説明

メタボロミクスを使用した薬物発見、疾患の処置、及び診断のための方法

【課題】細胞、細胞コンパートメント、及び特定のオルガネラ(例えば、ミトコンドリア、ゴルジ、小胞体、細胞質、核等)の低分子プロファイルの作製及び分析に関する方法を提供する。
【解決手段】細胞の低分子プロファイルを比較して、改変された状態において変調される低分子を同定する。細胞低分子ライブラリー、組織起源を同定する方法、遺伝学的疾患及び非遺伝学的疾患を処置するための方法、並びに薬物の効力を予測するための方法も、開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本明細書は、2000年10月11日出願の「メタボロミクスを使用した薬物発見、疾患の処置、及び診断のための方法(Methods for Drug Discovery,Disease Treatment,and Diagnosis Using Metabolomics)」なる名称の米国仮出願第60/239,340号;2000年10月10日出願の「メタボロミクスを使用した薬物発見、疾患の処置、及び診断のための方法(Methods for Drug Discovery,Disease Treatment,and Diagnosis Using Metabolomics)」なる名称の米国仮出願第60/239,541号;2000年4月14日出願の「細胞の低分子プロファイル及びそれらの使用法(Small Molecule Profiles of Cells and Methods Of Use Thereof)」なる名称の米国仮出願第60/197,117号;及び2000年4月14日出願の「細胞低分子ライブラリー(Cellular Small Molecule Libraries)」なる名称の米国仮出願第60/197,085号に基づく優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景:
生存している生物は、多様な低分子セットを含む、自律性の化学的な系である。生体系において見出される低分子には、例えば、糖、脂肪酸、アミノ酸、ヌクレオチド、並びに代謝経路及びシグナル伝達経路の中間体が含まれる。糖は、細胞のための主要な化学的エネルギー源である。細胞は、一連の酸化反応によって、糖を小さい糖誘導体へ、そして最終的にはCO2及びH2Oへと分解する。脂肪酸は、エネルギー貯蔵のためにも、細胞膜の主成分としても使用される。アミノ酸は、タンパク質の構築ブロックである。ヌクレオチドは、細胞内シグナル伝達、エネルギー移動に関与しており、情報巨大分子RNA及びDNAのモノマーでもある。
【0003】
細胞低分子は、一般的には、6種の元素(C、H、N、O、P、S)より構成されている。水を除けば、炭素化合物が、細胞低分子の大部分を占めている。細胞低分子は、メチル基(CH3)、カルボキシル基(COOH)、及びアミノ基(NH2)のようなある種の特有の化学基を繰り返し使用する。
【0004】
一般的に、大部分の低分子が、同一の基本化合物から合成され、そしてそれらへと分解される。合成及び代謝は、酵素により触媒される、調節された化学反応の連鎖によって起こる。細胞の代謝反応の大部分は、多くの特有のオルガネラを含有している細胞質において起こる。例えば、ミトコンドリアは、呼吸及びエネルギー生成を担っている。ミトコンドリアは、酸素を代謝物と組み合わせてATPを作成することにより、含まれているエネルギーを活用する真核細胞の「パワー工場」である。細胞のその他のオルガネラには、分泌、又は他のオルガネラへの送達のための、巨大分子の修飾、分類、及びパッケージングに関与している、膜と結合した扁平な小嚢が重積している系であるゴルジ体が含まれる。小胞体(ER)は、真核細胞の細胞質全体に拡がる、一連の膜の扁平なシート、小嚢、及び管である。ER膜は、核膜の外膜と構造的に連続しており、脂質及び膜タンパク質の合成及び輸送を専門に行う。
【発明の概要】
【0005】
発明の概要:
近年、科学者らは、生物の全ゲノムの目録作成(例えば、ゲノミクス)によって、細胞及び生体系を研究することを試みてきた。ゲノミクスは、生体系の遺伝子の総体を同定し検索するために有用な、強力な道具である。最近、科学者らは、プロテオミクスによって、細胞又は生物の中に存在する全タンパク質を同定し検索することも試みている。しかしながら、ゲノミクス及びプロテオミクスを研究している大部分の製薬会社が、予期される生成物の多くは、タンパク質でも遺伝子でもなく、低分子であることを了解している。
【0006】
例えば、新規な遺伝子又は標的がゲノミクスにより発見されたなら、研究者は、まず、実際の疾患状態とはかけ離れた、多くの費用及び時間を要する手法を使用して、標的を確証しなければならない。典型的な確証法の例には、発現プロファイリング、ノックアウト・マウス又はトランスジェニック・マウスの作製、インサイチュー・ハイブリダイゼーション等が含まれる。標的が確証された後、研究者は、典型的な例として、タンパク質である標的と相互作用する分子を同定するため、膨大なランダムな低分子ライブラリーをスクリーニングする。同定された低分子は、典型的な例として、販売可能な生成物を得るため、化学合成によって最適化される。
【0007】
本発明は、少なくとも部分的には、細胞、細胞コンパートメント、及び特定のオルガネラ(例えば、ミトコンドリア、ゴルジ、小胞体、細胞質、核等)の低分子プロファイルの作製及び分析に関する。低分子プロファイルは、例えば疾患関連低分子及び薬物設計のための潜在的標的を見出すための、低分子の総体(例えば、メタボローム(metabolome))の同定及び検索を可能にする。
【0008】
細胞及びオルガネラの低分子プロファイルは、薬物候補を同定するために直接使用されうる。ゲノミクスとは異なり、低分子プロファイリングは、疾患状態と関連した遺伝子及びタンパク質を同定する過程を完全に排除するか、又は加速させる。本発明の一つの態様において、本発明の方法は、例えば罹患した細胞、細胞コンパートメント、及びオルガネラの低分子プロファイルを、健康な細胞、細胞コンパートメント、及びオルガネラの標準プロファイルと比較することを含む。従って、特定の罹患した細胞、細胞コンパートメント、及びオルガネラにおいて、特定の化合物が欠損していることが見出された場合、その欠損は、化合物又はそのアナログを単に投与することにより克服されうる。メタボロミクスは、潜在的な治療剤及び標的の同定のための新規な経路を提供する。
【0009】
メタボロミクスは、ゲノミクスに関する憶測の大部分を排除する。例えば、低分子プロファイリングは、細胞、細胞コンパートメント、又はオルガネラの低分子プロファイルを、毒素、化学的薬剤、又はその他の治療剤で処置された(又は、薬剤又は薬物で処置された生物に由来する)細胞、細胞コンパートメント、及びオルガネラのものと比較することにより、疾患状態に関与している極めて生化学的な経路(例えば、細胞代謝物)を調査することを可能にする。
【0010】
本発明には、潜在的な細胞薬物標的(例えば、標識された低分子と相互作用する細胞成分)を同定するための方法も含まれる。この方法は、疾患関連低分子と相互作用することが既知の化合物を同定することができるため、特に有用である。従って、この方法によって同定された標的は、「あらかじめ確証」されており、標的の選択に伴う憶測の一部が排除される。さらなる態様において、この方法は、さらなる研究のための標的を同定するためのさらなる確証工程として、従来のゲノミクスと共に使用されうる。
【0011】
ゲノミクスとは異なり、低分子プロファイリングは、遺伝学的成分を含む疾患状態に限定されない。多くの疾患状態は、遺伝学的には決定されておらず、ゲノミクスは、遺伝子と無関係の疾患状態に罹患している者、又はそのリスクを有する者に対してはほとんど貢献しない。従って、細胞及び生体系に対する非遺伝学的要因の効果を研究するための包括的な方法が必要とされている。
【0012】
細胞又はオルガネラの低分子プロファイリングは、遺伝子と関係のある疾患状態及び遺伝子と無関係の疾患状態の両方を研究するために使用されうる。例えば、本発明の方法は、体重障害、中枢神経系障害、心臓血管障害、免疫的障害、腫瘍学的障害等と関連した低分子を同定するために使用されうる。
【0013】
さらに、メタボロミクスは、ゲノミクス及び/又はプロテオミクスと直列的に使用されうる。例えば、低分子プロファイルは、人工的なものであっても天然に存在するものであってもよい細胞の遺伝学的な修飾又は改変によって制御される、変調される、又は関連した低分子を同定するために使用されうる。
【0014】
さらに、メタボロミクスは、予測医学の分野にも適用されうる。例えば、本発明は、個体の「メタボプリント(metaboprint)」に基づく、個体を予防的に処置するための予後判定(予測)目的のために使用されうる、診断アッセイ法、予後判定アッセイ法、薬理メタボロミクス、及び臨床試験のモニタリングに関する。遺伝学的要因に限定されている薬理ゲノミクスとは異なり、薬理メタボロミクスは、遺伝学的要因のみならず、患者体内の他の薬物、患者の現在の健康状態等のような非遺伝学的要因に基づく、薬物に対する個体の応答を予測することができる。薬理メタボロミクスは、適切な患者へ適切な薬物を送達するための、対象の低分子プロファイル(又は、「メタボプリント」)の使用を可能にする。対象は、低分子プロファイルに基づく、薬物に対する異なる応答を示す。
【0015】
本発明の細胞、細胞コンパートメント、及び/又は特定のオルガネラの低分子プロファイリングは、極微量の生物学的試料から個体を同定するためにも使用されうる。その方法には、対象から1個以上の試料を採取し、試料の低分子プロファイルを決定すること;未知の起源から試料を採取し、その低分子プロファイルを決定すること;及び低分子プロファイルが同一個体に由来するか否かを決定するため、2つの低分子プロファイルを比較すること:が含まれる。
【0016】
本発明は、例えば、本発明の方法により同定された化合物と薬学的担体とを含む薬学的組成物にも関する。
【0017】
本発明のもう一つの態様において、本発明は、農学的に使用するための殺虫剤、除草剤、及びその他の組成物の同定のための方法も含む。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の詳細な説明:
1. 細胞、細胞コンパートメント、及びオルガネラの低分子プロファイル
本発明は、少なくとも部分的には、試料、細胞、及び細胞コンパートメントの低分子プロファイルの作製に関する。低分子プロファイルは、細胞又は細胞コンパートメントの「指紋」のようなものであり、低分子の存在、欠如、又は相対量を同定する。細胞又は細胞コンパートメントの低分子プロファイルは、当分野において既知の、低分子を分離及び/又は同定するための単一の技術、又は技術の組み合わせによって得られうる。低分子プロファイルの化合物を分離及び同定するために使用されうる分離及び分析の技術の例には、HPLC、TLC、電気化学的分析、質量分析、屈折率分光法(RI)、紫外分光法(UV)、蛍光分析、放射化学的分析、近赤外分光法(Near-IR)、核磁気共鳴分光法(NMR)、光散乱分析(LS)、及びその他の当分野において既知の方法が含まれる。好ましくは、本発明の方法は、電気的に中性の化合物、及び電気化学的活性を有する化合物の両方を検出する。検出及び分析の技術は、同定される分子の数を最適化するため、並列的に配置されてもよい。
【0019】
「試料」という用語には、抽出物の低分子プロファイルが得られうる細胞抽出物が含まれる。一つの態様において、試料は、巨大分子(例えば、分子量10,000超の大型のタンパク質及びポリヌクレオチド)を実質的に含まない。試料は、細胞全体から得られてもよいし、又は特定の細胞コンパートメントから得られてもよい。特定の細胞コンパートメントの例には、細胞質、ミトコンドリア、ゴルジ体、小胞体、核、葉緑体、サイトゾル等が含まれる。「試料」という用語には、単離された低分子、及び低分子の混合物の両方が含まれる。
【0020】
「細胞」という用語には、原核細胞、真核細胞、酵母細胞、細菌細胞、植物細胞、爬虫類細胞、鳥類細胞、魚類細胞、哺乳類細胞のような動物細胞が含まれる。好ましい細胞には、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ラマ、アレチネズミ、リス、ヤギ、クマ、チンパンジー、マウス、ラット、ウサギ等に由来するものが含まれる。細胞という用語には、培養物、又はトランスジェニック生物に由来するトランスジェニック細胞が含まれる。細胞は、特定の組織、体液、器官(例えば、脳組織、神経組織、筋組織、網膜組織、腎組織、肝組織等)、又はそれらより派生した任意の画分に由来しうる。その用語には、健康な細胞、トランスジェニック細胞、内部又は外部の刺激により影響を受けた細胞、疾患状態又は障害に罹患した細胞、遷移状態(例えば、有糸分裂、減数分裂、アポトーシス等)の細胞等が含まれる。
【0021】
さらなる態様において、試料は、特定の細胞コンパートメントから得られる。「細胞コンパートメント」という用語には、(ミトコンドリア、ゴルジ体、中心小体、葉緑体のような)オルガネラ、核、細胞質(随意、オルガネラを含む)、及びその他の単離されうる細胞領域が含まれる。一つの態様において、細胞コンパートメントは、細胞全体である。
【0022】
特定の細胞コンパートメントの分析には、完全細胞、完全細胞溶解物、体液等の分析と比して多くの利点がある。例えば、薬物、毒性化合物等の作用メカニズムは、例えばミトコンドリア内の電子伝達系、核内の核酸複製等のような特定の細胞機能へと指向している。特定の細胞コンパートメント又はオルガネラ(例えば、ミトコンドリア、核、ゴルジ体、小胞体、リボソーム等)を単離することにより、プロファイルの焦点を、関連経路に関与している低分子へと限定することが可能である。従来のメタボローム研究は、ある試料中に存在する化学種の数の多さのため、複雑であった。研究の範囲を特定のオルガネラへと限定することにより、間質液、血液、髄液、唾液等の中に存在する無関係な分子が含まれないため、研究者は、関心対象の経路をより詳細に研究することが可能となるであろう。
【0023】
「低分子」という用語には、細胞、細胞コンパートメント、又はオルガネラの中に存在する有機及び無機の分子が含まれる。その用語には、大型タンパク質(例えば、2,000、3,000、4,000、5,000、6,000、7,000、8,000、9,000、又は10,000超の分子量を有するタンパク質)、大型核酸(例えば、2,000、3,000、4,000、5,000、6,000、7,000、8,000、9,000、又は10,000超の分子量を有する核酸)、又は大型多糖(例えば、2,000、3,000、4,000、5,000、6,000、7,000、8,000、9,000、又は10,000超の分子量を有する多糖)のような巨大分子は含まれない。細胞の低分子は、一般的に、細胞質内の溶液中、又はミトコンドリアのようなその他のオルガネラの中に遊離型で見出され、そこで、大型分子、いわゆる巨大分子を作製するためさらに代謝されるか、又は使用されうる中間体プールを形成している。「低分子」という用語には、食物由来のエネルギーを使用可能な形態へと変換する化学反応のシグナル伝達分子及び中間体が含まれる。低分子の例には、糖、脂肪酸、アミノ酸、ヌクレオチド、細胞過程において形成された中間体、及び細胞内に見出されるその他の低分子が含まれる。一つの態様において、本発明の低分子は、単離されている。
【0024】
「メタボローム(metabolome)」という用語には、ある生物に存在する低分子全てが含まれる。メタボロームには、代謝物及び異化反応生成物の両方が含まれる。一つの態様において、本発明は、ある種のメタボローム全体の低分子プロファイルに関する。もう一つの態様において、本発明は、ある種、例えば動物、例えばほ乳類、例えばマウス、ラット、ウサギ、ブタ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、クマ、サル、そして好ましくはヒトのメタボローム全体のコンピューター・データベース(後述)に関する。もう一つの態様において、本発明は、生物、例えばほ乳類、例えばマウス、ラット、ウサギ、ブタ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、クマ、サル、そして好ましくはヒトのメタボローム全体の低分子ライブラリー(後述)に関する。
【0025】
「低分子プロファイル」という語には、本明細書に記載された方法における用途のための情報を使用者に提供するために必要かつ/又は十分な、標的とされた細胞、組織、器官、生物、又はそれらから派生した任意の画分、例えば細胞コンパートメントの中の実体的な形態の低分子の総体が含まれる。総体には、存在する低分子の量及び/又は型が含まれるであろう。通常の技術を有する当業者であれば、必要かつ/又は十分な情報が、「低分子プロファイル」の用途に応じて変動するであろうことを承知するであろう。例えば、「低分子プロファイル」は、用途によって、単一の技術を使用して決定されうる場合もあるし、含まれる疾患状態、特定の標的細胞コンパートメントの中に存在する低分子の型、アッセイされる細胞コンパートメント自体等のような要因に応じて、いくつかの異なる技術の使用を必要とする場合もある。
【0026】
「低分子プロファイル」の中の関連情報は、編集された情報、例えばスペクトルの用途に依っても変動しうる。例えば、特定の低分子又は特定の低分子クラスの量が関連しているような用途もあるが、低分子の型の分布が関連している用途もある。
【0027】
通常の技術を有する当業者であれば、罹患した対象及び/又は試験対象の低分子プロファイルを、標準対象及び/又は健康な対照と比較することにより、本明細書に記載された各方法のための適切な「低分子プロファイル」を決定することができるであろう。これらの比較は、個人によって、例えば視覚的になされてもよいし、又はそのような比較を行うよう設計されたソフトウェアを使用してなされてもよく、例えば、ソフトウェア・プログラムは、有用な情報を使用者に提供する二次出力を提供しうる。例えば、ソフトウェア・プログラムは、プロファイルを確認するために使用されうるし、又はプロファイル間の比較が「裸眼」では不可能である場合にリードアウトを提供するために使用されうる。適切なソフトウェア・プログラム、例えばパターン認識ソフトウェア・プログラムの選択は、当分野の通常の技術の範囲内である。そのようなプログラムの例はピロエット(Pirouette)である。プロファイルの比較は、定量的にも定性的にも実施されうることに注意されたい。
【0028】
低分子プロファイルは、疾患状態、遺伝学的改変に罹患した生物から、又はより詳細に後述されるモデルから得られうる。一つの態様において、生物の低分子プロファイルは、HPLC(Kristalら,Anal.Biochem.263:18-25(1998))、薄層クロマトグラフィ(TLC)、又は電気化学的分離技術(WO99/27361、WO92/13273、米国特許第5,290,420号、米国特許第5,284,567号、米国特許第5,104,639号、米国特許第4,863,873号、及び米国再発行特許(U.S.RE)32,920号参照)により決定される。屈折率分光法(RI)、紫外分光法(UV)、蛍光分析、放射化学的分析、近赤外分光法(Near-IR)、核磁気共鳴分光法(NMR)、光散乱分析(LS)、及び当分野において既知のその他の方法のような、細胞の低分子の存在を決定するか、又は低分子の素性(identity)を決定するためのその他の技術も、含まれる。本発明の低分子プロファイルは、「メタボプリント」とも呼ばれうる。低分子プロファイルを決定するために使用される技術の正確な組み合わせは、により決定されうる。
【0029】
一つの態様において、本発明は、いくつかの方法、例えばHPLC、TLC、電気化学的分析、質量分析、屈折率分光法(RI)、紫外分光法(UV)、蛍光分析、放射化学的分析、近赤外分光法(Near-IR)、核磁気共鳴分光法(NMR)、光分散分析(LS)、及び当分野において既知のその他の方法によって作製された低分子プロファイルに関する。
【0030】
本発明の方法は、電気化学的分離のような単一の分析様式のみに頼っている他の方法と比して、いくつかの利点を有している。電気化学的分離は、「電気化学的」活性を有する化合物についてのみ有効であり、中性分子は効率的に分離しない。ここで、本発明は、多数のこれらの検出器の直列的及び並列的な使用に関する。これは、より包括的なデータベースの同定をもたらすであろう。検出器は、通常、HPLCカラムと連結され、そこで、溶出試料による応答を検出し、発信し、続いてクロマトグラム上にピークを表示することができる。ピークの幅及び高さは、通常、粗及び密なチューニング対照を使用して調整され、検出及び感度のパラメータも制御されうる。HPLCと共に使用されうる検出器は多数存在する。本発明の方法において使用されうるいくつかの検出器には、特に、屈折率(RI)、紫外(UV)、蛍光、放射化学的、電気化学的、近赤外(Near-IR)、質量分析(MS)、核磁気共鳴(NMR)、光散乱(LS)が含まれる。
【0031】
本発明の方法は、電気化学的活性を有する分子及び電気化学的に中性の分子の両方を検出するために使用されうる。さらなる態様において、本発明は、細胞コンパートメント(例えば、ミトコンドリア、葉緑体、小胞体、核、ゴルジ体、サイトゾル等)の低分子の約50%以上、約60%以上、約70%以上、約75%以上、約77.5%以上、約80%以上、約82.5%以上、約85%以上、約86%以上、約87%以上、約88%以上、約89%以上、約90%以上、約91%以上、約92%以上、約93%以上、約94%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上、約99%以上を検出する方法に関する。
【0032】
一つの態様において、電量測定アレイ技術を備えたHPLCカラムが、試料を分析し、化合物を分離し、かつ/又は試料の低分子プロファイルを作出するために使用されうる。そのようなHPLCカラムは、血清、尿、及び組織の分析のため過去に広範に使用されており、低分子分析に適している(Acworthら,300;Bealら,J.Neurochem.55,1327-1339,1990;Matsonら,Life Sci. 41,905-908,1987;Matsonら,Basic,Clinical and Therapeutic Aspects of Alzheimer's and Parkinson's Diseases,第II巻,513〜516頁,Plenum,New York 1990;LeWittら,Neurology 42,2111-2117,1992;Milburyら,J.Wildlife Manag.,1998;Ogawaら, Neurology 42,1702-1706,1992;Bealら,J.Neurol.Sci.108,80-87,1992,Matsonら,Clin.Chem.30,1477-1488,1984;Milburyら,Coulometric Electrode Array Detectors for HPLC,125〜141頁,VSP International Science Publication;Acworthら,Am.Lab 28,33-38,1996)。電量測定アレイ技術を備えたHPLCカラムは、ミトコンドリア内の低分子量の酸化還元活性を有する化合物の大半の同時分析のため使用されている(Anal.Biochem.263,18-25,1998)。
【0033】
包括的な低分子プロファイルを作出する試みにおける低分子の検出及び特徴決定のため、多数の検出法が使用されうる。これらの方法を以下より詳細に説明する。
【0034】
A. 質量分析(MS)検出器:
試料化合物又は分子がイオン化され、質量分析機を通過し、そしてイオン流が検出される。様々なイオン化法が存在する。これらのイオン化法の例には、カラムから溶離してくる試料をイオン化するために、高電位の下で作出された電流又はビームが使用される電子衝撃(EI)、カラムから溶出してくる化合物から電子を除去するために、イオン化されたガスを活用する化学イオン化;及びカラムからの溶出物をイオン化するために、キセノン原子が高速で発射される高速原子衝突が含まれる。
【0035】
B. 熱分解質量分析:
熱分解は、不活性雰囲気又は真空における複合材料の熱による分解である。それにより、分子は最も弱い点で切断され、熱分解産物と呼ばれる、より小さい揮発性の断片が生成する(Irwin 1982)。適切な金属で乾燥させられた試料が、金属のキュリー点まで急速に加熱されるキュリー点熱分解は、特に再現性が高く簡単な技術である。次いで、質量分析計が、質量数−電荷数比に基づき熱分解産物の成分を分離し、熱分解マススペクトルを生成させるために使用されうる(Meuzelaarら、1982)。マススペクトルは、次いで、分析される複合材料の「化学的プロファイル」又はフィンガープリントとして使用されうる。この組み合わせ技術は、熱分解質量分析(PyMS)として既知である。
【0036】
C. 核磁気共鳴(NMR)検出器:
H及び13Cを含む、奇数の質量数を有するある種の核は、ランダムに軸の周囲をスピンする。それらが強い磁石の両極間に置かれた場合、スピンは磁場と平行又は逆平行に整列する。平行な配向の方が、わずかに低エネルギーであるため、起こりやすい。次いで、核に電磁波が照射され、電磁波は、吸収され、平行な核を、電磁波と共鳴するようになる、より高いエネルギー準位に置く。包囲している磁場を変化させ、それにより吸収周波数を改変する電子雲により、分子内の全ての核が囲まれているため、H又は13Cの位置、及び化合物中の隣接する分子又は元素に依って、異なるスペクトルが生成するであろう。
【0037】
D. 屈折率(RI):
この方法において、検出器は、試料の、光を曲げる又は屈折させる能力を測定する。各化合物のこの特性は、屈折率と呼ばれる。大部分のRI検出において、光はバイモジュラー(bi-modular)流によって光検出器へと進行する。フローセル(flow-cell)の一方のチャネルは、カラムを通過する移動相を指向させ、他方は移動相のみを指向させる。検出は、光がカラムから溶出してくる試料によって曲げられた場合に起こり、2つのチャネル間の差として読み取られる。レーザーに基づくRI検出器も利用可能となっている。
【0038】
E. 紫外(UV)検出器:
この方法において、検出器は、試料の、光を吸収する能力を測定する。これは、固定された波長、通常254nmにおいて達成されてもよいし、又は1回に1つの波長が測定され、広い範囲がカバーされるよう、可変波長において達成されてもよく、又は、ダイオード・アレイ(Diode Array)は、ある波長域を同時に測定することができる。感度は、10-8〜10-9gm/mlの範囲である。レーザーに基づく吸収又はフーリエ変換法も開発されている。
【0039】
F. 蛍光検出器:
この方法は、化合物の、ある波長において光を吸収し、ある波長においてそれを再放出する能力を測定する。各化合物は、特徴的な蛍光を有する。励起源がフローセルを通過して光検出器へ進み、単色光分光器が放出波長を測定する。感度は、10-9〜10-11gm/mlである。レーザーに基づく蛍光検出器も利用可能である。
【0040】
G. 放射化学的検出:
この方法は、放射標識された材料、例えばトリチウム(3H)又は炭素14(14C)の使用を含む。それは、ベータ粒子イオン化と関連した蛍光の検出により作動し、代謝物研究において最も頻用されている。検出器の型には、シンチレーション液のカラム溶出物への添加により蛍光が引き起こされる均一法、又はケイ酸リチウム及びベータ粒子放出により引き起こされた蛍光がデテクター・セル(detector cell)と相互作用する不均一検出が含まれる。感度は、10-9〜10-10gm/mlである。
【0041】
H. 電気化学的検出:
検出器は、酸化反応又は還元反応を受ける化合物を測定する。通常、ある電位差の電極間を移動する際、溶離試料による電子の獲得又は喪失を測定することにより達成される。感度は、10-12〜10-13gm/mlである。
【0042】
I. 光散乱(LS)検出器:
この方法は、パラレルな光ビームを放出する起源を含む。光ビームは溶液中の粒子に衝突し、次いで光の一部が反射、吸収、透過、又は散乱される。2つの型のLS検出が、透過及び散乱を測定するため使用されうる。
【0043】
特定の溶液により散乱された光の測定として定義される比濁分析。この方法は、多数の角度で散乱された光の一部の検出を可能にする。検出は黒色又は無色のバックグラウンドで行われるため、感度は、バックグラウンドの光又は散乱の欠如に依る。溶液中の粒子により透過された光の減少の尺度として定義される濁度測定。それは、粒子溶液に透過された光の減少としての光散乱を測定する。従って、それは、残りの透過光を定量する。この方法の感度は、単純な分光光度計から高性能の不連続分析機にまでわたる、利用される機械の感度に依る。従って、透過光の大きいシグナルからの透過光の減少の測定は、測光精度及び利用される装置の限界によって制限される。
【0044】
近赤外散乱検出器は、700〜1100nmのスペクトルで化合物をスキャニングすることにより作動する。各分子内の特定の化学結合の伸縮振動及び変角振動が、ある波長において検出される。これは、試料の調製のスピード、単純さ、単一スペクトルからの複数の分析、及び試料の省資源性といったいくつかの利点を提供する急成長中の方法である(McClure,1994)。
【0045】
J. フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)
この方法は、官能基及び高度に極性の結合の振動を主に測定する。作製されたフィンガープリントは、試料の全成分の振動特徴からなる(Griffiths 1986)。FT-IR分光計は、試料が赤外線を吸収する周波数及び吸収の強度を測定し、IR線と実験試料との相互作用を記録する。化学官能基は、特定の周波数において光を吸収することが既知であるため、これらの振動数の決定は、試料の化学組成の同定を可能にする。FT-IR検出法を使用して、定量分析及び定性分析の両方が可能である。
【0046】
K. 分散ラマン分光法
分散ラマン分光法は、分子又は複雑な系の振動サインである。分散ラマン分光法の起源は、構成分子間、即ち液体と、光ビームを構成する光の粒子である光子との間の非弾性衝突にある。分子と光子との衝突は、エネルギーの交換を引き起こし、その結果、エネルギーを変化させ、そして光子の波長を変化させる。
【0047】
低分子プロファイル(又は「メタボプリント」)を作出するためには、器官、細胞、細胞コンパートメント、又はオルガネラが、当業者に既知の標準的な方式でホモジナイズされる。画分中の低分子を濃縮するためには、種々の分画法が使用されうる。次いで、得られた低分子は、いくつかの分画カラムへと通されるであろう。分画カラムは、器官、細胞、細胞コンパートメント、又はオルガネラに関する低分子プロファイルを作成するため、直列的又は並列的に使用された多様な検出器を利用するであろう。
【0048】
例えば、水溶性分子の低分子プロファイルを作製するには、細胞、細胞コンパートメント、又はオルガネラの抽出物が、水溶性アレイを有するHPLCカラムで分画されよう。次いで、水溶性低分子は、低分子プロファイルを作製するため、蛍光又はUVの検出器を使用して検出されうる。又は、酸化還元活性を有する化合物及び活性化合物の吸収を検知するダイアド(diads)と共に、電気化学的検出器が使用されてもよい。非水溶性分子を検出するには、低分子プロファイルを作製するために、疎水性カラムも使用されうる。さらに、低分子プロファイルを作製するために使用されうる分離及び検出の道具の組み合わせとしては、質量分析と組み合わせられたガス・クロマトグラフィ、質量分析と組み合わせられた液体クロマトグラフィ、質量分析と組み合わせられたMALDI、質量分析、キャピラリー電気泳動、NMR、及びIR検出と組み合わせられたイオンスプレー分光法がある。
【0049】
これらの低分子プロファイル(又は「メタボプリント」)は、健康な状態及び疾患状態の両方において、低分子含有量によって、器官、細胞、細胞コンパートメント、又はオルガネラを定義し特徴決定することができるであろう。低分子プロファイルにより、定量的情報及び定性的情報の両方が作製されるであろう。
【0050】
2. 疾患関連低分子の同定の方法
もう一つの態様において、本発明は、疾患関連低分子を同定する方法を含む。その方法は、罹患した細胞、細胞コンパートメント、又はオルガネラの低分子プロファイルを、健康な細胞、細胞コンパートメント、又はオルガネラの標準プロファイルと比較することを含む。その方法は、罹患低分子プロファイル中に異常な量で存在する低分子を同定することも含む。罹患細胞中に異常な量で存在する低分子が、「疾患関連低分子」である。
【0051】
「疾患関連低分子」という語には、罹患低分子プロファイル中に異常な量で存在する低分子が含まれ、さらに、疾患の開始、進行、又は予測に関与している可能性のある低分子も含まれる。その用語には、下記の特定の疾患に関するアッセイ法を使用して同定された低分子、及びやはり下記の関心対象の特定の遺伝子と関連していることが同定された化合物も含まれる。その用語には、変調された場合に、疾患の少なくとも一つの症状の軽減又は治癒をもたらす低分子も含まれる。疾患関連低分子は、本明細書の他の箇所に開示されているスクリーニング・アッセイ法における理想的な薬物候補である。
【0052】
例えば、同定された疾患関連低分子は、生物学的活性を決定するための当分野において既知のインビトロ又はインビボのアッセイ法を使用してスクリーニングされうる。疾患関連低分子の生物学的活性は、疾患状態に関与しているタンパク質標的に対するスクリーニング・アッセイ法を使用することによっても突き止められうる。もう一つの態様において、疾患関連低分子の生物学的活性は、細胞レベル(cell-based)・アッセイ法、例えば腫瘍細胞アッセイ法(LillieらCancer Res.53(13):3172-8(1993))を使用しても決定されうる。疾患関連低分子は、一次又は培養ニューロンを、グルタミン酸のような化合物及び毒性薬剤に曝すこと、及びニューロンを死から保護する化合物を同定することにより、ニューロン保護活性に関しても試験されうる。疾患関連低分子の生物学的活性をさらに同定するため、動物モデルが使用されてもよい。例えば、ハンチントン病、パーキンソン病、及びALSの動物モデルが、神経保護剤として有用である低分子を同定するために使用されうる(Kilvenyi,Nature Med.5:347-350(1999);Mathewsら,Experimental Neurology 157:142-149(1999))。さらなる態様において、疾患関連低分子は、薬学的又は栄養学的(neutriceutical)な特性を増強するため、化学的に修飾されうる。
【0053】
「疾患」又は「疾患状態」という用語には、該疾患に罹患した生物における細胞、細胞コンパートメント、又はオルガネラの低分子プロファイルの変化をもたらすか、又は引き起こす可能性のある全ての疾患が含まれる。疾患の例には、代謝疾患(例えば、肥満、悪液質、糖尿病、食欲不振等)、心臓血管疾患(例えば、動脈硬化症、虚血/再灌流、高血圧、再狭窄、動脈炎症等)、免疫学的障害(例えば、慢性の炎症性の疾患及び障害、例えばクローン病、ライム病を含む反応性(reactive)関節炎、インシュリン依存性糖尿病、多発性硬化症、橋本甲状腺炎、及びグレーヴズ病を含む器官特異的自己免疫、接触性皮膚炎、乾癬、移植片拒絶、宿主対移植片病、サルコイドーシス、喘息及びアレルギーのようなアトピー状態、例えばアレルギー性鼻炎、胃腸アレルギー、例えば食物アレルギー、好酸球増加症、結膜炎、糸球体腎炎、蠕虫(例えば、リーシュマニア症)及びHIVを含むある種のウイルスの感染、並びに結核及びらい腫らい等を含む細菌感染のようなある種の病原体に対する感受性等)、神経系障害(例えば、ニューロパシー、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、運動ニューロン疾患、外傷性神経損傷、多発性硬化症、急性播種性脳脊髄炎、急性壊死性出血性白質脳症、髄鞘発育不全疾患、ミトコンドリア病、偏頭痛性障害、細菌感染、真菌感染、発作、老化、痴呆、末梢神経系疾患、並びに鬱及び精神分裂病のような精神病等)、腫瘍学的障害(例えば、白血病、脳の癌、膵臓癌、前立腺癌、肝臓癌、胃癌、大腸癌、咽喉癌、乳癌、卵巣癌、皮膚癌、黒色腫等)が含まれる。その用語には、酸化ストレスに起因する障害も含まれる。
【0054】
「異常なレベル」という語には、標準試料の低分子のレベルと異なる、細胞、細胞コンパートメント、又はオルガネラの中の低分子の任意のレベル、量、又は濃度が含まれる。
【0055】
「標準プロファイル」という用語には、健康な細胞、有利には類似の起源に由来する健康な細胞から得られたプロファイルが含まれる。一つの態様において、標準プロファイルは、ある細胞レベル及び/又はある細胞コンパートメントの多くの試料の平均である。もう一つの態様において、標準プロファイルは、疾患状態の開始前に患者から得られてもよいし、又は疾患状態によって影響を受けていない細胞から得られてもよい。又は、もう一つの態様において、標準プロファイルは、多数の起源から得られたプロファイルの平均であってもよく、例えば、標準プロファイルは2つ以上の対象から得られた低分子プロファイルの平均であり得る。標準プロファイルは、ある細胞コンパートメント又はある細胞サブセットの低分子プロファイルであり得る。一つの態様において、本発明は、健康な細胞の標準プロファイルに関する。有利には、試料中の異常レベルの低分子は、例えばHPLC、TLC、電気化学的分析、質量分析、屈折率分光法(RI)、紫外分光法(UV)、蛍光分析、放射化学的分析、近赤外分光法(Near-IR)、核磁気共鳴分光法(NMR)、光分散分析(LS)、及び当分野において既知のその他の方法によって同定される。一つの態様において、試料、細胞、又は細胞コンパートメントの低分子プロファイルは、一方のプロファイルの他方のプロファイルからの差し引きを使用することにより、標準プロファイルと比較される。次いで、異常な量で存在する化合物が、脱制御された細胞成分を同定するため、薬物設計において使用されうる。ある種の薬剤(例えば、薬物、治療剤、毒素等)の健康な細胞及び罹患細胞(例えば、治療剤により処置される型の疾患に罹患した細胞)の両方に対する効果の標準プロファイルも、作成されうる。
【0056】
さらに、「標準プロファイル」という語には、本発明に記載された方法における用途のための情報を使用者に提供するために必要かつ/又は十分な、プロファイルの低分子に関する情報が含まれる。標準プロファイルは、存在する低分子の量及び/又は型を含むであろう。当業者は、必要かつ/又は十分な情報が、「標準プロファイル」の用途に依って変動するであろうことを承知するであろう。例えば、「標準プロファイル」は、用途によって、単一の技術を使用して決定されうる場合もあるし、特定の標的細胞コンパートメントの中に存在する低分子の型、アッセイされる細胞コンパートメント自体等のような要因に応じて、いくつかの異なる技術の使用を必要とする場合もある。
【0057】
「標準プロファイル」の中の関連情報は、編集された情報、例えばスペクトルの用途に依っても変動しうる。例えば、標準プロファイルの特定の低分子又は特定の低分子クラスの量が関連するような用途もあるが、標準プロファイルの低分子の型の分布が関連している用途もある。
【0058】
さらに、標準プロファイルの、罹患細胞のプロファイルとの比較は、疾患状態において脱制御される低分子を同定するために使用されうる。同定された低分子は、薬物発見作業を指南するために使用されうる。例えば、試料細胞中に異常なレベルで存在する低分子が、同定され、薬学的又は栄養学的な薬剤として使用されうる。例えば、患者がある種の化合物の異常に低いレベルと関連した疾患状態に罹患している場合には、その化合物又はその前駆体が、疾患状態を模倣したアッセイ法において試験されうる。もう一つの態様において、異常な量で存在する低分子は、増強された活性、例えば低分子の異常なレベルと関連した疾患状態を処置するための増強された活性を有する薬剤を開発するため、薬物設計のための標的として使用されうる。さらに、異常な量で存在する低分子の構造に基づく低分子のライブラリーが、より強力な治療薬を開発するために使用されうる。細胞標的及び経路も、薬物設計を指南するために使用されうる。
【0059】
さらなる態様において、本発明は、ある種の疾患関連低分子の欠損を有する患者を処置するための方法に関する。その方法は、患者から細胞を得ること、特定のオルガネラ(例えば、ミトコンドリア、核、細胞質、ゴルジ体、小胞体等)又は細胞のいずれかの低分子プロファイルを得ること、低分子プロファイルを標準プロファイルと比較すること、患者の低分子プロファイルの中のある種の疾患関連低分子の欠損を決定すること、及び疾患関連低分子を患者に投与することを含む。
【0060】
さらなる態様において、本発明は、疾患状態の検出のための診断アッセイ法を特徴とする。例えば、その方法は、罹患した細胞又は細胞コンパートメントの中に異常な量で存在する化合物を同定するため、罹患した細胞又は細胞コンパートメントの標準プロファイルを、健康な細胞又は細胞コンパートメントと比較することにより、特定の疾患状態において異常な量で存在する低分子を同定することを含む。その方法は、化合物の存在又は欠如を示し、従って疾患の存在又は欠如を示すため、異常な量で存在する化合物と特異的に反応する試薬を設計することも含む。本発明は、疾患を診断するためのその使用のための試薬及び指示を含むキットにも関する。
【0061】
3. 細胞、細胞コンパートメント、又はオルガネラの低分子プロファイルに対する化学薬剤の効果を同定する方法
もう一つの面において、本発明は、細胞、細胞コンパートメント、又はオルガネラの低分子プロファイルの、毒素、化学薬剤、もしくは治療剤で処置された(又は、薬剤もしくは薬物で処置された生物に由来する)細胞、細胞コンパートメント、又はオルガネラとの比較に関する。一つの態様において、細胞、細胞コンパートメント、又はオルガネラは罹患しており(又は、罹患生物に由来し)、疾患を修飾又は処置することが既知の治療剤で処置される。例えば、治療剤、化学薬剤、又は毒素で処置された細胞の低分子プロファイルが、正常細胞、例えば類似系統の健康な細胞、又は治療剤、化学薬剤、又は毒素で処置されていない類似系統の罹患細胞の低分子プロファイルと比較されうる。毒素の例には、コレラ毒素、ジフテリア毒素、ベロ毒素、エンテロトキシン等のような内毒素及び外毒素のような細菌毒素が含まれる。さらなる実施態様において、細胞は遺伝学的に改変されている。
【0062】
さらに、未処置プロファイル又は標準プロファイルを、処置された細胞、細胞コンパートメント、又はオルガネラの低分子プロファイルから差し引くことにより、差し引きプロファイルが得られうる。次いで、差し引きプロファイルは、存在又は欠如が化合物の効力又は毒性を示すような、ある種の低分子を同定するために使用されうる。差し引きプロファイルは、例えば、当業者に既知のコンピューター・プログラム、例えばパターン認識ソフトウェア・プログラムを使用して作成されうる。そのようなプログラムの一例は、ピロエットである。プロファイルの比較は、定量的にも定性的にも実施されうることに注意されたい。
【0063】
さらなる態様において、本発明は、化合物の効力又は毒性を示すある種の低分子に関する。本発明は、これらのある種の低分子の存在又は欠如を示すために開発されうるアッセイ法にも適用される。例えば、ある低分子の存在が、特定の治療用化合物の効力にとって必須である場合には、試験化合物で処置された細胞試料の中のこのある種の低分子の存在又は欠如を迅速に決定するためのアッセイ法が開発されうる。これは、化合物の潜在的効力を決定するための効率的かつ安価な方法でありうる。それは、単独で使用されてもよいし、又は例えば結合アッセイ法及びその他の酵素アッセイ法のような伝統的な薬物スクリーニング・アッセイ法と組み合わせて使用されてもよい。
【0064】
例えば、抗腫瘍活性を有する分子の探索においては、既知の抗腫瘍薬(例えば、タキソール、シスプラチン、アドリアマイシン等)で処置された後、ある間隔を置いて、細胞の低分子プロファイルが入手されうる。これらの細胞の低分子プロファイルの比較によって、これらの薬物により制御される低分子が同定されうる。同定された低分子は、次いで、薬物設計のための標的となりうる経路を突き止めることにより、又は治療剤もしくは栄養剤としてそれらを使用することにより、薬物発見を指南するために使用されうる。さらに、標的、及び同定された低分子の両方が、後に詳述される本発明のアッセイ法において使用されうる。
【0065】
本発明は、試験化合物、例えば治療剤として開発中の化合物の毒性を決定するための方法も含む。その方法は、細胞を培養すること、細胞の一部を試験化合物と接触させること、試験化合物と接触した細胞の低分子プロファイルを入手すること、試験化合物と接触していない細胞の低分子プロファイルを入手すること、及びプロファイルを相互に、又は既知の治療剤と接触した細胞、もしくは既知の毒素と接触した細胞のプロファイルと比較することを含む。その方法は、関心対象の特定のオルガネラ(例えば、核、ミトコンドリア、ゴルジ体、小胞体、リボソーム等)を細胞から精製する工程、及び関心対象の特定のオルガネラの低分子プロファイルを得る工程を含んでいてもよい。
【0066】
さらなる態様において、本発明は、開発中の薬物の副作用を減少させるための方法に関する。例えば、細胞を培養し、試験化合物と接触させ、低分子プロファイルを作製し、既知の毒素及び治療剤のプロファイルと比較することができる。次いで、副作用を減少させるため、試験化合物の構造を変化させることができる。例えば、肝毒性を試験するためには、肝臓内で起こる生体内変換を模倣するため、化合物を肝細胞培養物の中でインキュベートすることができる。処置された肝培養物、及び未処置の肝培養物の中の細胞及びオルガネラの低分子プロファイルを、既知の毒素のプロファイルと比較することができる。全細胞低分子プロファイルを比較してもよいし、又は特定のオルガネラ、例えばミトコンドリア、ゴルジ体、核、リボソーム、小胞体等の低分子プロファイルを比較してもよい。
【0067】
本発明の方法は、ある種の試験化合物が、肝臓のような身体器官に対して毒性を示す可能性が高いか否かを決定するための、迅速かつ比較的安価な方法を提供するため、特に有用である。これにより、製薬会社は、毒性を示す化合物を迅速にスクリーニング、かつ同定し、研究を非毒性化合物へと振り向けることが可能となる。
【0068】
本発明の方法及び低分子プロファイルは、薬物、例えば臨床試験又は前臨床試験の過程で特定の工程で不合格となった薬物を救済するためにも使用されうる。不合格となった薬物を、細胞又は試験生物に曝し、細胞、細胞コンパートメント、又はオルガネラ等の低分子プロファイルを入手し、薬物の不合格の理由を突き止めるため、既知の毒素、既知の治療剤等のプロファイルと比較することができる。研究にとって有利であれば、様々な器官の低分子プロファイルも入手されうる(例えば、筋肉、脳、網膜、神経、心臓、肺、胃、大腸、皮膚、乳房、脂肪組織、血液等から低分子プロファイルが入手されうる)。次いで、その以前の副作用を回避するため、薬物を再設計することができる。
【0069】
本発明の方法及び低分子プロファイルは、薬物の「転用」にも使用されうる。
【0070】
「転用」という用語は、薬剤の新規な使用の発見をさす。一つの態様において、ある用量の薬剤が対象(例えば、健康な又は罹患したヒト又はその他の動物)へ投与され、次いで、器官、組織、細胞、細胞コンパートメント、及び/又はオルガネラが薬剤の投与によって影響を受けているか否かを決定するため、対象の様々な器官、組織、細胞、細胞コンパートメント、及び/又はオルガネラから低分子プロファイルが入手される。
【0071】
4. 体重障害と関連した低分子を同定する方法
本発明は、例えば肥満のような体重障害と関連した低分子を同定するための方法にも関する。体重障害と関連した低分子を同定するための方法の例を、以下に記載する。以下の実験は、短期食欲コントロールと関連した低分子の同定のためのものである。これらの実験は、空腹及び満腹のシグナル伝達に関与している低分子を同定するために使用されうる。
【0072】
一つの態様においては、試験対象、好ましくはマウスに、実験開始前には通常の給餌をし、次いで1つの対照群と2つの実験群へと分割する。次いで、対照群は自由食で維持し、第1実験群(「絶食群」)は絶食させ、第2実験群(「絶食−再給餌群」)はまず絶食させ、次いで高度に嗜好性の食餌を与え、その直後に組織試料を収集する。実験の直前及び直後に、各試験動物の体重を測定する。各群の各マウスの低分子プロファイルを入手する。各群のプロファイルの平均をとり、異なる群のものと比較する。下記実施例2は、対照動物と、絶食動物及び再給餌動物とで異なる量で存在する低分子を同定するための、そのような短期食欲実験の使用を例証している。
【0073】
例えば体重障害に関与している細胞低分子の同定のために使用されうるその他の実験は、遺伝学的肥満に関与しているかもしれない低分子を分析するため設計された実験である。例えば、マウスの場合、そのような実験によって、ob、db、及び/又はtub遺伝子産物により制御される低分子が同定されうる。例えば、ラットの場合には、そのようなパラダイムによって、fatty(fa)遺伝子産物により制御される低分子が同定されうる。
【0074】
そのような実験の一つの態様において、試験対照には、ob/ob、またはdb/db、またはtub/tub、あるいはその組合せの実験マウス、並びに痩せ同腹仔対照動物が含まれうる。動物は、ある期間、通常食を与えられ、その後、組織試料が分析のため収集されるであろう。下記実施例2は、肥満動物と痩せ動物とで異なる量で低分子プロファイル中に存在する低分子の同定における、そのような遺伝的肥満パラダイムの使用を例証している。
【0075】
さらなる実験において、ob/ob、またはdb/db、またはtub/tub、あるいはその組合せの実験マウス、並びに痩せ対照動物は、前記の短期食欲調節実験の一部として、又はセットポイント実験及び薬物関連実験のような本明細書に開示されたその他の実験において使用されうる。
【0076】
体重障害に関与する低分子の同定のために使用されうる実験には、体重の変化に応答して制御されうる低分子を同定するために設計された実験、例えば「セットポイント実験」が含まれうる。
【0077】
