説明

メタルハライドランプおよび前照灯

【課題】
発光のちらつきの発生を抑制して、始動直後の光束立ち上がりを改善した水銀フリーのメタルハライドランプおよびこれを用いた前照灯を提供する。
【解決手段】
メタルハライドランプMHLは、内容積が0.1cc以下の透光性気密容器1、その内部に5mm以下の電極間距離をもって対向して封装された一対の電極1b、スカンジウム(Sc)、ナトリウム(Na)、インジウム(In)、亜鉛(Zn)および希土類金属のグループから選択された複数の金属のハロゲン化物ならびに希ガスを含み水銀(Hg)を本質的に含まないで透光性気密容器1内に封入された放電媒体を具備し、管壁負荷が60W/cm以上であり、始動後0.3〜1.2秒間の平均ランプ電圧をVoとし、かつ、安定時の平均ランプ電圧をVlとしたとき、0.45≦Vo/Vl≦0.72のVo/Vlが下式を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水銀フリーのメタルハライドランプおよびこれを用いた前照灯に関する。
【背景技術】
【0002】
水銀を本質的に封入しないいわゆる水銀フリーのメタルハライドランプ(以下、便宜上「水銀フリーランプ」という。)は既に知られている(例えば、特許文献1参照。)。水銀フリーランプは、従来のランプ電圧形成用の緩衝物質として封入されていた水銀に代えて亜鉛(Zn)などの蒸気圧が比較的高くて可視域に発光しにくい金属のハロゲン化物を封入しているのが一般的である。
【0003】
水銀フリーランプは、特に環境負荷物質の使用を全廃しようとしている自動車の前照灯用のメタルハライドランプとして期待され、開発が行われている。このメタルハライドランプの場合、規格により立ち上がり4秒後に定格光束の80%の光束を発生する必要がある(非特許文献1参照。)。この条件を満足させるために従来いくつかの提案がなされている。例えば、発光管の内容積、肉厚およびXeガスの圧力を所定範囲に選び、かつ、低融点金属ハロゲン化物を封入することを特徴としている提案がある(特許文献2参照。)。また、発光管の内径、電極突出長、肉厚、投入電力およびXe封入圧などを所定範囲に選ぶ提案もある(特許文献3参照。)。さらに、発光管内径とアークの直径の関係から光束立ち上がりを改善しようとする提案もなされている(特許文献4参照。)。
【特許文献1】特開平11−238488号公報
【非特許文献1】日本電球工業会規格 JEL 215「自動車前照灯HID光源」
【特許文献2】特開2001−006610号公報
【特許文献3】特開2001−313001号公報
【特許文献4】特開2003−187742号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、水銀フリーのメタルハライドランプを研究する中で、水銀フリーのメタルハライドランプ、特に自動車用のメタルハライドランプにおいて、始動直後の平均ランプ電圧Voと安定時のランプ電圧Vlとの比Vo/Vlが発光のちらつき(フリッカー)に大きく影響することを見出した。本発明は、この知見に基づいてなされたものである。
【0005】
本発明は、発光のちらつきの発生を抑制して、かつ、始動直後の光束立ち上がりを改善した、より実用的で前照灯用として特に好適な水銀フリーのメタルハライドランプおよびこれを用いた前照灯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の目的を達成するために、始動直後すなわち始動後の0.3〜1.2秒間の平均ランプ電圧Voを安定時のランプ電圧Vlに対する比Vo/Vlを所定範囲内に収まるように構成するものである。すなわち、
