説明

メタン発酵槽及び天幕用カバーシートの施工方法

【課題】貯水池の深さや側壁形状によらず、天幕用カバーシートを弛みなく膨らませることが可能なメタン発酵槽を提供できる。
【解決手段】実施形態によれば、廃水を収容する,内側周囲に傾斜部が形成された貯水池11と、この貯水池を複数に仕切るコンクリート製仕切り壁12と、この仕切り壁の両側に夫々配置され,貯水池中の廃水を攪拌する攪拌装置15と、貯水池の底部及び傾斜部に少なくとも配置された底部用カバーシート16と、廃水で発生するメタンガスを内側に貯蔵するガス不透過性の天幕用カバーシート17と、貯水池の土手部に環状に配置された,前記天幕用カバーシートの端部を固定するための固定具19と、天幕用カバーシートの内側に配置されたガス回収用配管20を具備することを特徴とするメタン発酵槽が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、メタン発酵槽及びこのメタン発酵槽に使用される天幕用カバーシートの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工場からの有機性廃水は、例えば、図6に示すように処理されている。即ち、工場1からの有機性廃水はボイラー2で加熱した後、メタン発酵槽3に送り、このメタン発酵槽で有機性廃水を約35℃程度で発酵してメタンガスを回収し、残りの有機性廃水は素掘りの貯水池やタンク等に収容していた。
【0003】
ところで、有機性廃水等の液体を貯蔵するタンクは数多くあるが、大型のタンクを鋼板やコンクリートなどで構築すると巨額の設備費用が必要となる。このため、大型のタンクでは、大地形状を活用し、そこにシートを敷設してタンクを形成する方式が採用されている。この方式は、特に地価の安い海外で数多く使用されるケースがある。このシート式タンクの中で、気体と液体の両方を貯蔵する場合、カバーシートが必要になる。このカバーシートは場合によっては100m×100m以上の広さに及ぶ場合もあり、重量は20トンを超えるケースもあり、巨大である。従って、巨大な構築物を目的に合わせてカバーシートを施工するには、技術とノウハウを必要とする。
【0004】
巨大な凹部形状を活用したガス貯蔵可能な密閉型タンクは、例えば次のようにして構築される。まず、例えば幅7m、長さ約100m、重さ1.5トン程度の複数のロール形状のシートを展張した後、展張されたシートの端部同士を溶着,切断し、これを繰り返して1枚の底部用カバーシートを形成する。ここで、カバーシートの材質としては、例えばHDPE(High-Density Polyethylene:高密度ポリエチレン)を用いる。つづいて、この底部用カバーシートを凹部形状の貯水池の底部及び傾斜した側壁に沿って敷設する。さらに、底部用カバーシートと同様な手法により形成した天幕用カバーシートを、貯水池全体を覆うように配置した後、端部を貯水池の土手部に固定して密閉型タンクを構築する。底部用カバーシートで覆われた貯水池には例えば工場からの有機性廃水などが収容され、有機性廃水で発生したメタンガスは天幕用カバーシートの内側に配置されたガス回収装置により回収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−68376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、天幕用カバーシートは凹部形状の貯水池の土手部に固定していた。しかし、貯水池の深さ、側壁の傾斜角度によってはタンク使用時に工場からの有機性廃水を注入し、ガスを発生させて天幕用カバーシートを膨らませると、天幕用カバーシートの余長が長いため、天幕用カバーシートが波打った状態になり、ガスの回収効率が低下するといった不都合があった。
【0007】
本発明はこうした事情を考慮してなされたもので、貯水池の深さや側壁形状によらず、天幕用カバーシートを弛みなく膨らませることが可能なメタン発酵槽、及び天幕用カバーシートの施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態のメタン発酵槽は、嫌気性有機物を含む廃水を収容するメタン発酵槽であり、前記廃水を収容する,内側周囲に傾斜部が形成された貯水池と、この貯水池を複数に仕切るコンクリート製の仕切り壁と、この仕切り壁の両側に夫々配置され,貯水池中の廃水を攪拌する攪拌装置と、前記貯水池の底部及び傾斜壁に少なくとも配置された底部用カバーシートと、廃水で発生するメタンガスを内側に貯蔵するガス不透過性の天幕用カバーシートと、前記貯水池の土手部に環状に配置された,前記天幕用カバーシートの端部を支持するための支持具と、前記天幕用カバーシートの内側に配置されたメタンガス回収用の配管とを具備することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1の実施形態に係るメタン発酵槽の説明図。
【図2】図1のメタン発酵槽の概略的な平面図。
【図3】図1及び図2のメタン発酵槽を構成する貯水池の土手部に使用される固定部材の説明図。
【図4】第2の実施形態に係るメタン発酵槽の説明図。
