説明

メタボリック症候群の検査方法

【課題】メタボリック症候群を予測するための検査方法を提供する。
【解決手段】MKKS(McKusick-Kaufman syndrome )遺伝子上の特定の位置に存在する、rs1547の一塩基多型、または該塩基と連鎖不平衡にある塩基の一塩基多型を分析し、該分析結果に基づいてメタボリック症候群を検査する方法。および、該領域の塩基配列またはその相補配列を含むメタボリック症候群検査用プローブと、該塩基領域を増幅できる該症候群検査用プライマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遺伝子解析によりメタボリック症候群を検査する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタボリック症候群は肥満、糖代謝異常、脂質異常、高血圧などの複数の代謝異常を呈する病態で(非特許文献1)、近年、食生活やライフスタイルの変化に伴って増加している。メタボリック症候群は進行すると糖尿病や動脈硬化などの疾患の発症につながる危険性があるため、早めにその発症を予測し、食生活の改善等に努めることが重要である。
メタボリック症候群と遺伝的要因の関連に関しても幾つか報告があり(非特許文献2、3)、非特許文献2ではメタボリック症候群と関連する染色体上の部位について報告されている。しかしながら、この部位とメタボリック症候群との関連は必ずしも明確ではなく、より正確にメタボリック症候群発症を予測できる遺伝子解析法の開発が求められていた。
【0003】
McKusick-Kaufman syndrome(MKKS)遺伝子はMcKusick-Kaufman症候群の原因遺伝子であり、コードするタンパク質が細胞質シャペロニンにホモロジーを有することは知られているが、実際の生理的機能は不明である。非特許文献4においては、MKKS遺伝子が、肥満、網膜症、多指、認識機能障害などを呈する小児の発達障害であるBardet-Biedl 症候群 (BBS)の原因遺伝子BBS6としてその遺伝子異常と同疾患との関連が調べられている。そして、非特許文献4では、MKKS遺伝子の一塩基多型とメタボリック症候群との相関も報告されている。しかしながら、この文献ではMKKS遺伝子の一塩基多型のうち、rs6108572、rs2211667の多型のみがメタボリック症候群と相関すると記載されており、下流側に存在する塩基の多型とメタボリック症候群との関連は示されていなかった。また、文献4ではフランス系白人の小児における代謝異常との関連のみが示されており、成人のメタボリック症候群との関連は示されていない。
【非特許文献1】Diabetes 53:2087-2094 (2004)
【非特許文献2】Nat Clin Pract Cardiovasc Med 3:482-489 (2006)
【非特許文献3】Obesity Research 13:381-490 (2005)
【非特許文献4】Diabetes 55:2876-2882 (2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、メタボリック症候群の発症や進行を正確に予測するための検査方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、MKKS遺伝子上の配列番号1の61番目の塩基に相当する塩基の一塩基多型または該塩基と連鎖不平衡にある塩基の一塩基多型がメタボリック症候群に関連することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)McKusick-Kaufman syndrome 遺伝子上の配列番号1の61番目の塩基に相当する塩基の一塩基多型または該塩基と連鎖不平衡にある塩基の一塩基多型を分析し、該分析結果に基づいてメタボリック症候群を検査する方法。
(2)前記配列番号1の61番目の塩基に相当する塩基と連鎖不平衡にある塩基が、配
列番号2の61番目の塩基、または配列番号3の61番目の塩基に相当する塩基である、(1)の方法。
(3)配列番号1〜3のいずれかの塩基配列において、塩基番号61番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するメタボリック症候群検査用プローブ。
(4)配列番号1〜3のいずれかの塩基配列において、塩基番号61番目の塩基を含む領域を増幅することのできるメタボリック症候群検査用プライマー。
(5)(3)のプローブまたは(4)のプライマーを含む、メタボリック症候群検査用キット。
【発明の効果】
【0007】
本発明の検査方法により、メタボリック症候群の発症リスクや進行を正確に予測することができるため、メタボリック症候群を予防したり、糖尿病や動脈硬化などへの発展を抑えたりすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
<1>本発明の検査方法
本発明の検査方法は、McKusick-Kaufman Syndrome(MKKS)遺伝子上に存在する塩基(rs1547:SNP-1)の一塩基多型(SNP;single nucleotide polymorphism)または該塩基と連鎖不平衡にある塩基の一塩基多型を分析し、該分析に基づいてメタボリック症候群を検査する方法である。メタボリック症候群としては、例えば、J Atheroscler Thromb
13:202-208, 2006に記載の基準に基づいて定められる病態が例示される。なお、本発明において、「検査」とは、現在メタボリック症候群を発症しているどうかの検査、および将来メタボリック症候群になるかどうかを予測するための検査を含む。
本発明の検査方法の対象は特に制限されないが、日本人が好ましく、日本人の成人(20歳以上)がより好ましい。
【0009】
MKKS遺伝子としては、ヒトMKKS遺伝子が好ましく、例えば、GenBank Accession No. NM_170784.1に登録された配列を有する遺伝子を挙げることができる。ただし、該遺伝子は人種の違いなどによって1又は複数の塩基に置換や欠失等が存在する可能性があるため、上記配列の遺伝子に限定されない。
【0010】
rs1547と連鎖不平衡にある塩基としては、例えば、rs1545(SNP-2)、rs2294901(SNP-3)が挙げられる。
SNP-1〜SNP-3について表1にまとめた。
【0011】
【表1】

