説明

メタボリックシンドローム改善又は予防剤

【課題】生体に対する安全性が高く、日常的、継続的に摂取可能であり、医薬品、飲食品等の成分として使用することができる、メタボリックシンドローム改善又は予防剤の調製に使用可能な新規組成物及びその製造方法の提供。
【解決手段】β−1,3−1,4−グルカンの分解物を有効成分として含有し、当該分解物の重量平均分子量が1000Da以上50000Da未満であるメタボリックシンドローム改善又は予防剤。さらには、β−1,3−1,4−グルカンを含有する植物の粉砕物をα−アミラーゼで分解処理するα−アミラーゼ処理工程と、α−アミラーゼ処理工程で得られた反応混合物中のβ−1,3−1,4−グルカンをβ−グルカナーゼ及び/又はセルラーゼで分解するβ−グルカン分解工程とを含む製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタボリックシンドローム改善又は予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、メタボリックシンドローム(内臓脂肪の蓄積に起因して高血圧、高脂血症、糖尿病等の生活習慣病が発症した状態)は、動脈硬化性疾患(心筋梗塞、脳梗塞等)の発症リスクを高めるものとして広く認知されるようになっている。
【0003】
メタボリックシンドローム改善又は予防剤としては、例えば、水溶性β−グルカンを最大含有量とする食物繊維集合体を有効成分として含有するものが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2007/077929号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、メタボリックシンドローム改善又は予防剤としては、生体に対する安全性が高く、日常的、継続的に摂取可能なものが望ましい。しかしながら、そのようなメタボリックシンドローム改善又は予防剤に関しては、未だ、消費者の多様な需要を満たすのに十分な選択肢が存在するとはいえないのが実情である。
【0006】
そこで、本発明は、生体に対する安全性が高く、日常的、継続的に摂取可能な新規のメタボリックシンドローム改善又は予防剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、大麦粉砕物に一定の処理を施して得たβ−グルカン分解物を生体に投与すると、内臓脂肪の蓄積を始めとするメタボリックシンドロームの症状が強く抑制されることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、β−1,3−1,4−グルカンの分解物を有効成分として含有し、当該分解物の重量平均分子量が1000Da以上50000Da未満であるメタボリックシンドローム改善又は予防剤を提供する。本発明において、β−1,3−1,4−グルカンの「分解物」とは、β−1,3−1,4−グルカンが酵素的又は化学的に加水分解されて生成された化合物をいうものとする。
【0009】
本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤は、内臓脂肪の蓄積を抑制し、また、脂肪細胞の肥大化を抑制することを可能とする。また、トリグリセリド及びコレステロールの蓄積を抑制することを可能とする。そして、そのような作用を介して、内臓脂肪型肥満ないしメタボリックシンドロームを改善(治療、軽減)及び予防することを可能とする。ここで、内臓脂肪の「蓄積の抑制」とは、内臓脂肪の増大を抑制するか、内臓脂肪を低減させることをいうものとする。また、トリグリセリド又はコレステロールの「蓄積の抑制」とは、体内のトリグリセリド又はコレステロールの増大を抑制するか、それらを低減させることをいうものとする。
【0010】
本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤は、内臓脂肪蓄積抑制作用及び脂肪細胞肥大化抑制作用を有することから、内臓脂肪蓄積抑制剤又は脂肪細胞肥大化抑制剤として使用することもできる。また、トリグリセリド蓄積抑制作用及びコレステロール蓄積抑制作用を有することから、トリグリセリド蓄積抑制剤又はコレステロール蓄積抑制剤として使用することもできる。
【0011】