一つの実験において、試験対象、好ましくはマウスに、実験開始前には通常の給餌をし、次いで1つの対照群と2つの実験群へと分割する。次いで、対照群は、1日摂食量を計算するため、通常食を自由に摂食させて維持する。次いで、第1実験群(「体重過少群」)には、例えば群の体重を対照群の数パーセント、例えば80%に減少させ維持するために、通常摂食量の何割か、例えば通常の60〜90%を与えることにより過少給餌する。第2実験群(「体重過多群」)には、群を対照よりも高いレベル、例えば対照群の125%にするであろう食餌を与えることにより、過剰給餌する。次いで、対照条件と、体重過多条件及び/又は体重過少条件とで異なる量で存在する低分子を同定するための分析のため、組織試料を得る。
【0078】
さらに、ヒト対照が、肥満関連低分子の同定のため使用されうる。そのような実験の一つの態様において、組織試料を肥満ヒト対照及び痩せヒト対照から得、一方の群の組織、細胞、又は細胞オルガネラに他方の群と異なる量で存在している(例えば、痩せ対象と肥満対象とでディファレンシャルに存在する)低分子の存在に関して分析することができる。もう一つの態様において、肥満ヒト対象が、食事制限によって達成された体重減少の期間中、研究されうる。これらの以前に肥満であった対象に由来する組織を、対照(痩せ、以前に肥満ではなかった)及び肥満対象から得られた組織と比較して異なる量の低分子に関して分析することができる。
【0079】
体重障害に関与している低分子を同定するための実験を設計することもでき、それには、例えば視床下部損傷により誘導された体重障害のような、試験対象への何らかの物理的操作により誘導された体重障害と関連した低分子を同定するために設計された実験も含まれる。例えば、齧歯類の腹内側視床下部(VMH)の両側性損傷は、試験対象における過食症及び重度の肥満を誘導するために活用されることができ、齧歯類の腹外側視床下部(VLH)の両側性損傷は、試験対象における無食症を誘導するために使用されることができる。そのような実験においては、視床下部損傷試験対象及び対照対象からの組織が、対照動物と損傷動物とで異なる量で存在する低分子の同定のため分析されよう。
【0080】
ヒト又は動物の体重及び/又は(短期食欲のような)食欲に影響を与える(例えば、緩解させる)ことが既知の薬物は、体重障害、及び/又は体重もしくは食欲の制御に関与している低分子を同定するために設計された実験に組み込まれうる。これらの化合物には、既知の治療薬が含まれ、例えば有害な副作用のため治療薬としては有用でない化合物も含まれる。そのような実験において使用されうる対照対象及び試験対象のカテゴリには、例えば痩せ対象、肥満対象、及び関心対象の薬物を受容した肥満対象である。実験の変形において、これらのような対象は、通常の自由食、カロリー制限維持食、又はカロリー制限自由食を与えられうる。対照対象及び試験対象は、さらに、同時給餌されてもよい。即ち、対照対象及び試験対象は、対照対象及び試験対象の両方が同一の量及び型の食事を摂取するよう、連動した給餌装置を介して給餌されうる。
【0081】
5. 免疫学的疾患と関連した低分子を同定する方法
本発明は、例えば正常な免疫応答及び異常な免疫応答と関連した低分子を同定するための方法にも関する。免疫応答と関連した低分子を同定するための方法の例を、以下に記載する。以下の実験は、TH細胞亜集団(TH1亜集団及びTH2亜集団が含まれるが、これらに限定はされない)にディファレンシャルに存在する低分子の同定のためのものである。そのような低分子は、例えばTH細胞亜集団の分化、維持、及び/又はエフェクター機能、並びにTH細胞亜集団関連障害に関与している可能性がある。例えば、TH細胞を、TH1状態又はTH2状態のいずれかへと分化するよう誘導し、例えば外来抗原で刺激し、低分子プロファイルの分析のため、過程中の様々な時点で収集することができる。この例は、単に、免疫学的障害と関連した低分子を決定するため、低分子プロファイルを使用して実施されうるいくつかの実験を例示するものである。この例は、このセクションに開示された特定の細胞又は対象の型に本発明を限定するためのものではない。
【0082】
一つの実験において、トランスジェニック動物の免疫系の主要なT細胞集団がただ一つの抗原を認識するよう、特定のT細胞受容体を発現するよう工作されたトランスジェニック動物、好ましくはトランスジェニック・マウスが使用されよう。そのような系は、未感作状態が保証されうる同一T細胞の大きな集団のための起源を提供するため、そしてそれが認識する単一の抗原に対するその応答が保証されるため、使用されるであろう。そのようなトランスジェニック動物から、Tヘルパー細胞を単離し、次いでTH1、TH2、又はTH0細胞亜集団のようなTH細胞亜集団へと分化するようインビトロで誘導することができる。一つの態様においては、あるTヘルパー細胞群(TH1群)を、TH1状態への分化を誘導することが既知のサイトカインIL-12に曝し、第2のTヘルパー細胞群(TH2群)を、TH2状態への分化を誘導することが既知のサイトカインIL-4に曝し、第3の群を、サイトカインにより媒介される誘導の欠如により、特に方向付けされない状態へと移行させる。次いで、各細胞レベルの低分子プロファイルを入手し比較することができる。
【0083】
もう一つの態様においては、TH1細胞系、TH2細胞系、TH1様細胞系、及びTH2様細胞系、好ましくはヒト細胞系のような成熟TH細胞クローンが使用されうる。そのようなTH細胞系には、Doris、AE7、D10.G4、DAX、D1.1、及びCDC25といった周知のマウス細胞系が含まれうるが、これらに限定はされない。そのようなT細胞株は、正常な個体から得られてもよいし、例えばクローン病、反応性関節炎、ライム病、インシュリン依存性糖尿病、多発性硬化症、橋本甲状腺炎、及びグレーヴズ病を含む器官特異的自己免疫、接触性皮膚炎、乾癬、移植片拒絶、宿主対移植片病、サルコイドーシス、喘息及びアレルギーのようなアトピー状態、例えばアレルギー性鼻炎、胃腸アレルギー、例えば食物アレルギー、好酸球増加症、結膜炎、糸球体腎炎、蠕虫(例えば、リーシュマニア症)及びHIVを含むある種のウイルスの感染、並びに結核及びらい腫らいを含む細菌感染のようなある種の病原体に対する感受性等のような慢性の炎症性の疾患及び障害のようなTH細胞亜集団関連障害を示す個体から得られてもよい。
【0084】
TH細胞クローンは、多様な方式で刺激されうる。そのような刺激法には、ホルボールエステル、カルシウムイオノホア、もしくはレクチン(例えば、コンカナバリンA)への曝露、T細胞受容体エピトープに対する抗体(例えば、抗CD3抗体)による処理、又は適切な抗原提示細胞(APC)の存在下での、特定のTH細胞が認識することが既知の抗原への曝露のような薬理学的方法が含まれるが、これらに限定はされない。そのような一次刺激の後、細胞は、当業者に周知の標準的な技術を利用して、刺激を含まない培養中で、例えばIL-2の存在下で、維持されうる。次いで、さらに1回以上の刺激及び維持のサイクルへと細胞を曝すことができる。細胞又は細胞コンパートメントの低分子プロファイルが、この実験における刺激過程中の任意の時点で入手されうる。
【0085】
第3の実験も、異なる量で存在する低分子を発見し、決定するために使用されうる。動物モデルのインビボ刺激が、この実験の基礎を形成する。インビボの刺激の性質は、生存患者における類似の応答を特に予測するものである可能性がある。刺激は、多様な方法によって達成されうる。例えば、所望のTH細胞分化を誘発するため、前述のトランスジェニック動物のような動物に、適切な抗原及び適切なサイトカインを注射することができる。次いで、流入領域リンパ節を、刺激後の様々な時点で採取することができる。例えば、TH1へと方向付けられた動物からのリンパ節を、TH2へと方向付けられた動物のものと比較することができる。正常な免疫分化及び機能、並びに免疫障害を象徴する広範囲の動物モデルが、このインビボ実験のため活用されうる。
【0086】
細胞又はオルガネラの試料は、低分子プロファイリングのためのそのような手法の任意の点において収集されうる。例えば、細胞又はオルガネラは、任意の刺激期間及び/又は任意の維持期間の後に得られうる。さらに、細胞又はオルガネラは、TH細胞分化過程中の様々な時点で収集されうる。細胞又はオルガネラの低分子プロファイルは、実施例に概説された方法を使用して比較されうる。例えば、ある時点において単離されたTH0群、TH1群、及びTH2群の低分子プロファイルを分析し、比較することができる。さらに、あるTH細胞群内で、刺激された細胞及び刺激されていない細胞の低分子プロファイルを比較し分析することもできる。さらに、未分化のTH細胞の低分子プロファイルを、最終的にTH細胞亜集団を与える分化過程中の様々な段階の細胞の低分子プロファイルと比較することができる。
【0087】
6. 心臓血管障害と関連した低分子を同定する方法
本発明の低分子プロファイルは、心臓血管疾患と関連した低分子を同定するために使用されうる。
【0088】
本発明により、インビトロで流動性剪断応力を受けた内皮細胞又は内皮細胞オルガネラの中に存在する低分子に関するプロファイルが作製される。剪断応力は、異常な循環流量の区域における動脈硬化巣の蔓延の原因となりうる。
【0089】
細胞培養物を、異常な循環流量の区域における動脈硬化巣の蔓延の原因となると考えられる剪断応力に曝す。異常血流量は、不十分な血液供給を受けている器官に、閉塞が克服された時に突然、過剰量の血液が再灌流する、虚血/再灌流の有害な効果においても役割を果たしている。
【0090】
液体培養培地を含有する専門の装置において培養物を回転させることにより、培養HUVEC単層を層状剪断応力に曝す(Nagelら,1994,J.Clin.Invest.94:885-891)。同一培地中で増殖させた静置培養物を対照とする。一定期間の剪断応力曝露の後、実験細胞及び対照細胞を採取し、オルガネラを単離し、かつ低分子プロファイルを作製して、曝露細胞と対照細胞とで異なって存在する分子を同定するであろう。
【0091】
心臓血管障害に関与している低分子を同定するために設計された実験において、疾患の症状に対して緩解効果を有することが既知の薬物のような化合物が、実験系に組み込まれうる。そのような化合物には、既知の治療薬、及び有害な副作用のため治療薬としては有用でない化合物が含まれうる。例えば、培養された試験細胞が、下記の実施例の方法に従い、これらの化合物のうちの一つに曝され、未処理細胞と比して異なる低分子プロファイルに関して分析されうる。原則として、特定の実験により、疾患に関与している任意の細胞レベルが、これらの治療用化合物により疾患過程の任意の段階で処置されうる。
【0092】
試験細胞は、疾患とは無関係であるかもしれない低分子プロファイルに対する全般的な効果をスクリーニングするため、化合物で処置された無関係の細胞(例えば、繊維芽細胞)と比較されてもよい。そのような全般的効果は、化合物による処置の際の、試験細胞と無関係細胞とに共通の低分子プロファイルの変化により明らかとなりうる。
【0093】
これらの方法により、これらの化合物によって影響を受ける低分子が同定され、心臓血管疾患の処置のための新規治療用化合物を同定するための下記のアッセイ法において使用されうる。
【0094】
もう一つの実験において、低分子はヒト対象由来の単球から同定される。この実験は、食事による脂質摂取量の制限によるヒト対象のディファレンシャルな処置を含む。ヒト対象は3週間低脂肪/低コレステロール食を継続し、3週間後に血液が採取され、当分野においてルーチンに実施されている方法により単球が単離され、ミトコンドリア、核、及びサイトゾルのようなオルガネラが単離され、プロファイルが作製される。これらの同一の患者を、次に、高脂肪/高コレステロール食に切り替え、再び単球オルガネラを精製する。高脂肪/低コレステロールを含有する第3の組み合わせ食を患者に与え、再び単球のオルガネラ精製することもできる。患者が食事を受容する順序は、変動しうる。次いで、食事のうちの2つ、又は3つの食事全てを継続した患者に由来するオルガネラの低分子プロファイルが、比較され分析されうる。
【0095】
単球の中の異なる低分子プロファイルの検出の他に、内皮細胞を焦点としたパラダイムも、心臓血管疾患に関与する低分子を検出するため使用されうる。一つの実験において、ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)をインビトロで増殖させる。次いで、動脈硬化状態に関与している生理学的状態を模倣するため、炎症応答に関与していることが既知の因子ヒトIL-1βで、実験培養物が処置されるであろう。又は、アテローム生成リポタンパク質の主要リン脂質成分であるリゾホスファチジルコリン、又は酸化型ヒトLDLで、実験HUVEC培養物を処理してもよい。対照培養物は、これらの化合物の非存在下で増殖させる。ある程度の処理期間の後、実験細胞及び対照細胞が採取され、細胞及び/又はオルガネラの低分子プロファイルが入手され、分析されるであろう。
【0096】
7. 中枢神経系障害並びにその他の神経学的障害及び神経変性障害と関連した低分子を同定する方法
本発明の低分子プロファイルは、中枢神経系障害並びにその他の神経学的障害及び神経変性障害と関連した低分子を同定するために使用されうる。そのような障害の例には、例えば、ニューロパシー、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、運動ニューロン疾患、外傷性神経損傷、多発性硬化症、急性播種性脳脊髄炎、急性壊死性出血性白質脳症、髄鞘発育不全疾患、ミトコンドリア病、偏頭痛性障害、細菌感染、真菌感染、発作、老化、痴呆、末梢神経系疾患、並びに鬱及び精神分裂病のような精神病等が含まれる。
【0097】
中枢神経系障害並びにその他の神経学的障害及び神経変性障害と関連した低分子を同定するための一つの方法は、罹患生物の罹患した細胞、細胞コンパートメント、又はオルガネラの低分子プロファイルを、健康な細胞、細胞コンパートメント、又はオルガネラの低分子プロファイル(例えば、標準低分子プロファイル)と比較することである。例えば、細胞は、対象の脳、筋肉、網膜、神経組織、髄液、血液等に由来しうる。
【0098】
罹患生物は、神経学的障害に罹患したヒトもしくは動物の患者、又はそのような障害の動物モデルのいずれかでありうる。ある種の態様において、本発明は、罹患細胞の低分子プロファイルの中に異常な量で見出される低分子に関する。その他の態様において、本発明は、特定の神経学的障害の低分子差し引きプロファイル(例えば、標準低分子プロファイルと比較された罹患低分子プロファイルの差し引きプロファイル等)に関する。
【0099】
8. 腫瘍学的障害と関連した低分子を同定する方法
一つの態様において、本発明は、腫瘍学的障害、例えば癌性腫瘍、白血病、リンパ腫等と関連した低分子を同定する方法に関する。
【0100】
一つの態様において、腫瘍学的障害と関連した低分子は、癌組織の低分子プロファイルを正常組織と比較することにより同定される。さらなる態様において、組織は同一個体由来であり、例えば正常な前立腺組織及び悪性前立腺組織が、哺乳動物対象、例えばマウス、ラット、又はヒトから切除される。正常組織の細胞、細胞コンパートメント、又はオルガネラの低分子プロファイルが、悪性組織の対応する低分子プロファイルと比較される。低分子プロファイルを比較した場合、ある種の低分子が、癌組織の中に異常な量で存在することが明らかとなるかもしれない。
【0101】
本発明は、同定された化合物の他の組織における異常量を検出するための方法にも関し、例えば、本発明の方法は、癌組織と特異的に反応する試薬を開発するために使用されうる。
【0102】
9. 関心対象の遺伝子により制御される低分子を同定する方法
もう一つの態様において、本発明は、人為的なものであっても天然に存在するものであってもよい細胞の遺伝学的な修飾又は改変により制御される、変調される、又はそれに関連する低分子を同定する方法に関する。同定された低分子は、例えば、機能ゲノミクスにおいて未知の遺伝子の機能を決定するために使用されうる。例えば、遺伝学的に改変された細胞において見出される低分子の比較が、任意の特定の遺伝子の機能を解明するために使用されうる。例えば、本発明は、発現ベクターを発現している宿主細胞の低分子を、発現ベクターを発現していない宿主細胞の低分子と比較することにより、関心対象の発現ベクターと関連している低分子を同定するための方法に関する。一つの態様において、発現ベクターは、ゲノム、例えばヒト・ゲノムの一部又は断片を含む。もう一つの態様において、発現ベクターは、特定の疾患状態と関連していることが既知のものであってもよい。発現ベクターを発現している細胞及び発現していない細胞の低分子は、関心対象の低分子、関心対象の経路、並びに薬物設計及び/又は将来の研究のための標的を同定するために使用されうる。
【0103】
さらなる態様において、細胞の低分子を、HPLC、質量分析、及び電量測定アレイ技術のような分離技術によって同定し、低分子プロファイルを作出する(例えば、Kristal,B.S.ら、Anal.Biochem.263:18-25(1998)参照)。得られた低分子プロファイルは、次いで、他の細胞、例えば遺伝学的に修飾されていない細胞の低分子プロファイルと比較されうる。
【0104】
「ベクター」という用語には、それと連結しているもう一つの核酸を輸送することができる核酸分子が含まれる。ベクターの一つの型は「プラスミド」である。「プラスミド」とは、付加的なDNAセグメントが連結されうる環状二本鎖DNAループをさす。ベクターのもう一つの型は、付加的なDNAセグメントがウイルス・ゲノムへと連結されうるウイルス・ベクターである。ある種のベクターは、導入された宿主細胞内での自律複製能を有する(例えば、細菌複製開始点を有する細菌ベクター及びエピソーム性哺乳動物ベクター)。宿主細胞への導入後、宿主細胞のゲノムへと組み込まれ、それにより宿主ゲノムと共に複製されるようなベクター(例えば、非エピソーム性哺乳動物ベクター)も存在する。さらに、ある種のベクターは、機能的に連結している遺伝子の発現を指図することができる。そのようなベクターは、本明細書において「発現ベクター」と呼ばれる。一般的に、組換えDNA技術において有益な発現ベクターは、プラスミド型である場合が多い。プラスミドは最も頻用されているベクターの型であるため、本明細書中、「プラスミド」及び「ベクター」は、交換可能に使用されうる。しかしながら、等価な機能を果たす、ウイルスベクター(例えば、複製欠陥レトロウイルス、アデノウイルス、及びアデノ随伴ウイルス)のような他の型の発現ベクターも、本発明に含まれるものとする。
【0105】
本発明の組換え発現ベクターは、宿主細胞における核酸の発現に適した形態で本発明の核酸を含む。即ち、組換え発現ベクターは、発現させたい核酸配列と機能的に連結した、発現に使用される宿主細胞に基づき選択された1個以上の制御配列を含む。組換え発現ベクターにおいて、「機能的に連結した」とは、(例えば、インビトロ転写/翻訳系における、又はベクターが宿主細胞へ導入される場合には、宿主細胞内での)ヌクレオチド配列の発現を可能にするような様式で、関心対象のヌクレオチド配列が(1個以上の)制御配列と連結していることを意味するものとする。「制御配列」という用語には、プロモーター、エンハンサー、及びその他の発現調節因子(例えば、ポリアデニル化シグナル)が含まれるものとする。そのような制御配列は、例えば、Goeddel;Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185,Academic Press,San Diego,CA(1990)に記載されている。制御配列には、多くの宿主細胞型においてヌクレオチド配列の構成性発現を指図するもの、及びある種の宿主細胞においてのみヌクレオチド配列の発現を指図するもの(例えば、組織特異的制御配列)が含まれる。発現ベクターの設計は、形質転換される宿主細胞の選択、所望のタンパク質の発現レベル等のような要因に依存しうることが、当業者には理解されよう。
【0106】
本発明の組換え発現ベクターは、原核宿主細胞、又は好ましくは真核宿主細胞における発現のため設計されうる。例えば、ベクターは、大腸菌のような細菌細胞、昆虫細胞(バキュロウイルス発現ベクターを使用)、酵母細胞、又は哺乳動物細胞において発現されうる。適当な宿主細胞は、Goeddel;Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185,Academic Press,San Diego,CA(1990)にさらに開示されている。
【0107】
原核生物におけるベクターの発現は、融合タンパク質又は非融合タンパク質のいずれかの発現を指図する構成性プロモーター又は誘導可能プロモーターを含有するベクターを用いて、大腸菌において実施される場合が多い。誘導可能非融合大腸菌ベクターの例には、pTrc(Amannら,(1998)Gene 69:301-315)及びpET 11d(Studierら,Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185,Academic Press,San Diego,California(1990)60-89)が含まれる。pTrcベクターからの標的遺伝子発現は、ハイブリッドtrp-lac融合プロモーターからの宿主RNAポリメラーゼの転写に頼っている。pET 11dベクターからの標的遺伝子発現は、共発現されたウイルスRNAポリメラーゼ(T7 gn1)により媒介されるT7 gn10-lac融合プロモーターからの転写に頼っている。このウイルスポリメラーゼは、lacUV 5プロモーターの転写調節下でT7 gn1遺伝子を保有する常在性プロファージから、宿主株BL21(DE3)又はHMS174(DE3)により供給される。
【0108】
もう一つの態様において、発現ベクターは、酵母発現ベクターである。酵母S.セレビシエ(cerevisiae)における発現のためのベクターの例には、pYepSec1(Baldariら、(1987)Embo J.6:229-234)、pMFa(Kurjan and Herskowitz,(1982)Cell 30:933-943)、pJRY88(Schultzら,(1987)Gene 54:113-123)、pYES2(Invitrogen Corporation,San Diego,CA)、及びpicZ(InVitrogen Corp,San Diego,CA)が含まれる。
【0109】
又は、ベクターは、バキュロウイルス発現ベクターを使用して昆虫細胞で発現されうる。培養昆虫細胞(例えば、Sf9細胞)におけるベクターの発現のため利用可能なバキュロウイルス・ベクターには、pAc系(Smithら,(1983)Mol.Cell Biol.3:2156-2165)及びpVL系(Lucklow and Summers(1989)Virology 170:31-39)が含まれる。
【0110】
好ましい態様において、関心対象の核酸は、哺乳動物発現ベクターを使用して哺乳動物細胞で発現される。哺乳動物発現ベクターの例には、pCDM8(Seed,B.(1987)Nature 329:840)及びpMT2PC(Kaufmanら,(1987)EMBO J.6:187-195)が含まれる。哺乳動物細胞において使用される場合、発現ベクターの調節機能は、ウイルス制御因子により提供される場合が多い。例えば、一般的に使用されるプロモーターは、ポリオーマ、アデノウイルス2型、サイトメガロウイルス、及びシミアンウイルス(Simian Virus)40に由来する。原核細胞及び真核細胞の両方に適したその他の発現系に関しては、Sambrook,J.,Fritsh,E.F.,and Maniatis,T.Molecular Cloning:A Laboratory Manual.第2版,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY,1989の第16章及び第17章を参照のこと。
【0111】
「宿主細胞」及び「組換え宿主細胞」という用語は、交換可能に使用される。これらの細胞には、特定の対象のみならず、そのような細胞の子孫又は子孫である可能性のあるものも含まれる。世代交代中には、突然変異又は環境的影響のいずれかによりある種の修飾が起こりうるため、そのような子孫は、実際は親細胞と同一ではない可能性があるが、それでも本明細書において使用されるようにその用語の範囲内に含まれる。
【0112】
この方法のための宿主細胞は、任意の原核細胞又は真核細胞であり得る。例えば、関心対象のタンパク質が、大腸菌のような細菌細胞、昆虫細胞、酵母細胞、又は好ましくは(チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)又はCOS細胞のような)哺乳動物細胞において発現されうる。その他の適当な宿主細胞は、当業者に既知である。
【0113】
ベクターDNAは、従来の形質転換又はトランスフェクションの技術によって原核細胞又は真核細胞へ導入されうる。「形質転換」及び「トランスフェクション」という用語には、リン酸カルシウムもしくは塩化カルシウムによる共沈殿、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、リポフェクション、又は電気穿孔法を含む、宿主細胞へ外来核酸(例えば、DNA)を導入するための当分野において認識されている多様な技術が含まれる。宿主細胞を形質転換又はトランスフェクトするための適当な方法は、Sambrookら(Molecular Cloning:A Laboratory Manual.第2版,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY,1989)及びその他の実験マニュアルに見出される。
