説明

メタノールの製造装置

【課題】エタノールを原料としてメタノールを製造する容易な製造装置を提供する。
【解決手段】エタノールを、固体高分子膜を使って電気分解するか、又はさらに酸化剤を加えて電気分解するかのいずれかの方法を用いて酢酸に変換し、生成した酢酸に触媒としてヨウ化水素とイリジウムを添加して加熱し、一酸化炭素ガスを発生させて回収する、メタノールの製造装置。上記製造装置において、エタノール分解槽を冷却することにより、エタノールと生成酢酸を比重により分離する方法を採ることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタノールの製造装置に関する。詳しくは、エタノールからメタノールを製造する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオエタノールは、燃料電池の燃料として使用する場合、メタノールに比べて出力が弱く、また、バイオガソリンとしても、排ガス中に窒素化合物(NOx)が増加するという問題があり、エタノールは、第2世代・第3世代の石油代替燃料として実用的に満足できる域には至っていない。
【0003】
一方、メタノールは、従来から炭素を含む原料を水蒸気と反応させて製造しているが、最近では、環境に優しい有機性廃棄物(バイオマス)からも製造できるようになり注目されるようになった。しかし、バイオメタノールを製造するには、大規模な設備を必要とし、製造コストが嵩むほか、エタノールと同様の原料の他、特に材木などが多く用いられるがこれは森林伐採などにつながり、地球環境保護と逆行するおそれがあるので、有用ではない。又、メタノールはそれ自体毒性が強いため、メタノールエンジン自動車では、エンジン整備が困難なことから直接供給利用は難しいが、本装置を使いエタノールを直接供給してメタノールに変換すれば、毒性の脅威にもさらされず、燃料電池などを用いてメタノールをクリーンエネルギとして利用が可能である。
【0004】
現在、エタノールは、サトウキビやとうもろこしやイモ類などの植物性原料を醗酵させて作るバイオエタノールが知られている。バイオエタノールは、バイオエタノール混合ガソリン等で、原油の消費量を減らすことができ、炭酸ガス削減の手段となる等、新しいエネルギ源としてきたいされている。この石油代替エネルギの普及により、産業構造改革が行われ、第二次産業と共に第一次産業も盛んになることが期待される。
【0005】
このような事情を鑑み、本発明は、簡易な方法によって、市場に流通しやすくて安全なエタノールを出力が大きいメタノールに変換する装置で、燃料電池などの燃料として使用しやすくするものである。
【0006】
本発明において、エタノールを原料としてメタノールを製造する装置について特許文献や技術文献を調査したが、適当なものは見いだされなかった。しかし、先に出願した特許文献には、エタノールからメタノールを製造する方法を記載した。よって、この参照文献の方法を参考に、固体高分子膜によるエタノールの電気分解酸化法と、ヨウ化水素及びイリジウムを触媒として、酢酸からメタノールを製造する方法の、2段階に分けて実施されるメタノールの製造装置が完成した。以下、本発明を完成させるに当たって参考となった文献を説明する。
【0007】
非特許文献1には、メタノールと一酸化炭素から酢酸を合成する方法について開示されている。この方法では、メタノールがヨウ化水素と反応してロジウムの働きにより酢酸となり、ヨウ化水素が再生されることが記載されている。しかし、非特許文献1には、酢酸からメタノールを製造する装置については何らの説明も記載されていない。
【0008】
非特許文献2は、燃料電池に関する基本書であるが、燃料電池では、メタノール以外の燃料の置き換えとして、メタノールの代わりにエタノールやボロハイドライト(水素化ホウ素化合物)などの利用が研究されている旨が記載されている。しかし、非特許文献2には、どのような方法でエタノールをメタノールの代わりに使用できるようにするのか、その具体的な方法については何らの説明も記載されていない。
