説明

メタロセン系複合触媒、触媒組成物及び共重合体の製造方法

【課題】共役ジエン化合物と非共役オレフィンとの共重合体を製造することが可能なメタロセン系複合触媒を提供することにある。
【解決手段】下記式(A):
aMXbQYb ・・・ (A)
[式中、Rはそれぞれ独立して無置換もしくは置換インデニルを示し、該RはMに配位しており、Mはランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、Xはそれぞれ独立して炭素数1〜20の炭化水素基を示し、該XはM及びQにμ配位しており、Qは周期律表第13族元素を示し、Yはそれぞれ独立して炭素数1〜20の炭化水素基又は水素原子を示し、該YはQに配位しており、a及びbは2である]で表されることを特徴とする共役ジエン化合物と非共役オレフィンとの重合用メタロセン系複合触媒である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタロセン系複合触媒及び該メタロセン系複合触媒を含む触媒組成物、並びに該メタロセン系複合触媒又は該触媒組成物を用いた共重合体の製造方法に関し、特には、共役ジエン化合物−非共役オレフィン共重合体を製造することが可能なメタロセン系複合触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チーグラー・ナッタ触媒に代表される触媒系を用いた配位アニオン重合では、オレフィンやジエンの単独重合が可能であることがよく知られている。しかしながら、このような重合反応系では、オレフィンとジエンとを効率良く共重合させることは困難であった。例えば、特表2006−503141号公報(特許文献1)及び特公平2−61961号公報(特許文献2)には、エチレンとジエンとの共重合についての記載があるものの、特殊な有機金属錯体を触媒成分として用いること、得られる重合体は限定的な構造を有していること、触媒活性が低いこと、生成される重合体の分子量が低いこと等の多くの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2006−503141号公報
【特許文献2】特公平2−61961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明の目的は、共役ジエン化合物と非共役オレフィンとの共重合体を製造することが可能なメタロセン系複合触媒及び該メタロセン系複合触媒を含む触媒組成物を提供することにある。また、本発明の他の目的は、該メタロセン系複合触媒又は該触媒組成物を用いた共役ジエン化合物と非共役オレフィンとの共重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特定のメタロセン系触媒を合成し、該メタロセン系触媒を用いることで、共役ジエン化合物及び非共役オレフィンを重合させることが可能な共役ジエン化合物−非共役オレフィン共重合体の製造方法を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
即ち、本発明のメタロセン系複合触媒は、共役ジエン化合物と非共役オレフィンとの重合用であり、下記式(A):
aMXbQYb ・・・ (A)
[式中、Rはそれぞれ独立して無置換もしくは置換インデニルを示し、該RはMに配位しており、Mはランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、Xはそれぞれ独立して炭素数1〜20の炭化水素基を示し、該XはM及びQにμ配位しており、Qは周期律表第13族元素を示し、Yはそれぞれ独立して炭素数1〜20の炭化水素基又は水素原子を示し、該YはQに配位しており、a及びbは2である]で表されることを特徴とする。
【0007】
本発明のメタロセン系複合触媒の好適例においては、下記式(I):
【化1】

[式中、M1は、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、CpRは、それぞれ独立して無置換もしくは置換インデニルを示し、Ra及びRbは、それぞれ独立して炭素数1〜20の炭化水素基を示し、該Ra及びRbは、M1及びAlにμ配位しており、Rc及びRdは、それぞれ独立して炭素数1〜20の炭化水素基又は水素原子を示す]で表される。
【0008】
また、本発明の触媒組成物は、上記のメタロセン系複合触媒と、ホウ素アニオンとを含むことを特徴とする。
【0009】
更に、本発明の共役ジエン化合物と非共役オレフィンとの共重合体の製造方法は、上記メタロセン系複合触媒又は上記触媒組成物の存在下、共役ジエン化合物と非共役オレフィンとを重合させることを特徴とする。
【0010】
本発明の共重合体の製造方法の好適例においては、前記共役ジエン化合物が、1,3-ブタジエン及びイソプレンよりなる群から選択される少なくとも一種である。
