説明

メチルイミノビスジアルキルアセトアミドの製造方法

【解決課題】高レベル放射性廃液からのPd、Tc、Pd、Mo、Puを抽出するための抽出剤として用いることができるメチルイミノ−N,N−ジアルキルアセトアミドを安全かつ効率的に製造することができる方法を提供する。
【解決手段】メチルイミノ2酢酸とメチルイミダゾールとを脱水ジクロロメタン中で混合し、氷温下でp−トルエンスルホニルクロライドを添加して、メチルイミノ2酢酸のイミダゾール化合物を中間体として得て、当該中間体に2級アミンを添加して、下記一般式(I):


(式中、Rは炭素数が2個〜12個のアルキル基を示す)で表されるメチルイミノ−N,N−ジアルキルアセトアミドを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メチルイミノビスジアルキルアセトアミドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力分野で発生する高レベル放射性廃液中には、Pd、Tc、Mo、Puなどの金属類が含まれている。Tcは、長半減期で中間貯蔵後の高レベル放射性廃液中で強い放射能を出し続けるので、長期にわたる潜在的な危険性がある。Moは、ガラス固化体の強度を下げる金属であり、ガラス固化体中の濃度が制限される元素である。Puは、使用済み燃料中に大量に含まれ、高速増殖炉では燃料として利用することのできる元素である。したがって、これらの金属は高レベル放射性廃液中から分離回収し、その他の元素と別の処理をする必要がある。
【0003】
しかし、これらの金属類は水溶液中においてTcO、MoOなどの陰イオンとして存在するため、通常の抽出剤(例えばAliquat336、テトラフェニルアルソニウム塩等)では抽出しにくい。Tcの抽出法については種々提案されている(非特許文献1及び2)が、分配比が低く、被抽出金属に伴って抽出されてしまうなど、いまだ不十分である。また、高レベル放射性廃液中のPdは、溶媒抽出系において有機相に分配されるが、この有機相は金属濃度が高くなると希釈剤から主としてなる軽い相と金属が濃縮された重い相(第三相という)が生成し、プロセス運転時にラインの目詰まり等の問題を起こす場合がある。Cr、W、Reは高レベル放射性廃液中における存在量は少ないが、水溶液中でオキソ酸(Cr2−、WO2−、ReO)として存在し、一般的に分離することが困難である。さらに、高レベル放射性廃液は硝酸水溶液であり、溶媒抽出に用いる有機溶剤として毒性が低く安定なドデカンが好適であるが、従来の抽出剤はドデカン中では使用することができない。
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決する抽出剤として、下記一般式:
【0005】
【化1】

【0006】
(式中、Rは炭素数が8個〜12個のアルキル基を示す)
で表されるメチルイミノビスジアルキルアセトアミドを用いることを提案し(特許文献1)、Tc、Re、Pdなどに対して高い抽出能を有することを報告した(非特許文献3及び4)
メチルイミノビスジアルキルアセトアミドは、3−メチルイミノ二酢酸を塩化チオニルやジシクロヘキシルカルボジイミドなどの縮合剤を用いて、酸塩化物を生成し、その後、トリエチルアミンなどの存在下でジメチルアミンやジ−n−オクチルアミンなどの二級アミン化合物を氷点下で冷却しながら添加して緩やかに反応させ、得られた生成物を水、水酸化ナトリウム及び塩酸溶液で洗浄し、シリカゲルカラムに繰り返し通して単離精製することで製造することができることが知られている。しかし、塩化チオニルは刺激臭を有するため、頻繁かつ大量に用いることには適してない。また、従来の製造法では、加熱を必要とし、メチルイミノビスジアルキルアセトアミドの収率が20%と低かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−101641号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】N. Condamines, C. Musikas and L.H. Delmau, CEA-CON--11456 (1993)
【非特許文献2】M. Takeuchi, S. Tanaka, M. Yamawaki, Radiochim. Acta 63 (1993) 97-100
【非特許文献3】Y. Sasaki, Y. Kitatsuji, T. Kimura, Chem. Lett. 36, 1394-1395 (2007)
【非特許文献4】Y. SASAKI,M. OZAWA, T. KIMURA, K. OHASHI, Solv. Extr. Ion Exch., 27, 378-394 (2009)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、メチルイミノ−N,N−ジアルキルアセトアミドの製造方法を提供することを目的とする。本発明の製造方法によれば、特に高レベル放射性廃液からのPd、Tc、Mo、Puを抽出するための抽出剤として用いることができるアルキル基がオクチル基、デシル基、ドデシル基であるメチルイミノ−N,N−ジアルキルアセトアミドを安全かつ効率的に製造することができる方法を提供することが可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、メチルイミノ2酢酸とメチルイミダゾールとを脱水ジクロロメタン中で混合し、氷温下でp−トルエンスルホニルクロライドを添加して、メチルイミノ2酢酸のイミダゾール化合物を中間体として得て、当該中間体に2級アミンを添加する、下記一般式(I):
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、Rは炭素数が2個〜12個のアルキル基を示す)
で表されるメチルイミノ−N,N−ジアルキルアセトアミド(以下「MIDAA」と称す)の製造方法が提供される。
【0013】
本発明における合成スキームは以下のとおりである。
【0014】
【化3】