【0009】
特許文献1には、ロジウム含有固体触媒体及びヨウ化アルキルの存在下、反応溶媒中でメタノールと一酸化炭素を反応させて酢酸を生成させる方法が開示されている。しかしながら、特許文献1には、酢酸からメタノールを製造する装置については何らの説明も記載されていない。
【0010】
特許文献2には、イリジウム触媒の存在下、メタノール又はその反応性誘導体をカルボニル化反応器内で液体反応組成物にて一酸化炭素と接触させることからなるメタノール又はその反応性誘導体のカルボニル化による製造方法が開示されている。しかしながら特許文献2には、酢酸からメタノールを製造する装置については何らの説明も記載されていない。
【0011】
特許文献3には、エタノールを燃料電池を用いて電気分解し、それによって生成された酢酸をヨウ化水素とイリジウムを触媒として添加し、メタノールを製造する方法が開示されている。しかしながら特許文献3には、酢酸からメタノールを製造する装置については何らの説明も記載されていない。
【特許文献1】特許第3035642号公報
【特許文献2】特開2008−110990号公報
【特許文献3】特願2009−101492号
【非特許文献1】2007年2月28日日刊工業新聞社発行『とことんやさしい触媒の話』の100〜101頁所載「有毒ガスを有用物質に変える」の記事
【非特許文献2】2007年3月30日株式会社工業調査会発行『燃料電池・実用化への挑戦』の178〜179頁の記事
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記の状況を鑑み、本発明は、エタノールを原料としてメタノールを製造する簡易な製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述の課題を解決するための本発明のうち、特許請求の範囲・請求項1に記載する発明は、エタノールを酸化して酢酸を製造し、その酢酸にヨウ化水素とイリジウムを触媒として添加して加熱し、一酸化炭素ガスを発生させて回収するメタノールの製造装置である。
【0014】
また、同請求項2に記載する発明はエタノールから酢酸を製造する装置として、エタノールを、固体高分子膜を使って電気分解するか又は、さらに酸化剤を添加して電気分解するかのいずれかの方法を用いて、エタノールをアセトアルデヒドに変換し、そのアセトアルデヒドを酸化して酢酸を製造し、エタノール分解槽を冷却することにより、エタノールと生成酢酸を比重により分離する方法を採る、請求項1に記載のメタノールの製造装置である。
【0015】
さらに、同請求項3に記載する発明は酢酸からメタノールを製造する方法として、温度差による比重の相違が顕著になることを利用し、下段ではメタノールを顕著に製造するように、上段ではメタノールを揮発させてメチルアルコール得るように遠赤外線加熱する、請求項1に記載のメタノール製造装置である。
【0016】
さらに、同請求項4に記載する発明は酢酸からメタノールを製造する方法として、製造過程で発生する一酸化炭素を回収する、請求項1及び3に記載のメタノール製造装置である。
【0017】
さらに、同請求項5に記載する発明は原料としてバイオエタノールを用いて、燃料電池用のメタノールを得るためのメタノール製造装置である請求項1から4のいずれかの記載のメタノール製造装置である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るメタノール製造装置のうち請求項1及び請求項2並びに請求項3の発明は、きわめて簡易な装置で実現でき、大規模な設備を必要とせず、比較的安価で実施できる。又、メタノールの製造コストを低く抑えることが出来る。その上、安全性が高くて流通させやすいエタノールを原料として用いて、メタノールを内部装置により製造するので、メタノールの毒性による被害を抑制できる。その為、本発明によるメタノール製造装置を応用することにより、エタノールのメタノール化が促進され、メタノールの用途が拡大する。具体的には、メタノール燃料電池への燃料供給を施すことで、大型車、高出力自動車、重建機、発電施設などに応用することによって、クリーンエネルギの普及を促すことが出来る。