【0011】
本発明の共重合体の製造方法の他の好適例においては、前記非共役オレフィンが、非環状オレフィンである。ここで、前記非環状オレフィンとしては、炭素数2〜10のα−オレフィンが好ましく、該α−オレフィンとしては、エチレン、プロピレン及び1-ブテンが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、共役ジエン化合物と非共役オレフィンとの共重合体を製造することが可能なメタロセン系複合触媒及び該メタロセン系複合触媒を含む触媒組成物を提供することができる。また、該メタロセン系複合触媒又は該触媒組成物を用いることで、共役ジエン化合物と非共役オレフィンとの共重合体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】化合物Xの1H-NMRスペクトルチャートである。
【図2】化合物Yの1H-NMRスペクトルチャートである。
【図3】化合物Zの1H-NMRスペクトルチャートである。
【図4】共重合体Aの1H-NMRスペクトルチャートである。
【図5】共重合体Aの13C-NMRスペクトルチャートである。
【図6】共重合体AのDSC曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<メタロセン系複合触媒>
以下に、本発明のメタロセン系複合触媒を詳細に説明する。本発明のメタロセン系複合触媒は、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムの希土類元素と周期律表第13族元素とを有し、下記式(A):
aMXbQYb ・・・ (A)
[式中、Rはそれぞれ独立して無置換もしくは置換インデニルを示し、該RはMに配位しており、Mはランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、Xはそれぞれ独立して炭素数1〜20の炭化水素基を示し、該XはM及びQにμ配位しており、Qは周期律表第13族元素を示し、Yはそれぞれ独立して炭素数1〜20の炭化水素基又は水素原子を示し、該YはQに配位しており、a及びbは2である]で表されることを特徴とする。本発明のメタロセン系重合触媒を用いることで、共役ジエン化合物と非共役オレフィンとの共重合体を製造することができる。また、本発明のメタロセン系複合触媒、例えば予めアルミニウム触媒と複合させてなる触媒を用いることで、共重合体合成時に使用されるアルキルアルミニウムの量を低減したり、無くしたりすることが可能となる。なお、従来の触媒系を用いると、共重合体合成時に大量のアルキルアルミニウムを用いる必要がある。例えば、従来の触媒系では、金属触媒に対して10当量以上のアルキルアルミニウムを用いる必要があるところ、本発明のメタロセン系複合触媒であれば、5当量程度のアルキルアルミニウムを加えることで、優れた触媒作用が発揮される。
【0015】
本発明のメタロセン系複合触媒において、上記式(A)中の金属Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムである。ランタノイド元素には、原子番号57〜71の15元素が含まれ、これらのいずれでもよい。金属Mとしては、サマリウムSm、ネオジムNd、プラセオジムPr、ガドリニウムGd、セリウムCe、ホルミウムHo、スカンジウムSc及びイットリウムYが好適に挙げられる。
【0016】
上記式(A)において、Rは、それぞれ独立して無置換インデニル又は置換インデニルであり、該Rは上記金属Mに配位している。なお、置換インデニル基の具体例としては、例えば、1,2,3-トリメチルインデニル基、ヘプタメチルインデニル基、1,2,4,5,6,7-ヘキサメチルインデニル基等が挙げられる。
【0017】
上記式(A)において、Qは、周期律表第13族元素を示し、具体的には、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム等が挙げられる。
【0018】
上記式(A)において、Xはそれぞれ独立して炭素数1〜20の炭化水素基を示し、該XはM及びQにμ配位している。ここで、炭素数1〜20の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、ステアリル基等が挙げられる。なお、μ配位とは、架橋構造をとる配位様式のことである。
【0019】
上記式(A)において、Yはそれぞれ独立して炭素数1〜20の炭化水素基又は水素原子を示し、該YはQに配位している。ここで、炭素数1〜20の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、ステアリル基等が挙げられる。
【0020】