【0015】
本発明の製造方法において用いられる2級アミンとしては、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジオクチルアミン、ジブチルアミン、ジヘキシルアミン、ジドデシルアミンを好適に挙げることができる。ジエチルアミンを用いる場合にはメチルイミノ−N,N−ジエチルアセトアミド(MIDEA)、ジプロピルアミンを用いる場合にはメチルイミノ−N,N−ジプロピルアセトアミド(MIDPA)、ジオクチルアミンを用いる場合にはメチルイミノ−N,N−ジオクチルアセトアミド(MIDOA)を合成することができる。MIDEA及びMIDPAは水によく溶解し、MIDOAは疎水性が高くドデカンなどの無極性溶媒に溶解する。
【0016】
本発明の製造方法において用いられる試薬の比率は、メチルイミノ2酢酸100質量部に対して、メチルイミダゾール600質量部以上800質量部以下、p−トルエンスルホニルクロライド240質量部以上320質量部以下が好ましい。試薬の使用量を上記範囲とすることで、高い収率でMIDAAを合成することができるが、試薬の使用量が多すぎても収率を向上させることはできず、メチルイミダゾール600質量部及びp−トルエンスルホニルクロライド240質量部の組み合わせが最適で10〜40g(収率70%)のMIDAAを合成することができる。
【0017】
合成されたMIDAA化合物は、酢酸エチル抽出法、減圧蒸留法、カラム分離法などの精製法を適宜組み合わせて精製することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、以下の効果が得られる。
(1)塩化チオニルを用いる従来法では、収率が20%程度であったが、本発明では70%程度と高い収率でMIDAA化合物を製造することができる。
(2)従来法で用いる塩化チオニルは揮発性のある液体で、刺激臭を持ち、合成スケールアップのための大量使用には不適であった。本発明では、塩化チオニルを用いないため、これらの問題を解決できる。
(3)従来法では、塩化チオニルとメチルイミノ2酢酸を加熱しながら反応させるが、本法では氷温下で反応させるため、より安全に作業することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は実施例1の1H-NMRスペクトルである。
【図2】図2は実施例2の1H-NMRスペクトルである。
【図3】図3は実施例3の1H-NMRスペクトルである。
【実施例】
【0020】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
メチルイミノ2酢酸(RCOOH,15g)とメチルイミダゾール(NMI,50ml)を脱水ジクロロメタン中(40ml)で混合、撹拌する。氷温下でp−トルエンスルホニルクロライド(TsCl,46g)を加えて脱水ジクロロメタン中(240ml)で1時間撹拌し、メチルイミノ2酢酸のイミダゾール化合物を生成した。得られたメチルイミノ2酢酸のイミダゾール化合物に、ジエチルアミン(25ml)を加えて1昼夜撹拌した。得られた化合物を精製し、酢酸エチルで抽出した後に、減圧蒸留を行い、目的物を含む粗生成物を得た後、さらにシリカゲルカラムクロマトグラフにかけて、純粋なMIDEAを得た。1H-NMR分析より、メチルイミノ−N,N−ジエチルアセトアミド(MIDEA)であることを確認した(図1)。
【0021】
【化4】

【0022】
収率は70%であった。
[実施例2]
ジエチルアミンをジプロピルアミンに変えた以外は、実施例1と同様に行い、メチルイミノ−N,N−ジプロピルアセトアミド(MIDPA)を合成した。各試薬の使用量は、第二級アミンの種類を変えても実施例1と同様とした。精製後、得られた化合物の1H-NMR分析より、メチルイミノ−N,N−ジプロピルアセトアミド(MIDPA)であることを確認した(図2)。
【0023】
【化5】

【0024】
収率は65%であった。
[実施例3]
ジエチルアミンをジオクチルアミンに変えた以外は、実施例1と同様に行い、メチルイミノ−N,N−ジオクチルアセトアミド(MIDOA)を合成した。各試薬の使用量は、第二級アミンの種類を変えても実施例1と同様とした。精製後、得られた化合物の1H-NMR分析より、メチルイミノ−N,N−ジオクチルアセトアミド(MIDOA)であることを確認した(図3)。
【0025】
【化6】

【0026】
収率は71%であった。
【産業上の利用可能性】
【0027】
より安全に効率よく合成することができ、低コストで、Tcの抽出剤として有望なMIDAA化合物を供給できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルイミノ2酢酸とメチルイミダゾールとを脱水ジクロロメタン中で混合し、氷温下でp−トルエンスルホニルクロライドを添加して、メチルイミノ2酢酸のイミダゾール化合物を中間体として得て、当該中間体に2級アミンを添加する、下記一般式(I):
【化1】

(式中、Rは炭素数が2個〜12個のアルキル基を示す)
で表されるメチルイミノ−N,N−ジアルキルアセトアミドの製造方法。
【請求項2】
2級アミンは、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジオクチルアミン、ジブチルアミン、ジヘキシルアミン、ジドデシルアミンから選択される、請求項1に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−144448(P2012−144448A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1809(P2011−1809)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(505374783)独立行政法人日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(504203572)国立大学法人茨城大学 (99)
【Fターム(参考)】