説明

メタルハライドランプ、紫外線照射装置

【課題】ランプ温度に耐え得る保温膜を電極周辺に塗布させ発光強度の向上を図る。
【解決手段】紫外線透過性の材料からなる気密容器11と、この気密容器11内に封装されている一対の耐火性金属からなる電極13a,13bと、気密容器11内にアーク放電を維持するのに十分な量の希ガス、水銀、ハロゲンを封入してメタルハライドランプを構成する。電極13a,13b周辺の気密容器11の外表面には無機接着剤による保温膜を形成した。これにより、電極周辺の薬品の蒸発を活発化させ、発光強度を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、紫外線を照射させるメタルハライドランプおよびこのランプを搭載し水冷冷却式の紫外線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の紫外線照射用光源は、紫外線照射ランプと紫外域選択波長透過フィルタ水冷ジャケット管内に保持された紫外線照射ランプから放射される波長300nm以下の紫外線が透過フィルタに達しないようにしてフィルタの紫外光による劣化を抑制し、紫外線出力働程特性を改善してランプの長寿命化が図られている。(例えば、特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−267509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した特許文献1の技術は、水冷式によるランプ温度上昇を抑制しているが、水冷式では電極周辺の鉄などの薬品の蒸発を活発化させる保護膜として一般的な白金、金油等を形成することが考えられる。このように保温膜では、ランプ点灯中に蒸発し、水冷ジャケットに保温膜が飛散し、照度の低下を招来する、という問題があった。
【0005】
この発明の目的は、電極周辺の薬品の蒸発を活発化させ、紫外線の発光強度の向上を図ることのできるメタルハライドランプおよび紫外線照射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決するために、この発明のメタルハライドランプは、紫外線透過性の材料からなる気密容器と、前記気密容器内に封装されている一対の耐火性金属からなる放電電極と、前記気密容器内に少なくとも希ガス、水銀、マグネシウム、鉄、タリウムおよびハロゲンが封入された封入物と、前記放電電極周辺の前記気密容器の表面に無機接着剤により形成された保温膜とを具備したことを特徴とする。
【0007】
また、この発明の紫外線照射装置は、紫外線透過性の材料で異なる管径の中心軸を同一にして配置した内管および外管から構成される円筒状の二重管と、前記二重管の内管内に配置した紫外線透過性の材料からなる気密容器内に、一対の耐火性金属からなる放電電極を封装し、該放電電極周辺の前記気密容器の表面に無機接着剤による保温膜を形成し、前記気密容器内に少なくとも希ガス、水銀、マグネシウム、鉄、タリウムおよびハロゲンが封入された封入物が封入されたメタルハライドランプと、前記二重管の内管と外管の間に冷却用媒体を流し、前記メタルハライドランプから発生の熱を冷却させる冷却機構と、を具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、電極周辺にランプ温度に耐え得る保温膜が電極周辺の薬品の蒸発を活発化させ、紫外線の発光強度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明のメタルハライドランプに関する一実施形態について説明するための基本構造図である。
【図2】図1の一部を拡大し切欠して示した構成図である。
【図3】この発明と従来の分光分布について説明するための説明図である。
【図4】この発明と従来の紫外線の発光強度の比率について説明するための説明図である。
【図5】この発明の紫外線照射装置に関する一実施形態について説明するためのシステム構造図である。
【図6】図5のI−I’線断面図である。
【図7】図5のII−II’線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0011】
図1、図2は、この発明のメタルハライドランプに関する一実施形態について説明するための、図1は基本構造図、図2は図1の一部を拡大し切欠して示した状態の構成図である。
【0012】
図1、図2において、紫外線透過性を有する例えば石英ガラスで放電空間10が形成された気密容器11の長手方向両端の内部には、例えばタングステン材で形成された電極121,122が間隔をおいて配置される。電極121,122は、それぞれインナーリード131,132を介して例えばモリブデン製の金属箔141,142の一端に溶接される。金属箔141,142の他端には、図示しないアウターリードの一端を溶接する。金属箔141,142の部分は気密容器11のインナーリード131,132からアウターリードの一端までの気密容器11を加熱して封止する。
【0013】
なお、金属箔141,142は、気密容器11を形成する石英ガラスの熱膨張率に近い材料であれば何でもよいが、この条件に適したものとして、一般的なモリブデンを使用する。
【0014】
金属箔141,142に一端がそれぞれ接続されたアウターリードには、耐熱性で絶縁性を有する例えばセラミック製のソケット151,152の内部で電気的に接続された給電用のリード線161,162を絶縁封止するとともに、図示しない電源回路に接続される。
【0015】
171,172は、電極121,122周辺の気密容器11の外表面に塗布された保温膜である。保温膜171,172は、シリカ、アルミナ、ポリアクリル酸を主成分とする無機接着剤を塗布し焼成して形成される。
【0016】
さらに、気密容器11内には、封入物としてアーク放電を維持させるために必要なキセノンガス、Hg(水銀)それに紫外線を発光させるための金属であるFe(鉄)等が封入されている。
【0017】
(実施例)
ここで、この発明の実施例について説明する。
【0018】
この実施例では、気密容器11の径φを36mm、肉厚mを2mm、発光長Lを1100mmとする。気密容器11に封入する封入物としては、アーク放電を維持させるためのキセノンガスが5.2kPaで、Hg(水銀)それに紫外線を発光させるための金属であるMg(マグネシウム)、Fe、Tl(タリウム)、ハロゲンを封入させる。保温膜171,172は、シリカ:41.1%、アルミナ:34.4%、ポリアクリル酸:0.6%、水:24.9%のペースト状の無機接着剤とし、この接着剤を電極121,122の周辺の気密容器11の外表面に塗布し焼成して形成される。なお、ペースト状の無機接着剤の水成分は、焼成の過程で蒸発することになる。
【0019】
このようにして作製されたメタルハライドランプを、13.2kWのランプ電力で点灯させた場合の分光分布は、図3に示すようになる。図3は保温膜171,172が塗布された、実線のこの発明と塗布されない破線の従来の分光分布を示し、メタルハライドランプとして同じもので比較している。
【0020】
図3から明らかなように、無機接着剤の保護膜を形成した場合における紫外線の波長帯域では、紫外線の発光強度の向上を図ることができる。
【0021】
無機接着剤による保温膜171,172は、1000℃未満では物性が変わらないことが知れられていることから、ランプの点灯温度である600〜850℃に対して保温膜171,172が蒸発してしまうことがない。このため、電極121,122周辺の薬品の蒸発を活発化させるために塗布された保温膜171,172は、ランプ温度により蒸発することがないことから、電極121,122付近の温度は維持されることから、紫外線の発光強度を維持させることにも寄与する。
【0022】
次式は、発光スペクトル曲線をα(λ)とした際の、従来のメタルハライドランプと発明のメタルハライドランプとの紫外線の発光強度を数値化するためのものである。
【数1】

