説明

メチオニンの生産のための株および方法

本発明は、トレオニンの変換が減弱された改変株を用いたメチオニンの生産方法に関する。これはトレオニンのグリシンへの変換を低減し、かつ/またはそのα−ケト酪酸への変換を低減することによって達成することができる。本発明はまた、トレオニンの変換が減弱された改変株に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、トレオニンの変換が減弱された改変株を用いたメチオニンの生産方法に関する。これはトレオニンのグリシンへの分解を低減し、かつ/またはそのα−ケト酪酸への変換を低減することによって達成することができる。本発明はまた、トレオニンの変換が減弱された改変株に関する。
【0002】
発明の背景
システイン、ホモシステイン、メチオニンまたはS−アデノシルメチオニンなどの硫黄含有化合物は、細胞代謝にとって重要であり、食品または飼料添加物および医薬品として使用すべく工業的に生産される。特に、動物が合成することのできない必須アミノ酸であるメチオニンは、多くの身体機能において重要な役割を果たす。タンパク質生合成におけるその役割とは別に、メチオニンは、メチル基転移ならびにセレニウムおよび亜鉛のバイオアベイラビリティに関与している。メチオニンはまた、アレルギーやリウマチ熱のような障害に対する治療薬として直接用いられる。しかしながら、生産されるメチオニンの大部分は動物飼料に添加されている。
【0003】
BSEおよび鳥インフルエンザの結果として動物由来タンパク質の使用が減少するに伴い、純粋なメチオニンに対する需要が高まっている。化学的には、D,L−メチオニンは、通常、アクロレイン、メチルメルカプタンおよびシアン化水素から生産される。しかしながら、このラセミ混合物は、例えば鶏飼料用添加物において、純粋なL−メチオニンほどには良好に機能しない(Saunderson, C.L., (1985) British Journal of Nutrition 54, 621-633)。純粋なL−メチオニンは、ラセミ型メチオニンから、例えばN−アセチル−D,L−メチオニンのアシラーゼ処理によって生産することができるが、生産コストは大幅に増加する。環境問題に関連して純粋なL−メチオニンに対する需要が高まりつつあることから、メチオニンの微生物生産は魅力的である。
【0004】
メチオニン生合成はホモセリン、システインおよびC1単位の生産に依存する。ホモセリンはアスパラギン酸(aspartarte)の誘導体であり、メチオニンに炭素骨格を与える。ホモセリンはまたトレオニンにも変換され、そしてこのトレオニンは(i)イソロイシンの前駆体であり、またグリシン(ii)に変換され得る。これらの2つの反応はトレオニンを消費し、より多くのホモセリンをトレオニン経路に引き込むので、メチオニン経路へのフラックスを減少させる。
【0005】
(i)イソロイシンの生産に関しては、トレオニンは脱アミノ化されてα−ケト酪酸となるが、この反応はそれぞれ遺伝子ilvA(EC4.3.1.19、Ramakrishnan et al, 1965, J Bacteriol, 89:661)およびtdcB(EC4.3.1.19、Goss et al, 1988, J Bacteriol, 170:5352)によりコードされるトレオニンデアミナーゼまたはトレオニンデヒドラターゼにより触媒される。sdaA(EC4.3.1.17;Su et al. 1989, J Bacteriol, 171 :5095)およびsdaB(EC4.3.1.17,Su and Newman, 1991, 173:2473)によりコードされているセリンデアミナーゼはいくらかのトレオニンデアミナーゼ活性をコードしていることも知られている。
【0006】
(ii)トレオニン・グリシン変換のための2つの経路は大腸菌に存在している。
(A)トレオニンは、トレオニンデヒドロゲナーゼ(Tdh;E.C.1.1.1.103)と2−アミノ3−ケト酪酸−coA−リアーゼ(Kbl;E.C.2.3.1.29)により触媒される2つの逐次反応によってグリシンに変換され得る(Boylan S.A. et al, 1981, Journal of Biological Chemistry, 256, 4, pp 1809-1815; Mukherjee J.J. et al, 1987, Journal of Biological Chemistry, 262, 30, pp 14441-14447)。これらの反応はそれぞれ1分子のアセチル−coAおよびNADHを生じる(Komatsubara S. et al, 1978, Journal of Bacteriology, 1981, 135, pp 318-323)。
【0007】
(B)トレオニンはまたトレオニンアルドラーゼにより触媒される逆アルドール機構によって直接グリシンに変換され得る。この反応はアセトアルデヒドとグリシンを生じる(Plamann M.D. et al, 1983, Gene, 22, 1, pp 9-18)。大腸菌においてトレオニンアルドラーゼ活性を有する酵素は、下記遺伝子:ltaE(Liu JL et al, 1998, European Journal of Biochemistry, 255, 1, pp 220-226)、kbl(Markus J. P. et al, 1993, Biochemica et Biophysica Acta, 1164, pp 299-304)およびglyA(Schirch V. et al, 1968, Journal of Biological Chemistry, 243, pp 5561; Schirch V. et al, 1985, Journal of Bacteriology, 163, 1, pp 1-7)によりコードされている。
【0008】
LtaEは、トレオニンの分解によるアセトアルデヒドとグリシンの生成に関与すると考えられている低特異性トレオニンアルドラーゼである(Liu JL et al., 1998, European Journal of Biochemistry, 255, 1, pp 220-226)。
【0009】
Kblの主要な活性は2−アミノ−3−ケト酪酸CoAリガーゼ(E.C2.3.1.29)であり、2−アミノ3−ケト酪酸の脱アセチル化によるグリシンとアセチル補酵素Aの生成からなる(Mukherjee J.J. et al, 1987, Journal of Biological Chemistry, 262, 30, pp 14441-14447)。それはTAL活性を有するためにトレオニン分解に使いやすい酵素となることが知られている(Markus J.P. et al., 1993, Biochemica et Biophysica Acta, 1164, pp 299-304)。
【0010】
GlyAの主要な活性はセリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(SHMT)(E.C.2.1.2.1)である。それはアミノ酸セリンおよびテトラヒドロ葉酸(THF)のグリシンおよび5,10メチレン−THFへの変換を触媒する(総説として、Schirch V. et al, 2005, Current opinion in Chemical biology, 9, pp 482-487)。GlyAにより触媒される他の二次的活性のうち(総説として、Schirch L., 2006, Advances in enzymology and related areas of molecular biology, 53, pp 83-112)、トレオニンアルドラーゼ(TAL)だけが生理学的関連があると思われる。GlyAは結晶化され(Scarsdale et al, 2000, Journal of Molecular Biology, 296, pp 155-168)、基質特異性の起源を解明するための研究が行われた(Angelaccio S. et al, 1992, Biochemistry, 31, pp 155-162)。Angelaccio らは全てのトレオニンをアラニン活性部位の近傍で突然変異誘発したところ、突然変異T226AがトレオニンのKmを1.8倍高め、TAL活性をそれらの定量限界より低いレベルに引き下げたが、THFのKmもセリンのKmも変化させないことが分かった。しかしながら、SHMT反応のkcatは32分の1に低下したことから、この突然変異は、SHMT活性には強い影響を持っている。
【0011】
収量向上のために改変されるメチオニン生産に向けた株は当技術分野において現在、広く開示されている。現在、メチオニン生合成経路は多くの他の経路に関与する遺伝子と入り組んでいると理解されている。従って、一見してメチオニンの合成を促進するのに有益であると思われる遺伝子を増強または減弱しても反対の結果に終わることがある。トレオニン消費に関与する遺伝子はC1生産にも関与することが知られている。
【0012】
トレオニン分解に関与するタンパク質の活性の阻害またはその発現の減弱はすでにいくつかの研究で開示されている。Simic ら (Simic et al, 2002, Applied and Environmental microbiology, 68(7), pp 3321-3327)は、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)のトレオニン生産を増大させるための、GlyAタンパク質のトレオニン活性のアルドール切断の減弱を開示している。Martinez-Force ら (Martinez-Force et al, 1994, Biotechnology Progress, 10(4), pp 372-376)は、トレオニン生産を増大させるための、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のilv1遺伝子の欠失を開示している。さらにこの研究で筆者らは、トレオニンおよびメチオニンの蓄積とトレオニンデアミナーゼ活性の低下の間に相関はないことを示している。Liu ら (Liu et al, 1998, European Journal of Biochemistry, 255(1), pp 220-226)は、大腸菌(Escherichia coli)のLtaE酵素の特徴と細胞増殖におけるその役割を詳細に示している。最後に、Lee ら (Lee et al, 2007, Molecular Systems Biology, 3(149), pp 1-8)は、トレオニン生産を増大させるためのtdh遺伝子の欠失とilvA遺伝子の突然変異を開示している。
【0013】
これらの研究は全て、もっぱらトレオニン生産に向けられている。従来技術においてメチオニン生合成を向上させるための解決策としてトレオニン消費を回避することを意図したものはない。
【発明の開示】
【0014】
本発明者らは、メチオニン代謝経路が複雑であるにもかかわらず、トレオニン変換に働きかけることによってメチオニン生産を増大させる方法を見出した。
【0015】
発明の簡単な説明
本発明は、発酵プロセスにおいてメチオニン、その前駆体または誘導体を生産するための方法であって、下記工程:
炭素源と硫黄源と窒素源とを含んでなる適当な培養培地中で改変微生物を培養する工程、および
該培養培地からメチオニンおよび/またはその誘導体を回収する工程
を含んでなり、
該微生物がメチオニンよりも他の化合物におけるトレオニンの変換を低減するように改変される方法に関する。
【0016】
特に、トレオニンのグリシンまたはイソロイシンへの変換が低減される。
【0017】
本発明はまた、メチオニン生産の向上のための他の遺伝子改変と組み合わせて、メチオニンよりも他の化合物におけるトレオニンの変換が低減される、メチオニン生産の向上のために改変された微生物に関する。
【0018】
トレオニンからのグリシンの生産は、特に、トレオニンをグリシンへ変換する酵素の活性を低下させることによって低減される。特定の一実施形態では、酵素GlyAのセリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ活性を維持しつつトレオニンアルドラーゼ活性が減弱されている変異GlyA酵素が発現される。
【0019】
トレオニンからのイソロイシンの生産は、特にトレオニンからα−ケト酪酸への脱アミノ化および/または脱水(dehydratation)を低下させることによって低減される。
【0020】
発明の詳細な説明
本発明は、発酵プロセスにおいてメチオニン、その前駆体または誘導体を生産するための方法であって、下記工程:
炭素源と硫黄源と窒素源とを含んでなる適当な培養培地中で改変微生物を培養する工程、および
