説明

メタノール合成用触媒の製造方法、及びメタノールの製造方法

【課題】触媒活性が高いことに加え、製造原料中にCO2 、水が存在しても活性低下の度合いが低く、比較的に低温、低圧でメタノールを得ることができる触媒の製造方法、及び当該触媒を用いたメタノールの製造方法を提供する。
【解決手段】Cuを含むメタノール合成用触媒の製造方法であって、共沈法において、ポリエチレングリコールを添加することを特徴とする。また、そのメタノール合成用触媒とアルコール溶媒との存在下で、一酸化炭素、二酸化炭素の少なくともいずれか、及び水素を含む原料ガスを反応させてメタノールを製造することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタノール合成用触媒の製造方法、及びメタノールの製造方法に関する。さらに詳しくは、一酸化炭素、又は、一酸化炭素及び二酸化炭素の炭素源と、水素とからメタノールを製造する際に、活性の高い触媒の製造方法、及び、この製造方法で製造された触媒を用いて高効率でメタノールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、工業的にメタノールを合成する際には、メタンを主成分とする天然ガスを水蒸気改質して得られる一酸化炭素と水素(合成ガス)を原料とし、銅・亜鉛系などの触媒を用いて固定床気相法にて、200〜300℃、5〜25MPa という厳しい条件で合成される(例えば、非特許文献1参照)。本反応は発熱反応であるが、気相法では熱伝導が悪いために効率的な抜熱が困難であることから、反応器通過時の転化率を低く抑えて、未反応の高圧原料ガスをリサイクルするという効率に難点のあるプロセスとなっている。しかし、合成ガス中に含まれる、水、二酸化炭素による反応阻害は受けにくいという長所を活かして、様々なプラントが稼働中である。
【0003】
一方、液相でメタノールを合成して抜熱速度を向上させる様々の方法が検討されている。中でも、低温(100〜180℃程度)で遷移金属カルボニル錯体とアルコキサイドからなる活性の高い触媒を用いる方法は、熱力学的にも生成系に有利であり、注目を集めている(例えば、特許文献1、非特許文献2参照)。しかし、これらの方法では、合成ガス中に水、二酸化炭素が少量でも存在すると活性低下することが報告されており、何れも実用には至っていない(例えば、非特許文献3参照)。
【0004】
本発明者らはこれまでに合成ガス中に水、二酸化炭素が存在しても失活しないCu/MgO系の低温液相メタノール合成触媒を発明した(例えば、特許文献2)。しかし、更なる触媒活性の向上が求められていた。
【0005】
【特許文献1】US4,992,480
【特許文献2】特開2005-095872号公報
【非特許文献1】J. C. J. Bart et al., Catal. Today, 2, 1 (1987)
【非特許文献2】大山聖一, PETROTECH, 18(1), 27 (1995)
【非特許文献3】S. Ohyama, Applied Catalysis A: General, 180, 217 (1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決することを目的とするものであり、メタノールの合成原料ガス中に二酸化炭素、水等が混在しても触媒の活性低下の度合いが低く、かつ、気相法と比較して低温、低圧でメタノールを合成することが可能であり、以前の発明触媒と比較して活性の高い触媒、及びその製造方法、並びにこの製造方法で製造された触媒を用いた液相でのメタノールの合成方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の特徴とするところは、以下に記す通りである。
【0008】
(1) アルコール溶媒の存在下で、一酸化炭素、又は、一酸化炭素及び二酸化炭素と、水素とを含む原料ガスからギ酸エステルを経由してメタノールを合成する際に用いられるCuを含むメタノール合成用触媒の共沈法による製造方法であって、溶媒中で触媒成分のプレカーサーを反応させて前記触媒を共沈法で製造する際に、触媒成分のプレカーサーを溶解した溶液、沈殿剤を溶解した溶液、又はこれらの水溶液を滴下し沈殿が形成される場となる溶媒の少なくともいずれかに、ポリエチレングリコールを添加することを特徴とするメタノール合成用触媒の製造方法。
