説明

メタノフラーレン誘導体及びそれを用いた光電変換素子

【課題】電子特性、耐久性に優た光電変換素子の提供。
【解決手段】一般式(I)で表わされるメタノフラーレン誘導体。


(上記一般式(I)において、FLはフラーレン類を、Tpはチオフェン系複素環等、Xは水素、ハロゲン原子等、nは1〜10の整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はメタノフラーレン誘導体に関する。本発明のメタノフラーレン誘導体は、有機半導体材料として、有機FET、エレクトロルミネッセンス素子などのエレクトロニクス素子、太陽電池などに応用可能な材料であって、本発明はまたそれを用いた光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光などの光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽光発電は、COの排出ガスを伴わないために極めてクリーンな発電方法であり、温室効果ガスを削減し、地球温暖化問題を解決する手段として期待されている。有機薄膜太陽電池は、大面積、簡易、安価な製造法が期待でき軽量で、かつ柔軟性に富むため有望な次世代太陽電池と考えられているが、その変換効率の大幅な向上が実用化に向けての重要課題となっている。
1992年Sariciftciはホール輸送材料である導電性高分子とフラーレンC60のヘテロ接合セルによって効率の良い電荷分離が可能であることを示した(非特許文献1、特許文献1参照)。
さらに、フラーレンのホール輸送材料への相溶性を高めることを目的として、フェニル基と酪酸エステル基をメチレンで架橋したメタノフラーレン(フェニルC61ブチリックアシッドメチルエステル;PCBM)が合成され、ポリパラフェニレンビニレンにアルコキシ基を導入した(ポリ〔2−メトキシ、5−(2’―エチル−ヘシキシロキシ)―パラ−フェニレンビニレン〕;MEH−PPV)とPCBMを混合し活性層とするMEH−PPV/PCBM系ではC60に比べて光電変換効率が大幅に改善された(非特許文献2参照)。
【0003】
Sariciftciらはホール輸送材料として共役系高分子ポリ(3−ヘキシルチオフェン);P3HTとメタノフラーレン誘導体PCBMとの混合活性層からなるバルクヘテロ接合構造で3.5%のエネルギー変換効率を達成した。(非特許文献3参照)。
さらに、HeegerならびにCarrollらはそれぞれ独自にこのブレンド膜素子の加熱処理によって5%程度のエネルギー変換効率を報告している(非特許文献4、5参照)。
フラーレンのホール輸送材料への相溶性を高めることを目的としてPCBMが合成されドナー/アクセプター複合膜が作られ、MEH−PPV/PCBM系ではC60に比べて光電変換効率が大幅に改善された事実からわかるように、フラーレン誘導体のホール輸送材料との相溶性は極めて重要である。さらに、ホール輸送材料としてP3HTに代表されるようにチオフェン系ポリマーにおいて高光電変換効率が観測されており、電子輸送材料半導体であるフラーレン誘導体がチオフェン系ポリマーとの相溶性が重要であることは自明である。
例えば、チオフェン置換基を有するチオフェン系メタノフラーレン誘導体を合成した例としては、非特許文献6に示す1−(3−メトキシカルボニル)プロピル−1−チエニル−[6,6]−メタノフラーレン(ThCBM)があるが、塗布溶液作製時の溶解性およびチオフェン系ポリマーとの相溶性の点においての問題の解決は不充分であった。
【0004】
【特許文献1】米国特許第5331183号
【非特許文献1】N. S. Sariciftci, L. Smilowitz,A. J. Heeger, F. Wudl,「サイエンス(Science)」,1992年,258巻,p.1474−1476
【非特許文献2】C. J. Brabec, F. Padinger, N.S. Sariciftci, J.C. Hummelen,「ジャーナル・オブ・アプライド・フィジクス(J. Appl. Phys.)」,1999年,85巻,p.6866
【非特許文献3】F. Padinger, R. S. Rittberger, N.S. Sariciftci,「アドバンスト・ファンクショナル・マテリアル(Adv. Funct. Mater.)」,2003年,13−1巻、p.85−88
【非特許文献4】M. R-Reyes, K. Kim, D. L. Carroll,「アプライド・フィジクス・レターズ(Appl. Phy. Lett.)」,2005年,87巻,083506
【非特許文献5】W. Ma, C. Yang, X. Gong, K. Lee, A. J. Heeger,「アドバンスト・ファンクショナル・マテリアル(Adv. Funct. Mater.)」,2005年,15巻、p.1617−1622
【非特許文献6】M. Popescu, P.V. Hof, A. B. Sieval,H.T.Jonkman, J. C. Hummelen,「アプライド・フィジクス・レターズ(Appl. Phy. Lett.)」,2006年,89巻,213507
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは前記の課題点を鑑み鋭意研究した結果、チオフェン系ポリマーと相溶性の向上を意図してチオフェン系置換基を有し、かつ溶解度の高いメタノフラーレン誘導体の開発に成功した。本発明による新規メタノフラーレン誘導体を利用することにより、溶解度ならびにポリマーへの相溶性が高く、電荷移動度ならびに電荷分離能に優れたチオフェン系メタノフラーレン誘導体を提供し、電子特性さらには耐久性に優れた光電変換素子を得ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、一般式(I)で表わされるメタノフラーレン誘導体に関する。
【化3】

