説明

メタロセン化合物およびその製造方法

【課題】 高収率で高純度のメタロセン化合物を効率よく製造する方法およびそのメタロセン化合物を提供する。
【解決手段】 一般式CpVCl(Cpはシクロペンタジエニル基,置換シクロペンタジエニル基,インデニル基,置換インデニル基,フルオレニル基,置換フルオレニル基より選ばれた少なくとも一種)で表されるバナドセン化合物に塩素ガスを反応させてCpVOClを製造する方法において、生成した溶液のろ過時にろ過助剤を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バナジウムメタロセン化合物およびその製造方法に関するもので、CpVOClで表されるハーフバナドセン化合物を製造する際に、生成物の洗浄工程、並びに生成物の溶液をろ過する工程で発生する目詰まりを防ぎ、CpVOClで表されるハーフバナドセン化合物の生産性を向上させるものである。
【背景技術】
【0002】
シクロペンタジエニルバナジウム化合物はオレフィン類、共役ジエン類の重合触媒、水添触媒として有用な化合物であり、中でもブタジエン重合触媒として極めて高い活性を示し、これまでにない優れた重合体を与えることが知られている。
【0003】
これまでバナジウムメタロセンの製造方法については、原料として4価又は3価のバナジウム化合物、とくにバナジウムハロゲン化物を用いる方法が知られているが、それらは不安定かつ高価であり、また製造のプロセス、操作が複雑であった。
【0004】
安定で安価な5価のバナジウム化合物、なかでもバナジウムオキシトリクロライド(VOCl )を原料として用いて所望のバナジウムメタロセンを製造する方法の開発が望まれていた。非特許文献1には、バナジウムオキシトリクロライド(VOCl )とビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp Mg)との反応によるCpVOCl の製造方法が記載されているが、収率が低く、実用的ではない。
【0005】
また、非特許文献2には、バナジウムオキシトリクロライド(V(O)Cl )を予めジメトキシエタン(DME)と反応させて、錯体V(O)Cl(DME)を単離したのち、シクロペンタジエニルリチウム(CpLi)との反応によりCpV(O)Cl を製造する方法が記載されているが、中間体のバナジウム錯体の安定性が低く、記載どおりの結果を得ることが困難であった。
【0006】
また、これらの方法で反応を試みた場合、極めて微細な塩あるいは副生物が生成し、ろ過工程で目詰まりを起こし、充分な生産性を確保できない問題があった。
【0007】
【非特許文献1】Recueil Trav.Chim.1965年、84巻、1418頁
【非特許文献2】Russian Journal of General Chemistry. 2004年、74巻、3号、466頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、VClで表されるバナジウム化合物と一般式CpM(Cpはシクロペンタジエニル基,置換シクロペンタジエニル基,インデニル基,置換インデニル基,フルオレニル基,置換フルオレニル基より選ばれた少なくとも一種、MはLi、Na、K、MgClより選ばれた少なくとも一種)で表される金属化合物とを反応させて一般式CpVClで表されるバナドセン化合物とし、次に前記バナドセン化合物に酸素及び/又は水の共存下で塩素ガスと反応させてCpVOClで表されるハーフバナドセン化合物を製造する際に、生成物の洗浄工程、並びに生成物の溶液をろ過する工程で発生する目詰まりを防ぎ、CpVOClで表されるハーフバナドセン化合物の生産性を向上させる方法およびその方法によって得られたハーフバナドセン化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、VClで表されるバナジウム化合物と一般式CpM(Cpはシクロペンタジエニル基,置換シクロペンタジエニル基,インデニル基,置換インデニル基,フルオレニル基,置換フルオレニル基より選ばれた少なくとも一種、MはLi、Na、K、MgClより選ばれた少なくとも一種)で表される金属化合物とを反応させて一般式CpVClで表されるバナドセン化合物とし、次に前記バナドセン化合物に酸素及び/又は水の共存下で塩素ガスと反応させてCpVOClで表されるハーフバナドセン化合物を製造する際に、生成物の洗浄工程、並びに生成物の溶液をろ過する工程でろ過助剤を用いることを特徴とするCpVOClで表されるハーフバナドセン化合物の製造方法に関する。
