究室で進行中である。
【0081】
【表1−1】

【0082】
【表1−2】

【0083】
バッケビグ(Bakkevig)K、シュレッタ(Sletta)H、ギメスタッド(Gimmestad)M、オーネ(Aune)R、エーテスバグ(Ertesvag)H、デグネス(Degnes)K、クリステンセン(Christensen)BE、エリングセン(Ellingsen)TE及びバラ(Valla)S(2005年)「細胞外環境へ搬出されなかったアルギン酸塩の周辺質の除去におけるシュードモナス−フルオレッセンス・アルギン酸リアーゼ(AlgL)の役割(Role of the Pseudornonas fluorescens alginate lyase (A1gL) in clearing the periplasm of alginates not exported to the extracellular environment.)」ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J Bacteriol)187:p.8375−8384
ブラトニー(Blatny)JM、ブロータセット(Brautaset)T、ウィンター−ラーセン(Winther-Larsen)HC、ホーガン(Haugan)K及びバラ(Valla)S(1997年a)「RK2レプリコンを利用した汎用性のある1組の広宿主範囲クローニング及び発現ベクターの構築並びに使用(Construction and use of a versatile set of broad-host-range cloning and expression vectors based on the RK2 replicon.)」アプライド・エンバイロンメンタル・マイクロバイオロジー(Appl Environ Microbiol)63:p.370−379
ブラトニー(Blatny)JM、ブロータセット(Brautaset)T、ウィンター−ラーセン(Winther-Larsen)HC、カルナカラン(Karunakaran)P及びバラ(Valla)S(1997年b)「グラム陰性細菌において遺伝子発現レベルを上下に調節するのに有用な改良広宿主範囲RK2ベクター(Improved broad-host-range RK2 vectors useful for high and low regulated gene expression levels in Gram-negative bacteria.)」プラスミド(Plasmid)38:p.35−51
デ・ロレンゾ(De Lorenzo)V、カーズ(Cases)I、ヘレロ(Herrero)M及びティミス(Timmis)KN(1993年)「経路誘導剤に対するTOLプロモータの初期及び後期反応:lacZ−tetバイシストロニックレポータを含有するシュードモナス・プチダにおけるポストエクスポネンシャルプロモータの同定(Early and late responses of TOL promoters to pathway inducers: identification of postexponential promoters in Pseudomonas putida with lacZ-tet bicistronic reporters.)」ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J Bacteriol)175:p.6902−6907
ギメスタッド(Gimmestad)M、シュレッタ(Sletta)H、カルナカラン(Karunakaran)P、バッケビグ(Bakkevig)K、エーテスバグ(Ertesvag)H、エリングセン(Ellingsen)TE、スクジャック(Skjak)−ブレーク(Braek)G及びバラ(Valla)S(2004年)特許WO2004/011628A1「シュードモナス・フルオレッセンス及びその変異株の新規突然変異株、その産生方法並びにアルギン酸塩製造におけるその使用(New mutant strains of Pseudomonas fuorescens and variant thereof, methods for their production, and uses thereof in alginate production.)」