【0012】
表1において、例えば、SNP-1はGenBank Accession No. NT_011387.8の10326059番目の塩基におけるシトシン(C)/チミン(T)の多型を意味し、この塩基がTである場合はメタボリック症候群になる確率が高い。また、アレルを考慮して解析した場合は、SNP-1がTT>TC>CCの順でメタボリック症候群になる確率が高い。SNP-1はMKKS遺伝子のCDS領域内に存在するSNPである。dbSNPはNational Center for Biotechnology InformationのdbSNPデータベース(//www.ncbi.nlm.nih.gov/projects/SNP/)の登録番号を示す。
SNP-2はGenBank Accession No. NT_011387.8の10326013番目の塩基におけるグアニン(G)/チミン(T)の多型を意味し、この塩基がTである場合はメタボリック症候群になる確率が高い。また、アレルを考慮して解析した場合は、SNP-2がTT>TG>GGの順でメタボリック症候群になる確率が高い。SNP-2はMKKS遺伝子のCDS領域内に存在するSNPである。
SNP-3はGenBank Accession No. NT_011387.8の10325503番目の塩基におけるチミン(T)/シトシン(C)の多型を意味し、この塩基がCである場合はメタボリック症候群になる確率が高い。また、アレルを考慮して解析した場合は、SNP-3がCC>TC>TTの順でメタボリック症候群になる確率が高い。SNP-3はMKKS遺伝子の3’隣接領域内に存在するSNPである。
【0013】
なお、SNP-1〜SNP-3について、SNP塩基及びその前後60bpの領域を含む合計121bpの長さの配列を、それぞれ配列番号1〜3に示した。それぞれ61番目の塩基が多型を有する。
これらの塩基に相当する塩基を本発明においては解析する。ここで、「相当する」とは、ヒトMKKS遺伝子上の上記配列を有する領域中の該当塩基を意味し、仮に、人種の違いなどによって上記配列がSNP以外の位置で若干変化したとしても、その中の該当塩基を解析することも含む。
【0014】
上記SNPの塩基の種類を調べることによって、メタボリック症候群を検査することができる。検査するSNPの数は、一種類でもよいし、複数(ハプロタイプ解析)でもよい。なお、SNP-1がTであれば他のSNPも左側の塩基(SNP-2=T、SNP-3=C)であるというように、上記SNPのタイプは互いに相関するため、一箇所のみを解析することによっても十分正確なメタボリック症候群の予測を行うことができる。なお、MKKS遺伝子の配列はセンス鎖を解析してもよいし、アンチセンス鎖を解析してもよい。
また、本発明において解析する塩基は上記のものに限定されず、SNP-1と連鎖不平衡にあるその他の塩基の多型を分析してもよい。ここで「上記の塩基と連鎖不平衡にある塩基」とは、上記の塩基とr2>0.5の関係を満たす塩基をいう。
【0015】
MKKS遺伝子の一塩基多型の解析に用いる試料としては、染色体DNAを含む試料であれば特に制限されないが、例えば、血液、尿等の体液サンプル、細胞、毛髪等の体毛、爪などが挙げられる。一塩基多型の解析にはこれらの試料を直接使用することもできるが、これらの試料から染色体DNAを常法により単離し、これを用いて解析することが好ましい。
【0016】
MKKS遺伝子の一塩基多型の解析は、通常の一塩基多型解析方法によって行うことができる。例えば、シークエンス解析、PCR、ハイブリダイゼーションなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
シークエンスは通常の方法により行うことができる。具体的には、多型を示す塩基の5’側 数十塩基の位置に設定したプライマーを使用してシークエンス反応を行い、その解析結果から、該当する位置がどの種類の塩基であるかを決定することができる。なお、シークエンスを行う場合、あらかじめ多型を含む断片をPCRなどによって増幅しておくことが好ましい。
【0018】
また、PCRによる増幅の有無を調べることによっても解析することができる。例えば、多型を示す塩基を含む領域に対応する配列を有し、かつ、各多型に対応するプライマーをそれぞれ用意する。それぞれのプライマーを使用してPCRを行い、増幅産物の有無によってどのタイプの多型であるかを決定することができる。
【0019】
また、多型を含むDNA断片を増幅し、増幅産物の電気泳動における移動度の違いによっ
てどのタイプの多型であるかを決定することもできる。このような方法としては、例えば、PCR-SSCP(single−strand conformation polymorphism)法(Genomics. 1992 Jan 1; 12(1): 139−146.)が挙げられる。具体的には、まず、MKKS遺伝子の多型部位を含むDNAを増幅し、増幅したDNAを一本鎖DNAに解離させる。次いで、解離させた一本鎖DNAを非変性ゲル上で分離し、分離した一本鎖DNAのゲル上での移動度の違いによってどのタイプの多型であるかを決定することができる。
【0020】
さらに、多型を示す塩基が制限酵素認識配列に含まれる場合は、制限酵素による切断の有無によって解析することもできる(RFLP法)。この場合、まず、DNA試料をPCRで増幅し、それを制限酵素により切断する。次いで、DNA断片を分離し、検出されたDNA断片の大きさによってどのタイプの多型であるかを決定することができる。
【0021】
ハイブリダイゼーションの有無を調べることによって多型の種類を解析することも可能である。すなわち、各多型に対応するプローブを用意し、いずれのプローブにハイブリダイズするかを調べることによってSNPがいずれの塩基であるかを調べることもできる。
【0022】
<2>本発明の検査用試薬
本発明はまた、メタボリック症候群を検査するためのプライマーやプローブなどの検査試薬を提供する。このようなプローブとしては、MKKS遺伝子における上記多型部位を含み、ハイブリダイズの有無によって多型部位の塩基の種類を判定できるプローブが挙げられる。具体的には、配列番号1〜3のいずれかの塩基配列の61番目の塩基を含む配列、又はその相補配列を有する10塩基以上の長さのプローブが挙げられる。プローブの長さはより好ましくは15〜35塩基である。
また、プライマーとしては、MKKS遺伝子における上記多型部位を増幅するためのPCRに用いることのできるプライマー、又は上記多型部位を配列解析(シークエンシング)するために用いることのできるプライマーが挙げられる。具体的には、配列番号1〜3のいずれかの塩基配列の61番目の塩基含む領域を増幅したりシークエンシングしたりすることのできるプライマーが挙げられる。このようなプライマーの長さは10〜50塩基が好ましく、15〜35塩基がより好ましい。
上記多型部位をシークエンシングするためのプライマーとしては、上記塩基の5’側領域、好ましくは30〜100塩基上流の配列を有するプライマーや、上記塩基の3’側領域、好ましくは30〜100塩基下流の領域に相補的な配列を有するプライマーが例示される。PCRによる増幅の有無で多型を判定するために用いるプライマーとしては、上記塩基を含む配列を有し、上記塩基を3’側に含むプライマーや、上記塩基を含む配列の相補配列を有し、上記塩基の相補塩基を3’側に含むプライマーなどが例示される。
なお、本発明の検査用試薬はこれらのプライマーやプローブに加えて、PCR用のポリメラーゼやバッファー、ハイブリダイゼーション用試薬などを含むものであってもよい。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0024】
日本各地の医療機関から集められたメタボリック症候群患者および健常者ボランティアを被検者とし、以下のようにして、メタボリック症候群に関連するSNPsの探索を行った。
【0025】
下記の基準(J Atheroscler Thromb 13:202-208, 2006)でメタボリック症候群と診断された日本人729名(男性337名、女性392名:平均年齢54±14歳)を症例とした。
<メタボリック症候群>
1.トリグリセリド値150mg/dL以上及び/又はHDL−コレステロール値40mg/dL未満、あるいはこれらの脂質異常を治療中
2.収縮期血圧130mmHg以上及び/又は拡張期血圧85mmHg以上、あるいは高血圧の治療中
3.空腹時血糖110mg/dL以上、または糖尿病の治療中
上記1〜3のうちの2項目以上に該当し、BMI25kg/m2以上の者をメタボリック症候群と診断した。(なお、一般のメタボリック症候群の診断にはBMIの代わりにウエスト周囲が使用される。すなわち、ウエスト周囲が男性で85cm以上、女性で90cm以上、かつ、上記1〜3のうちの2項目以上に該当すればメタボリック症候群と診断される。ウエスト周囲径、男性85cm、女性90cmは臍の高さで測定したCTによる内臓脂肪面積が100cm2に相当する。)
【0026】
<コントロール1>
上記基準によりメタボリック症候群に該当しなかった日本人1524名(男性543名、女性981名:平均年齢53±16歳)をコントロール1とした。
<コントロール2>
コントロール2はコントロール1の中から、BMI25kg/m2未満で上記代謝異常のない者を選んだ(441名(男性112名、女性329名:平均年齢47±16歳)。
症例、コントロール1、コントール2の性質を表2にまとめた。
なお、いずれの被検者からも書面のインフォームドコンセントを得たうえで、各病院施設の倫理委員会及び理化学研究所の承認を得たプロトコルに基づいて解析を行った。
【0027】
【表2】