【0114】
哺乳動物細胞の安定的なトランスフェクションのため、使用される発現ベクター及びトランスフェクション技術に応じて、細胞の極一部のみが外来DNAをゲノムへ組み込みうることが既知である。これらの組込み体を同定し選択するためには、選択可能マーカー(例えば、抗生物質耐性)をコードする遺伝子を、一般的には、関心対象の遺伝子と共に宿主細胞へと導入する。好ましい選択マーカーには、G418、ハイグロマイシン、及びメトトレキサートのような薬物に対する耐性を付与するものが含まれる。選択マーカーをコードする核酸は、遺伝子と同一のベクター又は異なるベクターに乗って、宿主細胞へと導入されうる。導入された核酸で安定的にトランスフェクトされた細胞は、薬物選択により同定されうる(例えば、選択可能マーカー遺伝子を取り込んだ細胞が生存し、その他の細胞は死滅する)。
【0115】
さらに、さらにもう一つの態様において、本発明は、特定の宿主細胞において発現された遺伝子により制御される低分子を同定するための方法にも関する。この態様においては、遺伝子が除去され、機能的に破壊され、又は細胞において発現されず、細胞の低分子が、遺伝子が発現されている類似細胞の低分子と比較される。次いで、この遺伝子により制御される、変調される、又はそれに関連する低分子が、遺伝子が発現されている細胞の低分子と、遺伝子が発現されていない細胞の低分子との比較により同定されうる。異常な量で存在する低分子は、次いで、本発明の方法を使用して、この遺伝子と関連している経路、標的、及びその他の低分子を同定するために使用されうる。
【0116】
細胞の遺伝子を機能的に破壊するためには、関心対象の遺伝子を改変するための、例えば機能的に破壊するための欠失、付加、又は置換が導入されている、関心対象の遺伝子の少なくとも一部を含有するベクターを調製する。関心対象の遺伝子は、ヒト遺伝子、又はヒト遺伝子の非ヒト・ホモログでありうる。一つの態様において、相同組み換えにより、関心対象の内因性遺伝子が機能的に破壊されるようなベクター(即ち、もはや機能性タンパク質をコードしない;「ノックアウト」ベクターとも呼ばれる)が、設計される。又は、相同組み換えにより、関心対象の内因性遺伝子が変異しているか、又は改変されているが、それでも例えば機能性タンパク質をコードしているようなベクターが設計されうる(例えば、上流制御領域が、内因性タンパク質の発現を改変するため改変されうる)。相同組み換えベクターにおいて、関心対象の遺伝子の改変された部分の5'末端及び3'末端には、ベクターにより運ばれた関心対象の外因性遺伝子と関心対象の内因性遺伝子との間に細胞内で相同組み換えが起こることを可能にするための関心対象の遺伝子の付加的な核酸配列が隣接している。付加的な隣接核酸配列は、内因性遺伝子との相同組み換えの成功のために十分な長さを有するべきである。典型的な例として、数キロベースの隣接DNA(5'及び3'末端の両方)が、ベクターに含まれる(相同組み換えベクターの説明に関しては、例えば、Thomas,K.R.and Capecchi,M.R.,(1987)Cell 51:503を参照のこと)。ベクターが、(例えば、電気穿孔法により)細胞系へと導入され、導入された関心対象の遺伝子が、関心対象の内因性遺伝子と相同組み換えされた細胞が選択される(例えば、Li,E.ら、(1992)Cell 69:915参照)。次いで、細胞の低分子が、関心対象の遺伝子が破壊されていない細胞と比較され、それにより関心対象の遺伝子と関連した低分子が同定される。
【0117】
10. 標識された疾患関連低分子を使用した潜在的な細胞薬物標的を同定する方法
もう一つの態様において、本発明は、潜在的な細胞薬物標的(例えば、標識された低分子と相互作用する細胞成分)を同定するための方法にも関する。この方法は、疾患関連低分子と相互作用することが既知の成分を同定し得るため、特に有用である。従って、この方法によって同定された標的は、「あらかじめ確証」されており、標的の選択に伴う憶測の一部が排除される。さらなる態様において、この方法は、さらなる研究のための標的を同定するためのさらなる確証工程として、従来のゲノミクスと共に使用されうる。
【0118】
その方法は、起源から細胞を得ること;細胞から低分子の試料を得ること;生物学的活性に関して試料を試験すること;試料の生物学的活性を有する低分子を同定すること;生物学的活性を有する低分子を標識すること;標識された低分子を細胞成分と接触させること;及び細胞成分と該標識された低分子との間の相互作用を同定することを含む。本発明は、同定された細胞薬物標的及び同定された生物学的活性を有する低分子を含む。
【0119】
もう一つの態様において、本発明は、潜在的な細胞薬物標的を同定するための方法を含む。その方法は、標識された疾患関連低分子を細胞成分と接触させること;及び該細胞成分と標識された疾患関連低分子との間の相互作用を同定することを含む。
【0120】
標識された低分子には、本明細書に記載された技術(例えば、健康細胞及び罹患細胞の低分子プロファイルの比較等)のいずれかにより同定された、標識された「疾患関連低分子」も含まれる。もう一つの態様において、その方法は、標識された疾患関連低分子を細胞成分と接触させること;及び細胞成分と標識された疾患関連低分子との間の相互作用を同定することを含む。
【0121】
「標識」という用語には、標識された低分子の検出能を増強する任意の部分(moiety)又は分子が含まれる。適当な標識の例は、当分野において周知の放射標識及び蛍光標識である。「標識」という用語には、放射標識による低分子の直接標識、検出可能物質(例えば、蛍光部分)の低分子へのカップリング(即ち、物理的連結)、及び直接標識されたもう一つの試薬と低分子を反応させることによる低分子の間接標識が含まれる。間接標識の例には、蛍光標識されたストレプトアビジンを用いて検出されうるよう、ビオチンで標識することによる低分子の検出が含まれる。一つの態様において、低分子は蛍光標識又は放射標識される。
【0122】
「細胞成分」という用語には、細胞に由来する材料が含まれる。細胞成分は精製されていてもよいし、又は粗細胞抽出物であってもよい。細胞成分は、一つの細胞レベル、又はさらにはオルガネラ(例えば、ミトコンドリア、核、細胞質)のような特定の細胞コンパートメントに由来しうる。さらに、その用語には、生物学的系において見出される天然タンパク質、並びにキメラタンパク質及びその他の工作タンパク質の両方が含まれる。一つの態様において、「細胞成分」という用語には、細胞受容体が含まれる。その用語には、天然及び非天然の多糖及び核酸も含まれる。一つの態様において、「細胞成分」という用語は、ヒト細胞からの粗細胞抽出物である。「細胞成分」という用語には、「標的」が含まれる。
【0123】
細胞成分と結合する本発明の試料は、成分と試料とが相互作用し結合し、それにより反応混合物中に除去及び/又は検出されうる複合体を形成するために十分な条件の下で、十分な時間、細胞成分と試料との反応混合物を調製することにより同定されうる。使用される細胞成分は、スクリーニング・アッセイ法の目的に応じて変動しうる。一つの態様において、本発明の試料は、単離された標識された低分子、例えば疾患関連低分子、生物学的活性を有する低分子、又は疾患状態において異常レベルで存在するもう一つの低分子である。そのアッセイ法は、低分子が相互作用する細胞成分を決定するために使用されうる。次いで、同定された低分子と相互作用する細胞成分は、薬物設計のため使用されうる。
【0124】
さらなる態様において、細胞成分は、核酸アレイである。高密度の(cDNA及び合成オリゴヌクレオチドのような)核酸のアレイは、最小限のコストで高度の自動化、反復分析、及び複製を可能にする(Fraser,Electrophoresis,18:1207-1215(1997))。最新技術の開発は、極めて少ない面積で、極めて大きいオリゴヌクレオチド・プローブのアレイを作成するための方法を提供した(例えば、各々参照として本明細書に組み込まれる米国特許第5,143,854号、WO90/15070、及びWO92/10092を参照のこと)。一つの態様において、アレイの核酸は、ヒト遺伝子である。核酸アレイの例には、米国特許第6,027,880号及び米国特許第5,861,242号において言及されたものが含まれる。核酸は、細胞、組織、又は器官の中に存在するRNA分子の代表であってもよい(例えば、「トランスクリプトーム」、Hoheisel,J.ら、,Trends Biotechnol.15:465-469(1997);Velculescu,Cell,88:243-251(1997)参照)。一つの態様において、核酸はアレイ状である。
【0125】
もう一つのさらなる態様において、細胞成分は、タンパク質アレイである。タンパク質アレイの例には、二次元ゲル電気泳動、クロマトグラフィ法(例えば、FPLC、Pharmacia(Uppsala,Sweden)社のSMART)、キャピラリー電気泳動技術、及び質量分析のような従来のタンパク質分離技術を利用したものが含まれる。もう一つの態様において、タンパク質アレイは、ゲノムにコードされた多様性の有意な部分を含有するタンパク質の集合体である(WO99/39210参照)。
【0126】
さらなる態様において、細胞成分は、2Dタンパク質ゲルである。2Dタンパク質ゲルは、細胞、組織、又は器官の中に存在するタンパク質分子の完全又は不完全なセットであり得る(例えば、プロテオーム、Saglioccoら、Yeast 12,1519-1534(1996);Shevalankoら、Porch.Nat.Acad.Sci.93,14440-14445(1996)参照)。次いで、本発明の方法によって先に同定され、標識された生物学的活性を有する低分子を、2Dゲルと接触させて、標識された低分子と2Dゲルのタンパク質との相互作用を検出できる。
【0127】
この方法によって同定されたタンパク質は、次に、例えばノックアウト・マウス、阻害研究、及びその他の当分野において既知の技術により、生物学的活性、例えば低分子の活性と関係する生物学的活性に関してさらに試験されうる。さらに、同定されたタンパク質は、次いで、有利な特徴(例えば、増強された活性、減少した毒性副作用)を有しているかもしれないタンパク質と結合又は相互作用するその他の分子(天然に存在するもの、又は化学的に合成されたもののいずれか)を同定するための薬物設計において使用されうる。
【0128】
11. 予測医学及び薬理メタボロミクス
本発明は、個体を予防的に処置するための予後判定(予測)目的のため、診断アッセイ法、予後判定アッセイ法、薬理メタボロミクス、及び臨床試験のモニタリングが使用される予測医学の分野にも関する。従って、本発明の一つの面は、個体が疾患又は障害に罹患しているか否か、又は低分子の異常レベルと関連した障害を発症するリスクを有しているか否かを決定するため、生物学的試料(例えば、血液、血清、細胞、組織、細胞オルガネラ)に関する低分子プロファイルを決定するための診断アッセイ法に関する。本発明は、個体が、関連低分子と関連した障害を発症するリスクを有しているか否かを決定するための予後判定(予測)アッセイ法も提供する。例えば、低分子の異常レベルは、生物学的試料からプロファイリングされうる。そのようなアッセイ法は、関連低分子により特徴付けられるか又はそれと関連した障害の発症の前に、個体を予防的に処置するための、予後判定又は予測の目的のため使用されうる。
【0129】
本発明のもう一つの面は、個体にとって適切な治療剤又は予防剤を選択するため、個体の低分子プロファイルを決定するための方法(本明細書において「薬理メタボロミクス」と呼ばれる)を提供する。薬理メタボロミクスは、個体の低分子プロファイル(即ち、個体の「メタボプリント」)に基づく、治療的又は予防的な個体の処置のための薬剤(例えば、薬物)の選択を可能にする。個体のメタボプリントは、特定の治療用化合物に対するその者の反応を予測するために調査される。本発明のさらにもう一つの面は、臨床試験中の患者の低分子プロファイルに対する薬剤(例えば、薬物又はその他の化合物)の影響のモニタリングに関する。
【0130】
薬理メタボロミクスは、薬理ゲノミクスと類似しているが、特定の治療用化合物に対する個体の応答に影響を与えうる環境的要因及びその他の非遺伝学的要因(例えば、他の薬物)も考慮に入れることが可能である。薬理メタボロミクスは、メタボプリント(例えば、低分子プロファイル)及び/又は遺伝子型に基づき、特定の薬物に対する個体の反応を予測するため、単独で、又は薬理ゲノミクスと組み合わせて使用されうる。
【0131】
薬理メタボロミクスは、疾患の症状、又は素因のある表現型が認められるよりはるか以前に異常低分子を検出するその能力によって、早期の警告的徴候を提供するため、特に有用である。
【0132】
A. 診断アッセイ法
一つの態様において、本発明は、対象の疾患状態の診断を促進するための方法に関する。その方法は、疾患状態を有すると推測され、かつ/又は有する対象から低分子プロファイルを得ること、及び対象の低分子プロファイルを標準低分子プロファイルと比較することを含む。
【0133】
本発明は、低分子プロファイル、特に異常低分子プロファイルを査定する方法を提供する。異常低分子プロファイル(例えば、特定の分子の過剰量、特定の分子の過少量、通常は存在しない低分子の存在等)は、疾患状態の存在を示しうる。より一般的には、異常低分子プロファイルは、異常な量で存在する低分子が寄与した、有害な又は疾患と関連したメタボプリントの発生を示しうる。
【0134】
標準低分子プロファイルは、健康な対象、又は対象が有していると推測される疾患状態に罹患した対象から得られうる。低分子プロファイルは、特定の器官、組織、もしくは組み合わせ、又は複数の器官もしくは組織から入手されうる。細胞、細胞コンパートメント、又は特定のオルガネラの低分子プロファイルも入手されうる。
【0135】
「疾患状態」という用語には、疾患を有する対象の低分子プロファイルを標準低分子プロファイルと比較することにより、メタボロミクス的に検出されうる任意の状態が含まれる。疾患状態の例には、代謝疾患(例えば、肥満、悪液質、糖尿病、食欲不振等)、心臓血管疾患(例えば、動脈硬化症、虚血/再灌流、高血圧、再狭窄、動脈炎症等)、免疫学的疾患(例えば、慢性の炎症性の疾患及び障害、例えばクローン病、ライム病を含む反応性関節炎、インシュリン依存性糖尿病、多発性硬化症、橋本甲状腺炎、及びグレーヴズ病を含む器官特異的自己免疫、接触性皮膚炎、乾癬、移植片拒絶、宿主対移植片病、サルコイドーシス、喘息及びアレルギーのようなアトピー状態、例えばアレルギー性鼻炎、胃腸アレルギー、例えば食物アレルギー、好酸球増加症、結膜炎、糸球体腎炎、蠕虫(例えば、リーシュマニア症)及びHIVを含むある種のウイルスの感染、並びに結核及びらい腫らいを含む細菌感染のようなある種の病原体に対する感受性等)、神経系障害(例えば、ニューロパシー、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、運動ニューロン疾患、外傷性神経損傷、多発性硬化症、急性播種性脳脊髄炎、急性壊死性出血性白質脳症、髄鞘発育不全疾患、ミトコンドリア病、偏頭痛性障害、細菌感染、真菌感染、発作、老化、痴呆、末梢神経系疾患、及び鬱及び精神分裂病のような精神病等)、腫瘍学的障害(例えば、白血病、脳の癌、膵臓癌、前立腺癌、肝臓癌、胃癌、大腸癌、咽喉癌、乳癌、卵巣癌、皮膚癌、黒色腫等)が含まれるが、これらに限定はされない。その用語には、酸化ストレスに起因する障害も含まれる。
【0136】
「対象」という用語には、ヒト、動物、及び植物が含まれる。一つの態様において、対象は、疾患状態に罹患した、又は罹患するリスクを有しているヒトである。
【0137】
本発明は、生物学的試料(試験試料)の中の特定の関連低分子の存在を検出するためのキットも包含する。そのようなキットは、対象が、関連低分子と関連した障害(例えば、薬物耐性)に罹患しているか否か、又はそれを発症する高いリスクを有しているか否かを決定するために使用されうる。例えば、キットは、生物学的試料中の関連低分子を検出することができる標識された化合物又は薬剤、及び試料中の関連低分子の量を検出するための手段(例えば、関連低分子に対する抗体、もう一つの分子的又は化学的センサー)を含みうる。キットは、関連低分子の量が正常レベルよりも高いか、又は低い場合に、試験された対象が関連低分子と関連した障害に罹患しているか、又はそれを発症するリスクを有していることを観察するための指示も含みうる。
【0138】
キットは、例えば緩衝剤、保存剤、又は安定化剤も含みうる。キットは、検出可能な薬剤を検出するために必要な成分(例えば、基質)も含みうる。キットは、アッセイされ、得られた試験試料と比較されうる対照試料、又は一連の対照試料を含有していてもよい。キットの各成分は、通常、個々の容器に梱包され、様々な容器全てが、試験された対象が関連低分子と関連した障害に罹患しているか否か、又はそれを発症するリスクを有しているか否かを観察するための指示と共に、単一のパッケージ内に存在する。
【0139】
B. 予後判定アッセイ法
本発明は、対象が疾患状態の素因を有するか否かを予測するための方法にも関する。その方法は、対象から低分子プロファイルを得ること;及び対象の低分子プロファイルを標準低分子プロファイルと比較し、それにより対象が疾患状態の素因を有するか否かを予測することを含む。
【0140】
本明細書に記載された方法は、さらに、異常低分子プロファイルと関連した疾患又は障害を有しているか、又はその発症のリスクを有している対象を同定するための診断又は予後判定アッセイ法としても使用されうる。例えば、先行診断アッセイ法又は後続アッセイ法のような本明細書に記載されたアッセイ法は、腫瘍細胞の薬物耐性のような異常低分子プロファイルと関連した障害を有しているか、又はその発症のリスクを有している対象を同定するために利用されうる。又は、予後判定アッセイ法は、そのような疾患又は障害を有しているか、又はその発症のリスクを有している対象を同定するために利用されうる。従って、本発明は、異常低分子プロファイルによって、異常低分子プロファイルと関連した障害を有しているか、又はその発症のリスクを有している対象が診断される、対象から試験試料が得られ、低分子プロファイルが入手される方法を提供する。「試験試料」という用語は、関心対象の対象から得られた生物学的試料である。例えば、試験試料は、生物学的液体(例えば、血清)、細胞試料、又は組織であり得る。有利には、試験試料は、細胞又は個々のオルガネラ、例えばミトコンドリア、核、ゴルジ体、小胞体、リボソーム、葉緑体等からなりうる。
【0141】
さらに、本明細書に記載された予後判定アッセイ法は、対象が、異常低分子プロファイルと関連した疾患又は障害を処置するため、薬剤(例えば、ペプチドミメティック(peptidomimetic)、タンパク質、ペプチド、核酸、低分子、又はその他の薬物候補)を投与されうるか否かを決定するために使用されうる。例えば、そのような方法は、対象が特定の薬剤又は薬剤クラス(例えば、特定の方式で低分子プロファイルに影響を与える型の薬剤)により効果的に処置されうるか否かを決定するために使用されうる。従って、本発明は、試験試料が得られ、異常低分子プロファイルが検出される、対象が、異常低分子プロファイルと関連した障害のための薬剤により効果的に処置されうるか否かを決定するための方法を提供する(例えば、特定の関連低分子の存在又は相対量によって、異常低分子プロファイルと関連した障害を処置するための薬剤を投与されうる対象が診断される)。いくつかの態様において、前述の方法は、改変された低分子プロファイルによって、かつこのような特定のメタボプリントによって特徴付けられる特定の状態の予後判定、病期判定、及び管理において有用な情報を提供する。その情報は、より具体的には、罹患対象の体内のそのような特定の状態を根治するための処置計画の設計において医師を補助する。
【0142】
本発明の方法は、関連低分子の存在又は欠如を検出し、それにより対象がこの関連低分子と関連した障害の危険があるか否かを決定するためにも使用されうる。例えば、関連低分子の存在又は欠如は、疾患状態発症の過程が、試験細胞において開始されているか否か、又は生じる可能性が高いか否かを示しうる。好ましい態様において、その方法は、対象由来の細胞の試料の中の関連低分子の存在又は欠如、疾患状態の存在又は欠如を検出することを含む。好ましくは、細胞の試料は、罹患細胞を含むと推測される身体組織から得られる。従って、本発明の方法は、疾患状態の存在の診断と関連した情報を提供する。一つの態様において、細胞の試料は、特定の細胞オルガネラ、例えばミトコンドリア、ゴルジ体、核等から主になる。
【0143】
本明細書に記載された方法は、関連低分子を検出するための少なくとも一つの試薬を含む予めパッケージングされた診断キットを利用することにより実施され、それは例えば、関連低分子を含む疾患又は疾病の症状又は家族歴を示している患者を診断するために、例えば臨床実務において便利に使用されうる。
【0144】
C. 薬理メタボロミクス
本発明は、治療剤に対する対象の応答を予測するための方法にも関する。その方法は、対象から低分子プロファイルを得ること、及び対象の低分子プロファイルを、対象が治療剤による処置から利益を得るであろうか否かの指標としての治療剤に関して確立された既知の標準と比較することを含む。
【0145】
本明細書に記載されたスクリーニング・アッセイ法により同定されるような、特定の関連低分子のレベルを改変する薬剤又は変調剤は、関連低分子と関連した障害を(予防的又は治療的に)処置するため、個体へと投与されうる。そのような処置と共に、個体の薬理メタボロミクス(即ち、個体のメタボプリントと、外来化合物又は薬物に対する個体の応答との関係の研究)が考慮されうる。治療薬の代謝の違いは、用量と薬理学的活性を有する薬物の血中濃度との関係を改変することにより、重篤な毒性、又は治療の失敗をもたらしうる。従って、個体の薬理メタボロミクスは、個体のメタボプリントの考慮に基づく、予防的又は治療的な処置のための有効な薬剤(例えば、薬物)の選択を許容する。そのような薬理メタボロミクスは、適切な投薬量及び治療計画を決定するため、さらに使用されうる。従って、個体の低分子プロファイルは、個体の予防的又は治療的な処置のための適切な(1個以上の)薬剤を選択するため、決定されうる。
【0146】
既知の標準は、その薬剤から利益を得た対象、例えばその薬剤で処置され、治癒したか、健康が維持されたか、又は健康の悪化が防止もしくは遅延された患者から得られうる。既知の標準は、特定の組織、器官から入手されうる。それは、有益な処置中、任意の点で、任意のオルガネラ、細胞、又は細胞コンパートメントから入手されうる。それは、単一の患者に由来してもよいし、又は薬剤で良好に処置された複数の患者の平均に由来してもよい。さらに、既知の標準は、他の技術を使用して得られてもよい。
【0147】
薬理メタボロミクスでは、罹患した者における改変された薬物の素質及び異常な作用による、薬物に対する応答の臨床的に重大な遺伝性及び非遺伝性の変動が扱われる。一般的に、いくつかの型の薬理メタボロミクス的状態が区別されうる。例えば、ある種の薬理メタボロミクス的状態は、遺伝学的条件の結果であり得る。遺伝学的条件は、薬物が身体へと作用する方式を改変する単一の要因として伝播されるか(改変された薬物作用)、又は身体が薬物へと作用する方式を改変する単一の要因として伝播されうる(改変された薬物代謝)。これらの薬理メタボロミクス的状態は、稀少な欠陥として、又は多型として起こりうる。例えば、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ欠損症(G6PD)は、主要な臨床的合併症が、酸化薬(抗マラリア薬、スルホンアミド、鎮痛薬、ニトロフラン)服用及びソラマメ摂取の後の溶血である、一般的な遺伝性酵素異常症である。薬物が身体へと作用する方式、又は身体が薬物へと作用する方式に影響を与えうる非遺伝性状態の例には、ある種の薬物の服用、患者の物質依存症、患者の食事、患者の非遺伝性の医学的状態等が含まれる。
【0148】
個体の低分子プロファイル及びメタボプリントは、個体の治療的又は予防的な処置のための適切な(1個以上の)薬剤を選択するために決定されうる。さらに、薬理メタボロミクス的研究は、個体の薬物応答性メタボプリントを同定するために使用されうる。この知識は、投薬又は薬物選択に適用された場合、当分野において既知の例示的なスクリーニング・アッセイ法のうちの一つにより同定された薬剤のような薬剤で対象を処置した際、有害な反応、又は治療の失敗を回避することができ、従って治療的又は予防的な効力を増強することができる。
【0149】
D. 臨床試験中の効果のモニタリング
本発明は、臨床試験における治療剤の有効性をメタボロミクス的にモニタリングするための方法にも関する。その方法は、治療剤により処置されている臨床試験の対象から低分子プロファイルを得ること、及び対象における治療剤の有効性の指標としての、対象の低分子プロファイルの変化をモニタリングすることを含む。一つの態様において、対象の低分子プロファイルは、規定標準と比較されうる。
【0150】