ヘッテ(Hoette)B、ラート−アーノルド(Rath-Arnold)I、ピューラー(Puehler)A及びシモン(Simon)R(1990年)「ザントモナス−カンペストリスpv.カンペトリスにおけるエキソポリサッカライド産生に関与する35.3−キロベースDNA領域のクローニング及び解析(Cloning and analysis of a 35.3-kilobase DNA region involved in exopolysaccharide production in Xanthomonas campestris pv. campetris.)」ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J Bacteriol)172:p.2804−2807
パンセグロウ(Pansegrau)W、ランカ(Lanka)E、バルト(Barth)PT、フィグルスキー(Figurski)DH、ギネイ(Guiney)DG、ハース(Haas)D、ヘリンスキー(Helinski)DR、シュワブ(Shwab)H、スタニッシ(Stanisich)VA及びトーマス(Thomas)CM(1994年)「バーミンガムIncPαプラスミドの完全ヌクレオチド配列−編集及び比較分析(Complete nucleotide sequence of Birmingham IncPα plasmids - compilation and comparative analysis.)」ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(J. Mol. Biol.)239:p.623−633)
シモン(Simon)R、プリーファ(Priefer)U及びピューラー(Puehler)A(1983年)「インビボ遺伝子操作用広宿主範囲可動化系:グラム陰性細菌におけるトランスポゾン突然変異誘発(A broad host range mobilization system for in vivo genetic engineering: transposon mutagenesis in Gram negative bacteria.)」バイオ/テクノロジー(Bio/Technology)1:p.784−791
【0084】
【表2】

【実施例2】
【0085】

材料及び方法
−細菌株、プラスミド及び成長培地
表3に本研究に用いた細菌株及びプラスミドを記載した。
【0086】
【表3−1】

【0087】
【表3−2】

【0088】
大腸菌株はルリア−ベルターニ(LB)培地中又はL寒天上に37℃で増殖させた。シュードモナス・フルオレッセンスは、LB中又はディフコPIA寒天上に30℃で増殖させた。(関係する場合)抗生物質を以下の濃度で用いた:クロラムフェニコール12.5μg/ml(大腸菌)、カナマイシン50μg/ml(大腸菌及びP.フルオレッセンス)並びにテトラサイクリン10μg/ml(大腸菌)又は25μg/ml(P.フルオレッセンス)。PmG5からのtrfAの発現は0.5mMのm−トルイル酸塩を添加して誘導した。
【0089】
−標準的なDNA操作
サムブルック(Sambrook)及びラッセル(Russel)(2001年、「分子クローニング:実験用マニュアル(Molecular cloning; a laboratory manual)」、第3版、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス社、コールド・スプリング・ハーバー、ニューヨーク)の方法に従って、又は市販のキットを用いることによってアガロースゲル電気泳動及び通常のDNA操作を行った。
【0090】
−pRS44からHindIII部位を除去するための部位特異的突然変異誘発
部位特異的突然変異誘発は、プラスミドpHH100G5に対してストラテジーン社(Stratagene)製クイックチェンジ・サイト−ダイレクテッド・ムタジェネシス・キット(QuickChange Site-Directed Mutagenesis Kit)を用いて実施した。pHH100G5は、もともとpRS44を得るためにpRS43ベクターに組み込まれていたカナマイシン耐性遺伝子を有している。次に、上記の突然変異を誘発させたカナマイシン耐性遺伝子をそのプラスミドから切り出し、pRS43中に連結してpTA44を得た。
【0091】
−BAC構築物
最大約200kbの挿入断片を含むBACクローンがバイオS&T社(Bio S&T Inc.)(カナダ)によって構築された。植物アサガオ(Ipomoea nil)の核からの高分子量DNAをクローニング材料として用い、pTA44ベクターを下記のBACクローニングベクターとして用いた。
