説明

メタボリックシンドローム治療剤

【目的】 食用担子菌類子実体もしくは菌糸体から安全性の高い、新規なメタボリックシンドローム治療剤または、新規な中性脂肪低下食品として有用なβグルカンおよび複合糖質含有植物性キトサンの製造方法を提供する。
【構成】 エノキダケの子実体もしくは菌糸体から得られる水性溶媒に可溶なβグルカンおよび複合糖質含有植物性キトサンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なメタボリックシンドローム治療剤であるβグルカンおよび複合糖質含有植物性キトサンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、担子菌類の様々な生理活性が注目され、メタボリックシンドローム予防または治療作用、中性脂肪低下作用などが指摘されている。その他、抗がん作用、免疫賦活作用、コレステロール低下作用、抗血栓、血圧降下、血糖降下など多岐にわたる有効な成分が証明されつつあり、新しい医薬品の開発や機能性食品の素材として注目されている。
【0003】
このような各種生理活性の中でも、担子菌類の持つ植物性キトサンの血中コレステロール低下作用については研究報告の数が極めて少なく、これまでにエノキダケの抽出物から得られた成人病予防作用をもつ植物性キトサンおよびその製造方法(特許文献1)などの特許出願があるだけである。またエノキダケのもつ植物性キトサンのコレステロール低下作用(非特許文献1)が学会等で報告されている。
【0004】
近年になってメタボリックシンドロームが注目されるようになって、血中コレステロールの低下作用や中性脂肪の低下作用がますます重要になってきた。メタボリックシンドロームは、次のような症状をあらわす。高血糖症、高血圧、肥満、HDLコレステロール低下、トリグリセリドの上昇。関連する病気は、脂肪肝、多嚢胞性卵巣症候群、ヘモクロマトーシス、黒色表皮腫、非アルコール性脂肪肝などである。
メタボリックシンドロームの診断基準
日本高血圧学会、日本肥満学会などが「メタボリックシンドローム」という新たな概念を使った「診断基準」を作成、日本内科学会で発表した。診断基準は、目安としてウエストサイズ(男性で85センチ、女性で90センチ以上)を第一条件とした上で、(1)最高血圧が130以上か最低血圧が85以上(2)空腹時の血糖値が110以上(3)中性脂肪が150以上か善玉コレステロールが40未満の三項目のうち二つ以上が該当すれば、メタボリックシンドロームと判断する。このメタボリックシンドロームに該当する人は、日本国内で1千万人以上と推定されている。
ここには、米国の基準ではなくて、札幌医大の島本和明教授らが提唱する日本人の基準数値を上げておく。
1.ウエストが85cm以上;女性の場合は90cm以上
2.トリグリセリドの上昇;150mg/dl以上
3.HDLコレステロールの低下40mg/dl以下:女性の場合は50mg/dl引以下。
4.血圧が130/85以上。
5.グルコースレベルが110mg/dl以上である。
【0005】
メタボリックシンドロームの病理学
メタボリックシンドロームの原因は極めて複雑である。大抵の患者は老人で太っていて、インシュリン抵抗性に問題がある。肥満やインシュリン抵抗性がメタボリックシンドロームの原因であるのか結果なのか議論があるところである。炎症に関するマーカーがしばしば増加している。例えばCRP、フィブリノーゲン、インターロイキン6、TNFαなどである。通常の連鎖は、内臓脂肪の増大であるように思われる。このときTNFαの血中レベルが上がっている。TNFαは炎症性サイトカインの生産に関与するだけでなくインシュリン抵抗性をもたらすTNFα受容体とつながっている。食事の量を1/3に減らしたラットの実験では蔗糖がメタボリックシンドロームの発生のモデルになっている。蔗糖はまず血中のトリグリセリドを上昇させ、内臓脂肪を増やし、ついにはインシュリン抵抗性を引き起こしたのである。
また、肥満で巨大化した脂肪細胞から出る「飽和脂肪酸」が免疫細胞の働きを活性化し、さらに今度は免疫細胞が脂肪細胞を活性化し、脂肪細胞から炎症性タンパク質が出ることや、内臓脂肪が溜まると脂肪細胞から出るアディポネクチンが減少することなどが動脈硬化をひきおこす原因であるという研究がある。
【0006】
治療法:
主な治療法はライフスタイルである。すなわちカロリー制限と運動である。しかしながら医薬品による治療も平行して行われる。高血圧にはACEインヒビター、コレステロール薬は、LDLコレステロールを下げる。インシュリンの抵抗性を下げるためにメトフォルミンやチアゾリディンディオンなどが投与される。
【特許文献1】特願2004−542850
