メタマテリアル
【課題】変倍効果を利用して、広範囲の周波数、すなわち低周波数(RF、マイクロ波)から高周波数(mm、THz)にわたり、負の屈折率を持つレンズ、回折光学素子、勾配屈折率光学素子を含むメタマテリアルを製造することができる。
【解決手段】メタマテリアルは、少なくとも一部が残りとは異なる透過率を有する複数の個々の単位セルから形成されている。複数の個々の単位セルは、少なくとも1つの軸に沿って勾配屈折率を有するメタマテリアルを提供するよう配置されている。このようなメタマテリアルは、例えばレンズなどを作製するのに用いることができる。
【解決手段】メタマテリアルは、少なくとも一部が残りとは異なる透過率を有する複数の個々の単位セルから形成されている。複数の個々の単位セルは、少なくとも1つの軸に沿って勾配屈折率を有するメタマテリアルを提供するよう配置されている。このようなメタマテリアルは、例えばレンズなどを作製するのに用いることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野はメタマテリアルである。本発明の他の分野は複合メタマテリアルである。本発明の他の分野はレンズおよび光学素子である。本発明の他の分野は磁石である。
【背景技術】
【0002】
本発明者およびその同僚によるものも含めた実証結果では、強磁性体の応答(以前にまだ発見されていないか、さもなければ従来の材料では達成することが難しい)が、本明細書でメタマテリアルと呼ばれる人工的に形成された材料で得られた。メタマテリアルの特有の応答の一例は、有限周波数帯域全体にわたる負誘電率(ε)と誘電率(μ)とを同時に有する「負の屈折率を持つメタマテリアル」で見ることができる。負の屈折率が既存の材料で得られる材料特性ではないため、負の屈折の基本的性質によって、メタマテリアルが材料物理学で果たす重要な役割が明らかにされてきた。
【0003】
材料応答の一般的な説明はドルーデ−ロ・レンツモデルにおいて見ることができ、このモデルから、εおよびμに対して以下の周波数分散の式を導くことができる。
【0004】
【数1】
これらの式、または極めて類似した式は、従来の材料応答ばかりでなく、人工的に構成されたメタマテリアルの応答を説明するために示されてきた。共振周波数よりも高い周波数(ω0eまたはω0m)で、εあるいはμが負の値となる。
【0005】
メタマテリアルは、同等の既存の材料が存在しない場合、電気共振または磁気共振を有するように設計できる。電気共振および磁気共振は、メタマテリアルの構造内に任意の周波数で位置することができる。特に、電気構造および磁気構造を組み合わせることによって、εおよびμの両方が同時に負である周波数帯域を備えた材料を実現できる。このような材料に対して、積εμの平方根を取って算出された屈折率nは実数値であって、材料が放射線を透過することを示している。しかし、εおよびμの両方が負である場合は、平方根の符号の正しい選択は負であることが示されてきた。したがって、εおよびμが両方とも負である材料は、負の屈折率を持つ材料(NIM)としても特徴付けることができる。
【0006】
従来技術のメタマテリアルには、スプリットリング共振器アレイを構成するマクロセルの集合が含まれる。これらの例が、本発明者とその同僚のうちの何人かによる以前の文献に記載されている。米国特許公報第2001−0038325A1号および2001年3月16日付で出願された出願番号第09/811,376号、発明の名称「左手系複合媒体(Left Handed Composite Media)」もまた、参照により本明細書に組み込まれる。
【0007】
負の屈折率を持つ材料を実証することによって、負の屈折率を持つ材料が有する性質に関する種々の理論が確認されてきた。多くの基本的な電磁および光学原理は考え直す必要がある。なぜなら、基本的な物理解釈は右手系の磁性材料と正の屈折率を常に考えてきたからである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のいくつかの態様を明らかにするために、いくつかの発明的特徴の概要をここで示す。追加的な発明的特徴は、本明細書に添付する好ましい実施形態の説明において見られる。本発明のいくつかの実施形態では、メタマテリアルは、光学的効果を達成するように構成されている。本明細書で用いられる光学系および光学的効果には、可視波長だけでなく電磁波の操作も含まれる。本発明の一実施形態においては、負の屈折率を持つメタマテリアルを最適化して負の屈折率を持つレンズを製造する。本発明の別の実施形態においては、メタマテリアルを変更して回折光学素子を形成する。本発明の別の実施形態においては、メタマテリアルを変更して勾配屈折率光学素子を形成する。
【0009】
本発明の実施形態においては、光学素子は変倍可能な効果を有している。変倍効果を利用して、広範囲の周波数、すなわち低周波数(RF、マイクロ波)から高周波数(mm、THz)にわたり、負の屈折率を持つレンズ、回折光学素子、勾配屈折率光学素子を含むメタマテリアルを製造することができる。本発明の負の屈折率を持つメタマテリアルレンズは、正の屈折率を持つレンズと比較して、収差が低減されること立証している。本発明の一実施形態である平凹で負の屈折率を持つメタマテリアルレンズでは、−0.61の屈折率の値によって収差が最小になる。本発明の例示的なメタマテリアルはマクロセルから形成されるとき、物理的性質(寸法、誘電体材料の種類、相対位置、形状など)は変化できるため、負の屈折率を持つ他のレンズにおいて、および一般的に本発明の素子において、光学効果を最適化することができる。光学効果はTHz以下でより容易に達成されるが、メタマテリアルの性質によって、可視波長でも光学効果を実現することができる。
【0010】
本発明の例示的なメタマテリアルは複数のマクロセルによって形成される。このことは、光学素子および他の素子の形成に多数の利点を与える。本発明の回折光学素子の場合、メタマテリアルの表面プロファイルは、より広い周波数帯域(より少ない色収差)や他の利点を形成する回折面に合わせて調整される。メタマテリアルの性質をセルごとにセルに合わせて調整して、勾配屈折率光学系を形成できる。勾配屈折率レンズは、多くの光学用途で用いられている。メタマテリアルは、屈折率プロファイルを集光、ビーム操縦、ビーム整形または他の光学機能性を提供する必要に応じて、特別に調整できるという点で利点がある。メタマテリアルはマクロセルを基にしているため、材料のセルごとに能動および調整を実現できる。能動電子デバイスによって、または電気機械デバイスによって実行可能なこの制御を勾配屈折率の概念と組み合わせることによって、適応光学素子を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の例示的なメタマテリアルの種々の図である。
【図2】本発明の例示的なメタマテリアルの特性を示すのに有用である。
【図3】本発明の例示的なメタマテリアルの特性を示すのに有用である。
【図4】本発明の例示的なメタマテリアルの特性を示すのに有用である。
【図5】本発明の例示的なメタマテリアルの特性を示すのに有用である。
【図6】本発明の例示的なメタマテリアルの特性を示すのに有用である。
【図7】本発明の例示的なメタマテリアルの特性を示すのに有用である。
【図8】本発明の例示的なメタマテリアルの特性を示すのに有用である。
【図9】本発明の例示的なメタマテリアルの特性を示すのに有用である。
【図10】本発明の例示的なメタマテリアルの特性を示すのに有用である。
【図11】本発明の例示的なメタマテリアルの特性を示すのに有用である。
【図12】本発明の例示的なメタマテリアルの特性を示すのに有用である。
【図13】本発明の例示的なメタマテリアルの特性を示すのに有用である。
【図14】本発明の例示的なメタマテリアルの特性を示すのに有用である。
【図15】本発明の例示的なメタマテリアルを示している。
【図16】本発明の例示的なメタマテリアルを示している。
【図17】本発明の例示的なメタマテリアルの特性を示すのに有用である。
【図18】本発明の例示的なメタマテリアルの特性を示すのに有用である。
【図19】本発明の例示的なメタマテリアルの特性を示すのに有用である。
【図20】本発明の例示的なメタマテリアルを示している。
【図21】本発明の例示的なメタマテリアルの一態様を概略的に示している。
【図22】本発明の例示的なメタマテリアルの一態様を概略的に示している。
【図23】例示的な本発明の例示的なモジュールメタマテリアルを示している。
【図24】本発明の種々のメタマテリアルで有用な導体共振器を概略的に示している。
【図25】本発明のメタマテリアルを作製するための例示的な方法を概略的に示している。
【図26】本発明の例示的なメタマテリアルの特性を示すのに有用である。
【図27】本発明の例示的なメタマテリアルの性質を示すのに有用である。
【図28】本発明の例示的なメタマテリアルの性質を示すのに有用である。
【図29】本発明の例示的なメタマテリアルの性質を示すのに有用である。
【図30】本発明の例示的なメタマテリアルの性質を示すのに有用である。
【図31】本発明の例示的なメタマテリアルの一態様を概略的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態は、メタマテリアルの特性の範囲を大幅に拡大する種々の新しいメタマテリアルに関し、このメタマテリアルによって、特別な電磁気デバイスだけでなく新しい物理的、光学的挙動の可能性を実現することに関する。メタマテリアルは、1つまたは複数の寸法でパターン化された複数の構成要素を含む、人工的に構成された材料であり、各要素は、波動伝搬の方向において、およそ入射光の波長またはそれよりも小さい物理寸法を有し、その場合、各要素は印加された電磁場に応じて所望の電気分極および磁気分極を示すよう構成されている。多くの(しかし全てではない)メタマテリアルにおいて、要素は導体から作られ、誘電体基板で支持されている。要素の好ましい例には、格子状の直線ワイヤ導体や格子状のスプリットリング共振器が含まれる。
【0013】
本明細書で用いられているとおり、「誘電体基板で支持されている」(または「ホスト」)という表現で用いられている「支持されている」という用語は、広義に解釈されるものとし、基板の一表面で保持されていると限定するものではない。導体は、例えば、誘電体基板内に収容または埋め込まれ、誘電体基板に「支持されていて」もよい。本明細書で用いられる「誘電体」および「誘電体ホスト」という用語は、誘電率が約+1以上、好ましくは+1より大きい、電気的に絶縁性の材料を広義に意味するものとする。誘電体ホストは、空気などの気体であってもよく、または誘電体ポリマー、ガラス、石英などの基板であってもよい。
【0014】
例示的なメタマテリアルは、導体などの同一要素(すなわち周期構造)の反復単位セルを支持する誘電体ホストからなる。他の例示的なメタマテリアルは、誘電率、透過率、屈折率または波動インピーダンスのうちの1つまたは複数の有効媒体パラメータに勾配を生成するように設計された要素の不均一な集合から形成することもできる。
【0015】
本発明は、特別な機能を達成するよう設計されたメタマテリアルに関する。例えば、本発明の実施形態は、屈折率の空間的変化を示すように設計されたメタマテリアルに関する。本発明の他の実施形態は、メタマテリアルを作製する方法に関する。本発明の実施形態は、詳細には、光学およびレンズの分野で有用に適用可能である。なお、本明細書で用いられる「光学系」および「レンズ」という用語は、広義に解釈され、可視光でのみ操作可能な装置に限定されないものとする。「レンズ」には、例えば可視光線周波数にはない電磁波を操作するのに有用な装置を含むこともできる。メタマテリアルのレンズを含む、本発明の例示的なメタマテリアルは、伝搬する自由空間波と相互に影響し合い、どのような寸法にも限定されない。
【0016】
本発明を、以下の例示的な実施形態を通してさらに考察し説明する。
A.負の屈折率を有するメタマテリアルの表面上の回折格子からの強化された回折
本発明の一態様は、屈折および回折を調整するのに最適化された表面特性を有する、負の屈折率を持つ材料に関する。回折ビームへの結合は、正の屈折率の材料と負の屈折率の材料との界面で強化されることが見出された。回折光学素子は、基本的には、パターン化された回折格子であるため、本発明の実施形態は、負の屈折率を持つ材料内の特定の回折格子をレンズ要素として利用する。回折格子の設計は、以下の式1に基づくことができる。この関係を用いて、負の屈折率を持つ回折格子レンズを従来の光学的方法で最適化できる。本発明のこの実施形態の1つの重要な利点は、メタマテリアルを用いると効率がはるか高くなることにより、従来技術で利用可能なレンズよりもさらに一層コンパクトなレンズが実現可能であることである。
【0017】
例示的な実施形態には、どのような周波数にも適合するように形成され、また光または他の電磁波を集光、あるいは操作するよう設計された格子構造に形成された、負の屈折率を持つ材料が含まれる。
【0018】
負の屈折率を持つメタマテリアルのくさび形サンプルの測定だけでなく多数のシミュレーションにより、屈折界面の避けられない段差が――メタマテリアル固有の有限単位セルサイズにより――、負の回折ビームに加えて、明確な回折ビームを発生させることが示されている。回折ビームの方向は基本的回折理論と一致している。しかし、この高次ビームへの結合は、正の屈折率を持つ材料の場合よりもはるかに大きくなる。
【0019】
負の屈折率(n)を持つ人工材料の最近の実証によると、新しい物理学を調査するためおよび新しい用途を開発するためにこれらの材料を利用することが探究され始めた。多くの興味を引く注目すべき電磁現象(例えば、逆チェレンコフ放射や逆ドップラーシフト)が負の屈折率を持つ材料で生じると予測されてきたため、最も基本的な電磁および光学現象ですら負の屈折率を持つ媒体との関連で慎重に再検討しなければならない。例えば、n=−1の平板の撮像特性の分析においては、いずれの正の屈折率を持つ光学構成部品の解像度をも上回る解像度が実現できることが予測されてきた。
【0020】
導電要素の2つの分散した格子でできた人工的な媒体が製造され、負の屈折率を有すると報告された。この材料でできたくさび形サンプルは、図1に示すように、負の屈折率を持つ材料と一致した方法でマイクロ波を屈折させると実証されている。媒体は、約11.0GHz〜11.5GHzの周波数帯域にわたり同等の負の透過率を与える導電スプリットリング共振器(SRR)と、より広く、重なった周波数範囲にわたり負の周波数帯域の透過率を与えるワイヤストリップとの2次元配置で構成されていた。SRRとワイヤストリップは両方とも誘電体基板で支持されている。
【0021】
使用されたサンプルでは、5mmの単位セルサイズは、自由空間波よりもおよそ1/6のサイズであり、材料は、有効な媒体理論によって理にかなって特徴付けられると推測できる。しかし、有限の単位セルサイズは表面に避けられない段差を生じる。18.4度の屈折面を達成するには、メタマテリアルの表面は、図1(a)に示すように、1つの単位セルごとに3段の単位セルに切断された。したがって、その結果得られる表面のC段差は、λ/2のオーダーであった。
【0022】
図1(a)は、負の屈折率を実証するために用いられたメタマテリアルのくさびの概略図である。構成は、図1(a)の白線で示されるように、2次元でパターン化されている。図1(b)は、本発明のメタマテリアルのくさびの1つの単位セルを示す概略図である。この例示的なくさびは、直径が2.5mmの単位セルででき、示されているように1次元のみ(すなわち縦列として)パターン化されている。図1(c)は、図1(a)で用いられたSRRの概略図であって、寸法は、s=2.63mm、c=0.25mm、b=0.3mm、g=0.46mm、w=0.25mmであり、図1(d)は、図1(b)のメタマテリアルで用いられる本発明の1単位のSRRの概略図で、寸法は、s=2.2mm、c=0.2mm、b=0.15mm、g=0.3mm、w=0.14mmである。用いられる誘電体基板は、銅の厚みが約0.014mmの厚さ0.25mmのFR4回路板(ε=3.8)である。
【0023】
メタマテリアルのサンプル上の表面段差は回折格子を構成し、0次の屈折ビームに加えて回折ビームを生成することが予測され得た。0次および高次ビームを生成するための条件は、周知の回折格子式から決定される。
【0024】
【数2】
ここで、θmは媒体側からの界面の法線に対する入射角で、θは屈折角である。式1は、屈折(第1項)だけでなく回折(第2項)も明らかにする。
【0025】
式1を導く基本的な論証では、入射ビームを種々の可能な出射ビームへ相対的な結合を決定できない。正の屈折率を持つ材料と負の屈折率を持つ材料との間の回折格子からの平面波回折を理論的に分析すると、回折次数への強化された結合が予測される。この強化された結合は、以下の論理によって理解することができる。周期的にパターン化された表面に入射する波は、界面に沿った波数ベクトルが、逆格子ベクトル内へ入射する波のベクトル(kx)に一致する全ての透過および反射波(すなわち、kx+mΠ/d、なおmは整数)に結合される。このモード群には、(kx+mΠ/d)>ω/cであるエバネセント成分に加えて、ゼロ次の屈折波と高次回折次数という両方の伝搬成分が含まれる。正の屈折率を持つ媒体と負の屈折率を持つ媒体との間の表面で生成されたエバネセント波に対する反射および透過率は、同じ屈折率符号を有する2つの媒体間の表面で生成された反射および透過率よりもはるかに大きな絶対値となる。摂動的な意味で、回折格子変調によって、エバネセント成分が影響して、入射ビームと全ての回折ビームとが結合される。これらの成分の絶対値は、正の媒体と負の媒体との間で極めて大きいため、入射ビームと高次回折との結合もまた対応して極めて大きくなる。
【0026】
負の屈折率を持つサンプルにおける回折ビームの性質を探求するために、本発明者ら、図3に示されるように、負の屈折率を持つくさびと自由空間との間の界面に入射する波をシミュレーションした。このシミュレーションは、有限要素ベースの電磁モードソルバーにおいて求められた解を用いて実行される。シミュレーションされた幾何学的形状は実験で用いられたものと同様である。ただし、くさびは、SRRとワイヤのアレイではなく負のεおよびμを用いて均質材料として扱われる。有限幅の入射ビームは、アブソーバに沿って、6cm幅のチャネルで1cmの高さで囲まれている一端を駆動することによって形成される。アブソーバは、波をサンプルくさびの平面に導く。滑らかな屈折界面を備えたくさびサンプルの場合、屈折率が正であろうと負であろうと、単一の屈折ビームがスネルの法則(すなわち回折ビームなし)によって定められた角度で常に観察される。
【0027】
正の屈折率を持つくさびに付けられた表面段差は、滑らかなくさびの屈折ビームと同じ単一の屈折ビームを生成する。しかし、図2に示された負の屈折率を持つくさびに付けられた表面段差によって、第2のビームが出現する。
【0028】
図2は、負の屈折率を持つくさびの段差のある界面で、屈折ビームと回折ビームとを示す領域プロットである。このシミュレーションにおけるさびでは、ε=−5.09、μ=−1.41であり、したがってn=−2.68である。シミュレーションの周波数は11.5GHzである。くさびの屈折面に沿った段差の寸法は15mm×5mmである。実験との類似のため、1cm高さ(ページに対して垂直な方向)で6cm幅の案内領域がシミュレーションされ、(ページと平行な)電気の境界条件によって境界が示される。屈折ビームおよび回折ビームは、式1に従って、それぞれ−58°および+30°の角度で平板を出射する。
【0029】
図2で表されたシミュレーションにおける幾何形状のパラメータは、式1で用いられる場合、表面法線から−58°で0次屈折ビームと、見かけの格子長さに依存した角度で1次回折ビームを示している。式1は、くさびの屈折率を一定に保った状態における入射ビームの波長変化は、1次ビームの偏向角度を変化させるが、0次ビームの偏向角度は変化しないことを示している。このことは、図3で表された角度パワースペクトルで見ることができる。図3は、図1の段差付きで負の屈折率を持つくさびの表面から半径40mm離れた、シミュレーションの角度パワースペクトルを示している。各曲線は、異なった入射波長(周波数)に対応している。全ての角度は屈折面の法線に相対している。
【0030】
図3の種々の曲線は、他の全てのパラメータを一定に保った状態で、9.0GHz〜11.75GHzまで変化させた入射励起周波数の種々の値に対応している。周波数(または波長)の関数としての1次ピークのピーク角度は、値dを経験的に決定するのに用いることができる。値dの逆数が波長の係数として式1に入る。物理的な表面段差サイズは15×5mmであると同時に、dが約16mmとすると、図3からのデータへの適合は、明らかに格子段差サイズd=19mmであることを示す。この抽出された値dは、11.75GHz〜約10GHzまでの周波数をはるかに上回る、観察されたシミュレーションのデータと一致する。
【0031】
8.5GHz以下では、式1の右辺は単一体を逸脱し、回折ビームは能でなくなる。したがって、本発明者らは、回折ビームの結合強さは、この周波数近くでは0に近づくと予測し、このことはシミュレーションの結果と一致する。図3の数々の研究によって、0次および1次ビームに入射波を相対的に結合させることが示されている。屈折ピークに対する回折ピークの相対的な大きさは、波長が小さくなるにつれて、回折ビームが散乱スペクトルより優位になるレベルに達するまで大きくなる。周波数を一定に保ちつつ表面の段差サイズを変化させた同様の数々の研究によって、図3で示された結果と類似の結果が明らかとなった。
【0032】
ここで示されたシミュレーションは、連続した均質材料を基にしているが、人工的に構成された負の屈折率を持つメタマテリアルも連続材料として近似値を求めてもよい。したがって、このようなメタマテリアルにおける表面段差によって、均質な段差付きくさびサンプルに関して上述したシミュレーションで見られた現象と同じ回折現象が導かれるであろうと考え、予測されている。
【0033】
上述のシミュレーションによって、図1(a)で用いられたサンプルには、屈折率が負の周波数形態で2次ビームが観察されるはずである。2次ビームは、最初の実験では報告されなかったが、同様の実験では観察された。サンプルの設計詳細のために、プレートはおよそ2mmで、10mm(0.4インチ)超の標準X帯域間隔で分離されたが、これが、実験の変動の原因となった。
【0034】
高次ビームの問題をさらに研究し、実験で明確にするために、本発明者らは、2つの異なるメタマテリアルのくさびサンプルのそれぞれが透過する領域を、周波数の関数として、角状変位してマッピングした。サンプルのうちの1つは図1(a)で用いられたものであり、寸法は図1(c)で示されている。他のくさびサンプルには、図1(d)で示した新しい単位セル設計が利用された。
【0035】
実験に用いられた装置は、公知の、平行板導波管を基にしている。最小の横方向位相変化を有する入射ビームが、X帯域の同軸導波アダプタ(HPX281A)から平行板導波管のチャネル内にマイクロ波を結合することによって生成される。アブソーバ(マイクロソーブテクノロジー社(Microsorb Technologies Inc.)のMTL−73)が、アダプタの0.9インチ幅からビームの経路に沿って徐々に広げられるようにパターン化され、およそ15cm(6インチ)の出口開口を形成する。チャネルは平行板の半円の中央チャンバに接続され、その中心にはメタマテリアルのサンプルが置かれている。チャネル(出口開口と同軸のアダプタ)の長さは40cmである。導波管検出器が、サンプルから40cmの距離で半円板の半径で位置し、180度近い角度範囲全体を掃引できる。
【0036】
制御として、図1(a)のサンプルと同じ寸法で同じ表面段差サイズで、テフロンサンプルから回折されたパワー角度分布が測定される。図3で示された結果は、ビームが、予測通り、正の角度に対して回折することを明らかにしている。示された周波数範囲全体にわたり、式1は1次モードが生じる(例えば11.5GHzで−63°)と予測するが、別の回折ビームは検出されない。
【0037】
正の屈折率を持つ媒体とは対照的に、負の屈折率を持つ媒体は本来、周波数分散型である。図1(a)によって用いられたサンプルに対して負の屈折の予測される周波数領域は10.5GHz〜11.1GHzであったが、これらの限界は、サンプルに対して上下に板を配置するため幾分不明瞭である。本研究では、チャンバ板は1.27cm(0.5インチ)の距離で固定されている。
【0038】
図4は、周波数(縦軸)と直接入射から離れる角度(横軸)を関数とした、透過パワーのマップであって、(一番上)は15mm×5mmの段差を備えたテフロンのくさびであり、(中央)は図1(a)のくさびであり、(一番下)は2.5mmの段差付きの本発明の表面くさびメタマテリアルである。図4(中央)から見られるように、予測された負の屈折率を持つ周波数帯域と一致する周波数では、入射ビームは、実際には、負の角度に湾曲する。さらに、式1が示すように、1次回折ビームに対応する正の角度で2次ビームも存在する。回折ビームの位置および散乱は式1と一致し、図3におけるシミュレーション分析から導かれる値dを推測する。
【0039】
この一致は、連続媒体を仮定する理論の簡潔性を十分考慮することである。これらの結果は、大量のメタマテリアルが負の屈折率を持つ連続材料として作用するだけでなく、表面段差が特性の一因となり、他の連続材料で段差としてモデル化できる。
【0040】
単位セルのサイズをわずかに小さくすることによって、屈折面の格子長さを効果的に低減して、回折ビームが除去できることが発見され、式1とシミュレーションの両方から確認されている。本発明の一実施形態には、単位段差サイズが2.5mm(伝搬平面において図1(a)用いられた単位セルの半分のサイズ)の段差表面を備えた新しいメタマテリアルのサンプルが含まれている。「段差サイズ」とは、3つの単位セル段差の長さに沿った、各単位セルの長さおよび、各段差を相互に互いに分離する垂直距離のことである。くさびサンプルの概略図が図1(b)に示されているが、メタマテリアルの単位セルの詳細な寸法は図1(d)に示され、上で詳細に述べられた。また屈折面の角度は18.4°であり、1つの単位セルごとに段差が付いた3つの単位セルである。
【0041】
2.5mmのサンプルに対する周波数と角度を関数とした透過パワーのマップが図4(c)に示されている。新しい単位セルに対するシミュレーションから決定されるように、左手系の予測帯域は11.3GHz〜12.2GHzに生じる。予期されるとおり、測定されたスペクトルは、この周波数帯域全体にわたり負に屈折したパワーを表し、最も重要なことは回折帯域が現れない。
【0042】
ここで提示したシミュレーションおよび図4の実験データは、負の屈折率を持つ媒体の屈折実験において表面の不均一性の作用を説明するのに役立つ。メタマテリアルのサンプルは幾分複雑なシステムを表すが、本発明者らの結果および分析では、式1が、0次および高次ビームの両方の存在を正確に表わすことを示している。さらに、この結果は、負の屈折率を持つサンプルに対回折次数への結合が高められることを立証している。この強化された結合によって、正の屈折率を持つ媒体と負の屈折率を持つ媒体の作用間の重要な差異が表され、表面の周期性が、後者ではより重要な役割を担うことが示されている。
B.負の屈折率を持つレンズの収差
本発明の別の態様は、負の屈折率を持つレンズに関する。近年、負の屈折率を持つ人工材料(「NIM」)への関心が高まってきている。関心分野の1つの領域に、完全レンズの概念が含まれている。完全レンズは、屈折率マイナス1の平板レンズであって、正の屈折率を持つ光学系で可能な解像度を超えた解像度で画像を合焦することができる。負の屈折率を持つ媒体上の湾曲面で合焦することが可能である。負の屈折率を持つ媒体から構成される従来の球面外形レンズには、正の屈折率を持つ対応物に勝るいくつかの利点がある。すなわち、よりコンパクトであること、自由空間と完全に適合できることである。さらに、集光性能にも優れていることがわかってきた。
【0043】
本発明の代表的なメタマテリアルのレンズは、電磁特性が複合体全体にわたり空間的に変化するよう形成される複合構造体として構成されている。重要なことに、誘電率と透過率との両方が本発明の構造体全体にわたり独自に変化し、以前では実現できなかった光学素子を可能にすることである。例示的な実施形態は、複数の導電要素を支持する誘電体基板または母材からなる人工的に構成された複合メタマテリアルであり、導電要素はそれぞれ、電磁界に応答して所望の電気分極と磁気分極とを示すように設計され、複合体は1つまたは複数の軸に沿って誘電率および/または透過率の所望の空間的変化を表し、その結果、少なくとも1つの要素がその電気または磁気分極において他の要素とは異なる。本明細書で用いられているとおり、「空間的変化」とは、空間的な位置による変化を意味するとして広く解釈されるものとする。例えば、空間的変化を示す透過率を有するメタマテリアルは、メタマテリアルにおけるX、YおよびZ軸のうち1つまたは複数に沿った位置によって変化する透過率を有する。
【0044】
重要なことは、透磁率の空間的変化は、上記の誘電率とは無関係であり、透過率と誘電率は、本発明のメタマテリアルにおいて相互に別々に「調整」できる。このようなメタマテリアルには多くの有用で有利な用途がある。例えば、本発明のいくつかの例示的なメタマテリアルにおいては、誘電率に対する透磁率の割合がほぼ一定に、および、メタマテリアルに隣接またはその周囲にある材料に対する同割合とほぼ等しく保たれ(実施例は、複合メタマテリアルが埋め込まれる自由空間または第2の材料を含んでいる)、その結果、インピーダンス整合が達成される。また、メタマテリアルの透過率および誘電率の符号を制御することができ、負の屈折率を持つメタマテリアルを提供するいくつかの例示的なメタマテリアルにおいては、両方とも負である。これらおよび他の利点ならびに利益が、以下に続く例示的な実施形態の詳細な説明を考慮すると、当業者には明らかとなるであろう。
【0045】
