説明

メタルガスケット

【課題】高温のガスが通過するガス管路のフランジ接合部に配設しても熱変形によるガス漏れの発生を効果的に防止できるメタルガスケットを提供する。
【解決手段】弾性を有する金属薄板1a、1bから成り、ガス通路穴2を取り囲んでシール用の環状ビードを形成したメタルガスケットにおいて、ガス通路穴2を少なくとも2重に取り囲むように、複数の環状ビード7a、7b及び10a、10bを形成し、ガス通路穴2に近い内側の環状ビード7a、7bは、シール面に対する押し付け力を小さくしてガスの一部を外側に導くように構成し、フランジの温度勾配を小さくして熱変形を小さくし、最外側の環状ビード10a、10bにて完全にシールするようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタルガスケットに関し、特に高温の排気ガスが流通する排気集合管等のフランジ接合部のシールに好適に適用されるメタルガスケットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
排気集合管などのフランジ接合部のシールに好適に適用できるガスケットとして、弾性を有する金属薄板から成り、ガス通路穴を取り囲んでシール用の環状ビードを形成したメタルガスケットが知られている。さらに、図4、図5に示すように、2枚の金属薄板21a、21bを積層して成り、これら2枚の金属薄板21a、21bを貫通させて形成したガス通路穴22の周囲を取り囲むようにハーフビード形状の環状ビード23a、23bを形成したメタルガスケット21も知られている(例えば、特許文献1参照)。このメタルガスケット21は、図5に示すように、ガス通路穴22に対して半径方向に所定距離離れた位置から半径方向内側に向けて2枚の金属薄板21a、21bが互いに離間するように傾斜した環状傾斜面24a、24bを形成するとともに、その内周からガス通路穴22を取り囲む環状平面部25a、25bを形成して成り、環状傾斜面24a、24bの内周頂部がハーフビード形状の環状ビード23a、23bを構成するものであり、図6に示すように、このメタルガスケット21をフランジ26a、26b間で挟圧することで、環状傾斜面24a、24bが押し込まれるのに伴って環状平面部25a、25bが内傾して環状傾斜面24a、24bの内周頂部が環状ビード23a、23bとしてフランジ26a、26bのシール面に圧接されることでシールが確保されるものである。
【0003】
なお、特許文献1に記載された発明のメタルガスケットは、その環状ビードを、平坦部から互いに逆方向に突出するとともに互いに連続する2つの山形部分を有する波形状に形成することで、締結部分の締め付け力や熱変形が不均一になり、環状ビードの不均一な潰れが生じても均一なシール面圧を確保できるようにしたものである。
【0004】
また、内環と外環との間に、互いに逆方向に交互に突出する複数の環状ビードを形成した中間環を挟持させるとともに、内環と外環を熱膨張係数の小さい金属にて構成し、中間環は熱膨張係数の大きい金属にて構成したガスケットを用いることで、ガスケットを挟圧するフランジに熱変形が生じても環状ビードがその熱変形に追従してセルフシール機能を奏するようにしたものも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2002−54502号公報(段落0003、図8)
【特許文献2】実開昭61−23451号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、図4〜図6に示した構成のメタルガスケット21を排気集合管のフランジ接合部に適用した場合、フランジ26a、26bの内周のガス通路穴22が高温の排気ガスに晒される一方、外周側はエンジンルームの雰囲気温度に晒されているためにフランジ26a、26bに大きな熱勾配が生じて熱変形が発生し、それによってメタルガスケット21の環状ビード23a、23bのフランジ26a、26bのシール面に対するシール面圧が低下した状態となる。その状態でアクセル調整等によって排気ガス圧力が変動すると、排気ガス圧力が高くなったときに微少量の排気ガスの漏れが発生し、それによってフランジ26a、26bのシール面近傍が温度上昇することになってフランジ26a、26bの熱変形がさらに大きくなってしまい、その結果メタルガスケット21の環状ビード23a、23bのフランジ26a、26bのシール面との間でのシールができなくなり、ガス漏れが進行するという問題がある。
【0006】
