説明

メタノール合成用触媒の製造方法及びメタノールの製造方法

【課題】従来知られている低温液相メタノール合成用触媒と比較して、メタノールの合成原料ガス中に二酸化炭素、水等が混在しても触媒の活性低下の度合いがより低く、かつ、より活性の高い触媒とすることができるメタノール合成用触媒の製造方法、並びにこの製造方法で製造された触媒を用いた液相でのメタノールの合成方法を提供する。
【解決手段】アルコール溶媒の存在下に一酸化炭素と水素を含む原料ガスからメタノールを合成する液相メタノール合成反応で用いられるメタノール合成用触媒の製造方法において、銅(Cu)系触媒成分及び第二触媒成分の前駆体物質の水溶液から共沈法で得られた沈殿物を乾燥する際に、当該沈殿物を超臨界流体と接触させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール溶媒の存在下に一酸化炭素と水素を含む原料ガスからメタノールを合成する液相メタノール合成反応で用いられるメタノール合成用触媒の製造方法、及びメタノールの製造方法に関する。さらに詳しくは、原料ガスからメタノールを製造する際に、たとえ原料ガス中に触媒活性低下の原因となる二酸化炭素、水等が存在しても、高い触媒活性を維持することができるメタノール合成用触媒の製造方法、及び、この製造方法で製造されたメタノール合成用触媒を用いて高効率でメタノールを製造することができるメタノールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、工業的なメタノールの合成は、メタンを主成分とする天然ガスを水蒸気改質して得られる合成ガス(一酸化炭素と水素が主成分)を原料とし、銅・亜鉛系などの触媒を用いた固定床気相法により、200〜300℃、5〜25MPaという厳しい条件下で行われている(例えば、非特許文献1参照)。本反応は発熱反応であるが、気相法では熱伝導が悪いために効率的な抜熱が困難であることから、反応器通過時の転化率を低く抑えて、未反応の高圧原料ガスをリサイクルするというプロセスが採用されている。このメタノールの合成方法には、製造効率において難点はあるが、合成ガス中に含まれる少量の二酸化炭素や水による反応阻害は受け難いという長所があり、様々なプラントが稼働中である。
【0003】
一方、液相でメタノールを合成して抜熱速度を向上させる幾つかの方法が検討されている。中でも、低温(100〜180℃程度)で遷移金属カルボニル錯体とアルコキサイドからなる活性の高い触媒を用いる方法は、熱力学的にも生成系に有利であることから、注目を集めている(例えば、特許文献1、非特許文献2参照)。しかしながら、これらの方法では、合成ガス中に二酸化炭素、水等の触媒活性低下の原因物質が少量でも存在すると触媒の活性が低下し、何れも実用には至っていない(例えば、非特許文献3参照)。
【0004】
そこで、本発明者らは、先に、合成ガス中に二酸化炭素、水等の触媒活性低下の原因物質が少量存在しても活性低下が少なく、低温液相メタノール合成反応に適した触媒として、Cu/Mg系(Cu/MgO系)のメタノール合成用触媒を開発し、所定の成果を収めて提案した(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、本発明者らは、先に開発し提案した低温液相メタノール合成反応用のCu/Mg系(Cu/MgO系)触媒よりも更にその触媒活性が高く、しかも、原料ガス中に二酸化炭素、水等の触媒活性低下の原因物質が存在しても触媒活性の低下を抑制できる新たなメタノール合成用触媒の製造方法として、共沈法によるCu/Zn系触媒の調製の際にポリエチレングリコールを添加する方法を開発し、所定の成果を収めて提案している(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許弟4,992,480号明細書
【特許文献2】特開2005-095872号公報
【特許文献3】特開2009-214077号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J. C. J. Bart et al., Catal. Today, 2, 1 (1987)
【非特許文献2】大山聖一, PETROTECH, 18(1), 27 (1995)
【非特許文献3】S. Ohyama, Applied Catalysis A: General, 180, 217 (1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、上述したような低温液相メタノール合成反応に適したメタノール合成用触媒の開発を更に進める中で、原料ガス及び/又はアルコール溶媒中に二酸化炭素、水等の触媒活性低下の原因物質が少量存在していても優れた耐性を有する特許文献2、3記載で記載されている触媒よりも、更に高い活性を有する触媒を製造できることを見出した。すなわち、原料ガス中及び/又はアルコール溶媒中の二酸化炭素や水等に対する耐性(活性低下の抑制)に優れたCu/Mg系触媒やCu/Zn系触媒等のCu系触媒を共沈法で製造するに当たって、共沈操作で生成した沈殿物を、超臨界流体と接触させることにより乾燥して製造されたメタノール合成用触媒は、原料ガス及び/又はアルコール溶媒中に少量存在する二酸化炭素、水等の触媒活性低下の原因物質に対して優れた耐性を維持しながら、より高活性化することを知見して、本発明を為すに至った。
