説明

メタルハライドランプおよび照明装置

【課題】
発光のちらつきの発生を抑制する水銀フリーのメタルハライドランプおよびこれを用いた照明装置を提供する。
【解決手段】
メタルハライドランプMHLは、内容積0.5cc以下の透光性気密容器1と;透光性気密容器1内に5mm以下の電極間距離をもって対向して封装された一対の電極1b、1bと;スカンジウム(Sc)、ナトリウム(Na)、インジウム(In)、亜鉛(Zn)および希土類金属のグループから選択された複数の金属のハロゲン化物ならびに希ガスを含み水銀(Hg)を本質的に含まないで透光性気密容器内に封入された放電媒体と;を具備し、管壁負荷が60W/cm以上であるとともに、透光性気密容器内の水分をA(ng)とし、矩形波交流電圧が印加されて点灯する際の点灯周波数をf(Hz)としたとき、下式を満足する。
A/√f≦4.5

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水銀フリーのメタルハライドランプおよびこれを用いた照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水銀を本質的に封入しないいわゆる水銀フリーのメタルハライドランプ(以下、便宜上「水銀フリーランプ」という。)は既に知られている(例えば、特許文献1参照。)。水銀フリーランプは、従来のランプ電圧形成用の緩衝物質として封入されている水銀に代えて亜鉛(Zn)などの蒸気圧が比較的高くて可視域に発光しにくい金属のハロゲン化物を封入しているのが一般的である。
【0003】
水銀フリーランプは、特に環境負荷物質の使用を全廃しようとしている自動車の前照灯用の光源として期待され、開発が行われている。このメタルハライドランプは、水銀入りのメタルハライドランプ(以下、便宜上「水銀入りランプ」という。)に比べて一般にアークが細いことから、放電アークが不安定になりやすいために、発光のちらつきが発生しやすいという課題を伴っている。このため、水銀入りランプの場合には不要であった特別の対策を付加することが必要になる。
【0004】
ところで、高圧放電ランプの透光性気密容器の内部に存在する不純物を低減することは、従来から知られている(例えば、特許文献2ないし5などを参照。)。特許文献2は、水銀ランプやメタルハライドランプ製造において、3mAの電流を供給してグロー放電させる際に発光部内に存在する水素、酸素およびそれら化合物の分光スペクトルの最大強度を、希ガスの主発光の分光スペクトル強度の1/1000以下にすることにより、上記不純物を低減して、黒化や失透を抑制し、ランプ寿命を高めようとしている。特許文献3および4においては、水銀入りランプの製造において、プロパン酸素バーナーやプラズマトーチを使用してガラス加工したり、加工後真空中で高温加熱してHOとして放出させたりして、上記不純物を低減して、黒化や失透を抑制し、ランプ寿命を高めようとしている。特許文献5においては、水銀、ハロゲンおよび希ガスを封入する高圧放電ランプの製造において、1200℃、6時間の高温真空熱処理を行っている。
【特許文献1】特開平11−238488号公報
【特許文献2】特開平11−329350号公報
【特許文献3】特開平09−102277号公報
【特許文献4】特開平09−102278号公報
【特許文献5】特開平02−220328号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、水銀フリーランプにおいて、透光性気密容器の内部に存在する水分量と矩形波交流電圧が印加されて点灯する際の点灯周波数とが所定条件を満足するように構成することにより、発光のちらつきを効果的に抑制できることを見出した。本発明は、この知見に基づいてなされたものである。
【0006】
