説明

メチオニン・スルホキシドを含む新規ポリペプチド

【課題】優れた血管新生誘導活性および抗菌活性を有する新規なポリペプチド及びそれを含有する血管新生誘導剤を提供する。
【解決手段】特定のアミノ酸配列から成るポリペプチド。
【効果】熱傷、褥瘡、創傷、皮膚潰瘍、下肢潰瘍、糖尿病性潰瘍、閉塞性動脈疾患及び閉塞性動脈硬化症などに起因する潰瘍等の疾患の予防、改善又は治療に有効である。さらに抗菌剤としても熱傷、褥瘡、創傷、皮膚潰瘍、下肢潰瘍、糖尿病性潰瘍等の疾患の予防、改善又は治療に有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管新生誘導活性及び抗菌活性を有する新規ポリペプチドおよびそれを含有する血管新生誘導剤及び/又は抗菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
熱傷、褥瘡、創傷、皮膚潰瘍、下肢潰瘍、糖尿病性潰瘍、閉塞性動脈疾患及び閉塞性動脈硬化症等の種々の疾患又は傷害の治療においては、血管新生が有効である。また、このような疾患においては、細菌感染が病態の重篤な増悪を誘発することから、抗菌活性及び血管新生誘導活性を併せ持つ血管新生誘導剤が求められている。
【0003】
また細菌感染に対しては抗生物質が利用されることが多いが、多用されることにより耐性菌が出現し、免疫力が低下した患者や、高齢者、小児を中心に抗生物質が全く無効な例も認められるようになり、耐性菌が生じない抗生物質以外の新たな抗菌剤も求められている。
【0004】
血管新生誘導活性及び抗菌活性を有するポリペプチドとしては、LL−37が知られている。(非特許文献1および2)。
【0005】
また、中神らは、血管内皮増殖活性、ひいては血管新生誘導活性を有するポリペプチドを発明し、さらに該ペプチドがLL−37より高い血管新生誘導活性を有することを見出し、これを特許出願した(特許文献1)。
【0006】
さらに中神らは、特許文献1に係るペプチドより高い血管新生誘導活性を有する30アミノ酸残基よりなるポリペプチドAG30-5Cを見出し、これを特許出願した(特許文献2)。
【0007】
特許文献1および2には、該ポリペプチドが抗菌活性を有することも開示されている。
【0008】
また他にも、低用量で血管新生誘導作用を示すペプチドとしてProadrenomedullin NH2-Terminal 20 peptide(PAMP)が知られている。(非特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2005/090564
【特許文献2】WO2008/096816
【特許文献3】WO2010/061915
【特許文献4】WO2010/137594
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Endocrinology, 2006, 147(7), 3457-61.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、さらに優れた血管新生誘導活性及び抗菌活性を有する新規なポリペプチド及びそれを有効成分として含む、新規な血管新生誘導剤及び/又は抗菌剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、先のポリペプチドより高い血管内皮増殖活性、ひいては血管新生誘導活性を有するポリペプチドを見出した。また、それらのポリペプチドは従来のポリペプチドより高い抗菌活性を有していた。
【0013】
本発明者らは、鋭意研究の結果、特許文献1および2に記載されたポリペプチドの類縁体を探索した結果、意外にも1以上のメチオニン残基をメチオニン・スルホキシドと置換することにより、該ポリペプチドよりも高い血管新生誘導活性および抗菌活性を有することを見出し、本発明を完成した。
【0014】
【化1】

【0015】
すなわち本発明は、より詳しくは以下いずれかの発明からなる。
(1)下記アミノ酸配列で表されるいずれか1種のポリペプチド、またはその薬理学的に許容される塩。(配列中、M(O)はメチオニン・スルホキシドを意味する。)
M(O)LKLIFLHRLKRMRKRLKRK(配列番号1)
MLKLIFLHRLKRM(O)RKRLKRK(配列番号2)
M(O)LKLIFLHRLKRM(O)RKRLKRK(配列番号3)
ELRFLHRLKRM(O)RKRLKRKLR(配列番号4)
KLIFLHRLKRM(O)RKRLKRKLR(配列番号5)
KRM(O)RKRLKRKLRLWHRKRYK(配列番号6)
M(O)RKRLKRKLRLWHRKRYK(配列番号7)
M(O)LKLIFLHRLKRMRKRLKRKLRFWHRKRYK(配列番号8)
