説明

メタンハイドレートからのメタンガス採取装置及びメタンハイドレートからのメタンガス採取方法

【課題】ストレーナー部の目詰まりによるメタンガスの生産効率の低下を抑止するとともに、海底や湖底の沈下、亀裂、ガス漏洩、有害物質の拡散による環境破壊が生じることを抑止して、好適にメタンハイドレートからメタンガスを採取することを可能にするメタンガス採取装置及びメタンガス採取方法を提供する。
【解決手段】ストレーナー部6、13を有する管状の井戸本体4、11の上端に、井戸本体4、11の内部で下方から上方に搬送されたメタンガスMを水Wと分離するガスホルダー5、12を設けてなる第1井戸部1及び第2井戸部2と、第1井戸部1と第2井戸部2の内部が連通するように架設された連結部3とを備える。また、正転又は逆転駆動することにより、第1井戸部1と連結部3と第2井戸部2とメタンハイドレート層G1の間で水Wを正逆方向T1、T2に循環させる循環ポンプユニット21を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底地盤あるいは湖底地盤に存在するメタンハイドレートからメタンガスを採取するためのメタンハイドレートからのメタンガス採取装置及びメタンガス採取方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油資源に替わる新たな資源としてメタンハイドレートが注目を集めており、我が国近海は、世界最大のメタンハイドレート埋蔵量を誇るといわれている。このメタンハイドレートは、水素結合による水分子の籠状構造の中にメタンが入り込んだ氷状の固体結晶であり、低温且つ高圧下で安定的に存在する。そして、永久凍土の地下数百〜千mの堆積物中や海底、湖底でこの低温高圧条件が満たされるため、メタンハイドレートは永久凍土や海底、湖底の地盤内に存在している。
【0003】
また、海底(湖底)のメタンハイドレートには、水深数百m以深の海底地盤(湖底地盤)の地下数百mの深層部に存在する深層型メタンハイドレートと、海底面(湖底面)に露出するなどして浅層部に存在する表層型メタンハイドレートとがある。
【0004】
そして、このようなメタンハイドレートは、僅かに温度、圧力条件を変化させるだけで相平衡状態が崩れ、分解(解離)させることができる。図2は、メタンハイドレートの温度と圧力の相平衡条件を示したものである。この図において、実線は、メタンハイドレートが生産される境界を示しており、図中左上側の低温、高圧側がメタンハイドレートの安定領域である。水域(海、湖)では、水深約400m以深でこの温度、圧力条件に達するが、海底(湖底)の地盤温度が地下深度とともに増加するため、メタンハイドレートの生成条件が満たされる下限の地盤深度が存在し、この地盤深度は概ね地下100m〜300m程度である。深層型メタンハイドレートは、この下限地盤深度の直上に存在し、言い換えれば、温度と圧力の相平衡条件に極めて近い状態で存在している。
【0005】
そして、現在、メタンハイドレートからメタンガスを採取する手法として、加熱法(熱刺激法)、減圧法、インヒビター注入法など温度や圧力の条件を変化させ、相平衡状態を変化させることによってメタンハイドレートをメタンガスと水に分解し、メタンガスを採取(回収、生産)する手法が検討されている。
【0006】
このうち、減圧法は、海底(湖底)地盤内にパイプ(減圧井戸)を設置し、このパイプ内を減圧させると、メタンハイドレート層に配されたパイプのストレーナー部(開孔)からパイプ内にメタンハイドレートが解離して、またはメタンハイドレートが分解したメタンガスが導入される。そして、パイプ内で上方に海水を流通させながらメタンガスを上方に搬送し、メタンガスを海水から分離することで比較的容易にメタンガスを採取することができる。このため、減圧法は、他の手法に比べて経済性等で優位であり、最も有望な手法として期待されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−262083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の減圧法によるメタンハイドレートからのメタンガス採取方法においては、減圧度が高くなると海底面(湖底面)の沈下、亀裂、ガス漏洩が生じて環境を破壊するおそれがあった。また、海底、湖底には、例えば砒素などの有害物質がある場合もあり、このような有害物質によって環境汚染が発生するおそれがあった。
【0009】
また、強減圧下で過度に水を吸引することにより、水処理コストが上昇し、且つメタンハイドレート層の圧密化が促進されて、地層の浸透度の低下を招き、メタンガスの生産効率(採取効率)が低下するという問題もあった。
