説明

メタメリック画像形成体の真偽判別方法及びメタメリック画像形成体

【課題】
機械認証性に優れたメタメリズム効果を有する偽造防止印刷物及び真偽判別方法を提供する。
【解決手段】
目視では等色に見える第1のインキと第2のインキからなるメタメリックペアーインキを用いて作製されるメタメリック画像形成体の真偽判別方法であって、メタメリックペアーインキの反射率特性に対して、可視光領域の波長650nm未満を第1の波長領域、可視光領域の波長650nm以上780nm未満を第2の波長領域、近赤外領域の波長780nm以上を第3の波長領域とし、第1、第2及び第3の各波長領域から夫々選択した任意の主波長を取得し、取得した主波長の反射率特性の差と、予め記憶してある真正品の主波長の反射率特性の差とを比較することで真偽を判別するメタメリック画像形成体の真偽判別方法及びメタメリック画像形成体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀行券、パスポート、有価証券、カード、印紙類、商品タグ、有料道路等の回数券、各種チケット等の貴重品に適用可能なメタメリックインキを用いた印刷物の機械判別方法及びその印刷物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のスキャナ、プリンタ、カラーコピーなどのディジタル機器の発展により、貴重印刷物の精巧な複製物を容易に作製することが可能となっている。その対策の一つとして、従来から目視による識別方法としてメタメリズムを応用したメタメリックペアーインキを用いる方法が多く試みられている。メタメリックペアーインキを用いた貴重印刷物の目視による判別方法は、照明する光源の種類や特定波長を透過するフィルタの介在により、インキが同色に見えたり、異なった色に見えたりする特性を利用したものである。偽造防止技術を必要とする印刷物において、インキのメタメリズムによる光学特性を利用する方法は従来から行われている。
【0003】
このようなメタメリックな性質を偽造防止用途に用いた画像形成体として、画像形成体の偽造防止方法及び偽造防止策を施した画像形成体が公知である。これは、特定光源下か、特定波長透過フィルタ下で見たとき、パターンが認識できるようにメタメリックな性質を有した2種類以上の色材を用いて形成した偽造防止方法及び画像形成体である。また、通常効果で見たときに同色で見えるが、特定光源下か、特定波長透過フィルタ下で見たとき、パターンが認識できるようにメタメリックな性質を有した2種類以上の色材を用いて形成した偽造防止方法及び画像形成体である(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、本出願人は、メタメリックペアーインキ各々に異なる近赤外特性を持たせ、その2種類のメタメリックペアーインキを用いた印刷物を、近赤外領域の異なる二つの波長の反射又は透過光量を電圧換算で読み取る真偽判別方法とその装置として、真偽判別印刷物の機械的判別方法及びその装置を出願している(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
【特許文献1】特開昭54−159004号 公報
【特許文献2】特開2000−293729号 公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記記載の画像形成体の偽造防止方法及び偽造防止策を施した画像形成体では、メタメリックペアーインキを用いた印刷物を光源の違い又は特定波長透過フィルタを用い目視で視認することにより、色が異なるように認識できるようにしたもので、機械認証の用途には用いることができないものであった。
【0007】