本発明は、発光のちらつきの発生を抑制する水銀フリーのメタルハライドランプおよびこれを用いた照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明のメタルハライドランプは、内容積0.5cc以下の透光性気密容器と;透光性気密容器内に5mm以下の電極間距離をもって対向して封装された一対の電極と;スカンジウム(Sc)、ナトリウム(Na)、インジウム(In)、亜鉛(Zn)および希土類金属のグループから選択された複数の金属のハロゲン化物ならびに希ガスを含み水銀(Hg)を本質的に含まないで透光性気密容器内に封入された放電媒体と;を具備し、管壁負荷が60W/cm以上であるとともに、透光性気密容器内の水分をA(ng)とし、矩形波交流電圧が印加されて点灯する際の点灯周波数をf(Hz)としたとき、下式を満足することを特徴としている。
【0008】
A/√f≦4.5
本発明において、透光性気密容器内の水分A(ng)は、API−MS分析法によるガス分析によって測定することができる。すなわち、透光性気密容器を密閉空間内で200℃に加熱して破壊した際に放出されたガス中の水分系ガスの重量を測定する。得られた検出値は、透光性気密容器の内部に存在する全水分量と相関があるので、金属ハロゲン化物中に取り込まれた水分については検出できないものの透光性気密容器内の水分量を規定する指標とすることができる。
【0009】
一方、矩形波交流電圧が印加されて点灯する際の点灯周波数は、点灯回路からメタルハライドランプに対して供給される矩形波交流電圧の周波数であり、好ましくは4kHz以下である。なお、本発明において、メタルハライドランプを点灯するのに矩形波電圧を印加する理由は、矩形波電圧は正弦波電圧より発光のちらつきが発生しにくいばかりでなく、点灯回路の回路構成が簡単になるからである。また、矩形波電圧は、完全な矩形波だけでなく、部分的にパルス部分が重畳しているなど部分的に段階状をなしているような波形を含む。
【0010】
次に、本発明の作用について説明する。本発明において、発光のちらつきは、上記数式から透光性気密容器の内部の水分に比例し、かつ、矩形波交流電圧が印加されて点灯する際の点灯周波数の1/2乗に反比例することと、前者の後者に対する比が4.5以下のときに発光のちらつきが許容範囲内に抑制されることが理解できる。したがって、ある上記点灯周波数に対して相対的に水分量を低減するか、またはある水分量に対して上記周波数を高くすることにより、発光のちらつきを許容範囲内に抑制することができる。反対に、水分が多くなるか、または上記点灯周波数が低くなると、発光のちらつきが発生しやすくなる。この発光のちらつき発生のメカニズムは以下のように推測される。
【0011】
すなわち、水分が多い場合、放電を阻害する水素(H)、酸素(O)およびOHなどのガスが多く発生するため、放電が不安定になり、物理的に放電アークがうねるため、発光のちらつきとなって見える。また、これらガスにより透光性気密容器内部の放電媒体のそれを含むガスの絶縁破壊電圧が増すため、一対の電極間に流れる交流電流の極性反転時の電流ゼロ期間に一度アークが消滅し、再度逆極性になってから点弧(再点弧)する現象が発生する。この現象は、交流のランダムな周期で発生することが多く、その発生タイミングにより発光のちらつきとして視感される場合がある。また、瞬間的にアークが消滅するので、次に再点弧する際にそれまでとは別の電極位置にアークスポットが形成されて、結果的にアークスポットが移動する現象が起こりやすく、これを原因とする発光のちらつきが発生する。このように水分が多い場合には、いくつかのメカニズムにより発光のちらつきも発生する。
【0012】
次に、矩形波交流電圧が印加されてメタルハライドランプが点灯する際の点灯周波数が低い場合、極性反転に関連して発生する上述した発光のちらつきが視感されやすくなる。すなわち、極性反転周期が長いため、発生するちらつきの周期が大きくなって、目が感応し得る周期に近づくためと考えられる。加えて、点灯周波数が低くなると、極性反転時の電流ゼロ期間が長いか、または何らかの要因によりアーク消滅期間が長くなるものと考えられる。
【0013】