【0010】
さらに、海底地盤や湖底地盤に存在するメタンハイドレートは、例えば砂質層に混在している場合が多く、強制減圧に伴う出砂、出水により、ストレーナー部(開孔)に砂などの異物が目詰まり、メタンガスの生産効率が低下するおそれがあった。
【0011】
また、メタンハイドレートがメタンガスと水に分解する反応は、吸熱反応であるため、メタンハイドレート層が低温化して生産効率が低下したり、パイプ内が低温化してメタンハイドレートへの再氷結が生じて安定的にメタンガスを生産できなくなるおそれがあった。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑み、第一に、ストレーナー部の目詰まりによるメタンガスの生産効率の低下を抑止するとともに、海底や湖底の沈下、亀裂、ガス漏洩、有害物質の拡散による環境破壊が生じることを抑止し、第二に、メタンハイドレート層やメタンガス採取装置内の低温化によるメタンガスの生産効率の低下を抑止して、好適にメタンハイドレートからメタンガスを採取することを可能にするメタンハイドレートからのメタンガス採取装置及びメタンハイドレートからのメタンガス採取方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0014】
本発明のメタンハイドレートからのメタンガス採取装置は、海底地盤あるいは湖底地盤に存在するメタンハイドレートからメタンガスを採取するための装置であって、ストレーナー部を有する管状の井戸本体の上端に、前記井戸本体の内部で下方から上方に搬送されたメタンガスを水と分離するガスホルダーを設けてなる第1井戸部及び第2井戸部と、前記第1井戸部と前記第2井戸部の内部が連通するように架設された連結部とを備えるとともに、前記第1井戸部と前記第2井戸部の前記ストレーナー部が前記海底地盤あるいは前記湖底地盤内のメタンハイドレート層中に配されるように設置した状態で、正転又は逆転駆動することにより、前記第1井戸部と前記連結部と前記第2井戸部と前記メタンハイドレート層の間で海水あるいは湖水を正方向又は逆方向に循環させる循環ポンプユニットを備えていることを特徴とする。
【0015】
この発明においては、循環ポンプユニットを正転駆動すると、第1井戸部から連結部を通じて第2井戸部に、第2井戸部から第2井戸部のストレーナー部を通じてメタンハイドレート層に、メタンハイドレート層から第1井戸部のストレーナー部を通じて第1井戸部に、海水あるいは湖水を順方向に循環させることができる。また、循環ポンプユニットを逆転駆動すると、第2井戸部から連結部を通じて第1井戸部に、第1井戸部から第1井戸部のストレーナー部を通じてメタンハイドレート層に、メタンハイドレート層から第2井戸部のストレーナー部を通じて第2井戸部に、海水あるいは湖水を逆方向に循環させることができる。
【0016】
そして、このように循環ポンプユニットの正転又は逆転駆動によって海水あるいは湖水を循環させることで、一方の井戸部(一方の井戸部の井戸本体)の内部が減圧され、メタンハイドレート層を減圧することができる。このため、メタンハイドレート層の温度と圧力の相平衡条件が崩れ、メタンハイドレート層からメタンハイドレートを解離させ、且つメタンハイドレートをメタンガスと水に分解して、一方の井戸部の内部にストレーナー部から導入し、一方の井戸部のガスホルダーにメタンガスを海水あるいは湖水から分離して導入することができる。
【0017】
これにより、メタンガス採取装置の内部で海水あるいは湖水を循環させながら、順次連続的に一方の井戸部のガスホルダーから、例えばこのガスホルダーに接続したフレキシブル管を通じてメタンガス回収船にメタンガスを回収(採取)することができる。
【0018】
また、メタンハイドレートからメタンガスを採取する運転を継続して行い、メタンハイドレート層内の砂などの異物が井戸本体のストレーナー部に目詰まりした場合であっても、循環ポンプユニットの駆動を切り替えて逆転し、メタンガス採取装置内での海水あるいは湖水の循環方向を逆方向に変えることで、ストレーナー部に目詰まりした砂などの異物を逆洗して除去することができる。
【0019】
これにより、ストレーナー部の目詰まりに起因してメタンガスの生産効率(採取効率)が低下した場合であっても、ストレーナー部に目詰まりした異物を除去してメタンガスの生産効率を容易に回復させることが可能になる。
【0020】