【0009】
(2) 前記メタノール合成用触媒がCuに加えてZnを含む触媒であることを特徴とする(1)に記載のメタノール合成用触媒の製造方法。
【0010】
(3) 前記共沈法で触媒を製造する際に、前期沈殿が形成される場となる溶液を、pH=8〜11の範囲でpH の値を一定に保ちながら調製することを特徴とする(1)又は(2)に記載のメタノール合成用触媒の製造方法。
【0011】
(4) (1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法によって製造されたメタノール合成用触媒とアルコール溶媒の存在下で、一酸化炭素、又は、一酸化炭素及び二酸化炭素と、水素とを含む原料ガスを反応させて、ギ酸エステルが混合したメタノールを製造することを特徴とするメタノールの製造方法。
【0012】
(5) (1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法によって製造されたメタノール合成用触媒、水素化分解触媒、及びアルコール溶媒の存在下で、一酸化炭素、又は、一酸化炭素及び二酸化炭素と、水素とを含む原料ガスを反応させて、ギ酸エステル及びメタノールを生成すると共に、生成したギ酸エステルを水素化してメタノールを製造することを特徴とするメタノールの製造方法。
【0013】
(6) (1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法によって製造されたメタノール合成用触媒とアルコール溶媒の存在下で、一酸化炭素、又は、一酸化炭素及び二酸化炭素と、水素とを含む原料ガスを反応させて、ギ酸エステル及びメタノールを生成し、当該生成物を反応系から分離した後、当該分離後の生成物中のギ酸エステルを、水素化分解触媒を用いて水素化してメタノールを製造することを特徴とするメタノールの製造方法。
【0014】
(7) (1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法によって製造されたメタノール合成用触媒とアルコール溶媒の存在下で、一酸化炭素、又は、一酸化炭素及び二酸化炭素と、水素とを含む原料ガスを反応させて、ギ酸エステル及びメタノールを生成し、当該生成物よりギ酸エステルを分離した後、当該分離後のギ酸エステルを、水素化分解触媒を用いて水素化してメタノールを製造することを特徴とするメタノールの製造方法。
【0015】
(8) 前記アルコール溶媒が第1級アルコール又は第2級アルコール、且つ一価アルコールであることを特徴とする(4)〜(7)のいずれかに記載のメタノールの製造方法。
【0016】
(9) 温度70〜200℃及び圧力3〜80気圧の条件下で反応を行うことを特徴とする(4)〜(7)のいずれかに記載のメタノールの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の触媒は、原料ガス中に二酸化炭素、水等が混在しても、触媒活性の低下度合いが低く、更に、本発明者等が為した従来のCu/MgO系触媒(特許文献2)よりも触媒活性が高い液相法によるメタノール合成が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係るメタノール合成用触媒の製造方法の基本形態は、アルコール溶媒の存在下で、一酸化炭素、又は、一酸化炭素及び二酸化炭素と、水素とを含む原料ガスからギ酸エステルを経由してメタノールを合成する際に用いられるCuを含むメタノール合成用触媒の共沈法による製造方法において、前記触媒を共沈法で調製する際にポリエチレングリコールを添加するというものである。ここで、共沈法で製造する触媒とは活性化処理前のものを言う。
【0019】
本発明者らは、鋭意検討した結果、触媒を共沈法で調製する際に、用いる溶液のいずれかにポリエチレングリコールを添加して製造されたメタノール合成用触媒を用いると、水または二酸化炭素の一方又は双方が少量混在しても、一酸化炭素又は二酸化炭素の一方又は双方と水素とからなる原料ガスを、溶媒としてのアルコール類の存在下で合成反応させることで、メタノールが高効率で製造可能であることを見出し、本発明に至った。
【0020】
本発明における触媒の製造方法の特徴は、共沈法において用いる溶液のいずれかにポリエチレングリコールを添加することにある。