【0009】
従って、本発明の目的は、液相メタノール合成反応に用いる従来のメタノール合成用触媒と比較して、特に、原料ガス及び/又はアルコール溶媒に由来する反応系内の二酸化炭素、水等の触媒活性低下の原因物質に対して優れた耐性を有する(二酸化炭素や水に対する失活が少ない)Cu系触媒と比較して、より活性の高い触媒を製造することができるメタノール合成用触媒の製造方法を提供することにある。
【0010】
また、本発明の他の目的は、上記の製造方法で製造されたメタノール合成用触媒を用いて液相メタノール合成反応を行うことにより、原料ガス及び/又はアルコール溶媒に由来する二酸化炭素、水等の触媒活性低下の原因物質による失活が少ないCu系触媒において、メタノールをより効率良く製造することができるメタノールの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明の特徴とするところは、以下に記す通りである。
(1) アルコール溶媒の存在下に一酸化炭素と水素を含む原料ガスからギ酸エステルを経由してメタノールを合成する液相メタノール合成反応に用いられるメタノール合成用触媒の製造方法において、銅(Cu)系触媒成分及び第二触媒成分の前駆体物質の水溶液から共沈法で得られた沈殿物を乾燥する際に、当該沈殿物を超臨界流体と接触させることを特徴とするメタノール合成用触媒の製造方法。
【0012】
(2) 第二触媒成分が、亜鉛(Zn)系、マグネシウム(Mg)系の少なくともいずれかの触媒成分であることを特徴とする上記(1)に記載のメタノール合成用触媒の製造方法。
【0013】
(3) 第二触媒成分が亜鉛(Zn)系触媒成分であることを特徴とする上記(2)に記載のメタノール合成用触媒の製造方法。
【0014】
(4) 超臨界流体が超臨界二酸化炭素であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載のメタノール合成用触媒の製造方法。
【0015】
(5) 銅系触媒成分及び第二触媒成分の前駆体物質の水溶液から共沈法により沈殿物を共沈させる際に、沈殿物生成場となる溶液のpH値を7.5〜10.5の範囲内で一定の値に維持することを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載のメタノール合成用触媒の製造方法。
【0016】
(6) アルコール溶媒の存在下に一酸化炭素と水素を含む原料ガスからメタノールを合成する液相メタノール合成反応によりメタノールを製造するに際し、触媒として上記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法で製造されたメタノール合成用触媒を用いることを特徴とするメタノールの製造方法。
【0017】
(7) 原料ガス中に二酸化炭素、及び/又は水蒸気の少なくともいずれかが含まれていることを特徴とする上記(6)に記載のメタノールの製造方法。
【0018】
(8) アルコール溶媒が、第1級アルコール又は第2級アルコールであると共に、1価アルコールであることを特徴とする上記(6)又は(7)に記載のメタノールの製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明で製造したメタノール合成用触媒は、原料ガス及び/又はアルコール溶媒中に二酸化炭素、水等の触媒活性低下の原因物質が混在しても、触媒活性の低下の度合いが低いCu系触媒において、更に高い触媒活性を有することができるものである。
【0020】
また、本発明のメタノールの製造方法によれば、液相でCu系触媒を使用したメタノール合成反応において、上記のメタノール合成用触媒を用いることにより、効率良くメタノールを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明において、メタノール合成用触媒は、アルコール溶媒の存在下に一酸化炭素(又は、一酸化炭素及び二酸化炭素)と水素とを含む原料ガスから、ギ酸エステルを経由してメタノールを合成する際に用いられる銅(Cu)系触媒成分と第二触媒成分とを含む触媒であり、その製造方法は、基本的には、上記銅系触媒成分及び第二触媒成分の前駆体物質の水溶液から共沈法により沈殿させて得られた沈殿物を乾燥し、焼成し、更に必要に応じて、整粒後に還元等の活性化処理を施す方法において、共沈操作で得られた水分を含む沈殿物を超臨界流体と接触させるものである。ここで、共沈法で製造する触媒とは沈殿物の焼成後のものであって、活性化処理前のものを言い、また、水分を含む沈殿物は超臨界流体と接触することにより実質的に乾燥処理される。
【0022】
本発明においては、例えば、具体的には以下の手順で触媒の製造を行う。
【0023】
先ず、反応に活性を示す銅系触媒成分の前駆体物質(プレカーサー)と、触媒の担体となり得る第二触媒成分の前駆体物質(プレカーサー)とを溶解した前駆体物質水溶液と、沈殿剤を溶解した沈殿剤水溶液と、これらの水溶液を滴下し沈殿が形成される場(沈殿物生成場)となるイオン交換水等の液体からなる3種の溶液及び液体を用意し、次に、沈殿物生成場となる溶液中に前駆体物質水溶液と沈殿剤水溶液とをそれぞれ滴下して沈殿物を生成させ、生成した沈殿物を熟成させた後に濾過して沈殿物を回収し、得られた沈殿物を必要に応じてイオン交換水等で洗浄し、次いで超臨界流体と接触させて乾燥させ、その後に焼成することにより、触媒を製造する。
