説明

メタン発酵液からなる固形肥料およびその製造方法

【課題】メタン発酵液を貯蔵、運搬および施用作業が容易な固形肥料にする。
【解決手段】メタン発酵液からなる固形肥料を製造するには、メタン発酵液を酢酸等で酸性に調整し、また繊維成分を含む木質系廃棄物と共に粘土鉱物を加えるとよい。木質系廃棄物として繊維状の形状のものを用いると回転ドラム式のミキサーで混合中にヘア・ボール(毛玉)状に自然に成形されるので、取り扱いが容易な形状にできる。製造方法は簡単で、エネルギー使用量も少なく、現在は浄化・放流処理されていることが多いメタン発酵液を農作物栽培用の固形肥料に代えることが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタン発酵工程で排出されるメタン発酵液と、繊維成分を含む木質系廃棄物を有効活用するものであって、とくに肥料として再利用できる固形肥料およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、家畜糞尿など農林畜産廃棄物や、生ゴミや焼酎滓などの食品廃棄物からのエネルギーの獲得利用を目的としてメタン発酵施設が多数建設されている。このメタン発酵施設における発酵処理は、有機物を嫌気性微生物の作用によって主としてメタンガスと炭酸ガスとに分解する処理方法であり、分解生成物であるメタンガスを回収し、エネルギーとして使用する利点は大きいが、メタン発酵処理された後の発酵液が液状残渣として大量に発生する。
【0003】
このメタン発酵液は窒素、りん、カリなど肥料成分を含むことから、液状堆肥として土壌に散布され農地に還元される方法をとることができる。しかし、メタン発酵液の液肥としての需要には期間変動が大きく、また液状のメタン発酵液を貯蔵するには大型のタンク施設が必要で実際的ではなく、多くのメタン発酵施設では肥料需要の少ない時期にはメタン発酵液の浄化・放流を行っている。また、貯蔵するメタン発酵施設が大都市近郊にある場合には、メタン発酵液を液肥として利用できず、メタン発酵液の浄化処理を行った後、河川等に放流されている現状にある。
【0004】
そこで、メタン発酵液を固形化する技術として、特許文献1では、メタン発酵液を逆浸透膜で濃縮した濃縮液を噴霧乾燥装置で粉末に乾燥する方法が、また特許文献2では、メタン発酵液をウルトラフィルターでろ過して透過した糖化液を減圧蒸発濃縮装置で濃縮液として、これを噴霧乾燥装置で粉末に乾燥する方法が、記載されている。
【0005】
特許文献3では、メタン発酵液のウルトラフィルター透過液をアンモニアストリッパーで処理して分離回収されるアンモニアおよび二酸化炭素の水溶液をゼオライトで処理して緩効性窒素肥料にできることが記載されている。また、特許文献4および特許文献5では、メタン発酵液からアンモニアおよび二酸化炭素を除去した後、逆浸透膜で浄水を分離した残液を酸性にして析出する有機物を捕集して肥効促進剤とできることが記載されている。
【0006】
特許文献6は、メタン発酵液とペーパースラッジ灰とを混合し、造粒、乾燥して粒状のリサイクル肥料を製造できることが記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開2003−2776号公報
【特許文献2】特開2003−55077号公報
【特許文献3】特開2003−55080号公報
【特許文献4】特開2003−2775号公報
【特許文献5】特開2003−2776号公報
【特許文献6】特開2006−315885号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら上記の特許文献1および特許文献2の固形化方法は、濃縮や噴霧乾燥段階で加圧、加熱および減圧のために多くのエネルギーを投入することになり、よりエネルギー投入の少ない固形化技術が求められる。また、特許文献3乃至5の方法は、メタン発酵液を処理して、その成分を部分的に利用したものであり、メタン発酵液全体を利用する技術ではない。さらに、特許文献6の方法は、メタン発酵液とペーパースラッジ灰との混合割合や製造されたリサイクル肥料の肥料成分割合およびその施肥効果などが記載されなく、また、製造には造粒装置が必要となるため、初期設備投資が必要となる。このように、メタン発酵液を固形化して肥料として利用する技術は未だ完成段階にない。このため、メタン発酵液を貯蔵、運搬および施用作業が容易な固形肥料にすることが課題である。その際、メタン発酵液を担持する材料が安価で、また簡単でかつエネルギーや設備投資のコストを抑えた製造工程で製造可能にすることも求められる。