請求項1に係る発明のメタルハライドランプは、内容積が0.1cc以下の透光性気密容器と;透光性気密容器内に5mm以下の電極間距離をもって対向して封装された一対の電極と;スカンジウム(Sc)、ナトリウム(Na)、インジウム(In)、亜鉛(Zn)および希土類金属のグループから選択された複数の金属のハロゲン化物ならびに希ガスを含み水銀(Hg)を本質的に含まないで透光性気密容器内に封入された放電媒体と;を具備し、管壁負荷が60W/cm以上であるとともに、始動後0.3〜1.2秒間の平均ランプ電圧をVoとし、かつ、安定時の平均ランプ電圧をVlとしたときのVo/Vlが下式を満足することを特徴としている。
【0007】
0.45≦Vo/Vl≦0.72
始動後0.3〜1.2秒間は、ランプ電圧が低く、定電力点灯を行うためにはランプ電流が増加する期間であるため、メタルハライドランプに対する弊害が出やすく、この期間中のランプ電圧を適切に設定することにより、発光のちらつきが抑制されることが分かった。また、この期間中のランプ電圧は、時間の経過とともに変化するので、平均ランプ電圧Voとして観測するのがよい。平均ランプ電圧Voは、変化するランプ電圧を時間に対して積分することにより求めることができる。実際的には、オシロスコープの操作により平均ランプ電圧Voを容易に得ることができる。
【0008】
上記期間における始動直後の平均ランプ電圧Voは、一対の電極の先端間に形成されるところの電極間距離、透光性気密容器に封入する希ガスの封入圧力および透光性気密容器の内部空間の形状などに主として影響を受ける。電極間距離を大きくすれば平均電圧Voが高くなるが、前照灯用のメタルハライドランプの場合、規格によりその中心値が4.2mmに規定されている。希ガスの封入圧を大きくすれば平均電圧Voが高くなり、例えば前照灯用のメタルハライドランプの場合、キセノン(Xe)を7〜18気圧の範囲に設定するのがよい。また、透光性気密容器の内部空間の形状としては、湾曲をなるべく少なくすると平均ランプ電圧Voが上昇する。
【0009】
一方、安定時のランプ電圧Vlは、透光性気密容器の内部空間内に封入する放電媒体の金属ハロゲン化物の種類、その配合比およびそれらの封入量が大きく影響し、加えて一対の電極の先端間に形成される電極間距離、透光性気密容器に封入する希ガスの封入圧力ならびに透光性気密容器の特に内部空間の形状なども影響を受ける。
【0010】
したがって、上記の各影響因子を適宜に選択することにより、比Vo/Vlを所定範囲内に設定することが可能である。
【0011】
次に、本発明の作用について説明する。比Vo/Vlが上記数式を満足する範囲内であれば、定電力点灯の場合、始動直後に流れるランプ電流が適当な範囲内の値となって始動直後の光束立ち上がりが向上する。したがって、前照灯用のメタルハライドランプにおいては、始動4秒後の光束立ち上がりを定格光束の80%以上にすることが可能になる。また、寿命中を含めて発光のちらつきが効果的に抑制されて安定した点灯が得られる。さらに、ランプ電流が適当な範囲内の値であることにより、点灯回路およびメタルハライドランプの負担が低減するので、設計のとおりの寿命が得られる。
【0012】
これに対して、比Vo/Vlが0.45未満になる場合について以下説明する。すなわち、この場合は、理論上平均ランプ電圧Voが低い状態とランプ電圧Vlが高い状態とが考えられる。しかしながら、ランプ電圧Vlは、ある程度の許容範囲(定格ランプ電力が35Wのランプでは約35〜55V)が事実上存在するので、この範囲で考察することになる。まず、上記ランプ電圧Vlの範囲の根拠について説明する。ランプ電圧Vlが顕著に低い(定格ランプ電力が35Wのランプでは約35V未満の)場合、ランプ電流が大きくなりすぎて、点灯回路中のバラスト(限流インダクタ)が大電流に耐える設計にする必要から、結果的に大型化、高コスト化する弊害が顕著になる。また、安定時の大きなランプ電流に耐える電流導入部材(電極、封着金属箔および外部導入体など)が大断面積化し、そのため封止部が大型化してランプが大きくなる弊害が現れる。反対に、ランプ電圧が高い(定格ランプ電力が35Wのランプでは55V超の)場合、電圧を増すために、次の方策が考えられるが、それぞれ弊害を伴う。