【0021】
共沈法は、複数の触媒成分のプレカーサーを沈殿剤を用いて溶媒中で反応させて、複数の触媒成分を共沈させる方法である。共沈法自体は公知であり、本発明はそのいずれをも利用できる。
【0022】
本発明で製造する触媒はCuを含む共沈物であるが、Cuと組み合わせる触媒成分は限定されず、Cu/ZnO、Cu/MgO、Cu/CeO、Cu/MnO、Cu/ReOなどであることができるが、Cu/ZnOが好ましい。Cuと第2成分のモル比は特に限定されることは無いが、0.05〜20の範囲が好ましく用いられ、3:1〜1:3の範囲がより好ましく用いられ、とくに1:1程度で好適な結果を得ることができる。第3成分を含むことも可能である。第3成分は共沈のほか、後から含浸させて添加することも可能である。
【0023】
触媒成分のプレカーサーは、限定されないが、触媒成分の硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩などを好ましく用いることができる。
【0024】
沈殿剤も限定されず、水溶液がアルカリ性の化合物であるが、たとえば、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウムなどを用いることができる。
【0025】
沈殿が形成される場、すなわち、反応溶媒としては、イオン交換水が好ましいが、イオン交換水を含む溶液として用いてもよい。
【0026】
本発明で用いるポリエチレングリコールは特に限定されないが、分子量が100〜1,000程度のものが典型的であり、100〜5,000が好ましく用いられ、10,000を超えるものも用いることができる。ポリエチレングリコールの存在においてCu含有触媒を共沈法で製造するとメタノール合成触媒の触媒活性が向上する理由は不明であり、本発明はいかなる理論にも拘束されないが、ポリエチレングリコール存在下におけるミセルの形成により、Cuが凝集されにくいため担体成分上に高分散されるためであると推測される。
【0027】
本発明における共沈法は、例えば、以下の手順にて触媒を製造可能である。触媒成分(反応に活性を示す成分と担体成分)のプレカーサー(前駆体とも言う)を溶解した水溶液、沈殿剤を溶解した水溶液、これらの水溶液を滴下し沈殿が形成される場となるイオン交換水等の溶媒又は溶液、の3種の溶液を用意する。イオン交換水等の水溶液にpH計を設置し、触媒成分のプレカーサーを溶解した水溶液、沈殿剤を溶解した水溶液をそれぞれ滴下することで沈殿を形成する。沈殿を熟成後、必要に応じて洗浄し、焼成することで触媒を製造することができる。
【0028】
上述のように本発明における共沈法では、典型的には、触媒成分のプレカーサーを溶解した水溶液、沈殿剤を溶解した水溶液、これらの水溶液を滴下し沈殿が形成される場となるイオン交換水等の溶液、の3種の溶液が使用される。例えば、Cu/ZnO触媒を調製する場合には、Cu、Znのプレカーサーを溶解した水溶液、炭酸ナトリウムなどの沈殿剤を溶解した水溶液、これらの水溶液を滴下してCu,Znの沈殿が形成されるイオン交換水などの溶媒又は溶液が使用される。ポリエチレングリコールはこれらの溶液の少なくともいずれかに添加されれば良く、限定されることは無いが、触媒成分のプレカーサーを溶解した水溶液、沈殿が形成される場となるイオン交換水等の溶媒又は溶液、のいずれかに添加された場合に好結果が得られ易い。ポリエチレングリコールのこれら溶液への添加は、共沈操作の前に予め行っておくことが好ましいが、沈殿が形成される場となるイオン交換水等の溶液へ添加の際は、共沈操作中に添加しても良い。ポリエチレングリコールの添加量は特に限定されることは無いが、活性成分プレカーサーのモル数に対して1〜100倍で好結果を得られやすく、更に好ましくは2〜20倍である。
【0029】
共沈法で沈殿が形成される際の温度条件は、特に限定されることは無いが、40℃〜80℃で一定に保つと好結果が得られ易く、更に好ましくは60℃〜70℃である。
【0030】