レンズの単色画像画質は、5つのザイデル収差、すなわち球面、コマ、非点収差、像面湾曲および歪みによって特徴付けることができる。簡単なガウスの光学式に対するこれらの周知の補正が、球面からの波面の偏向角の4次展開式から算出される。(球面の波面は、光線光学において理想的な点焦点に収束する。)この展開式の係数が、所定の物体および撮像地点に対して、光学要素の非理想の集光特性を定量化する。本発明者らは、屈折率に関して、ザイデル収差のうちいくつかが、ゼロについて、非対称であることを見出した。+1の相対屈折率を有する界面が不活性で、−1の相対屈折率を有する界面が強く屈折していることを考慮すると、この非対称は驚くことではない。しかし、非対称が負の屈折率を持つレンズに優れた集光特性を生じさせるという本発明の発見は、驚くべき予測しない結果である。
【0046】
負の屈折率を持つ媒体は、必然的に周波数分散型であり、これは色収差を高め、帯域幅を低減することを暗に示している。しかし、同様の限界を有する回折光学素子は、狭い帯域の用途に有用性が見出されている。分析に基づいた収差結果を確認するために、光線の経路を決定するのに屈折率の符号に頼らず、誘電率ε、透過率μ、マクスウェルの方程式およびエネルギー保存に頼ったカスタム光線追跡コードが開発されてきた。均質な媒体における界面間で、光線は直線的に、次いで、ポインティングベクトルの方向に伝搬する。領域1から領域2に界面を横切った屈折が以下で取り扱われる。領域2において(マクスウェルの方程式から得られる)分散関係を満たす波動解が求められる。
【0047】
【数3】
ここで、k2は領域2の波動ベクトルである。解は、入射波への境界整合も満たしていなければならず、
【0048】
【数4】
を必要とする。なお、nは界面に対する単位法線である。入射波が以下の式のエネルギーを有する場合、出射する屈折波は、表面からエネルギーを運び去る必要がある。
【0049】
【数5】
ここで、P=1(1/2)Re(E×H*)は、時間平均したポインティングベクトルである。最後に、媒体は不動態で損失がないと推定されるため、波は指数的に増加も減衰もしてはならず、Im(k2)=0である。上記の基準を全て満たす解が存在する場合、光線は新しく発見された波動ベクトルとポインティングベクトルとを有して存続する。さらに、本発明者らは等方媒体のみを考えているため、解は単一である。
【0050】
光学系の文献で見られる薄い球面レンズのザイデル収差の表現形式は、負の屈折率を持つ媒体を考慮しても変わらないことが見出された。この結論は、光路の長さの定義とフェルマーの原理のみを用いて、第1の原理からこれらの式を再び導き出すことによって確認される。本発明者らは、光路の長さ、
【0051】
【数6】
を、光路Cがポインティングベクトルと平行に配向している場合に、波が光路Cに沿って受ける(自由空間波長の単位で)位相変化と解釈している。光路は、ポインティングベクトルと波動ベクトルとが逆平行である場合、すなわち屈折率が負である場合に、負となる寄与を有する。これらの収差式は、さらに、本発明者らの光線追跡の結果と一致することで実証されている。波面収差ΔOPLは、一般光線と基準光線の光路の長さの差である。基準光線は開口絞りの光軸を通過し、一般光線は、図5で示されているように、その開口絞りrの座標と、その撮像面の座標hとによってパラメータ化される。
【0052】
図5は、収差計算に使用される構造を示している。ASと表示されている開口絞りは、薄いレンズの位置にある(図示されたレンズは厚いが)。ガウス像面がIPで表示されている。開口絞りの座標ベクトルrと撮像面の座標ベクトルhは、図示しているように、必ずしも平行でなくてもよい。
【0053】
ガウス光学の制限内にあるために、球面の界面が完全な画像を生じる場合には、rおよびhはゼロに近くなければならない。これらのパラメータにおける波動収差の一連の展開によって、
【0054】
【数7】
任意の所望次数のガウス光学素子の補正を生じる。レンズ平面で開口絞りを有する薄い球面レンズに対する最低次数の補正は、以下の式のよって与えられる。
【0055】
【数8】
これらの係数はザイデル収差、すなわち、それぞれ、球面、コマ、非点収差、像面湾曲および歪みである。これらの式では、位置係数pおよび形状係数qもまた現れている。位置係数は、以下の式で与えられる。
【0056】
【数9】
ここで、f’は撮像側に関係する焦点距離で、S’は撮像位置である。薄い球面レンズの結像方程式によると、以下のようになる。
【0057】
【数10】
ここで、Sは物体の位置、R1およびR2はレンズの曲率半径、位置の要素が倍率に直接関係している。
【0058】
【数11】
形状係数は、以下の式で与えられる。
【0059】
【数12】
形状係数が0である場合のレンズは対称的で、±1は平凹の曲面レンズである。形状および位置係数を用いると、全ての薄い球面レンズの構成が記述される。
【0060】
最初に、無限遠の距離にある発生源物体の重要な場合を検討する。これは、−1の位置係数である。本発明者らに残されたのは、収差を低減するのに用いことができる2つのパラメータ、nおよびqである。収差のうちの1つを除去するように値qを設定し、残りの収差を屈折率の関数と比較する。ここでは、適度な屈折率の値に注意を限定する。屈折率の絶対値が大きい場合は、収差は符号とは無関係に同一値に近づくが、大きい屈折率を持つ誘電体レンズは、自由空間とのインピーダンス不整合のため、大きな反射係数を有する。収差は通常、最高から最低へと、開口座標であるrの次数で順序付けられる。これは、大きなレンズ開口で画像を形成している場合に、画像の劣化が最大から最小への順序付けであるが、適度な画像サイズには小さい。これは利用中によく発生することである。したがって、球面収差は除去する明らかな対象である。しかし、1よりも大きい屈折率の値に対するC200の乗根が存在しない。これは、この収差が球面収差と称される理由である。なぜなら、これは球面レンズに固有に現れるからである。好ましくは、コマの除去が実行される(次の順番である)。これはしばしば起こるため、結果として得られるレンズの球面収差の値は、得られる最小値に極めて近い。形状係数qの調整は、レンズ湾曲と呼ばれることが多い。レンズをゼロコマへ曲げる場合、すなわち、qに対してC110の乗根を見つける場合、以下の式を得る。
【0061】
【数13】
qとpが−1であるこの値を(5)に代入し、図6において残りの3つのゼロでない収差係数およびqcも計算する。
【0062】
図6において、一番上の図は、球面収差(A)と、非点収差(一番下の水平なプロット線)と、像面湾曲(B)と形状因数(C)を、無限遠で物体を収束しゼロコマに曲げられるレンズに対する屈折率の関数として、示している。細い垂直線は、光線追跡中の図(一番下)と、経線の輪郭(左)と、撮像点(右)で示されたレンズの特性を示している。入射角は0.2ラジアンで、レンズはf/2である。屈折率の形状係数と、相対的なrmsのスポットサイズとスポットダイアグラムズームとがまとめて示されている。経線の輪郭では、レンズの主面は、細い黒の垂直線として示され、光軸およびガウス像平面がグレーの線で示されている。スポットダイアグラムでは、ガウシアンフォーカスが十字線の中心にある。
【0063】
q=1の場合、屈折率に、平凹/平凸のレンズを表す2つの値があることに留意されたい。(10)を=1に設定すると、以下の式を得る。
n2−n−1=0 (11)
この乗根は至るところにある「好適な」もの、すなわち最も好ましい割合であって、n=Q=約1.62で、n=1−Q’=約−0.62である。本発明者らはまた、n=−0.7近くで屈折率の値の窓があり、そこでは球面収差も像面湾曲も両方とも小さいことに注目している。正の屈折率では同様な窓はない。したがって、本発明の一実施形態は、屈折率nが約−0.6〜約−0.7のNIMからできたレンズ、好ましくは、屈折率が約−0.6のレンズである。
【0064】
経線光線と光線スポット図との両方を持ついくつかの光線追跡図が、図6において屈折率の特定の値として示されている。基準レンズは、可視光学レンズで用いられる典型的な値に近く、適度に低い反射についてn=1に十分近い屈折率φを有している。図示された負の屈折率のレンズは、実際、完全な透過を可能にするもう1つの屈折率であるn=−1により近く、したがって、これは公平な比較である。負の屈折率を持つレンズは全て、正の屈折率を持つレンズよりもかなり小さい焦点を示している。ゼロ球面収差を得るためにp=−1でレンズを曲げる場合、2つの解を得る。
【0065】
【数14】
これらの式はn≦1/4の場合のみ実数を取るので、このようなレンズ(自由空間に埋め込まれた)の実現は通常の材料では不可能である。
【0066】
図7に示されるように、負の屈折率によって、遠方の物体を実焦点に合わせることができる球面収差のない球面レンズの全ファミリーが可能となることは驚くべき重要な結果である。図7は、レンズがゼロ球面収差に向けて曲げられる以外は、図6と同じであり、コマが(D)で示されている。実線および点線は種々の解を示している。スポット径rrmsは図7の一番下のレンズスポットと関係している。全てのスポット図は同じ縮尺である。
【0067】
qs(実線の曲線)に対する式において負の符号を持つ解は、中程度の屈折率の負の値に対してコマが小さいので、光線追跡図はその解に対して示されている。本発明者らは、n=−1のときに、像面湾曲もゼロになり、それによってこのレンズが5つのザイデル収差のうち2つ、すなわちコマと非点収差しか有していないことに注目する。正の屈折率の基準として、本発明者らはゼロコマ、上記からn=φのレンズを用いる。繰り返すが、負の屈折率を持つレンズによって、比較可能な正の屈折率を持つレンズよりも密な焦点が得られる。
【0068】
次に、本発明者らは、|p|<1の場合を考察する。これは有限の位置での実物体と実像との両方である。pおよびqは両方とも自由パラメータであるため、本発明者らは、2つの収差を除去できると推定する。球面収差とコマを除去する場合、結果として得られるレンズは無収差と呼ばれる。正確な結果ではないが、球面レンズが、事実上の無収差焦点ペアのみを有することが可能であることは公知である。より正確な説明は、負の屈折率を持つ球面レンズのみが実際の無収差焦点ペアを有することができるということである。C200およびC110をゼロに設定し、pとqの値を求める場合、4つの解を得る。2つのゼロでない解が以下によって得られる。
【0069】
【数15】
本発明者らは、pに対しては−の符号でqに対しては+の符号の解に焦点を当てる。この解は、像を拡大するレンズ構成の収差がより小さくなる。もう1つの解は、画像の縮小にとって有利である。数式(13)を(5)に代入することによって、ここでは、図8で、2つの残りのゼロでない係数およびpSCとqSCの値とを曲線で表した。
【0070】
図8は、有限位置で物体と像とを有し、球面収差とコマをゼロにするために曲げられたレンズ構成以外は、図7に一致している。位置係数は(D)で示されている。非点収差(以前は水平なプロット線)は(E)で示されている。位置係数が網掛け領域|p|<1にある場合、実像と実物体ペアのみが生じる。レンズペアはf/1.23、f/1.08、f/0.90で、倍率は−1、−2、−3である。最後から2番目のスポット図では、水平ズーム(10x)と垂直ズーム(100x)とは等しくない。
【0071】
光線図が、倍率が−1、−2、−3のレンズに対して示されている。それぞれの基準となる正の屈折率を持つレンズも示されている。基準レンズ(無収差となり得ない)は、比較されるレンズと同一倍率で同一f/#を有する中程度の屈折率φを有している。基準レンズはコマがゼロとなるように曲げられるが、構成に可能な最小値に近い球面収差も有する。繰り返すが、負の屈折率を持つレンズによって、より優れた焦点ができる。
【0072】
屈折率が−1で倍率が−1のレンズは、特に興味深い。この屈折率の値では、像面湾曲もゼロになる。この注目すべきレンズの構成は、5つのザイデル収差のうち1つ、すなわち非点収差しか有していない。これは、画面で1次元「スポット」を示す光線追跡によって確認される。これは矢状面では完全な集束である。完全な集束は、矢状焦点の前の子午面でも生じる。q=−1のこの非対称レンズがp=0の対称構造において極めて良好に機能する理由を疑問に思うかもしれない。このレンズは、1つの構成部品を備えた両凹の二重レンズと等価と見なすことができる。本発明者らは、任意の屈折率が±nの両凹の二重レンズでは全て同一の集光特性を有していることを見出した。観察できる唯一の違いは、内部光線である。内部光線は、平面境界面について常に対称であるが、屈折率が大きくなると、より極端な角度を形成する。
【0073】
これらの負の屈折率を持つレンズのいずれもは、周期的に構成された人工的な材料を用いて製造することができる。人工的な材料の設計は、メガヘルツからテラヘルツの周波数で機能することができ、この周波数では多数の通信および撮像応用がある。例えば、レンズアンテナは、直接増加利得に変換される収差低減と、低密度の人工材料によって得られる質量低減との両方によって利益を得ることができよう。さらに、これらのレンズは完全レンズよりもさらに容易に実現される。なぜなら、これらのレンズは、波長要求毎に厳しい構造周期がいらず、損失に対してより耐性があるからである。負の屈折の可能性を示す光結晶を用いることによって、負の屈折率を持つレンズも可視光線周波数で可能となる。現在の光学システムの設計パラダイムを用いると、要素を反対の符号を持つ係数と組み合わせることによって収差が最小限となる。しかし、要素が多いということは、複雑となりコストが高くなることを意味する。負の屈折率を含む拡張パラメータ空間を利用することによって、必要な要素の数を減らすことができ、唯一の要素を備えたレンズが可能となると思われる。
【0074】
別の説明として、本発明の追加の例示的なレンズが記載される。本発明の1つの例示的なメタマテリアルレンズは、同軸の球面で形成された2つの対向面を備えた均質等方屈折媒体から構成されており、レンズの厚みは、その直径と意図された焦点までの距離と比較して薄い。形状の制限で、レンズは、球面収差がゼロの実像点に平行な光(極めて遠方または平行光源からの光)を集光する。これを達成するために、形状係数は
【0075】
【数16】
である。ここで、R1およびR2は2つのレンズ面の曲率半径である。屈折率nは
【0076】
【数17】
となるよう調整される。ここで、nは1/4未満でなければならない。これは、大気または真空のバックグラウンドの従来の材料では達成できない。メタマテリアルを用いて実現できる。
【0077】
追加の例示的メタマテリアルレンズは上述の通りであるが、n=−1の特別な場合に対して構成される。レンズは、球面収差がゼロで、および像面湾曲収差がゼロである実像点に平行な光を集光する。
【0078】
本発明の追加の例示的メタマテリアルレンズは、同軸の球面で形成された2つの対向面を備えた均質等方屈折媒体を備え、レンズの厚みは、その直径と意図された焦点までの距離と比較して薄い。形状の制限で、レンズは、有限位置での点光源から実際の無収差点、すなわち球面収差がゼロでコマ収差がゼロの点までの光を集光する。このことを達成するために、形状係数qと位置係数p(
【0079】
【数18】
、ここで、fは焦点距離で、S’はレンズから像までの距離)と屈折率nとが
【0080】
【数19】
と
【0081】
【数20】
となるように調整される。実際の無収差像は、n<0のときにのみ可能であることを本発明者らは見出した。このようなレンズは、n=−1の特別な場合においても構成される。この場合、像面湾曲収差もゼロとなる。
【0082】
本発明の追加の例示的メタマテリアルレンズは、平らな側面で接触して接合される2つの平凹部品レンズから構成された両凹の二重レンズを備えている。2つの部品レンズの厚みは等しく、曲率が等しい球面を有している。部品レンズを備える屈折媒体はn1=−n2で関連付けられる。この二重レンズは、上述のレンズの特性全てを有する――すなわち、二重レンズは、球面収差がゼロで、コマ収差がゼロで、像面湾曲の収差がゼロの実像を合焦することができる。実現するにはn<0でなければならないが、メタマテリアルを用いて実現することができる。
【0083】
本明細書では、負の屈折率を持つメタマテリアルレンズを考察し、説明してきたが、メタマテリアルでできた正の屈折率を持つレンズが同様に有用で有益であることが理解されよう。
C.勾配屈折率メタマテリアル
本発明の別の態様は、勾配屈折率を持つメタマテリアルに関する。本発明のこの態様の一実施形態には、一定の空間的勾配の有効屈折率を持つ、導電スプリットリング共振器(SRR)を基にした構造化メタマテリアルが含まれている。広範囲の周波数全体にわたり複合メタマテリアルでできた平板によってマイクロ波ビームの偏向を測定することで、勾配は実験的に確認された。本発明の勾配屈折率メタマテリアルは、特に、高い周波数で有利となる勾配屈折率レンズおよび同様の光学系の開発への代替方法を表している。特に、本発明の勾配屈折率材料は、テラヘルツ用途に適合することができ、その用途では、最近、SRRの磁気共振応答が実証された。
【0084】
普通ではないメタマテリアル応答の一例を、有限周波数帯域で負の誘電率(ε)と透過率(μ)を同時に所有する、負の屈折率を持つメタマテリアルで見ることができる。これまで実証されてきた負の屈折率を持つメタマテリアルは、大きさと間隔が当該波長よりもはるかに小さい導電要素の周期アレイから形成されていた。反復される導電要素の形状が集合体の電磁応答を決定し、電磁応答は、電気または磁気共振を有するように近似できる。有効媒質理論を周期的にパターン化される複合体全体に適用することによって、容積等方性および異方性ε、μの観点から説明することができる。
【0085】
図9に挿入して示されたスプリットリング共振器(SRR)は、磁気特性を示すメタマテリアルで反復される要素として有用な1つの例示的導体である。単一のSRRは、磁性「原子」に類似した方法で電磁界に応答して、共振磁気双極子応答を示す。周期的に配置されたSRRで構成される媒体は、以下の周波数依存透過率μによって近似的に特徴付けることができる。
【0086】
【数21】
ここで、ωrはSRRの形状によって決定される共振周波数であり、γは減衰係数、Fは充填率である。SRR媒体はまた、有効誘電率εを示し、これがまた周波数の関数として分散型であることが示されてきた。しかし、この周波数依存性は、共振から離れた周波数では小さく、セルサイズを小さく限定すると、一定に近づく。したがって、本発明者らはここで、誘電率を周波数全体わたり一定値であると近似する。さらに、使用される場の極性を基準にしてSRRを配向することによって、電気および磁気応答が分離されることを意味している。
【0087】
図9は、SRRのシミュレートされた分散曲線を示している。太い黒色の曲線ペア(上側および下側の分岐を含む)は、平面基板上のSRR(下側の差込図)に対応している。白丸は、シミュレートされた位相進み示している。その次の曲線ペアは、基板がSRR周りで除去された場合(上側の差込図)に対応している。切込み深さは、各曲線セットの間で6μmづつ増えている。
【0088】
従来技術では、メタマテリアルは、同一要素を含んだ、反復単位セルから構成されていて、そのため、結果として得られる媒体は平均電磁応答が構造によって変化しないという意味では均質であると考えることができる。一方、本発明の一実施形態は、その平均電磁特性が位置の関数として変化するメタマテリアルを含む。このような空間分散型材料は、例えば、レンズ化およびフィルタリングを含む多種の用途で利用できるため興味深い。本発明の一実施形態は、SRRに基づいたメタマテリアルであって、このメタマテリアルでは、空間分散のパターンが伝播方向と垂直な方向に沿って各連続要素の特性をわずかに変化させることによって導入される。結果として得られるメタマテリアルは、メタマテリアルのこの軸に沿って一定の勾配屈折率を有し、このことはビーム偏向実験で確認することができる。
【0089】
SRR媒体は主として磁気応答を有することが公知であるが、これはここでは直接の関心対象とはしない。むしろ、本発明者らは、
【0090】
【数22】
(式1で与えられるμ(ω)および一定と近似されるε(ω)を有する)から見出されるSRR媒体の屈折率n(ω)に関心がある。この分散形態、すなわちω=ck/n(ω)は、単一の単位セルに対するマクスウェル方程式の数値解法から得られる形態と比較することができる。分散図を数値で得るために、本発明者らは、単一の単位セルに対する固有振動数を計算し(図9、差込図)、伝搬方向と垂直な方向における位相進みがゼロという周期的境界条件と、伝搬方向において種々の位相進みを有する周期的境界条件とを適用する。シミュレーションは、有限要素ベースの電磁ソルバーに基づいたHFSS(Ansoft社)を用いて実行される。結果として得た分散図は、単位セル(黒色の曲線)にわたる周波数に対する位相進みφとして示され、予測される共振形態を明らかにする。詳細には、周波数帯域ギャップによって分離された伝搬モードに2つの分岐点がある。下側の分岐は、位相進みが180°で、ゼロ周波数から始まりωrで終わる。次の分岐が
【0091】
【数23】
の周波数で始まる。伝搬定数kは、k=φ/dから見出すことができる。ここで、dは単位セルのサイズである。
【0092】
SRRの共振周波数ωrは、どちらかといえば、SRRに対する幾何学的なパラメータと局所的な誘電環境とに対する感度に依存している。μ(ω)はωr(式1)に強く依存するため、基本の反復単位セルへの比較的小さな変化は、特に共振近くで、複合体の透過率の大きな変化を引き起こす可能性がある。共振周波数に変化に対する屈折率の変化
【0093】
【数24】
は式1を用いて算出することができる。便宜上、本発明者らは減衰を無視し、ε(ω)=1とする。なぜならば、当該周波数帯域全体にわたる誘電率の主要な役割は、分散曲線を設計しなおすことであるからである。低周波数(ω<<ωr)では、屈折率は、共振周波数のわずかな変化を伴って直線的に変化し、すなわち以下の式となる。
【0094】
【数25】
一方、高周波数限界(ω>>ωr)では、本発明者らは、以下の式を用いる。
【0095】
【数26】
式1で説明されたモデルシステムについて、Δωr/ωr<<1と仮定し高次の項を無視すると、勾配は、ω<<ωrに対しては周波数の2乗に比例して増加し、ω>>ωrに対しては周波数の2乗の逆数に比例して減少する。
【0096】
当業者には、SRRまたはωrの変化を導入するのに用いるSRRおよびその状況に各種の変更形態があることは理解されるであろう。例えば、導電アレイのサイズ、量、空間もしくは形状または誘電体に対する調整を実施することができる。1つの例示的な方法によると、SRRを取り囲む誘電体基板材料の切込み深さが調整される。この方法は、例示的なサンプル製造と比較することができる。例示的なサンプル製造においては、数値制御されたマイクロミリング加工を用いて、SRRは銅張り回路基板上でパターン化される。誘電体材料をSRR近くの領域(FR4の回路基板に対してε〜3.8)から除去すると、SRRの局所的な誘電環境が変化して、共振周波数を変化させる。
【0097】
図9において、いくつかの分散曲線は、SRR回りの基板材料の種々の深さについて、SRR複合体と対応している。基板の深さは、連続した分散曲線間で6μmづつ異なる。図9はωrが、切込みが最大36μまで増加しながら、ほぼ直線的に単調に変化することを示している。さらに、シミュレーションによると、略直線性は240μmまで有効であることが示されている。
【0098】
SRRは、基板の切込み深さの関数として直線的に増加する共振周波数ωrを示すため、それから勾配屈折率を持つメタマテリアルを設計するには便利な要素である。特に、本発明のメタマテリアルには、ωrがセル数の関数として変化するSRRの直線アレイのうちの1つが含まれている。例えば、メタマテリアルの基板の切込み深さがセル数の関数として直線的に大きくなる場合、ωrもまたセル数の関数として直線的に大きくなる。つまり、ωrは直線的に距離に比例するようになる。式2および3におけるこの関係を用いて、本発明者らは、屈折率の勾配が、したがって距離の関数として、少なくともωrから十分に離れた周波数に対してほぼ一定であることを見出した。
【0099】
一定の勾配メタマテリアルは、屈折率が(入射放射に垂直な方向において)直線的に変化する平坦なメタマテリアル平板に入射するビームの偏向を観察することによって実験的に確認されてきた。この偏向を算出するために、本発明者らは、図10に示されるように、厚さがtの勾配屈折率平板に垂直に入射するが位置ずれした2つの光線を考察した。図10の図は、屈折率が一定の勾配を持つ構造による波の偏向を示している。
【0100】
光線は、平板を伝搬するにつれて、異なった位相進み得る。2つの光線が、平板面に沿って、xおよびx+Δxの地点で入射すると仮定すると、平板を横切る2つのビームの得る位相差は以下の式になり、
【0101】
【数27】
図10においてLと表記された光路長さにわたる位相進みと等しくなければならない。この結果、本発明者らは以下の式を得る。
【0102】
【数28】
この式は、屈折率に一定の空間的勾配がある材料に対しては、ビームは均一に偏向することを示している。ここで、δ(x)は、平板に沿った距離の関数としての切込み深さである。位相波面、別のやり方では材料内で均一となり得ないため、好ましくは、この簡略化した分析が薄いサンプルに適用される。Φ(x)は、任意の厚さの平板全体にわたる位相シフトであることに留意されたい。平板の厚さが1つの単位セル分である場合、SRRセルに対して位相シフトは、先に定義されたように、φとなる。
【0103】
本発明の例示的な勾配屈折率を持つメタマテリアルには誘電体基板が含まれ、少なくとも2つの導電格子が相互に分散し、誘電体基板によって支持されている。少なくとも2つの導電格子と誘電体との寸法は、少なくとも1本の軸に沿って有効透過率に勾配を持たせる寸法とされる。本明細書で使用されているとおり、「寸法とする」という用語は、広義に解釈されるものとし、特定の寸法を有する構成部品を形成することを含む。例えば、誘電体および導電格子の寸法を決めることの中には、導体のサイズ、導体間の間隔、使用される誘電体の種類、使用される誘電体の量、導体のうちの1つの容量などを設定することが含まれている。なお、例示的なメタマテリアルにおいては、誘電体の切込み深さを利用して単位セルの寸法を決めることにより勾配屈折率を得るが、寸法を決める他の方法を実行することもできる。
【0104】
1つの例示的な一定の勾配屈折率を持つメタマテリアルにはSRRの直線アレイが含まれ、直線アレイでは、基板深さが、伝搬と垂直な方向おいてセル数の直線的に増加する関数である。結果として生じるアレイは、図9の分散図によって予測される角度で入射ビームを偏向する必要がある。この偏向角度を予測するために、本発明者らは図9における任意の2つの曲線間の差を取って、単位セル当たりの位相シフトの勾配を求める。単位セル当たりの位相シフトは、伝搬方向において、勾配屈折率を持つメタマテリアルの平板の1つの単位セル厚みによって生成されるビーム偏向と等価である。図1の分散曲線から得られる、周波数の関数としての偏角の結果プロットが図11で示されている。図11は、図1で示したSRR材料に対する単位セル当たりの位相差に対する周波数を示し、それぞれ連続したセルは6μmの切込み深さで異なっている。
【0105】
図11の曲線は、勾配が一定で、例えば、図10のいくつかの分散曲線間の差を分析することによって決定できる周波数に対してのみの偏角を算出するのに有用である。さらに、下側の共振周波数近くでは、吸収共鳴によって、シミュレーション結果(損失を考慮していない)が有効ではない場合に、異常な分散領域となる。さらに複雑にする要因は、分析される構造が周期的であることであって、それによって高次帯域が、式1で説明されていないωrよりも高い周波数に存在する。それにもかかわらず、図11は、バンドギャップ上方の周波数で、単位セル当たり1度以上の位相シフトが1つの単位セル厚さのSRR平板から得られるべきであり、それぞれ連続したセルは先のセルに対して除去された基板誘電体より6μmの厚みが追加されている。
【0106】
例示的な勾配屈折率を持つメタマテリアルサンプルを製造するために、LPKFマイクロミリング機械を利用して、銅張りした(片面)FR4回路基板からSRRの長さの異なるストリップ(セルの数)を切削した。いくつかのサンプルが、1、3または5単位セルの厚み(伝搬方向において)で製造された。複合メタマテリアルは、1つの単位セルで間隔が空けられたおよそ40本のストリップで構成され、各ストリップは異なった深さに切削された基板を有している。各SRRストリップの共振周波数は、角状変位マイクロ波分光計(ARMS)で測定される。切込み深さに対する各ストリップの測定された共振周波数が図12で表され、製造プロセスの直線性が確認された。図12は、加工されたSRRサンプルに対する共振周波数対基板深さを示している。後続の切削段階の間の基板厚みの公称差は6μmであった。2つの深さで、直線性が途切れることに留意されたい。直線性からのこれらの偏差は、切削加工上の工具ビットの変化と同時に起こり、公称ゼロの切込み深さ位置で切削物を再配置する再現性が幾分不足していることを示している。しかし、結果として生じる直線性は、偏向実験には十分であることが証明された。
【0107】
複合勾配屈折率を持つサンプルはARMS装置で測定される。サンプル中の勾配を確認するために、マイクロ波ビームはサンプルの面に垂直に向けられ(図10におけるように)、パワーは半径40cm離れた角度の関数として検出された。実験は、平面導波路、すなわち2つの導電(アルミニウム)板の間で電界分極される有効2次元形状で実行された。
【0108】
図13は、入射マイクロ波ビームの周波数の関数として、検出角度に対して伝達されたパワーのマップを表している。2つのサンプルが図中で比較されている。図13(一番上)は、5つのセル深さのSRRメタマテリアルから成る制御サンプルを示している。ここでは、各SRRストリップは同一である(勾配なし)。図13(一番上)の図は、通過帯域に対応する周波数での透過と、透過率が負である場合に対応する減衰周波数領域とを示している。図13に示されるように、マイクロ波ビームは、偏向せずにサンプルから出て、約ゼロ度を中心とする。
