説明

メタリック塗料組成物及び塗膜形成方法

【課題】
各種工業製品、特に自動車の外板に適用できる全体に高明度で、ハイライト(正反射光近傍)において干渉色を発現して微妙な色相変化を生じ、シェード(斜め方向)では白さを知覚できる塗膜を形成可能なメタリック塗料組成物及び塗膜を形成可能な塗膜形成方法を提供することである。
【解決手段】本発明は、鱗片状アルミニウム顔料及び鱗片状干渉性顔料を含むメタリック塗料組成物であって、塗膜形成されたときの鱗片状アルミニウム顔料のIV値が100以上200以下であるメタリック塗料組成物及び該鱗片状干渉性顔料が、半透明な鱗片状基材に酸化チタンを被覆したものであって且つ該鱗片状基材が人工マイカ又はシリカフレークであるメタリック塗料組成物並びに、基材上に上記塗料組成物を塗装しさらにクリヤー塗料を塗装する塗膜形成方法に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体に高明度で、ハイライト(正反射光近傍)において干渉色を発現して微妙な色相変化を生じ、シェード(斜め方向)では白さを知覚できる塗膜を形成可能なメタリック塗料組成物及び塗膜形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の工業製品において、ハイライト(正反射光近傍)において干渉色を発現して微妙に色相変化するホワイトパール系の塗色は、高級感と清潔感を併せ持つ塗色として人気が高い。ホワイトパール系の塗色を得るための方法として、白色のベース塗料による塗膜の上に、干渉性の鱗片状光輝性顔料を含むメタリックベース塗料を塗装し、さらにクリヤー塗料を塗装する複層塗膜形成方法が知られている。この方法で得られた塗膜は、メタリックベース塗料中に含まれる干渉性の光輝性顔料によって、観察角度による色の変化が生じるが、白色のベース塗膜、メタリックベース塗膜及びクリヤー塗膜の3層の塗膜を積層することが必要である。また、鱗片状光輝性顔料を含むメタリックベース塗膜の隠蔽力が不十分であるため、白色のベース塗膜が高明度のものに限定されてしまう問題点があった。
【0003】
2層の塗膜としてホワイトパール系の塗色を得る手法としては、干渉性の鱗片状光輝性顔料及び鱗片状アルミニウム顔料を含む塗料組成物を塗装し、さらにクリヤー塗料を塗装する複層塗膜形成方法が知られている。その場合、鱗片状アルミニウム顔料の種類によっては、ハイライトにおいて、干渉色の発現が弱かったり、シェードの明度が低くなる問題点があった。
【0004】
特許文献1は、透明感があり、強い輝度感を発現し、隠蔽性に優れる塗料組成物に関する出願であって、ビヒクル、金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料と、アルミニウムフレーク顔料又は微粒子二酸化チタン顔料とを含有する塗料組成物が開示されている。特許文献1に開示された塗料組成物による塗膜は、ハイライトにおいて、金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料による強い粒子感が発現するが、輝度が高すぎてハイライトにおける干渉効果が弱い塗膜しか得られないという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−86945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、全体的に高明度であり、ハイライト(正反射光近傍)において干渉色を発現して微妙な色相変化を生じ、シェード(斜め方向)では白さを知覚できる塗膜を形成可能なメタリック塗料組成物及び塗膜形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
1.鱗片状アルミニウム顔料及び鱗片状干渉性顔料を含むメタリック塗料組成物であって、該鱗片状アルミニウム顔料が、塗膜形成されたときのIV値が100以上250以下であるメタリック塗料組成物、
2.鱗片状干渉性顔料が、半透明な鱗片状基材に酸化チタンを被覆したものであって且つ該鱗片状基材が人工マイカ又はシリカフレークである1項に記載のメタリック塗料組成物、
3.鱗片状アルミニウム顔料の含有量が、塗料組成物中のビヒクル形成成分である樹脂固形分100質量部に対して固形分として0.1〜25質量部の範囲内である1項又は2項に記載のメタリック塗料組成物、
4.鱗片状アルミニウム顔料と鱗片状干渉顔料の質量比が、前者/後者の比で、1/1〜1/6の範囲内である1〜3項に記載のメタリック塗料組成物
5.基材に、1〜4項に記載されたメタリック塗料組成物を塗装し、さらにクリヤー塗料を塗装する塗膜形成方法、
