説明

メタンの電気化学的酸化のための触媒及び方法

本発明は、触媒に関し、そしてメタンのメタノールへの電気化学的変換のための、及びメタンのCOへの直接電気化学的変換のためのその使用に関する。本発明はまた、かかる触媒を含む電極(特に燃料電池用の電極)、及びかかる電極を製造する方法に関する。本発明はさらに、上記触媒又は上記電極を含む燃料電池に関する。本発明による触媒は、ヘテロポリアニオン(HPA)の粒子によって支持される白金前駆物質(II)、及び必要に応じて金属イオン前駆物質Mを含む。本発明は、特にメタンのメタノール又はCOへの電気化学的酸化の分野で使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒に関し、そしてメタンのメタノールへの電気化学的変換及びメタンのCOへの直接電気化学的変換におけるその使用に関する。本発明はまた、かかる触媒を含む電極(特に、燃料電池電極)、及びかかる電極の製造方法に関する。本発明はまた、この触媒又はこの電極を含む燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料の化学的エネルギーを電気的エネルギーへと変換することを可能にする。最もよく知られている燃料電池は、水素電池であり、即ちここでは燃料は水素である。かかる電池は、電解質としてプロトン交換膜を使用し、これにより、操作温度が90℃未満に制限される。水素電池は現在、オンボード用途、即ち自動車、居住用生産又は第三次生産及びコジェネレーション、携帯電話、携帯用コンピュータ、ビデオカメラ用の小型水素電池等に関してこれを輸送することができる用途を対象とする唯一の燃料電池である。
【0003】
さらに、エネルギー源として、自動車用の燃料としてメタンが使用される。
【0004】
天然ガスの使用により温室効果ガスであるCOが産生される。
【0005】
他方で、植物の天然発酵に由来するメタンの使用は、空気中のCOの量を増加させず、したがって環境に与える害が少ない。
【0006】
植物廃棄物の天然発酵に由来するメタンは、再生可能で、クリーン、かつ豊富なエネルギーの供給源を構成する。メタンは、使用する前にいかなる転換もせずに入手することが容易な唯一の天然燃料である。この性質により、水素及びメタノールの使用よりもその使用がはるかに有利なものとなる。
【0007】
メタンは、完全に合成的な分子であり、その酸化は低温では難しい。
【0008】
かかる酸化には、触媒の使用が必要とされる。
【0009】
しかしながら今日まで、既知の触媒の中で、電気化学的方法によるメタンのCOへの直接変換、又は更にはメタンのメタノールへの変換を可能にするものはない。
【0010】
のHへの及び酸素のHOへの電気化学的還元用の触媒として使用されるケギンファミリー(例えば、HSiW1240)及びドーソンファミリー(例えば、K1862)のヘテロポリアニオンもまた、知られている。これらのヘテロポリアニオンはまた、硝酸化合物及び亜硝酸化合物の窒素への電気化学的還元用の触媒であることが知られている。
【0011】
しかしながら、これらの触媒では、メタンをメタノールへ、又は更にはCOへ酸化することはできない。
【0012】
同様に、酸化状態IIの白金の化合物は、電気化学的経路によるHのHへの還元又はHのHへの酸化で知られており、それらは、酸化状態0の白金へと極めて迅速に変換される。全ての場合において、これらの触媒は、メタンのメタノールへの、又はメタンのCOへの酸化に対しては不活性である。
【0013】
ルテニウムのような他の触媒(特に、リガンドによって錯体形成されているもの)は、有機分子の水素化に関する反応で知られている。酸化状態IIのNi化合物及び酸化状態IIのコバルト化合物は、HのHへの還元に関する使用で知られており、酸化状態IIの鉄もまた、分子状酸素の還元用の触媒として知られているが、それらは、メタンのメタノールへの、又はメタンのCOへの変換には効果がない。
【0014】
酸化状態IのAgイオンの化合物は触媒とみなされない。
【発明の概要】
【0015】
本発明は、メタンのメタノールへの酸化、又はメタンのCOへの直接酸化を可能にする触媒を提供することを目的とし、これにより、メタンのCOへの変換の場合には、特に水素燃料電池に対する代替物として、オンボード用途、即ち自動車、携帯電話、発電セット、携帯用コンピュータ等における用途のための燃料電池用にこの触媒を使用することが可能になる。