【0109】
図13(一番下)は、3つのセルサンプルと5つのセルサンプルと一体に組み合わせることによって形成された、本発明の勾配屈折率を持つサンプルを、8つのセル厚み(伝搬方向において)について測定した結果を示している。角状変位が、図において、特にギャップ領域の高周波数側で明らかである。そこでは、図11で予測される特性テールと一致した特性テールを見ることができる。曲線の定性的形状は、ギャップの低周波数側で偏向することの証明が弱い以外は、上述の理論およびシミュレーションと一致している。しかし、低周波数側は、吸収(分散図で無視された)が最も強い共振に対応していることから、これは対称でないことが予測される。
【0110】
周波数に対する偏向の測定および算出された角度と、4つおよび8つのセル厚みを有する勾配屈折率を持つメタマテリアルとの詳細な比較が図14に示されている。曲線は図11から決定される勾配に対応し、白丸および黒丸は測定点である。周波数移動を分散曲線に適用して、実際の構造で測定されたバンドギャップと一致するバンドギャップを算出した。他の適合または調整は何ら行われなかった。図14は、8つ厚みの単位セルである、勾配屈折率を持つSRR平板の偏向の測定された角度(黒丸)を示している。灰色の曲線は図11で示された曲線から取られたが、周波数を移動して、算出および測定されたバンドギャップ領域が重なるようにした。図14で示された優れた一致は、図12で示されたように、製造プロセスの精度を証明している。また、この効果の解釈は構造内でセルごとに制御可能に変化する屈折率に依存するため、単一の単位セルであっても明確な屈折率を有しているという重要証拠が、一致によって与えられる。
【0111】
図13および14は、本発明の設計された空間的分散構造の実用性を示している。この場合、直線勾配が導入された。直線勾配は、設計によって調節可能な角度でビームを均一に偏向する効果を有する。例えば、DSRR、分割円形共振器などを含んだ他のメタマテリアル構造が本発明で用いられてもよいが、SRR特性が安定しているためSRRシステムと連動していると便利である。特に、SRRの共振周波数は比較的識別が容易であり、単位セルのパラメータ(基板の切込み深さを含むがこれに限定されない)をわずかに修正することによって容易に調整することができ、SRRの周波数依存全体をおおまかにパラメータ化するために用いることができる。勾配を導入するための唯一の方法ではないが、勾配屈折率を持つSRR構造は、巨視的要素を組み合わせることによってさらに別の特有タイプのメタマテリアルを作製できる可能性を示している。
【0112】
本発明の勾配メタマテリアルの別の実施形態には勾配屈折率を持つレンズが含まれている。波動伝搬の方向と垂直な軸に沿って平板の屈折率を放物線状(直線状に対して)に分配すると、放射を偏向するよりむしろ放射を集光する構造となる。このような勾配屈折率を持つレンズの例には、光周波数で用いられる半径方向の勾配屈折率を持つロッドレンズや、マイクロ波周波数で用いられるルーネベルグレンズが含まれる。
【0113】
勾配屈折率を持つロッドレンズは、熱拡散によってイオンドープされた光学ガラス材料を用いる。この方法によって、屈折率の少量の変化(0.2未満)のみを生成することができ、かなり小さい径(1cm未満)のロッドに限定される。ルーネベルグ球面または半球面レンズは、n=1〜n=2までのかなり広範囲の屈折率を必要とし、特に大きさの限定はなく、段階的屈折率の素子として実現できる。両方の素子は、誘電率のみに勾配を有し、これにより周辺の媒体との限定されたインピーダンス整合を有する。勾配屈折率を持つメタマテリアルによって、光学系の開発に有用な代替方法を提供できる。負の屈折率を含むメタマテリアル内でこのとき識別された、拡大された範囲の材料応答では、人工的にパターン化された媒体から形成された従来の平面レンズから、大幅な柔軟性と改良された性能とが可能となるはずである。磁気透過率勾配を含む本発明の勾配屈折率のメタマテリアルを用いて、例えば、屈折率が空間的に変化するが、自由空間に整合したままである材料を開発できる。さらに、本発明の勾配屈折率を持つメタマテリアルは、THzを含む高周波数で実現可能であると考えられる。
【0114】
勾配屈折率を持つメタマテリアルは、多数の追加用途において有益であることが証明されている。本発明のメタマテリアルは例えば勾配屈折率を有するメタマテリアルから形成されたレンズを含む。勾配屈折率は、多種多様の集光効果を与えるよう構成されてもよい。平面を有し、複数の単位セルから形成される円形メタマテリアルは、例えば、中心領域では第1の屈折率を有し、半径方向外側に動く、徐々に減少する(または増加する)屈折率で構成することができる。この結果、ほぼ平面のメタマテリアルから多種多様な集光効果を得ることができる。円形以外にも非平面の周辺形状を含んだ他の形状も同様に用いることができる。また、勾配屈折率を有する複数のメタマテリアルが、光線を所望方向に向けるように、相互の積層構造で配置されてもよい。光線は、例えば、物体の「周り」を通過するよう方向付けられてもよく、それによって実質的に「目に見えなく」する。
D.負の屈折率を持つ複合メタマテリアルの製造および特性決定
本発明の別の態様は、複合メタマテリアルに関する。例示的な負の屈折率マテリアルには、負の屈折率が8.4〜9.2GHzの間である、厚さが2.7mmの複合パネルが含まれる。例示的な複合メタマテリアルは、従来の商業的な多層回路基板リソグラフィを用いて製造される。3次元の物理構造(電磁気構造に対して)が、バイアを用いることにより導入されて、回路板表面に垂直な方向に散乱要素の一部を形成する。散乱パラメータの測定から、複合体の複雑な誘電率、透過率、屈折率およびインピーダンスが明白に決定される。測定することによって、負の屈折率を有する帯域とそれに対応する損失を量的に決定することができる。抽出された材料パラメータが、シミュレーション結果と極めてよく一致していることが示されている。
【0115】
従来のメタマテリアルは、マイクロ波周波数で負の屈折率を実験的に示すように構成および使用されてきた。この材料は、負のμを与える二重スプリットリング共振器(SRR)のアレイを用いて、負のεを与えるワイヤアレイで散在させて作製した。負のεの領域がSRRに対応した負のμの領域と重なっているため、複合体は負の屈折率の周波数帯域を有する。この材料において、SRRとワイヤは、回路板基板の片側で光学リソグラフィによってパターン化された。SRR/ワイヤ構造は、製造するのが難しいことが判明している。例えば、SRR要素が、現在の負の屈折率を持つメタマテリアルの設計に複雑な層を加える製造に特別な困難性を課す。直線状のワイヤと異なり、SRR要素は、通常、強い磁気応答を与えるために波の伝搬方向にかなりの長さを要する。この制約に対応するため、以前のSRRベースの回路板設計は、平面のSRR回路板をストリップに区切るか、または平面回路板の複数のシートを用いて、入射波の方向が平面内にあり、SRR軸が入射波の伝搬方向と垂直にあるように配向される必要があった。
【0116】
本発明の1つの例示的なメタマテリアルは多層回路板技術を利用して、図15(a)および(b)によって示されるように、追加の組立ステップを何ら必要としないで、負の屈折率を持つメタマテリアル構造を製造する。本発明の例示的な設計は、従来のメタマテリアルが備える「ワイン木枠」組立ステップの必要性から離れ、大量生産に十分適している。1つの例示的な設計においては、負のμを達成するために、二重のSRRよりも単一のSRRが用いられる。従来のメタマテリアルの構造においては、入れ子になった二重SRRが、共振要素の容量を増加させる従来の手段として用いられたが、ここではバイアパッドの直径を介在層の高誘電率と組み合わせることによって、十分な容量を導入して、第2のリングの追加容量を必要としないようにできる。
【0117】
1つの例示的な複合メタマテリアルは、3つの積層誘電層50、52、54から組み立てられる。一番上の層50と一番下の層54はRogers4003の回路板の積層体(ε=3.38、tan d=0.003)から成り、間にGoreのSpeed Board(ε=2.56、tan d=0.004)のプリプレグ層52が介在している。例示的な層52は、厚みが0.0015インチのGoreのSpeedboard層である。したがって、構造の全厚み(層50、52、54)は約0.065インチである。さらに例示的な寸法が表Iで示されている。層は、例えば、GoreとRogers回路との間の界面で接着剤を用いて一体に結合して積層されている。
【0118】
【表1】
Rogers回路板50、54は両方とも、最初は、従来の光学リソグラフィを用いて要素がパターン化される両側に堆積された銅の薄い導電層(半オンス、すなわち12μmの厚み)を有する。ワイヤ要素が、図15(a)で示されるように、GoreのSpeedBoardと対向するRogers板の側面でストリップ56としてパターン化される。用いられる特定の二重ワイヤ形状は、構造が波の伝搬方向における反射対称性を維持するように選択された。他の形状も本発明内で有用であろう。対称構造は、以下に説明するように、散乱(S−)パラメータから材料パラメータを回復する際に好都合である。例えば、構造の中央に置かれた単一ワイヤによって、ほぼ同一結果が得られるであろうが、そのような配置は現在の多層設計では実用的ではない。
【0119】
公称上は矩形のSRR要素の2つの側面が、銅の薄い導電ストリップ58を用いてRogers回路板の外側面上にパターン化される。導体の残りの2つの垂直な側面または脚は、回路板の積層50、52、54を貫通して延びるバイア(めっきした貫通ホール)から形成されている。1つの側面60が、回路板の3つの層全てを連続して貫通して延びる貫通バイアによって形成される。SRRの最後の辺は2つのブラインドバイア62および64によって形成され、ブラインドバイアはそれぞれ中心の積層54の各側面で、円形プレート66で終端している。誘電体層54が、プレート66間でギャップを形成している。別の誘電体層68が積層体の最上面と最下面とを覆うよう設けられてもよい。小さい環状リングによってキャパシタギャップが導入される。図15(b)は、アレイ状に配置された図15(a)の個々のセルを多数含んだ、例示的な製造後の複合体のイメージである。図示された、パターン化された銅ストリップは、埋め込まれたリング共振器の一辺である。結果として得られたSRRの側面図が図15(c)で示されている。
【0120】
図15で示した構造に加え、多くの均等構造が本発明の実行内で可能であることが理解されよう。他の形状および構成も可能である。例えば、導体リング共振器は、層50の最上面と層52の最下面で形成することができ、導体リングに対する法線で最上面と最下面との間のバイア内にほぼ直線状の導体を備えている。あるいは、ほぼ直線状のバイアが、真ん中の層52上に配置されてもよい。追加の実施例によって、導体リング共振器は、真ん中の層の上に形成されてもよく、直線状の導体は層50と54の表面上に形成されてもよい。さらに、単一のリング共振器以外でなく、導体が用いられてもよい。
【0121】
多くの他の特定の実施形態が可能である。実際、当業者には明らかとおり、本発明の構成要素メタマテリアルの重要な利点のうちの1つが(一例が図15のそれとして)、商業的な回路板製造方法を用いて可能な製造の柔軟性に関係する。この柔軟性は、回路板誘電体を用いて効率よく達成可能な高範囲の各種導体および誘電体構造を可能にする。
【0122】
さらに、図15の実施形態は、単位セル間の誘電率または透過率の変更を実現する変更形態に向いている。このようにして、勾配屈折率を持つメタマテリアルを作製できる。いくつかのメタマテリアルの単位セルの寸法を変更し(図15で示されるような)、これらをメタマテリアルを形成する他の単位セルと組み合わせることによって、勾配屈折率を有するメタマテリアルを作製できる。図16は、誘電体を除去して寸法を変更し、誘電体のキャパシタを変更する、1つの適切な例示的実施形態を示している。エアギャップキャパシタを形成するために内部積層52に孔を設けることは、例えば、誘電損失を低減するのに有用である。エアギャップ空洞は、片側で内部に積層した後、CNCレーザアブレーションツール(Microline Cut350、LPKFなど)を用いて薄く剥ぐことで形成することもできる。
【0123】
さらに、図15の寸法決定のような、単位セルに寸法合わせすることにより、誘電率または透過率を変化させることができる。一例として、変更可能な1つの例示的な寸法は、プレート68のサイズである。変更可能な他の例示的な寸法には、プレート68と導体56との間の距離、導体56のサイズ、誘電体の量、層52の厚みなどが含まれる。なお、他の導体構造が用いられる場合、誘電率を変更するために他の寸法決定を実施することもできる。これら全ての寸法決定は、リソグラフィ、MEMまたは回路板製造方法を用いた商業的な製造方法に十分に適する。
【0124】
(HFSS)(Ansoft社)で得られた解を用いることによって、有限要素ベースのソフトウェアパッケージがマクスウェルの方程式を解き、Sパラメータが図15で示される単位セルの変化に対してシミュレートされ、材料パラメータが標準的な方法で得られる。この分析を通して、x帯域の周波数全体にわたりほぼ整合した負の屈折率を持つ帯域を与える適切な構造を見出した。その後、最適な構造体が製造された。サンプルについて散乱計測する前に、詳細な物理的測定を実行することで、数値シミュレーションとの最適な比較が得られた。種々の面でいくつか切断し、サンプルシートの1枚を生成した。得られた平面のそれぞれが、その後研磨され、顕微鏡を用いて撮影された。構造内の各重要な要素の寸法が、対応するデジタル画像の画素を数えることによって決定された。長さが0.1mmの硬さ試験ディボットを用いて校正を実行した。表Iに要約した物理的測定は、その後、以下で示される校正シミュレーションで用いられた。
【0125】
負の屈折率を持つ複合体の予測特性を確認するために、Sパラメータ(S11およびS21)の大きさと位相が測定された。実験は自由空間内で実行された。実験では、アジレント社の8510Bベクトル網アナライザーが用いて7〜13GHzの周波数範囲全体にわたってマイクロ波を掃引した。2つのマイクロ波ホーン(カリフォルニア州サンティーのRozendal Associates Inc.製)がソースおよび検出器として用いられた。ホーンに取り付けられたレンズアセンブリが約30.5cm(12インチ)の距離に焦点スポットを形成した。サンプルが焦点に置かれた。伝送実験のため、共焦点セットアップが用いられ、そこではソースと検出器のホーンがサンプルから1つの焦点距離に配置された。材料が何もないときの送信パワーが測定される「スルー」測定を用いて校正が行われた。反射測定のため、ホーンがサンプルの同じ側に移された。ホーン/レンズアセンブリの有限サイズのため、2つのホーンの位置が相互にずれて、パワーがサンプルに垂直な面から16°で入射した。アルミニウム板からの反射パワーを測定することによって、反射が校正された――この測定に対して完全反射器(180°の位相シフトを伴った)を仮定した。
【0126】
負の屈折率を持つ複合体の単一層に対するSパラメータの大きさと位相とが図17に表されている。図17は、負の屈折率を有する複合体の単一層に対するSパラメータ、すなわちS21(黒色の曲線)とS11(灰色の曲線)の位相とを示している。
【0127】
これまでの加工品の負の屈折率を実証する方法は、まずSRRのみのサンプルを通る送信パワーを測定して、μ<0の場合のストップ帯域の周波数範囲を識別し、その後ワイヤ構造のみを通って伝達するパワーを測定し、最後に、複合体構造を通って伝達するパワーを測定する。この測定は、位相データが利用できないとき、および負の屈折率の周波数が明確な通過帯域を形成するときに有利である。しかし、図17から明らかなように、明らかに負の屈折率を示す単一層の伝送パワー(図17(b))からは容易に識別できる特徴は存在しない。しかし、測定された位相データ(図17(a))のノイズレベルはかなり低く、これは完全なSパラメータ回復手順が安定した結果を提供することを意味する。
【0128】
メタマテリアルに対する材料パラメータを完全に回復すると、次に有限厚みを有する平板から伝達および反射した大きさと位相が測定される。連続した等方性材料に対して、透過および反射係数は、容易に反転できる解析形を有する。例えば、散乱方程式の反転によって、屈折率を決定することが可能な以下の形態が導かれる。
【0129】
【数29】
ここで、A1およびA2は損失がない場合にゼロになる実数値関数である。式(1)は、損失のないサンプルに対して、S21の位相と大きさのみから屈折率が決定されることを示している。さらに、おおまかに整合したサンプルについては、式(1)はS21の位相と屈折率との間の強い相関関係を示している。したがって、図17(一番上)で示された、S21の位相の凹部は、本発明の例示的なサンプルが8〜9GHzの間の周波数領域のどこかで負の屈折率を持つことを示している。しかし、本発明者らの測定から利用可能な構成部品の全てを有しているため、この近似値に頼る必要がなく、複素屈折率および以下の式で与えられる複素インピーダンスに関して正確な関数を回復することができる。
【0130】
【数30】
インピーダンス(z)および屈折率(n)を決定するための回復手順は、測定されたSパラメータデータおよびHFSSでシミュレートされたSパラメータの両方で実行された。nの回復は、通常、式(1)の逆余弦関数による多重分岐によって複雑になるが、分岐は、高度な回復アルゴリズムを必要としない、測定された薄いサンプル(厚さが1つの単位セル)に対して十分に分離される。しかし、nおよびzは符号が曖昧であり、これは、Re(z)>0、lm(n)>0、Im(n)>0の条件を課すことによって、除去することが可能である――因果的材料に必要な要件。データに関して他に操作を実行する必要はない。ただし、平滑な31点を測定されたSパラメータデータに適用して、セットアップに本来備わる電圧定在波比(VSWR)共振の衝撃を低減する。式(1)および(2)は、キラリティーまたは双異方性によってどのような可能な効果も無視していることに留意されたい。本発明の負の屈折率を持つ複合体は、磁気誘電結合を除去するかまたは少なくとも最小限にするために設計されており、したがって、これらの簡単な方程式は回復手順にほぼ有効であろう。
【0131】
回復されたzおよびnが図18(上)および図18(下)にそれぞれ示されている。図18(上)は、構造の1単位セルに対して、シミュレーションデータ(点線曲線)および測定されたSパラメータ(実線曲線)から回復したインピーダンス(z)を示している。図18(下)は、シミュレーションデータ(点線曲線)および測定されたSパラメータ(実線曲線)から回復した屈折率(n)を示している。黒色の曲線は実数部であり、灰色の曲線は虚数部である。
【0132】
負の屈折率の周波数帯域が、8.4〜9.2GHzの間の測定サンプルで生じる。負の屈折率の領域でシミュレートされたデータと測定されたデータとが、定量的にも定性的にも良好に一致する。4つの一連の曲線間に存在する不一致が、材料パラメータをわずかに変化させることによって、例えば、銅要素に用いられる導電性を調整することによって、さらに最小限にすることができる。不一致のうちのいくつかは、S11測定で用いられる非垂線入射により発生すると思われる。
【0133】
誘電率(ε)および透過率(μ)は、ε=n/zおよびμ=nzに従って、nおよびzと簡単に関係付けられる。図18で描かれたnおよびzの値から得られた、εおよびμに依存した回復された周波数が図19に示されている。
【0134】
図19(上)は、構造の1単位セルに対するシミュレーションデータ(点線曲線)および測定データ(実線曲線)から回復した誘電率(ε)を示している。図19(下)は、シミュレーションデータ(点線曲線)および測定データ(実線曲線)から回復した透過率(μ)を示している。黒色の曲線は実数部であり、灰色の曲線は虚数部である。
【0135】
εの実数部はゼロを表し、それ以下は負になる。また、複合体のμは、SRRの応答性に主に起因する特徴的な共振形態を表し、μの実数部が負の領域を有している。εとμの実数部が両方とも負である周波数帯域は、図18(b)で見られる負の屈折率を持つ帯域と一致する。
【0136】
要約すると、本発明の1つの例示的な態様は、屈折率が負の周波数帯域を有する複合メタマテリアルに関する。例示的な構造は、切断および別の組立ステップの必要がない従来の多層回路基板技術を用いて完全に組み立てることができるため、例えば、製造の点で多数の利点および利益を有している。例示的な構造は、測定された構造と優れた一致を示す数的シミュレーションに適用できる。
【0137】
完全なSパラメータ回復によって、例示的なサンプルの材料パラメータに関する完全な情報が直接的な方法で与えられる。スネルの法則による測定など直接的でない方法は、重要な補足情報を与えることができるが、Sパラメータ測定および回復は、半自動メタマテリアルの特徴決定手順の基礎を形成できる。
E.本発明の追加のメタマテリアルの実施形態
メタマテリアルは、表面プラズモン光学系の関係分野、負の屈折率を持つメタマテリアルの関係分野、および他の関係分野で深く興味を持たれている。しかし、負の屈折率を持つメタマテリアルでは、負の応答性は、メタマテリアルに固有の限界と関連している。共振周波数近くの周波数領域は吸収性を高め、そこではεまたはμのいずれかの虚数部(どちらが共振であるかによって)が相対的に大きくなる。この挙動によって、両方が共振挙動と一致し、また共振挙動に固有であり、最終的に、負屈折率の材料に重要な制限を与える。受動的な負屈折率の材料については、
1.負屈折率の材料の応答性は材料共振と対応している。
2.負屈折率の材料は周波数について分散的である。
3.負屈折率の材料は有限の帯域幅を有している。
4.負屈折率の材料は、概して、より大きな損失を示す。
受動的な材料に対して、ドルーデ・ローレンツ形態を導く因果関係が上記の説明を表していることが強調されなければならない。負屈折率の材料の物理特性を追求し、負屈折率の材料を用いて競合用途を開発するために、本発明は、これらの基本的な制約のうちの1つまたは複数を最小限にする工学材料を含んでいる。
【0138】
これらの限定事項を理解する別の方法は、貯蔵されたエネルギー密度に関する。材料内の場のエネルギー密度に対するよく知られた式は、以下である。
【0139】
【数31】
この式は、ポインティングベクトルを時間平均することによって得られ、εおよびμが時間において非局所的となるため、分散材料が存在すると有効でなくなる。材料内に振動荷電に関連する慣性があるため、周波数領域において容易に従う大きな正または負の材料応答が犠牲となる。時間領域においては、定常状態(単色の)解が得られるまで大きな遅れがある。負屈折率の材料に対応した物理的特性の多くは、周波数領域で見つかる解に依存するため、これらの動力学は、定常状態の解がどのように実現可能であるかを決定するのに非常に重要である。
【0140】
ドルーデ・ローレンツ媒体の詳細を考慮すると、分散媒体のエネルギー密度に対するより一般的な式が以下で見出せる。
【0141】
【数32】
この式は、減衰が比較的小さい場合に有効である。この式は、εまたはμが所定周波数で負であり、正のエネルギー密度が維持されるように周波数分散型でなければならないことが示されている。
【0142】
εまたはμのいずれかが負である材料は公知である。自然発生する材料においては、ドルーデ・ローレンツ形態を引き起こす共振が、広く制限された周波数領域内で生じる。例えば、電気共振は、高いTHz周波数以上で生じる傾向があり、フォノンモード、導電電子のプラズマ状振動、または他の基本的プロセスから生じる。磁気共振は一般に、このようなプロセスを強磁性または反強磁性共振のようなプロセスに関連する、固有の磁性材料で生じる。これらの共振は、高いGHz周波数では消滅する傾向があり、THz周波数のいくつかの特殊な専門のシステムを除いた全てにおいて存在しなくなる。
【0143】
メタマテリアルは、等価な既存材料がない場合に、電気または磁気共振のいずれかを有するように設計することができる。電気共振および磁気共振は、メタマテリアル構造では、最大THz周波数までどのような周波数にも適合することができる。特に、電気および磁気構造を組み合わせることによって、周波数帯域がεおよびμが同時に負である材料を得ることができる。このような材料について、積εμの平方根を取ることによって決定される屈折率は実数であって、これは材料が放射線に対して透過的であることを示している。しかし、εおよびμが両方とも負であるときは、平方根の符号の正しい選択は負であることが示されてきた。したがって、εおよびμが両方とも負である材料は、負の屈折率を持つ材料(NIM)としても特徴付けることができる。
【0144】
NIMは興味深い。なぜなら、他にも理由はあるが、NIMはマクスウェルの方程式で以前利用できなかった解を可能にするからである。したがって、NIMはメタマテリアルの実用性の顕著な例を表している。しかし、顕著な物理現象がNIMに予測されてきたが、負屈折率の材料に根本的な限界があることに留意しなければならない。例えば、ε=μ=−1の面は反射できないことが示されてきた。しかし、この記述は、定常状態という条件に限定される。自由空間からの波面がこのような面に衝突する場合、定常状態の解に達するまで過渡現象に関連した反射が生じる。
【0145】
過去数年間にわたる努力によって、負の屈折率を持つメタマテリアルが設計、製造および特徴決定できることが証明されてきた。定常状態の実験における負の屈折が実証されてきた。初期の加工物の集積は、負の屈折率を確固とした土台に置いてきた。本発明者らは、今や、これらの新しい材料を有用にする材料と方法とを先に進め、さらに開発することができる位置にいる。本発明の例示的な実施形態は、新規で有用なメタマテリアルに関する。いくつかの実施形態は、負の屈折率を持つメタマテリアルに関するが、同様に、正の屈折率を持つメタマテリアルの形での実用性を見出すこともできる。
E(1)二重偏光NIMの開発
今までのところ、任意の入射偏光を有する波に対して負の屈折率を有する材料は何ら実証されてきていない。本発明は、図20で示された例示的な実施形態において、このようなメタマテリアルを含む。このような例示的な構造を作製するには、第1の電気偏光方向と垂直に配向した追加の磁気ループおよび第2の電気偏光方向で整列した追加のワイヤ要素とを含んだ単位セルが必要とされる。
【0146】
図20で示された例示的なメタマテリアルは、4つの層(Cu)PCB製造技術を用いた二重偏光NIM設計である。交差した十字模様の矩形状の導体はSRRであって、各偏光に対して2つのキャパシタギャップがある。負の誘電率が、2Dの等方性挙動を与える直交する直線ワイヤによって与えられる。45度回転することによって、要素間の結合が最小限となり、平行層が近づくことによって、双異方性など複雑な状態を導入せずに、キャパシタプレートを形成するCuからできた同一層を使用することができる。
【0147】
図20に示される例示的な設計は、入射する電磁波の両偏光に対して負の屈折率を示す。この設計は、セルの設計に追加要素を含むが、製造には何ら追加的な試みを導入しない。
E(2)構成要素ベースのNIM構造
NIMに関連した磁気応答を達成するために、下にある単位セルは、入射EM波の磁場成分と結合する共振回路要素を含む。典型的な従来技術においては、二重スプリットリング共振気(DSRR)が磁気応答するために採用されてきたが、適切に設計された単一のリング共振器が同等の磁気応答を達成でき、製造の観点から容易である。
【0148】
本発明は、小型パッケージされた電子部品を単位セルに埋め込むことによってマイクロ波周波数の範囲内で存在するNIMの機能を拡張する。このステップは、必要に応じて交換、更新または変更できる単一モジュラーパッケージ内に電気的性能の重要な要素を集結させることによって、設計の柔軟性を上げることができる。基本的なSRRには、図21(a)で示す、簡単な等価回路がある。これは、共振周波数がω0=1/(LsCs)1/2で与えられる基本的なLC共振回路である。この回路の電流は、回路を通る磁束を変化させる時間に起因する誘導電磁気力によって駆動される。一連の抵抗Rsは単位セルの製造で用いられる金属の抵抗から生じる。表皮厚さが薄いため、Rsは表面状態に強く依存する。
【0149】
形状によってSRR回路にキャパシタンスを設定するのではなく低周波数構造を含む(これに限定されない)構造について、(標準的な)パッケージされたキャパシタが代用可能であることが見出された。したがって、SRRの共振周波数は、選択されたキャパシタの値によって設定できる。しかし、パッケージされたキャパシタまたは他の構成部品を用いることは、示された簡略回路の制限を変更する。他の要因、すなわち、キャパシタ誘電体材料、または追加的な寄生インダクタンスまたはキャパシタ自体の抵抗など、高電界領域における損失正接が原因の誘電体損失が重要となる。これらの追加効果はこのような要素のモデル化に含まれなければならず、これは、図21(b)で示されるように回路を変化させる。寄生要素のために、パッケージされたキャパシタの完全なインピーダンスは
【0150】
【数33】
の形態を有する。
【0151】
インピーダンスの共振形態は、パッケージされたキャパシタ自体が共振周波数を有することを示している。寄生インダクタンスによるこの自己共振は、パッケージされた構成部品が利用可能な周波数範囲を制限することができる。さらに、キャパシタンスのリアクタンスおよび寄生インダクタンスのリアクタンスは、共振周波数の単一測定によって分離できない。代わりに、誘導寄与率が中心となるにつれて高い周波数挙動が相対的寄与率を決定するのに必要とされる。さらに、共振電流はこれらの相対的寄与率に依存し、損失は電流に強く依存するため、これはNIMの性能に重要となる。
【0152】
