説明

メタボリックシンドローム、2型糖尿病、肥満又は糖尿病前症の治療的処置方法

本発明は、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、肥満又は糖尿病前症に罹患している患者を処置する方法であって、患者の中枢神経系内、とりわけ中枢神経系の視床下部内でのノルアドレナリン作動性ニューロンに対するドパミン作動性ニューロンの活動比率を高めるステップを含む方法を対象とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.発明の分野
本発明は、メタボリックシンドローム、肥満、糖尿病前症若しくはその代謝状態又は2型糖尿病を処置する方法、より詳細には、患者の中枢神経系内、とりわけ中枢神経系の視床下部内でのノルアドレナリン作動性ニューロンに対するドパミン作動性ニューロンの活動比率を高める医薬組成物を患者に投与することによる、メタボリックシンドローム、肥満、糖尿病前症若しくはその代謝状態又は2型糖尿病を処置する方法を対象とする。
【0002】
肥満、糖尿病及び関連の代謝障害の世界的健康危機は、この21世紀を迎える前に、既に十分確かなものとなっていた。2型糖尿病、肥満、糖尿病前症及びメタボリックシンドロームのそれぞれの有病数は世界中で流行病的な比率に達しようとし、その有病数はこの先20年上昇を続け、糖尿病に罹患していると診断される人は2030年までには恐らく世界で3億5千万人を超えるであろうと推定されるように、これらの疾患を取り巻く現在の世界的健康危機をさらに悪化させると予想される(Wild S、Diabetes Care、2004、27巻、1047ページ)。糖尿病及びそれに伴う合併症は、患者及び医療制度の両方に対し並外れて高い対価を要求し続ける。米国の場合、糖尿病は全米医療支出の11%に相当し、心血管性疾患は糖尿病についての年間直接医療費のおよそ20%を占める(www.diabetes.org)。糖尿病患者における心血管性のリスク因子を減少させるための協調努力にもかかわらず、65%の糖尿病患者が心臓疾患及び脳卒中で死亡すると考えられ、2型糖尿病は、2型糖尿病に罹患していない同性個体と比較した場合、心血管性疾患のリスクを男性については2倍、女性については3倍高めるという事実は今も続いている(Conroy、Eur Heart J、2003、24巻、987ページ)。肥満、糖尿病前症及びメタボリックシンドロームの有病数もそれぞれ世界的に増加中であり、その数は2型糖尿病の有病数の少なくとも2倍と推定され、こうした代謝障害のそれぞれが、世界における主要な死因である心血管性疾患のリスクを伴っている(Francischetti EAら、Int J Clin Pract、2007、61巻、269ページ;Grundy SM、Arterioscler Thromb Vasc Biol、2008、28巻、629ページ;Stein PKら、Diabet Med、2007、24巻、855ページ)。こうした障害のいずれか、とりわけそのすべてについての安全で有効な処置方法があれば、それは比類ない重大な利益を人類に与えるであろうこと、また、そのような世界的規模の療法の開発について展望があれば、まさにこの理由から、それは世界中のヘルスケア産業及び学界による激しい研究開発の焦点になるであろうことは明々白々である。本発明は、こうした代謝障害を首尾よく管理するための空隙を満たす、これまでに認識されていなかった新しいパラダイムを提供する。
【0003】
2.技術の簡単な説明
肥満(肥満度指数がおよそ>30kg/mとして一般に定義される)は、高インスリン血症、インスリン抵抗性、糖尿病、高血圧症及び脂質異常症などの様々な病的状態を伴うことが多い。こうした状態のそれぞれが、心血管性疾患のリスクを助長する。
【0004】
インスリン抵抗性、高血圧症及び脂質異常症と共に、肥満はメタボリックシンドローム(シンドロームXとしても知られる)の構成要素と見なされ、これらは一緒になって相乗的に作用し、心血管性疾患を亢進させる。より最近では、全米コレステロール教育プログラムは、メタボリックシンドロームを以下の5つの基準のうち3つを満たすものとして分類した:空腹時血糖値が110mg/dl以上、血漿トリグリセリド値が150mg/dl以上(高グリセリド血症)、HDLコレステロールが男性で40mg/dl未満又は女性で50mg/dl未満、血圧が130/85mmHg以上(高血圧症)及び中心性肥満(中心性肥満は、腹部胴囲が男性で40インチ超、女性で35インチ超と定義されている)。米国糖尿病学会は、過体重の人の5人に1人はメタボリックシンドロームに罹患していると推定する。
【0005】
米国糖尿病学会のガイドラインによれば、2型糖尿病に罹患していると診断されるには、個体は、空腹時血漿血糖値が126mg/dl以上、又は、2時間経口耐糖能試験(OGTT)の血漿血糖値が200mg/dl以上でなければならない(Diabetes Care、26巻、S5〜S20ページ、2003)。糖尿病前症と呼ばれる関連状態は、空腹時血糖値が100mg/dl超126mg/dl未満、又は、2時間OGTTの血漿血糖値が140mg/dl超200mg/dl未満と定義されている。増えつつある証拠から、糖尿病前症状態は進行性の心血管性疾患のリスク因子である可能性があることが示唆される(Diabetes Care、26巻、2910〜2914ページ、2003)。耐糖能障害又は空腹時血糖異常とも呼ばれる糖尿病前症は、2型糖尿病、心血管性疾患の進行及び死亡の主要なリスク因子である。糖尿病前症を効果的に治療することにより2型糖尿病の進行を防止する治療的介入を開発することに、多く焦点が当てられてきた(Pharmacotherapy、24巻、362〜71ページ、2004)。
【0006】
シンドロームXとも呼ばれるメタボリックシンドローム(MS)は、体内の他の経路及び系に影響する別の代謝障害である。元来、メタボリックシンドロームは、相乗的に作用して心血管性疾患を亢進させる代謝障害(肥満、インスリン抵抗性、高血圧症及び脂質異常症、主に高グリセリド血症、など)の一群と定義された。より最近では(2001)、全米コレステロール教育プログラム(NCEP)は、メタボリックシンドロームを以下の5つの基準のうちいずれか3つを満たすものとして分類した:空腹時血糖値が110mg/dl以上、血漿トリグリセリド値が150mg/dl以上(高グリセリド血症)、HDLコレステロールが男性で40mg/dl未満又は女性で50mg/dl未満、血圧が130/85mmHg以上(高血圧症)及び中心性肥満(中心性肥満は、腹部胴囲が男性で40インチ超、女性で35インチ超と定義されている)。現在、メタボリックシンドロームについては以下のとおり他に3つの国際的に認識された定義がある:1)世界保健機関(WHO)、2)米国心臓学会/国立心肺血液研究所(AHA/NHLBI)及び3)国際糖尿病連合(IDF)。WHO、AHA/NHLBI及びIDFによるメタボリックシンドロームの定義は、NECPの定義と非常によく似ており、すべて、同シンドロームを定義するために同じ代謝パラメーターを使用しているが、WHOは、インスリンの空腹時インスリン値の評価も含めている(Moebus Sら、Cardiovascualr Diabetology、6巻、1〜10ページ、2007;Athyros VGら、Int.J.Cardiology、117巻、204〜210ページ、2007)。しかし、こうした異なる定義の間には、同シンドロームに罹患していると分類されるのに必要なこれらの代謝パラメーターについての境界においてわずかな差があることから、このような異なる定義により特定の対象が同シンドロームに罹患しているか否か異なる分類が成される結果が生じる可能性がある。さらに、MSに伴う心血管性疾患(CVD)の有病数は、用いられる定義によって変わる。(Moebus Sら、Cardiovascualr Diabetology、6巻、1〜10ページ、2007;Athyros VGら、Int.J.Cardiology、117巻、204〜210ページ、2007)。注目すべきは、このような広く利用されるMSの定義のいずれも、同シンドロームを定義するのに、血管の炎症促進状態、凝固促進状態、酸化促進状態又は内皮機能障害を用いないことである。しかし、こうした非代謝性の生化学的異常は、MSと関連があることが多い。MSに加え血管の病態生理(直前に記載)についてのより最近の用語は、心代謝リスクと名付けられている。米国糖尿病学会は、過体重の人の5人に1人はメタボリックシンドロームに罹患していると推定する。
【0007】
こうした障害及び疾患は関連してはいるが、それらが個々の異なる病態を有することは明らかである。その理由から、1つの障害(2型糖尿病)の治療に使用される薬物が、別の障害(メタボリックシンドローム)に対しては有効でない場合もある。例えば、2型糖尿病又は糖尿病前症の治療に有効な薬物は、メタボリックシンドロームの有効及び安全な治療には、ほとんど乃至まったく効果がない。加えて、2型糖尿病又は糖尿病前症の治療に使用される薬物の中には、薬物適用を受ける個体において血圧を上昇させたり(高血圧症)、又は体重増加の原因となる可能性があるものもある。例えば、2型糖尿病の治療に使用されるチアゾリジンジオンは、体重増加の原因となり、高血圧症に対する効果は十分とはいえない。別の抗糖尿病剤であるメトホルミンも、高血圧症及び高グリセリド血症に対する効果は十分とはいえない。2型糖尿病の治療に使用されるホルモンであるインスリンは、高血圧症及び体重増加を亢進させる可能性がある。さらに、降圧薬は脂質異常症又は肥満を必ずしも治療せず、多くはインスリン感受性を改善どころか悪化させかねない。したがって、ある薬物は有効な抗糖尿病剤だから、その薬はメタボリックシンドロームの代謝性及び/又は非代謝性の病態にとって有効な治療薬となるであろうというのは、看過される結論ではない。メタボリックシンドロームに罹患している人は、現状では疾患を有していなくても、後に生じる疾患を予告する生体現象を有しているため、同シンドロームの治療用の薬剤を考慮すれば、安全の基準もはるかに高くなる。
【0008】
メタボリックシンドロームは、いくつかの基準(前述のとおり)を有する場合に診断されるが、内皮機能障害、血管の炎症促進状態及び血管の凝固促進状態などの血管異常も包含するため、本発明によるメタボリックシンドロームの処置は、以下をさらに含む:
a.心血管性疾患を伴う内皮機能障害の治療、
b.高血圧症、血管の炎症促進状態及び凝固促進状態の同時治療。炎症促進状態の血液マーカーの例としては、C反応性タンパク質、血清アミロイドAタンパク質、インターロイキン6、インターロイキン1、腫瘍壊死因子α、ホモシステイン及び白血球数が挙げられるが、これらに限定されない。凝固促進状態の血液マーカーの例としては、ヘマトクリット粘度(hematocrit viscosity)、赤血球凝集、プラスミノーゲン活性化因子阻害因子1、フィブリノーゲン、フォンウィルブランド因子(van Willebrand factor)、第VII因子、第VIII因子及び第IX因子が挙げられるが、これらに限定されない、
c.高血圧症、血管の炎症促進状態又は凝固促進状態のうち少なくとも2つの同時治療、及び
d.高血圧症、血管の炎症促進状態又は凝固促進状態のうち少なくとも1つの治療。
【0009】
内皮は、循環因子を変化させるだけでなく、心血管の健康及び疾患に影響する因子を合成及び放出することができる。内皮機能不全は、血管収縮、凝固促進状態及び/又は炎症促進状態を助長又は亢進させる血管系の内皮調節並びに他の生化学過程における変質を特徴とし、こうした変質はすべて、アテローム性硬化症(Am.J.Cardiol.、91巻、(12A)、3H〜11Hページ、2003;Am.J,Cardiol.、115巻、付録8A、99S〜106Sページ、2003)又は動脈硬化症(Nigam Aら、Am.J.Cardiol.、92巻、395〜399ページ、2003;Cohn JNら、Hypertension、46巻、217〜220ページ、2005;Gilani Mら、J.Am.Soc.Hypertens、2007)の発症及び進行の一因となる。
【0010】
代謝障害の治療における重大で複雑な問題は、メタボリックシンドロームの個々の病態が、単独で存在するか同シンドロームの一部として存在するかによらず、その性質及び規模において異なることであるが、その理由は、同シンドロームの病態は、相乗的に作用して罹患及び死亡のリスクを高める傾向があるからである(GM Reaven、Diabetes,Obesity,and Metabolism、4巻、(付録1)、S13〜S−18ページ、2002の中で概説されている)。言い換えれば、メタボリックシンドローム対象は、自身の高血圧症の結果として、メタボリックシンドロームに罹患していない高血圧対象に比べ、様々な心血管性疾患リスクが高まっている。現在、米国食品医薬品局は、メタボリックシンドロームの治療用のいかなる薬物の使用も認可していない。NCEPによるメタボリックシンドロームの現在の定義又は前述のような他の定義は代謝異常に関するものであり、凝固促進状態、炎症促進状態、酸化促進状態又は内皮機能障害など同シンドロームに伴う非代謝性の生化学的病態の側面を含むものではない。しかし、こうした非代謝性の生化学的異常は、脂質沈着及びそれに伴う結果である、内膜及び内側の中膜の血管壁中でのプラーク生成(即ちアテローム性硬化症)に必ずしも関与しない機序により、心血管性疾患を顕著に助長する。それどころか、こうした非代謝性の生化学的異常は、血管の健康に壊滅的な結果をもたらし、大血管損傷、心筋梗塞、脳卒中及び末梢血管性疾患などの血管性疾患を亢進させる恐れのある動脈硬化症(血管壁の肥厚化及び硬化と定義される)と呼ばれる異なる型の血管損傷につながる過程を亢進させる可能性がある(Safar ME Frohlich ED(編)、Atherosclerosis,Large Arteries and Cardiovascular Risk、McEniery CMら、Adv.Cardiol.Basel、Karger、44巻、160〜172ページ;Laurent Sら、Eur.Heart J.、27巻、2588〜2605ページ、2006)。こうした非代謝性の生化学的病態は、血管壁の細胞層内の生化学的な構成及び構造(即ち、コラーゲン及びエラスチンなどの細胞外マトリックス成分など)を変化させることにより、及びその中の平滑筋細胞の収縮状態を変化させることにより、個体の血管壁の硬化を増加させやすくする(Safar ME Frohlich ED(編)、Atherosclerosis,Large Arteries and Cardiovascular Risk、McEniery CMら、Adv.Cardiol.Basel、Karger、44巻、160〜172ページ)。そうした変化は、アテローム性硬化症の素因となるメタボリックシンドロームの代謝異常(既述)より、多くの場合はるかに短い時間枠で、血管損傷をもたらす可能性がある。さらに、こうした非代謝性異常は、メタボリックシンドロームを定義する代謝障害(既述)に相加して血管性疾患を悪化させる可能性がある。さらに、動脈硬化症により、アテローム性硬化症(XX)に罹りやすくなる可能性がある。動脈硬化症は、アテローム性硬化症に先行し、これを亢進させることが多いため、動脈硬化症、又は、動脈硬化症につながる生化学的事象を首尾よく治療できれば、CVSDの進行段階における、より早い時点で医学的介入を行い、長期的にみて患者にとってよりよい臨床結果をもたらすことができると考えられる。
【0011】
動脈硬化症及びCVDの素因となる血管の炎症促進状態、酸化促進状態、凝固促進状態及び内皮機能障害という非代謝性の生化学的異常に関与する機序は、きわめて複雑であり、Nigam Aら、Am.J.Cardiol.、92巻、395〜399ページ、2003;Cohn JNら、Hypertension、46巻、217〜220ページ、2005及びGilani Mら、J.Am.Soc.Hypertens、2007の中で非常に詳細に概説されている。
【0012】
これまでの研究では、インスリン抵抗性、高血圧症、高グリセリド血症の個々の病態を治療するため、さらに、アテローム性硬化症の脂質プラークを治療するためにもドパミン作動薬のブロモクリプチンを利用することについての記載がある(Meier AHら、Diabetes Reviews、4巻、464ページ、1996;米国特許第5,006,526号及び同第5,565,454号)。しかし、本発明者らの知る限り、MSの代謝異常及びMSに伴う非代謝性異常を同時に治療するため、又はMSに伴ういくつかの非代謝性異常を同時に治療するため、又は動脈硬化症(アテローム性硬化症ではなく)を治療するため、又は心筋梗塞若しくは脳卒中若しくは末梢血管性疾患などの現行の有害な心血管事象を低減させるための、ブロモクリプチン又はドパミン作動薬の利用について記載した文献は入手できない。さらに、2型糖尿病及びインスリン抵抗性などの代謝異常の改善をもたらすための投与のタイミングについては記載がある(米国特許第6,004,972号、同第5,866,584号、同第5,756,513号及び同第5,468,755号)ものの、文献中でこれまでに記載されているような代謝性の影響とはまったく異なる、動脈硬化症及びCVDの素因となる非代謝性の生化学的活動に対するドパミン作動薬療法の利益を最大化するための概日タイミングの大変な重要性については、詳述されていない。事実、入手できる文献は、ブロモクリプチンなどのドパミン作動薬療法は、心筋梗塞、脳卒中及び脳血管発作などの有害な心血管事象の増加を伴うことを示している(Ruch Aら、Obstet Gynecol、74巻、448〜451ページ、1989;Iffy Lら、Med Law、15巻、127〜134ページ、1996;Katz Mら、Obstet Gynecol、66巻、822〜824ページ、1985;Iffyら、Am J Ther、5巻、111〜115ページ、1998;Ddutt Sら、Aust N Z J Obstet Gynaecol、38巻、116〜117ページ、1998)。事実、ブロモクリプチンなどのドパミン作動薬がこうした有害な心血管事象を増加させる効果は、米国食品医薬品局がこれらドパミン作動性の医薬品については、その使用が高血圧症、脳卒中、脳血管発作及び心筋梗塞の増加を伴ったことがある旨の警告をラベル上に記載させるほど深刻であった(Physicians Desk Reference、Parlodel Package Insert)。ドパミン作動薬への曝露増加と血管性疾患増加との間について説明されるこの関係とはまったく対照的に、本発明は、ドパミン作動薬療法が、そのレベルがその日の大半を通じて高まっているのではなく、その日における1日毎の不連続な区間(血管性疾患に罹患していないか、又は、血管性疾患の代謝的若しくは非代謝的なバイオマーカーのレベルが上昇していないかいずれかである健康な個体における中枢神経系のドパミン作動性の活動の自然な1日の概日ピークに近い)に制限されるように適切な用量及び適切な時間帯で使用され、心血管性疾患の治療を必要とする対象に投与されるのであれば、その場合には、ドパミン作動薬療法は血管性疾患及び有害な血管事象を、「増加」どころか実に「減少」させることを実証する。動脈硬化症バイオマーカー、動脈硬化症及びCVD事象を改善するための本発明内のドパミン作動薬のそのような1日のタイミングは、こうした血管障害を亢進させる中枢でのノルアドレナリン作動性の緊張の過度の増加が低減する時間帯においてでもある。また、時間を決めて行われるドパミン作動薬療法のこうした有益な血管効果は、高血糖症、血漿トリグリセリド値又は血圧を著しく低下させる影響による結果ではない(追って記載の例を参照)。
【0013】
血管内皮は変動する組織であり、体液性環境に応じ、体液を浴びて血管構造及び血管収縮緊張に影響を及ぼす。内皮機能障害は、内皮が、血管収縮、血管壁の内膜層及び中膜層の炎症、並びに血管壁の細胞外マトリックスの物理的再構築(これにより、壁の肥厚化及び硬化が亢進する)を亢進させる生化学的状態と定義されよう。生化学的な内皮機能障害を刺激することが知られている液性因子の中でも、単球走化性タンパク質1(MCP1)、腫瘍壊死因子α(TNFα)、インターロイキン6(IL6)及びC反応性タンパク質(CRP)などの炎症促進因子の増加は、すべて、血管壁での炎症を助長する内皮変化を刺激し、ひいてはそれが血管壁硬化を亢進させる。さらに、血管壁での抗炎症性因子である血漿アディポネクチンの減少も、内皮機能障害及び内皮での炎症を助長し、それにより血管壁硬化(即ち動脈硬化症)を亢進させる。血管の炎症は、動脈硬化と結び付き、これを助長する(Yasmin MCら、Arterioscler.Thromb.Vasc.Biol.、24巻、969〜974ページ、2004;Duprez DAら、J.Hum.Hypertens.、19巻、515〜519ページ、2005;Booth Aら、Arthritis Rheum.50巻、581〜588ページ、2004)。