薬剤(例えば、薬物、治療用化合物)の低分子プロファイルへの影響のモニタリングは、基礎薬物スクリーニングのみならず、臨床試験にも適用されうる。例えば、本明細書に記載されたようなスクリーニング・アッセイ法により決定された薬剤の、ある種の関連低分子のレベルを増加させる効果が、ある種の低分子のレベルの減少を示す対象の臨床試験においてモニタリングされうる。又は、スクリーニング・アッセイ法により決定された薬剤の、ある種の関連低分子のレベルを減少させる効果が、ある種の関連低分子のレベルの増加を示す対象の臨床試験においてモニタリングされうる。そのような臨床試験において、ある種の低分子のレベル、および好ましくは低分子プロファイルの残りを特定の細胞の疾患状態の「リードアウト」として使用できる。
【0151】
例えば、限定はされないが、薬剤(例えば、化合物、薬物、又は低分子)による処置により細胞内で変調される低分子が、スクリーニング・アッセイ法において同定されうる。細胞増殖性障害に対する薬剤の効果が、臨床試験において研究されうる。例えば、細胞を単離し、完全細胞又は特定のオルガネラの低分子プロファイルを入手することができる。この方式において、低分子プロファイルは、薬剤に対する細胞の生理学的応答を示すマーカーとなりうる。従って、この応答状態は、薬剤による個体の処置の前、及び処置中の様々な点において決定されうる。
【0152】
一つの態様において、本発明は、(i)薬剤の投与の前に対象から投与前試料を得る工程;(ii)投与前試料の低分子プロファイルを検出する工程;(iii)対象から1個以上の投与後試料を得る工程;(iv)投与後試料の低分子プロファイルを検出する工程;(v)投与前試料の低分子プロファイルを投与後試料の1個以上の低分子プロファイルと比較する工程;及び(vi)それに応じて、対象への薬剤の投与を改変する工程を含む、薬剤(例えば、ペプチドミメティック、タンパク質、ペプチド、核酸、低分子、又は本明細書に記載されたスクリーニング・アッセイ法により同定されたその他の薬物候補)による対象の処置の有効性をモニタリングするための方法を提供する。例えば、薬剤の投与の増加が、ある種の関連低分子のレベルを検出されたレベルよりも高いレベルに増加させるため、即ち薬剤の有効性を増加させるために望ましいかもしれない。又は、薬剤の投与の減少が、ある種の関連低分子のレベルを検出されたレベルよりも低いレベルに減少させるため、即ち薬剤の有効性を減少させるために望ましいかもしれない。
【0153】
12. ミトコンドリア機能を保護する化合物の同定
さらなる態様においては、特定のオルガネラ、例えばミトコンドリア、核、リボソーム、ゴルジ体、小胞体等から試料が得られる。オルガネラから得られた低分子プロファイルは、健康な状態及び疾患状態の両方において、特定のオルガネラと特に関連している小分子を同定するために使用されうる。一つの態様において、本発明は、特定のオルガネラ、例えば核、ミトコンドリア、葉緑体、ゴルジ体、小胞体、リボソーム等の標準低分子プロファイルに関する。
【0154】
「特定のオルガネラの標準低分子プロファイル」という用語には、特定のオルガネラの平均プロファイルが含まれる。標準プロファイルは、特定の個体又は集団の複数のプロファイルの平均でありうる。さらに、プロファイルは、全て同一の細胞レベル(例えば、肝細胞、筋細胞、神経細胞、脳組織細胞、血液細胞、免疫系細胞等)に由来してもよいし、又は異なる細胞レベルに由来してもよい。関心対象の任意のオルガネラの標準プロファイルが入手されうる。関心対象のオルガネラは、一般的には、分別遠心分離のような当分野において既知の方法によって得られうる。この方法により分析されうるオルガネラの例には、例えば、核、ミトコンドリア、葉緑体、中心小体、リボソーム、ゴルジ体、小胞体等が含まれる。
【0155】
一つの態様において、オルガネラはミトコンドリアである。ミトコンドリア機能異常は、神経変性疾患、老化過程、糖尿病、及び癌のような広範囲の生理学的状態に関与することが示されている。ミトコンドリアは、細胞内カルシウムの緩衝作用を有し、ATP生成を担っており、そしてアポトーシス(Green and Reed,Science 281:1309-1312,1998;Susinら,Biochim.Et.Biophys.Acta 1366:151-165,1998)のような細胞死経路において重大な役割を果たしている。広範囲の細胞呼吸、酸化、及び代謝の過程において中心的な役割を果たしているため、ミトコンドリア活性の欠陥は、ATP生成速度、カルシウム・ホメオスタシス、フリーラジカル生成、及びアポトーシス誘導因子の放出に影響を与える(Ernster and Schatz,J.Cell Biol.91:227s-255,1981)。
【0156】
従って、一つの態様において、本発明は、ミトコンドリア関連障害に関連した化合物を同定するための方法に関する。一つの態様において、本発明は、ミトコンドリアの低分子の約70%以上、低分子の約75%以上、低分子の約80%以上、低分子の約85%以上、低分子の約90%以上、低分子の約91%以上、低分子の約92%以上、低分子の約93%以上、低分子の約94%以上、低分子の約95%以上、低分子の約96%以上、低分子の約98%以上、低分子の約99%以上を同定する、ミトコンドリアの低分子プロファイルに関する。もう一つの態様において、本発明は、ミトコンドリアの標準低分子プロファイルを、ミトコンドリア関連障害に罹患したミトコンドリアの低分子プロファイルと比較した際に、異常な量で存在する化合物を同定するための方法に関する。本発明は、標準ミトコンドリア・プロファイル、及びミトコンドリア関連障害と関連していることが同定された化合物の両方を含む。
【0157】
「ミトコンドリア関連障害」という用語には、ミトコンドリアと関連した過程と関連した障害が含まれる。ミトコンドリア関連障害には、神経変性疾患、老化、糖尿病、及び癌が含まれる。さらなるミトコンドリア関連疾患には、ATP生成、細胞内カルシウム、フリーラジカル、及びアポトーシスに関係しているものが含まれる。
【0158】
もう一つの態様において、ミトコンドリアの低分子プロファイルから同定された化合物は、ミトコンドリア機能を保護する、生物学的活性を有する低分子に関してアッセイされる。ミトコンドリア機能を評価するために使用されうるアッセイ法の例には、活性酸素の生成の阻害を評価するアッセイ法(例えば、ジクロロフルオレセインジアセタート(dichlorofluorescein diacetate)を使用したアッセイ法)、ミトコンドリア透過性転移(MPT)に関するアッセイ法(例えば、2-4ジメチルアミノスチリル-N-メチルピリジニム(2-4 dimethylaminostyryl-N-Methylpyridinim)のような色素を使用したアッセイ法);ミトコンドリア電気化学的電位勾配;並びに発作を誘導し、アポトーシス生成分子を測定又は放出するために使用されうるシグナル、細胞の構造的変化、DNA変化、カスパーゼの活性化、及び膜成分の移動を用いた細胞死アッセイ法が含まれる。電子伝達系に対する化合物の効果を評価するアッセイ法も含まれる(Parkerら,Neurology 44:1090-96,1994;Millerら,J.Neurochem.67:1897,1996)。もう一つの態様において、ミトコンドリア関連障害において異常な量で存在することが決定された化合物が、保護機能に関してアッセイされる。本発明は、本明細書に記載されたアッセイ法により同定された任意の化合物と、薬学的に許容される担体とを含む薬学的組成物にも関する。
【0159】
さらなる態様において、生物学的活性を有する低分子は、生物学的活性を増強するため化学的に修飾される。化学的修飾によって、生物学的活性、安定性を増強しうること、又は分子を治療剤もしくは栄養剤としてより適当なものにするために修飾しうることは、当分野において既知である。
【0160】
13. 低分子ライブラリー及び使用法
一つの態様において、本発明は、細胞、細胞コンパートメント、及びオルガネラ、例えば健康な状態、罹患状態、及び改変された状態における細胞、細胞コンパートメント、及びオルガネラからの低分子ライブラリーの作出に関する。低分子ライブラリーは、同一又は異なる動物器官に由来しうる。例えば、低分子ライブラリーは、心臓、脳、腎臓、肝臓、骨、胃腸管、及び/又は筋肉の細胞に由来しうる。さらに、低分子ライブラリーは、特定の疾患状態、例えば心臓血管疾患、神経変性疾患、糖尿病、肥満、免疫学的障害等に罹患している個体に由来しうる。
【0161】
ライブラリーの作出には、細胞成分の分画、細胞抽出物の調製、並びにHPLC、薄層クロマトグラフィ(TLC)、電気化学的技術、及びそのような化合物を分離するための当分野において既知のその他の方法のような方法による低分子の分画が含まれる。化合物は、電荷、質量、親水性、及び疎水性を使用しても分離されうる。さらに、化合物は、質量分析、NMR、IR、及び有機化合物を同定するための当分野において既知のその他の技術のような方法を使用して特徴決定されうる。
【0162】
「ライブラリー」という用語には、低分子又は分子混合物の検索可能な集団が含まれる。一つの態様において、ライブラリーは、活性に関してスクリーニングされうる、試料又は試験画分(低分子の混合物又は単離された低分子のいずれか)を含む。例えば、試料は、ハイスループット・スクリーニング・アッセイ法に適した様式でウェルへと添加されうる。さらなる態様において、ライブラリーは、ライブラリーを、関心対象の標的、例えばタンパク質又は核酸と接触させることにより、結合性を有する化合物に関してスクリーニングされうる。
【0163】
さらなる態様において、本発明は、固体支持体、例えばスクリーニング・アッセイ法に適した固体支持体、例えばハイスループット・スクリーニング・アッセイ法に適した固体支持体の上の、細胞由来の化合物のライブラリーに関する。本発明は、低分子ライブラリーと、固体支持体と、内容物を同定する標識とを含む、一つの容器内にパッケージングされた細胞低分子ライブラリーにも関する。
【0164】
さらにもう一つの態様において、低分子ライブラリーは、特定の細胞コンパートメント、例えば細胞質、核、ミトコンドリア、葉緑体に由来する。
【0165】
一つの態様において、試料は、ライブラリーとして活性に関してスクリーニングされる。過去数十年の間、低分子ライブラリーは、生物学的活性を有する分子を同定するためコンビナトリアル・ケミストリー技術を使用して作製されてきた。例えば、化合物のライブラリーが、ハイスループット・アッセイ法を使用して生物学的活性に関してスクリーニングされてきた。例えば、抗腫瘍アッセイ法には、化合物をプラスチック・ウェル内の癌細胞へ添加すること、及び細胞生存率に対する化合物の効果をモニタリングすることが含まれる。細胞生存率に影響を与える化合物が、潜在的なリード分子として同定される。
【0166】
ライブラリーは、ライブラリーの試料が所望の活性を有しているか否かを決定し、そして有している場合には、活性化合物又は試料を同定するためにスクリーニングされうる。ライブラリーをスクリーニングする方法は、記載されている(例えば、Gordonら,J Med.Chem.)。可溶性低分子ライブラリーを、受容体に対するリガンドを単離するための適切な受容体を用いたアフィニティ・クロマトグラフィによりスクリーニングし、続いて従来の技術(例えば、質量分析、NMR等)により単離されたリガンドを同定することができる。固定化された試料は、試料を可溶性受容体と接触させることによりスクリーニングされうる。好ましくは、可溶性受容体は、リガンド結合を示すために検出されうる標識(例えば、フルオロフォア、比色酵素、放射性同位体、発光性化合物等)と接合させられる。又は、固定化された試料は、選択的に放出され、受容体と相互作用するよう膜中に拡散させられうる。
【0167】
関心対象の標的と相互作用することができる本発明のライブラリーの試料を同定するため、インビトロの系が設計されうる。同定された試料は、例えば標的の活性を変調するか;標的の生物学的機能の調査において有用であるか;標的の正常な相互作用を破壊するさらなる化合物を同定するためのスクリーニングにおいて利用されるか;又はそのような相互作用の破壊因子としてそれら自体が有用である、有用な化合物を含有している可能性がある。
【0168】
「標的」という用語には、タンパク質及びタンパク質の混合物(例えば、天然に存在するタンパク質、ポリペプチド、ペプチドミメティック、変異タンパク質、及び組換えタンパク質)が含まれる。「標的」という用語には、核酸及び核酸の混合物(例えば、天然に存在する核酸であっても、合成核酸であってもよいRNA及びDNA、変異核酸、組換え核酸)、又は脂質(例えば、膜又は膜断片)も含まれる。一つの態様において、標的は、関心対象の疾患状態に関与している。さらに、標的がその細胞内立体配置を維持することができるよう、条件を変動させることが必要である場合もある。
【0169】
スクリーニング・アッセイ法は、多様な方式で実施できる。例えば、1個以上の標的と相互作用する低分子を同定するための方法は、標的を固相に固定すること、それを低分子の試料と接触させること、及び反応の終了時に固相上に固定された標的/試料複合体を検出することを含む。
【0170】
例えば、マイクロタイター・プレートを固相として使用できる。固定された成分は、非共有結合性又は共有結合性の接着により固定化されうる。非共有結合性接着は、固体表面を試料又は標的の溶液で単純にコーティングすること、及び乾燥させることにより達成されうる。表面は予め調製され、保存できる。共有結合性接着には、例えば、化合物又は標的をプレートへと化学的に結合させることが含まれる。
【0171】
アッセイ法を実施するための一つの方法において、固定化されていない成分が、固定化された成分を含有しているコーティングされた表面へと添加される。反応が完了した後、形成された任意の標的−試料複合体が検出され得るような条件下で、未反応の成分を除去する。複合体は、固体表面へ固定されうる。固体表面へ固定された複合体の検出は、多数の方式で達成されうる。先に固定化されていない成分がプレ標識されている場合には、表面上に固定化された標識の検出が、複合体が形成されたことを示す。先に固定化されていない成分がプレ標識されていない場合には、例えば、先に固定化されていない成分に特異的な標識された抗体(抗体は、直接標識されていてもよいし、又は標識された抗Ig抗体で間接的に標識されていてもよい)を使用して、表面上に固定された複合体を検出するため、間接的な標識が使用されうる。
【0172】
もう一つの態様において、本発明は、ライブラリーの試料と結合する標的を同定するための方法(本明細書において、「スクリーニング・アッセイ法」とも呼ばれる)を提供する。本発明は、標的、例えば標的の活性に対して刺激性又は阻害性の効果を有するライブラリーの試料を同定するための方法も含む。
【0173】
一つの態様において、本発明は、標的と結合するか、又は標的の活性を変調する試料を同定するため、本発明のライブラリーをスクリーニングするためのアッセイ法を提供する。試料のライブラリーは、溶液中(例えば、Houghten(1992)Biotechniques 13:412-421)、ビーズ上(Lam(1991)Nature 354:82-84)、又はチップ上(Fodor(1993)Nature 364:555-556)に提示されうる。
【0174】
例えば、一つの態様において、試料は、ハイスループット・スクリーニングを使用した特異的標的との相互作用のため適切に調製される。次いで、ハイスループット・スクリーニングが、標的と結合又は相互作用する試料を同定するために使用される。
【0175】
一つの態様において、アッセイ法は、標的(例えば、関心対象のタンパク質又はその生物学的活性を有する部分)を発現している細胞が、ライブラリーの試料と接触させ、試料が標的の活性を変調する能力を決定する、細胞レベルアッセイ法である。試料が標的の活性を変調する能力は、特定の標的にとって適当な方法により達成されうる。試料が標的の基質結合能を変調する能力の決定は、例えば、標的とその基質との結合が、標的との複合体の中の標識された基質を検出することにより決定され得るよう、基質を放射性同位体又は酵素標識とカップリングさせることにより、達成されうる。例えば、基質を、直接的又は間接的に、125I、35S、14C、又は3Hで標識し、放射性同位体を、放射能の直接計数又はシンチレーション計数により検出することができる。又は、基質を、例えば西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、又はルシフェラーゼで酵素標識し、酵素標識を、適切な基質の生成物への変換の決定により検出することができる。
【0176】
もう一つの態様において、アッセイ法は、標的基質を発現している細胞を本発明の試料と接触させること、及び試料が標的の活性を変調(例えば、刺激又は阻害)する能力を決定することを含む、細胞レベルアッセイ法である。
【0177】
標的の、標的基質と結合又は相互作用する能力の決定は、直接結合を決定するための前記の方法のいずれかにより達成されうる。一つの態様において、標的が基質と結合又は相互作用する能力の決定は、基質の活性の決定により達成されうる。例えば、基質の活性は、標的の細胞内二次メッセンジャーの誘導の検出、標的もしくはその基質の触媒/酵素活性の検出、レポーター遺伝子の誘導の検出(検出可能マーカー、例えばルシフェラーゼをコードする核酸と機能的に連結した標的応答性制御因子を含む)、又は標的により制御される細胞応答の検出により決定され得る。
【0178】
さらにもう一つの態様において、本発明のアッセイ法は、標的(例えば、タンパク質、ポリペプチド、又は核酸)を本発明の試料と接触させ、試料の標的結合能を決定する、無細胞アッセイ法である。試料と標的との結合は、前記と同様に直接的又は間接的に決定されうる。さらなる態様において、アッセイ法は、標的を、標的と結合することが既知の化合物と接触させて、アッセイ混合物を形成させること、アッセイ混合物を本発明の試料と接触させること、及び試料の標的と相互作用する能力を決定することを含む。ここで、試料が標的と相互作用する能力の決定は、試料の、既知の化合物と比較して優先的に標的と結合する能力の決定を含む。
【0179】
もう一つの態様において、アッセイ法は、標的を本発明の化合物のライブラリーと接触させ、化合物が標的の活性を変調(例えば、刺激又は阻害)する能力を決定する、無細胞アッセイ法である。試験化合物の、標的の活性を変調する能力の決定は、例えば、直接結合を決定するための前記の方法のいずれかにより、標的のもう一つの分子との結合能を決定することにより達成されうる。標的のもう一つの分子との結合能の決定は、リアルタイム生体分子相互作用分析(Biomolecular Inteaction Analysis)(BIA)(Sjolander,S.and Urbaniczky,C.(1991)Anal.Chem.63:2338-2345及びSzaboら,(1995)Curr.Opin.Struct.Biol.5:699-705)のような技術を使用しても達成されうる。本明細書において使用されるように、「BIA」とは、相互作用体を標識することなく、リアルタイムで生体特異的(biospecific)相互作用を研究するための技術である(例えば、BIAcore)。光学的な表面プラズモン共鳴(SPR)現象の変化が、生物学的分子間のリアルタイムの反応の指標として使用されうる。
【0180】
さらにもう一つの態様において、無細胞アッセイ法は、標的を、標的と結合することが既知の化合物と接触させて、アッセイ混合物を形成させること、アッセイ混合物を本発明の試料と接触させること、及び試料の標的と相互作用する能力を決定することを含む。ここで、試料の標的と相互作用する能力の決定は、試料の、標的と優先的に結合する能力、又は標的の活性を変調する能力の決定を含む。
【0181】
本発明の化合物のライブラリーは、新規な生物学的標的、及び薬物開発のためのリード構造を同時に同定するため、WO99/31267に記載されたもののようなコンビナトリアル法を使用してスクリーニングされてもよい。
【0182】
14. 低分子データベース及び使用法
一つの態様において、本発明は、細胞、細胞コンパートメント、及びオルガネラ、例えば健康な状態、罹患状態、及び改変された状態における細胞、細胞コンパートメント、及びオルガネラのメタボロームに関する情報を含有する低分子データベースの作出に関する。細胞、細胞コンパートメント、及びオルガネラの低分子に関する情報は、本明細書の他の箇所に記載された分子及び分析の技術を使用して見出されうる。低分子データベースは、同一又は異なる動物器官に由来する化合物を含みうる。例えば、低分子データベースは、心臓、脳、腎臓、肝臓、骨、胃腸管、及び/又は筋肉のような特定の器官の細胞から得られた化合物を含みうる。さらに、低分子データベースは、特定の疾患状態、例えば心臓血管疾患、神経変性疾患、糖尿病、肥満、免疫学的障害等に罹患した個体から得られた化合物に関する情報を含みうる。
【0183】
データベースは、細胞、細胞コンパートメント、及びオルガネラの中の様々な低分子の素性及び存在を決定するための本明細書の他の箇所に記載された技術から得られた情報に基づき作成されうる。データベースは、特定の健康状態において特定のオルガネラに見出される構造、分子量、量のような、見出された化合物に関する情報、及び当業者がデータベースに含めるべきであり、含めることが有用であると考えるであろうその他の情報を含みうる。例えば、特定の化合物を含む既知の生化学的経路に関する情報、及びその他のそのような情報も、含まれうる。
【0184】
一つの態様において、本発明のデータベースは、特定の器官からの特定の健康状態における特定の種の特定のオルガネラのメタボロームの化合物に関する情報を含有する(例えば、データベースは、健康なヒト心臓のミトコンドリアのメタボロームの化合物を含みうる)。もう一つの態様において、データベースは、特定の健康状態における特定の器官に由来する特定の種に由来する細胞の多様なオルガネラ(例えば、ミトコンドリア、核、ゴルジ体、小胞体、リボソーム、サイトゾル、葉緑体等)又は細胞のメタボロームに関する情報を含みうる。もう一つの態様において、データベースは、健康な状態又は罹患した状態における生物に由来する、多様な組織(例えば、脂肪組織、筋組織、神経組織、脳組織、心組織、骨組織、血液、結合組織、網膜組織等)に由来する特定のオルガネラ又は細胞のいずれかに関する情報を含みうる(例えば、組織は、それに罹患することが既知の任意の障害に罹患している生物に由来しうる)。障害の例には、神経学的障害、中枢神経系障害、代謝障害、心臓血管障害、免疫学的障害、腫瘍学的障害が含まれる。さらなる態様において、データベースは、特定の種、例えばヒト、ラット、マウス、イヌ、ネコ等の全メタボロームの化合物に関する情報を含みうる。
【0185】
データベースが電子的形態である場合、データベースを組織化するために使用されるプログラムは、有用なフォーマットで情報を保存することができる、当分野において既知の任意のプログラムでありうる。
【0186】
本発明のデータベースは、製薬会社のような会社へとライセンスされうるような方式で組織化されうる。データベースは、次いで、薬物の発見、設計等のような多くの目的のため使用されうる。
【0187】
14. 細胞試料から生物学的活性を有する低分子又は疾患関連低分子を同定する方法
一つの態様において、本発明は、生物学的活性を有する低分子を同定するためのさらにもう一つの方法に関する。この方法は、組織培養物又は動物起源から細胞を得ること;低分子の試料を得ること;生物学的活性に関して試料を試験すること;及び生物学的活性を有する試料を同定することを含む。生物学的活性を有することが見出された試料は、次いで、HPLC、薄層クロマトグラフィ(TLC)、及び電気化学的方法のような、当分野において既知の方法により、さらに分画され、プロファイリングされうる。得られた化合物又は画分は、次いで、生物学的活性に関して再試験されうる。所望により、分画は、生物学的活性を有する個々の化合物又は化合物の混合物が同定されるまで続行される。これらの生物学的活性を有する化合物は、次いで、例えば薬物設計のためのリード化合物として使用されるか、薬学的もしくは栄養学的な薬剤として使用されるか、標識され、それと関連した経路のその他の成分を同定するため使用されるか、又はその他の有利な能力において使用されうる。
【0188】
「組織培養物又は試料」という用語には、植物、細菌、原核生物、真核生物、動物(例えば、酵母、哺乳動物、例えばラット、マウス、イヌ、ネコ、霊長類(例えば、ヒト、チンパンジー、サル)、ウマ、ウシ、及びクマ)のような対象が含まれる。対象は、健康であってもよいし、疾患状態に罹患していてもよいし、又は疾患状態に罹患するリスクを有していてもよい。疾患状態の例には、細胞又は細胞コンパートメントの様々な低分子の量を改変するもの(例えば、糖尿病、癌、エイズ、神経変性障害等)が含まれる。「組織培養物又は起源」という用語には、ATCCに寄託されていることが見出されうるような細胞系(例えば、疾患状態に対応する細胞系、細菌細胞系、動物細胞系等)が含まれる。必要であれば、細胞は、当分野において既知の方法及び技術により、培養されうる(例えば、AusubelらCurrent Protocol in Molecular Biology(New York:John Wiley&Sons参照)。起源のその他の例には、例えばCAP23、Hela、ヒト細胞培養物、ヒト胎盤、リンパ芽球、哺乳動物筋生検標本、ラット脳、ラット肝臓、及び酵母に由来する細胞が含まれる。