MLKLIFLHRLKRM(O)RKRLKRKLRFWHRKRYK(配列番号9)
M(O)LKLIFLHRLKRM(O)RKRLKRKLRFWHRKRYK(配列番号10)
(2)1以上のアミノ酸残基がD-アミノ酸である、(1)記載のポリペプチド、またはその薬理学的に許容される塩。
(3)1以上のリジン残基(K)がD-リジンである、(1)または(2)記載のポリペプチド、またはその薬理学的に許容される塩。
(4)下記アミノ酸配列で表されるいずれか1種である、(1)ないし(3)記載のポリペプチド、またはその薬理学的に許容される塩。(配列中、M(O)はメチオニン・スルホキシドを、K*はD-リジンを、それぞれ意味する。)
M(O)LKLIFLHRLKRMRKRLK*RK(配列番号11)
MLKLIFLHRLKRM(O)RKRLK*RK(配列番号12)
M(O)LKLIFLHRLKRM(O)RKRLK*RK(配列番号13)
(5)下記アミノ酸配列で表されるポリペプチド、またはその薬理学的に許容される塩。(配列中、M(O)、K*は、前記と同様の意味を有する。)
MLKLIFLHRLKRM(O)RKRLK*RK(配列番号12)
(6)C末端がアミド(-CONH2)である、(1)ないし(5)記載のポリペプチド、またはその薬理学的に許容される塩。
(7)N末端がアセチル(CH3CO-)化されている、(1)ないし(6)記載のポリペプチド、またはその薬理学的に許容される塩。
(8)薬理学的に許容される塩が塩酸塩または酢酸塩である、(1)ないし(7)記載のポリペプチド。
(9)(1)ないし(8)いずれか1項記載のポリペプチドまたはその薬理学的に許容される塩を有効成分とする、血管新生誘導剤。
(10)(1)ないし(8)いずれか1項記載のポリペプチドまたはその薬理学的に許容される塩を有効成分とする、抗菌剤。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、優れた血管新生誘導活性及び抗菌活性を有するポリペプチドが提供された。また、このポリペプチドを有効成分とする新規な血管新生誘導剤及び/又は抗菌剤が提供された。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】配列番号11で表される新規ポリペプチドのMALDI-TOF/MSスペクトルのチャート図である。
【図2】配列番号12で表される新規ポリペプチドのMALDI-TOF/MSスペクトルのチャート図である。
【図3】配列番号13で表される新規ポリペプチドのMALDI-TOF/MSスペクトルのチャート図である。
【図4】本発明のポリペプチドの、in vitroでの管腔形成を調べた結果を示す図である。形成された管腔の面積及び長さを測定し、陰性対照(Control)群の値を100とした時のペプチド添加時の相対値で示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書において、「ポリペプチド」と「ペプチド」の語は同義に用いられる。
【0019】
特許文献2に記載されているポリペプチドAG30-5Cのアミノ酸配列を配列番号14に示す。AG30-5Cは、特許文献2および下記実施例において具体的に記載されているように、抗菌活性及び血管新生誘導活性を有する。しかし下記実施例に具体的に記載したように、本発明の実施例になるポリペプチドは、AG30-5Cよりも高い血管新生誘導活性及び抗菌活性を有していた。
【0020】
なお、本発明の血管新生誘導剤及び/又は抗菌剤の有効成分であるポリペプチドは、いずれも新規物質である。
【0021】
一般に、ポリペプチドから成る医薬において、生体内でのポリペプチドの安定性を高めるために、ポリペプチドに糖鎖やポリエチレングリコール(PEG)鎖を付加したり、ポリペプチドを構成するアミノ酸の少なくとも一部としてD体アミノ酸を用いたりする技術が広く知られており、用いられている。糖鎖やPEG鎖を付加したり、ポリペプチドを構成するアミノ酸の少なくとも一部としてD体アミノ酸を用いたりすることにより、生体内でのペプチダーゼによる分解を受けにくくなり、生体内におけるポリペプチドの半減期が長くなる。また、ペプチドのN末端のアセチル化および/またはC末端のアミド化によって、ペプチドの安定性が向上することもよく知られている。本発明のポリペプチドは、抗菌活性を有する限り、生体内安定化のためのこれらの公知の修飾を施したものであってもよく、本明細書及び特許請求の範囲における「ポリペプチド」という語は、文脈上そうでないことが明らかな場合を除き、生体内安定化のための修飾を施したものも包含する意味で用いている。
【0022】