(上記一般式(I)において、FLはフラーレン類を表し、Tpはチオフェン系複素環又はチオフェン系複素環の水素原子の少なくとも一部が、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基又はアリール基で置換されたチオフェン系複素環の1〜8量体又はこれらのチオフェン系複素環が種々8個まで連なったものを表し、Xは水素、ハロゲン原子、Tp、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基またはアリール基を表し、FL、TpおよびXはメチレン基で連結されており、nは1〜10の整数を表す。)
【0007】
また本発明は、前記Tpが下記一般式(II)で表わされるチオフェン系複素環であることを特徴とする前記のメタノフラーレン誘導体に関する。
【化4】

【0008】
また本発明は、チオフェン系複素環が水素以外の置換基を少なくとも一つ有することを特徴とする前記のメタノフラーレン誘導体に関する。
また本発明は、前記のいずれかに記載のメタノフラーレン誘導体を電子輸送材料として用いてなる光電変換素子に関する。
また本発明は、前記の光電変換素子において、ホール輸送材料としてチオフェン環を含んだ共役高分子化合物を含むことを特徴とする光電変換素子に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の新規メタノフラーレン誘導体は、有機半導体材料として、有機FET、エレクトロルミネッセンス素子などのエレクトロニクス素子、太陽電池などに応用可能な材料である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明のメタノフラーレン誘導体について説明する。
本発明のメタノフラーレン誘導体は、上記一般式(I)において丸で囲んだFL、丸で囲んだTp、および丸で囲んだXで示すように、FLにTpおよびXがメチレンで架橋した構造を有することを特徴とする。
【0011】
本発明において、一般式(I)におけるFLはフラーレン類を表す。フラーレン類とは、Sp2型の炭素原子が球状に結合した三次元閉核構造を有する化合物の総称であり、具体的にはフラーレンとその誘導体およびその骨格内に金属原子や化合物を内包しているものなどを挙げる事ができる。フラーレンとしては、さらに具体的には、化学式としてC60、C70、76、78、82、84、90、96などが挙げられるが、これらの中ではC60又はC70が特に好ましい。
【0012】
本発明において、一般式(I)におけるTpとしては、チオフェン複素芳香環と芳香環、あるいは複素芳香環同志が複数縮環したチエノチオフェン、ベンゾチオフェンなどを挙げることができ、好ましくは複素芳香環化合物であって、特に好ましくは硫黄を含むチオフェン、ベンゾチオフェン、チエノチオフェン等のチオフェン系複素芳香環化合物を挙げることができる。これらTpは溶媒への溶解度向上、光電変換素子として用いる際のホール輸送材料との相溶性向上および、耐久性向上のために置換基を有することができる。
【0013】
Tpの置換基としては、ハロゲン原子または炭素数1〜30、好ましくは1〜18のアルキル基またはアルコキシ基が挙げられる。ハロゲン原子としてはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素を挙げることができる。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、2−エチルプロピル基、シクロヘキシル基等を挙げることができる。アルコシキ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、i−プロピルオキシ基、ブトキシ基、t−ブチルオキシ基、2−エチルプロピルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等を挙げることができる。また、アルキル基の水素の一部または全部を、不飽和結合を含む基、フェニル基など芳香環を含む置換基などとしても良い。カルボニル基、カルボニルオキシ基またはオキシカルボニル基、アミノ基等を用いて上記アルキル基等を結合しても良い。また上記アルキル基等の末端が、ヒドロキシル基、チオール基、カルボキシル基、スルホン酸基、シアノ基、イソシアナート基、アルデヒド基、アミノ基などであっても良い。また、アルキル鎖の途中に、エステル結合(−COO−)、酸アミド結合(−NH−CO−)、ウレタン結合(−NH−COO−)、エーテル結合(−O−)などを含んでも良く、繰り返し単位が1から15のエチレンオキシド基でも良い。2つの置換基が末端で結合をつくり環状となっていても良い。例えば、環状エーテル、環状エステル、酸無水物、カルボジイミドなどを挙げることができる。また、さらに芳香環が縮環している構造でもよい。
【0014】
Tpとしては、また、チオフェン系複素環又はチオフェン系複素環の水素原子の少なくとも一部がアルキル基、アルコキシ基又はアリール基で置換されたもの、およびそれらのオリゴマーを好ましく用いることができる。オリゴマーとしてのチオフェン系複素環の縮合数については特に制限されないが、好ましくは30量体以下、さらに好ましくは20量体以下、特に好ましくは1〜8量体を挙げることができる。
【0015】
また、チオフェン系複素環などのヘテロ芳香環を用いた場合、特にα位(ヘテロ原子隣接炭素)の電子反応性が高いことが知られている(日本化学会編『実験化学講座第4版』、24、有機合成VI(ヘテロ元素・典型金属元素化合物)、p539〜549)。すなわち、これはα位の反応性が高いことを示しており、特にこの炭素の置換基が水素の場合には耐久性が低下すると考えられる。よって、チオフェン系複素環などのおよびその誘導体を用いる場合には、特にそのα位に置換基を導入することが望ましい。
【0016】