【0092】
−高分子量DNAの調製及び部分消化
アサガオの植物核からの高分子量(HMW)DNA調製の方法については、ジャン(Zhang)HB、X.P.ジャオ(Zhao)、A.H.パターソン(Patterson)及びR.A.ウィング(Wing)、1995年、ザ・プラント・ジャーナル(The Plant Journal)7:p.175−184に記載されている。
【0093】
核は100gの葉から調製し、5mlの2%(w/v)低融点アガロースプラグに包埋した。このプラグをプラグ当たり10単位のHindIIIを用いて37℃で10分間部分消化した。反応は、氷冷0.5M EDTA(pH8.0)を1/10容添加して止めた。
【0094】
−電気溶出によるサイズ選択されたDNAのサイズ分離、単離
CHEF DRIII(バイオ−ラド社(Bio−Rad)、カナダ)を用い、1%(w/v)パルスフィールドアガロースゲルを含む0.5×TBE上で部分消化したHMW DNAをサイズ選択した。サイズ選択は、90sの一定パルス時間及び6V/cmで11℃、12時間のPFGEにより行った。50乃至350kbを含むゲル切片を30sの一定パルス時間及び6V/cmで5時間、PFGEにより電気溶出させた。溶出したDNA断片は、連結前に少なくとも2時間、1×TE(10mMトリス−HCl、1mM EDTA、pH8.0)緩衝液に対して透析した。
【0095】
−BAC構築ベクターの調製
pTA44を使用した。DH10B中に形質転換後、マクシプレプ(Maxiprep)キット(キアゲン社(Qiagen)、カナダ)を用いてベクターDNAの精製を行った。精製ベクターDNAに対してHindIII消化及び脱リン酸化を行った後、フェノール/クロロホルムにより精製した(標準的プロトコル)。精製した消化DNAは25ng/μlの溶液とした。
【0096】
−連結
80乃至100ngの部分消化し、サイズ選択したDNA断片を、1×リガーゼ緩衝液及び3単位のリガーゼで50μlの容量とした20ngのベクターDNA(pTa44−HindIII及びpIndigoBAC−HindIII)と14℃で一晩インキュべーションして連結させた。
【0097】
−形質転換及びクローンの特性化
インビトロジェン社(Invitrogen)製エレクトロマックス(ElectroMax)DH10Bを形質転換用宿主株として用いた。2マイクロリットルの連結反応混液を用いて20μlの大腸菌細胞を形質転換した。細胞は、600μlのSOC培地(インビトロジェン社、米国)中37℃1時間100rpmで振盪することにより回収した。次いで、この形質転換した細胞60μlを、クロラムフェニコール(12.5mg/L)、X−GAL及びIPTGを補充したLB培地上で37℃一晩インキュベーションすることにより選択をかけた。白色クローン数を記録し、ミニプレップのために約20クローンを手選し、培養した。ミニプレップは以下の工程により行った。
・一晩おいた(overnight)培養液5mlを(500gで5分間)遠沈する。
・上清を除去する。
・キアゲン社製P1溶液を200μl添加する。
・キアゲン社製P2溶液を200μl添加する。
・室温で5分間インキュベートする。
・キアゲン社製氷冷P3溶液を200μl添加する。
・氷上で10分間インキュベートする。
・15分間(13,000gで)遠沈する。
・上清を新しいチューブに移し、1容のイソプロパノール(約420μl;移された容積の約70%(600μl))を添加する。
・−20℃で1時間置く。
・20分間(13,000gで)遠沈する。
・上清を除去する。
・70%エタノール(420μl)を添加する。
・5分間(13,000gで)遠沈する。
・風乾させる。
・TE又は水(約50μl添加)に再懸濁する。
ミニプレップしたDNAをNotIで消化した後、PFGEゲルにかけ、特性化した。
【0098】
−サイズ試験結果
クローンの推定サイズは、(kb単位で)図4に示したとおりである。
1. 195 9. 130 17. 80
2. 48 10. 190 18. 150
3. 135 11. 110 19. 100
4. 120 12. 70 20. 195
5. 58 13. 73 21. 83
6. 75 14. 135 22. 131
7. 70 15. 120
8. 48 16. 95
比較として、pIndigoBACの20クローンの平均サイズは約100kbと計算されたが、これはpTA44のそれと同様である。
【0099】
−連結及び形質転換効率
