説明

メタノール合成方法

【課題】低圧下の温和な条件で、二酸化炭素と水素からメタノールを合成することが可能なメタノール合成法を提供する。
【解決手段】触媒を充填した触媒充填層に、二酸化炭素と水素の混合ガスを導入し、該触媒充填層を加熱してメタノールを合成する方法において、前記触媒として、銅酸化物、亜鉛酸化物およびアルミニウム酸化物からなる触媒成分とバインダーとを、銅元素と亜鉛元素の合計値とアルミニウム元素の比率が98:2〜94:6となるように混合された混合物を成形してなる触媒を用い、低圧下で反応させることによりメタノールを合成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素(CO)および水素(H)からメタノールを合成するメタノール合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタノールは主要化学品の一つであり、古くからメタノール合成反応における触媒の研究が行われてきており、一酸化炭素と水素の混合ガス(合成ガス)からのメタノール合成において、酸化銅−酸化亜鉛を含む三元または四元系触媒が、高い活性を有していることが知られている(特許文献1〜3等参照)。
【0003】
メタノールは、メチルターシャリーブチルエーテル(MTBE)、石油化学中間製品などの原料として、あるいは燃料として、今後需要が増えてゆくことが予想されている。
【0004】
一方、人間の社会的活動に伴って、発電所、工場、自動車等から大気中に排出される二酸化炭素は地球温暖化の主たる原因であることが知られており、近年、この二酸化炭素の排出量を削減することが地球環境保護における大きな課題となっている。そのため、発電所等の排煙や大気中の二酸化炭素を固定化し除去する方法が種々検討されている。
【0005】
二酸化炭素を水素と反応させてメタノールに変換し再利用する方法は、生物的あるいは物理的に二酸化炭素を固定化する方法と比較してエネルギーの低減が図れる可能性があり、二酸化炭素の固定化の手段として期待される。しかしながら、二酸化炭素と水素からのメタノール合成法に関しては報告例も少なく、未だ基礎研究の段階である。
【0006】
例えば、特許文献4には、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア等の金属酸化物を担体として、銅と酸化亜鉛を担持した触媒を用いて、二酸化炭素と水素からメタノールを合成する方法が提案されている。当該特許文献4に開示されている触媒は、銅の担持率が1〜30質量%であり、実施例中では、アルミナを担体として、銅と亜鉛が当モルで、銅の担持率が5質量%の触媒を用いて、二酸化炭素と水素からのメタノール合成の事例が示されているが、反応温度220℃、反応圧力30Kg/cmと高温高圧の過酷な条件下で、反応を実施するものである。
【0007】
特許文献5には、銅、亜鉛、アルミニウムおよびガリウムの各酸化物と、アルカリ土類金属元素およびランタンの金属酸化物の一種以上とを含有するメタノール合成触媒を用いて、二酸化炭素と水素の混合ガスからメタノールを合成する方法が提案されている。このメタノール合成触媒は従来触媒に比べてメタノール合成活性が高いと報告されているが、当該方法も、反応温度210℃、反応圧力40Kg/cmの高温高圧の過酷な条件が必要である。
【0008】
また、二酸化炭素と水素の混合ガスに、触媒存在下でマイクロ波を照射することにより、比較的温和な条件で、メタノールを合成する方法が試みられている。特許文献6には、酸化銅−酸化亜鉛−アルミナからなる触媒を用いて、マイクロ波を照射して、二酸化炭素と水素からメタノールを合成する方法が開示されている。この方法では、反応温度が150℃程度で、常圧下の温和な条件でメタノールが生成することが示されているが、二酸化炭素のメタノールへの転化率自体は低く、反応効率の面で問題を有している。
【0009】