β−1,3−1,4−グルカンはイネ科植物(特に大麦、オート麦)に多く含有されるものであり、生体に対する安全性が確立されている。そのため、本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤は、生体に対する安全性が高く、日常的、継続的に摂取可能であり、医薬品、飲食品、飲食品添加物、飼料、飼料添加物等の成分として使用するのに好適である。
【0012】
また、重量平均分子量1000Da以上50000Da未満のβ−1,3−1,4−グルカン分解物は、高分子量のβ−1,3−1,4−グルカンに比べて水溶性が高く、また、溶液の粘度が低い。この点でも、本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤は、医薬品、飲食品、飲食品添加物、飼料、飼料添加物等の成分として使用するのに好適である。
【0013】
本発明はまた、β−1,3−1,4−グルカンの分解物を含有し、当該分解物の重量平均分子量が1000Da以上50000Da未満である組成物を提供する。そのような組成物は、上記メタボリックシンドローム改善又は予防剤の調製に使用することができる。なお、組成物は、重量平均分子量1000Da以上50000Da未満のβ−1,3−1,4−グルカン分解物からなるものであってもよい。
【0014】
上記組成物は、
β−1,3−1,4−グルカンを含有する植物の粉砕物をα−アミラーゼで分解処理するα−アミラーゼ処理工程と、
α−アミラーゼ処理工程で得られた反応混合物中のβ−1,3−1,4−グルカンをβ−グルカナーゼ及び/又はセルラーゼで分解するβ−グルカン分解工程と、
を含む製造方法によって得ることができる。このような製造方法もまた、本発明に包含される。
【0015】
β−1,3−1,4−グルカン分解物(重量平均分子量:1000Da以上50000Da未満)の含有率の高い組成物を得るという観点から、上記製造方法においては、α−アミラーゼ処理工程で得られた反応混合物からβ−1,3−1,4−グルカン含有画分を得る画分取得工程、をα−アミラーゼ処理工程の後に実施し、得られたβ−1,3−1,4−グルカン含有画分をβ−グルカン分解工程に供するのが好ましい。
【0016】
また、β−1,3−1,4−グルカンの含有率の高い画分を得るという観点から、画分取得工程では、上記反応混合物を固液分離して液層を得るのが好ましい。そして、この場合、更に、液層をアルコール沈殿(メタノール沈殿、エタノール沈殿等)して沈殿物を得るのが好ましい。
【0017】
上記製造方法において、β−1,3−1,4−グルカンを含有する植物としては、β−1,3−1,4−グルカンの含有量が多い点で、例えば、イネ科植物(例えば、大麦、オート麦、ライ麦、はと麦、小麦)が好適である。また、植物粉砕物としては、植物の種子の粉砕物が好適である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、生体に対する安全性が高く、日常的、継続的に摂取可能な新規のメタボリックシンドローム改善又は予防剤が提供される。また、そのようなメタボリックシンドローム改善又は予防剤を含有する医薬品、飲食品、飲食品添加物、飼料、飼料添加物等が提供される。また、そのようなメタボリックシンドローム改善又は予防剤の調製に使用可能な新規組成物及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】分解β−グルカン粉末の蛍光(FL)分析により得られた、β−1,3−1,4−グルカン分解物の分子量分布曲線である。
【図2】分解β−グルカン粉末の屈折率(RI)分析により得られた、β−1,3−1,4−グルカン分解物の分子量分布曲線である。
【図3】β−1,3−1,4−グルカン分解物を投与したマウスの血漿トリグリセリド値を示すグラフである。
【図4】β−1,3−1,4−グルカン分解物を投与したマウスの血漿総コレステロール値を示すグラフである。
【図5】β−1,3−1,4−グルカン分解物を投与したマウスの副睾丸周辺脂肪重量を示すグラフである。
【図6】β−1,3−1,4−グルカン分解物を投与したマウスの後腹壁脂肪重量を示すグラフである。
【図7】β−1,3−1,4−グルカン分解物を投与したマウスの腸間膜脂肪細胞サイズを示すグラフである。