【0014】
血管の酸化ストレスは、動脈壁硬化を助長する可能性もある。活性酸素種(ROS)を生成する酸化ストレスの増加は、血管拡張及び正常な内皮機能のための強力な内皮刺激である一酸化窒素を除去する可能性がある。血管の一酸化窒素(NO)の利用可能性が低下すると動脈壁硬化が亢進される可能性があり、冠循環及び末梢循環の両方において動脈硬化及び内皮機能との間の直接相関が観察されている(Wilkinson IBら、Circulation、105巻、213〜217ページ、2002;Schmitt Mら、Hypertension、46巻、227〜231ページ、2005;Ichigi Yら、J.Am.Coll.Cardiol.、45巻、1461〜1466ページ、2005;Ceravolo Rら、J.Am.Coll.Cardiol.、41巻、1753〜1758ページ、2003)。内皮機能障害及びNOの利用可能性低下は、少なすぎるNO合成酵素活性、又は、過度に活性はあるが「非共役的な」NO合成酵素の活性がもたらす結果に由来することがある。逆説的にいえば、血管のNO合成酵素の発現は、内皮機能障害及び血管性疾患の状態において増加することがある。血管における非共役的なNO合成酵素活性が高まる結果、当該酵素は、血管動脈硬化症を総合的に亢進させる利用可能なNOの量を減らしながら、血管壁中のROS増加及びタンパク質のチロシンニトロ化を生じさせるように機能する(Upmacis RKら、Am.J.Physiol.、293巻、H2878〜2887ページ、2007;Ginnan Rら、Free Radic.Biol.Med.、2008年1月22日;Landmesserら、J.Clin.Invest.、111巻、1201〜1209ページ、2003;Munzel Tら、Arterioscler.Thromb.Vasc.Biol.、25巻、1551〜1557ページ、2005)。炎症に及ぼすそうした影響以外にも、前述のアディポカイン(TNFα及びMCP1の増加及びアディポネクチンの減少)及びCRPが増加すると、内皮機能及びNO合成酵素の混乱により、ROS及びタンパク質ニトロ化の増加が亢進する可能性もある(Rong Lら、Am.J.Physiol.293巻、E1703〜E1708ページ、2007;De Keulenger GWら、Biochem.J.、329巻、653〜657ページ、1998)。血管内皮型NO合成酵素(eNOS)(Kagota Sら、Life Sciences、78巻、1187〜1196ページ、2006)及び誘導型NO合成酵素(iNOS)の増加は、動脈硬化が増えている比較的高齢のSHRラットにおいて観察される(Safar ME、In:Swales JD編、Textbook of Hypertension、London UK、Blackwell Scientific、1994、85〜102ページ)。「非共役的な」NO合成酵素の活性が高まる場合においては、非共役的なNO合成酵素は、自身のNO生成を減少させる一方、スーパーオキシドの局在量の増加を実際にもたらすことにより動脈硬化症を助長するが、この発生は糖尿病においてとりわけ目立つようであり(Alp NJら、J.Clin.Invest.、112巻、725〜735ページ、2003)、また、非糖尿病対象に対する糖尿病対象における糖尿病の動脈硬化症、及びその結果としての心血管事象(MI、脳卒中及び末梢血管損傷)の増加を顕著に助長することがある。eNOSの非共役の重大な特徴は、内皮中で可溶性グアニルシクラーゼの濃度又は活性が同時に低下することに伴いeNOSの濃度又は活性が高まることであるが、それは、この酵素はNOにより活性化されて血管系に対しNOの有益な効果をもたらすからである。
【0015】
凝固促進状態により、心血管事象が増加しやすくなる恐れもある。急性冠症候群、急性心筋梗塞及び血栓性脳卒中に関しては、その発生において決定的に重要な役割を果たすのは、凝固促進状態(血塊生成と血塊溶解との間で、血塊生成に有利な力関係の増加を促進する状態)である。凝固促進状態は、体の生理における多くの生化学的因子と関わりがあり、血塊生成を亢進し、及び/又は血塊溶解を阻害する因子の増加は、急性CVD事象を誘発するように機能することがあるだけでなく、動脈硬化症に関与する機序も同様に促進するように機能することがある。エンドセリン1は、そのような因子の一例である。エンドセリン1は内皮由来因子であり、非常に凝固促進性が高く、内皮機能障害を亢進させる可能性のある強力な血管収縮薬としても機能し(Halim Aら、Thromb REs、72巻、203〜209ページ、1993;Iwamoto Tら、Nephron、73巻、273〜279ページ、1996)、それにより動脈硬化を引き起こす。反応性血小板、プラスミノーゲン活性化因子阻害因子1及びフィブリノーゲンなど、血塊生成における多様な因子は、相乗的に作用して、血管壁再構築、慢性の血管収縮及び動脈硬化症につながる恐れのある慢性の過凝固状態において内皮及び血管壁を変質させる。
【0016】
内皮機能障害は、前述のように、内皮が、血管収縮、血管壁の内膜層及び中膜層の炎症、並びに、血管壁の細胞外マトリックスの物理的再構築(これにより、壁の肥厚化及び硬化が亢進する)を亢進させる生化学的状態と定義されよう。したがって、本明細書中で定義するように、内皮機能障害は、動脈硬化症及びCVDを強力に助長するものである(Nigam Aら、Am.J.Cardiol.、92巻、395〜399ページ、2003;Cohn JNら、Hypertension、46巻、217〜220ページ、2005;Gilani Mら、J.Am.Soc.、Hypertens、2007)。このことは重要な区別であるが、その理由は、そうした生化学的異常のうち、動脈硬化症に影響するものとアテローム性硬化症に影響するものとでは、CVDの結末に対して異なる有益な影響を有することになるからである。動脈硬化症は、アテローム性硬化症が検出可能になるずっと前の時点における、後のCVD事象の非常に初期の兆候である場合が多い(Nigam Aら、Am.J.Cardiol.、92巻、395〜399ページ、2003;Cohn JNら、Hypertension、46巻、217〜220ページ、2005;Gilani Mら、J.Am.Soc.、Hypertens、2007)。したがって、内皮機能障害、炎症促進状態、凝固促進状態又は酸化促進状態など動脈硬化症の兆候を有する人を予防的に治療することが可能と考えられ、そうした兆候はすべて、その最も早い警告の兆候の現れた時点で問題点を攻撃することによりCVDの発症を最もよく防止する試みにおいて、臨床的に容易に評価できる。内皮機能障害、血管の炎症促進状態、凝固促進状態及び酸化促進状態を測定するための単純なテストがいくつかある。さらに、動脈硬化症の存在及び程度を評価するための実施可能なテストもいくつかある。内皮内における他の何らかの生化学的異常がアテローム性硬化症の素因となる可能性もあることは事実であるが、本発明に関する場合、及び本明細書中で定義するように、内皮機能障害は、動脈硬化症を亢進させる因子である。内皮機能障害が、生化学的異常(限定されるものではないが、「非共役的な」誘導型NO合成酵素、「非共役的な」内皮型NO合成酵素の増加、ROSの増加、エンドセリン1などの血管収縮因子の生成及び同因子への曝露の増加、並びに、炎症促進因子及び凝固促進因子の増加など)により特徴付けられようということは理解できる。
【0017】
メタボリックシンドロームを定義する代謝異常は、前述のように、CVDに及ぼす影響という点で、前述の非代謝性異常とは異なる。HMG−CoA還元酵素活性を阻害することによりコレステロール全体及び低密度リポタンパク質(LDL)コレステロールの合成を減少させる薬物であるスタチン、並びに血漿トリグリセリド値を低下させるフィブレートは、血管プラーク及びCVD事象を減少させることが示されている(Colhoun Hら、Lancet、364巻、685〜696ページ、2004)。さらに、降圧用の薬物適用がCVD事象を減少させることも示されている(Sever Pら、Lancet、361巻、1149〜1158ページ、2003)。しかしながら、心血管性疾患は、未だに今日世界における病的状態の主要な原因であり続けており、2型糖尿病心血管性疾患に罹患している対象においては主要な死因である。さらに、スタチン、フィブレート及び降圧用の薬物適用が利用できるにもかかわらず、この糖尿病患者集団においては、CVD事象が近年増加している(Roglic Gら、Diabetes Care、28巻、2130〜2135ページ、2005)。このような薬物適用は完全に有効であるわけではなく、CVDを防止しCVDを治療する新しい方法が必要であることは明らかである。とりわけ、動脈硬化症及びCVDの防止、その改善、その進行の低減又はその退縮をもたらす、メタボリックシンドロームの代謝病態及びメタボリックシンドロームに伴う非代謝病態のための有効な処置が必要である。動脈硬化症と同様アテローム性硬化症、並びに、これら両方の血管障害の生物学的亢進因子を減少させる方法も必要である。さらに、こうした方法は、2型糖尿病に罹患している対象においてとりわけ必要である。本発明はこのような必要性に対する回答であると信じるものである。メタボリックシンドローム、肥満、2型糖尿病及び糖尿病前症並びに関連の障害については、様々な処置を用いることができる。例えば、米国特許第6,506,799号では、エーテル化合物を含む組成物を投与することを含む、心血管性疾患、脂質異常症、異リポタンパク質血症及び高血圧症を処置する方法が開示されている。
【0018】
米国特許第6,441,036号では、肥満、脂肪肝及び高血圧症の治療及び/又は防止に使用できる脂肪酸類似体が開示されている。
【0019】
米国特許第6,410,339号では、メタボリックシンドローム、及び、腹部肥満、インスリン抵抗性としての関連の状態(老年性糖尿病を進行させるリスク(即ち、II型糖尿病、高脂血及び高血圧)の増加など)の診断用の系を調製するためのコルチゾール作動薬の使用が開示されており、この系中のコルチゾール作動薬の用量は、メタボリックシンドロームに罹患している個体におけるコルチゾール自己生成の阻害効果において、正常値と比較して差が得られる範囲である。
【0020】
米国特許第6,376,464号では、ヒトApoA−Iの構造的及び薬理学的な特性によく似たペプチド及びペプチド類似体が開示されている。このペプチド及びペプチド類似体は、脂質異常症に伴う様々な障害の治療に有用である。
【0021】
米国特許第6,322,976号では、中でも、インスリン作用、糖代謝、脂肪酸代謝及び/又はカテコールアミン作用の欠損に伴う疾患を、CD36遺伝子における変異を検出することにより診断する方法が開示されている。
【0022】
米国特許第6,197,765号では、ジアゾキシドの投与による、メタボリックシンドローム(シンドロームX)及びその結果生じる合併症の治療が開示されている。
【0023】
米国特許第6,166,017号では、ケトコナゾールの投与により、II型糖尿病の内科的治療のための、及び、メタボリックシンドロームの一部を形成するリスク因子に対抗するための方法が開示されている。
【0024】
米国特許第6,040,292号では、I型、II型及びインスリン抵抗性の糖尿病(I型及びII型の両方)を含む糖尿病の処置方法が開示されている。この発明の方法は、糖尿病の症状を有する対象へのrhIGF−I/IGFBP−3複合体の投与を用いる。糖尿病の症状を有する対象にrhIGF−I/IGFBP−3を投与する結果、糖尿病の症状の改善又は安定化がもたらされる。
【0025】
米国特許第5,877,183号では、メタボリックシンドロームではなく脂質及び糖の代謝の調節及び改変の方法が開示されており、この方法は、対象にドパミンD1作動薬を、場合によりドパミンD2作動薬、α−1アドレナリン作動性拮抗薬、α−2アドレナリン作動薬若しくはセロトニン作動性阻害薬と併用して、又は場合によりα−1アドレナリン作動性拮抗薬、α−2アドレナリン作動薬若しくはセロトニン作動性阻害薬のうち少なくとも1つと同時投与されるドパミンD2作動薬と併用して投与すること、及び、対象にセロトニン5HT1b作動薬をさらに投与することによる。ドパミン作動薬が、ドパミン受容体を活性化及び非活性化のいずれもするように機能し、それによりドパミン作動性ニューロンの活動が低下することはよく知られている。
【0026】
米国特許第5,741,503号では、ドパミンβヒドロキシラーゼ(DBH)の阻害薬の投与又は時間を決めた投与を含む、脂質代謝を調節又は改善する方法が開示されている。しかし、この技術の焦点はノルアドレナリン作動性の活動レベルのみの低下であり、DBHは、DBHが常在するノルアドレナリン作動性ニューロンとは解剖学的に異なるドパミン作動性ニューロン中に存在しないため、ドパミン作動性ニューロンの活動を高めない。
【0027】
加えて、いくつかの米国特許では、II型糖尿病に関する病態を治療するうえで使用するためのブロモクリプチンなどのドパミン作動薬の使用が開示されている。例えば、米国特許第6,855,707号、同第6,004,972号、同第5,866,584号、同第5,756,513号及び同第5,468,755号を参照。さらに、ブロモクリプチンは、2型糖尿病又はインスリン抵抗性を治療するためにも用いられている(Pijl H、ら、Diabetes Care、23巻、1154ページ、2000;Meier AHら、Diabetes Reviews、4巻、464ページ、1996)。しかし、ドパミンD2受容体作動薬であるブロモクリプチンなどのドパミン作動薬は、シナプス前及びシナプス後のドパミン受容体を刺激する能力がある。ブロモクリプチンなどのドパミンD2受容体作動薬でシナプス前ドパミン受容体を刺激する結果、シナプス後ドパミン受容体へのドパミンD2受容体作動薬結合の効果とは反対の、ドパミン放出の著しい減少及びシナプス後ドパミンの結合及び活動の低下(即ち、本明細書で定義する場合の、ドパミン作動性ニューロンの活動の低下)がもたらされる。そのため、ブロモクリプチンはどのようにしてドパミン受容体との相互作用によりインスリン抵抗性を改善するように実際に機能しているかについては、しばらくの間、不明であった(即ち、ブロモクリプチンの効果の誘発に主に関与しているのは、ドパミン作動性ニューロンの活動の上昇なのか低下なのか、はっきり確認できなかった)。ドパミン作動薬として作用するブロモクリプチンがどのようにしてドパミン作動性ニューロンの活動全体に影響を及ぼすのかという疑問に明確に答えるデータは入手できなかった。さらに、科学文献において、ドパミン受容体作動薬は代謝性疾患を改善し(Cincotta AHら、Exp Opin Invest Drugs、1999、10巻、1683ページ)、代謝性疾患を悪化させる(Arneric SPら、J Pharmacol Exp Ther、1984、228巻、551ページ;Schmidt MJら、Eur J Pharmacol、1983、90巻、169ページ;Mohamed HFら、Life Sci、1985、36巻、731ページ;Durant S、Rev Diabet Stud、2007、4巻、185ページ;el−Denshartら、Life Sci、1987、40巻、1531ページ)能力があることが実証されている。同様に、ドパミン受容体拮抗薬は、代謝障害を改善及び悪化させ(Hajnalら、Neuroscience、2007、148巻、584ページ;Baptista Tら、Brain Res、2002、957巻、144ページ)、リモナバントなどシナプスのドパミンを低下させる薬物は肥満及び血糖異常を軽減させることも示されている(Wright SHら、Curr Atheroscler Rep、2008、10巻、71ページ)。体重に関しては、ドパミン受容体の作動薬及び拮抗薬は両方とも摂食を減少させるために用いられており、ドパミンリガンド−受容体結合は、脳の異なる分野における摂食の刺激及び阻害の両方と関連がある(Hajnalら、Neuroscience、2007、148巻、584ページ;Szczypka MSら、Nat Genet、2000、25巻、102ページ;Roseberry AGら、J NeuroSci、2007、27巻、7021ページ)。ドパミン作動薬−受容体結合は、血糖値の上昇及び血糖値の低下にも関連がある(Cincotta AHら、Exp Opin Invest Drugs、1999、10巻、1683ページ;Arneric SPら、J Pharmacol Exp Ther、1984、228巻、551ページ;Schmidt MJら、Eur J Pharmacol、1983、90巻、169ページ;Mohamed HFら、Life Sci、1985、36巻、731ページ;Durant S、Rev Diabet Stud、2007、4巻、185ページ)。燃料代謝の調節に関与するドパミンの神経化学及び神経生理についての我々の理解は未だ不完全であり、進歩が必要であることは明らかである。さらに、ドパミン受容体結合、とりわけ、そのそれぞれの受容体部位へのシナプス後ドパミンD1及びD2受容体作動薬の結合は、リガンド誘導性の脱感作(ニューロンの活動電位又は神経伝達物質放出に及ぼす効果など、リガンド−受容体に誘導されるシグナル伝達及びシナプス後細胞の効果の喪失)、代償(シナプス後ドパミン受容体数の減少又は発現低下)、及び反作用(シナプス後のリガンド−受容体効果の喪失、及び/又は、特定の場合では、シナプス中における内因性神経伝達物質[即ちドパミン]の、何らかの手段による減少)の影響を受けやすい。(Ng GYら、Eur J Pharmacol、1994、267巻、7ページ;Lin CW、J Pharmacol Exp Ther、1996、276巻、1022ページ;Ng GYら、Proc Natl Acad Sci U.S.A.、1995、92巻、10157ページ;So CHら、Mol Pharmacol、2007、72巻、450ページ;Ariano MA、Synapse、1997、27巻、313ページ;Namkung Yら、J BioI Chem、2004、279巻、49533ページ;Amar Sら、lnt J Nueropsychopharmacol、2008、11巻、197ページ;Morris SJら、Eur J Pharmacol、2007、577巻、44ページ;Cho DIら、Biochem Biophy Res Commun、2006、350巻、634ページ;Kim KMら、J Biol Chem、2001、276巻、37409ページ;Barton ACら、Mol Pharmacol、1991、39巻、650ページ)。ドパミンD2受容体作動薬は、ドパミン代謝産物、DOPAC及びHVAの減少により明らかなように、シナプスのドパミン濃度の低下を引き起こし(Feenstra MGら、Naunyn Schmiedebergs Arch Pharmacol、1983、324巻、108ページ;Pagliari Rら、J Neural Transm Gen Sct、1995、101巻、13ページ;Kendler KSら、Life Sci、1982、30巻、2063ページ)、この効果は、それ自体、本発明の意図に反する。脱感作及び/又は反作用は、ドパミン作動薬を持続的に使用することにより、長期的に高まって最大化されるドパミンニューロンの活動をもたらす同作動薬の有効性が妨げられることである。例えば、2型糖尿病に罹患している対象をドパミンD2受容体作動薬のブロモクリプチンで持続的な期間にわたって治療すると、この治療対象のベースラインの血糖コントロールレベルと比較して、時間の経過に伴い、こうした治療の最大の抗糖尿病効果が失われる結果になりかねないことが示されている(Cincotta AHら、Exp Opin Invest Drugs、1999、10巻、1683ページ)。