説明

メタマテリアル

【課題】単位格子をマトリクス状に配列したメタマテリアルを構成するに際し、単位格子を更に微小化することなく、共鳴波長を短波長化するメタマテリアルを提供する。
【解決手段】単位格子が平面上に2次元的に配列されて積層されたメタマテリアルであって、単位格子は、金属十字層と誘電体層とで構成され、金属十字層は、平面上における第1軸に沿った第1の柱部と、第1軸と同一平面上にあり第1軸と交差する第2軸に沿った第2の柱部とを有し、これらによる交差領域と非交差領域を有する十字構造を備え、誘電体層は、第1の誘電体部と、これと同一平面上のこれよりも小さい屈折率の第2の誘電体部とで形成され、第1の誘電体部は、交差領域の少なくとも一部を含む単位格子を構成する金属十字層の上層側或は下層側に配置され、第2の誘電体部は、非交差領域の少なくとも一部を含む単位格子を構成する金属十字層の上層側或は下層側に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を含む電磁場において負などの特異な屈折率をもつメタマテリアルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、金属・誘電体・磁性体などを人工的に波長以下の構造で形成し、媒質の誘電率や透磁率を人工的に変化させる材料であるメタマテリアルが提案されている。
このメタマテリアルを用いて、例えば、誘電率と透磁率を共に負の値に構成すれば、負の屈折率が得られる。
負の屈折率を用いて、回折限界を超えた結像(完全結像)など新たな光学現象を得ることができる。
また、誘電率と透磁率を独立して制御することで、インピーダンスを任意に制御できるため、完全反射や反射率を低減させた構造などが得られる。
この他にも、誘電率と透磁率を制御し、自然界にない新たな光学特性をもつ応用が提案されている。
この誘電率と透磁率を人工的に制御する構造として、非特許文献1では微小な共振器をもった単位格子をマトリクス状に配列した構造が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Physical Review Letter,95,137404(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1に記載の構造を、近赤外・可視領域などの波長が短い領域に適用しようとすれば、磁場または電場の共鳴波長を短波長化させる必要がある。
共鳴波長を短波長化させるためには単純に単位格子(微小な共振器)をさらに微小化すればよいが、近赤外・可視領域では単位格子が100nm程度以下の構造となり作製が非常に困難となる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑み、微小な共振器を有する単位格子をマトリクス状に配列した構造のメタマテリアルを構成するに際し、単位格子を更に微小化することなく、共鳴波長を短波長化することが可能となるメタマテリアルの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のメタマテリアルは、単位格子が平面上に2次元的に配列され、これらが積層されたメタマテリアルであって、
前記単位格子は、金属十字層と誘電体層とで構成され、
前記金属十字層は、前記平面上における第1軸に沿った第1の柱部と、該第1軸と同一平面上にあり該第1軸と交差する第2軸に沿った第2の柱部とを有し、前記第1の柱部と前記第2の柱部とが交差する交差領域と交差しない非交差領域とによる十字構造を備え、
前記誘電体層は、第1の誘電体部と、該第1の誘電体部と同一平面上にあって該第1の誘電体部よりも小さい屈折率を有する第2の誘電体部とで形成され、
前記第1の誘電体部は、前記交差領域の少なくとも一部を含む前記単位格子を構成する金属十字層の上層側あるいは下層側に配置され、
前記第2の誘電体部は、前記非交差領域の少なくとも一部を含む前記単位格子を構成する金属十字層の上層側あるいは下層側に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、微小な共振器を有する単位格子をマトリクス状に配列した構造のメタマテリアルを構成するに際し、単位格子を更に微小化することなく、共鳴波長を短波長化することが可能となるメタマテリアルを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施例1におけるメタマテリアルの構成例について説明する模式図。
