説明

メチルアセチレンの製造方法

【課題】これまでのナフサクラッカーのC3ストリーム中よりの分離回収法に比べ、より高収量でメチルアセチレンを製造すること。
【解決手段】2−クロロエタノール及び/又は塩化ビニルモノマーから、W、Mo、V、Mn及びReからなる群から選択された少なくとも一種の金属元素を含む触媒を使用した触媒反応により合成することを特徴とするメチルアセチレンの製造方法を提供する。上記触媒は、W、Mo、V、Mn及びReからなる群から選択された少なくとも一種の金属元素を含む酸化物、オキソ酸及びその塩からなる群から選択された少なくとも一種であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化学工業におけるメチルアセチレンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メチルアセチレンは反応性に富んだ末端炭素−炭素三重結合を有しており、様々な化合物の出発原料としての応用が期待される化合物である。
このメチルアセチレンはナフサクラッカーのC3ストリーム中にエチレンの数%に当たる量が含まれており、蒸留、抽出、プロパジエンの異性化を組み合わせた分離プロセスも開発されているが、回収量自体が少ないという問題点があった。(非特許文献1)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】住友化学 技術誌 2004−II
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、より高収量が得られるメチルアセチレンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記の特性を有するメチルアセチレンの製造方法を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、C2ストリームから得られるより収量の多いエチレンを原料として合成される2−クロロエタノールもしくは塩化ビニルモノマーから、W、Mo、V、Mn又はReの少なくとも一種の金属元素を含む触媒を使用した触媒反応固体酸触媒によりメチルアセチレンを製造することにより、その目的を達成し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、2−クロロエタノール及び/又は塩化ビニルモノマーから、W、Mo、V、Mn及びReからなる群から選択された少なくとも一種の金属元素を含む触媒を使用した触媒反応により合成することを特徴とするメチルアセチレンの製造方法を提供する。
上記触媒は、W、Mo、V、Mn及びReからなる群から選択された少なくとも一種の金属元素を含む酸化物、オキソ酸及びその塩からなる群から選択された少なくとも一種であることが好ましい。
さらに、上記触媒は、W、Mo、V、Mn及びReからなる群から選択された少なくとも一種の金属元素を含む酸化物またはヘテロポリ酸であることがより好ましい。
また、上記金属元素はモリブデンであることが好ましい。
さらに、上記触媒は、リンモリブデン酸であることがより好ましい。
好ましくは、上記触媒はシリカに担持させたものであってもよい。
上記触媒の担持量は、1〜50重量%であることが好ましい。
また、上記触媒反応は固定床気相流通式または固定床液相流通式で行うことが好ましい。
さらに、上記触媒反応は200〜400℃で行うことが好ましい。
好ましくは、上記触媒反応において、固定床気相流通式または固定床液相流通式において、1時間に反応する2−クロロエタノール及び/又は塩化ビニルモノマー100重量部に対して、前記触媒を10〜1000重量部使用してもよい。
また、好ましくは、上記触媒1gあたりの2−クロロエタノール及び/または塩化ビニルモノマーの供給速度は、0.1〜10g/時であってもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、これまでのナフサクラッカーのC3ストリーム中よりの分離回収法に比べ、より高収量でメチルアセチレンを製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[メチルアセチレンの製造方法]
本発明のメチルアセチレンの製造方法では、2−クロロエタノール及び/又は塩化ビニルモノマーを、W、Mo、V、Mn及びReからなる群から選択された少なくとも一種の金属元素を含む触媒による触媒反応を利用して合成する。
【0009】
<触媒>
本発明のメチルアセチレンの製造方法では、触媒として、W、Mo、V、Mn、Reの少なくとも一種の金属元素を含む触媒を使用する。これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。上記触媒としては、W、Mo、V、Mn及びReからなる群から選択された少なくとも一種の金属元素を含む酸化物、オキソ酸及びその塩からなる群から選択された少なくとも一種であることが好ましい。
【0010】
上記酸化物としては、例えば、酸化タングステン(WO2、WO3など)、酸化モリブデン(MoO2、MoO3など)、酸化バナジウム(VO、V23、VO2、V25など)、酸化マンガン(MnO、Mn23、Mn34、MnO2、Mn27など)、W、Mo、V、Mnなどの金属元素を含む複合酸化物などが挙げられる。
【0011】