本発明において、一般式(I)におけるXは、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜30、好ましくは1〜18のアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基または上記に示したTpを表す。ハロゲン原子としてはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素を挙げることができる。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、2−エチルプロピル基、シクロヘキシル基等を挙げることができる。アルコシキ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、i−プロピルオキシ基、ブトキシ基、t−ブチルオキシ基、2−エチルプロピルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等を挙げることができる。また、アルキル基の水素の一部または全部を、不飽和結合を含む基、フェニル基など芳香環を含む置換基などとしても良い。カルボニル基、カルボニルオキシ基またはオキシカルボニル基、アミノ基等を用いて上記アルキル基等を結合しても良い。また上記アルキル基等の末端が、ヒドロキシル基、チオール基、カルボキシル基、スルホン酸基、シアノ基、イソシアナート基、アルデヒド基、アミノ基などであっても良い。また、アルキル鎖の途中に、エステル結合(−COO−)、酸アミド結合(−NH−CO−)、ウレタン結合(−NH−COO−)、エーテル結合(−O−)などを含んでも良く、繰り返し単位が1から15のエチレンオキシド基でも良い。2つの置換基が末端で結合をつくり環状となっていても良い。例えば、環状エーテル、環状エステル、酸無水物、カルボジイミドなどを挙げることができる。また、さらに芳香環が縮環している構造でもよい。また上記アルキル基等の末端が、ヒドロキシ基、チオール基、カルボキシル基、スルホン酸基、シアノ基、イソシアナート基、アルデヒド基、アミノ基などであっても良い。また、アルキル鎖の途中に、エステル結合、酸アミド結合、ウレタン結合、エーテル結合などを含んでも良く、繰り返し単位が1から15のエチレンオキシド基でも良い。2つの置換基が末端で結合をつくり環状となっていても良い。例えば、環状エーテル、環状エステル、酸無水物、カルボジイミドなどを挙げることができる。また、さらに芳香環が縮環している構造でもよい。末端が水酸基やアミノ基などのヘテロ元素を持つ反応性置換基、例えばエステル基、エーテル基等を有していても良い。
【0017】
本発明のメタノフラーレン誘導体は、メチレン架橋により結合するTpとXを何対持つかは、本発明の目的を達成できれば特に制限されなるものではないが、一般式(I)における置換数nは1〜10の整数が好ましく、より好ましくは1〜5である。
【0018】
本発明のメタノフラーレン誘導体の合成方法の一例を述べるが、これらの方法に限定されるものではない。すなわち、目的とするメタノフラーレンの前駆体であるトシルヒドラゾン(実施例中、1a、2a,3a,4a,5a,6a)およびフラーレンをナトリウムメトキシド存在下、オルトジクロロベンゼン、ピリジン溶媒中で、50〜150℃で、1〜12時間還流加熱して、目的とするメタノフラーレン誘導体を得ることができる。
【0019】
次に、本発明のメタノフラーレン誘導体を用いて作製する電子デバイスについて説明する。
本発明の電子デバイスとしては、例えば、基板上に光吸収剤として本発明のメタノフラーレン誘導体を電子輸送材料として利用し、適当なホール輸送材料とを組み合わせることにより形成した光電変換層を有するヘテロ接合型デバイスなどを挙げることができる。ヘテロ接合型電子デバイスは、例えばメタノフラーレン誘導体およびホール輸送材料が光吸収による電荷発生を行うことで、光照射により取り出し電荷量、すなわち電流値の変化する光電変換素子としての特性を示す。
本発明のヘテロ接合型電子デバイスの具体的構造としては、例えば、透明導電性基板上に、本発明のメタノフラーレンとホール輸送材による光電変換層、対極を順次積層配置した構造をもつものが挙げられる。
【0020】
ホール輸送材料としては、ホール輸送性高分子であるポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリフラン、ポリピリジン、ポリカルバゾールなどを用いることができる。それらの中でも、本発明のメタノフラーレン誘導体であるチオフェン系メタノフラーレン誘導体に対しては、ホール輸送材料としてポリチオフェン系ホール輸送材料を用いることが好ましい。
【0021】
ポリチオフェンとしては、チオフェンおよび置換チオフェンをモノマー単位として、2,5位で重合したものを好適に用いることができる。用いる置換チオフェンの具体的な構造としては、アルキル置換チオフェン、アリール置換チオフェンなどを挙げることができ、より具体的なポリチオフェンの構造としては、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−ブチルチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3−オクチルチオフェン)、ポリ(3−デシルチオフェン)、ポリ(3−ドデシルチオフェン)、ポリ(3−フェニルチオフェン)、ポリ(3−(p―アルキルフェニルチオフェン))などを挙げることができる。これらポリチオフェンの中でも、特に移動度の高いものが好ましく、例えば立体規則的に重合したものなどを用いることができる。
【0022】
光電変換層は、本発明のメタノフラーレン誘導体と前記ホール輸送材料とこれらを溶解する溶媒とを混合して溶液とし、基板上に塗布することにより形成される。
光電変換層の作製方法としては、本発明のメタノフラーレン誘導体と前記ホール輸送材料を二枚の平滑な基板間に挟む方法が挙げられる。
用いる基板としては、充分平滑であれば特に限定されず、材質、厚さ、寸法、形状等は目的に応じて適宜選択することができ、例えば無色あるいは有色ガラス、網入りガラス、ガラスブロック等が用いられる他、無色あるいは有色の透明性を有する樹脂でも良い。かかる樹脂としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、トリ酢酸セルロース、ポリメチルペンテンなどが挙げられる。なお、本発明における基板とは、常温において平滑な面を有するものであり、その面は平面あるいは曲面であってもよく、また応力によって変形するものであってもよい。また、例えば金属板のように不透明であっても良く、金、銀、クロム、銅、タングステン、アルミニウム、クロムやステンレスなどの平滑な金属板などが挙げられる。二枚の基板に挟む際には、必要に応じて加熱・加圧等を行っても良い。
【0023】