該培養培地からメチオニンおよび/またはその誘導体を回収する工程
を含んでなり、
該微生物がメチオニンよりも他の化合物へのトレオニンの変換を低減するように改変される方法に関する。
【0021】
本発明によれば、メチオニンの前駆体は、メチオニン特異的代謝経路の一部であるか、またはこれらの代謝産物から誘導される代謝産物と定義される。メチオニンの誘導体は、S−アシルメチオニンおよびN−アシルメチオニンなど、メチオニン変換および/または分解経路に由来する。特に、これらの産物はS−アデノシル−メチオニン(SAM)およびN−アセチルメチオニン(NAM)である。特にNAMは容易に回収できるメチオニン誘導体であり、単離して脱アシル化によりメチオニンに変換可能である。
【0022】
「培養培地からメチオニンを回収する」とは、メチオニン、ならびに可能性としてはSAMおよびNAMおよび有用である可能性がある他のあらゆる誘導体を回収する行為を表す。
【0023】
「発酵プロセス」、「培養」または「発酵」とは、単純炭素源、硫黄源および窒素源を含有する適当な増殖培地上での細菌の増殖を表して互換的に用いられる。
【0024】
「適当な培養培地」は、微生物の培養および増殖に適当な培地である。このような培地は、微生物発酵の分野で培養される微生物に応じてよく知られている。
【0025】
「微生物」とは、細菌、酵母または真菌を表す。好適には、微生物は、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、バチルス科(Bacillaceae)、ストレプトミセス科(Streptomycetaceae)およびコリネバクテリウム科(Corynebacteriaceae)の中から選択される。より好適には、微生物は、エシェリキア属(Escherichia)、クレブシェラ属(Klebsiella)、パンテア属(Pantoea)、サルモネラ菌属(Salmonella)またはコリネバクテリウム属(Corynebacterium)の種である。いっそうより好適には、微生物は、大腸菌(Escherichia coli)またはコリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)種のいずれかである。
【0026】
「改変微生物」とは、メチオニン生産を向上させるために改変された微生物であり、メチオニンの生産収率を向上させる目的で遺伝的に改変された微生物を表す。本発明によれば、「向上された」または「向上させる」とは、微生物により生産されるメチオニンの量、特にメチオニン収率(炭素源グラム/モル当たりに生産されるメチオニンのグラム/モルの割合)が、対応する非改変微生物に比べて改変微生物で高いことを意味する。通常の改変としては、形質転換および組換えによる微生物への遺伝子欠失の導入、遺伝子置換、ならびに異種遺伝子の発現のためのベクターの導入を含む。
【0027】
本発明によれば、この方法に使用される改変微生物は、一方でメチオニン生産の向上のための改変、他方で非改変微生物に比べてトレオニンからメチオニン以外の化合物の生産を低減するための改変を含んでなる。
【0028】
「メチオニン以外の化合物」とは、特に、グリシンおよびイソロイシンを表す。
【0029】
微生物におけるメチオニン生産に関与する遺伝子は当技術分野で公知であり、メチオニン特異的生合成経路に関与する遺伝子ならびに前駆体提供経路に関与する遺伝子およびメチオニン消費経路に関与する遺伝子を含んでなる。
【0030】
メチオニンの効率的生産は、メチオニン特異的経路の至適化およびいくつかの前駆体供給経路を必要とする。メチオニン生産株は特許出願WO2005/111202、WO2007/077041およびWO2009/043803に記載されており、引用することにより本願の一部とされる。
【0031】
その阻害剤SAMおよびメチオニンに対するフィードバック感受性が低減されたホモセリンスクシニルトランスフェラーゼ対立遺伝子を過剰発現するメチオニン生産株は特許出願WO2005/111202に記載されている。この出願はまた、これらの対立遺伝子と、特許出願JP2000/157267に示唆されたようなメチオニンレギュロンのダウンレギュレーションを担うメチオニンレプレッサーMetJ(GenBank 1790373)の欠失の組合せも記載している。さらに、これらの2つの改変とアスパルトキナーゼ/ホモセリンデヒドロゲナーゼの過剰発現の組合せが特許出願WO2005/111202に記載されている。
【0032】
遺伝子cysE、metHおよびmetFの過剰発現はWO2007/077041に示唆されている。
【0033】
メチオニンの生産を向上させるためには、微生物は以下のことを示し得る:
・WO2007/077041およびWO2009/043803に記載されているような周辺質硫酸結合タンパク質をコードするcysP、
・WO2007/077041およびWO2009/043803に記載されているような硫酸ABC輸送体の成分をコードするcysU、
・WO2007/077041およびWO2009/043803に記載されているような膜結合硫酸輸送タンパク質をコードするcysW、
・WO2007/077041およびWO2009/043803に記載されているような硫酸パーミアーゼをコードするcysA、
・WO2007/077041およびWO2009/043803に記載されているようなO−アセチルセリンスルフヒドララーゼをコードするcysM、
・WO2007/077041およびWO2009/043803に記載されているような亜硫酸レダクターゼの、それぞれαおよびβサブユニットをコードするcysIおよびcysJ(cysIとcysJはともに過剰発現することが好ましい)、
・WO2007/077041およびWO2009/043803に記載されているようにアデニリル硫酸レダクターゼをコードするcysH、
・WO2007/077041に記載されているようなセリンアシルトランスフェラーゼをコードするcysE、
・WO2007/077041およびWO2009/043803に記載されているようなテトラヒドロ葉酸依存性アミノメチルトランスフェラーゼをコードするgcvT、
・WO2007/077041およびWO2009/043803に記載されているようなアミノエチル基の担体をコードすることによるグリシン切断に関与するgcvH、
・WO2007/077041およびWO2009/043803に記載されているようなグリシンデヒドロゲナーゼをコードするgcvP、
・WO2007/077041およびWO2009/043803に記載されているようなリポアミドデヒドロゲナーゼをコードするIpd、
・WO2007/077041およびWO2009/043803に記載されているようなホスホグリセル酸デヒドロゲナーゼをコードするserA、
・WO2007/077041およびWO2009/043803に記載されているようなホスホセリンホスファターゼをコードするserB、
・WO2007/077041およびWO2009/043803に記載されているようなホスホセリンアミノトランスフェラーゼをコードするserC、
・WO2007/077041およびWO2009/043803に記載されているようなセリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼをコードするglyA、
・WO2007/077041に記載されているような5,10−メチレンテトラヒドロ葉酸レダクターゼをコードするmetF、
・WO2005/111202に記載されているようなS−アデノシルメチオニンおよび/またはメチオニンに対するフィードバック感受性が低減されたホモセリンスクシニルトランスフェラーゼをコードするmetA対立遺伝子、
・WO2009/043803およびWO2005/111202に記載されているようなトレオニンに対するフィードバック阻害が低減されたアスパルトキナーゼ/ホモセリンデヒドロゲナーゼをコードするthrAまたはthrA対立遺伝子、
・WO2007/077041に記載されているようなB12依存性ホモシステイン−N5−メチルテトラヒドロ葉酸トランスメチラーゼをコードするmetH
からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現の増強、および/または
以下の遺伝子:
・WO2007/077041およびWO2009/043803に記載されているようなピルビン酸キナーゼをコードするpykA、
・WO2007/077041およびWO2009/043803に記載されているようなピルビン酸キナーゼをコードするpykF、
・WO2007/077041およびWO2009/043803に記載されているようなホルミルテトラヒドロ葉酸デホルミラーゼをコードするpurU
のうち少なくとも1つの発現の阻害。
【0034】
本発明による微生物は、引用することにより本明細書の一部とされる特許出願WO2004/076659に記載されているようにO−スクシニル−ホモセリンからホモシステインの生産のために優先的または排他的にH2Sを用いる変更されたmetB対立遺伝子を使用することによりメチオニンの生産を増大させるためにさらに改変してもよい。
【0035】
当業者ならば、メチオニン生産を至適化するためには他の遺伝子も改変する必要があり得ることが分かるであろう。これらの遺伝子はWO2007/077041およびWO2007/020295に開示されている。
【0036】
上記に引用されるメチオニン生産に関する特許および特許出願の引用は全て、引用することにより本明細書の一部とされる。
【0037】
本発明の第1の態様において、トレオニンからのグリシンの生産は、トレオニンをグリシンに変換する酵素の活性を減弱することにより低減される。
【0038】
「低減される」、「減弱される」とは、本明細書において互換的に用いられ、同様の意味を有する。本明細書において、これらの用語は酵素活性または遺伝子発現の部分的または完全な抑制を表し、ひいてはそれは「低減される」または「減弱される」と言われる。
【0039】
酵素活性は、酵素をそのアミノ酸配列において突然変異させること、対応するRNAからの酵素の翻訳を低減すること、または対応する遺伝子の発現を低減することによって低減することができる。当業者ならば、翻訳を低減するための多くの方法を知っている。酵素発現は、対応するメッセンジャーRNA(Carrier and Keasling (1998) Biotechnol. Prog. 15, 58-64)またはそのタンパク質(例えば、GSTタグ、Amersham Biosciences)を安定化または脱安定化する要素によって低減させてもよい。遺伝子発現は部分的にまたは完全に低減させることができる。この遺伝子発現の低減は、遺伝子発現の阻害か、その遺伝子発現に必要なプロモーター領域の全部もしくは一部の欠失か、その遺伝子のコード領域における欠失か、または野生型プロモーターの、より弱い天然もしくは合成プロモーターによる交換のいずれかであり得る。好適には、遺伝子の減弱は本質的にその遺伝子の完全な欠失であり、その遺伝子はそれらの株の同定、単離および精製を助ける選択マーカー遺伝子に置き換えることができる。
【0040】
本発明の第1の態様において、改変微生物においてトレオニンからのグリシンの生産が低減される。
【0041】
特定の態様では、トレオニンをグリシンに変換する酵素の活性が低減される。
【0042】
本発明のさらに特定の実施形態では、改変微生物において下記遺伝子:ltaE、kbl、glyA、tdhのうち少なくとも1つの発現が減弱される。
【0043】
本発明の別の特定の実施形態では、改変微生物は、酵素GlyAのセリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ活性を維持しつつトレオニンアルドラーゼ(TAL)活性が減弱されている変異GlyA酵素を発現する。より詳しくは、本発明によれば、GlyA酵素はそのポリペプチド配列における下記のアミノ酸変化:T128S、T224S、T225S、T226S、T227S、T230S、R235Kのうち少なくとも1つを持つことができる。最も好ましいアミノ酸変化はR235Kである。
【0044】
本発明の特定の実施形態では、該微生物から内因性遺伝子glyAが欠失されている。
【0045】
本発明の第2の態様において、該微生物はトレオニンからのイソロイシンの生産が低減されるように改変される。
【0046】
特に、トレオニンからのイソロイシンの変換は、トレオニンからα−ケト酪酸への脱アミノ化および/または脱水(dehydratation)によって低減される
【0047】