特許文献7には、Cu、Zn、Cr、Al、Au、Zr等の金属を1種以上含む触媒を、温度制御効果のある担体に担持させた触媒を用いて、二酸化炭素と水素からエタノールを製造する方法が開示されており、エタノールと同時にメタノールが生成することが示されている。この方法は、成形された触媒を使用するもので、触媒の成形時に、酸化セレン、酸化インジウム、酸化スズ等の金属酸化物やカーボンブラック、グラファイト等の炭素、シリコン、炭化ケイ素等の半導体などのマイクロ波を吸収する温度制御用物質や、あるいはポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート等の有機バインダーを触媒成分に添加して、成形した触媒を使用する方法である。具体的には、その実施例において、酸化銅−酸化亜鉛からなる触媒成分に有機系バインダーを約10質量%添加して成形した触媒を用いて、0.2MPaの圧力下で、触媒にマイクロ波を照射して、二酸化炭素と水素を反応させることで、エタノールが生成すること、そしてエタノールの生成と同時にメタノールが生成することが示されている。しかしながら、この方法でも、メタノールの収率や二酸化炭素の転化率は、まだまだ低く、反応効率の面で課題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭47−009560号公報
【特許文献2】特開昭54−026983号公報
【特許文献3】特開昭59−029037号公報
【特許文献4】特開平4−122444号公報
【特許文献5】特開平10−277392号公報
【特許文献6】特開2006−169095号公報
【特許文献7】特開2008−247778号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
気相系の反応において、反応圧力は装置設計上の重要な因子であり、反応圧力が高くなればなる程、装置の耐圧性の確保が困難になり、装置を大型化することが難しくなるのは一般的によく知られていることである。二酸化炭素と水素からのメタノール合成においても同様であり、処理コストを低減して、効率良く大量の二酸化炭素を処理するためには、なるべく少ない費用で装置を大型化できることが重要であり、そのためには、できる限り低圧で二酸化炭素をメタノールに転化できる反応方法が望まれている。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑み、二酸化炭素と水素からのメタノール合成において、低圧下での温和な条件において、効率良くメタノールを合成できる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した。そして、規定量のアルミニウム元素を含有する酸化銅−酸化亜鉛−アルミナからなる触媒を用いることで、二酸化炭素と水素の混合ガスから、メタノールを効率良く生成することができることを見出し、本発明に到達した。
【0014】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)触媒を充填した触媒充填層に、二酸化炭素と水素の混合ガスを導入し、該触媒充填層を加熱してメタノールを合成する方法において、前記触媒として、銅酸化物、亜鉛酸化物およびアルミニウム酸化物からなる触媒成分とバインダーとを、銅元素と亜鉛元素の合計値とアルミニウム元素のモル比が98:2〜94:6となるように混合された混合物を成形してなる触媒を用い、低圧下で反応することを特徴とするメタノール合成方法。
(2)前記触媒成分における銅元素と亜鉛元素のモル比が、98:2〜30:70である前記(1)に記載のメタノール合成方法。
(3)前記バインダーがグラファイトである前記(1)又は(2)に記載のメタノールの合成方法。
(4)前記バインダーの量が、触媒成分100質量部に対して0.5〜5質量部である前記(1)〜(3)のいずれかにに記載のメタノールの合成方法。
(5)前記触媒の比表面積が85m/g以上である前記(1)〜(4)のいずれかに記載のメタノールの合成方法。