標記の効率は、形質転換後に1/10容(即ち、60μl)当たり選択培地上に得られた白色クローンの数によって測定した(表4)。
【0100】
【表4】

【0101】
試験間の相違はインビトロジェン社から入手したDH10B細胞のバッチの不安定で低い質によるものと考えられる。
−BACクローンのシュードモナス・フルオレッセンスへの伝達
選択したBACクローン群を大腸菌株S17.1からシュードモナス−フルオレッセンス::TnRS48へ接合させた。抗生物質選択のないL寒天上で一晩30℃で接合交配を行わせた。次いで、この混合物をカナマイシン及びm−トルイル酸塩を含むPIA上で平板培養した後、30℃で48時間インキュベートした。
【0102】
P.フルオレッセンスの培養液から上述のミニプレップ法によりフラスミドを単離し、電気穿孔によりEPI300(又はS17.1)中に導入した。
結果
−pTA44の構築
クローニングベクターpRS44中に制限酵素HindIIIの認識部位が2箇所(クローニング部位の1箇所及びカナマイシン耐性遺伝子中の1箇所)存在することによってHindIIIで消化したDNAを用いたBACクローニングがこのベクターにとって不可能となる。従って、部位特異的突然変異誘発を行ってカナマイシン耐性遺伝子中のHindIII部位を除去し、それによりベクターpTA44を作製した。
【0103】
−BACクローンの構築
植物核からの高分子量DNA及びクローニングベクターpTA44を用いることによって、最大約200kbの挿入断片を含むBACクローンを得た。パルスフィールド電気泳動を用いてこの挿入断片のサイズを測定し、得られたBACクローンのうちの22クローンについてその結果を図5に示した。連結及び形質転換効率は、市販のBACクローニングベクターpIndigoBAC5(エピセンター社)を用いた平行実験で認められたのと同様であった。
【0104】
−シュードモナス・フルオレッセンスへのBACクローンの伝達
100kb乃至195kbの挿入断片を含む、選択したBACクローン6種(表5)を1つの別の試験種、シュードモナス・フルオレッセンスへ接合によって伝達させた。選択した全てのBACクローンによってP.フルオレッセンス::TnRS48内に接合完了体が得られた。
【0105】
【表5】

【0106】
−伝達させたBACクローンの安定性
伝達させたプラスミドのうちの3種の安定性について、P.フルオレッセンス接合完了体からの制限消化した全DNAをサザン解析する(B10)か、プラスミドをP.フルオレッセンス接合完了体から大腸菌へ再伝達させた後、制限解析する(B9及びB19)ことによって検討した。
【0107】
制限パターンから、プラスミドB9及びB19は完全な形で伝達させることができたようであり(図6)、このことから最大130kbの挿入断片を含むプラスミドは両菌種内で安定であることが分かる。
【0108】
サザンブロット解析の結果、190kbの挿入断片サイズを有するプラスミドはP.フルオレッセンス内に維持できることが分かった(図7)。この場合、大腸菌形質転換体を再度得ることはできなかった(技術的問題)が、サザンブロット解析はそのプラスミドがそこにあることを示している。大腸菌プラスミドとP.フルオレッセンスからの対応するパターンとの間には若干バンドの相違があるが、これは接合過程に認められる問題の結果であり(実施例1参照)、P.フルオレッセンス内でのプラスミドの安定性とは無関係である。以上のことから、構築したベクター(pRS44/pTA44)は2種以上(恐らく多くの種)の菌中で極めて大型の挿入断片を維持できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
広宿主範囲の細菌においてDNAをクローニングするためのクローニングベクターであって、
(i)RK2の複製起点oriV、
(ii)RK2の接合伝達起点oriT、
(iii)RK2からのparDE、
(iv)クローニング領域、
(v)わずか1又は2のコピー数での該ベクターの複製を可能にする別の複製起点
を含む自己複製人工染色体であり、
該ベクターはわずか15kbの大きさであり、RK2のtrfAを含有せず、少なくとも12kbの挿入断片をクローニングすることができるものとし、該ベクター内のRK2 DNAの含量はRK2のわずか10%であるものとするクローニングベクター。
【請求項2】
少なくとも30kbの挿入断片をクローニングすることができる請求項1に記載のクローニングベクター。
【請求項3】
少なくとも80kbの挿入断片をクローニングすることができる請求項1又は2に記載のクローニングベクター。