なお、本発明のメタノフラーレン誘導体と前記ホール輸送材料が太陽電池として機能するしくみについては例えば、S.S.Sun and N.S.Sariciftci,“Organic Photovoltaics”(Taylor and Francis)などに記載されている。通常、メタノフラーレンとホール輸送材料を混合した膜を作製すると、それらはナノスケールで相分離し、相互陥入した相分離構造を形成するが、その構造をバルクヘテロ接合と呼ぶ。ここで、メタノフラーレン誘導体とホール輸送材料は、それぞれ光照射によりエキシトン(電子−ホール対)を生じ、このエキシトンがフラーレン誘導体/ホール輸送材料界面において電荷分離されることでフリーなキャリア(電子およびホール)を生じる。生じたフリーの電子とホールはそれぞれ電子吸引性および電子供与性である、メタノフラーレン相とホール輸送材料相を伝播し、各々別々の電極へと到達することで光起電力を得る。この過程において、エキシトンは電荷分離されるためにメタノフラーレン誘導体とホール輸送材料層の界面まで拡散しなければならないが、エキシトンには寿命(τ)があるため光吸収後時間の経過と共にエキシトン量は減少する。エキシトンの量が1/eとなる時間(τ)をエキシトンの寿命とすれば、エキシトンの拡散定数をDとして、エキシトンの拡散長がL=(D×τ)1/2と定義される。高効率な太陽電池を得るためにはエキシトンを高効率でフリーキャリアへと電荷分離する必要があるから、光吸収により生じたエキシトンが拡散する時間をなるべく短くする必要がある。そのためには、メタノフラーレン相とホール輸送材料相それぞれの相分離による構造(ドメイン)が大きすぎると、エキシトンが電荷分離されるために移動すべき平均距離が長くなるため、光電変換特性が低下する。よって、エキシトンを効率よく電荷分離させ高効率な太陽電池素子を得るためには、相分離構造を大きくしすぎないよう、メタノフラーレン誘導体とホール輸送材料の相溶性を高める必要がある。
【0024】
メタノフラーレン誘導体とホール輸送材料の相溶性とは、塗布後溶媒を蒸発させた固体膜状態においてメタノフラーレン誘導体とホール輸送材料の混合特性のことである。高い光電変換特性を得るためにはメタノフラーレン誘導体とホール輸送材料はナノスケールで適度に相分離している必要もあるが、相溶性が悪いとメタノフラーレン誘導体とホール輸送材料の相分離が極端に大きくなるため、先に記載したとおりかえってデバイス特性を低下させる原因となる。このような固体状態での相溶性を測定するためには、例えば散乱特性、X線解析等により平均的なドメインサイズを原子間力顕微鏡により相分離構造の直接的イメージを測定することができる。
【0025】
また、本発明のメタノフラーレン誘導体と前記ホール輸送材料を溶解可能な溶媒に溶解して溶液とし、基板に塗布した後、溶媒を除去する方法も可能である。用いる溶媒はメタノフラーレン誘導体およびホール輸送材料の両方を溶解し得るものであれば特に制限されるものではなく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、四塩化炭素、エチルベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、プロピルベンゼン、二塩化エチレン、塩化メチル等を挙げることがでる。また、溶液中のメタノフラーレン誘導体およびホール輸送材料の濃度については特に制限はないが、作製上の観点から0.1〜5質量%程度が好ましい。なお、メタノフラーレン誘導体とホール輸送材料が溶解し難い場合には、撹拌、加熱等の操作を行ってもよい。
次いで、溶液を基板表面に塗布する。基板としては、先に示した基板と同様で、適度に平滑性があれば問題ない。溶液を基板表面に塗布する方法としては、特に制限はないが、例えば、キャスト、スピンコート、スプレーコート、バーコート等の方法によって実施することができる。また、塗布量については特に制限はないが、通常は、基板1cm当たり0.002〜0.1ml程度が好ましい。次いで、上記溶媒を蒸発させることにより、光電変換層を形成することができる。溶媒を蒸発させる方法としては、例えば、基板を加熱する方法が挙げられる。
【0026】
透明導電性基板は、通常、透明基板上に透明電極層を積層させて製造される。透明基板としては特に限定されず、材質、厚さ、寸法、形状等は目的に応じて適宜選択することができ、例えば、無色あるいは有色ガラス、網入りガラス、ガラスブロック等が用いられる他、無色あるいは有色の透明性を有する樹脂でも良い。かかる樹脂としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、トリ酢酸セルロース、ポリメチルペンテンなどが挙げられる。なお、本発明における透明とは、10〜100%の透過率を有することであり、また、本発明における基板とは、常温において平滑な面を有するものであり、その面は平面あるいは曲面であってもよく、また応力によって変形するものであってもよい。
【0027】
また、透明電極の導電層を形成する透明導電膜としては、本発明の目的を果たすものである限り特に限定されることはなく、例えば、金、銀、クロム、銅、タングステンなどの金属薄膜、金属酸化物からなる導電膜などが挙げられる。金属酸化物としては、例えば、酸化錫や酸化亜鉛に、他の金属元素を微量ドープしたIndium Tin Oxide(ITO(In:Sn))、Fluorine doped Tin Oxide(FTO(SnO:F))、Aluminum doped Zinc Oxide(AZO(ZnO:Al))などが好適なものとして用いられる。膜厚は通常、1nm〜50μm、好ましくは10nm〜10μmである。また、表面抵抗(抵抗率)は、本発明の基板の用途により適宜選択されるところであるが、通常、0.01〜500Ω/sq、好ましくは0.1〜50Ω/sqである。
【0028】
対極は、通常、金、白金、銀、銅、アルミニウム、マグネシウム、リチウム、カリウムなどの金属、あるいはカーボン電極などを用いることができる。対極の設置方法については、真空蒸着法,電子ビーム真空蒸着法,スパッタリング法や、溶媒に分散した金属微粒子を塗布し、溶媒を揮発除去する等の公知の方法で成膜しても良い。また、対極金属層を形成する前に、光電変換層と対極金属層の密着性およびエキシトンブロック性を改善するため、種々の有機および無機材料を形成することができる。用いられる材料としては、本発明の目的に合致していれば特に制限されないが、例えば、フェナントロリン、バソキュプロインなどの有機物、LiF、TiOxなどの無機化合物の薄膜層が利用できる。
【0029】
素子特性の評価については、透明電極および対極にそれぞれ電流測定用の端子を取り付け、光照射の有無による電流値の変化について測定を実施すれば良く、例えばJIS C 8911〜9、JIS C 8931〜40などを参考に測定することが望ましい。
【0030】
また、素子の耐久性を向上するために、各種の封止処理を行うことができる。封止方法については、本発明の目的に合致していれば特に制限されないが、例えばガス透過性の低い各種材料を用いて素子を封止することができる。ガス透過性の低い封止方法としては、前記基板材料のようなものをガスバリア層として活用し、ガス透過性の低い接着剤等を用いてデバイスに接着させることで封止処理を行い耐久性を向上することが可能である。
【実施例】
【0031】
以下に本発明を実施例をもって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
Tpが5−エチルチオフェン−2−イル、Xが3−(メトキシカルボニル)プロピルであるメタノフラーレン誘導体1b(EThCBM)を以下のように合成した。
【化5】