さらに、海水あるいは湖水が他方の井戸部のストレーナー部を通じてメタンハイドレート層に戻されるため、メタンハイドレート層から順次メタンガスを採取しても、返送した海水あるいは湖水によってメタンハイドレート層に生じた間隙が満たされ、海底面あるいは湖底面の沈下、亀裂、ガス漏洩が生じることを抑止することができる。また、海底地盤あるいは湖底地盤には、例えば砒素などの有害物質が含まれている場合があるが、海水あるいは湖水がメタンハイドレート層に戻されることで、このような有害物質が拡散して環境汚染が発生することも抑止することができる。
【0021】
また、本発明のメタンハイドレートからのメタンガス採取装置においては、海水あるいは湖水が流通する前記第1井戸部と前記連結部と前記第2井戸部の内部の循環流路に生石灰を供給する生石灰供給手段を備えていることが望ましい。
【0022】
この発明においては、生石灰供給手段によって生石灰をメタンガス採取装置の内部に供給することで、生石灰と海水が反応して水酸化カルシウムを生成する発熱反応を生じさせることができる。これにより、メタンハイドレート層の温度やメタンガス採取装置内の温度を昇温することができ、メタンハイドレート層内でのメタンハイドレートの分解反応が低下したり、メタンガス採取装置内でメタンガスがメタンハイドレートに再氷結(再結晶化)してメタンハイドレートの分解反応が低下することを回避することができ、メタンガスの生産効率を向上させることが可能になる。
【0023】
さらに、本発明のメタンハイドレートからのメタンガス採取装置においては、前記循環流路に炭酸ガスを供給する炭酸ガス供給手段を備えていることがより望ましい。
【0024】
この発明においては、炭酸ガス供給手段によって炭酸ガスをメタンガス採取装置の内部に供給することで、生石灰と海水あるいは湖水が反応して生成した水酸化カルシウムが炭酸ガスと反応して炭酸カルシウムを生成することができる。そして、このように生成した炭酸カルシウムは、難溶性(不溶性)の物質であるため、メタンガス採取装置内の海水あるいは湖水の循環によってメタンハイドレート層に搬送され、メタンハイドレートが採取されて生じたメタンハイドレート層の間隙に充填される。これにより、炭酸ガスを供給することによって、海底面あるいは湖底面の沈下、亀裂、ガス漏洩が生じることをより効果的に抑止することが可能になる。
【0025】
本発明のメタンハイドレートからのメタンガス採取方法は、海底地盤あるいは湖底地盤に存在するメタンハイドレートからメタンガスを採取する方法であって、上記のいずれかのメタンハイドレートからのメタンガス採取装置を用いることを特徴とする。
【0026】
この発明においては、上記のいずれかのメタンハイドレートからのメタンガス採取装置を用いることで、上記の作用効果を得ることが可能になる。
【発明の効果】
【0027】
本発明のメタンハイドレートからのメタンガス採取装置及びメタンハイドレートからのメタンガス採取方法によれば、海底あるいは湖底の沈下、亀裂、ガス漏洩、有害物質の拡散による環境破壊が生じることを抑止でき、また、ストレーナー部の目詰まりによるメタンガスの生産効率の低下を抑止することができ、好適にメタンハイドレートからメタンガスを採取することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係るメタンハイドレートからのメタンガス採取装置(及びメタンガス採取方法)を示す図である。
【図2】メタンハイドレートの温度と圧力の相平衡条件を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図1及び図2を参照し、本発明の一実施形態に係るメタンハイドレートからのメタンガス採取装置及びメタンハイドレートからのメタンガス採取方法について説明する。本実施形態は、海底地盤に存在するメタンハイドレート(メタンハイドレート層)からメタンガスを好適に採取可能(生産可能)なメタンガス採取装置及びメタンガス採取方法に関するものである。
【0030】
本実施形態のメタンガス採取装置Aは、図1に示すように、第1井戸部1と、第2井戸部2と、これら第1井戸部1と第2井戸部2を連結する連結部3とを備えて構成されている。
【0031】
また、第1井戸部1は、海底地盤G内に設置される鋼管などの第1井戸本体(井戸本体)4と、海底地盤Gに設置した状態で海水W中に配された第1井戸本体4の上端に接続して設けられ、メタンガスMを水Wと分離するための第1ガスホルダー(ガスホルダー)5とを備えて構成されている。
【0032】
第1井戸本体4には、海底地盤G内のメタンハイドレート層G1中に配置される下端側に、メタンハイドレート層G1側の外部と第1井戸本体4の内部を連通させる複数の開孔を備えたストレーナー部6が設けられている。また、第1ガスホルダー5は、上端側の開口を閉塞した略筒状に形成され、開口する下端側を第1井戸本体4の上端に形成したフランジに接続して、第1井戸本体4と互いの内部が連通するように設けられている。さらに、第1ガスホルダー5は、その上端側にフレキシブル管7の一端が接続され、このフレキシブル管7を介して、メタンガス回収船8に搭載したメタンガス回収槽9などに接続されている。また、このフレキシブル管7は、第1バルブ10を介して第1ガスホルダー5に接続されている。