ポリペプチドに対する糖鎖付加は周知であり、例えば、Sato M, Furuike T, Sadamoto R, Fujitani N, Nakahara T, Niikura K, Monde K, Kondo H, Nishimura S., "Glycoinsulins: dendritic sialyloligosaccharide-displaying insulins showing a prolonged blood-sugar-lowering activity.",J Am Chem Soc. 2004 Nov 3;126(43):14013-22やSato M, Sadamoto R, Niikura K, Monde K, Kondo H, Nishimura S,"Site-specific introduction of sialic acid into insulin.", Angew Chem Int Ed Engl. 2004 Mar 12;43(12):1516-20等に記載されている。糖鎖は、N末端、C末端又はそれらの間のアミノ酸に結合可能であるが、ポリペプチドの活性を阻害・減弱しないためにN末端又はC末端に結合することが好ましい。また、付加する糖鎖の個数は、1個又は2個が好ましく、1個がより好ましい。糖鎖は、単糖から4糖が好ましく、さらには2糖又は3糖が好ましい。糖鎖は、ポリペプチドの遊離のアミノ基又はカルボキシル基に直接又は例えば炭素数1〜10程度のメチレン鎖等のスペーサー構造を介して結合することができる。
【0023】
ポリペプチドに対するPEG鎖の付加も周知であり、例えば、Ulbricht K, Bucha E, Poschel KA, Stein G, Wolf G, Nowak G., "The use of PEG-Hirudin in chronic hemodialysis monitored by the Ecarin Clotting Time: influence on clotting of the extracorporeal system and hemostatic parameters.", Clin Nephrol. 2006 Mar;65(3):180-90.やDharap SS, Wang Y, Chandna P, Khandare JJ, Qiu B, Gunaseelan S, Sinko PJ, Stein S, Farmanfarmaian A, Minko T., "Tumor-specific targeting of an anticancer drug delivery system by LHRH peptide.", Proc Natl Acad Sci USA. 2005 Sep 6;102(36):12962-7."等に記載されている。PEG鎖は、N末端、C末端又はそれらの間のアミノ酸に結合可能であり、通常、1個又は2個のPEG鎖が、ポリペプチド上の遊離のアミノ基やカルボキシル基に結合される。PEG鎖の分子量は、特に限定されないが、通常3000〜7000程度、好ましくは5000程度のものが用いられる。
【0024】
ポリペプチドを構成するアミノ酸の少なくとも一部をD体とする方法も周知であり、例えば、Brenneman DE, Spong CY, Hauser JM, Abebe D, Pinhasov A, Golian T, Gozes I., "Protective peptides that are orally active and mechanistically nonchiral.", J Pharmacol Exp Ther. 2004 Jun;309(3):1190-7やWilkemeyer MF, Chen SY, Menkari CE, Sulik KK, Charness ME., "Ethanol antagonist peptides: structural specificity without stereospecificity.", J Pharmacol Exp Ther. 2004 Jun;309(3):1183-9.等に記載されている。ポリペプチドを構成するアミノ酸の一部をD体としてもよいし、ポリペプチドの活性を阻害・減弱しない限り、構成するアミノ酸の全てをD体アミノ酸としてもよい。より具体的には、例えば配列番号11〜13を挙げることができる。
【0025】
ここで本発明に係る薬理学的に許容される塩として、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸との塩や、酢酸、トリフルオロ酢酸、乳酸、酒石酸、シュウ酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等の有機酸との塩をあげることができ、中でも塩酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩がより好ましい。
【0026】
