メタボリックシンドロームの処置のためのホエーパーミエートの使用
【課題】メタボリックシンドロームまたは2型糖尿病の症状の処置に用いる食品用および医薬品用の組成物の提供。
【解決手段】哺乳動物においてメタボリックシンドローム、2型糖尿病および二次疾患の症状の予防または治療に用いる医薬品組成物を調製するための、ホエーパーミエート、好ましくはスイートホエーパーミエート、より好ましくは加水分解または部分加水分解し、かつ乳糖を減らしたスイートホエーパーミエート。また、その経口投与剤。
【解決手段】哺乳動物においてメタボリックシンドローム、2型糖尿病および二次疾患の症状の予防または治療に用いる医薬品組成物を調製するための、ホエーパーミエート、好ましくはスイートホエーパーミエート、より好ましくは加水分解または部分加水分解し、かつ乳糖を減らしたスイートホエーパーミエート。また、その経口投与剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタボリックシンドロームまたは2型糖尿病の処置に関する。さらに、メタボリックシンドロームまたは2型糖尿病の症状の処置に用いる食品用および医薬品用の組成物を調製するための、ホエーパーミエートの使用を開示する。
【0002】
先行技術
WHO基準によれば、先進国の全男性のうち63%および全女性のうち55%が体重過大である。この憂慮すべき現象の原因は、日々のエネルギー消費がいっそう減少している状態での炭水化物および脂肪によるカロリー過剰摂取である。1日のエネルギーバランスの差がごくわずかであっても、長年にわたれば体重に大きな累積効果を及ぼす。カロリー消費より1日当たり0.3%高いカロリーを摂取すると、25〜55歳の米国人の場合、9.1kgの体重増加となる。体重過大の個体は、しばしばメタボリックシンドロームを発症する(Reaven GM, Curr. Opin. Lipidol., 1997, 8(1), p.23-27)。
【0003】
”メタボリックシンドローム”という概念の使用に関して、医師は通常はいわゆる”死の四重奏”に言及する;これは体重過大(肥満症)、高血圧症、インスリン濃度上昇および脂質代謝障害からなる。技術文献においてメタボリックシンドロームは、第1初期症候群または”前糖尿病”とも呼ばれる(Pschyrembel, Klinisches Woerterbuch, 第257版 (1994), p.321)。
【0004】
”シンドローム(症候群)”という概念は、複合症状、すなわち大部分は一貫性がなく、または病因や病原の不明な特定の臨床像を特徴とする、一群の疾病徴候(症状)であると専門家は理解している。
【0005】
メタボリックシンドロームがさらに悪化すると、しばしば2型糖尿病が発現する。その最も顕著な特徴は、血糖の増加である。さらに、この疾患は二次疾患、たとえば動脈硬化症のリスク増大を促進する。糖尿病における病理変化により起きる他の健康リスクは、眼病、心臓疾患および血管疾患、発作、心臓梗塞、腎疾患などである。
【0006】
この数十年、2型糖尿病の発現率がかなり上昇した。ドイツ統計局は、現在ドイツで約400万人が罹患していると推定する。しかし他の調査はこれよりかなり高い数値を前提としている。ドイツ糖尿病学会の推定によれば、2006年には10人に1人のドイツ住民が2型糖尿病に罹患するであろう。体重過大の糖尿病患者では、普通は血中脂質濃度(コレステロール、トリグリセリド)および血圧も高い。
【0007】
1型糖尿病と異なり、2型糖尿病ではインスリンが実際には産生される。しかし、これを身体がもはや適正に利用できない。インスリンは膵臓で形成され、食物由来のグルコースが細胞へ到達するようにする。食物により身体にグルコースが供給され、血糖値が上昇すると、グルコースを細胞へ輸送するために血中へ排出されるインスリンが増加し、これにより血糖値は再び低下する。身体がインスリンに対して適正に反応しない場合、細胞はインスリン抵抗性となる。Roche Lexikon Medizin, 第4版, Urban & Fisher出版社, 1999によれば、インスリン抵抗性とはインスリンの療法効果が著しく低下し、または効果が無い状態と理解される。インスリン抵抗性の発症については3つの説明がある。第1に、IgG抗体がインスリンの生物学的有効性を抑制し、これにより要求量が1日100IU(国際単位)より高くまで増加する可能性がある。第2にインスリンの酵素分解が増大する可能性、あるいは第3にインスリン受容体へのインスリンの結合が低下する可能性がある。その結果、もはや十分なエネルギーが細胞へ到達しなくなり、一方では血糖値は高いま
まとなる。その結果、膵臓は血糖値を低下させるためにさらに多量のインスリンを排出する。インスリンを絶えず過剰産生することにより、インスリンを産生する膵β細胞が消耗し、最終的にインスリン不足となる。
【0008】
現在、2型糖尿病は経口抗糖尿病薬により処置される場合が多い。これには下記のものが含まれる:
a)炭水化物の取込みを遅延させる医薬、たとえばα−グルコシダーゼ阻害薬;
b)ビグアニド類:糖吸収を遅延させ、かつ肝臓における糖新生を阻害する一群の物質。さらに、ビグアニド類は筋肉への糖の取込みを促進し、同時に食欲を抑制する;
c)グリタゾン類は、インスリンがまだ産生されている場合は細胞のインスリン感受性を改善し、これにより血糖値が効果的に低下する;
d)グリニド類は、特殊な機序で膵β細胞からの短期インスリン放出を刺激することにより、食後血糖値を制御する;
e)膵β細胞がインスリンを放出する血糖閾値を低下させるスルホニル尿素類。
【0009】
経口抗糖尿病薬のほかに、患者にインスリンを供給することが必要となる可能性がある。その場合、患者の要求条件に合わせた個別化形態の療法が施される。
【0010】
メタボリックシンドロームの処置は、本質的に患者が食事の変更と運動の増加により減量を達成することに基づく。ただし、血圧、血糖および血中脂質を低下させるために、しばしばさらに医薬が必要である。上記の処置形態により生じる直接的な支出および生産性損失による間接的な経費により米国で年間に生じる経費に関する推定値は、総計980億ドルに達し、増加する傾向にある。
【0011】
したがって、メタボリックシンドロームまたは2型糖尿病を処置する手段および方法を提供する必要がある。さらに、症状の悪化を抑制または遅延する手段、およびそれらを軽減または治癒する手段が必要である。特に、さらに2型糖尿病へ進行するのに対処するために、改善されたメタボリックシンドローム処置法が必要である。
【0012】
”予防”という概念は、以下において、症状または疾患の発現を阻止することであると解釈される。”治療”という概念は、以下において、疾患症状の改善、疾患進行の遅延、疾患の回復、または疾患症状の軽減のための、いずれかの形態の処置であると解釈される。
【0013】
添付の図面は、メタボリックシンドロームまたは糖尿病の症状に関連する各種パラメーターを判定するための、スイートホエーを用いた動物実験の結果を示す。
【0014】
発明の詳細な説明
メタボリックシンドロームおよび2型糖尿病のモデルとして認められた動物にホエーパーミエートを投与すると、予想外にグルコース不耐性が阻止され、インスリン抵抗性が阻止され、かつ血清中のトリグリセリド濃度が低下することが見いだされた。
【0015】
したがって本発明によれば、ホエーパーミエートを含む医薬組成物が提供される。この医薬組成物は、哺乳動物、特にヒトにおいて、メタボリックシンドロームもしくは2型糖尿病またはそれにより起きる二次疾患の高トリグリセリド血症、グルコース不耐性およびインスリン抵抗性を予防、治療または阻止するために用いられる。
【0016】
メタボリックシンドロームまたは糖尿病に起因する二次疾患の例は、血管疾患、冠動脈不全、動脈閉塞性疾患、心筋梗塞、黄色腫、腹部不快感、肝脾腫、膵炎、網膜脂血症、および/または発作である。
【0017】
ホエーは、乳汁からチーズを製造する際に得られる。本発明によれば、乳汁中にあるカゼインを沈殿させた後の牛乳、ヤギ乳、ヒツジ乳、バッファロー乳およびラクダ乳を、ホエーの採取に使用できる。ホエー採取の種類によって、カゼインをレンネットにより酵素沈殿させた後に乳清として生成するスイートホエーと、カゼインを酸沈殿により分離した後に得られる酸ホエーが区別される。スイートホエーと酸ホエーのpH境界は必ずしも明瞭に規定されず、一般に5.6〜5.9の領域の上下にある。本発明に関しては、スイートホエーを使用するのが好ましい。
【0018】
本発明により使用するホエーは、レンネットまたは酸により沈殿していない限り乳汁のすべての水溶性成分を含有する。具体的な態様においては、約4.9%の乳糖、0.8%のタンパク質、0.5%の無機質、0.2%の乳脂肪および0.2%の乳酸を含有するスイートホエーを使用する。
【0019】
限外濾過(メンブラン法、平均ポアサイズ:25〜100キロダルトン)により、ホエーからホエータンパク質を除去できる。この”脱タンパク”ホエーは約95%までが水からなり、噴霧乾燥によりさらに処理して粉末にすることができる。この粉末を、本明細書においてはホエーパーミエートと呼ぶ。本発明においては、スイートホエーから得たホエーパーミエートを使用するのが好ましい。それに平均的に含有される成分は、84.9%の乳糖、4.5%のタンパク質、0.1%の脂肪および7.5%の無機質である。残りは分離されなかった水である。これらの記載量は平均値であり、製造方法に応じて5〜10%(相対的に)変動する可能性がある。ホエーパーミエートは、そのままで、または乳糖を(部分)加水分解した後に使用できる。ホエーの好ましい投与剤形は、シロップ剤または散剤であるが、他の投与剤形も可能である。
【0020】
本発明によれば、加水分解したスイートホエーも部分加水分解したスイートホエーも使用される。