【非特許文献1】岡崎英雄:キトグルカンの脂質吸収抑制の影響について、Food Style21,9(2),28−30(2005)
【非特許文献2】中村泰子,大岡淑恵ら:成人女性の体重および体脂肪に及ぼすキノコキトサンの影響、Food Style21,10(3),29−33(2006)
【非特許文献3】岡崎英雄:キノコキトサンのダイエット効果の検討、Food Style21,10(6),85−90(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ライフスタイルの変更もしくは改善がメタボリックシンドロームの最有力な治療法であるが、これを実現するのは実際には極めて困難であることがしばしば指摘されている。すなわち好物の食べものを止めるか半分以下に減らし、慣れない運動に精を出す、例えば一駅手前で電車などを降りて歩くとか、夕食後に1時間歩くとか、食習慣や生活習慣を変えるのは人生を根本から覆すほどの出来事なのである。生活習慣を変えることなくメタボリックシンドロームを治療できないものだろうか。本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、食用キノコを有効利用し、副作用の極めて少ない、新規なメタボリックシンドロームの予防または治療に有用なβグルカンおよび複合糖質含有植物性キトサンの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はエノキタケ、シイタケ、マッシュルーム、マイタケの子実体または菌糸から得られる新規なメタボリックシンドローム治療または予防に有用なβグルカンおよび複合糖質含有植物性キトサンの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明者等は、かかる問題を解決するべく担子菌類由来で副作用の少ない新規なメタボリックシンドローム治療剤を鋭意検索した結果、食用担子菌のうち、エノキダケ、シイタケ、マッシュルーム、マイタケの子実体または菌糸体抽出液から新規なメタボリックシンドローム治療剤が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明者等は、すでに担子菌類から得られる植物性キトサンが、生活習慣病の改善に有用であることを見出し、その製造法を特許出願している。しかしながら従前の方法は、高濃度の苛性ソーダを用いるなど簡単に家庭などで実施できるような製造法ではなかった。また、工業的に製造するにしても高濃度の熱苛性ソーダの使用などかなりの危険な作業工程があり、簡便な方法とはいい難い。本発明においては、さらにその製造法に工夫・改善を重ね、より安全で副作用の少ない天然の成分を食用の担子菌類から抽出することに成功した。
表1、表2および表3の結果から明らかなように、食用担子菌類であるエノキダケ、シイタケ、マッシュルーム、マイタケの子実体および菌糸体の水性溶媒抽出液から、新規なメタボリックシンドロームの予防または治療効果を持つβグルカンおよび複合糖質含有植物性キトサンが得られた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
βグルカンおよび複合糖質含有植物性キトサンを用いた医薬品又は食品
本発明のβグルカンおよび複合糖質含有植物性キトサンは、ウエスト、体重、血圧、血糖値、HbA1c、HDLコレステロール値、中性脂肪値等の低下作用を有する。従って、本発明のβグルカンおよび複合糖質含有植物性キトサンは、高血圧症や糖尿病などの生活習慣病、成人病の検査数値改善に大いに効果があり、医薬品又は食品の形態で使用するのに好適である。
本発明のβグルカンおよび複合糖質含有植物性キトサンを液剤の形態で使用するには、βグルカンおよび複合糖質含有植物性キトサンに、安息香酸ナトリウム、p−オキシ安息香酸メチル、デヒドロ酢酸ナトリウムなどの保存剤、リンゴ酸、アスコルビン酸、クエン酸、酢酸などの溶解補助剤、さらに着色剤、香料、風味剤、グルコース、マンニトールなどの甘味剤などを必要に応じて配合し、さらに蒸留水、生理食塩水などの希釈剤を必要に応じて加えて医薬品又は食品を調製する。
βグルカンおよび複合糖質含有植物性キトサンを有効成分とする医薬品は、通常、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、座剤等の固形製剤の形態に調製する。その際、これらの医薬製剤は、通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤などの稀釈剤又は賦形剤を用いて調製される。