【図8】β−1,3−1,4−グルカン分解物を投与したマウスの糞中総脂質量を示すグラフである。
【図9】β−1,3−1,4−グルカン分解物を投与したマウスの糞中総コレステロール量を示すグラフである。
【図10】β−1,3−1,4−グルカン分解物を投与したマウスの糞中胆汁酸量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態についてより詳細に説明する。
【0021】
本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤は、重量平均分子量1000Da以上50000Da未満のβ−1,3−1,4−グルカン分解物を有効成分として含有する。
【0022】
本発明において、「メタボリックシンドローム」とは、内臓脂肪が蓄積され、高血圧、高脂血症、糖尿病等の生活習慣病のいずれかが発症した状態をいうものとする。なお、例えば、日本人の場合は、「ウエスト周囲径:男性≧85cm、女性≧90cm(男女とも、内臓脂肪面積≧100cmに相当)」という要件を満たし、かつ、下記(1)〜(3)のうちの少なくとも2つの要件を満たせば、メタボリックシンドロームと診断することができる(日本内科学会誌、94(4)、794−809、2005参照)。
(1)リポタンパク異常: 高トリグリセリド血症(トリグリセリド値≧150mg/dL)及び/又は低HDLコレステロール血症(HDLコレステロール値<40mg/dL)
(2)血圧高値: 収縮期血圧≧130mmHg及び/又は拡張期血圧≧85mmHg
(3)高血糖: 空腹時血糖≧110mg/dL
【0023】
本発明において、β−1,3−1,4−グルカンは、例えば、植物由来であっても、微生物(細菌、真菌等)由来であってもよい。β−1,3−1,4−グルカンを得るための天然物としては、β−1,3−1,4−グルカンの含有量が多い点で、例えば、イネ科植物(例えば、大麦、オート麦、ライ麦、はと麦、小麦)が好適であり、特に大麦、オート麦が好適である。また、例えば、イネ科植物から得る場合は、種子が好適である(全粒、胚乳、糠等のいずれでもよい)。
【0024】
重量平均分子量1000Da以上50000Da未満のβ−1,3−1,4−グルカン分解物は、例えば、大麦種子粉砕物をα−アミラーゼで処理して高分子量β−1,3−1,4−グルカン含有画分を得、更にこれをβ−グルカナーゼ及び/又はセルラーゼで処理することによって得ることができる。ここで、大麦種子粉砕物のα−アミラーゼ処理は、例えば、大麦種子粉砕物とα−アミラーゼと水との混合物を40〜100℃(耐熱性アミラーゼの場合は70〜100℃、非耐熱性アミラーゼの場合は40〜80℃)で15〜90分間攪拌することによって行うことができる。α−アミラーゼ処理後、固液分離を行い、得られた液層に対してアルコール沈殿(メタノール沈殿、エタノール沈殿等)を行えば、高分子量β−1,3−1,4−グルカン含有画分を得ることができる。β−グルカナーゼ及び/又はセルラーゼによる処理は、例えば、高分子量β−1,3−1,4−グルカン含有画分とβ−グルカナーゼと水との混合物を40〜70℃で1〜30分間攪拌することによって行うことができる(β−グルカナーゼと共に、又はそれに代えてセルラーゼを使用してもよい)。処理後、濃縮を行えば、重量平均分子量1000Da以上50000Da未満のβ−1,3−1,4−グルカン分解物を得ることができる。なお、α−アミラーゼによる処理とβ−グルカナーゼ及び/又はセルラーゼによる処理とは同時に行ってもよく、そのような同時処理は、例えば、大麦種子粉砕物とα−アミラーゼとβ−グルカナーゼと水との混合物を攪拌することによって行うことができる(β−グルカナーゼと共に、又はそれに代えてセルラーゼを使用してもよい)。
【0025】
本発明において、β−1,3−1,4−グルカン分解物は重量平均分子量1000Da以上50000Da未満のものであればよいが、重量平均分子量としては、例えば、1500Da以上30000Da以下が好ましく、2000Da以上20000Da以下がより好ましく、3000Da以上10000Da以下が更に好ましく、3000Da以上6000Da以下が更に好ましい。
【0026】