また、沈殿が形成される際のpHは、特に限定されることは無いが、8〜11の範囲内においてある値で一定に保つと活性の高い触媒が得られ易く、pHを一定に保つことが好ましい。しかし、高いpHに保持するためには炭酸ナトリウムなどの沈殿剤が大量に必要となるため、経済性の観点より通常は8〜10の範囲であるpHの値を設定して製造される。pHを一定に保持するためには、沈殿が形成される溶液のpHをpH計で測定し、酸性を示すプレカーサーを溶解した水溶液と、アルカリ性を示す沈殿剤を溶解した水溶液の滴下速度を調節することが必要である。
【0031】
上述の方法で調製された沈殿物は、熟成のため一定時間放置する。熟成時間は特に限定されることは無いが、通常は5〜500時間程度である。熟成後は沈殿物をろ過し、ポリエチレングリコール、炭酸ナトリウムなどの沈殿剤成分を除去するため、イオン交換水等で洗浄する。洗浄条件は特に限定されることは無いが、通常は常温〜80℃の温度で実施される。洗浄後は沈殿物を乾燥(例えば、120℃-20h)、焼成(例えば、空気中400℃-2h)し必要に応じて整粒後、還元(例えば、水素気流中200℃-10h)等の活性化処理を施して反応に供される。空気中で触媒をハンドリングする必要がある場合には、表面不動態化処理を施すことが可能である。これらの工程の条件も特に限定されることは無く、通常実施される範囲であれば良い。
【0032】
上述の共沈法で製造するメタノール合成用触媒は、Cu系触媒において好適な結果が得られ、特にCu/ZnOが好ましい。Cu/ZnO触媒を調製する際には、触媒成分のプレカーサーを溶解した水溶液として、Cuに加えてZnのプレカーサーを溶解した水溶液を用いれば良い。
【0033】
また、共沈法において触媒成分のプレカーサーを溶解した水溶液に第3成分のプレカーサーを添加して調製することも可能であり、その他、共沈法で調製した後に、含浸法等の通常の触媒調製法で第3成分を添加することも可能である。
【0034】
上述の方法で調製した触媒を用いて一酸化炭素、二酸化炭素の少なくともいずれか及び水素を含む原料ガスを用いて反応を実施すると、触媒活性が高いため高効率でメタノールを製造することが可能である。
【0035】
図1に、本発明に係る製造方法で製造された触媒を用いて、メタノールを製造するプロセスフローの1例を示す。
【0036】
半回分式反応器2に、共沈法で調製する際に用いる溶液のいずれかにポリエチレングリコールを添加することで製造した触媒を、溶媒アルコールと共に仕込み、合成ガス1を供給する。反応器2の出口から排出される生成物(ギ酸エステル、メタノール)及び未反応ガスの混合物3を、冷却器4で冷却し、未反応ガス5と、ギ酸エステル及びアルコールの液体混合物6に分離する。後者は次段に設置した蒸留塔7においてギ酸エステル8と、メタノール9に分離する。ギ酸エステル及びメタノールへ転化する原料ガスの転化率が低い場合は未反応ガス5を再度半回分式反応器2に供給することも可能であるが、高収率で得られる場合は未反応ガスを合成ガス製造の熱源(燃料)として利用することもできる。
【0037】
反応に用いる溶媒としてのアルコール類としては、鎖状または脂環式炭化水素類に水酸基が付いたものの他、フェノール及びその置換体、更には、チオール及びその置換体でも良い。これらアルコール類は、第1級、第2級および第3級のいずれでもよいが、反応効率等の点からは第1級アルコール、第2級アルコールが好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコールが最も一般的である。また、反応効率等の点から1価アルコールが好ましいが、2価、3価アルコールなどの多価アルコールを使用することもできる。反応は液相であり、温和な条件を選定しうる系を採用することができる。具体的には、温度70〜250℃、圧力3〜100気圧(約0.3〜10MPa)が好適な条件であり、より好ましくは温度70〜200℃、圧力3〜80気圧(約0.3〜8MPa)、さらに好ましくは温度120〜200℃、圧力15〜80気圧(約1.5〜8MPa)であるが、これらに限定されない。アルコール類は、反応が進行する程度の量があればよいが、それ以上の量を溶媒として用いることもできる。また、上記反応に際してアルコール類の他に、有機溶媒を併せて用いることができる。また、生成メタノールは溶媒アルコールから蒸留によって分離することが可能である。
【0038】