図22は、市販の構成部品を埋め込む概念を概略的に示している。単一層キャパシタ(ここで0201SMTパッケージにおけるVishay社のHPC0201aシリーズのRFシリコンキャパシタであることが提案される)が、必要な容量を与えるために用いられている。図示するように、1つのリングにつき2つのキャパシタが用いられ、全キャパシタンスが通常の直列総和則によって得られる。
【0153】
使用されるキャパシタの選択は、いくつかの考慮事項に依存する。損失正接δによって表される誘電損失が重要である。最も低い誘電損失は、このような構造を生成することは通常難しいが、空隙誘電体によって示され、自由空間の相対的に低い誘電定数によって、高キャパシタンスを達成することが難しくなる。
【0154】
最も標準的なキャパシタ構造の寄生インダクタンスが自己共振周波数を低下させ、本出願では、これら種類のキャパシタを無能にする。これは、多くの埋込型キャパシタの方法(特殊な方法および材料を用いる回路基板の積層の間においてキャパシタが形成される達成される)に伴う問題でもある。誘電体材料の寸法制御および制約は、通常、損失および未制御のインダクタンスが困難性の一因となって高速キャパシタの性能を低下させる。
【0155】
幸いなことに、単一層キャパシタ(SLC)の最近の開発によって、魅力的な代替物が提供されている。これらは、寸法を高度に制御し、特にキャパシタ用途に最新の誘電体材料の設計を用いて、リソグラフィで製造される。簡単な構造のため極めて低い寄生インダクタンスを可能にし、これらのキャパシタは、今や、10GHzをはるかに上回る定格自己共振周波数で商業的に利用可能である。
【0156】
既存の数値シミュレーション技術は、複雑で寸法が小さいために、このような構造の挙動を容易に特徴決定し、予測することができない。さらに、キャパシタは、通常、キャパシタのDC値によって特徴付けられ、その高周波特性によって特徴付けられているのではない。本発明は、例示的な構造を解析するハイブリッド方法を含み、複素インピーダンスの点における構成部品の別の従来の電気工学的特徴を、完全な自由空間のSパラメータの点において負の屈折率を持つ材料の確立された全波解と組み合わせる。HFSSまたはSLCなどのMWSで簡単な構造を注意深くモデル化し、誘導/容量リアクタンスの予測頻度の依存度を検証することによって、本発明者らは、活性要素を備えた構造を効率よく設計することができるルールを確立する。このハイブリッドモデル化は活性要素の使用と結合し、その場合、寄生要素の影響が非線形要素に加えて考慮されるべきである。
E(3)3−DNIMに基づいた回路基板
本発明の追加の態様は、メタマテリアルを基にした回路基板に関する。例示的な実施形態は、一体に取り付けできる複数の個々の回路基板部分からできたモジュールメタマテリアルを含む。各回路基板部分には、複数の単位セルが含まれ、各単位セルは、散在した導体アレイを支持する誘電体基板のほぼ平坦な回路基板を備えている。セルは中央にギャップを含んでもよい。平坦な回路基板は、相互に垂直に3次元で配置され、組み立てられると3次元アレイを形成する。
【0157】
図23は、機械加工された回路基板技術を利用した本発明の例示的なNIMの3次元の概略図である。図23(a)は、複数の同一セルを含む誘電体ベースボード100を示している。各セルは、略正方形の中心通路104周りに配置された対向する導体ペア102を有している。対向する導体102は、図示するようにほぼU字形の銅ストリップであってもよい。同じく銅で形成される第2の導体アレイ106がベースボード100上で支持され、一般的な格子構成を有する。ベースボード100は、さらに雌型のコネクタソケット108を含む。導体102および106はそれぞれ、銅ストリップまたは、誘電体基板100の上に積層さもなければ配置された他の導電性の材料であってもよい。導体102および106は、好ましくは、基板100の対向する両側にある。
【0158】
図23(b)は、複数の同一セルを含む単一誘電体ストリップ基板120を示している。各セルは対向する導体122を有し、導体は、ほぼ正方形の通路124を取り囲むU字形の銅ストリップであってもよい。同様に銅ストリップの第2の導体126が各単位セル間にあり、上に延びて、雌型ソケット108と嵌合するように構成された雄型のコネクタピン128を形成している。スロット130が、同様に、各単位セル間に形成されている。図示するように、スロット130は、導体126がスロット130の対向する辺に並んだ状態で、導体126によって少なくとも部分的に形成されていることが好ましい。導体122および126のそれぞれは、誘電体基板120上に積層、さもなければ配置された銅ストリップまたは他の導電性材料であってもよい。導体122および126は、基板120の対向する両方の辺上にあることが好ましい。
【0159】
複数のストリップ基板120が一体に嵌合して、図23(c)に示すように、3次元の格子状アレイを形成する。各ストリップ基板120は、1つの上下逆のストリップ基板120が、それと垂直に配置されて、第2のストリップ基板と係合する場合に、スロット130と相互に作用して他のストリップ基板と嵌合する。図23(c)のFITの格子状アレイは、その後、雄型ピン128が雌型ソケット108と係合することによって基板100と係合してもよい。図23(d)の構造が得られる。複数のこれらを相互に積層することによって、図23(d)に示されるように、3次元メタマテリアルを構成できる。
【0160】
アレイ106および126は、ピン128がソケット128と係合することによって互いに導電連通している。さらに、アレイ126は、スロット130の一体的係合によって、別のストリップ基板120上でアレイ126と連通している。構造体を通る要素間の電気接続が、リフロー半田付け法によって形成される。
【0161】
図23の回路基板構造を一例とする、本発明の例示的なモジュール回路基板構造によって、例えば、製造の容易性および製造コストに関する利益や利点を含む、多数の利益および利点が得られることが理解されるであろう。図23の例示的なモジュールメタマテリアルは単に一例であって、本発明のメタマテリアルを基にしたモジュール回路基板の多くの追加の実施形態が可能であることが同様に理解されるであろう。これらの実施形態の多くは、回路基板を相互に機械的に接続し、少なくとも1つの連続した導電体格子で電気的に接続するためのコネクタを有するほぼ平坦な回路基板から製造できるという共通点を有している。
E(4)電流電圧比を最適化することによるNIM単位セルの損失制御
導体(通常は銅)に伴う導電損失と、電界を受ける何らかの誘電体材料の損失正接との両方によってNIM内に損失が生じる。先に示したリング共振器の簡単な図において、LC回路の共振電流は、以下の式になる。
【0162】
【数34】
本発明の一態様は、共振周波数をLCの積によって設定することと、インダクタンス/キャパシタンスの組み合わせを選択する際に自由度が存在することとを認識することで、NIM損失を制御する方法および構造に関する。この選択によって、誘電体または抵抗損経路の相対的な寄与を変更できる。インダクタンスは、単に、SRRによって形成されるループの大きさに寄与するだけでなく、その回路(例えば、ワイヤの自己インダクタンス)を形成するのに用いられるワイヤの寸法と形状、他のパッケージされたまたはパッケージされていない構成部品が用いられる場合はそれらの寄生インダクタンスによって設定されることを認識することが重要である。
【0163】
インダクタンス/キャパシタンスの比率を変えることによって、誘導電流(抵抗損を導く)の誘導電圧(誘電損失を導く)に対する相対的な大きさを変えることで損失が最小限になる。つまり、電界(CV2/2)と磁界(LI2/2)とに蓄えられたエネルギー間で通常、振動する共振回路は、L/C比を変えることによってV/I比を変えることができる。これには実際的な限界がある。つまり、伝搬するEMモードと結びつけなければならないSRRによって設定された最小のインダクタンスおよびキャパシタンスがある。いずれかの損失機構が低減すると、より低い純損失という利益を達成することができる。空気を含む、低損失の誘電体を用いることは、損失を低減する1つの手段である。例えば図15(c)で示されているように、構造物に用いられる積層材料に伴う損失を低減するためにギャップが用いられる場合、先に論じた回路基板のNIM構造の変更がある。
E(6)THz周波数に有用なメタマテリアル
従来技術においてマイクロ波周波数で利用可能なメタマテリアルには、二重スプリットリング共振器(DSRR)が含まれ、4つのDSRRが図24(a)で概略的に示されている。4つが図24(b)に概略的に示されているが、単一スプリットリング共振器(SRR)はさらに有用な共振器である。別の共振器の構成は、図24(c)で示されたTHzを含む高周波で使用可能であると考えられている。図23(a)および(b)のDSRRとSRRは、他の構造に加え、同様に、THzを含む高周波で有用であると考えられている。さらに別のリング共振器(C字型リング共振器)が図23(d)に示されている。二重のC字形リング共振器も可能である。図23の共振器の全ては、本発明の例示的なメタマテリアルの実施形態において用いることができる。共振器はまた、例えば直線格子のワイヤ導体など、追加の導体と組み合わされてもよい。
【0164】
図24において、Gは内側リングと外側リングとの間のギャップであり、Wは金属線の幅であり、Lは外側リングの長さであり、Sは隣接するセル間の分離であり、Tはリングのスプリットである。ここで、図24(c)のL字形共振器(LSRR)を参照すると、個々の単位セルはそれぞれ、図示するように「重なった正方形」構造で配置された4つのL字形導体200を含む。各L字形導体200の1本の脚は、別のL字形導体200の1本の脚と隣接していて、ほぼ同一の広がりを持ち、平行である。各導体200間にはギャップが形成されている。導体200は、導体200の重なった領域からキャパシタンスを形成する。理論的な予備実験研究によると、LSRは、同一サイズの単一セルに対してDSRR構造の共振周波数よりも高い共振周波数を有することが示されている。この設計によって、要求される限界寸法をより大きくすることができるため、同じく設計された周波数に対して製造を容易にすることができる。
【0165】
本発明のメタマテリアルには、THzメタマテリアルを達成するために、誘電体基板上で支持された追加構造と組み合わさった図24の構造が含まれている。一実施例は、薄いワイヤ構造――周期格子のワイヤ――であって、この構造は格子パラメータによって設定されるカットオフ周波数を下回る負の誘電率を有することが知られている。ワイヤ構造をSRR構造と組み合わせることは、NIMを達成するための低周波数で利用可能な方法であった。THzのNIM構造は、ミクロンスケールの解像度を備えたやや入り組んだ構造を製造する必要がある。この製造について、本発明は、微小電気機械素子(MEMS)に基づいた特有の方法を提供する。
【0166】
本発明の例示的な方法は、第1の誘電体基板上に犠牲層を形成するステップと、犠牲層の中にモールドを形成するステップと、モールド内に導体を入れて、SRR、DSR、LRRなどの導体リングを形成するステップとを含んでいる。その後、犠牲層は除去され、それによって導体リングが上記の誘電体基板の表面上で支持される。第2の誘電体層が、第1の誘電体基板の表面を覆い、導体リングを覆うように形成される。第2の犠牲層が第2の誘電体層の上に形成され、第2のモールドが第2の犠牲層内に形成される。第2の導体が第2のモールド内に置かれ、第2の犠牲層が除去され、第2の導体が第2の誘電体層の上で導体リングを覆って支持される。
【0167】
複数の導体共振リングをこの方法で形成でき、またはこれらのステップを単一の単位セルを形成するのに用いることもでき、その後複数のセルが一体に結合される。したがって、第1および第2の誘電体層、導体リングおよび第2の導体が、周波数帯域全体にわたり負の誘電率と透過率を同時に有する負の屈折率を持つ媒体を形成する。当業者であれば、これらのステップが、多種多様な誘電体、導体、犠牲層、寸法などで実現できることを理解するであろう。いくつかの実施形態において、極端に小さいスケールがマイクロチップを形成するのに用いられる。
【0168】
詳細な説明のために、本発明の例示的な方法が図25に描かれている。まず、負のフォトレジスト層(PR)250が、誘電体基板252(例えば透明な石英であってもよい)上に広がり、次に、図25(a)の断面図で示されるように、接触モードリソグラフィ法によって設計されたSRRパターンをモールド253として移動させる。例示的なモールドパターン253はSRRを形成するが、例えばDRR、LRRおよびC字形を含む他のパターンも同様に形成されてもよい。第1のリソグラフィステップの後、図25(b)に示されるように、100nmのクロムと1μm厚の銅の導体層254とが積層されて、モールドの内側を充填し、層250を覆う。次に、図25(c)に示されるように、両面が研磨された石英基板上にパターン化されたSRR層を移動するために、リフトオフプロセスが採用される。図25(d)は、このように形成されたDRRを詳細に表すために、この位置での構造の上面図を示している。
【0169】
次に、図25(e)に示されるように、スピンオンガラス層256を塗布することによって形態が平坦化される。PR258の別の層が層256上に形成され、第2のリソグラフィプロセスが実行されて、図25(f)に示されるプラズモンワイヤのモールド257が形成され、銅などの導体層260が、図25(g)で示されるように、積層される。例示的な厚みは1μmである。第2の金属蒸着およびリフトオフステップの後、スピンオンガラス層256で絶縁されたSRR構造の上部のモールド257に形成されたほぼ直線状の金属細線262が、図25(h)に示されるように生成される。上面図が図25(i)に示されている。
【0170】
これらの例示的なステップを繰り返すことによって、一連の反復SRRと細線が作製される。あるいは、これらのステップを利用して、図25に図示するように、アレイ内に配置された複数の単位セルを同時に形成できる。したがって、図25に示したような、複数または多数の個々のセルを備えたメタマテリアルを製造できる。本発明のこのおよび他のMEMS製造方法によって、これら2つの微細構造構築ブロックを統合する効果的な方法を提供し、高周波数NIMを形成することができる。
E(5)NIMによる空間フィルタリング
本発明の受動NIMの1つの例示的な用途は、空間フィルタリングであって、空間フィルタリングでは入射界分布が平坦材料に変化を受ける。空間フィルタリングの概念が図26で示され、図26(a)に従来の空間フィルタリングが示され、図26(b)に本発明のNIMを用いた空間フィルタリングが示されている。図26(b)に示されたNIM素子は、異方性NIMの補償二重層から形成されている。1つまたは複数のタイプの異方性NIMを含む複合体が、従来の多要素システムと同じ空間フィルタリング機能をコンパクトに実行できる。薄い平坦な(受動)NIM平板が1つまたは複数の入射角に対して選択される。このような材料は、ラドームなどの構造に適切に一体化されて、例えばRF通信の検知を低減することに用途を見出すことができる。
【0171】
図27は、帯域フィルタに入射するガウスビームの反射と伝搬とを概略的に示している。ビーム幅は10□で、入射角は9°(四角)、34°(星印)、69°(円形)である。図27に示された機能を達成するために、本発明の異方性NIMの4つの異なった平面層が一体に組み合わせられる。この用途は、平坦なNIM構造の製造全体にわたる大掛かりな制御を必要とし、したがってNIM素子を効率よく製造するために、本発明の方法の利点が用いられる。
E(7)活性構成要素によるメタマテリアルの動的調整
本発明の追加の態様は、NIMを含むメタマテリアルにおける活性構成要素の使用に関する。本発明の例示的なNIMには、NIMの応答パラメータのうちのいくつかの外部制御を達成するために、埋め込まれた能動および非線形素子が含まれる。例えば、SRR/連続ワイヤを基にしたNIMの電界または磁界要素のいずれかに利得素子を埋め込むことによって、有効指標の能動制御が達成される。これは、不連続な活性構成要素を含まない線形応答のNIMよりも複雑な構造体である。
【0172】
活性構成要素の埋め込みは、電界および磁界分布を過度に乱さずになされ、活性構成要素の利得および位相シフトの制御を維持する方法でなされるべきである。関連した負の屈折率を持つ周波数帯域でNIMの電磁特性を妨げずに、活性要素にパワーと接地接触を与える必要があるため、別の複雑な状態が表されている。本発明の例示的なNIMにおいて、パワーリード線を分散させることによって関連したパワーおよび接地リード線が追加され、負の屈折率帯域で高い(非透過)インピーダンスを生じるスタブを調整して設計され、さらに低(パワー)周波数で低インピーダンスを維持する。非線形および利得素子は、NIM材料の連続ワイヤとSRR構造物の両方と統合される。バラクタダイオードが、PINダイオードのように、磁気的に活性のSRRのキャパシタンスギャップ領域に置かれてもよい。HEMTトランジスタを使用して、それらをLHMのワイヤ部分に埋め込むことによって電界信号を増幅するか、あるいは、それらをSRR要素のリング内に埋め込むことによって磁界成分を増幅することができる。
【0173】
有用であると考えられる例示的な活性構成要素は、アジレント社のATF50000およびATF30000シリーズで、典型的には1〜6GHzで15〜35dBの利得を有し、いくぶん利得は少なくなるが最大18GHzまで動作可能である、仮像HEMTトランジスタを含む。同じ製造業者からの高周波PINダイオードは、ビーム操縦および波相転移に対して二端子実装を可能にする。MicroSemi社からのバラクタダイオード(MTV2100およびGC1500A)が、SRR/ワイヤ実装のキャパシタンス部分の調整を可能にするために採用される。複数の活性構成要素が埋め込まれてもよい。一実施例では、リング導体ギャップに埋め込まれた1つの活性構成要素と、直線状のワイヤ導体格子に埋め込まれた第2の活性構成要素とが含まれる。
【0174】
X帯域のマイクロ波の範囲内で動作する1つの例示的な活性NIMの概略的な図が図28に示されている。pFキャパシタンスを備えた4:1の調整範囲を有する電圧バイアス可変キャパシタンスである、Microsemi社のバラクタが右側に示されている。パッケージは工業規格0402の大きさで、高容積の組み立てに対して、市販のピック・アンド・プレース機械で適切に加工される。左側には、活性NIMアセンブリが示されている。電気誘電率に用いられる銅ワイヤの層が、スプリットリング組立面の下に(明確にするため支持されずに)示されている。1つのリングにつき2つのギャップを有した3×4のスプリットリングアレイが回路基板上に示されている。バラクタが各ギャップに跨り、動的に調節可能なキャパシタンスを与える。バラクタは、最大20Vの電圧を印加することによって調整される。このバイアス電圧は、図28に示すラインによって供給される。本質的には電流(充電する最初のキャパシタンスを超えて)は流れないため、バイアスを供給するのに極めて低い導電ラインを使用できる。高抵抗ラインは、制御ラインによって隣接セルがショートするのを防ぐ。RFに対して高インピーダンスを示すが、制御信号に対しては低インピーダンスを示す大きな誘電性ラインを用いることもできるが、製造における課題を提示する。ポリマーベースの導体または顆粒の黒鉛材料を含む、多数の低導電性材料を用いることができる。バイアスラインがVbとグラウンドに交互にバイアスをかけること、および交互の列のバラクタの物理的配向が、セルにバイアスをかける簡単な手段を収容するために逆向きにされることに留意されたい。
E(7)能動回路により損失低減されたメタマテリアル
抵抗回路網において抵抗損失の平衡を取るために能動回路が適用可能である。この潜在的に重要な技術は、全周波数範囲にわたり、特に光学的ポンプ材料が容易に得られる場合において価値がある。しかし、低周波数では、既成の増幅器と等価な構成部品とを用いて、技術を研究して開発することにより、制御損失の基本概念を探求できる。
【0175】
負性インピーダンス変換器(NIC)が当技術分野で知られている。簡単な概略図が図29に示されている。基本的に、NICは線形増幅器を用いて作動し、印加電圧に応じて逆電流を駆動する。したがって、回路抵抗を通って流れる電流(したがってI2Rによるパワーを失う)が、回路に戻るパワーを供給することにより(増幅器の電源から取り出される)補償される。このような回路は、システムが増幅器の線形領域内で作動する限り、抵抗損失を補償することができる。NICは当該周波数で作動しなければならない。NIMにおける損失を補償するためにNICを用いることは理論的には提案されてきた。高周波数増幅器と構成部品の利用によって、より短い波長に対する技術の有用性を拡大するであろう。
【0176】
純位相応答が回路内に存在する場合、その位相応答は残りの材料の位相応答に加わり、この位相応答を利用して材料の負の屈折率特性をさらに制御できる。このような回路は、基本構成要素を操作する必要がある周波数、例えば低いGHz範囲で、操作する制約がある可能性がある。構成要素のサイズもまた、それらの使用をより長い波長に制限する可能性がある。
E(8)非線形メタマテリアル
それ自体が周波数分散性を有するメタマテリアル構造に非線形性を組み合わせることによって、潜在的に有用な種類の挙動を導くことができる。例えば、局所的な電界が共振メタマテリアル要素の容量性領域で著しく増加するため、このような構造に意図的に配置される非線形材料の特性を大幅に向上することができる。カーの非線形性(すなわち屈折率が、形態n=n1+n2E2を有する)を有する材料がSRRアレイに埋め込まれる場合、光双安定性の形態が生じることが示されてきた。
【0177】
光周波数に利用可能な多種多様な非線形材料(例えば、BaxSr1−xTiO3)があるが、1つの例示的な目標周波数範囲において、ダイオードまたは同様の固体要素を利用して所望の非線形応答を達成することが有利である。本発明の一態様は、類似のカー非線形性をSRR媒体に導入するために埋め込まれたダイオード回路を利用する非線形NIMに関する。複合材料は、入射場の強度に基づいて正から負に切り換え可能な屈折率を示す。ダイオードなどの活性構成要素を用いるには注意深くバイアスをかけて平衡を取る必要があるため、入射強度に関する作動範囲は狭く規定されていると考えられている。図30は、共振の品質要因の2つの値に対する、無次元の非線形共振周波数対電界強度を示している。曲線は、(強度依存の)共振周波数における双安定挙動の可能性を示している。
【0178】
NIMの狭い帯域幅は線形周波数領域の用途を制限するが、NIMの特有の特性を利用する別の方法は、波の伝搬現象とNIMの分散特性を利用する用途とを探索することである。例えば、電磁パルスは周波数帯域成分を含んでいるため、パルス形状は一般に、分散媒体を通して透過することによって変化する。NIMと相互作用するパルスは、負の屈折率を持つ帯域内にある各周波数成分に対して負の位相シフトを受ける。線形の正屈折率を有する媒体に対して負屈折率を有する媒体内を全体に伝搬するパルス間に特定の差はないが、本発明の例示的なNIMを含む、波動伝搬に大きな影響を与えるNIM構造がある。
【0179】
実施例には、分散型の正屈折率の材料と負屈折率の材料との組み合わせから形成される構造が含まれている。構造の別の種類は、非線形性を備えたNIMである。多種多様な用途が、種々のタイプの非線形性を表すNIMについて示唆されてきた。前の実施例のように、低周波数では、適切にバイアスをかけられたダイオードなどの非線形素子を、負の屈折率を有するメタマテリアルを作製するのに利用できる。負の屈折率を持つメタマテリアルは、入射電磁界に対して非線形の応答を示す。
E(8)活性高周波NIM
NIMに能動制御および非線形要素を埋め込むための2つの好ましいルートがある。上述のように、離散電気構成部品の、回路基板ベースのNIM構造との統合およびNIM構造のカスタムメイドの半導体材料との統合である。後者は活性要素を含んでいる。離散型構成部品を用いた前者の方法は、実行し、設計方法を試験するのがより簡単であるが、20GHz以下の周波数に限定される。後者の方法は、カスタムメイドの活性要素がLHM構造と同じ半導体基板上にリソグラフィでパターン化された状態で、活性要素に対して、最終的には、かなり高い中心動作周波数を可能にする。これは100〜200GHzおよびそれ以上に近づき得るが、開発作業において大幅な高コストと長い準備期間を生じさせる。
【0180】
あるいは、ディスクリートであるがパッケージされていない構成部品の使用に関して、100μmオーダーのチップダイサイズを2つを組み合わせる方法によって、十分に高度な回路基板のような技術で、かなり高い周波数での操作を可能にして、MEMS技術を用いてパターン化されたおそらくは半導体(例えばSiおよびポリSi)基板を用いて、高度に研磨された硬い半導体によって提供される硬質の超平坦表面にバイアおよび対応する内部接続能力を加えることができる。
E(9)調整可能なTHzのNIM
TiO2の誘電体機能は、印加電場によってTHz周波数において変更できる。図31に概略的に示された本発明の例示的な素子がこの目的で製造されてきた。2000オングストロームのTiO2層が、物理蒸着法(PVD)を用いて、ドープされたSiの上に成長して、底部電極として機能する。この構造における上部電極の役割は、絶縁体であるポリ3ヘキシルチオフェン(P3HT)の膜によって果たされる。しかし、電荷が電界効果ドーピングによって注入されると、P3HTは、室温で大きな導電性を示す。このFETの形状が、印加電場の下で、TiO2のTHzおよび赤外線研究のために採用されてきた。素子の新規性には、遠赤外線から近赤外線への伝搬実験に適した、大面積(>1cm2)の「グリッド電極」構造が、近赤外線がSi基板のバンドギャップによって遮断された状態で、含まれている。ドーパントの濃度が1018cm−3範囲内にあって、基板したがって素子構造全体が、THz以下から最大Siのバンドギャップエネルギーまで高い透過率T(ω)=20〜30%を示している。
【0181】
印加電場によりTiO2のTHz応答が変更されるため、伝搬が素子内で変化する。これらの変化は、TiO2の振動周波数近くで生じる共振形態を有し、そこではε1(ω)の電場誘導変更が50〜80%を超えることがある。特に、SRRアレイは、底面接触のFET形状で容易に集積化できて、素子の調整可能性に対してこの新規の方法を可能にする。
【0182】
本明細書では、本発明の特定の実施形態が示され、説明されているが、他の変更形態、置換形態および代替形態が当業者には明らかであることは理解されるべきである。このような変更、置換および代替形態は、添付の特許請求の範囲から決定される本発明の精神と範囲から逸脱することなく実施可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明の分野はメタマテリアルである。本発明の他の分野は複合メタマテリアルである。本発明の他の分野はレンズおよび光学素子である。本発明の他の分野は磁石である。
【背景技術】
【0002】
本発明者およびその同僚によるものも含めた実証結果では、強磁性体の応答(以前にまだ発見されていないか、さもなければ従来の材料では達成することが難しい)が、本明細書でメタマテリアルと呼ばれる人工的に形成された材料で得られた。メタマテリアルの特有の応答の一例は、有限周波数帯域全体にわたる負誘電率(ε)と誘電率(μ)とを同時に有する「負の屈折率を持つメタマテリアル」で見ることができる。負の屈折率が既存の材料で得られる材料特性ではないため、負の屈折の基本的性質によって、メタマテリアルが材料物理学で果たす重要な役割が明らかにされてきた。
【0003】
材料応答の一般的な説明はドルーデ−ロ・レンツモデルにおいて見ることができ、このモデルから、εおよびμに対して以下の周波数分散の式を導くことができる。
【0004】
【数1】
これらの式、または極めて類似した式は、従来の材料応答ばかりでなく、人工的に構成されたメタマテリアルの応答を説明するために示されてきた。共振周波数よりも高い周波数(ω0eまたはω0m)で、εあるいはμが負の値となる。
【0005】
メタマテリアルは、同等の既存の材料が存在しない場合、電気共振または磁気共振を有するように設計できる。電気共振および磁気共振は、メタマテリアルの構造内に任意の周波数で位置することができる。特に、電気構造および磁気構造を組み合わせることによって、εおよびμの両方が同時に負である周波数帯域を備えた材料を実現できる。このような材料に対して、積εμの平方根を取って算出された屈折率nは実数値であって、材料が放射線を透過することを示している。しかし、εおよびμの両方が負である場合は、平方根の符号の正しい選択は負であることが示されてきた。したがって、εおよびμが両方とも負である材料は、負の屈折率を持つ材料(NIM)としても特徴付けることができる。
【0006】
従来技術のメタマテリアルには、スプリットリング共振器アレイを構成するマクロセルの集合が含まれる。これらの例が、本発明者とその同僚のうちの何人かによる以前の文献に記載されている。米国特許公報第2001−0038325A1号および2001年3月16日付で出願された出願番号第09/811,376号、発明の名称「左手系複合媒体(Left Handed Composite Media)」もまた、参照により本明細書に組み込まれる。
【0007】
負の屈折率を持つ材料を実証することによって、負の屈折率を持つ材料が有する性質に関する種々の理論が確認されてきた。多くの基本的な電磁および光学原理は考え直す必要がある。なぜなら、基本的な物理解釈は右手系の磁性材料と正の屈折率を常に考えてきたからである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のいくつかの態様を明らかにするために、いくつかの発明的特徴の概要をここで示す。追加的な発明的特徴は、本明細書に添付する好ましい実施形態の説明において見られる。本発明のいくつかの実施形態では、メタマテリアルは、光学的効果を達成するように構成されている。本明細書で用いられる光学系および光学的効果には、可視波長だけでなく電磁波の操作も含まれる。本発明の一実施形態においては、負の屈折率を持つメタマテリアルを最適化して負の屈折率を持つレンズを製造する。本発明の別の実施形態においては、メタマテリアルを変更して回折光学素子を形成する。本発明の別の実施形態においては、メタマテリアルを変更して勾配屈折率光学素子を形成する。