β−1,3−1,4−グルカン分解物の重量平均分子量は、公知の方法(例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、ゲル濾過クロマトグラフィー(GFC))により測定することができる。また、重量平均分子量の決定に用いる検量線は、例えばプルランの標準品を用いて作成することができる。
【0027】
本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤は、固体(例えば、粉末)、液体(水溶性又は脂溶性の溶液又は懸濁液)、ペースト等のいずれの形状でもよく、また、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤、軟膏剤、硬膏剤等のいずれの剤形をとってもよい。また、本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤は、重量平均分子量1000Da以上50000Da未満のβ−1,3−1,4−グルカン分解物からなるものであってもよい。
【0028】
上述の各種製剤は、重量平均分子量1000Da以上50000Da未満のβ−1,3−1,4−グルカン分解物と、薬学的に許容される添加剤(賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、乳化剤、界面活性剤、基剤、溶解補助剤、懸濁化剤等)と、を混和することによって調製することができる。
【0029】
例えば、賦形剤としては、ラクトース、スクロース、デンプン、デキストリン等が挙げられる。結合剤としては、ポリビニルアルコール、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク等が挙げられる。崩壊剤としては、結晶セルロース、寒天、ゼラチン、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、デキストリン等が挙げられる。乳化剤又は界面活性剤としては、Tween60、Tween80、Span80、モノステアリン酸グリセリン等が挙げられる。基剤としては、セトステアリルアルコール、ラノリン、ポリエチレングリコール、米糠油、魚油(DHA、EPA等)、オリーブ油等が挙げられる。溶解補助剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、Tween80等が挙げられる。懸濁化剤としては、上述の界面活性剤の他、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0030】
本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤は、医薬、飲食品(飲料、食品)、飲食品添加物、飼料、飼料添加物等の成分として使用することができる。例えば、飲料としては、水、清涼飲料水、果汁飲料、乳飲料、アルコール飲料、スポーツドリンク、栄養ドリンク等が挙げられる。食品としては、パン類、麺類、米類、豆腐、乳製品、醤油、味噌、菓子類等が挙げられる。本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤はまた、特定保健用食品、特別用途食品、栄養補助食品、健康食品、機能性食品、病者用食品等の成分として使用することもできる。
【0031】
飲料、食品、飼料等は、当該分野で通常使用される添加物を更に含有してもよい。そのような添加物としては、例えば、苦味料、香料、リンゴファイバー、大豆ファイバー、肉エキス、黒酢エキス、ゼラチン、コーンスターチ、蜂蜜、動植物油脂;グルテン等のタンパク質;大豆、エンドウ等の豆類;グルコース、フルクトース等の単糖類;スクロース等の二糖類;デキストロース、デンプン等の多糖類;エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール等の糖アルコール類;ビタミンC等のビタミン類;亜鉛、銅、マグネシウム等のミネラル類;CoQ10、α−リポ酸、カルニチン、カプサイシン等の機能性素材、が挙げられる。これらの添加物は、各々を単独で、又は複数種を組み合わせて使用することができる。
【0032】
本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤は、ヒトに摂取されても、非ヒト哺乳動物に摂取されてもよい。摂取量及び摂取方法は、個体の状態、年齢等に応じて適宜決定することができる。好適な摂取方法としては、例えば、経口摂取が挙げられる。