ところで、本発明において、透光性気密容器の内部に存在する水分の除去は、既知の各種手段を適宜採用してこれを行うことができる。しかしながら、水分を完全に除去することは実際上困難であり、1ng未満は達成できない。最小水分量の1ngの場合において、前記数式のA/√fが0.016より小さいときの上記点灯周波数は4kHzより大きくなる。しかしながら、これより高い周波数では、安価なスイッチング素子を用いて矩形波交流電圧を発生させる場合、後述するスイッチング損失が増大するために、点灯回路を含んだ発光効率が無視できない程度に低下するので、前記数式に下限値を付加して0.016≦A/√f≦4.5とすることが好ましい。
【0014】
次に、本発明において、上述の要件に加えて(1)透光性気密容器の内容積が0.5cc以下、(2)電極間距離が5mm以下、(3)放電媒体の金属ハロゲン化物がスカンジウム(Sc)、ナトリウム(Na)、インジウム(In)、亜鉛(Zn)および希土類金属のグループから選択された複数の金属のハロゲン化物であること、(4)放電媒体が本質的に水銀を含まない、ならびに(5)気密容器の単位内表面積当たりのランプ電力すなわち管壁負荷が60(W/cm)以上であることをも、それぞれ要件として規定しているが、その理由は以下のとおりである。すなわち、
(1)透光性気密容器の内容積が0.5cc以下であることは、定格ランプ電力が自動車前照灯用などの小形のメタルハライドランプばかりでなく、例えば液晶プロジェクション用などの比較的定格ランプ電力の大きなメタルハライドランプにおいても本発明が効果的であるからである。なお、液晶プロジェクション用のメタルハライドランプの場合、内容積0.4cc以下、定格ランプ電力80〜150W程度である。
【0015】
(2)電極間距離が5mm以下のメタルハライドランプは、前照灯およびプロジェクション用など始動直後からの光束立ち上がりが良好であることが必要な、ないしは好ましい用途に用いられているので、本発明が効果的である。なお、自動車前照灯用のメタルハライドランプとしては電極間距離4.2mmが規格化されている。一方、液晶プロジェクション用としては2mm以下が好適である。
【0016】
(3)放電媒体の金属ハロゲン化物が上記グループから選択された複数種であることにより多様な用途に適応するメタルハライドランプを得ることができる。上記グループ中の金属のうち、スカンジウム(Sc)およびナトリウム(Na)は、特にそれらの組み合わせにおいて、白色系の発光を高効率で発生するので、可視光の主発光物質として採用することができる。インジウム(In)および亜鉛(Zn)は、青色系の発光を行うので色度調整用として採用することができる。また、亜鉛は、その蒸気圧が比較的高いので、ランプ電圧形成用として採用することができる。希土類金属は、主として可視光発光および色度調整用として採用することができる。なお、ランプ電圧形成用としてもいくらか作用する。
【0017】
したがって、上記グループの金属ハロゲン化物の複数を適宜選択することにより、前照灯用、プロジェクション用などの小形で高光出力タイプの各種メタルハライドランプを得ることができる。
【0018】
(4)放電媒体が本質的に水銀を含まない点に関して、水銀(Hg)は、全く含まないのが環境負荷物質削減のために好ましいことであるが、本発明の作用効果に本質的な影響のない程度、換言すれば不純物程度に含んでいても許容される。
【0019】
(5)管壁負荷が60(W/cm)以上であるのは、前照灯用、プロジェクション用などの小形で高光出力タイプの各種メタルハライドランプに対して本発明が効果的であることを明確にするためである。
【0020】
請求項2に係る発明の前照灯は、前照灯本体と;前照灯本体に配設された請求項1記載のメタルハライドランプと;メタルハライドランプを点灯する点灯回路と;を具備していることを特徴としている。
【0021】
本発明において、前照灯本体とは、前照灯からメタルハライドランプおよび点灯回路を除いた残余の部分をいう。また、点灯回路は、メタルハライドランプを始動し、かつ、点灯開始直後に定格ランプ電力の2倍以上の電力を数秒間連続的に投入し、その後徐々に定格ランプ電力まで低減しながら安定点灯へと移行させるようにメタルハライドランプを制御しながら点灯するように構成することができる。
【発明の効果】
【0022】