上記記載の真偽判別印刷物の機械的判別方法及びその装置では、機械認証に用いるものであるが、可視光領域の反射率曲線を同じにして、800nm以上の近赤外線領域での真偽判別による機械認証を行っていたものである。近年では、近赤外領域で透過する黒顔料としてアゾメチン系などが市販されており、近赤外領域で吸収するカーボンブラックやITOと組み合わせることにより、メタメリックペアーインキの近赤外領域反射率曲線に異なる特性を与えることが容易になってきており、貴重印刷物の機械認証において、近赤外領域だけで真偽判別をするには改善の余地があった。
【0008】
また、インキの近赤外領域の機能で機械認証する方法は、基材上に赤外線を吸収するインキを不可視もしくは隠蔽し、その特性を機械で検知し真偽判別する技術や目視で同色に認識されるが赤外領域の反射率曲線及び透過率を異ならせたIRペアーインキが公知である。しかし、赤外線領域の検知だけで機械認証する方法は、近年の技術進歩により、分析されやすくなり、似たようなメタメリズム効果を有する印刷物の作製が可能となってきたため、偽造防止の効果が希薄になるという恐れが出てきた。
【0009】
加えて、最近のインキジェットプリンタのトナーには、耐光性を向上させるために顔料系の色材を用いており、赤外線領域で吸収する特性があり、また従来の染料系トナーは赤外線領域で透過する特性であるため、プリンタを使い分けることにより、可視光領域から赤外線領域で近似した反射率曲線及透過率特性を容易に作製することが可能となっている。以上の現状を鑑みると、赤外線領域のみで真偽判別する方法は完全とは言えない状況となっている。
【0010】
本発明は、このような状況に鑑み、機械認証性に適したメタメリズム効果を表出する偽造防止印刷物用として使用するメタメリックペアーインキにおいて、波長400nm以上780nm未満の可視光領域では、目視下において等色で、さらに、従来の機械判別に用いられていた波長780nm以上2000nm未満の近赤外領域においても同じ反射率曲線を示し、近赤外領域に近い可視光領域にあたる波長650nm以上780nm未満の特定波長において、インキに反射率曲線の差分を持たせ、なおかつメタメリックペアーインキのいずれか一つ以上のインキに赤外領域で反射もしくは透過する磁性体を配合したメタメリックペアーインキを用いた画像形成体を、可視領域である400nm以上650nm未満間の特定波長と、650nm以上780nm未満の任意の波長範囲2箇所の測定点と、近赤外領域である780nm以上2000nm未満間の任意の波長範囲の測定点、及び磁気特性の有無又は磁気量の差を機械判別に用いることのできるメタメリックペアーインキを使用した印刷物及び真偽判別方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、目視では等色に見える第1のインキと第2のインキから成るメタメリックペアーインキを用いて作製されるメタメリック画像形成体の真偽判別方法であって、メタメリックペアーインキの反射率特性に対して、可視光領域の波長650nm未満を第1の波長領域、可視光領域の波長650nm以上780nm未満を第2の波長領域、近赤外領域の波長780nm以上を第3の波長領域とし、第1、第2及び第3の各波長領域から夫々選択した任意の主波長を取得し、取得した主波長の反射率特性の差と、予め記憶してある真正品の主波長の反射率特性の差とを比較することで真偽を判別するメタメリック画像形成体の真偽判別方法である。
【0012】
また本発明は、メタメリックペアーインキの第1のインキ又は第2のインキのいずれか一つ以上が磁気特性を有し、磁気特性から真偽を判別することを特徴としたメタメリック画像形成体の真偽判別方法である。
【0013】
また本発明は、磁気特性は、磁気の有無、磁性量、磁気検知電圧及び磁気検知波形の少なくとも一つ以上を取得し、真偽を判別することを特徴としたメタメリック画像形成体の真偽判別方法である。
【0014】
また本発明は、目視では等色に見える第1のインキと第2のインキから成るメタメリックペアーインキを用いたメタメリック画像形成体であって、メタメリックペアーインキの第1のインキと第2のインキが、可視光領域の波長650nm未満、可視光領域の波長650nm以上780nm未満及び近赤外領域の波長780nm以上の夫々から選択した任意の主波長から取得される第1のインキと第2のインキの主波長の反射率特性のうち、少なくとも一つ以上の主波長において反射率特性の差分を持たせたことを特徴とするメタメリック画像形成体である。