反応器の後段で回収される生成物のギ酸エステルとメタノールの混合物は、蒸留により精製してギ酸エステルとメタノールに分離することができ、ギ酸エステルはそのままメタノールの製造に供することもできる。すなわち、分離後のギ酸エステルを水素化分解してメタノールを製造しうる。水素化分解には水素化分解触媒が用いられ、たとえばCu、Pt、Ni、Co、Ru、Pd系の一般的な水素化分解触媒を用いることができる。また、ギ酸エステルとメタノールの混合物を分離せず水素化分解触媒及び水素を共存させて、混合物中のギ酸エステルを水素化分解してメタノールを製造することもできる。さらに、本発明においては、原料ガスとアルコール類からギ酸エステルとメタノールを生成させる前記反応系にこれらの水素化分解触媒を共存させておくことにより、メタノール選択率を増加させ効率良くメタノールを製造することができる。
【0039】
ギ酸エステル水素化分解反応によって、メタノール、残存ギ酸エステル、溶媒アルコール(下記(1)式のR-OH)の混合物が得られるが、蒸留によってメタノールを精製する。
【0040】
本発明におけるギ酸エステル、そしてメタノールの製造方法は、以下に示す反応式のいずれかに基づくものと推定される(アルコール類が鎖状または脂環式炭化水素類に水酸基が付いたものである場合を例にとって示す)。
【0041】
R-OH+CO →HCOOR (1)
HCOOR+2H2 →CH3OH+R-OH (2)
(ここでRはアルキル基を示す)
ただし、反応系に水が存在する場合は次に示す反応式に基づくと考えられ、前記反応式と並行してギ酸エステルまたはメタノールが生成するものと推定される。
【0042】
CO+H2O →CO2+H2 (3)
CO2+H2+R-OH →HCOOR+H2O (4)
HCOOR+2H2 →CH3OH+R-OH (5)
また、本発明の触媒はCu系触媒であるため、上記の反応式と並行して以下の反応式でもギ酸エステルまたはメタノールが生成するものと推定される。
【0043】
CO+H2O →CO2+H2 (6)
CO2+1/2 H2+Cu →HCOOCu (7)
HCOOCu+ROH →HCOOR+CuOH (8)
HCOOR+2H2 →CH3OH+ROH (9)
CuOH+1/2 H2 →H2O+Cu (10)
したがって、メタノールの製造原料は、一酸化炭素と水素、二酸化炭素と水素の、少なくともいずれかであり、アルコール類は回収、再利用しうる。ただし、製造原料が二酸化炭素と水素の場合は、一酸化炭素と水素の場合と比較して活性は低く、炭素源は一酸化炭素を主に含む方が好ましい。また、本発明方法によれば、炭素源として一酸化炭素を主成分とする原料ガス中に水、二酸化炭素が存在していても、触媒の活性低下は小さい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例1〜6と比較例1、2により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。また、実施例を表に一覧化した。
【0045】
CO転化率、CO2転化率、C転化率、ギ酸エステル選択率、メタノール選択率、メタノール収率は、それぞれ次に示す式により算出した。
・CO転化率(%) = [1-(反応後に回収されたCOモル数)/(仕込んだCOモル数)]×100
・CO2転化率(%) = [1-(反応後に回収されたCO2モル数)/(仕込んだCO2モル数)]×100
・C転化率(%) = CO転化率(%)×[(仕込んだCOモル数)/(仕込んだCO+CO2モル数)] + CO2転化率(%)×[(仕込んだCO2モル数)/(仕込んだCO+CO2モル数)]
・ギ酸エステル選択率(%) = [(反応後に回収されたギ酸エステルモル数)/{(C転化率(%))×(仕込んだCO+CO2モル数)}]×100
・メタノール選択率(%) = [(反応後に回収されたメタノールモル数)/{(C転化率(%))×(仕込んだCO+CO2モル数)}]×100
【0046】
(実施例1)
Cu、Znの硝酸塩を溶解した水溶液(CuとZnのモル比は1:1)、炭酸ナトリウムを溶解した水溶液、これらの水溶液を滴下して沈殿が形成される場となるイオン交換水を用意した。イオン交換水に対して10wt%のポリエチレングリコール(モル数でCuの5.8倍)を添加し、沈殿が形成される場となるイオン交換水を攪拌しながら、Cu、Znの硝酸塩を溶解した水溶液、炭酸ナトリウムを溶解した水溶液の滴下速度を制御し、pH=8.5に保持してCu/Znの沈殿を得た。24h熟成後、イオン交換水で沈殿を洗浄し、乾燥(空気中120℃-10h)、焼成(空気中450℃-2h)、水素還元(水素気流中200℃-2h)、表面不動態化処理を行いCu/ZnO触媒を調製した。