また、特許文献1に記載されたメタルガスケットでは、シール部のガス通路穴の半径方向に沿う断面形状を波形状に形成することで、フランジに発生した熱変形に環状ビードが追従するようにしているが、熱変形が大きいと変形に対する追従性とシール面圧の確保とが背反して実際にはシール性の確保が困難であるという問題がある。
【0007】
また、特許文献2に記載されたメタルガスケットでは、互いに逆方向に交互に突出する複数の環状ビードを形成した中間環を用い、かつ内環及び外環と中間環に熱膨張差を持たせていることで追従性は改善される可能性はあるが、構成が複雑であるためコスト高になるという問題がある。
【0008】
本発明は、上記従来の問題点に鑑み、高温のガスが通過するガス管路のフランジ接合部に配設しても熱変形によるガス漏れの発生を効果的に防止できるメタルガスケットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のメタルガスケットは、弾性を有する金属薄板から成り、ガス通路穴を取り囲んでシール用の環状ビードを形成したメタルガスケットにおいて、ガス通路穴を少なくとも2重に取り囲むように、複数の環状ビードを形成し、ガス通路穴に近い内側の環状ビードは、シール面との間を通してガスの一部を外側に導くように構成し、最外側の環状ビードにて完全にシールするようにしたものである。
【0010】
高温のガスが通過するガス管路のフランジ接合部にシール用の環状ビードを形成したメタルガスケットを配設したときには、高温のガスによってフランジのガス通路に臨む部分が高温になり、フランジのガス通路に臨む内周と外周側との間に大きな温度勾配が発生し、フランジのシール面に熱変形を生じてガス漏れを発生する恐れがあるが、上記構成のメタルガスケットによると、ガス通路穴を高温のガスが圧力変動を伴って通過すると、その高温のガスが、ガス通路穴に近い内側の環状ビードとシール面との間を通して内側の環状ビードと外側の環状ビードとの間の空間に流入・流出を繰り返してこの空間に臨むフランジのシール面の温度が上昇することになり、それによってフランジのガス通路に臨む内周と外周側との間の温度勾配が小さくなり、その結果フランジの熱変形が小さくなり、最外側の環状ビードによるシール機能が効果的に発揮され、確実にシール性の向上を図ることができる。
【0011】
また、ガス通路穴に近い内側の環状ビードのシール面に対する押し付け圧力を、外側の環状ビードのシール面に対する押し付け圧力よりも弱くした構成とすると、フランジのガス通路に臨む内周と外周側との間に大きな温度勾配が発生して熱変形が生じると、内側の環状ビードとシール面との間のシール面圧が極めて小さく若しくは微細な隙間を生じた状態となり、通過する高温のガスの圧力変動に伴って上記のように内側の環状ビードと外側の環状ビードとの間の空間に対して高温のガスが確実に流入・流出を繰り返すため、上記作用効果が確実に得られる。
【0012】
なお、フランジに温度勾配による熱変形を生じる時に、内側の環状ビードと外側の環状ビードとの間の空間に高温のガスを流入・流出させるには、内側の環状ビードに極く微小な切欠やスリットを設けたり、粗面に形成したり、内側の環状ビード部分を異なる材質で構成したりすることもできる。しかし、上記のように内側の環状ビードの押し付け圧力を小さくした構成とすると、内側の環状ビードに特別な加工を施したり、材質を変更したりする必要がなく、ガスケットを単一の材質にて構成できるので、安価に製造することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のメタルガスケットによれば、ガス通路穴を高温のガスが圧力変動を伴って通過すると、内側の環状ビードと外側の環状ビードとの間の空間に対して高温のガスが流入・流出を繰り返し、この空間に臨むフランジのシール面の温度が上昇し、それによってフランジの温度勾配が小さくなってフランジの熱変形が小さくなり、最外側の環状ビードによるシール機能が効果的に発揮され、確実にシール性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明のメタルガスケットの一実施形態について、図1〜図3を参照して説明する。
【0015】
図1、図2において、本実施形態のメタルガスケット1は、図2に示すように、2枚の金属薄板1a、1bを積層して成る積層型メタルガスケットである。これら2枚の金属薄板1a、1bの略中央部を貫通してガス通路穴2が形成されており、外形状は、このメタルガスケット1が配置されるフランジ接合部3(図3参照)のフランジ3a、3bの形状に略対応して任意の形状に構成されている。ガス通路穴2は、当然のことながらフランジ3a、3bにも形成されている。また、メタルガスケット1の外周部の適所に、メタルガスケット1を間に介装してフランジ3a、3bを締結する複数の締結ボルト穴4が設けられている。