【0016】
そのために、本発明は、ヘテロポリアニオンHPAの粒子上に支持される白金(II)前駆物質、及び必要に応じて、金属イオン(複数可)Mの前駆物質を含むこと、並びに白金(II)前駆物質が、有機リガンド又は無機リガンドによって必要に応じて錯体形成される酸化状態IIの白金前駆物質であることを特徴とする触媒であって、Mが、Ag、Ru2+、Ni2+、Co2+、Fe2+及びこれらの2つ以上の混合物から選択される金属イオンであり、ヘテロポリアニオンHPAが、HSiW1240及びK1862から選択される、触媒を提供する。
【0017】
これらのヘテロポリアニオンは、HSiW1240、KPW1240、KPMo1240、K1862及びK12Mo62の中でも最も効果的なヘテロポリアニオンである。
【0018】
第1の実施の形態では、本発明の触媒は、金属イオン(複数可)Mを含まない。
【0019】
第2の実施の形態では、本発明の触媒は、金属イオンM(単数又は複数)を含む。
【0020】
本発明の触媒の全ての実施の形態において、白金(II)前駆物質は、式PtClの塩化白金、下記式:
【0021】
【化1】

【0022】
のビピリジンジクロロ白金(Bipy)PtCl、及び式Pt(NHClのテトラアンミン白金クロリドから選択される。
【0023】
また、本発明の触媒の全ての実施の形態において、白金(II)前駆物質は、好ましくは(Bipy)PtCl又はPt(NHClである。
【0024】
本発明の触媒の第2の実施の形態では、金属イオン(複数可)の前駆物質は、好ましくはAgイオンの前駆物質である。
【0025】
さらに、本発明の全ての実施の形態において、好ましいヘテロポリアニオンHPAは、K1862及びHSiW1240である。
【0026】
本発明はまた、メタンのメタノールへの変換のための、これら2つの実施の形態による本発明の触媒の使用を提供する。
【0027】
本発明はまた、メタンのCOへの直接変換のための、第2の実施の形態による本発明の触媒の使用を提供する。
【0028】
本発明はまた、その少なくとも1つの表面上に第2の実施の形態による本発明の触媒が沈着している、電子を伝導する材料で作られる支持体を含むことを特徴とする電極(特に燃料電池用の)を提供する。
【0029】
好ましくは、電子を伝導する材料は、バルクグラッシーカーボン、カーボンファブリック、カーボンフェルト、又はチタン金属のスポンジから選択される。
【0030】
本発明はまた、本発明による電極の製造方法であって、
(a)直鎖若しくは分岐状のC〜Cアルコール、直鎖若しくは分岐状のC〜Cアルコールの混合物、又は水と少なくとも1つの直鎖若しくは分岐状のC〜Cアルコールとの混合物から選択される溶媒中に、HSiW1240及びK1862から選択されるヘテロポリアニオンHPAを溶解させる工程、
(b)電子を伝導する材料で作られる支持体の少なくとも1つの表面上に工程(a)で得られる溶液を堆積させる工程、
(c)工程(b)で堆積させた溶液から溶媒を蒸発させる工程、
(d)工程(c)で得られるヘテロポリアニオンで覆った表面全体に、水、水と少なくとも1つの直鎖又は分岐状のC〜Cアルコールとの混合物、及び直鎖又は分岐状のC〜Cアルコールの混合物から選択される溶媒中に、有機リガンド又は無機リガンドによって必要に応じて錯体形成される酸化状態IIの白金前駆物質、並びにAg、Ru2+、Co2+、Ni2+、Fe2+及びこれらの2つ以上の混合物から選択される金属イオン(複数可)Mの前駆物質を含む溶液を噴霧する工程、
(e)工程(d)で噴霧した溶液から溶媒を蒸発させる工程
を含むことを特徴とする、方法を提供する。
【0031】
好ましくは、工程(a)及び工程(c)における溶媒は、イソプロパノールである。
【0032】
また、好ましくは、電子を伝導する材料は、バルクグラッシーカーボン、カーボンフェルト又はカーボンファブリック、及びチタン金属のスポンジから選択される。
【0033】
また、好ましくは、酸化状態IIの白金前駆物質は、PtCl、(Bipy)PtCl及びPt(NHClから選択される。
【0034】
より好ましくは、酸化状態IIの白金前駆物質は、(Bipy)PtCl及びPt(NHClから選択される。
【0035】
また、好ましくは、金属イオン(複数可)Mの前駆物質は、Agイオン(複数可)の前駆物質である。