本発明の特定の実施形態では、下記酵素活性:トレオニンデアミナーゼ、トレオニンデヒドラターゼのうち少なくとも1つが減弱される。本発明のさらに特定の実施形態では、該改変微生物において下記遺伝子:ilvA、tdcB、sdaA、sdaB、tdcGのうち少なくとも1つが減弱される。
【0048】
本発明によれば、改変微生物において、トレオニンからのグリシンおよび/またはイソロイシンの生産の低減に加えて、セリン利用能を増大させてもよい。
【0049】
「セリン利用能が増大されている」とは、代謝経路に利用可能なセリンの内部プールが非改変微生物に比べて増大されていることを表す。この増大は、種々の手段、すなわち、内部生産の増大、分解の減少、外部への輸送の減少、および当業者に公知の他のあらゆる方法によって得られる。
【0050】
特に、セリン生産は、この微生物において遺伝子serA、serB、serCのうち少なくとも1つの発現を増強することによって増大させてもよい。さらに、セリン分解は、セリンデアミナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子sdaAまたはsdaBのうち少なくとも1つの活性を減弱することによって減少させてもよい。本発明の好ましい実施形態では、sdaA遺伝子は158位においてグアニンの代わりにチミジンヌクレオチドを有する。
【0051】
本発明のさらに特定の実施形態では、上記のように、トレオニンアルドラーゼ活性が低減されたglyA対立遺伝子の発現を増強することができる。
【0052】
本発明の記載において、遺伝子およびタンパク質は大腸菌における対応する遺伝子の名称を用いて識別される。しかしながら、特に断りのない限り、これらの名称の使用は本発明に従うより一般的な意味を有し、他の生物、より詳しくは微生物における対応する遺伝子およびタンパク質の総てを包含する。
【0053】
当業者ならば、GenBankに示されている既知の遺伝子に関する参照を用いて他の生物、細菌株、酵母、真菌、哺乳類、植物などにおける等価な遺伝子を決定することができる。この常法は、有利には、他の微生物由来の遺伝子との配列アラインメントを行い、縮重プローブを設計して、他の生物における対応する遺伝子をクローニングすることにより決定することができるコンセンサス配列を使用して行われる。これらの分子生物学の常法は当業者によく知られており、例えば、Sambrook et al. (1989 Molecular Cloning: a Laboratory Manual. 2nd ed. Cold Spring Harbor Lab., Cold Spring Harbor, New York)に記載されている。
【0054】
PFAM(アラインメントのタンパク質ファミリーデータベースおよび隠れマルコフモデル(protein families database of alignments and hidden Markov models);
(http://www.sanger.ac.uk/Software/Pfam/)は、タンパク質配列アラインメントを多数集めたものである。各PFAMにより、多重アラインメントを視覚化し、タンパク質ドメインを調べ、生物間の分布を評価し、他のデータベースへのアクセスを確保し、既知のタンパク質構造を視覚化することができる。
【0055】
主要な系統発生系を示す、完全に配列決定されたゲノムからのタンパク質配列を比較することにより、COG(タンパク質のオーソロガス群のクラスター(clusters of orthologous groups of proteins);http://www.ncbi.nlm.nih.gov/COG/)が得られる。各COGは、少なくとも3つの系から定義されるので、前に保存されたドメインを同定することができる。
【0056】
相同配列およびそれらの相同性%を同定する手段は当業者によく知られており、特にBLASTプログラムが挙げられ、このプログラムは、ウェブサイトhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/から、このウェブサイトに示されているデフォルトパラメーターとともに利用することができる。次に、得られた配列を、例えばプログラムCLUSTALW(http://www.ebi.ac.uk/clustalw/)またはMULTALIN(http://bioinfo.genotoul.fr/multalin/multalin.html)を、これらのウェブサイトに示されているデフォルトパラメーターとともに用いて活用する(例えば、アラインする)ことができる。
【0057】
発酵プロセスにおいてメチオニン、その前駆体または誘導体を生産するための方法は当業者によく知られている。プロセスを至適化するために、硫黄源、炭素源および窒素源の選択などの発酵プロセスの種々の因子を調整することができる。
【0058】
本発明の好ましい態様では、培養培地に添加される、L−メチオニンの発酵生産に用いられる硫黄源は、硫酸塩、チオ硫酸塩、硫化水素、ジチオン酸塩、亜ジチオン酸塩、亜硫酸塩、メチルメルカプタン、二硫化ジメチルおよびその他のメチルキャップ亜硫酸塩または種々の供給源の組合せである。
【0059】
より好適には、培養培地中の硫黄源は硫酸塩もしくはチオ硫酸塩、またはその混合物である。
【0060】
本発明による「炭素源」とは、微生物の正常な増殖を助けるために当業者が使用可能ないずれの炭素源も表し、六炭糖(グルコース、ガラクトースまたはラクトースなど)、五炭糖、単糖類、二糖類(スクロース、セロビオースまたはマルトースなど)、オリゴ糖、糖蜜、デンプンまたはその誘導体、ヘミセルロース、グリセロールおよびそれらの組合せであり得る。特に好ましい炭素源はグルコースである。別の好ましい炭素源はスクロースである。
【0061】
本発明の特定の実施形態では、炭素源は再生可能な供給原料に由来する。再生可能な供給原料は、短期のうちに、その目的生成物への変換を可能とするに十分な量で再生され得る、特定の工業プロセスに必要とされる原料と定義される。
【0062】
窒素源とは、アンモニウム塩またはアンモニアガスのいずれかに相当する。
【0063】
窒素源は、アンモニウムまたはアンモニアの形で供給される。
【0064】
発酵は一般に、少なくとも1つの単純炭素源、および必要であれば代謝産物の生産のための補助基質を含有する、使用する微生物に適合された適当な培養培地の入った発酵槽で行われる。
【0065】
当業者ならば、本発明による微生物に対する培養条件を定義することができる。特に、細菌は20℃〜55℃の間、好適には25℃〜40℃の間、より具体的には、C.グルタミクムでは約30℃、大腸菌では約37℃の温度で発酵される。
【0066】
大腸菌に対する既知の培養培地の例として、その培養培地はM9培地(Anderson, 1946, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 32:120-128)、M63培地(Miller, 1992; A Short Course in Bacterial Genetics: A Laboratory Manual and Handbook for Escherichia coli and Related Bacteria, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York)またはSchaefer ら (1999, Anal. Biochem. 270: 88-96)により定義されているものなどの培地と同一または類似の組成であり得る。
【0067】
C.グルタミクムに対する既知の培養培地の例として、その培養培地はBMCG培地(Liebl et al., 1989, Appl. Microbiol. Biotechnol. 32: 205-210)またはRiedel ら (2001, J. Mol. Microbiol. Biotechnol. 3: 573-583)により記載されているものなどの培地と同一または類似の組成であり得る。
【0068】
本発明の特定の態様では、培養は、微生物を無機基質、特に、リン酸塩および/またはカリウムに関して制限するまたは飢餓状態とするような条件で行われる。
【0069】
生物が無機基質の制限を受けるとは、微生物の増殖が、なお弱い増殖を許容しつつ、供給された無機化学物質の量によって支配される条件を定義する。
【0070】
無機基質に関して微生物を飢餓状態にするとは、その無機基質が存在しないために微生物の増殖が完全に停止する条件を定義する。
【0071】
本発明はまた、所望により最終産物の一部または全量(0〜100%)に留まっている発酵液および/またはバイオマスのメチオニン、その前駆体または誘導体を単離する工程を含んでなる、メチオニンの生産方法に関する。
【0072】
発酵後、必要であればL−メチオニン、その前駆体またはそれに由来する化合物を回収および精製する。培養培地中のメチオニンおよびN−アセチル−メチオニンなどの生成化合物の回収および精製のための方法は当業者によく知られている。
【0073】
場合により0〜100%、好適には少なくとも90%、より好適には95%、いっそうより好適には少なくとも99%のバイオマスが発酵産物の精製中に得られる。
【0074】
場合により、メチオニン誘導体N−アセチル−メチオニンを、メチオニンが回収される前に、脱アシル化によってメチオニンに変換させる。
【0075】
本発明はまた、
・Metj遺伝子の欠失、
・メチオニンに対するフィードバック感受性が低減された対立遺伝子MetAの発現、および
・上記のような改変の少なくとも1つ
を含んでなる改変微生物に関する。
【0076】
本発明はまた、以下の実施例に記載されているものなどの改変微生物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】ピルビン酸、トレオニン、イソロイシンおよびメチオニンを含む代謝経路を示す。
【実施例】
【0078】
実施例I:MG1655 metA11 Ptrc−metH PtrcF−cysPUWAM PtrcF−cysJIH Ptrc09−gcvTHP Ptrc36−ARNmst17−metF ΔmetJ ΔpykF ΔpykA(pME101−thrA1−cysE−PgapA−metA11)株の構築
メチオニン生産株は特許出願WO2007/077041およびWO2009/043372(引用することにより本願の一部とされる)に記載されている。
【0079】
1.MG1655 metA11 Ptrc−metH PtrcF−cysPUWAM PtrcF−cysJIH Ptrc09−gcvTHP Ptrc36−ARNmst17−metF ΔmetJ ΔpykF ΔpykA(pME101−thrA1−cysE−PgapA−metA11)株の構築
特許出願WO2007/077041およびPCT/FR2009/052520に記載されているプラスミドpME101−thrA1−cysE−PgapA−metA11を、エレクトロポレーションによって組換え株MG1655 metA11 Ptrc−metH PtrcF−cysPUWAM PtrcF−cysJIH Ptrc09−gcvTUP Ptrc36−ARNmst17−metF ΔmetJ ΔpykF ΔpykAに導入し、MG1655 metA11 Ptrc−metH PtrcF−cysPUWAM PtrcF−cysRU Ptrc09−gcvTUP Ptrc36−ARNmst17−metF ΔmetJ ΔpykF ΔpykA(pME101−thrA1−cysE−PgapA−metA11)を得た。
【0080】
実施例II:MG1655 metA11 Ptrc−metH PtrcF−cysPUWAM PtrcF−cysJIH Ptrc09−gcvTHP Ptrc36−ARNmst17−metF ΔmetJ ΔpykF ΔpykA ΔltaE Δtdh(pME101−thrA1−cysE−PgapA−metA11)株の構築
メチオニン生産株は特許出願WO2007077041およびWO2009/043372(引用することにより本願の一部とされる)に記載されている。
【0081】
1.MG1655 metA11 Ptrc−metH PtrcF−cysPUWAM PtrcF−cysJIH Ptrc09−gcvTHP Ptrc36−ARNmst17−metF ΔmetJ ΔpykF ΔpykA ΔltaE::Km株の構築
ltaE遺伝子を不活化するために、Datsenko & Wanner (2000)により記載されている相同組換え戦略を用いた。この戦略は、考慮する遺伝子の大部分を欠失させるとともに、カナマイシン耐性カセットを挿入することを可能とする。この目的で、DltaEFとDltaERの2つのオリゴヌクレオチドを用いた(ウェブサイトhttp://ecogen.org/に参照配列)。
【0082】
DltaEF(配列番号1)