【0033】
重量平均分子量1000Da以上50000Da未満のβ−1,3−1,4−グルカン分解物を含有する組成物は、本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤の調製に使用することができる。組成物は、固体(例えば、粉末)、液体(水溶性又は脂溶性の溶液又は懸濁液)、ペースト等のいずれの形状でもよい。また、組成物は、重量平均分子量1000Da以上50000Da未満のβ−1,3−1,4−グルカン分解物からなるものであってもよい。
【0034】
上記組成物が固体状である場合は、当該組成物中のβ−1,3−1,4−グルカン分解物の含有率等に応じて、例えば、そのまま、又はこれを溶媒に溶解して、メタボリックシンドローム改善又は予防剤として使用することができる。また、組成物が液体状である場合は、当該組成物中のβ−1,3−1,4−グルカン分解物の含有率等に応じて、そのまま、又はそれを希釈又は濃縮して、メタボリックシンドローム改善又は予防剤として使用することができる。
【0035】
上記組成物は、例えば、β−1,3−1,4−グルカンを含有する植物の粉砕物をα−アミラーゼで分解処理するα−アミラーゼ処理工程と、α−アミラーゼ処理工程で得られた反応混合物中のβ−1,3−1,4−グルカンをβ−グルカナーゼ及び/又はセルラーゼで分解するβ−グルカン分解工程と、を含む製造方法によって得ることができる。
【0036】
α−アミラーゼ処理工程では、植物粉砕物中の多糖(デンプン等)のα−1,4結合が不規則に切断されることによって、当該多糖が分解される。α−アミラーゼ処理は、例えば、植物粉砕物をα−アミラーゼと共に水系溶媒(例えば水が好適である。)に添加し、これを攪拌することによって行うことができる。α−アミラーゼ処理の温度としては、耐熱性アミラーゼの場合は、70〜100℃が好ましく、80〜95℃がより好ましく、85〜95℃が更に好ましい。非耐熱性アミラーゼの場合は、40〜80℃が好ましく、50〜70℃がより好ましく、55〜65℃が更に好ましい。α−アミラーゼ処理の時間としては、例えば、15〜90分間が好ましく、20〜60分間がより好ましく、30〜40分間が更に好ましい。α−アミラーゼ処理工程で得られた反応混合物は、更に、例えば、他のデンプン分解酵素(例えば、アミログルコシダーゼ)で分解処理してもよい。
【0037】
β−1,3−1,4−グルカン分解物(重量平均分子量:1000Da以上50000Da未満)の含有率の高い組成物を得るという観点から、上記製造方法においては、α−アミラーゼ処理工程で得られた反応混合物からβ−1,3−1,4−グルカン含有画分を得る画分取得工程、をα−アミラーゼ処理工程の後に実施するのが好ましい。この場合、β−グルカン分解工程では、上記画分をβ−グルカナーゼ及び/又はセルラーゼによる分解処理に供する。
【0038】
β−1,3−1,4−グルカンの含有率の高い画分を得るという観点から、画分取得工程では、上記反応混合物を固液分離して液層を得るのが好ましい。固液分離は、公知の方法(例えば、遠心分離、濾過)により行うことができ、例えば、遠心分離が好適である。
【0039】
固液分離を行った場合は、更に、例えば、液層をアルコール沈殿して沈殿物を得るのが好ましい。アルコール沈殿に用いるアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノールが好適である。得られた沈殿物に対しては、更に乾燥(例えば、凍結乾燥)、粉砕等の処理を行ってもよい。アルコール沈殿を行わない場合は、液層に対して、公知の方法(例えば、減圧濃縮、凍結乾燥)により濃縮又は乾燥を行うのが好ましい(この場合、更に粉砕等の処理を行ってもよい)。
【0040】
β−グルカン分解工程では、α−アミラーゼ処理工程で得られた反応混合物中のβ−1,3−1,4−グルカンがβ−グルカナーゼ及び/又はセルラーゼで分解される。β−1,3−1,4−グルカンの分解は、例えば、β−1,3−1,4−グルカン含有画分をβ−グルカナーゼ及び/又はセルラーゼと共に水系溶媒(例えば水が好適である。)に添加し、これを攪拌することによって行うことができる。分解処理の温度としては、例えば、40〜70℃が好ましく、45〜65℃がより好ましく、50〜60℃が更に好ましい。また、分解処理の時間としては、例えば、1〜30分間が好ましく、3〜20分間がより好ましく、5〜10分間が更に好ましい。なお、本発明において、リケナーゼは「β−グルカナーゼ」に包含されるものとする。
