説明

メタン生成方法およびメタン生成剤ならびにメタン生成素子

【課題】光を利用した二酸化炭素の還元で、効率よくメタンが生成できるようにする。
【解決手段】アナターゼ型の結晶構造を有した酸化チタン粒子の表面に複数の金微粒子が付着したメタン生成剤に二酸化炭素を接触させ、メタン生成剤に光を照射する。これらのことにより、光が照射されているメタン生成剤に接触する二酸化炭素を還元して選択的にメタンを生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素を還元してメタンを生成するメタン生成方法およびメタン生成剤ならびにメタン生成素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、多くの化石燃料が使用され、化石燃料の燃焼により二酸化炭素(CO2)が排出されている。このように排出されている二酸化炭素の大気中濃度の増加は、地球温暖化の原因の一つと考えられている。このため、大気中の二酸化炭素を削減しようとする試みがいろいろな方面からなされている。光を用いて様々な物質の表面で二酸化炭素還元反応を起こし、二酸化炭素を人類の利用しうる物資(例えばメタンなど)に変換する研究も行われている。
【0003】
例えば、二酸化チタン(TiO2)は、光反応により二酸化炭素を還元できる物質として広く知られ研究も行われている(非特許文献1参照)。また還元の効率を上げるために二酸化チタンに銀などの金属をドープした研究がなされている(非特許文献2参照)。非特許文献2では、銀をドープした二酸化チタンでは、ドープなしの二酸化チタンに比べて2.5倍のメタンが発生しているものと報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】M.Kitano et al. , "Recent developments in titanium oxide-based photocatalysts", Applied Catalysis A: General, vol.325, pp.1-14, 2007.
【非特許文献2】K. Koci et al. , "Effect of silver doping on the TiO2 for photocatalytic reduction of CO2", Applied Catalysis B: Environmental, vol.96, pp.239-244, 2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した二酸化チタンを用いる二酸化炭素の還元では、メタンの他に、一酸化炭素,メタノールなど複数の還元生成物が生成する。このため、メタンを利用しようとした場合、生成する複数の還元生成物よりメタンを分離する必要がある。このように、上述した技術では、二酸化炭素を還元することで、効率よくメタンを生成することができないという問題があった。
【0006】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、光を利用した二酸化炭素の還元で、効率よくメタンが生成できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るメタン生成方法は、アナターゼ型の結晶構造を有した二酸化チタン粒子の表面に複数の金微粒子が付着したメタン生成剤に二酸化炭素を接触させる接触工程と、メタン生成剤に光を照射する照射工程とを少なくとも備え、光が照射されているメタン生成剤に接触する二酸化炭素を還元して選択的にメタンを生成する。
【0008】
上記メタン生成方法において、メタン生成剤を多孔質な基体に固定してメタン生成素子を作製する固定工程を備え、接触工程では、メタン生成素子に固定されているメタン生成剤に二酸化炭素を接触させ、照射工程では、メタン生成素子に固定されているメタン生成剤に光を照射すればよい。なお、基体は、石英ろ紙であればよい。
【0009】
また、本発明に係るメタン生成素子は、アナターゼ型の結晶構造を有した二酸化チタンからなる二酸化チタン粒子と、二酸化チタン粒子の表面に付着した金からなる複数の金微粒子と、複数の二酸化チタン粒子を担持した多孔質な基体とを備える。なお、基体は、石英ろ紙であればよい。
【0010】