【0019】
特に、本発明に係るメタノール製造装置のうち、請求項4に記載する発明は、メタノール製造過程で発生する有毒ガスである一酸化炭素をもれなく回収することにより、装置の安全性を高めている。回収した一酸化炭素は、工業化学原料への応用範囲は広く、その価値はすこぶる大きい。
【0020】
又、本発明に係るメタノール製造装置のうち、請求項5に記載する発明は、本装置をメタノール燃料電池に併設することによって、毒性の強いメタノールでは無く、安全なエタノールを燃料として使用できることになるので、メタノール燃料電池の開発、普及に大きく貢献できる。並びに、本発明によりバイオエタノールの生産量の増加を促進できる。バイオエタノールであれば、植物の栽培によってエネルギの再生が可能であるため、植物の作付面積を増やすことによって、光合成などによる大気の浄化効果も期待できる。食糧危機が叫ばれる昨今、バイオエタノールは雑草などからも製造可能で、バイオエタノールの需要によって、食料生産量が刺激され、むしろ食物保護政策の解体と合いまってエネルギ及び食糧事情に好影響を与えることが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
まず、エタノールを原料として酢酸を製造する方法について説明する。一般にエタノールを電気分解するか、又はさらにエタノールに適当な酸化剤を作用させて電気分解を施すと、エタノールが酸化されてアセトアルデヒドに変わり、さらに酸化を続けると酢酸に変換できることが知られている。この酸化の過程は、以下の化学式(化1)に示すとおりである。
【0022】
【化1】

エタノールを原料とし電気分解して酢酸を製造する方法として、以下の方法を挙げることが出来る。すなわち、
(1)エタノールを電気分解によって酢酸水溶液に酸化する。この方法では、メタノー ル燃料電池をエタノール電気分解装置として使用できる。エタノールに酸化剤を 加えて酸化する場合も同様である。その原理を説明すると、例えば、卓上メタノ ール燃料電池にエタノールを注入し、4〜5V程度の乾電池によってエタノール の燃料極側の白金電極に負の電位差を生じさせる。そうすると、エタノールから 水素イオンが遊離して脱電子金属である白金に放つので、エタノールは酸化され てアセトアルデヒドを経て酢酸に変換される。一方、空気極側には正の電極の間 に設けてある固体高分子の水素イオン透過膜を透過して伝わり、大気と接触して いる空気白金電極で電子を受け取って大気中の酸素と化合して水が生成される。
【0023】
次に、酢酸からメタノールを製造する方法について説明する。酢酸又はその溶液に触媒としてヨウ化水素を混合すると共にイリジウムを加えて加熱する。酢酸とヨウ化水素の混合比は液状の体積で1〜2対5とするのが好ましい。また、イリジウムは、酢酸1mL当たり3〜5g添加することが好ましい。加熱は20〜75℃で概ね50分程度とするのが望ましい。
【0024】
加熱を続けると、酢酸はヨウ化水素によって脱水され、酢酸のOH基がヨウ素原子と置換される。又、イリジウムの働きによってヨウ素が離脱し、ヨウ化メチルを経て水素と結合し、メチル基はOH基と結合してメタノールと一酸化炭素ガスが生成する。この反応の過程は以下の化学式(化2)又は(化3)で示すことができる。
【0025】
【化2】

【化3】

【0026】
次に、エタノールを原材料として酢酸を製造する装置について説明する。図1のエタノール注入口10bよりエタノールタンク10aへエタノールを注入する。エタノール電気分解槽20aにレベルセンサ(低)24bの信号を受けてエタノール注入弁11が開き、エタノール電気分解槽20aへエタノールを注入し、レベルセンサ(高)24aの信号でエタノール注入弁11が閉まる。酸とアルコールに腐食されにくい材質のエタノール電気分解槽20aの側面の一方に、燃料極(陰極)21aと固体高分子膜21cである電解質、さらに空気極(陽極)21bを貼りあわせて一体化した膜電極接合体を用い、反応ガス供給流路が彫り込まれたプレートを導電板で挟み込んでセルを構成し、このセルを通して電極に12V程度の電位差を電源22で加え、エタノールを電気分解して酸化し、アセトアルデヒドを経て酢酸を製造する。エタノール注入弁11は、エタノール電気分解槽20aのエタノール水位が減ってレベルセンサ(低)24bから信号が出なくなるとき開き、レベルセンサ(高)24aから信号が出ると閉まる。エタノールを電気分解すると水素が発生するが、この水素は気体放出口20cより大気に放出される。