【0189】
一つの態様において、試料は、例えばHPLC(Kristalら、Anal.Biochem.263:18-25(1998))、薄層クロマトグラフィ(TLC)、又は当分野において既知の方法のような当分野において既知のその他の方法(Methods of Enzymology)のような当分野において既知の技術により分画された試験画分である。試験画分は、分子量に基づき分離されうる。次いで、試験画分は、さらなる精製の前に、後に、又は精製することなく、生物学的活性に関してスクリーニングされうる。次いで、生物学的活性を有する試料又は試験画分が、生物学的活性を有する低分子を同定するため、さらに分画され、例えば質量分析(Teusink,B.ら、,Methods Microbiol.,26:297-336(1998))、赤外分光法、及び核磁気共鳴(Brindle,K.ら、J.Mol.Recog.10:182-187(1997))のような方法を使用して特徴決定されうる。
【0190】
「生物学的活性を有する低分子」という用語には、生物学的な系又は経路の活性を変調する低分子が含まれる。例えば、生物学的活性を有する低分子は、当分野において既知のインビトロ又はインビボのアッセイ法を使用して同定されうる。生物学的活性を有する低分子は、疾患状態に関与しているタンパク質標的に対するスクリーニング・アッセイ法によっても同定されうる。もう一つの態様において、生物学的活性を有する低分子は、細胞レベルアッセイ法を使用して同定されうる。例えば、抗腫瘍活性を有する生物学的活性を有する低分子は、例えば腫瘍細胞系パネルの増殖に対するそれらの効果により同定されうる(Lillieら,Cancer Res.53(13):3172-8(1993))。同様に、ニューロン保護活性を有する生物学的活性を有する低分子は、一次又は培養ニューロンをグルタミン酸のような化合物及び毒性薬剤へと曝すこと、並びにニューロンを死から保護する化合物を同定することにより同定されうる。動物モデルも、生物学的活性を有する低分子を同定するために使用されうる。例えば、ハンチントン病、パーキンソン病、及びALSの動物モデルが、神経保護剤として有用な生物学的活性を有する低分子を同定するために使用されうる(Kilvenyi,Nature Med.5:347-350(1999);Mathewsら,Experimetal Neurology 157:142-149(1999))。さらなる態様において、同定された生物学的活性を有する低分子は、次いで、薬学的又は栄養学的な特性をさらに増強するため化学的に修飾されうる。
【0191】
「単離された」という用語には、分子の天然起源に存在するその他の分子から分離された分子(例えば、低分子)が含まれる。一つの態様において、「単離された」低分子は、その低分子の由来元である生物に天然に存在するその他の分子(その他の低分子及び巨大分子の両方)を含まない。
【0192】
15. 組織タイピング及び法医科学のための低分子プロファイルの使用
本発明の細胞、細胞コンパートメント、及び/又は特定のオルガネラの低分子プロファイリングは、極微量の生物学的試料から個体を同定するためにも使用されうる。その方法は、対象から1個以上の試料を採取し、試料の低分子プロファイルを決定すること;未知の起源から1個以上の試料を採取し、その低分子プロファイルを決定すること;及び低分子プロファイルが同一個体に由来するか否かを決定するため、2つの低分子プロファイルを比較することを含む。
【0193】
ある種の低分子は、各個人の細胞、細胞コンパートメント、又はオルガネラに特有の量で存在するであろうことが予想される。これらの化合物のいくつかをマーカーとして使用することにより、試料が参照試料と同一の個体から得られたのか否かを決定することが可能である。この組織タイピング法は、単独で使用されてもよいし、又は組織試料の起源を決定するための従来の技術と組み合わせて使用されてもよい。従来の技術の例には、RFLP(制限断片長多型、米国特許第5,272,057号)、DNA分析(例えば、PCR)、血液タイピング等が含まれる。
【0194】
さらに、多数の個体の低分子プロファイルからデータベースを作出することができ、それにより低分子プロファイルがデータベースに登録されている組織試料であれば、たとえ少量であっても、陽性同定が可能となる。
【0195】
細胞又は細胞オルガネラの低分子プロファイリングは、法医学においても使用されうる。法医学的生物学は、犯罪者を陽性同定するための手段として、例えば、犯行現場に見出された生物学的証拠の遺伝子タイピングを利用する科学分野である。伝統的なDNAに基づく法医学においては、犯行現場において見出された組織、例えば毛髪もしくは皮膚、又は体液、例えば血液、唾液、もしくは精液のような極少量の生物学的試料から採取されたDNA配列を増幅するためにPCR技術が使用される。次いで、増幅された配列を標準と比較し、それにより生物学的試料の起源の同定が可能となる。
【0196】
各個人の体液、細胞、又は細胞オルガネラの低分子プロファイルは、特有の量の様々な低分子を含有しているはずであると考えられる。従って、ある試料の低分子プロファイルは、犯罪者の特有の「指紋」を与えるはずである。従来の技術とは異なり、本発明によれば、PCRという時間のかかる作業を行うことなく、試料を迅速にプロファイリングすることが可能である。PCRは、犯人のDNAの多数の反復コピーに依存しており、従って、その信頼性は幾分不確実である。本発明は、感度を増強するため、PCRのような従来の技術と組み合わせて、特許請求の範囲に記載された低分子プロファイルを使用するための方法も包含する。
【0197】
本発明の低分子プロファイルは、特定の組織型を同定するための低分子試薬を開発するためにも使用されうる。例えば、ある種の組織(例えば、筋肉、神経組織、脂肪組織等)は、他の身体組織と比較して、特有の低分子プロファイルを有しているはずである。これらの組織には、濃度が増強されているキー低分子が存在し、濃度が低下しているものも存在するであろう。これらの組織特異的低分子の素性は、集団のサブセット、又は種全体で全体として一貫している可能性がある。
【0198】
従って、本発明は、集団のサブセット全体で特定の組織に局在していることが同定されたキー低分子と特異的に反応する低分子試薬の使用に関する。低分子試薬は、次いで、未知の起源の組織(例えば、脳、筋肉、脂肪組織等)の素性を同定するために使用されうる。
【0199】
16. 薬学的組成物
もう一つの態様において、本発明は、本発明の方法を使用して得られた生物学的活性を有する低分子、疾患関連分子、又はその他の分子と、薬学的に許容される担体とを含む薬学的組成物に関する。もう一つの態様において、本発明は、本発明の生物学的活性を有する低分子の栄養学的調製物を含む。
【0200】
生物学的活性を有する低分子は、生物学的活性を増強するために化学的に修飾されうる。化学的修飾によって、生物学的活性、安定性を増強しうること、又は分子を治療剤もしくは栄養剤としてより適当なものにするために修飾しうることは、当分野において既知である。
【0201】
「薬学的組成物」という語には、哺乳動物、例えばヒトへの投与に適した調製物が含まれる。本発明の化合物が医薬品として哺乳動物、例えばヒトへ投与される場合、それらは、そのまま与えられてもよいし、又は薬学的に許容される担体と組み合わされた、例えば0.1〜99.5%(より好ましくは、0.5〜90%)の活性要素を含有する薬学的組成物として与えられてもよい。
【0202】
「薬学的に許容される担体」という語句は、当分野において認識されており、本発明の化合物の哺乳動物への投与に適した薬学的に許容される材料、組成物、又は媒体を含む。担体には、ある器官又は身体の部分から、他の器官又は身体の部分への主剤の運搬又は輸送に関与する、液状又は固形の増量剤、希釈剤、賦形剤、溶媒、又はカプセル化材料が含まれる。各担体は、製剤の他の要素と適合性であり、患者に対して障害を及ぼさないという意味で、「許容される」ものでなければならない。薬学的に許容される担体となりうる材料のいくつかの例には、ラクトース、グルコース、及びショ糖のような糖;コーンスターチ及びジャガイモデンプンのようなデンプン;ナトリウムカルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、及び酢酸セルロースのようなセルロース及びその誘導体;粉末状トラガカント;モルト;ゼラチン;タルク;カカオ脂及び坐剤用ロウのような賦形剤、落花生油、綿実油、紅花油、ゴマ油、オリーブ油、コーン油、及び大豆油のような油;プロピレングリコールのようなグリコール;グリセリン、ソルビトール、マンニトール、及びポリエチレングリコールのようなポリオール;オレイン酸エチル及びラウリン酸エチルのようなエステル;寒天;水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムのような緩衝剤;アルギン酸;発熱物質を含まない水;等張生理的食塩水;リンゲル溶液;エチルアルコール;リン酸緩衝溶液;並びに薬学的製剤において利用されるその他の非毒性の適合性物質が含まれる。
【0203】
ラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸マグネシウムのような湿潤剤、乳化剤、及び滑沢剤、並びに着色剤、放出剤、コーティング剤、甘味料、香料、芳香剤、保存剤、及び抗酸化剤も、組成物中に存在しうる。
【0204】
製薬学的に許容される抗酸化剤の例には、アスコルビン酸、システイン塩酸塩、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸(metabissulfite)ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等のような水溶性抗酸化剤;パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニゾール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、α−トコフェロール等のような油溶性抗酸化剤;及びクエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸等のような金属キレート化剤が含まれる。
【0205】
本発明の製剤には、経口投与、鼻腔内投与、局所投与、経皮投与、経頬投与、舌下投与、直腸内投与、膣内投与、及び/又は非経口投与に適したものが含まれる。製剤は、便利には、単位剤形として提示され、薬学分野において周知の任意の方法により調製されうる。単一剤形を作製するために担体材料と組み合わせられ得る活性要素の量は、一般的に、治療効果を生じる化合物の量であろう。一般的に、100パーセントのうち、この量は、約1%〜約99%、好ましくは約5%〜約70%、最も好ましくは約10%〜約30%の範囲の活性要素であろう。
【0206】
これらの製剤又は組成物を調製する方法は、本発明の化合物を担体と合わせ、場合によっては1個以上の補助要素とも合わせる工程を含む。一般的に、製剤は、本発明の化合物を、液状担体、又は微粉化された固形担体、又はそれら両方と均一に密接に合わせ、次いで、必要であれば製品の形状を整えることにより調製される。
【0207】
経口投与に適した本発明の製剤は、各々、活性要素として規定量の本発明の化合物を含有している、カプセル剤、カシェ剤、丸剤、錠剤、ロゼンジ剤(lozenges)(風味付けされた基剤、通常はショ糖及びアラビアゴム又はトラガカントを使用)、散剤、顆粒剤の形態で、又は水性もしくは水非水性の液体中の溶剤もしくは懸濁剤として、又は水中油型もしくは油中水型のエマルジョンとして、又はエリキシル剤もしくはシロップ剤として、又は香錠剤(ゼラチン及びグリセリン又はショ糖及びアラビアゴムのような不活性基剤を使用)として、かつ/又は口腔洗浄剤等として存在しうる。本発明の化合物は、ボーラス剤、舐剤、又はペースト剤としても投与されうる。
【0208】
経口投与用の本発明の固体剤形(カプセル剤、錠剤、丸剤、糖剤、散剤、顆粒剤等)において、活性要素は、クエン酸ナトリウム又はリン酸二カルシウム、並びに/又はデンプン、ラクトース、ショ糖、グルコース、マンニトール、及び/もしくはケイ酸のような増量剤又はエキステンダー;例えばカルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ショ糖、及び/もしくはアラビアゴムのような結合剤;グリセロールのような湿潤剤;寒天−寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモデンプン、タピオカ、アルギン酸、ある種のケイ酸塩、及び炭酸ナトリウムのような崩壊剤;パラフィンのような溶液遅延(solution retarding)剤;第四級アンモニウム化合物のような吸収促進剤;例えばセチルアルコール及びグリセロールモノステアラートのような湿潤剤;カオリン及びベントナイト粘土のような吸収剤;タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、及びそれらの混合物のような滑沢剤;並びに着色剤のうちのいずれかのような、1個以上の薬学的に許容される担体と混合される。カプセル剤、錠剤、及び丸剤の場合、薬学的組成物は、緩衝剤も含みうる。同様の型の固形組成物は、ラクトース又は乳糖のような賦形剤、並びに高分子量ポリエチレングリコール等を使用した軟ゼラチンカプセル剤及び硬ゼラチンカプセル剤における増量剤としても利用されうる。
【0209】
錠剤は、随意、1個以上の補助要素を用いて、圧縮又は成形により作成されうる。圧縮錠剤は、結合剤(例えば、ゼラチン又はヒドロキシプロピルメチルセルロース)、滑沢剤、不活性希釈剤、保存剤、崩壊剤(例えば、ナトリウムデンプングリコレート又は架橋型ナトリウムカルボキシメチルセルロース)、表面活性剤、又は分散剤を使用して調製されうる。成形錠剤は、不活性液状希釈剤で湿らされた粉末化化合物の混合物を適当な機械で成形することにより作成されうる。
【0210】
本発明の錠剤、及び糖剤、カプセル剤、丸剤、及び顆粒剤のようなその他の固形剤形の薬学的組成物は、随意、腸溶性コーティング及び薬学的製剤化の分野において周知のその他のコーティングのような、コーティング及びシェルを用いてスコア化(scored)又は調製されうる。それらは、例えば、所望の放出プロファイルを提供するための様々な割合のヒドロキシプロピルメチルセルロース、その他のポリマー・マトリックス、リポソーム、及び/又はマイクロスフェアを使用して、内部の活性要素の徐放又は制御放出を提供するよう製剤化されてもよい。それらは、例えば、細菌保持フィルターによるろ過により、又は無菌水もしくはその他の無菌の注射可能媒体に使用直前に溶解させられ得る無菌の固形組成物の形態の殺菌剤を組み込むことによって滅菌されうる。これらの組成物は、随意、乳白剤を含有していてもよく、(1個以上の)活性要素のみを、又は活性要素を優先的に、場合によっては遅延的に、胃腸管のある部分へと放出する組成物であってもよい。使用されうる埋め込み型組成物の例には、ポリマー性物質及びロウが含まれる。活性要素は、適宜、1個以上の前記の賦形剤を含む、マイクロカプセル化形態であってもよい。
【0211】
本発明の化合物の経口投与用の液状剤形には、薬学的に許容されるエマルジョン、マクロエマルジョン、溶液、懸濁液、シロップ、及びエリキシルが含まれる。活性要素に加え、液状剤形は、例えば水又はその他の溶媒のような当分野において一般的に使用される不活性希釈剤、例えばエチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、油(特に、綿実油、落花生油、コーン油、胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油、及びゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフリルアルコール、ポリエチレングリコール、及びソルビタンの脂肪酸エステル、並びにそれらの混合物のような可溶化剤及び乳化剤を含有していてもよい。
【0212】
不活性希釈剤の他に、経口用組成物は、湿潤剤、乳化剤、懸濁剤、甘味料、香料、着色料、芳香剤、及び保存剤のような佐剤を含んでいてもよい。
【0213】
懸濁液は、活性化合物に加えて、例えばエトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトール、及びソルビタンエステル、微晶質セルロース、メタ水酸化アルミニウム(aluminum metahydroxide)、ベントナイト、寒天−寒天、及びトラガカント、並びにそれらの混合物のような懸濁化剤を含有していてもよい。
【0214】
直腸内投与用又は膣内投与用の本発明の薬学的組成物の製剤は、室温では固体であるが体温で液体であり、従って、直腸内又は膣腔内で溶解し、活性化合物を放出するであろう、例えば、カカオ脂、ポリエチレングリコール、坐剤用ロウ、又はサリチル酸塩を含む1個以上の適当な非刺激性の賦形剤又は担体と、本発明の1個以上の化合物を混合することにより調製されうる坐剤として提示されうる。
【0215】
膣内投与に適した本発明の製剤には、適切であることが当分野において既知の担体を含有している膣坐剤、タンポン剤、クリーム剤、ゲル剤、パスタ剤、フォーム剤、又は噴霧剤が含まれる。
【0216】
本発明の化合物の局所投与用又は経皮投与用の剤形には、粉末、噴霧剤、軟膏、パスタ、クリーム、ローション、ゲル、溶液、貼付剤、及び吸入剤が含まれる。活性化合物は、無菌条件下で、薬学的に許容される担体と混合され、そして必要とされうる任意の保存剤、緩衝剤、又は高圧ガスと混合されうる。
【0217】
軟膏、パスタ、クリーム、及びゲルは、本発明の活性化合物に加えて、動物性及び植物性の脂肪、油、ろう、パラフィン、デンプン、トラガカント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコン、ベントナイト、ケイ酸、タルク、及び酸化亜鉛、又はそれらの混合物のような賦形剤を含有していてもよい。
【0218】
粉末及び噴霧剤は、本発明の化合物に加えて、ラクトース、タルク、ケイ酸、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウム、及びポリアミド粉末、又はこれらの物質の混合物のような賦形剤を含有していてもよい。スプレーは、随意、クロロフルオロハイドロカーボン(chlorofluorohydrocarbons)のような通常の高圧ガス、並びにブタン及びプロパンのような揮発性の非置換型炭化水素をさらに含有しうる。
【0219】
経皮貼付剤は、本発明の化合物の身体への調節された運搬を提供するという追加された利点を有する。そのような剤形は、適切な媒体中に化合物を溶解又は分散させることにより作成されうる。吸収増強剤が、皮膚中の化合物の流動を増加させるために使用されてもよい。そのような流動の速度は、速度調節膜を提供すること、又はポリマー・マトリックス又はゲルの中に活性化合物を分散させることにより調節されうる。
【0220】
眼科的製剤、眼軟膏、粉末、溶液等も、本発明の範囲内に含まれるものと企図される。
【0221】
非経口投与に適した本発明の薬学的組成物は、本発明の1個以上の化合物を、1個以上の薬学的に許容される無菌の等張の水性もしくは非水性の溶液、分散液、懸濁液、もしくはエマルジョン、又は使用直前に無菌の注射可能な溶液又は分散液へと再生されうる無菌の粉末と組み合わせて含み、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、意図された受容者の血液と製剤を等張にするための溶質、懸濁化剤、又は濃化剤を含有していてもよい。
【0222】
本発明の薬学的組成物において利用されうる適当な水性及び非水性の担体の例には、水、エタノール、(グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のような)ポリオール、及びそれらの適当な混合物、オリーブオイルのような植物油、並びにオレイン酸エチルのような注射可能な有機エステルが含まれる。適切な流動性は、例えば、レシチンのようなコーティング材料の使用、分散液の場合、必要とされる粒子サイズの維持、及び界面活性剤の使用により、維持されうる。
【0223】
これらの組成物は、保存剤、湿潤剤、乳化剤、及び分散剤のような佐剤を含有していてもよい。微生物の作用の防止は、様々な抗菌剤及び抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノールソルビン酸等の内含によって保証されうる。糖、塩化ナトリウム等のような等張剤を組成物に含めることが、望ましい場合もある。さらに、注射可能な薬学的形態の吸収は、アルミニウムモノステアラート及びゼラチンのような吸収を遅延させる薬剤の内含によって延長しうる。
【0224】
薬物の効果を延長するために、皮下注射又は筋肉内注射からの薬物の吸収を遅延させることが望ましい場合がある。これは、低い水溶性を有する結晶性又は無定形の材料の液状懸濁液の使用によって達成されうる。その場合、薬物の吸収速度は、その溶解速度に依存し、溶解速度は、結晶のサイズ及び結晶型に依存しうる。又は、非経口投与薬物形態の吸収の遅延は、薬物を油媒体に溶解又は懸濁させることにより達成される。
【0225】
注射可能デポ形態は、ポリラクチド−ポリグリコリドのような生分解性ポリマーの中に主化合物のマイクロカプセルマトリックスを形成させることにより作成される。薬物とポリマーとの比率、及び利用される特定のポリマーの性質に応じて、薬物放出速度が調節されうる。その他の生分解性ポリマーの例には、ポリ(オルトエステル)及びポリ(無水物)が含まれる。デポ注射可能製剤は、身体組織と適合性のリポソーム又はマイクロエマルジョンの中に薬物を封入することによっても調製される。
【0226】
本発明の調製物は、経口的、非経口的、局所的、又は直腸内に与えられ得る。それらは、当然、各々の投与経路に適した形態により与えられる。例えば、それらは、錠剤又はカプセル剤の形態で、又は注射、吸入、眼用ローション、軟膏、坐剤、注射、注入、もしくは吸入により;ローション又は軟膏により局所的に;坐剤により直腸内に投与される。経口投与が好ましい。
【0227】
「非経口投与」及び「非経口的に投与される」という語句は、本明細書において使用されるように、経腸投与及び局所投与以外の投与様式、通常は注射による投与様式を意味し、静脈内、筋肉内、動脈内、鞘内、嚢内、眼内、心臓内、皮内、腹腔内、気管内、皮下、角質内、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、及び胸骨内の注射及び注入を含むが、これらに限定はされない。
【0228】
「全身投与」、「全身投与される」、および「末梢投与」、「末梢投与される」という語句は、本明細書において使用されるように、患者の系に侵入し、従って代謝及びその他の類似の過程を受けるような、中枢神経系への直接投与以外の、化合物、薬物、又はその他の材料の投与、例えば皮下投与を意味する。
【0229】
これらの化合物は、経口、鼻腔内(例えば噴霧剤による)、直腸内、膣内、非経口、大槽内、及び局所(例えば粉末、軟膏、又は滴下剤による)、例えば経頬及び舌下を含む、任意の適当な投与経路により、治療のため、ヒト及びその他の動物に投与されうる。
【0230】
選択された投与経路に関わらず、適当な水和形態で使用されうる本発明の化合物、及び/又は本発明の薬学的組成物は、当業者に既知の従来の方法により、薬学的に許容される剤形へと製剤化される。
【0231】
本発明の薬学的組成物中の活性要素の実際の投薬レベルは、患者へ毒性を示すことなく、特定の患者、組成物、及び投与様式について、所望の治療応答を達成するために有効な活性要素の量が得られるよう変動しうる。
【0232】
選択された投薬レベルは、利用される本発明の特定の化合物、又はそのエステル、塩、もしくはアミドの活性、投与の経路、投与の時間、利用される特定の化合物の排泄速度、処置の継続時間、利用される特定の化合物と組み合わせて利用される他の薬物、化合物、及び/又は材料、処置される患者の年齢、性別、体重、状態、全身的健康状況、及び過去の病歴、並びに医学分野において周知の類似の要因を含む、様々な要因に依存するであろう。
【0233】
通常の技術を有する医師又は獣医師であれば、必要とされる薬学的組成物の有効量を容易に決定し処方することができる。例えば、医師又は獣医師は、所望の治療効果を達成するために必要なレベルよりも低いレベルで薬学的組成物中に利用された本発明の化合物の用量から開始し、所望の治療効果が達成されるまで、投薬量を徐々に増加させることができる。
【0234】
一般的に、本発明の化合物の適当な1日用量は、治療効果を生じるために有効な最低用量である化合物の量であろう。そのような有効用量は、一般的に、前記の要因に依存するであろう。所望により、活性化合物の有効1日用量は、1日の間に適当な間隔を置いて別々に投与される2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、又はそれ以上に分割された用量として、場合によっては単位剤形で投与されうる。
【0235】
本発明の化合物を単独で投与することも可能であるが、薬学的組成物として化合物を投与することが好ましい。