本発明の一側面は、代謝障害の治療においてドパミンD2受容体作動薬投与に対するこの脱感作を回避し、又は弱める方法である。適切なレベルでの内因性ドパミン放出は、特定のドパミン受容体作動薬でのシナプス後ドパミン受容体刺激に対してこうした逆の脱感作効果をあまり誘導しない傾向があるようである。さらに、そのような内因性ドパミンは、ドパミン受容体リガンドが、単一の特異的なドパミン受容体部位の型(例えばD2のみ)に結合するのに対し、より有利な可能性があるすべてのシナプス後ドパミン受容体(D1、D2、D3、D4、D5)に結合する能力がある。代謝の調節における中枢神経系内のドパミン作動性ニューロンの活動の関与の性質を理解することにより、代謝障害をより良好に処置する方法の開発が可能になるであろう。本発明者らは今回、ドパミン作動性ニューロンの活動の上昇(本明細書で定義するとおり)は代謝障害に対して有利な影響をもたらすことを発見した。また、特定の環境下でドパミン作動性ニューロンの活動を高めることができるドパミン受容体作動薬投与の脱感作、代償及び反作用を回避又は低減する方法(即ち、ドパミンD1又はD2受容体作動薬の使用を回避すること、又は中程度以下[最大応答の50%未満]の代謝応答を誘発する低用量でその使用を採用すること)は、代謝障害を軽減させるこうした方法の有効性を高め、そのようなアプローチを長期使用にとって実用的なものとするであろう。一例としては、こうした薬剤の用量を無効レベルまで実際に減らし、そのような薬剤を、シナプスのドパミン濃度を高める薬剤及び/又はノルエピネフリンニューロンの活動を低下させる薬剤と併用すること(即ち、相乗作用の誘導)により、代謝障害を軽減させるドパミンD1又はD2受容体作動薬の有効性(利益/有害作用比)を高めることが可能であることが今回見出された。つまり、本明細書に定義するような特定の神経生理をもたらすために、代謝障害のための治療戦略を、ドパミン作動薬−ドパミン受容体相互作用自体にではなく、ドパミン作動性ニューロンの活動を高めることに向けたものとすることによって、より効果的に代謝障害を軽減させることができる。したがって、最終的にドパミン作動性ニューロンの活動が上昇する結果をもたらすドパミン受容体作動薬及び/又は拮抗薬の任意の組合せを用いて代謝障害を軽減させることができ、そのような組合せは、本発明の基礎の一部内である。逆に、また、同様に重要なことは、最終的にドパミン作動性ニューロンの活動が上昇する結果をもたらさないドパミン受容体作動薬及び/又は拮抗薬の任意の組合せの使用は、代謝障害を効果的に治療するためには使用できない。特異的なドパミン受容体作動薬及び拮抗薬並びに他のドパミン神経調節物質を利用することによりドパミン作動性ニューロンの活動を高める具体的な方法は、追って記載する。こうした前記方法の鍵となる側面は、代謝障害に対して有益な効果をもたらすように、シナプスのドパミン濃度を維持又は上昇させるが、決して慢性的に低下させないことを確実にすることである(前記方法が、シナプス後ドパミン受容体作動薬の投与を含むか否かにかかわらず)。
【0028】
同様に、ノルエピネフリンのリガンド結合機能は、特定のどの受容体部位が結合されるかにより、さらにはどのニューロンの中心が影響を受けるかにより、広範な生理的応答を生じさせる。例えば、中枢でのノルエピネフリンの放出及びシナプスでの濃度の増加を誘導するように作用する薬理学的介入は、体重減少を刺激し肥満を治療することが示されているが、中枢でのノルエピネフリン濃度の上昇は、肥満、インスリン抵抗性及び糖尿病と関連がある(Astrup Aら、Obesity、2008年3月20日、Epub;Gadde KMら、Expert Rev Neurother、2007、7巻、17ページ)。ノルエピネフリン放出を刺激するか、又はシナプスのノルペイネフリン(norpeinephrine)濃度を高める薬物は、肥満を治療するために用いられており、中程度の効力、及び、活動亢進、高血圧症、弁膜性心疾患及び心拍数増加などの有害な副作用によりその成功は限られたものとなっていた(Ioannides−Demos LLら、Drug Saf、2006、29巻、302ページ;Florentin Mら、Obesity Rev、2007年11月23日、Epub)。
【0029】
シナプスのドパミン及びノルエピネフリンのニューロンでの再取込みを遮断し、結果としてドパミン作動性及びノルアドレナリン作動性のニューロンの活動(本明細書に定義のとおり、後述部分を参照)を両方とも高めるように機能する、ドパミン/ノルエピネフリン再取込み阻害薬として分類される薬剤があり、いくつか例を挙げれば、ブプロピオン、マジンドール、シブトラミン及びメチルフェニデートなどがある。このようなドパミン/ノルエピネフリン再取込み阻害薬は、肥満に対して、さらに、糖尿病に対してもある程度有益な効果をもたらすことが示されている。しかし、こうしたドパミン/ノルエピネフリン再取込み阻害薬の効果はすべての場合において中程度であり、心拍数増加及び高血圧症などの厄介な副作用を伴う。同様に、ドパミン及びノルエピネフリンのニューロンでの同時放出を刺激する薬剤は、肥満及び糖尿病に対しては中程度に有効であるが、非常に多様な結果をもたらし、同時に深刻な副作用も生じた。ドパミン/ノルエピネフリン再取込み阻害薬及びドパミン/ノルエピネフリン放出促進薬のこの厄介な副作用により、患者に投与できる用量も制限され、結果として、代謝障害に対する利益があったとしてもその規模も制限されかねない。これに対し本発明は、このようなドパミン/ノルペイネフリン(norpeinephrine)再取込み阻害薬の方法とは反対の、ドパミン/ノルエピネフリン再取込み阻害薬の効果を、これらの薬剤の効果を実に阻害することにより意外な形で高めるアプローチを採用した、代謝性疾患を処置する方法を提供する。本発明の方法は、このようなドパミン/ノルエピネフリン再取込みの同時阻害薬又はシナプス前放出刺激剤に由来する、シナプスのノルエピネフリンが増加する効果を遮断することにより代謝が改善されるように作用する。こうしたアプローチにより、ドパミン/ノルエピネフリンの再取込み阻害薬又は放出促進薬の厄介な副作用も低減する。同様に、ドパミンβヒドロキシラーゼを阻害するとノルエピネフリン濃度及び代謝障害が低減されることが示されているが、ドパミンβヒドロキシラーゼはドパミンニューロン中には存在せず、したがってそれを阻害すると、ドパミン作動性ニューロンの活動を高めることにより代謝障害に有益な影響をもたらす一切の効果を引き出すことができない。代謝障害を有効に治療するために必要なのは、中心(中枢神経系)でのドパミン作動性ニューロンの活動を高め、中枢でのノルアドレナリン作動性ニューロンの活動を低下させることができる方法である。本発明者らは、予想外にも今回、ドパミン作動性ニューロンの活動を高めノルエピネフリンニューロンの活動を低下させる方法は、有害事象を最小限に抑えながら、相互作用し、多くの場合相乗的に作用して、代謝障害及びその主要素を著しく、且つ持続的な様式で低減させることを見出した。
【0030】
発明の概要
本発明は、肥満、2型糖尿病、糖尿病前症、メタボリックシンドローム、心代謝リスク、心血管性疾患、動脈硬化症及びアテローム性硬化症などの代謝障害(その主要素(本明細書に定義のとおり、後述部分を参照)を含む)を治療するための、ドパミン及びノルエピネフリンの神経生理及び神経病理を活用する新規且つ改善された方法であって、こうした効果をもたらすために、非特異的なリガンド−受容体相互作用ではなく、ニューロンの活動の特異的な変化の誘導を標的とする方法である。本発明は、代謝障害を治療するためにドパミン及びノルエピネフリンの神経化学に影響を及ぼす方法を採用している従来のアプローチに反するか、その反対であるか、及び/又はそれとはまったく異なり有利なものである。加えて、本発明は、メタボリックシンドローム、心代謝リスク及び心血管性疾患などいくつかの特定の代謝障害並びにその主要素を治療するためにドパミン及びノルエピネフリンの神経生理に影響を及ぼす独特な新規の方法についての最初の記載である。中枢神経系の活動は、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、肥満及び糖尿病前症などの代謝障害並びに代謝障害の主要素において顕著な役割を果たしていると思われる。しかしながら、こうした疾患について、相互に関係させた特定の様式でドパミン作動性及びノルアドレナリン作動性の両方のニューロンの活動を考慮する、ニューロンの活動に基づく処置は存在しない。本発明の基礎である、ドパミン作動性ニューロンの活動を高めノルアドレナリン作動性ニューロンの活動(本明細書に定義のとおり)を高める方法により代謝障害(代謝障害の主要素を含む)を最も効果的に処置できたということは、これまでに記載されたことがなかった。こうした方法は、以下を含むいくつかの特徴的且つ独特な属性を有する:a)相乗的に作用して代謝障害及びそのk202441/US001ey要素を低減させることができること、b)ドパミン作動性ニューロンの活動を高めるか、又はノルアドレナリン作動性ニューロンの活動を低下させるかのいずれかで代謝障害又はその主要素の低減をもたらすように使用される薬剤の用量を低下させることにより、そのような薬剤の厄介な副作用を低減させることが可能であること、及び/又はc)こうした処置に対する脱感作、代償又は反作用が最小限に抑えられていること。当技術分野で必要なのは、このような特徴的な方式でドパミン作動性及びノルアドレナリン作動性のニューロンの活動に対処する、こうした疾患、障害及びその主要素の処置である。本発明は、そのような必要性に対する回答であると思われる。
【0031】
一側面では、本発明は、メタボリックシンドロームに伴う高血圧症、高グリセリド血症、炎症促進状態及びインスリン抵抗性を同時に処置する方法であって、メタボリックシンドロームに罹患している患者に、その使用が、中枢でのニューロンのドパミンの活動を高め、及び/又は中枢でのニューロンのノルエピネフリンの活動を低下させて高血圧症、高グリセリド血症、炎症促進状態及びインスリン抵抗性を同時に処置する治療上有効量の医薬調製品を投与するステップを含む方法を対象とする。
【0032】
別の側面では、本発明は、メタボリックシンドロームに伴う高血圧症、高グリセリド血症、炎症促進状態、凝固促進状態及びインスリン抵抗性を同時に処置する方法であって、メタボリックシンドロームに罹患している患者に、その使用が、中枢でのニューロンのドパミンの活動を高め、及び/又は中枢でのニューロンのノルエピネフリンの活動を低下させて高血圧症、高グリセリド血症、炎症促進状態、凝固促進状態及びインスリン抵抗性を同時に処置する治療上有効量の医薬調製品を投与するステップを含む方法を対象とする。
【0033】
別の側面では、本発明は、メタボリックシンドロームに伴う高血圧症、炎症促進状態、凝固促進状態及び酸化促進状態を同時に処置する方法であって、メタボリックシンドロームに罹患している患者に、その使用が、中枢でのニューロンのドパミンの活動を高め、及び/又は中枢でのニューロンのノルエピネフリンの活動を低下させて高血圧症、炎症促進状態、凝固促進状態、酸化促進状態及びその任意の組合せを同時に処置する治療上有効量の医薬調製品を投与するステップを含む方法を対象とする。酸化促進状態は、組織レベルでの反応性酸素種又は反応性窒素種が増加している生化学的環境と定義される。
【0034】
別の側面では、本発明は、高血圧症、炎症促進状態及び凝固促進状態を同時に処置する方法であって、高血圧症、炎症促進状態及び凝固促進状態に罹患している患者に、その使用が、中枢でのニューロンのドパミンの活動を高め、及び/又は中枢でのニューロンのノルエピネフリンの活動を低下させて高血圧症、炎症促進状態、凝固促進状態、酸化促進状態及びその任意の組合せを同時に処置する治療上有効量の医薬調製品を投与するステップを含む方法を対象とする。
【0035】
別の側面では、本発明は、メタボリックシンドロームに伴う高血圧症、炎症促進状態及び凝固促進状態又は酸化促進状態のうち少なくとも1つを処置する方法であって、メタボリックシンドロームに罹患している又はしていない患者に、その使用が、中枢でのニューロンのドパミンの活動を高め、及び/又は中枢でのニューロンのノルエピネフリンの活動を低下させて高血圧症、炎症促進状態、凝固促進状態及び酸化促進状態のうち少なくとも1つを処置する治療上有効量の医薬調製品を投与するステップを含む方法を対象とする。
【0036】
別の側面では、本発明は、高血圧症、炎症促進状態及び凝固促進状態のうち少なくとも2つを処置する方法であって、高血圧症、炎症促進状態及び凝固促進状態のうち少なくとも1つに罹患している患者に、その使用が、中枢でのニューロンのドパミンの活動を高め、及び/又は中枢でのニューロンのノルエピネフリンの活動を低下させて高血圧症、炎症促進状態及び凝固促進状態のうち少なくとも2つを処置する治療上有効量の医薬調製品を投与するステップを含む方法を対象とする。
【0037】
別の側面では、本発明は、メタボリックシンドロームに伴う内皮機能障害を処置する方法であって、メタボリックシンドロームに罹患している又はしていない患者に、その使用が、中枢でのニューロンのドパミンの活動を高め、及び/又は中枢でのニューロンのノルエピネフリンの活動を低下させて内皮機能障害を処置する治療上有効量の医薬調製品を投与するステップを含む方法を対象とする。
【0038】
別の側面では、本発明は、心血管性疾患を伴う内皮機能障害を処置する方法であって、内皮機能障害に罹患している患者に、その使用が、中枢でのニューロンのドパミンの活動を高め、及び/又は中枢でのニューロンのノルエピネフリンの活動を低下させて内皮機能障害を処置する治療上有効量の医薬調製品を投与するステップを含む方法を対象とする。
【0039】
別の側面では、本発明は、メタボリックシンドロームを伴うか伴わないかによらず、高血圧症、高グリセリド血症、炎症促進状態、凝固促進状態、インスリン抵抗性、酸化促進状態及び内皮機能障害を同時に処置する方法であって、メタボリックシンドロームに罹患している又はしていない患者に、その使用が、中枢でのニューロンのドパミンの活動を高め、及び/又は中枢でのニューロンのノルエピネフリンの活動を低下させて高血圧症、高グリセリド血症、炎症促進状態、凝固促進状態、インスリン抵抗性、酸化促進状態及び内皮機能障害を同時に処置する治療上有効量の医薬調製品を投与するステップを含む方法を対象とする。
【0040】
別の側面では、本発明は、インスリン抵抗性又は高グリセリド血症又は高血圧症からなる代謝異常のうち少なくとも1つ、及び、炎症促進状態、凝固促進状態、酸化促進状態又は内皮機能障害からなる非代謝性異常のうち少なくとも1つを処置する方法であって、メタボリックシンドロームに罹患している又はしていない患者に、その使用が、中枢でのニューロンのドパミンの活動を高め、及び/又は中枢でのニューロンのノルエピネフリンの活動を低下させて、インスリン抵抗性又は高グリセリド血症又は高血圧症からなる代謝異常のうち少なくとも1つ、及び、炎症促進状態、凝固促進状態、酸化促進状態又は内皮機能障害からなる非代謝性異常のうち少なくとも1つを処置する治療上有効量の医薬調製品を投与するステップを含む方法を対象とする。
【0041】
別の側面では、本発明は、メタボリックシンドロームを伴うか伴わないかによらず、血管の炎症促進状態、凝固促進状態、酸化促進状態又は内皮機能障害からなる非代謝性異常のうち少なくとも1つを処置する方法であって、メタボリックシンドロームに罹患している又はしていない患者に、その使用が、中枢でのニューロンのドパミンの活動を高め、及び/又は中枢でのニューロンのノルエピネフリンの活動を低下させて、炎症促進状態、凝固促進状態、酸化促進状態又は内皮機能障害からなる非代謝性異常のうち少なくとも1つを処置する治療上有効量の医薬調製品を投与するステップを含む方法を対象とする。
【0042】
別の側面では、本発明は、動脈硬化症の進行を処置、防止、遅延、妨害又は減速化する方法であって、メタボリックシンドロームに罹患している又はしていない患者に、その使用が、中枢でのニューロンのドパミンの活動を高め、及び/又は中枢でのニューロンのノルエピネフリンの活動を低下させて動脈硬化症を処置又は防止する治療上有効量の医薬調製品を投与するステップを含む方法を対象とする。
【0043】
別の側面では、本発明は、心血管性疾患、心筋梗塞、脳血管性疾患、脳卒中又は末梢血管性疾患などの血管性疾患の進行を処置、防止、遅延、妨害又は減速化する方法であって、そのような処置を必要とする患者に、その使用が、中枢でのニューロンのドパミンの活動を高め、及び/又は中枢でのニューロンのノルエピネフリンの活動を低下させて、そのような血管性疾患を処置する治療上有効量の医薬調製品を投与するステップを含む方法を対象とする。驚くべきことに、その使用が、中枢でのニューロンのドパミンの活動を高め、及び/又は中枢でのニューロンのノルエピネフリンの活動を低下させるそのような医薬調製品を用いた療法に由来する、血管性疾患に対する有益な効果の規模は非常に大きく(追って記載の例3を参照)、高血糖症又は脂質異常症又は高血圧症に対するドパミン作動薬の効果についての入手可能な証拠から予測されるであろう規模より大きいことが見出された。
【0044】
別の側面では、本発明は、上に詳述した病態及び障害の側面を処置すること、同時に2型糖尿病を処置することに関する。
【0045】
別の側面では、本発明は、a)高血圧症、高グリセリド血症、炎症促進状態、凝固促進状態、酸化促進状態及びインスリン抵抗性を同時に処置する方法、b)高血圧症、高グリセリド血症、炎症促進状態、凝固促進状態、酸化促進状態及びインスリン抵抗性のうち3つ以上を同時に処置する方法、c)メタボリックシンドロームを処置する方法、d)2型糖尿病及びメタボリックシンドロームを同時に処置する方法、e)2型糖尿病と、高血圧症、高グリセリド血症、炎症促進状態、凝固促進状態、酸化促進状態及びインスリン抵抗性のうち1つ又は複数とを同時に処置する方法、f)メタボリックシンドロームに伴う内皮機能障害を処置する方法、又はg)心血管性疾患を伴う内皮機能障害を処置する方法であって、患者に、その使用が、中枢でのニューロンのドパミンの活動を高め、及び/又は中枢でのニューロンのノルエピネフリンの活動を低下させる治療上有効量の医薬調製品を、第1の所定の時間帯に投与するステップを含む方法を対象とする。さらに、本発明は、前述の血管性疾患に関連する状態を処置する方法であって、そのような医薬調製品が、同種の健康な哺乳動物の視床下部でのドパミン作動性の活動の1日のピークの時間に近い1日毎の不連続な区間中に中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動のピークをもたらす様式で投与される方法を対象とする。さらに、本発明は、前述の状態を有するヒトを処置する方法であって、その使用が、中枢でのドパミンニューロンの活動を高め、中枢でのノルエピネフリンニューロンの活動を低下させる医薬調製品が、概ね0400時から1200時の1日毎の不連続な区間中にドパミンニューロンの活動の中枢でのレベルのピークをもたらす様式で投与される方法を対象とする。さらに、本発明は、前述の状態を有するヒトを処置する方法であって、中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動を高める化合物が、概ね0400時から1200時の1日毎の不連続な区間中に中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動のピークをもたらす様式で投与される方法を対象とする。
【0046】
本明細書で定義する場合、用語「非代謝性異常」は、血管性疾患のバイオマーカーを指し、そのようなものとしては、限定されるものではないが、炎症促進状態、凝固促進状態、酸化促進状態又は内皮機能障害が挙げられる。バイオマーカーは、将来的な疾患状態のリスク増加が診断又は予測される生理状態又は生物学的実体(分子)とさらに定義される。
【0047】