この配列は以下の領域を有する。
・ltaE領域の908446〜908526の配列と相同な領域(小文字)
・カナマイシン耐性カセットの増幅に関する領域(大文字)(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L., 2000, PNAS, 97: 6640-6645に参照配列)
【0083】
DltaER(配列番号2)

この配列は以下の領域を有する。
・ltaE領域の907446〜907525の配列と相同な領域(小文字)
・カナマイシン耐性カセットの増幅に関する領域(大文字)
【0084】
オリゴヌクレオチドDltaEFおよびDltaERを用いて、プラスミドpKD4からカナマイシン耐性カセットをPCR増幅した。次に、得られたPCR産物をエレクトロポレーションによって、MG1655 metA11 Ptrc−metH PtrcF−cysPUWAM PtrcF−cysJIH Ptrc09−gcvTUP Ptrc36−ARNmst17−metF ΔmetJ ΔpykF ΔpykA(pKD46)株に導入した(ここで、発現されるRedリコンビナーゼ酵素が相同組換えを可能とする)。次に、このカナマイシン耐性形質転換体を選択し、耐性カセットの挿入を、以下に定義されるオリゴヌクレオチドltaEFおよびltaERを用いたPCR分析により確認する。保持した株をMG1655 metA11 Ptrc−metH PtrcF−cysPUWAM PtrcF−cysJIH Ptrc09−gcvTHP Ptrc36−ARNmst17−metF ΔmetJ ΔpykF ΔpykA ΔltaE::Kmと呼称した。
【0085】
ltaEF(配列番号3)

(ltaE領域の907234〜907254の配列と相同)
ltaER(配列番号4)

(ltaE領域の908603〜908623の配列と相同)
【0086】
2.MG1655 metA11 Ptrc−metH PtrcF−cysPUWAM PtrcF−cysJIH Ptrc09−gcvTHP Ptrc36−ARNmst17−metF ΔmetJ ΔpykF ΔpykA ΔltaE::Km Δtdh::Cm株の構築
tdh遺伝子を不活化するために、Datsenko & Wanner (2000)により記載されている相同組換え戦略を用いた。この戦略は、考慮する遺伝子の大部分を欠失させるとともに、クロラムフェニコール耐性カセットを挿入することを可能とする。この目的で、DtdhFとDtdhRの2つのオリゴヌクレオチドを用いた(ウェブサイトhttp://ecogen.org/に参照配列)。
【0087】
DtdhF(配列番号5)

この配列は以下の領域を有する。
・tdh領域の3789287〜3789366の配列と相同な領域(小文字)
・クロラムフェニコール耐性カセットの増幅に関する領域(大文字)(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L., 2000, PNAS, 97: 6640-6645に参照配列)
【0088】
DtdhR(配列番号6)

この配列は以下の領域を有する。
・tdh領域の3788348〜3788431の配列と相同な領域(小文字)
・クロラムフェニコール耐性カセットの増幅に関する領域(大文字)
【0089】
オリゴヌクレオチドDtdhFおよびDtdhRを用いて、プラスミドpKD3からクロラムフェニコール耐性カセットをPCR増幅した。次に、得られたPCR産物をエレクトロポレーションによって、MG1655 metA11 Ptrc−metH PtrcF−cysPOW AM PtrcF−cysJIH Ptrc09−gcvTUF Ftrc36−ARNmst17−metF ΔmetJ ΔpykF ΔpykA ΔltaE::Km(pKD46)株に導入した(ここで、発現されるRedリコンビナーゼ酵素が相同組換えを可能とする)。次に、クロラムフェニコール耐性形質転換体を選択し、耐性カセットの挿入を、以下に定義されるオリゴヌクレオチドtdhFおよびtdhRを用いたPCR分析により確認した。保持した株をMG1655 metA11 Ptrc−metH PtrcF−cysPUWAM PtrcF−cysJIH Ptrc09−gcvTHP Ptrc36−ARNmst17−metF ΔmetJ ΔpykF ΔpykA ΔltaE::Km Δtdh::Cmと呼称した。
【0090】
tdhF(配列番号7)

(tdh領域の3788210〜3788233の配列と相同)
tdhR(配列番号8)

(tdh領域の3790719〜3790738の配列と相同)
【0091】
3.MG1655 metA11 Ptrc−metH PtrcF−cysPUWAM PtrcF−cysJIH Ptrc09−gcvTHP Ptrc36−ARNmst17−metF ΔmetJ ΔpykF ΔpykA ΔltaE Δtdh株の構築
次に、カナマイシン耐性カセットおよびクロラムフェニコール耐性カセットを除去した。カナマイシンまたはクロラムフェニコール耐性カセットのFRT部位に作用するリコンビナーゼFLPを担持するpCP20プラスミドを、エレクトロポレーションによって組換え株MG1655 met A11 Ptrc−metF PtrcF−cysFUWAM PtrcF−cysJIH Ptrc09−gcvTHP Ptrc36−ARNmst17−metF ΔmetJ ΔpykF ΔpykA Δlta::Km Δtdh::Cmに導入した。42℃での一連の培養の後、カナマイシン耐性カセットおよびクロラムフェニコール耐性カセットが存在しないことを、従前に用いたものと同じオリゴヌクレオチドltaEF/ltaERおよびtdhF/tdhRを用いたPCR分析により確認した。保持した株をMG1655 metA11 Ptrc−metH PtrcF−cysPUWAM PtrcF−cysJIH Ptrc09−gcvTHP Ptrc36−ARNmst17−metF ΔmetJ ΔpykF ΔpykA ΔltaE Δtdhと呼称した。
【0092】
4.MG1655 metA11 Ptrc−metH PtrcF−cysPUWAM PtrcF−cysJIH Ptrc09−gcvTHP Ptrc36−ARNmst17−metF ΔmetJ ΔpykF ΔpykA ΔltaE Δtdh(pME101−thrA1−cysE−PgapA−metA11)株の構築
特許出願WO2007/077041およびPCT/FR2009/052520に記載されているプラスミドpME101−thrA1−cysE−PgapA−metA11を、エレクトロポレーションによって組換え株MG1655 metA11 Ptrc−metH PtrcF−cysPUWAM PtrcF−cysJIH Ptrc09−gcvTHP Ptrc36−ARNmst17−metF ΔmetJ ΔpykF ΔpykA ΔltaE Δtdhに導入し、MG1655 metA11 Ptrc−metH PtrcF−cysPUWAM PtrcF−cysJIH Ptrc09−gcvTUP Ptrc36−ARNmst17−metF ΔmetJ ΔpykF ΔpykA ΔltaE Δtdh(pME101−tArA1−cysE−PgapA−metA11)株を得た。
【0093】
実施例III:生産株の評価
生産株を小エルレンマイヤーフラスコで評価した。5.5mLの前培養物を混合培地(2.5g/Lグルコースおよび90%最小培地PC1を含む10%LB培地(Sigma25%))中、37℃で16時間増殖させた。これを用いて、培地PC1においてOD600が0.2となるよう50mL培養物に植菌を行った。スペクチノマイシンは終濃度50mg/Lで加えた。培養温度は37℃とした。培養物のOD600が5〜7に達した際に、細胞外アミノ酸を、OPA/Fmoc誘導体化後にHPLCにより定量し、他の関連の代謝産物は、屈折率測定検出を用いたHPLC(有機酸およびグルコース)およびシリル化後のGC−MSを用いて分析した。各株につき3反復を行った。
【0094】
株1 MG1655 met A11 Ptrc−metH PtrcF−cysPUWAM PtrcF−cysJIH Ptrc09−gcvTHP Ptrc36−ARNmst17−metF ΔmetJ ΔpykF ΔpykA(pME101−thrA1−cysE−PgapA−metA11)
株2 MG1655 metA11 Ptrc−metH PtrcF−cysPUWAM PtrcF−cysJIH Ptrc09−gcvTHP Ptrc36−ARNmst17−metF ΔmetJ ΔpykF ΔpykA ΔltaE Δtdh(pME101−thrA1−cysE−PgapA−metA11)
【0095】
表1:最小培地の組成(PC1)
【表1】

【0096】
表2:種々の株により回分培養で生産されたメチオニン収率(Ymet)(メチオニンg/グルコースgの%)。メチオニン/グルコース収率の正確な定義については下記を参照。SDは、3回の反復に基づいて計算された収率の標準偏差を示す。
【表2】

細胞外メチオニン濃度は、OPA/FMOC誘導体化後にHPLCにより定量した。残留グルコース濃度は屈折率測定検出を用いたHPLCを用いて分析した。メチオニン収率は次のように表した。
【数1】