【0041】
β−グルカン分解工程の後には、得られた分解処理物に対して、更に濃縮、乾燥、粉砕等の処理を行ってもよい。この場合、濃縮又は乾燥の方法としては、公知の方法(例えば、減圧濃縮、凍結乾燥)を使用することができ、例えば、凍結乾燥が好適である。
【0042】
上記製造方法において、α−アミラーゼ処理工程及びβ−グルカン分解工程は同時に実施してもよい。両工程は、例えば、植物粉砕物をα−アミラーゼ及びβ−グルカナーゼと共に水系溶媒(例えば水が好適である。)に添加し、これを攪拌することによって同時に実施することができる(β−グルカナーゼと共に、又はそれに代えてセルラーゼを使用してもよい)。
【0043】
上記製造方法において、β−1,3−1,4−グルカンを含有する植物としては、β−1,3−1,4−グルカンの含有量が多い点で、例えば、イネ科植物(例えば、大麦、オート麦、ライ麦、はと麦、小麦)が好適であり、特に大麦、オート麦が好適である。また、植物粉砕物としては、例えば、植物の種子の粉砕物が好適である(例えば、イネ科植物を使用する場合、全粒、胚乳、糠等のいずれでもよい)。
【実施例】
【0044】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0045】
[高分子量β−グルカン粉末の調製及び分析]
ステンレス製プラントマイクロ抽出機(20L)に張った湯(約50℃)約18Lに大麦(CDC Fibar)種子の粉砕物2kg及び耐熱性α−アミラーゼ(クライスターゼYC15、大和化成)100gを投入し、80℃で70分間攪拌した。次いで、反応液を60℃に冷却し、アミログルコシダーゼ(和光純薬工業)8mLを添加して、60分間攪拌した。
【0046】
攪拌後、反応液を20℃、8000rpmで20分間遠心分離し、得られた半透明、高粘度の上清約14Lをドラム缶リフト(250L)に投入した。そして、メタノール約55Lを添加して、十分な攪拌後、1時間静置した。
【0047】
静置後、反応液をステンレス篩(φ400)上に流し込んで固形物を分取した。メタノール20Lで洗浄し、防爆用エバポレーターでメタノールを除去した後、ステンレスパット上で固形物を凍結乾燥した。凍結乾燥した固形物をラボミルサー(IFM−150、岩谷産業)で2分間断続粉砕して、高分子量β−グルカン粉末を得た。
【0048】
高分子量β−グルカン粉末の0.2%水溶液の粘度は1.97mPa・sであった。また、高分子量β−グルカン粉末中のβ−1,3−1,4−グルカンの重量平均分子量は約500000Daであった(重量平均分子量の測定は、分解β−グルカン粉末の場合(後述)と同様にして行った)。
【0049】
高分子量β−グルカン粉末の成分組成は表1に示す通りであった。表中、各成分量の単位は質量%である。なお、β−1,3−1,4−グルカン量は、カルコフローを用いた蛍光(FL)分析により測定されたものである。
【0050】
【表1】

【0051】
[分解β−グルカン粉末の調製及び分析]
高分子量β−グルカン粉末200gを水7Lと共にステンレス製容器に入れ、70℃の湯浴上で十分に攪拌した。62℃まで冷却後、β−グルカナーゼ(新日本化学工業)1gを添加して1時間攪拌し、更にβ−グルカナーゼ(新日本化学工業)1gを添加して、沸騰湯浴上で20分間攪拌した。その後、反応液をステンレスパット上で凍結乾燥し、得られた固形物をフォースミルで粉砕して、分解β−グルカン粉末を得た。
【0052】
分解β−グルカン粉末の0.2%水溶液の粘度は1.02mPa・sであった。
【0053】
分解β−グルカン粉末中のβ−1,3−1,4−グルカン分解物の分子量分布は図1及び2に示す通りであった。また、分解β−グルカン粉末中のβ−1,3−1,4−グルカン分解物の重量平均分子量は約4500Daであった。図1は、分解β−グルカン粉末の蛍光(FL)分析により得られた、β−1,3−1,4−グルカン分解物の分子量分布曲線である。図2は、分解β−グルカン粉末の屈折率(RI)分析により得られた、β−1,3−1,4−グルカン分解物の分子量分布曲線である。