【0016】
メタルガスケット1は、図2に示すように、ガス通路穴2の内周から径方向外側に所定距離R1の位置から径方向内側に向けて2枚の金属薄板1a、1bが互いに離間するように傾斜した環状の内側傾斜面5a、5bが形成されるとともに、その内周からガス通路穴2を取り囲む環状平面部6a、6bが形成され、内側傾斜面5a、5bの内周頂部にてハーフビード形状の内側の環状ビード7a、7bが構成されている。また、ガス通路穴2の内周から距離R1の位置より距離Dだけ外側の距離R2の位置から径方向外側に向けて2枚の金属薄板1a、1bが互いに離間するように傾斜した環状の外側傾斜面8a、8bが形成されるとともに、その外周からメタルガスケット1の外周縁に向けて平板部9a、9bが形成され、外側傾斜面8a、8bの外周頂部にてハーフビード形状の外側の環状ビード10a、10bが構成されている。
【0017】
両金属薄板1a、1bにおける内側傾斜面5a、5b及び外側傾斜面8a、8bは、内側の環状ビード7a、7b間の距離W1が外側の環状ビード10a、10b間の距離W2よりも小さくなるように形成されている。また、各金属薄板1a、1bにおいて、内側の環状ビード7a、7bと外側の環状ビード10a、10bとの間に、これら環状ビード7a、10a及び7b、10bが当接するフランジ3a、3bのシール面を底辺とする断面台形状の環状空間11a、11bが形成されている。なお、両金属薄板1a、1bが互いに分離しないように結合するため、図1に示すように、両金属薄板1a、1bの外縁部の適所、図示例では締結ボルト穴4の配置箇所近傍の外縁部の一部が互いに当接するように折曲して重合され、その重合部がスポット溶接12にて一体結合されている。
【0018】
このメタルガスケット1を、図3に示すように、フランジ接合部3のフランジ3a、3b間に配置してフランジ3a、3bを締結ボルトにて締結すると、内側の環状ビード7a、7b及び外側の環状ビード10a、10bがフランジ3a、3bのシール面にて押圧され、内側傾斜面5a、5b及び外側傾斜面8a、8bが押し込まれ、それに伴って環状平面部6a、6b及び平板部9a、9bが内傾して内側の環状ビード7a、7b及び外側の環状ビード10a、10bがフランジ3a、3bのシール面に圧接される。その際に、ガス通路穴2に近い内側の環状ビード7a、7b間の距離W1が、外側の環状ビード10a、10b間の距離W2よりも小さく設定されているので、内側の環状ビード7a、7bのシール面に対する押し付け圧力が、外側の環状ビード10a、10bのシール面に対する押し付け圧力よりも弱くなる。
【0019】
以上の構成のメタルガスケット1によれば、図3に示すように、排気集合管のフランジ接合部3にフランジ3a、3b間に配設したときに、高温の排気ガスによってフランジ3a、3bのガス通路穴2に臨む部分が高温になり、フランジ3a、3bのガス通路穴2に臨む内周と外周側との間に温度勾配が発生し、フランジ3a、3bに熱変形を生じ、従来例では上記温度勾配が大きいために、フランジ3a、3bのシール面に対する環状ビードの押し付け圧力に変化を生じ、ガス漏れの原因になる。しかし、本実施形態のメタルガスケット1によると、高温の排気ガスがアクセル調整に応じて圧力変動を伴ってガス通路穴2を通過すると、上記フランジ3a、3bの熱変形によって押し付け圧力の小さい内側の環状ビード7a、7bとフランジ3a、3bのシール面との間に生じた微小隙間を通して、高温の排気ガスが内側の環状ビード7a、7bと外側の環状ビード10a、10bとの間の環状空間11a、11bに流入したり、流出したりすることが繰り返される。それによって、環状空間11a、11bに臨むフランジ3a、3bのシール面の温度が上昇し、、フランジ3a、3bのガス通路穴2に臨む内周と外周側との間の温度勾配が小さくなる。その結果、フランジ3a、3bの熱変形が小さくなり、外側の環状ビード10a、10bによるシール機能が効果的に発揮され、シール性が確実に向上する。
【0020】
このように本実施形態においては、ガス通路穴2に近い内側の環状ビード7a、7bのフランジ3a、3bのシール面に対する押し付け圧力を、外側の環状ビード10a、10bのシール面に対する押し付け圧力よりも弱くなる構成としたことで、内側の環状ビード7a、7bに特別な加工を施したり、2枚の金属薄板1a、1bの材質を内周側と外周側等で変更したりすることなく単一の材質にて構成しながら、上記作用効果を確実に得ることができるメタルガスケット1を安価に製造することができる。