【0010】
ろ過助剤をろ過面積当たり0.1〜50 Kg/m用いることを特徴とする前記のCpVOClで表されるハーフバナドセン化合物の製造方法に関する。
【0011】
ろ過助剤として、珪藻土、セライト、パーライト、活性炭から選ばれる少なくとも1種類を用いることを特徴とする前記のCpVOClで表されるハーフバナドセン化合物の製造方法に関する。
【0012】
前記置換シクロペンタジエニル基,置換インデニル基,置換フルオレニル基は、置換基として炭素数1〜20の炭化水素基及び/又はケイ素を含有する炭化水素基を有することを特徴とする前記のハーフバナドセン化合物の製造方法に関する。
【0013】
VClで表されるバナジウム化合物と一般式CpM(Cpはシクロペンタジエニル基,置換シクロペンタジエニル基,インデニル基,置換インデニル基,フルオレニル基,置換フルオレニル基より選ばれた少なくとも一種、MはLi、Na、K、MgClより選ばれた少なくとも一種)で表される金属化合物とを反応させて一般式CpVClで表されるバナドセン化合物とし、次に前記バナドセン化合物に酸素及び/又は水の共存下で塩素ガスと反応させてCpVOClで表されるハーフバナドセン化合物を製造する際に、生成物の洗浄工程、並びに生成物の溶液をろ過する工程でろ過助剤を用いることを特徴とするCpVOClで表されるハーフバナドセン化合物に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明で使用するバナドセン化合物は一般式CpVClで表され、一般式CpMで表される有機金属化合物を、VClで表されるバナジウム化合物に作用させることにより得られる。式中のCpはシクロペンタジエン骨格を有する基であり、シクロペンタジエニル基,置換シクロペンタジエニル基,インデニル基,置換インデニル基,フルオレニル基,置換フルオレニル基より選ばれた少なくとも一種である。式中のMは、Li、Na、K、MgClより選ばれた少なくとも一種のアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属である。
【0015】
Cpが置換基を有する場合、置換基は炭素数1〜20の炭化水素基及び/又はケイ素を含有する炭化水素基が好ましい。炭素数1〜20の炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、フェニル基、ベンジル基、トルイル基、2,6−ジメチルフェニル基、2,6−ジ−i−プロピルフェニル基、メシチル基、ナフチル基、アダマンチル基などが挙げられる。またケイ素を含有する炭化水素基としては、例えばトリメチルシリル基,トリメチルシリルメチル基,ビス(トリメチルシリル)メチル基などが挙げられる。置換基は複数有していてもよい。
【0016】
置換シクロペンタジエニル基の具体例としては、メチルシクロペンタジエニル基、1,2−ジメチルシクロペンタジエニル基、1,3−ジメチルシクロペンタジエニル基、1,2,3−トリメチルシクロペンタジエニル基、1,2,4−トリメチルシクロペンタジエニル基、テトラメチルシクロペンタジエニル基、ペンタメチルシクロペンタジエニル基、1−メチル−2−エチルシクロペンタジエニル基、1−メチル−3−エチルシクロペンタジエニル基、1−メチル−2−プロピルシクロペンタジエニル基、1−メチル−3−プロピルシクロペンタジエニル基、1−メチル−3−ブチルシクロペンタジエニル基、エチルシクロペンタジエニル基、1,2−ジエチルシクロペンタジエニル基、1,3−ジエチルシクロペンタジエニル基、1,2−ジ−n−プロピルシクロペンタジエニル基、1,3−ジ−n−プロピルシクロペンタジエニル基、1,2−ジ−i−プロピルシクロペンタジエニル基、1,3−ジ−i−プロピルシクロペンタジエニル基、1,2−ジ−n−ブチルシクロペンタジエニル基、1,3−ジ−n−ブチルシクロペンタジエニル基、1,3−ジ−t−ブチルシクロペンタジエニル基、n−ペンチルシクロペンタジエニル基、n−へキシルシクロペンタジエニル基、n−オクチルシクロペンタジエニル基、n−ドデシルシクロペンタジエニル基、フェニルシクロペンタジエニル基、ベンジルシクロペンタジエニル基、トリメチルシリルシクロペンタジエニル基、1,3−ビス(トリメチルシリル)シクロペンタジエニル基、トリメチルシリルメチルシクロペンタジエニル基、ビス(トリメチルシリル)メチルシクロペンタジエニル基などが挙げられる。