【0036】
更に好ましくは、ヘテロポリアニオンは、K1862又はHSiW1240である。
【0037】
また、好ましくは、電子を伝導する材料は、チタン金属のスポンジ、又はカーボンフェルト若しくはファブリックである。
【0038】
本発明はまた、第1の実施の形態による本発明の触媒を使用する工程を含むことを特徴とするメタンのメタノールへの転換方法を提供する。
【0039】
本発明はまた、メタンCHを、第2の実施の形態による本発明の触媒と接触させる工程を含むことを特徴とするメタンのCOへの直接酸化方法を提供する。
【0040】
最後に、本発明は、第2の実施の形態による本発明の触媒、又は本発明による電極、又は本発明による方法によって得られる電極を含むことを特徴とする燃料電池を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下の説明的記載に目を通すことで、本発明のより良好な理解が得られ、また本発明の他の特徴及び利点がより明確となる。
【0042】
本発明による触媒は、それ自体がケギンファミリー又はドーソンファミリーのヘテロポリアニオン(HPAと表記)の粒子で構成される支持体を含む触媒であり、その支持体上に、酸化状態IIの白金前駆物質及び必要に応じて金属イオン(複数可)Mの前駆物質の粒子が堆積している。
【0043】
ケギンヘテロポリアニオンは、式HSiW1240を有し、ドーソンヘテロポリアニオンは、式K1862を有する。
【0044】
したがって、第1の実施形態では、本発明の触媒は、ケギン又はドーソンのヘテロポリアニオン支持体で構成され、その支持体上に、酸化状態IIの白金(Pt(II)又は白金(II)とも表記)が堆積している。これらの表記法は同様に、白金が1つ又は複数のリガンドによって錯体形成される前駆物質として、白金が塩の形態で酸化状態IIの前駆物質も表す。
【0045】
本発明では、酸化状態IIの白金前駆物質として、式PtClの塩化白金、又は式Pt(NHClのテトラアンミン白金クロリド、又は下記式:
【0046】
【化2】

【0047】
の(Bipy)PtClである白金複合体を使用することが好適である。
【0048】
本発明の触媒を用いると、メタンは、ヘテロポリアニオン上に堆積している白金への結合によって固定され、その結果電気化学的経路によりメタノールを形成する。
【0049】
好ましい実施形態では、本発明の触媒はさらに、Mと表記される金属イオン(複数可)の前駆物質を含む。この(これらの)金属イオン(複数可)は、好ましくはAg、Ru2+、Co2+、Ni2+及びFe2+イオン(複数可)並びにこれらの2つ以上の混合物から選択される。
【0050】
本発明の触媒を形成するのにAgイオンを使用することは、非常に好適である。
【0051】
白金(II)イオン及び金属イオン(複数可)Mの数は、ヘテロポリアニオン、及び金属イオンの原子価に依存する。したがって、金属イオンがAgである場合で、かつヘテロポリアニオンHPAがケギンファミリーのヘテロポリアニオンである場合、堆積するAgイオンの数は、堆積するPt2+イオンの数の2倍である。
【0052】
他方で、金属イオンがRu2+又はCo2+又はNi2+又はFe2+である場合、堆積するこれらの金属イオンの数は、堆積するPt2+イオンの数に等しい。
【0053】
ヘテロポリアニオンがドーソンヘテロポリアニオンである場合で、かつ金属イオンがAgである場合、ヘテロポリアニオン上に堆積するAgイオンの数は、Pt2+イオン1個当たりAgイオン4個である。
【0054】
金属イオンがRu2+又はCo2+又はNi2+又はFe2+である場合、ヘテロポリアニオン上に堆積する金属イオンの数は、Pt2+イオン1個当たり金属イオン2個である。
【0055】
本発明の触媒のこの第2の実施形態(これは、好ましい実施形態である)を用いる場合、メタンのメタノールへの転換又はメタンのCOへの直接変換のいずれかがもたらされる。この直接変換反応では、メタンは、白金への結合によって固定され、その結果メタノールをもたらし、メタノールは続いて、金属イオンMによって酸化されて、その結果COをもたらす。
【0056】