表1から分かるように、遺伝子tdhおよびltaEの欠失の際には、メチオニン/グルコース収率(Ymet)が増大する。
【0097】
実施例IV:下記実施例VおよびVIで試験されるメチオニン生産株3〜12の構築
1.プロトコール
いくつかのプロトコールを用いてメチオニン生産株を構築したが、それらを下記実施例に記載する。
【0098】
プロトコール1:相同組換えおよび組換え体の選択による染色体改変(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L. (2000))。
特定の染色体座における対立遺伝子置換または遺伝子破壊を、Datsenko. & Wanner (2000)により記載されているような相同組換えによって行った。Flp認識部位が隣接するクロラムフェニコール(Cm)耐性cat遺伝子、カナマイシン(Km)耐性kan遺伝子、またはゲンタマイシン(Gt)耐性gm遺伝子を、それぞれ鋳型としてpKD3またはpKD4またはp34S−Gm(Dennis et Zyltra, AEM july 1998, p 2710-2715)プラスミドを用いたPCRにより増幅した。得られたPCR産物を用いて、λ Red(γ、β、exo)リコンビナーゼを発現するプラスミドpKD46を担持するレシピエント大腸菌株を形質転換した。抗生物質耐性変換体を選択し、突然変異を有する遺伝子座の染色体構造を表4に挙げられている適当なプライマーを用いたPCR分析によって確認した。
【0099】
pCP20プラスミドを担持するクローンを37℃にてLB上で培養した後、30℃で抗生物質耐性の欠損を調べたこと以外は、Datsenko. & Wanner (2000)により記載されている通りにプラスミドpCP20を用いてkan耐性遺伝子を除去した。次に、抗生物質感受性クローンを表4に挙げられているプライマーを用いたPCRによって確認した。
【0100】
プロトコール2:P1ファージ形質導入
染色体改変をP1形質導入により、所与の大腸菌レシピエント株に移入した。このプロトコールは、(i)耐性遺伝子関連の染色体改変を含むドナー株に対するファージ溶解液の調製と、(ii)得られたファージ溶解液によるレシピエント株の感染、の2工程から構成される。
【0101】
ファージ溶解液の調製
・10mlのLB+Km50μg/mlまたは+グルコース0.2%+CaCl 5mM中、目的の染色体改変を有するMG1655株の一晩培養物100μlを植菌する。
・振盪しながら37℃で30分間インキュベートする。
・ドナーMG1655株で調製されたP1ファージ溶解液100μl(約1×10ファージ/mL)を添加する。
・37℃で3時間、細胞が完全に溶解するまで振盪する。
・200μlのクロロホルムを加え、ボルテックスにかける。
・4500gで10分間遠心分離して細胞残渣を除去する。
・上清を滅菌試験管に移す。
・溶解液を4℃で保存する。
【0102】
形質導入
・LB培地中で培養した大腸菌レシピエント株の一晩培養物5mlを1500gで10分間遠心分離する。
・2.5mlのMgSO 10mM、CaCl 5mMに細胞ペレットを懸濁させる。
・100μlの細胞に、染色体改変株MG1655のP1ファージ100μl(試験管)および対照試験管としてP1ファージを含まない100μl細胞および細胞を含まない100μlのP1ファージを感染させる。
・振盪せずに30℃で30分間インキュベートする。
・各試験管に100μlの1Mクエン酸ナトリウムを加え、ボルテックスにかける。
・1mlのLBを加える。
・振盪しながら37℃で1時間インキュベートする。
・7000rpmで3分間遠心分離する。
・LB+Km 50μg/mlに播種する。
・37℃で一晩インキュベートする。
【0103】
その後、抗生物質耐性形質導入体を選択し、突然変異遺伝子座の染色体構造を、表4に挙げられている適当なプライマーを用いたPCR分析によって確認した。
【0104】
以下実施例で、表3に挙げられている全ての株の構築について説明する。
【0105】
表3:以下の実施例に見られる中間株および生産株の遺伝子型および対応番号の一覧
【表3】


【0106】
2.株3の説明
メチオニン生産株3の遺伝子改変(表3)は特許出願EP10306164.4およびUS61/406249(引用することにより本願の一部とされる)に記載されている。株3のDNA配列決定を行った後、予期しないことにsdaA遺伝子にミスセンス突然変異が特定された。この突然変異は構造遺伝子の158番に存在し(T158G)、対応するタンパク質にロイシン53からアルギニンへのアミノ酸変化を生じる。この対立遺伝子をsdaA1と呼称した。
【0107】
3.改変型sdaA遺伝子を有する株の構築−セリン分解経路の改変
3.1.sdaA(T158G)を含む株5の構築
株3においてyobD遺伝子を欠失させるために、プライマーOme1983−DyobD−amplif−F(配列番号09)およびOme1986−DyobD−amplif−R(配列番号10)(表4)を用いて、BW25113 ΔyobD::Km株(Keio collection Baba. et al., Mol Syst Biol, 2, 2006-0)からΔyobD::Km欠失を増幅したこと以外はプロトコール1を用いた。
【0108】
カナマイシン耐性組換え体を選択した。耐性カセットの挿入は、プライマーOme1987−DyobD−verif−F(配列番号11)およびOme1988−DyobD−verif−R(配列番号12)(表4)を用いたPCRにより、また、DNA配列決定により確認した。sdaA遺伝子のsdaA1対立遺伝子もDNA配列決定により確認した。プラスミドpKD46を除去した後、得られた株MG1655 metA11 Ptrc−metH PtrcF−cysPUWAM PtrcF−cysJIH Ptrc09−gcvTHP Ptrc36−ARNmst17−metF Ptrc07−serB ΔmetJ ΔpykF ΔpykA ΔpurU ΔyncA ΔmalS::TTadc−CI857−PλR(−35)−thrA1−cysE ΔpgaABCD::TT02−TTadc−PλR(−35)−RBS01−thrA1−cysE−PgapA−metA11 ΔuxaCA::TT07−TTadc−PλR(−35)−RBS01−thrA1−cysE−PgapA−metA11 ΔCP4−6::TT02−TTadc−PλR(−35)−RBS01−thrA1−cysE−PgapA−metA11 ΔwcaM::TT02−TTadc−PλR(−35)−RBS01−thrA1−cysE−PgapA−metA11 ΔtreBC::TT02−serA−serC sdaA1 ΔyobD::Kmを株4と呼称した(表3)。
【0109】
次に、特許出願EP10306164.4およびUS61/406249に記載されているpCL1920−PgapA−pycRe−TT07を、エレクトロポレーションによって株4(表3)に導入した。プラスミドpCL1920−PgapA−pycre−TT07の存在を確認し、得られた株MG1655 metA11 Ptrc−metH PtrcF−cysPUWAM PtrcF−cysJIH Ptrc09−gcvTHP Ptrc36−ARNmst17−metF Ptrc07−serB ΔmetJ ΔpykF ΔpykA ΔpurU ΔyncA ΔmalS::TTadc−CI857−PλR(−35)−thrA1−cysE ΔpgaABCD::TT02−TTadc−PλR(−35)−RBS01−thrA1−cysE−PgapA−metA11 ΔuxaCA::TT07−TTadc−PλR(−35)−RBS01−thrA1−cysE−PgapA−metA11 ΔCP4−6::TT02−TTadc−PλR(−35)−RBS01−thrA1−cysE−PgapA−met A11 ΔwcaM::TT02−TTadc−PλR(−35)−RBS01−thrA1−cysE−PgapA−metA11 ΔtreBC::TT02−serA−serC sdaA1 AyobD::Km pCL1920−PgapA−pycre−TT07を株5と呼称した(表3)。
【0110】
3.2.再構成sdaAwt対立遺伝子(sdaArc)を含む株7の構築
遺伝子sdaAおよびyobDは、大腸菌染色体上で近接しており(それぞれ40.84minと41.01min)、ファージP1は2minの大腸菌染色体をパッケージングできるので、これらの遺伝子sdaAとyobDは同時に形質導入可能である。これにより、sdaA野生型対立遺伝子とAyobD::Km欠失は、プロトコール2に従い、BW25113 sdaA AyobD::Km株(Keio collection Baba. et al., Mol Syst Biol, 2, 2006-0)から、P1ファージ溶解液を用いて株3(表3)へ同時に形質導入した。
【0111】
カナマイシン耐性形質導入体を選択した。ΔyobD::Km欠失の存在は、プライマーOme1987−DyobD−verif−F(配列番号11)およびOme1988−DyobD−verif−R(配列番号12)(表4)を用いたPCRとその後のDNA配列決定により確認した。sdaA野生型対立遺伝子とdaA1対立遺伝子の交換はDNA配列決定により確認し、sdaArc(rcは再構成を表す)と呼称した。得られた株MG1655 metA11 Ptrc−metH PtrcF−cysPUWAM PtrcF−cysJIH Ptrc09−gcvTHP Ptrc36−ARNmst17−metF Ptrc07−serB ΔmetJ ΔpykF ΔpykA ΔpurU ΔyncA ΔmalS::TTadc−CI857−PλR(−35)−thrA1−cysE ΔpgaABCD::TT02−TTadc−PλR(−35)−RBS01−thrA1−cysE−PgapA−metA11 ΔuxaCA::TT07−TTadc−PλR(−35)−RBS01−thrA1−cysE−PgapA−metA11 ΔCP4−6::TT02−TTadc−PλR(−35)−RBS01−thrA1−cysE−PgapA−metA11 ΔwcaM::TT02−TTadc−PλR(−35)−RBS01−thrA1−cysE−PgapA−metA11 ΔtreBC::TT02−serA−serC sdaArc ΔyobD::Kmを株6と呼称した(表3)。
【0112】
次に、特許出願EP10306164.4およびUS61/406249に記載されているプラスミドpCL1920−PgapA−pycre−TT07を、エレクトロポレーションによって株6(表3)に導入した。プラスミドpCL1920−PgapA−pycre−TT07の存在を確認し、得られた株MG1655 metA11 Ptrc−metH PtrcF−cysPUWAM PtrcF−cysJIH Ptrc09−gcvTHP Ptrc36−ARNmst17−metF Ptrc07−serB ΔmetJ ΔpykF ΔpykA ΔpurU ΔyncA ΔmalS::TTadc−CI857−PλR(−35)−thrA1−cysE ΔpgaABCD::TT02−TTadc−PλR(−35)−RBS01−thrA1−cysE−PgapA−metA11 ΔuxaCA::TT07−TTadc−PλR(−35)−RBS01−thrA1−cysE−PgapA−metA11 ΔCP4−6::TT02−TTadc−PλR(−35)−RBS01−thrA1−cysE−PgapA−metA11 ΔwcaM::TT02−TTadc−PλR(−35)−RBS01−thrA1−cysE−PgapA−metA11 ΔtreBC::TT02−serA−serC sdaArc ΔyobD::Km pCL1920−PgapA−pycre−TT07を株7と呼称した(表3)。
【0113】
4.タンパク質GlyAまたはGlyA(R235K)過剰生産株の構築−トレオニン/グリシン経路の改変
4.1.glyA遺伝子の欠失による株8の構築
株3においてglyA遺伝子を欠失させるために、プライマーOme0641−DglyA R(配列番号13)とOme0642−DglyA F(配列番号14)(下記参照)を用いてプラスミドpKD4からカナマイシン耐性カセットを増幅したこと以外はプロトコール1を用いた。カナマイシン耐性組換え体を選択した。この耐性カセットの挿入は、プライマーOme0643−glyA R(配列番号15)とOme0644−glyA F(配列番号16)(表4)を用いたPCR、またDNA配列決定により確認した。得られた株をMG1655 metA11 ΔglyA::Km pKD46と呼称した。
【0114】
Ome0641−DglyA R(配列番号13)