【0021】
本発明の他の態様においては、ホエーパーミエートを含む医薬組成物のマイクロカプセル封入が特に有利なことが証明された。マイクロカプセル封入は、特に特許公開明細書DE 198 54 749 A1およびDE 100 08 880 A1ならびに実用新案DE 296 23 285 U1の記載に従って実施できる。その際、化合物をたとえばアルギナートなどの多糖類からなる外被内に堅牢に閉じ込める。場合によっては非消化性である外被材料が化合物の放出を妨げて、これにより生物による栄養生理学的利用を不可能にすることがないように、消化性成分、たとえばデンプンを外被に添加することができる。こうして、可溶性の外被成分と不溶性の外被成分の適切な選択および/または組合わせにより、マイクロカプセル封入された医薬組成物が目的に合わせて消化管の多様な領域で放出されるように制御できる。腸管内での段階的放出、たとえば50〜80重量%、好ましくは60〜70重量%、特に62.5重量%を小腸で放出し、20〜50重量%、好ましくは30〜40重量%、特に62.5重量%を大腸で放出するのは、可能なタイプの、目的に合わせた放出である。封入された化合物がたとえば環境の影響から保護されることにより耐久性が延長することによって、さらに有利な効果を得ることができる。
【0022】
スイートホエーまたはスイートホエーパーミエートという概念の使用には、それから採取できる物質もすべて含まれる。これらはタンパク質、糖類およびその成分、ならびに無機質である。
【0023】
さらに、乳糖を部分的または完全に除去したスイートホエーパーミエートの使用が好ましい。本発明に関して、このスイートホエーパーミエートを、乳糖を減らしたスイートホエーパーミエートと呼ぶ。乳糖を減らしたスイートホエーパーミエートは、普通は約85
%の乳糖を含有するが、これはさらに利用するためにこれから採取できる。したがって、0.1〜80%、好ましくは1〜50%、より好ましくは5〜25%の乳糖を含有する、乳糖を減らしたスイートホエーパーミエートが残される。10〜20%の乳糖をなお含有する、乳糖を減らしたスイートホエーパーミエートが特に好ましい。
【0024】
本発明はさらに、後記の実施例にも示すように、下記の作用をもつ製剤を提供する:
−血清インスリン濃度の低下、
−グルコース不耐性の発現の阻止、
−インスリン抵抗性の阻止、
−膵島の体積の縮小、
−膵β細胞の体積の減少、
−膵管上皮におけるβ細胞の新生の阻止、
−高インスリン血症の発症の阻止、
−膵臓の炎症(膵炎)あるいは膵島および/またはβ細胞の選択的な炎症(インスリン炎)の阻止。
【0025】
他の目的は、2型糖尿病の予防および/または治療、特にこの疾患の進行の遅延、殊にその症状の改善のための、ホエーパーミエートの使用である。
【0026】
意外にも高インスリン症には形態的な相関性があることが本発明により見いだされた。これは、β細胞の体積が増大し、外分泌膵にβ細胞の小クラスターが出現し、膵管上皮にβ細胞が検出され(新生の指標)、β細胞分裂速度が増大することを意味する。これらの形態的な相関性は、この臓器において要求が増大し、これが、たとえば過剰の代謝可能なエネルギーを利用するために部分的には細胞数増加により補償されることを示唆する。
【0027】
さらに予想外に本発明によれば、ホエーパーミエートを投与するとβ細胞の体積増大が抑制されること、およびこの物質は膵島の体積を縮小することが見いだされた。したがって、本発明の医薬組成物および製剤をこの目的で投与することが好ましい。
【0028】
本発明によれば、ホエーパーミエートの使用により血中脂質濃度を低下させ、特にトリグリセリド濃度を低下させることが好ましい。
【0029】
さらに本発明によれば、ホエーパーミエートの単独使用または他の有効物質との併用により処置すると、意外にも血清インスリン濃度が部分的に有意に低下することが見いだされた。これらの有効物質は、α−グルコシダーゼ阻害薬、ビグアニド類、グリタゾン類、スルホニル尿素類、グリニド類またはインスリンである。ホエーパーミエートの使用、およびホエーパーミエートのほかにさらに他の有効物質を含有する製剤の使用も、本発明の範囲において提供される。ただし、他の有効物質はホエーパーミエートの作用に不利な影響を及ぼさないものである。
【0030】
他の好ましい態様において、メタボリックシンドロームまたは2型糖尿病の予防または治療のためのホエーパーミエートは、ウシ、ヤギ、ヒツジ、バッファロー、ラクダその他の泌乳動物の乳汁から得られる。
【0031】
特に好ましい態様は、ホエーパーミエートを含む本発明の組成物または製剤が保健食品の形であるものに関する。その場合も(部分)加水分解したスイートホエーパーミエートの使用が好ましい。
【0032】
他の好ましい態様においては、医薬的に許容できる適切な添加剤を含むダイエット食品および/または強化食品の製造にホエーパーミエートを使用する。添加剤の例は、当業者
に既知の着色剤、フレーバー強化剤、保存剤、結合剤または充填剤である。
【0033】
本発明によれば、前記物質を食品、たとえばダイエット食品および/または強化食品の製造にも使用でき、それによりこれらはメタボリックシンドロームまたは2型糖尿病進行を抑制し、および/またはこれらの適応症の症状を軽減もしくは治癒させる特性をもつ。そのような食品の例は、本発明組成物により強化された乳製品またはフルーツジュースであるが、他の食品も考慮できる。
【0034】
ホエーパーミエートを含む組成物または製剤によりメタボリックシンドロームまたは2型糖尿病の症状を治療および予防する際、用量は、適応症、処置される者の年齢、体重および性別に応じて、場合により個別に変更される。
【0035】
ダイエット食品および/または強化食品中における本発明によるホエーパーミエートを含む組成物または製剤の濃度は、選択した適切な添加剤および/またはキャリヤーに応じて変更でき、その際、特に最終製品の官能特性を考慮する。
【0036】
さらに本発明組成物は、メタボリックシンドロームまたは2型糖尿病の症状を予防または治療するための組合わせ製剤中に含まれてもよい。特に好ましくは、組合わせ製剤は本発明組成物のほかに下記の物質を1種類以上含む:α−グルコシダーゼ阻害薬、ビグアニド類、グリタゾン類、グリニド類、スルホニル尿素類。組合わせ製剤の投与も、患者の要求条件に合わせて個別に行うことができる。本発明によれば、これらの組合わせ製剤を個々に2回以上の個別投与により、または一緒に投与することができる。
【0037】
さらに、好ましくはメタボリックシンドロームの症状を軽減もしくは阻止し、2型糖尿病を治療し、およびその発症を阻止し、その進行を阻止し、メタボリックシンドロームもしくは糖尿病により起きる可能性のある二次疾患を阻止するのに用いる医薬の製造のための、本発明組成物の使用が特に好ましい。
【0038】
メタボリックシンドロームおよび2型糖尿病の症状を軽減/予防するための本発明の組合わせ製剤の使用は、特にヒトにおける使用に関するが、他の哺乳動物、たとえばイヌ、ネコ、ウマ、ヒツジ、ウシまたはブタなどの処置も権利保護範囲に含まれる。
【0039】
本発明の組成物および製剤は、哺乳動物、特にヒトにおいて、膵β細胞の成長、膵β細胞の増殖、β細胞および/もしくは膵島の体積の増大、または膵炎を治療/予防するために使用するのが特に好ましい。
【0040】
さらに本発明の組成物または製剤は、血清インスリン濃度を低下させるために使用するのが特に好ましい。
【0041】
さらに、本発明の組成物または製剤の投与により、グルコース不耐性の発現を抑制し、またはこれを軽減することが好ましい。
【0042】
さらに、本発明の組成物または製剤の投与により、早朝高血糖の亢進を遅延させることが好ましい。
【0043】
さらに、本発明の組成物または製剤の摂取により、血中脂質濃度を低下させ、特にトリグリセリドの濃度を低下させることが特に好ましいが、他の血中脂質に対する影響も本発明の権利保護範囲に含まれる。
【0044】
本発明によれば、ホエーパーミエートを含む医薬組成物または製剤には乳酸カルシウム
を添加しない。
【0045】
血清のトリグリセリド含量が高い場合(>160mg/100ml)、高トリグリセリド血症(高脂血症)と言う。この状態は、動脈疾患の発症および冠動脈性心疾患の発症に際して重要な役割をもつ可能性がある(Vega and Grundy, Adv. Exp. Med. 243, 311 (1989))。さらに、重篤な高トリグリセリド血症(>1,000mg/dl)はカイロミク
ロン血症と関連があり、これは急性膵炎を誘発する(参照:K.Soergel, 急性膵炎:Gastrointestinal Disease 91, 第3版(Sleisenger, M.H. and Fordtran, J.S.編);W.B. Saunders Company, ペンシルベニア州フィラデルフィア, 1983, p.1462-1485;およびBrown,
M.S. and Goldstein, J.L., 高リポタンパク血症の治療に用いる薬物:Goodman and Gillman's, The Pharmacological Basis of Therapeutics 34, 第7版(Macmillan Publishing Co., ニューヨーク, 1985, p.827-845))。カイロミクロンの急激な増加が膵炎を直接誘発し、これはトリグリセリドの減少により阻止できた(U.S. Department of Health and Human Services, NIH-刊行物No. 89-2925, p.74-77, 1989年1月, ”成人における高コ
レステロール血症の検出、評価および治療に関する専門家パネルの報告”)。さらに、冠動脈性心疾患患者における発作のリスクは血漿のトリグリセリド含量を低下させることにより減らせることが示された(D.Tanne, et al.; Circulation 2001, 104, 2892-2897)