好ましくは、メタンのCOへの直接変換に関するこの反応では、Pt2+金属イオン及び上記で定義されるような金属イオン及び支持体としてドーソンヘテロポリアニオンが使用され、ドーソンヘテロポリアニオンは、ケギンヘテロポリアニオンよりも高い反応性を有する。しかしながら、ドーソンヘテロポリアニオンは、アルコール中で不溶であり、このことが燃料電池で用いるのをより困難にしている。これが、場合によっては、反応性はより低いがアルコール中で可溶であるために溶解しやすいケギンヘテロポリアニオンを使用することが好適な場合がある理由である。
【0057】
本発明の触媒により、ほとんど白金を使用しないことが可能となり、このことも、その利点の1つである。
【0058】
これは、第1の実施形態又は第2の実施形態によれば、ヘテロポリアニオンの表面積1平方センチメートル当たり2マイクログラムの堆積量が本発明の触媒を得るのに十分であるためである。
【0059】
使用する白金量は、HPAイオン50個〜100個当たりPt(II)イオン1個である。より多くの白金が存在するほど、酸化反応は速くなる。この比が10未満である場合、CHの部分酸化が優先的となる。
【0060】
堆積する金属イオンの量に関しては、これらのイオンの酸化状態に従って変わり得る。金属イオンは、ヘテロポリアニオンの層を保護するのに役立つ。HPAが保有する電荷が完全に中和されるまで、金属イオンはHPAの対イオンと交換される。
【0061】
したがって、本発明の第2の実施形態による触媒は、電極(特に、燃料電池の電極)の製造において特に有用である。この電極は、電子を伝導する材料で作られる支持体で構成されており、その少なくとも1つの表面上に、本発明による触媒が堆積している。
【0062】
電子を伝導する好ましい材料は、バルクグラッシーカーボン、カーボンファブリック、カーボンフェルト、及びチタン金属で作られるスポンジから選択される。
【0063】
好ましくは、燃料電池電極としての使用に関して、電子を伝導する材料で作られる好ましい支持体は、チタン金属のスポンジである。
【0064】
しかしながら、カーボンフェルト又はカーボンファブリックもまた好ましい。
【0065】
本発明による電極(特に、燃料電池用)は、選択されるヘテロポリアニオンの、直鎖若しくは分岐状のC〜Cアルコール中に、又は直鎖若しくは分岐状のC〜Cアルコールの混合物中に、又は水と少なくとも1つの直鎖若しくは分岐状のC〜Cアルコールとの混合物中に、ヘテロポリアニオンを溶解させる工程を含む方法により製造することができる。
【0066】
好ましくは、溶媒として、イソプロパノールを使用する。
【0067】
次に、得られた溶液を、例えば電子を伝導する材料で作られる支持体の少なくとも1つの表面上に噴霧することによって堆積させ、溶媒を蒸発させる。溶媒は好適には常温で大量に蒸発する。
【0068】
好ましくは、電子を伝導する材料で作られる支持体は、バルクグラッシーカーボン又はファブリック、又はグラッシーカーボンのフェルトである。最も好ましくは、支持体は、チタン金属のスポンジである。
【0069】
次に、溶媒中の酸化状態IIの白金前駆物質、好ましくはPtCl又は(Bipy)PtCl又はPt(NHCl、及び必要に応じてAg、Ru2+、Ni2+、CO2+又はFe2+から選択される金属イオン(複数可)Mを含む溶液を、ヘテロポリアニオンHPAで覆われた、電子を伝導する材料で作られる支持体の表面全体に噴霧する。白金(II)前駆物質用、及び必要に応じて金属イオン(複数可)M用の溶媒は、水、又は水と少なくとも1つの直鎖若しくは分岐状のC〜Cアルコールとの混合物、直鎖若しくは分岐状のC〜Cアルコール、又は2つ以上の直鎖若しくは分岐状のC〜Cアルコールの混合物から選択される。
【0070】
好ましくは、この溶媒はイソプロパノール、即ちヘテロポリアニオンHPAを可溶化するのに使用したものと同じ溶媒である。
【0071】
続いて、この溶媒は好適には、常温にて空気中で自由に蒸発する。
【0072】
当然のことながら、当業者に理解されるように、電子を伝導する材料の表面は、触媒(単数又は複数)のいかなる混入も回避するために完全にクリーンでなくてはならない。
【0073】
好ましくは、酸化状態IIの白金前駆物質として、PtCl、(Bipy)PtCl又はPt(NHClが使用される。
【0074】
金属イオン(単数又は複数)がさらに、本発明の触媒中に存在する場合、この(これらの)金属イオン(複数可)は好ましくはAgイオンである。
【0075】