請求項1の発明によれば、A/√f≦4.5を満足することにより、発光のちらつき発生が効果的に抑制される水銀フリーのメタルハライドランプを提供することができる。
【0023】
請求項2の発明によれば、請求項1の効果を有する前照灯を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態を説明する。
【0025】
図1は、本発明のメタルハライドランプを実施するための一形態としての自動車前照灯用のメタルハライドランプの全体を示す側面図である。本形態において、メタルハライドランプMHLは、発光管IT、絶縁チューブT、外管OTおよび口金Bを具備している。
【0026】
〔発光管ITについて〕 発光管ITは、透光性気密容器1、一対の電極1b、1b、一対の外部リード線3A、3Bおよび放電媒体備えている。
【0027】
(透光性気密容器1について) 透光性気密容器1は、耐火性で透光性であるとともに、内容積が0.5cc以下の内部空間1cを形成する包囲部1aを備えている。前照灯用の場合、内容積は好適には0.05cc以下である。そして、内部空間1cは、その形状がほぼ円柱状をなしている。これに対して、透光性気密容器1の包囲部1aの外面は、楕円球状や紡錘状などの回転2次曲面状をなしている。また、包囲部1aの肉厚は、全体に肉厚で、管軸方向の中央部の肉厚が最も大きく、両端方向に順次肉厚が小さくなっている。これにより、透光性気密容器1の伝熱が良好になってその内部空間1cの底面および側部内面に付着している放電媒体の温度上昇が早まるために、光束立ち上がりが早くなるのに効果的に作用する。一方、液晶プロジェクション用の場合の内容積は0.4cc以下である。そして、内部空間1cは、回転楕円状をなしている。包囲部1aの外面は、球体状ないし楕円球体状をなしている。
【0028】
また、透光性気密容器1が「耐火性で透光性である」とは、少なくとも包囲部1aの外部へ発光を導出しようとする部位である導光部分が透光性であって、かつ、メタルハライドランプMHLの通常の作動温度に十分耐える程度の耐熱性を少なくとも備えているという意味である。したがって、透光性気密容器1は、耐火性を備える材料であり、かつ、その所要の導光部分が放電によって発生した所望波長域の可視光を外部に導出することができれば、どのようなもので作られていてもよい。例えば、透光性セラミックスや石英ガラスなどを用いることができ、前照灯用のメタルハライドランプの場合、好適には直線透過率の高い石英ガラスである。なお、後者の場合、必要に応じて、透光性気密容器1の包囲部1aの内面に耐ハロゲン性または耐ハロゲン化物性の透明性被膜を形成するか、透光性気密容器1の内面を改質することが許容される。
【0029】
透光性気密容器1が石英ガラスからなる場合、包囲部1aの管軸方向の両端に一対の封止部1a1、1a1を形成することができる。一対の封止部1a1、1a1は、包囲部1aを封止するとともに、後述する電極1bの軸部がここに埋設され、かつ、図示しない点灯回路から電流を電極1bへ気密に導入するのに寄与する手段であり、包囲部1aの両端から一体に延在している。そして、電極1bを封装し、かつ、点灯回路から電流を電極1bへ気密に導入するために、内部に適当な気密封止導通手段、好適には封着金属箔2を気密に埋設している。
【0030】
なお、封着金属箔2は、封止部1a1の内部に気密に埋設されて封止部1a1が透光性気密容器1の包囲部1aの内部を気密に維持するのに協働しながら電流導通導体として機能するための手段であり、透光性気密容器1が石英ガラスからなる場合の材料としてはモリブデン(Mo)が最適である。モリブデンは、約350℃になると酸化するので、外部側の端部の温度がこれより温度が低くなるように埋設される。封着金属箔2を封止部1a1に埋設する方法は、特段限定されないが、例えば減圧封止法、ピンチシール法などを単独で、または組み合わせて採用することができる。内容積が0.1cc以下の小形でキセノン(Xe)などの希ガスを室温で5気圧以上封入する前照灯などに用いるメタルハライドランプの場合は、後者が好適である。また、液晶プロジェクション用のメタルハライドランプの場合は、減圧封止法が好適である。