【0033】
第2井戸部2は、第1井戸部1と同様に、海底地盤G内に設置される鋼管などの第2井戸本体(井戸本体)11と、海底地盤Gに設置した状態で海水W中に配された第2井戸本体4の上端に接続して設けられ、メタンガスMを水Wと分離するための第2ガスホルダー(ガスホルダー)12とを備えて構成されている。
【0034】
また、第1井戸部1と同様、第2井戸本体11には、海底地盤G内のメタンハイドレート層G1中に配置される下端側に、メタンハイドレート層G1側の外部と第2井戸本体11の内部を連通させる複数の開孔を備えたストレーナー部13が設けられている。また、第2ガスホルダー12は、上端側の開口を閉塞した略筒状に形成され、開口する下端側を第2井戸本体11の上端に形成したフランジに接続して、第2井戸本体11と互いの内部が連通するように設けられている。さらに、第2ガスホルダー12は、その上端側にフレキシブル管14の一端が接続され、このフレキシブル管14を介して、メタンガス回収船8に搭載したメタンガス回収槽9などに接続されている。また、このフレキシブル管14は、第2バルブ15を介して第2ガスホルダー12に接続されている。
【0035】
連結部3は、第1ガスホルダー5と第2ガスホルダー12の内部を連通させるように、第1ガスホルダー5と第2ガスホルダー12に両端をそれぞれ接続して架設されている。また、本実施形態の連結部3は、フレキシブル管20と循環ポンプユニット21を備えて構成されている。そして、本実施形態のメタンガス採取装置Aは、この連結部3の循環ポンプユニット(循環ポンプ)21の正転又は逆転駆動によって、第1井戸部1と連結部3と第2井戸部2とメタンハイドレート層G1の間で海水Wを正方向T1又は逆方向T2に循環させるように構成されている。
【0036】
すなわち、循環ポンプユニット21を正転駆動させると、第1井戸本体4、第1ガスホルダー5から連結部3を通じて第2ガスホルダー12、第2井戸本体11に、第2井戸本体11のストレーナー部13からメタンハイドレート層G1、第1井戸本体4のストレーナー部6を通じて第1井戸本体4の内部に向かう正方向T1に海水Wが循環する。また、循環ポンプユニット21を逆転駆動させると、第2井戸本体11、第2ガスホルダー12から連結部3を通じて第1ガスホルダー5、第1井戸本体4に、第1井戸本体4のストレーナー部6からメタンハイドレート層G1、第2井戸本体11のストレーナー部13を通じて第2井戸本体11の内部に向かう逆方向T2に海水Wが循環する。
【0037】
さらに、本実施形態のメタンガス採取装置Aにおいては、メタンガス採取装置Aの内部ひいては第1井戸部1と連結部3と第2井戸部2の内部の水Wの循環流路Rに生石灰(CaO)C1を供給する生石灰供給手段22と、循環流路Rに炭酸ガス(CO)C2を供給する炭酸ガス供給手段23とを備えている。
【0038】
本実施形態において、生石灰供給手段22は、メタンガス回収船8から配管で生石灰C1を圧送し、配管を介して第2井戸部2の内部に供給するように構成されている。炭酸ガス供給手段23は、メタンガス回収船8から配管で炭酸ガスC2を圧送し、配管を介して第2井戸部2の内部に供給するように構成されている。
【0039】
なお、これら生石灰供給手段22と炭酸ガス供給手段23は、第1井戸部1と連結部3と第2井戸部2の内部を流通する水Wに生石灰C1や炭酸ガスC2を供給することができればよく、第1井戸部1や連結部3の内部に生石灰C1や炭酸ガスC2を供給するように構成されていてもよい。また、配管を分岐するなどして第1井戸部1、連結部3、第2井戸部2の全てに生石灰C1や炭酸ガスC2を供給したり、第1井戸部1、連結部3、第2井戸部2にそれぞれ選択的に生石灰C1や炭酸ガスC2を供給するように構成されていてもよい。
【0040】
次に、上記構成からなるメタンガス採取装置Aを用いてメタンハイドレートからメタンガスを採取する方法について説明するとともに、本実施形態のメタンハイドレートからのメタンガス採取装置A及びメタンハイドレートからのメタンガス採取方法の作用及び効果について説明する。
【0041】