【0027】
ここで、30%酢酸水溶液は、酢酸が水溶液中であまり電離することなく、ペーハは概ね4である。又、この電解質セルを使ったエタノールの酸化方法では、酸化を続けると酢酸の濃度が濃くなって、電離度はさらに減りペーハは5に戻る。アセトアルデヒドはペーハ5なので、槽内のペーハの変化は5→4→5と変化する。この変化を基に、エタノール電気分解槽20aに注入するエタノール注入弁11は、ペーハセンサ23のペーハが4から5になった時で、レベルセンサ(高)24aから信号が出ていないとき開き、レベルセンサ(高)24aから信号が出ているときには閉じている。又、レベルセンサ(低)24bから信号が出なくなると無条件に開く。
【0028】
エタノール電気分解槽20aの下部の外壁部に、エタノール電気分解冷却槽20bがに付いていて、混合液は冷却されて、比重の重い酢酸は下に沈み軽いエタノールが上に浮く現象が顕著になる。上層に、エタノールから酢酸が生成されることを測定するペーハセンサ23が設けてある。エタノール電気分解冷却槽は上部から冷却水が入り、対称側の下部から出て水を循環させる。
【0029】
エタノール電気分解槽20aの下には、酸とアルコールに腐食されにくい材質のメタノール蒸留槽30aを通じて、同性能の材質のメタノール生成槽30bがある。エタノール電気分解槽20aからは酢酸注入パイプが伸びていて、酢酸注入弁32の開閉によって、メタノール生成槽30bに生成酢酸が注入される。
【0030】
次に、メタノール生成槽30bには、モル比で、酢酸:ヨウ化水素:イリジウムが、1:5:5の割合で配合されるようにヨウ化水素とイリジウムを添加する。
【0031】
製造されたメタノールは、比重が軽いことから上層に浮くので、2段加熱部の上段加熱部、遠赤外線ヒータ(上)33cで、メタノールの沸点64.7℃以上に加熱してメタノールを揮発させる。上段加熱部では70℃近辺に温度を温調する。ヨウ化水素とイリジウムは触媒なので、蒸留効率から求まる量で、メタノール生成槽30bに酢酸を注入し、酢酸注入弁32を開いて不足分の酢酸を補給する。(化3)により、酢酸1モルからメタノール1モルの製造されることが分かっているので、揮発消失したメタノールの量の分だけ酢酸を補って、槽内の配合1:5:5が崩れないように酢酸の注入量タイマを設定する。
【0032】
メタノール生成槽30bは2段加熱を行う。下段では加熱用に遠赤外線ヒータ(下)33dによりメタノールの生成が顕著な比較的低温で加熱し、上段では遠赤外線ヒータ(上)33cにより、メタノールを蒸留する為70℃前後に温調する。上段が高温なので酢酸より比重の軽いメタノールは浮きやすい。遠赤外線ヒータ33c、33dは遮蔽強化ガラス(上)(下)33a、33bを介して加熱する。遠赤外線ヒータは、内部エネルギを直接刺激することで反応を無駄なく起こせる。
【0033】
メタノール生成槽30bの上部で、メタノール蒸留槽30aとの境目から上方へ、混合液噴き上げ防護壁30cが伸びており、振動が起きてもメタノール生成槽30bの混合溶液が、メタノール蒸留槽30aの露受け31cに被って外部へ抽出されないように装備されている。
【0034】
メタノール生成槽30bの上層と下層の2ヶ所に温調用の液温センサ(高)34a、液温センサ(低)34bを設け、上層では70℃以上、下層では30〜40℃に温調する。酢酸注入弁32が付いた酢酸注入パイプはメタノール生成槽30bの下層まで伸びていて酢酸を注入する。このとき、酢酸とヨウ化水素の混合溶液の比熱から算定して、温調範囲の量に酢酸注入弁32の注入量を踏まえて酢酸注入量タイマを設定する。