【図5】図1のメタン発酵槽に使用される天幕用カバーシートの施工方法を工程順に示す説明図。
【図6】従来の工場からの有機性廃水の流れを示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態に係るメタン発酵槽、及びこのメタン発酵槽の一構成である天幕用カバーシートの施工方法について図面を参照して説明する。なお、実施形態は下記に述べることに限定されない。
(第1の実施形態)
本実施形態に係るメタン発酵槽について図1〜図3を参照して説明する。ここで、図1はメタン発酵槽の概略的な説明図、図2は図1のメタン発酵槽の概略的な平面図、図3はメタン発酵槽の一構成である貯水池の土手部に配置されるカバーシートの固定具の説明図である。
【0011】
図1中の符号11は、コンクリート製の仕切り壁12により2つに仕切られた約100m×100mの矩形状の貯水池を示す。貯水池11は、四方に傾斜部11aと土手部11bを有している。仕切り壁12は、基礎13により貯水池11の底部に固定されている。仕切り壁11の両側には、貯水池11中の有機性廃水14を攪拌するための攪拌装置15が夫々複数取り付けられている。貯水池11の底部、傾斜部11a及び仕切り壁12には、HDPE製の底部用カバーシート16が敷設されている。貯水池11の上部は、比重0.94のガス不透過性のHDPE製天幕用カバーシート17により覆われている。
【0012】
貯水池11の土手部11bには、コンクリート枠18が敷設されている。このコンクリート枠18及び前記仕切り壁12の上部には、図3に示すようなHDPE製の固定具19が埋め込まれている。この固定具19のうち、ラインLよりも下側の部分がコンクリート枠18等に埋め込まれ、その他の部分は露出した状態にある。底部用カバーシート16及び天幕用カバーシート17の端部は、前記固定具19に溶着等により固定されている。天幕用カバーシート17の内側で貯水池11内の有機性廃水14の上方には、有機性廃水14で発生したメタンガスを回収するガス回収配管20が配置されている。このガス回収配管20の下部側には複数の微細孔が穿設され、図示しない開閉バルブ、ファン、メタンガス回収部とともにガス回収装置が構成されている。
【0013】
前記コンクリート枠18上の所定の位置には、2本のガイドレール21,22が略平行に敷設されている。このガイドレール21,22には、夫々天幕用カバーシート17の端部を把持して、ガイドレール21,22を矢印Aの方向に移動させるための把持具23が搭載されている。なお、図中の符号24a,24bはカバーシートが巻かれたロールを示す。カバーシートは、ロール24a,24bから矢印Bの方向に送り出された後、適宜な長さで隣接する端部が溶着され、切断されて使用される。
【0014】
次に、図1のメタン発酵槽における天幕用カバーシートの施工方法について、図2及び図5(A)〜(D)を参照して説明する。但し、図1〜図3と同部材は同符号を付して説明する。なお、便宜上、仕切り壁の片側の貯水池に天幕カバーシートを施工する場合について説明する。
【0015】
まず、図5(A)の状態で、貯水池11の土手部11bの近くに図2のようなロール24a,24bを準備する。次に、図2の矢印Bの方向にカバーシートを送り出した後、適宜な長さで隣接端部同士を溶着、切断し、これを繰り返して1枚の矩形状の底部用カバーシート16を準備する。次いで、底部用カバーシート16の一端側を、貯水池11の土手部11bから図2の矢印A方向に送って仕切り壁12の上部まで延出させる。この後、底部用カバーシート16の一端側を仕切り壁12の上部の埋め込まれた固定具19に溶着するとともに、底部用カバーシート16の他端側を土手部11bのコンクリート枠18に埋め込まれた固定具19に溶着する(図5(B))。
【0016】
次に、攪拌装置設定箇所に対応する底部用カバーシート16を切り開き、この部分に攪拌装置15を設置する。また、貯水池11の上方部に位置する傾斜部11aにガス回収配管20を設置する。次いで、図2で示したロール24a,24bを用いて、底部用カバーシート16と同様に、1枚の大きな矩形状(100m×50mより一回り大きい形状)の天幕用カバーシート17を作成し、この天幕用カバーシート17の周囲に複数本のロープ(図示せず)を数mおきに取り付けた後、貯水池11の近くに準備する。この後、底部用カバーシート16で覆われた貯水池11に有機性廃水14を注水し(図5(C))、水位が攪拌装置15よりも高くなるまで注水を続ける。
【0017】
次に、天幕用カバーシート17の端部をガイドレール21,22の把持具23に取付ける。つづいて、天幕用カバーシート17の端部をロープで図2の矢印A方向に引きながら、把持具23をガイドレール21,22に沿って天幕用カバーシート17の一端側を仕切り壁12上の固定具19まで移動させ、その一端側を固定具19に溶着により固定する。この際、天幕用カバーシート17の残りの三方に取り付けたロープを適宜引きながら天幕用カバーシート17の三方の端部をコンクリートブロック18に敷設された固定具18に溶着により固定し、余剰部分は切断して天幕用カバーシート17を施工する。なお、天幕用カバーシート17は注水とともに浮上するので、ロープを引く力は貯水池11に注水されていない場合と比べてはるかに小さな力でよい。また、有機性廃水14で発生するメタンガスにより天幕用カバーシート17は図5(D)のように膨らむ。