この配列は以下の領域を有する。
・glyA遺伝子の上流配列(2683451〜2683529、ウェブサイトhttp://ecogene.org/に参照配列)と相同な大文字の配列
・プラスミドpKD4(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L., 2000, PNAS, 97: 6640-6645)のプライマー部位2に相当する下線大文字の配列
【0115】
Ome0642−DglyA F(配列番号14)

この配列は以下の領域を有する。
・glyA遺伝子の上流配列(2682298〜2682376、ウェブサイトhttp://ecogene.org/に参照配列)と相同な大文字の配列
・プラスミドpKD4(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L., 2000, PNAS, 97: 6640-6645)のプライマー部位1に相当する下線大文字の配列
【0116】
次に、プロトコール2に従い、上記のMG1655 metA11 ΔglyA::Km pKD46株からP1ファージ溶解液を用いて、ΔglyA::Km欠失を株3(表3)に形質導入した。
【0117】
カナマイシン耐性形質導入体を選択した。ΔglyA::Km欠失の存在は、プライマーOme0643−glyA R(配列番号15)とOme0644−glyA F(配列番号16)(表4)を用いたPCRにより確認した。得られた株MG1655 metA11 Ptrc−metH PtrcF−cysPUWAM PtrcF−cysJIH Ptrc09−gcvTHP Ptrc36−ARNmst17−metF Ptrc07−serB ΔmetJ ΔpykF ΔpykA ΔpurU ΔyncA ΔmalS::TTadc−CI857−PλR(−35)−thrA1−cysE ΔpgaABCD::TT02−TTadc−PλR(−35)−RBS01−thrA1−cysE−PgapA−metA11 ΔuxaCA::TT07−TTadc−PλR(−35)−RBS01−thrA1−cysE−PgapA−metA11 ΔCP4−6::TT02−TTadc−PλR(−35)−RBS01−thrA1−cysE−PgapA−metA11 ΔwcaM::TT02−TTadc−PλR(−35)−RBS01−thrA1−cysE−PgapA−metA11 DtreBC::TT02−serA−serC sdaA1 ΔglyA::Kmを株8と呼称した(表3)。
【0118】
4.2.glyAを発現する株9の構築
大腸菌のセリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ遺伝子を過剰発現させるために、プラスミドpCC1B AC(EpiCentre)およびpSCB(Stratagene)に由来するプラスミドpCC1BAC−PglyA−glyA−TTglyAを構築した。
【0119】
プラスミドpCC1BAC−PglyA−glyA−TTglyAを構築するために、PglyA−glyA−TTglyA挿入配列を、鋳型としてMG1655ゲノムDNAを用い、プライマーOme1162−glyAR−EcoRI−HindIII(配列番号17)とOme1165−PglyAF−HindIII(配列番号18)を用いたPCRにより増幅し、プラスミドpSCB(Stratagene)にクローニングした。得られたベクターを配列決定により確認し、pSCB−PglyA−glyA−TTglyAと呼称した。
【0120】
次に、プラスミドpSCB−PglyA−glyA−TTglyAをHindIIIで消化し、得られた断片HindIII−PglyA−glyA−TTglyA−HindIIIを、プラスミドpCC1BACのHindIII部位間にクローニングした。選択されたプラスミドは、プラスミドpCC1BAClacZプロモーターとは逆配向にPglyA−glyA−TTglyA挿入配列を持っており、これをDNA配列決定により確認し、pCC1BAC−PglyA−glyA−TTglyAと呼称した。
【0121】
Ome1162−glyAR−EcoRI−HindIII(配列番号17)

この配列は以下の領域を有する。
・HindIII制限部位およびEcoRI制限部位ならびに余分な塩基に関する下線大文字の配列
・glyAプロモーター配列(2682063〜2682085、ウェブサイトhttp://ecogene.org/に参照配列)と相同な太字大文字の配列
【0122】
Ome1165−PglyAF−HindIII(配列番号18)

この配列は以下の領域を有する。
・BamHI制限部位およびHindIII制限部位ならびに余分な塩基に関する下線大文字の配列
・glyA遺伝子の転写ターミネーター(2683744〜2683762、ウェブサイトhttp://ecogene.org/に参照配列)と相同な太字大文字の配列
【0123】
次に、上記のpCC1BAC−PglyA−glyA−TTglyAを、エレクトロポレーションによって株8(表3)の導入した。プラスミドpCC1BAC−PglyA−glyA−TTglyAの存在を確認し、得られた株MG1655 metA11 Ptrc−metH PtrcF−cysPUWAM PtrcF−cysJIH Ptrc09−gcvTHP Ptrc36−ARNmst17−metF Ptrc07−serB ΔmetJ ΔpykF ΔpykA ΔpurU ΔyncA ΔmalS::TTadc−CI857−PλR(−35)−thrA1−cysE ΔpgaABCD::TT02−TTadc−PλR(−35)−RBS01−thrA1−cysE−PgapA−metA11 ΔuxaCA::TT07−TTadc−PλR(−35)−RBS01−thrA1−cysE−PgapA−metA11 ΔCP4−6::TT02−TTadc−PλR(−35)−RBS01−thrA1−cysE−PgapA−metA11 ΔwcaM::TT02−TTadc−PλR(−35)−RBS01−thrA1−cysE−PgapA−metA11 DtreBC::TT02−serA−serC sdaA1 ΔglyA::Km pCC1BAC−PglyA−glyA−TTglyAを株9と呼称した(表3)。
【0124】
4.3.glyAを発現する株10の構築
pSCB−PglyA−glyA(R235K)−TTglyAの構築
プラスミドpCC1BAC−PglyA−glyA(R235K)−TTglyAを構築するために、プライマーOme1483−glyA R R235K(配列番号19)とOme1482−glyA F R235K(配列番号20)を用いてプラスミドpSCB−PglyA−glyA−TTglyAを構築した。親DNA鋳型を除去するためにこのPCR産物をDpnIで消化した。得られた接着性のオーバーハングをリン酸化し、大腸菌株に導入し、プラスミドpSCB−PglyA−glyA(R235K)−TTglyAを形成した。このPglyA−glyA(R235K)−TTglyA挿入配列、特に、glyA遺伝子におけるR235K(703−AAA−705)突然変異の存在をDNA配列決定により確認した。
【0125】
Ome1483 glyA R R235K(配列番号19)

この配列は以下の領域を有する。
・glyA遺伝子(2682802〜2682850、ウェブサイトhttp://ecogene.org/に参照配列)と相同な大文字の配列
・挿入されたコドン突然変異CGC−708−TTT(R235K)に相当する太字大文字
・StuI制限部位を出現させるサイレント点突然変異(G704T)に相当する下線大文字
【0126】
Ome1482 glyA F R235K(配列番号20)