本明細書で定義する場合、用語「処置する」は、選択された疾患状態の進行速度を低減させること、又はその発症までの時間を延ばすこと、並びに、そのような処置を必要とする患者における血管再生手術の必要性の減少を包含する。別の側面では、本発明は、代謝障害(例えば、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、肥満又は糖尿病前症(これらの代謝障害の主要素を含む))に罹患している患者を処置する方法であって、患者に、その使用が、中枢でのニューロンのドパミンの活動を高め、及び/又は中枢でのニューロンのノルエピネフリンの活動を低下させる治療上有効量の医薬調製品を投与するステップを含む方法を対象とする。別の側面では、本発明は、代謝障害(例えば、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、肥満又は糖尿病前症(これらの代謝障害の主要素を含む))に罹患している患者を処置する方法であって、患者の中枢神経系内又は中枢神経系の視床下部内でのノルアドレナリン作動性ニューロンに対するドパミン作動性ニューロンの活動比率を高めるステップを含む方法を対象とする。
【0048】
用語「代謝障害」は、ある種における全身のグルコース、脂質及び/又はタンパク質の代謝異常を伴う障害、並びに、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、肥満及び糖尿病前症など、そこから生じる病的結果を包含する。このような代謝障害は、プロラクチン分泌の1日のレベル(及び変動)のパターン異常を伴う場合も伴わない場合もある。
【0049】
こうした代謝障害の「主要素」としては以下が挙げられるが、これらに限定されない:空腹時血糖異常又は耐糖能障害、胴囲増加、空腹時血漿血糖増加、空腹時血漿トリグリセリド増加、空腹時高密度リポタンパク質濃度低下、血圧上昇、インスリン抵抗性、高インスリン血症、心血管性疾患(又は、動脈硬化症、冠動脈疾患、末梢血管性疾患若しくは脳血管性疾患など、その構成要素)、うっ血性心不全、血漿ノルエピネフリン上昇、心血管関連の炎症性因子上昇、血管内皮機能障害、高リポタンパク質血症、動脈硬化症又はアテローム性硬化症、過食症、高血糖症、高脂血症及び高血圧症又は高血圧を亢進させる血漿因子の上昇、食後血漿のトリグリセリド値又は遊離脂肪酸値の上昇、細胞酸化ストレス又はその血漿指標の上昇、循環血中の過凝固状態の増加、肝脂肪変性、腎機能不全及び腎不全などの腎疾患。
【0050】
別の側面では、本発明は、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、肥満又は糖尿病前症(これらの代謝障害の主要素を含む)に罹患している患者を処置する方法であって、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、肥満又は糖尿病前症に罹患している患者に、対象の中枢(中枢神経系)でのノルアドレナリン作動性ニューロンの活動レベルに対する中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動レベルの比率を高める医薬組成物を投与するステップを含む方法を対象とする。
【0051】
別の側面では、本発明は、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、肥満又は糖尿病前症(これらの代謝障害の主要素を含む)に罹患している患者を処置する方法であって、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、肥満又は糖尿病前症に罹患している患者に、(1)対象の中枢(中枢神経系)でのドパミン作動性ニューロンの活動レベルの上昇を刺激する少なくとも1つの化合物と、(2)対象の中枢でのノルアドレナリン作動性ニューロンの活動レベルの低下を刺激する少なくとも1つの化合物とを含む医薬組成物を投与するステップを含む方法を対象とする。
【0052】
別の側面では、本発明は、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、肥満又は糖尿病前症(これらの代謝障害の主要素を含む)の処置に有効な医薬組成物であって、(1)少なくとも1つの中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動活性化薬と、(2)少なくとも1つの中枢でのノルアドレナリン作動性ニューロンの活動阻害薬と、(3)薬学上許容される担体とを含む組成物を対象とする。
【0053】
別の側面では、本発明は、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、肥満又は糖尿病前症(これらの代謝障害の主要素を含む)の処置に有効な医薬組成物であって、(1)中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動レベルの上昇と、(2)中枢でのノルアドレナリン作動性ニューロンの活動レベルの低下とを同時に刺激する、カテコールアミン修飾剤からなる群から選択される少なくとも1つの化合物と、薬学上許容される担体とを含む組成物を対象とする。
【0054】
以下の発明の詳細な説明において、様々な側面をさらに詳細に記載することとする。
【0055】
本発明は、添付の図面と併せて記載される以下の詳細な説明から、より完全に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】高脂肪食を摂取したSHRラットにおいて、キネロラン+フザリン酸が体重に及ぼす効果を示すグラフである。
【図2】ラットにおいて、キネロラン+フザリン酸が体重変化に及ぼす効果を示すグラフである。
【図3】高脂肪食を摂取したSHRラットにおいて、キネロラン+フザリン酸が血漿CRPに及ぼす効果を示すグラフである。
【図4】高脂肪食を摂取したSHRラットにおいて、キネロラン+フザリン酸が血漿エンドセリン1−21断片に及ぼす効果を示すグラフである。
【図5】高脂肪食を摂取したSHRラットにおいて、キネロラン+フザリン酸が血漿一酸化窒素に及ぼす効果を示すグラフである。
【図6】高脂肪食を摂取したSHRラットにおいて、キネロラン+フザリン酸が血糖に及ぼす効果を示すグラフである。
【図7】洋食を摂取したマウスにおける腹腔内の脂肪体を示すグラフである。
【図8】ob/obマウスにおいて、ブプロピオン+フザリン酸が腹腔内の脂肪体の重量に及ぼす効果を示すグラフである。
【図9】ob/obマウスにおいて、ブプロピオン+フザリン酸が血糖に及ぼす効果を示すグラフである。
【図10】ob/obマウスにおいて、ブロモクリプチン+GBRが血糖に及ぼす効果を示すグラフである。
【図11】高脂肪食を摂取したマウスにおいて、GBR+フザリン酸が血糖値に及ぼす効果を示すグラフである。
【図12】高脂肪食を摂取したマウスにおいて、GBR+フザリン酸が血漿インスリンに及ぼす効果を示すグラフである。
【図13】高脂肪食を摂取したマウスにおいて、GBR+フザリン酸が腹腔内の脂肪体に及ぼす効果を示すグラフである。
【図14】高脂肪食を摂取したマウスにおいて、GBR+フザリン酸が一酸化窒素血漿レベルに及ぼす効果を示すグラフである。
【図15】高脂肪食を摂取したマウスにおいて、GBR+フザリン酸が体重に及ぼす効果を示すグラフである。
【図16】高脂肪食を摂取したマウスにおいて、メチルフェニデート+パンテチンがHOMA−IRに及ぼす効果を示すグラフである。
【図17】高脂肪食を摂取したマウスにおいて、ブプロピオン又はGBRが腹腔内の脂肪体に及ぼす効果を示すグラフである。
【図18】高脂肪食を摂取したマウスにおいて、ブプロピオン又はGBRが血糖に及ぼす効果を示すグラフである。
【図19】高脂肪食を摂取したマウスにおいて、ブプロピオン又はGBRがHOMA−IRに及ぼす効果を示すグラフである。
【図20】高脂肪食を摂取したマウスにおいて、ブロモクリプチン+GBRが血糖に及ぼす効果を示すグラフである。
【図21】高脂肪食を摂取したマウスにおいて、ブロモクリプチン+GBRが血漿インスリンに及ぼす効果を示すグラフである。
【図22】高脂肪食を摂取したマウスにおいて、ブロモクリプチン+GBRがHOMA−IRに及ぼす効果を示すグラフである。
【図23】高脂肪食を摂取したマウスにおいて、ブロモクリプチン+AJ76が血糖に及ぼす効果を示すグラフである。
【図24】高脂肪食を摂取したマウスにおいて、午前又は午後に投与されたGBR+フザリン酸が血糖に及ぼす効果を示すグラフである。
【0057】
発明の詳細な説明
全般には、本発明の目的は、高血糖、糖化ヘモグロビンA1c(HbA1c)、高インスリン血症、耐糖能障害、インスリン抵抗性、高グリセリド血症及び体脂肪蓄積レベルのうち少なくとも1つを、そのような処置を必要とする、ヒトを含む脊椎動物対象において低減させる追加的な改善された方法を提供することである。本発明の別の目的は、2型糖尿病、メタボリックシンドローム、糖尿病前症及び肥満など、及び代謝障害の主要素(本明細書で定義するとおり)など、少なくとも1つの代謝障害(本明細書で定義するとおり)を低減させる追加的な改善された方法を提供することである。本発明のさらに別の目的は、心代謝リスク、動脈硬化症及び血管性疾患(心血管性疾患など)及びその進行のうち少なくとも1つを低減させる方法を提供することである。
【0058】
メタボリックシンドローム(肥満、インスリン抵抗性、高脂血症及び高血圧症)、2型糖尿病、肥満及び/又は糖尿病前症などの代謝障害(代謝障害の主要素を含む)のための前記新規な処置法は、そのような処置を必要とする哺乳動物種に、中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動レベルの上昇(とりわけ、視床下部を神経支配するニューロン内及び視床下部自体内)及び中枢でのノルアドレナリン作動性ニューロンの活動レベルの低下(とりわけ、視床下部を神経支配する脳幹領域内及び視床下部自体内)を同時に刺激する医薬組成物を投与することからなる。予想外にも、中枢神経系、とりわけ、中枢神経系の視床下部内のノルアドレナリン作動性ニューロンに対するドパミン作動性ニューロンの活動比率を高めると、代謝障害が低減し、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、肥満及び/又は糖尿病前症、並びにその主要素に伴う状態が改善されることが発見された。驚くべきことに、中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動の上昇及び中枢でのノルエピネフリンの活動の低下を同時に両方もたらす薬理学的な方法は、いくつかの代謝障害において広範な改善(低減)をもたらし、改善の規模は、中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動を高めるか、又は中枢でのノルエピネフリンの活動を低下させるかいずれかである療法より適用範囲が広く、そうした療法よりすぐれ(増大又は促進させるものであり)、それと比較して相乗的である場合が多いことが見出された。本明細書で定義する場合、「ニューロンの活動」は、ニューロンの活動電位の上昇又は低下いずれかを指す。より具体的には、本明細書で定義する場合、「ニューロンの活動」は、あるニューロンから別のニューロンへのシナプスの神経化学シグナル伝達(それにより活動電位に影響する)の増加又は減少いずれかを指す。さらに、より狭義には、本明細書で定義する場合、「ニューロンの活動」は、別の(第1の[例えばシナプス前])ニューロン(例えば、内因性神経伝達物質を介するものとして)の神経化学シグナル伝達又は任意の神経調節化合物(例えば、薬剤など外因性の神経伝達物質受容体調節物質)のいずれかから、ある(第2の[例えば、シナプス後])ニューロンへの生化学的な伝達を指し、それにより第2のニューロンの活動電位又は神経伝達物質放出に影響する。したがって、ドパミン作動性ニューロンの活動の上昇は、以下により特徴付けられると考えられる:a)ドパミン産生(第1の)ニューロンからのドパミン分子の放出増加、何らかの機序によるシナプス内のドパミン分子の増加、及び/又は任意の源(例えば医薬)からのドパミン模倣薬化合物(単数又は複数)の増加が生じた結果、ドパミンリガンド−ドパミン受容体結合シグナル伝達(例えば、シナプス後ドパミン受容体作動薬)の増加と一致した様式で、前記他のニューロン(単数又は複数)の活動電位又は神経伝達物質放出に影響する、他の(第2の)ニューロン(単数又は複数)のドパミン作動性受容体部位への結合が増加する、及び/又はb)そのようなドパミン又はドパミン模倣薬化合物(単数又は複数)が前記「他の(第2の)」ニューロンにおける活動電位又は神経伝達物質放出に影響する能力に対する、前記「他の(第2の)」ニューロン(単数又は複数)の感受性又は応答性の増加(例えば、ドパミン受容体の数又は親和性又は応答性の増加として)。逆に、ドパミン産生ニューロン(即ち、シナプス前ドパミンニューロン)にドパミン模倣薬が結合すること、及び/又は、神経伝達物質又は神経調節物質(それによりドパミン放出を減少させる)に応答して、ドパミン産生ニューロンの感受性又は応答性が高まることは、ドパミン作動性ニューロンの活動の低下につながる活動[また、それ自体を考慮した場合、そうしたことは、本発明に関してはドパミン作動性の活動の望ましくない一側面である]と見なされよう。また、「ニューロンの活動」をそのように定義すると、ノルアドレナリン作動性ニューロンの活動の低下は、以下により特徴付けられると考えられる:a)ノルエピネフリン産生(第1の[例えば、シナプス前])ニューロンからのノルエピネフリン分子の放出減少、何らかの機序によるシナプス内のノルエピネフリン分子の減少、又は、他の(第2の[例えば、シナプス後])ニューロン(単数又は複数)のノルエピネフリン受容体部位に結合する任意の源(例えば医薬)由来の化合物(単数又は複数)であって、ノルエピネフリンのリガンド−受容体結合シグナル伝達機能の減少、縮小又は遮断と一致した様式で、前記他の(第2の)ニューロン(単数又は複数)の活動電位又は神経伝達物質放出に影響する化合物(例えば、シナプス後ノルエピネフリン受容体拮抗薬)の増加、及び/又はb)ノルエピネフリンが前記「他の(第2の)」ニューロンにおける活動電位又は神経伝達物質放出に影響する能力に対する、前記「他の(第2の)」ニューロン(単数又は複数)の感受性又は応答性の低下(例えば、ノルエピネフリン受容体リガンドの結合可能性の低下[例えば、拮抗薬での受容体遮断]、又は受容体の数若しくは親和性若しくはリガンド−受容体複合体が介在するシグナル伝達の減少として)。逆に、ノルエピネフリン産生ニューロンへのノルエピネフリン又はノルエピネフリン模倣薬の結合が減少すること、及び/又は、神経伝達物質又は神経調節物質(それによりノルエピネフリン放出を増加させる)に応答して、ノルエピネフリン産生ニューロンの感受性又は応答性が低下することは、ノルアドレナリン作動性ニューロンの活動の上昇につながる活動[また、それ自体を考慮した場合、そうしたことは、本発明に関してはノルアドレナリン作動性の活動の望ましくない一側面である]と見なされよう。明確化を期すと、シナプス後ドパミン受容体作動薬としてはドパミンD1、D2、D3、D4及びD5受容体作動薬が挙げられ、シナプス後ノルエピネフリン受容体拮抗薬としてはα2bc及びα1拮抗薬が挙げられる。
以下のポイントは、本発明の新規の特徴をより詳細に説明する。
【0059】
第1に、本発明を定義するのは、代謝性疾患の処置に使用される特定の神経化学剤ではなく、むしろ、中枢神経系でのノルアドレナリンニューロンに対するドパミンニューロンの活動比率の向上をもたらすため、つまり、中枢でのドパミンニューロンの活動を高め中枢でのノルエピネフリンニューロンの活動を低下させるために、特定の神経化学物質をどのように使用するか、次に、この効果に対する脱感作、代償又は同時に生じる反作用を誘導せずに、複数のニューロンの部位での相互作用によりどのようにしてそれを行うかである。重要ではあるが限定するものではない、この特徴的なポイントの例としては、以下の2つの場合が挙げられる:
(A)シナプス前及びシナプス後のドパミン受容体を両方とも刺激するドパミンD2受容体作動薬は、シナプス後D2受容体を刺激するであろうがシナプス前ドパミン放出を減少させるであろうから、この作動薬は、シナプス後D2刺激を打ち消す傾向があると考えられる。本発明の一側面は、シナプス後D2受容体を優先的に、又は、シナプス前受容体に対するD2作動薬効果(シナプスのドパミン濃度を低下させる)を打ち消すか又は低減させると考えられる別の薬剤との併用で刺激し、その結果、ドパミン作動性ニューロンの活動の望ましい増加に対する脱感作、代償又は同時に生じる反作用を低減させることに関する。したがって、ノルアドレナリンに対するドパミンの活動比率の向上を必要とする対象にドパミンD2受容体作動薬を導入又は供給するというだけでは、直前に述べたように、ドパミン作動性のシナプス後刺激の脱感作、代償又は同時に生じる減衰を亢進せずにその正味の効果がドパミン作動性ニューロンの活動を高めること(例えば、シナプスのドパミン濃度が低下するとしてもそれを最小限に抑えること)にならない限り、本発明は完全には説明されない。D2作動薬を提示することと、ドパミン作動性ニューロンの活動を上昇させることとは、2つの別個の作業である。神経化学剤と神経化学効果とのこの違いをさらに詳述するために、本発明の一態様は、実にシナプス前ドパミンD2受容体拮抗薬を使用して、それによりシナプスのドパミン放出[D2受容体へのシナプス前ドパミン結合はドパミン放出を阻害する]及びドパミン作動性ニューロンの活動を高めることである。ドパミン作動性ニューロンの活動の上昇をさらに促進又は増大させるために、このシナプス前D2受容体拮抗薬をドパミンD2シナプス後受容体作動薬にさらに加えることもできよう。さらに、ドパミン作動性ニューロンの活動の上昇をもたらすために、シナプス後ドパミン受容体作動薬の用量、ひいては脱感作又は反作用という有害作用の可能性を最小限に抑えながら、シナプス後ドパミン受容体作動薬を、シナプスのドパミン濃度を上昇させてドパミン作動性ニューロンの活動の上昇を最大化させる薬剤と併用してもよい。
(B)第2の同様の例は、ノルアドレナリン作動性のα2受容体作動薬を用いることである。こうした化合物は、シナプス後α2部位(そこでは該化合物は、ノルアドレナリン作動性ニューロンの活動を刺激するように機能する)及びシナプス前α2受容体(そこでは該化合物は、ノルエピネフリン放出を阻害し、ノルエピネフリンニューロンの活動を低下させるように機能する)に結合する。本発明の一側面は、シナプス前α2部位の刺激を用いて、ノルエピネフリンの放出及び活動を低減させ、それにより代謝を改善させる。多くの場合、本発明において使用する所与の化合物の相殺効果は、利用される用量では望ましい効果は維持されるが該化合物(単数又は複数)の相殺効果又は制限効果は維持されないように単に用量を調節することにより、該化合物の有益な効果と切り離すことができる。
【0060】
第2に、ドパミンニューロン及びノルアドレナリンニューロンの活動を両方とも上昇させる混合型のドパミン/ノルエピネフリン再取込み阻害薬又は混合型のドパミン/ノルアドレナリンシナプス前放出刺激薬を、ノルエピネフリンニューロンの活動を低下させる薬剤と共に使用することにより、ノルアドレナリンニューロンに対するドパミンニューロンの活動比率を高めて代謝性疾患を改善させることが可能である。この様式では、化合物の望ましくないノルエピネフリン再取込み特性又はノルアドレナリン放出特性を遮断しながら、化合物のドパミン再取込み阻害特性又はドパミン放出特性を活用するが、それぞれ、ノルエピネフリンニューロンの活動を低下させる別の薬剤と共に用いる(追って記載の例4を参照)。肥満及び糖尿病の処置におけるドパミン/ノルエピネフリン再取込み阻害薬の有用性を実証するデータは入手できるが、その効果は限定的であって、臨床的に意味のあるものではない。本発明は、ノルアドレナリン作動性ニューロンの活動阻害薬を混合型のドパミン/ノルエピネフリン再取込み阻害薬又は混合型のドパミン/ノルアドレナリン放出刺激薬に加えることで、ノルアドレナリンニューロンに対するドパミンニューロンの活動比率を高めることにより、この欠点を補い、代謝性疾患に対するより強い効果を生み出す。
【0061】