また、本発明に係るメタン生成剤は、アナターゼ型の結晶構造を有した二酸化チタンからなる二酸化チタン粒子と、二酸化チタン粒子の表面に付着した金からなる複数の金微粒子とを備える。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、アナターゼ型の結晶構造を有した二酸化チタン粒子の表面に複数の金微粒子が付着したメタン生成剤を用いた光反応で二酸化炭素を還元するようにしたので、光を利用した二酸化炭素の還元で、効率よくメタンが生成できるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1におけるメタン生成方法を説明するためのフローチャートである。
【図2】図2は、本発明の実施の形態2におけるメタン生成方法を説明するためのフローチャートである。
【図3】図3は、実施の形態2におけるメタン生成素子を用いた光反応による二酸化炭素の還元で生成されたメタンおよび一酸化炭素の量を示す特性図である。
【図4】図4は、実施の形態1におけるメタン生成剤を用いた場合(a)と、アナターゼ型の二酸化チタンを用いた場合(b)との、光反応による二酸化炭素の還元で生成されたメタンの量を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0014】
[実施の形態1]
はじめに、本発明の実施の形態1について図1を用いて説明する。図1は、本発明の実施の形態1におけるメタン生成方法を説明するためのフローチャートである。
【0015】
このメタン生成方法は、まず、ステップS101で、アナターゼ型の結晶構造を有した二酸化チタン粒子の表面に複数の金微粒子が付着したメタン生成剤に二酸化炭素を接触させる。次に、ステップS102で、メタン生成剤に光を照射する。これらのことにより、光が照射されているメタン生成剤に接触する二酸化炭素を還元して選択的にメタンを生成する。なお、メタン生成剤に光を照射している状態で、メタン生成剤に二酸化炭素を接触させるようにしてもよい。
【0016】
上述した本実施の形態によれば、アナターゼ型の結晶構造を有した二酸化チタン粒子の表面に複数の金微粒子が付着したメタン生成剤を用いた光反応で二酸化炭素を還元しているので、選択的にメタンが生成できるようになる。
【0017】
上述したメタン生成剤の作製について簡単に説明する。例えば、水酸化金などの金水酸化物がイオンとして溶解している溶液(水溶液)と、アナターゼ型の二酸化チタンの粉末(粉体)とを混合し、この混合溶液を所定時間撹拌した後、沈殿生成物を焼成することで、メタン生成剤が作製できる。また、この撹拌を加熱せずに行うことで、二酸化チタン粒子の表面に、金微粒子を均一に分散させて付着させることができる。
【0018】
このように作製したメタン生成剤のX線回折パターンは、アナターゼ型の二酸化チタンと同じであった。ところで、上述したように加熱せずに撹拌することで作製したメタン生成剤の表面を走査電子顕微鏡を用いて観察したところ、表面にはμmサイズの粒子は観察されない。また、SEM観察と同時に行ったEDS(エネルギー分散形X線分光)分析によって、メタン生成剤の表面においては、金が偏析していないことが明らかになった。このことより、メタン生成剤においては、二酸化チタンの粒子表面にnmオーダの金微粒子が、均一に分散して付着しているものと考えられる。また白色であった二酸化チタンの粉末は、金を修飾したメタン生成剤とすることで、薄紫色に着色した。また、着色の偏りは観察されなかった。
【0019】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について図2を用いて説明する。図2は、本発明の実施の形態2におけるメタン生成方法を説明するためのフローチャートである。
【0020】
このメタン生成方法は、まず、ステップS201で、アナターゼ型の結晶構造を有した二酸化チタン粒子の表面に複数の金微粒子が付着したメタン生成剤を多孔質な基体に固定してメタン生成素子を作製する。例えば、基体は、石英ろ紙である。例えば、メタン生成剤をエタノールに分散させた分散液を作製し、この分散液に石英ろ紙を浸漬し、乾燥することで、メタン生成剤をろ紙に固定(担持)させることで、メタン生成素子が作製できる。
【0021】