【図2】本発明の実施例1における単位格子の構成について説明する図。
【図3】本発明の実施例1におけるメタマテリアル中にある磁気共振器の共鳴現象を用いて、透磁率が変化することを説明する図。
【図4】本発明の実施例1におけるメタマテリアルが特定の波長(周波数)で共鳴し、透磁率(屈折率)が変化することを説明するための透磁率と波長の関係を示す図。
【図5】本発明の実施例1における数値実施例の入射光の波長に対するメタマテリアルの屈折率を示す図。
【図6】従来例における構造の例として、誘電体層が金属十字層と同じ形状となった単位格子を用いた場合のメタマテリアルの屈折率を示す図。
【図7】本発明の実施例1におけるメタマテリアルの製造方法を説明する図。
【図8】本発明の実施例2におけるメタマテリアルの構成例について説明する模式図。
【図9】本発明の実施例2における単位格子の構成について説明する図。
【図10】本発明の実施例2における数値実施例の入射光の波長に対するメタマテリアルの屈折率を示す図。
【図11】本発明における第1の誘電体部を交差領域を少なくとも一部の上層側に配置する構成例について説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明を実施するための形態を、以下の実施例により図を用いて説明する。
その際、全ての図において同一の機能を有するものは同一の数字を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【実施例】
【0010】
[実施例1]
実施例1として、本発明の構成を適用したメタマテリアル100の構成例について、図1を用いて説明する。
図1において、100はメタマテリアルである。本実施例のメタマテリアル100は、単位格子101が平面上に2次元的に配列され、これらが積層されて構成されている。
図2は単位格子101の構成について説明する図である。
図2(a)に示すように、単位格子101は、金属からなる金属十字層102と誘電体からなる誘電体層103とで構成される。
また、図2(b)に示すように、金属十字層102は、第1軸104に沿った金属の第1の柱部112と、第1軸と同一平面上にあり該第1軸と交差する第2軸105に沿った金属の第2の柱部122とを備える。
そして、第1の柱部112と、第2の柱部122とが交差する交差領域106と、これらが交差領域106と交差しない非交差領域107とによって十字構造に構成されている。
【0011】
また、上記した単位格子101における誘電体層103は、図2(c)に示すように、第1の誘電体部113と第2の誘電体部123とで構成され、上記単位格子を構成する金属十字層102の上層側に配置されている。
そして、第1の誘電体部113は、交差領域106の少なくとも一部を含む直上に配置される。
第2の誘電体部123は、第1の誘電体部113と同一平面上にあり、非交差領域107の少なくとも一部を含む直上に配置される。その際、第2の誘電体部123の屈折率を第1の誘電体部113の屈折率より小さくすることで、単位格子を微小化することなく、共鳴波長を短波長化することができる。
【0012】
ただし、図2に示した例では、上記単位格子を構成する金属十字層102の上層側に、誘電体層103を配置した。しかし、図1に示した積層構造のメタマテリアルは、金属十字層と金属十字層の間に誘電体部が配置されていればよいので、
誘電体層103は金属十字層102の上層側に配置されるものに限られるものではなく、金属十字層102の下層側に配置するようにしてもよい。
また同様に、金属十字層102はメタマテリアル100の2次元的に配列された単位格子の一部であるから、単位格子の決め方により十字構造でない場合も存在する。しかし、そのような場合においても、十字構造の単位格子となるように単位格子を決めることができる構造であれば、本発明の効果を得ることができる。
【0013】
以下に共鳴波長を短波長化できる原理について説明する。
まず、メタマテリアル100中にある磁気(または電気)共振器の共鳴現象を用いて、透磁率(または誘電率)が変化することを図3を用いて説明する。
図3は、共鳴波長の光110がメタマテリアル100に入射した場合を示している。光100の磁場振動108は第2軸105に平行に入射し、光100の電場振動109は第1軸104に平行に入射している。
金属中の自由電子は入射した光100の電場振動109方向に力を受け、金属十字層102中を第1軸104方向に運動する。