【0236】
前記のように、本発明の化合物のある種の態様は、アミノ又はアルキルアミノのような塩基性官能基を含有し、従って薬学的に許容される酸と共に薬学的に許容される塩を形成することができる場合がある。「薬学的に許容される塩」という用語は、当分野において認識されており、本発明の化合物の比較的無毒の無機及び有機の酸付加塩を含む。これらの塩は、本発明の化合物の最終的な単離及び精製の過程でインサイチューで調製されてもよいし、又は精製された遊離塩基形態の本発明の化合物を適当な有機もしくは無機の酸と別途反応させ、そのようにして形成された塩を単離することにより調製されてもよい。代表的な塩には、臭化水素酸塩、塩酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、酢酸塩、吉草酸塩、オレイン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、ラウリン酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、リン酸塩、トシラート(tosylate)、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、ナプチラート(napthylate)、メシラート(mesylate)、グルコヘプトナート(glucoheptonate)、ラクトビオナート(lactobionate)、及びラウリルスルホン酸塩等が含まれる(例えば、Bergeら(1977)"Pharmaceutical Salts",J.Pharm.Sci.66:1-19参照)。
【0237】
本発明の化合物は、1個以上の酸性官能基を含有し、従って薬学的に許容される塩基と共に薬学的に許容される塩を形成することができる場合もある。これらの場合の「薬学的に許容される塩基」という用語は、本発明の化合物の比較的無毒の無機及び有機の塩基付加塩を含む。これらの塩は、同様に、化合物の最終的な単離及び精製の過程でインサイチューで調製されてもよいし、又は精製された遊離酸形態の化合物を、薬学的に許容される金属カチオンの水酸化物、炭酸塩、もしくは重炭酸塩のような適当な塩基、アンモニア、もしくは薬学的に許容される有機の第一級、第二級、もしくは第三級アミンと別途反応させることにより調製されてもよい。代表的なアルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩には、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、及びアルミニウム塩等が含まれる。塩基付加塩の形成に有用な代表的な有機アミンには、エチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペラジン等が含まれる。
【0238】
「薬学的に許容されるエステル」という用語は、本発明の化合物の比較的無毒のエステル化生成物をさす。これらのエスエルは、化合物の最終的な単離及び精製の過程でインサイチューで調製されてもよいし、又は精製された遊離酸形態の化合物もしくはヒドロキシルを適当なエステル化剤と別途反応させることにより調製されてもよい。カルボン酸は、触媒の存在下でアルコール処理によりエステルへと変換されうる。ヒドロキシルは、アルカノイルハライドのようなエステル化剤による処理によりエステルへと変換されうる。その用語には、生理学的条件下で溶媒和されうる低級炭化水素基、例えばアルキルエステル、メチルエステル、エチルエステル、及びプロピルエステルが含まれる(例えば、Bergeら(前記)参照)。
【0239】
以下、実施例により本発明をさらに例示するが、実施例は本発明を制限するものと解釈されるべきではない。本明細書において引用された全ての参照並びに特許及び特許出願の公開物の内容は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0240】
17. 本発明の農学的方法
本発明のもう一つの態様において、本発明は、例えば、殺虫剤、農薬、除草剤、及び肥料のような、農業にとって有用な薬剤の同定のための方法を含む。
【0241】
植物は、優れた低分子の起源である。多くの植物低分子が、治療的に有益であることが示されている。従って、一つの態様において、本発明は、植物抽出物(例えば、特定の植物又は植物部分(例えば、種子、花、液果、根、樹液、葉等)、植物由来細胞、オルガネラ(例えば、ミトコンドリア、葉緑体、核、ゴルジ体等)、細胞コンパートメント等からの抽出物)に由来する低分子ライブラリーに関する。これらのライブラリーも、前記セクションに記載された方法を使用して、生物学的活性を有する分子に関してスクリーニングされうる。さらに、植物も、本明細書に記載された分離又は分析の技術、例えば、HPLC、TLC、電気化学的分析、質量分析、屈折率分光法(RI)、紫外分光法(UV)、蛍光分析、放射化学的分析、近赤外分光法(Near-IR)、核磁気共鳴分光法(NMR)、光散乱分析(LS)、及び当分野において既知のその他の方法のいずれかを使用して分析されうる。
【0242】
さらに、植物低分子プロファイルの比較は、ある種の疾患又は環境的条件に対する植物の抵抗性と関連した化合物の同定をもたらしうる。
【0243】
さらに、本方法は、植物の低分子プロファイル及び低分子ライブラリーにも関する。例えば、低分子プロファイルは、動物低分子プロファイルの比較と類似の方法で、ある種の化合物の植物における欠損を決定し、植物の疾患を分析するために使用されうる。例えば、特定の植物の細胞、細胞コンパートメント、又はオルガネラ(例えば、葉緑体、ミトコンドリア、小胞体、ゴルジ体等)の低分子プロファイルが、決定されうる。標準植物細胞プロファイルも、作製されうる。これらは、疾患細胞に異常な量で存在する低分子を決定するため、特定の疾患状態にある植物と比較されうる。
【0244】
本発明の一つの方法において、昆虫の細胞、細胞コンパートメント、又はオルガネラの低分子プロファイルが、既知の殺虫剤で処理された昆虫の細胞、細胞コンパートメント、又はオルガネラの低分子プロファイルと比較される。低分子プロファイルは、殺虫活性と関連した化合物を同定するために、比較されうる。関連していることが同定された化合物は、次いで、化合物の殺虫活性をさらに最適化するために同定されうる。
【0245】
「殺虫剤」という用語には、イソポダ(Isopoda)目(例えば、オニスクス・アセルス(Oniscus asellus)、アルマジリジウム・ブルガレ(Armadillidium vulgare)、及びポルセリオ・スカバー(Porcellio scaber))、ジプロポダ(Diplopoda)目(例えば、ブラニウルス・グッツラツス(Blaniulus guttulatus))、チロポダ(Chilopoda)目(例えば、ゲオフィルス・カルポファグス(Geophilus carpophagus)、スクチゲラ・スペック(Scutigera spec)等)、シンフィラ(Symphyla)目(例えば、スクチゲレラ・イマキュラタ(Scutigerella Immaculata)等)、チサヌラ(Thysanura)目(例えば、レピスマ・サッカリナ(Lepisma saccharina))、コレンボラ(Collembola)目(例えば、オニチウルス・アルマツス(Onychiurus armatus))、オルトプテラ(Orthoptera)目(例えば、ブラッタ・オリエンタリス(Blatta orientalis)、ペリプラネタ・アメリカナ(Periplaneta americana)、ロイコファエア・マデレ(Leucophaea maderae)、ブラテラ・ゲルマニカ(Blattella germanica)、アケタ・ドメスチクス(Acheta domesticus)、グリロタルパ(Gryllotalpa)spp.、ロクスタ・ミグラトリア・ミグラトリオイデス(Locusta migratoria migratorioides)、メラノプラス・ディファレンチアリス(Melanoplus differentialis)、及びシストセルカ・グレガリア(Schistocerca gregaria)等)、デルマプテラ(Dermaptera)目(例えば、フォルフィクラ・アウリキュラリア(Forficula auricularia)等)、イソプテラ(Isoptera)目(例えば、レチクリテルメス(Reticulitermes)spp等)、アノプルラ(Anoplura)目(例えば、ペジクルス・フマヌス・コルポリス(Pediculus humanus corporis)、ヘマトピヌス(Haematopinus)spp.、リノグナツス(Linognathus)spp.等)、マロファガ(Mallophaga)目(例えば、トリコデクテス(Trichodectes)spp.、デマリネア(Damalinea)spp.等)、チサノプテラ(Thysanoptera)目(例えば、ヘルシノスリプス・フェモラリス(Hercinothrips femoralis)、スリプス・タビシ(Thrips tabaci))、ヘテロプテラ(Heteroptera)目(エウリガスター(Eurygaster)spp.、ジスデルクス・インターメディウス(Dysdercus intermedius)、ピエサマ・クアドラタ(Piesma quadrata)、シメックス・レクツラリウス(Cimex lectularius)、ロドニウス・プロリキサス(Rhodnius prolixus)、及びトリアトマ(Triatoma)spp.等)、ホモプテラ(Homoptera)目(例えば、アレウロデス・ブラシケ(Aleurodes brassicae)、ベミシア・タビシ(Bemisia tabaci)、トリアロイロデス・バポラリオルム(Trialeurodes vaporariorum)、アフィス・ゴシッピー(Aphis gossypii)、ブレビコリネ・ブラシケ(Brevicoryne brassicae)、クリプロミズス・リビス(Cryptomyzus ribis)、ドラリス・ファベ(Doralis fabae)、ドラリス・ポミ(Doralis pomi)、エリオソマ・ラニゲルム(Eriosoma lanigerum)、ヒアロプテルス・アルンジニス(Hyalopterus arundinis)、マクロシファム・アベネ(Macrosiphum avenae)、ミズス(Myzus)spp.、フォロドン・フミリ(Phorodon humuli)、ロパロシファム・パディ(Rhopalosiphum padi)、フィロキセラ・バスタトリクス(Phylloxera vastatrix)、ペンフィグス(Pemphigus)spp.、エンポアスカ(Empoasca)spp.、エスセリス・ビロバツス(Euscelis bilobatus)、ネフォテッチクス・シンクチセプス(Nephotettix cincticeps)、レカニウム・コルニ(Lecanium corni)、サイッセチカ・オレエ(Saissetia oleae)、ラオデルファクス・ストリアテルス(Laodelphax striatellus)、ニラパルバタ・ルゲンス(Nilaparvata lugens)、アオニジエラ・アウランチー(Aonidiella aurantii)、アスピジオツス・ヘデレ(Aspidiotus hederae)、シュードコッカス(Pseudococcus)spp.、プシラ(Psylla)spp.等)、レピドプテラ(Lepidoptera)目(例えば、ペクチノフォラ・ゴッシピエラ(Pectinophora gossypiella)、・ブラルス・ピニアリウス(Bupalus piniarius)、チェイマトビア・ブルマタ(Cheimatobia brumata)、リトコレチス・ブランカルデリア(Lithocolletis blancardelia)、ヒポノメウタ・パデラ(Hyponomeuta padella)、プルテラ・マクリペニス(Plutella maculipennis)、マラコソマ・ネウストリア(Malacosoma neustria)、オイプロクチス・クリソレア(Euproctis chrysorrhoea)、リマントリア(Lymantria)spp.、ブッキュラトリクス・ツルベリエラ(Bucculatrix thurberiella)、フィロクニスチス・シトレラ(Phyllocnistis citrella)、アグロチス(Agrotis)spp.、オイキソア(Euxoa)spp.、フェルチア(Feltia)spp.、エアリアス・インスラナ(Earias insulana)、ヘリオチス(Heliothis)spp.、ラフィグマ・エキシグア(Laphygma exigua)、マメストラ・ブラシケ(Mamestra brassicae)、パノリス・フラメア(Panolis flammea)、プロデニア・リツラ(Prodenia litura)、スポドプテラ(Spodoptera)spp.、トリコプルシア・ニ(Trichoplusia ni)、カルポカプサ・ポメネラ(Carpocapsa pomonella)、ピエリス(Pieris)spp.、チロ(Chilo)spp.、プラウスタ・ヌビラリス(Pyrausta nubilalis)、エフェスチア・クエニエラ(Ephestia kuehniella)、ガレリア・メロネラ(Galleria mellonella)、チネオラ・ビセリエラ(Tineola bisselliella)、チネア・ペリオネラ(Tinea pellionella)、ホフマノフィラ・シュードプレテラ(Hofmannophila pseudospretella)、カコエシア・ポダナ(Cacoecia podana)、カプア・レチキュラナ(Capua reticulana)、コリストネウラ・フミフェラナ(Choristoneura fumiferana)、クリシア・アンビゲラ(Clysia ambiguella)、ホモナ・マグナニマ(Homona magnanima)、トルトリクス・ビリダナ(Tortrix viridana)等)、コレオプテラ(Coleoptera)目(例えば、アノビウム・プンクタツム(Anobium punctatum)、リゾペルサ・ドミニカ(Rhizopertha dominica)、ブルチジウス・オブテクツス(Bruchidius obtectus)、アカントセリデス・オブテクツス(Acanthoscelides obtectus)、ヒロトルペス・バジュルス(Hylotrupes bajulus)、アゲラスチカ・アルニ(Agelastica alni)、レプチノタルサ・デセムリネアタ(Leptinotarsa decemlineata)、ファエドン・コシレアリエ(Phaedon cochleariae)、ジアブロチカ(Diabrotica)spp.、サイリオデス・クリソセファラ(Psylliodes chrysocephala)、エピラクナ・バリベスチス(Epilachna varivestis)、アトマリア(Atomaria)spp.、オリゼフィルス・スリナメンシス(Oryzaephilus surinamensis)、アントノムス(Anthonomus)spp.、シトフィルス(Sitophilus)spp.、オチオリンクス・スルカツス(Otiorrhynchus sulcatus)、コスモポリテス・ソルジヅス(Cosmopolites sordidus)、セイトリンクス・アシミリス(Ceuthorrhynchus assimilis)、ヒペラ・ポスチカ(Hypera postica)、デルメステス(Dermestes)spp.、トロゴデルマ(Trogoderma)spp.、アントレヌス(Anthrenus)spp.、アタゲヌス(Attagenus)spp.、リクツス(Lyctus)spp.、メリゲテス・アエネウス(Meligethes aeneus)、プチヌス(Ptinus)spp.、ニプツス・ホロロイクス(Niptus hololeucus)、ギビウム・サイロイデス(Gibbium psylloides)、トリボリウム(Tribolium)spp.、テネブリオ・モリトル(Tenebrio molitor)、アグリオテス(Agriotes)spp.、コノデルス(Conoderus)spp.、メロロンタ・メロロンタ(Melolontha melolontha)、アンフィマロン・ソルスチチアリス(Amphimallon solstitialis)、コステリトラ・ゼアランジカ(Costelytra zealandica)等)、ヒメノプテラ(Hymenoptera)目(ジプリオン(Diprion)spp.、ホプロカンパ(Hoplocampa)spp.、ラシウス(Lasius)spp.、モノモリウム・ファラノニス(Monomorium pharaonis)、ベスパ(Vespa)spp.等)、ジプテラ(Diptera)目(例えば、アエデス(Aedes)spp.、アノフェレス(Anopheles)spp.、クレックス(Culex)spp.、ドロソフィラ・メラノガスター(Drosophila melanogaster)、ムスカ(Musca)spp.、ファニア(Fannia)spp.、カリフォラ・エリスロセファラ(Calliphora erythrocephala)、ルシリア(Lucilia)spp.、クリソミア(Chrysomyia)spp.、キュテレブラ(Cuterebra)spp.、ガストロフィルス(Gastrophilus)spp.、ヒッポボスカ(Hyppobosca)spp.、ストモキシス(Stomoxys)spp.、オエストルス(Oestrus)spp.、ヒポデルマ(Hypoderma)spp.、タバヌス(Tabanus)spp.、タニア(Tannia)spp.、ビブロ・ホルツラヌス(Bibio hortulanus)、オシネラ・フリット(Oscinella frit)、フォルビア(Phorbia)spp.、ペゴミア・ヒオシアミ(Pegomyia hyoscyami)、セラチチス・カプタタ(Ceratitis capitata)、ダキュス・オエアエ(Dacus oleae)、チプラ・パルドサ(Tipula paludosa)等)、シフォナプテラ(Siphonaptera)目(例えば、キセノシラ・ケオピス(Xenopsylla cheopis)及びセラトフィルス(Ceratophyllus)spp.等)、アラクニダ(Arachnida)目(例えば、スコルピオ・マウルス(Scorpio maurus)、カトロデクツス・マクタンス(Latrodectus mactans)等)、アカリナ(Acarina)目(例えば、アカルス・シロ(Acarus siro)、アルガス(Argas)spp.、オルニトドロス(Ornithodoros)spp.、デルマニサス・ガリネ(Dermanyssus gallinae)、エチオフィエス・リビス(Eriophyes ribis)、フィロコプトルタ・オレイボラ(Phyllocoptruta oleivora)、ブーフィルス(Boophilus)spp.、リピセファルス(Rhipicephalus)spp.、アンブリオマ(Amblyomma)spp.、ヒアロマ(Hyalomma)spp.、イクソデス(Ixodes)spp.、ソロプテス(Psoroptes)spp.、コリオプテス(Chorioptes)spp.、サルコプテス(Sarcoptes)spp.、タルソネムス(Tarsonemus)spp.、ブリオビア(Bryobia praetiosa)、パノニクス(Panonychus)spp.、テトラニクス(Tetranychus)spp等)、プラチレンクス(Pratylenchus)spp.、ラドフォルス・シミリス(Radopholus similis)、ジチレンクス・ジプサシ(Ditylenchus dipsaci)、チレンクルス・セミペネトランス(Tylenchulus semipenetrans)、ヘテロデラ(Heterodera)spp.、メロイドジネ(Meloidogyne)spp.、アフェレンコイデス(Aphelenchoides)spp.、ロンギドルス(Longidorus)spp.、キシフィネマ(Xiphinema)spp.、及びトリコドルス(Trichodorus)spp.の生物を殺傷するか、又はその生殖能力を制限する化合物が含まれる。
【0246】
もう一つの態様において、試験化合物が活性を有する殺虫剤であるか否かを決定するため、試験化合物で処理された昆虫細胞の低分子プロファイルが、既知の殺虫剤で処理された昆虫細胞の低分子プロファイルと比較されうる。
【0247】
本発明は、本発明の方法により同定された1個以上の殺虫剤を含む殺虫剤にも関する。一つの態様において、本発明の殺虫剤は、ヒトにとって無毒である。
【0248】
固体であっても液体であってもよい本発明の殺虫組成物は、噴霧により、昆虫の群れ、又は昆虫集団へと適用されうる。ある処置のために必要な方法及び設備は、当業者により決定されうる。さらに、本明細書に記載された本発明の方法は、乾燥系、湿潤系、又は水中系(例えば、昆虫感染区域は、流動又は静止している水域である)において昆虫の群又は集団を処理するために使用されうる。本発明の方法により処理される水中系は、淡水又は海水のいずれかでありうる。さらに、本発明の昆虫抑制組成物は、宿主(例えば、農業作物、芝生)へと直接適用されうる。
【実施例】
【0249】
本発明の実験例証
実施例1:細胞コンパートメントの低分子プロファイルを得るための方法
HPLCを使用してミトコンドリアの低分子プロファイルを得るための方法
以下の方法は、本発明に記載された方法のため、いかにしてミトコンドリアから低分子が単離されるかを例証する。
【0250】
ミトコンドリアの単離
哺乳動物起源に由来するミトコンドリアは、140mM KCl及び20mMヘペス(pH7.4)におけるディファレンシャル遠心分離によって単離される。最終洗浄の後、ミトコンドリアは、同緩衝液に再懸濁させられ、一部が液体窒素の中で急速凍結させられる。タンパク質決定は、シグマ・プロテイン・アッセイ・キット(Sigma Protein Assay Kit P5656)を使用してローリー法により実施される。
【0251】
その他のミトコンドリア試料は、発表されているプロトコルの変法を使用して精製される(Rigobelloら(1995)Arch.Biochem.Biophys.319,225-230)。対象を断頭後、哺乳動物肝臓ミトコンドリアを得る。肝臓が解剖され、250mMマンニトール、75mMショ糖、100μM EDTA、500μM EGTA、10mMヘペス(pH7.4)を含む氷冷溶液中に置かれる。肝臓を、モーター駆動テフロン乳棒でホモジナイズし、ホモジネートを1000gで10分間遠心分離する。上清を除去し、10,000gで15分間遠心分離する。ペレットを、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)(Sigma A-6003)を含む250mMマンニトール、75mMショ糖、100μM EDTA、500μM EGTA、10mMヘペス(pH7.4)溶液で洗浄する。次いで、遠心分離後、ペレットを、0.5%BSAを含む250mMマンニトール、75mMショ糖、30μM EDTA、10mMヘペス(pH7.4)溶液でさらに2回洗浄する。最終洗浄の後、ミトコンドリアを、BSAを含まない最終緩衝液5mlに再懸濁する。一部を除去し、微量遠心管でペレット化し、160mM KClで1回洗浄し、再ペレット化し、-80℃で凍結乾燥する。試料は、単離後1週間以内にHPLCにより分析される。
【0252】
HPLC標準
基本的なHPLC及び電量測定アレイの方法論は、血清、尿、及び組織の分析のための使用に関して以前に記載されている(Bealら(1990)J.Neurochem.55:1327;Matsonら(1987)Life Sci.41:905;LeWittら(1992)Neurology 42:2111;Ogawaら(1992)Neurology 42:1702;Bealら(1992)J.Neurol.Sci.108:80)。ストック溶液の標準は、シグマより得られ、1%リン酸含有20%MeOH中の1mg/mlストックとして-80℃で保存される。次に、0.1M NaClで作業強度へと希釈される。アッセイの順序は、標準、試料8個、試料プール、標準、等である。ラン内精度は、反復されたプールのアッセイの予見より得られる。精度は、第一に、分析物のレベルの関数として変動し、第二に、それが起こる領域の複雑性として変動する。典型的な例として、精度は、5pgにおいて±20%、500pgにおいて±5%、1ngにおいて±3%である。
【0253】
試料の調製
ミトコンドリア・タンパク質をおよそ5mg含むミトコンドリア試料を、-20℃で、4倍容量のアセトニトリル、4%酢酸で沈殿させ、抽出する。遠心分離した上清の1ミリリットルを除去し、真空下で蒸発乾燥させ、移動相A(11g/Lの酢酸含有ペンタンスルホン酸(pH3.00))200μlで再生する。回収率(連続的な抽出及び全パターンの比較により確認される)は、分離された全化合物の93%〜100%まで変動した。このプロトコルは、1ng/ml濃度でアスコルビン酸塩及びホモゲンチシン酸のような反応性の種を保存する。ミトコンドリア・タンパク質2mgと等価な再生された抽出物が、オートサンプル・バイアル中に置かれ、直ちに分析される。残りの抽出物は、将来の確認分析のため-80℃で凍結させられる。インジェクション直前、試料は0〜1℃でオートインジェクターに維持される。
【0254】