【0028】
<DNAの調製とSNPジェノタイピング>
試料として、各被検者の血液サンプルから染色体DNAを、通常の手順にて調製した。
Obesity Research 13:381-490., 2005に挙げられた遺伝子群におけるSNPsからメタボリック症候群関連SNPsを探索した。まずは、その遺伝子群におけるSNPsをJSNPデータベース(IMS-JST: Institute of Medical Science-Japan Science and Technology Age
ncy Japanese SNP database:Nucleic. Acids. Res., 30, 158-162)より探索したところ、122遺伝子について合計755個のSNPsが見つかった。そのうち、マイナーアレル頻度が0.2より大きく、予想されるアレル頻度がHWE(p>0.001)から大きく逸れない336個のSNPsを本試験では採用した。なお、HWEテストはHardy-Weinberg equilibrium test(Nealsen, D.M., Ehm, M.G. & Weir, B.S. Am. J. Hum. Gent. 63, 153-1540 (1998))を示す。
これらのSNPsに対してインベーダープローブ(Third Wave Technologies)を設計し、症例群とコントロール群について、マルチPCRとインベーダーアッセイ(Ohnishi, Y. et al. J. Hum. Genet. 46, 471-477 (2001))の組み合わせにより各SNPsをジェノタイピングした。
【0029】
まず、症例(Case)群とコントロール1群を用いて、ケース−コントロール相関スタディを行った。該スタディにおいて最もP値が小さかった10個のSNPsを表3に示す。Rs番号はJSNPデータベースの番号である。
【0030】
【表3】