ここで、通常、メタンハイドレートが存在する海底部の水温は約5℃前後であり、大半のメタンハイドレートは、海洋堆積層(主に砂質層、メタンハイドレート層G1)に存在する。そして、海洋堆積層内の温度は、深くなるにつれて上昇する。また、海水中の圧力、海洋堆積層内の圧力は、深くなるにつれて高くなる。このため、図2に示したように、温度と圧力の相平衡条件がメタンハイドレートの生成条件を満たす海底地盤G内にメタンハイドレート層G1が存在する。
【0042】
このような海底地盤G内に存在するメタンハイドレートからメタンガスを採取する際には、メタンガス回収船8でメタンガス採取装置Aを所定位置まで曳航し、第1井戸部1と第2井戸部2にそれぞれフレキシブル管7、14を接続した状態でメタンガス採取装置Aを海底に降下させる。また、予め、海底地盤Gにメタンハイドレート層G1に達する井戸孔を穿孔機などを用いて穿孔しておき、メタンガス採取装置Aを海底に降下させるとともに、第1井戸部1の第1井戸本体4と第2井戸部2の第2井戸本体11をそれぞれ穿孔内に挿入してメタンガス採取装置Aを設置する。このとき、第1井戸本体4と第2井戸本体11の各ストレーナー部6、11がメタンハイドレート層G1中に配され、且つ第1ガスホルダー5と第2ガスホルダー12と連結部3が海水W中に配されるようにして、メタンガス採取装置Aを所定位置に設置する。
【0043】
なお、メタンガス回収船8に設けたGPS、方位計、トランスデューサー、メタンガス採取装置Aあるいはフレキシブル管7、14に設けたトランスポンダーなどを用いることで、メタンガス採取装置Aを海底の所定位置に設置することが可能である。
【0044】
上記のようにメタンガス採取装置Aを海底の所定位置に設置した段階では、第1井戸部1と第2井戸部2、連結部3の内部に海水Wが満たされており、メタンガス採取装置Aの内部の圧力は外部の深海圧力と釣り合い状態にある。
【0045】
そして、この状態から、第1バルブ10を開き、第2バルブ15を閉じて、循環ポンプユニット21を正転駆動し、第1井戸本体4(及び第1ガスホルダー5)内の海水Wを連結部3を通じて第2井戸本体11(及び第2ガスホルダー12)に向かう正方向T1で流通させる。これにより、第1井戸部1内が減圧され、第1井戸本体4内の水位が下がるとともに第1井戸本体4のストレーナー部6を通じてメタンハイドレート層G1の内圧が下がる。なお、このように循環ポンプユニット21を正転駆動して第1井戸本体4内の水位が下がった際に(逆転駆動して第2井戸本体11内の水位が下がったときも同様)、循環ポンプユニット21にキャビテーションが生じることがない位置に連結部3は設けられている。すなわち、メタンガス採取装置Aの運転時に、第1井戸部1及び第2井戸部2内の水面と連結部3の接合部(循環ポンプユニット21)の位置の間隔Sが常時S>0となるように、連結部3は設けられている。
【0046】
そして、例えば海面からの深さが1000mの海洋堆積層(メタンハイドレート層G1)内のメタンハイドレートからメタンガスを採取する場合には、図2に示すように、この海洋堆積層の温度は約5℃前後であり、第1井戸本体4内を減圧してメタンハイドレート層G1の内圧(水圧)を4MPa以下に低下させる。
【0047】
これにより、正方向T1に海水Wを循環させるとともに、メタンハイドレート層G1の温度と圧力の相平衡条件が崩れ、メタンハイドレート層G1からメタンハイドレートが解離し、且つメタンハイドレートがメタンガスMと水Wに分解されて、ストレーナー部6から第1井戸本体4内に導入される。そして、第1井戸本体4内を海水WとともにメタンガスMが上昇し、第1ガスホルダー5内で海水Wと分離され、フレキシブル管7を通じてメタンガス回収船8のメタンガス回収槽9に回収されてゆく。
【0048】
なお、ストレーナー部6から結晶状態のメタンハイドレートが導入された場合であっても、海水Wと一緒に第1井戸本体4内を上方に流通し、これとともに圧力がさらに減圧されるため、結晶状態のメタンハイドレートはメタンガスMと水Wに自動的に分解される。
【0049】
また、第1ガスホルダー5内でメタンガスMを分離した後の海水Wは、第1ガスホルダー5から連結部3、連結部3から第2ガスホルダー12、第2ガスホルダー12から第2井戸本体11に流通し、第2井戸本体11のストレーナー部13の開孔からメタンハイドレート層G1に戻される。本実施形態では、このように海水Wが循環することにより、メタンハイドレート層内から順次メタンハイドレートが解離、分解して回収されてゆく。
【0050】
そして、このとき、海水Wがメタンハイドレート層G1に戻されることで、メタンハイドレート層G1から順次連続的にメタンハイドレート(メタンガスM)が採取されても、返送した海水Wによってメタンハイドレート層G1に生じた間隙が満たされ、海底面の沈下、亀裂、ガス漏洩が生じることが抑止される。また、海底地盤Gには、例えば砒素などの有害物質が含まれている場合があるが、海水Wを循環させてメタンハイドレート層G1に戻すことで、このような有害物質が拡散して環境汚染が発生することも抑止される。