【0017】
置換インデニル基の具体例としては、2−メチルインデニル基、2−エチルインデニル基、2−n−プロピルインデニル基、2−i−プロピルインデニル基、2−n−ブチルインデニル基、2−t−ブチルインデニル基、2−トリメチルシリルインデニル基、2,4−ジメチルインデニル基、2−メチル−4−フェニルインデニル基、テトラヒドロインデニル基などが挙げられる。
【0018】
置換フルオレニル基の具体例としては、9−メチルフルオレニル基、9−エチルフルオレニル基、9−n−プロピルフルオレニル基、9−i−プロピルフルオレニル基、9−n−ブチルフルオレニル基、9−メチル−1−メチルフルオレニル基、オクタヒドロフルオレニル基などが挙げられる。
【0019】
本発明で使用するバナドセン化合物は一般式CpVClで表される。式中のCpはシクロペンタジエン骨格を有する基であり、シクロペンタジエニル基,置換シクロペンタジエニル基,インデニル基,置換インデニル基,フルオレニル基,置換フルオレニル基より選ばれた少なくとも一種である。本発明における前記Cpはシクロペンタジエニル基が好ましい。
【0020】
VClで表されるバナジウム化合物との反応に使用する有機金属化合物は一般式CpMで表される。式中のMは、Li、Na、K、MgClより選ばれた少なくとも一種のアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属である。中でもLi又はNaが好ましい。
【0021】
本発明において一般式CpMで表される有機金属化合物は、一般式RMで示される有機金属化合物と、CpHで表される化合物とを反応させることにより得られる。Rは、RHで表される化合物がCpHで表される化合物よりも低い酸性度を有することが好ましく、水素または炭素数1から12の炭化水素基、例えば、水素、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、などが挙げられる。これらの有機金属化合物は、エーテル類、アミン類などの配位子を有していてもよい。
【0022】
一般式RMで表される有機金属化合物の具体例としては、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化カルシウム、水素化マグネシウム、メチルリチウム、エチルリチウム、プロピルリチウム、n−ブチルリチウム、i−ブチルリチウム、s−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、ペンチルリチウム、イソアミルリチウム、ヘキシルリチウム、シクロヘキシルリチウム、フェニルリチウム、トリメチルシリルリチウム、トリフェニルシリルリチウム、メチルマグネシウムクロライド、エチルマグネシウムクロライド、n−プロピルマグネシウムクロライド、i−プロピルマグネシウムクロライド、n−ブチルマグネシウムクロライド、i−ブチルマグネシウムクロライド、s−ブチルマグネシウムクロライド、t−ブチルマグネシウムクロライド、ビニルマグネシウムクロライド、フェニルマグネシウムクロライドなどが挙げられる。
【0023】
一般式RMで表される有機金属化合物とCpHとの反応において、各成分の接触は、通常−100〜100℃、好ましくは−70〜70℃、特に好ましくは−20〜50℃、時間は10分〜120時間行うことができる。各成分の使用量は、CpH/RMのモル比で、通常0.1〜10、好ましくは 0.5〜2である。
【0024】
反応に使用する溶媒はエーテル類又は炭化水素が好ましい。溶媒の具体例としては、例えばジエチルエ−テル、n−ブチルメチルエ−テル、t−ブチルメチルエ−テル、ブチルエチルエ−テル、ジn−プロピルエ−テル、i−プロピルエ−テル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、2,5−ジメチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ドデカンなどが挙げられるが、本発明では特にテトラヒドロフランが好ましい。