【0031】
また、図1において、左方の封止部1a1を形成した後に、封止管1a2が切除されないで封止部1a1の外側端部から一体に延長していて、後述する口金B内へ延在している。
【0032】
(一対の電極1b、1bについて) 一対の電極1b、1bは、透光性気密容器1の包囲部1aの両端内部に離間対向して封装されている。メタルハライドランプMHLの内部空間1cの内容積が0.5cc以下と小形のため、電極間距離は5mm以下であり、前照灯用の場合には規格化されている4.2±0.1mmに設定される。また、一対の電極1b、1bは、その軸部の直径が一般的には0.25〜0.5mm、好適には0.25〜0.35mmの範囲内で適当な値に設定されるのがよい。
【0033】
さらに、一対の電極1b、1bは、タングステン(W)、ドープドタングステン、レニウム(Re)、タングステン−レニウム合金(W−Re)などの耐火金属製の軸部を備え、その軸部の基端が封着金属箔2に溶接されるなどして封止部1a1に埋設され、中間が透光性気密容器1の封止部1a1により緩く支持され、先端が透光性気密容器1の内部空間1cに臨むように内部空間1cの両端に離間対向して配設されている。
【0034】
さらにまた、メタルハライドランプMHLが前照灯用の場合、電極1bの軸部をそのまま先端部までその径が大きくなることなく延長して、切頭円錐形、半球状または半楕円球状にすることにより、放電アークの起点が安定しやすくなる。また、これに加えて先端部に小さな突起が形成されていることにより相乗的に効果が増大する。なお、本形態において、電極1bの先端は、図示を省略しているが、電極軸の直径の1/2の曲率の半球状をなしている。しかし、要すれば電極1bの先端部近傍を軸部より径大の例えばほぼ球状ないし楕円球状にすることもできる。すなわち、ランプの点滅回数が非常に多くなるとともに、また始動時には定常時より大きな電流を流すので、これに対応して電極1b全体を径大にすると、電極軸に接触している透光性気密容器1の構成材料が点滅のたびに熱応力を受けてクラックを生じやすい。そこで、電極1bの先端部近傍に径大部を形成することで、電極1bを点滅に対応させることができるが、軸部は径大になっていないから、クラックを生じにくい。
【0035】
さらにまた、電極1bは、交流および直流のいずれで作動するように構成してもよい。交流で作動する場合、一対の電極1bは同一構造とする。直流で作動する場合、一般に陽極は温度上昇が激しいから、先端部近傍に径大部を形成すれば、放熱面積を大きくすることができるとともに、頻繁な点滅に対応することができる。これに対して、陰極は必ずしも径大部を形成する必要がない。
【0036】
(一対の外部リード線3A、3Bについて) 一対の外部リード線3A、3Bは、その先端が透光性気密容器1の両端の封止部1a1内において封着金属箔2の他端に溶接され、基端側が外部へ導出されている。図1において発光管ITから右方へ導出された外部リード線3Aは、中間部が後述する外管OTに沿って折り返されて後述する口金B内に導入されて図示しない口金端子の一方に接続している。図1において発光管ITから左方へ導出された外部リード線3Bは、封止管1a2内を管軸に沿って延在して口金B内に導入されて口金端子の他方に接続している。
【0037】
(放電媒体について) 放電媒体は、金属ハロゲン化物および希ガスを含み、水銀を本質的に含まない。金属ハロゲン化物は、スカンジウム(Sc)、ナトリウム(Na)、インジウム(In)、亜鉛(Zn)および希土類金属のグループから選択された複数の金属のハロゲン化物を含んでいる。しかし、放電媒体は、上記グループに属する金属のハロゲン化物のみからなる構成に限定されるものではなく、補助的にグループ以外の金属のハロゲン化物を含有することが許容される。例えば、主発光物質としてタリウム(Tl)のハロゲン化物を添加することにより、発光効率を一層高めることができる。また、亜鉛(Zn)に加えて次のグループからなるランプ電圧形成用の金属ハロゲン化物を添加することができる。