【0051】
ここで、メタンハイドレートからメタンガスMを採取する運転を継続して行うと、メタンハイドレート層G1内の砂などの異物が第1井戸本体1のストレーナー部6に目詰まりし、圧力損失が徐々に増大してメタンハイドレートの分解反応(メタンガスMの生産効率)が低下するおそれがある。
【0052】
これに対し、本実施形態では、メタンハイドレートの分解反応が減速した段階で、第1バルブ10を閉じ、第2バルブ15を開け、循環ポンプユニット21を逆転駆動に切り替える。これにより、第2井戸本体11(及び第2ガスホルダー12))内の海水Wが連結部3を通じて第1井戸本体4(及び第1ガスホルダー5)に向けて逆方向T2に流通する。このため、第1井戸本体4のストレーナー部6の開孔に目詰まりした砂などの異物が逆洗されて除去されることになる。
【0053】
また、第2井戸部2内が減圧され、第2井戸本体11内の水位が下がり、メタンハイドレート層G1からメタンハイドレートが解離し、且つメタンハイドレートがメタンガスMと水Wに分解されて、ストレーナー部13の開孔から第2井戸本体11内に導入される。これにより、第2井戸本体11内を海水WとともにメタンガスMが上昇して第2ガスホルダー12内で海水Wと分離され、フレキシブル管14を通じてメタンガス回収船8のメタンガス回収槽9に回収されてゆく。
【0054】
また、循環ポンプユニット21を正方向T1に駆動したときと同様に、第2ガスホルダー12内でメタンガスMを分離した後の海水Wは、第2ガスホルダー12から連結部3、連結部3から第1ガスホルダー5、第1ガスホルダー5から第1井戸本体4に流通し、第1井戸本体4のストレーナー部6の開孔からメタンハイドレート層G1に戻される。このように海水Wが逆方向T2に循環することにより、ストレーナー部6の開孔の目詰まりを解消するとともにメタンハイドレート層G1から順次連続的にメタンハイドレートが解離、分解してメタンガスMが回収され、メタンハイドレートの分解反応の回復(メタンガスMの生産効率の回復)が図れる。
【0055】
一方、メタンハイドレートがメタンガスMと水Wに分解する反応は吸熱反応であるため、メタンハイドレートからメタンガスMを採取する運転を継続して行うと、減圧しているにもかかわらずメタンハイドレート層G1の温度が低下して、メタンハイドレート層G1内でのメタンハイドレートの分解反応が低下して、メタンガスMの生産効率が低下するおそれがある。また、メタンガス採取装置A内の温度(第1井戸部1、連結部3、第2井戸部2内の温度)が低下して、メタンガス採取装置A内でメタンガスMがメタンハイドレートに再氷結(再結晶化)してメタンガスMの生産効率が低下するおそれもある。
【0056】
これに対し、本実施形態では、生石灰供給手段22によって生石灰(CaO)C1をメタンガス採取装置Aの内部に供給する。そして、生石灰C1を供給すると、メタンガス採取装置A内を循環する海水Wと反応して水酸化カルシウムを生成する反応が生じる(CaO+HO→Ca(OH))。この反応が発熱反応であるため、メタンガス採取装置A内を循環する海水Wの温度が上昇し、昇温した海水Wがメタンハイドレート層G1を流通することでメタンハイドレート層G1内の温度が上昇する。
【0057】
このようにメタンハイドレート層G1の温度やメタンガス採取装置A内の温度が昇温することで、メタンハイドレート層G1内でのメタンハイドレートの分解反応が促進されてメタンガスMの生産効率が高まり、また、メタンガス採取装置A内でメタンガスMが再結晶化することがなくなり、メタンガスMの生産効率が高まる。
【0058】
また、本実施形態では、炭酸ガス供給手段23が設けられ、生石灰供給手段22によって生石灰C1をメタンガス採取装置Aの内部に供給するとともに、この炭酸ガス供給手段23によって炭酸ガス(CO)C2をメタンガス採取装置Aの内部に供給する。そして、生石灰C1と海水Wが反応して生成した水酸化カルシウム(水酸化カルシウムが溶解して生成されたカルシウムイオン)が炭酸ガスC2と反応して炭酸カルシウムが生成される(Ca(OH)+CO→CaCO+HO)。
【0059】
このように生成した炭酸カルシウムは、難溶性(不溶性)の物質であるため、メタンガス採取装置A内の海水Wの循環によってメタンハイドレート層G1に搬送されるとともに、メタンハイドレートが採取されて生じたメタンハイドレート層G1の間隙に充填される。これにより、炭酸ガスC2を供給することによって、海底面の沈下、亀裂、ガス漏洩が生じることがより効果的に抑止されることになる。