(1)金属ハロゲン化物の封入量を多くして蒸気圧を高くすると、発光効率が低下する。(2)透光性気密容器を小型化すると、透光性気密容器が高温化して短寿命になる。
(3)希ガス圧力を増大すると、透光性気密容器がリークしたり、破裂しやすくなったりする。
【0013】
さて、比Vo/Vlが0.45未満になる場合、ランプ電圧が上述の範囲であれば、平均ランプ電圧Voは、最低で15V以下となる。このように15V以下になると、前照灯用のメタルハライドランプにおいて一般に採用されている定電力点灯においては、始動時の大電力(仮に安定時の2倍である75Wとする。)時には約5A以上のランプ電流が流れることとなり、安定時の電流0.8A程度の6倍以上になる。これは平均ランプ電圧Voが26V時の2.9Aより60%以上大きな値である。その結果、電極温度が上昇して、顕著な電極損耗が発生して発光のちらつきをもたらしてしまう。また、顕著な電極損耗が発生すると、メタルハライドランプの寿命が短縮する。
【0014】
次に、比Vo/Vlが0.72を超える場合について説明する。この場合、下限値を下回った場合と同様の考え方により、平均ランプ電圧Voが最大40Vを超えるようになる。平均ランプ電圧Voが40Vを超えると、始動時の大電力(仮に安定時の2倍以上である75Wとする。)時はランプ電流が1.9A以下まで減少する。このときのランプ電流は、平均ランプ電圧Voが26V時の2.9Aより35%以上小さくなる。その結果、始動直後の電極温度がランプ電圧Vl26V時より相対的に低くなる。そのため、始動直後の電極の電子放射性が低減し、発光のちらつきを生じる。理由は明らかでないが、始動直後は安定時より電極温度が高温であるがにもかかわらず、発光のちらつきが発生しやすいことが試験により判明している。このことからも、始動直後の電極温度の低下は、発光のちらつきを生じさせやすいことが分かる。
【0015】
次に、本発明において、比Vo/Vlの要件に加えて(1)電極間距離が5mm以下、(2)放電媒体の金属ハロゲン化物がスカンジウム(Sc)、ナトリウム(Na)、インジウム(In)、亜鉛(Zn)および希土類金属のグループから選択された複数の金属のハロゲン化物であること、ならびに(3)放電媒体が本質的に水銀を含まない、(4)気密容器の単位内表面積当たりのランプ電力すなわち管壁負荷が60(W/cm)以上であることをも、それぞれ要件として規定している理由は以下のとおりである。すなわち、
(1)電極間距離が5mm以下のメタルハライドランプは、前照灯およびプロジェクション用など始動直後からの光束立ち上がりが良好であることが必要な、ないしは好ましい用途に用いられているので、本発明が効果的だからである。なお、自動車前照灯用のメタルハライドランプとしては電極間距離4.2mmが規格化されていて、プロジェクション用としては2mm以下が好適である。
【0016】
(2)放電媒体の金属ハロゲン化物が上記グループから選択された複数種であることにより多様な用途に適応するメタルハライドランプを得ることができる。上記グループ中の金属のうち、スカンジウム(Sc)およびナトリウム(Na)は、特にそれらの組み合わせにおいて、白色系の発光を高効率で発生するので、可視光の主発光物質として採用することができる。インジウム(In)および亜鉛(Zn)は、青色系の発光を行うので色度調整用として採用することができる。また、亜鉛は、その蒸気圧が比較的高いので、ランプ電圧形成用として採用することができる。希土類金属は、主として可視光発光および色度調整として採用することができる。なお、ランプ電圧形成用としての作用もいくらかある。
【0017】
したがって、上記グループの金属ハロゲン化物の複数を適宜選択することにより、前照灯用、プロジェクション用などの小形で高光出力タイプの各種メタルハライドランプを得ることができる。
【0018】
(3)放電媒体が本質的に水銀を含まない点に関して、水銀(Hg)は、全く含まないのが環境負荷物質削減のために好ましいことであるが、本発明の作用効果に本質的な影響のない程度、換言すれば不純物程度に含んでいても許容される。