ヘテロポリアニオンHPAに関して、本発明の触媒に関しては、同様に、ヘテロポリアニオンは、ドーソンファミリー又はケギンファミリーのヘテロポリアニオンであることが好ましい。
【0076】
本発明はまた、上述するような本発明による触媒、又は上述するような本発明による電極、又は上述するような本発明による方法により得られる電極を含む燃料電池を提供する。
【0077】
本発明の触媒、又は本発明の電極、又は本発明の方法により得られる電極は、触媒が金属イオン(複数可)Mを含まない場合、特にメタンのメタノールへの転換に関する方法の実施を対象とする。
【0078】
本発明の触媒、又は本発明の電極、又はこの触媒を含む本発明の方法により得られる電極が、金属イオンM(単数又は複数)が存在する触媒である場合、好ましくは、この触媒及びこの電極は、特に金属イオン(複数可)がAgである場合に、メタンのCOへの直接酸化に関する方法の実施に特に適切である。
【0079】
本発明はまた、本発明による燃料電池を含むか、又は本発明による触媒若しくは電極若しくは本発明による方法によって得られる電極を使用する全てのデバイス、特にモバイル機器に関する。
【0080】
かかるデバイスは、例として、自動車、携帯電話又は携帯用コンピュータ又は発電セットでもある。
【実施例】
【0081】
本発明のより良好な理解を得るために、ここでは、純粋に例示的であり、かつ非限定的な実施例として、その幾つかの実施例の説明を提示する。
実施例1:
メタンの酸化の分析研究のための電極の調製
1mL当たり10mgの濃度のイソプロパノール中のケギンヘテロポリアニオン(HSiW1240)の溶液、又は1mL当たり5mgの濃度の水/イソプロパノール中のドーソンヘテロポリアニオン(K1862)の溶液2μLを、直径3ミリメートルのグラッシーカーボンの研磨した表面上に堆積させる。イソプロパノール溶媒の蒸発後、2×10−5Mの濃度の酸化状態IIの白金イオンの前駆物質(この場合、PtCl、Pt(Bipy)Cl又はPt(NHCl)及び0.08Mの濃度のAgNOの形態の金属イオンAgの前駆物質を含む混合物2μLを堆積させる。使用する溶媒は、水又は水/イソプロパノール混合物である。続いて、この溶媒を蒸発させる。ネオン電球の下で、HSiW1240を用いた場合には、このフィルムが薄い場合、複数色に呈色した輪(areola)が見られ、又はK1862を用いた場合は、オフホワイト色の輪が見られる。
実施例2:
メタンのCOへの直接変換に関する実施例1で得られる電極の試験
実施例1で得られる電極を、NaSO/HSOの緩衝溶液(pH3)へ浸して、電流が安定化するまでアルゴン下で飽和カロメル電極(SCE)に関して0.9ボルト〜1.7ボルトで循環させる。およそ30分〜1時間かかる。次に、溶液を、表面でのメタンの拡散によって飽和させる。飽和は緩やかに進む。触媒作用は、3時間超持続し得る。
【0082】
この試験は、常温で、即ち15℃〜25℃の温度で実行する。
実施例3:
本発明による触媒を用いた高表面積の電極の調製
1mL当たり10mgの濃度のイソプロパノール中のケギンヘテロポリアニオン(HSiW1240)の溶液、又は1mL当たり5mgの濃度の水/イソプロパノール中のドーソンヘテロポリアニオン(K1862)の溶液を、3cmの研磨グラッシーカーボン表面全体に噴霧する。
【0083】
イソプロパノールを蒸発させて、次に2×10−5Mの濃度の酸化状態IIの白金前駆物質、及び8×10−2Mの濃度の金属イオンAgの前駆物質の混合物を、ヘテロポリアニオンを堆積させたグラッシーカーボン表面全体に噴射する(projected)。
【0084】
ここでは水−イソプロパノールでもある溶媒を、続いて蒸発させる。
実施例4:
メタンのCOへの直接変換に関する実施例3の電極の試験
実施例3で得られる電極を、0.1M NaSOの緩衝溶液(pH3)で満たした2区画セルの区画中に浸す。セルの他の区画は、バルク白金で作られる電極を含む。メタンの触媒との接触により、バルク白金電極(陽極)と本発明による電極(陰極)との間の電位差が、0.4ボルトまで増加し、これにより、CHの触媒への固定が明らかに示される。
【0085】
【表1】

【0086】
2つの電極が銅コンダクター及びアンメータによって直列に(in series)接続される場合、弱い電流がセル中を循環する。溶液中のCOの存在(GC−MSによって検出)により、メタンのCOへの直接変換が確認される。