【0054】
分子量分布及び重量平均分子量の測定は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により行った。GPC条件は下記の通りである。ポンプは2台(ポンプA、B)使用し、ポンプA、Bには、それぞれ溶離液A、Bを流した。分析用サンプルとしては、分解β−グルカン粉末10mgを水10mLに溶解した溶液を0.45μmのフィルターで濾過して得た濾液を使用した。分子量分布及び重量平均分子量は、プルラン標準品(Shodex)を用いて作成した検量線に基づいて決定した。
【0055】
GPC条件:
・オーブン温度:40℃
・カラム:Shodex OHPak SB−805HQ(分子量400万排除)
+ Shodex OHPak SB−804HQ(分子量100万排除)
+ Shodex OHPak SB−803HQ(分子量10万排除)
・ミキシングコイル:内径0.5mm,空寸体積0.5mLのステンレスチューブ
・溶離液A:超純水
流量:1mL/分
・溶離液B:カルコフロー溶液
流量:1mL/分
・HPLC装置:島津製作所 LC−10 Series
システムコントローラー:SCL−10Avp
ポンプ:LC−10ATvp
オーブン:CTO−10ACvp
オートサンプラー:SIL−10ADvp
検出器:RID−10A,RF−10AxL
・解析ソフトウェア:Class−VP,Class−VP用GPC解析ソフトウェア
・検出器:蛍光(FL)検出器(励起波長:360nm;蛍光波長:420nm);示差屈折率(RI)検出器(温度:40℃)
・注入量:100μL
・分析時間:40分
【0056】
[試験例]
(マウスの群分け)
一般状態が良好なマウス(4週齢、雄、C57BL/6Jマウス、日本チャールス・リバー)20頭を、初体重(平均)が群間でバラつかないように各群10頭の2群(対照群、分解β−グルカン群)に分けた。
【0057】
(試験飼料の調製)
各群のマウスに投与する試験飼料は、粉末飼料AIN93Gをベースにして、表2の組成が得られるように調製した。表中、各成分量の単位はg/kg飼料である。
【0058】
【表2】

【0059】
(試験飼料の投与)
1週間馴化飼育した後、各群のマウスに所定の試験飼料及び水道水を8週間自由に摂取させた。馴化飼育期間及びその後の試験飼料投与期間を通じて、マウスは、温度22±3℃、相対湿度55±20%、換気回数12回/時、明暗時間12時間(明期:8時〜20時)の条件下で個別飼育した。馴化飼育期間中は、飼料としてAIN93Gをそのまま使用した。
【0060】
(血漿中脂質量、脂肪重量、脂肪細胞サイズ、糞中脂質量の測定)
試験飼料投与開始から2週間後、各群のマウスについて心採血を行い、血漿トリグリセリド値及び血漿総コレステロール値を測定した。
【0061】
また、試験飼料投与開始から8週間後、各群のマウスについて、エーテル麻酔下、心採血、解剖を行い、副睾丸周辺脂肪重量、後腹壁脂肪重量、腸間膜脂肪細胞サイズ、糞中総脂質量、糞中総コレステロール量及び糞中胆汁酸量を測定した。
【0062】
(結果)
結果(平均±標準偏差)を表3〜10及び図3〜10に示す。図3は、各群のマウスの血漿トリグリセリド値を示すグラフである。図4は、各群のマウスの血漿総コレステロール値を示すグラフである。図5及び6は、それぞれ、各群のマウスの副睾丸周辺脂肪重量及び後腹壁脂肪重量を示すグラフである。図5及び6において、(a)のグラフは個体当たりの脂肪重量を示し、(b)のグラフは体重100g当たりの脂肪重量を示す。図7は、各群のマウスの腸間膜脂肪細胞サイズを示すグラフである。図8は、各群のマウスの糞中総脂質量を示すグラフである。図9は、各群のマウスの糞中総コレステロール量を示すグラフである。図10は、各群のマウスの糞中胆汁酸量を示すグラフである。
【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

【0065】
【表5】

【0066】
【表6】

【0067】
【表7】

【0068】
【表8】

【0069】
【表9】

【0070】
【表10】

【0071】