【0024】
ここで、銅系触媒成分及び第二触媒成分の前駆体物質水溶液を調製するための前駆体物質としては、銅(Cu)や第二触媒成分となる金属元素(例えば、Zn、Mg、Ce、Mn、Re等)の硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩、塩化物等を使用することができ、水に溶解すればよく、特に限定されることは無いが、溶解度の高い硝酸塩を使用するのが一般的である。
【0025】
また、沈殿剤水溶液を調製するための沈殿剤としては、水に溶解して塩基性を示せばよく、アルカリ炭酸塩、アンモニア水等が使用でき、特に限定されないが、炭酸ナトリウムを使用すると好結果が得られ易い。
【0026】
更に、沈殿物生成場となるイオン交換水等の液体としては、特に限定されることはなく、任意の水を使用することができるが、調製した触媒の反応活性の観点からは純度の高い水ほど好ましい。不純物を含有して純度が低い水を使用すると、触媒中に当該不純物が残留して反応活性に悪影響を及ぼすことが考えられるためである。触媒を大量に製造する際には、沈殿物生成場となる溶液の使用量が多くなるため、触媒の反応活性に加えて、コストの観点からも、上水、工業用水等を使用することが望ましい。
【0027】
共沈法で沈殿物を生成させる際の温度条件は、特に限定されることはないが、通常40℃以上80℃以下、好ましくは60℃以上70℃以下であるのがよく、このような温度で一定に保つと好結果が得られ易い。
【0028】
また、共沈法で沈殿物を生成させる際のpHは、特に限定されることはないが、7.5以上10.5以下の範囲内においてある値で一定に保つと活性の高い触媒が得られ易く、pH計を設置し、この範囲において、pHを一定に保つことが好ましい。一定に保つpHは、より好ましくは8以上10以下であり、更に好ましくは8以上9以下である。しかし、高いpHに保持するためには炭酸ナトリウム等の沈殿剤が大量に必要となるため、経済性の観点より通常は7.5〜10.5の範囲であるpHの値を設定して製造される。pHを一定に保持するためには、沈殿が形成される溶液のpHを設置したpH計で測定し、酸性を示す前駆体物質(プレカーサー)を溶解した前駆体物質水溶液と、アルカリ性を示す沈殿剤を溶解した沈殿剤水溶液の滴下速度を調節することが必要である。
【0029】
上述の方法で調製された沈殿物は、熟成のため一定時間放置される。熟成時間は特に限定されることはないが、通常は5〜500時間程度である。熟成後は沈殿物をろ過し、炭酸ナトリウム等の沈殿剤成分を除去するため、イオン交換水等で洗浄する。洗浄条件は特に限定されることはないが、通常は常温〜80℃の温度で実施される。洗浄後は沈殿物を乾燥、焼成(例えば、空気中350℃-1h)し、必要に応じて整粒後、還元(例えば、水素気流中200℃-10h)等の活性化処理を施して反応に供される。空気中で触媒をハンドリングする必要がある場合には、表面不動態化処理を施すことが可能である。これらの工程の条件も特に限定されることはなく、通常実施される範囲であればよい。
【0030】
Cu系触媒成分の前駆体物質と第二触媒成分の前駆体物質とから、共沈法で製造した触媒が、原料ガス及び/又はアルコール溶媒に由来する反応系内の二酸化炭素、水等の触媒活性低下の原因物質に対して、優れた耐性を有する理由は、従来の低温液相法で使用されていたアルカリ金属アルコキサイド(均一系触媒)を使用しないためである。アルカリ金属アルコキサイドは二酸化炭素、水等により反応中に不活性成分に変化していたが、本発明の固体触媒は二酸化炭素、水等により劇的に触媒性状が変化することが無いと考えられる。従来のCu系触媒では、低温液相法の反応条件では活性が極めて低かったために使用することはできなかったが、本発明のCu系触媒では、第二触媒成分が主触媒となるCuの微細化と高分散を促進し、Cuの表面積を増大させているため、低温液相法の反応条件においても一定の活性を発現するものと推定される。
【0031】
本発明においては、沈殿物の乾燥工程でこの沈殿物を超臨界流体と接触させ、この超臨界流体との接触により沈殿物を実質的に超臨界乾燥させる。ここで、超臨界乾燥とは、沈殿物を超臨界流体と接触させることによって、沈殿物中の水分を除去するものである。超臨界流体は表面張力が小さいため、沈殿物の微少な細孔内にも拡散し、水分を溶解して細孔内から除去することができると考えられる。通常の乾燥工程(例えば、120℃-10h)や、通常の乾燥工程の後の焼成工程では、水分が細孔内に存在した状態で熱が加えられるため、細孔内に存在する水分の膨張によって微細細孔構造の破壊が生じることが考えられる。一方、超臨界乾燥処理を採用した場合には、水分の除去は超臨界流体の臨界点程度の温度領域にて行われるため、臨界温度の低い超臨界流体を用いることにより、微細細孔構造破壊が起こり難くなり、製造される触媒の表面積が相対的に大きくなるものと考えられる。
【0032】