6.基材のL*a*b*表色系における明度L*が40〜90の範囲内である5項に記載の塗膜形成方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、全体的に高明度であり、ハイライト(正反射光近傍)において干渉色を発現して微妙な色相変化を生じ、シェード(斜め方向)では白さを知覚できる塗膜を形成可能なメタリック塗料組成物及び塗膜形成方法を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のメタリック塗料組成物は、塗装して得られる塗膜のハイライトにおける干渉色の発現及び隠蔽性の付与を目的として、塗膜形成されたときのIV値が100以上250以下の鱗片状アルミニウム顔料を含有する。
【0010】
鱗片状アルミニウム顔料は、一般にアルミニウムをボールミルやアトライターミル中で粉砕媒液の存在下、粉砕助剤を用いて粉砕、摩砕して製造される。粉砕助剤としては、オレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸等の高級脂肪酸のほか、脂肪族アミン、脂肪族アミド、脂肪族アルコールが使用される。粉砕媒液としてはミネラルスピリットなどの脂肪族系炭化水素が使用される。
【0011】
鱗片状アルミニウム顔料は、粉砕助剤の種類によって、リーフィングタイプとノンリーフィングタイプに大別することができる。リーフィングタイプは、塗料組成物に配合すると塗装して得られた塗膜の表面に配列(リ−フィング)し、金属感の強い仕上がりが得られ、熱反射作用を有し、防錆力を発揮するものであるため、タンク・ダクト・配管類および屋上ル−フィングをはじめ各種建築材料などに利用されることが多い。本発明の塗料組成物においては塗装して得られる塗膜のハイライトの白さの点から、ノンリーフィングタイプの鱗片状アルミニウム顔料を使用することが好ましい。
【0012】
本発明のメタリック塗料組成物においては、上記鱗片状アルミニウム顔料として、塗膜形成されたときのIV値が100以上250以下のものを使用する。本発明のメタリック塗料組成物における鱗片状アルミニウム顔料としてはIV値が110から240の範囲内であることが、ハイライトにおいて干渉色を発現する上で好ましく、さらに好ましくは120〜230の範囲内である。IV値は、Intensity Valueの略であって、ハイライトにおける輝度を示す数値であり、数値が小さいほど暗いことを示す。IV値は、多角度分光光度計や光の照射角度及び受光角度を変えることができる測色計を用いて測定することができるが、本明細書において、塗膜形成されたときの鱗片状アルミニウム顔料のIV値は、次に示す要領で得られた塗板を関西ペイント(株)製、「アルコープLMR−200H」を用いて測定した数値で定義するものとする。
【0013】
塗膜形成されたときの鱗片状アルミニウム顔料のIV値は、塗膜形成後の該鱗片状アルミニウム顔料の配向によって変動するものである。したがって、塗膜形成成分や塗装条件によって変動する。本明細書における鱗片状アルミニウム顔料のIV値を測定するための塗板作成方法を示す。
【0014】
予め測定に供する鱗片状アルミニウム顔料にエチレングリコールモノブチルエーテルを加えて攪拌し、固形分50質量%の高濃度鱗片状アルミニウム顔料液を調製し、製造例1で得た水酸基含有アクリル樹脂溶液を固形分として75部、ユーバン28−60(商品名、ブチルエーテル化メラミン樹脂、三井化学社製)を固形分として25部からなるビヒクル形成成分である樹脂固形分100質量部に対して、鱗片状アルミニウム顔料の固形分が15質量部となるように添加し、さらに有機溶剤を加えて攪拌混合し、20℃における粘度を20秒/フォ−ドカップ#3の塗料を調製した。得られた塗料を予めN−6グレー色の中塗塗膜が形成された鋼板を溶剤脱脂した基材に硬化塗膜として20μmとなるようにエア霧化静電塗装し、室温約20℃の実験室に5分放置した後に、クリヤー塗料「ル−ガベ−ククリヤ−」(商品名、関西ペイント製、アクリル樹脂・アミノ樹脂系、有機溶剤型)をミニベル型回転式静電塗装機を用いて、ブ−ス温度25℃、湿度75%の条件で硬化塗膜として、30μmとなるように塗装した。塗装後、室温にて15分間放置した後に、熱風循環式乾燥炉内を使用して、140℃で30分間加熱し、複層塗膜を同時に乾燥硬化せしめて、測定に供する塗板を作成する。
【0015】
得られた塗板のIV値を、関西ペイント(株)製、「アルコープLMR−200H」を用いて測定した。具体的には、入射角45度で照射されたレーザー光源からの反射光を正反射光に対して10度の角度の受光器で受光した光強度IV値を求める。