【請求項4】
前記DNAがメタゲノムDNA又は環境試料からのDNAである請求項1乃至3のいずれか1項に記載のクローニングベクター。
【請求項5】
人工染色体である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のクローニングベクター。
【請求項6】
前記人工染色体が細菌人工染色体(BAC)又はP1由来人工染色体(PAC)である請求項5に記載のクローニングベクター。
【請求項7】
前記別の複製起点がori2又はP1複製起点である請求項1乃至6のいずれか1項に記載のクローニングベクター。
【請求項8】
ori2、repE及びparABを含む請求項1乃至7のいずれか1項に記載のクローニングベクター。
【請求項9】
parC及び/又はredFを含む請求項8に記載のクローニングベクター。
【請求項10】
P1プラスミドレプリコン、任意選択的にP1パッケージング部位(pac)及び任意選択的に2箇所のP1 loxP組換え部位を含む請求項1乃至9のいずれか1項に記載のクローニングベクター。
【請求項11】
さらにcos部位を含む請求項1乃至10のいずれか1項に記載のクローニングベクター。
【請求項12】
フォスミドとBACとの複合ベクターである請求項11に記載のクローニングベクター。
【請求項13】
1種以上の選択マーカを含む請求項1乃至12のいずれか1項に記載のクローニングベクター。
【請求項14】
DNAのクローニング用ベクター系であって、請求項1乃至13のいずれか1項に記載のクローニングベクター及びRK2のtrfA遺伝子を含む第2のベクターを含むベクター系。
【請求項15】
前記第2のベクターがトランスポゾンを含む請求項14に記載のベクター系。
【請求項16】
前記trfA遺伝子が誘導プロモータの制御下にある請求項14又は15に記載のベクター系。
【請求項17】
前記誘導プロモータがPm又はその突然変異体である請求項16に記載のベクター系。
【請求項18】
請求項1乃至13のいずれか1項に記載のクローニングベクターを含有する宿主細胞。
【請求項19】
メタゲノムクローニングのための請求項1乃至13のいずれか1項に記載のベクターの使用。
【請求項20】
DNAをクローニングする方法であって、
(i) 該DNAを請求項1乃至13のいずれか1項のクローニングベクター中に導入し、
(ii) 該クローニングベクターを第1の細菌宿主細胞に導入し、
(iii) 該第1の宿主細胞を培養することによって該DNAをクローニングし、
(iv) 該クローニングしたDNAを1種以上の2次宿主に伝達させる
ことを含む方法。
【請求項21】
前記第1の宿主細胞内の複製が前記別の複製起点(v)から生じ、前記1種以上の2次宿主内の複製がoriVから生じる請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記第1の宿主細胞が大腸菌である請求項20又は21に記載の方法。
【請求項23】
DNAのクローンのライブラリを調製する方法であって、
(i) 該DNAをクローニングベクター又は請求項1乃至13のいずれか1項中に導入し、
(ii) 該クローニングベクターを第1の細菌宿主細胞に導入し、
(iii) 該第1の宿主細胞を培養することによって該DNAのクローンの第1のライブラリを調製し、
(iv) 該第1のライブラリを1種以上の2次宿主中に伝達させて1種以上の2次ライブラリを調製する
ことを含む方法。
【請求項24】
メタゲノムクローニング用広宿主範囲ベクターの構築のためのRK2レプリコンの使用。
【請求項25】
メタゲノムクローニング用RK2系クローニングベクターであって、大型挿入断片を広い宿主範囲において高コピー数でクローニングすることができるベクター。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2009−539368(P2009−539368A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−513766(P2009−513766)
【出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【国際出願番号】PCT/GB2007/002122
【国際公開番号】WO2007/141540
【国際公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(508362273)
【Fターム(参考)】