【0015】
また本発明は、メタメリックペアーインキの第1のインキと第2のインキが、可視光領域の波長650nm未満、及び近赤外領域の波長780nm以上の主波長の反射率の差分が10%未満で、可視光領域の波長650nm以上780nm未満の任意の主波長の反射率の差分が30%以上を示すことを特徴とする前記のメタメリック画像形成体である。
【0016】
また本発明は、メタメリックペアーインキの第1のインキと第2のインキのいずれかに、クロラニールと3−アミノ−9−カルバゾールとの縮合体であるジオキサジン系の色材又は塩化コバルト化合物の色材を含有したことを特徴とするメタメリック画像形成体である。
【0017】
また本発明は、メタメリックペアーインキの第1のインキと第2のインキのいずれか一つ以上が磁気特性を有することを特徴とするメタメリック画像形成体である。
【0018】
また本発明は、メタメリックペアーインキの第1のインキと第2のインキのいずれか一つ以上が、近赤外線透過型軟磁性体、近赤外線透過型半硬磁性体、近赤外線透過型硬磁性体、近赤外線反射型軟磁性体、近赤外線反射型半硬磁性体及び近赤外線反射型硬磁性体のいずれかを含有したことを特徴とするメタメリック画像形成体である。
【発明の効果】
【0019】
任意の可視光領域において反射率に差があり、また磁気の有無及び磁気量に差があることで、カラーコピーやプリンタでの複製に対して偽造防止効果が期待できる。また、インキの種類としてはオフセットインキ、凸版インキ、グラビアインキ、凹版インキ及びスクリーンインキ等、どのような版式にも対応することができる。
【0020】
400nm以上650nm未満の可視光領域と780nm以上の近赤外線領域及び可視光領域である650nm以上780nm未満の夫々選択した任意の主波長において、反射率の差を測定し、なおかつ光学特性以外の磁気特性も真偽判別手段とする方法を用いることで、機械認証の高度化が図られるとともに、従来の近赤外領域の異なる二つの波長における測定より、正確な真偽判別が可能となる。
【0021】
インキ材料の変更だけで、特殊なメタメリズム効果を有する印刷物が作製できるので、印刷に関するコストは従来とほぼ同じで、コストパフォーマンスにも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施の形態について説明する。本発明の実施の形態における印刷物とは、2種類以上のインキを用いて基材に印刷されて作製され、目視では等色に認識できるが、400nm以上650nm未満の可視光領域と780nm以上の近赤外領域では反射率が同等で、650nm以上780nm未満では違う反射率曲線を表出するメタメリズム効果を有するもので、特に、近赤外線領域に近い650nm以上780nm未満では反射率に30%以上の差があり、780nm以上では差が10%未満で、ほぼ同じ反射率を有するものである(図2参照)。
【0023】
印刷物の作製には、600nm以上で透過する色材であるクロラニールと3−アミノ−9−カルバゾールとの縮合体などのジオキサジン系もしくは塩化コバルト化合物を色材として用いたメタメリックインキと、このメタメリックインキと同色で、メタメリック効果を有さない同色のペアーインキとを使用する。
【0024】
また、ペアーインキの少なくとも一つのインキに赤外線領域で光を透過する特性を有し、残留磁化25〜35emu/gを有する酸化物磁性体を含有したインキを使用する。このペアーインキを用いた真判別印刷物(図1参照)に例えば中心波長550nm、725nm、及び860nmの各バンドパスフィルタを通過した三つの光源を照射し、その反射率の差を読み取り、なおかつ変化量を読み取るMR(Magneto Resistance)磁気センサや磁気量を読み取る差動型センサなどで読み取り真偽判別する方法である。