錠剤の形態に形成するに際しては、担体としてこの分野で従来公知のものを広く使用でき、例えば乳糖、マンニトール、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、澱粉、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロースなどの賦形剤、蒸留水、生理食塩水、単シロップ、ブドウ糖液、澱粉液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドンなどの結合剤、乾燥澱粉、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、澱粉、乳糖などの崩壊剤、白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油などの崩壊抑制剤、酢酸、アスコルビン酸、リンゴ酸などの溶解吸収促進剤、グリセリン、澱粉、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状硅酸などの吸着剤、精製タルク、ステアリン酸塩、ポリエチレングリコールなどの滑沢剤などがあげられる。さらに錠剤は、必要に応じて糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠あるいは二重錠、多層錠とすることができる。
丸剤の形態に成形するに際しては、担体としてこの分野で従来公知のものを広く使用でき、例えばブドウ糖、乳糖、マンニトール、澱粉、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルクなどの賦形剤、アラビアゴム末、ゼラチンなどの崩壊剤などが挙げられる。座剤の形態に成形するに際しては、担体として従来公知のものを広く使用でき、例えばカカオ脂、高級アルコールのエステル類、ゼラチンなどが挙げられる。
有効成分として使用するβグルカンおよび複合糖質含有植物性キトサンの含有量は特に限定されず広範囲に選択されるが、通常製剤中に1〜90質量%、好ましくは10〜70%質量で含有させるのがよい。
投与量は特に限定されないが、用法、患者の年齢、性別、疾患の程度などの条件に応じて適宜選択すればよく、体重1kgに対してβグルカンおよび複合糖質含有植物性キトサンが0.1〜10mg、好ましくは0.5〜5mgとなる量を一日1〜4回に分けて経口投与する。βグルカンおよび複合糖質含有植物性キトサンの含有量が多いと、これが鉄分やビタミンを吸収、包接するために鉄分やビタミンの欠乏症になることがあるが、上記範囲の投与量であればβグルカンおよび複合糖質含有植物性キトサンの含有量が比較的低いので、鉄分やビタミンを補う必要はない。
本発明のβグルカンおよび複合糖質含有植物性キトサンを含有する食品は特に限定されないが、例えば、スープ、味噌汁、ドリンク、ゼリー、グミ等が挙げられる。これら食品中のβグルカンおよび複合糖質含有植物性キトサンの含有量は、好ましくは0.01〜5.0質量%、さらに好ましくは0.02〜1.0質量%、最も好ましくは0.05〜0.5質量%である。
【実施例】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0012】
エノキダケ250gに250mlまたは500mlの純水を加えて、圧力なべで加熱する。自然冷却をして、キノコから抽出液をろ別する。濾液中の植物性キトサンを定量して表1の結果を得た。植物性キトサンの含有量は、136mgまたは125mgであった。また水性溶媒に可溶なβグルカンおよび複合糖質含有キノコキトサンの含有量は、エノキダケ250gあたり7.70gまたは9.34gであった。
【表1】

抽出溶媒は、弱い有機酸、弱いアルカリ溶液および純水で行われる。βグルカンおよび複合糖質含有植物性キトサンの回収は、比較的容易である。さらに回収されたβグルカンおよび複合糖質含有植物性キトサンが、純植物性キトサンを含んでいることも証明された。
純植物性キトサンの定量法
βグルカンおよび複合糖質含有植物性キトサン中の純植物性キトサンの含有量は、以下の方法により行う。
βグルカンおよび複合糖質含有植物性キトサン粉末0.5gを正確に秤量し、これを5容量%酢酸に溶かして正確に100gとする。この溶液1gを200ml容の三角フラスコに正確にはかりとり、脱イオン水30mlを加え、充分攪拌混合する。指示薬として0.1%トルイジンブルー溶液2〜3滴を加え、N/400ポリビニル硫酸カリウム溶液[(C2H3OSK)n、n=1500以上]で滴定する。脱アセチル化度(すなわちキトサン含有量=グルコサミン含有量)は下記の式に従って求める。