【0047】
内容積85mlのオートクレーブを用い、溶媒として2-ブタノール40mlに上記の方法で調製したCu/ZnO触媒1gを添加し、合成ガス(CO 34.90vol%、二酸化炭素 5.20vol%、Ar 3.09vol%、水素 バランス)を5MPa 充填して、170℃、20時間の連続反応を行い、反応生成物をガスクロマトグラフで分析した。
【0048】
CO転化率40.1%、CO2転化率-2.4%、TotalC転化率34.6%、ギ酸メチル選択率0.3%、ギ酸ブチル選択率0.2%、メタノール選択率99.5%であった。
【0049】
(実施例2)
実施例1に記載の共沈法による触媒の製造方法においてポリエチレングリコールを添加する水溶液を、Cu、Znの硝酸塩(プレカーサー)を溶解した水溶液に変更してCu/ZnO触媒を調製した。
【0050】
上記のCu/ZnO触媒を使用する他は、実施例1に記載と同様の方法で反応を行った。
【0051】
CO転化率41.5%、CO2転化率-2.0%、TotalC転化率35.8%、ギ酸メチル選択率0.6%、ギ酸ブチル選択率0.3%、メタノール選択率99.1%であった。
【0052】
(実施例3)
実施例1に記載の共沈法による触媒の製造方法においてポリエチレングリコールの添加量を20mass%(モル数でCuの11.6倍)に変更してCu/ZnO触媒を調製した。
【0053】
上記のCu/ZnO触媒を使用する他は、実施例1に記載の方法で反応を行った。
【0054】
CO転化率34.5%、CO2転化率1.5%、TotalC転化率30.2%、ギ酸メチル選択率0.3%、ギ酸ブチル選択率0.3%、メタノール選択率99.4%であった。
【0055】
(実施例4)
実施例2の触媒調製法において、Znの硝酸塩に代えてMgの硝酸塩を使用しCu/MgOを調製した。
【0056】
反応を行ったところ、CO転化率40.2%、CO2転化率2.2%、TotalC転化率35.3%、ギ酸メチル選択率28.6%、ギ酸ブチル選択率32.9%、メタノール選択率38.5%であった。
【0057】
(実施例5)
溶媒として1-プロパノールを使用する他は実施例2に記載と同様の方法で反応を行った。
【0058】
CO転化率30.9%、CO2転化率-1.8%、TotalC転化率26.7%、ギ酸メチル選択率0.1%、ギ酸プロピル選択率0.9%、メタノール選択率99.0%であった。
【0059】
(実施例6)
溶媒として2-プロパノールを使用する他は実施例2に記載と同様の方法で反応を行った。
【0060】
CO転化率39.2%、CO2転化率-2.2%、TotalC転化率33.8%、ギ酸メチル選択率0.3%、ギ酸プロピル選択率0.7%、メタノール選択率99.0%であった。
【0061】
(比較例1)
ポリエチレングリコールを添加しないで共沈法にて調製したCu/ZnO触媒を使用する他は、実施例1に記載と同様の方法で反応を行った。
【0062】
CO転化率32.1%、CO2転化率-3.5%、TotalC転化率27.5%、ギ酸メチル選択率0.3%、ギ酸ブチル選択率0.1%、メタノール選択率99.6%であった。
【0063】
(比較例2)
内容積100mlの半回分式反応器を用い、溶媒として水1質量%を含むエタノール20mlに、Cu/MgOX触媒(特許文献2記載の触媒に相当)1gを添加し、合成ガス(CO 32.6%、二酸化炭素 5.2%、水素 59.2%、Ar 3.0%)を供給し、170℃-3MPaの連続反応を行った。20時間が経過したところで転化率は安定した。
【0064】
CO転化率25.5%、CO2転化率16.9%、C転化率24.3%、ギ酸エチル選択率53.4%、メタノール選択率46.6%、メタノール収率11.3%であった。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