本発明のこの側面の特定の例について、より詳細な説明を以下のとおり提供できる。本発明は、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、肥満又は糖尿病前症などの代謝障害(これらの代謝障害の主要素を含む)に罹患している患者を処置する方法であって、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、肥満又は糖尿病前症などの代謝障害(これらの代謝障害の主要素を含む)に罹患している患者に「ドパミン/ノルエピネフリンニューロン活動比率向上治療薬」と定義される医薬組成物を投与するステップを含み、以下のいずれか1つを含む方法を対象とする:
1.ドパミンニューロン及びノルエピネフリンニューロンの再取込み阻害薬である少なくとも1つの化合物+何らかの手段により中枢でのノルエピネフリンニューロンの活動の低下をもたらす少なくとも1つの他の化合物。ドパミン及びノルエピネフリン再取込み阻害薬化合物の例としては、ブプロピオン、マジンドール、ノミフェンシン、テソフェンシン、シブトラミン及びメチルフェニデートが挙げられる。
2.ドパミン及びノルエピネフリン放出促進薬である少なくとも1つの化合物+何らかの手段により中枢でのノルエピネフリンニューロンの活動の低下をもたらす少なくとも1つの化合物。ドパミン及びノルエピネフリン放出促進薬である化合物の例は、アンフェタミン及びメタンフェタミンである。
3.所与の用量では選択的ドパミン再取込み阻害薬であり、そのような所与の用量ではノルエピネフリン再取込み阻害が一切ないか、又は実質的に欠けている、少なくとも1つの化合物。何らかの手段により中枢でのノルエピネフリンニューロンの活動を低下させる少なくとも1つの化合物は併用してもしなくてもよい。選択的ドパミン再取込み阻害薬の例は、GBR12909、GBR12935及びGBR12783である。
4.少なくとも1つのドパミンD2受容体作動薬+ドパミン自己受容体拮抗薬。何らかの手段により中枢でのノルエピネフリンニューロンの活動の低下をもたらす少なくとも1つの他の化合物は併用してもしなくてもよい。ドパミン自己受容体拮抗薬の例は、AJ76である。
5.少なくとも1つのドパミンシナプス後受容体作動薬+ドパミン自己受容体拮抗薬。何らかの手段により中枢でのノルエピネフリンニューロンの活動の低下をもたらす少なくとも1つの他の化合物は併用してもしなくてもよい。
6.脳由来神経栄養因子(BDNF)又はL−DOPAなどドパミンの合成又は放出の刺激薬として作用することにより、又は、例えば、モノアミン酸化酵素阻害薬B(例えばデプレニル)若しくはドパミンモノオキシゲナーゼ阻害薬など、シナプスのドパミン分解の阻害薬として作用することにより、又は選択的ドパミン再取込み阻害薬若しくはシナプス前ドパミン自己受容体拮抗薬として作用することによりドパミンニューロンの活動を高める少なくとも1つの化合物+何らかの手段により中枢でのノルエピネフリンニューロンの活動の低下をもたらす少なくとも1つの他の化合物。
7.ドパミンD2受容体作動薬として作用する少なくとも1つの化合物+ドパミンのシナプスでの濃度を高めることにより中枢でのドパミンニューロンの活動を高める化合物。何らかの手段により中枢でのノルエピネフリンニューロンの活動を低下させる少なくとも1つの化合物は併用してもしなくてもよい。
8.ドパミンD1受容体作動薬として作用する少なくとも1つの化合物+ドパミンのシナプスでの濃度を高めることにより中枢でのドパミンニューロンの活動を高める化合物。何らかの手段により中枢でのノルエピネフリンニューロンの活動を低下させる少なくとも1つの化合物は併用してもしなくてもよい。
9.シナプス後ドパミン受容体作動薬として作用する少なくとも1つの化合物+ドパミンのシナプスでの濃度を高めることにより中枢でのドパミンニューロンの活動を高める化合物。何らかの手段により中枢でのノルエピネフリンニューロンの活動を低下させる少なくとも1つの化合物は併用してもしなくてもよい。
10.ドパミンD1又はD2受容体作動薬である少なくとも1つの化合物+ノルエピネフリンの合成阻害薬(例えばドパミンβヒドロキシラーゼ阻害薬)若しくは放出阻害薬として作用することにより、或いは、ノルエピネフリン再取込み刺激薬、又は、細胞若しくはシナプスのノルエピネフリン分解刺激薬として作用することによりノルエピネフリンのシナプスでの濃度を低下させることで中枢でのノルエピネフリンニューロンの活動を低下させる少なくとも1つの化合物。
11.何らかの手段により中枢でのドパミンニューロンの活動を高める少なくとも1つの化合物+ノルエピネフリンの合成又は放出の阻害薬(例えばドパミンβヒドロキシラーゼ阻害薬)として作用することにより、或いは、ノルエピネフリン再取込み刺激薬、又は、シナプス前細胞若しくはシナプスのノルエピネフリン分解刺激薬として作用することによりノルエピネフリンのシナプスでの濃度を低下させることで中枢でのノルエピネフリンニューロンの活動を低下させる少なくとも1つの化合物。
12.何らかの手段により中枢でのノルアドレナリン作動性ニューロンの活動を低下させる少なくとも1つの化合物、及び/又は、ドパミンD1又はD2受容体作動薬として作用することによる以外の何らかの手段により中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動を高める少なくとも1つの化合物。
13.代謝障害を低減させる最大効果の半分以下を引き出す用量で投与されるドパミンD1又はD2受容体作動薬である少なくとも1つの化合物+何らかの手段により中枢でのノルアドレナリン作動性ニューロンの活動を低下させる少なくとも1つの化合物。
14.シナプス前ドパミン作動性ニューロン由来の、中枢でのシナプスのドパミン濃度を高める少なくとも1つの化合物、及び、中枢でのノルエピネフリンニューロンの活動を低下させる少なくとも1つの化合物。
15.シナプス前ノルアドレナリン作動性ニューロン由来の、シナプスのノルエピネフリン濃度を低下させることにより中枢でのノルエピネフリンニューロンの活動を低下させる少なくとも1つの化合物、及び、脱感作又は反作用を生じさせずに中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動を高める少なくとも1つの化合物。
16.中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動を高める、ドパミンD1又はD2作動薬ではない少なくとも1つの化合物、及び/又は、中枢でのノルエピネフリンニューロンの活動を低下させる少なくとも1つの化合物。
17.中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動を高める少なくとも1つの化合物、及び/又は、中枢でのノルエピネフリンニューロンの活動を低下させる少なくとも1つの化合物。
【0062】
上記の17個の方法はすべて、中枢神経系における、とりわけ視床下部におけるノルアドレナリン作動性ニューロンに対するドパミン作動性ニューロンの活動比率を高める神経生理学的手段の例である。中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動を高め、及び/又は中枢でのノルエピネフリンニューロンの活動を低下させるための上記の17個の方法のいずれかの中に列挙した記載のニューロンの活動効果をもたらす任意の化合物(単数又は複数)又は化合物の組合せは、場合によっては、代謝障害及び代謝障害の主要素を低減させると考えられる。また、この効果は、化合物(単数又は複数)にではなく、むしろ、本明細書に記載のような化合物(単数又は複数)によりもたらされる神経生理に特異的なものである。こうした前述の方法における共通点は、中枢でのノルエピネフリンニューロンに対するドパミンニューロンの活動比率を高め、それにより代謝障害及び代謝障害の主要素を低減させるその効果である。中枢でのノルエピネフリンニューロンに対するドパミンニューロンの活動比率を高めるための上記の17個の方法を含む本発明のとりわけ鍵となる側面は、こうした方法が、長期の処置に伴いシナプスのドパミン濃度をあまり低下させずシナプスのノルエピネフリン濃度をあまり上昇させないことである。こうした上記の17個の方法の例においては、ドパミンD1及び/又はD2受容体作動薬は、脱感作、代償及び/又は反作用を最小化又は回避するために、代謝障害及びその主要素に対して中程度以下(最大応答の50%未満)の効果をもたらす用量で利用される。さらに、そのようなドパミン/ノルエピネフリンニューロン活動比率向上治療薬は、食欲減退を誘導しない(とはいえ、それが存在すれば過食症を治す(即ち、ユーファギア(euphagia)に)ことができる)機序により代謝障害の低減を誘導することもあるが、この効果は、代謝障害及びその主要素の低減を生じさせるためのすべての場合において必要なわけではない。さらに、中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動を高める化合物(単数又は複数)+中枢でのノルアドレナリン作動性ニューロンの活動を低下させる化合物(単数又は複数)を用いた併用療法の場合においては、予測されない相乗作用又は規模の効果が、代謝障害及びその主要素の低減の規模に関して生じる。加えて、中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動を高める化合物(単数又は複数)+中枢でのノルアドレナリン作動性ニューロンの活動を低下させる化合物(単数又は複数)を用いた併用療法の場合においては、代謝障害又は代謝障害の主要素を低減させるための併用療法の効果は、高血糖症、体重、体脂肪、高インスリン血症、インスリン抵抗性、凝固促進状態、炎症促進状態、脂質異常症、血管性疾患、内皮機能障害、腎疾患及び/又は肝脂肪変性の中の複数の障害などに対して、いくつかの代謝障害又はその主要素全体にわたる最大の有益な効果を同時にもたらす能力において、いずれかの個別の療法単独(即ち、ドパミン作動性ニューロンの活動を高めること、又はノルエピネフリンニューロンの活動を低下させること)の場合に比べて独特に多因性である。代謝障害又は代謝障害の主要素を最大限に低減させるドパミン/ノルエピネフリンニューロン活動比率向上治療薬の効果は、時間帯に依存し、毎日の自発運動の開始時間前後で投与された場合に最も有効である(好ましくは、自発運動の開始前約4時間から開始後約4時間の期間内)。
【0063】
別の側面では、本発明は、メタボリックシンドローム、2型糖尿病肥満又は糖尿病前症(これらの代謝障害の主要素を含む)を処置する方法であって、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、肥満又は糖尿病前症(これらの代謝障害の主要素を含む)に罹患している患者に、(1)中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動レベルの上昇、及び(2)中枢でのノルアドレナリン作動性ニューロンの活動レベルの低下を同時に刺激する少なくとも1つの化合物を含む医薬組成物を投与するステップを含む方法を対象とする。
【0064】
前述のように、代謝の調節におけるドパミン及びノルエピネフリンの関与についての文献は、そのような神経生理学的事象の有害な影響の可能性を最小限に抑えながら代謝障害に対する最大限有益で持続的な効果を引き出すドパミン作動性及びノルアドレナリン作動性のニューロンに関して、どのような決定的に重要な神経生理学的事象が必要であるかという特徴付けに乏しく、相当困惑させられる。先行研究は、特異的な神経伝達物質受容体部位の調節(即ち、受容体作動薬又は拮抗薬を利用すること)に焦点を当ててきたが、今追求中の、即ち、代謝障害を低減させるための最大の有益な効果を引き出すうえできわめて重大である神経生理を定義してこなかった。本発明は、こうした代謝的効果を引き出すためのそのような方法の有害な影響の可能性を最小限に抑えながら、代謝障害に対して最大限有益で持続的な効果をもたらす、中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動の上昇及び中枢でのノルアドレナリン作動性ニューロンの活動の低下を同時にもたらす方法を、今回詳述した。言い換えれば、本発明は、1)こうした代謝的効果を引き出すためのそのような方法の有害な影響の可能性を最小限に抑えながら、代謝障害に対して最大限有益で持続的な効果をもたらすにはどのような神経生理学的事象が必要か、及び2)こうした代謝的効果を引き出すためのそのような方法の有害な影響の可能性を最小限に抑えながら、代謝障害に対して最大限有益で持続的な効果をもたらすこのような神経生理学的事象を誘導するためにはどうすれば最もよいか、を両方とも確認した。したがって、本発明は、ドパミン又はノルエピネフリンに影響を及ぼす調節物質を利用する他の従来の方法では不都合な有害作用を伴わずには達成できない代謝障害における改善を容易にすることができる。米国特許第6,855,707号、同第6,004,972号、同第5,866,584号、同第5,756,513号及び同第5,468,755号中にあるような、ドパミンに影響を及ぼすアプローチである他の異なる方法、及びドパミン受容体作動薬の刺激又はドパミン/ノルエピネフリン再取込み阻害薬又は放出刺激薬に勝るこの治療的アプローチの違い及び利点としては(本発明ではないが)、以下が挙げられる:
1.効力の増加:中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動を高めるのに用いられる方法+中枢でのノルアドレナリン作動性の活動を低下させるのに用いられる方法の相乗的な、又は増大する効果は、代謝障害を低減させるため、とりわけ複数の代謝障害を同時に低減させるための、ドパミン受容体作動薬療法又はドパミン/ノルエピネフリン再取込み阻害薬又は放出刺激薬療法の最大耐量及び最大有効用量よりはるかに強力である。結果として、代謝障害を低減させるためのこうした本発明の方法の効果は、実際にはドパミン受容体作動薬療法を用いては達成できない。この非常に改善された比較的な効力のいくつかの例を、追って例の項に記載する。
2.有害作用プロファイルの減少:本発明の相乗的又は相加的な効果は、ドパミン作動性ニューロンの活動を高め、又はノルアドレナリン作動性ニューロンの活動を低下させて望ましい代謝的効果をもたらすために使用される薬剤の用量の減少を可能にする。そのような薬剤の用量(単数又は複数)が減少することにより、有害な副作用の可能性及びその発生が低下する。ドパミン作動性ニューロンの活動を高める高用量の薬剤、とりわけドパミン受容体作動薬は、多くの対象にとって長期療法を非実際的なものとしかねない厄介な副作用を伴うため(Cincotta AHら、Exp Opin Invest Drugs、1999、10巻、1683ページ)、そのような方法は、そうしたドパミン作動薬療法の利益を、従来の、効果のない、又は効果が低下する低用量で生じさせることにより、高用量の場合の厄介な副作用を回避することを可能にする。ドパミン作動性ニューロンの活動を高める可能性があり、単一の処置として何らかの代謝的効果をもたらすために必要と考えられるドパミン/ノルエピネフリン再取込み阻害薬などの高用量の薬剤は、代謝障害を処置するためのその実際的及び有効な使用を妨げる望ましくない有害作用をもたらすことが周知であり、こうした有害作用は、このような薬剤の用量を減らし、そのような療法をノルアドレナリン作動性ニューロンの活動を低下させる薬剤と組み合わせることにより、代謝的効果を維持又はさらには改善しながら、回避できる。この方法の例は、シナプス後ドパミン受容体作動薬又はドパミン及びノルエピネフリンの再取込み阻害薬を、ノルアドレナリン作動性ニューロンの活動を低下させる化合物と共に使用することであると考えられ、内因性シナプスのドパミン濃度を高める薬剤は併用してもしなくてもよい。
3.反作用の低減:本発明は、内因性ドパミン放出の減少により引き起こされる問題を回避するものであるが、こうした放出減少は、ドパミンD2受容体作動薬がシナプス前ドパミン自己受容体に結合し、それにより代謝性疾患を治療するうえでのその有効性を遮断する結果である。
脱感作の低減:本発明の重要な利点は、本明細書で定義するように、脱感作の回避である。従来の神経調節治療、とりわけ、ドパミンD2受容体作動薬又はD1受容体作動薬の使用は、ニューロンの活動が薬剤の施用に対して「脱感作」されるようになり、最終的にはこうした治療の無効性につながる結果を招く。これに対し、本発明は、ノルアドレナリン作動性ニューロンを阻害する方法に伴うこの効果を増強させながら、ドパミン作動性ニューロンの刺激の脱感作を最小限に抑え、ひいては治療を高度に有効にする。脱感作は、ドパミンD2受容体又はD1受容体作動薬の完全な回避又は用量使用の減少(ゼロ乃至中程度[単独での最大の代謝利益の50%未満]をもたらす用量に)により低減される。本発明は、ブロモクリプチンなどのドパミンD2受容体作動薬又はドパミンD1受容体作動薬で観察される代謝的効果の脱感作の可能性を、ドパミン作動性ニューロンの活動を高めるためのそうした作動薬の使用を完全に排除するか、又はその用量を減らす(脱感作を最小限に抑え、若しくは事実上排除するレベル、また、単独では無効であるレベルまで)かのいずれかにより、低減させる。好ましくは、この介入の正味の効果は、ノルアドレナリンニューロンに対するドパミンニューロンの活動の長期的な上昇として、効力を失うことなく残ることになり、このことは、本発明にとってもう1つの決定的に重要な構成要素である。
【0065】
4.療法の利益対リスク又は有害作用の比率の向上
一態様では、本発明の方法は、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、肥満及び/又は糖尿病前症などの代謝障害(代謝障害の主要素を含む)のための治療を必要とする対象に、(1)前記対象における中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動レベルの上昇を刺激する少なくとも1つの化合物と、(2)前記対象における中枢でのノルアドレナリン作動性ニューロンの活動レベルの低下を刺激する少なくとも1つの化合物とを含む医薬組成物を投与することを含む。代替的な態様では、この医薬組成物は、中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動レベルの上昇を刺激すると共に中枢でのノルアドレナリン作動性ニューロンの活動レベルの低下も刺激する単一の化合物を含んでもよい。それぞれが、中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動レベルの上昇を同時に刺激し、並びに中枢でのノルアドレナリン作動性ニューロンの活動レベルの低下を刺激する能力を有する2、3、4又はそれを超えるそのような化合物を該医薬組成物中で使用できることも企図している。しかしながら、すべての態様において、視床下部内のノルアドレナリン作動性ニューロンに対するドパミン作動性ニューロン活動比率は増加する。
【0066】
中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動レベルの上昇は、任意の機序により起こるものであってもよい。好ましい態様では、中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動レベルの上昇は、中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動レベルの上昇を刺激する少なくとも1つの化合物を医薬組成物中に含ませることにより起こる。好ましくは、そのような化合物としては以下が挙げられるが、これらに限定されない:特異的なドパミン再取込み阻害薬、ドパミン/ノルエピネフリン再取込み阻害薬(ノルエピネフリンニューロンの活動を低下させる化合物と併せて使用される)、ドパミンシナプス前輸送体阻害薬、ドパミンシナプス前自己受容体拮抗薬、シナプス前ドパミン放出促進薬、シナプス後ドパミン受容体作動薬(作動薬に誘導されるシナプスのドパミン濃度の低下を回避する化合物と併せて使用してもしなくてもよい)、ドパミン合成刺激薬、及び/又はドパミン異化阻害薬。中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動レベルの上昇を刺激する有用な化合物の例としては以下が挙げられるが、これらに限定されない:GBR−12935(1−[2−(ジフェニルメトキシ)エチル]−4−(3−フェニルプロピル)ピペラジンとして知られる);BDNF(脳由来神経栄養因子)、キンピロール((4aR−トランス)−4,4a,5,6,7,8,8a,9−オクタヒドロ−5−プロピル−1H−ピラゾロ[3,4−g]キノリン);キネロラン、SKF38393(1−フェニル−7,8−ジヒドロキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−3−ベンザゼピンヒドロクロリド);デプレニル(「セレギリン」としても知られる);アポモルヒネ、プラミペキソール(「Mirapex」の名称で市販されている)、GBR−12909(「Vanoxerine」、1−2−(ビス(4−フルオロフェニル)−メトキシ)−エチル−4−(3−フェニルプロピル)ピペラジン);タレキシポール(talexipole)、ジヒドロエルゴトキシン(ヒデルギン)、ブロモクリプチン、リスリド、テルグリド、メチルフェニデート、ブプロピオン、ノメフェンシン(nomefensine)、フェニルアミノテトラリン及びその組合せ。