【0009】
上記の問題点に鑑み本発明者らは、鋭意研究の結果、メタン発酵液を繊維成分を含む木質系廃棄物にしみ込ませた後、自然乾燥することによって固形肥料とすることを見出し、本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このため本発明の固形肥料は、メタン発酵工程で排出されるメタン発酵液を酸により酸性に調整し、繊維成分を含む木質系廃棄物と混合し、固形化したことを第1の特徴とする。
【0011】
また、前記固形肥料は、粘土鉱物をさらに含むことを第2の特徴とする。
【0012】
そして、本発明の固形肥料の製造方法はメタン発酵工程で排出されるメタン発酵液を酸によって酸性に調整する工程と、該酸性に調整したメタン発酵液と繊維成分を含む木質系廃棄物とを混合する工程と、該混合した混和物を自然乾燥させる工程とからなることを第3の特徴とする。
【0013】
さらに、前記固形肥料の製造方法において、木質系廃棄物に加えて粘土鉱物をさらに混合することを第4の特徴とする。
【0014】
上記製造方法において、固形肥料中の肥料成分の含有量を高めるためには、混合乾燥した状態後、再度酸性に調整したメタン発酵液を加えて混合乾燥する操作を繰り返せばよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る固形肥料は、廃棄物であるメタン発酵液と、繊維成分を含む木質系廃棄物とから構成されており、原材料費を非常に安価に抑えることが可能であると共に、廃棄物の有効利用ができるという効果を有する。
【0016】
さらに固形肥料の製造における乾燥工程も自然乾燥でよく、製造に必要なエネルギーコストを非常に低く抑えることが可能であるという優れた効果を有する。
【0017】
また、固形肥料には、粘土鉱物をさらに含んでいるため、メタン発酵液の中の揮発性のアンモニアの固形肥料中への残存量が多くなるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明において、メタン発酵液は、家畜糞尿など農林畜産廃棄物や、生ゴミや焼酎滓などの食品廃棄物が原料とするメタン発酵工程で排出されるものが使用される。メタン発酵液はアンモニアを比較的高い濃度に含むアルカリ性の溶液であり、一般的にpH8〜11程度を示す。固形化工程でのアンモニアの揮散を防ぐ目的から、メタン発酵液を酸でpHを調整するのが好ましい。アンモニアはアンモニウムイオンとなり揮散しなくなる。酸はアンモニウムイオンの対の陰イオンとして製造した固形肥料中に残る。このため、残存陰イオンによる農作物栽培に影響がでないものが好ましい。塩酸、硫酸、リン酸、有機酸などを用いることができる。炭素源としても働く酢酸のような有機酸を用いるのがより好ましい。酸による調整はpHが7以下に下がるように行う。より好ましくはpHが4〜6になるように調整する。
【0019】
酸性に調整したメタン発酵液をしみ込ませるのに、繊維成分を含む木質系廃棄物を用いる。木質系廃棄物は比較的大量に入手でき、農作物栽培に有害な物質を含まないものであれば、何でも使用できる。例えば、製材で排出する端材、おが屑、木粉など林業廃棄物、もみ殻、麦わら、稲わらなどの農業廃棄物、再生セルロース繊維に使えない廃棄コットンリンターなど製紙業・繊維業の廃棄物などである。おが屑、木粉、廃棄コットンリンターなどの粉末や細い繊維質の材料はそのままで使用できる。製材端材やもみ殻、麦わら、稲わらなどは粉砕機でチップ状、粉末状または繊維状に粉砕して用いる。
【0020】
繊維成分を含む木質系廃棄物の添加量は、材料により吸収量が異なるため限定できないが、酸性に調整したメタン発酵液に粉末状または繊維状の木質系廃棄物を加えて攪拌混合する場合、吸収されないメタン発酵液が液体として残らないくらいの添加量とするとよい。大量に混合攪拌する場合は攪拌槽を持つ攪拌装置が必要であり、例えば回転ドラム式のミキサー、いわゆるコンクリートミキサーが使用できる。酸性に調整したメタン発酵液にチップ状や粉末状の木質廃棄物を加えてミキサーで混合すると、混合後はチップ状や粘土状の状態になる。これを取り出して、乾燥させればよい。一方、木材やわらなどを繊維状に粉砕するリファイナーを用いて製造した繊維状木質廃棄物や廃棄コットンリンターなどを使用すると、ミキサーで混合中に繊維が絡まりヘア・ボール状にまとまった状態へのと変化し、混合後には数mm〜数cmの球状の塊となる。これを取り出して乾燥する。乾燥後の取り扱いはヘア・ボール状の方が良好である。