【0016】
本発明のメタリック塗料組成物において、塗膜形成されたときの鱗片状アルミニウム顔料のIV値が250を超えると、複層塗膜のハイライトの明度が高くなりすぎて、後述する鱗片状干渉性顔料による干渉色の発現を阻害する問題が生じ、IV値が100未満のものを使用した場合には逆にハイライトの明度が不足する問題が生じる。
【0017】
上記鱗片状アルミニウム顔料の大きさは、平均粒径が5〜30μmの範囲内のものを使用することが、塗装された塗膜の仕上がり性やハイライトの明度の点から好ましく、より好ましくは粒径が7〜25μmの範囲内もの、特に好ましくは8〜23μmの範囲内ものである。厚さは0.05〜0.5μmの範囲内のものを使用することが好ましい。ここでいう粒径及び厚さは、光学顕微鏡又は電子顕微鏡で該鱗片状アルミニウム顔料を観察して得られた数値又はレーザー回折法等のレーザーを用いた粒度分布測定装置で測定された数値を意味する。
【0018】
また、鱗片状アルミニウム顔料の含有量は、塗装して得られる塗膜の仕上がり性の点から、塗料中の樹脂固形分100質量部に対して、合計で0.1〜25質量部の範囲内が好ましく、より好ましくは0.3〜20質量部の範囲内、特に好ましくは0.5〜20質量部の範囲内である。
【0019】
本発明のメタリック塗料組成物は、塗装して得られる塗膜のハイライト(正反射光近傍)において干渉色を発現して微妙な色相変化を生じさせることを目的として、鱗片状干渉性顔料を含有する。
【0020】
鱗片状干渉性顔料とは、半透明な鱗片状基材に金属酸化物を被覆したものであって、被覆された金属酸化物の種類や被覆層の厚さによって干渉色を生じる顔料である。半透明な基材としては、マイカ、人工マイカ、ガラス、シリカ及び酸化アルミニウムを用いたものが知られており、被覆する金属酸化物としては、酸化チタンや酸化鉄が知られている。本発明の塗料組成物に含有せしめる鱗片状干渉性顔料としては特に制限されるものではないが、複層塗膜におけるハイライトの干渉色発現やシェードにおける白さの点から、シリカフレーク又は人工マイカを基材とし、酸化チタンを被覆したものを使用することが好適である。人工マイカとは、SiO、MgO、Al、KSiF、NaSiF等の工業原料を加熱し、約1500℃の高温で熔融し、冷却して結晶化させて合成したものであり、天然のマイカと比較した場合において、不純物が少なく、大きさや厚さが均一なものである。具体的には、フッ素金雲母(KMgAlSi10)、カリウム四ケイ素雲母(KMg25AlSi10)、ナトリウム四ケイ素雲母(NaMg25AlSi10)、Naテニオライト(NaMgLiSi10)、LiNaテニオライト(LiMgLiSi10)等が知られている。
【0021】
上記鱗片状干渉顔料の大きさは、平均粒径が3〜40μmの範囲内のものを使用することが、塗装された塗膜の仕上がり性やハイライトの明度の点から好ましく、より好ましくは粒径が5〜30μmの範囲内もの、特に好ましくは6〜25μmの範囲内ものである。厚さは0.05〜0.5μmの範囲内のものを使用することが好ましい。ここでいう粒径及び厚さは、光学顕微鏡又は電子顕微鏡で該鱗片状干渉顔料を観察して得られた数値又はレーザー回折法等のレーザーを用いた粒度分布測定装置で測定された数値を意味する。
【0022】
また、鱗片状干渉顔料の含有量は、塗装して得られる塗膜の仕上がり性の点から、塗料中の樹脂固形分100質量部に対して、合計で0.1〜25質量部の範囲内が好ましく、より好ましくは0.3〜23質量部の範囲内、特に好ましくは0.5〜20質量部の範囲内である。
【0023】
本発明のメタリック塗料組成物において、上記鱗片状アルミニウム顔料と鱗片状干渉顔料の合計の含有量は、塗膜の仕上がり性の点から、塗料中の樹脂固形分100質量部に対して、合計で0.2〜35質量部の範囲内が好ましく、より好ましくは0.5〜30質量部の範囲内、特に好ましくは1〜25質量部の範囲内である。
【0024】
また、鱗片状アルミニウム顔料と鱗片状干渉顔料の含有量の比は、鱗片状干渉顔料の含有量が鱗片状アルミニウム顔料のそれと同量かそれ以上であることが好ましく、具体的には、鱗片状アルミニウム顔料と鱗片状干渉顔料の質量比として1/1〜1/6の範囲内とすることが、ハイライトの白さ及び干渉色の発現の点から好ましい。
【0025】