次に、ステップS202で、メタン生成素子に固定されているメタン生成剤に二酸化炭素を接触させる。次に、ステップS203で、メタン生成素子に固定されているメタン生成剤に光を照射する。これらのことにより、光が照射されているメタン生成剤に接触する二酸化炭素を還元する。なお、メタン生成剤(メタン生成素子)に光を照射している状態で、メタン生成剤に二酸化炭素を接触させるようにしてもよい。
【0022】
実施の形態2においても、アナターゼ型の結晶構造を有した二酸化チタン粒子の表面に複数の金微粒子が付着したメタン生成剤を用いた光反応で二酸化炭素を還元しているので、選択的にメタンが生成できるようになる。また、メタン生成剤を石英ろ紙などの多孔質な基体に担持させて反応させているので、より効率的にメタンが生成できるようになる。
【0023】
[実施例1]
以下、実施例1を用いてより詳細に説明する。はじめに、メタン生成剤の作製について説明する。
【0024】
まず、テトラクロロ金(III)酸四水和物(塩化金酸)を純水に溶解し、2mmol/lの塩化金酸溶液30mlを調整した。さらに、この塩化金酸溶液に水酸化ナトリウムを加えpHを10に調整した。この溶液に、アナターゼ型二酸化チタンの粉末を1g加え、室温で4時間攪拌した。この後、溶液中に得られた固体(粉末)をろ過して分取し、分取した粉末を水洗し、窒素雰囲気中で乾燥した。この後、乾燥させた粉末を400℃で3時間焼成することでメタン生成剤を得た。
【0025】
このメタン生成剤の粉末のX線回折パターンは、アナターゼ型の二酸化チタンと同じであり、作製したメタン生成剤の表面を走査電子顕微鏡を用いて観察したところ、表面にはμmサイズの粒子は観察されない。また、SEM観察と同時に行ったエネルギー分散形X線分光(EDS)分析によって、メタン生成剤の表面においては、金が偏析していないことが明らかになった。また白色であった二酸化チタンの粉末は、金を修飾したメタン生成剤とすることで、薄紫色に着色した。また、着色の偏りは観察されなかった。
【0026】
次に、上述したことにより作製したメタン生成剤の粉末をエタノールに分散し、この分散液に石英ろ紙を浸漬して石英ろ紙上にメタン生成剤の粉末を固定し、乾燥窒素中で乾燥させメタン生成素子を作製した。
【0027】
次に、作製したメタン生成素子を、ガラス管の中に固定し、また、ガラス管内を相対湿度50%の二酸化炭素ガスに置換し、ガラス管を封止する。なお、ガラス管は、両端部に、BaF2窓を備えており、内部の状態をフーリエ変換型赤外分光(FT−IR)分析により分析可能とされている。
【0028】
次に、高圧水銀ランプを用い、上記ガラス管(メタン生成素子)に光を照射する。このように光照射をしたガラス管内部を、BaF2窓を介してFT−IRにより分析したところ、主にメタンの生成が測定され、また、微量の一酸化炭素の生成が測定された。メタノールの生成は測定されなかった。生成されたメタンおよび一酸化炭素の量を図3に示す。図3より明らかなように、メタン生成素子を用いた光反応による二酸化炭素の還元で、選択的にメタンが生成できることが確認された。
【0029】
また、図4に、本実施の形態におけるメタン生成素子を用いた場合(a)と、アナターゼ型の二酸化チタンのみを用いた場合(b)とで、上述同様に二酸化炭素を還元した結果について示す。アナターゼ型の二酸化チタンのみを用いた還元では、アナターゼ型の二酸化チタン粉末を前述同様に石英ろ紙に担持させて行う。図4より明らかなように、本実施の形態のメタン生成素子を用いることで、二酸化チタンのみの場合(b)に比較して10倍のメタンが生成され、効率が向上していることが確認された。なお、図3および図4において、縦軸のメタン生成量は、用いたメタン生成剤もしくは二酸化チタンの重量(g)に対して生成したメタンの量(μmol)の割合で示している。
【0030】
[比較例1]
次に、比較例1について説明する。はじめに、比較例1におけるメタン生成剤の作製について説明する。テトラクロロ金(III)酸四水和物(塩化金酸)を純水に溶解し、2mmol/lの塩化金酸溶液30mlを調整した。さらに、この塩化金酸溶液に水酸化ナトリウムを加えpHを10に調整した。この溶液に、アナターゼ型二酸化チタンの粉末を1g加え、液温70℃で4時間攪拌した。この後、溶液中に得られた固体(粉末)をろ過して分取し、分取した粉末を水洗し、窒素雰囲気中で乾燥した。この後、乾燥させた粉末を400℃で3時間焼成することで粉末を得た。