超臨界乾燥処理において超臨界流体を沈殿物と接触させる方法や条件については、特に限定されることはないが、室温〜100℃の低温条件において超臨界状態を取る超臨界流体を用い、この超臨界流体の流れの中に沈殿物を置いて沈殿物に超臨界流体を流通させることが好ましい。これは上述のように沈殿物から水分を除去する乾燥工程において、加える熱が低温であることによって好結果が得られるとの考えに基づくものであり、超臨界状態を取り得る温度条件が100℃を超える超臨界流体を使用した場合には、空気中で長時間実施する通常の乾燥(例えば、120℃-10h)と同様の熱が加えられることになるためである。低温条件において超臨界状態を取る超臨界流体としては、例えば二酸化炭素(臨界点:31℃、7.38MPa)が挙げられ、この超臨界二酸化炭素を用いることにより好結果を得ることができる。圧力は流体が超臨界状態を取る条件であればよく、特に限定されることはない。また、超臨界流体の性質として、水を溶解可能なものが好ましい。
【0033】
上述の共沈法で製造するメタノール合成用触媒は、銅(Cu)系触媒成分を有する触媒において好適な結果が得られ、特に第二触媒成分が亜鉛(Zn)系触媒成分であるCu/ZnO触媒が好ましい。Cu/ZnO触媒を調製する際には、共沈法で用いる前駆体物質水溶液として、銅系触媒成分の前駆体物質と亜鉛系触媒成分の前駆体物質とを溶解した水溶液を用いればよい。その他、第二触媒成分を構成する金属元素としては例えば、Zn、Mg、Ce、Mn、Re等を例示することができ、前駆体物質水溶液として、銅系触媒成分の前駆体物質とこれら金属元素を有する第二触媒成分の前駆体物質とを溶解した水溶液を用いることにより、Cu/MgO、Cu/CeO、Cu/MnO、Cu/ReO等の触媒も調製することが可能である。
【0034】
なお、上記組成以外の触媒も上述の方法で調製することが可能であり、また、銅系触媒成分と第二触媒成分とのモル比は特に限定されることはないが、1:1程度で好適な結果を得ることができる。また、共沈法において銅系触媒成分及び第二触媒成分の前駆体物質を溶解した水溶液に、更に第三触媒成分の前駆体物質を添加して触媒を調製することも可能であり、その他、共沈法で調製した後に、含浸法等の通常の触媒調製法で第三触媒成分を添加することも可能である。
【0035】
上述の共沈法で調製した触媒を用いることにより、低温液相メタノール合成反応において一酸化炭素及び水素を含む原料ガスから高効率でメタノールを製造することができる。
【0036】
本発明の液相メタノール合成反応においては、アルコール溶媒が例えば鎖状又は脂環式の炭化水素類に水酸基が付いたものである場合を例にとって示すと、以下に示す反応式のいずれかに基づいて、先ずギ酸エステルが生成し、次いでメタノールが生成するものと考えられる。
【0037】
R-OH+CO → HCOOR (1)
HCOOR+2H2 → CH3OH+R-OH (2)
(ここで、Rはアルキル基を示す。)
【0038】
ただし、反応系に水が存在する場合は次に示す反応式に基づくと考えられ、前記反応式と並行してギ酸エステル又はメタノールが生成するものと考えられる。
CO+H2O → CO2+H2 (3)
CO2+H2+R-OH → HCOOR+H2O (4)
HCOOR+2H2 → CH3OH+R-OH (5)
【0039】
また、本発明の触媒は銅(Cu)系触媒であるため、上記の反応式と並行して、以下の反応式によってもギ酸エステル又はメタノールが生成するものと考えられる。
CO+H2O → CO2+H2 (6)
CO2+1/2H2+Cu → HCOOCu (7)
HCOOCu+ROH → HCOOR+CuOH (8)
HCOOR+2H2 → CH3OH+ROH (9)
CuOH+1/2 H2 → H2O+Cu (10)
【0040】
従って、本発明において、メタノールの製造原料としては、一酸化炭素及び水素を含む原料ガス、又は、二酸化炭素及び水素を含む原料ガスのいずれかが考えられるが、製造原料が二酸化炭素及び水素を含む原料ガスの場合は、主として一酸化炭素及び水素を含む原料ガスの場合と比較して反応速度が遅いため、一酸化炭素を主に含む原料ガスの方が好ましい。また、本発明方法によれば、炭素源として一酸化炭素を主成分とする原料ガス中に二酸化炭素、水等の触媒活性低下の原因物質が存在していても、これら二酸化炭素、水等に起因する触媒活性低下の程度が小さい。
【0041】
また、本発明において、液相メタノール合成反応に用いるアルコール溶媒としては、鎖状又は脂環式の炭化水素類に水酸基が付いたものが挙げられるほか、フェノール及びその置換体、更には、チオール及びその置換体等も使用することができる。これらのアルコール溶媒については、第1級、第2級及び第3級のいずれでもよいが、反応効率等の点からは第1級アルコール、又は第2級アルコールが好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコールが最も一般的である。また、反応効率等の点から1価アルコールが好ましいが、2価、3価アルコール等の多価アルコールも使用することができる。また、従来の方法では溶媒のアルコール溶媒に水が含まれていると、原料ガス中に水が存在する場合と同様に、触媒活性低下が生じるが、本発明の方法では触媒活性低下の程度が小さい。
【0042】
次に、図1に、本発明に係る製造方法で製造された触媒を用いて、メタノールを製造する際のプロセスフローの1例を示す。