【0021】
なお、以上の説明では、内側の環状ビード7a、7bと外側の環状ビード10a、10bとの間の環状空間11a、11bに高温の排気ガスを流入・流出させる構成として、ガス通路穴2に近い内側の環状ビード7a、7bのシール面に対する押し付け圧力を、外側の環状ビード10a、10bのシール面に対する押し付け圧力よりも弱くなるようにした例を説明したが、内側の環状ビード7a、7bに極く微小な切欠を設けたり、粗面に形成したり、内側の環状ビード7a、7bの部分を異なる材質で構成したりしても良い。
【0022】
また、ガス通過穴2の形状が円形の例を示したが、その他の形状であっても良く、その場合環状ビード7a、7b及び10a、10bも対応した形状に形成すればよい。また、環状ビードを、内側と外側の環状ビード7a、7b及び10a、10bの2重に設けた例を示したが、3重以上に形成しても良い。
【0023】
さらに、上記実施形態では、2枚の金属薄板1a、1bを積層した2層構成のメタルガスケット1において、その両金属薄板1a、1bにガス通路穴2の周囲を2重に取り囲むようにハーフビード形状の環状ビード7a、7b及び10a、10bを形成した例を示したが、環状ビード7a、7b及び10a、10bはハーフビード形状に限らず、山形断面のビード形状であっても良い。
【0024】
また、本発明は、2層構成に限らず単板型のメタルガスケットにおいても適用することもできる。すなわち、ガス通路穴2の周囲を2重以上に取り囲むように内側と外側の複数条の環状ビードを形成するとともに、その環状ビードを特許文献1や特許文献2に記載されているような交互に反対側に突出する複数の山形形状部から成る波形状に形成した構成においても、それらの環状ビードを、ガス通路穴2に近い内側の環状ビードとシール面との間を通してガスの一部を外側に導くようにし、最外側の環状ビードにて完全にシールするようにすることによって同様の作用効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明のメタルガスケットは、内側の環状ビードと外側の環状ビードとの間の空間に高温のガスが流入してこの空間に臨むフランジの温度勾配が小さくなってフランジの熱変形が小さくするようにしているので、最外側の環状ビードによるシール機能が効果的に発揮されて確実にシール性の向上を図ることができ、高温の排気ガスが流通する排気集合管など、高温のガスが流通する管路のフランジ接合部におけるメタルガスケットに好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態のメタルガスケットの平面図。
【図2】図1のA−A矢視拡大断面図。
【図3】同実施形態のメタルガスケットの使用状態を示す断面図。
【図4】従来例のメタルガスケットの平面図。
【図5】図4のB−B矢視拡大断面図。
【図6】同従来例のメタルガスケットの使用状態を示す断面図。
【符号の説明】
【0027】
1 メタルガスケット
1a、1b 金属薄板
2 ガス通路穴
7a、7b 内側の環状ビード
10a、10b 外側の環状ビード
11a、11b 環状空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性を有する金属薄板から成り、ガス通路穴を取り囲んでシール用の環状ビードを形成したメタルガスケットにおいて、ガス通路穴を少なくとも2重に取り囲むように、複数の環状ビードを形成し、ガス通路穴に近い内側の環状ビードは、シール面との間を通してガスの一部を外側に導くように構成し、最外側の環状ビードにて完全にシールするようにしたことを特徴とするメタルガスケット。
【請求項2】
ガス通路穴に近い内側の環状ビードのシール面に対する押し付け圧力を、外側の環状ビードのシール面に対する押し付け圧力よりも弱くしたことを特徴とする請求項1記載のメタルガスケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−243540(P2009−243540A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88939(P2008−88939)
【出願日】平成20年3月29日(2008.3.29)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】