この配列は以下の領域を有する。
・glyA遺伝子(2682802〜2682850、ウェブサイトhttp://ecogene.org/に参照配列)と相同な大文字の配列
・挿入されたコドン突然変異CGC−708−TTT(R235K)に相当する太字大文字
・StuI制限部位を出現させるサイレント点突然変異(G704T)に相当する下線大文字
【0127】
pCC1BAC−PglyA−glyA(R235K)−TTglyAの構築
pCC1BAC−PglyA−glyA(R235K)−TTglyAを構築するために、下記のpSCB−PglyA−glyA(R235K)−TTglyAからHindIII断片PglyA−glyA(R235K)−TTglyAを精製し、プラスミドpCC1BACのHindIII部位間にクローニングした。選択されたプラスミドは、プラスミドpCC1BACのlacZプロモーター配向とは逆配向にPglyA−glyA(R235K)−TTglyA挿入配列を持っており、これをDNA配列決定により確認し、pCC1BAC−PglyA−glyA(R235K)−TTglyAと呼称した。
【0128】
次に、上記のpCC1BAC−PglyA−glyA(R235K)−TTglyAを、エレクトロポレーションによって株8(表3)に導入した。プラスミドpCC1BAC−PglyA−glyA(R235K)−TTglyAの存在を確認し、得られた株MG1655 metA11 Ptrc−metH PtrcF−cysPUWAM PtrcF−cysJIH Ptrc09−gcvTHP Ptrc36−ARNmst17−metF Ptrc07−serB ΔmetJ ΔpykF ΔpykA ΔpurU ΔyncA ΔmalS::TTadc−CI857−PλR(−35)−thrA1−cysE ΔpgaABCD::TT02−TTadc−PλR(−35)−RBS01−thrA1−cysE−PgapA−metA11 ΔuxaCA::TT07−TTadc−PλR(−35)−RBS01−thrA1−cysE−PgapA−metA11 ΔCP4−6::TT02−TTadc−PλR(−35)−RBS01−thrA1−cysE−PgapA−metA11 ΔwcaM::TT02−TTadc−PλR(−35)−RBS01−thrA1−cysE−PgapA−metA11 DtreBC::TT02−serA−serC sdaA1 ΔglyA::Km pCC1BAC−PglyA−glyA(R235K)−TTglyAを株10と呼称した(表3)。
【0129】
4.4.glyAを過剰発現する株11の構築
pCL1920−PglyA−glyA−TTglyAの構築
プラスミドpCL1920−PglyA−glyA−TTglyAは、プラスミドpCL1920(Lerner & Inouye, 1990, NAR 18, 15 p 4631)および上記のpCC1BAC−P glyA−glyA−TTglyAに由来するものである。
【0130】
pCL1920−PglyA−glyA−TTglyAを構築するために、pCC1BAC−PglyA−glyA−TTglyAから精製したHindIII断片PglyA−glyA−TTglyAを、プラスミドpCL1920のHindIII部位間にクローニングした。選択されたプラスミドは、プラスミドpCL1920のlacZプロモーター配向とは逆配向にPglyA−glyA−TTglyA挿入配列を持っており、これをDNA配列決定により確認し、pCL1920−PglyA−glyA−TTglyAと呼称した。
【0131】
次に、上記のpCL1920−PglyA−glyA−TTglyAを、エレクトロポレーションによって株8(表3)に導入した。プラスミドpCL1920−PglyA−glyA−TTglyAの存在を確認し、得られた株MG1655 metA11 Ptrc−metH PtrcF−cysPUWAM PtrcF−cysJIH Ptrc09−gcvTHP Ptrc36−ARNmst17−metF Ptrc07−serB ΔmetJ ΔpykF ΔpykA ΔpurU ΔyncA ΔmalS::TTadc−CI857−PλR(−35)−thrA1−cysE ΔpgaABCD::TT02−TTadc−PλR(−35)−RBS01−thrA1−cysE−PgapA−metA11 ΔuxaCA::TT07−TTadc−PλR(−35)−RBS01−thrA1−cysE−PgapA−metA11 ΔCP4−6::TT02−TTadc−PλR(−35)−RBS01−thrA1−cysE−PgapA−metA11 ΔwcaM::TT02−TTadc−PλR(−35)−RBS01−thrA1−cysE−PgapA−metA11 DtreBC::TT02−serA−serC sdaA1 ΔglyA::Km pCL1920−P glyA−glyA−TTglyAを株11と呼称した(表3)。
【0132】
4.5. glyAを過剰発現する株12の構築
pCL1920−PglyA−glyA(R235K)−TTglyAの構築
プラスミドpCL1920−PglyA−glyA(R235K)−TTglyAは、プラスミドpCL1920(Lerner & Inouye, 1990, NAR 18, 15 p 4631)および上記のpCC1BAC−PglyA−glyA(R235K)−TTglyAに由来するものである。
【0133】
pCL1920−PglyA−glyA(R235K)−TTglyAを構築するために、pCC1BAC−PglyA−glyA(R235K)−TTglyAから精製したHindIII断片PglyA−glyA(R235K)−TTglyAを、プラスミドpCL1920のHindIII部位間にクローニングした。選択されたプラスミドは、pCL1920プラスミドのlacZプロモーター配向とは逆配向にPglyA−glyA(R235K)−TTglyA挿入配列を持っており、これをDNA配列決定により確認し、pCL1920−PglyA−glyA(R235K)−TTglyAと呼称した。
【0134】
次に、このpCLl920−PglyA−glyA(R235K)−TTglyAを、エレクトロポレーションによって株8(表3)に導入した。プラスミドpCC1BAC−PglyA−glyA(R235K)−TTglyAの存在を確認し、得られた株MG1655 metA11 Ptrc−metH PtrcF−cysPUWAM PtrcF−cysJIH Ptrc09−gcvTHP Ptrc36−ARNmst17−metF Ptrc07−serB ΔmetJ ΔpykF ΔpykA ΔpurU ΔyncA ΔmalS::TTadc−CI857−PλR(−35)−thrA1−cysE ΔpgaABCD::TT02−TTadc−PλR(−35)−RBS01−thrA1−cysE−PgapA−metA11 ΔuxaCA::TT07−TTadc−PλR(−35)−RBS01−thrA1−cysE−PgapA−metA11 ΔCP4−6::TT02−TTadc−PλR(−35)−RBS01−thrA1−cysE−PgapA−metA11 ΔwcaM::TT02−TTadc−PλR(−35)−RBS01−thrA1−cysE−PgapA−metA11 DtreBC::TT02−serA−serC sdaA1 ΔglyA::Km pCLl920−PglyA−glyA(R235K)−TTglyAを株12と呼称した(表3)。
【0135】
表4:上記の染色体改変のPCR確認に用いたプライマー
【表4】

【0136】
実施例V:メチオニン生産に対するGLYA突然変異タンパク質のトレオニンアルドラーゼ活性の減弱の効果
1.glyAまたはglyA対立遺伝子のいずれかを有する生産株の評価
生産株を小エルレンマイヤーフラスコで評価した。5.5mLの前培養物を混合培地(2.5g/Lグルコースおよび90%最小培地PC1を含む10%LB培地(Sigma25%))中、30℃で21時間増殖させた。これを用いて、培地PC1(表5の組成)においてOD600が0.2となるよう50mL培養物に植菌を行った。必要であれば、カナマイシンおよびスペクチノマイシンを50mg/L濃度で加え、クロラムフェニコールを30mg/L濃度で加えた。培養温度は37℃とした。培養物のOD600が5〜7に達した際に、細胞外アミノ酸を、OPA/Fmoc誘導体化後にHPLCにより定量し、他の関連の代謝産物は、屈折率測定検出を用いたHPLC(有機酸およびグルコース)およびシリル化後のGC−MSを用いて分析した。
【0137】
表5:最小培地組成(PC1)
【表5】

【0138】
表6:上記の条件で増殖させた種々の株により回分培養で生産されたメチオニン収率(Ymet)(メチオニンg/グルコースgの%)。メチオニン/グルコース収率の正確な定義については下記を参照。SDは、数回の反復に基づいて計算された収率の標準偏差を示す(N=反復回数)。
【表6】

【0139】
セリンからグリシンへの変換を触媒することに加え、GlyA酵素はまたL−トレオニンを切断することもできる。このことは本発明者らによりglyA欠失を有する株を用いて証明された。この株は検出可能なセリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(SHMT)およびトレオニンアルドラーゼ(TAL)活性を、もはや持っていなかった(データは示されていない)。
【0140】
表6から分かるように、メチオニン/グルコース収率(Ymet)は、glyAwtに比べてglyA対立遺伝子の発現(株10)または過剰発現(株12)時に増大する(glyAwtの発現および過剰発現はそれぞれ株9および11)。
【0141】
GlyAのセリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(SHMT)に影響を与えずにトレオニンアルドラーゼ活性を減弱することがメチオニンの生産に有益である(下記表7の活性を参照)。
【0142】
細胞外メチオニン濃度を、OPA/FMOC誘導体化後、HPLCにより定量した。残留グルコース濃度は、屈折率測定検出によるHPLCを用いて分析した。メチオニン収率は次のように表した。
【数2】

【0143】
2.glyA wtまたはglyA対立遺伝子のいずれかを過剰発現する株のSHMTおよびTAL活性の測定
セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(SHMT)、トレオニンアルドラーゼ(TAL)およびアロトレオニンアルドラーゼ(aTAL)活性のin vitro測定については、大腸菌株を上記のような最小培地で培養し、対数増殖期の終了時に遠心分離によりバイオマスを回収した。ペレットをEDTAとともにプロテアーゼ阻害剤カクテルを含有する冷20mMリン酸カリウムバッファーpH7.2に再懸濁させた。その後、細胞をPreCellys(Bertin Technologies;2×10秒6500rpm)でビーズビーティングを行うことで溶解させた後、4℃にて30分12000gで遠心分離を行った。上清を脱塩し、酵素分析に用いた。タンパク質濃度はBradfordアッセイ試薬(Bradford, 1976)を用いて測定した。
【0144】
SHMT活性は、式(1)および(2)に記載されているようにメチレンテトラヒドロ葉酸デヒドロゲナーゼ(MTHFD)結合酵素アッセイを用いて37℃にて分光光度測定によりモニタリングした。このアッセイでは、SHMT酵素反応により生産された5,10−メチレン−THFの酸化によって生じた5,10−メテニル−THFの形成を350nmでモニタリングした。
(1)L−セリン+THF+2H←→グリシン+5,10−メチレン−THF(SHMT反応)
(2)5,10−メチレン−THF+NADP←→5,10−メテニル−THF+NADPH(MTHFD反応)
【0145】
SHMT活性の測定については、2μgの粗細胞抽出物を50mM Bicine−KOHバッファーpH8.6、10mM L−セリン、0.4mM THF、10mM 2−メルカプトエタノールおよび1.5mM NADP中でアッセイした。37℃で10分間インキュベートした後、粗細胞抽出物を添加することによって反応を開始し、大腸菌からMTHFD酵素を精製した。その後、この反応混合物を37℃で10分間インキュベートし、2%(v/v)過塩素酸を加えることにより反応を停止させた。過塩素酸を添加すると、反応(2)で生じる還元型ピリジンヌクレオチドが破壊される。室温で10分後、350nmにて吸光度を読み取った。実験ごとにL−セリンを含まない対照を実施し、分光光度測定のブランクとして用いた。
【0146】
グリシンとアセトアルデヒドを生じるTAL活性は、4−ヒドラジノ−7−ニトロベンゾフラザン(NBDH)検出系を用いて37℃で蛍光測定によりアッセイした。アセトアルデヒドの形成率は、生成したアセトアルデヒドをNBDHで誘導体化して530nmでの蛍光ヒドラゾン誘導体を生じさせることによって測定した。200〜250μgの粗細胞抽出物を20mM HEPES−HClバッファーpH8.0、0.01mMリン酸ピリドキサールおよび10mM L−トレオニン中でアッセイした。粗細胞抽出物を添加することによって反応を開始させた。37℃で10分および40分のインキュベーションの後、2.5%(v/v)TCAを添加することによって反応を停止させた。室温にて10000gで5分遠心分離を行った後、0.33M酢酸ナトリウムpH5.2中0.001%(w/v)のNBDHを上清に加え、生成した蛍光ヒドラゾンを、室温で10分インキュベートした後にFLx800蛍光マイクロプレートリーダー(λ励起=485nm;λ発光=530nm,Biotek)を用いて定量した。実験ごとにL−トレオニンを含まない対照を実施し、蛍光測定のブランクとして用いた。
【0147】
表7:種々の株に関してセリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(SHMT)活性およびトレオニンアルドラーゼ(TAL)活性を測定し、mUI/タンパク質mgで示す。標準偏差は数回の独立した培養に基づいて算出した(N=反復回数)。
【表7】