【0019】
(4)管壁負荷が60(W/cm)以上であるのは、前照灯用、プロジェクション用などの小形で高光出力タイプの各種メタルハライドランプに対して本発明が効果的であることを明確にするためである。
【0020】
請求項2に係る発明の前照灯は、前照灯本体と;前照灯本体に配設された請求項1記載のメタルハライドランプと;メタルハライドランプを点灯する点灯回路と;を具備していることを特徴としている。
【0021】
本発明において、前照灯本体とは、前照灯からメタルハライドランプおよび点灯回路を除いた残余の部分をいう。また、点灯回路は、メタルハライドランプを始動し、かつ、点灯開始直後に定格ランプ電力の2倍以上の電力を数秒間連続的に投入し、その後徐々に定格ランプ電力まで低減しながら安定点灯へと移行させるようにメタルハライドランプを制御しながら点灯するように構成することができる。
【発明の効果】
【0022】
請求項1の発明によれば、比Vo/Vlを所定範囲内に構成することによって、始動直後の光束立ち上がりが改善されるとともに、寿命中を含めて発光のちらつき発生が効果的に抑制され、その結果実用的で前照灯用として好適な水銀フリーのメタルハライドランプを提供することができる。
【0023】
請求項2の発明によれば、請求項1の効果を有する前照灯を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態を説明する。
【0025】
図1は、本発明を自動車前照灯用のメタルハライドランプとして実施するための一形態を示す側面図である。本形態において、メタルハライドランプMHLは、発光管IT、絶縁チューブT、外管OTおよび口金Bを具備している。
【0026】
〔発光管ITについて〕 発光管ITは、透光性気密容器1、一対の電極1b、1b、一対の外部リード線3A、3Bおよび放電媒体備えている。
【0027】
(透光性気密容器1について) 透光性気密容器1は、耐火性で透光性であるとともに、内容積が0.1cc以下の内部空間1cを形成する包囲部1aを備えている。前照灯用の場合、内容積は好適には0.05cc以下である。内部空間1cは、その形状がほぼ円柱状をなしている。これに対して、透光性気密容器1の包囲部1aの外面は、楕円球状や紡錘状などの回転2次曲面状をなしている。また、包囲部1aの肉厚は、全体に肉厚で、管軸方向の中央部の肉厚が最も大きく、両端方向に順次肉厚が小さくなっている。これにより、透光性気密容器1の伝熱が良好になってその内部空間1cの底面および側部内面に付着している放電媒体の温度上昇が早まるために、光束立ち上がりが早くなるのに効果的に作用する。
【0028】
また、透光性気密容器1が「耐火性で透光性である」とは、少なくとも包囲部1aの外部へ発光を導出しようとする部位である導光部分が透光性であって、かつ、メタルハライドランプMHLの通常の作動温度に十分耐える程度の耐熱性を少なくとも備えているという意味である。したがって、透光性気密容器1は、耐火性を備える材料であり、かつ、その所要の導光部分が放電によって発生した所望波長域の可視光を外部に導出することができれば、どのようなもので作られていてもよい。例えば、透光性セラミックスや石英ガラスなどを用いることができ、前照灯用のメタルハライドランプの場合、好適には直線透過率の高い石英ガラスである。なお、後者の場合、必要に応じて、透光性気密容器1の包囲部1aの内面に耐ハロゲン性または耐ハロゲン化物性の透明性被膜を形成するか、透光性気密容器1の内面を改質することが許容される。
【0029】
透光性気密容器1が石英ガラスからなる場合、包囲部1aの管軸方向の両端に一対の封止部1a1、1a1を形成することができる。一対の封止部1a1、1a1は、包囲部1aを封止するとともに、後述する電極1bの軸部がここに埋設され、かつ、図示しない点灯回路から電流を電極1bへ気密に導入するのに寄与する手段であり、包囲部1aの両端から一体に延在している。そして、電極1bを封装し、かつ、点灯回路から電流を電極1bへ気密に導入するために、内部に適当な気密封止導通手段、好適には封着金属箔2を気密に埋設している。