【0025】
上述した反応で得られた一般式CpMで表される有機金属化合物は、反応溶液をそのまま用いることができる。また、反応溶液を蒸発乾固した後、得られた固体をそのまま用いることもできる。さらに、得られた固体を洗浄後、別の溶媒でスラリーとして用いてもよい。
【0026】
前述したVClで表されるバナジウム化合物とは一般式CpMで表される有機金属化合物との反応方法に特に制限はないが、例えばVClの溶液又はスラリーと、一般式CpMで表される有機金属化合物の溶液又はスラリーとを撹拌、混合する方法が挙げられる。使用する溶媒、VClと一般式CpMで表される有機金属化合物のモル比、濃度、添加順序、反応温度、反応時間などの条件に特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0027】
反応に使用する溶媒はエーテル類又は炭化水素が好ましい。溶媒の具体例としては、例えばジエチルエ−テル、n−ブチルメチルエ−テル、t−ブチルメチルエ−テル、ブチルエチルエ−テル、ジn−プロピルエ−テル、i−プロピルエ−テル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、2,5−ジメチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ドデカンなどが挙げられる。本発明では特にテトラヒドロフランが好ましい。
【0028】
VClで表されるバナジウム化合物及び一般式CpMで表される有機金属化合物との濃度は0.1〜3モル/Lが好ましく、更に好ましくは0.2〜2モル/Lである。これらの範囲よりも低い場合、反応が遅くなる上、容積当たりの生産性が低下し好ましくない。また、これらの範囲よりも高い場合、反応の制御が困難な上、均質な反応が行えない問題がある。
【0029】
VClで表されるバナジウム化合物と一般式CpMで表される有機金属化合物とのモル比(M/V)は1〜4が好ましく、更に好ましくは1.5〜3である。
【0030】
反応温度は−100〜100℃が好ましく、特に好ましくは−50〜50℃である。反応時間は0.2〜200時間が好ましく、特に好ましくは1〜60時間である。−100℃未満では反応が遅くなり好ましくない。また100℃よりも高い場合、副反応や生成物の分解が起こり好ましくない。
【0031】
生成したバナドセン化合物は、反応溶液から析出した不溶性の固体としてろ過分離するか、又は反応溶液を蒸発乾固することによって得られる。得られたバナドセン化合物を含む固体は、さらに洗浄することが望ましい。
【0032】
一般式CpVClで表されるバナドセン化合物を、酸素及び/又は水の共存下で塩素ガスと反応させることにより、一般式CpVOClで表されるハーフバナドセン化合物が製造できる。
【0033】
塩素ガスとの反応方法は特に限定されないが、例えばCpVClの溶液又はスラリーに酸素及び/又は水を連続的に供給しながら塩素ガスを供給することによって反応できる。水は間欠的に必要量を添加してもよい。
【0034】
使用する溶媒、CpVClの濃度、CpVClと塩素のモル比(V/Cl)、CpVClと酸素のモル比(V/O)、CpVClと/水のモル比(V/HO)、塩素ガスの圧力、反応温度、反応時間などの反応条件に特に制限はなく、必要に応じて適宜選択できる。
【0035】
使用する溶媒に特に制限はないが、例えば、ハロゲン化炭化水素あるいは炭化水素が挙げられる。具体例としては、四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエチレン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエチレン、1,1,1,2−テトラクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、クロロブタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ドデカンなどが挙げられる。本発明では、クロロホルム又は塩化メチレンが特に好ましい。