【0035】
レベルセンサ(上)36aは、蒸留効率から求まる酢酸の量で、触媒であるヨウ化水素とイリジウムとの、酢酸:ヨウ化水素:イリジウムの1:5:5の配合割合の水位を保つ働きを担い、レベルセンサ(上)36aの信号が切れると、酢酸注入弁32が開き、タイマで閉まる。レベルセンサ(下)36bは、メタノール生成槽30bの水位が低いとき酢酸注入弁32を開き、レベルセンサ(上)36aの信号が入ると酢酸注入弁32が閉じる。酢酸注入弁32は、レベルセンサ(下)36b自身の信号が出ていないで、ペーハセンサ23のペーハの信号が4→5に切り替わったときだけ開き、レベルセンサ(上)36aの信号が入ると閉まる。
【0036】
メタノール生成槽30bの上には、メタノール蒸気の蒸留冷却水槽31aが装着されている。この槽は上部に水槽があり、槽内天井で液化したメタノールが壁を伝わり、中腹の水勾配の付いた露受け31cでメタノールを抽出口に抽出される構造を取っている。尚、冷却水は抽出コック31bから注入する。
【0037】
発生した一酸化炭素は、メタノール蒸留槽30a天辺の排気口から通気管を伝わって一酸化炭素回収槽40aで塩酸溶液と塩化銅(I)の混合液に吸収させて回収する。この混合溶液に一酸化炭素を通ずると、[CuCl(CO)]の二量体を作り溶液に吸収される。又、メタノール蒸留槽30aの天井の通気口の横に、圧力開閉センサ35が付いていて、メタノール蒸留槽30a内の圧力が大気圧の数倍で圧力開閉弁41が開くように設定する。空気より軽い一酸化炭素は槽内の蒸気圧によって一酸化炭素回収槽40aへ供給され混合液に吸収される。混合液の注入と排出は、注入コック40b、ドレンコック40cによって行う。
【0038】
本発明によれば、酢酸:ヨウ化水素を2:3の混合比で混合し、メタノール生成槽からの1分間の蒸留効率を7.3%と算定すると、エタノール80%、1mLからメタノール30%、0.54mL製造できる。上記から、本発明によれば、1分間のエアタノールからメタノールへの製造効率は15%である。
【実施例1】
【0039】
エタノールと酢酸の10%水溶液を20mLずつ、φ30試験管に取り、良く混和して上層と下層の中間部分位まで水で冷却して、時間によるペーハの変化を見た。初め上下層共ペーハ2だったが、30分後には上層がペーハ3付近になった。これは、密度の濃い酢酸の溶質が下に沈み、上層の酸が薄くなったことを意味する。よって、エタノールと酢酸の混合液は、下部を冷却すれば下層に比重の重い酢酸の水素イオン濃度が濃くなることが分かる。
【実施例2】
【0040】
エタノール80%、10mLに、水酸化ナトリウム水溶液10%、25mLを加え、全体で35mLにしてφ30試験管に入れ、白金電極を浸してエタノールを電気分解した。φ30試験管は混合溶液全体の半分位のところまでビーカに入れて水で冷却し、白金電極に12Vの電圧をかけて電気分解を行い、上層と下層でペーハ測定を行った。エタノールを電気分解するとアセトアルデヒドを経て酢酸が生成するはずである。初めペーハは、上下層共12であったが、上層だけは150分後には9まで下がり、180分後に再び10に上昇した。下部を冷却しているので、下層は水酸化ナトリウム水溶液の濃度が濃く、ペーハは12で変わらない。上層はエタノールと生成された酢酸水溶液である。ペーハが一旦下がって又上がったのは、酢酸は濃くなると電離度が減るため、ペーハが高くなるためで、上層で180分後に酢酸が濃くなったことが分かった。
【0041】
エタノールの電気分解を、酸化剤として過酸化水素水を加えて行った。エタノール80%、3.5mL、過酸化水素水3%、1mLをよく混和してφ30試験管に入れ、白金電極を浸してエタノール燃料電池にしてエタノールの酸化を行った所、200分後に起電力65mVと、酢酸水溶液0.01%、3.5mLを得た。エタノールの電気分解で酸化剤に過酸化水素水を加えると、ある程度反応が進んで、アセトアルデヒドが生成するので、陰極と陽極で電子の授受がスムーズに行われ、反応もラジカルになる。
【実施例3】
【0042】