さらに、本発明のポリペプチドには、実質的に同じ効果を奏するものであれば前述のものに限定されず、例えば1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドも含まれる。
【0027】
本発明の血管新生誘導剤の有効成分であるポリペプチドは、市販のペプチド合成機を用いた化学合成等の常法により容易に製造することができる。また、上記安定化修飾も、上記各文献に記載されているような周知の方法により容易に行なうことができる。
【0028】
本発明のポリペプチドは、高い血管新生誘導活性及び抗菌活性を有するので、血管新生誘導剤及び/又は抗菌剤として用いることができる。血管新生誘導剤及び/又は抗菌剤としての使用方法は公知のポリペプチド系の血管新生誘導剤あるいは抗菌剤と同様であり、溶液剤、乳剤、懸濁剤、粉剤、散剤、顆粒剤、ゲル、軟膏、または経皮パッチとして、特に好ましくは溶液剤、粉剤、あるいは経皮パッチとして投与することができる。溶液剤として好ましくは緩衝液、特に好ましくは生理食塩水、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液等の水系媒体に溶解した溶液を投与することができる。溶液中のポリペプチドの濃度は、特に限定されないが、通常、0.01mg/mL〜100mg/mL程度、好ましくは0.1mg/mL〜50mg/mL程度、特に好ましくは1mg/mL〜10mg/mL程度である。投与経路は、通常、血管新生及び/又は殺菌が必要な部位への塗布・噴霧・接触(貼付、覆い)や注射等の局所投与である。投与量は、症状や患部の大きさ等に応じて適宜選択されるが、通常、ポリペプチド量として0.01mg〜100mg程度、好ましくは0.05mg〜50mg程度、特に好ましくは0.1mg〜10mg程度であるが、もちろん、これらの範囲に限定されるものではない。なお、本発明の血管新生誘導剤及び/又は抗菌剤を製剤化する際に用いられる薬剤的に許容できる担体としては、上記した水系媒体の他にも、製剤分野で常用されている担体を用いることができ、例えば、軟膏のような外用剤の場合には、炭化水素類(親水ワセリン、白色ワセリン、精製ラノリン、流動パラフィン等)、酸化亜鉛、高級脂肪酸及びそのエステル(アジピン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、アジピン酸エステル、ミリスチン酸エステル、パルミチン酸エステル、セバシン酸ジエチル、ラウリン酸ヘキシル、イソオクタン酸セチル等)、ロウ類(鯨ロウ、ミツロウ、セレシン等)、高級アルコール(セタノール、ステアリルアルコール、セトステアリルアルコール等)などが挙げられる。溶液剤の場合には、例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水等を挙げることができ、経口剤の場合には、乳糖、デンプン等を挙げることができる。その他、必要に応じ、乳化剤、界面活性剤、等張化剤、pH調整剤等の各種医薬添加剤を配合することもできる。なお、これらの薬剤的に許容できる担体及び医薬添加剤は、製剤分野において周知であり、広く用いられているものである。
【0029】
生体に投与する場合の具体的な疾患及び障害の例として、熱傷、褥瘡、創傷、皮膚潰瘍、下肢潰瘍、糖尿病性潰瘍、閉塞性動脈疾患及び閉塞性動脈硬化症等に起因する潰瘍を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。本発明の血管新生誘導剤は、これらの疾患又は障害に対する予防、改善又は治療剤として用いることができる。なお、本発明のポリペプチドは、高い血管新生誘導活性を有する一方、抗菌活性も有しているので、抗菌活性を併有することが望まれる疾患又は障害の予防、改善又は治療剤として特に適しており、このような疾患又は障害として、上記の疾患又は障害のうち熱傷、褥瘡、創傷、皮膚潰瘍、下肢潰瘍、糖尿病性潰瘍等を挙げることができる。
【0030】
本発明の血管新生誘導剤は、単独で使用することもできるし、さらなる抗菌性が望まれる場合には他の抗菌剤又は抗生物質と併用することもできる。これらの抗菌剤又は抗生物質の例として、セフェム系、カルバペネム系、アミノグリコシド系、ニューキノロン系、β-ラクタム系、ペニシリン系及びグリコペプチド系抗生物質等を挙げることができ、より具体的には、セフタジジム、メロペネム、トブラマイシン、シプロフロキサシン、メチシリン、アンピシリン及びバンコマイシン等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
【0031】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
1. ポリペプチドの合成