ただし、メタマテリアル100は単位格子を積層した構造であり、図3に示すように、積層方向で位相が異なって金属十字層を運動する自由電子の向きが反対方向となる。
特に、第2の柱部122の非交差領域107中を運動する自由電子は、金属の端部で運動できなくなるため、自由電子の偏り(粗密)が生じる。
以上の自由電子の動きから、アンペールの法則に従い、入射光の磁場振動108に対して反抗する方向に磁場111が発生する。
よって、図4に示されるように、メタマテリアル100は、特定の波長(周波数)で共鳴し、透磁率(屈折率)が変化する。
【0014】
つぎに、第2の誘電体部123の屈折率を第1の誘電体部113の屈折率より小さくすることで、共鳴波長を短波長化させることができる原理を説明する。
金属十字層の中間にある誘電体層103は、金属十字層に蓄積した電荷から誘電体層103の表面に電荷が誘起される。特に、金属中の電荷の偏りが大きい非交差領域107を、屈折率が小さい第2の誘電体部123で形成すれば、金属十字層に接する第2の誘電体部123の表面に誘起される電荷量が小さくなる。
誘電体層の表面に誘起される電荷が小さくなれば、金属中の自由電子は運動しやすい(抵抗が小さい)状態となり、運動に寄与する自由電子の数が増え、結果的に大きな磁場111を得ることができる。磁場111は、入射光の磁場振動108に対して反抗する成分であるので、磁場111が大きくなれば、共鳴波長は短波長化する。
このことは、LC共振器回路において、キャパシタンスの容量を小さくしたことに相当する。
以上の原理により、第2の誘電体部123の屈折率を小さくすることで、単位格子を微小化することなく、共鳴波長を短波長化することができる。
【0015】
以下に、数値実施例について説明する。
単位格子101は、第1軸、第2軸方向の長さを600nmとし、金属十字層102の膜厚30nm、誘電体層103の膜厚60nmとする。
金属十字層は、第1の柱部112の幅を400nm、第2の柱部122の幅を180nmとする。
また、金属十字層102を銀、第1の誘電体部113をフッ化マグネシウム(屈折率1.375)、第2の誘電体部123を空気(屈折率1.0)で形成する。
【0016】
本数値実施例における、入射光の波長に対するメタマテリアル100の屈折率を図5に示す。波長1.07μmで共鳴する。
ここで、従来例における構造の例として、誘電体層が金属十字層と同じ形状となった単位格子を用いた場合のメタマテリアルの屈折率関係を図6に示す。
波長1.45μmで共鳴し、本発明に比べ、共鳴波長が長波長側にある。
なお、上記従来例における構造は、本実施例とは誘電体層103の面内形状のみが異なり、その他の条件は全て同じとした。
仮に屈折率が−1の材料を得たければ、本実施例では波長1.04μmで得られるのに対し、従来例における構造では波長1.23μmとなり、本実施例によって同じ単位格子の大きさの構造で短波長化することができる。
なお、本実施例では第2の誘電体部を空気で形成するとした。これは、空気の屈折率は1.0と小さいため、短波長化する効果が大きくなるためである。
但し、第2の誘電体部が第1の誘電体部より低屈折率のその他の材料を用いても、本発明の効果が同様に発現する。
【0017】
つぎに、図7を用いて、本実施例におけるメタマテリアルの製造方法について説明する。
まず、金属十字層102を形成するため、石英などの基板701上に金属薄膜702をスパッタなどにより成膜する(図7(a))。
次に、リソグラフィーによって、レジスト膜をパターン化し、ドライエッチング工程によって、金属のパターン化を行う。続いて、アッシング等により残存レジストを除去して属十字層102を形成する(図7(b))。
次に、誘電体層103を形成するため、第1の誘電体部の誘電体を成膜し、同様にリソグラフィーによって誘電体をパターン化する。続いて、第2の誘電体部を成膜し、CMP法などにより表面を平坦化する(図7(c))。
以上の金属十字層102、誘電体層103を順次積層して形成することでメタマテリアル100を得ることができる。
また、上記製造方法は1層ずつ形成して製造する方法を示したが、まず、基板上に金属薄膜と誘電体を積層構造に形成し、その後、FIBなどの異方性エッチングを利用して作製してもよい。
【0018】
[実施例2]
実施例2として、上記実施例1と異なる形態のメタマテリアルの構成例について、図8を用いて説明する。
図8において、200はメタマテリアルであり、201は単位格子である。本実施例において実施例1と異なる点は、誘電体層の形状のみである。