(6)反応圧が、0.1〜0.5MPaであることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載のメタノールの合成方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、触媒の存在下でマイクロ波を照射し、マイクロ波加熱により触媒反応を行わせるメタノール合成反応において、規定量のアルミニウム元素を含有する触媒を用いることで、低圧下で、二酸化炭素と水素からメタノールを効率よく合成することができる。調製された触媒は、成形性および機械強度が良好で崩れにくく、長時間繰り返し利用可能な耐久性のある触媒である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例で用いた触媒活性評価装置の系統図である。
【図2】上記触媒評価装置の触媒設置部の概略を説明する図である。
【図3】上記触媒評価装置の反応容器の概略を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の合成方法に用いるメタノール合成触媒は、その触媒成分は、銅酸化物、亜鉛酸化物およびアルミニウム酸化物からなる。銅酸化物と亜鉛酸化物の比率は、両元素のモル比で、銅:亜鉛=98:2〜30:70であることが好ましく、より好ましくは90:10〜30:70、特に好ましくは80:20〜60:40である。
【0018】
アルミニウム酸化物の量は、銅元素と亜鉛元素の合計とアルミニウム元素のモル比で、98:2〜94:6であり、好ましくは97:3〜95:5である。アルミニウム酸化物の量が、上記の範囲外の場合には、触媒単位質量あたりのメタノール生成量が低下するため好ましくない。
【0019】
本発明の触媒は、上記の比率の銅酸化物、亜鉛酸化物およびアルミニウム酸化物からなる触媒成分に、バインダーを添加して、成形することによって得られる。
【0020】
触媒成分に添加するバインダーとしては、カーボンブラック、グラファイトなどを用いることができるが、グラファイトが好適に用いられる。グラファイトは、上記触媒成分に添加して成形する際に、バインダーとしての機能を発揮するとともに、マイクロ波吸収能も有するからである。
【0021】
バインダーの添加量は、触媒成分100質量部に対して、0.5〜5質量部、好ましくは1〜3質量部である。添加量が0.5質量部より少ないと、マイクロ波加熱において、触媒全体としてのマイクロ波の吸収性が低下し、触媒の加温状態が不均一になったり、あるいは触媒成形時にバインダーとしての効果が不十分で成形不良を起こす場合があり好ましくない。また5質量部を越えても、マイクロ波吸収性ならびにバインダー効果ともに最早向上せず、触媒成分の比率が減少することにより触媒単位質量当たりの活性が低下するため好ましくない。
【0022】
成形した触媒の比表面積が大きい程、触媒活性は増大する傾向にあり、成形した触媒の比表面積は、85m/g以上であることが好ましく、より好ましくは90m/g以上である。
【0023】
本発明の触媒成分は、既知の方法に準じて製造することができる。より高活性な触媒が得られ易いという点から、触媒成分は、銅、亜鉛およびアルミニウムの塩の水溶液から共沈法により製造することが好ましい。銅、亜鉛およびアルミニウムの原料には、触媒毒を含まない硝酸塩、酢酸塩等の塩を使用するのが好ましく、特に硝酸塩が好ましい。前記の原料塩を水に溶かして、濃度0.01〜1.0モル/Lの水溶液として用いる。
【0024】
沈澱剤としては、沈澱率が高く高活性な触媒が得られることから、炭酸ナトリウムおよび重炭酸ナトリウムが好ましく、特に炭酸ナトリウムが好ましい。沈澱剤は水に溶かして、濃度0.01〜1.0モル/Lの水溶液として用いる。
【0025】