半回分式の反応器2に、本発明方法で製造されたメタノール合成用触媒をアルコール溶媒と共に仕込み、この反応器2に合成ガス1を供給する。反応器2の出口から排出される反応混合物3〔生成物(ギ酸エステル、メタノール)と未反応ガス〕を冷却器4に導入して冷却し、未反応ガス5とギ酸エステル及びアルコールの液体混合物6とに分離する。後者の液体混合物6は次段に設置された蒸留塔7においてギ酸エステル8とメタノール9とに分離される。ここで、ギ酸エステル及びメタノールへ転化する原料ガスの転化率が低い場合には、前者の未反応ガス5を再度半回分式の反応器2に供給することも可能であるが、高い転化率で得られる場合には未反応ガス5を合成ガス(原料ガス)製造用の熱源(燃料)として利用することもできる。
【0043】
本発明におけるメタノール合成反応は液相反応であり、温和な反応条件を採用することができる(一般的に、低温液相メタノール合成反応と呼ばれる条件を採用できる。)。具体的には、温度70℃以上250℃以下、圧力3気圧以上100気圧以下、好ましくは温度120℃以上200℃以下、圧力15気圧以上80気圧以下の条件であるが、これらに限定されない。アルコール溶媒は、反応が進行する程度の量があればよいが、それ以上の量を溶媒として用いることもできる。また、上記反応に際してアルコール溶媒の他に、有機溶媒を併せて用いることができる。また、生成したメタノールは、アルコール溶媒から蒸留によって分離することが可能である。
【0044】
反応器の後段で回収される液体混合物のギ酸エステルとメタノールは、蒸留によりギ酸エステルとメタノールとに分離することができ、ギ酸エステルはそのままメタノールの製造に供することもできる。すなわち、液体混合物中から分離された後のギ酸エステルを水素化分解してメタノールを製造することができる。この水素化分解には水素化分解触媒が用いられ、例えばCu系、Pt系、Ni系、Co系、Ru系、Pd系等の一般的な水素化分解触媒が用いられる。また、反応器の後段で回収したギ酸エステルとメタノールの液体混合物を分離することなく、水素化分解触媒及び水素を共存させて、液体混合物中のギ酸エステルを水素化分解してメタノールとすることもできる。更に、本発明においては、原料ガスとアルコール溶媒からギ酸エステルとメタノールを生成させる前記反応系にこれらの水素化分解触媒を共存させておくことにより、メタノールの選択率を増加させ、これによって効率良くメタノールを製造することもできる。なお、上記のギ酸エステルの水素化分解反応によって、メタノール、残存ギ酸エステル、アルコール溶媒〔(2)式のR-OH〕からなる混合物が得られるが、これらは蒸留によって分離することができ、メタノールを精製することができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明のメタノー合成用触媒の製造方法及び得られた触媒を用いたメタノールの製造方法を説明する。
なお、以下の実施例1〜14及び比較例1〜4において、CO転化率、CO2転化率、C転化率、ギ酸エステル選択率、メタノール選択率、及びメタノール収率は、それぞれ以下に示す計算式により算出した。
【0046】
CO転化率(%)=[1-(反応後回収COモル数)/(仕込みCOモル数)]×100
CO2転化率(%)=[1-(反応後回収CO2モル数)/(仕込みCO2モル数)]×100
【0047】
C転化率(%)=CO転化率(%)×[(仕込みCOモル数)/(仕込みCO+CO2モル数)]+CO2転化率(%)×[(仕込みCO2モル数)/(仕込みCO+CO2モル数)]
【0048】
ギ酸エステル選択率(%)=[(反応後回収ギ酸エステルモル数)/[(C転化率(%))×(仕込みCO+CO2モル数)]]×100
【0049】
メタノール選択率(%)=[(反応後に回収されたメタノールモル数)/[(C転化率(%))×(仕込んだCO+CO2モル数)]]×100
【0050】
[実施例1]
Cuの硝酸塩とZnの硝酸塩とをこれらCuとZnとがモル比としてCu:Zn=1:1となるように溶解した前駆体物質水溶液と、炭酸ナトリウムを溶解した沈殿剤水溶液と、これらの水溶液が滴下されて沈殿物生成場となるイオン交換水とを用意した。
【0051】
沈殿物生成場となるイオン交換水の温度を65℃に保持しながら、上記の前駆体物質水溶液と沈殿剤水溶液とを、その滴下速度を制御して、沈殿物生成場(反応系)のpH値を8.5に保持しながらCu/Znの沈殿物を生成させた。その後24時間熟成させた後、イオン交換水で沈殿物を洗浄し、温調付きデシケーターにて35℃、3時間の条件で減圧乾燥(35℃-3h)させた。
【0052】
次に、このようにして得られたCu/Zn沈殿物を内容積150mlのオートクレーブに仕込み、超臨界二酸化炭素(CO2)送液ポンプ(日本分光製、SCF-Get型インテリジェント超臨界CO2送液ポンプ)を用い、8.0MPa、5cc/minの条件で超臨界CO2を送液し、この超臨界CO2の流れの中で35℃、3時間の条件でCu/Zn沈殿物を超臨界CO2と接触させ、Cu/Zn沈殿物を超臨界乾燥(35℃-3h)させた。
【0053】
この超臨界乾燥の後、350℃、1時間の条件で焼成(350℃-1h)し、次いで5%H2流通下に220℃、10時間の条件で還元(220℃-10h)して活性化処理を行い、更に表面不動態処理を行い、実施例1に係るメタノール合成用触媒のCu/ZnO触媒を得た。
【0054】
このようにして調製された実施例1のCu/ZnO触媒をメタノール合成用触媒として用い、以下のメタノール合成反応を実施した。