【0087】
ここでまた、この試験は、常温で実施する。
実施例5:メタン燃料電池用の電極の調製
1mL当たり10mgの濃度のイソプロパノール中のケギンヘテロポリアニオン(HSiW1240)の溶液、又は1mL当たり5mgの濃度の水/イソプロパノール中のドーソンヘテロポリアニオン(K1862)の溶液1mLを、25cmのチタンスポンジ全体に噴射する。イソプロパノールを蒸発させる。次に、イソプロパノール0.3mL中の前駆物質PtCl、Pt(Bipy)Cl又はPt(NHClの形態で添加される10−4Mの濃度の酸化状態IIの白金イオンを含む溶液0.1mLと、10−1Mの濃度の金属イオンAgとを含む溶液0.1mLを含む溶液を、ヘテロポリアニオンで覆われたチタンフォームの表面上に堆積させる。
【0088】
この電極を水素燃料電池に取り付ける。この電池は、誘導期後にメタンの燃焼によって産生されるCOの排出用の出口を備えるが、操作可能である。閉回路電流強度は、5分超の間安定した状態を保ち、続いて、電池中に蓄積したCOに起因して中断するまで徐々に減少する。これらの条件下では、性能は決定することはできない。
【0089】
この実施例により、本発明の触媒及び本発明の電極が、常温でメタンを用いて作動する燃料電池において使用することができることが示される。
【0090】
概して、上記実施例は、本発明の触媒が、メタンのメタノールへの、又はCOへの変換を可能にすることを示している。
【0091】
80℃で実行した試験は、本発明の触媒がこの温度で安定であり、かつ依然としてメタンをメタノールへ、又はCOへ変換することを可能にすることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘテロポリアニオンHPAの粒子上に支持される白金(II)前駆物質、及び必要に応じて、金属イオン(複数可)Mの前駆物質を含むこと、並びに前記白金(II)前駆物質が、有機リガンド又は無機リガンドによって必要に応じて錯体形成される酸化状態IIの白金前駆物質であることを特徴とする触媒であって、
Mが、Ag、Ru2+、Ni2+、Co2+、Fe2+及びこれらの2つ以上の混合物から選択される金属イオンであり、
前記ヘテロポリアニオンHPAが、HSiW1240及びK1862から選択される、触媒。
【請求項2】
金属イオン(複数可)Mを含まないことを特徴とする、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
少なくとも1つの金属イオンMを含むことを特徴とする、請求項1に記載の触媒。
【請求項4】
前記白金(II)前駆物質が、式PtClの塩化白金、下記式:
【化1】

のビピリジンジクロロ白金(Bipy)PtCl、及び式Pt(NHClのテトラアンミン白金クロリドから選択されることを特徴とする、請求項1に記載の触媒。
【請求項5】
前記白金(II)前駆物質が、(Bipy)PtCl又はPt(NHClであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項6】
金属イオン(複数可)の前記前駆物質が、Ag前駆物質であることを特徴とする、請求項1及び3〜5のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項7】
前記ヘテロポリアニオンHPAが、K1862であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項8】
メタンのメタノールへの変換のための請求項1〜7のいずれか一項に記載の触媒の使用。
【請求項9】
メタンのCOへの変換のための請求項1及び3〜7のいずれか一項に記載の触媒の使用。
【請求項10】
その少なくとも1つの表面上に請求項1及び3〜7のいずれか一項に記載の触媒が堆積している、電子を伝導する材料で作られる支持体を含むことを特徴とする電極、特に燃料電池の電極。
【請求項11】
前記電子を伝導する前記材料が、バルクグラッシーカーボン、グラッシーカーボンファブリック、グラッシーカーボンフェルト、又はチタン金属のスポンジから選択されることを特徴とする、請求項10に記載の電極。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の電極の製造方法であって、