本実施例の誘電体層203は、図9に示すように、第1の柱部112の上層側に第1の誘電体部213が配置され、この第1の誘電体部213の両側に第2の誘電体部223が配置されている。つまり、第1の誘電体部213は交差領域106と非交差領域107と接して配置される。
このように配置することで、誘電体層203は第1の誘電体部と第2の誘電体部のストライプで構成することができ、作製し易くなる。
また、第2の誘電体部223の屈折率を第1の誘電体部213より小さくする。これにより、第2の柱部122の非交差領域107の上層側に形成した第2の誘電体部223により、メタマテリアル200の磁気共振器によって生じる反抗磁場111が大きくなり、共鳴波長は短波長化する。
【0019】
以下に、数値実施例について説明する。
第1の誘電体部の幅を180nm、第2の誘電体部の幅を420nmとし、その他の条件は実施例1と同様とした。
このときの共鳴波長は1.09μmとなり(図10)、図6に示した従来構造に比べ、共鳴波長が短波長化している。
また、仮に屈折率が−1の材料を得たければ、本実施例では波長1.07μmで得られるのに対し、従来構造では波長1.23μmとなり、本発明によって同じ単位格子の大きさの構造で、短波長化動作することができた。
第1の誘電体部は、実施例1では交差領域106に配置し、また本実施例では第2の柱部の上層側にそれぞれ同じ形状で配置した(図11(a、b))。
しかし、本発明はこのような構成に限定されるものではなく、第1の誘電体部は交差領域106の少なくとも一部の上層側または下層側に配置すればよい。
例えば、図11(c、d、e、f)に示すように、第1の誘電体部は、交差領域106より小さい面で接してもよいし、あるいは交差領域106より大きい面で接してもよい。
但し、交差領域より小さい面で接する方が、メタマテリアルの共鳴波長が短波長化する効果が大きい。
【符号の説明】
【0020】
100、200:メタマテリアル
101:単位格子
102:金属十字層
103、203:誘電体層
104:第1軸
105:第2軸
106:第1の柱部と第2の柱部とが交差する領域である交差領域
107:第1の柱部と第2の柱部との交差領域でない領域である非交差領域
112:第1の柱部
122:第2の柱部
113、213:第1の誘電体部
123、223:第2の誘電体部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単位格子が平面上に2次元的に配列され、これらが積層されたメタマテリアルであって、
前記単位格子は、金属十字層と誘電体層とで構成され、
前記金属十字層は、前記平面上における第1軸に沿った第1の柱部と、該第1軸と同一平面上にあり該第1軸と交差する第2軸に沿った第2の柱部とを有し、前記第1の柱部と前記第2の柱部とが交差する交差領域と交差しない非交差領域とによる十字構造を備え、
前記誘電体層は、第1の誘電体部と、該第1の誘電体部と同一平面上にあって該第1の誘電体部よりも小さい屈折率を有する第2の誘電体部とで形成され、
前記第1の誘電体部は、前記交差領域の少なくとも一部を含む前記単位格子を構成する金属十字層の上層側あるいは下層側に配置され、
前記第2の誘電体部は、前記非交差領域の少なくとも一部を含む前記単位格子を構成する金属十字層の上層側あるいは下層側に配置されていることを特徴とするメタマテリアル。
【請求項2】
前記第1の誘電体部は、前記第1軸に沿って柱部として形成されていることを特徴とする請求項1に記載のメタマテリアル。
【請求項3】
前記第1の誘電体部は、前記単位格子を構成する金属十字層における前記交差領域より小さい領域の上層側あるいは下層側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のメタマテリアル。
【請求項4】
前記第2の誘電体部は、空気によって構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のメタマテリアル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−151523(P2012−151523A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6380(P2011−6380)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】