本発明のメタリック塗料組成物は、塗装して得られる塗膜の白さを維持可能な範囲内において、色相を微調整することを目的として、着色顔料を含有することができる。着色顔料としては、特に制限されるものではないが、具体的には、透明性酸化鉄顔料、チタンイエロー等の複合酸化物顔料等の無機顔料やアゾ系顔料、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属キレートアゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、アンスラキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、スレン系顔料、インジゴ系顔料等の有機顔料、カーボンブラック顔料等の中から任意のものを1種もしくはそれ以上を組み合わせて使用することができる。
【0026】
本発明のメタリック塗料組成物に着色顔料を配合せしめる場合その含有量は、塗膜のハイライトにおける白さの点から、塗料中の樹脂固形分100質量部に対し0.01〜30質量部の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.1〜25質量部、特に好ましくは0.2〜20質量部の範囲内であることが好ましい。
【0027】
本発明のメタリック塗料組成物には、通常、ビヒクルとして、樹脂成分を含有することができる。樹脂成分としては、具体的には、水酸基などの架橋性官能基を有する、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂などの基体樹脂と、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネ−ト化合物(ブロック体も含む)などの架橋剤とを併用したものが挙げられ、これらは有機溶剤及び/又は水などの溶媒に溶解または分散して使用される。
【0028】
さらに、本発明のメタリック塗料組成物には、必要に応じて、水あるいは有機溶剤等の溶媒、顔料分散剤、沈降防止剤、硬化触媒、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、表面調整剤、レオロジーコントロール剤等の各種添加剤、体質顔料などを適宜配合することができる。
【0029】
本発明のメタリック塗料組成物は、前述の成分を混合分散せしめることによって調製される。塗装時の固形分含有率を、塗料組成物に基づいて、12〜60質量%、好ましくは15〜50質量%に、また、20℃における粘度を15〜20秒/フォ−ドカップ#3に調整しておくことが好ましい。
【0030】
次に本発明の塗膜形成方法について説明する。本発明の塗膜形成方法においては、上記の如きメタリック塗料組成物を基材に塗装し、さらに得られた塗膜上にクリヤー塗料を塗装する。
【0031】
基材としては、鉄、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム等の金属やこれらを含む合金、及びこれらの金属によるメッキまたは蒸着が施された成型物、ならびに、ガラス、プラスチックや発泡体などによる成型物等を挙げることができる。さらにこれらの素材に応じて適宜、脱脂処理や表面処理を行なったものを基材とすることができる。さらに、上記基材に下塗り塗膜や中塗り塗膜を形成させて基材とすることもでき、これらのものが特に好ましい。
【0032】
上記下塗り塗膜とは、素材表面を隠蔽したり、素材に防食性及び防錆性などを付与するために形成されるものであり、下塗り塗料を塗装し、乾燥、硬化することによって得ることができる。この下塗り塗料種としては特に限定されるものではなく、例えば、電着塗料、溶剤型プライマー等を挙げることができる。
【0033】
また、上記中塗り塗膜とは、素材表面や下塗り塗膜を隠蔽したり、付着性や耐チッピング性などを付与したり、複層塗膜における明度を調整するために形成されるものであり、素材表面や下塗り塗膜上に、中塗り塗料を塗装し、乾燥、硬化することによって得ることができる。中塗り塗料種は、特に限定されるものではなく、既知のものを使用でき、例えば、熱硬化性樹脂組成物及び着色顔料を必須成分とする有機溶剤系又は水系の中塗り塗料を好ましく使用できる。
【0034】
特に基材として、下塗り塗膜あるいは中塗り塗膜を形成させる場合においては、下塗り
塗膜及び中塗り塗膜を加熱し、架橋硬化後に前述のメタリック塗料組成物を塗装することができる。あるいは、下塗り塗膜を加熱し、架橋硬化後に中塗り塗膜を形成せしめ、中塗り塗膜が未硬化の状態で、前述のメタリック塗料組成物又は後述するカラーベース塗料を塗装することもできる。又は、下塗り塗膜及び中塗り塗膜が未硬化の状態で前述のメタリック塗料組成物又は後述するカラーベース塗料を塗装してもよい。
【0035】