。さらに、2型糖尿病患者の寿命は非糖尿病者と比較して1/3短縮する。これは、トリグリセリド濃度が高いことと直接的な関連があると思われる(Diabety Care; 2001-24, 1335-1341)。したがって、メタボリックシンドロームまたは2型糖尿病の症状の処置の一部として、高トリグリセリド血症患者の血漿トリグリセリドを減少させる措置も施すことが望ましい。
【0046】
本発明の組成物または製剤は、経口経路で投与することが特に好ましいが、他の投与の可能性、たとえば非経口、静脈内なども本発明の権利保護範囲に含まれる。
【0047】
特に好ましい態様においては、メタボリックシンドロームまたは2型糖尿病の症状を抑制し、あるいはそれらを軽減または治癒するために、本発明の組成物または製剤の成分を投与する。
【0048】
医薬製剤または保健食品中のホエーパーミエートの濃度は、保健食品および/または医薬製剤の全重量にに対して0.01〜99.99%、好ましくは0.1〜99.9%、より好ましくは1〜99%、特に好ましくは1〜80%、さらに好ましくは10〜80%、最も好ましくは10〜50%である。
【0049】
本発明の保健食品または本発明の医薬製剤は、1日1回または数回、たとえば朝、昼、夜に、食事と一緒、食前または食後に摂取または投与することができるが、他の投与計画も考慮できる。
【0050】
本発明を以下に実験によってより詳細に説明する。これらは本発明の範囲をさらに限定するものではない。
【0051】
実験の部
動物モデル/試験系
グルコース耐性の制限、脂質代謝の障害、心血管変化のリスクマーカーおよび炎症パラメーターに対する作用を調べるための実験動物として、Zuckerラットを用いた。
【0052】
Zuckerラットは、TheodoreおよびLois Zuckerの13系統における自発突然変異として、マサチュセッツ州ストーのLaboratory of Comparative Pathologyで産まれ(表現型fa=脂肪質)、これからいわゆる”肥満症”ないし”太った”
の表現型が得られた。両概念は、体重過大および脂肪過多のラットを表わす。
【0053】
Zuckerラットは早い時期に既に過食症が発現し、その結果、体重が急激に増加する(体重過大)。5〜6週齢で既に高トリグリセリド血症、高脂血症、インスリン抵抗性を発現し、これに伴ってグルコース不耐性および高インスリン血症が発症する。12週齢でグルコース耐性障害が顕性となり、高血糖症を発症し、これにより2型糖尿病類似の疾患像が顕性となる可能性がある。この動物モデルでは、2型糖尿病に伴って膵島が組織病理学的に変化する。さらに、この動物モデルにおいて心臓−循環系の変化も報告された。こうして、5〜7カ月齢の動物に血圧上昇が測定された(Yoshioka, Metabolism Vol. 42(1), 1993, p.75-80)。
【0054】
メタボリックシンドロームの克服にホエーパーミエートが及ぼす影響の試験を、いわゆるWOK.Wラットについて実施した。WOK.Wラットは、多遺伝子性障害を遺伝し、メタボリックシンドロームのほとんどすべての症状を発症する動物モデルであり、雄動物はこれらの症状をより強く発現する。WOK.Wラットの詳細な特性は、たとえば下記に記載されている:
【0055】
【数1】
【0056】
これらのモデル動物は、特にたとえば脂肪に富む給餌により疾患出現率を変化させうることが予備試験で示されたので、メタボリックシンドロームの研究に際して介入研究の形で外因性調節を行うのに適する。
【0057】
動物の飼育:
動物を半バリヤー条件下に12:12時間の明暗周期で(明は06:00〜18:00時)飼育した。飼料(RM標準飼料、Sniff、Soest、ドイツ)と飲水は常に摂取可能であった。
【0058】
【表1】
【0059】
物質の投与
酸性にした飲水に物質を溶解し(25g/l)、酸性にした無添加の飲水の代わりに動物に自由に摂取させた。対照群には、酸性にした飲水(pH:2.65)をそのまま与え
た(実験動物の飼育に際しては、滅菌のために水道水を塩酸で酸性にした)。摂水量を毎日モニターし、常に新鮮な飲水を調製した。
【0060】
分析法
・血糖および乳酸の濃度をグルコース分析器(Super GL Ambulance、Ruhrtal Labortechnik、ドイツ)により測定した;
・免疫反応性インスリン(IRI)の濃度の測定を、ラット−インスリン特異的ラジオイムノアッセイ(Linco Research, Inc.;米国)により行った;
・総コレステロール、HDL−コレステロール、LDL−コレステロールおよびトリグリセリドの測定を測光法により行った;
・C−反応性タンパク質を比濁法により測定した;
・白血球数の測定を血球計数法により行った。
【0061】
評価方法:
・グルコース投与前−10分から投与後120分までの時点の経口グルコース耐性試験(oral glucose tolerance test)oGTTにおける血糖曲線およびインスリン曲線の作
成。実験群についての平均値曲線を、各パラメーターにつき処理の各時点について作成した。生理的効果および処理効果を評価するために、血糖およびインスリンに関する試験プロトコルに対応する各パラメーターについて反応性過剰面積および絶対過剰面積を計算した(0〜120分のG−AUCおよびI−AUC;図4(a)および(b)、5(a)および(b)、6(a)および(b))。
【0062】
このために、サンプリング時点に応じた血糖およびインスリンの濃度のデータを記載した。反応性面積は下記に従って計算された:
【0063】
【数2】
【0064】
血糖濃度を一例として用いた計算の説明:
全実験期間120分、および実験計画に際して定めたサンプリング時点−10、0、10、20、30、40、60、90、120において、0〜120分の絶対面積を下記に従って計算した:
【0065】
【数3】
【0066】
・対比較:試験状況と対照状況の間に差が生じ、これが0と差があるかどうか(p<0.05)をt−検定により調べた;
・t−検定による平均値比較;
・”Verfahrensbibliothek: Versuchsplanung und -auswertung”, Volume 1, ベルリ
ン, 1978, Rasch D. et al., p.408に従った例外検査。
【0067】
実施方法/実験計画:
Zuckerラットを約14週齢で囲いに入れ、1週間の順応後に試験を開始した。15週齢で、まずグルコースおよび脂質代謝のパラメーター(特に血糖、血清インスリン、コレステロールおよびトリグリセリドの濃度)、グルコース耐性(経口グルコース耐性試験による)、ならびに炎症マーカー(白血球数およびC−反応性タンパク質)に関して動物の特性判定を行った。これに必要な血液試料を尾静脈から採取した。次いで、処理を開始した。血糖濃度、体重、白血球数および摂餌量の測定を、1週間間隔で連続的に行った。飲水の摂取量を毎日モニターした。処理の2および6週間後、グルコースおよび脂質代謝のパラメーターを再び測定し、グルコース耐性を判定した。
【0068】
グルコース耐性を判定するために、夜間断食した後、グルコース耐性試験を行った。その際、グルコース投与(胃管による)の10分前からグルコース投与(2g/kg)120分後までの期間、血糖(サンプリング時点:−10、0、10、20、30、40、60、90および120分)およびインスリン濃度(サンプリング時点:0、20、40、60、90および120分)測定のための血液試料を採取した。処理の開始前および6週間後に、血糖および乳酸の濃度の日周プロフィール(3時間間隔)を作成した。43日の定期観察期間の終了後、最終の経口グルコース耐性試験を実施した後も、処理62/63日目に最終処置するまで処理方式を維持した。麻酔薬過剰投与により動物を殺した。麻酔が起きた後、膵臓を摘出し、その後の組織学的検査のためにブアン液中に固定および保管した。
【0069】
試料の保管:
すべての血清試料を分析まで−20℃のディープフリーザー内に保存した。
【0070】
結果:
追跡試験
摂餌量および摂水量
・SMP処理した群の動物では摂水量がわずかに増加した(図1)が、1日のカロリー摂取量(図1a)はすべての群で同等であった。1日の摂餌量において、これらの群は有意差がなかった(図1)。処理42日目のエネルギー摂取量計算値は下記のとおりであった:
SMP群:87.6± 6.6 kcal/24時間
対照: 87.9±25.5 kcal/24時間
これらの群間の差は保証できなかった。
【0071】
体重増加
・処理群はその体重増加に差がなかった(図2)。
【0072】
血糖およびインスリンの曲線
・処理開始前、すなわち15週齢において、実験群の動物の血糖濃度(図2)、インスリン濃度(図3a)は同等であった。早朝血糖は、この動物モデルの加齢において予想されたとおり対照群では処理開始後に上昇し続けたが、SMP群ではこの上昇がほとんどない状態を維持した;
・SMP処理群のインスリン濃度(図3a)は、処理開始前の時点と比較して処理期間の経過に伴って低下した(n.s./有意ではない)。インスリン濃度は変化のないレベルを維持した(対照)。
【0073】
脂質代謝パラメーター
・非エステル化脂肪酸の濃度は、観察期間中、変化しないままであった。処理群間で差がなかった(図3a);
・コレステロール濃度は、SMP群と異なり対照群と比較して観察中に上昇した(n.s.、図3b);
・HDL−コレステロール濃度は、観察期間中、変化しないままであった(図3b)。処理開始前のみ、群間で差があったが、これは処理効果に関して有意ではなかった;
・対照群に観察されたLDL−コレステロール濃度上昇(図3c)は、SMP処理により阻止できなかったが、これは対照群と比較してわずかに低くなった(n.s.);