【0033】
25mLナシ型フラスコにC60を50mg加え、アルゴン雰囲気下で乾燥o−ジクロロベンゼン(ODCB)1.5mLに溶かし、60分間超音波をかけた。ジムロート冷却器、攪拌子を備えた50mL二口フラスコにトシルヒドラゾン1aを56.7mgとナトリウムメトキシド8mgとをアルゴン雰囲気下で、乾燥ピリジン1mLに溶かし15分間攪拌した。その後、C60のODCB溶液をナシ型フラスコから添加し、70℃で4時間、さらに100℃で1.5時間加熱した。反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;トルエン)により分離・精製し、29.5mgの1b(EThCBM)を得た(収率52.2%)。また、得られた生成物は高速液体クロマトグラフィーにより確認し、H−NMR、13C−NMR、IRにて同定した。
【0034】
<分析データ>
IR(KBr)2960、1737(C=O;s)、1456、1428、1376、1263、1186、1170、983、885、806、741、572、562、525(s)、445、432cm−1H−NMR(300MHz;CDCl)δ7.27(d、1H、3.60Hz)、6.78(d、1H、3.60Hz)、3.69(s、3H)、2.99−2.90(m、4H)、2.58(t、2H、7.5Hz)、2.29−2.19(m、2H)、1.41(t、3H、7.5Hz);13C−NMR(75MHz;CDCl)δ173.50(C=O)、148.50、148.40、147.65、145.74、145.23、145.20、145.18、145.13、144.81、144.72、144.64、144.57、144.47、144.14、143.82、143.78、143.10、143.04、143.00、142.92、142.90、142.26、142.17、142.13、142.11、140.92、140.70、138.26、138.10、135.97、131.77(H)、122.20(H)、80.08(bridge head)、51.66(O)、46.20(bridge)、33.86()、33.71()、23.68()、22.52()、15.53().
【0035】
(比較例1)
Tpが2−チオフェニル、Xが3−(メトキシカルボニル)プロピルであるメタノフラーレン誘導体2b(ThCBM)を非特許文献6に従い、合成した。
【化6】