本発明の塗膜形成方法においては、基材のL*a*b*表色系における明度L*を40〜90の範囲内とすることができる。L*a*b*表色系とは、1976年に国際照明委員会で規定され、JIS Z 8729にも採用されている表色系であり、L*は明度を表わす数値である。明度の測定は、多角度分光光度計や光の照射角度及び受光角度を変えることができる測色計を用いて測定することができるが、本明細書において、明度L*は、乾燥硬化した塗膜をMA−68II(商品名、多角度分光光度計、x−rite社製)を使用して、塗膜に対して45度から照射した光を正反射光から45度の角度で受光したときの分光反射率から計算して得られた数値とする。
【0036】
上記明度L*が40以上の塗膜を基材とする場合、上記中塗塗膜の明度を調整することができるが、上記下塗り塗膜及び/又は中塗り塗膜上に、後述するカラーベース塗料を塗装せしめて得られた塗膜を基材としてもよい。
【0037】
カラーベース塗料は、着色材として酸化チタン顔料を含有する。酸化チタン顔料は、屈折率が高いことから塗料分野において、白色顔料として広く使用されているものであり、結晶形によってルチル型とアナターゼ型があり、本発明においてはいずれを使用しても良いが、耐候性の点からルチル型を使用することができる。また、分散性や耐候性を向上させることを目的として、表面をシリカ、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム等の無機化合物で処理したものを使用しても良い。隠蔽力の点から、一次粒子径が100〜400nmの範囲内のものを使用することが好ましく、さらに好ましくは、200〜300nmの範囲内のものである。
【0038】
カラーベース塗料への酸化チタン顔料の含有量は、隠蔽性や仕上がり性の点から、後述するビヒクル形成成分である樹脂固形分100質量部に対して、30〜250質量部が好ましく、特に好ましくは、50〜120質量部である。
【0039】
カラーベース塗料には、酸化チタン顔料の他にも、複層塗膜の色相や明度を調整することを目的として、着色顔料を配合することができる。着色顔料としては、特に制限されるものではないが、具体的には、透明性酸化鉄顔料、チタンイエロー等の複合酸化物顔料等の無機顔料やアゾ系顔料、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属キレートアゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、アンスラキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、スレン系顔料、インジゴ系顔料等の有機顔料及びカーボンブラック顔料等の中から任意のものを1種もしくはそれ以上を組み合わせて使用することができる。
【0040】
本発明において、カラーベース塗料に着色顔料を配合せしめる場合その含有量は、複層塗膜の明度の点から、樹脂固形分100質量部に対し0.01〜30質量部の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.02〜25質量部の範囲内であることが好ましい。
【0041】
カラーベース塗料には、通常、ビヒクルとして、樹脂成分を含有することができる。樹脂成分としては、具体的には、水酸基などの架橋性官能基を有する、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂などの基体樹脂と、必要に応じてメラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネート化合物(ブロック体も含む)などの架橋剤とを併用したものが挙げられ、これらは有機溶剤及び/又は水などの溶媒に溶解または分散して使用される。
【0042】
さらに、カラーベース塗料には、必要に応じて、水あるいは有機溶剤等の溶媒、顔料分散剤、沈降防止剤、硬化触媒、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、レオロジーコントロール剤等の各種添加剤、体質顔料などを適宜配合することができる。
【0043】
カラーベース塗料は、静電塗装、エアスプレー、エアレススプレーなどの方法で塗装することができ、その膜厚は硬化塗膜に基づいて5〜100μmの範囲内とするのが、基材を隠蔽する点や塗膜の平滑性の点から好ましく、より好ましくは10〜70μmの範囲内である。カラーベース塗料による塗膜は通常、焼き付け乾燥型の場合、通常、約50〜約180℃の温度で架橋硬化させることができ、常温乾燥型又は強制乾燥型の場合には、通常、常温乾燥〜約80℃の温度で架橋硬化させることができる。