すなわち、マグネシウム(Mg)、コバルト(C)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、アンチモン(Sb)、レニウム(Re)、ガリウム(Ga)、スズ(Sn)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)およびハフニウム(Hf)のグループから選択された一種または複数種の金属のハロゲン化物を添加することにより、ランプ電圧を所望に調整することができる。上記のグループの金属は、いずれも蒸気圧が高くて可視域に発光しないか、または発光が比較的少ない金属すなわち光束を稼ぐ発光金属としては期待されないが、主としてランプ電圧を形成するのに好適な金属である。
【0038】
希ガスは、始動ガスおよび緩衝ガスとして作用し、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)およびキセノン(Xe)などの一種または複数種を用いることができる。また、自動車前照灯用のメタルハライドランプとしては、キセノンを5気圧以上、好ましくは7〜18気圧の範囲で封入するか、あるいは点灯時の内部空間内の圧力が50気圧以上になるように封入することにより、始動直後の発光金属の蒸気圧が低いときに、立ち上がり時の光束としてXeの白色発光を寄与させることができる。
【0039】
さらに、水銀について言及しておく。本発明において、「本質的に水銀を含まない」と
は、水銀(Hg)を全く封入していないだけでなく、気密容器の内容積1cc当たり2mg未満、好ましくは1mg以下の水銀が存在していることを許容するという意味である。しかし、水銀を全く封入しないことは環境上望ましいことである。従来のように水銀蒸気によって放電ランプのランプ電圧を所要に高くする場合、短アーク形においては気密容器の内容積1cm当たり20〜40mg、さらに場合によっては50mg以上封入していたことからすれば、水銀量が実質的に頗る少ないといえる。
【0040】
ハロゲン化物を構成するハロゲンは、反応性に関してハロゲンの中でヨウ素が最も適当であり、少なくとも上記主発光金属は、主としてヨウ化物として封入される。しかし、要すれば、ヨウ化物および臭化物のように異なるハロゲンの化合物を併用することもできる。
【0041】
〔絶縁チューブTについて〕 絶縁チューブTは、セラミックスからなり、絶縁チューブTは、外部リード線3Aを被覆している。
【0042】
〔外管OTについて〕 外管OTは、石英ガラスまたはハイシリケートガラスなどからなり、その内部に発光管ITの少なくとも主要部を収納する手段である。そして、発光管ITから外部へ放射される紫外線を遮断し、機械的に保護し、かつ、発光管ITの透光性気密容器1を手で触れることで人の指紋や脂肪が付いて失透の原因とならないようにしたり、あるいは透光性気密容器1を保温したりする。また、外管OTの内部は、その目的に応じて外気に対して気密に封止してもよいし、外気と同程度または減圧された空気または不活性ガスが封入されていてもよい。さらに、要すれば、外気に連通していてもよい。さらに、外管OTの外面または内面に遮光膜を配設することもできる。
【0043】
また、図示の形態においては、外管OTを形成する際に、その両端を透光性気密容器1の両端から管軸方向に延在する封止部にガラス溶着させることによって外管OTを透光性気密容器1で支持するように構成することができる。外管OTは、紫外線カット性能を備えており、内部に発光管ITを収納していて、両端の縮径部4が放電容器ITの封止部1a1にガラス溶着している。しかし、内部は気密ではなく、外気に連通している。
【0044】
〔口金Bについて〕 口金Bは、メタルハライドランプMHLを図示しない点灯回路に接続したり、加えて機械的に支持したりするのに機能する手段であって、図示の形態においては、自動車前照灯用として規格化されているもので、発光管ITおよび外管OTを中心軸に沿って植立して支持していて、自動車前照灯の背面に着脱可能に装着されるように構成されている。
【0045】
次に、実施例を比較例1および比較例2とともに説明する。なお、比較例1は、市販の自動車前照灯用のメタルハライドランプ、比較例2は本発明の構成を備えていない自動車前照灯用の水銀フリーランプである。
