説明

メチシリン耐性ブドウ球菌感染症の検出方法

【構成】 本発明のMRSA検出方法は、採集血液体に、直接、メチシリン耐性ブドウ球菌におけるmecA遺伝子の5′末端側から800塩基までの領域に基づいて作製された2組のプライマーを使用し、2段階からなるポリメレ−スチェンリアクター法を実施することを特徴とする。
【効果】 本発明のMRSA検出方法は、患者からのヘパリン採血から始めて検出結果を得るまで約4時間程度とでき、また、ファーストPCR反応において、Tthポリメラーゼを用いることにより、ヘモグロビン存在下でも増殖が可能で、また2段階からなるPCR法によりMRSAの感度が飛躍的に向上したものであり、敗血症又は菌血症の早期診断に有効である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、メチシリン耐性ブドウ球菌(MRSA)感染症を血液検体から直接、高感度、かつ迅速に鑑別同定する方法に関し、敗血症又は菌血症の早期診断に有効な検出方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、広域スペクトラムを有するセフェム系薬剤の開発により、グラム陰性杆菌の制御がある程度可能になった反面、ブドウ球菌、とくにその薬剤耐性化したMRSAは院内感染原因菌として治療上のみならず、社会的にも大きな問題となっている。
【0003】MRSAは皮膚、鼻腔、咽頭などでは常在菌を構成していると考えられる菌種であり、これらの部位について高感度の測定法を確立することは臨床上あまり重要ではない。MRSAが治療上一番問題となるのは、敗血症や菌血症をきたしやすく不適切な抗生剤を使用していると急速に病態が悪化し、多臓器不全から死に至ることが多いということである。MRSA敗血症を多臓器不全など重篤化する以前に診断することができれば、MRSAに対して感受性のあるバンコマイシンなどを使用することにより、現在死亡に至る症例を充分救命し得る。しかしながら、現在までの方法ではMRSA敗血症を診断するのに臨床症状が発現し、検査を始めてから数日を要し、その間に患者の状態が悪化している事が多い。そこで、この様な状況を打破するため血中より直接、MRSAを迅速にかつ高感度に検出する方法の開発が望まれている。
【0004】この観点から、現在、MRSAの検出方法は標準的な方法としてはデイスク法がある。これは血液検体を2〜3日培養し、増殖細胞を同定する方法である。さらに近年、鼻、咽腔などに存在する常在菌を培養し、増殖させてからDNA抽出し、メチシリン耐性遺伝子mecAの特異部分を、二重標識したプライマーを用いたポリメレ−スチェンリアクター(PCR)法で増幅させ、その産物の有無を調べることによってMRSAを同定するED−PCR法が考えられている。
【0005】しかし、デイスク法は検定まで2〜3日要し、その間患者の病態が悪化し原因菌が決定された時には、すでに手遅れといった場合がある。一方、ED−PCR法では、皮膚、鼻、咽腔からMRSAの検出を行っているが、培養増殖後にDNAを抽出しており時間がかかるという問題点と、その部位では菌厳構成菌とみなされる場合があり、常在菌がそのまま感染症の原因菌となるわけではないという問題点を含んでいる。さらにこの方法は血液検体からの検出ができない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】従って、従来のMRSA感染症の同定方法はそれぞれ短所があり、より有効な敗血症の迅速診断法の開発が望まれる。
【0007】本発明は上記の問題点を解消し、血液検体について直接迅速でかつ高感度なMRSA検出方法を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】そのための本発明のメチシリン耐性ブドウ球菌感染症の検出方法は、採集血液体に、直接、メチシリン耐性ブドウ球菌におけるmecA遺伝子の5′末端側から800塩基までの領域に基づいて作製された2組のプライマーを使用し、2段階からなるポリメレ−スチェンリアクター法、即ちネステード(Nested)PCR法を実施することを特徴とする。
【0009】MRSAのメチシリン耐性化は、菌が種々のβ−ラクタム系に触れる時、誘導的に生じる、PBP−2’と呼ばれる細胞壁合成酵素の新たな産生が主因である。本発明者等は、PBP−2’がmecAと呼ばれる約2.2kbの構造遺伝子に支配されていることに注目し、PCR反応で使用する2組のプライマーをmecA遺伝子の特異的配列に基づいてデザインした。さらに、本発明においては、DNAを血液中の細菌から抽出するため、血液中のヘモグロビンによる酵素活性阻害を受けにくいTthポリメラーゼを用いることにより解決できる。
【0010】
【作用及び発明の効果】本発明のMRSA検出方法では、患者からのヘパリン採血から始めて検出結果を得るまで約4時間程度である。また、ファーストPCR反応において、Tthポリメラーゼを用いることにより、ヘモグロビン存在下でもDNAの増幅を可能とでき、2段階からなるPCR法によりMRSAの感度を飛躍的に向上させることができ、敗血症又は菌血症の早期診断に有効である。
【0011】
【実施例】採集された血液2mlをヘパリン処理し、蒸留水10mlを加え放置し、3,000rpmで10分間遠心し、上清を除き、細胞溶解液(20mM Tris−HCl(pH=7.4)、0.15M NaCl、3mM MgCl2 、0.5%NP−40)100μl、リゾスタフィン10μgを加え37℃で1時間反応させ、15,000rpmで10分間の遠心を行い、その上清にTritonX−100 5μlを加混和後1分間沸騰させ、さらに1分間氷冷し、15,000rpmで5分間遠心を行いGENECLEAN IIR キット(フナコシ社)でDNAの精製を行った。