【0044】
本発明の塗膜形成方法において、カラーベース塗料による塗膜を基材とする場合、カラーベース塗料を塗装後、加熱し、架橋硬化せしめて基材とすることができるが、カラーベース塗料による塗膜が未硬化の状態で基材としても良い。
【0045】
本発明のメタリック塗料組成物は、上記各種基材に静電塗装、エアスプレ−、エアレススプレーなどの方法で塗装することができ、その膜厚は硬化塗膜に基づいて5〜30μmの範囲内とするのが、塗膜の平滑性の点から好ましい。通常、所定の膜厚となるように塗装した後に、加熱し、乾燥硬化せしめることができるが、未硬化の状態で後述するクリヤー塗料を塗装することができる。本発明のメタリック塗料組成物の塗膜それ自体は、焼き付け乾燥型の場合、通常、約50〜約180℃の温度で架橋硬化させることができ、常温乾燥型又は強制乾燥型の場合には、通常、常温乾燥〜約80℃の温度で硬化させることができる。
【0046】
本発明方法におけるクリヤー塗料は、前述のメタリック塗料組成物の未硬化もしくは硬化させてなる塗面に塗装する塗料であり、樹脂成分および溶剤を主成分とし、さらに必要に応じてその他の塗料用添加剤などを配合してなる無色もしくは有色の透明塗膜を形成する液状塗料である。
【0047】
本発明方法におけるクリヤー塗料としては、従来公知のものが制限なく使用できる。例
えば、基体樹脂及び架橋剤を含有する液状もしくは粉体状の塗料組成物が適用できる。基
体樹脂の例としては、水酸基、カルボキシル基、シラノ−ル基、エポキシ基などの架橋性
官能基を含有する、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、フッ素樹脂、ウレ
タン樹脂、シリコン含有樹脂などが挙げられる。架橋剤としては、前記基体樹脂の官能基
と反応しうるメラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネ−ト化合物、ブロックポリイソシ
アネ−ト化合物、エポキシ化合物又は樹脂、カルボキシル基含有化合物又は樹脂、酸無水
物、アルコキシシラン基含有化合物又は樹脂等が挙げられる。また、必要に応じて、水や
有機溶剤等の溶媒、硬化触媒、消泡剤、紫外線吸収剤、レオロジーコントロール剤、酸化
防止剤、表面調整剤等の添加剤を適宜配合することができる。
【0048】
本発明方法におけるクリヤー塗料には、透明性を損なわない範囲内において、着色顔料
を適時配合することができる。着色顔料としては、インク用、塗料用として従来公知の顔
料を1種あるいは2種以上を組み合わせて配合することができる。その添加量は、適宜決
定されて良いが、クリヤー塗膜中の樹脂固形分100質量部に対して、固形分として30
質量部以下、好ましくは0.01〜15質量部、特に好ましくは0.1〜10質量部の範
囲内である。
【0049】
本発明方法におけるクリヤー塗料は、静電塗装、エアスプレ−、エアレススプレ−などの方法で塗装することができ、その膜厚は硬化塗膜に基づいて15〜70μmの範囲内とするのが好ましい。クリヤー塗料の塗膜それ自体は、焼き付け乾燥型の場合、通常、約50〜約180℃の温度で架橋硬化させることができ、常温乾燥型又は強制乾燥型の場合には、通常、常温乾燥〜約80℃の温度で架橋硬化させることができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、「部」及び「%」はいずれも質量基準によるものである。
(製造例1)水酸基含有アクリル樹脂の製造
温度計、サーモスタット、撹拌器、還流冷却器及び滴下装置を備えた反応容器にエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート50部を仕込み、撹拌混合し、135℃に昇温した。次いで下記のモノマー/重合開始剤の混合物を3時間かけて、同温度に保持した反応容器内に滴下し、滴下終了後1時間熟成を行なった。その後、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート10部、2,2‘−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)0.6部からなる混合物を135℃に保持した反応容器内に1時間30分かけて滴下し、さらに2時間熟成した。次にエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートを減圧下で留去し、樹脂固形分65質量%の水酸基含有アクリル樹脂溶液を得た。得られた水酸基含有樹脂は、水酸基価54mgKOH/g、数平均分子量20,000であった。ここで数平均分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって標準ポリスチレンの検量線を用いて測定したものを意味する。