・SMP処理群では、トリグリセリド濃度低下の傾向を認めることができた(図3c)。
【0074】
炎症パラメーター
・炎症パラメーターであるC−反応性タンパク質(図3d)および白血球数は、観察期間中、療法によって変化しなかった。
【0075】
経口グルコース耐性試験の結果:
・経口グルコース耐性試験(oGTT)中の処理前の血糖およびインスリンの濃度曲線は同等であった(図4aおよび4b);
・3週間の処理後、血糖およびインスリンの曲線および過剰面積に関して、処理群間に有意差は検出されなかった(図5aおよび5b);
・6週間の処理後、GTTにおけるSMP群の血糖の上昇は明らかに少なく、120分の観察期間後には対照群と比較して有意に低いレベルにまで低下した(図6aおよび6b)。
【0076】
療法前および6週間の療法後のGTTの血糖曲線の分析(BG、mmol/l)、平均値±SD(*対照と比較してp<0.05):
【0077】
【表2】
【0078】
・GTTにおいてグルコース過剰面積(G−AUC)として測定した6週間処理後のグルコース耐性は、対照群と比較してSMP処理群では有意に改善された。G−AUCは対照群では観察期間中に増大したが、SMP処理群では処理開始前のものと同等であった。
【0079】
処理前および6週間処理後の反応性G−AUC 0〜120分(mmol×分/l)の評価、平均値±SD(対照と比較してp<0.05):
【0080】
【表3】
【0081】
【表4】
【0082】
1:+++=著しく強く発現、2:++=強く発現、3:+=存在する
上の表により、WOK.Wラットがヒトのメタボリックシンドロームについてきわめて好適な動物モデルである理由が明らかである。
【0083】
膵臓の形態測定
被験膵臓を16週齢、すなわち12週間の処理期間後に摘出した。膵臓をパラフィンに包埋し、切片厚さ7μmに切断した。10枚目毎の切片をヘマトキシリン−エオシンで染色し(膵島の体積を判定して炎症を評価するため)、または抗インスリン抗体と共にインキュベートした(β細胞の体積を測定するため)。炎症(インスリン炎)を評価するために、15の膵島を集計した。免疫組織化学的反応をAPAAPで視覚化した(赤色に着色)。外分泌細胞、結合組織および血管と比較した、膵島細胞およびインスリン形成β細胞の分布の形態測定評価を、標本に乗せたネットの40,000点の集計により行った。それぞれにつき各群から4匹の動物を用いた。
【0084】
【表5】
【0085】
WOK.Wラットの膵臓形態測定は、高インスリン血症に対する形態的相関性があることを示した(上の表5を参照)。これは、β細胞の体積が増大し、外分泌膵にβ細胞の小クラスターが出現し、膵管上皮にβ細胞が検出され(新生の指標)、β細胞分裂回数が増加することに現われる;これらは高インスリン血症発症の原因である。検出された形態は、この臓器に対する要求が増大し(たとえば代謝エネルギーの増加により)、この一部が細胞増殖により補償されたことを示唆する。
【0086】
飲水にホエーパーミエートを適用することにより、12週間の処理期間後にはβ細胞の体積増加が阻止され、または有意に低下している。
【0087】
ホエーは高エネルギーであるが、いずれの被験動物にも、膵島および/またはβ細胞の選択的炎症(インスリン炎)の出現はみられなかった。
【0088】
WOK.Wラットにおける血清インスリン濃度の検査
処理ラットにおける血清インスリン濃度の検査は、処理期間中、対照ラットと比較して血清インスリン濃度の上昇または上昇低下を示さなかった。
【0089】
【表6】
【0090】
・観察期間中、SMP処理によりグルコース不耐性の増大は阻止されている;
・経口グルコース耐性試験に際してのインスリン放出(インスリン過剰面積I−AUCとして測定)は、SMP処理動物群において6週間の処理後、最高であった;
・oGTTにおけるインスリン放出は、6週間のSMP処理後、最大に刺激された。しかし、oGTTにおいて放出されたインスリンはSMP群でのみ血糖を有意に減少させた。
【0091】
【表7】
【0092】
SMP群からの動物の膵β細胞は、6週間の処理後にグルコース刺激に対して最も良く反応する状態になった。さらに、これらの動物はインスリン抵抗性がより低かった。
【0093】
血糖および乳酸の日周プロフィール:
・血糖の日周プロフィールは、処理前および6週間の処理後、処理群間で有意差を示さない(図7および8)が、SMPで6週間処理した群の血糖濃度は日周曲線が最も低く低
下した;
・乳酸の日周プロフィールは、群間で幾つかの時点において有意差を示す。しかし、いずれの時点でも乳酸血症は除外できた(図7および8)。処理開始前の乳酸濃度が比較的高いのはストレス反応と解釈される。採血に対する動物の順応効果がこの時点ではまだ現われていない可能性があるからである。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】スイートホエー(SMP)処理動物およびその対照における6週間の観察期間中の摂餌量および摂水量を示す。
【図2】スイートホエー(SMP)処理動物およびその対照における観察期間中の体重増加および血糖の曲線を示す。
【図3a】SMP処理または非処理の開始前、3週間後および6週間後の実験動物の血中の非エステル化脂肪酸(NEFA;non-esterified-fatty-acid)およびインスリンの濃度を表わす。
【図3b】SMP処理または非処理の開始前、3週間後および6週間後の実験動物の血中の総コレステロールおよびHDLコレステロールの濃度を表わす。
【図3c】SMP処理または非処理の開始前、3週間後および6週間後の実験動物の血中のLDLコレステロールおよびトリグリセリドの濃度を表わす。
【図3d】SMP処理または非処理の開始前、3週間後および6週間後の実験動物の血中のC−反応性タンパク質の濃度を表わす。
【図3e】SMP処理または非処理における6週間の処理期間中の実験動物の白血球数を表わす。
【図4a】経口グルコース耐性試験(oGTT)における処理開始前の血糖曲線およびグルコース過剰面積を表わす。
【図4b】oGTTにおける処理開始前の血清インスリン濃度曲線およびインスリン過剰面積を表わす。
【図5a】oGTTにおける3週間処理後の血糖曲線およびグルコース過剰面積を表わす。
【図5b】oGTTにおける3週間処理後の血清インスリン濃度曲線およびグルコース過剰面積を表わす。
【図6a】oGTTにおける6週間処理後の血糖曲線およびグルコース過剰面積を表わす。
【図6b】oGTTにおける6週間処理後の血清インスリン濃度曲線およびグルコース過剰面積を表わす。
【図7】処理開始前の血糖および乳酸の日周プロフィールを表わす。
【図8】6週間処理後の血糖および乳酸の日周プロフィールを表わす。
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタボリックシンドロームまたは2型糖尿病の処置に関する。さらに、メタボリックシンドロームまたは2型糖尿病の症状の処置に用いる食品用および医薬品用の組成物を調製するための、ホエーパーミエートの使用を開示する。
【0002】
先行技術
WHO基準によれば、先進国の全男性のうち63%および全女性のうち55%が体重過大である。この憂慮すべき現象の原因は、日々のエネルギー消費がいっそう減少している状態での炭水化物および脂肪によるカロリー過剰摂取である。1日のエネルギーバランスの差がごくわずかであっても、長年にわたれば体重に大きな累積効果を及ぼす。カロリー消費より1日当たり0.3%高いカロリーを摂取すると、25〜55歳の米国人の場合、9.1kgの体重増加となる。体重過大の個体は、しばしばメタボリックシンドロームを発症する(Reaven GM, Curr. Opin. Lipidol., 1997, 8(1), p.23-27)。
【0003】
”メタボリックシンドローム”という概念の使用に関して、医師は通常はいわゆる”死の四重奏”に言及する;これは体重過大(肥満症)、高血圧症、インスリン濃度上昇および脂質代謝障害からなる。技術文献においてメタボリックシンドロームは、第1初期症候群または”前糖尿病”とも呼ばれる(Pschyrembel, Klinisches Woerterbuch, 第257版 (1994), p.321)。
【0004】
”シンドローム(症候群)”という概念は、複合症状、すなわち大部分は一貫性がなく、または病因や病原の不明な特定の臨床像を特徴とする、一群の疾病徴候(症状)であると専門家は理解している。
【0005】
メタボリックシンドロームがさらに悪化すると、しばしば2型糖尿病が発現する。その最も顕著な特徴は、血糖の増加である。さらに、この疾患は二次疾患、たとえば動脈硬化症のリスク増大を促進する。糖尿病における病理変化により起きる他の健康リスクは、眼病、心臓疾患および血管疾患、発作、心臓梗塞、腎疾患などである。
【0006】
この数十年、2型糖尿病の発現率がかなり上昇した。ドイツ統計局は、現在ドイツで約400万人が罹患していると推定する。しかし他の調査はこれよりかなり高い数値を前提としている。ドイツ糖尿病学会の推定によれば、2006年には10人に1人のドイツ住民が2型糖尿病に罹患するであろう。体重過大の糖尿病患者では、普通は血中脂質濃度(コレステロール、トリグリセリド)および血圧も高い。
【0007】