【0030】
なお、封着金属箔2は、封止部1a1の内部に気密に埋設されて封止部1a1が透光性気密容器1の包囲部1aの内部を気密に維持するのに協働しながら電流導通導体として機能するための手段であり、透光性気密容器1が石英ガラスからなる場合の材料としてはモリブデン(Mo)が最適である。モリブデンは、約350℃になると酸化するので、外部側の端部の温度がこれより温度が低くなるように埋設される。封着金属箔2を封止部1a1に埋設する方法は、特段限定されないが、例えば減圧封止法、ピンチシール法などを単独で、または組み合わせて採用することができる。内容積が0.1cc以下の小形でキセノン(Xe)などの希ガスを室温で5気圧以上封入する前照灯などに用いるメタルハライドランプの場合は、後者が好適である。
【0031】
また、図1において、左方の封止部1a1を形成した後に、封止管1a2が切除されないで封止部1a1の外側端部から一体に延長していて、後述する口金B内へ延在している。
【0032】
(一対の電極1b、1bについて) 一対の電極1b、1bは、透光性気密容器1の包囲部1aの両端内部に離間対向して封装されている。メタルハライドランプMHLの内部空間1cの内容積が0.1cc以下と小形のため、電極間距離は5mm以下であり、前照灯用の場合には規格化されている4.2±0.1mmに設定される。また、一対の電極1b、1bは、その軸部の直径が一般的には0.25〜0.5mm、好適には0.25〜0.35mmの範囲内で適当な値に設定されるのがよい。
【0033】
さらに、一対の電極1b、1bは、タングステン(W)、ドープドタングステン、レニウム(Re)、タングステン−レニウム合金(W−Re)などの耐火金属製の軸部を備え、その軸部の基端が封着金属箔2に溶接されるなどして封止部1a1に埋設され、中間が透光性気密容器1の封止部1a1により緩く支持され、先端が透光性気密容器1の内部空間1cに臨むように内部空間1cの両端に離間対向して配設されている。
【0034】
さらにまた、メタルハライドランプMHLが前照灯用の場合、電極1bの軸部をそのまま先端部までその径が大きくなることなく延長して、切頭円錐形、半球状または半楕円球状にすることにより、放電アークの起点が安定しやすくなる。また、これに加えて先端部に小さな突起が形成されていることにより相乗的に効果が増大する。なお、本形態において、電極1bの先端は、図示を省略しているが、電極軸の直径の1/2の曲率の半球状をなしている。しかし、要すれば電極1bの先端部近傍を軸部より径大の例えばほぼ球状ないし楕円球状にすることもできる。すなわち、ランプの点滅回数が非常に多くなるとともに、また始動時には定常時より大きな電流を流すので、これに対応して電極1b全体を径大にすると、電極軸に接触している透光性気密容器1の構成材料が点滅のたびに熱応力を受けてクラックを生じやすい。そこで、電極1bの先端部近傍に径大部を形成することで、電極1bを点滅に対応させることができるが、軸部は径大になっていないから、クラックを生じにくい。
【0035】
さらにまた、電極1bは、交流および直流のいずれで作動するように構成してもよい。交流で作動する場合、一対の電極1bは同一構造とする。直流で作動する場合、一般に陽極は温度上昇が激しいから、先端部近傍に径大部を形成すれば、放熱面積を大きくすることができるとともに、頻繁な点滅に対応することができる。これに対して、陰極は必ずしも径大部を形成する必要がない。
【0036】
(一対の外部リード線3A、3Bについて) 一対の外部リード線3A、3Bは、その先端が透光性気密容器1の両端の封止部1a1内において封着金属箔2の他端に溶接され、基端側が外部へ導出されている。図1において発光管ITから右方へ導出された外部リード線3Aは、中間部が後述する外管OTに沿って折り返されて後述する口金B内に導入されて図示しない口金端子の一方に接続している。図1において発光管ITから左方へ導出された外部リード線3Bは、封止管1a2内を管軸に沿って延在して口金B内に導入されて口金端子の他方に接続している。