【0036】
CpVClの濃度は0.02〜2モル/Lが好ましく、更に好ましくは0.1〜1モル/Lである。濃度が0.02モル/Lよりも低い場合、反応が遅くなる上、容積当たりの生産性が低下し好ましくない。また、これらの範囲よりも高い場合、反応の制御が困難な上、均質な反応が行えない問題がある。
【0037】
CpVClと塩素のモル比(V/Cl)は0.5〜20が好ましく、更に好ましくは1〜10である。CpVClと塩素のモル比(V/Cl)が0.5〜20のとき効率的に高収率の目的物を生成できる。
【0038】
塩素ガスの供給方法に特に制限はなく、連続的に供給してもよく、また全量を一度に供給してもよい。反応時の塩素ガスの圧力は0.02〜2MPaが好ましく、更に好ましくは0.05〜1MPaである。また反応温度は−50〜150℃が好ましく、更に好ましくは0〜100℃である。反応時間は30分〜48時間が好ましく、更に好ましくは1〜24時間である。
【0039】
酸素及び/又は水の共存下で塩素ガスと反応させる場合、CpVClと酸素のモル比(V/O)、は0.05〜2が好ましく、さらに好ましくは0.1〜1である。CpVClと/水のモル比(V/HO)は0.1〜4が好ましく、さらに好ましくは0.2〜2であり、特に好ましくは0.5〜1.2である。
【0040】
塩素化反応を終了した後、反応溶媒を蒸発乾固する。最終生成物であるCpVOClを含む固体を溶媒で洗浄することにより、塩素化に用いた溶媒、あるいは塩素化されたCp化合物などの副生成物が除去できる。洗浄に用いる溶媒に特に制限はないが、目的とするCpVOClと副生成物との溶解度差が大きいものが好ましい。すなわち、CpVOClを溶解しにくく、副生成物を溶解しやすいものが好ましい。
【0041】
最終生成物であるCpVOClを含む固体の洗浄溶媒としては、例えば、石油エーテル、ケロシン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素が好ましい。
【0042】
洗浄後、洗浄液をろ過したのちにCpVOClを含む固体が得られるが、これを溶媒に再び溶解し、ろ過することにより、高純度のCpVOClを含む溶液が得られる。用途によっては、この溶液をそのまま目的とする用途で使用することができる。さらに、溶液を濃縮して冷却し再結晶することで高純度のCpVOClを得ることができる。このときアルカリ金属塩や、塩素化されたCp化合物などの不純物をさらに除去できる。ろ液を一度蒸発乾固し、新たに再結晶化のための溶媒に再溶解して冷却結晶物として得ることもできる。あるいは、ろ液を飽和溶液まで濃縮した後、溶解性の劣る溶媒(貧溶媒)を過剰量添加して放置することによって結晶物として得ることもできる。これらの方法は併用してもよい。
【0043】
最終生成物であるCpVOClを溶解する溶媒としては、ベンゼン,トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、又はクロロホルム、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素が好ましい。貧溶媒としては、石油エーテル、ケロシン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素が好ましい。
【0044】
反応生成物であるCpVOClを含む混合物の洗浄液、並びにCpVOClの溶液をろ過する際、必要に応じてろ過助剤を用いることが望ましい。ろ過助剤としては、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、ゼオライト、セライト、珪藻土、パーライト、活性炭などの微粉末あるいは顆粒を用いることができる。
【0045】
ろ過助剤の粒子平均径に特に制限はないが、好ましくは0.1〜100μm、さらに好ましくは1〜50μm、特に好ましくは5〜30μmであることが望ましい。粒子平均径がこの範囲より小さいとろ過面を通過したり、ケーキ状になって目詰まりを起こす問題があり、大きいとろ過助剤として機能しない。
【0046】
ろ過助剤の使用方法に特に制限はなく、予めろ過面にろ過助剤の層を形成するプレコート法、反応混合物にろ過助剤の一部あるいは全量を添加してからろ過するボディフィード法のいずれも用いることができ、これらを併用しても構わない。