【0023】
ここで、上式のx,yの値を、それぞれx=300、y=450とした場合における、従来のメタルハライドランプとこの発明メタルハライドランプとの紫外線の発光強度の比率は、図4のとおりとなる。
【0024】
すなわち、この発明のメタルハライドランプは、従来のメタルハライドランプの紫外線の発光強度に対し、7%程度向上させることを確認できた。
【0025】
この実施形態では、電極周辺の気密容器の外表面にランプ温度に耐え得る無機接着剤による保温膜を形成したことにより、保温膜の剥離を防止して電極周辺の薬品の蒸発を活発化させ、紫外線の発光強度を向上させることができる。
【0026】
図5〜図7は、この発明の紫外線照射装置に関する一実施形態について説明するための、図5は基本構成図、図6は図5のI−I’線断面図、図7は図5のII−II’線断面図である。
【0027】
図5〜図7において、紫外線照射装置は、図1〜図4で説明したこの発明のメタルハライドランプ100と冷却ユニット200から構成される。メタルハライドランプ100と冷却ユニット200は、メタルハライドランプ100のソケット151,152に取り付けられたスペーサ511,512により所定の間隔に位置決めされる。
【0028】
冷却ユニット200は、円筒状の石英ガラス等の紫外線透過性の透明な内管52とその外側に設けられた外管53から構成される二重管構造となっている。冷却ユニット200は、外周端部に設けられた接続管541,542を通して外部から冷却用媒体である水などの水温25℃程度の冷却水55が循環される。
【0029】
冷却水55は、図5に示すように、接続管541から温度の低いものを入水し、接続管542からメタルハライドランプ100の冷却を行い、暖められたものを出水する。暖められた出水は、冷却されて再び接続管541から入力する、循環構造の冷却機構にしてある。
【0030】
メタルハライドランプ100は、冷却ユニット200の内管52内に配置し、冷却水55を循環させていることから、ランプ温度上昇を抑えることができる。このとき、電極121,122周辺の気密容器11の外表面には、無機接着剤によるランプ温度に耐え得る保温膜171,172が形成されていることから、電極121,122周辺の薬品の蒸発を活発化させることがてきる。
【0031】
このため、メタルハライドランプ100からは、内管52および外管53を介して被照射物に対し、図4の実線で示す発光強度の高い紫外線が放射させることができ、照射効率の向上を図ることができる。
【0032】
この実施形態では、ランプ温度に耐え得る保温膜が塗布されたメタルハライドランプが使用されたことから、保護膜による電極周辺の薬品の蒸発を活発化による高い発光強度が得られることから被照射物に対する照射効率の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0033】
10 放電空間
11 気密容器
121,122 電極
131,132 インナーリード
141,142 金属箔
151,152 ソケット
161,162 リード線
171,172 保温膜
100 メタルハライドランプ
200 冷却ユニット
511,512 スペーサ
52 内管
53 外管
541,542 接続管
55 冷却水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線透過性の材料からなる気密容器と、
前記気密容器内に封装されている一対の耐火性金属からなる放電電極と、
前記気密容器内に少なくとも希ガス、水銀、マグネシウム、鉄、タリウムおよびハロゲンが封入された封入物と、
前記放電電極周辺の前記気密容器の表面に無機接着剤により形成された保温膜とを具備したことを特徴とするメタルハライドランプ。
【請求項2】
前記保温膜は、前記放電電極周辺に塗布した無機接着剤であることを特徴とする請求項1記載のメタルハライドランプ。
【請求項3】
前記無機接着剤は、シリカ、アルミナ、ポリアクリル酸を主成分としたものであることを特徴とする請求項2記載のメタルハライドランプ。
【請求項4】
紫外線透過性の材料で異なる管径の中心軸を同一にして配置した内管および外管から構成される円筒状の二重管と、
前記二重管の内管内に配置した紫外線透過性の材料からなる気密容器内に、一対の耐火性金属からなる放電電極を封装し、該放電電極周辺の前記気密容器の表面に無機接着剤による保温膜を形成し、前記気密容器内に少なくとも希ガス、水銀、マグネシウム、鉄、タリウムおよびハロゲンが封入された封入物が封入されたメタルハライドランプと、
前記二重管の内管と外管の間に冷却用媒体を流し、前記メタルハライドランプから発生の熱を冷却させる冷却機構と、を具備したことを特徴とする紫外線照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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