モノマー/重合開始剤の混合物:
メチルメタクリレ−ト38部、エチルアクリレ−ト17部、n−ブチルアクリレ−ト17部、ヒドロキシエチルメタクリレ−ト7部、ラウリルメタクリレ−ト20部及びアクリル酸1部及び2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)2部からなる混合物。
【0051】
(塗膜形成されたときの鱗片状アルミニウム顔料のIV値測定)
実施例及び比較例のメタリック塗料組成物に配合せしめる塗膜形成されたときの鱗片状アルミニウム顔料のIV値を次に示す要領で測定し、結果を表1欄外に示した。予め測定に供する鱗片状アルミニウム顔料にエチレングリコールモノブチルエーテルを加えて攪拌し、固形分50質量%の高濃度鱗片状アルミニウム顔料液を調製し、製造例1で得た水酸基含有アクリル樹脂溶液を固形分として75部、ユーバン28−60(商品名、ブチルエーテル化メラミン樹脂、三井化学社製)を固形分として25部からなるビヒクル形成成分である樹脂固形分100質量部に対して、鱗片状アルミニウム顔料の固形分が20質量部となるように添加し、さらに有機溶剤を加えて攪拌混合し、20℃における粘度を20秒/フォ−ドカップ#3の塗料を調製した。得られた塗料を予めN−6グレー色の中塗塗膜が形成された鋼板を溶剤脱脂した基材に硬化塗膜として20μmとなるようにエア霧化静電スプレー塗装し、室温約20℃の実験室に5分放置した後に、クリヤー塗料「ル−ガベ−ククリヤ−」(商品名、関西ペイント製、アクリル樹脂・アミノ樹脂系、有機溶剤型)をミニベル型回転式静電塗装機を用いて、ブ−ス温度25℃、湿度75%の条件で硬化塗膜として、30μmとなるように塗装した。塗装後、室温にて15分間放置した後に、熱風循環式乾燥炉内を使用して、140℃で30分間加熱し、複層塗膜を同時に乾燥硬化せしめて、測定に供する塗板を作成した。
【0052】
得られた塗板のIV値を、関西ペイント(株)製、「アルコープLMR−200H」を用いて測定した。具体的には、入射角45度で照射されたレーザー光源からの反射光をせ正反射光に対して10度の角度の受光器で受光した光強度IV値を求めた。
実施例1〜8,比較例1〜3
(塗料組成物の調製)
製造例1で得た水酸基含有アクリル樹脂溶液を固形分として75部、ユーバン28−60(商品名、ブチルエーテル化メラミン樹脂、三井化学社製)を固形分として25部からなるビヒクル形成成分である樹脂固形分100質量部に対して、鱗片状アルミニウム顔料及び鱗片状干渉顔料を表1に示す比率で配合して攪拌混合し、さらに有機溶剤を加えて希釈して、固形分約25%の有機溶剤型塗料を調製し、実施例及び比較例に使用するメタリック塗料組成物1〜9を調製した。
【0053】
【表1】

【0054】
(カラーベース塗料の調製)
製造例1で得られた水酸基含有アクリル樹脂75部、ユーバン28−60(商品名、ブチルエーテル化メラミン樹脂、三井化学社製)25部からなる樹脂成分100部(固形分)あたり、酸化チタン顔料(TIPAQUE CR−95,石原産業社製)及びカーボンブラック顔料(BLACK PEARLS 1300,CABOT CORP.製、一次平均粒子径13nm)を表2に示す比率で配合して攪拌混合し、塗装に適正な粘度に希釈して、固形分約25%の有機溶剤型塗料を調製し、カラーベース塗料1〜3を調製した。
【0055】
得られたカラーベース塗料による塗膜のL*a*b*表色系における明度L*を測定し、結果を表2に示した。具体的には、溶剤脱脂したブリキ板に硬化塗膜として20μmとなるようにカラーベース塗料をエアスプレー塗装し、室温約20℃の実験室に15分放置した後に熱風循環式乾燥炉内を使用して、140℃で30分間加熱して乾燥せしめた塗板をMA−68II(商品名、多角度分光光度計、x−rite社製)を使用して、塗膜に対して45度から照射した光を正反射光から45度の角度で受光したときの分光反射率から計算して得られた数値で示した。
【0056】
【表2】

【0057】
(試験板の作成)
基材1の調製
脱脂及びりん酸亜鉛処理した鋼板(JISG3141、大きさ400×300×0.8mm)にカチオン電着塗料「エレクロン9400HB」(商品名:関西ペイント株式会社製、エポキシ樹脂ポリアミン系カチオン樹脂に硬化剤としてブロックポリイソシアネ−ト化合物を使用したもの)を硬化塗膜に基づいて膜厚20μmになるように電着塗装し、170℃で20分加熱して架橋硬化させて電着塗膜を得た。