なお、ここで言う中心波長は、透過率100%の半値(50%の値)において約±5nmの範囲をもっているうちの中心である。本実施の形態ではバンドパスフィルタを用いているので中心波長が約±5nmの範囲の中心となっているが、使用するフィルタ等によってはこの限りではない。
【0025】
また、本発明においては、メタメリックペアーインキの反射率曲線に対し、図3に示すように、可視光領域の波長650nm未満を第1の波長領域、可視光領域の波長650nm以上780nm未満を第2の波長領域、近赤外領域の波長780nm以上を第3の波長領域とした。
【0026】
真偽判別の方法としては、図6に示したフローチャートに従って説明する。第1ステップでは、光源から例えば第1の波長の中心波長550nmの光を照射し、取得される第1の波長の主波長の反射率から第1の印刷領域Xと第2の印刷領域Yの差を測定し、測定値に許容値を超える差があれば偽造品であると判断され、差が10%以下の許容値以内であれば、第2ステップに進む(S1)。第2ステップでは、第2の波長の中心波長725nmの光を照射し、取得される第2の波長の主波長の反射率から、同様に第1の印刷領域Xと第2の印刷領域Yの差を測定し、差が設定された許容値より少なければ偽造品と判断され、測定値が30%以上の差を有すれば第3ステップに進む(S2)。続いて第3ステップでは、中心波長860nmの第3の波長の光を照射し、取得される第3の波長の主波長の反射率の差を読み取り、第1の印刷領域Xと第2の印刷領域Yの差を測定し、測定値に許容値を越える差があれば偽造品であると判断され、差が10%以下の許容値以内であれば、第4ステップに進む(S3)。ここまでの反射率の差による真偽判別に加え、磁気特性を第4ステップで検知する。第4ステップでは、磁気の有無又は磁気量の差などの磁気特性を検査し、設定値に従い適宜判断し、真偽を判別する。例えば、磁気量に差があることを「真」と設定されている印刷物の場合は、差がないものは偽造品と判断し、差があるものを最終的に真正品と判断される(S4)。
【0027】
ここで、一般に磁性材料を磁気特性から分類すると、軟磁性体と硬磁性体に大別されるが、本明細書では、磁気特性の特徴から軟磁性体、半硬磁性体及び硬磁性体と更に細分化して定義する。軟磁性体は、ニッケルフェライト、マンガン亜鉛フェライトなどに代表される、高透磁率で残留磁化が小さく、保持力が1A/m未満から数kA/m程度の磁性体をいう。半硬磁性体は、マグネタイト、メグヘマタイト及びコバルト系酸化鉄に代表される、ある程度の残留磁化を有し、保持力が20kA/m未満の磁性体をいう。硬磁性体は、アルコニ系磁石、バリウムへライトなどの永久磁石に代表される大きな残留磁化を有し、保持力が大きく20kA/m以上の磁性体をいうものである。
【0028】
また、磁気特性の読み取り方法としては、磁性材料を含有したインキを用いた印刷物(以後磁性印刷物という)に外部磁界を与えて磁束を保持させておき、その外部磁界を取り去った後で、該磁気含有インキの保持力に応じてバイアス磁界を印加した磁気センサ、例えばMIセンサ(magneto impedance)を用いて、目的とする磁性体含有印刷物が通過するときには、磁気センサからの出力が出ないようにする方法がある。この技術は、それ以前の磁気センサが磁性印刷物に磁性を与え、その磁界を取り去った後の残留磁束密度により、真正な磁性体を用いていることを判別するものであるのに対して、磁性印刷物に磁性を与え、その磁界を取り去った後で、適当なバイアス磁界を印加して磁気センサを用いて測定することによって、磁気インキが真正の場合は出力が出るようにした磁気判別読取方法である。
【0029】