1型糖尿病と異なり、2型糖尿病ではインスリンが実際には産生される。しかし、これを身体がもはや適正に利用できない。インスリンは膵臓で形成され、食物由来のグルコースが細胞へ到達するようにする。食物により身体にグルコースが供給され、血糖値が上昇すると、グルコースを細胞へ輸送するために血中へ排出されるインスリンが増加し、これにより血糖値は再び低下する。身体がインスリンに対して適正に反応しない場合、細胞はインスリン抵抗性となる。Roche Lexikon Medizin, 第4版, Urban & Fisher出版社, 1999によれば、インスリン抵抗性とはインスリンの療法効果が著しく低下し、または効果が無い状態と理解される。インスリン抵抗性の発症については3つの説明がある。第1に、IgG抗体がインスリンの生物学的有効性を抑制し、これにより要求量が1日100IU(国際単位)より高くまで増加する可能性がある。第2にインスリンの酵素分解が増大する可能性、あるいは第3にインスリン受容体へのインスリンの結合が低下する可能性がある。その結果、もはや十分なエネルギーが細胞へ到達しなくなり、一方では血糖値は高いま
まとなる。その結果、膵臓は血糖値を低下させるためにさらに多量のインスリンを排出する。インスリンを絶えず過剰産生することにより、インスリンを産生する膵β細胞が消耗し、最終的にインスリン不足となる。
【0008】
現在、2型糖尿病は経口抗糖尿病薬により処置される場合が多い。これには下記のものが含まれる:
a)炭水化物の取込みを遅延させる医薬、たとえばα−グルコシダーゼ阻害薬;
b)ビグアニド類:糖吸収を遅延させ、かつ肝臓における糖新生を阻害する一群の物質。さらに、ビグアニド類は筋肉への糖の取込みを促進し、同時に食欲を抑制する;
c)グリタゾン類は、インスリンがまだ産生されている場合は細胞のインスリン感受性を改善し、これにより血糖値が効果的に低下する;
d)グリニド類は、特殊な機序で膵β細胞からの短期インスリン放出を刺激することにより、食後血糖値を制御する;
e)膵β細胞がインスリンを放出する血糖閾値を低下させるスルホニル尿素類。
【0009】
経口抗糖尿病薬のほかに、患者にインスリンを供給することが必要となる可能性がある。その場合、患者の要求条件に合わせた個別化形態の療法が施される。
【0010】
メタボリックシンドロームの処置は、本質的に患者が食事の変更と運動の増加により減量を達成することに基づく。ただし、血圧、血糖および血中脂質を低下させるために、しばしばさらに医薬が必要である。上記の処置形態により生じる直接的な支出および生産性損失による間接的な経費により米国で年間に生じる経費に関する推定値は、総計980億ドルに達し、増加する傾向にある。
【0011】
したがって、メタボリックシンドロームまたは2型糖尿病を処置する手段および方法を提供する必要がある。さらに、症状の悪化を抑制または遅延する手段、およびそれらを軽減または治癒する手段が必要である。特に、さらに2型糖尿病へ進行するのに対処するために、改善されたメタボリックシンドローム処置法が必要である。
【0012】
”予防”という概念は、以下において、症状または疾患の発現を阻止することであると解釈される。”治療”という概念は、以下において、疾患症状の改善、疾患進行の遅延、疾患の回復、または疾患症状の軽減のための、いずれかの形態の処置であると解釈される。
【0013】
添付の図面は、メタボリックシンドロームまたは糖尿病の症状に関連する各種パラメーターを判定するための、スイートホエーを用いた動物実験の結果を示す。
【0014】
発明の詳細な説明
メタボリックシンドロームおよび2型糖尿病のモデルとして認められた動物にホエーパーミエートを投与すると、予想外にグルコース不耐性が阻止され、インスリン抵抗性が阻止され、かつ血清中のトリグリセリド濃度が低下することが見いだされた。
【0015】
したがって本発明によれば、ホエーパーミエートを含む医薬組成物が提供される。この医薬組成物は、哺乳動物、特にヒトにおいて、メタボリックシンドロームもしくは2型糖尿病またはそれにより起きる二次疾患の高トリグリセリド血症、グルコース不耐性およびインスリン抵抗性を予防、治療または阻止するために用いられる。
【0016】
メタボリックシンドロームまたは糖尿病に起因する二次疾患の例は、血管疾患、冠動脈不全、動脈閉塞性疾患、心筋梗塞、黄色腫、腹部不快感、肝脾腫、膵炎、網膜脂血症、および/または発作である。
【0017】
ホエーは、乳汁からチーズを製造する際に得られる。本発明によれば、乳汁中にあるカゼインを沈殿させた後の牛乳、ヤギ乳、ヒツジ乳、バッファロー乳およびラクダ乳を、ホエーの採取に使用できる。ホエー採取の種類によって、カゼインをレンネットにより酵素沈殿させた後に乳清として生成するスイートホエーと、カゼインを酸沈殿により分離した後に得られる酸ホエーが区別される。スイートホエーと酸ホエーのpH境界は必ずしも明瞭に規定されず、一般に5.6〜5.9の領域の上下にある。本発明に関しては、スイートホエーを使用するのが好ましい。
【0018】
本発明により使用するホエーは、レンネットまたは酸により沈殿していない限り乳汁のすべての水溶性成分を含有する。具体的な態様においては、約4.9%の乳糖、0.8%のタンパク質、0.5%の無機質、0.2%の乳脂肪および0.2%の乳酸を含有するスイートホエーを使用する。
【0019】
限外濾過(メンブラン法、平均ポアサイズ:25〜100キロダルトン)により、ホエーからホエータンパク質を除去できる。この”脱タンパク”ホエーは約95%までが水からなり、噴霧乾燥によりさらに処理して粉末にすることができる。この粉末を、本明細書においてはホエーパーミエートと呼ぶ。本発明においては、スイートホエーから得たホエーパーミエートを使用するのが好ましい。それに平均的に含有される成分は、84.9%の乳糖、4.5%のタンパク質、0.1%の脂肪および7.5%の無機質である。残りは分離されなかった水である。これらの記載量は平均値であり、製造方法に応じて5〜10%(相対的に)変動する可能性がある。ホエーパーミエートは、そのままで、または乳糖を(部分)加水分解した後に使用できる。ホエーの好ましい投与剤形は、シロップ剤または散剤であるが、他の投与剤形も可能である。
【0020】
本発明によれば、加水分解したスイートホエーも部分加水分解したスイートホエーも使用される。
【0021】
本発明の他の態様においては、ホエーパーミエートを含む医薬組成物のマイクロカプセル封入が特に有利なことが証明された。マイクロカプセル封入は、特に特許公開明細書DE 198 54 749 A1およびDE 100 08 880 A1ならびに実用新案DE 296 23 285 U1の記載に従って実施できる。その際、化合物をたとえばアルギナートなどの多糖類からなる外被内に堅牢に閉じ込める。場合によっては非消化性である外被材料が化合物の放出を妨げて、これにより生物による栄養生理学的利用を不可能にすることがないように、消化性成分、たとえばデンプンを外被に添加することができる。こうして、可溶性の外被成分と不溶性の外被成分の適切な選択および/または組合わせにより、マイクロカプセル封入された医薬組成物が目的に合わせて消化管の多様な領域で放出されるように制御できる。腸管内での段階的放出、たとえば50〜80重量%、好ましくは60〜70重量%、特に62.5重量%を小腸で放出し、20〜50重量%、好ましくは30〜40重量%、特に62.5重量%を大腸で放出するのは、可能なタイプの、目的に合わせた放出である。封入された化合物がたとえば環境の影響から保護されることにより耐久性が延長することによって、さらに有利な効果を得ることができる。
【0022】
スイートホエーまたはスイートホエーパーミエートという概念の使用には、それから採取できる物質もすべて含まれる。これらはタンパク質、糖類およびその成分、ならびに無機質である。
【0023】
さらに、乳糖を部分的または完全に除去したスイートホエーパーミエートの使用が好ましい。本発明に関して、このスイートホエーパーミエートを、乳糖を減らしたスイートホエーパーミエートと呼ぶ。乳糖を減らしたスイートホエーパーミエートは、普通は約85
%の乳糖を含有するが、これはさらに利用するためにこれから採取できる。したがって、0.1〜80%、好ましくは1〜50%、より好ましくは5〜25%の乳糖を含有する、乳糖を減らしたスイートホエーパーミエートが残される。10〜20%の乳糖をなお含有する、乳糖を減らしたスイートホエーパーミエートが特に好ましい。
【0024】
本発明はさらに、後記の実施例にも示すように、下記の作用をもつ製剤を提供する:
−血清インスリン濃度の低下、
−グルコース不耐性の発現の阻止、
−インスリン抵抗性の阻止、
−膵島の体積の縮小、
−膵β細胞の体積の減少、
−膵管上皮におけるβ細胞の新生の阻止、
−高インスリン血症の発症の阻止、
−膵臓の炎症(膵炎)あるいは膵島および/またはβ細胞の選択的な炎症(インスリン炎)の阻止。
【0025】
他の目的は、2型糖尿病の予防および/または治療、特にこの疾患の進行の遅延、殊にその症状の改善のための、ホエーパーミエートの使用である。
【0026】
意外にも高インスリン症には形態的な相関性があることが本発明により見いだされた。これは、β細胞の体積が増大し、外分泌膵にβ細胞の小クラスターが出現し、膵管上皮にβ細胞が検出され(新生の指標)、β細胞分裂速度が増大することを意味する。これらの形態的な相関性は、この臓器において要求が増大し、これが、たとえば過剰の代謝可能なエネルギーを利用するために部分的には細胞数増加により補償されることを示唆する。
【0027】
さらに予想外に本発明によれば、ホエーパーミエートを投与するとβ細胞の体積増大が抑制されること、およびこの物質は膵島の体積を縮小することが見いだされた。したがって、本発明の医薬組成物および製剤をこの目的で投与することが好ましい。
【0028】
本発明によれば、ホエーパーミエートの使用により血中脂質濃度を低下させ、特にトリグリセリド濃度を低下させることが好ましい。
【0029】