イリジウムの質量を0.1〜0.2gに固定し、酢酸とヨウ化水素の混合比を変化させて、メタノールの生成量を算出し、混合比の最適値を求めた。混合モル比で、酢酸:ヨウ化水素:イリジウムを5:2:3及び1:5:5としたとき、酢酸水溶液1mLにつきメタノール製造速度比1:90を得た。これは、触媒のモル数が同等だから、酢酸の反応も同等に平均的に進み、まんべんなく反応が進んだ結果で、本実験では、触媒は多量なほど反応が速いのはもとより、平均化しているほうが、製造モル比が高いことが分かった。
【実施例4】
【0043】
純水10mLをφ30試験管に入れ、60℃に加熱して、酢酸水溶液30%、2mLを加え、温度降下を記録して、酢酸水溶液30%の比熱を測定した結果、1.52cal/g・kを得た。同様に純水10mLに酢酸水溶液及びヨウ化水素酸30%、2mLを加え、混合液比熱を求めた結果2.76cal/g・kを得た。
【実施例5】
【0044】
酢酸水溶液30%、3.3mLにヨウ化水素酸30%、5mLを加え、イリジウム0.1〜0.3gを触媒として添加し、湯煎加熱で77℃まで加熱して反応停止まで行った所、一酸化炭素22.5mLを得た。その後、混合液を20℃付近まで冷却し一回目は酢酸水溶液10%、10mLを加え、二回目は酢酸を加えないで一酸化炭素の発生量を測定した。一酸化炭素の捕集量は、一回目に酢酸を加えた時が、17mL、二回目が18mLを得た。上記から、本メタノールの製造実験に於いて、酢酸水溶液30%、3.3mLに、追加酢酸水溶液10%、10mLを加えた場合、再生生成効率76%、又、未反応酢酸反応効率106%を得た。よって、以上の結果から、酢酸及びヨウ化水素の混合比は2:5に近い方がメタノールの生成量が多い。又、未反応酢酸が反応することや、再生生成効率も高いことも分かる。
【実施例6】
【0045】
酢酸水溶液10%、3.3mLにヨウ化水素酸30%、5mL及びイリジウム0.1〜0.3gを触媒として添加し、φ30試験管に入れて湯銭加熱した。途中45℃に達したところで、酢酸水溶液10%、3.3mLを混合液に注いだ。再び45℃に達したところで、酢酸水溶液10%、3.3mLを注いだところ、温度はそれぞれ41℃、43℃まで降下した。このことから、湯銭加熱中の混合液の平均比熱2.23cal/g・kであることが分かった。又、混合液を一旦20℃付近まで冷却し、湯銭ビーカの水200mLに100mLずつ水を足して混合液温度50℃前後と60℃前後で温調した。温調している間に前者は3cc、後者は4ccの一酸化炭素を得た。メタノールの生成量は前者が0.66%、0.007mL,後者が0.87%、0.009mLである。以上より、混合液10mLに対して、10%酢酸水溶液3mL程度の追加であれば、5℃前後の範囲で温調の妨げにはならない。
【実施例7】
【0046】
酢酸水溶液30%、4mLにヨウ化水素酸30%、5mL及びイリジウム0.1〜0.3gを触媒として添加し、混合液をφ30試験管に入れて湯銭加熱し、発生した気体を、純水50mLを入れ水温60℃に保持した水に通気しその気体を水上捕集した。混合溶液の反応から停止まで5回繰り返し合計330分反応させた。通気水を60℃近辺に保つと、発生する気体の反応もラジカルになる。メタノールが混合液内で蒸留していれば、通気水に混和するはずである。結果として、混合溶液を滴定して得られたメタノール、42%、0.42mL、蒸留して得られたメタノールを酸化滴定して得られたものは、0.01%、0.004mLである。以上より、本実験における酢酸水溶液30%、1mLのときのメタノールの蒸留効率は、捕集ガラス管(内径φ4)とφ30試験管(内径φ28)の断面積から補正して、33%、蒸留量は4.3×10−5mL/minである。
【実施例8】
【0047】