オキソ酸としては、タングステン酸、モリブデン酸、バナジン酸、マンガン酸等のほか、イソポリタングステン酸、イソポリモリブデン酸、イソポリバナジウム酸などのイソポリ酸;リンタングステン酸、ケイタングステン酸、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸、リンバナドモリブデン酸等の前記金属元素と他の金属元素等とからなるヘテロポリ酸が挙げられる。ヘテロポリ酸における他の金属元素等としては、リン又はケイ素、特にリンが好ましい。
【0012】
オキソ酸の塩としては、前記オキソ酸のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などのアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩などのアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩;遷移金属塩などが挙げられる。オキソ酸の塩(例えば、ヘテロポリ酸の塩)は、カチオンに相当する水素原子の一部を他のカチオンに置換した塩であってもよい。
【0013】
上記触媒としては、なかでも、W、Mo、V、Mn、Reの少なくとも何れか一種の金属元素を含む酸化物、オキソ酸又はその塩が好ましく、さらには酸化物またはヘテロポリ酸が好ましい。
【0014】
上記触媒は、担体に担持して、担持触媒として使用してもよい。担体としては、例えば、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、ゼオライト、活性炭、ジルコニア、チタニア、マグネシア等が挙げられる。この中から1種の担体に担持してもよく、また2種以上の複合体や混合物からなる担体に担持してもよい。担持触媒とすることにより、上記触媒をより有効に利用することができる。
【0015】
担持触媒に含まれる上記触媒の担持量としては、例えば5〜70wt%、好ましくは5〜50wt%であり、さらに好ましくは、10〜35wt%とすることができる。
【0016】
上記触媒としては、金属元素がモリブデンであることが好ましい。モリブデン系触媒としては特に限定されるものではなく、当該分野で公知のいずれを使用してもよい。例えば、酸化モリブデン、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸等のヘテロポリ酸などを使用することができ、これらをシリカ、アルミナ、シリカアルミナ、ゼオライト、活性炭、ジルコニア、チタニア、マグネシア等の触媒担体へ担持した担持触媒を用いることができる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。担持触媒に含まれる酸化モリブデンの担持量としては好ましくは5〜50wt%であり、さらに好ましくは、10〜35wt%である。
【0017】
この方法で用いる2−クロロエタノールは、従来公知の任意の方法により製造したもののいずれをも用いることができる。例えば、水中に塩素を吹き込むことにより発生させた次亜塩素酸を、エチレンに付加させることにより製造したものを用いることができる。2−クロロエタノールの純度は特に限定されず、公知の方法によって製造したものを、精製することなくそのまま用いてもよいが、効率的にメチルアセチレンを製造するという観点から、好ましくは50〜100wt%、さらに好ましくは85〜100wt%のものが挙げられる。
【0018】
この方法で用いる塩化ビニルモノマーは、従来公知の任意の方法により製造したもののいずれをも用いることができる。例えば、ナフサクラッカーのC2ストリーム中より分離されたエチレンに塩化鉄(III)を触媒として塩素を付加することにより合成したジクロロエタンを熱分解反応させることにより製造したものを用いることができる。塩化ビニルモノマーの純度は特に限定されず、公知の方法によって製造したものを、精製することなくそのまま用いてもよく、効率的にメチルアセチレンを製造するという観点から、好ましくは90wt%以上のものが挙げられる。
【0019】
本発明のメチルアセチレンの製造方法では、その反応形式は特に限定されず、任意の反応形式で行うことができる。例えば、固定床式(例えば、固定床気相流通式、固定床液相流通式)、流動床式(例えば、流動床気相流通式、流動床液相流通式)、移動床式(例えば、移動床気相流通式、移動床液相流通式)、懸濁床回分式、懸濁床連続式、攪拌槽式、気泡塔式等が実現し得る設備が挙げられる。なかでも、固定床気相流通式、固定床液相流通式及び攪拌槽式が適している。
【0020】
反応温度は、副生生物の発生を抑えるため、好ましくは200〜400℃である。
反応時間は、反応形式等によって異なるが、固定床気相流通式であれば触媒との接触時間で0.1〜3秒程度、より好ましくは0.5〜2秒程度が適しており、攪拌槽式反応装置であれば、10〜120分間程度、より好ましくは、30〜60分間程度が適している。
【0021】
触媒量は反応形式によって異なるが、例えば固定床気相流通式であれば、1時間に反応する2−クロロエタノール及び/又は塩化ビニルモノマー100重量部に対して、10〜1000重量部程度使用することが適しており、さらに、50〜500重量部程度用いることが好ましく、攪拌槽式であれば2−クロロエタノール及び/又は塩化ビニルモノマー100重量部に対して、5〜100重量部程度使用することが適しており、さらに、10〜50重量部程度用いることが好ましい。
【0022】