文献Solid Phase Peptide Synthesis, Pierce (1984)、Fmoc solid synthesis:a practical approach, Oxford University Press(2000)および第5版 実験化学講座16 有機化合物の合成IV等に記載の方法に従い、全自動固相合成機を用いて、保護ペプチド樹脂をFmoc法で合成した。得られた保護ペプチド樹脂にトリフルオロ酢酸(TFA)とスカベンジャー(チオアニオール、エタンジチオール、フェノール、トリイソプロピルシラン、水などの混合物)を加えて、樹脂から切り出すとともに脱保護して、粗ペプチドを得た。この粗ペプチドを、逆相HPLCカラム(ODS)を用いて、0.1%TFA-H2O/CH3CNの系でグラジエント溶出し、精製を行った。目的物を含む分画を集め凍結乾燥して、目的のペプチドを得た。
ペプチドの配列を以下に示す。(配列中、M(O)はメチオニン・スルホキシドを、K*はD-リジンを、それぞれ意味する。)
(配列番号1)
M(O)LKLIFLHRLKRMRKRLKRK
(配列番号2)
MLKLIFLHRLKRM(O)RKRLKRK
(配列番号3)
M(O)LKLIFLHRLKRM(O)RKRLKRK
(配列番号4)
ELRFLHRLKRM(O)RKRLKRKLR
(配列番号5)
KLIFLHRLKRM(O)RKRLKRKLR
(配列番号6)
KRM(O)RKRLKRKLRLWHRKRYK
(配列番号7)
M(O)RKRLKRKLRLWHRKRYK
(配列番号8)
M(O)LKLIFLHRLKRMRKRLKRKLRFWHRKRYK
(配列番号9)
MLKLIFLHRLKRM(O)RKRLKRKLRFWHRKRYK
(配列番号10)
M(O)LKLIFLHRLKRM(O)RKRLKRKLRFWHRKRYK
【0033】
(配列番号11)
M(O)LKLIFLHRLKRMRKRLK*RK
(配列番号12)
MLKLIFLHRLKRM(O)RKRLK*RK
(配列番号13)
M(O)LKLIFLHRLKRM(O)RKRLK*RK
【0034】
(配列番号14)AG30-5C
MLSLIFLHRLKSMRKRLDRKLRLWHRKNYP
(配列番号15)比較対照
MLKLIFLHRLKRMRKRLK*RK
【0035】
2.ポリペプチドのMALDI-TOF/MSを用いた分析
合成した配列番号11〜13で表されるポリペプチドの配列をMALDI-TOF/MSを用いた分析結果により確認した。最終濃度100μg/mLのポリペプチド0.1% TFA/50% アセトニトリル溶液 1μLにマトリクス溶液(α-Cyano 4-Hydroxy Cinnamic Acid) 1μLを加え、MALDI用測定試料とした。MALDI用測定試料(0.4μL)をMALDIターゲットプレートに塗布し、乾燥させた。MALDI- TOF/MSを用いて測定した。
【0036】
MALDI-TOF/MS条件:
Laser intensity: 2100
Number of shots: 1000
【0037】
結果
各ポリペプチドのMALDI-TOF/MSの理論値及び実測値を表1に示した。また、各ポリペプチドのMALDI-TOF/MSスペクトル(monoisotopic)を図1〜3に示した。各ポリペプチドの検出されたm/zは、それぞれの理論値と一致し、合成したポリペプチドの配列を確認することができた。
【0038】
結果を表1に示す。
〔表1〕
───────────────────────
配列番号11 配列番号12 配列番号13
───────────────────────
理論値 2,681.4 2,681.4 2,697.4
実測値 2,681.5 2,681.5 2,697.5
───────────────────────
【0039】
3.ポリペプチドの血管新生誘導活性
血管新生キット(Angiogenesis Kit, KZ-1000, KURABO、商品名)を用いてポリペプチドのin vitro管腔形成を検討した。陽性対照としてVEGF-A(キットに付属)、陰性対照としてペプチドなしの無刺激の群を用いた。血管新生専用培地中へ各ポリペプチド濃度が10,2.5,0.5mg/mLとなるように調整した。ポリペプチドを含んだ血管新生専用培地に細胞を添加し、37℃,5% CO2条件下で培養した。培地は、培養4日目、7日目及び9日目に同じポリペプチドを含有するものと交換した。培養開始11日目に培地を除き、管腔染色キット(CD31抗体染色用)(KURABO、商品名)を用いて以下の手順に従い染色した。
各ウェルから培地を除去した後、1mLのPBS(-)で洗浄し、70%エタノールを1mLずつ添加し細胞を固定した。CD31染色1次抗体(マウス抗ヒトCD31抗体)をブロッキング液(1%BSAを含むダルベッコリン酸緩衝液(PBS(-)))で4000倍に希釈した。各ウェルにこの1次抗体溶液を0.5mL添加し、60分間37℃でインキュベートした。インキュベート終了後、1mLのブロッキング液で各ウェルを計3回洗浄した。