すなわち、内容積85mlのオートクレーブにアルコール溶媒として水1質量%を含む2-ブタノール40mlと上記実施例1のCu/ZnO触媒1gとを仕込み、更に原料ガスとして合成ガス(CO:33.00vol%、CO2:5.27vol%、Ar:3.09vol%、H2:バランス)を5MPaとなるように充填し、170℃、20時間の条件で連続反応を行い、反応生成物をガスクロマトグラフで分析した。結果は、CO転化率51.9%、CO2転化率12.4%、TotalC転化率46.4%、ギ酸メチル選択率1.6%、ギ酸ブチル選択率1.8%、及びメタノール選択率96.6%であった。
【0055】
[実施例2]
実施例1に記載の触媒の製造方法において、超臨界CO2送液ポンプの圧力を7.5MPaに設定した以外は、実施例1と同様にして、実施例2のCu/ZnO触媒を調製した。また、この実施例2のCu/ZnO触媒をメタノール合成用触媒として使用した以外は、実施例1に記載と同様の方法でメタノール合成反応を行った。結果は、CO転化率48.2%、CO2転化率8.2%、TotalC転化率42.7%、ギ酸メチル選択率0.2%、ギ酸ブチル選択率1.2%、及びメタノール選択率98.6%であった。
【0056】
[実施例3]
実施例1に記載の触媒の製造方法において、減圧乾燥を実施することなく、35℃、1時間の条件でCu/Zn沈殿物を超臨界CO2と接触させ、超臨界乾燥(35℃-1h)を実施して実施例3のCu/ZnO触媒を調製した。また、この実施例3のCu/ZnO触媒をメタノール合成用触媒として使用した以外は、実施例1に記載と同様の方法でメタノール合成反応を行った。結果は、CO転化率42.8%、CO2転化率2.5%、TotalC転化率37.1%、ギ酸メチル選択率1.2%、ギ酸ブチル選択率2.8%、及びメタノール選択率96.0%であった。
【0057】
[実施例4]
実施例1に記載の触媒の製造方法において、減圧乾燥を実施することなく、35℃、3時間の条件でCu/Zn沈殿物を超臨界CO2と接触させ、超臨界乾燥(35℃-3h)を実施して実施例4のCu/ZnO触媒を調製した。また、この実施例4のCu/ZnO触媒をメタノール合成用触媒として使用した以外は、実施例1に記載と同様の方法でメタノール合成反応を行った。結果は、CO転化率47.3%、CO2転化率−4.7%、TotalC転化率40.2%、ギ酸メチル選択率0.5%、ギ酸ブチル選択率3.0%、及びメタノール選択率96.6%であった。
【0058】
[実施例5]
実施例1に記載の触媒の製造方法において、減圧乾燥を実施することなく、35℃、5時間の条件でCu/Zn沈殿物を超臨界CO2と接触させ、超臨界乾燥(35℃-5h)を実施して実施例5のCu/ZnO触媒を調製した。また、この実施例5のCu/ZnO触媒をメタノール合成用触媒として使用した以外は、実施例1に記載と同様の方法でメタノール合成反応を行った。結果は、CO転化率45.9%、CO2転化率−3.6%、TotalC転化率39.2%、ギ酸メチル選択率1.7%、ギ酸ブチル選択率2.7%、及びメタノール選択率95.6%であった。
【0059】
[実施例6]
実施例1に記載の触媒の製造方法において、減圧乾燥を実施することなく、50℃、3時間の条件でCu/Zn沈殿物を超臨界CO2と接触させ、超臨界乾燥(50℃-3h)を実施して実施例6のCu/ZnO触媒を調製した。また、この実施例6のCu/ZnO触媒をメタノール合成用触媒として使用した以外は、実施例1に記載と同様の方法でメタノール合成反応を行った。結果は、CO転化率43.3%、CO2転化率1.4%、TotalC転化率37.4%、ギ酸メチル選択率2.2%、ギ酸ブチル選択率3.0%、及びメタノール選択率94.9%であった。
【0060】
[実施例7]
実施例1に記載の触媒の製造方法において、減圧乾燥を実施することなく、70℃、3時間の条件でCu/Zn沈殿物を超臨界CO2と接触させ、超臨界乾燥(70℃-3h)を実施して実施例7のCu/ZnO触媒を調製した。また、この実施例7のCu/ZnO触媒をメタノール合成用触媒として使用した以外は、実施例1に記載と同様の方法でメタノール合成反応を行った。結果は、CO転化率42.9%、CO2転化率0.2%、TotalC転化率36.9%、ギ酸メチル選択率2.0%、ギ酸ブチル選択率2.7%、及びメタノール選択率95.3%であった。
【0061】
[実施例8]
実施例1に記載の触媒の製造方法において、減圧乾燥を実施することなく、90℃、3時間の条件でCu/Zn沈殿物を超臨界CO2と接触させ、超臨界乾燥(90℃-3h)を実施して実施例8のCu/ZnO触媒を調製した。また、この実施例8のCu/ZnO触媒をメタノール合成用触媒として使用した以外は、実施例1に記載と同様の方法でメタノール合成反応を行った。結果は、CO転化率43.1%、CO2転化率−4.3%、TotalC転化率36.4%、ギ酸メチル選択率3.5%、ギ酸ブチル選択率1.8%、及びメタノール選択率94.7%であった。
【0062】
[実施例9]
アルコール溶媒としてエタノールを用いた以外は、実施例1のメタノール合成用触媒を用い、実施例1に記載と同様の方法でメタノール合成反応を行った。結果は、CO転化率49.5%、CO2転化率11.4%、TotalC転化率44.3%、ギ酸メチル選択率4.5%、ギ酸エチル選択率1.5%、及びメタノール選択率94.0%であった。
【0063】
[実施例10]