さらに本発明によれば、ホエーパーミエートの単独使用または他の有効物質との併用により処置すると、意外にも血清インスリン濃度が部分的に有意に低下することが見いだされた。これらの有効物質は、α−グルコシダーゼ阻害薬、ビグアニド類、グリタゾン類、スルホニル尿素類、グリニド類またはインスリンである。ホエーパーミエートの使用、およびホエーパーミエートのほかにさらに他の有効物質を含有する製剤の使用も、本発明の範囲において提供される。ただし、他の有効物質はホエーパーミエートの作用に不利な影響を及ぼさないものである。
【0030】
他の好ましい態様において、メタボリックシンドロームまたは2型糖尿病の予防または治療のためのホエーパーミエートは、ウシ、ヤギ、ヒツジ、バッファロー、ラクダその他の泌乳動物の乳汁から得られる。
【0031】
特に好ましい態様は、ホエーパーミエートを含む本発明の組成物または製剤が保健食品の形であるものに関する。その場合も(部分)加水分解したスイートホエーパーミエートの使用が好ましい。
【0032】
他の好ましい態様においては、医薬的に許容できる適切な添加剤を含むダイエット食品および/または強化食品の製造にホエーパーミエートを使用する。添加剤の例は、当業者
に既知の着色剤、フレーバー強化剤、保存剤、結合剤または充填剤である。
【0033】
本発明によれば、前記物質を食品、たとえばダイエット食品および/または強化食品の製造にも使用でき、それによりこれらはメタボリックシンドロームまたは2型糖尿病進行を抑制し、および/またはこれらの適応症の症状を軽減もしくは治癒させる特性をもつ。そのような食品の例は、本発明組成物により強化された乳製品またはフルーツジュースであるが、他の食品も考慮できる。
【0034】
ホエーパーミエートを含む組成物または製剤によりメタボリックシンドロームまたは2型糖尿病の症状を治療および予防する際、用量は、適応症、処置される者の年齢、体重および性別に応じて、場合により個別に変更される。
【0035】
ダイエット食品および/または強化食品中における本発明によるホエーパーミエートを含む組成物または製剤の濃度は、選択した適切な添加剤および/またはキャリヤーに応じて変更でき、その際、特に最終製品の官能特性を考慮する。
【0036】
さらに本発明組成物は、メタボリックシンドロームまたは2型糖尿病の症状を予防または治療するための組合わせ製剤中に含まれてもよい。特に好ましくは、組合わせ製剤は本発明組成物のほかに下記の物質を1種類以上含む:α−グルコシダーゼ阻害薬、ビグアニド類、グリタゾン類、グリニド類、スルホニル尿素類。組合わせ製剤の投与も、患者の要求条件に合わせて個別に行うことができる。本発明によれば、これらの組合わせ製剤を個々に2回以上の個別投与により、または一緒に投与することができる。
【0037】
さらに、好ましくはメタボリックシンドロームの症状を軽減もしくは阻止し、2型糖尿病を治療し、およびその発症を阻止し、その進行を阻止し、メタボリックシンドロームもしくは糖尿病により起きる可能性のある二次疾患を阻止するのに用いる医薬の製造のための、本発明組成物の使用が特に好ましい。
【0038】
メタボリックシンドロームおよび2型糖尿病の症状を軽減/予防するための本発明の組合わせ製剤の使用は、特にヒトにおける使用に関するが、他の哺乳動物、たとえばイヌ、ネコ、ウマ、ヒツジ、ウシまたはブタなどの処置も権利保護範囲に含まれる。
【0039】
本発明の組成物および製剤は、哺乳動物、特にヒトにおいて、膵β細胞の成長、膵β細胞の増殖、β細胞および/もしくは膵島の体積の増大、または膵炎を治療/予防するために使用するのが特に好ましい。
【0040】
さらに本発明の組成物または製剤は、血清インスリン濃度を低下させるために使用するのが特に好ましい。
【0041】
さらに、本発明の組成物または製剤の投与により、グルコース不耐性の発現を抑制し、またはこれを軽減することが好ましい。
【0042】
さらに、本発明の組成物または製剤の投与により、早朝高血糖の亢進を遅延させることが好ましい。
【0043】
さらに、本発明の組成物または製剤の摂取により、血中脂質濃度を低下させ、特にトリグリセリドの濃度を低下させることが特に好ましいが、他の血中脂質に対する影響も本発明の権利保護範囲に含まれる。
【0044】
本発明によれば、ホエーパーミエートを含む医薬組成物または製剤には乳酸カルシウム
を添加しない。
【0045】
血清のトリグリセリド含量が高い場合(>160mg/100ml)、高トリグリセリド血症(高脂血症)と言う。この状態は、動脈疾患の発症および冠動脈性心疾患の発症に際して重要な役割をもつ可能性がある(Vega and Grundy, Adv. Exp. Med. 243, 311 (1989))。さらに、重篤な高トリグリセリド血症(>1,000mg/dl)はカイロミク
ロン血症と関連があり、これは急性膵炎を誘発する(参照:K.Soergel, 急性膵炎:Gastrointestinal Disease 91, 第3版(Sleisenger, M.H. and Fordtran, J.S.編);W.B. Saunders Company, ペンシルベニア州フィラデルフィア, 1983, p.1462-1485;およびBrown,
M.S. and Goldstein, J.L., 高リポタンパク血症の治療に用いる薬物:Goodman and Gillman's, The Pharmacological Basis of Therapeutics 34, 第7版(Macmillan Publishing Co., ニューヨーク, 1985, p.827-845))。カイロミクロンの急激な増加が膵炎を直接誘発し、これはトリグリセリドの減少により阻止できた(U.S. Department of Health and Human Services, NIH-刊行物No. 89-2925, p.74-77, 1989年1月, ”成人における高コ
レステロール血症の検出、評価および治療に関する専門家パネルの報告”)。さらに、冠動脈性心疾患患者における発作のリスクは血漿のトリグリセリド含量を低下させることにより減らせることが示された(D.Tanne, et al.; Circulation 2001, 104, 2892-2897)
。さらに、2型糖尿病患者の寿命は非糖尿病者と比較して1/3短縮する。これは、トリグリセリド濃度が高いことと直接的な関連があると思われる(Diabety Care; 2001-24, 1335-1341)。したがって、メタボリックシンドロームまたは2型糖尿病の症状の処置の一部として、高トリグリセリド血症患者の血漿トリグリセリドを減少させる措置も施すことが望ましい。
【0046】
本発明の組成物または製剤は、経口経路で投与することが特に好ましいが、他の投与の可能性、たとえば非経口、静脈内なども本発明の権利保護範囲に含まれる。
【0047】
特に好ましい態様においては、メタボリックシンドロームまたは2型糖尿病の症状を抑制し、あるいはそれらを軽減または治癒するために、本発明の組成物または製剤の成分を投与する。
【0048】
医薬製剤または保健食品中のホエーパーミエートの濃度は、保健食品および/または医薬製剤の全重量にに対して0.01〜99.99%、好ましくは0.1〜99.9%、より好ましくは1〜99%、特に好ましくは1〜80%、さらに好ましくは10〜80%、最も好ましくは10〜50%である。
【0049】
本発明の保健食品または本発明の医薬製剤は、1日1回または数回、たとえば朝、昼、夜に、食事と一緒、食前または食後に摂取または投与することができるが、他の投与計画も考慮できる。
【0050】
本発明を以下に実験によってより詳細に説明する。これらは本発明の範囲をさらに限定するものではない。
【0051】
実験の部
動物モデル/試験系
グルコース耐性の制限、脂質代謝の障害、心血管変化のリスクマーカーおよび炎症パラメーターに対する作用を調べるための実験動物として、Zuckerラットを用いた。
【0052】
Zuckerラットは、TheodoreおよびLois Zuckerの13系統における自発突然変異として、マサチュセッツ州ストーのLaboratory of Comparative Pathologyで産まれ(表現型fa=脂肪質)、これからいわゆる”肥満症”ないし”太った”
の表現型が得られた。両概念は、体重過大および脂肪過多のラットを表わす。
【0053】
Zuckerラットは早い時期に既に過食症が発現し、その結果、体重が急激に増加する(体重過大)。5〜6週齢で既に高トリグリセリド血症、高脂血症、インスリン抵抗性を発現し、これに伴ってグルコース不耐性および高インスリン血症が発症する。12週齢でグルコース耐性障害が顕性となり、高血糖症を発症し、これにより2型糖尿病類似の疾患像が顕性となる可能性がある。この動物モデルでは、2型糖尿病に伴って膵島が組織病理学的に変化する。さらに、この動物モデルにおいて心臓−循環系の変化も報告された。こうして、5〜7カ月齢の動物に血圧上昇が測定された(Yoshioka, Metabolism Vol. 42(1), 1993, p.75-80)。
【0054】
メタボリックシンドロームの克服にホエーパーミエートが及ぼす影響の試験を、いわゆるWOK.Wラットについて実施した。WOK.Wラットは、多遺伝子性障害を遺伝し、メタボリックシンドロームのほとんどすべての症状を発症する動物モデルであり、雄動物はこれらの症状をより強く発現する。WOK.Wラットの詳細な特性は、たとえば下記に記載されている:
【0055】
【数1】
【0056】
これらのモデル動物は、特にたとえば脂肪に富む給餌により疾患出現率を変化させうることが予備試験で示されたので、メタボリックシンドロームの研究に際して介入研究の形で外因性調節を行うのに適する。
【0057】
動物の飼育:
動物を半バリヤー条件下に12:12時間の明暗周期で(明は06:00〜18:00時)飼育した。飼料(RM標準飼料、Sniff、Soest、ドイツ)と飲水は常に摂取可能であった。
【0058】
【表1】