【0009】
本発明の実施形態においては、光学素子は変倍可能な効果を有している。変倍効果を利用して、広範囲の周波数、すなわち低周波数(RF、マイクロ波)から高周波数(mm、THz)にわたり、負の屈折率を持つレンズ、回折光学素子、勾配屈折率光学素子を含むメタマテリアルを製造することができる。本発明の負の屈折率を持つメタマテリアルレンズは、正の屈折率を持つレンズと比較して、収差が低減されること立証している。本発明の一実施形態である平凹で負の屈折率を持つメタマテリアルレンズでは、−0.61の屈折率の値によって収差が最小になる。本発明の例示的なメタマテリアルはマクロセルから形成されるとき、物理的性質(寸法、誘電体材料の種類、相対位置、形状など)は変化できるため、負の屈折率を持つ他のレンズにおいて、および一般的に本発明の素子において、光学効果を最適化することができる。光学効果はTHz以下でより容易に達成されるが、メタマテリアルの性質によって、可視波長でも光学効果を実現することができる。
【0010】
本発明の例示的なメタマテリアルは複数のマクロセルによって形成される。このことは、光学素子および他の素子の形成に多数の利点を与える。本発明の回折光学素子の場合、メタマテリアルの表面プロファイルは、より広い周波数帯域(より少ない色収差)や他の利点を形成する回折面に合わせて調整される。メタマテリアルの性質をセルごとにセルに合わせて調整して、勾配屈折率光学系を形成できる。勾配屈折率レンズは、多くの光学用途で用いられている。メタマテリアルは、屈折率プロファイルを集光、ビーム操縦、ビーム整形または他の光学機能性を提供する必要に応じて、特別に調整できるという点で利点がある。メタマテリアルはマクロセルを基にしているため、材料のセルごとに能動および調整を実現できる。能動電子デバイスによって、または電気機械デバイスによって実行可能なこの制御を勾配屈折率の概念と組み合わせることによって、適応光学素子を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の例示的なメタマテリアルの種々の図である。
【図2】本発明の例示的なメタマテリアルの特性を示すのに有用である。
【図3】本発明の例示的なメタマテリアルの特性を示すのに有用である。
【図4】本発明の例示的なメタマテリアルの特性を示すのに有用である。
【図5】本発明の例示的なメタマテリアルの特性を示すのに有用である。
【図6】本発明の例示的なメタマテリアルの特性を示すのに有用である。
【図7】本発明の例示的なメタマテリアルの特性を示すのに有用である。
【図8】本発明の例示的なメタマテリアルの特性を示すのに有用である。
【図9】本発明の例示的なメタマテリアルの特性を示すのに有用である。
【図10】本発明の例示的なメタマテリアルの特性を示すのに有用である。
【図11】本発明の例示的なメタマテリアルの特性を示すのに有用である。
【図12】本発明の例示的なメタマテリアルの特性を示すのに有用である。
【図13】本発明の例示的なメタマテリアルの特性を示すのに有用である。
【図14】本発明の例示的なメタマテリアルの特性を示すのに有用である。
【図15】本発明の例示的なメタマテリアルを示している。
【図16】本発明の例示的なメタマテリアルを示している。
【図17】本発明の例示的なメタマテリアルの特性を示すのに有用である。
【図18】本発明の例示的なメタマテリアルの特性を示すのに有用である。
【図19】本発明の例示的なメタマテリアルの特性を示すのに有用である。
【図20】本発明の例示的なメタマテリアルを示している。
【図21】本発明の例示的なメタマテリアルの一態様を概略的に示している。
【図22】本発明の例示的なメタマテリアルの一態様を概略的に示している。
【図23】例示的な本発明の例示的なモジュールメタマテリアルを示している。
【図24】本発明の種々のメタマテリアルで有用な導体共振器を概略的に示している。
【図25】本発明のメタマテリアルを作製するための例示的な方法を概略的に示している。
【図26】本発明の例示的なメタマテリアルの特性を示すのに有用である。
【図27】本発明の例示的なメタマテリアルの性質を示すのに有用である。
【図28】本発明の例示的なメタマテリアルの性質を示すのに有用である。
【図29】本発明の例示的なメタマテリアルの性質を示すのに有用である。
【図30】本発明の例示的なメタマテリアルの性質を示すのに有用である。
【図31】本発明の例示的なメタマテリアルの一態様を概略的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態は、メタマテリアルの特性の範囲を大幅に拡大する種々の新しいメタマテリアルに関し、このメタマテリアルによって、特別な電磁気デバイスだけでなく新しい物理的、光学的挙動の可能性を実現することに関する。メタマテリアルは、1つまたは複数の寸法でパターン化された複数の構成要素を含む、人工的に構成された材料であり、各要素は、波動伝搬の方向において、およそ入射光の波長またはそれよりも小さい物理寸法を有し、その場合、各要素は印加された電磁場に応じて所望の電気分極および磁気分極を示すよう構成されている。多くの(しかし全てではない)メタマテリアルにおいて、要素は導体から作られ、誘電体基板で支持されている。要素の好ましい例には、格子状の直線ワイヤ導体や格子状のスプリットリング共振器が含まれる。
【0013】
本明細書で用いられているとおり、「誘電体基板で支持されている」(または「ホスト」)という表現で用いられている「支持されている」という用語は、広義に解釈されるものとし、基板の一表面で保持されていると限定するものではない。導体は、例えば、誘電体基板内に収容または埋め込まれ、誘電体基板に「支持されていて」もよい。本明細書で用いられる「誘電体」および「誘電体ホスト」という用語は、誘電率が約+1以上、好ましくは+1より大きい、電気的に絶縁性の材料を広義に意味するものとする。誘電体ホストは、空気などの気体であってもよく、または誘電体ポリマー、ガラス、石英などの基板であってもよい。
【0014】
例示的なメタマテリアルは、導体などの同一要素(すなわち周期構造)の反復単位セルを支持する誘電体ホストからなる。他の例示的なメタマテリアルは、誘電率、透過率、屈折率または波動インピーダンスのうちの1つまたは複数の有効媒体パラメータに勾配を生成するように設計された要素の不均一な集合から形成することもできる。
【0015】
本発明は、特別な機能を達成するよう設計されたメタマテリアルに関する。例えば、本発明の実施形態は、屈折率の空間的変化を示すように設計されたメタマテリアルに関する。本発明の他の実施形態は、メタマテリアルを作製する方法に関する。本発明の実施形態は、詳細には、光学およびレンズの分野で有用に適用可能である。なお、本明細書で用いられる「光学系」および「レンズ」という用語は、広義に解釈され、可視光でのみ操作可能な装置に限定されないものとする。「レンズ」には、例えば可視光線周波数にはない電磁波を操作するのに有用な装置を含むこともできる。メタマテリアルのレンズを含む、本発明の例示的なメタマテリアルは、伝搬する自由空間波と相互に影響し合い、どのような寸法にも限定されない。
【0016】
本発明を、以下の例示的な実施形態を通してさらに考察し説明する。
A.負の屈折率を有するメタマテリアルの表面上の回折格子からの強化された回折
本発明の一態様は、屈折および回折を調整するのに最適化された表面特性を有する、負の屈折率を持つ材料に関する。回折ビームへの結合は、正の屈折率の材料と負の屈折率の材料との界面で強化されることが見出された。回折光学素子は、基本的には、パターン化された回折格子であるため、本発明の実施形態は、負の屈折率を持つ材料内の特定の回折格子をレンズ要素として利用する。回折格子の設計は、以下の式1に基づくことができる。この関係を用いて、負の屈折率を持つ回折格子レンズを従来の光学的方法で最適化できる。本発明のこの実施形態の1つの重要な利点は、メタマテリアルを用いると効率がはるか高くなることにより、従来技術で利用可能なレンズよりもさらに一層コンパクトなレンズが実現可能であることである。
【0017】
例示的な実施形態には、どのような周波数にも適合するように形成され、また光または他の電磁波を集光、あるいは操作するよう設計された格子構造に形成された、負の屈折率を持つ材料が含まれる。
【0018】
負の屈折率を持つメタマテリアルのくさび形サンプルの測定だけでなく多数のシミュレーションにより、屈折界面の避けられない段差が――メタマテリアル固有の有限単位セルサイズにより――、負の回折ビームに加えて、明確な回折ビームを発生させることが示されている。回折ビームの方向は基本的回折理論と一致している。しかし、この高次ビームへの結合は、正の屈折率を持つ材料の場合よりもはるかに大きくなる。
【0019】
負の屈折率(n)を持つ人工材料の最近の実証によると、新しい物理学を調査するためおよび新しい用途を開発するためにこれらの材料を利用することが探究され始めた。多くの興味を引く注目すべき電磁現象(例えば、逆チェレンコフ放射や逆ドップラーシフト)が負の屈折率を持つ材料で生じると予測されてきたため、最も基本的な電磁および光学現象ですら負の屈折率を持つ媒体との関連で慎重に再検討しなければならない。例えば、n=−1の平板の撮像特性の分析においては、いずれの正の屈折率を持つ光学構成部品の解像度をも上回る解像度が実現できることが予測されてきた。
【0020】
導電要素の2つの分散した格子でできた人工的な媒体が製造され、負の屈折率を有すると報告された。この材料でできたくさび形サンプルは、図1に示すように、負の屈折率を持つ材料と一致した方法でマイクロ波を屈折させると実証されている。媒体は、約11.0GHz〜11.5GHzの周波数帯域にわたり同等の負の透過率を与える導電スプリットリング共振器(SRR)と、より広く、重なった周波数範囲にわたり負の周波数帯域の透過率を与えるワイヤストリップとの2次元配置で構成されていた。SRRとワイヤストリップは両方とも誘電体基板で支持されている。
【0021】
使用されたサンプルでは、5mmの単位セルサイズは、自由空間波よりもおよそ1/6のサイズであり、材料は、有効な媒体理論によって理にかなって特徴付けられると推測できる。しかし、有限の単位セルサイズは表面に避けられない段差を生じる。18.4度の屈折面を達成するには、メタマテリアルの表面は、図1(a)に示すように、1つの単位セルごとに3段の単位セルに切断された。したがって、その結果得られる表面のC段差は、λ/2のオーダーであった。
【0022】
図1(a)は、負の屈折率を実証するために用いられたメタマテリアルのくさびの概略図である。構成は、図1(a)の白線で示されるように、2次元でパターン化されている。図1(b)は、本発明のメタマテリアルのくさびの1つの単位セルを示す概略図である。この例示的なくさびは、直径が2.5mmの単位セルででき、示されているように1次元のみ(すなわち縦列として)パターン化されている。図1(c)は、図1(a)で用いられたSRRの概略図であって、寸法は、s=2.63mm、c=0.25mm、b=0.3mm、g=0.46mm、w=0.25mmであり、図1(d)は、図1(b)のメタマテリアルで用いられる本発明の1単位のSRRの概略図で、寸法は、s=2.2mm、c=0.2mm、b=0.15mm、g=0.3mm、w=0.14mmである。用いられる誘電体基板は、銅の厚みが約0.014mmの厚さ0.25mmのFR4回路板(ε=3.8)である。
【0023】
メタマテリアルのサンプル上の表面段差は回折格子を構成し、0次の屈折ビームに加えて回折ビームを生成することが予測され得た。0次および高次ビームを生成するための条件は、周知の回折格子式から決定される。
【0024】
【数2】
ここで、θmは媒体側からの界面の法線に対する入射角で、θは屈折角である。式1は、屈折(第1項)だけでなく回折(第2項)も明らかにする。
【0025】
式1を導く基本的な論証では、入射ビームを種々の可能な出射ビームへ相対的な結合を決定できない。正の屈折率を持つ材料と負の屈折率を持つ材料との間の回折格子からの平面波回折を理論的に分析すると、回折次数への強化された結合が予測される。この強化された結合は、以下の論理によって理解することができる。周期的にパターン化された表面に入射する波は、界面に沿った波数ベクトルが、逆格子ベクトル内へ入射する波のベクトル(kx)に一致する全ての透過および反射波(すなわち、kx+mΠ/d、なおmは整数)に結合される。このモード群には、(kx+mΠ/d)>ω/cであるエバネセント成分に加えて、ゼロ次の屈折波と高次回折次数という両方の伝搬成分が含まれる。正の屈折率を持つ媒体と負の屈折率を持つ媒体との間の表面で生成されたエバネセント波に対する反射および透過率は、同じ屈折率符号を有する2つの媒体間の表面で生成された反射および透過率よりもはるかに大きな絶対値となる。摂動的な意味で、回折格子変調によって、エバネセント成分が影響して、入射ビームと全ての回折ビームとが結合される。これらの成分の絶対値は、正の媒体と負の媒体との間で極めて大きいため、入射ビームと高次回折との結合もまた対応して極めて大きくなる。
【0026】
負の屈折率を持つサンプルにおける回折ビームの性質を探求するために、本発明者ら、図3に示されるように、負の屈折率を持つくさびと自由空間との間の界面に入射する波をシミュレーションした。このシミュレーションは、有限要素ベースの電磁モードソルバーにおいて求められた解を用いて実行される。シミュレーションされた幾何学的形状は実験で用いられたものと同様である。ただし、くさびは、SRRとワイヤのアレイではなく負のεおよびμを用いて均質材料として扱われる。有限幅の入射ビームは、アブソーバに沿って、6cm幅のチャネルで1cmの高さで囲まれている一端を駆動することによって形成される。アブソーバは、波をサンプルくさびの平面に導く。滑らかな屈折界面を備えたくさびサンプルの場合、屈折率が正であろうと負であろうと、単一の屈折ビームがスネルの法則(すなわち回折ビームなし)によって定められた角度で常に観察される。
【0027】
正の屈折率を持つくさびに付けられた表面段差は、滑らかなくさびの屈折ビームと同じ単一の屈折ビームを生成する。しかし、図2に示された負の屈折率を持つくさびに付けられた表面段差によって、第2のビームが出現する。
【0028】
図2は、負の屈折率を持つくさびの段差のある界面で、屈折ビームと回折ビームとを示す領域プロットである。このシミュレーションにおけるさびでは、ε=−5.09、μ=−1.41であり、したがってn=−2.68である。シミュレーションの周波数は11.5GHzである。くさびの屈折面に沿った段差の寸法は15mm×5mmである。実験との類似のため、1cm高さ(ページに対して垂直な方向)で6cm幅の案内領域がシミュレーションされ、(ページと平行な)電気の境界条件によって境界が示される。屈折ビームおよび回折ビームは、式1に従って、それぞれ−58°および+30°の角度で平板を出射する。
【0029】
図2で表されたシミュレーションにおける幾何形状のパラメータは、式1で用いられる場合、表面法線から−58°で0次屈折ビームと、見かけの格子長さに依存した角度で1次回折ビームを示している。式1は、くさびの屈折率を一定に保った状態における入射ビームの波長変化は、1次ビームの偏向角度を変化させるが、0次ビームの偏向角度は変化しないことを示している。このことは、図3で表された角度パワースペクトルで見ることができる。図3は、図1の段差付きで負の屈折率を持つくさびの表面から半径40mm離れた、シミュレーションの角度パワースペクトルを示している。各曲線は、異なった入射波長(周波数)に対応している。全ての角度は屈折面の法線に相対している。
【0030】
図3の種々の曲線は、他の全てのパラメータを一定に保った状態で、9.0GHz〜11.75GHzまで変化させた入射励起周波数の種々の値に対応している。周波数(または波長)の関数としての1次ピークのピーク角度は、値dを経験的に決定するのに用いることができる。値dの逆数が波長の係数として式1に入る。物理的な表面段差サイズは15×5mmであると同時に、dが約16mmとすると、図3からのデータへの適合は、明らかに格子段差サイズd=19mmであることを示す。この抽出された値dは、11.75GHz〜約10GHzまでの周波数をはるかに上回る、観察されたシミュレーションのデータと一致する。
【0031】
8.5GHz以下では、式1の右辺は単一体を逸脱し、回折ビームは能でなくなる。したがって、本発明者らは、回折ビームの結合強さは、この周波数近くでは0に近づくと予測し、このことはシミュレーションの結果と一致する。図3の数々の研究によって、0次および1次ビームに入射波を相対的に結合させることが示されている。屈折ピークに対する回折ピークの相対的な大きさは、波長が小さくなるにつれて、回折ビームが散乱スペクトルより優位になるレベルに達するまで大きくなる。周波数を一定に保ちつつ表面の段差サイズを変化させた同様の数々の研究によって、図3で示された結果と類似の結果が明らかとなった。
【0032】
ここで示されたシミュレーションは、連続した均質材料を基にしているが、人工的に構成された負の屈折率を持つメタマテリアルも連続材料として近似値を求めてもよい。したがって、このようなメタマテリアルにおける表面段差によって、均質な段差付きくさびサンプルに関して上述したシミュレーションで見られた現象と同じ回折現象が導かれるであろうと考え、予測されている。
【0033】
上述のシミュレーションによって、図1(a)で用いられたサンプルには、屈折率が負の周波数形態で2次ビームが観察されるはずである。2次ビームは、最初の実験では報告されなかったが、同様の実験では観察された。サンプルの設計詳細のために、プレートはおよそ2mmで、10mm(0.4インチ)超の標準X帯域間隔で分離されたが、これが、実験の変動の原因となった。
【0034】
高次ビームの問題をさらに研究し、実験で明確にするために、本発明者らは、2つの異なるメタマテリアルのくさびサンプルのそれぞれが透過する領域を、周波数の関数として、角状変位してマッピングした。サンプルのうちの1つは図1(a)で用いられたものであり、寸法は図1(c)で示されている。他のくさびサンプルには、図1(d)で示した新しい単位セル設計が利用された。
【0035】
実験に用いられた装置は、公知の、平行板導波管を基にしている。最小の横方向位相変化を有する入射ビームが、X帯域の同軸導波アダプタ(HPX281A)から平行板導波管のチャネル内にマイクロ波を結合することによって生成される。アブソーバ(マイクロソーブテクノロジー社(Microsorb Technologies Inc.)のMTL−73)が、アダプタの0.9インチ幅からビームの経路に沿って徐々に広げられるようにパターン化され、およそ15cm(6インチ)の出口開口を形成する。チャネルは平行板の半円の中央チャンバに接続され、その中心にはメタマテリアルのサンプルが置かれている。チャネル(出口開口と同軸のアダプタ)の長さは40cmである。導波管検出器が、サンプルから40cmの距離で半円板の半径で位置し、180度近い角度範囲全体を掃引できる。
【0036】
制御として、図1(a)のサンプルと同じ寸法で同じ表面段差サイズで、テフロンサンプルから回折されたパワー角度分布が測定される。図3で示された結果は、ビームが、予測通り、正の角度に対して回折することを明らかにしている。示された周波数範囲全体にわたり、式1は1次モードが生じる(例えば11.5GHzで−63°)と予測するが、別の回折ビームは検出されない。
【0037】
正の屈折率を持つ媒体とは対照的に、負の屈折率を持つ媒体は本来、周波数分散型である。図1(a)によって用いられたサンプルに対して負の屈折の予測される周波数領域は10.5GHz〜11.1GHzであったが、これらの限界は、サンプルに対して上下に板を配置するため幾分不明瞭である。本研究では、チャンバ板は1.27cm(0.5インチ)の距離で固定されている。
【0038】
図4は、周波数(縦軸)と直接入射から離れる角度(横軸)を関数とした、透過パワーのマップであって、(一番上)は15mm×5mmの段差を備えたテフロンのくさびであり、(中央)は図1(a)のくさびであり、(一番下)は2.5mmの段差付きの本発明の表面くさびメタマテリアルである。図4(中央)から見られるように、予測された負の屈折率を持つ周波数帯域と一致する周波数では、入射ビームは、実際には、負の角度に湾曲する。さらに、式1が示すように、1次回折ビームに対応する正の角度で2次ビームも存在する。回折ビームの位置および散乱は式1と一致し、図3におけるシミュレーション分析から導かれる値dを推測する。
【0039】
この一致は、連続媒体を仮定する理論の簡潔性を十分考慮することである。これらの結果は、大量のメタマテリアルが負の屈折率を持つ連続材料として作用するだけでなく、表面段差が特性の一因となり、他の連続材料で段差としてモデル化できる。
【0040】
単位セルのサイズをわずかに小さくすることによって、屈折面の格子長さを効果的に低減して、回折ビームが除去できることが発見され、式1とシミュレーションの両方から確認されている。本発明の一実施形態には、単位段差サイズが2.5mm(伝搬平面において図1(a)用いられた単位セルの半分のサイズ)の段差表面を備えた新しいメタマテリアルのサンプルが含まれている。「段差サイズ」とは、3つの単位セル段差の長さに沿った、各単位セルの長さおよび、各段差を相互に互いに分離する垂直距離のことである。くさびサンプルの概略図が図1(b)に示されているが、メタマテリアルの単位セルの詳細な寸法は図1(d)に示され、上で詳細に述べられた。また屈折面の角度は18.4°であり、1つの単位セルごとに段差が付いた3つの単位セルである。
【0041】
2.5mmのサンプルに対する周波数と角度を関数とした透過パワーのマップが図4(c)に示されている。新しい単位セルに対するシミュレーションから決定されるように、左手系の予測帯域は11.3GHz〜12.2GHzに生じる。予期されるとおり、測定されたスペクトルは、この周波数帯域全体にわたり負に屈折したパワーを表し、最も重要なことは回折帯域が現れない。
【0042】
ここで提示したシミュレーションおよび図4の実験データは、負の屈折率を持つ媒体の屈折実験において表面の不均一性の作用を説明するのに役立つ。メタマテリアルのサンプルは幾分複雑なシステムを表すが、本発明者らの結果および分析では、式1が、0次および高次ビームの両方の存在を正確に表わすことを示している。さらに、この結果は、負の屈折率を持つサンプルに対回折次数への結合が高められることを立証している。この強化された結合によって、正の屈折率を持つ媒体と負の屈折率を持つ媒体の作用間の重要な差異が表され、表面の周期性が、後者ではより重要な役割を担うことが示されている。
B.負の屈折率を持つレンズの収差
本発明の別の態様は、負の屈折率を持つレンズに関する。近年、負の屈折率を持つ人工材料(「NIM」)への関心が高まってきている。関心分野の1つの領域に、完全レンズの概念が含まれている。完全レンズは、屈折率マイナス1の平板レンズであって、正の屈折率を持つ光学系で可能な解像度を超えた解像度で画像を合焦することができる。負の屈折率を持つ媒体上の湾曲面で合焦することが可能である。負の屈折率を持つ媒体から構成される従来の球面外形レンズには、正の屈折率を持つ対応物に勝るいくつかの利点がある。すなわち、よりコンパクトであること、自由空間と完全に適合できることである。さらに、集光性能にも優れていることがわかってきた。
【0043】
本発明の代表的なメタマテリアルのレンズは、電磁特性が複合体全体にわたり空間的に変化するよう形成される複合構造体として構成されている。重要なことに、誘電率と透過率との両方が本発明の構造体全体にわたり独自に変化し、以前では実現できなかった光学素子を可能にすることである。例示的な実施形態は、複数の導電要素を支持する誘電体基板または母材からなる人工的に構成された複合メタマテリアルであり、導電要素はそれぞれ、電磁界に応答して所望の電気分極と磁気分極とを示すように設計され、複合体は1つまたは複数の軸に沿って誘電率および/または透過率の所望の空間的変化を表し、その結果、少なくとも1つの要素がその電気または磁気分極において他の要素とは異なる。本明細書で用いられているとおり、「空間的変化」とは、空間的な位置による変化を意味するとして広く解釈されるものとする。例えば、空間的変化を示す透過率を有するメタマテリアルは、メタマテリアルにおけるX、YおよびZ軸のうち1つまたは複数に沿った位置によって変化する透過率を有する。
【0044】
重要なことは、透磁率の空間的変化は、上記の誘電率とは無関係であり、透過率と誘電率は、本発明のメタマテリアルにおいて相互に別々に「調整」できる。このようなメタマテリアルには多くの有用で有利な用途がある。例えば、本発明のいくつかの例示的なメタマテリアルにおいては、誘電率に対する透磁率の割合がほぼ一定に、および、メタマテリアルに隣接またはその周囲にある材料に対する同割合とほぼ等しく保たれ(実施例は、複合メタマテリアルが埋め込まれる自由空間または第2の材料を含んでいる)、その結果、インピーダンス整合が達成される。また、メタマテリアルの透過率および誘電率の符号を制御することができ、負の屈折率を持つメタマテリアルを提供するいくつかの例示的なメタマテリアルにおいては、両方とも負である。これらおよび他の利点ならびに利益が、以下に続く例示的な実施形態の詳細な説明を考慮すると、当業者には明らかとなるであろう。
【0045】
レンズの単色画像画質は、5つのザイデル収差、すなわち球面、コマ、非点収差、像面湾曲および歪みによって特徴付けることができる。簡単なガウスの光学式に対するこれらの周知の補正が、球面からの波面の偏向角の4次展開式から算出される。(球面の波面は、光線光学において理想的な点焦点に収束する。)この展開式の係数が、所定の物体および撮像地点に対して、光学要素の非理想の集光特性を定量化する。本発明者らは、屈折率に関して、ザイデル収差のうちいくつかが、ゼロについて、非対称であることを見出した。+1の相対屈折率を有する界面が不活性で、−1の相対屈折率を有する界面が強く屈折していることを考慮すると、この非対称は驚くことではない。しかし、非対称が負の屈折率を持つレンズに優れた集光特性を生じさせるという本発明の発見は、驚くべき予測しない結果である。
【0046】
負の屈折率を持つ媒体は、必然的に周波数分散型であり、これは色収差を高め、帯域幅を低減することを暗に示している。しかし、同様の限界を有する回折光学素子は、狭い帯域の用途に有用性が見出されている。分析に基づいた収差結果を確認するために、光線の経路を決定するのに屈折率の符号に頼らず、誘電率ε、透過率μ、マクスウェルの方程式およびエネルギー保存に頼ったカスタム光線追跡コードが開発されてきた。均質な媒体における界面間で、光線は直線的に、次いで、ポインティングベクトルの方向に伝搬する。領域1から領域2に界面を横切った屈折が以下で取り扱われる。領域2において(マクスウェルの方程式から得られる)分散関係を満たす波動解が求められる。
【0047】
【数3】
ここで、k2は領域2の波動ベクトルである。解は、入射波への境界整合も満たしていなければならず、
【0048】
【数4】
を必要とする。なお、nは界面に対する単位法線である。入射波が以下の式のエネルギーを有する場合、出射する屈折波は、表面からエネルギーを運び去る必要がある。
【0049】
【数5】
ここで、P=1(1/2)Re(E×H*)は、時間平均したポインティングベクトルである。最後に、媒体は不動態で損失がないと推定されるため、波は指数的に増加も減衰もしてはならず、Im(k2)=0である。上記の基準を全て満たす解が存在する場合、光線は新しく発見された波動ベクトルとポインティングベクトルとを有して存続する。さらに、本発明者らは等方媒体のみを考えているため、解は単一である。
【0050】
光学系の文献で見られる薄い球面レンズのザイデル収差の表現形式は、負の屈折率を持つ媒体を考慮しても変わらないことが見出された。この結論は、光路の長さの定義とフェルマーの原理のみを用いて、第1の原理からこれらの式を再び導き出すことによって確認される。本発明者らは、光路の長さ、
【0051】
【数6】
を、光路Cがポインティングベクトルと平行に配向している場合に、波が光路Cに沿って受ける(自由空間波長の単位で)位相変化と解釈している。光路は、ポインティングベクトルと波動ベクトルとが逆平行である場合、すなわち屈折率が負である場合に、負となる寄与を有する。これらの収差式は、さらに、本発明者らの光線追跡の結果と一致することで実証されている。波面収差ΔOPLは、一般光線と基準光線の光路の長さの差である。基準光線は開口絞りの光軸を通過し、一般光線は、図5で示されているように、その開口絞りrの座標と、その撮像面の座標hとによってパラメータ化される。
【0052】
図5は、収差計算に使用される構造を示している。ASと表示されている開口絞りは、薄いレンズの位置にある(図示されたレンズは厚いが)。ガウス像面がIPで表示されている。開口絞りの座標ベクトルrと撮像面の座標ベクトルhは、図示しているように、必ずしも平行でなくてもよい。
【0053】
ガウス光学の制限内にあるために、球面の界面が完全な画像を生じる場合には、rおよびhはゼロに近くなければならない。これらのパラメータにおける波動収差の一連の展開によって、
【0054】
【数7】
任意の所望次数のガウス光学素子の補正を生じる。レンズ平面で開口絞りを有する薄い球面レンズに対する最低次数の補正は、以下の式のよって与えられる。
【0055】
【数8】
これらの係数はザイデル収差、すなわち、それぞれ、球面、コマ、非点収差、像面湾曲および歪みである。これらの式では、位置係数pおよび形状係数qもまた現れている。位置係数は、以下の式で与えられる。
【0056】
【数9】