(a)直鎖若しくは分岐状のC〜Cアルコール、直鎖若しくは分岐状のC〜Cアルコールの混合物、又は水と少なくとも1つの直鎖若しくは分岐状のC〜Cアルコールとの混合物から選択される溶媒中に、HSiW1240及びK1862から選択されるヘテロポリアニオンHPAを溶解させる工程、
(b)電子を伝導する材料で作られる支持体の少なくとも1つの表面上に工程(a)で得られる前記溶液を堆積させる工程、
(c)工程(b)で堆積させた前記溶液から前記溶媒を蒸発させる工程、
(d)工程(c)で得られるヘテロポリアニオンでコーティングした前記表面全体に、水、水と少なくとも1つの直鎖又は分岐状のC〜Cアルコールとの混合物、直鎖又は分岐状のC〜Cアルコール、及び直鎖又は分岐状のC〜Cアルコールの混合物から選択される溶媒中に、有機リガンド又は無機リガンドによって必要に応じて錯体形成される酸化状態IIの白金前駆物質、並びにAg、Ru2+、Co2+、Ni2+、Fe2+及びこれらの2つ以上の混合物から選択される金属イオン(複数可)Mの前駆物質を含む溶液を噴霧する工程、並びに
(e)工程(d)で噴霧した前記溶液から前記溶媒を蒸発させる工程
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項13】
工程(a)及び工程(c)における前記溶媒が、イソプロパノールであることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
電子を伝導する前記材料が、バルクグラッシーカーボン、カーボンフェルト、カーボンファブリック、及びチタン金属のスポンジから選択されることを特徴とする、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
酸化状態IIの前記白金前駆物質が、PtCl、(Bipy)PtCl及びPt(NHClから選択されることを特徴とする、請求項12〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
酸化状態IIの前記白金化合物が、(Bipy)PtCl及びPt(NHClから選択されることを特徴とする、請求項12〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
金属イオン(複数可)の前記前駆物質の前記金属イオン(複数可)MがAgであることを特徴とする、請求項12〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記ヘテロポリアニオンが、K1862であることを特徴とする、請求項12〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
電子を伝導する前記材料が、チタン金属のスポンジ、又はカーボンフェルト若しくはファブリックであることを特徴とする、請求項12〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
請求項1、2、4、5及び7のいずれか一項に記載の触媒を使用する工程を含むことを特徴とするメタンのメタノールへの転換方法。
【請求項21】
CHを、請求項1及び3〜7のいずれか一項に記載の触媒と接触させる工程を含むことを特徴とするメタンのCOへの直接酸化方法。
【請求項22】
請求項1及び3〜7のいずれか一項に記載の触媒、又は請求項11若しくは12に記載の電極、又は請求項12〜19のいずれか一項に記載の方法によって得られる電極を含むことを特徴とする燃料電池。

【公表番号】特表2012−525246(P2012−525246A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−507793(P2012−507793)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【国際出願番号】PCT/FR2010/000328
【国際公開番号】WO2010/125252
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(502205846)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィク (154)
【出願人】(509003298)ユニヴェルシテ パリ−シュド 11 (6)
【Fターム(参考)】