実施例1に記載の触媒の製造方法において、Znの硝酸塩に代えてMgの硝酸塩を用いた以外は、実施例1と同様にして実施例10のメタノール合成用触媒としてCu/MgO触媒を調製した。
【0064】
このようにして調製した実施例10のCu/MgO触媒をメタノール合成用触媒として使用し、アルコール溶媒としてエタノール40mlを使用した以外は、実施例1に記載と同様の方法でメタノール合成反応を行った。結果は、CO転化率33.7%、CO2転化率19.8%、TotalC転化率31.8%、ギ酸メチル選択率1.5%、ギ酸エチル選択率47.8%、及びメタノール選択率50.7%であった。
【0065】
[実施例11]
実施例1に記載の触媒の製造方法において、沈殿物生成場(反応系)のpH値を7.0に保持してCu/Znの沈殿物を調製した以外は、実施例1と同様にしてCu/ZnO触媒を調製し、また、実施例1と同様にしてメタノール合成反応を行った。結果は、CO転化率34.8%、CO2転化率7.6%、TotalC転化率31.1%、ギ酸メチル選択率2.5%、ギ酸ブチル選択率3.1%、及びメタノール選択率94.4%であった。
【0066】
[実施例12]
実施例1に記載の触媒の製造方法において、沈殿物生成場(反応系)のpH値を7.8に保持してCu/Znの沈殿物を調製した以外は、実施例1と同様にしてCu/ZnO触媒を調製し、また、実施例1と同様にしてメタノール合成反応を行った。結果は、CO転化率48.7%、CO2転化率10.6%、TotalC転化率43.5%、ギ酸メチル選択率1.5%、ギ酸ブチル選択率2.1%、及びメタノール選択率96.4%であった。
【0067】
[実施例13]
実施例1に記載の触媒の製造方法において、沈殿物生成場(反応系)のpH値を9.5に保持してCu/Znの沈殿物を調製した以外は、実施例1と同様にしてCu/ZnO触媒を調製し、また、実施例1と同様にしてメタノール合成反応を行った。結果は、CO転化率47.1%、CO2転化率11.2%、TotalC転化率42.2%、ギ酸メチル選択率2.1%、ギ酸ブチル選択率2.5%、及びメタノール選択率95.4%であった。
【0068】
[実施例14]
実施例1に記載の触媒の製造方法において、沈殿物生成場(反応系)のpH値を10.7に保持してCu/Znの沈殿物を調製した以外は、実施例1と同様にしてCu/ZnO触媒を調製し、また、実施例1と同様にしてメタノール合成反応を行った。結果は、CO転化率41.5%、CO2転化率10.2%、TotalC転化率37.2%、ギ酸メチル選択率1.9%、ギ酸ブチル選択率2.3%、及びメタノール選択率95.8%であった。
【0069】
[比較例1]
実施例1に記載の触媒の製造方法において、減圧乾燥(35℃-3h)を実施した後、超臨界乾燥(35℃-3h)を行うことなく、更に120℃、10時間の条件で乾燥(120℃-10h)を実施した以外は、実施例1と同様にして比較例1のCu/ZnO触媒を調製し、また、実施例1に記載と同様の方法でメタノール合成反応を行った。結果は、CO転化率41.4%、CO2転化率−0.5%、TotalC転化率36.1%、ギ酸メチル選択率1.5%、ギ酸ブチル選択率1.8%、及びメタノール選択率96.7%であった。
【0070】
[比較例2]
実施例1に記載の触媒の製造方法において、減圧乾燥(35℃-3h)と超臨界乾燥(35℃-3h)を実施することなく、120℃、10時間の条件で乾燥(120℃-10h)を実施した以外は、実施例1と同様にして比較例2のCu/ZnO触媒を調製し、また、実施例1に記載と同様の方法でメタノール合成反応を行った。結果は、CO転化率40.8%、CO2転化率−1.2%、TotalC転化率35.1%、ギ酸メチル選択率1.8%、ギ酸ブチル選択率1.9%、及びメタノール選択率96.3%であった。
【0071】
[比較例3]
Cuの硝酸塩〔Cu(NO3)2・3H2O〕とMgの硝酸塩〔Mg(NO3)2・6H2O〕とをこれらCuとMgとがモル比としてCu:Zn=1:1となるように溶解した前駆体物質水溶液と、Na2CO3を溶解した沈殿剤水溶液と、これらの水溶液が滴下されて沈殿物生成場となるイオン交換水とを用意し、沈殿を得た後に、乾燥、焼成、還元して比較例3に係るメタノール合成用触媒のCu/MgO触媒(特許文献2に記載の触媒に相当)を得た。
【0072】
このようにして調製された比較例3のCu/MgOx触媒をメタノール合成用触媒として用い、以下のメタノール合成反応を実施した。
すなわち、内容積100mlの半回分式の反応器(オートクレーブ)にアルコール溶媒として水1質量%を含むエタノール20mlと上記比較例3のCu/MgOx触媒[(特許文献2記載の触媒に相当)]1gとを仕込み、更に原料ガスとして合成ガス(CO:32.6vol%、CO2:5.2vol%、H2:59.2vol%、Ar:3.0vol%)を供給し、170℃、3MPaの条件で連続反応(170℃-3MPa)を行った。20時間が経過したところで転化率は安定し、結果は、CO転化率25.5%、CO2転化率16.9%、TotalC転化率24.3%、ギ酸エチル選択率53.4%、メタノール選択率46.6%、及びメタノール収率11.3%であった。
【0073】
[比較例4]
Cuの硝酸塩とZnの硝酸塩とをこれらCuとZnとがモル比としてCu:Zn=1:1となるように溶解した前駆体物質水溶液と、炭酸ナトリウムを溶解した沈殿剤水溶液と、これらの水溶液が滴下されて沈殿物生成場となるイオン交換水とを用意した。