症例群とコントロール群の間でのジェノタイプとアレルの頻度はFisher's exact testによって解析した。相関テストは3種類のモードで行った。(1)アレル頻度モード:2×2の分割表を用いて症例とコントロール間でアレル頻度を比較した、(2)優性モード
:2×2の分割表を用いてアレル1のホモザイゴートとヘテロザイゴートを他(アレル2のホモザイゴート)と比較した、(3)劣性モード:2×2の分割表を用いてアレル1のホモザイゴートの頻度をその他と比較した。危険率(Odds ratio)及び95%信頼区間(c.i.)はWoolfの方法に従った。さらに、各SNP解析において並べ替え検定を行い、各SNPsについて最小p値の経験分布を作成し、その分布に基づいて得られた経験P値を補正P値とした。
【0031】
これらのSNPsについてBonferroniの補正を行ったところ、いずれのSNPsもメタボリック症候群との有意な相関が見られなくなった。これは、コントロール1はBMI25未満であっても代謝異常のリスクを複数個持っていたり、BMIが25以上で代謝異常を1個持っていたり、潜在的なメタボリック症候群患者も含んでいることが原因と考えられたので、これら10個のSNPsについて、症例(Case)群とコントロール2群の間で比較した。保存的Bonferroniの補正を行ったところ、MKKS遺伝子の3個のSNPs(rs2294901、rs1547、rs1545)についてメタボリック症候群との有意な相関が見られた(表4)。また、Q値も低い値を示した(表4)。なお、Q値はQ-VALUE (http://faculty.washington.edu/~jstorey/qvalue/)によって計算した。
【0032】
【表4】