また、本発明のメタロセン系複合触媒としては、上記式(I)で表されるメタロセン系複合触媒が好ましい。
【0021】
上記式(I)において、金属M1は、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムである。ランタノイド元素には、原子番号57〜71の15元素が含まれ、これらのいずれでもよい。金属M1としては、サマリウムSm、ネオジムNd、プラセオジムPr、ガドリニウムGd、セリウムCe、ホルミウムHo、スカンジウムSc及びイットリウムYが好適に挙げられる。
【0022】
上記式(I)において、CpRは、無置換インデニル又は置換インデニルである。インデニル環を基本骨格とするCpRは、C97-XX又はC911-XXで示され得る。ここで、Xは0〜7又は0〜11の整数である。また、Rはそれぞれ独立してヒドロカルビル基又はメタロイド基であることが好ましい。ヒドロカルビル基の炭素数は1〜20であることが好ましく、1〜10であることが更に好ましく、1〜8であることが一層好ましい。該ヒドロカルビル基として、具体的には、メチル基、エチル基、フェニル基、ベンジル基等が好適に挙げられる。一方、メタロイド基のメタロイドの例としては、ゲルミルGe、スタニルSn、シリルSiが挙げられ、また、メタロイド基はヒドロカルビル基を有することが好ましく、メタロイド基が有するヒドロカルビル基は上記のヒドロカルビル基と同様である。該メタロイド基として、具体的には、トリメチルシリル基等が挙げられる。置換インデニルとして、具体的には、2-フェニルインデニル、2-メチルインデニル等が挙げられる。なお、式(I)における二つのCpRは、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。
【0023】
上記式(I)において、Ra及びRbは、それぞれ独立して炭素数1〜20の炭化水素基を示し、該Ra及びRbは、M1及びAlにμ配位している。ここで、炭素数1〜20の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、ステアリル基等が挙げられる。
【0024】
上記式(I)において、Rc及びRdは、それぞれ独立して炭素数1〜20の炭化水素基又は水素原子である。ここで、炭素数1〜20の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、ステアリル基等が挙げられる。
【0025】
本発明のメタロセン系複合触媒は、例えば、溶媒中で、下記式(II):
【化2】

(式中、M2は、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、CpRは、それぞれ独立して無置換もしくは置換インデニルを示し、Re〜Rjは、それぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基又は水素原子を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示す)で表されるメタロセン錯体を、AlRklmで表される有機アルミニウム化合物と反応させることで得られる。なお、反応温度は室温程度にすればよいので、温和な条件で製造することができる。また、反応時間は任意であるが、数時間〜数十時間程度である。反応溶媒は特に限定されないが、原料及び生成物を溶解する溶媒であることが好ましく、例えばトルエンやヘキサンを用いればよい。なお、上記メタロセン系複合触媒の構造は、1H-NMRにより決定することが好ましい。
【0026】
上記式(II)で表されるメタロセン錯体において、CpRは、無置換インデニル又は置換インデニルであり、上記式(I)中のCpRと同義である。また、上記式(II)において、金属M2は、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムであり、上記式(I)中の金属M1と同義である。
【0027】
上記式(II)で表されるメタロセン錯体は、シリルアミド配位子[−N(SiR3)2]を含む。シリルアミド配位子に含まれるR基(Re〜Rj基)は、それぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基又は水素原子である。また、Re〜Rjのうち少なくとも一つが水素原子であることが好ましい。Re〜Rjのうち少なくとも一つを水素原子にすることで、触媒の合成が容易になる。更に、アルキル基としては、メチル基が好ましい。
【0028】
上記式(II)で表されるメタロセン錯体は、更に0〜3個、好ましくは0〜1個の中性ルイス塩基Lを含む。ここで、中性ルイス塩基Lとしては、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジメチルアニリン、トリメチルホスフィン、塩化リチウム、中性のオレフィン類、中性のジオレフィン類等が挙げられる。ここで、上記錯体が複数の中性ルイス塩基Lを含む場合、中性ルイス塩基Lは、同一であっても異なっていてもよい。