【実施例1】
【0046】
透光性気密容器 :内部空間の内容積0.023cc、内径2.6mm、包囲部長さ7.2mm、
包囲部外径6.0mm
電極間距離 :4.2mm
放電媒体 :金属ハロゲン化物ScI3-NaI-ZnI2-InI-CsI、合計0.5mg、希ガスXe11atm
安定時ランプ電圧:44V
安定時ランプ電力:35W
点灯周波数 :330Hz(矩形波交流)
透光性気密容器内水分:50ng(AP-MS法)
A/√f :2.75
ちらつき発生率 :0%
【実施例2】
【0047】
透光性気密容器 :内部空間の内容積0.023cc、内径2.6mm、包囲部長さ7.2mm、
包囲部外径6.0mm
電極間距離 :4.2mm
放電媒体 :金属ハロゲン化物ScI3-NaI-ZnI2-InI-CsI、合計0.5mg、希ガスXe11atm
安定時ランプ電圧:44V
安定時ランプ電力:35W
点灯周波数 :330Hz(矩形波交流)
透光性気密容器内水分:20ng(AP-MS法)
A/√f :1.1
ちらつき発生率 :0%
【実施例3】
【0048】
透光性気密容器 :内部空間の内容積0.15cc、内径6.0mm、包囲部長さ8.0mm、
包囲部外径10mm
電極間距離 :5.0mm
放電媒体 :金属ハロゲン化物ScI3-Na-ZnI2-InBr-CsI、合計3.5mg、希ガスXe12atm
安定時ランプ電圧:50V
安定時ランプ電力:150W
点灯周波数 :1000Hz(矩形波交流)
透光性気密容器内水分:100ng(AP-MS法)
A/√f :3.16
ちらつき発生率 :0%

〔比較例1〕
【0049】
透光性気密容器 :内部空間の内容積0.023cc、内径2.6mm、包囲部長さ7.0mm、
包囲部外径6.0mm
電極間距離 :4.2mm
放電媒体 :金属ハロゲン化物ScI3-Na-ZnI2-InI-CsI、合計0.5mg、希ガスXe11atm
安定時ランプ電圧:44V
安定時ランプ電力:35W
点灯周波数 :330Hz(矩形波交流)
透光性気密容器内水分:90ng(AP-MS法)
A/√f :4.95
ちらつき発生率 :21%

〔比較例2〕
【0050】
透光性気密容器 :内部空間の内容積0.023cc、内径2.6mm、包囲部長さ7.0mm、
包囲部外径6.0mm
電極間距離 :4.2mm
放電媒体 :金属ハロゲン化物ScI3-Na-ZnI2-InI-CsI、合計0.5mg、希ガスXe11atm
安定時ランプ電圧:44V
安定時ランプ電力:35W
点灯周波数 :100Hz(矩形波交流)
透光性気密容器内水分:50ng(AP-MS法)
A/√f :5.0
ちらつき発生率 :25%

次に、図2および図3を参照してA/√fと発光のちらつき発生率および点灯回路を含んだ発光効率の関係について説明する。
【0051】
図2は、A/√fと発光のちらつき発生率の関係を示すグラフである。図において、横軸はA/√fを、縦軸はちらつき発生率(%)を、それぞれ示す。図から理解できるように、A/√fの値が大きいほどちらつき発生率が大きくなり、A/√fが4.5以下になるとちらつきが殆ど発生しなくなる。
【0052】
図3は、A/√fと点灯回路を含んだ発光効率の関係を示すグラフである。図において、横軸はA/√fを、縦軸は相対発光効率を、それぞれ示す。なお、ここで「相対発光効率」とは、点灯回路を含んだ総合的な発光効率を示している。図から理解できるように、A/√fの値が小さいほど発光効率が低くなり、A/√fが0.016以下になると、相対発光効率が急激に低下する。
【0053】
図4および図5は、本発明の照明装置を実施するための一形態としての自動車前照灯を示し、図4は概念図、図5は点灯回路を示す回路図である。各図において、11は前照灯本体、12は点灯回路、13はメタルハライドランプである。
【0054】
前照灯本体11は、容器状をなし、内部に反射鏡11a、前面にレンズ11bおよび図示を省略しているランプソケットなどを備えている。
【0055】