次いでブロッキング液で500倍に希釈した2次抗体溶液(ヤギ抗マウスIgGアルカリフォスファターゼ複合体)0.5mLを各ウェルに添加し、37℃で60分間インキュベートした後、1mLの蒸留水で3回洗浄した。その間に、BCIP/NBTの錠剤2錠を蒸留水に溶解し、ポアサイズ0.2mmのフィルターで濾過して基質溶液を準備した。調整したBCIP/NBT基質溶液0.5mLを各ウェルに添加し、管腔が深紫色になるまで(通常5-10分間)37℃でインキュベートした。インキュベート終了後、蒸留水1mLで各ウェルを3回洗浄した。洗浄後、洗浄液を吸引除去し、自然乾燥するために静置した。乾燥後、顕微鏡下で各ウェルの写真を撮影した。血管新生定量ソフトウェア(KURABO、商品名)を用い、各画像データから形成された管腔の面積及び長さを測定し、陰性対照に対するペプチド添加時の相対値で評価した。
【0040】
結果を表2に示す。
【0041】
〔表2〕
─────────────────────────────────
ポリペプチド 濃度 管腔の面積及び長さ
(μg/mL) (陰性対照を100とした割合)
─────────────────────────────────
比較対照(配列番号15) 0.5 122.8
2.5 191.4
本発明ペプチド(配列番号11) 0.5 162.3
2.5 176.7
本発明ペプチド(配列番号12) 0.5 169.6
2.5 246.6
本発明ペプチド(配列番号13) 0.5 170.2
2.5 208.4
─────────────────────────────────
【0042】
表2に示されるように、本発明の配列番号11、12、13で表されるポリペプチドはいずれも血管新生誘導活性を有していた。
【0043】
4.ポリペプチドの抗菌活性
抗菌活性は、国際機関National Committee for Clinical Laboratory Standard Institute(CLSIM7-A7)の手順に準じて評価した。すなわち、マイクロタイタープレートあるいは試験管を用いて、ペプチド濃度32μg/mLで菌の増殖を抑制するペプチドをスクリーニングした。菌株には黄色ブドウ球菌ATCC29213(S.aureus ATCC29213)緑膿菌ATCC27853(P.aeniginosa ATCC27853)および大腸菌ATCC25922(Escherichia coli ATCC25922)を用いた。細菌を培地で4〜6時間培養した後、McFarland#0.5にしたがって、ミューラー・ヒントン・ブロス(Mueller-Hinton broth:MHB)で希釈した。各菌株を1×105CFU/mL(最終濃度)程度になるように添加した。各ペプチドは任意の濃度に調整し、そこから段階希釈を行った。各濃度段階のペプチドを分注したマイクロプレートあるいは試験管に菌液を添加した。ペプチド無添加のものを陰性対照、ゲンタマイシンを陽性対照とした。プレートを37℃で20分間培養し、菌の増殖を阻害するペプチド濃度をを最小生育阻止濃度(MIC)(μg/mL)とした。
【0044】
結果を表3に示す。
【0045】
〔表3〕
────────────────────────────────
ポリペプチド MIC (μg/mL)
大腸菌 緑膿菌 黄色ブドウ球菌
────────────────────────────────
比較対照(配列番号15) 32 8/16 8/16
本発明ペプチド(配列番号11) 16/32 16 32
本発明ペプチド(配列番号12) 16 16 8/16
本発明ペプチド(配列番号13) 16/32 32 32
────────────────────────────────
【0046】
表3に示されるように、本発明の配列番号11、12、13で表されるポリペプチドはいずれも抗菌活性を有していた。
【0047】
5.ポリペプチドの皮膚繊維芽細胞の増殖への影響
Cell Counting Kit(WST-1)(商品名、同仁化学)を用いてペプチドのヒト皮膚繊維芽細胞増殖活性を検討した。陰性対照として、ペプチド無しの無刺激の群を用いた。正常ヒト皮膚繊維芽細胞(NHDF)を96ウェルプレートに播種した(0.5×104cells/well/100μL, 1%FBS)。細胞を播種してから約3時間後、候補ペプチドあるいはbFGF(陽性対照)を100μL添加した。無刺激の群にはMediumのみを100μL添加した。CO2インキュベータ内で約48時間静置した。48時間後、WST-1試薬を各ウェルに20μl添加し、CO2インキュベータ内で約2時間静置した。Wallac 1420 ARVOsx(Perkin Elmer プログラム:WST-1)にて波長450nm,620nmの吸光度を測定した。各測定値のO.D.450-O.D.620を求めた。測定ウェルのO.D.450-O.D.620の値から細胞を含まない空ウェルのO.D.450-O.D.620の平均値を引いたものをNetO.D.450とした。細胞増殖活性は無刺激のNetO.D.450に対するペプチド添加時の割合で評価した。