【0047】
ろ過助剤の使用量は、特に制限はないが、プレコート法を用いる場合は、ろ過面積に対して好ましくは、0.1〜5 Kg/m、特に好ましくは、0.5〜2Kg/mである。ボディフィード法を用いる場合は、ろ過面積に対して好ましくは、0.5〜50 Kg/m、特に好ましくは、1〜30Kg/mである。
【0048】
(実施例)
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明の内容を限定するものではない。
【実施例1】
【0049】
四塩化バナジウム18.8gを冷却したテトラヒドロフラン164mlに温度が10℃を超えないように注意しながら滴下、溶解した。溶液の温度を−5℃に保ちながら、水素化ナトリウムとシクロペンタジエンとの反応で得た(C)Naのテトラヒドロフラン溶液(濃度0.78モル/リットル)250mlを2時間かけて滴下した。得られた懸濁液を23℃で1昼夜撹拌を続けた。次に、温度を50℃に上昇し、この温度を保ちながら減圧下でテトラヒドロフランを留去した。残渣にクロロホルム20ml添加し、30分攪拌した後、減圧下でクロロホルムを留去する操作を2回繰り返した後、さらにクロロホルム278mlを添加し、攪拌してバナドセン化合物(CVClを含む緑色固体のスラリーを得た。このスラリーを50℃に加温した後、塩素ガス(ガス流量500ml/h)を導入すると同時に、水1.65ミリリットルを9時間かけて連続的に添加し、塩素化を行なった。温度を50℃に保ちながら減圧下でクロロホルムを留去した。乾固して得られた固体に室温でヘプタン70mlを添加し、30分攪拌した後、予め三井金属鉱山株式会社製パーライトろ過助剤(商品名「ロカヘルプ4109」、粒子平均径14.7μ)1gのヘプタンスラリーでプレコートしたガラスフィルター(ろ過面積12cm)でろ過する操作を4回繰り返して洗浄した。1回当たりのろ過時間は15分であった。残査にろ過助剤(商品名「ロカヘルプ4109」)1gを含むトルエン310mlを添加して50℃に保ちながら30分攪拌して抽出した。得られたトルエン懸濁液をろ過して(C)VOClのトルエン溶液を得た。ろ過時間は4時間であった。ろ液を濃縮し、再結晶により(C)VOClの青黒色固体12g(収率61%)を得た。
【実施例2】
【0050】
実施例1で得た(C)VOClのトルエン溶液を5mmol/Lに希釈した溶液を用い、以下の手順でブタジエンの重合評価を行った。
内容量1.5Lのオ−トクレ−ブの内部を窒素置換し、シクロヘキサン260ml及び1,3−ブタジエン140mlを、それぞれモレキュラシーブスを通して仕込み、攪拌した。次いで水2μlを添加し、30分間撹拌溶解した後、カールフィッシャー水分系で水分量を測定した。くり返し測定を行った結果、重合系内の水分量は平均3.5mg(490μmol/L)であった。
水分の測定を行わない以外は上記と同じ操作を行い、水素ガスを積算マスフロメ−タ−で20℃、1気圧換算で90ml注入した。次いで、トリエチルアルミニウム(1mmol/mlのトルエン溶液)を0.36ml(900μmol/L)添加し、3分間攪拌後、(C)VOClのトルエン溶液(0.005mmol/ml)0.56ml、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレ−ト(Ph3CB(C654)(0.005mmol/mlのトルエン溶液)0.84mlの順に加え、温度40℃で30分間重合を行った。2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾ−ルを少量含有するエタノ−ルを注入し、反応を停止させた後、溶媒を蒸発させ乾燥し、ポリマ−を回収した。分析の結果、シス構造含有率88.8%、トランス構造含有率0.4%、ビニル構造含有率10.9%のポリブタジエンが40.1g得られていた。
【実施例3】
【0051】
ろ過助剤として三井金属鉱山株式会社製パーライトろ過助剤(商品名「ロカヘルプ4209」、粒子平均径17.0μ)を用いた他は実施例1と同様の操作を行ない、(C)VOClの青黒色固体11.8g(収率60%)を得た。ヘプタン洗浄1回当たりのろ過時間は15分であり、トルエン抽出溶液のろ過時間は3時間45分であった。