【0029】
また、上記式(II)で表されるメタロセン錯体は、単量体として存在していてもよく、二量体又はそれ以上の多量体として存在していてもよい。
【0030】
一方、本発明のメタロセン系複合触媒の生成に用いる有機アルミニウム化合物は、AlRklmで表され、ここで、Rk及びRlは、それぞれ独立して炭素数1〜20の1価の炭化水素基又は水素原子で、Rmは炭素数1〜20の1価の炭化水素基であり、但し、Rmは上記Rk又はRlと同一でも異なっていてもよい。炭素数1〜20の1価の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、ステアリル基等が挙げられる。
【0031】
上記有機アルミニウム化合物の具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリ-n-プロピルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリ-n-ブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ-t-ブチルアルミニウム、トリペンチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリシクロヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム;水素化ジエチルアルミニウム、水素化ジ-n-プロピルアルミニウム、水素化ジ-n-ブチルアルミニウム、水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化ジヘキシルアルミニウム、水素化ジイソヘキシルアルミニウム、水素化ジオクチルアルミニウム、水素化ジイソオクチルアルミニウム;エチルアルミニウムジハイドライド、n-プロピルアルミニウムジハイドライド、イソブチルアルミニウムジハイドライド等が挙げられ、これらの中でも、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、水素化ジエチルアルミニウム、水素化ジイソブチルアルミニウムが好ましい。また、これら有機アルミニウム化合物は、1種単独で使用することも、2種以上を混合して用いることもできる。なお、上記メタロセン系複合触媒の生成に用いる有機アルミニウム化合物の量は、メタロセン錯体に対して2〜50倍モルであることが好ましく、約3〜5倍モルであることが更に好ましい。
【0032】
<触媒組成物>
次に、本発明の触媒組成物を詳細に説明する。本発明の触媒組成物は、上記メタロセン系複合触媒と、ホウ素アニオンとを含むことを特徴とし、更に、通常のメタロセン系触媒を含む触媒組成物に含有される他の成分、例えば助触媒等を含むことが好ましい。なお、上記メタロセン系複合触媒とホウ素アニオンとを合わせて2成分触媒ともいう。本発明の触媒組成物によれば、上記メタロセン系複合触媒と同様に、共役ジエン化合物−非共役オレフィン共重合体を製造することが可能であるが、更にホウ素アニオンを含有するため、各単量体成分の共重合体中での含有量を任意に制御することが可能となる。
【0033】
本発明の触媒組成物において、2成分触媒を構成するホウ素アニオンとして、具体的には、4価のホウ素アニオンが挙げられる。例えば、テトラフェニルボレート、テトラキス(モノフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(ジフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(トリフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(テトラフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(テトラフルオロメチルフェニル)ボレート、テトラ(トリル)ボレート、テトラ(キシリル)ボレート、(トリフェニル,ペンタフルオロフェニル)ボレート、[トリス(ペンタフルオロフェニル),フェニル]ボレート、トリデカハイドライド-7,8-ジカルバウンデカボレート等が挙げられ、これらの中でも、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートが好ましい。
【0034】