例えば、50〜90℃に加温した沈殿剤水溶液中に、撹拌しながら、亜鉛硝酸塩の水溶液を滴下して懸濁液を得、次に銅硝酸塩の水溶液を懸濁液に滴下し、さらにアルミニウム硝酸塩を滴下して沈殿物として触媒成分を生成することができる。あるいは、逆に、銅、亜鉛およびアルミニウムの硝酸塩を溶解した水溶液を沈澱剤水溶液に滴下してもよい。滴下は連続して1分間〜4時間程度行い、その後、1時間〜4時間程度、撹拌、熟成する。沈澱物を濾過等により分離した後、Na分を除去するために十分水洗し、80℃程度で乾燥後粉砕して触媒成分を得ることができる。
【0026】
次いで、得られた触媒成分粉末に、グラファイト粉末等のバインダーを添加し、十分に混和した後、成形器を用いて成形した後、成形物を電気炉等で300〜500℃で焼成する。焼成後、N、H混合ガスにて還元して触媒を製造することができる。
【0027】
成形の形状は特に限定されず、球状、円柱状、ペレット状、ハニカム状、プレート状などに成形して使用することができる。形状に応じて成形器は適宜選択され、例えば円柱状に成形する場合には、一軸加圧成形器等を用いて成形することができる。
【0028】
本発明のメタノール合成方法においては、原料ガスとして、二酸化炭素と水素からなるガスを用いることが好ましいが、二酸化炭素は少なくとも二酸化炭素が含まれているガスであればよい。石炭、石油、LNG、プラスチックの燃焼により生じた燃焼排ガスや、熱風炉排ガス、高炉排ガス、転炉排ガス、燃焼排ガス等の製鉄所副生ガスのような、二酸化炭素を1〜40容量%含有する排ガス等も使用することができる。原料ガスには、窒素ガスなどの不活性ガスが含まれていてもよい。
【0029】
二酸化炭素と水素の比率(モル比)は特に限定されないが、好ましくは5〜50:50〜95、より好ましくは8〜30:70〜92、特に好ましくは10〜20:80〜90である。水素の比率が高いほどメタノール転化率が高くなるが、二酸化炭素固定化の面からは二酸化炭素の比率が高い方が好ましいので、混合比率は上記範囲が望ましい。
【0030】
本発明のメタノール合成反応においては、前記触媒を用いることにより、低圧下で、二酸化炭素と水素からメタノールを合成することができ、反応圧力は、常圧(0.1MPa)〜0.5MPa、好ましくは0.2〜0.4MPaである。
【0031】
反応温度は、100〜300℃、好ましくは150〜250℃の範囲である。
【0032】
反応ガスの流速は任意であるが、空間速度(SV)として500〜50000hr−1が好ましい。
【0033】
触媒層を加熱する場合、加熱手段としてマイクロ波を用いることは、ヒーター等の加熱手段と異なり、マイクロ波が触媒に当たることによって触媒表面が優先的に活性化されるので、エネルギー利用効率を著しく高めることが可能となるため、好ましい方法である。照射するマイクロ波の出力や周波数、照射方法は、特に限定されるものではなく、反応温度が所定の範囲に保持できるよう電気的に制御すればよい。出力が低すぎる場合は反応の進行が遅くなり、出力が高すぎる場合はマイクロ波の利用率が悪くなる。マイクロ波の周波数は、通常、1GHz〜300GHzである。1GHz未満又は300GHzを超える周波数範囲では、反応促進効果が不十分となる。
【0034】
マイクロ波の照射は連続照射、間欠照射のいずれの方法であってもよく、照射時間および照射停止時間は、反応用原料ガスの供給速度や反応触媒の使用量等に応じて適宜に決定すればよい。
【0035】
本発明のメタノール合成方法では、二酸化炭素と水素が触媒に接触した状態で、触媒にマイクロ波を照射することが好ましい。すなわち、二酸化炭素及び水素が触媒に十分接触するように、触媒を充填した触媒充填層を設置した触媒充填装置内に、二酸化炭素と水素の混合ガスを導入し、該触媒充填層中に、二酸化炭素および水素が存在している状態下で該触媒充填層へマイクロ波を照射する方法が、エネルギー効率的に最も好ましい。本発明の好ましい触媒は、触媒成分とグラファイトとから形成されており、触媒成分もグラファイトもともにマイクロ波吸収能を有するので、照射されたマイクロ波の吸収効率が増大するとともに、マイクロ波の吸収による触媒層の加熱状態が均一化されるため、二酸化炭素と水素との反応効率が向上する結果、低圧下の温和な条件下でも、メタノールの生成が効率良く進行するものと推定される。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【0037】