【0036】
(実施例2)
Tpがチエノチオフェン−2−イル、Xが3−(メトキシカルボニル)プロピルであるメタノフラーレン誘導体3b(TThCBM)を以下のように合成した。
【化7】

【0037】
30mLナシ型フラスコにC60を250mg加え、窒素雰囲気下で乾燥o−ジクロロベンゼン(ODCB)16mLに溶かし、60分間超音波をかけた。攪拌子を備えた50mLフラスコにトシルヒドラゾン3aを182mgとナトリウムメトキシド26mgとを窒素雰囲気下で、乾燥ピリジン5mLに溶かし15分間攪拌した。その後、C60のODCB溶液をナシ型フラスコから添加し、100℃で4時間加熱した。反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;トルエン)により分離・精製し、111mgの3b(TThCBM)を得た(収率33%)。また、得られた生成物は高速液体クロマトグラフィーにより確認し、H−NMR、13C−NMR、IRにて同定した。
【0038】
<分析データ>
IR(KBr)2943、1735(C=O;s)、1459、1429、1343、1249、1187、1173、1080、1059、905、826、799、755、742、700 cm-H−NMR(300MHz;CDCl)δ7.68(s、1H)、7.49(d、1H、5.3Hz)、7.34(d、1H、5.1Hz)、3.68(s、3H)、3.00(t、2H、8.0Hz)、2.58(t、2H、7.5Hz)、2.34−2.25(m、2H);13C−NMR(75MHz、CDCl)δ173.41(C=O)、148.00、147.29、145.65、145.27、145.19、145.05、144.86、144.70、144.66、144.57、144.24、143.84、143.81、143.11、143.05、142.98、142.96、142.25、142.17、141.11、141.02、140.81、139.42、138.38、138.24、137.62、127.86(H)、124.52(H)、119.68(H)、79.65(bridge head)、51.70(O)、46.56(bridge)、33.89()、33.70()、22.56().
【0039】
(実施例3)
Tpが5−カルボエトキシチエノチオフェン−2−イル、Xが3−(メトキシカルボニル)プロピルであるメタノフラーレン誘導体4b(es−TThCBM)を以下のように合成した。
【化8】

【0040】
30mLナシ型フラスコにC60を350mg加え、窒素雰囲気下で乾燥o−ジクロロベンゼン(ODCB)20mLに溶かし、60分間超音波をかけた。攪拌子を備えた50mLフラスコにトシルヒドラゾン4aを296mgとナトリウムメトキシド37mgとを窒素雰囲気下で、乾燥ピリジン7mLに溶かし15分間攪拌した。その後、C60のODCB溶液をナシ型フラスコから添加し、100℃で3.5時間加熱した。反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;トルエン、アセトン)により分離・精製し、214mgの4b(es−TThCBM)を得た(収率42%)。また、得られた生成物は高速液体クロマトグラフィーにより確認し、H−NMR、13C−NMR、IRにて同定した。
【0041】
<分析データ>
IR(KBr)2942、1736(C=O;s)、1707(C=O;s)、1491、1429、1365、1341、1276、1238、1167、1069、1017、747cm−1H−NMR(300MHz;CDCl)δ8.04(s、1H)、7.70(s、1H)、4.42(q、2H、7.2Hz)、3.69(s、3H)、3.01(t、2H、8.2Hz)、2.59(t、2H、7.4Hz)、2.31−2.28(m、2H)、1.42(t、3H、7.2Hz);13C−NMR(75MHz、CDCl)δ173.31(C=O)、162.47(C=O)、147.64、146.95、145.52、145.27、144.95、144.85、144.68、144.61、144.29、143.81、143.06、143.01、142.13、141.06、140.86、138.71、138.28、138.24、135.80、125.69(H)、124.77(H)、79.28(bridgehead)、61.51(O)、51.73(O)、46.30(bridge)、33.79()、33.63()、22.54()、14.40().
【0042】
(実施例4)
Tpがベンゾチオフェン−2−イル、Xが3−(メトキシカルボニル)プロピルであるメタノフラーレン誘導体5b(2−BThCBM)を以下のように合成した。
【化9】