【0037】
(放電媒体について) 放電媒体は、金属ハロゲン化物および希ガスを含み、水銀を本質的に含まない。金属ハロゲン化物は、スカンジウム(Sc)、ナトリウム(Na)、インジウム(In)、亜鉛(Zn)および希土類金属のグループから選択された複数の金属のハロゲン化物を含んでいる。しかし、放電媒体は、上記グループに属する金属のハロゲン化物のみからなる構成に限定されるものではなく、補助的にグループ以外の金属のハロゲン化物を含有することが許容される。例えば、主発光物質としてタリウム(Tl)のハロゲン化物を添加することにより、発光効率を一層高めることができる。また、亜鉛(Zn)に加えて次のグループからなるランプ電圧形成用の金属ハロゲン化物を添加することができる。すなわち、マグネシウム(Mg)、コバルト(C)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、アンチモン(Sb)、レニウム(Re)、ガリウム(Ga)、スズ(Sn)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)およびハフニウム(Hf)のグループから選択された一種または複数種の金属のハロゲン化物を添加することにより、ランプ電圧を所望に調整することができる。上記のグループの金属は、いずれも蒸気圧が高くて可視域に発光しないか、または発光が比較的少ない金属すなわち光束を稼ぐ発光金属としては期待されないが、主としてランプ電圧を形成するのに好適な金属である。
【0038】
希ガスは、始動ガスおよび緩衝ガスとして作用し、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)およびキセノン(Xe)などの一種または複数種を用いることができる。また、自動車前照灯用のメタルハライドランプとしては、キセノンを5気圧以上、好ましくは7〜18気圧の範囲で封入するか、あるいは点灯時の内部空間内の圧力が50気圧以上になるように封入することにより、始動直後の発光金属の蒸気圧が低いときに、立ち上がり時の光束としてXeの白色発光を寄与させることができる。
【0039】
さらに、水銀について言及しておく。本発明において、「本質的に水銀を含まない」と
は、水銀(Hg)を全く封入していないだけでなく、気密容器の内容積1cc当たり2mg未満、好ましくは1mg以下の水銀が存在していることを許容するという意味である。しかし、水銀を全く封入しないことは環境上望ましいことである。従来のように水銀蒸気によって放電ランプのランプ電圧を所要に高くする場合、短アーク形においては気密容器の内容積1cm当たり20〜40mg、さらに場合によっては50mg以上封入していたことからすれば、水銀量が実質的に頗る少ないといえる。
【0040】
ハロゲン化物を構成するハロゲンは、反応性に関してハロゲンの中でヨウ素が最も適当であり、少なくとも上記主発光金属は、主としてヨウ化物として封入される。しかし、要すれば、ヨウ化物および臭化物のように異なるハロゲンの化合物を併用することもできる。
【0041】
〔絶縁チューブTについて〕 絶縁チューブTは、セラミックスからなり、絶縁チューブTは、外部リード線3Aを被覆している。
【0042】
〔外管OTについて〕 外管OTは、石英ガラスまたはハイシリケートガラスなどからなり、その内部に発光管ITの少なくとも主要部を収納する手段である。そして、発光管ITから外部へ放射される紫外線を遮断し、機械的に保護し、かつ、発光管ITの透光性気密容器1を手で触れることで人の指紋や脂肪が付いて失透の原因とならないようにしたり、あるいは透光性気密容器1を保温したりする。また、外管OTの内部は、その目的に応じて外気に対して気密に封止してもよいし、外気と同程度または減圧された空気または不活性ガスが封入されていてもよい。さらに、要すれば、外気に連通していてもよい。さらに、外管OTの外面または内面に遮光膜を配設することもできる。