【0021】
酸性に調整したメタン発酵液に粉末状または繊維状の木質系廃棄物を加えて攪拌混合する際に、粘土鉱物を合わせて加えることができる。粘土鉱物を添加するとメタン発酵液の中の揮発性のアンモニアの固形肥料中への残存量が多くなる利点があり、固形肥料中の窒素肥料分を高めたいときには有効となる。粘土鉱物としてはカオリナイト、ベントナイトなど一般的なものを使用でき、粘土鉱物の使用量としては、メタン発酵液10部に対して、0.5〜5.0部程度が用いられる。
【0022】
酸性に調整したメタン発酵液と繊維状の木質廃棄物との混合物または酸性に調整したメタン発酵液と繊維状の木質廃棄物と粘土鉱物との混合物の乾燥は、自然乾燥で約1〜2週間で完了する。尚、送風機などを併用すると数日間に短縮できる。乾燥済の固形肥料の含水量は木質廃棄物により異なるが、一般に20%以下になる。加熱乾燥もできるがエネルギーコストを押さえる意味で自然乾燥が好ましい。乾燥した固形肥料はビニール袋などに詰めて貯蔵保存できる。
【0023】
固形肥料中の肥料成分の含有量を高める場合は、乾燥後に再度酸性に調整したメタン発酵液を加えて混合攪拌し、取り出して自然乾燥する操作を繰り返せばよい。この操作を複数回繰り返すことも可能で、製造する固形肥料中の肥料成分の含有量を増加させて、必要な含有量に調整できる。
【0024】
以下、本発明を実施例に従いさらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0025】
宮崎県小林市バイオマスセンターに設置されたメタン発酵施設から排出したメタン発酵液を用いた。このメタン発酵施設では家畜糞尿を主な原料としている。メタン発酵液のpHは8.2を示し、またアンモニウムイオンをアクアテック分析装置を用いて比色定量分析して得たアンモニウム態窒素の濃度は5945ppmであった。スギ廃材を樹皮つきのままチップ状にして、160℃で蒸煮後、リファイナーを用いて細砕して得られる繊維状スギ材(ウッドファイバー)をメタン発酵液の担体として用いた。メタン発酵液8kgを20L用コンクリートミキサーに入れ、ミキサーを回しながら酢酸約0.5kgを滴下し、pHを4.9に調整した。ミキサーを回しながらウッドファイバー1.6kg(メタン発酵液10部に対して液に対して2部の割合)を加えた。ミキサーを約20分間回し、酸性に調整したメタン発酵液を吸収したウッドファイバーが直径数cmのヘア・ボール状になったのを確認して、回転を止めた。粒状になった混合物を,プラスチック大型せいろう#1800(外寸1800mm×870mm×77mm、三甲株式会社製)に広げて、ビニールハウス内で自然乾燥させた。1週間後に乾燥を終え、2.18kgの固形肥料を得た。
【0026】
製造した固形肥料の分析を行った。粉砕した繊維状の固形肥料10gを蒸留水15gに懸濁した溶液(40重量%)のpHを測定したところ、pH6.5となった。粉砕した繊維状または粉末状の固形肥料1gをはかり取り、0.5mol塩酸19gを加えて20gとした。この溶液をマグネチックスターラーで10分間攪拌した。ろ紙でろ過し、ろ液4gを取り、水を追加して20gとして、固形肥料抽出液(重量換算で100倍希釈液)とした。さらに0.1mol塩酸で5倍希釈して、アクアテック分析装置で波長590nmで比色定量測定し、固体肥料中アンモニウム態窒素濃度に換算したところ、3260ppmであった。使用したメタン発酵液のアンモニウム態窒素量と固体肥料中アンモニウム態窒素量を算出して比較した結果、固体肥料中アンモニウム態窒素量は使用メタン発酵液中アンモニウム態窒素量に比べて85重量%減少していることがわかった。これは混合工程および乾燥工程で揮散などで減少したと考えられる。得られる粉砕した繊維状の固形肥料を0.3gとり、フッソ樹脂製分解容器に入れ,マイクロウェーブ分解装置を用いて、過酸化水素−硫酸分解法(160℃まで5分間で昇温,160℃で10分間保持,その後180℃で15分間保持)で酸化分解した。 酸化分解反応液を水で50mLに希釈し,さらに10倍希釈して測定液とした。ICP発光分光分析装置でりんおよびカリウムの濃度を定量し、固体肥料中濃度に換算したところ、りん濃度2374ppmおよびカリウム濃度4810ppmであった。