脱アセチル化度=(X/161)/[(X/161)+(Y/203)]×100(%)
ここに、X=(1/400)×(1/1000)×f×161×v
Y=0.5×(1/100)−X
v=N/400ポリビニル硫酸カリウム溶液滴定値(ml)
f=N/400ポリビニル硫酸カリウム溶液のファクター
ファクターfは1.005である。
式を書き直すと
脱アセチル化度=[203X/(203X+161Y)]×100(%)
X=1.005×161×ν(滴定値;ml)
Y=5−X
ここで標準として、純植物性キトサンを用いると、試料中の純植物性キトサン含量を、植物性キトサン当量として、計算で求めることができる。
標準の純植物性キトサンの製造方法は、特願2002−295379に詳細に記されているが、簡単に再掲しておく。新鮮な担子菌類の子実体100gに等量の固形NaOHを加えて、100℃に4時間以上加熱する。これを水洗し、アルカリを除いてから10%−AcOHを500ml加えて酢酸酸性となし、布で濾過する。透明な濾液を40%−NaOHで中和し、pHを10以上にすると沈澱が生じ、白濁する。遠心分離でこの沈澱を回収し、中性になるまで水洗でアルカリを除去する。必要に応じて、この操作を数回繰り返す。得られた沈澱を凍結乾燥する。この方法で精製純キトサンが得られる。収率は、2〜3gである。
【実施例2】
【0013】
新鮮なエノキダケ、シイタケ、マッシュルーム、マイタケ各100gおよびエノキダケ80g+シイタケ20gの熱水抽出・有機酸抽出によるβグルカンおよび複合糖質含有植物性キトサンの収量は、
【表2】

熱水抽出したβグルカンおよび複合糖質含有植物性キトサンは、室温の純水に易溶である。しかしリンゴ酸抽出で得られたものは、純水を加えると濁りがでる。βグルカンおよび複合糖質含有植物性キトサンは、熱水に可溶で、エタノール80%で沈澱するというクライテリアを採用した。
【実施例3】
【0014】
新鮮なエノキダケ80g、シイタケ20gを細断し、少量の純水約30mlを加えて、フードプロセッサーにかける。これをビーカーに移し,純水200mlを加えて加熱する。沸騰後、弱い火力で20〜30分間加熱をつづける。室温にまで冷まし、4000rpm、10分間の遠心分離を行う。上清をβグルカンおよび複合糖質含有キノコキトサンとして回収する。このようにして製造されたβグルカンおよび複合糖質含有植物性キトサンに含まれる純植物性キノコキトサンの分析を行ったところ、約20mgの純植物性キノコキトサンが含まれていた。またこのようにして製造されたβグルカンおよび複合糖質含有植物性キトサンは、そのまま飲用することができるが、コンソメやブイヨンを加えるか、ミカンジュースやレモン、蜂蜜などを加えて調味して飲用に供することも可能である。
【実施例4】
【0015】
上記のようにして得られた担子菌類抽出液を毎日100ml、57歳男性に経口で6ヶ月間連続経口投与した結果を次表に示す。投与は朝夕2回に分けても良い。なお、この間の食事は、通常の食習慣を維持した。また特に運動を負荷していない。
【表3】

表3に見られるようにβグルカンおよび複合糖質含有植物性キトサンの長期連続経口投与により、投与前後の検査値に顕著な改善効果が観察された。被験者のライフスタイルすなわち運動量および食習慣は投与前後でほとんど変わっていないので、この改善効果は、純粋にβグルカンおよび複合糖質含有植物性キトサンによるものと推察される。
【産業上の利用分野】
【0016】
本発明は、食用担子菌類の子実体または菌糸体から得られ、特に新規なメタボリックシンドローム治療剤または中性脂肪低下食品として有用なβグルカンおよび複合糖質含有植物性キトサンの製造方法に関するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用担子菌類の子実体もしくは菌糸体から水性溶媒によって抽出されるβグルカンおよび複合糖質含有植物性キトサンの製造方法。
【請求項2】
食用担子菌類がエノキダケ、マッシュルーム、シイタケ、マイタケであることを特徴とするβグルカンおよび複合糖質含有植物性キトサンの製造方法。
【請求項3】
抽出に用いる水性溶媒が、希薄な有機酸もしくは無機酸水溶液、純水および鉱水、希薄なアルカリ性水溶液であることを特徴とするβグルカンおよび複合糖質含有植物性キトサンの製造方法。

【公開番号】特開2007−332336(P2007−332336A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−188585(P2006−188585)
【出願日】平成18年6月13日(2006.6.13)
【出願人】(591163546)株式会社リコム (7)
【Fターム(参考)】