上記の実施例、比較例より、Cu/ZnO触媒を共沈法で調製する際にポリエチレングリコールを添加することで、メタノール製造効率は増加することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明で製造するメタノール合成用触媒及びその触媒を用いるメタノールの合成方法の産業上の有用性は明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の低温液相メタノール合成を実施する反応装置である。
【符号の説明】
【0070】
1 合成ガス
2 半回分式反応器
3 生成物、未反応ガスの混合物
4 冷却器
5 未反応ガス
6 ギ酸エステルとメタノールの液体混合物
7 蒸留塔
8 ギ酸エステル
9 メタノール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール溶媒の存在下で、一酸化炭素、又は、一酸化炭素及び二酸化炭素と、水素とを含む原料ガスから、ギ酸エステルを経由してメタノールを合成する際に用いられるCuを含むメタノール合成用触媒の共沈法による製造方法であって、溶媒中で触媒成分のプレカーサーを反応させて前記触媒を共沈法で製造する際に、触媒成分のプレカーサーを溶解した溶液、沈殿剤を溶解した溶液、又はこれらの水溶液を滴下し沈殿が形成される場となる溶媒の少なくともいずれかに、ポリエチレングリコールを添加することを特徴とするメタノール合成用触媒の製造方法。
【請求項2】
前記メタノール合成用触媒がCuに加えてZnを含む触媒であることを特徴とする請求項1記載のメタノール合成用触媒の製造方法。
【請求項3】
前記共沈法で触媒を製造する際に、前記沈殿が形成される場となる溶液を、pH=8〜11の範囲でpH の値を一定に保ちながら調製することを特徴とする請求項1又は2に記載のメタノール合成用触媒の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法によって製造されたメタノール合成用触媒とアルコール溶媒の存在下で、一酸化炭素、又は、一酸化炭素及び二酸化炭素と、水素とを含む原料ガスを反応させて、ギ酸エステルが混合したメタノールを製造することを特徴とするメタノールの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法によって製造されたメタノール合成用触媒、水素化分解触媒、及びアルコール溶媒の存在下で、一酸化炭素、又は、一酸化炭素及び二酸化炭素と、水素とを含む原料ガスを反応させて、ギ酸エステル及びメタノールを生成すると共に、生成したギ酸エステルを水素化してメタノールを製造することを特徴とするメタノールの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法によって製造されたメタノール合成用触媒とアルコール溶媒の存在下で、一酸化炭素、又は、一酸化炭素及び二酸化炭素と、水素とを含む原料ガスを反応させて、ギ酸エステル及びメタノールを生成し、当該生成物を反応系から分離した後、当該分離後の生成物中のギ酸エステルを、水素化分解触媒を用いて水素化してメタノールを製造することを特徴とするメタノールの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法によって製造されたメタノール合成用触媒とアルコール溶媒の存在下で、一酸化炭素、又は、一酸化炭素及び二酸化炭素と、水素とを含む原料ガスを反応させて、ギ酸エステル及びメタノールを生成し、当該生成物よりギ酸エステルを分離した後、当該分離後のギ酸エステルを、水素化分解触媒を用いて水素化してメタノールを製造することを特徴とするメタノールの製造方法。
【請求項8】
前記アルコール溶媒が第1級アルコール又は第2級アルコール、且つ1価アルコールであることを特徴とする請求項4〜7のいずれか1項に記載のメタノールの製造方法。
【請求項9】
温度70〜200℃及び圧力3〜80気圧の条件下で反応を行うことを特徴とする請求項4〜7のいずれか1項に記載のメタノールの製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−214077(P2009−214077A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−63056(P2008−63056)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)
【Fターム(参考)】