原料として用いる2−クロロエタノール及び/又は塩化ビニルモノマーは、気体又は液体のいずれでもよい。エタノールの脱水反応は、通常、気相で行われることから、例えば、2−クロロエタノールを気化器により気化させて用いることが好ましい。塩化ビニルモノマーも気化させて用いることが好ましい。なお、2−クロロエタノール及び/又は塩化ビニルモノマーは、希釈せずに用いてもよいし、不活性ガスにより希釈して用いてもよい。
【0023】
希釈に用いる不活性ガスとしては、特に限定されないが、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。これら不活性ガスは単独もしくは、2種以上を混合して用いることができる。
【0024】
本触媒反応は、常圧下で行ってもよいし、加圧下で行ってもよい。例えば、常圧〜0.01MPa程度、好ましくは1〜0.1MPa程度が挙げられる。
【0025】
2−クロロエタノール及び/または塩化ビニルモノマーの反応系への供給量又は供給速度は、例えば、触媒の容積、温度、圧力によって適宜調整することができる。例えば、液体及び気体で供給する場合のいずれにおいても、触媒1gあたり0.1〜10g/時程度が挙げられる。
【0026】
反応によって得られたメチルアセチレンは、当該分野で公知の方法により回収することができ、さらに精製してもよい。例えば、冷却による副生成物の液化分離のような方法が例示される。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例によりなんら限定されるものではない。
【0028】
<触媒反応評価方法>
触媒反応評価は、流通式触媒反応装置を用い、触媒は石英製の直管(内径10mm)に充填して行った。反応ガスおよび反応液の分析は、ガスクロマトグラフ(島津製作所製、商品名GC−2010)、キャピラリーカラム(島津ジーエルシー社製、商品名ZB−1ms、30m×0.25mm(内径)、膜厚1.0μm)水素炎イオン化検出器(FID)を用い定量した。
【0029】
供給原料転化率およびメチルアセチレン選択率は下式で算出した。
転化率(%)=(供給原料(mol)−未反応原料(mol))/供給原料(mol)×100
選択率(%)=メチルアセチレン量(mol)/(各生成物量(mol)×炭素数/3)×100
【0030】
実施例1
酸化モリブデンをシリカ担体へ13%担持した担持触媒0.6gを内径10mmの石英製反応管に充填し、窒素中200℃で1時間熱処理した。その後、固体酸触媒を反応温度に昇温した。
気化させた2−クロロエタノールを流量1.0g/時及び窒素流量2500ml/時で、触媒層に通し、圧力0.1MPa、反応温度250℃の条件下にて反応させた。
反応経過時間1時間後において、反応生成物をガスクロマトグラフで分析したところ、2−クロロエタノール転化率16.3%、メチルアセチレン選択率6.3%であった。
【0031】
実施例2
供給原料として塩化ビニルモノマーを用いた以外は実施例1と同様にして反応を行った。反応生成物をガスクロマトグラフで分析したところ、反応経過時間1時間後において、塩化ビニルモノマー転化率1.5%、メチルアセチレン選択率95.0%であった。
【0032】
実施例3
触媒としてリンモリブデン酸をシリカ担体へ30%担持した担持触媒を用いた以外は実施例1と同様にして反応を行った。反応生成物をガスクロマトグラフで分析したところ、反応経過時間1時間後において、2−クロロエタノール転化率19.2%、メチルアセチレン選択率8.9%であった。
【0033】
実施例4
供給原料として塩化ビニルモノマーを用いた以外は実施例3と同様にして反応を行った。反応生成物をガスクロマトグラフで分析したところ、反応経過時間1時間後において、塩化ビニルモノマー転化率2.5%、メチルアセチレン選択率97.0%であった。
【0034】
比較例1
触媒としてゼオライト触媒(モルデナイト シリカアルミナ比15)を用いた以外は実施例1と同様にして反応を行った。反応生成物をガスクロマトグラフで分析したところ、反応経過時間1時間後において、2−クロロエタノール転化率3.4%、メチルアセチレン選択率4.2%であった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、これまでのナフサクラッカーのC3ストリーム中よりの分離回収法に比べ、より高収量でメチルアセチレンを製造することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−クロロエタノール及び/又は塩化ビニルモノマーから、W、Mo、V、Mn及びReからなる群から選択された少なくとも一種の金属元素を含む触媒を使用した触媒反応により合成することを特徴とするメチルアセチレンの製造方法。
【請求項2】
前記触媒が、W、Mo、V、Mn及びReからなる群から選択された少なくとも一種の金属元素を含む酸化物、オキソ酸及びその塩からなる群から選択された少なくとも一種である、請求項1記載のメチルアセチレンの製造方法。
【請求項3】
前記金属元素がモリブデンである、請求項1又は2に記載のメチルアセチレンの製造方法。
【請求項4】
前記触媒がシリカに担持させたものである、請求項1〜3の何れか1項に記載のメチルアセチレンの製造方法。
【請求項5】
前記触媒反応を200〜400℃で行う、請求項1〜4の何れか1項に記載のメチルアセチレンの製造方法。

【公開番号】特開2013−100250(P2013−100250A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245597(P2011−245597)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】