【実施例2】
【0027】
実施例1で用いたと同じメタン発酵液8kgを20L用コンクリートミキサーに入れ、ミキサーを回しながら酢酸約0.5kgを滴下し、pHを4.9に調整した。ミキサーを回しながら、ベントナイト粘土鉱物製品クニピアF(クニミネ工業株式会社)を0.8g(メタン発酵液10部に対して粘土鉱物1部の割合)加えて混合した。次いで、ウッドファイバー1.6kg(メタン発酵液10部に対して液に対して2部の割合)を加えた。ミキサーを約20分間回転混合し、酸性に調整したメタン発酵液を吸収したウッドファイバーが直径数cmのヘア・ボール状になったのを確認して、回転を止めた。粒状になった混合物を,プラスチック大型せいろうに広げて、ビニールハウス内で自然乾燥させた。2週間後に乾燥を終え、3.62kgの固形肥料を得た。
【0028】
実施例1と同様の方法で製造した固形肥料を分析した。固形肥料懸濁水溶液pHは6.0であった。固形肥料中のアンモニウム態窒素濃度が8500ppm、りん濃度が1100ppm、およびカリウム濃度が2920ppmであった。固体肥料中アンモニウム態窒素量は使用メタン発酵液中アンモニウム態窒素量に比べて35重量%減少していることがわかった。粘土鉱物を加えていない実施例1に比べてアンモニウム態窒素量の減少は小さく、粘土鉱物の添加がアンモニアまたはアンモニウムイオンの保持に有効であることがわかる。
【実施例3】
【0029】
スギ廃材を樹皮つきのままチップ状にして、160℃で蒸煮後、リファイナーを用いて粗めに砕き、マッチ棒サイズの太さで長さが2〜10cmのスギ小片とし、メタン発酵液の担体として用いた。メタン発酵液はpH8.4でアンモニウム態窒素濃度が3070ppmのものを用いた。メタン発酵液9.9kgを20L用コンクリートミキサーに入れ、回転させながら酢酸約0.24kgを滴下し、pHを5.3に調整した。次にミキサーを回転しながらスギ小片3.0kg(メタン発酵液10部に対して液に対して約3部の割合)を加え約20分間回転した。実施例1と異なり、粒状に固まることはなく、メタン発酵液がしみ込んだ小片の状態のままであった。これを,プラスチック大型せいろうに広げて、ビニールハウス内で自然乾燥させた。1週間後に乾燥を終え、3.16kgの固形肥料を得た。
【0030】
実施例1と同様に製造した固形肥料を分析した。固形肥料中のアンモニウム態窒素濃度は138ppm、りん濃度は620ppm、およびカリウム濃度は2425ppmであった。
【実施例4】
【0031】
再生セルロース繊維を製造する工場から繊維に使えない廃棄コットンリンターをメタン発酵液の担体として用いた。廃棄コットンリンターは湿っているためあらかじめ1週間天日乾燥させて用いた。メタン発酵液はpH8.4を示し、アンモニウム態窒素濃度が3325ppm、りん濃度が686ppm、およびカリウム濃度が2330ppmであるものを用いた。なお、メタン発酵液のりんおよびカリウムの濃度はメタン発酵液1mLを実施例1で行ったマイクロウェーブ分解装置を用いる過酸化水素−硫酸分解法で酸化分解して得られた酸化分解反応液を、希釈してICP発光分析装置で定量分析して求めた。メタン発酵液5.0kgを20L用コンクリートミキサーに入れ、ミキサーを回しながら酢酸約0.1kgを滴下し、pHを5.6に調整した。ミキサーを回転しながら廃棄コットンリンター1.8kg(メタン発酵液10部に対して液に対して3.6部の割合)を加え約20分間回転させた。メタン発酵液がしみ込んだコットンリンターは直径数cmのヘア・ボール状になった。これを、プラスチック大型せいろうに広げて、ビニールハウス内で1週間自然乾燥させ、1.90kgの固形肥料を得た。
【0032】
実施例1と同様に製造した固形肥料を分析した。固形肥料中のアンモニウム態窒素濃度は87ppm、りん濃度は525ppm、およびカリウム濃度は1800ppmであった。
【実施例5】
【0033】