各種の磁気センサでは、ある大きさの磁界(バイアス)で印刷物上の磁気材料を磁化し、磁性材料の磁気特性に応じた磁界の応答を検知する。バイアス磁界の大きさ及び検出機構はセンサの種類によって異なる。磁気読取りに用いられるセンサは、動作原理上は電磁誘電を用いて磁束の変化を検出もの、磁気抵抗や薄膜の表皮効果といった特定素子の物性を用いて磁界を直接検出するものに大別することができる。検出波形からは磁束の変化量に対応した微分型、印刷領域の濃淡に対応した定量形に分けることができる。リング型センサやMRセンサ検出波形が微分的になり、リング型センサは電磁誘導により磁束の変化を検出する方法で、MRセンサはInSb薄膜の磁気抵抗変化を利用する方法である。磁気量を読むセンサとしては、差動型センサやMIセンサがある。差動型センサの検出波形は定量的であり、交流磁界を印加し、被検出体の磁化並びに渦電流による検出磁気回路の抵抗変化を検出する方法である。MIセンサも検出波形は定量的であるが、磁性薄膜の磁気インピーダンス効果を利用して磁界を検出する方法である。
【実施例】
【0030】
以下、本発明のメタメリズム特性と磁気の有無を有する印刷物の真偽判別方法及び作製方法の実施例について図面を用いて詳細に説明するが、本発明の内容は、これらの実施例に限定されるものではなく、容易に類推される技術的範疇のものも含まれる。
【0031】
(実施例1)
図1に本発明の真偽判別印刷物A1の模式図を示す。真偽判別印刷物A1の用紙1にクロラニールと3−アミノ−9−カルバゾールとの縮合体などのジオキサジン系色材を含む第1のインキaを使用して第1の印刷領域Xを形成し、可視光領域では目視下において等色で赤外線領域では光を透過する特性を有し、残留磁化25〜35emu/gを有する酸化物磁性体を含有した第2のインキbを使用して第2の印刷領域Yを形成したパターン4が印刷される。パターン4の200nm〜2000nmにおける反射率曲線を図2に示す。印刷されたパターン4上を第1の波長である中心波長550nmと第2の波長である中心波長725nm、及び第3の波長である中心波長860nmの各バンドパスフィルタを通過した三つの光源を順次照射し、その反射率を読取る。反射率曲線の差が顕著な400nm〜1000nmにおける反射率曲線を図3に示したように第1の印刷領域Xと第2の印刷領域Yは第1の波長では反射率曲線の差が無く、第2の波長では第1の印刷領域Xにクロラニールと3−アミノ−9−カルバゾールとの縮合体などのジオキサジン系色材を含有しているため、35%以上の高い反射率を示すが、第2の印刷領域Yでは第1の印刷領域Xほどの顕著な高い反射率曲線を得ることができず、反射率の差として25〜30%の差が生じる。また第3の波長では反射率曲線の差が10%未満のほとんど無い印刷物となる。
【0032】
なおかつ磁気の有無を検知するMR磁気センサで図1の矢印方向にスキャンしたときの検知電圧を図4に示す。第2の印刷領域Yでは磁気波形が得られるが第1の印刷領域X上では磁気波形が得られない。同様に、磁気の量を検知する差動型センサで図1の矢印方向にスキャンしたときの検知電圧は図5に示したように、第1のインキaを使用した第1の印刷領域Xでは磁気として検知することは無く、第2のインキbを使用した第2の印刷領域Yでは磁気量として電圧で検知することができる。
【0033】
以上のように真偽判別印刷物A1のパターン4上を三つの波長の反射率曲線及び磁気センサで磁気の有無もしくは磁気量を検知することにより、予め記憶してある真正品の三つの波長の反射率曲線及び磁気センサで磁気の有無もしくは磁気量を検知した値とを比較することで真偽判別をする方法であり、そのフローチャートを表すと図6のようになる。真偽判別印刷物A1を図6のフローチャートに基づき、第1ステップ〜第3ステップまでの光学特性と第4ステップの磁気特性を検知することにより正確に真偽判別することができた。なお機械判別する方法としては、センサ類を固定し真偽判別印刷物A1が走行しても、またフィルタを具備した光源及び受光センサと磁気センサが走行しても良い。
【0034】
実施例1のインキ組成を以下に示す。ここでいう着色顔料はオフセットインキ等の一般的な顔料である。第1のインキaと第2のインキbは、目視で等色に見えるインキである。