【0018】
第1の実施形態に係るメタン発酵槽によれば、以下に述べる効果を有する。
(1)傾斜部11aと土手部11bが形成された貯水池11と、仕切り壁12と、攪拌装置15と、底部用カバーシート16と、天幕用カバーシート17と、固定具19と、ガス回収装置等を備えた構成により、簡単な構造で廃水の収容とメタンガスの回収が可能な密閉型のメタン発酵槽が得られる。
【0019】
(2)天幕用カバーシート17の余剰部分は切断され、その端部は貯水池11の土手部11b及び仕切り壁12の固定具19に固定されるので、天幕用カバーシート17の弛みを従来と比べて削減することができる。
(3)貯水池11を仕切る仕切り壁12に配置された攪拌装置15により、貯水池11に収容された廃水を攪拌できるので、廃水内の沈殿物の淀みを抑制することができる。
【0020】
(4)貯水池11に有機性廃水を注水していくと、天幕用カバーシート17の比重が0.94なので、天幕用カバーシート17全体が浮上する。従って、天幕用カバーシート17が数トンを超える場合でも、水面に浮いた状態では天幕用カバーシート17の周囲に取り付けたロープを引くことにより、天幕用カバーシート17の弛みを取りながら敷設することができる。従って、天幕用カバーシート17の施工の工期を短縮できるとともに、コストを低減できる。
【0021】
なお、第1の実施形態では底部用カバーシートを仕切り壁の上部まで延出して固定した場合について述べたが、これに限らず、貯水池の少なくとも底部及び傾斜部を覆っていればよい。
【0022】
(第2の実施形態)
本実施形態に係るメタン発酵槽について図4を参照して説明する。但し、図1〜図3と同部材は同符号を付して説明を省略する。
第2の実施形態のメタン発酵槽は、貯水池11の対向する傾斜部11aにコンクリート製のブロック31,32を配置し、これらのブロック31,32の内側に複数の攪拌装置15を夫々配置したことを特徴とする。
第2の実施形態に係るメタン発酵槽によれば、第1の実施形態のメタン発酵槽と同様な効果が得られる。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0024】
11…貯水池、12…仕切り壁、14…有機性廃水、15…攪拌装置、16…底部用カバーシート、17…天幕用カバーシート、18…コンクリート枠、19…固定具、20…ガス回収配管、21,22…ガイドレール、23…把持具、25a,24b…ロール、31,32…コンクリート製のブロック。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
嫌気性有機物を含む廃水を収容するメタン発酵槽であり、
前記廃水を収容する,内側周囲に傾斜部が形成された貯水池と、この貯水池を複数に仕切るコンクリート製の仕切り壁と、この仕切り壁の両側に夫々配置された,貯水池中の廃水を攪拌する攪拌装置と、前記貯水池の底部及び傾斜部に少なくとも配置された底部用カバーシートと、廃水で発生するメタンガスを内側に貯蔵するガス不透過性の天幕用カバーシートと、前記貯水池の土手部に環状に配置された,前記天幕用カバーシートの端部を固定するための固定具と、前記天幕用カバーシートの内側に配置されたメタンガス回収用の配管とを具備することを特徴とするメタン発酵槽。
【請求項2】
嫌気性有機物を含む廃水を収容するメタン発酵槽であり、
前記廃水を収容する,内側周囲に傾斜部が形成された貯水池と、この貯水池の傾斜部に配置されたコンクリート製のブロックと、このブロックに配置された,貯水池中の廃水を攪拌する攪拌装置と、前記貯水池の底部及び傾斜部に少なくとも配置された底部用カバーシートと、廃水で発生するメタンガスを内側に貯蔵するガス不透過性の天幕用カバーシートと、前記貯水池の土手部に環状に配置された,前記天幕用カバーシートの端部を固定するための固定具と、前記天幕用カバーシートの内側に配置されたメタンガス回収用の配管とを具備することを特徴とするメタン発酵槽。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のメタン発酵槽に使用される天幕用カバーシートを施工する方法であり、
周囲に夫々複数のロープを取り付けた天幕用カバーシートを貯水池上にセットし、さらに貯水池に水を収容した後、ロープを引いて天幕用カバーシートを展張させ、天幕用カバーシートの端部を固定具に固定することを特徴するカバーシートの施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−35222(P2012−35222A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179631(P2010−179631)
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】