クロマトグラフィ法
保持時間及び応答電位の安定性を保持するため、移動相A(前記)と移動相B(80/10/10メタノール/アセトニトリル/イソプロパノール中の酢酸を含む0.1M酢酸リチウム(pH3.00))との組み合わせが使用される。クロマトグラフィ法は、共沸混合物の粘性効果を補償するために調整された流速での、120分間の0% Bから100% Bへの複雑な勾配を含み、以前に詳細に記載されている(Milburyら(1997)in Progress in HPLC,Coulometic Electrode Array Detectors for HPLC,125〜141頁,VSP International Science Publications)。混合勾配は、ピーク・サプレッサー/グラジエント・ミキサーからPEEKで裏打ちされたパルス・ダンパー(PEEK-lined pulse damper)へと送られた後、オートサンプラー・インジェクターを通り、2つのC18カラム[META250、5μm ODS、250×4.6mm I.D.、ESA,Inc.]上へと流れる。
【0255】
0mVから900mVへと60mVずつ増加する16チャネル電量測定電極アレイ(ESA,Inc.、コントロン・モデル(Kontron Model)460オートサンプラーを備えたモデル5600 CEASグラジエント・システム(gradient system))を使用して、低分子が検出される。ピーク・サプレッサー/グラジエント・ミキサー、パルス・ダンパー、カラム、及び検出器は、35℃に維持された温度調節されたエンクロージャーの中に含まれている。系の機能は、386マイクロコンピューターにインストールされた5600-CEASソフトウェアにより調節される。
【0256】
検出された低分子は、次いで、低分子プロファイルを作出するためコンピューターで分析されうる。次いで、低分子プロファイルが、例えば差し引きにより、他の試料の低分子プロファイルと比較されうる。次いで、単離された低分子が、生物学的活性を決定するための当分野において既知のアッセイ法において使用されうる。
【0257】
実施例2:低分子プロファイルを使用して代謝障害を分析するための方法
短期食事変動の後の遺伝学的に改変されたマウスの低分子プロファイルの差を分析するための方法
4.5週齢の、15匹の雌C57B1/6J ob/obマウス、及び痩せ同腹仔対照(15匹の雌C57B1/6J ?/+)と、15匹の雄C57B1/Ks db/dbマウス、及び痩せ同腹仔対照(15匹の雌C57B1/ks +/+)がジャクソン研究所(Jackson labs)より得られ、研究の開始前の1週間、個々に収容され、通常のマウス飼料を与えられる(West,D.B.,1992,Am.J.Physiol.262:R1025-R1032)。次いで、各15匹の4群がCO2安楽死により屠殺され、次いで組織が収集される。4つのマウス群の体重(グラム)が、屠殺時に測定される。次いで、視床下部由来の細胞の低分子プロファイルが、各マウス群より得られ、比較される。
【0258】
マウス(正常、または痩せ、またはob/ob、またはdb/db、またはtub/tub、あるいはその組合せ)に、実験の開始前、通常通り給餌し、次いで1つの対照群及び2つの実験群へ分割する。次に、対照群は自由食で維持するが、第1実験群(「絶食群」)は絶食させ、かつ第2実験群(「絶食−再給餌群」)は最初に絶食させ、次に非常に味の良い食餌を与え、その直後、低分子プロファイリングのための組織試料が収集する。実験の直前と直後に、各試験動物を計量する。実験の前後に、各群の各マウスの低分子プロファイルが入手する。各群のプロファイルの平均をとり、異なる群のものと比較する。
【0259】
長期食事変動の後のマウスの低分子プロファイルを比較するための方法
マウスに、実験の開始前、通常通り給餌し、次いで、1つの対照群及び2つの実験群へと分割する。次いで、対照群は、1日飼料摂取量を計算するため通常食の自由摂取で維持される。次いで、第1実験群(「体重過少群」)は、対照群の何パーセントか(例えば80%)に群の体重を減少させ、かつ維持するため、通常の飼料摂取量の何割か(例えば通常の60〜90%)を受け取ることにより過少給餌される。第2実験群(「体重過多群」)は、群を対照のレベルよりも高いレベル(例えば対照群の125%)にするであろう食事を受け取ることにより過剰給餌される。対照と、体重過少条件及び/又は体重過多条件とで異なる量で存在する化合物を決定するため、低分子プロファイルのための組織試料が得られる。
【0260】
実施例3:異なる免疫細胞型の低分子プロファイルの比較
TH1細胞及びTH2細胞の低分子プロファイルを比較するための方法
トランスジェニックT細胞例が、TH2細胞に存在する細胞低分子を同定するために使用される。同定される低分子は、TH1細胞と比較して異なる量でTH2細胞に存在するものである。
【0261】
トランスジェニック・マウス
オボアルブミンを認識するT細胞受容体(TCR)を保有している初回抗原刺激されていないトランスジェニック・マウス系統の脾臓及び/又はリンパ節から未感作CD4細胞が得られる(Murphyら,1990,Science 250:1720)。
【0262】
卵特異的トランスジェニックT細胞
卵特異的T細胞の懸濁液が、Murphyら(Murphyら,1990,Science 250:1720)に記載されたのと本質的に同様にして、刺激性ペプチド抗原及び抗原提示細胞と共に培養される。簡単に説明すると、2〜4×106個のT細胞が、0.3μM Ovaペプチドの存在下で、およそ2倍のTA3抗原提示細胞と共にインキュベートされる。TH1培養物は、およそ10ng/mlの組換えmIL-12を含有しうる。反対に、TH2細胞はIL-4(1000μ/ml)を受容した。培養開始後、様々な時点で、培養物が採集される。抗CD4でコーティングされた磁性ビーズ(Dynal,Inc.)を使用して、T細胞からTA3細胞が精製される。次いで、穏和な遠心分離によりT細胞がペレット化され、溶解させられる。
【0263】
組織の収集:
次いで、細胞がドライアイス上で急速凍結させられる。試料が、液体窒素下で、乳鉢及び乳棒を用いてホモジナイズされる。
【0264】
ミトコンドリアの単離及び低分子プロファイルの作製
実施例1に与えられた手法を使用して、細胞ミトコンドリアが単離され、低分子プロファイルが作製される。
【0265】
異なるTH細胞亜集団の低分子プロファイルを比較するための方法
この実施例においては、TH細胞亜集団に、かつ/又はそのような亜集団の分化の過程で、異なる量で存在する低分子を表す低分子プロファイルの作製が記載される。
【0266】
D10.G4(TH2)、AE7(TH1)、及びD1.1(TH1)のようなTH細胞クローンが使用される。刺激前、フィコール勾配遠心分離により、生存細胞について細胞培養物が濃縮される。次いで、トリパンブルー排除を使用して、回収された細胞が計数され、それらの生存率が調査される。細胞が、およそ培養培地5mL中5×106個、又は10mL中1.5×106個で、それぞれT25又はT75フラスコに再接種される。
【0267】
次いで、一般的には、Current Protocols in Immunology,1992,Coligan,J.E.ら、,John Wiley&Sons,NY,3.12.4〜3.12.6頁に従い、コーティングが実施される。特に、接種前、フラスコは、抗CD3-ε抗体(145-C11ハイブリドーマのハイブリドーマ上清;Parmingen,Inc.,San Diego Calif.)でコーティングされる。コーティングのため、抗体を1〜2μg/mlでPBSに再懸濁し、フラスコの底を十分な量でコーティングする。コーティング溶液が、37℃で少なくとも1時間、フラスコ上でインキュベートされる。
【0268】
インキュベーション後、吸引により抗体コーティング溶液が除去され、直ちに細胞が添加される。次いで、フラスコが、37℃のインキュベーターに6時間、置かれるであろう。例えば、培養物からの上清の除去により、細胞が採取される。前記の手法により、細胞からミトコンドリアが除去される。次いで、各TH細胞レベルの低分子プロファイリングが実施され、亜集団間の差違及び類似性を決定するため分析される。
【0269】
実施例5:心臓血管疾患関連低分子を同定する方法
低分子プロファイルを得、疾患関連低分子を同定するため、内皮細胞剪断応力モデルを使用する方法
細胞培養
記載されたような正常期臍帯からHUVECの初代培養物が確立される(In Progress in Hemostasis and Thrombosis,第3巻,P.Spaet編,Grune&Stratton Inc.,New York,1〜28)。細胞は、20%胎児ウシ血清完全培地(1989,J.Immunol.142:2257-2263)で増殖させられ、剪断応力誘導前に1〜3回継代される。
【0270】
誘導のため、第2代HUVECが組織培養処理ポリスチレンに接種され、記載されたようにして(1994,J.Clin.Invest.94:885-891)、10dyn/cm.sup.2層流を1及び6時間受けるか、又は以前に記載されたようにして(1986 Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.83:2114-2117)、3〜10dyn/cm2乱流を受ける。
【0271】
ミトコンドリアの単離
HUVECに由来するミトコンドリアは、140mM KCl及び20mMヘペス(pH7.4)におけるディファレンシャル遠心分離によって単離される。最終洗浄の後、ミトコンドリアは、同緩衝液に再懸濁させられ、一部が液体窒素の中で急速凍結させられる。タンパク質決定は、シグマ・プロテイン・アッセイ・キットP5656を使用してローリー法により実施される。
【0272】
試料の調製
ミトコンドリア・タンパク質をおよそ5mg含むミトコンドリア試料が、-20℃で、4倍容量のアセトニトリル、4%酢酸で沈殿させられ、抽出される。遠心分離された上清が1ミリリットル除去され、真空下で蒸発乾燥させられ、移動相A(11g/Lの酢酸含有ペンタンスルホン酸(pH3.00))200μlで再生させられる。ミトコンドリア・タンパク質2mgと等価な再生させられた抽出物がオートサンプル・バイアル中に置かれ、直ちに分析される。インジェクション直前、試料は0〜1℃でオートインジェクターに維持される。
【0273】
クロマトグラフィ法
保持時間及び応答電位の安定性を保持するため、移動相A(前記)と移動相B(80/10/10メタノール/アセトニトリル/イソプロパノール中の酢酸を含む0.1M酢酸リチウム(pH3.00))との組み合わせが使用される。クロマトグラフィ法は、共沸混合物の粘性効果を補償するために調整された流速での、120分間の0% Bから100% Bへの複雑な勾配を含み、以前に詳細に記載されている(Milburyら(1997)in Progress in HPLC,Coulometic Electrode Array Detectors for HPLC,125〜141頁,VSP International Science Publications)。混合勾配は、ピーク・サプレッサー/グラジエント・ミキサーからPEEKで裏打ちされたパルス・ダンパーへと送られた後、オートサンプラー・インジェクターを通り、2つのC18カラム[META250、5μm ODS、250×4.6mm I.D.、ESA,Inc.]へと流れる。
【0274】
60mVずつ0mVから900mVへと増加する16チャネル電量測定電極アレイ(ESA,Inc.、コントロン・モデル460オートサンプラーを備えたモデル5600 CEASグラジエント・システム)を使用して、低分子が検出される。ピーク・サプレッサー/グラジエント・ミキサー、パルス・ダンパー、カラム、及び検出器は、35℃に維持された温度調節されたエンクロージャーの中に含まれている。系の機能は、386マイクロコンピューターにインストールされた5600-CEASソフトウェアにより調節される。
【0275】
検出された低分子は、次いで低分子プロファイルを作出するためコンピューターで分析されうる。次いで、低分子プロファイルは、乱流を受けたものと比較されうる。乱流を受けた試料の中に異常な量で存在する低分子が、さらなる調査のため同定される。
【0276】
実施例6:ヒト細胞試料の中の疾患関連低分子の同定
ヒト腫瘍試料
この実施例においては、細胞試料が、ヒト対象の悪性腫瘍から採取される。正常組織も、対象の腫瘍と同一又は類似の組織から収集される(例えば、正常乳房組織及び乳房腫瘍組織;正常前立腺組織及び前立腺腫瘍組織等)。健康な対象の類似の組織位置からも正常組織が収集される。
【0277】
組織試料がホモジナイズされ、ミトコンドリアが単離される。
【0278】
ミトコンドリアの単離
各組織起源に由来するミトコンドリアは、140mM KCl及び20mMヘペス(pH7.4)におけるディファレンシャル遠心分離によって単離される。最終洗浄の後、ミトコンドリアは、同緩衝液に再懸濁させられ、一部が液体窒素の中で急速凍結させられる。タンパク質決定は、シグマ・プロテイン・アッセイ・キットP5656を使用してローリー法により実施される。
【0279】
試料の調製
ミトコンドリア・タンパク質をおよそ5mg含むミトコンドリア試料が、-20℃で、4倍容量のアセトニトリル、4%酢酸で沈殿させられ、抽出される。遠心分離された上清が1ミリリットル除去され、真空下で蒸発乾燥させられ、移動相A(酢酸を含むペンタンスルホン酸(pH3.00)1リットル当たり11g)200μlで再生させられる。ミトコンドリア・タンパク質2mgと等価な再生させられた抽出物がオートサンプル・バイアル中に置かれ、直ちに分析される。インジェクション直前、試料は0〜1℃でオートインジェクターに維持される。
【0280】
クロマトグラフィ法
保持時間及び応答電位の安定性を保持するため、移動相A(前記)と移動相B(80/10/10メタノール/アセトニトリル/イソプロパノール中の酢酸を含む0.1M酢酸リチウム(pH3.00))との組み合わせが使用される。クロマトグラフィ法は、共沸混合物の粘性効果を補償するために調整された流速での、120分間の0% Bから100% Bへの複雑な勾配を含み、以前に詳細に記載されている(Milburyら(1997)in Progress in HPLC,Coulometic Electrode Array Detectors for HPLC,125〜141頁,VSP International Science Publications)。混合勾配は、ピーク・サプレッサー/グラジエント・ミキサーからPEEKで裏打ちされたパルス・ダンパーへと送られた後、オートサンプラー・インジェクターを通り、2つのC18カラム[META250、5μm ODS、250×4.6mm I.D.、ESA,Inc.]へと流れる。
【0281】
0mVから900mVへと60mVずつ増加する16チャネル電量測定電極アレイ(ESA,Inc.、コントロン・モデル460オートサンプラーを備えたモデル5600 CEASグラジエント・システム)を使用して、低分子が検出される。ピーク・サプレッサー/グラジエント・ミキサー、パルス・ダンパー、カラム、及び検出器は、35℃に維持された温度調節されたエンクロージャーの中に含まれている。系の機能は、386マイクロコンピューターにインストールされた5600-CEASソフトウェアにより調節される。
【0282】
分析
健康な対象の低分子プロファイルが、癌患者の腫瘍組織及び非腫瘍組織の低分子プロファイルと比較される。腫瘍組織に異常な量で存在する低分子が、プロファイルを比較することにより同定される。
【0283】
参照としての組み込み
本明細書に引用された全ての参照及び特許の完全な内容が、参照として本明細書に組み込まれる。米国特許第5,908,609号及びその全ての参照の完全な内容も、特に本明細書に組み込まれる。
【0284】
等価物
当業者であれば、ルーチンの実験法のみを使用して、本明細書に記載された具体的な態様及び方法の多くの等価物を認識し、又は確認することができるであろう。そのような等価物は、以下の特許請求の範囲の範囲内に包含されるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の疾患状態の診断をメタボロミクス的に促進するための方法であって、疾患状態を有すると推測され、かつ/又は疾患状態を有する対象から低分子プロファイルを得ること;及び
対象の低分子プロファイルを標準低分子プロファイルと比較し、それにより疾患状態を診断すること:を含む、方法。
【請求項2】
対象が疾患状態の素因を有するか否かをメタボロミクス的に予測するための方法であって、
対象から低分子プロファイルを得ること;及び
対象の低分子プロファイルを標準低分子プロファイルと比較し、それにより対象が疾患状態の素因を有するか否かを予測すること:を含む、方法。
【請求項3】
対象の治療剤に対する応答をメタボロミクス的に予測するための方法であって、
対象から低分子プロファイルを得ること;及び
対象の低分子プロファイルを、対象が治療剤による処置から利益を得るであろうか否かの指標としての、治療剤に関して確立された既知の標準と比較し、それにより対象の該治療剤に対する応答を予測すること:を含む、方法。
【請求項4】
臨床試験における治療剤の有効性をメタボロミクス的にモニタリングするための方法であって、
治療剤により処置されている臨床試験の対象から低分子プロファイルを得ること;及び
対象における治療剤の有効性の指標としての、対象の低分子プロファイルの変化をモニタリングし、それにより該治療剤の有効性をモニタリングすること:を含む、方法。
【請求項5】
対象がヒトである、請求項1〜4のいずれかの方法。
【請求項6】
対象が、疾患状態に罹患しているか、又は罹患していると推測される、請求項1〜4のいずれかの方法。
【請求項7】
対象が、免疫学的な、神経学的な、代謝の、腫瘍学的な、ウイルス性の、又は心臓血管の障害に罹患している、請求項1〜4のいずれかの方法。
【請求項8】
細胞コンパートメントの低分子プロファイルを作製するための方法であって、
起源から該細胞コンパートメントを得ること;
該細胞コンパートメント中の低分子の素性(identity)を決定するため、該試料を分析し、それにより該細胞コンパートメントの低分子プロファイルを作成すること:を含む、方法。
【請求項9】
細胞コンパートメントが細胞である、請求項8の方法。
【請求項10】
細胞コンパートメントが核である、請求項8の方法。
【請求項11】
細胞コンパートメントがミトコンドリアである、請求項8の方法。
【請求項12】
試料を分析するための方法が、HPLC、TLC、電気化学的分析、質量分析、屈折率分光法(RI)、紫外分光法(UV)、蛍光分析、放射化学的分析、近赤外分光法(Near-IR)、核磁気共鳴分光法(NMR)、及び光散乱分析(LS)からなる群より選択される、請求項8の方法。
【請求項13】
試料を分析するための方法が、2種以上の方法を含む、請求項12の方法。
【請求項14】
細胞コンパートメントの低分子の少なくとも50%が同定される、請求項8の方法。
【請求項15】
細胞コンパートメントの低分子の少なくとも70%が同定される、請求項14の方法。
【請求項16】
細胞コンパートメントが健康な細胞に由来する、請求項8の方法。
【請求項17】
細胞コンパートメントの起源が罹患細胞である、請求項8の方法。
【請求項18】
細胞コンパートメントの起源が、免疫学的な、代謝の、心臓血管の、神経学的な、腫瘍学的な、又はウイルス性の障害に罹患している、請求項8の方法。
【請求項19】
細胞コンパートメントの起源が、対象の肝臓、心臓、筋肉、脳、神経、胃、膵臓、大腸、骨、血液、又はその他の組織より選択される、請求項8の方法。
【請求項20】
疾患関連低分子を同定するための方法であって、
罹患細胞コンパートメントの低分子プロファイルを得ること;及び
該罹患細胞の低分子プロファイルを、標準低分子プロファイルと比較し、それにより該罹患細胞コンパートメントの中の疾患関連低分子を同定すること:を含む、方法。
【請求項21】
罹患細胞コンパートメントが細胞である、請求項20の方法。
【請求項22】
罹患細胞コンパートメントがミトコンドリアである、請求項20の方法。
【請求項23】
罹患細胞コンパートメントが核である、請求項20の方法。
【請求項24】
罹患細胞コンパートメントが、免疫学的な、代謝の、心臓血管の、神経学的な、腫瘍学的な、又はウイルス性の障害に罹患している起源から得られる、請求項20の方法。
【請求項25】
罹患細胞コンパートメントがヒトから得られる、請求項20の方法。
【請求項26】
請求項20記載の方法により同定された疾患関連低分子。
【請求項27】
薬剤により影響を受ける低分子を同定するための方法であって、
薬剤で処置された細胞コンパートメントの低分子プロファイルを得ること;及び
該低分子プロファイルを、標準低分子プロファイルと比較し、それにより該細胞コンパートメントの中の薬剤により影響を受ける化合物を同定すること:を含む、方法。
【請求項28】
薬剤が毒素である、請求項27の方法。
【請求項29】
薬剤が治療剤である、請求項27の方法。
【請求項30】
治療剤が、代謝の、免疫学的な、神経学的な、腫瘍学的な、ウイルス性の、又はその他の障害の処置に使用される治療剤である、請求項29の方法。
【請求項31】
細胞コンパートメントが患者から得られる、請求項27の方法。
【請求項32】
患者が、代謝の、免疫学的な、神経学的な、腫瘍学的な、ウイルス性の、又はその他の障害に罹患している、請求項31の方法。
【請求項33】
細胞コンパートメントが細胞である、請求項27の方法。
【請求項34】
細胞コンパートメントがミトコンドリアである、請求項27の方法。
【請求項35】
細胞コンパートメントが核である、請求項27の方法。
【請求項36】
低分子プロファイルが、HPLC、TLC、電気化学的分析、質量分析、屈折率分光法(RI)、紫外分光法(UV)、蛍光分析、放射化学的分析、近赤外分光法(Near-IR)、核磁気共鳴分光法(NMR)、及び光散乱分析(LS)のうちの1種以上を使用して得られる、請求項27の方法。
【請求項37】
遺伝子によって制御される、変調される、又は関連している低分子を同定するための方法であって、
遺伝学的に修飾された起源に由来する細胞コンパートメントの低分子プロファイルを得ること;及び
低分子プロファイルを、標準低分子プロファイルと比較し、それにより遺伝子によって制御される、変調される、又は関連している低分子を同定すること:を含む、方法。
【請求項38】
細胞コンパートメントが細胞である、請求項37の方法。
【請求項39】
細胞コンパートメントがミトコンドリアである、請求項37の方法。
【請求項40】
細胞コンパートメントが核である、請求項37の方法。
【請求項41】
遺伝学的修飾が発現ベクターである、請求項37の方法。
【請求項42】
発現ベクターがヒト・ゲノムの一部である、請求項41の方法。
【請求項43】
発現ベクターが特定の疾患状態と関連している、請求項42の方法。
【請求項44】
潜在的な細胞薬物標的を同定するための方法であって、
標識された疾患関連低分子を細胞成分と接触させること;及び
細胞成分と標識された疾患関連低分子との相互作用を同定し、それにより潜在的な細胞薬物標的を同定すること:を含む、方法。
【請求項45】
細胞成分が核酸アレイである、請求項44の方法。
【請求項46】
細胞成分がタンパク質アレイである、請求項44の方法。
【請求項47】
請求項44の方法により同定された細胞成分。
【請求項48】
細胞コンパートメントに由来する低分子の試料の検索可能なアレイを含む、細胞の細胞コンパートメントの低分子のライブラリー。
【請求項49】
低分子が単離される、請求項48のライブラリー。
【請求項50】
細胞が動物細胞である、請求項48のライブラリー。
【請求項51】
細胞コンパートメントがミトコンドリアである、請求項48のライブラリー。
【請求項52】
細胞コンパートメントが核である、請求項48のライブラリー。
【請求項53】
細胞コンパートメントが葉緑体である、請求項48のライブラリー。
【請求項54】
低分子プロファイルが同一個体に由来するか否かを決定するための方法であって、
個体から1個以上の試料を得ること;
該試料の低分子プロファイルを決定すること;
未知の起源から組織試料を得ること;
未知の起源の低分子プロファイルを決定すること;及び
低分子プロファイル比較し、それにより低分子プロファイルが同一個体に由来するか否かを決定すること:を含む、方法。
【請求項55】
請求項1の方法により同定された低分子を含む薬学的組成物。

【公開番号】特開2012−185166(P2012−185166A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−83678(P2012−83678)
【出願日】平成24年4月2日(2012.4.2)
【分割の表示】特願2001−575955(P2001−575955)の分割
【原出願日】平成13年4月13日(2001.4.13)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(502373592)メタボロン インコーポレイテッド (4)
【出願人】(505246011)コーネル リサーチ ファンデーション インコーポレーティッド (3)
【Fターム(参考)】