なお、上記ホウ素アニオンは、カチオンと組み合わされたイオン性化合物として使用することができる。上記カチオンとしては、例えば、カルボニウムカチオン、オキソニウムカチオン、アミンカチオン、ホスホニウムカチオン、シクロヘプタトリエニルカチオン、遷移金属を有するフェロセニウムカチオン等が挙げられる。カルボニウムカチオンとしては、トリフェニルカルボニウムカチオン、トリ(置換フェニル)カルボニウムカチオン等の三置換カルボニウムカチオン等が挙げられ、トリ(置換フェニル)カルボニルカチオンとして、具体的には、トリ(メチルフェニル)カルボニウムカチオン等が挙げられる。アミンカチオンとしては、トリメチルアンモニウムカチオン、トリエチルアンモニウムカチオン、トリプロピルアンモニウムカチオン、トリブチルアンモニウムカチオン等のトリアルキルアンモニウムカチオン;N,N-ジメチルアニリニウムカチオン、N,N-ジエチルアニリニウムカチオン、N,N-2,4,6-ペンタメチルアニリニウムカチオン等のN,N-ジアルキルアニリニウムカチオン;ジイソプロピルアンモニウムカチオン、ジシクロヘキシルアンモニウムカチオン等のジアルキルアンモニウムカチオン等が挙げられる。ホスホニウムカチオンとしては、トリフェニルホスホニウムカチオン、トリ(メチルフェニル)ホスホニウムカチオン、トリ(ジメチルフェニル)ホスホニウムカチオン等のトリアリールホスホニウムカチオン等が挙げられる。これらカチオンの中でも、N,N-ジアルキルアニリニウムカチオン又はカルボニウムカチオンが好ましく、N,N-ジアルキルアニリニウムカチオンが特に好ましい。従って、上記イオン性化合物としては、N,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルカルボニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が好ましい。なお、ホウ素アニオンとカチオンとからなるイオン性化合物は、上記メタロセン系複合触媒に対して0.1〜10倍モル加えることが好ましく、約1倍モル加えることが更に好ましい。
【0035】
本発明の触媒組成物に用いることができる助触媒としては、例えば、上述のAlRklmで表される有機アルミニウム化合物の他、アルミノキサン等が好適に挙げられる。上記アルミノキサンとしては、アルキルアミノキサンが好ましく、例えば、メチルアルミノキサン(MAO)、修飾メチルアルミノキサン等が挙げられる。また、修飾メチルアルミノキサンとしては、MMAO−3A(東ソーファインケム社製)等が好ましい。なお、これらアルミノキサンは、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
<共役ジエン化合物−非共役オレフィン共重合体の製造方法>
次に、本発明の共役ジエン化合物と非共役オレフィンとの共重合体の製造方法を詳細に説明する。本発明の共役ジエン化合物と非共役オレフィンとの共重合体の製造方法は、上記メタロセン系複合触媒又は上記触媒組成物の存在下、共役ジエン化合物と非共役オレフィンとを重合させることを特徴とする。上記製造方法によれば、上記メタロセン系複合触媒又は上記触媒組成物を用いること以外は、通常の配位イオン重合触媒による重合体の製造方法と同様にして、単量体である共役ジエン化合物と非共役オレフィンを共重合させることができる。なお、重合方法としては、溶液重合法、懸濁重合法、液相塊状重合法、乳化重合法、気相重合法、固相重合法等の任意の方法を用いることができる。また、重合反応に溶媒を用いる場合、用いられる溶媒は重合反応において不活性であればよく、例えば、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン等が挙げられる。
【0037】
なお、単量体として用いる共役ジエン化合物としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチルブタジエン等が挙げられ、これらの中でも、1,3-ブタジエン及びイソプレンが好ましい。また、これら共役ジエン化合物は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
一方、単量体として用いる非共役オレフィンは、優れた耐熱性や、共重合体の主鎖中に占める二重結合の割合を減らし、結晶性を低下させることでエラストマーとしての設計自由度を高めることが可能となる。また、非共役オレフィンとしては、非環状オレフィンであることが好ましく、該非環状オレフィンとしては、炭素数2〜10のα−オレフィンであることが好ましい。ここで、上記α−オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン等が挙げられ、これらの中でも、エチレン、プロピレン及び1−ブテンが好ましい。これら非共役オレフィンは、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、オレフィンは、脂肪族不飽和炭化水素で、炭素−炭素二重結合を1個以上有する化合物を指す。