ここで、f’は撮像側に関係する焦点距離で、S’は撮像位置である。薄い球面レンズの結像方程式によると、以下のようになる。
【0057】
【数10】
ここで、Sは物体の位置、R1およびR2はレンズの曲率半径、位置の要素が倍率に直接関係している。
【0058】
【数11】
形状係数は、以下の式で与えられる。
【0059】
【数12】
形状係数が0である場合のレンズは対称的で、±1は平凹の曲面レンズである。形状および位置係数を用いると、全ての薄い球面レンズの構成が記述される。
【0060】
最初に、無限遠の距離にある発生源物体の重要な場合を検討する。これは、−1の位置係数である。本発明者らに残されたのは、収差を低減するのに用いことができる2つのパラメータ、nおよびqである。収差のうちの1つを除去するように値qを設定し、残りの収差を屈折率の関数と比較する。ここでは、適度な屈折率の値に注意を限定する。屈折率の絶対値が大きい場合は、収差は符号とは無関係に同一値に近づくが、大きい屈折率を持つ誘電体レンズは、自由空間とのインピーダンス不整合のため、大きな反射係数を有する。収差は通常、最高から最低へと、開口座標であるrの次数で順序付けられる。これは、大きなレンズ開口で画像を形成している場合に、画像の劣化が最大から最小への順序付けであるが、適度な画像サイズには小さい。これは利用中によく発生することである。したがって、球面収差は除去する明らかな対象である。しかし、1よりも大きい屈折率の値に対するC200の乗根が存在しない。これは、この収差が球面収差と称される理由である。なぜなら、これは球面レンズに固有に現れるからである。好ましくは、コマの除去が実行される(次の順番である)。これはしばしば起こるため、結果として得られるレンズの球面収差の値は、得られる最小値に極めて近い。形状係数qの調整は、レンズ湾曲と呼ばれることが多い。レンズをゼロコマへ曲げる場合、すなわち、qに対してC110の乗根を見つける場合、以下の式を得る。
【0061】
【数13】
qとpが−1であるこの値を(5)に代入し、図6において残りの3つのゼロでない収差係数およびqcも計算する。
【0062】
図6において、一番上の図は、球面収差(A)と、非点収差(一番下の水平なプロット線)と、像面湾曲(B)と形状因数(C)を、無限遠で物体を収束しゼロコマに曲げられるレンズに対する屈折率の関数として、示している。細い垂直線は、光線追跡中の図(一番下)と、経線の輪郭(左)と、撮像点(右)で示されたレンズの特性を示している。入射角は0.2ラジアンで、レンズはf/2である。屈折率の形状係数と、相対的なrmsのスポットサイズとスポットダイアグラムズームとがまとめて示されている。経線の輪郭では、レンズの主面は、細い黒の垂直線として示され、光軸およびガウス像平面がグレーの線で示されている。スポットダイアグラムでは、ガウシアンフォーカスが十字線の中心にある。
【0063】
q=1の場合、屈折率に、平凹/平凸のレンズを表す2つの値があることに留意されたい。(10)を=1に設定すると、以下の式を得る。
n2−n−1=0 (11)
この乗根は至るところにある「好適な」もの、すなわち最も好ましい割合であって、n=Q=約1.62で、n=1−Q’=約−0.62である。本発明者らはまた、n=−0.7近くで屈折率の値の窓があり、そこでは球面収差も像面湾曲も両方とも小さいことに注目している。正の屈折率では同様な窓はない。したがって、本発明の一実施形態は、屈折率nが約−0.6〜約−0.7のNIMからできたレンズ、好ましくは、屈折率が約−0.6のレンズである。
【0064】
経線光線と光線スポット図との両方を持ついくつかの光線追跡図が、図6において屈折率の特定の値として示されている。基準レンズは、可視光学レンズで用いられる典型的な値に近く、適度に低い反射についてn=1に十分近い屈折率φを有している。図示された負の屈折率のレンズは、実際、完全な透過を可能にするもう1つの屈折率であるn=−1により近く、したがって、これは公平な比較である。負の屈折率を持つレンズは全て、正の屈折率を持つレンズよりもかなり小さい焦点を示している。ゼロ球面収差を得るためにp=−1でレンズを曲げる場合、2つの解を得る。
【0065】
【数14】
これらの式はn≦1/4の場合のみ実数を取るので、このようなレンズ(自由空間に埋め込まれた)の実現は通常の材料では不可能である。
【0066】
図7に示されるように、負の屈折率によって、遠方の物体を実焦点に合わせることができる球面収差のない球面レンズの全ファミリーが可能となることは驚くべき重要な結果である。図7は、レンズがゼロ球面収差に向けて曲げられる以外は、図6と同じであり、コマが(D)で示されている。実線および点線は種々の解を示している。スポット径rrmsは図7の一番下のレンズスポットと関係している。全てのスポット図は同じ縮尺である。
【0067】
qs(実線の曲線)に対する式において負の符号を持つ解は、中程度の屈折率の負の値に対してコマが小さいので、光線追跡図はその解に対して示されている。本発明者らは、n=−1のときに、像面湾曲もゼロになり、それによってこのレンズが5つのザイデル収差のうち2つ、すなわちコマと非点収差しか有していないことに注目する。正の屈折率の基準として、本発明者らはゼロコマ、上記からn=φのレンズを用いる。繰り返すが、負の屈折率を持つレンズによって、比較可能な正の屈折率を持つレンズよりも密な焦点が得られる。
【0068】
次に、本発明者らは、|p|<1の場合を考察する。これは有限の位置での実物体と実像との両方である。pおよびqは両方とも自由パラメータであるため、本発明者らは、2つの収差を除去できると推定する。球面収差とコマを除去する場合、結果として得られるレンズは無収差と呼ばれる。正確な結果ではないが、球面レンズが、事実上の無収差焦点ペアのみを有することが可能であることは公知である。より正確な説明は、負の屈折率を持つ球面レンズのみが実際の無収差焦点ペアを有することができるということである。C200およびC110をゼロに設定し、pとqの値を求める場合、4つの解を得る。2つのゼロでない解が以下によって得られる。
【0069】
【数15】
本発明者らは、pに対しては−の符号でqに対しては+の符号の解に焦点を当てる。この解は、像を拡大するレンズ構成の収差がより小さくなる。もう1つの解は、画像の縮小にとって有利である。数式(13)を(5)に代入することによって、ここでは、図8で、2つの残りのゼロでない係数およびpSCとqSCの値とを曲線で表した。
【0070】
図8は、有限位置で物体と像とを有し、球面収差とコマをゼロにするために曲げられたレンズ構成以外は、図7に一致している。位置係数は(D)で示されている。非点収差(以前は水平なプロット線)は(E)で示されている。位置係数が網掛け領域|p|<1にある場合、実像と実物体ペアのみが生じる。レンズペアはf/1.23、f/1.08、f/0.90で、倍率は−1、−2、−3である。最後から2番目のスポット図では、水平ズーム(10x)と垂直ズーム(100x)とは等しくない。
【0071】
光線図が、倍率が−1、−2、−3のレンズに対して示されている。それぞれの基準となる正の屈折率を持つレンズも示されている。基準レンズ(無収差となり得ない)は、比較されるレンズと同一倍率で同一f/#を有する中程度の屈折率φを有している。基準レンズはコマがゼロとなるように曲げられるが、構成に可能な最小値に近い球面収差も有する。繰り返すが、負の屈折率を持つレンズによって、より優れた焦点ができる。
【0072】
屈折率が−1で倍率が−1のレンズは、特に興味深い。この屈折率の値では、像面湾曲もゼロになる。この注目すべきレンズの構成は、5つのザイデル収差のうち1つ、すなわち非点収差しか有していない。これは、画面で1次元「スポット」を示す光線追跡によって確認される。これは矢状面では完全な集束である。完全な集束は、矢状焦点の前の子午面でも生じる。q=−1のこの非対称レンズがp=0の対称構造において極めて良好に機能する理由を疑問に思うかもしれない。このレンズは、1つの構成部品を備えた両凹の二重レンズと等価と見なすことができる。本発明者らは、任意の屈折率が±nの両凹の二重レンズでは全て同一の集光特性を有していることを見出した。観察できる唯一の違いは、内部光線である。内部光線は、平面境界面について常に対称であるが、屈折率が大きくなると、より極端な角度を形成する。
【0073】
これらの負の屈折率を持つレンズのいずれもは、周期的に構成された人工的な材料を用いて製造することができる。人工的な材料の設計は、メガヘルツからテラヘルツの周波数で機能することができ、この周波数では多数の通信および撮像応用がある。例えば、レンズアンテナは、直接増加利得に変換される収差低減と、低密度の人工材料によって得られる質量低減との両方によって利益を得ることができよう。さらに、これらのレンズは完全レンズよりもさらに容易に実現される。なぜなら、これらのレンズは、波長要求毎に厳しい構造周期がいらず、損失に対してより耐性があるからである。負の屈折の可能性を示す光結晶を用いることによって、負の屈折率を持つレンズも可視光線周波数で可能となる。現在の光学システムの設計パラダイムを用いると、要素を反対の符号を持つ係数と組み合わせることによって収差が最小限となる。しかし、要素が多いということは、複雑となりコストが高くなることを意味する。負の屈折率を含む拡張パラメータ空間を利用することによって、必要な要素の数を減らすことができ、唯一の要素を備えたレンズが可能となると思われる。
【0074】
別の説明として、本発明の追加の例示的なレンズが記載される。本発明の1つの例示的なメタマテリアルレンズは、同軸の球面で形成された2つの対向面を備えた均質等方屈折媒体から構成されており、レンズの厚みは、その直径と意図された焦点までの距離と比較して薄い。形状の制限で、レンズは、球面収差がゼロの実像点に平行な光(極めて遠方または平行光源からの光)を集光する。これを達成するために、形状係数は
【0075】
【数16】
である。ここで、R1およびR2は2つのレンズ面の曲率半径である。屈折率nは
【0076】
【数17】
となるよう調整される。ここで、nは1/4未満でなければならない。これは、大気または真空のバックグラウンドの従来の材料では達成できない。メタマテリアルを用いて実現できる。
【0077】
追加の例示的メタマテリアルレンズは上述の通りであるが、n=−1の特別な場合に対して構成される。レンズは、球面収差がゼロで、および像面湾曲収差がゼロである実像点に平行な光を集光する。
【0078】
本発明の追加の例示的メタマテリアルレンズは、同軸の球面で形成された2つの対向面を備えた均質等方屈折媒体を備え、レンズの厚みは、その直径と意図された焦点までの距離と比較して薄い。形状の制限で、レンズは、有限位置での点光源から実際の無収差点、すなわち球面収差がゼロでコマ収差がゼロの点までの光を集光する。このことを達成するために、形状係数qと位置係数p(
【0079】
【数18】
、ここで、fは焦点距離で、S’はレンズから像までの距離)と屈折率nとが
【0080】
【数19】
と
【0081】
【数20】
となるように調整される。実際の無収差像は、n<0のときにのみ可能であることを本発明者らは見出した。このようなレンズは、n=−1の特別な場合においても構成される。この場合、像面湾曲収差もゼロとなる。
【0082】
本発明の追加の例示的メタマテリアルレンズは、平らな側面で接触して接合される2つの平凹部品レンズから構成された両凹の二重レンズを備えている。2つの部品レンズの厚みは等しく、曲率が等しい球面を有している。部品レンズを備える屈折媒体はn1=−n2で関連付けられる。この二重レンズは、上述のレンズの特性全てを有する――すなわち、二重レンズは、球面収差がゼロで、コマ収差がゼロで、像面湾曲の収差がゼロの実像を合焦することができる。実現するにはn<0でなければならないが、メタマテリアルを用いて実現することができる。
【0083】
本明細書では、負の屈折率を持つメタマテリアルレンズを考察し、説明してきたが、メタマテリアルでできた正の屈折率を持つレンズが同様に有用で有益であることが理解されよう。
C.勾配屈折率メタマテリアル
本発明の別の態様は、勾配屈折率を持つメタマテリアルに関する。本発明のこの態様の一実施形態には、一定の空間的勾配の有効屈折率を持つ、導電スプリットリング共振器(SRR)を基にした構造化メタマテリアルが含まれている。広範囲の周波数全体にわたり複合メタマテリアルでできた平板によってマイクロ波ビームの偏向を測定することで、勾配は実験的に確認された。本発明の勾配屈折率メタマテリアルは、特に、高い周波数で有利となる勾配屈折率レンズおよび同様の光学系の開発への代替方法を表している。特に、本発明の勾配屈折率材料は、テラヘルツ用途に適合することができ、その用途では、最近、SRRの磁気共振応答が実証された。
【0084】
普通ではないメタマテリアル応答の一例を、有限周波数帯域で負の誘電率(ε)と透過率(μ)を同時に所有する、負の屈折率を持つメタマテリアルで見ることができる。これまで実証されてきた負の屈折率を持つメタマテリアルは、大きさと間隔が当該波長よりもはるかに小さい導電要素の周期アレイから形成されていた。反復される導電要素の形状が集合体の電磁応答を決定し、電磁応答は、電気または磁気共振を有するように近似できる。有効媒質理論を周期的にパターン化される複合体全体に適用することによって、容積等方性および異方性ε、μの観点から説明することができる。
【0085】
図9に挿入して示されたスプリットリング共振器(SRR)は、磁気特性を示すメタマテリアルで反復される要素として有用な1つの例示的導体である。単一のSRRは、磁性「原子」に類似した方法で電磁界に応答して、共振磁気双極子応答を示す。周期的に配置されたSRRで構成される媒体は、以下の周波数依存透過率μによって近似的に特徴付けることができる。
【0086】
【数21】
ここで、ωrはSRRの形状によって決定される共振周波数であり、γは減衰係数、Fは充填率である。SRR媒体はまた、有効誘電率εを示し、これがまた周波数の関数として分散型であることが示されてきた。しかし、この周波数依存性は、共振から離れた周波数では小さく、セルサイズを小さく限定すると、一定に近づく。したがって、本発明者らはここで、誘電率を周波数全体わたり一定値であると近似する。さらに、使用される場の極性を基準にしてSRRを配向することによって、電気および磁気応答が分離されることを意味している。
【0087】
図9は、SRRのシミュレートされた分散曲線を示している。太い黒色の曲線ペア(上側および下側の分岐を含む)は、平面基板上のSRR(下側の差込図)に対応している。白丸は、シミュレートされた位相進み示している。その次の曲線ペアは、基板がSRR周りで除去された場合(上側の差込図)に対応している。切込み深さは、各曲線セットの間で6μmづつ増えている。
【0088】
従来技術では、メタマテリアルは、同一要素を含んだ、反復単位セルから構成されていて、そのため、結果として得られる媒体は平均電磁応答が構造によって変化しないという意味では均質であると考えることができる。一方、本発明の一実施形態は、その平均電磁特性が位置の関数として変化するメタマテリアルを含む。このような空間分散型材料は、例えば、レンズ化およびフィルタリングを含む多種の用途で利用できるため興味深い。本発明の一実施形態は、SRRに基づいたメタマテリアルであって、このメタマテリアルでは、空間分散のパターンが伝播方向と垂直な方向に沿って各連続要素の特性をわずかに変化させることによって導入される。結果として得られるメタマテリアルは、メタマテリアルのこの軸に沿って一定の勾配屈折率を有し、このことはビーム偏向実験で確認することができる。
【0089】
SRR媒体は主として磁気応答を有することが公知であるが、これはここでは直接の関心対象とはしない。むしろ、本発明者らは、
【0090】
【数22】
(式1で与えられるμ(ω)および一定と近似されるε(ω)を有する)から見出されるSRR媒体の屈折率n(ω)に関心がある。この分散形態、すなわちω=ck/n(ω)は、単一の単位セルに対するマクスウェル方程式の数値解法から得られる形態と比較することができる。分散図を数値で得るために、本発明者らは、単一の単位セルに対する固有振動数を計算し(図9、差込図)、伝搬方向と垂直な方向における位相進みがゼロという周期的境界条件と、伝搬方向において種々の位相進みを有する周期的境界条件とを適用する。シミュレーションは、有限要素ベースの電磁ソルバーに基づいたHFSS(Ansoft社)を用いて実行される。結果として得た分散図は、単位セル(黒色の曲線)にわたる周波数に対する位相進みφとして示され、予測される共振形態を明らかにする。詳細には、周波数帯域ギャップによって分離された伝搬モードに2つの分岐点がある。下側の分岐は、位相進みが180°で、ゼロ周波数から始まりωrで終わる。次の分岐が
【0091】
【数23】
の周波数で始まる。伝搬定数kは、k=φ/dから見出すことができる。ここで、dは単位セルのサイズである。
【0092】
SRRの共振周波数ωrは、どちらかといえば、SRRに対する幾何学的なパラメータと局所的な誘電環境とに対する感度に依存している。μ(ω)はωr(式1)に強く依存するため、基本の反復単位セルへの比較的小さな変化は、特に共振近くで、複合体の透過率の大きな変化を引き起こす可能性がある。共振周波数に変化に対する屈折率の変化
【0093】
【数24】
は式1を用いて算出することができる。便宜上、本発明者らは減衰を無視し、ε(ω)=1とする。なぜならば、当該周波数帯域全体にわたる誘電率の主要な役割は、分散曲線を設計しなおすことであるからである。低周波数(ω<<ωr)では、屈折率は、共振周波数のわずかな変化を伴って直線的に変化し、すなわち以下の式となる。
【0094】
【数25】
一方、高周波数限界(ω>>ωr)では、本発明者らは、以下の式を用いる。
【0095】
【数26】
式1で説明されたモデルシステムについて、Δωr/ωr<<1と仮定し高次の項を無視すると、勾配は、ω<<ωrに対しては周波数の2乗に比例して増加し、ω>>ωrに対しては周波数の2乗の逆数に比例して減少する。
【0096】
当業者には、SRRまたはωrの変化を導入するのに用いるSRRおよびその状況に各種の変更形態があることは理解されるであろう。例えば、導電アレイのサイズ、量、空間もしくは形状または誘電体に対する調整を実施することができる。1つの例示的な方法によると、SRRを取り囲む誘電体基板材料の切込み深さが調整される。この方法は、例示的なサンプル製造と比較することができる。例示的なサンプル製造においては、数値制御されたマイクロミリング加工を用いて、SRRは銅張り回路基板上でパターン化される。誘電体材料をSRR近くの領域(FR4の回路基板に対してε〜3.8)から除去すると、SRRの局所的な誘電環境が変化して、共振周波数を変化させる。
【0097】
図9において、いくつかの分散曲線は、SRR回りの基板材料の種々の深さについて、SRR複合体と対応している。基板の深さは、連続した分散曲線間で6μmづつ異なる。図9はωrが、切込みが最大36μまで増加しながら、ほぼ直線的に単調に変化することを示している。さらに、シミュレーションによると、略直線性は240μmまで有効であることが示されている。
【0098】
SRRは、基板の切込み深さの関数として直線的に増加する共振周波数ωrを示すため、それから勾配屈折率を持つメタマテリアルを設計するには便利な要素である。特に、本発明のメタマテリアルには、ωrがセル数の関数として変化するSRRの直線アレイのうちの1つが含まれている。例えば、メタマテリアルの基板の切込み深さがセル数の関数として直線的に大きくなる場合、ωrもまたセル数の関数として直線的に大きくなる。つまり、ωrは直線的に距離に比例するようになる。式2および3におけるこの関係を用いて、本発明者らは、屈折率の勾配が、したがって距離の関数として、少なくともωrから十分に離れた周波数に対してほぼ一定であることを見出した。
【0099】
一定の勾配メタマテリアルは、屈折率が(入射放射に垂直な方向において)直線的に変化する平坦なメタマテリアル平板に入射するビームの偏向を観察することによって実験的に確認されてきた。この偏向を算出するために、本発明者らは、図10に示されるように、厚さがtの勾配屈折率平板に垂直に入射するが位置ずれした2つの光線を考察した。図10の図は、屈折率が一定の勾配を持つ構造による波の偏向を示している。
【0100】
光線は、平板を伝搬するにつれて、異なった位相進み得る。2つの光線が、平板面に沿って、xおよびx+Δxの地点で入射すると仮定すると、平板を横切る2つのビームの得る位相差は以下の式になり、
【0101】
【数27】
図10においてLと表記された光路長さにわたる位相進みと等しくなければならない。この結果、本発明者らは以下の式を得る。
【0102】
【数28】
この式は、屈折率に一定の空間的勾配がある材料に対しては、ビームは均一に偏向することを示している。ここで、δ(x)は、平板に沿った距離の関数としての切込み深さである。位相波面、別のやり方では材料内で均一となり得ないため、好ましくは、この簡略化した分析が薄いサンプルに適用される。Φ(x)は、任意の厚さの平板全体にわたる位相シフトであることに留意されたい。平板の厚さが1つの単位セル分である場合、SRRセルに対して位相シフトは、先に定義されたように、φとなる。
【0103】
本発明の例示的な勾配屈折率を持つメタマテリアルには誘電体基板が含まれ、少なくとも2つの導電格子が相互に分散し、誘電体基板によって支持されている。少なくとも2つの導電格子と誘電体との寸法は、少なくとも1本の軸に沿って有効透過率に勾配を持たせる寸法とされる。本明細書で使用されているとおり、「寸法とする」という用語は、広義に解釈されるものとし、特定の寸法を有する構成部品を形成することを含む。例えば、誘電体および導電格子の寸法を決めることの中には、導体のサイズ、導体間の間隔、使用される誘電体の種類、使用される誘電体の量、導体のうちの1つの容量などを設定することが含まれている。なお、例示的なメタマテリアルにおいては、誘電体の切込み深さを利用して単位セルの寸法を決めることにより勾配屈折率を得るが、寸法を決める他の方法を実行することもできる。
【0104】
1つの例示的な一定の勾配屈折率を持つメタマテリアルにはSRRの直線アレイが含まれ、直線アレイでは、基板深さが、伝搬と垂直な方向おいてセル数の直線的に増加する関数である。結果として生じるアレイは、図9の分散図によって予測される角度で入射ビームを偏向する必要がある。この偏向角度を予測するために、本発明者らは図9における任意の2つの曲線間の差を取って、単位セル当たりの位相シフトの勾配を求める。単位セル当たりの位相シフトは、伝搬方向において、勾配屈折率を持つメタマテリアルの平板の1つの単位セル厚みによって生成されるビーム偏向と等価である。図1の分散曲線から得られる、周波数の関数としての偏角の結果プロットが図11で示されている。図11は、図1で示したSRR材料に対する単位セル当たりの位相差に対する周波数を示し、それぞれ連続したセルは6μmの切込み深さで異なっている。
【0105】
図11の曲線は、勾配が一定で、例えば、図10のいくつかの分散曲線間の差を分析することによって決定できる周波数に対してのみの偏角を算出するのに有用である。さらに、下側の共振周波数近くでは、吸収共鳴によって、シミュレーション結果(損失を考慮していない)が有効ではない場合に、異常な分散領域となる。さらに複雑にする要因は、分析される構造が周期的であることであって、それによって高次帯域が、式1で説明されていないωrよりも高い周波数に存在する。それにもかかわらず、図11は、バンドギャップ上方の周波数で、単位セル当たり1度以上の位相シフトが1つの単位セル厚さのSRR平板から得られるべきであり、それぞれ連続したセルは先のセルに対して除去された基板誘電体より6μmの厚みが追加されている。
【0106】
例示的な勾配屈折率を持つメタマテリアルサンプルを製造するために、LPKFマイクロミリング機械を利用して、銅張りした(片面)FR4回路基板からSRRの長さの異なるストリップ(セルの数)を切削した。いくつかのサンプルが、1、3または5単位セルの厚み(伝搬方向において)で製造された。複合メタマテリアルは、1つの単位セルで間隔が空けられたおよそ40本のストリップで構成され、各ストリップは異なった深さに切削された基板を有している。各SRRストリップの共振周波数は、角状変位マイクロ波分光計(ARMS)で測定される。切込み深さに対する各ストリップの測定された共振周波数が図12で表され、製造プロセスの直線性が確認された。図12は、加工されたSRRサンプルに対する共振周波数対基板深さを示している。後続の切削段階の間の基板厚みの公称差は6μmであった。2つの深さで、直線性が途切れることに留意されたい。直線性からのこれらの偏差は、切削加工上の工具ビットの変化と同時に起こり、公称ゼロの切込み深さ位置で切削物を再配置する再現性が幾分不足していることを示している。しかし、結果として生じる直線性は、偏向実験には十分であることが証明された。
【0107】
複合勾配屈折率を持つサンプルはARMS装置で測定される。サンプル中の勾配を確認するために、マイクロ波ビームはサンプルの面に垂直に向けられ(図10におけるように)、パワーは半径40cm離れた角度の関数として検出された。実験は、平面導波路、すなわち2つの導電(アルミニウム)板の間で電界分極される有効2次元形状で実行された。
【0108】
図13は、入射マイクロ波ビームの周波数の関数として、検出角度に対して伝達されたパワーのマップを表している。2つのサンプルが図中で比較されている。図13(一番上)は、5つのセル深さのSRRメタマテリアルから成る制御サンプルを示している。ここでは、各SRRストリップは同一である(勾配なし)。図13(一番上)の図は、通過帯域に対応する周波数での透過と、透過率が負である場合に対応する減衰周波数領域とを示している。図13に示されるように、マイクロ波ビームは、偏向せずにサンプルから出て、約ゼロ度を中心とする。
【0109】
図13(一番下)は、3つのセルサンプルと5つのセルサンプルと一体に組み合わせることによって形成された、本発明の勾配屈折率を持つサンプルを、8つのセル厚み(伝搬方向において)について測定した結果を示している。角状変位が、図において、特にギャップ領域の高周波数側で明らかである。そこでは、図11で予測される特性テールと一致した特性テールを見ることができる。曲線の定性的形状は、ギャップの低周波数側で偏向することの証明が弱い以外は、上述の理論およびシミュレーションと一致している。しかし、低周波数側は、吸収(分散図で無視された)が最も強い共振に対応していることから、これは対称でないことが予測される。
【0110】
周波数に対する偏向の測定および算出された角度と、4つおよび8つのセル厚みを有する勾配屈折率を持つメタマテリアルとの詳細な比較が図14に示されている。曲線は図11から決定される勾配に対応し、白丸および黒丸は測定点である。周波数移動を分散曲線に適用して、実際の構造で測定されたバンドギャップと一致するバンドギャップを算出した。他の適合または調整は何ら行われなかった。図14は、8つ厚みの単位セルである、勾配屈折率を持つSRR平板の偏向の測定された角度(黒丸)を示している。灰色の曲線は図11で示された曲線から取られたが、周波数を移動して、算出および測定されたバンドギャップ領域が重なるようにした。図14で示された優れた一致は、図12で示されたように、製造プロセスの精度を証明している。また、この効果の解釈は構造内でセルごとに制御可能に変化する屈折率に依存するため、単一の単位セルであっても明確な屈折率を有しているという重要証拠が、一致によって与えられる。
【0111】
図13および14は、本発明の設計された空間的分散構造の実用性を示している。この場合、直線勾配が導入された。直線勾配は、設計によって調節可能な角度でビームを均一に偏向する効果を有する。例えば、DSRR、分割円形共振器などを含んだ他のメタマテリアル構造が本発明で用いられてもよいが、SRR特性が安定しているためSRRシステムと連動していると便利である。特に、SRRの共振周波数は比較的識別が容易であり、単位セルのパラメータ(基板の切込み深さを含むがこれに限定されない)をわずかに修正することによって容易に調整することができ、SRRの周波数依存全体をおおまかにパラメータ化するために用いることができる。勾配を導入するための唯一の方法ではないが、勾配屈折率を持つSRR構造は、巨視的要素を組み合わせることによってさらに別の特有タイプのメタマテリアルを作製できる可能性を示している。
【0112】
本発明の勾配メタマテリアルの別の実施形態には勾配屈折率を持つレンズが含まれている。波動伝搬の方向と垂直な軸に沿って平板の屈折率を放物線状(直線状に対して)に分配すると、放射を偏向するよりむしろ放射を集光する構造となる。このような勾配屈折率を持つレンズの例には、光周波数で用いられる半径方向の勾配屈折率を持つロッドレンズや、マイクロ波周波数で用いられるルーネベルグレンズが含まれる。
【0113】
勾配屈折率を持つロッドレンズは、熱拡散によってイオンドープされた光学ガラス材料を用いる。この方法によって、屈折率の少量の変化(0.2未満)のみを生成することができ、かなり小さい径(1cm未満)のロッドに限定される。ルーネベルグ球面または半球面レンズは、n=1〜n=2までのかなり広範囲の屈折率を必要とし、特に大きさの限定はなく、段階的屈折率の素子として実現できる。両方の素子は、誘電率のみに勾配を有し、これにより周辺の媒体との限定されたインピーダンス整合を有する。勾配屈折率を持つメタマテリアルによって、光学系の開発に有用な代替方法を提供できる。負の屈折率を含むメタマテリアル内でこのとき識別された、拡大された範囲の材料応答では、人工的にパターン化された媒体から形成された従来の平面レンズから、大幅な柔軟性と改良された性能とが可能となるはずである。磁気透過率勾配を含む本発明の勾配屈折率のメタマテリアルを用いて、例えば、屈折率が空間的に変化するが、自由空間に整合したままである材料を開発できる。さらに、本発明の勾配屈折率を持つメタマテリアルは、THzを含む高周波数で実現可能であると考えられる。
【0114】