【0012】次いで、この精製されたDNAを用い、ネステードPCR反応を図1に示すように行った。すなわち、DNA6μl、プライマー1:5′−AGTTGTAGTTGTCGGGTTTG−3′(25pmol/μl)1μl、プライマー2:5′−AGTGGAACGAAGGTATCATC−3′(25pmol/μl)1μl、Tthポリメラーゼ2.5単位をPCR混合液に加え、ファーストPCR反応を行った。
【0013】反応条件はDNA変性:94℃、1分、アニーリング:55℃、1分、エックステンション:72℃、2分で30サイクルのDNA増幅を行った。
【0014】得られたPCR産物1μlに、ビオチンとデニトロフェニル(DNP)で標識したプライマー3:5’−AAGCGATAATGGTGAAGTAG−3′(25pmol/μl)1μl、プライマー4:5′−GGAACGATGCCTAATCTCAT−3′(25pmol/μl)1μl、Taqポリメラーゼ2.5単位をPCR混合液に加え、セカンドPCR反応を行った。
【0015】反応条件はDNA変性:94℃、1分、アニーリング:60℃、1分、エックステンション:72℃、2分で30サイクルのDNA増幅を行った。
【0016】尚、上記実施例において使用したPCR混合液は、10XPCR緩衝液5μl、10XdNTP4μl、蒸留水32.8μlからなり、また、使用したプライマーは、DNA合成装置(ミリポア社製)を使用して作製した。
【0017】次に、目的DNA増幅の有無の確認は、ストレプトアビシン固定化プレートに、増幅DNAと抗DNP抗体を加え、室温で反応させた後、洗浄し、発色液p−ニトロフェニルホスフェイト(pNPP)を加え、405nmの光の吸収率を調べることによって行うか、或いはアガロースゲル電気泳動法によっても確認できる。
【0018】図2は、アガロースゲル電気泳動法によって得られたチャートの模式図であり、図中(a)は、上記実施例に基づいて2血液検体について試験した結果を1.2.で示す。尚、図2において、横線により発色部位を示し、横線部が密であるほどDNAの増幅量が大きいことを示す。また図2には、同時に比較例である(b)(c)(d)(e)(f)(g)を同時に示す。
【0019】比較例である(b)は、上記実施例におけるファーストPCR反応において、Tthポリメラーゼに代えてTaqポリメラーゼを同量使用した場合である。尚、プライマーは実施例と同一のものを使用した(以下同様)。
【0020】(c)は上記実施例において、血液検体から細菌をまず分離した後、DNAを抽出し、Tthポリメラーゼに代えてTaqポリメラーゼを同量使用してファーストPCR反応を行い、次いで実施例と同様にしてネステードPCR法を行った場合である。
【0021】また、(d)は上記実施例において、セカンドPCR反応を省略した場合である。(e)は上記(b)において、セカンドPCR反応を省略した場合である。(f)は上記(c)において、セカンドPCR反応を省略した場合である。(g)は標準試料の電気泳動パターンである。
【0022】図2からわかるように、目的のバンドは図中、Xで示すものであり、本発明である(a)の場合には、2血液検体のいずれの場合にも検出ができたが、比較例である(b)の場合、即ち、実施例におけるファーストPCR反応において、Tthポリメラーゼに代えてTaqポリメラーゼを同量使用した場合では繰り返し実験の内、第1血液検体の場合には検出できなかった。
【0023】このことから、本発明によると、ネステード(Nested)PCR法を実施することにより、容易にMRSA感染症を検出することが可能であり、特に、ファーストPCR法において、Tthポリメラーゼを使用するとより確実に検出できることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、ネステード−PCR法の概説図である。
【図2】図2は、アガロースゲル電気泳動法で得られたチャートの模式図であり、目的DNA増幅の有無を示すものである。
【符号の説明】
Xは目的のバンド

【特許請求の範囲】
【請求項1】 採集血液体に、直接、メチシリン耐性ブドウ球菌におけるmecA遺伝子の5′末端側から800塩基までの領域に基づいて作製された2組のプライマーを使用し、2段階からなるポリメレ−スチェンリアクター法を実施することを特徴とするメチシリン耐性ブドウ球菌感染症の検出方法。
【請求項2】 ファーストポリメレ−スチェンリアクター反応において、Tthポリメラーゼを用いることを特徴とする請求項1記載のメチシリン耐性ブドウ球菌感染症の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開平6−70771
【公開日】平成6年(1994)3月15日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−223740
【出願日】平成4年(1992)8月24日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1992年2月25日 社団法人日本外科学会発行の「日本外科学会誌(第92回日本外科学会総会号)臨時増刊」に発表
【出願人】(592181783)エヌビイテイ株式会社 (7)
【出願人】(591143250)