【0039】
なお、本発明の共役ジエン化合物−非共役オレフィン共重合体の製造方法においては、上述の通り、上記メタロセン系複合触媒又は上記触媒組成物を用いること以外は、通常の配位イオン重合触媒による重合体の製造方法と同様にして、重合を行うことができる。ここで、本発明の共重合体の製造方法が上記触媒組成物を用いる場合は、例えば、(1)単量体として共役ジエン化合物及び非共役オレフィンを含む重合反応系中に、2成分触媒の構成成分を別個に提供し、該反応系中において触媒組成物としてもよいし、(2)予め調製された触媒組成物を重合反応系中に提供してもよい。なお、上記メタロセン系複合触媒の使用量は、共役ジエン化合物及び非共役オレフィンの合計に対して、0.0001〜0.01倍モルの範囲が好ましい。
【0040】
また、本発明の共役ジエン化合物−非共役オレフィン共重合体の製造方法においては、エタノール、イソプロパノール等の重合停止剤を用いて、重合を停止させてもよい。
【0041】
本発明の共役ジエン化合物−非共役オレフィン共重合体の製造方法において、共役ジエン化合物及び非共役オレフィンの重合反応は、不活性ガス、好ましくは窒素ガスやアルゴンガスの雰囲気下において行われることが好ましい。上記重合反応の重合温度は、特に制限されないが、例えば-100℃〜200℃の範囲が好ましく、室温程度とすることもできる。なお、重合温度を上げると、重合反応のシス-1,4選択性が低下することがある。また、上記重合反応の圧力は、共役ジエン化合物及び非共役オレフィンを十分に重合反応系中に取り込むため、0.1〜10MPaの範囲が好ましい。また、上記重合反応の反応時間も特に制限されず、例えば1秒〜10日の範囲が好ましいが、重合される単量体の種類、触媒の種類、重合温度等の条件によって適宜選択することができる。
【0042】
上記共役ジエン化合物−非共役オレフィン共重合体は、共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量が70%以上であることが好ましい。共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量が70%以上であれば、高い伸長結晶性と低いガラス転移点(Tg)を保持することができ、これにより、耐摩耗性等の物性が改良される。
【0043】
上記共役ジエン化合物−非共役オレフィン共重合体は、非共役オレフィンの含有率が1〜99mol%の範囲であることが好ましく、10〜60mol%の範囲であることが更に好ましい。非共役オレフィンの含有率が上記の特定した範囲内にあれば、相分離を起こすことなく、耐熱性を効果的に向上させることができる。
【0044】
上記共役ジエン化合物−非共役オレフィン共重合体は、低分子量化の問題が起こることも無く、その重量平均分子量(Mw)は特に限定されるものでもないが、高分子構造材料への適用の観点から、該共重合体の重量平均分子量(Mw)は10,000以上が好ましく、30,000〜200,000の範囲が更に好ましい。また、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、4以下が好ましく、2.5以下が更に好ましい。ここで、平均分子量及び分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレンを標準物質として求めることができる。
【0045】
本発明の共重合体の製造方法により得られる共役ジエン化合物と非共役オレフィンとの共重合体は、エラストマー製品全般、特にタイヤ部材に好適に用いることができる。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0047】
<メタロセン系複合触媒の調製>
(化合物X:Nd(N(SiMe3)2)3の合成)
窒素雰囲気下のもと、ストレム社製NdCl3(2.60g,10.38mmol)のTHF溶液100mLに、KN(SiMe3)2(6.00g,30.08mmol)を含むエーテル溶液(アルドリッチ社製)20mlをゆっくり滴下し、室温で12時間攪拌した。その後、溶媒を減圧留去し、代わりにヘキサン150mLを加え、沈殿物をフィルター濾過した。その後、ヘキサンをゆっくり減圧留去したところ青色結晶であるNd(N(SiMe3)2)3(4.86g,77.5%)を得た。得られた化合物Xの構造確認は、1H−NMRによって行われた。なお、1H−NMRは、トルエン-d8を溶媒とし、20℃で測定を行った。化合物Xの1H-NMRスペクトルチャートを図1に示す。
【0048】
(化合物Y:(2-PhC96)2Nd[N(SiHMe2)2]の合成)