【実施例4】
【0052】
ろ過助剤として三井金属鉱山株式会社製パーライトろ過助剤(商品名「ロカヘルプ439」、粒子平均径12.0μ)を用いた他は実施例1と同様の操作を行ない、(C)VOClの青黒色固体11.5g(収率58%)を得た。ヘプタン洗浄1回当たりのろ過時間は20分であり、トルエン抽出溶液のろ過時間は5時間15分であった。
【0053】
(比較例1)
ろ過助剤を用いなかった他は実施例1と同様の操作を行い、C)VOClの青黒色固体12g(収率60%)を得た。ヘプタン洗浄1回当たりのろ過時間は45分であり、トルエン抽出溶液のろ過時間は8時間45分であった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
VClで表されるバナジウム化合物と一般式CpM(Cpはシクロペンタジエニル基,置換シクロペンタジエニル基,インデニル基,置換インデニル基,フルオレニル基,置換フルオレニル基より選ばれた少なくとも一種、MはLi、Na、K、MgClより選ばれた少なくとも一種)で表される金属化合物とを反応させて一般式CpVClで表されるバナドセン化合物とし、次に前記バナドセン化合物に酸素及び/又は水の共存下で塩素ガスと反応させてCpVOClで表されるハーフバナドセン化合物を製造する際に、生成物の洗浄工程、並びに生成物の溶液をろ過する工程でろ過助剤を用いることにより、ろ過工程で発生する目詰まりを防ぎ、ブタジエン重合触媒として極めて高い活性を示す高純度のCpVOClで表されるハーフバナドセン化合物を高い生産性で製造する方法を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
VClで表されるバナジウム化合物と一般式CpM(Cpはシクロペンタジエニル基,置換シクロペンタジエニル基,インデニル基,置換インデニル基,フルオレニル基,置換フルオレニル基より選ばれた少なくとも一種、MはLi、Na、K、MgClより選ばれた少なくとも一種)で表される金属化合物とを反応させて一般式CpVClで表されるバナドセン化合物とし、次に前記バナドセン化合物に酸素及び/又は水の共存下で塩素ガスと反応させてCpVOClで表されるハーフバナドセン化合物を製造する際に、生成物の洗浄工程、並びに生成物の溶液をろ過する工程でろ過助剤を用いることを特徴とするCpVOClで表されるハーフバナドセン化合物の製造方法。
【請求項2】
ろ過助剤をろ過面積当たり0.1〜50 Kg/m用いることを特徴とする請求項1に記載のCpVOClで表されるハーフバナドセン化合物の製造方法。
【請求項3】
ろ過助剤として、珪藻土、セライト、パーライト、活性炭から選ばれる少なくとも1種類を用いることを特徴とする請求項1に記載のCpVOClで表されるハーフバナドセン化合物の製造方法。
【請求項4】
前記置換シクロペンタジエニル基,置換インデニル基,置換フルオレニル基は、置換基として炭素数1〜20の炭化水素基及び/又はケイ素を含有する炭化水素基を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のハーフバナドセン化合物の製造方法。
【請求項5】
VClで表されるバナジウム化合物と一般式CpM(Cpはシクロペンタジエニル基,置換シクロペンタジエニル基,インデニル基,置換インデニル基,フルオレニル基,置換フルオレニル基より選ばれた少なくとも一種、MはLi、Na、K、MgClより選ばれた少なくとも一種)で表される金属化合物とを反応させて一般式CpVClで表されるバナドセン化合物とし、次に前記バナドセン化合物に酸素及び/又は水の共存下で塩素ガスと反応させてCpVOClで表されるハーフバナドセン化合物を製造する際に、生成物の洗浄工程、並びに生成物の溶液をろ過する工程でろ過助剤を用いることを特徴とするCpVOClで表されるハーフバナドセン化合物。

【公開番号】特開2009−67698(P2009−67698A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235579(P2007−235579)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】