【0067】
ノルアドレナリン作動性ニューロンの活動の阻害は、任意の機序により達成されてもよい。好ましい態様では、中枢でのノルアドレナリン作動性の活動レベルを低下させる刺激は、結果として中枢でのノルアドレナリン作動性の活動レベルの低下をもたらす少なくとも1つの化合物の投与により起こる。好ましくは、そのような化合物としては以下が挙げられるが、これらに限定されない:シナプス後ノルアドレナリン作動性の受容体遮断化合物(拮抗薬)、ノルアドレナリン放出阻害薬、ノルアドレナリン合成阻害薬、ノルアドレナリンシナプス前再取込み活性化薬、並びに、シナプス前及びシナプス中でのノルアドレナリン異化活性化薬。中枢でのノルアドレナリン作動性の活動レベルを低下させる有用な化合物の例としては以下が挙げられるが、これらに限定されない:プラゾシン(1−(4−アミノ−6,7−ジメトキシ−2−キナゾリニル)−4−(2−フラニルカルボニル)ピペリジン):プロプラノロール(1−(イソプロピルアミノ)−3−(1−ナフチルオキシ)−2−プロパノール);クロニジン(2−(2,6−ジクロロアニリノ)−2−イミダゾリン);フザリン酸(5−ブチル−2−ピリジンカルボン酸;5−ブチルピコリン酸);ドパミン;フェノキシベンザミン;フェントラミン、(3−[[(4,5−ジヒドロ−1H−イミダゾール−2−イル)メチル](4−メチルフェニル)アミノ]フェノール;2−[N−(m−ヒドロキシフェニル−p−トルイジネオメチル)イミダゾリン);グアンファシン(「Tenex」の商品名で販売されている);パンテチン及びその組合せ。
【0068】
上に示したように、本発明の方法は、中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動レベルの上昇及び中枢でのノルアドレナリン作動性ニューロンの活動レベルの低下を同時に刺激する単一又は個別の化合物を含む医薬組成物の投与を包含してもよい。そのような化合物の例としては、ドパミンなどのカテコールアミン修飾剤、及び、8R−リスリド及びフェニルアミノテトラリンなどのヒスタミン受容体1作動薬が挙げられる。こうした化合物の組合せを用いてもよい。
【0069】
メタボリックシンドロームは、いくつかの基準(前述のとおり)を有する場合に診断され、内皮機能障害、血管の炎症促進状態及び血管の凝固促進状態などの血管異常もさらに包含するので、本発明によるメタボリックシンドロームの処置法は、以下をさらに含む:
a.心血管性疾患を伴う内皮機能障害又は酸化促進状態の処置、
b.高血圧症、血管の炎症促進状態、凝固促進状態及び酸化促進状態の同時処置。炎症促進状態の血液マーカーの例としては以下が挙げられるが、これらに限定されない:C反応性タンパク質、血清アミロイドAタンパク質、インターロイキン6、インターロイキン1、腫瘍壊死因子α、ホモシステイン及び白血球数。凝固促進状態の血液マーカーの例としては以下が挙げられるが、これらに限定されない:ヘマトクリット粘度(hematocrit viscosity)、赤血球凝集、プラスミノーゲン活性化因子阻害薬1、フィブリノーゲン、ファンウィルブランド因子(van Willebrand factor)、第VII因子、第VIII因子及び第IX因子、
c.高血圧症、血管の炎症促進状態、凝固促進状態又は酸化促進状態のうち少なくとも2つの同時処置、及び
d.高血圧症、血管の炎症促進状態又は凝固促進状態のうち少なくとも1つの処置。
【0070】
内皮は、循環因子を変化させるだけでなく、心血管の健康及び疾患に影響する因子を合成及び放出することができる。内皮機能不全は、血管収縮、凝固促進状態及び/又は炎症促進状態を助長又は亢進させる血管系の内皮調節並びに他の生化学過程における変質を特徴とし、こうした変質はすべて、アテローム性硬化症の発症及び進行の一因となる(Am.J.Cardiol.、91巻(12A)、3H〜11Hページ、2003;Am.J,Cardiol.115巻、付録8A、99S〜106Sページ、2003)。
【0071】
本発明の化合物は、内部的に、例えば、経口的、皮下、経皮的、舌下又は静脈内に、従来の医薬組成物の形態で、例えば、水、ゼラチン、乳糖、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、タルク、植物油、ゴム、アルコール、ワセリンなどの有機及び/又は無機の不活性な担体を含有する従来の経腸又は非経口用の薬学上許容される賦形剤などに入った形で、好ましくは投与される。この医薬組成物は、例えば、錠剤、糖衣錠、坐薬、カプセルなど従来の固体形態、又は、懸濁液、エマルションなど従来の液体形態をしていてもよい。必要に応じ、この医薬組成物は滅菌してもよく、及び/又は、保存剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、緩衝液など従来の医薬用佐剤、又は、浸透圧の調節に使用される塩を含有してもよい。この医薬組成物は、さらに、治療活性のある他の材料を含有してもよい。本発明の医薬組成物は、製薬分野で公知の従来法を用いて作製できる。
【0072】
本発明の医薬組成物は、メタボリックシンドローム肥満、糖尿病前症又は2型糖尿病の処置に有効な量の本発明の化合物(単数又は複数)を含まなければならない。有効用量は、疾患の重篤度及び採用される特定の化合物(単数又は複数)の活性に依存すると思われることから、特定の任意の宿主哺乳動物又は他の宿主生物についてこれを決定することは、当技術分野の通常の技術の範囲内である。適当な用量は、例えば、ヒトの場合1kg当たり約0.001から約100mg、より好ましくは、ヒトの場合1kg当たり約0.01から約50mgの範囲であると考えられる。
【0073】
中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動レベルの上昇を刺激する化合物(単数又は複数)対中枢でのノルアドレナリン作動性ニューロンの活動レベルの低下を刺激する化合物(単数又は複数)の、この医薬組成物中における比率は、一般に、重量対重量ベース(w:w)で約500:1から1:500、より好ましくは重量対重量ベース(w:w)で約100:1から1:100の範囲である。
【0074】
複数の概日性の中枢でのニューロン振動は、その概日周期に関係のある機能として、末梢における複数の生理的な(例えば代謝性の)事象の調節及び調整を支配し、このことについては米国特許第5,468,755号中に記載があり、同文献は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。代謝状態を支配するそのような1つの概日リズムは、ドパミン作動性の活動の中枢での(視床下部の)概日リズムである。中枢でのドパミン作動性の活動の概日リズムにおける位相変化が肥満又は糖尿病の状態に影響することがこれまでに観察されている。しかしながら、驚くべきことに、環境、食事、ストレス、遺伝及び/又は他の因子により中枢又は視床下部でのドパミン作動性の活動の健康で正常な概日リズムから外れた位相変化は、非常に異なる広範な生理学的な調節系においても何らかの形で働き、本明細書に記載のような、メタボリックシンドロームの、及びそれに伴う複数の複雑な代謝性の病態を亢進し、またその原因になることが今回見出された。さらに、このような中枢でのドパミン作動性の異常な概日リズムを元の健康で正常な状態のものに戻す結果、本明細書に記載のようなメタボリックシンドロームの、及びそれに伴う複数の複雑な病態が同時に改善されることも、今回見出された。前述のように、メタボリックシンドローム及びそれに伴う病態は、糖尿病又は肥満とは異なる病態を示すが、その原因は知られていない。しかし、メタボリックシンドロームに罹患している対象は、同シンドロームに罹患していない対象に比べて、心血管性疾患が進行するリスクははるかに大きい。肥満及び2型糖尿病は常にメタボリックシンドロームを伴うわけではなく、その逆も同様であることから、この主要な健康上のリスクは、独特の特徴を有する独自で独特の代謝性状態を示すことは明らかである。多様な手段による中枢でのドパミン作動性の活動の概日リズムの調節を用いて、同シンドロームの、及びそれに伴う多くの病態(例えば、血管緊張、血管の健康、内皮機能、糖代謝及び脂質代謝、免疫系機能(具体的には、血管系、インスリン作用及び血液凝固性に影響する)の異常)を低減させることができる。この同じ概日性のドパミン作動性の整復方法は、一団となって心血管性疾患のリスクを高める、発生源が共通であるか又は一致しない一群の生理的病態である心代謝リスクを処置するために利用することもできる。このようなリスク因子としては、メタボリックシンドロームのものだけでなく、炎症、内皮機能障害、高コレステロール血症、糖尿病、肥満、喫煙、性別及び年齢が挙げられる。メタボリックシンドローム、心代謝リスク及びそれらに伴う病態を改善するために中枢用のドパミン作動薬を用いてドパミン作動性の活動を単に高めるのではなく、同種の健康な対象の中枢でのドパミン作動性の活動の1日のピークと一致させて、こうした状態を処置するうえでのそのようなドパミン作動薬療法から最大の利益を引き出すように、そうしたドパミン作動薬の投与の時間を決めることにより、こうした状態によりよい影響を与えることができる。
【0075】
さらに本発明によれば、メタボリックシンドローム(肥満、インスリン抵抗性、高脂血症及び高血圧症)、MSに伴う非代謝性の病態(炎症促進状態、凝固促進状態、酸化促進状態及び/又は内皮機能障害)、動脈硬化症及び/又は心血管性疾患(すべて、2型糖尿病に罹患している又はしていない対象において)を処置するためのドパミン作動薬の使用は、そのような処置の有効性を最大化するように、特定の1日毎の区間中に行う。本明細書に記載の代謝性及び非代謝性血管障害の処置のためのそのような中枢で作用するドパミン作動薬の使用は、1日の適切な時点(単数又は複数)でのその投与により効果を高めることができる。中枢神経系内のドパミン作動性の活動の概日リズム、とりわけ、こうしたドパミン作動性ニューロンのリズムと、セロトニン作動性ニューロンの活動など他の概日的なニューロンの活動との位相関係は、概日性の中枢におけるドパミン作動性の活動の1日のピークの位相に依存する様式で、末梢での糖代謝及び脂質代謝を調節することが実証されている。結果として、特定の時間帯における、他の活動に対するドパミン作動性の活動の上昇は、2型糖尿病、肥満、糖尿病前症、メタボリックシンドローム、心代謝リスク、高血圧症、脂質異常症、インスリン抵抗性、高インスリン血症、肝脂肪変性、腎疾患、心血管性疾患、脳血管性疾患及び末梢血管性疾患などの代謝性の疾患及び障害、並びに、差し迫った血管性疾患のバイオマーカーを改善するうえで最大限の有効性をもたらす。したがって、こうした前述の病態及び異常の最も功を奏する処置は、中枢で作用するドパミン作動薬(単数又は複数)の、適切に時間を決められた毎日の投与により達成できる。そのようなドパミン作動薬療法は、こうした代謝障害(末梢代謝全体の中枢での調節異常)の根本原因を攻撃するので、肝臓又は筋肉内の生化学的経路など特定の下流の末梢標的で作用することにより代謝性疾患(例えば、高血圧症又は高コレステロール又は高血糖症)の特定の特異的な症状を攻撃する他の従来の手段によっては通常達成できないいくつかの代謝病態の改善を同時的な形でもたらすことが可能である。そのような処置効果は、代謝性疾患のための一般的な治療法には現在欠けている。さらに、中枢でのドパミン作動薬療法は、抗糖尿病剤、降圧剤、コレステロール低下剤、抗炎症剤、或いは、肥満若しくは2型糖尿病などの代謝性疾患、又は、肥満若しくは2型糖尿病に伴う高血圧症などの代謝性疾患の特定の側面の追加的な改善をもたらすための抗肥満剤など、末梢に作用する治療剤と組み合わせてもよい。
【0076】
以下の例により、さらに、本発明を詳細に説明する。すべての割合及び比率(%)は、特に明確な言及がない限り、重量比である。
【0077】

概要
メタボリックシンドローム、肥満、糖尿病前症又は2型糖尿病を呈する4つの異なる動物群を試験する。各疾患群内で、動物を4つの異なる処置群の1つに無作為に割り当て、対照としての生理食塩水、中枢でのドパミンニューロンの活動活性化薬(単数又は複数)、中枢でのノルアドレナリン作動性ニューロンの活動阻害薬(単数又は複数)又は中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動活性化薬及び中枢でのノルアドレナリン作動性ニューロンの活動阻害薬の両方である分子実体(単数又は複数)のいずれかで、それぞれ処置する。
【0078】
試験の各疾患モデルの中で、また、対照群との比較で、ドパミン作動性ニューロンの活性化薬/ノルアドレナリン作動性ニューロンの活動阻害薬群は、代謝において最も大きい改善(肥満、脂質異常症、高血圧症、インスリン抵抗性、血管機能、空腹時血糖異常、耐糖能障害及び/又は高血糖症の低減)を呈し、その改善は、それぞれ対照より良好な(即ち、対照と比較して代謝性疾患の改善を示す)可能性のあるドパミン作動性の活性化薬群又はノルアドレナリン作動性の阻害薬群のいずれのものと比べても顕著に良好である。肥満、病態を伴うメタボリックシンドローム、糖尿病前症及び/又は2型糖尿病の改善に対する効果に関しては、ドパミン作動性ニューロンの活動刺激薬(単数又は複数)及びノルアドレナリン作動性ニューロンの活動阻害薬(単数又は複数)との間の予想外の相乗作用が観察される。
【0079】
加えて、代謝障害に対して選択的ドパミン再取込み阻害薬を使用し、ドパミン/ノルエピネフリン再取込み阻害薬と比較する試験では、選択的ドパミン再取込み阻害薬は、代謝障害の処置においてドパミン/ノルエピネフリン再取込み阻害薬より有効であることが実証される。さらに、ドパミン/ノルエピネフリン再取込み阻害薬+ノルエピネフリンニューロンの活動を低下させる(ひいては、ドパミン/ノルエピネフリン再取込みのためにノルエピネフリン効果を遮断する)化合物も同様である。
【0080】
例1
緒言
GBR12909(1−(2−[ビス(4−フルオロフェニル)メトキシ]エチル)−4−(3−フェニルプロピル)ピペラジンジヒドロクロリド)は、特異的なドパミン再取込み阻害薬である。GBR12909の全身投与は、中枢神経系におけるノルアドレナリン作動性ニューロンに対するドパミン作動性ニューロンの活動を高めることができる。試験は、肥満で糖尿病のマウス(ob/ob系)における血糖値及び血漿遊離脂肪酸値に対するGBR12909の効果を定量するために実施した。ob/obマウスは、当該遺伝子の変異の結果、機能するレプチンが欠損していることにより、食欲過剰で肥満しており、インスリン抵抗性で、糖尿病及び異脂肪血症である。このマウスを飢餓状態又はカロリー制限下に置くと、血漿遊離脂肪酸値の上昇を引き起こし、このことは、長期にわたり糖尿病を悪化させるように機能する可能性がある。この動物モデルは、さらに、その代謝異常の結果として、腎臓疾患、肝脂肪変性疾患、脳血管性疾患及び心血管性疾患も呈する。
【0081】
方法及び結果
1日12時間の光周期で維持し、1ケージ当たり1匹を収容し、自由に食餌を摂れるようにした肥満で糖尿病の雌(ob/ob)のマウス(体重はおよそ33g)の異なる群を無作為化して、体重1kg当たり30mgの用量で、特異的なドパミン再取込み阻害薬GBR12909(n=5〜7)又はビヒクル(対照群、n=5〜7)のいずれかで1日1回14日間処置した。試験15日目、最後の処置のおよそ24時間後に動物を屠殺し、血糖値及び血漿遊離脂肪酸値及びトリグリセリド値の分析用に血液試料を採取した。対照と比較して、GBR12909処置では、血糖は455+/−50mg/dlから145+/−25mg/dlに低下した。対照と比較して、GBR12909処置では、血漿遊離脂肪酸値は780+/−40μMから450+/−20μMに低下した。対照と比較して、GBR12909処置では、最終的な体重は42+/−2gから28+/−0.5gに、血漿トリグリセリド値はおよそ32%低下した。
【0082】
考察
本試験では、シナプスのドパミン濃度を選択的に高めることによりノルアドレナリンニューロンに対するドパミンニューロンの活動比率を高める特異的なドパミン再取込み阻害薬GBR12909を用いて肥満で糖尿病の動物を処置する結果、2型糖尿病、肥満及びメタボリックシンドロームが改善されることが実証される。
【0083】
例2
導入
GBR12909は、特異的なドパミン再取込み阻害薬である。この薬を使用すると、中枢神経系におけるノルアドレナリン作動性ニューロンに対するドパミン作動性ニューロンの活動を高めることができる。しかし、GBR12909をクロニジン(シナプス前α2部位に対する優先的な親和性を有するノルアドレナリン作動性のα2受容体作動薬)と併用することにより、中枢神経系におけるノルアドレナリンニューロンに対するドパミンニューロンの活動比率をさらに高めることが可能である。試験は、ob/obマウスにおける血糖値に対するGBR12909及びクロニジンの相互作用効果を定量するために実施した。
【0084】
方法及び結果
軽度の糖尿病を有する肥満で糖尿病の雌のob/obマウス(体重はおよそ28g)を、1日14時間の光周期で維持し、1ケージ当たり1匹を収容し、自由に食餌を摂れるようにした。この動物の異なる群を無作為化して、体重1kg当たりおよそ20mgの用量の特異的なドパミン再取込み阻害薬GBR12909(n=4)、又はおよそ0.1mg/kgの用量のクロニジン(n=5)、これらと同じ用量のGBR12909+クロニジン(n=3)又はビヒクル(対照群、n=5〜7)のいずれかで1日1回14日間処置した。試験15日目、最後の処置のおよそ24時間後に動物を屠殺し、血糖値の分析用に血液試料を採取した。対照と比較して、GBR12909処置では血糖に対して効果がなく(202+/−41から221+/−31mg/dl)、クロニジンでも同様に効果がなかった(202+/−41対250+/−35mg/dl)が、GBR12909+クロニジンでは、血糖値は202+/−41から121+/−15mg/dlに低下した。
【0085】
考察
この試験では、ノルアドレナリン作動性ニューロンに対するドパミン作動性ニューロンの活動比率を高める結果(この場合には、シナプス前α2受容体の刺激によりシナプスのドパミンのシナプス前ドパミン再取込みを阻害すること+ノルアドレナリン放出を低下させることにより)、高血糖症及び2型糖尿病を改善する相乗効果がもたらされることが示される。この有望な相互作用効果は、投与されることになる化合物の有効用量を潜在的に低下させることを可能にし、それにより、ひいては対象に対するこうした化合物の用量依存性の副作用を低減させることもできる。
【0086】
例3
導入
アンフェタミンは、選択的なシナプス前ドパミン放出促進薬である。この薬物は、シナプス前ノルアドレナリン作動性の放出促進薬としても作用するが、用量を高くすると、代謝を改善するドパミン再取込み阻害活性の効果を打ち消すことになる。しかし、ドパミンD2受容体作動薬を追加すると、アンフェタミンに誘導されてシナプスのノルアドレナリン濃度が上昇しそうになってもそれを抑えるように作用することから、アンフェタミン又はD2受容体作動薬単独より代謝性疾患に対してより明白な望ましい効果をもたらすはずである。試験は、肥満で糖尿病のマウス(ob/ob系)において、低用量のアンフェタミン(3mg/kg)が、ドパミンD2受容体作動薬のブロモクリプチン(用量5〜<10mg/kg)を併用した場合と併用しない場合とで、体重増加、血糖値、血漿遊離脂肪酸値及びトリグリセリド値に及ぼす効果を定量するために実施した。この用量でのブロモクリプチン処置はこの動物における摂食、体重又は血糖に対し効果を及ぼさないことは、文献においてこれまでに実証されている(Life Sciences、61巻、951ページ、1997)。ob/obマウスは、当該遺伝子の変異の結果、機能するレプチンが欠損していることにより、食欲過剰で肥満しており、インスリン抵抗性で、糖尿病及び異脂肪血症である。このマウスを飢餓状態又はカロリー制限下に置くと、血漿遊離脂肪酸値の上昇を引き起こし、このことは、長期にわたり糖尿病を悪化させるように機能する可能性がある。