勾配屈折率を持つメタマテリアルは、多数の追加用途において有益であることが証明されている。本発明のメタマテリアルは例えば勾配屈折率を有するメタマテリアルから形成されたレンズを含む。勾配屈折率は、多種多様の集光効果を与えるよう構成されてもよい。平面を有し、複数の単位セルから形成される円形メタマテリアルは、例えば、中心領域では第1の屈折率を有し、半径方向外側に動く、徐々に減少する(または増加する)屈折率で構成することができる。この結果、ほぼ平面のメタマテリアルから多種多様な集光効果を得ることができる。円形以外にも非平面の周辺形状を含んだ他の形状も同様に用いることができる。また、勾配屈折率を有する複数のメタマテリアルが、光線を所望方向に向けるように、相互の積層構造で配置されてもよい。光線は、例えば、物体の「周り」を通過するよう方向付けられてもよく、それによって実質的に「目に見えなく」する。
D.負の屈折率を持つ複合メタマテリアルの製造および特性決定
本発明の別の態様は、複合メタマテリアルに関する。例示的な負の屈折率マテリアルには、負の屈折率が8.4〜9.2GHzの間である、厚さが2.7mmの複合パネルが含まれる。例示的な複合メタマテリアルは、従来の商業的な多層回路基板リソグラフィを用いて製造される。3次元の物理構造(電磁気構造に対して)が、バイアを用いることにより導入されて、回路板表面に垂直な方向に散乱要素の一部を形成する。散乱パラメータの測定から、複合体の複雑な誘電率、透過率、屈折率およびインピーダンスが明白に決定される。測定することによって、負の屈折率を有する帯域とそれに対応する損失を量的に決定することができる。抽出された材料パラメータが、シミュレーション結果と極めてよく一致していることが示されている。
【0115】
従来のメタマテリアルは、マイクロ波周波数で負の屈折率を実験的に示すように構成および使用されてきた。この材料は、負のμを与える二重スプリットリング共振器(SRR)のアレイを用いて、負のεを与えるワイヤアレイで散在させて作製した。負のεの領域がSRRに対応した負のμの領域と重なっているため、複合体は負の屈折率の周波数帯域を有する。この材料において、SRRとワイヤは、回路板基板の片側で光学リソグラフィによってパターン化された。SRR/ワイヤ構造は、製造するのが難しいことが判明している。例えば、SRR要素が、現在の負の屈折率を持つメタマテリアルの設計に複雑な層を加える製造に特別な困難性を課す。直線状のワイヤと異なり、SRR要素は、通常、強い磁気応答を与えるために波の伝搬方向にかなりの長さを要する。この制約に対応するため、以前のSRRベースの回路板設計は、平面のSRR回路板をストリップに区切るか、または平面回路板の複数のシートを用いて、入射波の方向が平面内にあり、SRR軸が入射波の伝搬方向と垂直にあるように配向される必要があった。
【0116】
本発明の1つの例示的なメタマテリアルは多層回路板技術を利用して、図15(a)および(b)によって示されるように、追加の組立ステップを何ら必要としないで、負の屈折率を持つメタマテリアル構造を製造する。本発明の例示的な設計は、従来のメタマテリアルが備える「ワイン木枠」組立ステップの必要性から離れ、大量生産に十分適している。1つの例示的な設計においては、負のμを達成するために、二重のSRRよりも単一のSRRが用いられる。従来のメタマテリアルの構造においては、入れ子になった二重SRRが、共振要素の容量を増加させる従来の手段として用いられたが、ここではバイアパッドの直径を介在層の高誘電率と組み合わせることによって、十分な容量を導入して、第2のリングの追加容量を必要としないようにできる。
【0117】
1つの例示的な複合メタマテリアルは、3つの積層誘電層50、52、54から組み立てられる。一番上の層50と一番下の層54はRogers4003の回路板の積層体(ε=3.38、tan d=0.003)から成り、間にGoreのSpeed Board(ε=2.56、tan d=0.004)のプリプレグ層52が介在している。例示的な層52は、厚みが0.0015インチのGoreのSpeedboard層である。したがって、構造の全厚み(層50、52、54)は約0.065インチである。さらに例示的な寸法が表Iで示されている。層は、例えば、GoreとRogers回路との間の界面で接着剤を用いて一体に結合して積層されている。
【0118】
【表1】
Rogers回路板50、54は両方とも、最初は、従来の光学リソグラフィを用いて要素がパターン化される両側に堆積された銅の薄い導電層(半オンス、すなわち12μmの厚み)を有する。ワイヤ要素が、図15(a)で示されるように、GoreのSpeedBoardと対向するRogers板の側面でストリップ56としてパターン化される。用いられる特定の二重ワイヤ形状は、構造が波の伝搬方向における反射対称性を維持するように選択された。他の形状も本発明内で有用であろう。対称構造は、以下に説明するように、散乱(S−)パラメータから材料パラメータを回復する際に好都合である。例えば、構造の中央に置かれた単一ワイヤによって、ほぼ同一結果が得られるであろうが、そのような配置は現在の多層設計では実用的ではない。
【0119】
公称上は矩形のSRR要素の2つの側面が、銅の薄い導電ストリップ58を用いてRogers回路板の外側面上にパターン化される。導体の残りの2つの垂直な側面または脚は、回路板の積層50、52、54を貫通して延びるバイア(めっきした貫通ホール)から形成されている。1つの側面60が、回路板の3つの層全てを連続して貫通して延びる貫通バイアによって形成される。SRRの最後の辺は2つのブラインドバイア62および64によって形成され、ブラインドバイアはそれぞれ中心の積層54の各側面で、円形プレート66で終端している。誘電体層54が、プレート66間でギャップを形成している。別の誘電体層68が積層体の最上面と最下面とを覆うよう設けられてもよい。小さい環状リングによってキャパシタギャップが導入される。図15(b)は、アレイ状に配置された図15(a)の個々のセルを多数含んだ、例示的な製造後の複合体のイメージである。図示された、パターン化された銅ストリップは、埋め込まれたリング共振器の一辺である。結果として得られたSRRの側面図が図15(c)で示されている。
【0120】
図15で示した構造に加え、多くの均等構造が本発明の実行内で可能であることが理解されよう。他の形状および構成も可能である。例えば、導体リング共振器は、層50の最上面と層52の最下面で形成することができ、導体リングに対する法線で最上面と最下面との間のバイア内にほぼ直線状の導体を備えている。あるいは、ほぼ直線状のバイアが、真ん中の層52上に配置されてもよい。追加の実施例によって、導体リング共振器は、真ん中の層の上に形成されてもよく、直線状の導体は層50と54の表面上に形成されてもよい。さらに、単一のリング共振器以外でなく、導体が用いられてもよい。
【0121】
多くの他の特定の実施形態が可能である。実際、当業者には明らかとおり、本発明の構成要素メタマテリアルの重要な利点のうちの1つが(一例が図15のそれとして)、商業的な回路板製造方法を用いて可能な製造の柔軟性に関係する。この柔軟性は、回路板誘電体を用いて効率よく達成可能な高範囲の各種導体および誘電体構造を可能にする。
【0122】
さらに、図15の実施形態は、単位セル間の誘電率または透過率の変更を実現する変更形態に向いている。このようにして、勾配屈折率を持つメタマテリアルを作製できる。いくつかのメタマテリアルの単位セルの寸法を変更し(図15で示されるような)、これらをメタマテリアルを形成する他の単位セルと組み合わせることによって、勾配屈折率を有するメタマテリアルを作製できる。図16は、誘電体を除去して寸法を変更し、誘電体のキャパシタを変更する、1つの適切な例示的実施形態を示している。エアギャップキャパシタを形成するために内部積層52に孔を設けることは、例えば、誘電損失を低減するのに有用である。エアギャップ空洞は、片側で内部に積層した後、CNCレーザアブレーションツール(Microline Cut350、LPKFなど)を用いて薄く剥ぐことで形成することもできる。
【0123】
さらに、図15の寸法決定のような、単位セルに寸法合わせすることにより、誘電率または透過率を変化させることができる。一例として、変更可能な1つの例示的な寸法は、プレート68のサイズである。変更可能な他の例示的な寸法には、プレート68と導体56との間の距離、導体56のサイズ、誘電体の量、層52の厚みなどが含まれる。なお、他の導体構造が用いられる場合、誘電率を変更するために他の寸法決定を実施することもできる。これら全ての寸法決定は、リソグラフィ、MEMまたは回路板製造方法を用いた商業的な製造方法に十分に適する。
【0124】
(HFSS)(Ansoft社)で得られた解を用いることによって、有限要素ベースのソフトウェアパッケージがマクスウェルの方程式を解き、Sパラメータが図15で示される単位セルの変化に対してシミュレートされ、材料パラメータが標準的な方法で得られる。この分析を通して、x帯域の周波数全体にわたりほぼ整合した負の屈折率を持つ帯域を与える適切な構造を見出した。その後、最適な構造体が製造された。サンプルについて散乱計測する前に、詳細な物理的測定を実行することで、数値シミュレーションとの最適な比較が得られた。種々の面でいくつか切断し、サンプルシートの1枚を生成した。得られた平面のそれぞれが、その後研磨され、顕微鏡を用いて撮影された。構造内の各重要な要素の寸法が、対応するデジタル画像の画素を数えることによって決定された。長さが0.1mmの硬さ試験ディボットを用いて校正を実行した。表Iに要約した物理的測定は、その後、以下で示される校正シミュレーションで用いられた。
【0125】
負の屈折率を持つ複合体の予測特性を確認するために、Sパラメータ(S11およびS21)の大きさと位相が測定された。実験は自由空間内で実行された。実験では、アジレント社の8510Bベクトル網アナライザーが用いて7〜13GHzの周波数範囲全体にわたってマイクロ波を掃引した。2つのマイクロ波ホーン(カリフォルニア州サンティーのRozendal Associates Inc.製)がソースおよび検出器として用いられた。ホーンに取り付けられたレンズアセンブリが約30.5cm(12インチ)の距離に焦点スポットを形成した。サンプルが焦点に置かれた。伝送実験のため、共焦点セットアップが用いられ、そこではソースと検出器のホーンがサンプルから1つの焦点距離に配置された。材料が何もないときの送信パワーが測定される「スルー」測定を用いて校正が行われた。反射測定のため、ホーンがサンプルの同じ側に移された。ホーン/レンズアセンブリの有限サイズのため、2つのホーンの位置が相互にずれて、パワーがサンプルに垂直な面から16°で入射した。アルミニウム板からの反射パワーを測定することによって、反射が校正された――この測定に対して完全反射器(180°の位相シフトを伴った)を仮定した。
【0126】
負の屈折率を持つ複合体の単一層に対するSパラメータの大きさと位相とが図17に表されている。図17は、負の屈折率を有する複合体の単一層に対するSパラメータ、すなわちS21(黒色の曲線)とS11(灰色の曲線)の位相とを示している。
【0127】
これまでの加工品の負の屈折率を実証する方法は、まずSRRのみのサンプルを通る送信パワーを測定して、μ<0の場合のストップ帯域の周波数範囲を識別し、その後ワイヤ構造のみを通って伝達するパワーを測定し、最後に、複合体構造を通って伝達するパワーを測定する。この測定は、位相データが利用できないとき、および負の屈折率の周波数が明確な通過帯域を形成するときに有利である。しかし、図17から明らかなように、明らかに負の屈折率を示す単一層の伝送パワー(図17(b))からは容易に識別できる特徴は存在しない。しかし、測定された位相データ(図17(a))のノイズレベルはかなり低く、これは完全なSパラメータ回復手順が安定した結果を提供することを意味する。
【0128】
メタマテリアルに対する材料パラメータを完全に回復すると、次に有限厚みを有する平板から伝達および反射した大きさと位相が測定される。連続した等方性材料に対して、透過および反射係数は、容易に反転できる解析形を有する。例えば、散乱方程式の反転によって、屈折率を決定することが可能な以下の形態が導かれる。
【0129】
【数29】
ここで、A1およびA2は損失がない場合にゼロになる実数値関数である。式(1)は、損失のないサンプルに対して、S21の位相と大きさのみから屈折率が決定されることを示している。さらに、おおまかに整合したサンプルについては、式(1)はS21の位相と屈折率との間の強い相関関係を示している。したがって、図17(一番上)で示された、S21の位相の凹部は、本発明の例示的なサンプルが8〜9GHzの間の周波数領域のどこかで負の屈折率を持つことを示している。しかし、本発明者らの測定から利用可能な構成部品の全てを有しているため、この近似値に頼る必要がなく、複素屈折率および以下の式で与えられる複素インピーダンスに関して正確な関数を回復することができる。
【0130】
【数30】
インピーダンス(z)および屈折率(n)を決定するための回復手順は、測定されたSパラメータデータおよびHFSSでシミュレートされたSパラメータの両方で実行された。nの回復は、通常、式(1)の逆余弦関数による多重分岐によって複雑になるが、分岐は、高度な回復アルゴリズムを必要としない、測定された薄いサンプル(厚さが1つの単位セル)に対して十分に分離される。しかし、nおよびzは符号が曖昧であり、これは、Re(z)>0、lm(n)>0、Im(n)>0の条件を課すことによって、除去することが可能である――因果的材料に必要な要件。データに関して他に操作を実行する必要はない。ただし、平滑な31点を測定されたSパラメータデータに適用して、セットアップに本来備わる電圧定在波比(VSWR)共振の衝撃を低減する。式(1)および(2)は、キラリティーまたは双異方性によってどのような可能な効果も無視していることに留意されたい。本発明の負の屈折率を持つ複合体は、磁気誘電結合を除去するかまたは少なくとも最小限にするために設計されており、したがって、これらの簡単な方程式は回復手順にほぼ有効であろう。
【0131】
回復されたzおよびnが図18(上)および図18(下)にそれぞれ示されている。図18(上)は、構造の1単位セルに対して、シミュレーションデータ(点線曲線)および測定されたSパラメータ(実線曲線)から回復したインピーダンス(z)を示している。図18(下)は、シミュレーションデータ(点線曲線)および測定されたSパラメータ(実線曲線)から回復した屈折率(n)を示している。黒色の曲線は実数部であり、灰色の曲線は虚数部である。
【0132】
負の屈折率の周波数帯域が、8.4〜9.2GHzの間の測定サンプルで生じる。負の屈折率の領域でシミュレートされたデータと測定されたデータとが、定量的にも定性的にも良好に一致する。4つの一連の曲線間に存在する不一致が、材料パラメータをわずかに変化させることによって、例えば、銅要素に用いられる導電性を調整することによって、さらに最小限にすることができる。不一致のうちのいくつかは、S11測定で用いられる非垂線入射により発生すると思われる。
【0133】
誘電率(ε)および透過率(μ)は、ε=n/zおよびμ=nzに従って、nおよびzと簡単に関係付けられる。図18で描かれたnおよびzの値から得られた、εおよびμに依存した回復された周波数が図19に示されている。
【0134】
図19(上)は、構造の1単位セルに対するシミュレーションデータ(点線曲線)および測定データ(実線曲線)から回復した誘電率(ε)を示している。図19(下)は、シミュレーションデータ(点線曲線)および測定データ(実線曲線)から回復した透過率(μ)を示している。黒色の曲線は実数部であり、灰色の曲線は虚数部である。
【0135】
εの実数部はゼロを表し、それ以下は負になる。また、複合体のμは、SRRの応答性に主に起因する特徴的な共振形態を表し、μの実数部が負の領域を有している。εとμの実数部が両方とも負である周波数帯域は、図18(b)で見られる負の屈折率を持つ帯域と一致する。
【0136】
要約すると、本発明の1つの例示的な態様は、屈折率が負の周波数帯域を有する複合メタマテリアルに関する。例示的な構造は、切断および別の組立ステップの必要がない従来の多層回路基板技術を用いて完全に組み立てることができるため、例えば、製造の点で多数の利点および利益を有している。例示的な構造は、測定された構造と優れた一致を示す数的シミュレーションに適用できる。
【0137】
完全なSパラメータ回復によって、例示的なサンプルの材料パラメータに関する完全な情報が直接的な方法で与えられる。スネルの法則による測定など直接的でない方法は、重要な補足情報を与えることができるが、Sパラメータ測定および回復は、半自動メタマテリアルの特徴決定手順の基礎を形成できる。
E.本発明の追加のメタマテリアルの実施形態
メタマテリアルは、表面プラズモン光学系の関係分野、負の屈折率を持つメタマテリアルの関係分野、および他の関係分野で深く興味を持たれている。しかし、負の屈折率を持つメタマテリアルでは、負の応答性は、メタマテリアルに固有の限界と関連している。共振周波数近くの周波数領域は吸収性を高め、そこではεまたはμのいずれかの虚数部(どちらが共振であるかによって)が相対的に大きくなる。この挙動によって、両方が共振挙動と一致し、また共振挙動に固有であり、最終的に、負屈折率の材料に重要な制限を与える。受動的な負屈折率の材料については、
1.負屈折率の材料の応答性は材料共振と対応している。
2.負屈折率の材料は周波数について分散的である。
3.負屈折率の材料は有限の帯域幅を有している。
4.負屈折率の材料は、概して、より大きな損失を示す。
受動的な材料に対して、ドルーデ・ローレンツ形態を導く因果関係が上記の説明を表していることが強調されなければならない。負屈折率の材料の物理特性を追求し、負屈折率の材料を用いて競合用途を開発するために、本発明は、これらの基本的な制約のうちの1つまたは複数を最小限にする工学材料を含んでいる。
【0138】
これらの限定事項を理解する別の方法は、貯蔵されたエネルギー密度に関する。材料内の場のエネルギー密度に対するよく知られた式は、以下である。
【0139】
【数31】
この式は、ポインティングベクトルを時間平均することによって得られ、εおよびμが時間において非局所的となるため、分散材料が存在すると有効でなくなる。材料内に振動荷電に関連する慣性があるため、周波数領域において容易に従う大きな正または負の材料応答が犠牲となる。時間領域においては、定常状態(単色の)解が得られるまで大きな遅れがある。負屈折率の材料に対応した物理的特性の多くは、周波数領域で見つかる解に依存するため、これらの動力学は、定常状態の解がどのように実現可能であるかを決定するのに非常に重要である。
【0140】
ドルーデ・ローレンツ媒体の詳細を考慮すると、分散媒体のエネルギー密度に対するより一般的な式が以下で見出せる。
【0141】
【数32】
この式は、減衰が比較的小さい場合に有効である。この式は、εまたはμが所定周波数で負であり、正のエネルギー密度が維持されるように周波数分散型でなければならないことが示されている。
【0142】
εまたはμのいずれかが負である材料は公知である。自然発生する材料においては、ドルーデ・ローレンツ形態を引き起こす共振が、広く制限された周波数領域内で生じる。例えば、電気共振は、高いTHz周波数以上で生じる傾向があり、フォノンモード、導電電子のプラズマ状振動、または他の基本的プロセスから生じる。磁気共振は一般に、このようなプロセスを強磁性または反強磁性共振のようなプロセスに関連する、固有の磁性材料で生じる。これらの共振は、高いGHz周波数では消滅する傾向があり、THz周波数のいくつかの特殊な専門のシステムを除いた全てにおいて存在しなくなる。
【0143】
メタマテリアルは、等価な既存材料がない場合に、電気または磁気共振のいずれかを有するように設計することができる。電気共振および磁気共振は、メタマテリアル構造では、最大THz周波数までどのような周波数にも適合することができる。特に、電気および磁気構造を組み合わせることによって、周波数帯域がεおよびμが同時に負である材料を得ることができる。このような材料について、積εμの平方根を取ることによって決定される屈折率は実数であって、これは材料が放射線に対して透過的であることを示している。しかし、εおよびμが両方とも負であるときは、平方根の符号の正しい選択は負であることが示されてきた。したがって、εおよびμが両方とも負である材料は、負の屈折率を持つ材料(NIM)としても特徴付けることができる。
【0144】
NIMは興味深い。なぜなら、他にも理由はあるが、NIMはマクスウェルの方程式で以前利用できなかった解を可能にするからである。したがって、NIMはメタマテリアルの実用性の顕著な例を表している。しかし、顕著な物理現象がNIMに予測されてきたが、負屈折率の材料に根本的な限界があることに留意しなければならない。例えば、ε=μ=−1の面は反射できないことが示されてきた。しかし、この記述は、定常状態という条件に限定される。自由空間からの波面がこのような面に衝突する場合、定常状態の解に達するまで過渡現象に関連した反射が生じる。
【0145】
過去数年間にわたる努力によって、負の屈折率を持つメタマテリアルが設計、製造および特徴決定できることが証明されてきた。定常状態の実験における負の屈折が実証されてきた。初期の加工物の集積は、負の屈折率を確固とした土台に置いてきた。本発明者らは、今や、これらの新しい材料を有用にする材料と方法とを先に進め、さらに開発することができる位置にいる。本発明の例示的な実施形態は、新規で有用なメタマテリアルに関する。いくつかの実施形態は、負の屈折率を持つメタマテリアルに関するが、同様に、正の屈折率を持つメタマテリアルの形での実用性を見出すこともできる。
E(1)二重偏光NIMの開発
今までのところ、任意の入射偏光を有する波に対して負の屈折率を有する材料は何ら実証されてきていない。本発明は、図20で示された例示的な実施形態において、このようなメタマテリアルを含む。このような例示的な構造を作製するには、第1の電気偏光方向と垂直に配向した追加の磁気ループおよび第2の電気偏光方向で整列した追加のワイヤ要素とを含んだ単位セルが必要とされる。
【0146】
図20で示された例示的なメタマテリアルは、4つの層(Cu)PCB製造技術を用いた二重偏光NIM設計である。交差した十字模様の矩形状の導体はSRRであって、各偏光に対して2つのキャパシタギャップがある。負の誘電率が、2Dの等方性挙動を与える直交する直線ワイヤによって与えられる。45度回転することによって、要素間の結合が最小限となり、平行層が近づくことによって、双異方性など複雑な状態を導入せずに、キャパシタプレートを形成するCuからできた同一層を使用することができる。
【0147】
図20に示される例示的な設計は、入射する電磁波の両偏光に対して負の屈折率を示す。この設計は、セルの設計に追加要素を含むが、製造には何ら追加的な試みを導入しない。
E(2)構成要素ベースのNIM構造
NIMに関連した磁気応答を達成するために、下にある単位セルは、入射EM波の磁場成分と結合する共振回路要素を含む。典型的な従来技術においては、二重スプリットリング共振気(DSRR)が磁気応答するために採用されてきたが、適切に設計された単一のリング共振器が同等の磁気応答を達成でき、製造の観点から容易である。
【0148】
本発明は、小型パッケージされた電子部品を単位セルに埋め込むことによってマイクロ波周波数の範囲内で存在するNIMの機能を拡張する。このステップは、必要に応じて交換、更新または変更できる単一モジュラーパッケージ内に電気的性能の重要な要素を集結させることによって、設計の柔軟性を上げることができる。基本的なSRRには、図21(a)で示す、簡単な等価回路がある。これは、共振周波数がω0=1/(LsCs)1/2で与えられる基本的なLC共振回路である。この回路の電流は、回路を通る磁束を変化させる時間に起因する誘導電磁気力によって駆動される。一連の抵抗Rsは単位セルの製造で用いられる金属の抵抗から生じる。表皮厚さが薄いため、Rsは表面状態に強く依存する。
【0149】
形状によってSRR回路にキャパシタンスを設定するのではなく低周波数構造を含む(これに限定されない)構造について、(標準的な)パッケージされたキャパシタが代用可能であることが見出された。したがって、SRRの共振周波数は、選択されたキャパシタの値によって設定できる。しかし、パッケージされたキャパシタまたは他の構成部品を用いることは、示された簡略回路の制限を変更する。他の要因、すなわち、キャパシタ誘電体材料、または追加的な寄生インダクタンスまたはキャパシタ自体の抵抗など、高電界領域における損失正接が原因の誘電体損失が重要となる。これらの追加効果はこのような要素のモデル化に含まれなければならず、これは、図21(b)で示されるように回路を変化させる。寄生要素のために、パッケージされたキャパシタの完全なインピーダンスは
【0150】
【数33】
の形態を有する。
【0151】
インピーダンスの共振形態は、パッケージされたキャパシタ自体が共振周波数を有することを示している。寄生インダクタンスによるこの自己共振は、パッケージされた構成部品が利用可能な周波数範囲を制限することができる。さらに、キャパシタンスのリアクタンスおよび寄生インダクタンスのリアクタンスは、共振周波数の単一測定によって分離できない。代わりに、誘導寄与率が中心となるにつれて高い周波数挙動が相対的寄与率を決定するのに必要とされる。さらに、共振電流はこれらの相対的寄与率に依存し、損失は電流に強く依存するため、これはNIMの性能に重要となる。
【0152】
図22は、市販の構成部品を埋め込む概念を概略的に示している。単一層キャパシタ(ここで0201SMTパッケージにおけるVishay社のHPC0201aシリーズのRFシリコンキャパシタであることが提案される)が、必要な容量を与えるために用いられている。図示するように、1つのリングにつき2つのキャパシタが用いられ、全キャパシタンスが通常の直列総和則によって得られる。
【0153】
使用されるキャパシタの選択は、いくつかの考慮事項に依存する。損失正接δによって表される誘電損失が重要である。最も低い誘電損失は、このような構造を生成することは通常難しいが、空隙誘電体によって示され、自由空間の相対的に低い誘電定数によって、高キャパシタンスを達成することが難しくなる。
【0154】
最も標準的なキャパシタ構造の寄生インダクタンスが自己共振周波数を低下させ、本出願では、これら種類のキャパシタを無能にする。これは、多くの埋込型キャパシタの方法(特殊な方法および材料を用いる回路基板の積層の間においてキャパシタが形成される達成される)に伴う問題でもある。誘電体材料の寸法制御および制約は、通常、損失および未制御のインダクタンスが困難性の一因となって高速キャパシタの性能を低下させる。
【0155】
幸いなことに、単一層キャパシタ(SLC)の最近の開発によって、魅力的な代替物が提供されている。これらは、寸法を高度に制御し、特にキャパシタ用途に最新の誘電体材料の設計を用いて、リソグラフィで製造される。簡単な構造のため極めて低い寄生インダクタンスを可能にし、これらのキャパシタは、今や、10GHzをはるかに上回る定格自己共振周波数で商業的に利用可能である。
【0156】
既存の数値シミュレーション技術は、複雑で寸法が小さいために、このような構造の挙動を容易に特徴決定し、予測することができない。さらに、キャパシタは、通常、キャパシタのDC値によって特徴付けられ、その高周波特性によって特徴付けられているのではない。本発明は、例示的な構造を解析するハイブリッド方法を含み、複素インピーダンスの点における構成部品の別の従来の電気工学的特徴を、完全な自由空間のSパラメータの点において負の屈折率を持つ材料の確立された全波解と組み合わせる。HFSSまたはSLCなどのMWSで簡単な構造を注意深くモデル化し、誘導/容量リアクタンスの予測頻度の依存度を検証することによって、本発明者らは、活性要素を備えた構造を効率よく設計することができるルールを確立する。このハイブリッドモデル化は活性要素の使用と結合し、その場合、寄生要素の影響が非線形要素に加えて考慮されるべきである。
E(3)3−DNIMに基づいた回路基板
本発明の追加の態様は、メタマテリアルを基にした回路基板に関する。例示的な実施形態は、一体に取り付けできる複数の個々の回路基板部分からできたモジュールメタマテリアルを含む。各回路基板部分には、複数の単位セルが含まれ、各単位セルは、散在した導体アレイを支持する誘電体基板のほぼ平坦な回路基板を備えている。セルは中央にギャップを含んでもよい。平坦な回路基板は、相互に垂直に3次元で配置され、組み立てられると3次元アレイを形成する。
【0157】
図23は、機械加工された回路基板技術を利用した本発明の例示的なNIMの3次元の概略図である。図23(a)は、複数の同一セルを含む誘電体ベースボード100を示している。各セルは、略正方形の中心通路104周りに配置された対向する導体ペア102を有している。対向する導体102は、図示するようにほぼU字形の銅ストリップであってもよい。同じく銅で形成される第2の導体アレイ106がベースボード100上で支持され、一般的な格子構成を有する。ベースボード100は、さらに雌型のコネクタソケット108を含む。導体102および106はそれぞれ、銅ストリップまたは、誘電体基板100の上に積層さもなければ配置された他の導電性の材料であってもよい。導体102および106は、好ましくは、基板100の対向する両側にある。
【0158】
図23(b)は、複数の同一セルを含む単一誘電体ストリップ基板120を示している。各セルは対向する導体122を有し、導体は、ほぼ正方形の通路124を取り囲むU字形の銅ストリップであってもよい。同様に銅ストリップの第2の導体126が各単位セル間にあり、上に延びて、雌型ソケット108と嵌合するように構成された雄型のコネクタピン128を形成している。スロット130が、同様に、各単位セル間に形成されている。図示するように、スロット130は、導体126がスロット130の対向する辺に並んだ状態で、導体126によって少なくとも部分的に形成されていることが好ましい。導体122および126のそれぞれは、誘電体基板120上に積層、さもなければ配置された銅ストリップまたは他の導電性材料であってもよい。導体122および126は、基板120の対向する両方の辺上にあることが好ましい。