【0043】
30mLナシ型フラスコにC60を279mg加え、窒素雰囲気下で乾燥o−ジクロロベンゼン(ODCB)19mLに溶かし、60分間超音波をかけた。攪拌子を備えた50mLフラスコにトシルヒドラゾン5aを200mgとナトリウムメトキシド29mgとを窒素雰囲気下で、乾燥ピリジン6mLに溶かし15分間攪拌した。その後、C60のODCB溶液をナシ型フラスコから添加し、100℃で4時間加熱した。反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;トルエン)により分離・精製し、153mgの5b(2−BThCBM)を得た(収率39%)。また、得られた生成物は高速液体クロマトグラフィーにより確認し、H−NMR、13C−NMR、IRにて同定した。
【0044】
<分析データ>
IR(KBr)2941、1736(C=O;s)、1458、1431、1248、1187、1061、833、743、723、670cm-H−NMR(300MHz;CDCl)δ7.92−7.87(m、2H)、7.72(s、1H)、7.47−7.39(m、2H)、3.67(s、3H)、3.02(t、2H、8.0Hz)、2.58(t、2H、7.4Hz)、2.33−2.23(m、2H);13C−NMR(75MHz、CDCl)δ173.37(C=O)、147.99、147.22、145.66、145.25、145.17、145.08、144.84、144.74、144.68、144.63、144.56、144.21、143.82、143.79、143.13、143.09、143.03、142.97、142.95、142.22、142.15、141.02、140.80、140.15、139.74、138.73、138.29、138.24、129.14(H)、125.04(H)、124.67(H)、124.13(H)、122.45(H)、79.58(bridge head)、51.67(O)、46.18(bridge)、33.67()、33.45()、22.55().
【0045】
(実施例5)
Tpが2,2’−ビチエニル−5−イル、Xが3−(メトキシカルボニル)プロピルであるメタノフラーレン誘導体6b(BiThCBM)を以下のように合成した。
【化10】

【0046】
25mLナシ型フラスコにC60を500mg加え、アルゴン雰囲気下で乾燥o−ジクロロベンゼン(ODCB)10mLに溶かし、60分間超音波をかけた。ジムロート冷却器、攪拌子を備えた100mL二口フラスコにトシルヒドラゾン6aを500mgとナトリウムメトキシド40mgとをアルゴン雰囲気下で、乾燥ピリジン5mLに溶かし15分間攪拌した。その後、C60のODCB溶液をナシ型フラスコから添加し、100℃で12時間加熱した。反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;n−ヘキサン1:3トルエン)により分離・精製し、74.6mgの6b(BiThCBM)を得た(収率10.8%)。また、得られた生成物は高速液体クロマトグラフィーにより確認し、H−NMR、13C−NMR、IRにて同定した。
【0047】
<分析データ>
IR(KBr)1732(C=O;s)、1541、1507、1428、1186、795、689、573、553、524(s)、443、416cm−1H−NMR(300MHz;CDCl )δ7.39(d、1H、3.6Hz)、7.27(d、1H、5.0Hz)、7.18(d、1H、3.6Hz)、7.09(d、1H、3.6Hz)、7.05(dd、1H、5.0Hz,3.6Hz)、3.70(s、3H)、2.94(t、2H、7.5Hz)、 2.58(t、2H、7.5Hz)、2.26(tt、2H、7.5Hz); 13C−NMR(75MHz;CDCl)δ173.41(C=O)、148.10、147.76、147.35、147.10、145.55、145.29、145.27、145.25、145.20、148.08、144.85、144.70、144.66、144.62、144.55、144.29、144.24、143.82、143.80、143.08、143.05、142.99、142.97、142.18、142.14、142.12、141.02、140.82、140.69、138.32、138.28、138.21、132.78(H)、132.46(H)、129.08(H)、128.21(H)、127.93(H)、124.85、124.17、79.31(bridge head)、51.72(O)、45.53(bridge)、33.70()、33.63()、22.44().
【0048】
(溶解度試験)
試料を10mLフタ付メスフラスコに精密電子天秤を用いて1mg量り取り、標線までジクロロメタンを加えて標準溶液とし、紫外・可視吸光光度計にて800〜300nmの波長領域で吸光度を測定した。次に、各試料をジクロロメタン2mLに過飽和状態まで加え、3500回転で20分間遠心分離機にかけた。その後、上澄み溶液を1mL精密にホールピペットで量り取り、10mLフタ付メスフラスコに加えた。測定した吸光度が1を超える場合には、標準溶液との比較に正確さを欠くため、さらに5倍に希釈したものを用い標準溶液と比較し溶解度を算出し表1にまとめた。
【0049】
【表1】