エタノール80%、2mLを電気分解して酸化し、40%酢酸水溶液を0.5mL生成し、メタノールを製造する。生成した酢酸水溶液40%、0.5mLにヨウ化水素酸30%、5mL及びイリジウム0.1〜0.3gを触媒として添加し、φ30試験管に入れて湯銭加熱し、発生した気体を純水50mLに通気して、その気体を水上捕集した。混合液内でメタノール製造実験を反応停止まで3回繰り返し計280分純水に通気した。結果、一酸化炭素70ccを捕集した。以上から、捕集ガラス管(内径φ4)とφ30試験管(内径φ28)の断面積から補正した蒸留効率16.5%、メタノール生成速度2.5×10−4mL/min、を得た。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上詳しく説明したとおり、本発明に係るメタノールの製造装置により、エタノールを直接供給してメタノールに変換すれば、メタノールの毒性の脅威にさらされず、燃料電池などを用いてメタノールをクリーンエネルギとして利用可能であり、その応用範囲は幅広く二酸化炭素や大気汚染の排出を抑えて,食糧事情の底上げを踏まえて、高食糧自給が期待でき、産業上の利用可能性はすこぶる大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】エタノールを電気分解して酸化し、生成された酢酸をヨウ化水素とイリジウムを触媒として加熱置換分解して、発生した一酸化炭素を回収し、メタノールを製造する装置の概略説明図である。
【符号の説明】
1 エタノールからメタノールを製造する装置
10a エタノールタンク
10b エタノール注入口
11 エタノール注入弁
20a エタノール電気分解槽
20b エタノール電気分解冷却槽
20c 気体放出口
21a 燃料極(陰極)
21b 空気極(陽極)
21c 固体高分子膜
22 電源
23 ペーハセンサ
24a レベルセンサ(高)
24b レベルセンサ(低)
30a メタノール蒸留槽
30b メタノール生成槽
30c 混合液噴き上げ防護壁
31a 蒸留冷却水槽
31b 注水コック
31c 露受け
32 酢酸注入弁
33a 遮蔽強化ガラス(上)
33b 遮蔽強化ガラス(下)
33c 遠赤外線ヒータ(上)
33d 遠赤外線ヒータ(下)
34a 液温センサ(高)
34b 液温センサ(低)
35 圧力開閉センサ
36a レベルセンサ(上)
36b レベルセンサ(下)
40a 一酸化炭素回収槽
40b 注入コック
40c ドレンコック
41 圧力開閉弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノールを酸化して酢酸を製造し、その酢酸にヨウ化水素とイリジウムを触媒として添加して加熱し、一酸化炭素ガスを発生させて回収するメタノールの製造装置。
【請求項2】
エタノールから酢酸を製造する装置として、エタノールを、固体高分子膜を使って電気分解するか又は、さらに酸化剤を添加して電気分解するかのいずれかの方法を用いて、エタノールをアセトアルデヒドに変換し、そのアセトアルデヒドを酸化して酢酸を製造し、エタノール分解槽を冷却することにより、エタノールと生成酢酸を比重により分離する方法を採る、請求項1に記載のメタノールの製造装置。
【請求項3】
酢酸からメタノールを製造する方法として、温度差による比重の相違が顕著になることを利用し、下段ではメタノールを顕著に製造するように、上段ではメタノールを揮発させてメチルアルコール得るように遠赤外線加熱する、請求項1に記載のメタノール製造装置。
【請求項4】
酢酸からメタノールを製造する方法として、製造過程で発生する一酸化炭素を回収する、請求項1及び3に記載のいずれかの記載のメタノール製造装置。
【請求項5】
原料としてバイオエタノールを用いて、燃料電池用のメタノールを得るための、請求項1から4のいずれかの記載のメタノール製造装置。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−270099(P2010−270099A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−142741(P2009−142741)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(507237495)
【Fターム(参考)】