表3〜7及び図3〜7から明らかなように、血漿トリグリセリド値、血漿総コレステロール値、副睾丸周辺脂肪重量、後腹壁脂肪重量及び腸間膜脂肪細胞サイズはいずれも、分解β−グルカン群において、対照群に比べて低い値を示した。また、表8〜10及び図8〜10から明らかなように、糞中総脂質量、糞中総コレステロール量及び糞中胆汁酸量はいずれも、分解β−グルカン群において、対照群に比べて顕著に高い値を示した。
【0072】
以上の実施例により、本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤は、内臓脂肪蓄積、脂肪細胞肥大化、トリグリセリド蓄積及びコレステロール蓄積を抑制し、これを介して内臓脂肪型肥満ないしメタボリックシンドロームを改善又は予防することが可能であることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
β−1,3−1,4−グルカンの分解物を有効成分として含有し、当該分解物の重量平均分子量が1000Da以上50000Da未満であるメタボリックシンドローム改善又は予防剤。
【請求項2】
内臓脂肪蓄積抑制剤として使用される、請求項1に記載のメタボリックシンドローム改善又は予防剤。
【請求項3】
脂肪細胞肥大化抑制剤として使用される、請求項1又は2に記載のメタボリックシンドローム改善又は予防剤。
【請求項4】
トリグリセリド蓄積抑制剤として使用される、請求項1〜3のいずれか一項に記載のメタボリックシンドローム改善又は予防剤。
【請求項5】
コレステロール蓄積抑制剤として使用される、請求項1〜4のいずれか一項に記載のメタボリックシンドローム改善又は予防剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のメタボリックシンドローム改善又は予防剤を含有する飲食品。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のメタボリックシンドローム改善又は予防剤を含有する飲食品添加物。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のメタボリックシンドローム改善又は予防剤を含有する飼料。
【請求項9】
β−1,3−1,4−グルカンの分解物を含有し、当該分解物の重量平均分子量が1000Da以上50000Da未満である組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の組成物を製造するための方法であって、
β−1,3−1,4−グルカンを含有する植物の粉砕物をα−アミラーゼで分解処理するα−アミラーゼ処理工程と、
α−アミラーゼ処理工程で得られた反応混合物中のβ−1,3−1,4−グルカンをβ−グルカナーゼ及び/又はセルラーゼで分解するβ−グルカン分解工程と、
を含む方法。
【請求項11】
α−アミラーゼ処理工程で得られた反応混合物からβ−1,3−1,4−グルカン含有画分を得る画分取得工程、をα−アミラーゼ処理工程の後に実施し、得られたβ−1,3−1,4−グルカン含有画分をβ−グルカン分解工程に供する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
画分取得工程において、前記反応混合物を固液分離して液層を得る、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
画分取得工程において、更に、前記液層をアルコール沈殿して沈殿物を得る、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記植物がイネ科植物である、請求項10〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記粉砕物が、植物の種子の粉砕物である、請求項10〜14のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−241769(P2010−241769A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95162(P2009−95162)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(303040183)サッポロビール株式会社 (150)
【Fターム(参考)】