(触媒製造例1)
1000mlの水に、85.41gの試薬特級硝酸銅・3水和物、43.57gの試薬特級硝酸亜鉛・6水和物、および85.41gの試薬特級硝酸アルミニウム・9水和物を溶解させた金属塩水溶液を調製し80℃に加温した。別に、1000mlの純水に53.48gの試薬特級炭酸ナトリウムを溶解した水溶液を調製し60℃に加温した。上記の金属塩水溶液を撹拌しながら、上記の炭酸ナトリウム水溶液を10ml/minで滴下し沈澱を生成させた。pHが7.72になった時点で、炭酸ナトリウム水溶液の滴下をやめ、その後、撹拌下に液温を80℃に2時間保った後、さらに80℃のまま2時間静置し熟成させた。熟成後、沈澱を濾過、洗浄し、80℃で一晩乾燥してから、乾燥物を乳鉢にて粉砕し触媒成分粉末を得た。この触媒成分の各金属元素のモル比は、Cu:Zn:Al=70:29:1である。
得られた触媒成分粉末38.89gに、グラファイト粉末0.82gを添加し、ピストン・乳鉢スターラーで1時間混和し、十分に混合した。
上記混合物を圧力5kNにて一軸加圧成型器を用いて円筒状に成形した後、成形物をマッフル炉(電気炉)を用いて、350℃で3時間空気を流通させながら焼成した。昇温速度は3℃/minとした。
焼成した触媒は、窒素雰囲気下で230℃まで昇温(昇温速度3℃/min)し、ついで水素:窒素=1:9のガスにて230℃、3時間還元した。
得られた触媒を触媒Aとする。
【0038】
(触媒製造例2)
試薬特級硝酸亜鉛・6水和物を40.57g、試薬特級硝酸アルミニウム・9水和物を5.80g用い、炭酸ナトリウムの滴下を終了するpHを7.74とした以外は、触媒製造例1と同様の方法にて触媒Bを製造した。
触媒Bを構成する触媒成分の各金属元素のモル比は、Cu:Zn:Al=70:27:3である。
【0039】
(触媒製造例3)
試薬特級硝酸亜鉛・6水和物を37.56g、試薬特級硝酸アルミニウム・9水和物を5.80g用い、炭酸ナトリウムの滴下を終了するpHを7.75とした以外は、触媒製造例1と同様の方法にて触媒Cを製造した。
触媒Cを構成する触媒成分の各金属元素のモル比は、Cu:Zn:Al=70:25:5である。
【0040】
(触媒製造例4)
試薬特級硝酸亜鉛・6水和物を30.05g、試薬特級硝酸アルミニウム・9水和物を19.34g用い、炭酸ナトリウムの滴下を終了するpHを7.80とした以外は、触媒製造例1と同様の方法にて触媒Dを製造した。
触媒Dを構成する触媒成分の各金属元素のモル比は、Cu:Zn:Al=70:20:10である。
【0041】
(触媒製造例5)
硝酸アルミニウムは用いずに、試薬特級硝酸亜鉛・6水和物を45.07g用いて、炭酸ナトリウムの滴下を終了するpHを7.71としたこと以外は、触媒製造例1と同様の方法にて触媒Eを製造した。
触媒Eを構成する触媒成分の各金属元素のモル比は、Cu:Zn=70:30である。
【0042】
[触媒の比表面積の測定]
得られた触媒A〜Eについて、比表面積計(NOVA1200e、Quantachrome社製)を用いて、比表面積を測定した。
【0043】
(実施例1)
特開2008−224257号公報記載の固定床流通式の触媒活性評価装置を用いて、触媒製造例1〜5で製造した触媒A〜Eを試験した。
【0044】
[評価装置]
図1に評価装置の系統図を示す。反応は外径75mmΦ、高さ120mmの円筒型ステンレス(SUS)製反応容器3を使用し、図2に示すように、反応容器3内には、高さ50mmの原料ガスバッファー部35を設け、ステンレスのクラッドを3ヶ所削り、内径10mmΦ、高さ約50mm、内容量約4cmの触媒設置部31を均等に3個配置した。触媒設置部31の中に、5mmΦ×6mmのペレット型触媒1〜数個(約0.5g)を充填した。反応容器の周囲をマントルヒーター32にて覆い、温度コントローラを用いて加熱温度を制御した。反応容器3は、概略を図3に示すように密閉式であり、底面に温度測定座を設けた。