【0159】
複数のストリップ基板120が一体に嵌合して、図23(c)に示すように、3次元の格子状アレイを形成する。各ストリップ基板120は、1つの上下逆のストリップ基板120が、それと垂直に配置されて、第2のストリップ基板と係合する場合に、スロット130と相互に作用して他のストリップ基板と嵌合する。図23(c)のFITの格子状アレイは、その後、雄型ピン128が雌型ソケット108と係合することによって基板100と係合してもよい。図23(d)の構造が得られる。複数のこれらを相互に積層することによって、図23(d)に示されるように、3次元メタマテリアルを構成できる。
【0160】
アレイ106および126は、ピン128がソケット128と係合することによって互いに導電連通している。さらに、アレイ126は、スロット130の一体的係合によって、別のストリップ基板120上でアレイ126と連通している。構造体を通る要素間の電気接続が、リフロー半田付け法によって形成される。
【0161】
図23の回路基板構造を一例とする、本発明の例示的なモジュール回路基板構造によって、例えば、製造の容易性および製造コストに関する利益や利点を含む、多数の利益および利点が得られることが理解されるであろう。図23の例示的なモジュールメタマテリアルは単に一例であって、本発明のメタマテリアルを基にしたモジュール回路基板の多くの追加の実施形態が可能であることが同様に理解されるであろう。これらの実施形態の多くは、回路基板を相互に機械的に接続し、少なくとも1つの連続した導電体格子で電気的に接続するためのコネクタを有するほぼ平坦な回路基板から製造できるという共通点を有している。
E(4)電流電圧比を最適化することによるNIM単位セルの損失制御
導体(通常は銅)に伴う導電損失と、電界を受ける何らかの誘電体材料の損失正接との両方によってNIM内に損失が生じる。先に示したリング共振器の簡単な図において、LC回路の共振電流は、以下の式になる。
【0162】
【数34】
本発明の一態様は、共振周波数をLCの積によって設定することと、インダクタンス/キャパシタンスの組み合わせを選択する際に自由度が存在することとを認識することで、NIM損失を制御する方法および構造に関する。この選択によって、誘電体または抵抗損経路の相対的な寄与を変更できる。インダクタンスは、単に、SRRによって形成されるループの大きさに寄与するだけでなく、その回路(例えば、ワイヤの自己インダクタンス)を形成するのに用いられるワイヤの寸法と形状、他のパッケージされたまたはパッケージされていない構成部品が用いられる場合はそれらの寄生インダクタンスによって設定されることを認識することが重要である。
【0163】
インダクタンス/キャパシタンスの比率を変えることによって、誘導電流(抵抗損を導く)の誘導電圧(誘電損失を導く)に対する相対的な大きさを変えることで損失が最小限になる。つまり、電界(CV2/2)と磁界(LI2/2)とに蓄えられたエネルギー間で通常、振動する共振回路は、L/C比を変えることによってV/I比を変えることができる。これには実際的な限界がある。つまり、伝搬するEMモードと結びつけなければならないSRRによって設定された最小のインダクタンスおよびキャパシタンスがある。いずれかの損失機構が低減すると、より低い純損失という利益を達成することができる。空気を含む、低損失の誘電体を用いることは、損失を低減する1つの手段である。例えば図15(c)で示されているように、構造物に用いられる積層材料に伴う損失を低減するためにギャップが用いられる場合、先に論じた回路基板のNIM構造の変更がある。
E(6)THz周波数に有用なメタマテリアル
従来技術においてマイクロ波周波数で利用可能なメタマテリアルには、二重スプリットリング共振器(DSRR)が含まれ、4つのDSRRが図24(a)で概略的に示されている。4つが図24(b)に概略的に示されているが、単一スプリットリング共振器(SRR)はさらに有用な共振器である。別の共振器の構成は、図24(c)で示されたTHzを含む高周波で使用可能であると考えられている。図23(a)および(b)のDSRRとSRRは、他の構造に加え、同様に、THzを含む高周波で有用であると考えられている。さらに別のリング共振器(C字型リング共振器)が図23(d)に示されている。二重のC字形リング共振器も可能である。図23の共振器の全ては、本発明の例示的なメタマテリアルの実施形態において用いることができる。共振器はまた、例えば直線格子のワイヤ導体など、追加の導体と組み合わされてもよい。
【0164】
図24において、Gは内側リングと外側リングとの間のギャップであり、Wは金属線の幅であり、Lは外側リングの長さであり、Sは隣接するセル間の分離であり、Tはリングのスプリットである。ここで、図24(c)のL字形共振器(LSRR)を参照すると、個々の単位セルはそれぞれ、図示するように「重なった正方形」構造で配置された4つのL字形導体200を含む。各L字形導体200の1本の脚は、別のL字形導体200の1本の脚と隣接していて、ほぼ同一の広がりを持ち、平行である。各導体200間にはギャップが形成されている。導体200は、導体200の重なった領域からキャパシタンスを形成する。理論的な予備実験研究によると、LSRは、同一サイズの単一セルに対してDSRR構造の共振周波数よりも高い共振周波数を有することが示されている。この設計によって、要求される限界寸法をより大きくすることができるため、同じく設計された周波数に対して製造を容易にすることができる。
【0165】
本発明のメタマテリアルには、THzメタマテリアルを達成するために、誘電体基板上で支持された追加構造と組み合わさった図24の構造が含まれている。一実施例は、薄いワイヤ構造――周期格子のワイヤ――であって、この構造は格子パラメータによって設定されるカットオフ周波数を下回る負の誘電率を有することが知られている。ワイヤ構造をSRR構造と組み合わせることは、NIMを達成するための低周波数で利用可能な方法であった。THzのNIM構造は、ミクロンスケールの解像度を備えたやや入り組んだ構造を製造する必要がある。この製造について、本発明は、微小電気機械素子(MEMS)に基づいた特有の方法を提供する。
【0166】
本発明の例示的な方法は、第1の誘電体基板上に犠牲層を形成するステップと、犠牲層の中にモールドを形成するステップと、モールド内に導体を入れて、SRR、DSR、LRRなどの導体リングを形成するステップとを含んでいる。その後、犠牲層は除去され、それによって導体リングが上記の誘電体基板の表面上で支持される。第2の誘電体層が、第1の誘電体基板の表面を覆い、導体リングを覆うように形成される。第2の犠牲層が第2の誘電体層の上に形成され、第2のモールドが第2の犠牲層内に形成される。第2の導体が第2のモールド内に置かれ、第2の犠牲層が除去され、第2の導体が第2の誘電体層の上で導体リングを覆って支持される。
【0167】
複数の導体共振リングをこの方法で形成でき、またはこれらのステップを単一の単位セルを形成するのに用いることもでき、その後複数のセルが一体に結合される。したがって、第1および第2の誘電体層、導体リングおよび第2の導体が、周波数帯域全体にわたり負の誘電率と透過率を同時に有する負の屈折率を持つ媒体を形成する。当業者であれば、これらのステップが、多種多様な誘電体、導体、犠牲層、寸法などで実現できることを理解するであろう。いくつかの実施形態において、極端に小さいスケールがマイクロチップを形成するのに用いられる。
【0168】
詳細な説明のために、本発明の例示的な方法が図25に描かれている。まず、負のフォトレジスト層(PR)250が、誘電体基板252(例えば透明な石英であってもよい)上に広がり、次に、図25(a)の断面図で示されるように、接触モードリソグラフィ法によって設計されたSRRパターンをモールド253として移動させる。例示的なモールドパターン253はSRRを形成するが、例えばDRR、LRRおよびC字形を含む他のパターンも同様に形成されてもよい。第1のリソグラフィステップの後、図25(b)に示されるように、100nmのクロムと1μm厚の銅の導体層254とが積層されて、モールドの内側を充填し、層250を覆う。次に、図25(c)に示されるように、両面が研磨された石英基板上にパターン化されたSRR層を移動するために、リフトオフプロセスが採用される。図25(d)は、このように形成されたDRRを詳細に表すために、この位置での構造の上面図を示している。
【0169】
次に、図25(e)に示されるように、スピンオンガラス層256を塗布することによって形態が平坦化される。PR258の別の層が層256上に形成され、第2のリソグラフィプロセスが実行されて、図25(f)に示されるプラズモンワイヤのモールド257が形成され、銅などの導体層260が、図25(g)で示されるように、積層される。例示的な厚みは1μmである。第2の金属蒸着およびリフトオフステップの後、スピンオンガラス層256で絶縁されたSRR構造の上部のモールド257に形成されたほぼ直線状の金属細線262が、図25(h)に示されるように生成される。上面図が図25(i)に示されている。
【0170】
これらの例示的なステップを繰り返すことによって、一連の反復SRRと細線が作製される。あるいは、これらのステップを利用して、図25に図示するように、アレイ内に配置された複数の単位セルを同時に形成できる。したがって、図25に示したような、複数または多数の個々のセルを備えたメタマテリアルを製造できる。本発明のこのおよび他のMEMS製造方法によって、これら2つの微細構造構築ブロックを統合する効果的な方法を提供し、高周波数NIMを形成することができる。
E(5)NIMによる空間フィルタリング
本発明の受動NIMの1つの例示的な用途は、空間フィルタリングであって、空間フィルタリングでは入射界分布が平坦材料に変化を受ける。空間フィルタリングの概念が図26で示され、図26(a)に従来の空間フィルタリングが示され、図26(b)に本発明のNIMを用いた空間フィルタリングが示されている。図26(b)に示されたNIM素子は、異方性NIMの補償二重層から形成されている。1つまたは複数のタイプの異方性NIMを含む複合体が、従来の多要素システムと同じ空間フィルタリング機能をコンパクトに実行できる。薄い平坦な(受動)NIM平板が1つまたは複数の入射角に対して選択される。このような材料は、ラドームなどの構造に適切に一体化されて、例えばRF通信の検知を低減することに用途を見出すことができる。
【0171】
図27は、帯域フィルタに入射するガウスビームの反射と伝搬とを概略的に示している。ビーム幅は10□で、入射角は9°(四角)、34°(星印)、69°(円形)である。図27に示された機能を達成するために、本発明の異方性NIMの4つの異なった平面層が一体に組み合わせられる。この用途は、平坦なNIM構造の製造全体にわたる大掛かりな制御を必要とし、したがってNIM素子を効率よく製造するために、本発明の方法の利点が用いられる。
E(7)活性構成要素によるメタマテリアルの動的調整
本発明の追加の態様は、NIMを含むメタマテリアルにおける活性構成要素の使用に関する。本発明の例示的なNIMには、NIMの応答パラメータのうちのいくつかの外部制御を達成するために、埋め込まれた能動および非線形素子が含まれる。例えば、SRR/連続ワイヤを基にしたNIMの電界または磁界要素のいずれかに利得素子を埋め込むことによって、有効指標の能動制御が達成される。これは、不連続な活性構成要素を含まない線形応答のNIMよりも複雑な構造体である。
【0172】
活性構成要素の埋め込みは、電界および磁界分布を過度に乱さずになされ、活性構成要素の利得および位相シフトの制御を維持する方法でなされるべきである。関連した負の屈折率を持つ周波数帯域でNIMの電磁特性を妨げずに、活性要素にパワーと接地接触を与える必要があるため、別の複雑な状態が表されている。本発明の例示的なNIMにおいて、パワーリード線を分散させることによって関連したパワーおよび接地リード線が追加され、負の屈折率帯域で高い(非透過)インピーダンスを生じるスタブを調整して設計され、さらに低(パワー)周波数で低インピーダンスを維持する。非線形および利得素子は、NIM材料の連続ワイヤとSRR構造物の両方と統合される。バラクタダイオードが、PINダイオードのように、磁気的に活性のSRRのキャパシタンスギャップ領域に置かれてもよい。HEMTトランジスタを使用して、それらをLHMのワイヤ部分に埋め込むことによって電界信号を増幅するか、あるいは、それらをSRR要素のリング内に埋め込むことによって磁界成分を増幅することができる。
【0173】
有用であると考えられる例示的な活性構成要素は、アジレント社のATF50000およびATF30000シリーズで、典型的には1〜6GHzで15〜35dBの利得を有し、いくぶん利得は少なくなるが最大18GHzまで動作可能である、仮像HEMTトランジスタを含む。同じ製造業者からの高周波PINダイオードは、ビーム操縦および波相転移に対して二端子実装を可能にする。MicroSemi社からのバラクタダイオード(MTV2100およびGC1500A)が、SRR/ワイヤ実装のキャパシタンス部分の調整を可能にするために採用される。複数の活性構成要素が埋め込まれてもよい。一実施例では、リング導体ギャップに埋め込まれた1つの活性構成要素と、直線状のワイヤ導体格子に埋め込まれた第2の活性構成要素とが含まれる。
【0174】
X帯域のマイクロ波の範囲内で動作する1つの例示的な活性NIMの概略的な図が図28に示されている。pFキャパシタンスを備えた4:1の調整範囲を有する電圧バイアス可変キャパシタンスである、Microsemi社のバラクタが右側に示されている。パッケージは工業規格0402の大きさで、高容積の組み立てに対して、市販のピック・アンド・プレース機械で適切に加工される。左側には、活性NIMアセンブリが示されている。電気誘電率に用いられる銅ワイヤの層が、スプリットリング組立面の下に(明確にするため支持されずに)示されている。1つのリングにつき2つのギャップを有した3×4のスプリットリングアレイが回路基板上に示されている。バラクタが各ギャップに跨り、動的に調節可能なキャパシタンスを与える。バラクタは、最大20Vの電圧を印加することによって調整される。このバイアス電圧は、図28に示すラインによって供給される。本質的には電流(充電する最初のキャパシタンスを超えて)は流れないため、バイアスを供給するのに極めて低い導電ラインを使用できる。高抵抗ラインは、制御ラインによって隣接セルがショートするのを防ぐ。RFに対して高インピーダンスを示すが、制御信号に対しては低インピーダンスを示す大きな誘電性ラインを用いることもできるが、製造における課題を提示する。ポリマーベースの導体または顆粒の黒鉛材料を含む、多数の低導電性材料を用いることができる。バイアスラインがVbとグラウンドに交互にバイアスをかけること、および交互の列のバラクタの物理的配向が、セルにバイアスをかける簡単な手段を収容するために逆向きにされることに留意されたい。
E(7)能動回路により損失低減されたメタマテリアル
抵抗回路網において抵抗損失の平衡を取るために能動回路が適用可能である。この潜在的に重要な技術は、全周波数範囲にわたり、特に光学的ポンプ材料が容易に得られる場合において価値がある。しかし、低周波数では、既成の増幅器と等価な構成部品とを用いて、技術を研究して開発することにより、制御損失の基本概念を探求できる。
【0175】
負性インピーダンス変換器(NIC)が当技術分野で知られている。簡単な概略図が図29に示されている。基本的に、NICは線形増幅器を用いて作動し、印加電圧に応じて逆電流を駆動する。したがって、回路抵抗を通って流れる電流(したがってI2Rによるパワーを失う)が、回路に戻るパワーを供給することにより(増幅器の電源から取り出される)補償される。このような回路は、システムが増幅器の線形領域内で作動する限り、抵抗損失を補償することができる。NICは当該周波数で作動しなければならない。NIMにおける損失を補償するためにNICを用いることは理論的には提案されてきた。高周波数増幅器と構成部品の利用によって、より短い波長に対する技術の有用性を拡大するであろう。
【0176】
純位相応答が回路内に存在する場合、その位相応答は残りの材料の位相応答に加わり、この位相応答を利用して材料の負の屈折率特性をさらに制御できる。このような回路は、基本構成要素を操作する必要がある周波数、例えば低いGHz範囲で、操作する制約がある可能性がある。構成要素のサイズもまた、それらの使用をより長い波長に制限する可能性がある。
E(8)非線形メタマテリアル
それ自体が周波数分散性を有するメタマテリアル構造に非線形性を組み合わせることによって、潜在的に有用な種類の挙動を導くことができる。例えば、局所的な電界が共振メタマテリアル要素の容量性領域で著しく増加するため、このような構造に意図的に配置される非線形材料の特性を大幅に向上することができる。カーの非線形性(すなわち屈折率が、形態n=n1+n2E2を有する)を有する材料がSRRアレイに埋め込まれる場合、光双安定性の形態が生じることが示されてきた。
【0177】
光周波数に利用可能な多種多様な非線形材料(例えば、BaxSr1−xTiO3)があるが、1つの例示的な目標周波数範囲において、ダイオードまたは同様の固体要素を利用して所望の非線形応答を達成することが有利である。本発明の一態様は、類似のカー非線形性をSRR媒体に導入するために埋め込まれたダイオード回路を利用する非線形NIMに関する。複合材料は、入射場の強度に基づいて正から負に切り換え可能な屈折率を示す。ダイオードなどの活性構成要素を用いるには注意深くバイアスをかけて平衡を取る必要があるため、入射強度に関する作動範囲は狭く規定されていると考えられている。図30は、共振の品質要因の2つの値に対する、無次元の非線形共振周波数対電界強度を示している。曲線は、(強度依存の)共振周波数における双安定挙動の可能性を示している。
【0178】
NIMの狭い帯域幅は線形周波数領域の用途を制限するが、NIMの特有の特性を利用する別の方法は、波の伝搬現象とNIMの分散特性を利用する用途とを探索することである。例えば、電磁パルスは周波数帯域成分を含んでいるため、パルス形状は一般に、分散媒体を通して透過することによって変化する。NIMと相互作用するパルスは、負の屈折率を持つ帯域内にある各周波数成分に対して負の位相シフトを受ける。線形の正屈折率を有する媒体に対して負屈折率を有する媒体内を全体に伝搬するパルス間に特定の差はないが、本発明の例示的なNIMを含む、波動伝搬に大きな影響を与えるNIM構造がある。
【0179】
実施例には、分散型の正屈折率の材料と負屈折率の材料との組み合わせから形成される構造が含まれている。構造の別の種類は、非線形性を備えたNIMである。多種多様な用途が、種々のタイプの非線形性を表すNIMについて示唆されてきた。前の実施例のように、低周波数では、適切にバイアスをかけられたダイオードなどの非線形素子を、負の屈折率を有するメタマテリアルを作製するのに利用できる。負の屈折率を持つメタマテリアルは、入射電磁界に対して非線形の応答を示す。
E(8)活性高周波NIM
NIMに能動制御および非線形要素を埋め込むための2つの好ましいルートがある。上述のように、離散電気構成部品の、回路基板ベースのNIM構造との統合およびNIM構造のカスタムメイドの半導体材料との統合である。後者は活性要素を含んでいる。離散型構成部品を用いた前者の方法は、実行し、設計方法を試験するのがより簡単であるが、20GHz以下の周波数に限定される。後者の方法は、カスタムメイドの活性要素がLHM構造と同じ半導体基板上にリソグラフィでパターン化された状態で、活性要素に対して、最終的には、かなり高い中心動作周波数を可能にする。これは100〜200GHzおよびそれ以上に近づき得るが、開発作業において大幅な高コストと長い準備期間を生じさせる。
【0180】
あるいは、ディスクリートであるがパッケージされていない構成部品の使用に関して、100μmオーダーのチップダイサイズを2つを組み合わせる方法によって、十分に高度な回路基板のような技術で、かなり高い周波数での操作を可能にして、MEMS技術を用いてパターン化されたおそらくは半導体(例えばSiおよびポリSi)基板を用いて、高度に研磨された硬い半導体によって提供される硬質の超平坦表面にバイアおよび対応する内部接続能力を加えることができる。
E(9)調整可能なTHzのNIM
TiO2の誘電体機能は、印加電場によってTHz周波数において変更できる。図31に概略的に示された本発明の例示的な素子がこの目的で製造されてきた。2000オングストロームのTiO2層が、物理蒸着法(PVD)を用いて、ドープされたSiの上に成長して、底部電極として機能する。この構造における上部電極の役割は、絶縁体であるポリ3ヘキシルチオフェン(P3HT)の膜によって果たされる。しかし、電荷が電界効果ドーピングによって注入されると、P3HTは、室温で大きな導電性を示す。このFETの形状が、印加電場の下で、TiO2のTHzおよび赤外線研究のために採用されてきた。素子の新規性には、遠赤外線から近赤外線への伝搬実験に適した、大面積(>1cm2)の「グリッド電極」構造が、近赤外線がSi基板のバンドギャップによって遮断された状態で、含まれている。ドーパントの濃度が1018cm−3範囲内にあって、基板したがって素子構造全体が、THz以下から最大Siのバンドギャップエネルギーまで高い透過率T(ω)=20〜30%を示している。
【0181】
印加電場によりTiO2のTHz応答が変更されるため、伝搬が素子内で変化する。これらの変化は、TiO2の振動周波数近くで生じる共振形態を有し、そこではε1(ω)の電場誘導変更が50〜80%を超えることがある。特に、SRRアレイは、底面接触のFET形状で容易に集積化できて、素子の調整可能性に対してこの新規の方法を可能にする。
【0182】
本明細書では、本発明の特定の実施形態が示され、説明されているが、他の変更形態、置換形態および代替形態が当業者には明らかであることは理解されるべきである。このような変更、置換および代替形態は、添付の特許請求の範囲から決定される本発明の精神と範囲から逸脱することなく実施可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間的に変化する電磁特性を持つ人工的に構成された複合メタマテリアルであって、複合メタマテリアルを形成する複数の構成要素を支持する誘電体ホストを備え、前記構成要素の少なくとも一部は、それらの電気または磁気分極のうちの一方または両方で、前記複数の要素の残りと異なり、前記複合メタマテリアルは、1つまたは複数の軸に沿って、誘電率および透過率のうちの1つまたは複数の空間的変化を示し、前記透過率変化は前記誘電率とは無関係である、複合メタマテリアル。
【請求項2】
前記構成要素の前記少なくとも一部は、前記少なくとも1つの軸に沿って透過率および誘電率の両方に勾配を有するように寸法決定されている、請求項1に記載の人工的に作製された複合メタマテリアル。
【請求項3】
前記誘電体ホストと前記複数の構成要素は、複数の個々の単位セルとして構成され、前記個々の単位セルの少なくとも第1の部分の寸法は、前記単位セルの少なくとも第2の部分の寸法とは異なり、前記単位セルの第1の部分は前記単位セルの第2の部分と異なる透過率を有している、請求項1に記載の人工的に作製された複合メタマテリアル。
【請求項4】
前記複数の構成要素および前記誘電体ホストは、前記少なくとも1つの軸に沿って、前記メタマテリアルの前記透過率と前記誘電率との両方において空間的変化を有するように配置され、前記電気誘電率に対する前記磁気透過率の割合は、ほぼ一定で、自由空間または、前記メタマテリアルに隣接する第2の材料のいずれかに対する同じ割合とほぼ等しく維持されている、請求項1に記載の人工的に作製された複合メタマテリアル。
【請求項5】
前記複数の構成要素および前記誘電体ホストは、前記透過率および前記誘電率の符号がゼロより小さくなるように配置されている、請求項1に記載の人工的に構成された複合メタマテリアル。
【請求項6】
前記誘電体ホストは基板を備え、前記複数の構成要素は複数のスプリットリング共振器を備え、前記スプリットリング共振器の少なくとも第1の部分は第2の部分と異なる寸法を有している、請求項1に記載の人工的に作製された複合メタマテリアル。
【請求項7】
電磁応答の空間的勾配を有する複合メタマテリアルを作製する方法であり、複数の反復単位セルを形成するステップであって、前記単位セルのそれぞれは、複数の導体を支持する誘電体を備え、前記複数の反復単位セルのそれぞれは導体寸法および誘電体寸法を有する、ステップと、前記反復単位セルの一部に、前記導体寸法および前記誘電体寸法の1つまたは複数を変化させることによって残りの前記反復単位セルと異なる有効透過率を持たせるステップと、前記複数の単位セルのうちの前記一部を、少なくとも1つの方向に沿って有効透過率の勾配屈折率を持つメタマテリアルを形成するように配置するステップと、を含む方法。
【請求項1】
空間的に変化する電磁特性を持つ人工的に構成された複合メタマテリアルであって、複合メタマテリアルを形成する複数の構成要素を支持する誘電体ホストを備え、前記構成要素の少なくとも一部は、それらの電気または磁気分極のうちの一方または両方で、前記複数の要素の残りと異なり、前記複合メタマテリアルは、1つまたは複数の軸に沿って、誘電率および透過率のうちの1つまたは複数の空間的変化を示し、前記透過率変化は前記誘電率とは無関係である、複合メタマテリアル。
【請求項2】
前記構成要素の前記少なくとも一部は、前記少なくとも1つの軸に沿って透過率および誘電率の両方に勾配を有するように寸法決定されている、請求項1に記載の人工的に作製された複合メタマテリアル。
【請求項3】
前記誘電体ホストと前記複数の構成要素は、複数の個々の単位セルとして構成され、前記個々の単位セルの少なくとも第1の部分の寸法は、前記単位セルの少なくとも第2の部分の寸法とは異なり、前記単位セルの第1の部分は前記単位セルの第2の部分と異なる透過率を有している、請求項1に記載の人工的に作製された複合メタマテリアル。
【請求項4】
前記複数の構成要素および前記誘電体ホストは、前記少なくとも1つの軸に沿って、前記メタマテリアルの前記透過率と前記誘電率との両方において空間的変化を有するように配置され、前記電気誘電率に対する前記磁気透過率の割合は、ほぼ一定で、自由空間または、前記メタマテリアルに隣接する第2の材料のいずれかに対する同じ割合とほぼ等しく維持されている、請求項1に記載の人工的に作製された複合メタマテリアル。
【請求項5】
前記複数の構成要素および前記誘電体ホストは、前記透過率および前記誘電率の符号がゼロより小さくなるように配置されている、請求項1に記載の人工的に構成された複合メタマテリアル。
【請求項6】
前記誘電体ホストは基板を備え、前記複数の構成要素は複数のスプリットリング共振器を備え、前記スプリットリング共振器の少なくとも第1の部分は第2の部分と異なる寸法を有している、請求項1に記載の人工的に作製された複合メタマテリアル。
【請求項7】
電磁応答の空間的勾配を有する複合メタマテリアルを作製する方法であり、複数の反復単位セルを形成するステップであって、前記単位セルのそれぞれは、複数の導体を支持する誘電体を備え、前記複数の反復単位セルのそれぞれは導体寸法および誘電体寸法を有する、ステップと、前記反復単位セルの一部に、前記導体寸法および前記誘電体寸法の1つまたは複数を変化させることによって残りの前記反復単位セルと異なる有効透過率を持たせるステップと、前記複数の単位セルのうちの前記一部を、少なくとも1つの方向に沿って有効透過率の勾配屈折率を持つメタマテリアルを形成するように配置するステップと、を含む方法。
【図1】
【図2】
【図10】
【図15】
【図16】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図27】
【図29】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図17】
【図18】
【図19】
【図26】
【図28】
【図30】
【図31】
【図2】
【図10】
【図15】
【図16】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図27】
【図29】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図17】
【図18】
【図19】
【図26】
【図28】
【図30】
【図31】
【公開番号】特開2011−254482(P2011−254482A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127408(P2011−127408)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【分割の表示】特願2007−522806(P2007−522806)の分割
【原出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(505088684)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (18)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【分割の表示】特願2007−522806(P2007−522806)の分割
【原出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(505088684)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (18)
【Fターム(参考)】
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