【0043】
また、図示の形態においては、外管OTを形成する際に、その両端を透光性気密容器1の両端から管軸方向に延在する封止部にガラス溶着させることによって外管OTを透光性気密容器1で支持するように構成することができる。外管OTは、紫外線カット性能を備えており、内部に発光管ITを収納していて、両端の縮径部4が放電容器ITの封止部1a1にガラス溶着している。しかし、内部は気密ではなく、外気に連通している。
【0044】
〔口金Bについて〕 口金Bは、メタルハライドランプMHLを図示しない点灯回路に接続したり、加えて機械的に支持したりするのに機能する手段であって、図示の形態においては、自動車前照灯用として規格化されているもので、発光管ITおよび外管OTを中心軸に沿って植立して支持していて、自動車前照灯の背面に着脱可能に装着されるように構成されている。
【0045】
次に、実施例を比較例1および比較例2とともに説明する。なお、比較例1は、市販の自動車前照灯用のメタルハライドランプ、比較例2は本発明の構成を備えていない自動車前照灯用の水銀フリーランプである。
【実施例】
【0046】
透光性気密容器1:内部空間の内容積0.020cc、内径2.6mm、包囲部長さ7.0mm、
包囲部外径6.0mm
電極間距離 :4.2mm
放電媒体 :金属ハロゲン化物ScI3-NaI-ZnI2-InI-CsI、合計0.5mg、希ガスXe10atm
始動直後投入電力:75W
始動直後投入電流:3.0A
始動直後の平均ランプ電圧Vo:25V
安定時ランプ電圧Vl:42V
比Vo/Vl :0.60
安定時ランプ電流:0.8A
安定時ランプ電力:35W
始動4秒時後の光束:1400lm

〔比較例1〕
透光性気密容器1:内部空間の内容積0.020cc、内径2.6mm、包囲部長さ7.0mm、
包囲部外径6.0mm
電極間距離 :4.2mm
放電媒体 :金属ハロゲン化物ScI3-NaI-Hg、希ガスXe約4atm
始動直後投入電力:65W
始動直後投入電流:3.0A
始動直後の平均ランプ電圧:22V
安定時ランプ電圧:90V
比Vo/Vl :0.24
安定時ランプ電流:0.4A
安定時ランプ電力:35W
始動4秒時の光束:2900lm

〔比較例2〕
透光性気密容器1:内部空間の内容積0.045cc、内径4.0mm、包囲部長さ7.0mm、
包囲部外径6.0mm
電極間距離 :4.2mm
放電媒体 :金属ハロゲン化物ScI3-NaI-ZnI2 合計 1.3 mg、希ガスXe5atm
始動直後投入電力:80W
始動直後投入電流:4.0A
始動直後の平均ランプ電圧:19V
安定時ランプ電圧:50V
比Vo/Vl :0.38
安定時ランプ電流:0.7A
安定時ランプ電力:35W
始動4秒時の光束:1200lm

次に、図2を参照して実施例において透光性気密容器の比Vo/Vlを種々変化させた場合における比Vo/Vlと、始動直後における発光のちらつき発生率との関係について説明する。なお、図において、横軸は比Vo/Vlを、縦軸はちらつき発生率(%)を、それぞれ示す。なお、ちらつき発生率は、目視による判定により求めた。
【0047】
図から理解できるように、比Vo/Vlが0.45未満および0.72超になると、いずれもちらつき発生率が前述の理由により急激に増加していくので不可である。
【0048】
図3および図4は、本発明の前照灯を実施するための一形態としての自動車前照灯を示し、図3は概念図、図4は点灯回路を示す回路図である。各図において、11は前照灯本体、12は点灯回路、13はメタルハライドランプである。
【0049】
前照灯本体11は、容器状をなし、内部に反射鏡11a、前面にレンズ11bおよび図示を省略しているランプソケットなどを備えている。
【0050】
点灯回路12は、図3に示す回路構成を備えていて、主点灯回路12Aおよび始動器12Bを具備している。主点灯回路12Aは後述するように構成され、前照灯本体11に取り付けることができる。