【0048】
結果を表4に示す
【0049】
〔表4〕
─────────────────────────────────────
ポリペプチド NHDF増殖(μg/mL)
1 3 10 30 100
─────────────────────────────────────
比較対照(配列番号15) 119.08 130.64 146.78 116.27 -1.93
本発明ペプチド(配列番号11) 112.42 118.97 120.73 131.68 130.26
本発明ペプチド(配列番号12) 114.25 120.13 137.55 151.84 -1.37
本発明ペプチド(配列番号13) 115.10 115.14 122.21 137.66 140.14
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【0050】
表4に示されるように、本発明の配列番号11、12、13で表されるポリペプチドはいずれもヒト皮膚繊維芽細胞増殖活性を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記アミノ酸配列で表されるいずれか1種のポリペプチド、またはその薬理学的に許容される塩。(配列中、M(O)はメチオニン・スルホキシドを意味する。)
M(O)LKLIFLHRLKRMRKRLKRK(配列番号1)
MLKLIFLHRLKRM(O)RKRLKRK(配列番号2)
M(O)LKLIFLHRLKRM(O)RKRLKRK(配列番号3)
ELRFLHRLKRM(O)RKRLKRKLR(配列番号4)
KLIFLHRLKRM(O)RKRLKRKLR(配列番号5)
KRM(O)RKRLKRKLRLWHRKRYK(配列番号6)
M(O)RKRLKRKLRLWHRKRYK(配列番号7)
M(O)LKLIFLHRLKRMRKRLKRKLRFWHRKRYK(配列番号8)
MLKLIFLHRLKRM(O)RKRLKRKLRFWHRKRYK(配列番号9)
M(O)LKLIFLHRLKRM(O)RKRLKRKLRFWHRKRYK(配列番号10)
【請求項2】
1以上のアミノ酸残基がD-アミノ酸である、請求項1記載のポリペプチド、またはその薬理学的に許容される塩。
【請求項3】
1以上のリジン残基(K)がD-リジンである、請求項1または2記載のポリペプチド、またはその薬理学的に許容される塩。
【請求項4】
下記アミノ酸配列で表されるいずれか1種である、請求項1ないし3記載のポリペプチド、またはその薬理学的に許容される塩。(配列中、M(O)はメチオニン・スルホキシドを、K*はD-リジンを、それぞれ意味する。)
M(O)LKLIFLHRLKRMRKRLK*RK(配列番号11)
MLKLIFLHRLKRM(O)RKRLK*RK(配列番号12)
M(O)LKLIFLHRLKRM(O)RKRLK*RK(配列番号13)
【請求項5】
下記アミノ酸配列で表されるポリペプチド、またはその薬理学的に許容される塩。(配列中、M(O)、K*は、前記と同様の意味を有する。)
MLKLIFLHRLKRM(O)RKRLK*RK(配列番号12)
【請求項6】
C末端がアミド(-CONH2)である、請求項1ないし5記載のポリペプチド、またはその薬理学的に許容される塩。
【請求項7】
N末端がアセチル(CH3CO-)化されている、請求項1ないし6記載のポリペプチド、またはその薬理学的に許容される塩。
【請求項8】
薬理学的に許容される塩が塩酸塩または酢酸塩である、請求項1ないし7記載のポリペプチド。
【請求項9】
請求項1ないし8いずれか1項記載のポリペプチドまたはその薬理学的に許容される塩を有効成分とする、血管新生誘導剤。
【請求項10】
請求項1ないし8いずれか1項記載のポリペプチドまたはその薬理学的に許容される塩を有効成分とする、抗菌剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−14583(P2013−14583A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−130321(P2012−130321)
【出願日】平成24年6月8日(2012.6.8)
【出願人】(500409323)アンジェスMG株式会社 (34)
【Fターム(参考)】