原料ガス又はパージ用ガスを収容したボンベ、反応容器3及びガス検知管4は、内径6mmのステンレス(SUS)製チューブを用いて接続した。原料ガス及びパージ用ガスの流量制御は圧力調整弁1にて行い、途中に、パージガス用仕切弁2と、水素還元用ガス切替用の三方弁3を設置した。反応容器の後流には、反応容器から導出されたガスの流量調整弁5、流量計10を設け、評価時に触媒設置部における原料ガスの空間速度を統一するようにした。
水素還元用ガスは、評価触媒の前処理用として使用できるように収容パック14に収容し、そのガスを循環ポンプ15にて循環させた。触媒の前処理時は、水素還元用ガス切替用の三方弁6、7、8及びパージ用仕切弁16を操作し、評価触媒にのみ水素還元用ガスを循環させ、途中に触媒調整時に発生する水のトラップ13を設けた。
【0045】
触媒ごとに導出された生成ガスに含まれるメタノール濃度は、サンプリング口12から採取した反応ガスをガスクロマトグラフィー(GC)で分析することにより、求めた。ガス検知管4を通過したガスは排気した。
【0046】
[評価試験]
(1)触媒活性試験準備
装置より反応容器を取り外し、使用触媒の重量を測定して反応容器内にセットし、反応容器を装置にセットした。メタノールガス検知管の上下を専用工具を用いて折り、検知管を所定の位置に設置した。
【0047】
(2)水素還元用ガスの製造
10Lテドラーパック14に、水素還元用ガス(H+N)を封入し、装置にセットした。三方弁(水素還元切替)6及び7を水素還元ラインに切り替え、ガス循環ポンプ15をONにした。各ラインの流量調整弁5にて流量計10を所定流量に調整した。温度制御装置を水素還元温度にセットし、加熱を開始した。設定還元温度となってから、所定時間保持した。
【0048】
(3)ガス置換
温度制御装置スイッチをOFFにした。ある程度温度が下がったところで、三方弁(パージ切替)8をガス排気ラインに切り替え、パージ用仕切弁16を開けて(H+N)混合ガスを排気した。全量排気が終了したら、ガス循環ポンプ15を停止した。三方弁(水素還元切替)6を活性試験ラインに切り替えた。パージガス用仕切弁2を開けて、窒素ボンベからガスを反応系内に導入し、約10min、窒素で反応系内をパージした。
【0049】
(4)触媒活性試験
パージガス用仕切弁2を閉じ、窒素ボンベの元栓を閉めた。CO+H混合ガスのボンベを開放し、原料ガスを導入した。圧力調整弁1で反応圧力条件に合わせた。温度制御装置を活性試験温度にセットし、加熱を開始した。原料ガスをサンプリング口(反応前)11よりマイクロシリンジで採取し、ガスクロマトグラフィーにて反応前のガス組成を確認した。設定温度到達後、120min経過したら三方弁(水素還元切替)7を反応管側に切り替え、パージ用仕切弁16を閉じた。反応管に反応ガスを流し、所定時間(5min程度)経過したら、パージ用仕切弁16を開け、三方弁(水素還元切替)7を水素還元ラインに切り替え、反応を終了した。反応管を取り外し、生成物による反応管の呈色具合を確認した。
【0050】
ガスクロマトグラフィーによる分析結果を表1に示す。なお、表1において、メタノール空時収量は、生成したメタノールの量を、触媒1Kg当たり反応時間1時間で生成したメタノール量に換算した値を表す。また、CO転化率は、反応系に供給した二酸化炭素の内、反応により消費された二酸化炭素の割合を表す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1に示すように、酸化銅−酸化亜鉛−アルミナを触媒成分とし、グラファイトをバインダーとして混合して成形した触媒は、アルミナを含まず酸化銅−酸化亜鉛のみを触媒成分とする触媒E、に比べて活性が高いことがわかる。本発明のアルミニウム含有量が2〜6%の触媒(B、C)は、これ以外の触媒(A、D)に比べて活性化が高いことがわかる。触媒比表面積が大きい触媒は活性が高くなる傾向が見られた。
【0053】
(実施例2)