【0031】
得られた粉末(比較例1のメタン生成剤)は、紫色の粉末と黒色の粉末の混合物であり、黒色の粉末はμmオーダの金粒子であった。
【0032】
次に、上述したことにより作製した粉末をエタノールに分散し、この分散液に石英ろ紙を浸漬して石英ろ紙上に粉末を固定し、乾燥窒素中で乾燥させ比較例メタン生成素子を作製した。次に、作製した比較例メタン生成素子を、ガラス管の中に固定し、また、ガラス管内を相対湿度50%の二酸化炭素ガスに置換し、ガラス管を封止する。なお、ガラス管は、両端部に、BaF2窓を備えており、内部の状態をFT−IR分析により分析可能とされている。
【0033】
次に、高圧水銀ランプを用い、上記ガラス管に光を照射する。このように光照射をしたガラス管内部を、BaF2窓を介してFT−IRにより分析したところ、主にメタンの生成が確認され、また、微量の一酸化炭素の生成が測定された。メタノールの生成は測定されなかった。しかしながら、この反応においても、メタンが選択的に生成されたが、生成量は、加熱することなく室温で攪拌して作製したメタン生成剤を用いた場合に比較して50%であった。これは、比較例のメタン生成剤では、μmオーダの金粒子が混在することにより、二酸化チタンの部分における光が照射される面積が、減少したためと考えられる。
【0034】
以上に説明したように、本発明によれば、二酸化炭素から効率よく選択的にメタンが生成できるようになり、副生成物が少ないため、複雑な分離を行わなくとも再び燃料として使用できる。例えば、非特許文献2に開示されているAgをドープしたアナターゼ型の二酸化炭素を用いた場合に比較し、本発明によれば、メタン生成剤に対するメタン生成量を示す相対値で2.5倍のメタノール生成が可能となる。
【0035】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。例えば、アナターゼ型の結晶構造を有した二酸化チタン粒子の表面に複数の金微粒子が付着したメタン生成剤を水に分散させた分散液中に、二酸化炭素をバブリングしている状態で、ここに光照射をすることで、選択的にメタノールを生成してもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナターゼ型の結晶構造を有した二酸化チタン粒子の表面に複数の金微粒子が付着したメタン生成剤に二酸化炭素を接触させる接触工程と、
前記メタン生成剤に光を照射する照射工程とを少なくとも備え、
光が照射されている前記メタン生成剤に接触する二酸化炭素を還元してメタンを生成することを特徴とするメタン生成方法。
【請求項2】
請求項1記載のメタン生成方法において、
前記メタン生成剤を多孔質な基体に固定してメタン生成素子を作製する固定工程を備え、
前記接触工程では、前記メタン生成素子に固定されている前記メタン生成剤に二酸化炭素を接触させ、
前記照射工程では、前記メタン生成素子に固定されている前記メタン生成剤に光を照射する
ことを特徴とするメタン生成方法。
【請求項3】
請求項2記載のメタン生成方法において、
前記基体は、石英ろ紙であることを特徴とするメタン生成方法。
【請求項4】
アナターゼ型の結晶構造を有した二酸化チタンからなる二酸化チタン粒子と、
前記二酸化チタン粒子の表面に付着した金からなる複数の金微粒子と、
複数の前記二酸化チタン粒子を担持した多孔質な基体と
を備えることを特徴とするメタン生成素子。
【請求項5】
請求項4記載のメタン生成素子において、
前記基体は、石英ろ紙であることを特徴とするメタン生成素子。
【請求項6】
アナターゼ型の結晶構造を有した二酸化チタンからなる二酸化チタン粒子と、
前記二酸化チタン粒子の表面に付着した金からなる複数の金微粒子と
を少なくとも備えることを特徴とするメタン生成剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−43123(P2013−43123A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182472(P2011−182472)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】