【0051】
メタルハライドランプ13は、図1に示すメタルハライドランプからなる。
【0052】
前記主点灯回路12Aは、図4に示すように、直流電源21、昇圧チョッパ22、インバータ23および制御回路24からなり、メタルハライドランプ13を点灯する。直流電源21は、電池電源、整流化直流電源などからなり、直流出力端間に接続された平滑コンデンサC1を有している。昇圧チョッパ22は、直流電源21から供給される直流電圧を所要の電圧まで昇圧し、かつ、平滑化して後述するインバータ23に入力電圧を供給する。なお、符号22aは駆動回路で、昇圧チョッパ22のスイッチング素子を駆動する。インバータ23は、フルブリッジ形インバータからなる。そして、4個のスイッチング素子Q1〜Q4をブリッジ接続し、その対向2辺を構成する一対のスイッチング素子Q1、Q3と他の対向2辺を構成する一対のスイッチング素子Q2、Q4とを交互にスイッチングさせて、その出力端間に矩形波交流電圧を出力する。なお、符号23aは駆動回路で、インバータ23の各スイッチング素子Q1〜Q4を駆動する。制御回路24は、昇圧チョッパ22およびインバータ23を所要に、例えばメタルハライドランプ13が冷却状態のときには、メタルハライドランプ13を始動直後の数秒間定格ランプ電力の約2倍以上、例えば2.5倍程度で点灯し、その徐々に低減させて安定点灯時の定格ランプ電力に移行させるように制御する。
【0053】
始動器12Bは、メタルハライドランプ13の始動時に高電圧パルスを出力してメタルハライドランプ13に印加して、これを瞬時に始動させる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明を自動車前照灯用のメタルハライドランプとして実施するための一形態の全体を示す側面図
【図2】比Vo/Vlと始動直後における発光のちらつき発生率との関係を示すグラフ
【図3】本発明の前照灯を実施するための一形態としての自動車前照灯を示す概念図
【図4】同じく点灯回路を示す回路図
【符号の説明】
【0055】
1…透光性気密容器、1a…包囲部、1a1…封止部、1a2…封止管、1b…電極、1c…内部空間、2…封着金属箔、3A…外部リード線、3B…外部リード線、IT…発光管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内容積が0.1cc以下の透光性気密容器と;
透光性気密容器内に5mm以下の電極間距離をもって対向して封装された一対の電極と;
スカンジウム(Sc)、ナトリウム(Na)、インジウム(In)、亜鉛(Zn)および希土類金属のグループから選択された複数の金属のハロゲン化物ならびに希ガスを含み水銀(Hg)を本質的に含まないで透光性気密容器内に封入された放電媒体と;
を具備し、管壁負荷が60W/cm以上であるとともに、始動後0.3〜1.2秒間の平均ランプ電圧をVoとし、かつ、安定時の平均ランプ電圧をVlとしたときのVo/Vlが下式を満足することを特徴とするメタルハライドランプ。
0.45≦Vo/Vl≦0.72
【請求項2】
前照灯本体と;
前照灯本体に配設された請求項1記載のメタルハライドランプと;
メタルハライドランプを点灯する点灯回路と;
を具備していることを特徴とする前照灯。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−19053(P2006−19053A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−193064(P2004−193064)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000003757)東芝ライテック株式会社 (2,710)
【出願人】(000111672)ハリソン東芝ライティング株式会社 (995)
【Fターム(参考)】