触媒A〜Eを用い、反応器の加熱温度を、180℃および220℃に変える以外は、実施例1と同様にして反応を行った。生成したメタノールから、実施例1と同様にして、メタノール空時収量を求めた結果を、表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
表2に示すように、本発明の酸化銅−酸化亜鉛−アルミナを触媒成分とする触媒は、アルミナを含まない酸化銅−酸化亜鉛を触媒成分とする触媒、および、アルミニウム含有量が規定の範囲内に無い触媒より、いずれの温度においても活性が高いことがわかる。
【0056】
(実施例3)
触媒A〜Eのペレット(5mmΦ×6mm)について、圧縮試験を行った。圧縮強度の結果を表3に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
表3に示すように、触媒中のアルミニウム含有量が増加すると、触媒の圧縮強度も増加する。特に、本発明のアルミニウム含有量が2〜6%の触媒(B、C)は、アルミナを含まず酸化銅−酸化亜鉛のみを触媒成分とする触媒Eよりも1.5倍以上圧縮強度が高くなることがわかる。よって、アルミニウム含有量が規定の範囲内に調製された触媒は、成形性および機械強度が良好で崩れにくく、長時間繰り返し利用可能な耐久性のある触媒であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
低圧下の温和な条件で、二酸化炭素と水素からメタノールを合成することができるので、二酸化炭素の固定化方法として二酸化炭素の削減に利用できるとともに、生成したメタノールを燃料や各種化合物の製造原料として用いることができる。
【符号の説明】
【0060】
1 圧力調整弁
2 パージガス用仕切弁
3 反応容器
4 ガス検知管
5 流量調整弁
6 三方弁(水素還元切替)
7 三方弁(水素還元切替)
8 三方弁(パージ切替)
9 圧力計
10 流量計
11 サンプリング口(反応前)
12 サンプリング口(反応後)
13 水トラップ
14 水素還元用バッファーガス
15 ガス循環ポンプ
16 パージ用仕切弁
31 触媒設置部
32 ヒーター
33 原料ガス導入部
34 反応ガス導出部
35 バッファー部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒を充填した触媒充填層に、二酸化炭素と水素の混合ガスを導入し、該触媒充填層を加熱してメタノールを合成する方法において、前記触媒として、銅酸化物、亜鉛酸化物およびアルミニウム酸化物からなる触媒成分とバインダーとを、銅元素と亜鉛元素の合計値とアルミニウム元素のモル比が98:2〜94:6となるように混合された混合物を成形してなる触媒を用い、低圧下で反応することを特徴とするメタノール合成方法。
【請求項2】
前記触媒成分における銅元素と亜鉛元素のモル比が、98:2〜30:70である請求項1に記載のメタノール合成方法。
【請求項3】
前記バインダーがグラファイトである請求項1又は2に記載のメタノールの合成方法。
【請求項4】
前記バインダーの量が、触媒成分100質量部に対して0.5〜5質量部である請求項1〜3のいずれかにに記載のメタノールの合成方法。
【請求項5】
前記触媒の比表面積が85m/g以上である請求項1〜4のいずれかに記載のメタノールの合成方法。
【請求項6】
反応圧が、0.1〜0.5MPaであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のメタノールの合成方法。




















【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−235550(P2010−235550A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87615(P2009−87615)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】