【0148】
表7から分かるように、株10および12のTAL活性(glyAを含む)はそれぞれ、対照株3、9および株11(glyAwtを含む)の約2分の1および6分の1であった。さらに、GlyA酵素に導入されたR235K突然変異(GlyAとなる)は、野生型酵素に比べてそのSHMT活性に劇的に影響を及ぼさずにTAL活性を低下させた。GlyAの主要なセリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(SHMT)活性に影響を与えずにトレオニンアルドラーゼ活性を減弱することがメチオニンの生産に有益である(前記表6のメチオニン収率を参照)。
【0149】
これは株10および12において、株3および11よりもセリンからグリシンへの炭素フラックスを高めることができ、メチオニン生産結果と良好な一致が見られる(表6).
【0150】
実施例VI:メチオニン生産に対するセリンデアミナーゼ活性(SDA)の減弱の効果
1.sdaArc(株7)またはsdaA(株5)のいずれかを有する生産株の評価
流加法を用いた2.5L発酵槽(Pierre Guerin)での生産条件下で株を試験した。カナマイシンおよびスペクチノマイシン(spectinopycin)を各培地に50mg/Lの濃度で加えた。簡単に述べれば、2.5g/Lグルコースを含む10mLのLB培地で増殖させた24時間培養物を用いて、最小培地(B1a)中24時間前培養物に植菌した。これらのインキュベーションは、ロータリーシェーカー(200RPM)にて、50mLの最小培地(B1a)の入った500mLバッフル付きフラスコ中で行った。初回の前培養物を30℃で増殖させ、2回目の前培養物を34℃で増殖させた。
【0151】
第三の前培養工程は、バイオマス濃度1.2g/Lとなるように5mLの濃縮前培養物を植菌した200mLの最小培地(B1b)を充填したバイオリアクター(Sixfors)にて行った。前培養温度は34℃で一定に維持し、pHは10%NHOH溶液を用いて6.8の値に自動調整した。溶存酸素濃度は、空気供給および/または攪拌を用いて空気分圧飽和度が30%の値になるように絶えず調整した。回分培養培地からグルコースが消費された後、初期流速0.7mL/時で流加を開始し、最終細胞濃度を約18g/Lとするために、24時間、0.13/時の増加率で指数関数的に上昇させた。
【0152】
表8:回分前培養用無機培地組成(B1aおよびB1b)
【表8】

【0153】
表9:流加前培養用無機培地組成(F1)
【表9】

【0154】
表10:回分培養用無機培地組成(B2)
【表10】

【0155】
表11:流加培養用培地組成(F2)
【表11】

【0156】
次に、2.5Lの発酵槽(Pierre Guerin)に600mLの最小培地(B2)を充填し、バイオマス濃度2.1g/Lとなるように55〜70mLの範囲の容量の前培養物を植菌した。
【0157】
培養温度を37℃に維持し、pHはNHOH溶液(9時間10%、培養収量まで28%のNHOH)を自動的に添加することで実施値(6.8)に維持した。回分段階では初期攪拌速度を200RPMに設定し、流加段階で1000RPMに引き上げた。回分段階では初期空気流量を40NL/時に設定し、流加段階の最初に100NL/時に引き上げた。溶存酸素濃度は攪拌を高めることによって、20〜40%の間、好適には30%飽和の値に維持した。
【0158】
細胞塊が5g/Lの濃度付近に達したところで、初期流量5mL/時で流加を開始した。供給溶液はS字型で流量を増しつつ注入し、26時間後に24mL/時に達した。厳密な供給条件は式:
【数3】

(式中、Q(t)は、回分容量600mLの場合の供給流量(mL/時)であり、p1=1.80、p2=22.40、p3=0.270、p4=6.5)
により算出した。
【0159】
26時間の流加後、供給溶液ポンプを停止し、グルコースが消費された後に培養を停止した。
【0160】
細胞外アミノ酸を、OPA/Fmoc誘導体化後にHPLCにより定量し、他の関連の代謝産物は、屈折率測定検出を用いたHPLC(有機酸およびグルコース)およびシリル化後のGC−MSを用いて分析した。
【0161】
表12:株により流加培養で生産された最大メチオニン収率(Ymet max)(メチオニンg/グルコースgの%)。メチオニン/グルコース収率の定義については下記を参照。SDは、数回の反復に基づいて計算された収率の標準偏差を示す(N=反復回数)。
【表12】

表12から分かるように、メチオニン/グルコース収率(Ymet)は、sdaAwt発現の場合に比べてsdaA対立遺伝子の発現の際に増大する。SdaA酵素のセリンデアミナーゼ活性の減弱は、メチオニン生産のためのセリン利用能を高める。
【0162】
発酵槽容量は、最初の容量にpHを調節するため、また、培養物に供給するために添加した溶液を加え、サンプリングに用いた容量および蒸発による損失を差し引くことで算出した。
【0163】
硫加容量は供給原料を秤量することにより絶えず追跡した。次に、注入されたグルコースの量は注入重量、溶液の濃度およびBrixの方法によって測定されたグルコース濃度([グルコース])に基づいて算出した。
【0164】
メチオニン収率は次のように表した。
【数4】

【0165】
ここで、培養中に得られた最大収率を各株について示した。
【0166】
メチオニンおよびメチオニンはそれぞれ最初と最後のメチオニン濃度であり、VおよびVは最初とt時の容量である。
【0167】
消費グルコースは次のように算出した。
【数5】

【0168】
注入グルコース=供給容量[グルコース]
消費グルコース=[グルコース]+注入グルコース−[グルコース]残留
[グルコース]、[グルコース]、[グルコース]残留はそれぞれ最初のグルコース濃度、供給グルコース濃度および残留グルコース濃度である。
【0169】
2.株5および7におけるセリンデアミナーゼ活性(SDA)の測定
SDA活性のin vitro測定については、大腸菌株を上記のような最小培地で培養し、遠心分離により回収した。ペレットを、3mM FeSO、30mM DTTおよびEDTA不含プロテアーゼ阻害剤カクテルを含む冷50mMグリシルグリシンバッファー(pH8)に懸濁させた。その後、細胞をPreCellys(Bertin Technologies;2×10秒6500rpm)でビーズビーティングを行うことで溶解させた後、12000g(4℃)にて30分遠心分離を行った。上清を脱塩し、酵素分析に用いた。タンパク質濃度はBradfordアッセイ試薬(Bradford, 1976)を用いて測定した。上清を脱塩せずに、酵素分析に用いた。タンパク質濃度はBradfordアッセイ試薬(Bradford, 1976)を用いて測定した。
【0170】
SDA活性の測定については、100μgの粗細胞抽出物を、3mM FeSO、30mM DTTおよび50mM L−セリンを含む50mMグリシルグリシンバッファー(pH)中でアッセイした。粗細胞抽出物を添加することによって反応を開始させた。37℃で5分および20分のインキュベーションの後、0.4mLのトルエンを加え、HCl中2−4−ジニトロフェニルヒドラジンで反応を停止させた。ホモジネーションの後、この調製混合物を室温にて3500rpmで5分遠心分離を行い、上相を10%(w/v)炭酸ナトリウムで処理した。ホモジネーションの後、この調製混合物を室温にて3500rpmで1分遠心分離を行い、下相を1.5M NaOHで処理した。10分のインキュベーション後、ピルビン酸の生成量を、アルカリ性溶液中でケト酸ヒドラゾンの発色を測定することにより540nmでの分光光度測定により測定した。発色強度は15分内では変化しなかった。実験ごとにL−セリンを含まない対照を実施し、分光光度測定のブランクとして用いた。
【0171】
表13:上記の培養物でセリンデアミナーゼ(SDA)活性を測定し、mUI/タンパク質mgで示す。標準偏差は数回の独立した培養に基づいて算出した(N=反復回数)。
【表13】

表13から分かるように、株5のSDA活性は野生型7の活性の100分の1より低い。このSDA活性の著しい低下はメチオニン生産の向上と相関していた(表12参照)。
【0172】
SdaAに伴って残留セリンデアミナーゼ活性が存在するが、これは細胞生理に重要である可能性があることに着目することが重要である。
【0173】
参照文献



【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵プロセスにおいてメチオニン、その前駆体または誘導体を生産するための方法であって、下記工程:
炭素源と硫黄源と窒素源とを含んでなる適当な培養培地中で改変微生物を培養する工程、および
該培養培地からメチオニンおよび/またはその誘導体を回収する工程
を含んでなり、
該微生物が、メチオニンよりも他の化合物におけるトレオニンの変換を低減するように改変される、方法。
【請求項2】
トレオニンからのグリシンの生産が低減される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
トレオニンをグリシンに変換する酵素の活性が低減される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
下記遺伝子:ltaE、kbl、glyA、tdhのうち少なくとも1つの発現が減弱される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
酵素GlyAのセリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ活性を維持しつつトレオニンアルドラーゼ活性が減弱されている変異GlyA酵素が発現される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記GlyA酵素が、そのポリペプチド配列において下記のアミノ酸変化:T128S、T224S、T225S、T226S、T227S、T230S、R235Kのうち少なくとも1つを有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
内因性遺伝子glyAが、微生物から欠失されている、請求項4〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
微生物が、トレオニンからのイソロイシンの生産が低減されるように改変される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
トレオニンからα−ケト酪酸への脱アミノ化および/または脱水が低減される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
下記の酵素活性:トレオニンデアミナーゼ、トレオニンデヒドラターゼのうち少なくとも1つが減弱される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
下記遺伝子:ilvA、tdcB、sdaA、sdaB、tdcGのうち少なくとも1つの発現が減弱される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
微生物のセリン利用能が増大される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
セリン生産が、遺伝子serA、serB、serCの少なくとも1つの発現を増強することにより微生物において増大される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
セリン分解が、セリンデアミナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子sdaAまたはsdaBのうち少なくとも1つの活性を減弱することにより低減される、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
sdaA遺伝子が、その核酸配列にT158Gヌクレオチド変化を有する、請求項11または14に記載の方法。
【請求項16】
・metJ遺伝子の欠失、
・メチオニンに対するフィードバック感受性が低減された対立遺伝子metAの発現、および
・請求項1〜15のいずれか一項に記載されているものなどの少なくとも1つの改変
を含んでなる微生物。

【図1】
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【公表番号】特表2013−516162(P2013−516162A)
【公表日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−546444(P2012−546444)
【出願日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【国際出願番号】PCT/EP2010/070858
【国際公開番号】WO2011/080301
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(505311917)メタボリック エクスプローラー (26)
【Fターム(参考)】