【0060】
したがって、本実施形態のメタンハイドレートからのメタンガス採取装置A及びメタンハイドレートからのメタンガス採取方法においては、連結部3の循環ポンプユニット21を正転駆動すると、第1井戸部1から連結部3を通じて第2井戸部2に、第2井戸部2から第2井戸部2のストレーナー部12を通じてメタンハイドレート層G1に、メタンハイドレート層G1から第1井戸部1のストレーナー部6を通じて第1井戸部1に、海水Wを正方向T1に循環させることができる。また、循環ポンプユニット21を逆転駆動すると、第2井戸部2から連結部3を通じて第1井戸部1に、第1井戸部1から第1井戸部1のストレーナー部6を通じてメタンハイドレート層G1に、メタンハイドレート層G1から第2井戸部2のストレーナー部13を通じて第2井戸部2に、海水Wを逆方向T2に循環させることができる。
【0061】
そして、循環ポンプユニット21の駆動によって海水Wを循環させることで一方の井戸部1(2)の内部が減圧され、メタンハイドレート層Gを減圧することができる。このため、メタンハイドレート層G1の温度と圧力の相平衡条件が崩れ、メタンハイドレート層G1からメタンハイドレートを解離させ、且つメタンハイドレートをメタンガスMと水Wに分解して、一方の井戸部1(2)の内部にストレーナー部6(13)から導入し、一方の井戸部1(2)のガスホルダー5(12)にメタンガスMを海水Wから分離して導入することができる。
【0062】
これにより、メタンガス採取装置Aの内部で海水Wを循環させながら、順次連続的に一方の井戸部1(2)のガスホルダー5(12)からフレキシブル管7(14)を通じてメタンガス回収船8にメタンガスMを送り回収することができる。
【0063】
また、メタンハイドレートからメタンガスMを採取する運転を継続して行い、メタンハイドレート層G1内の砂などの異物がストレーナー部6(13)に目詰まりした場合であっても、循環ポンプユニット21の駆動を切り替えて逆転させ、メタンガス採取装置A内での海水Wの循環方向を逆方向T2に変えることで、ストレーナー部6(13)に目詰まりした砂などの異物を逆洗して除去することができる。
【0064】
これにより、ストレーナー部6(13)の目詰まりに起因してメタンガスMの生産効率が低下した場合であっても、ストレーナー部6(13)に目詰まりした異物を除去してメタンガスMの生産効率を容易に回復させることが可能になる。
【0065】
さらに、海水Wが他方の井戸部2(1)のストレーナー部13(6)を通じてメタンハイドレート層G1に戻されるため、メタンハイドレート層G1から順次メタンハイドレートを解離させてメタンガスMを採取しても、返送した海水Wによってメタンハイドレート層G1に生じた間隙が満たされ、海底面の沈下、亀裂、ガス漏洩が生じることを抑止することができる。また、海底地盤Gには、例えば砒素などの有害物質が含まれている場合があるが、海水Wがメタンハイドレート層G1に戻されることで、このような有害物質が拡散して環境汚染が発生することも抑止することができる。
【0066】
また、本実施形態のメタンハイドレートからのメタンガス採取装置A及びメタンハイドレートからのメタンガス採取方法においては、生石灰供給手段22によって生石灰C1をメタンガス採取装置Aの内部に供給することで、生石灰C1と海水Wが反応して水酸化カルシウムを生成する発熱反応を生じさせることができる。
【0067】
これにより、メタンハイドレート層G1の温度やメタンガス採取装置A内の温度を昇温することができ、メタンハイドレート層G1内でのメタンハイドレートの分解反応が低下したり、メタンガス採取装置A内でメタンガスMがメタンハイドレートに再結晶化してメタンハイドレートの分解反応が低下することを回避でき、メタンガスMの生産効率を向上させることが可能になる。
【0068】
さらに、本実施形態のメタンハイドレートからのメタンガス採取装置A及びメタンハイドレートからのメタンガス採取方法においては、炭酸ガス供給手段23によって炭酸ガスC2をメタンガス採取装置Aの内部に供給することで、生石灰C1と海水Wが反応して生成した水酸化カルシウムが炭酸ガスC2と反応して炭酸カルシウムを生成させることができる。
【0069】
そして、このように生成した炭酸カルシウムは、メタンガス採取装置A内の海水Wの循環によってメタンハイドレート層G1に搬送され、メタンハイドレートが採取されて生じたメタンハイドレート層G1の間隙に充填される。これにより、炭酸ガスC2を供給することによって、海底面の沈下、亀裂、ガス漏洩が生じることをより効果的に抑止することが可能になる。
【0070】