【0058】
得られた電着塗面に、中塗塗料「ル−ガベ−ク中塗りグレ−」(商品名:関西ペイント株式会社製、ポリエステル樹脂・メラミン樹脂系、有機溶剤型)をエアスプレーにて硬化塗膜に基づいて膜厚30μmになるように塗装し、140℃で30分加熱して架橋硬化させて、中塗塗膜を形成した塗板を基材1とした。基材1のL*a*b*表色系における明度L*を前記カラーベース塗膜と同様に測定し、数値を表3に示した。
(2)基材2〜4の調製
基材1と同様にして、中塗塗膜を調製し、得られた中塗塗膜上に、前記カラーベース塗料1〜3をエアスプレーにて硬化塗膜に基づいて膜厚20μmになるように塗装し、140℃で30分加熱して架橋硬化させて、基材2〜4とした。
(3)メタリック塗料組成物1〜9及びクリヤー塗料の塗装
上記基材にメタリック塗料組成物1〜9をエアスプレーを用いて、硬化塗膜として20μmとなるように塗装し、塗装後、室温約20℃の実験室に約15分静置し、その後にクリヤー塗料「ル−ガベ−ククリヤ−」(商品名:関西ペイント製、アクリル樹脂・アミノ樹脂系、有機溶剤型)をミニベル型回転式静電塗装機を用いて、ブ−ス温度25℃、湿度75%の条件で硬化塗膜として、30μmとなるように塗装した。塗装後、室温にて15分間放置した後に、熱風循環式乾燥炉内を使用して、140℃で30分間加熱し、複層塗膜を同時に乾燥硬化せしめて試験板を得た。
(評価)
上記試験板の意匠性を以下の要領にて評価し、結果を表3に示した。
【0059】
【表3】

【0060】
(1)目視による評価
作成した塗板を、人工太陽灯(セリック社製、色温度6500K)で照明し、試験板の照明に対する角度を変えて観察して、シェードの白さ及びハイライトにおける干渉色の発現を目視にて評価した。評価は、色彩開発に3年以上従事するデザイナー2名と技術者3名の計5名が行ない、平均点を採用した。
シェードの白さ
4:シェードの白さを強く知覚できる。
3:シェードの白さを知覚できる。
2:シェードの白さが弱く知覚できる。
1:シェードの白さを知覚できない。
ハイライトにおける干渉色の発現
ハイライト(正反射光近傍)で塗板を観察し、塗板と観察者の視線との関係を微妙に変化させた場合において、
4:干渉色の発現が著しい。
3:干渉色が発現が強い。
2:干渉色の発現が弱い。
1:干渉色の発現がない。
(2)測色による評価
作成した塗板の複数の観察角度における分光反射率をX−Rite社製のMA−68II(商品名)を使用して測定し、測定した分光反射率からシェードに白さを表わす数値として、正反射光に対して75度の受光角度における明度L*、ハイライトにおける干渉色の発現を表わす数値として15度の受光角度における彩度C*15と45度の受光角度における彩度C*45との比(C*15/C*45)を計算した。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のメタリック塗料組成物及び塗膜形成方法は、各種工業製品、特に自動車外板に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鱗片状アルミニウム顔料及び鱗片状干渉性顔料を含むメタリック塗料組成物であって、塗膜形成されたときの鱗片状アルミニウム顔料のIV値が100以上250以下であるメタリック塗料組成物。
【請求項2】
鱗片状干渉性顔料が、半透明な鱗片状基材に酸化チタンを被覆したものであって且つ該鱗片状基材が人工マイカ又はシリカフレークである請求項1に記載のメタリック塗料組成物。
【請求項3】
鱗片状アルミニウム顔料の含有量が、塗料組成物中のビヒクル形成成分である樹脂固形分100質量部に対して固形分として0.1〜25質量部の範囲内である請求項1又は請求項2に記載のメタリック塗料組成物。
【請求項4】
鱗片状アルミニウム顔料と鱗片状干渉顔料の質量比が、前者/後者の比で、1/1〜1/6の範囲内である請求項1〜3に記載のメタリック塗料組成物。
【請求項5】
基材に、請求項1〜4のいずれか1項に記載されたメタリック塗料組成物を塗装し、さらにクリヤー塗料を塗装する塗膜形成方法。
【請求項6】
基材のL*a*b*表色系における明度L*が40〜90の範囲内である請求項5に記載の塗膜形成方法。

【公開番号】特開2011−162732(P2011−162732A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29890(P2010−29890)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】