【0059】
物質の投与
酸性にした飲水に物質を溶解し(25g/l)、酸性にした無添加の飲水の代わりに動物に自由に摂取させた。対照群には、酸性にした飲水(pH:2.65)をそのまま与え
た(実験動物の飼育に際しては、滅菌のために水道水を塩酸で酸性にした)。摂水量を毎日モニターし、常に新鮮な飲水を調製した。
【0060】
分析法
・血糖および乳酸の濃度をグルコース分析器(Super GL Ambulance、Ruhrtal Labortechnik、ドイツ)により測定した;
・免疫反応性インスリン(IRI)の濃度の測定を、ラット−インスリン特異的ラジオイムノアッセイ(Linco Research, Inc.;米国)により行った;
・総コレステロール、HDL−コレステロール、LDL−コレステロールおよびトリグリセリドの測定を測光法により行った;
・C−反応性タンパク質を比濁法により測定した;
・白血球数の測定を血球計数法により行った。
【0061】
評価方法:
・グルコース投与前−10分から投与後120分までの時点の経口グルコース耐性試験(oral glucose tolerance test)oGTTにおける血糖曲線およびインスリン曲線の作
成。実験群についての平均値曲線を、各パラメーターにつき処理の各時点について作成した。生理的効果および処理効果を評価するために、血糖およびインスリンに関する試験プロトコルに対応する各パラメーターについて反応性過剰面積および絶対過剰面積を計算した(0〜120分のG−AUCおよびI−AUC;図4(a)および(b)、5(a)および(b)、6(a)および(b))。
【0062】
このために、サンプリング時点に応じた血糖およびインスリンの濃度のデータを記載した。反応性面積は下記に従って計算された:
【0063】
【数2】
【0064】
血糖濃度を一例として用いた計算の説明:
全実験期間120分、および実験計画に際して定めたサンプリング時点−10、0、10、20、30、40、60、90、120において、0〜120分の絶対面積を下記に従って計算した:
【0065】
【数3】
【0066】
・対比較:試験状況と対照状況の間に差が生じ、これが0と差があるかどうか(p<0.05)をt−検定により調べた;
・t−検定による平均値比較;
・”Verfahrensbibliothek: Versuchsplanung und -auswertung”, Volume 1, ベルリ
ン, 1978, Rasch D. et al., p.408に従った例外検査。
【0067】
実施方法/実験計画:
Zuckerラットを約14週齢で囲いに入れ、1週間の順応後に試験を開始した。15週齢で、まずグルコースおよび脂質代謝のパラメーター(特に血糖、血清インスリン、コレステロールおよびトリグリセリドの濃度)、グルコース耐性(経口グルコース耐性試験による)、ならびに炎症マーカー(白血球数およびC−反応性タンパク質)に関して動物の特性判定を行った。これに必要な血液試料を尾静脈から採取した。次いで、処理を開始した。血糖濃度、体重、白血球数および摂餌量の測定を、1週間間隔で連続的に行った。飲水の摂取量を毎日モニターした。処理の2および6週間後、グルコースおよび脂質代謝のパラメーターを再び測定し、グルコース耐性を判定した。
【0068】
グルコース耐性を判定するために、夜間断食した後、グルコース耐性試験を行った。その際、グルコース投与(胃管による)の10分前からグルコース投与(2g/kg)120分後までの期間、血糖(サンプリング時点:−10、0、10、20、30、40、60、90および120分)およびインスリン濃度(サンプリング時点:0、20、40、60、90および120分)測定のための血液試料を採取した。処理の開始前および6週間後に、血糖および乳酸の濃度の日周プロフィール(3時間間隔)を作成した。43日の定期観察期間の終了後、最終の経口グルコース耐性試験を実施した後も、処理62/63日目に最終処置するまで処理方式を維持した。麻酔薬過剰投与により動物を殺した。麻酔が起きた後、膵臓を摘出し、その後の組織学的検査のためにブアン液中に固定および保管した。
【0069】
試料の保管:
すべての血清試料を分析まで−20℃のディープフリーザー内に保存した。
【0070】
結果:
追跡試験
摂餌量および摂水量
・SMP処理した群の動物では摂水量がわずかに増加した(図1)が、1日のカロリー摂取量(図1a)はすべての群で同等であった。1日の摂餌量において、これらの群は有意差がなかった(図1)。処理42日目のエネルギー摂取量計算値は下記のとおりであった:
SMP群:87.6± 6.6 kcal/24時間
対照: 87.9±25.5 kcal/24時間
これらの群間の差は保証できなかった。
【0071】
体重増加
・処理群はその体重増加に差がなかった(図2)。
【0072】
血糖およびインスリンの曲線
・処理開始前、すなわち15週齢において、実験群の動物の血糖濃度(図2)、インスリン濃度(図3a)は同等であった。早朝血糖は、この動物モデルの加齢において予想されたとおり対照群では処理開始後に上昇し続けたが、SMP群ではこの上昇がほとんどない状態を維持した;
・SMP処理群のインスリン濃度(図3a)は、処理開始前の時点と比較して処理期間の経過に伴って低下した(n.s./有意ではない)。インスリン濃度は変化のないレベルを維持した(対照)。
【0073】
脂質代謝パラメーター
・非エステル化脂肪酸の濃度は、観察期間中、変化しないままであった。処理群間で差がなかった(図3a);
・コレステロール濃度は、SMP群と異なり対照群と比較して観察中に上昇した(n.s.、図3b);
・HDL−コレステロール濃度は、観察期間中、変化しないままであった(図3b)。処理開始前のみ、群間で差があったが、これは処理効果に関して有意ではなかった;
・対照群に観察されたLDL−コレステロール濃度上昇(図3c)は、SMP処理により阻止できなかったが、これは対照群と比較してわずかに低くなった(n.s.);
・SMP処理群では、トリグリセリド濃度低下の傾向を認めることができた(図3c)。
【0074】
炎症パラメーター
・炎症パラメーターであるC−反応性タンパク質(図3d)および白血球数は、観察期間中、療法によって変化しなかった。
【0075】
経口グルコース耐性試験の結果:
・経口グルコース耐性試験(oGTT)中の処理前の血糖およびインスリンの濃度曲線は同等であった(図4aおよび4b);
・3週間の処理後、血糖およびインスリンの曲線および過剰面積に関して、処理群間に有意差は検出されなかった(図5aおよび5b);
・6週間の処理後、GTTにおけるSMP群の血糖の上昇は明らかに少なく、120分の観察期間後には対照群と比較して有意に低いレベルにまで低下した(図6aおよび6b)。
【0076】
療法前および6週間の療法後のGTTの血糖曲線の分析(BG、mmol/l)、平均値±SD(*対照と比較してp<0.05):
【0077】
【表2】
【0078】
・GTTにおいてグルコース過剰面積(G−AUC)として測定した6週間処理後のグルコース耐性は、対照群と比較してSMP処理群では有意に改善された。G−AUCは対照群では観察期間中に増大したが、SMP処理群では処理開始前のものと同等であった。
【0079】
処理前および6週間処理後の反応性G−AUC 0〜120分(mmol×分/l)の評価、平均値±SD(対照と比較してp<0.05):
【0080】
【表3】
【0081】
【表4】
【0082】
1:+++=著しく強く発現、2:++=強く発現、3:+=存在する
上の表により、WOK.Wラットがヒトのメタボリックシンドロームについてきわめて好適な動物モデルである理由が明らかである。
【0083】
膵臓の形態測定
被験膵臓を16週齢、すなわち12週間の処理期間後に摘出した。膵臓をパラフィンに包埋し、切片厚さ7μmに切断した。10枚目毎の切片をヘマトキシリン−エオシンで染色し(膵島の体積を判定して炎症を評価するため)、または抗インスリン抗体と共にインキュベートした(β細胞の体積を測定するため)。炎症(インスリン炎)を評価するために、15の膵島を集計した。免疫組織化学的反応をAPAAPで視覚化した(赤色に着色)。外分泌細胞、結合組織および血管と比較した、膵島細胞およびインスリン形成β細胞の分布の形態測定評価を、標本に乗せたネットの40,000点の集計により行った。それぞれにつき各群から4匹の動物を用いた。
【0084】
【表5】
【0085】
WOK.Wラットの膵臓形態測定は、高インスリン血症に対する形態的相関性があることを示した(上の表5を参照)。これは、β細胞の体積が増大し、外分泌膵にβ細胞の小クラスターが出現し、膵管上皮にβ細胞が検出され(新生の指標)、β細胞分裂回数が増加することに現われる;これらは高インスリン血症発症の原因である。検出された形態は、この臓器に対する要求が増大し(たとえば代謝エネルギーの増加により)、この一部が細胞増殖により補償されたことを示唆する。
【0086】
飲水にホエーパーミエートを適用することにより、12週間の処理期間後にはβ細胞の体積増加が阻止され、または有意に低下している。
【0087】
ホエーは高エネルギーであるが、いずれの被験動物にも、膵島および/またはβ細胞の選択的炎症(インスリン炎)の出現はみられなかった。
【0088】
WOK.Wラットにおける血清インスリン濃度の検査
処理ラットにおける血清インスリン濃度の検査は、処理期間中、対照ラットと比較して血清インスリン濃度の上昇または上昇低下を示さなかった。
【0089】
【表6】
【0090】
・観察期間中、SMP処理によりグルコース不耐性の増大は阻止されている;
・経口グルコース耐性試験に際してのインスリン放出(インスリン過剰面積I−AUCとして測定)は、SMP処理動物群において6週間の処理後、最高であった;