窒素雰囲気下のもと、Nd(N(SiMe3)2)3(3.12g,4.99mmol)、アルドリッチ社より販売される2-PhC97(2-フェニルインデン)(1.81g,9.41mmol)及び東京化成社製HN(SiHMe2)2(2.70g,20.25mmol)をヘキサン150mL中、70℃で8時間攪拌して反応させた。その後、ヘキサンを減圧留去し、残留物をヘキサンで数回洗浄したところ緑色粉末である(2-PhC96)2Nd[N(SiHMe2)2](2.50g,81%)を得た。得られた化合物Yの構造確認は、1H−NMRによって行われた。なお、1H−NMRは、トルエン-d8を溶媒とし、20℃で測定を行った。化合物Yの1H-NMRスペクトルチャートを図2に示す。
【0049】
(化合物Z:(2-PhC96)2Nd(μ−Me)2AlMe2の合成)
窒素雰囲気下のもと、(2-PhC96)2Nd[N(SiHMe2)2](2.00g,3.03mmol)のトルエン溶液50mLに、AlMe3(9.0mmol)を含むトルエン溶液(アルドリッチ社製)4.5mlをゆっくり滴下し、室温で16時間攪拌した。その後、トルエンを減圧留去し、残留物をヘキサンで数回洗浄したところ緑色粉末である(2-PhC96)2Nd(μ−Me)2AlMe2(1.60g,86%)を得た。得られたメタロセン系複合触媒の構造確認は、1H−NMRによって行われた。なお、1H−NMRは、トルエン-d8を溶媒とし、20℃で測定を行った。化合物Zの1H-NMRスペクトルチャートを図3に示す。
【0050】
(実施例1)
十分に乾燥した400ml耐圧ガラス反応器に、1,3-ブタジエン3.95g(0.073mol)を含むトルエン溶液320mlを添加した後、エチレンを0.6MPaで導入した。一方、窒素雰囲気下のグローブボックス中で、ガラス製容器にジメチルアルミニウム(μ-ジメチル)ビス(2-フェニルインデニル)ネオジム[(2-PhC96)2Nd(μ−Me)2AlMe2]204.0μmol、及びトリフェニルカルボニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート[Ph3CB(C65)4]195.0μmolを仕込み、トルエン20mlに溶解させて触媒溶液とした。その後、グローブボックスから触媒溶液を取り出し、モノマー溶液へ添加し、室温で90分間重合を行った。重合後、2,2'-メチレン-ビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)(NS−5)5質量%のイソプロパノール溶液1mlを加えて反応を停止させ、さらに大量のメタノールで共重合体を分離し、70℃で真空乾燥し共重合体Aを得た。得られた共重合体Aの収量は3.60gであった。なお、図4は共重合体Aの1H-NMRスペクトルチャートを示し、図5は共重合体Aの13C-NMRスペクトルチャートを示し、図6は共重合体AのDSC曲線を示す。
【0051】
(実施例2)
十分に乾燥した400ml耐圧ガラス反応器に、1,3-ブタジエン9.25g(0.171mol)を含むトルエン溶液300mlを添加した後、エチレンを0.8MPaで導入した。一方、窒素雰囲気下のグローブボックス中で、ガラス製容器にジメチルアルミニウム(μ-ジメチル)ビス(2-フェニルインデニル)ネオジム[(2-PhC96)2Nd(μ−Me)2AlMe2]204.0μmol、及びトリフェニルカルボニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート[Ph3CB(C65)4]195.0μmolを仕込み、トルエン20mlに溶解させて触媒溶液とした。その後、グローブボックスから触媒溶液を取り出し、モノマー溶液へ添加し、室温で150分間重合を行った。重合後、2,2'-メチレン-ビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)(NS−5)5質量%のイソプロパノール溶液1mlを加えて反応を停止させ、さらに大量のメタノールで共重合体を分離し、70℃で真空乾燥し共重合体Bを得た。得られた共重合体Bの収量は14.25gであった。
【0052】
(実施例3)
十分に乾燥した400ml耐圧ガラス反応器に、1,3-ブタジエン6.15g(0.114mol)を含むトルエン溶液300mlを添加した後、エチレンを0.8MPaで導入した。一方、窒素雰囲気下のグローブボックス中で、ガラス製容器にジメチルアルミニウム(μ-ジメチル)ビス(2-フェニルインデニル)ネオジム[(2-PhC96)2Nd(μ−Me)2AlMe2]150.0μmol、トリフェニルカルボニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート[Ph3CB(C65)4]150.0μmol及びトリエチルアルミニウム750.0μmolを仕込み、トルエン20mlに溶解させて触媒溶液とした。その後、グローブボックスから触媒溶液を取り出し、モノマー溶液へ添加し、室温で180分間重合を行った。重合後、2,2'-メチレン-ビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)(NS−5)5質量%のイソプロパノール溶液1mlを加えて反応を停止させ、さらに大量のメタノールで共重合体を分離し、70℃で真空乾燥し共重合体Cを得た。得られた共重合体Cの収量は9.50gであった。