メタン発酵液をウッドファイバーにしみ込ませた後乾燥し、再度メタン発酵液をしみ込ませ乾燥させる操作を繰り返す実験を行った。メタン発酵液はpH8.2、アンモニウム態窒素濃度6463ppm、硝酸態窒素濃度4.5ppm、全窒素濃度3541ppm、りん濃度903ppmおよびカリウム濃度1468ppmのものを使用した。なお、硝酸態窒素濃度は、メタン発酵液を10%塩化カリウム水溶液で希釈して、アクアテック分析装置による比色定量法で求めた。また、メタン発酵液1mLを実施例1で行ったマイクロウェーブ分解装置を用いる過酸化水素−硫酸分解法で同様に酸化分解して得られた酸化分解反応液を、希釈してアクアテック分析装置で比色定量して求めた値に、硝酸性窒素の値を加算して、全窒素濃度とした。このメタン発酵液3.0kgを20L用コンクリートミキサーに入れて、回転させながら0.08kgの酢酸を加えて、pH5.4に調整した。ウッドファイバー0.76g(メタン発酵液10部にウッドファイバー約2.5部の割合)を加えて、10分間回転混合した。粒状になった混合物をプラスチック大型せいろうに広げて、ビニールハウス内で自然乾燥させた。6日間後に乾燥を終え、1回目の担持固体を得た。再度、メタン発酵液3.0kgをコンクリートミキサーに入れて、回転させながら0.06kgの酢酸を加えて、pH5.5に調整した。乾燥を終えた1回目の担持固体を加えて、10分間回転混合し、取り出して6日間自然乾燥して、2回目の担持固体を得た。さらに、同様にして再度メタン発酵液の担持を行い、10日間乾燥後3回目の担持固体を得て、これを固形肥料とした。0.95kgの固形肥料を得た。
【0034】
1回目から3回目までの担持固体の分析を実施例1と同じように行い、肥料成分の含有量変化を測定した。なお、硝酸態窒素濃度は、粉砕した担持固体5.0gに10%塩化カリウム45gを加えて1時間振とうした後、ろ過して得られたろ液をさらに10倍希釈した溶液を測定液として、アクアテック分析装置で比色定量して求めた。また、全窒素濃度は、実施例1で行ったマイクロウェーブ分解装置を用いる過酸化水素−硫酸分解法と同様に酸化分解して得られた酸化分解反応液を、希釈してアクアテック分析装置で比色定量して求めた値に、硝酸性窒素の値を加算して、全窒素濃度とした。表1に分析結果をまとめる。3回繰り返した担持固体のアンモニウム態窒素濃度は、1131ppmでかなり値は低い。しかしながら、全窒素濃度は繰り返し担持固形化で上昇し、3回目には約10430ppmにも達した。3回繰り返し担持後の固形化剤中の肥料成分濃度は、およそ窒素濃度 1.0%、 りん 0.3%、およびカリウム0.6%となった。
【0035】
【表1】

【実施例6】
【0036】
pH8.9でアンモニウム態窒素濃度が4333ppmのメタン発酵液20kgを40L用コンクリートミキサーに入れ、回転させながら1.24kgの酢酸を加えて、pH4.2に調整した。ベントナイト粘土鉱物クニゲル−V(クニミネ工業株式会社)を2.0kg加えて回転混合後、ウッドファイバー4.5kg(メタン発酵液10部にウッドファイバー約2.25部の割合)を加えて、20分間回転混合した。粒状になった混合物をプラスチック大型せいろうに広げて、ビニールハウス内で自然乾燥させた。3週間後に乾燥を終え、1回目の担持固体を得た。pH9.0でアンモニウム態窒素濃度が3615ppmのメタン発酵液15.0kgをコンクリートミキサーに入れて、回転させながら0.82kgの酢酸を加えて、pH4.2に調整した。乾燥を終えた1回目の担持固体を加えて、30分間回転混合し、取り出して6日間自然乾燥して、2回目の担持固体を得た。さらに、pH8.8でアンモニウム態窒素濃度が3335ppmのメタン発酵液をコンクリートミキサーに入れて、回転させながら0.78kgの酢酸を加えて、pH4.2に調整した。乾燥を終えた2回目の担持固体を加えて、30分間回転混合し、取り出して2週間自然乾燥して、3回目の担持固体を得て、固形肥料とした。固形肥料5.13kgを得た。105℃で恒量になるまで、乾燥させたときの重量減少から求めた乾物率は94.9%であった。
【0037】
実施例5と同様に固形肥料とした3回目の担持固体の分析を行った。なお、担持固体を過酸化水素−硫酸法で酸化分解した反応溶液をICP発光分析する際に、りんおよびカリウムに加えて、他の金属も合わせて定量分析した。固形肥料とした3回目の担持固体のアンモニウム態窒素濃度は4184ppm、全窒素濃度は11713ppm、りん濃度は2908ppm、カリウム濃度は15445ppmであった。他の金属として、ナトリウム7233ppm、カルシウム11874ppm、マグネシウム1821ppm、アルミニウム2359ppm、亜鉛134ppm、鉄2911ppm、マンガン187ppm、および銅9ppmを含んでいた。リチウム、ホウ素、コバルト、モリブデン、鉛は検出されなかった。