なお、アレル1,2は表3と同じ塩基を示している。なお、表3、4において、NPYはNeuro peptide Y遺伝子、MYO9AはミオシンIXA遺伝子を示す。
【0033】
また、log-quantile-quantile P-value plot(Nat Rev Genet 10:781-791, 2006)によれば、これら3個のMKKS遺伝子のSNPsの補正されたP値は予想される値よりも有意に低い
ことがわかった(図1)。
また、Empirical FWER(family-wise type I error rate)(Am J Hum Genet. 71:1386−1394, 2002)は0.025であり、MKKS遺伝子の上記SNPsがメタボリック症候群に相関していることが強く示唆された。
以上より、メタボリック症候群に相関するMKKS遺伝子のSNPsが同定された。非特許文献4において、MKKS遺伝子はBBSの原因遺伝子としてフランス人におけるSNPs(rs6108572、rs221667)と肥満や代謝異常との相関が示されているが、今回はこれらの上流側のSNPsではなく、MKKS遺伝子の下流側に存在するSNPsとメタボリック症候群との相関が見出された。
【0034】
上記MKKS遺伝子の3個のSNPsについてLD(連鎖不平衡)係数(Genomics 29:311-322, 1995)を算出したところ、表5のようになり、これら3個のSNPsが連鎖不平衡にあることがわかった。
【0035】
【表5】

【0036】
メタボリック症候群は加齢とともに増加し、男性のほうが女性より6−7倍多いことが報告されている。そこで、性別と年齢の影響を調べるため、logistic回帰分析を行った。Objective変数にはメタボリック症候群か否かの2値変数を使用し、Explanatory変数は年齢、性別、SNPを使用した。統計解析にはsoftware R (http://www.r-project.org/)を使用した。
結果を表6に示す。それによると、年齢及び性別で補正した後もMKKS遺伝子のSNPsはメタボリック症候群と有意に相関することがわかった。すなわち、上記SNPsは性別、年齢などの他の変数の影響を受けることなく、メタボリック症候群に相関することが示唆された。
【0037】
【表6】

【0038】
CTスキャンによって測定された内臓脂肪面積が100cm2以上であり、上記1〜3のうちの2項目以上を満たす者をケースとし、内臓脂肪面積が100cm2未満で上記項目のいずれにも該当しない者をコントロールとして、MKKS遺伝子のSNP(rs1547)との相関を調べた。その結果、表7に示されるように、MKKS遺伝子のSNPは内臓脂肪面積が100cm2以上で上記1〜3のうちの2項目以上を満たすという指標によって診断されるメタボリック症候群に対しても有意に相関することがわかった。
【0039】
【表7】

なお、表7におけるアレル1,2は表3と同じ塩基を示している。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】症例とコントロール2の解析のためのlog-quantile-quantile 補正P値プロット。水平方向の線はY=-Log10(0.05/336)であり、Bonfferoni補正を用いた有意性の閾値を示す。3つのSNPsが有意性の閾値に達した。黒の点が有意なSNPsを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
McKusick-Kaufman syndrome 遺伝子上の配列番号1の61番目の塩基に相当する塩基の一塩基多型または該塩基と連鎖不平衡にある塩基の一塩基多型を分析し、該分析結果に基づいてメタボリック症候群を検査する方法。
【請求項2】
前記配列番号1の61番目の塩基に相当する塩基と連鎖不平衡にある塩基が、配列番号2の61番目の塩基または配列番号3の61番目の塩基に相当する塩基である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
配列番号1〜3のいずれかの塩基配列において、塩基番号61番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するメタボリック症候群検査用プローブ。
【請求項4】
配列番号1〜3のいずれかの塩基配列において、塩基番号61番目の塩基を含む領域を増幅することのできるメタボリック症候群検査用プライマー。
【請求項5】
請求項3に記載のプローブまたは請求項4に記載のプライマーを含む、メタボリック症候群検査用キット。

【図1】
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【公開番号】特開2009−27985(P2009−27985A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−195967(P2007−195967)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】