第1のインキa(紫色)
着色顔料(黄) 5重量部
着色顔料(赤) 10重量部
着色顔料(黒) 0.5重量部
ジオキサジン系顔料 10重量部
ワニス 67.4重量部
乾燥剤 0.1重量部
助剤 7重量部
第2のインキb(紫色)
着色顔料(赤1) 10重量部
着色顔料(赤) 10重量部
着色顔料(青) 5重量部
着色顔料(黒) 0.5重量部
磁性材料 5重量部
ワニス 61.4重量部
乾燥剤 0.1重量部
助剤 8重量部
【0035】
(比較例1)
ここで、実施例1記載の真偽判別印刷物A1を用い、図6の真偽判別フローチャートにしたがって、比較する。染料タイプのインキを用いたプリンタにより作製した目視で同色の図1のパターン4の複製物Xと、図3に示した第1のインキaと第2のインキbを用いた第1の印刷領域X及び第2の印刷領域Yの400nm〜1000nmにおける真偽判別印刷物A1の反射率曲線を図7に示す。図7に示したように、第1の波長である550nmでは差が無いが、第3の波長である860nmでの反射率で30%以上の差があり、図6のフローチャートから偽造品と判断される。
【0036】
(比較例2)
また、顔料タイプのインキを用いたプリンタにより作製した目視で同色のパターン4の複製物Yと、図3に示した第1のインキaと第2のインキbを用いた第1の印刷領域X及び第2の印刷領域Yの400nm〜1000nmにおける真偽判別印刷物A1の反射率曲線を図8に示す。図8に示したように、第2のインキbと顔料タイプのインキを用いたプリンタにより作製したパターン4の反射率曲線は同じ反射率曲線になる。しかし、第1のインキaとの比較では、第2の波長である725nmで30%以上の差があり、図1の第1の印刷領域X及び第2の印刷領域Yをプリンタで複製したものは同じ反射率曲線になるため偽造品と判断される。
【0037】
(比較例3)
第1のインキaを染料タイプのプリンタで複製し、第2のインキbを顔料タイプのプリンタで複製した目視で同色のパターン4の複製物Zと真偽判別印刷物A1の400nm〜1000nmにおける反射率曲線を図9に示す。図9に示したように複製物Zの三つの波長での反射率曲線の差が、真正品の真偽判別印刷物A1とほぼ同等になり、反射率曲線だけを判定要素とすると、真正品と判断されてしまう。しかし、第2のインキbには磁性顔料が含有しているため、図10に示したように第1のインキa(第1の印刷領域X)、及び第2のインキb(第2の印刷領域Y)において磁気が検知されないので、偽造品と判断される。
【0038】
(実施例2)
真偽判別印刷物A1の用紙1にクロラニールと3−アミノ−9−カルバゾールとの縮合体などのジオキサジン系色材と残留磁化50〜70emu/gを有する酸化物磁性体を含有した第1のインキa´を使用して第1の印刷領域Xを形成し、可視光領域では目視下において等色で赤外線領域では光を透過する特性を有し、残留磁化25〜35emu/gを有する酸化物磁性体を含有した第2のインキb´を使用して第2の印刷領域Yを形成したパターン4が印刷される。
【0039】
印刷されたパターン4上を第1の波長である中心波長550nmと第2の波長である725nm及び第3の波長860nmの各バンドパスフィルタを通過した三つの光源を順次照射し、その反射率を読み取る。
【0040】
第1の印刷領域Xと第2の印刷領域Yは第1の波長では反射率の差が無く、第2の波長では領域にクロラニールと3−アミノ−9−カルバゾールとの縮合体などのジオキサジン系色材と赤外線領域で光を透過する酸化磁性を含有しているため、高い反射率を示すが、第2の印刷領域Yでは高い反射率曲線を得ることができず、反射率として20〜30%の差が生じる。また第3の波長では反射率の差が10%未満のほとんど無い印刷物となる。なおかつ変化量を読み取るMR磁気センサで図1の矢印方向にスキャンさせることにより。第1のインキa´と第2のインキb´の磁気強度が異なるため、真偽判別印刷物のパターン上を三つの波長の反射率及び磁気センサで検知することにより真偽判別をする方法である。なお機械判別する方法としては、センサ類を固定し真偽判別印刷物が走行しても、またフィルタを具備した光源及び受光センサと磁気センサが走行しても良い。