【0074】
沈殿物生成場となるイオン交換水に対して10wt%の濃度となるようにポリエチレングリコール(モル数でCuの5.8倍)を添加し、攪拌下に上記前駆体物質水溶液と沈殿剤水溶液とをその滴下速度を制御しながら、pH=8.5に保持してCu/Znの沈殿物を生成させ、24時間熟成した後にろ過し、得られた沈殿物をイオン交換水で洗浄し、次いで乾燥(空気中120℃-10h)し、焼成(空気中450℃-2h)し、水素還元(水素気流中200℃-2h)し、表面不動態化処理を行って、比較例4のCu/ZnO触媒(特許文献3記載の触媒に相当)を調製した。
【0075】
このようにして調製された比較例4のCu/ZnO触媒をメタノール合成用触媒として用い、以下のメタノール合成反応を実施した。
すなわち、内容積85mlのオートクレーブにアルコール溶媒として2-ブタノール40mlと上記比較例4のCu/ZnO触媒1gとを仕込み、更に原料ガスとして合成ガス(CO:34.90vol%、二酸化炭素:5.20vol%、Ar:3.09vol%、水素:バランス)を5MPaとなるように充填し、170℃、20時間の条件で連続反応を行い、反応生成物をガスクロマトグラフで分析した。結果は、CO転化率40.1%、CO2転化率−2.4%、TotalC転化率34.6%、ギ酸メチル選択率0.3%、ギ酸ブチル選択率0.2%、及びメタノール選択率99.5%であった。
【0076】
以上の実施例1〜14及び比較例1〜4における操作の特徴とCO転化率、CO2転化率、及びTotalC転化率の結果を、それぞれ表1(実施例1〜14)及び表2(比較例1〜4)に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【0079】
上記の表1及び表2に示す実施例1〜14及び比較例1〜4の結果から明らかなように、Cu/ZnO触媒の製造において超臨界乾燥を実施することでメタノール製造効率が増加することが明らかとなった。すなわち、二酸化炭素や水による失活を抑制可能なCu系触媒において、同じ触媒成分であれば、本発明の超臨界乾燥を行うことにより、転化率を向上できる活性の高い触媒を製造することが可能となることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】図1は、本発明の液相メタノール合成反応を実施する反応装置の一例を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0081】
1…合成ガス、2…半回分式の反応器、3…反応混合物〔生成物(ギ酸エステル、メタノール)と未反応ガス〕、4…冷却器、5…未反応ガス、6…液体混合物(ギ酸エステル及びアルコール)、7…蒸留塔、8…ギ酸エステル、9…メタノール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール溶媒の存在下に一酸化炭素と水素を含む原料ガスからギ酸エステルを経由してメタノールを合成する液相メタノール合成反応に用いられるメタノール合成用触媒の製造方法において、銅(Cu)系触媒成分及び第二触媒成分の前駆体物質の水溶液から共沈法で得られた沈殿物を乾燥する際に、当該沈殿物を超臨界流体と接触させることを特徴とするメタノール合成用触媒の製造方法。
【請求項2】
第二触媒成分が、亜鉛(Zn)系、マグネシウム(Mg)系の少なくともいずれかの触媒成分であることを特徴とする請求項1に記載のメタノール合成用触媒の製造方法。
【請求項3】
第二触媒成分が亜鉛(Zn)系触媒成分であることを特徴とする請求項2に記載のメタノール合成用触媒の製造方法。
【請求項4】
超臨界流体が超臨界二酸化炭素であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のメタノール合成用触媒の製造方法。
【請求項5】
銅系触媒成分及び第二触媒成分の前駆体物質の水溶液から共沈法により沈殿物を共沈させる際に、沈殿物生成場となる溶液のpH値を7.5〜10.5の範囲内で一定の値に維持することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のメタノール合成用触媒の製造方法。
【請求項6】
アルコール溶媒の存在下に一酸化炭素と水素を含む原料ガスからメタノールを合成する液相メタノール合成反応によりメタノールを製造するに際し、触媒として請求項1〜5のいずれかに記載の方法で製造されたメタノール合成用触媒を用いることを特徴とするメタノールの製造方法。
【請求項7】
原料ガス中に二酸化炭素、及び/又は水蒸気の少なくともいずれかが含まれていることを特徴とする請求項6に記載のメタノールの製造方法。
【請求項8】
アルコール溶媒が、第1級アルコール又は第2級アルコールであると共に、1価アルコールであることを特徴とする請求項6又は7に記載のメタノールの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−104458(P2011−104458A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259232(P2009−259232)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)
【Fターム(参考)】