【0087】
方法及び結果
1日12時間の光周期で維持し、1ケージ当たり1匹を収容し、自由に食餌を摂れるようにした、肥満で糖尿病の雌のob/obマウス(体重はおよそ33g)を無作為化して、体重1kg当たり3mgの用量の選択的ドパミン再取込み阻害薬アンフェタミン(n=5〜7)又はアンフェタミン(3mg/kg)+ブロモクリプチン(5〜<10mg/kg、n=5〜7)又はビヒクル(対照群、n=5〜7)のいずれかで1日1回14日間処置した。試験15日目、最後の処置のおよそ24時間後に動物を屠殺し、血糖値、血漿遊離脂肪酸値及びトリグリセリド値の分析用に血液試料を採取した。この試験において採用した用量のブロモクリプチン処置では、対照のob/obマウスと比較して、血糖又は体重が低下しないことが示された。対照と比較して、アンフェタミンでは、血糖値は422+/−46mg/dlから348+/−22mg/dlに低下したが、アンフェタミン+ブロモクリプチン処置では、血糖は422+/−46mg/dlから250+/−20mg/dlに低下した。対照と比較して、アンフェタミン処置では、血漿トリグリセリド値は175+/−21mg/dlから70+/−7mg/dlに低下したが、アンフェタミン+ブロモクリプチン処置では、血漿トリグリセリド値はさらに60+/−4mg/dlに低下した。対照と比較して、アンフェタミン処置では、血漿遊離脂肪酸値は900+/−100μMから510+/−30μMに低下したが、アンフェタミン+ブロモクリプチン処置では、血漿トリグリセリド値はさらに495+/−25mg/dlに低下した。アンフェタミンは、最終的な体重に対して効果を及ぼさなかったが、アンフェタミン+ブロモクリプチンでは、最終的な体重は44+/−1gから39=/−1.5に低下した。
【0088】
考察
これらの知見から、シナプスのドパミン濃度を選択的に高めることにより(この場合には、ドパミン再取込みを優先的にもたらす用量の混合型のドパミン/ノルアドレナリン再取込み阻害薬を、アンフェタミンの影響を低下させてシナプスのノルアドレナリンを増加させることができるドパミンD2受容体作動薬と併用して、ドパミンを放出させた後、シナプス前ニューロン中へのその再取込みを阻害することにより)ノルアドレナリンニューロンに対するドパミンニューロンの活動比率を高めると、2型糖尿病、脂質異常症、及び、メタボリックシンドロームの指標を改善できることが示される。さらに、これら2つの化合物の相互作用効果は、糖尿病、肥満及びメタボリックシンドロームを改善するうえで相乗的である。この有望な相互作用効果は、化合物の有効用量を低下させることを可能にし、それにより、こうした化合物が対象に対して副作用をもつとしても、それを低減させることもできる。こうした結果は、ノルアドレナリンニューロンに対するドパミンニューロンの活動比率を高めることにより代謝性疾患を改善する、混合型のドパミン/ノルアドレナリン再取込み阻害及びドパミンD2作動薬活性の相乗的相互作用をさらに実証するものである。
【0089】
例4
導入
フザリン酸は、ノルアドレナリン作動性ニューロン中でのノルアドレナリン合成を減少させるドパミンβヒドロキシラーゼ阻害薬である。この薬物はドパミン作動性ニューロン中には存在しないため、そこではそのような効果を発揮しない。SKF38393は、ノルアドレナリン作動性ニューロンに対して目立った影響を及ぼさないシナプス後ドパミンD1受容体作動薬である。試験は、ob/obマウスにおける体脂肪蓄積レベル、及び、血糖値及び血漿トリグリセリド値に対するフザリン酸+SKF38393の相互作用効果を定量するために実施した。ob/obマウスは、当該遺伝子の変異の結果、機能するレプチンが欠損していることにより、食欲過剰で肥満しており、インスリン抵抗性で、糖尿病及び異脂肪血症である。
【0090】
方法及び結果
1日14時間の光周期で維持し、1ケージ当たり1匹を収容し、自由に食餌を摂れるようにした、肥満で糖尿病の雌のob/obマウス(体重はおよそ33g)を無作為化して、フザリン酸(15mg/kg、n=6〜8)、SKF38393(10mg/kg、n=6〜8)、フザリン酸(15mg/kg)及びSKF38393(10mg/kg)の両方(n=6〜8)又はビヒクル(対照群、n=6〜8)のいずれかで1日1回14日間処置した。試験15日目、最後の処置のおよそ24時間後に動物を屠殺し、血糖値、血漿遊離脂肪酸値及びトリグリセリド値の分析用に血液試料を採取した。対照と比較して、フザリン酸では、血糖は380+/−30mg/dlから430+/−30mg/dlに上昇し、SKF38393では血糖は290+/−55mg/dlに低下した。しかし、フザリン酸+SKF38393では、血糖は180+/−20mg/dlに低下した。フザリン酸処置では、血漿トリグリセリド値は155+/−15mg/dlから170+/−27mg/dlに上昇したが、SKF38393では血漿トリグリセリド値は130+/−7mg/dlに低下し、フザリン酸+SKF38393処置では、血漿トリグリセリド値は115+/−4mg/dlに低下した。フザリン酸もSKF38393も、後腹膜の脂肪体の重量に対してはいずれも一切効果を及ぼさなかった(対照の値727+/−25mgに対し、それぞれ735+/−43mg及び735+/−50mg)が、フザリン酸+SKF38393の併用では、後腹膜の脂肪体の重量は680+/−25mgに低下した。
【0091】
考察
これらの知見から、シナプス後ドパミンD1受容体を刺激すること+ドパミンβヒドロキシラーゼのステップでノルアドレナリンの合成を阻害することによりノルアドレナリンニューロンに対するドパミンニューロンの活動比率を高めると、2型糖尿病、肥満及びメタボリックシンドロームを改善できることが示される。さらに、これら2つの化合物の相互作用効果は、糖尿病、肥満及びメタボリックシンドロームを改善するうえで相乗的である。この有望な相互作用効果は、化合物の有効用量を低下させることを可能にし、それにより、こうした化合物が対象に対して用量依存性の副作用をもつとしても、それを低減させることもできる。
【0092】
例5
この例は、シナプス後ドパミン作動薬+ドパミンβヒドロキシラーゼ阻害薬が、高脂肪食を与えられた高血圧のSHRラットの代謝障害に及ぼす影響を実証するものである。雄のSHRラットを1日14時間の光周期で維持し、高脂肪食(脂肪由来のエネルギーが60%、重量1グラム当たり5.24kcal)を3週間与えてから、異なる群に分けて、キネロラン(Q、ドパミンD2/D3混合型の受容体作動薬)(0.075mg/kg)、フザリン酸(FA、ドパミンβヒドロキシラーゼ阻害薬)(12.5mg/kg)、キネロラン(0.075mg/kg)+FA(Q/FA)(12.5mg/kg)又はビヒクルのいずれかで、17日間、照明開始後13時間時点で処置した。Q及びFAの用量は、それぞれ、中枢でのドパミン受容体結合機能及びドパミンβヒドロキシラーゼ活性をもたらす最大容量の半分未満に設定した。高脂肪食を用いたこのような処置の結果、標準的な飼料を与えられた動物と比較して顕著に体重が増加した。血圧測定値を処置の14日時点で得てから、体脂肪及び液性因子及び代謝産物の分析のため、処置の18日時点で動物を屠殺した。Q群又はFA群と比較すると、Q/FA群はベースライン体重からの変化(x対y)において強く相乗的な低下をもたらしたのに対し、ビヒクル対照群は、体重増加をまったく抑制しなかった。重要なことは、Q群は、処置レジメンにおける初期に、体重減少に及ぼす効果に対する脱感作を呈したことであり、そのため、平均するとこの群は、処置の終了時までには、ベースライン値まで体重減少分を取り戻した。Q群及びFA群における体重減少の効果(あったとしても中程度の)は、併用群において数倍に増幅され、そのことから、体重減少に対する明らかな相乗作用が示唆された(図1及び2)。さらに、そのようなQ/FA処置では、ビヒクルと比較して、血漿エンドセリン1濃度(図3)、一酸化窒素濃度(図4)及びC反応性タンパク質濃度(図5)が低下し、また、Qが一酸化窒素又はエンドセリン1−21断片の血漿濃度に対して顕著な効果を及ぼさず、FAがCRPに対して顕著な効果を及ぼさなかったことから、一酸化窒素、エンドセリン1及びCRPに対するQ/FAにおけるそうした低下は、これらのパラメーターについて個々の化合物を足したものを超えた(0+X>X)。血糖に関しては、Q及びFAは両方ともビヒクルと比較して血糖値を低下させたが、この動物においてはQ/FAレジメンのみが、ビヒクルと比較して血糖を正常化させた(図6)。Q/FA群は、テストしたすべてのパラメーターにおいて顕著な低下をもたらした唯一の群であった。
【0093】
例6
雌のC57ブラックマウスを1日12時間の光周期で維持し、大量の単糖/中程度の脂肪の食餌(洋食)を数週間与えて肥満を誘導してから、異なる動物群(n=5〜8/群)を、GBR12909(25mg/kg)、FA(10mg/kg)、クロニジン(0.075mg/kg)、GBR(25mg/kg)+FA(10mg/kg)、GBR(25mg/kg)+クロニジン(0.075mg/kg)、ブロモクリプチン(10mg/kg)+SKF38393(10mg/kg)又はビヒクルのいずれかで処置し、体脂肪蓄積レベルを分析するため、処置の14日後に屠殺した。ビヒクル群及びBC/SKF群と比較して、体脂肪蓄積レベルの最大の低下は、GBR+FA群及びGBR+クロニジン群において観察された。さらに、この2つの併用群内では、併用した場合の効果の規模は、それぞれの各化合物の個別の効果と比較して、それらを足した規模を超えた。クロニジンは、体脂肪蓄積レベルに対してそれ自体は効果を及ぼさなかった。この結果は、選択的ドパミン再取込み阻害薬+シナプス前ノルペイネフィンレ(norpeinephinre)α2A作動薬又は選択的ドパミン再取込み阻害薬+ドパミンβヒドロキシラーゼ阻害薬は、それぞれの場合において、相乗的に作用して、大量の単糖/中程度の脂肪の食餌を与えられた動物において体脂肪を減少させることができることを実証するものである。図7は、GRB、FA、GBR+FA、クロニジン、クロミジン(clomidine)+GBR、及びBC/SKFが、洋食を与えられたマウスにおける体脂肪に及ぼす影響を示すものである。図7に示すとおり、星印は対照と有意差があることを表し、NS=対照と比較して有意ではない。
【0094】
例7
生後6週間の肥満で糖尿病の雌のマウス(ob/ob系)に標準的な齧歯動物用飼料を与え、異なる動物群(n=5〜7/群)を、ブプロピオン(40mg/kg)、FA(10mg/kg)、ブプロピオン(40mg/kg)+FA(10mg/kg)又はビヒクルで14日間処置してから、血糖値及び体脂肪蓄積レベルの分析のために屠殺した。対照群と比較して、ブプロピオン+FA群は、血糖(高血糖症又は糖尿病)及び体脂肪蓄積レベルの両方において最大の低下を呈した。さらに、こうした低下は、併用した個々の化合物の効果と比較すると、規模において、それらを足した効果を超えた。FA/ブプロピオン(Buprop)群のみが、ビヒクル対照群と比較して、体脂肪の顕著な減少を呈した(図8)。FA/ブプロピオン群は、血糖において最大の低下を呈し、この効果は、併用されたFA群とブプロピオン群と比較すると、それらを足した効果を超えた。FA処置では、血糖に対して顕著な効果はもたらされなかった(図9)。
【0095】
例8
内因性ドパミンを減少させることにより代謝障害を改善するためのD2受容体作動薬効果の影響を回避する試みにおいて、GBR(選択的ドパミン再取込み阻害薬)をブロモクリプチン(中枢でのノルエピネフリンニューロンの活動を低下させることができるドパミンD2受容体作動薬)に加える効果を、ビヒクル、ブロモクリプチン(BC)(10mg/kg)、GBR12909(20mg/kg)又はブロモクリプチン(10mg/kg)+GBR12909(20mg/kg)のいずれかで処置したob/obマウスにおいて試験した。肥満で糖尿病の雌のob/obマウスに標準的な飼料を与え、異なる動物群(n=5〜7群)を、ブロモクリプチン(ノルエピネフリンニューロンの活動を低下させるため)(10mg/kg)、GBR12909(ドパミン作動性ニューロンの活動を高めるため)(20mg/kg)で、又はブロモクリプチン(10mg/kg)+GBR12909(20mg/kg)又はビヒクルで14日間毎日処置した。ビヒクル対照と比較して、BC+GBR群は、血糖値(即ち、高血糖又は糖尿病)において最大の低下を呈し、この群における効果は、BC群及びGBR群単独の場合と比較して、それらを足した効果を超えた。BC/GBR群は、血糖値において最大の低下を呈した。BCは、血糖値に対して効果を及ぼさなかった。血糖値に対するBC/GBRの効果は、併用したBC及びGBR個々の効果を足したものを超えた(図10)。
【0096】
例9
生後4週間の雌のマウスに高脂肪食を20週間与えて糖尿病及びインスリン抵抗性を誘導し、そのような食餌を与え続ける一方、GBR12909(10mg/kg)、FA(15mg/kg)、GBR12909(10mg/kg)+FA(15mg/kg)又はビヒクルのいずれかで14日間処置してから、体脂肪、血糖値、血漿インスリン値及び血漿一酸化窒素濃度の分析のため、処置の14日後に屠殺した。体脂肪蓄積レベル、血糖及び血漿インスリンの総合的な値は、GBR/FA群において最も大きく低下し、その規模は、併用した個々のGBR群とFA群とを足した規模を超えた。GBR/FA群のみが、血漿インスリン値を正常化させた。このGBR/FA群は、ビヒクル対照と比較して、一酸化窒素の最大の低下も呈した。血糖に対する最大の効果は、GBR/FA群により呈された。GBR単独では、血糖値に顕著な効果を及ぼさなかったため、BGR+FAが血糖に及ぼす影響は、併用したGBR及びFAの個々の効果と比較すると、それらを足したものを超えた(図11)。GBR/FA群のみが、痩せてインスリン感受性の非糖尿病マウスとあまり差がないレベルまで血漿インスリン値を正常化させた。痩せた対照と比較した場合、GBR及びFA単独の群は両方とも、処置後血漿インスリン値が顕著に高まった(図12)。体脂肪蓄積低下に対する最大の効果は、GBR/FA群により呈され、その効果は、GBR群又はFA群のいずれよりも顕著に良好であった(図13)。一酸化窒素の最大の低下は、GBR/FA群により呈された(図14)。高脂肪食を20週間与えられ、処置期間中、高脂肪食でさらに2週間維持された肥満マウスをGBR/FA処置した結果、体重がほぼ正常化した(対照と同等の年齢にとっての正常体重=28グラム)。この効果は、GBR又はFA処置単独ではいずれの場合も観察されなかった。さらに、このドパミン強化処置に対しては、ドパミンD2受容体作動薬の場合に観察されるように、この体重減少効果についての脱感作は生じなかった(図15)。
【0097】
例10
体重およそ40グラムの雄のC57ブラックマウスに、生後5週時点から20週間にわたって高脂肪食を与えて肥満及びインスリン抵抗性を誘導してから、メチルフェニデート(ドパミン及びノルエピネフリン再取込み阻害薬)(5mg/kg)、パンテチン(ドパミンβヒドロキシラーゼ阻害薬)(3mm)、それぞれの用量のメチルフェニデート+パンテチン又はビヒクルのいずれかで12日間処置してから、体脂肪及びインスリン感受性の分析(HOMA−IR分析による。HOMA−IR値は、インスリン感受性と逆相関する)のために屠殺した。ビヒクル対照群と比較して、メチルフェニデート+パンテチン群は、インスリン感受性において最大の改善を呈し、この効果は、個々の化合物の効果を顕著に超えた。パンテチンがメチルフェニデートのノルエピネフリン強化効果を打ち消す効果(ノルエピネフリン合成の阻害により)は、結果としてメチルフェニデート効果の増大をもたらした(図16)。
【0098】
例11
中枢でのドパミンニューロンの活動を高めることと、これに対し中枢でのドパミン+ノルエピネフリンニューロンの活動を高めることとが、体脂肪、血糖、血漿インスリン及びインスリン感受性に及ぼす影響を、生後4週から生後24週まで高脂肪食を与えられた雄のマウスにおいて試験した。このマウスは、齧歯動物においてin vivoでこうした機能を発揮させる最大有効用量の50%に近い用量の、GBR(20mg/kg)(選択的ドパミン再取込み阻害薬)又はブプロピオン(20mg/kg)(ドパミン及びノルエピネフリン再取込み阻害薬)のいずれかで処置される間、この高脂肪食で維持した。高脂肪食を与えられたマウスに対し等用量のこれらの化合物を投与することにより、体脂肪、血糖、血漿インスリン及びインスリン抵抗性を低下させることにおいては、GBRはブプロピオンよりはるかに有効であることが実証された。この結果は、代謝障害を低減させるうえで、中枢でのドパミンニューロンの活動を高めること(選択的ドパミン再取込み阻害薬により)は、中枢でのドパミン及びノルエピネフリンニューロンの活動を高めること(ドパミン及びノルエピネフリン再取込み阻害薬により)より有効であること、及び、こうしたドパミン/ノルエピネフリン再取込み阻害化合物のノルエピネフリンニューロンの活動強化効果を取り除けば、代謝障害に対するその効果を改善できることを示すものである。GBRでは、ビヒクル処置及びブプロピオン処置と比較して、体脂肪が顕著に減少した(図17)。GBR処置では、ビヒクル処置群及びブプロピオン処置群と比較して、血糖(高血糖症及び糖尿病)が顕著に低下した(図18)。GBR処置では、ビヒクル処置群及びブプロピオン処置群と比較して、HOMA−IR値が顕著に低下した(図19)。
【0099】
例12
内因性ドパミンを減らすことにより代謝障害を改善するためのD2受容体作動薬効果の影響を回避する試みにおいて、GBR(選択的ドパミン再取込み阻害薬)をブロモクリプチン(中枢でのノルエピネフリンニューロンの活動を低下させることができるドパミンD2受容体作動薬)に加える効果を、高脂肪食を20週間与えてから、ビヒクル、ブロモクリプチン(BC)(5mg/kg)、GBR12909(5mg/kg)又はブロモクリプチン(5mg/kg)+GBR12909(5mg/kg)のいずれかで処置したマウスにおいて試験した。BC/GBR群は、血糖値(即ち、高血糖症及び糖尿病)の低下を呈した唯一の群であり、これにより、これらの化合物の明らかな相乗効果が示唆された。BC/GBR群は、インスリン抵抗性の最大の低下も呈した。インスリン抵抗性に対するBCの効果は対照と顕著な差がなかったので、インスリン抵抗性に対するBC/GBRの効果は、併用した個々の処置と比較して、それらを足した効果を超えた。また、中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動の上昇及び中枢でのノルエピネフリンニューロンの活動の低下を同時に実現することにより、代謝障害の相乗的な低減がもたらされる。BC/GBR処置群のみが血糖値を低下させ、その効果は、同様に、BC群又はGBR群におけるよりも顕著に大きかった(図20)。血漿インスリンの最大の低下は、BC/GBR処置群において観察された。BC単独では、血漿インスリン値に効果を及ぼさなかった(図21)。HOMA−IRの最大の顕著な低下は、BC/GBR処置群において観察された。BC単独では、HOMA−IRに顕著な効果を及ぼさなかった(図22)。
【0100】
例13
内因性ドパミンを減らすことにより代謝障害を改善するためにD2受容体作動薬効果の影響を回避する試みにおいて、AJ76(選択的ドパミン自己受容体拮抗薬)をブロモクリプチン(中枢でのノルエピネフリンニューロンの活動を低下させることができるドパミンD2受容体作動薬)に加える効果を、高脂肪食を20週間与えてから、ビヒクル、ブロモクリプチン(BC)(10mg/kg)、AJ76(10mg/kg)、(BC)(10mg/kg)+AJ76(10mg/kg)又はビヒクルのいずれかで処置したマウスにおいて試験した。ビヒクル対照と比較して、BC/AJ76群のみが、血漿血糖値(即ち、高血糖症及び糖尿病)の顕著な低下を呈し、これにより、この2つの化合物が血糖コントロール(即ち糖尿病)に及ぼす明らかな相乗効果が実証された。BC/AJ76処置のみが、対照と比較して、血糖の顕著な低下をもたらす結果となった。同様に、この群における血糖の低下は、AJ76群又はBC群いずれかにおけるよりも大きかった(図23)。