【実施例7】
【0038】
実施例2で得られた固形肥料を用いて、ブルーベリーの春肥として施用することにより、ブルーベリー果実品質への効果を試験した。材料には,南部ハイブッシュブルーベリー‘オザークブルー’挿し木3年生苗を供試した。鉢は10号を用い,土壌は,ピートモス,ボラ土および腐葉土を5:3:2の割合で混合したものを使用した。2007年の4月25日に春肥として施用を行った。処理区はA:実施例2のメタン発酵液固形肥料,B:油かす,C:液体化成肥料,D:固形化成肥料,E:肥料施用しない対象区をそれぞれ設定し,3反復で行った。春肥としての施肥量はそれぞれ窒素の要素量当たりで10アールあたり30kg窒素となるよう調整した。新梢成長,果実収量,成熟果実中の糖酸含量・組成および総ポリフェノール含量を調査項目とした。
【0039】
ブルーベリーの新梢成長や果実収量について調査した結果,実施例2の固形肥料区は化成肥料区と比較して有意な差異は認められなかった.新梢成長は約30cmですべての処理区において有意差が無かったが、無処理区に比べて実施例2の固形肥料区や化成肥料区で伸長がよい傾向が見られた(図1)。また、果実収量については200〜300gとなり、液体化成肥料区や固形化成肥料区でやや低い傾向を示し、実施例2の固形肥料区は油かすと同等であった(図2)。成熟果実中の糖含量とその組成を調べた結果、糖としてはグルコースとフルクトースがそのほとんどを占め、処理区間で糖含量と組成比に大きな変化は認められなかった。また,成熟果実中の有機酸は,そのほとんどがクエン酸であり,キナ酸とリンゴ酸がわずかに含まれていたが、糖と同様に処理区間で有意な差異は観察されなかった。さらに,総ポリフェノール含量についても処理区間で大きな差は無かった。以上の結果から,ブルーベリー栽培における実施例2の固形肥料の春肥としての施用は,化成肥料の施用と同等の効果が得られることが明らかとなった。
【0040】
以上のように、本発明のメタン発酵液を繊維成分を含む木質系廃棄物を用いて固形肥料とする製造方法は、工程が簡単でエネルギー消費量も少なく安価であり、また大量に製造できるメリットを持つ。また、現在は廃棄されている繊維成分を含む木質系廃棄物をメタン発酵液の担体として有効利用できる点も本発明のメリットである。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、メタン発酵液からなる固形肥料およびその製造技術を提供するものであり、製造される固形肥料は化学肥料に代わる肥料の一つとして、農作物栽培に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】ブルーベリーに2007年4月25日に肥料施用後、3ヶ月後の7月25日に新梢伸長を測定した結果を表す図である。
【図2】ブルーベリーに2007年4月25日に肥料施用後、6月5日から収穫を開始して7月11日に収穫を終了した期間に収穫されたブルーベリー果実の平均重量を表す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタン発酵工程で排出されるメタン発酵液を酸により酸性に調整し、繊維成分を含む木質系廃棄物と混合し、固形化した固形肥料。
【請求項2】
前記固形肥料は、粘土鉱物をさらに含むことを特徴とする請求項1記載の固形肥料。
【請求項3】
メタン発酵工程で排出されるメタン発酵液を酸によって酸性に調整する工程と、該酸性に調整したメタン発酵液と繊維成分を含む木質系廃棄物とを混合する工程と、該混合した混和物を自然乾燥させる工程とからなる固形肥料の製造方法。
【請求項4】
前記固形肥料の製造方法において、木質系廃棄物に加えて粘土鉱物をさらに混合することを特徴とする請求項3に記載の固形肥料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−76944(P2010−76944A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−243480(P2008−243480)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【Fターム(参考)】