【0053】
上記のようにして製造した実施例1〜3の共重合体A〜Cについて、ミクロ構造、エチレン含有率、重量平均分子量(Mw)、及び分子量分布(Mw/Mn)を下記の方法で測定・評価した。
【0054】
(1)ミクロ構造
共重合体中のブタジエン部分のミクロ構造を、1H-NMRスペクトル(1,2-ビニル結合の結合量)及び13C-NMRスペクトル(シス-1,4結合とトランス-1,4結合の含有量比)の積分比より求めた。シス-1,4結合量(%)の計算値を表1に示す。
(2)エチレンの含有率
共重合体中のエチレン部分の含有率(mol%)を1H-NMRスペクトル及び13C-NMRスペクトルの積分比より求めた。
(3)重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー[GPC:東ソー製HLC−8121GPC/HT、カラム:東ソー製GMHHR−H(S)HT×2本、検出器:示差屈折率計(RI)]で単分散ポリスチレンを基準として、重合体のポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を求めた。なお、測定温度は140℃である。
【0055】
【表1】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(A):
aMXbQYb ・・・ (A)
[式中、Rはそれぞれ独立して無置換もしくは置換インデニルを示し、該RはMに配位しており、Mはランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、Xはそれぞれ独立して炭素数1〜20の炭化水素基を示し、該XはM及びQにμ配位しており、Qは周期律表第13族元素を示し、Yはそれぞれ独立して炭素数1〜20の炭化水素基又は水素原子を示し、該YはQに配位しており、a及びbは2である]で表されることを特徴とする共役ジエン化合物と非共役オレフィンとの重合用メタロセン系複合触媒。
【請求項2】
下記式(I):
【化1】

[式中、M1は、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、CpRは、それぞれ独立して無置換もしくは置換インデニルを示し、Ra及びRbは、それぞれ独立して炭素数1〜20の炭化水素基を示し、該Ra及びRbは、M1及びAlにμ配位しており、Rc及びRdは、それぞれ独立して炭素数1〜20の炭化水素基又は水素原子を示す]で表される請求項1に記載のメタロセン系複合触媒。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のメタロセン系複合触媒と、ホウ素アニオンとを含むことを特徴とする触媒組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のメタロセン系複合触媒又は請求項3に記載の触媒組成物の存在下、共役ジエン化合物と非共役オレフィンとを重合させることを特徴とする共役ジエン化合物と非共役オレフィンとの共重合体の製造方法。
【請求項5】
前記共役ジエン化合物が、1,3-ブタジエン及びイソプレンよりなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項4に記載の共役ジエン化合物と非共役オレフィンとの共重合体の製造方法。
【請求項6】
前記非共役オレフィンが、非環状オレフィンであることを特徴とする請求項4に記載の共役ジエン化合物と非共役オレフィンとの共重合体の製造方法。
【請求項7】
前記非環状オレフィンが、炭素数2〜10のα−オレフィンであることを特徴とする請求項6に記載の共役ジエン化合物と非共役オレフィンとの共重合体の製造方法。
【請求項8】
前記α−オレフィンが、エチレン、プロピレン及び1-ブテンよりなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項7に記載の共役ジエン化合物と非共役オレフィンとの共重合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−31314(P2012−31314A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173061(P2010−173061)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】