・oGTTにおけるインスリン放出は、6週間のSMP処理後、最大に刺激された。しかし、oGTTにおいて放出されたインスリンはSMP群でのみ血糖を有意に減少させた。
【0091】
【表7】
【0092】
SMP群からの動物の膵β細胞は、6週間の処理後にグルコース刺激に対して最も良く反応する状態になった。さらに、これらの動物はインスリン抵抗性がより低かった。
【0093】
血糖および乳酸の日周プロフィール:
・血糖の日周プロフィールは、処理前および6週間の処理後、処理群間で有意差を示さない(図7および8)が、SMPで6週間処理した群の血糖濃度は日周曲線が最も低く低
下した;
・乳酸の日周プロフィールは、群間で幾つかの時点において有意差を示す。しかし、いずれの時点でも乳酸血症は除外できた(図7および8)。処理開始前の乳酸濃度が比較的高いのはストレス反応と解釈される。採血に対する動物の順応効果がこの時点ではまだ現われていない可能性があるからである。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】スイートホエー(SMP)処理動物およびその対照における6週間の観察期間中の摂餌量および摂水量を示す。
【図2】スイートホエー(SMP)処理動物およびその対照における観察期間中の体重増加および血糖の曲線を示す。
【図3a】SMP処理または非処理の開始前、3週間後および6週間後の実験動物の血中の非エステル化脂肪酸(NEFA;non-esterified-fatty-acid)およびインスリンの濃度を表わす。
【図3b】SMP処理または非処理の開始前、3週間後および6週間後の実験動物の血中の総コレステロールおよびHDLコレステロールの濃度を表わす。
【図3c】SMP処理または非処理の開始前、3週間後および6週間後の実験動物の血中のLDLコレステロールおよびトリグリセリドの濃度を表わす。
【図3d】SMP処理または非処理の開始前、3週間後および6週間後の実験動物の血中のC−反応性タンパク質の濃度を表わす。
【図3e】SMP処理または非処理における6週間の処理期間中の実験動物の白血球数を表わす。
【図4a】経口グルコース耐性試験(oGTT)における処理開始前の血糖曲線およびグルコース過剰面積を表わす。
【図4b】oGTTにおける処理開始前の血清インスリン濃度曲線およびインスリン過剰面積を表わす。
【図5a】oGTTにおける3週間処理後の血糖曲線およびグルコース過剰面積を表わす。
【図5b】oGTTにおける3週間処理後の血清インスリン濃度曲線およびグルコース過剰面積を表わす。
【図6a】oGTTにおける6週間処理後の血糖曲線およびグルコース過剰面積を表わす。
【図6b】oGTTにおける6週間処理後の血清インスリン濃度曲線およびグルコース過剰面積を表わす。
【図7】処理開始前の血糖および乳酸の日周プロフィールを表わす。
【図8】6週間処理後の血糖および乳酸の日周プロフィールを表わす。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物においてメタボリックシンドロームもしくは2型糖尿病またはその二次疾患の症状の予防または治療に用いる医薬組成物を調製するための、ホエーパーミエートの使用。
【請求項2】
症状がグルコース不耐性またはインスリン抵抗性から選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
二次疾患が動脈硬化症、冠動脈不全、動脈閉塞性疾患、心筋梗塞、黄色腫、腹部不快感、肝脾腫、膵炎、網膜脂血症、発作、または腎不全から選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
ホエーパーミエートがスイートホエーパーミエートである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
ホエーパーミエートが乳糖を減らしたものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
組成物をマイクロカプセル封入する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
組成物を経口投与剤形として調製する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
経口投与剤形がトローチ剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤またはジュースである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
組成物がさらに食品添加物である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
食品がダイエット食品または保健食品である、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
組成物がさらに、医薬的に許容できる添加剤および/またはキャリヤーを含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
哺乳動物がヒトである、請求項1〜11のいずれか1項に記載の使用。
【請求項13】
ホエーパーミエートを加水分解する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
ホエーパーミエートを部分加水分解する、請求項1〜13のいずれか1項に記載の使用。
【請求項1】
哺乳動物においてメタボリックシンドロームもしくは2型糖尿病またはその二次疾患の症状の予防または治療に用いる医薬組成物を調製するための、ホエーパーミエートの使用。
【請求項2】
症状がグルコース不耐性またはインスリン抵抗性から選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
二次疾患が動脈硬化症、冠動脈不全、動脈閉塞性疾患、心筋梗塞、黄色腫、腹部不快感、肝脾腫、膵炎、網膜脂血症、発作、または腎不全から選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
ホエーパーミエートがスイートホエーパーミエートである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
ホエーパーミエートが乳糖を減らしたものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
組成物をマイクロカプセル封入する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
組成物を経口投与剤形として調製する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
経口投与剤形がトローチ剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤またはジュースである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
組成物がさらに食品添加物である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
食品がダイエット食品または保健食品である、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
組成物がさらに、医薬的に許容できる添加剤および/またはキャリヤーを含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
哺乳動物がヒトである、請求項1〜11のいずれか1項に記載の使用。
【請求項13】
ホエーパーミエートを加水分解する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
ホエーパーミエートを部分加水分解する、請求項1〜13のいずれか1項に記載の使用。
【図1】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図3d】
【図3e】
【図4a】
【図4b】
【図5a】
【図5b】
【図6a】
【図6b】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図3d】
【図3e】
【図4a】
【図4b】
【図5a】
【図5b】
【図6a】
【図6b】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2012−162544(P2012−162544A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−82765(P2012−82765)
【出願日】平成24年3月30日(2012.3.30)
【分割の表示】特願2006−518175(P2006−518175)の分割
【原出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(506313246)“エス.ウー.カー.”ベタイリグングス・ゲーエムベーハー (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年3月30日(2012.3.30)
【分割の表示】特願2006−518175(P2006−518175)の分割
【原出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(506313246)“エス.ウー.カー.”ベタイリグングス・ゲーエムベーハー (2)
【Fターム(参考)】
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