よって、本実施形態のメタンハイドレートからのメタンガス採取装置A及びメタンハイドレートからのメタンガス採取方法によれば、海底の沈下、亀裂、ガス漏洩、有害物質の拡散による環境破壊が生じることを抑止でき、ストレーナー部6、13の目詰まりによるメタンガスMの生産効率の低下を抑止することができ、メタンハイドレート層G1やメタンガス採取装置A内の低温化によるメタンガスMの生産効率の低下を抑止することができ、好適にメタンハイドレートからメタンガスMを採取することが可能になる。
【0071】
以上、本発明に係るメタンハイドレートからのメタンガス採取装置及びメタンハイドレートからのメタンガス採取方法の一実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0072】
例えば、本実施形態では、海底地盤Gに存在するメタンハイドレートからメタンガスMを生産するものとして説明を行ったが、湖底地盤に存在するメタンハイドレートに対しても、勿論、本実施形態と同様にしてメタンガスMを生産することが可能である。
【0073】
また、本実施形態では、それぞれ一つずつの第1井戸部1と第2井戸部2(と連結部3)を備えてメタンガス採取装置Aが構成されているように説明を行ったが、勿論、第1井戸部1と第2井戸部2と連結部3をそれぞれ複数備えてメタンガス採取装置Aを構成するようにしてもよい。
【0074】
さらに、本実施形態では、循環ポンプユニット21が連結部3に設けられているものとしたが、本発明に係る循環ポンプユニット21は、メタンガス採取装置A内で海水あるいは湖水Wを正方向T1又は逆方向T2に循環させることが可能であれば、その設置位置を特に限定する必要はない。
【符号の説明】
【0075】
1 第1井戸部
2 第2井戸部
3 連結部
4 第1井戸本体(井戸本体)
5 第1ガスホルダー(ガスホルダー)
6 ストレーナー部
7 フレキシブル管
8 メタンガス回収船
9 メタンガス回収槽
10 第1バルブ
11 第2井戸本体(井戸本体)
12 第2ガスホルダー(ガスホルダー)
13 ストレーナー部
14 フレキシブル管
15 第2バルブ
20 フレキシブル管
21 循環ポンプユニット
22 生石灰供給手段
23 炭酸ガス供給手段
A メタンガス採取装置(メタンハイドレートからのメタンガス採取装置)
C1 生石灰
C2 炭酸ガス
G 海底地盤(湖底地盤)
G1 メタンハイドレート層
T1 正方向
T2 逆方向
M メタンガス
W 海水(湖水、水)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底地盤あるいは湖底地盤に存在するメタンハイドレートからメタンガスを採取するための装置であって、
ストレーナー部を有する管状の井戸本体の上端に、前記井戸本体の内部で下方から上方に搬送されたメタンガスを水と分離するガスホルダーを設けてなる第1井戸部及び第2井戸部と、前記第1井戸部と前記第2井戸部の内部が連通するように架設された連結部とを備えるとともに、
前記第1井戸部と前記第2井戸部の前記ストレーナー部が前記海底地盤あるいは前記湖底地盤内のメタンハイドレート層中に配されるように設置した状態で、正転又は逆転駆動することにより、前記第1井戸部と前記連結部と前記第2井戸部と前記メタンハイドレート層の間で海水あるいは湖水を正方向又は逆方向に循環させる循環ポンプユニットを備えていることを特徴とするメタンハイドレートからのメタンガス採取装置。
【請求項2】
請求項1記載のメタンハイドレートからのメタンガス採取装置において、
海水あるいは湖水が流通する前記第1井戸部と前記連結部と前記第2井戸部の内部の循環流路に生石灰を供給する生石灰供給手段を備えていることを特徴とするメタンハイドレートからのメタンガス採取装置。
【請求項3】
請求項2記載のメタンハイドレートからのメタンガス採取装置において、
前記循環流路に炭酸ガスを供給する炭酸ガス供給手段を備えていることを特徴とするメタンハイドレートからのメタンガス採取装置。
【請求項4】
海底地盤あるいは湖底地盤に存在するメタンハイドレートからメタンガスを採取する方法であって、
請求項1から請求項3のいずれかに記載のメタンハイドレートからのメタンガス採取装置を用いることを特徴とするメタンハイドレートからのメタンガス採取方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−172418(P2012−172418A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36073(P2011−36073)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)