【0050】
(相溶性の確認)
(実施例6)
フラーレン誘導体4bを10mg、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT、アルドリッチ社製)15mgをクロロベンゼン1mLに溶解し、洗浄したガラスプレート上に約50μLを滴下した後2000rpm、50sでスピンコートすることでフラーレン誘導体とP3HTによる薄膜を形成した。真空乾燥を行った後、薄膜表面を原子間力顕微鏡により観察した(5μm x 5μm)。(図1(b))。また、140℃、10分間熱処理した後の同薄膜表面を同様に観察した(図1(e))。
【0051】
(実施例7)
フラーレン誘導体として5bを用いて、実施例6と同様の方法により表面観察を行った(5μm x 5μm)。(図1(a))。また、140℃、10分間熱処理した後の同薄膜表面を同様に観察した(図1(d))。
【0052】
(比較例2)
フラーレン誘導体として、PCBM(文献 J.C.Hummelen、B. W. Knight、F.LePeq、 F. Wudl、 J.Org.Chem.、60,532(1995)に従い合成した。)を用いて、実施例6と同様の方法により表面観察を行った(5μm x 5μm)。(図1(c))。また、140℃、10分間熱処理した後の同薄膜表面を同様に観察した(図1(f))。
【0053】
(実施例8)
(光電変換特性の測定)
洗浄した15Ω/□の面抵抗を持つITOをスパッタ法により成膜したガラス基板上に、Baytron P(H.C.Stark社製)を5000rpm(50s)でスピンコートし、120℃で10分乾燥した。メタノフラーレン誘導体として1bを用いて、分子量17500のポリ(3−ヘキシルチオフェン)(アルドリッチ製)と重量比0.8:1.0で混合し、1bの濃度が1wt%となるようにクロロベンゼンに溶解させると、両材料は完全に溶解し、均一な混合溶液となった。前記基板上に、前記混合溶液を800rpm(50s)でスピンコートし、光電変換層を形成した。光電変換層を形成したITO/ガラス基板を窒素下一晩乾燥した後、約10−5torrの真空下でLiFを0.5nm、Alを100nmそれぞれ蒸着し対極を形成し、光電変換デバイスを得た。窒素下で、得られた光電変換デバイスを封止した。封止には、ガラス板とエポキシシール材を用いた。封止した光電変換デバイスを、100mW/cm擬似太陽光を照射しながら電圧電流特性を測定した。電圧−電流特性から最大効率を計算した。
【0054】
(比較例3)
実施例8と同様に2bを用いて作成した光電変換デバイスの電圧電流特性を測定し、電圧−電流特性から最大効率を計算した。
【0055】
(比較例4)実施例8と同様にPCBMを用いて作成した光電変換デバイスの電圧電流特性を測定し、電圧−電流特性から最大効率を計算した。
【0056】
【表2】

【0057】
(実施例10)
[耐久性試験]
メタノフラーレン誘導体として1bを用いて、実施例8で作製した光電変換デバイスとメタノフラーレン2bを用いて同様に作製した光電変換デバイスについて、暗所下・室温に放置した時の特性変化を測定した。また、約20時間経過後その光電変換特性を実施例8と同様の方法で測定した。その結果を図2に示す。図2に示すとおり、初期特性を1としてプロットすると2bに対して1bの耐久性が高いことが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】薄膜表面を原子間力顕微鏡により観察した写真である。
【図2】光電変換特性の経時変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)で表わされるメタノフラーレン誘導体。
【化1】

(上記一般式(I)において、FLはフラーレン類を表し、Tpはチオフェン系複素環又はチオフェン系複素環の水素原子の少なくとも一部が、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基又はアリール基で置換されたチオフェン系複素環の1〜8量体又はこれらのチオフェン系複素環が種々8個まで連なったものを表し、Xは水素、ハロゲン原子、Tp、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基またはアリール基を表し、FL、TpおよびXはメチレン基で連結されており、nは1〜10の整数を表す。)
【請求項2】
前記Tpが下記一般式(II)で表わされるチオフェン系複素環であることを特徴とする請求項1記載のメタノフラーレン誘導体。
【化2】

【請求項3】
チオフェン系複素環が水素以外の置換基を少なくとも一つ有することを特徴とする請求項1または2記載のメタノフラーレン誘導体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のメタノフラーレン誘導体を電子輸送材料として用いてなる光電変換素子。
【請求項5】
請求項4記載の光電変換素子において、ホール輸送材料としてチオフェン環を含んだ共役高分子化合物を含むことを特徴とする光電変換素子。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−57356(P2009−57356A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−228350(P2007−228350)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【出願人】(508114454)地方独立行政法人 大阪市立工業研究所 (60)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100103285
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 順之
【Fターム(参考)】