【0041】
実施例2のインキ組成を以下に示す。
第1のインキa´(紫色)
着色顔料(黄) 3重量部
着色顔料(赤) 8重量部
着色顔料(黒) 0.5重量部
ジオキサジン系顔料 10重量部
磁性材料 5重量部
ワニス 68.4重量部
乾燥剤 0.1重量部
助剤 10重量部
第2のインキb´(紫色)
着色顔料(赤1) 10重量部
着色顔料(赤2) 10重量部
着色顔料(青) 3重量部
着色顔料(黒) 0.5重量部
磁性材料 3重量部
ワニス 63.4重量部
乾燥剤 0.1重量部
助剤 10重量部
【0042】
(実施例3)
真偽判別印刷物A1の用紙1にクロラニールと3−アミノ−9−カルバゾール縮合体などのジオキサジン系色材と残留磁化25〜35emu/gを有する酸化物磁性及び残留磁化1〜15emu/gを有するフェライトを含有した第1のインキa″を使用して第1の印刷領域Xを形成し、可視光領域では目視下において等色で赤外線領域では光を透過する特性を有し、残留磁化25〜35emu/gを有する酸化物磁性体及び残留磁化1〜15emu/gを有するγ酸化鉄を含有した第2のインキb″を使用して第2の印刷領域Yを形成したパターン4が印刷される。
【0043】
印刷されたパターン4上を第1の波長である中心波長550nmと第2の波長である725nm、及び第3の波長860nmのバンドパスフィルタを通過した三つの光源を順次照射し、その反射率を読み取る。
【0044】
第1の印刷領域Xと第2の印刷領域Yは第1の波長では反射率曲線の差が無く、第2の波長では領域にクロラニールと3−アミノ−9−カルバゾールとの縮合体などのジオキサジン系色材と赤外線領域で光を透過する酸化磁性を含有しているため、高い反射率曲線を示すが、第2の印刷領域Yでは高い反射率曲線を得ることができず、反射率曲線として20〜30%の差が生じる。また第3の波長では反射率曲線の差が無い印刷物となる。なおかつ変化量を読み取るMR磁気センサで図1の矢印方向にスキャンさせることにより。第1のインキa″と第2のインキb″の磁気強度が異なるため、真偽判別印刷物A1のパターン4上を三つの波長の反射率曲線及び磁気センサで検知することにより真偽判別をする方法である。なお機械判別する方法としては、センサ類を固定にし真偽判別印刷物A1が走行しても、またフィルタを具備した光源及び受光センサと磁気センサが走行しても良い。
【0045】
実施例3のインキ組成を以下に示す。
第1のインキa″(紫色)
着色顔料(黄) 3重量部
着色顔料(赤) 8重量部
着色顔料(黒) 0.5重量部
ジオキサジン系顔料 10重量部
磁性材料1 3重量部
磁性材料2 3重量部
ワニス 64.4重量部
乾燥剤 0.1重量部
助剤 10重量部
第2のインキb″(紫色)
着色顔料(赤1) 10重量部
着色顔料(赤2) 10重量部
着色顔料(青) 3重量部
着色顔料(黒) 0.1重量部
磁性材料1 3重量部
磁性材料4 3重量部
ワニス 60.8重量部
乾燥剤 0.1重量部
助剤 10重量部
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明における真偽判別印刷物の概略図である。
【図2】本発明における真偽判別印刷物の200nm〜2000nmにおける分光反射率曲線のグラフの一例である。
【図3】本発明における真偽判別印刷物の400nm〜1000nmにおける分光反射率曲線のグラフの一例である。
【図4】本発明における真偽判別印刷物のMRセンサによる磁気検知グラフの一例である。
【図5】本発明における真偽判別印刷物の差動型センサによる磁気検知グラフの一例である。
【図6】本発明の実施例における真偽判別フローチャートである。
【図7】実施例1の比較例1における反射率曲線のグラフである。