【0101】
例14
非ドパミンD2受容体作動薬を用いた場合の、中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動の上昇及び中枢でのノルエピネフリンニューロンの活動の低下の影響に時間帯が及ぼす効果を、高脂肪食を与えられることにより糖尿病にさせられたマウスにおいて調査した。1日12時間の光周期で維持し、高脂肪食を20週間与えたマウスを異なる群に分け、この食餌で維持しながら、照明開始時(午前)又は消灯時にGBR(10mg/kg)+FA(10mg/kg)で、又はビヒクルで、14日間処置してから、血糖値及びグリセロール値に対する効果について分析した。ビヒクル対照群及び午前処置群と比較して、午後処置群は、血漿血糖値の最大の低下を呈した(即ち、高血糖症及び糖尿病の低減について)。事実、午前処置は、対照と比較して、血糖値の顕著な変化を一切もたらさなかった。これらの結果は、非ドパミンD2受容体作動薬を用いて中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動を高め中枢でのノルエピネフリンニューロンの活動を低下させることが代謝障害に及ぼす効果は時間帯依存性であることを実証するものである。午後処置では、血漿グリセロール値も低下した。GBR/FAの午後(PM)処置のみが、対照と比較して、このマウスにおいて高血糖症を低下させた(図24)。
【0102】
全体として、前述の14個の例は、様々な異なる手段及び化合物(それらはすべて、中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動レベルを高め中枢でのノルエピネフリンニューロンの活動レベルを低下させることの神経生理学的側面を共有する)は、結果として多種多様な代謝障害における著しい、多くの場合は相乗的な、改善をもたらすことを実証するものである。何らかの手段により中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動レベルを高め中枢でのノルエピネフリンニューロンの活動レベルを低下させることは、結果として、代謝障害及びその主要素におけるそうした低下をもたらすであろうと結論付けることができる。ドパミン/ノルエピネフリン再取込み阻害薬などの薬物は、こうした薬物のノルエピネフリンニューロンの活動強化側面を遮断する化合物と併用して、代謝障害に及ぼすその効果をさらに高めることができる。さらに、中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動レベルを高める化合物を、中枢でのノルエピネフリンニューロンの活動レベルを低下させる化合物と併用すると、こうした薬物の用量レベルを低下させて、代謝に及ぼす相互作用的な、増大した効果を生じさせることが可能になる。この結果、ひいては副作用の低減がもたらされる。前述の試験すべてにおいて、中枢神経系における重大な副作用は観察されなかったが、これらの化合物の用量を高めた場合も同様である可能性がある。したがって、無数の異なる化合物を採用して中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動レベルを高め中枢でのノルエピネフリンニューロンの活動レベルを低下させるという目的を達成できるこの処置戦略は、結果として、代謝障害を処置するための安全かつ有効な手段となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
代謝障害に罹患している患者を処置する方法であって、そのような処置を必要とする患者に治療上有効量のドパミン/ノルエピネフリンニューロン活動比率向上治療薬を投与するステップを含む方法。
【請求項2】
代謝障害に罹患している患者を処置する方法であって、そのような処置を必要とする患者に、前記患者の中枢神経系内又は中枢神経系の視床下部内でのノルアドレナリン作動性ニューロンに対するドパミン作動性ニューロンの活動比率を高めるドパミン/ノルエピネフリンニューロン活動比率向上治療薬を投与するステップを含む方法。
【請求項3】
代謝障害に罹患している患者を処置する方法であって、
メタボリックシンドローム、2型糖尿病、肥満又は糖尿病前症に罹患している患者に、(1)前記対象の中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動レベルの上昇を刺激する少なくとも1つの化合物と、(2)前記対象の中枢でのノルアドレナリン作動性ニューロンの活動レベルの低下を刺激する少なくとも1つの化合物とを含む医薬組成物を投与するステップ
を含む方法。
【請求項4】
代謝障害が、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、肥満、糖尿病前症、任意の代謝障害の主要素、インスリン抵抗性、高インスリン血症、心血管性疾患、血漿ノルエピネフリンの上昇、心血管関連の炎症性因子又は血管内皮機能障害の亢進因子の上昇、高リポタンパク質血症、アテローム性硬化症、過食症、高血糖症、高脂血症、高血圧症及び高血圧からなる群から選択される、請求項1、2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記代謝障害の主要素が、空腹時血糖異常、耐糖能障害、胴囲増加、内臓脂肪量増加、空腹時血漿血糖増加、空腹時血漿トリグリセリド増加、空腹時血漿遊離脂肪酸増加、空腹時血漿高密度リポタンパク質濃度低下、収縮期又は拡張期血圧上昇、食後血漿のトリグリセリド値又は遊離脂肪酸値の上昇、細胞酸化ストレス又はその血漿指標の上昇、循環血中の過凝固状態の増加、動脈硬化症、冠動脈疾患、末梢血管性疾患、うっ血性心不全、肝脂肪変性、腎不全などの腎疾患及び脳血管性疾患からなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記処置が、
a.心血管性疾患を伴う内皮機能障害若しくは酸化促進状態の処置、又は
b.高血圧症、血管の炎症促進状態、凝固促進状態及び酸化促進状態の同時処置、又は
c.高血圧症、血管の炎症促進状態、凝固促進状態若しくは酸化促進状態のうち少なくとも2つの同時処置、又は
d.高血圧症、血管の炎症促進状態、凝固促進状態若しくは酸化促進状態のうち少なくとも1つの処置
を含む、請求項1、2又は3に記載の方法。
【請求項7】
患者における少なくとも1つの非代謝性異常を処置する方法であって、前記非代謝性異常に罹患している患者に、前記患者における前記少なくとも1つの非代謝性異常の治療に有効な治療上有効量のドパミン/ノルエピネフリンニューロン活動比率向上治療薬を投与するステップを含む方法。
【請求項8】
前記非代謝性異常が、血管の炎症促進状態、凝固促進状態、酸化促進状態又は内皮機能障害からなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
患者における少なくとも1つの代謝異常及び少なくとも1つの非代謝性異常を処置する方法であって、前記代謝異常及び前記非代謝性異常に罹患している患者に、前記患者における前記少なくとも1つの代謝異常及び前記少なくとも1つの非代謝性異常の治療に有効な治療上有効量のドパミン/ノルエピネフリンニューロン活動比率向上治療薬を投与するステップを含む方法。
【請求項10】
前記非代謝性異常が、血管の炎症促進状態、凝固促進状態、酸化促進状態又は内皮機能障害からなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記代謝異常が、インスリン抵抗性、高グリセリド血症及び高血圧症からなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記患者がメタボリックシンドローム又は2型糖尿病にも罹患しており、前記方法がメタボリックシンドローム及び2型糖尿病も処置する、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
患者における少なくとも1つの血管性疾患を処置する方法であって、前記少なくとも1つの血管性疾患に罹患している患者に、前記患者における前記少なくとも1つの血管性疾患の治療に有効な治療上有効量のドパミン/ノルエピネフリンニューロン活動比率向上治療薬を投与するステップを含む方法。
【請求項14】
前記血管性疾患が、心血管性疾患、微小血管性疾患、大血管性疾患、末梢血管性疾患、脳血管性疾患、動脈硬化症、心筋梗塞、脳卒中、狭心症及びうっ血性心不全からなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記患者が、メタボリックシンドローム、内皮機能障害又は2型糖尿病のうち1つ又は複数にも罹患しており、前記方法が、メタボリックシンドローム及び2型糖尿病も治療する、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動レベルの上昇が、視床下部を神経支配するニューロン内及び視床下部自体内で生じる、請求項1、2、3、7、9又は13に記載の方法。
【請求項17】
中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動レベルの上昇を刺激する前記少なくとも1つの化合物が、ドパミン再取込み阻害薬化合物、ドパミンシナプス前輸送体阻害薬化合物、ドパミンシナプス前自己受容体拮抗薬、シナプス前ドパミン放出促進薬化合物、シナプス後ドパミン受容体作動薬化合物、ドパミン合成刺激薬化合物、ドパミン異化阻害薬化合物及びその組合せからなる群から選択される、請求項1、2、3、7、9又は13に記載の方法。
【請求項18】
中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動レベルの上昇を刺激する前記少なくとも1つの化合物が、GBR12935、BDNF、キンピロール、SKF38393、デプレニル、アポモルヒネ、プラミペキソール、GBR12909、メチルフェニデート、フェニルアミノテトラリン、キネロラン、タレキシポール及びその組合せからなる群から選択される、請求項1、2、3、7、9又は13に記載の方法。
【請求項19】
前記中枢でのノルアドレナリン作動性ニューロンの活動レベルの低下が、視床下部を神経支配する脳幹領域内及び視床下部自体内で生じる、請求項1、2、3、7、9又は13に記載の方法。
【請求項20】
中枢でのノルアドレナリン作動性ニューロンの活動レベルの低下を刺激する前記少なくとも1つの化合物が、シナプス後ノルアドレナリン作動性受容体の遮断化合物(拮抗薬)、ノルアドレナリン放出阻害薬、ノルアドレナリン合成阻害薬、ノルアドレナリンシナプス前再取込み活性化薬、並びにシナプス前及びシナプス中でのノルアドレナリン異化の活性化薬並びにその組合せからなる群から選択される、請求項1、2、3、7、9又は13に記載の方法。
【請求項21】
中枢でのノルアドレナリン作動性ニューロンの活動レベルの低下を刺激する前記少なくとも1つの化合物が、プラゾシン、プロプラノロール、クロニジン、フザリン酸、ドパミン、フェノキシベンザミン、フェントラミン、グアンファシン、パンテチン及びその組合せからなる群から選択される、請求項1、2、3、7、9又は13に記載の方法。
【請求項22】
前記医薬組成物中における、中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動レベルの上昇を刺激する前記少なくとも1つの化合物対中枢でのノルアドレナリン作動性ニューロンの活動レベルの低下を刺激する前記少なくとも1つの化合物の比率が、重量対重量(w:w)ベースで約500:1から1:500の範囲である、請求項1、2、3、7、9又は13に記載の方法。
【請求項23】
前記医薬組成物中における、中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動レベルの上昇を刺激する前記少なくとも1つの化合物対中枢でのノルアドレナリン作動性の活動レベルの低下を刺激する前記少なくとも1つの化合物の比率が、重量対重量(w:w)ベースで約100:1から1:100の範囲である、請求項1、2、3、7、9又は13に記載の方法。
【請求項24】
メタボリックシンドローム、2型糖尿病、肥満又は糖尿病前症に罹患している患者に、(1)中枢(中枢神経系)でのドパミン作動性ニューロンの活動レベルの上昇と、(2)中枢でのノルアドレナリン作動性ニューロンの活動レベルの低下とを同時に刺激する少なくとも1つの化合物を含む医薬組成物を投与するステップ
をさらに含む、請求項1、2、3、7、9又は13に記載の方法。
【請求項25】
前記医薬組成物が、
a.心血管性疾患を伴う内皮機能障害若しくは酸化促進状態を、又は
b.高血圧症、血管の炎症促進状態、凝固促進状態及び酸化促進状態を同時に、又は
c.高血圧症、血管の炎症促進状態、凝固促進状態若しくは酸化促進状態のうち少なくとも2つを同時に、又は
d.高血圧症、血管の炎症促進状態、凝固促進状態若しくは酸化促進状態のうち少なくとも1つを
治療する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動レベルの上昇が、視床下部を神経支配するニューロン内及び視床下部自体内で生じる、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
中枢でのノルアドレナリン作動性ニューロンの活動レベルの低下が、視床下部を神経支配する脳幹領域内及び視床下部自体内で生じる、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
前記化合物が、カテコールアミン修飾剤、ヒスタミン受容体1作動薬及びその組合せからなる群から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
治療上有効量のドパミン/ノルエピネフリンニューロン活動比率向上治療薬が、1日の0400時から1200時の区間中にヒト対象に投与される、請求項1、2、3、7、9又は13に記載の方法。
【請求項30】
治療上有効量のドパミン/ノルエピネフリンニューロン活動比率向上治療薬が、1日の0400時から1200時の区間中に、中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動のピークをもたらすようにヒト対象に投与される、請求項1、2、3、7、9又は13に記載の方法。
【請求項31】
中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動の上昇を刺激する前記少なくとも1つの化合物が、ノルアドレナリン作動性ニューロンの活動を低下させる1つ又は複数の化合物と併せて利用される混合型のドパミン/ノルアドレナリンニューロンの再取込み阻害薬又は混合型のドパミン/ノルアドレナリン放出促進薬である、請求項1、2、3、7、9又は13に記載の方法。
【請求項32】
前記混合型のドパミン/ノルアドレナリンニューロンの再取込み阻害薬又は混合型のドパミン/ノルアドレナリン放出促進薬化合物が、ブプロピオン、マジンドール、アンフェタミン、メチルフェニデート、ノミフェンシン及びテソフェンシンのリストのものである、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
ノルアドレナリン作動性ニューロンの活動を低下させる前記1つ又は複数の化合物がドパミンD2受容体作動薬である、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記ドパミン受容体作動薬が麦角関連化合物である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記麦角関連化合物が、ブロモクリプチン、リスリド又はテルグリドである、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
ノルアドレナリン作動性ニューロンの活動を低下させる前記1つ又は複数の化合物が、シナプス後ノルアドレナリン作動性受容体の遮断化合物(拮抗薬)、ノルアドレナリン放出阻害薬、ノルアドレナリン合成阻害薬、シナプス前のノルアドレナリン再取込み活性化薬、並びに、シナプス前及びシナプス中でのノルアドレナリン異化活性化薬並びにその組合せからなる群から選択される、請求項31に記載の方法。
【請求項37】
麦角関連のドパミン受容体作動薬化合物が、ドパミン作動性ニューロンの活動を高める1つ又は複数の化合物、及び/又はノルアドレナリン作動性ニューロンの活動を低下させる1つ又は複数の化合物のいずれかと併用される、請求項1、2、3、7、9又は13に記載の方法。
【請求項38】
前記ドパミン異化阻害薬化合物が、ドパミンモノオキシゲナーゼ阻害薬である、請求項17に記載の方法。
【請求項39】
メタボリックシンドローム、2型糖尿病、肥満又は糖尿病前症の治療に有効な医薬組成物であって、
(1)少なくとも1つの中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動活性化薬と、
(2)少なくとも1つの中枢でのノルアドレナリン作動性ニューロンの活動阻害薬と、
(3)薬学上許容される担体と
を含む組成物。
【請求項40】
前記少なくとも1つの中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動活性化薬が、GBR12935、BDNF、キンピロール、SKF38393、デプレニル、アポモルヒネ、プラミペキソール、GBR12909、メチルフェニデート、フェニルアミノテトラリン及びその組合せからなる群から選択される、請求項39に記載の医薬組成物。
【請求項41】
前記少なくとも1つの中枢でのノルアドレナリン作動性ニューロンの活動阻害薬が、プラゾシン、プロプラノロール、クロニジン、フザリン酸、ドパミン、フェノキシベンザミン、フェントラミン、グアンファシン及びその組合せからなる群から選択される、請求項39に記載の医薬組成物。
【請求項42】
前記少なくとも1つの中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動活性化薬対前記少なくとも1つの中枢でのノルアドレナリン作動性ニューロンの活動阻害薬の比率が、重量対重量(w:w)ベースで約500:1から1:500の範囲である、請求項39に記載の医薬組成物。
【請求項43】
前記少なくとも1つの中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動活性化薬対前記少なくとも1つの中枢でのノルアドレナリン作動性ニューロンの活動阻害薬の比率が、重量対重量(w:w)ベースで約100:1から1:100の範囲である、請求項39に記載の医薬組成物。
【請求項44】
メタボリックシンドローム、2型糖尿病、肥満又は糖尿病前症の治療に有効な医薬組成物であって、
(1)中枢でのドパミン作動性ニューロンの活動レベルの上昇と、(2)中枢でのノルアドレナリン作動性ニューロンの活動レベルの低下とを同時に刺激する、カテコールアミン修飾剤からなる群から選択される少なくとも1つの化合物と、
薬学上許容される担体と
を含む組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate


【公表番号】特表2010−529022(P2010−529022A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−510366(P2010−510366)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際出願番号】PCT/US2008/006899
【国際公開番号】WO2008/150480
【国際公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(507272935)ヴェロサイエンス・エルエルシー (2)
【Fターム(参考)】