点灯回路12は、図5に示す回路構成を備えていて、主点灯回路12Aおよび始動器12Bを具備している。主点灯回路12Aは後述するように構成され、前照灯本体11に取り付けることができる。
【0056】
メタルハライドランプ13は、図1に示すメタルハライドランプからなる。
【0057】
前記主点灯回路12Aは、図5に示すように、直流電源21、昇圧チョッパ22、インバータ23および制御回路24からなり、メタルハライドランプ13を点灯する。直流電源21は、電池電源、整流化直流電源などからなり、直流出力端間に接続された平滑コンデンサC1を有している。昇圧チョッパ22は、直流電源21から供給される直流電圧を所要の電圧まで昇圧し、かつ、平滑化して後述するインバータ23に入力電圧を供給する。なお、符号22aは駆動回路で、昇圧チョッパ22のスイッチング素子を駆動する。インバータ23は、フルブリッジ形インバータからなる。そして、4個のスイッチング素子Q1〜Q4をブリッジ接続し、その対向2辺を構成する一対のスイッチング素子Q1、Q3と他の対向2辺を構成する一対のスイッチング素子Q2、Q4とを交互にスイッチングさせて、その出力端間に矩形波交流電圧を出力する。なお、符号23aは駆動回路で、インバータ23の各スイッチング素子Q1〜Q4を駆動する。制御回路24は、昇圧チョッパ22およびインバータ23を所要に、例えばメタルハライドランプ13が冷却状態のときには、メタルハライドランプ13を始動直後の数秒間定格ランプ電力の約2倍以上、例えば2.5倍程度で点灯し、その徐々に低減させて安定点灯時の定格ランプ電力に移行させるように制御する。
【0058】
始動器12Bは、メタルハライドランプ13の始動時に高電圧パルスを出力してメタルハライドランプ13に印加して、これを瞬時に始動させる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明のメタルハライドランプを実施するための一形態としての自動車前照灯用のメタルハライドランプの全体を示す側面図
【図2】A/√fと発光のちらつき発生率の関係を示すグラフ
【図3】A/√fと点灯回路を含んだ発光効率の関係を示すグラフ
【図4】本発明の照明装置を実施するための一形態としての自動車前照灯を示す概念図
【図5】同じく点灯回路を示す回路図
【符号の説明】
【0060】
1…透光性気密容器、1a…包囲部、1a1…封止部、1a2…封止管、1b…電極、1c…内部空間、2…封着金属箔、3A…外部リード線、3B…外部リード線、IT…発光管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内容積0.5cc以下の透光性気密容器と;
透光性気密容器内に5mm以下の電極間距離をもって対向して封装された一対の電極と;
スカンジウム(Sc)、ナトリウム(Na)、インジウム(In)、亜鉛(Zn)および希土類金属のグループから選択された複数の金属のハロゲン化物ならびに希ガスを含み水銀(Hg)を本質的に含まないで透光性気密容器内に封入された放電媒体と;
を具備し、管壁負荷が60W/cm以上であるとともに、透光性気密容器内の水分をA(ng)とし、矩形波交流電圧が印加されて点灯する際の点灯周波数をf(Hz)としたとき、下式を満足することを特徴とするメタルハライドランプ。
A/√f≦4.5
【請求項2】
照明装置本体と;
照明装置本体に配設された請求項1記載のメタルハライドランプと;
メタルハライドランプに矩形波交流電圧を印加して点灯する点灯回路と;
を具備していることを特徴とする照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−19054(P2006−19054A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−193065(P2004−193065)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000003757)東芝ライテック株式会社 (2,710)
【出願人】(000111672)ハリソン東芝ライティング株式会社 (995)
【Fターム(参考)】