【図8】実施例1の比較例2における反射率曲線のグラフである。
【図9】実施例1の比較例3における反射率曲線のグラフである。
【図10】実施例1の比較例3におけるMRセンサによる磁気検知グラフである。
【符号の説明】
【0047】
1 用紙
4 印刷パターン
A1 真偽判別印刷物
X 第1のインキaによる第1の印刷領域
Y 第2のインキbによる第2の印刷領域
Z 本発明との比較例による複製物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目視では等色に見える第1のインキと第2のインキから成るメタメリックペアーインキを用いて作製されるメタメリック画像形成体の真偽判別方法であって、
前記メタメリックペアーインキの反射率特性に対して、可視光領域の波長650nm未満を第1の波長領域、可視光領域の波長650nm以上780nm未満を第2の波長領域、近赤外領域の波長780nm以上を第3の波長領域とし、前記第1、第2及び第3の各波長領域から夫々選択した任意の主波長を取得し、前記取得した主波長の反射率特性の差と、予め記憶してある真正品の主波長の反射率特性の差とを比較することで真偽を判別するメタメリック画像形成体の真偽判別方法。
【請求項2】
前記メタメリックペアーインキの第1のインキ又は第2のインキのいずれか一つ以上が磁気特性を有し、前記磁気特性から真偽を判別することを特徴とした請求項1記載のメタメリック画像形成体の真偽判別方法。
【請求項3】
前記磁気特性は、磁気の有無、磁性量、磁気検知電圧及び磁気検知波形の少なくとも一つ以上を取得し、真偽を判別することを特徴とした請求項1又は2記載のメタメリック画像形成体の真偽判別方法。
【請求項4】
目視では等色に見える第1のインキと第2のインキから成るメタメリックペアーインキを用いたメタメリック画像形成体であって、
前記メタメリックペアーインキの第1のインキと第2のインキが、可視光領域の波長650nm未満、可視光領域の波長650nm以上780nm未満及び近赤外領域の波長780nm以上の夫々から選択した任意の主波長から取得される前記第1のインキと第2のインキの主波長の反射率特性のうち、少なくとも一つ以上の主波長において反射率特性の差分を持たせたことを特徴とするメタメリック画像形成体。
【請求項5】
前記メタメリックペアーインキの第1のインキと第2のインキが、可視光領域の波長650nm未満及び近赤外領域の波長780nm以上の任意の主波長における反射率の差分が10%未満で、可視光領域の波長650nm以上780nm未満の任意の主波長における反射率の差分が30%以上を示すことを特徴とする請求項4記載のメタメリック画像形成体。
【請求項6】
前記メタメリックペアーインキの第1のインキと第2のインキのいずれかに、クロラニールと3−アミノ−9−カルバゾールとの縮合体であるジオキサジン系の色材又は塩化コバルト化合物の色材を含有したことを特徴とする請求項4又は5記載のメタメリック画像形成体。
【請求項7】
前記メタメリックペアーインキの第1のインキと第2のインキのいずれか一つ以上が磁気特性を有することを特徴とする請求項4から6記載のメタメリック画像形成体。
【請求項8】
前記メタメリックペアーインキの第1のインキと第2のインキのいずれか一つ以上が、近赤外線透過型軟磁性体、近赤外線透過型半硬磁性体、近赤外線透過型硬磁性体、近赤外線反射型軟磁性体、近赤外線反射型半硬磁性体及び近赤外線反射型硬磁性体のいずれかを含有したことを特徴とする請求項4から7記載のメタメリック画像形成体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−268469(P2006−268469A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−86064(P2005−86064)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】